このところ、うちの孫のコルニはやけにそわそわしている。
話を聞こうとわたしが近づいてみても、ぷいっと何もいわずに離れてゆくのだ。
こまった。
わたしの生きがい――老いのたのしみといえば、孫の成長を見るばかりなのだが
コルニはわたしに対してあまりに冷淡だった。
じじい「はあ……」
コルニ「おじいちゃん、ごはん食べないの?」
じじい「たべるが……はあ」
コルニ「?」クビカシゲ
やめてくれ、コルニ。あえて子供っぽくふるまうのは。
おじいちゃん、かなしくなるだろう。
コルニ「そうだ、おじいちゃん」
じじい「なんだ?」
コルニ「すこし遠いところなんだけど、ポケモンバトルの大会があるんだって」
じじい「ほう」
コルニ「出てもいいかな?」
じじい「かまわないが……いきなりどうして?」
コルニ「サトシも出るって……」
衝撃のあまり、わたしは返すことばもなかった。
ここ最近、なぜコルニがそわそわいしていたのか、ようやくナゾが解けた。
なるほど、そう考えれば、すべて合点がゆく。
しゃれおつなブテッィクをのぞいてみたり、日が暮れるまで鏡のまえに立ってみたり……
すべてはこのためにあったのだ。
コルニ「サトシにはもう連絡してあるんだ」
じじい「……コルニ、わたしは勘違いしていたよ」
コルニ「お、おじいちゃん?」
じじい「行っておいで。わたしはおまえの肩を持つ」
コルニ「うん、ゼッタイに負けないから!」
じいい「こちらも準備してまっているぞ」
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セレナ「コルニ、来るって言ってたね」
ユリーカ「きっと賑やかになるよね!!」
セレナ「うん……」
ユリーカ「どうしたの、セレナ?」
セレナ「ううん、なんでもない」
ユリーカ「?」
サトシ「おーい」
ユリーカ「サトシが呼んでる」
セレナ「そうだね」
ユリーカ「なんか元気がないね、セレナ」
セレナ「そーゆー日なの……。はあ……」
サトシ「おい、ふたりとも。あっちにすっごい景色があるぜ」
セレナ「うん……」
サトシ「セレナ?」
セレナ「な、なんでもないよっ。――――そうだ、トカイポカロンの練習しないと」
サトシ「練習するのか? なら、手伝うよ。俺ばかり手伝ってもらうのは悪いし」
セレナ「いいよ、いいって」
サトシ「遠慮するなって。ほら、セレナ、いこうぜ」
セレナ「だ、だから――――ちょっと待ってよ、サトシ!!」
ユリーカ「なんかおかしいなあ」
シトロン「ユリーカ?」
ユリーカ「お兄ちゃんは、セレナの異変に気付いてる?」
シトロン「どういうことです?」
ユリーカ「ダメだな、お兄ちゃんは。機械のことばかりで他人のことが分かってない」
シトロン「ユリーカに言われたくありません」
ユリーカ「でもさあ、コルニが来るって聞いてから、セレナの様子がおかしいんだよね」
シトロン「ああ、それならなんとなくわかるよ。セレナの気が塞いでいるというか、発育不全の草木のように……あれ?」
ユリーカ「どうしたの?」
シトロン「あの手を振ってるのって……」
コルニ「おーい!!」
シトロン・ユリーカ「コルニ!!」
コルニ「やっと見つけたよ。この近くのポケモンセンターで話を聞いて、このあたりを必死に探してたんだけど
なかなか見つからないんだもん」
シトロン「この付近に、名物の滝があると聞いて、すこし本道から外れたんです」
コルニ「へー、見て来たの?」
シトロン「ぼくとサトシは見て来ました。少々険しいところにあるので、まず僕たちが……ということで」
コルニ「でもあれ? サトシは?」
ユリーカ「ふたりっきりで修行しているよ。セレナの大会も近いからね」
コルニ「セレナが大会?」
ユリーカ「うん。トライポカロンに出てるんだ」
コルニ「ふーん。でも、サトシを付き合わせるなんて」
ユリーカ「ううん。サトシが付き合ってるんだよ。
セレナは遠慮してたんだけどね、サトシが強引を手をひっぱって、森の中で特訓中」
コルニ「そっか。じゃあ、わたしは先に行くね」
シトロン「セレナたちと会っていかないんですか?」
コルニ「せっかくふたりで練習してるんだから、邪魔するのはわるいよ。
それに、ライバルとの再会は、大会中のほうが燃えるでしょ?」
ユリーカ「え、ユリーカやだ! コルニといっしょに居たい!」
シトロン「ユリーカっ」
ユリーカ「だってお兄ちゃん、こうやって顔をあわせたのに、すぐさよならはさびしいでしょ?」
コルニ「じゃあ、ユリーカだけいっしょに行く?」
ユリーカ「いいの!?」
コルニ「わたしはいいよ」
ユリーカ「お兄ちゃん、いいよね?」
シトロン「迷惑ではないですか、コルニ?」
コルニ「大丈夫だって」
ユリーカ「ほらほら、コルニだってそう言ってるしっ」
シトロン「はあ……わかりました。くれぐれも迷惑かけないようにね、ユリーカ」
ユリーカ「はい!!」
コルニ「じゃあ、サトシによろしく言っておいて。つぎは絶対負けないからって」
シトロン「はい。こちらこそユリーカをお願いします」
セレナ「……っで、コルニのほうに付いて行ったんだ」
シトロン「ほんと、ユリーカには困ったものです」
セレナ「ちがうよっ、わたしが練習なんてやりだしたから……」
サトシ「俺が強引に付き合ったのも悪かったよ」
セレナ「だから違うって。わたしが全部わるいんだよ」
シトロン「や、やめませんか? だれも悪い訳じゃないし、犯人捜しみたいなことは」
セレナ「でも……」
シトロン「やっぱりぼくたちは四人でひとつなんですね。ユリーカがいないと、調子が狂うというかなんというか」
セレナ「そうかなあ?」
シトロン「そうですよ、きっと」
セレナ「サトシもそう思う?」
サトシ「そうだなあ、三人でいるよりみんなでいる方がたのしいし」
セレナ「サトシがそう言うんなら、そうかなあ」
シトロン「そうですって。だから元気を出して、さきを急ぎましょう」
サトシ「そうだな、シトロン!」
コルニ「ユリーカはさ、セレナのことどう思ってるの?」
ユリーカ「ん? いきなりどうしたの、コルニ?」
コルニ「いや、単純にそう思っただけだよ。それにいつかはポケモンを持つんでしょ?」
ユリーカ「うん! サトシみたいに相棒のデデンネと世界中を旅するんだっ。ねっ、デデンネ?」
デデンネ「デネデネー」
コルニ「じゃあ、セレナみたいにはならないんだ」
ユリーカ「?」
コルニ「なんでもないよ。……あっ、そういえば」
ユリーカ「どうしたの?」
コルニ「家を出るときに、おじいちゃんがわたしのバッグに細工してたんだ。ちゃんと確かめてこなかったけど、いま思い出した」
ユリーカ「えーなになに?」
コルニ「すこし待っててね。………………………………ん? なにこれ」
ユリーカ「洋服だよね? ちょっとひろげてみて」
コルニ「…………こ、これって」
ユリーカ「ふりふりのドレスだ!! ――――あっ、なに落ちたよ、手紙みたいだけど」
コルニ「なになに……」
じじいの声『有事の際にまとうべし。さらば、絶大なる効果をもって勝利をおさめん。いわんや、なんじの美貌をもってすれば云々』
ユリーカ「どういう意味?」
コルニ「よくわからない。でもこれって……」
ユリーカ「チョーかわいい!! コルニのおじいちゃんってナイスな趣味してるね!!」
コルニ「えっとこれ……わたしが買った服なんだけど」
ユリーカ「え?」
サトシ「やっと着いたあー」
シトロン「ユリーカたちは何処でしょうね?」
サトシ「まずはポケモンセンターに行ってみよう」
シトロン「そうですね」
セレナ「…………」
【ポケモンセンター】
ユリーカ「お兄ちゃん!!」
シトロン「ユリーカ。それとコルニ」
コルニ「遅かったね」
シトロン「少々道に迷ってしまって……。あっ、サトシ、こっちです」
サトシ「え。……おお、コルニ、ひさしぶり」
コルニ「ひさしぶりだね、サトシ」
サトシ「コルニも大会に出るんだろ?」
コルニ「エントリーはすこし先だけどね」
ユリーカ「(…………ねえ、セレナ)」
セレナ「なに、ユリーカ?」
ユリーカ「(コルニにばれないように聞いてほしいんだけど)」
セレナ「う、うん」
ユリーカ「それがね……」
ごにょごにょごにょ
ユリーカ「……ということなの。いい考えだと思わない?」
セレナ「うん……」
ユリーカ「よくなかった?」
セレナ「ううん。とても良いとおもうよ」
ユリーカ「そうだよっ。だからセレナにも手伝ってほしいんだ。
明日はこの街でゆっくり出来るし、そのときにコルニを誘ってさ」
間違えました
ユリーカ「そうだよねっ。だからセレナにも手伝ってほしいんだ。
明日はこの街でゆっくり出来るし、そのときにコルニを誘ってさ」
です
翌日
サトシ「うーん、よく寝たぜ」
ゆりーか「ねむい……」
シトロン「ほら、ユリーカ、はやく顔を洗って」
ゆりーか「はい……」
サトシ「ん? セレナとコルニは? どこにもいないみたいだけど」
シトロン「セレナは練習らしいです。コルニは、ルカリオといっしょに朝のランニングと言っていました」
ゆりーか「お兄ちゃん、ねむい」
シトロン「分かったから、ほら、顔を洗って来て」
セレナ「はあ……」
わたしはダメダメだ。
トライポカロンに出るようになって、すこしは変われたかな……って思っていたけれど、全然変わってない。
コルニのことを見るたんびに、風に吹かれたみたいに胸がざわざわする。
それって、嵐のまえのまえぶれ?
分からない。
分からないけど……
セレナ(サトシがもっと……もっともっと不甲斐なかったら、こんなに不安にならなかったのに)
テールナー「テナぁ…」
セレナ「だ、大丈夫よ、テールナー。ちょっと考えごとをしてただけ」
セレナ(そうよね。うじうじ考えていても仕方がない。トライポカロンに出て、エルさんみたいなポケモンパフォーマーになるんだ)
セレナ「よしっ、テールナー。気合いを入れてがんばりましょ!」
テールナー「テナテナ!!」
セレナ「パワー全開でつぎは優勝しようね、ヤンチャムも!!」
ヤンチャム「ヤンチャっ」
セレナ「ふふっ。…………ん? あれって」
コルニ「あっ、セレナ。こんなところに居たんだ」
セレナ「う、うん」
コルニ「わたしよりはやく起きて、ベッドにいないと思ったら、トライポカロンの練習をしてたんだね」
セレナ「最近、はやく目がさめるようになっちゃって」
コルニ「そうなんだ。……となりに座っていいかな?」
セレナ「うん……」
コルニ「ありがとう」
セレナ「うん……」
コルニ「…………」
セレナ「…………」
コルニ「…………」
セレナ「…………」
コルニ「…………」
セレナ「…………」
コルニ「……ねえ、セレナ」
セレナ「なに?」
コルニ「聞いてもいいかな?」
セレナ「うん」
コルニ「セレナって――――わたしのこと嫌い?」
セレナ「え、あ、え?」
コルニ「そんな目を白黒させなくてもいいよ。ただ単純に、わたしのこと苦手なのかなあ……って」
セレナ「に、苦手じゃないよ」
コルニ「でも避けてるよね?」
セレナ「それは……。すごいなあ……って感心してるだけで、嫌いとかじゃない。
だってコルニは、わたしと違ってひとりで旅をしてるんだもん。
ルカリオがいっしょだとしても、わたしにはとてもそんな……」
コルニ「それはサトシといっしょだからじゃない?」
セレナ「?」
コルニ「短期間だけど、サトシたちと旅をしているときは、いろんなアクシデントに見舞われて、
正直かなり不安だったんだ。サトシの体質がそういうものを呼び込むんだとすると、
セレナがわたしを尊敬するのは間違ってると思う。わたしは、そんなに強くない」
セレナ「コルニ……」
コルニ「なーんてね。これはうそだよ」
セレナ(…………)
コルニ「でも羨ましいんだ、そんなセレナが」
セレナ「どういうこと?」
コルニ「サトシといっしょに居られて」
セレナ(あっ…………)
コルニ「ジム戦のあと、ひそかに期待してんだ。
これからもいっしょに旅をしないかって、サトシの口からそう言ってくれさえすれば、
わたしはふたつ返事で付いて行ったと思う」
セレナ(ダメ……)
コルニ「いろんな困難が待っているけれど、ふたりなら乗り越えられる」
セレナ(……ダメ……もう言わないで、お願い)
コルニ「だからセレナが羨ましい。わたしの知らないあいだに、
サトシといっしょに色んな事を乗り越えてきた――――そんなセレナが羨ましんだ」
セレナ「…………」
コルニ「あーやめよう! こんな湿っぽい話はもうやめようっ!」
セレナ「う、うん」
コルニ「……じゃあ、わたしは行くね?」
セレナ「……うん」
セレナ「…………」
セレナ(コルニが羨ましい。スタイルもよくて、人当たりもよくて、わたしよりずっと美人で……)
セレナ(わたしのすべてがコルニに劣っている。ポケモンのあつかいも、バトルの腕も、困難に立ち向かう態度も……)
セレナ(大体、一度会っただけで、恋人づらしているわたしが一番いけないのよ)
セレナ(わたしが……全部……)
コルニ「――――ねえ、セレナ!!!」
セレナ「え、あ、行ったんじゃないの?」
コルニ「言っておきたいことがあって、戻ってきた」
セレナ「言っておきたいこと?」
コルニ「セレナって、髪切ったんだね」
セレナ「うん。だけど、サトシのために切ったんじゃ――――」
コルニ「――――知ってる。イメージを変えたかったんでしょ。ユリーカから聞いたよ」
セレナ「そうなんだ……」
コルニ「似合ってると思うよ。だから、がんばってね、トライポカロン」
昼下がり
服屋
店員「こちらでどうぞご試着ください」
ユリーカ「だってコルニ。ほら、着ようよ、この服。コルニはすらりとしているから、きっと似合うと思うよ」
コルニ「いいよ、わたしは」
ユリーカ「遠慮しないでさあ。ね、コルニ」
コルニ「……わ、わかった。でも期待しないでね」
……しばらくして
コルニ「ど、どうかな?」キラキラ
ユリーカ「ま、まばゆいばかりにかわいい――――あっ、あれをやるのを忘れてた」
コルニ「あれ?」
ユリーカ「コルニキープ。お兄ちゃんをシルブプレ!」
コルニ「?」
ユリーカ「だからキープよ、キープっ!」
セレナ「ユリーカ。シトロンがいないから、収拾がつかないんだけど……」
ユリーカ「でもお兄ちゃんがいたら、コルニのかわいさにイチコロよね」
コルニ「そ、そんなことないよ///」
ユリーカ「サトシだってだらしない顔をなるよっ」
コルニ「そ、そうかな」
ユリーカ「まんざらでもないな……へへ」
コルニ「い、いや、わたしはこんな服着たくなかったんだ。ただ、ユリーカが強引に着させるから――――」
ユリーカ「――――じゃあ店員さん、お買い上げで」
店員「かしこまりました」
このあたりで終わりにします
今日の0時ごろ、また戻ってくる予定です
戻ってまいりました
バイトが意外と長引いたので、もうすこししましたら投下します
ユリーカ「コルニ、コルニ」
セレナ「ルンルンね、ユリーカ」
ユリーカ「だって嬉しいのよ。コルニは美人さんだし、おしゃれすればきっとかわいいと思ってたから」
コルニ「で、でも、これでサトシのまえに出るの?」
ユリーカ「もちろん。サトシもあっとおどろくと思うな」
コルニ「でもこんな恰好、ひとには見せられないなあ……。ルカリオもそう思うでしょう?」
ルカリオ「」コクン
ユリーカ「でもでもでも、ぜったいにかわいいと思うな」
コルニ「恥ずかしいし、うごきにくいし……」
ユリーカ「ほらほらほら、まわりをよく見てみてよ。みんなコルニの美貌に釘づけだよ」
コルニ「そんなことない。わたしはブサイクだし、こういうことには疎いし。
まして女の子のもちものなんて全然知らないし……」
ユリーカ「でも、バッグのなかの洋服――――」
コルニ「――――言わないでよ、セレナに聞かれるじゃん!!」
セレナ「あ、えっと。じつはもう聞いてるんだ」
コルニ「ほ、ほんとなの?」
ユリーカ「うん。あたしが教えたの」
コルニ「言わないでって言ったよね?」
ユリーカ「うん。でも言っちゃった」
コルニ「……シトロンが手を焼く意味がよくわかった気がする」
ユリーカ「でもまたそこがユリーカのかわいいところよね」
セレナ・コルニ(自分で言うな)
夕食
ユリーカ「このカーテンの向こうには来ないでね!!」
サトシ「どうしてだよ、ユリーカ。なにか隠しごとしてるのか?」
ユリーカ「サトシのスケベ!! そう言って近づこうとしないでよ!!」
シトロン「でも、気になりますよね、サトシ?」
サトシ「そうだよ、ユリーカ」
ユリーカ「とにかく、テーブルについて待っててよ。ふたりともわかった?」
サトシ「でもなあ」
ユリーカ「返事!!」
シトロン「はいはい、好きなようにしてください」
ユリーカ「よしよし、それでこそユリーカのお兄ちゃんよね」
…………………………………………
………………………………
……………………
…………
……
シトロン「ようやく行きましてね」
サトシ「でも、なにをする気だろう」
シトロン「おそらくサプライズでもするのでしょう」
サトシ「サプライズ?」
シトロン「ええ。コルニがいないところを見ると、女子メンバーで催し物でも行うのでは?」
サトシ「だけど、コルニがいないとなると、大会のはなしが出来ないな」
シトロン「せっかくおもしろい話を聞いてきたのに、ざんねんですね」
サトシ「ああ」
半日まえ
ポケモンセンター
ジョーイさん「ごめんなさいね。ふたりの申し出を受け入れたいのは山々なんだけれど、
大会登録にはちょっと手間がかかるのよ」
シトロン「それというのが?」
ジョーイさん「いちおうこの大会は、この街のほこらに伝説のポケモンがやってくるのを祝う祭りだから、
司祭さまにお許しをもらわないといけないの」
シトロン「その司祭さまにじかに会って、許しを請えば、大会に出場できるのですか?」
ジョーイさん「そういうことね。でもいまは忙しいんじゃないかしら。あなたたちのような人たちが多くて、
猫の手も借りたいぐらいだと思うわ」
サトシ「でも、司祭さまに頼まないとダメなんですよね?」
ジョーイさん「ええ。もしも尋ねる気なら、司祭さまの居場所をおしえるけど……」
シトロン「是非そうしていただけるとありがたいです」
教会まえ
サトシ「ここか」
シトロン「なんだか物々しい気分がありますね。自然と背筋がのびてしまいます」
サトシ「ん? 中から何か歌がきこえるぞ。入ってみようぜ、シトロン」
シトロン「ちょ、ちょっとサトシ。勝手に入ってはだめですって」
サトシ「すみませーん」ガチャ
たくさんの群衆「…………!?」
シトロン「さ、サトシっ」
サトシ「ひ、ひっぱるなよ、シトロン」
シトロン「(ですけど、これはまずいですよ)」
サトシ「大丈夫だよ、シトロン。みんなポケモントレーナーだぜ」
シトロン「ん?」
シトロン(たしかにみなさん、かたわらに自分のポケモンを出してますが……)
???「――――君たちも参加者かね」
シトロン「は、はい」
司祭「わたしがこの教会の司祭だ、よろしく」
シトロン「よろしくお願いします」
司祭「君たちも、わたしに許しを受けに来たんだろう?」
サトシ「はい。だけどもうひとり、コルニがいるんです」
司祭「コルニ……。ああ、シャラジムの子か」
シトロン「知ってるのですか?」
司祭「あそこの堅物と旧知の仲でな。して、その子が見えないみたいだが……」
シトロン「はずかしながら、ぼくの妹が連れ回しています」
司祭「妹さんが?
いや、たしかに、連れ回したい気持ちもわからなくもない。
あの男の孫とは思えんほど、目鼻立ちのきりっとしたきれいな子だ」
サトシ「それで、コルニの許しも同時に受けたいんです」
司祭「それは本気で言っているのか?」
シトロン「いや、後日またあらためて訪れますので、そのときに……」
司祭「いやいや、気にせんでいい。むしろそちらの方が手間がはぶけて一石二鳥だ。
おい、そこの。参加者の名を書きつけた名簿をもってこい」
男「はい」
司祭「っで、お主らの名を何というのだ」
サトシ「マサラタウンのサトシです。こいつは相棒のピカチュウ」
ピカチュウ「ピカチュウ」
シトロン「ぼくはシトロンです」
男「お待ちしました」
司祭「おお、ちょうどいい。さて……この子ども等の名と、さらにコルニなる名を書きくわえてくれ」
男「はい」
シトロン「ありがとうございます」
司祭「例にはおよばぬ。それよりさて、お主らにも参加する以上、ある程度の節義がなくてはならぬ。
なれば、ほんの僅かばかり時間を割いてもらいたい。どうだ、暇はあるか?」
サトシ「もちろんです!」
司祭「元気なことはよきことかな。
おそらく退屈でもあろうが、すこしばかりの間、わたしたちの説法を聞いてもらいたいのだ」
シトロン「みなさん、あなたの説法を傾聴なさっているのですか?」
司祭「いま話しておるのは、わたしの直弟子だ」
弟子『であるからして、天にましますレックウザは、光彩陸離たる巨岩を背負いて、さらなる高みへ上りつめたのであります』
司祭「……まあ、すこしのあいだ、居眠りでもしておるがよい。説法など当てにならぬからな」
すみません
はやいようですが、今日はこれでおわりにしたいと思います
明日……正確には今日ですが、とにもかくにも近日ちゅうに気が向いたら投下します
おそらく夜かと思われますが、その折には重ねてよろしくお願いいたします
ふたたび夕食
シトロン「で、教えてもらったのがこの街に伝わる伝承」
サトシ「大会の優勝者には、伝説のポケモンと一対一のバトルが出来るってことだよな……」
シトロン「もしほんとうだとすると、ぼくたちはえらい大会に出てしまったことになりますね。
伝説のポケモンと聞くだけで、なんだか身震いがするぐらいです」
サトシ「おれもだぜ」
シトロン「こういうのが武者震いって言うんですね」
ユリーカ「おまたせしましたー」
シトロン「ユリーカ」
ユリーカ「ふたりとも期待してよね。これからすっごいものを見せるのよ。
お兄ちゃんも、おどろいてひっくり返っちゃうかもよ」
サトシ「もったいぶらないで、はやく見せてくれよ、ユリーカ」
ユリーカ「そんな急かさないでよ、サトシ。女の子は大変なんだから」
ユリーカ「じゃあ、ふたりとも準備OK? ――――では、今からユリーカたちのファッションショーをはじめまーす!」
ユリーカ「まずはじめに現われたのは、セレナ!」
セレナ(よし……)
しっとりした自分をイメージしてみたけど、サトシは褒めてくれるだろうか。
それだけが不安。となりのコルニは、すっきりしたマリンルックで、わたしとは正反対だ。
コルニの緊張が手に取るようにわかるし、わたしもわたしで破裂しそうなほど胸がどきどきしている。
セレナ「ふう……」
コルニ「が、がんばってね」
セレナ「うん」
わたしは一歩ふみだした。
にわか作りのステージで、わたしは思う存分すてきだと思う「わたし」をサトシに見せつけた。
サトシは手を叩いてよろこんでくれたけど、自分を包みかくせないサトシのことだから、
それ以上の意味も、ましてわたしが期待するようなものも、其処にはなかったと思う。
サトシ「セレナ、よく似合ってるぞ」
セレナ「ありがとう」
わたしは正直うれしくなかった。
つぎに現れるあの子のことで、気が気でなかったんだ。
ユリーカ「お次はコルニ」
たれぎぬの陰から、おずおずとコルニが現れる。
わたしはまともに見てられなくて、おもわず目を逸らしたけれど、
不意にその目に飛びこんできたのは、はっとしたようなサトシの顔だった。
サトシ「…………コルニ」
コルニ「そ、そんな見ないでよ。火が出そうなほど恥ずかしいだから」
シトロン「でも似合ってますよ!!」
ユリーカ「お兄ちゃん、鼻息あらいよ」
セレナ「…………」
しばらくして……
サトシ「でもおどろいたな。コルニがほんとうに違う人に見えたよ」
シトロン「そうですよね、サトシ!」
ユリーカ「ユリーカたちも頑張ったもん。コルニばっかり褒めるのは、不公平だもん」
コルニ「ユリーカだって十分似合ってるよ。むしろわたしより全然似合ってる」
ユリーカ「ほんと?」
コルニ「そうだよ、わたしより可愛いって」
ユリーカ「ほんと!? セレナもそう思う?」
セレナ「……え? なに?」
シトロン「ユリーカの洋服のことですよ」
セレナ「そうなんだ、ごめん。話聞いてなかった」
シトロン「いえいえ。でも、ぼぉーとしているのはセレナらしくないですね。体調がすぐれないんですか?」
セレナ「そ、そうかもね。ちょっと疲れちゃった」
シトロン「さきに休んだらどうです?」
セレナ「みんなに悪いよ。わたしひとり、さきに休むなんて……」
サトシ「休めるときに休まないと、身体をこわすぞ」
セレナ「…………そうかな?」
サトシ「それに、きょうはセレナのかわりにコルニがいるし」
セレナ「え?」
サトシ「だからゆっくり休めばいいさ」
セレナ(…………)
寝室
セレナ「…………」
月明かりのさみしい部屋にひとりぼっち。
ベッドのうえに横になって、下の階の笑い声に耳をかたむける。
セレナ(サトシのことだから、ふかい意味はないと思う)
ならどうして、こんなにも苦しいんだろう。
胸のうえにナイフを突き立てられたように、
どうしてわたしの胸はこんなに痛むのだろう。
――――なんだよ、こんなところに連れだして。
セレナ(!? サトシの声?)
サトシの声「ああ、大会の登録はしといたぜ。
――――ん? そういうことじゃない?
…………明日はべつに予定はないけど、どうして二人きりで街をめぐりたいんだ?」
コルニの声はぼそぼそとして、何を言っているのかよくわからなかった。
わたしは聞きだしてやろうと、もの音を立てないでベッドから起き上がった。
ところがその直後、おもての扉がきぃいとひらき、ふたりの人影が寝室に入ってくる。
わたしは大急ぎにもどって、自分のベッドにもどったけれど、サトシたちはわたしの枕元に来て、
しばらく寝たふりをするわたしの顔をじぃーとながめていた。
コルニ「……だから、明日はここにセレナを置いていって」
サトシ「そうだな……おれとふたりだけで……」
コルニ「……ルカリオたちも連れていかずに……」
わたしはじっとこらえていた。
いまにも崩れそうな自分をぎりぎりのところでこらえていたんだ。
だけど、ふたりが並んでいっしょに出て行ったところを見て、
わたしの知らないもうひとりのわたしが、急にさめざめと泣きだしてしまった。
セレナ(わたしの頭はこんなにも冷静なのに、どうして涙が出るんだろう)
(これはわたしが泣いてるんじゃない。わたしの身体が泣いてるんだ)
(きっとそうだ、そうに違いない)
わたしはそう思っていたけれど、涙の量がつのってくるにつれて、
こころのいちばん奥でかみしめていたものが、一度に堰を切ってあふれだした。
……サトシへの愛しい想い。
わたしの旅の理由がたしかに其処にあった。
はじめてのトライポカロンで悔し涙を呑んだことが、わたしをおおきく成長させてくれたと思っていた。
けれど、それは単なるうぬぼれだったんだ。
わたしのこころの底には、サトシへの想いが根を張っている。
地表にあらわれた花を見るように、ポケモンパフォーマーを夢見ていたにすぎないんだ。
結局のところ、わたしが求めていたのは、サトシとの恋。
そういう甘さが、わたしの喉をしめつけ、この涙の理由になったに違いない。
セレナ(…………わたしは、もう)
短くてすみません
今日はこの辺で失礼させていただきます
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