産卵床
卵「……」ゴポゴポ
「……」
「……」
「………………ッッ!」ゴポゴポゴポゴポ!
「……」
仔魚a「……フゥ」ゴポゴポ
仔魚b「あ、あなたも孵化したの」
仔魚a「雌……貴様は……誰だ」
仔魚b「ちょ、ちょっとそんなに睨まないでよ」
仔魚a「……」
仔魚b「わからない? わたしはあなたのキョウダイ」
仔魚a「キョウダイ……? 姉か、妹か?」
仔魚b「姉でも、妹でも、どちらでも。わたしはあなたより早く孵化したけど、あなたと同じ卵巣の中にいたから」
仔魚a「卵巣……? オレの母親は……?」
仔魚b「卵を産んだ後、別の雄とも交尾しにいったみたいだけど、やがて力尽きて死んだわ。お父さんも同じね。ここにはもう子供たちしかいない」
仔魚a「オレと、お前だけか?」
仔魚b「違うよ。ほら、あそこ見て。わたしたちの孵化したばかりのキョウダイ」
仔魚c「やー、外は凄い冷たいなあ」
仔魚a「キョウダイ……卵はまだまだあんなにもあるのか」
仔魚b「どうやら、みんな孵化し始めたみたいね」
仔魚d「うーい」
仔魚e「あ、ちょっとそこ僕の場所なんだけど」
仔魚f「流される流される」
仔魚a「……これからオレたちはどうするんだ? どこに行けばいい?」
仔魚b「まだ何処にも行かなくても大丈夫だよ」ユラユラ
仔魚a「お前の腹についてるのはなんだ?」
仔魚b「ヨークサック。これでわたしたちは栄養をとるの。あなたのお腹にもついてるわよ。ほら、もっと石の隙間に入り込んで。みんな流されないようにね」
仔魚b「ああ……そうそう。さっきのことなんだけど」
仔魚a「なんだ」
仔魚b「わたしはまだ、雌じゃない。雄でもない。どうなるかはわからない。あなたは雌と雄を知ってるみたいだけど、他のキョウダイたちはまだ何も知らないわ」
仔魚a「じゃあオレは雄なのか? 雌なのか? 雄でも雌でもなければ、なんなんだ」
仔魚b「性別なんてものは、些細な問題でしかないの。わたしたちはたまたま与えられた役割が二つに別れていて、それぞれを二つの性別で分担してる、ただそれだけ。でも、まだその時じゃない」
仔魚a「じゃあお前のことは、姉や妹でもないのなら、なんて呼べばいいんだ?」
仔魚b「キョウダイ、でいいんじゃないの?」
仔魚a「それじゃあみんなおんなじだ。ややこしくて仕方がない」
仔魚b「そうかな」
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