お題ください、ショートショートします (15)

>>2>>3>>4
で頑張ります


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タイムスリップ

宇宙

記憶喪失


気が付けばそこはどこかだった。

本当にふとその場に降り立ったみたいに足が地についていなくて、僕は不自然に辺りをきょろきょろと見回した。

人は僕を不審な目で見ながら通り過ぎていく。


さぁ、何が起こったのか、何が起きるのかも分からない。記憶喪失という奴だ。

案外興奮したり錯乱したりしないモノだと思いながら、自分の身体のあちこちを調べた。


「おや、これは」


見た事のない形、色の派手な服のポケットに、見た事のない文字で書かれた変なモバイル機が入っていた。

横のボタンを押すと「ヴン」といって空中に文字列が現れる。


やはり初めて見る。

何に使うのかも分からないが、とりあえず便利そうだと思った。


下手に弄って壊したくなかったので、もう一度ボタンを押すと機械は同じ音でシャットダウンした。

同じ場所にしまうと、身体がそのフィット感を覚えているのが分かる。

やはり「僕」は確かにここに居て、この機械を頻繁に使うような生活をしていたらしい。


「ジャマだよ」

「うわっ」


後ろからぶつかられてよろける。

文句の一つでも言ってやろうかと思って前を向いても、そいつはもう群衆に溶けていなくなっていた。


人が多く通り過ぎている。

どうやら「NEW僕」が降り立ったのは下町の繁華街みたいな場所らしい。


一見人に見えないような物体も通り過ぎたかもしれないけれど、何故か僕は落ち着いて歩き出した。

道行く人は歩き出した僕をもう見ない。


辺りは真っ暗できらびやかなネオンが眩しく、ドレスを纏った女たちが、黄色い声で人を呼び込んではどこかへ連れていく。

星が見えなくて少し残念に思った。


ここはどこなのだろう。

知っているモノが何もないのは不安になる。


はぁ、それにしても派手な色の服ばかりで目が痛くなる。

後あまり人間がいない。

さっき通り過ぎた物体は思った以上に市民権を得ているらしい。


しばらく歩けばもう、腕と足が四本ずつあるくらいでは驚かなくなってしまっていた。

割合的にはだいたい人間と非人間が半々くらいで、非人間にも触手がうねる奴とか角と尻尾が生えてる奴とか全身ヌルヌルでほぼ裸の奴とかいろんな奴がいた。


見ていて飽きなかったけれど、場違いな場所に紛れ込んでしまったと思った。

かと言って今の自分に、場違いでないと思える場所はあるか分からない。


目的もないまま、また僕は歩いた。


「いてっ」

「あ、すみません」


そしてまた後ろからぶつかられた。

でも今度の人は申し訳なさそうにこちらを向いて、手でバツ印を作った。

ごめんなさいのジェスチャーらしい。


何だ、案外人情の分かる奴が居るじゃないか。

僕も真似してバツを作ると、その人はもう一度バツして急ぎ足で去っていった。


何故だか妙に嬉しくなった。


ここはどこなのだろう。

タイムスリップでもしてかつての「僕」の故郷が変わってしまったのだろうか。

それともここは宇宙で、かつての故郷から「僕」は遠く離れてしまったのだろうか。


どちらにしたって今の僕は記憶もなくて、大切なものも後ろめたさも帰る家も目的も、何もないまま歩いている。

宙ぶらりんにされたままの僕は、この違和感だらけの光景を、故郷として思っている人が大勢いるのが不思議でならなかった。


「はぁ、帰りたい」


あてもなくそう呟いたところで、バチンと大きな音がした。


気が付けばそこは見知った住宅街だった。

全てを禁止するような公園の看板とか、ぽつぽつと寂しい街灯とか、しっとりとして重たいマンションの壁。

全て懐かしいもので僕は安心して大きく息を吸った。


手にはなぜか携帯が握られていた。

後ネクタイが外されていて、鞄が空いていて、中の書類が引っ掻き回されていた。


ああ、と呟いて思わず吹き出した。

どこの「僕」かは知らないが災難だったな。


急にこんな寂しい場所に放り出されて不安だったろう。

「僕」はあんなにぎやかな場所で運が良かった。


夜空を見れば、うっすらと紫色の空に星が浮いていた。


また記憶喪失になってみるのも悪くはない。

いつか来る時を僅かに楽しみにしながら、僕は退屈な帰宅途中に戻っていった。

以上です。
お題くれた方ありがとうございました。

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