【スクライド】 君島「ロクデナシのブルース」 (22)

スクライドssです。短いです。

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「お~い、カズマぁ~!」

今日の俺の気分はハイ!

なぜかって?報酬のワリには簡単な仕事が入ってきたんだよ!

こんな不景気の中、めったにないんだぜ?こういうこと

ルンルン気分で、俺はいつもみたいにあいつの家のドアを開ける。

「お、おはようございます...」

「おはよう、かなみちゃん。カズマいるかな?」

おずおずと出てきて、俺を迎えてくれたかなみちゃん

相変わらずいじらしいね、うん。

きっと、大人になったら凄い別嬪さんになると思うんだよね。

「あの、カズくんはまだ寝てて...」

「った~、あのダメ人間が。いつも大変だね、かなみちゃん」

「もう慣れっこです」

そう言うかなみちゃんの呆れたような顔の中には、ちょっぴり喜びの表情も混じっていた

...こんなイイ娘が面倒みてくれるなんて、カズマくんは幸せ者ですね、ホント。

ちょっぴりムカついたから、叩き起こしてやろっと。

「カ・ズ・マ・くぅ~ん、朝ですよ~」

古びた手術台の上で、グースカとイビキをかいて寝てたカズマの毛布をひっぺがすが、このバカは意にも介しやがらねえ

「むにゃ...なんだよ、かなみ...もう少し寝かせろよ...」

夢の中までかなみちゃんづくしですか、お前は。

しかたない。愛しのかなみちゃんに代わって、ここは一発ビシッと決めてやろう。

「オラァ!さっさと起きやがれ、このロリコn」

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「んじゃ、ちょっくら行ってくるぜかなみ」

「早く帰ってきてね、カズくん!」

ニコッ、と満面の笑顔でカズマと俺を送りだしてくれたかなみちゃん

俺に向けられてるわけじゃないにしても、ヤロウ二人の空間の中では癒しとなってくれる

「それで、今日の依頼はなんなんだ?」

頭にできたタンコブをさすりながら、俺はカズマの問いに答える

「護衛だよ、護衛。今日はどこぞのお偉いさんを市街までお守りするのが依頼だ」

「...また、つまんねえ仕事だなおい」

カズマがいかにも不満そうに口を尖らせる

「そう言うなって。そんなつまんねえ仕事でも、報酬はすげえんだからさ」

「いくらだ?」

「なんと二千だよ、二千!」

「...高いのか、それ?」

あいつの言葉を聞いて、俺は開いた口が塞がらなかった

こいつには金銭感覚というものがないのだろうか

...ほんと、俺と会うまでどうやって生きてきたんだろうな、コイツ

「かなみちゃんも、こんなボンクラのどこがいいんだか...」

「なんか言ったか?」

「なんでもありませんよ、っと。もうすぐ依頼主のとこに着くぜ」

車を止め、俺達は依頼主の待つ廃墟へ向かう

さぁて、さっさと終わらせて、あやせさんへのプレゼントでも買いにいくとしようかね

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夕焼けが映える荒野。

俺とカズマはボロボロになった車を、汗水垂らしながら押していた

「君島。お前たしか、楽な仕事だって言ってたよな」

「...言いましたね、確かに」

「だったらよ、なんで俺たちはこんなことしてんだ?」

「仕方ねーだろ!まさか、あんなにわんさかアルター使いがいるなんて思わなかったんだからよ!」

簡潔に述べると、だ。

俺たちは騙された。それはもう清々しいくらいに騙された。

俺たちが仕事で恨みを買った奴らが集まって、俺たちをボコるために、依頼して呼びつけたってわけだ。

「金もこれっぽっちしか手に入らなかったしよぉ。無駄骨だったぜ」

カズマの手に握られている金額は百。2千と百じゃ、これっぽちと感じても仕方ない。

「...ま、金はあんま手に入らなかったけど、お前は楽しめたんじゃねえの?」

「まあな。久々のアルター戦だったから、スッキリしたぜ」

文句を垂れるワリには、カズマの顔は緩んでいる。

何年もツルんでりゃ分かる。基本的にコイツはスリルを楽しむケンカ馬鹿だってことは。

「...それより、どう言い訳する?」

「どうって...どうすりゃいいんだろうな」

車だけでなく、服も全身もボロボロ。

帰れば、カズマはかなみちゃんに大目玉をくらうだろう。

「こりゃ、牧場の手伝い増やされるだろうな...」

「がんばってね、カズマくん」

「他人ごとかよ!」

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そんでもって、カズマの家。

「カズくん、これはどういうことなの?」

「いや、階段からズリゴケしてさ...」

「そんな嘘信じると思う?」

「思わないよなぁ...」

金はほとんど手に入らず、ボロボロになって帰ってきたとなれば、こうなるのは当たり前。

「ケンカしてくるくらいなら牧場を手伝ってよ。じゃないとご飯抜きだよ」

「わ、わかったから、それは勘弁!」

それにしても、いつ見ても信じられねえよなぁ。

荒野にその名が聞こえる"シェルブリットのカズマ"が、こんな幼い子に頭が上がらないなんてさ。

「君島さんも!」

「へっ?」

「いつもカズくんを連れまわしてるんだから、明日はこっちを手伝ってください」

かなみちゃんが、こうも強く主張するなんて珍しいな。

...ちょっと、心配かけ過ぎちゃったかな?

「ハハハッ、お前も怒られてやんの!」

「...カズくん、反省してるの?」

「...すんません」

縮こまるカズマを見て

「...ぷっ」

俺が吹き出し、それにつられてかなみちゃんもクスクスと笑い始める。

「な、なんだよ!?なにがおかしいんだよ!?」

「だ、だってさ...あははっ」



カズマがとまどう顔を見せて。

俺たちの笑い声が夕陽に溶け込んで。

そんな、珍しくもないなんでもなくてくだらない光景。

けど、それでも俺は充分だった。





―――充分に幸せだったんだ。

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「うぅ...」

全身が痛い。特に、胸のあたりは今にも泣きだしそうなくらい痛い。

その痛みが、俺に現実を突き付けてくる。

俺がカズマを連れだして、かなみちゃんがちょっと心配しながら見送ってくれて、また二人でやらかして、怒られて...

「そうだよな...かなみちゃんが、俺たちの仕事のこと知ってるわけねえもんなぁ...」

そんな、馬鹿みたいななんでもない日常が夢だったことに気付かされた。

「どうしてこうなったんだっけ...」

口にして、思い出す。

かなみちゃんを連れて逃げて、カズマを連れて帰ると約束してあの子を置いてきた。

そしたら、HOLYの奴らに追っかけられて、撃たれて、それで...

「急がねえと...」

そうだ。あんな都合のいい夢を見ている暇なんざねえ。俺、カズマを迎えに行かなくちゃ...!

アクセルを踏み込み、車を発進させようとする。が

「あれっ?」

足に力が入らない。いや、足だけじゃねえ。全身だ。

腕も、腰も、頭すら動かせない。目蓋も重くなってきやがった。

...なんだよ、おい。俺は、ここで終わっちまうのかよ!?

あやせさんだってまだ助けてねえんだぞ!クズは所詮クズだってか?ふざけんな!

いくら頭で思っても、身体がついてこない。

ああ、ここで死ぬんだなと、なんとなく納得しかけてしまう。

ちくしょう...すまねえ、かなみちゃん。すまねえ、カズマ。

...ちっぽけな人生だったなぁ、俺。

―――違う。そうじゃねえ




『こんなところで愚痴ってなんになる!?決めつけんな、やるんだよ!』

そうじゃねえよなあ、カズマ。

『一度こうと決めたら、自分が選んだんなら決して迷うな。迷えばそれが他者に伝染する。選んだら進め。進み続けろ』

確かに俺たちはクズだ。最底辺の人間だ。けどよ...

『さあ、てめえの意地を見せてみろ!』

そんな俺にだって、譲れねえものがあるんだよ!

あの日常を取り戻せるなら、俺はなんだってやってやる。

死なんてものが邪魔するなら、そいつだって蹴っ飛ばしてみせる。

そんな想いを込めて、俺はアクセルを踏む足に力を込めた。

見てろよ、HOLY共。俺たちを見下してる奴ら。

見ててくれ、カズマ。かなみちゃん。あやせさん。

ちっぽけかもしれねえが...こいつが俺の反逆だ!

車がゆっくりと動き出す。

傷が塞がったわけじゃない。塞ぐことなんてできない。おれはアルター使いじゃない一般人だからな。

全身がダルイのに、どこからか力が漲ってくる奇妙な感覚だ。

「は、はは...人間、死ぬ気になりゃなんでもできるんだな」

...陽が暮れてきた。

いまごろ、カズマは全部片付けて待ちくたびれてるのだろうか。それとも、まだ戦っているのだろうか。だったら手伝ってやんなきゃな。

「...待ってろよ、カズマ。この君島さんがすぐに迎えに行ってやるからよ」

アクセルに力を込め、車を走らせる。

そうだ。俺は、あれを夢でなんて終わらせる気はない。

あいつと一緒に帰って、あの夢を現実にするんだ。

なぁに、心配なんかいらねえさ。

俺とお前が組めばなんにだって負けやしない。

なんたって、俺たちは最強のコンビだからな



終わり

終わりです。12話で君島が撃たれたところをイメージして書きました。
読んでくれた方はありがとうございます。

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