【咲-saki-】照「孤独」 (14)
こんなことを話すのはあなたが初めて。
最初は麻雀が楽しかった。
無理だと決めつける父を振り切って故郷を離れた。
最後に故郷で放った言葉といえば
「ざまあみろ!こんな田舎二度と来るか!」
そんな類いだったと思う。
私と同じくらい才能を持ってる妹も誘ったけどね、あの子は小さかった。
多分何かが変わるのが怖かったんだと思う。
数年は根に持ったけど今ならその考えもわかるし正しいとも思う。
とにかく私は狭い世界から飛び出したかった。
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東京に来たばかりの頃は誰も私を認めてくれなかった。
また田舎から勘違いしたバカが出てきた。
そういう辛辣な目で見られた。
私が勝つと調子に乗るな、とかイカサマじゃないか、なんて言われてね。
うん、幼かった私はとても傷付いた。
とても悲しくて寂しかった。
大好きだった妹もいない、山より高い空に並ぶ星だって見えなかった。
だけど負けたくなかったからそれでも頑張った。
毎日毎日勝ち続けた。
そうだよ、一回も負けなかった。
時間は進み私は感情を表に出すことが減った。
だってしょうがなかった。
私の本当の姿は遠い過去に置き去りのまま。
心から笑うことなんてなかった。
あなただったら笑えた?
あの時の私には幸せってものが何かわからなかった。
だから打って勝つことしか考えてなかった。
そして私は人生の別れ道に立つ。
このまま続けるか、別の世界へ逃げ出すか。
人生ってそういうのが一回はあるでしょ。
私はそれを間違えた。
私は自分で決めたと信じてたよ。
でも実際は違う。
周りの期待は私を真っ直ぐ進むことしか許さなかったからね。
自分でもそれ以外はないって、そういう風に思い混んでた。
そりゃあみんな喜んだよ。
これで向こう10年は日本が最強だって声が聞こえた時は我ながら鼻が高かった。
もちろんそれからも勝ち続けたよ。
私に勝とうとする人だって何人もいた。
まるで戦争だったよ。
私一人倒すために別の国の人達が協力するの。
私は悪者なんかじゃないのに。
アメリカもロシアもフランスもイギリスも中国もブラジルもインドも。
色んな国にいった。
色々な景色が見れていいとか思ってる?
ふーん…。
私はそうは思わなかった。
どこに行ってどんな食べ物を食べてどういう人に会っても私は居心地が悪かった。
世界中の建物が、人間が、自然が、ここはお前のいるべき場所じゃないって。
次第に嫌というほど聞いたはずの洗牌の音が何かの悲鳴に聞こえ出してね。
点棒と点棒が当たると音なるでしょ?
アレが頭にガンガン響くの。
牌と卓が擦れるたびにここがキリキリってするの。
おかしいでしょ。
どんな世界より長野で家族と過ごした冬の方が暖かかった。
耐えられないよ。
今だって心が押し潰されそう。
ほら、客席で私を応援してる人がいるでしょ。
でもあの人が応援してるのは本当の私じゃない。
圧倒的で、優雅で、冷酷な宮永照。
妹思いで、甘い物が大好きで、山の上で空を見ることが幸せだと感じる宮永照じゃない。
もう時間だね。
さよなら、また会えたらいいね。
そう言って彼女は眩い程に明るく照らされた雀卓を囲む椅子に座った。
やがて同卓者が揃いサイコロを回す。
彼女の表情は変わらない。
真っ直ぐと勝つことを見据え、指を動かす。
だけど私には彼女の本当の叫びが聞こえた気がした。
「もういやだ。もうたくさんだ。誰か私を解放してくれ」
彼女が勝ち続ける限りその願いが叶うことはない。
終わり
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