※千鶴視点
短いです
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ほんのりとオレンジ色に染まった空をゆっくりと雲が流れていく。ちょっと息苦しい学校で見つけた私のお気に入りの場所。
運動部の掛け声,合唱部の歌声はしゃらしゃらと木々が風に揺れる音と重なって心地いいBGMになる。
誰にも邪魔されず,ゆっくりと時が流れるこの場所は私の特等席だ。
屋上は本来立ち入り禁止だけれど,姉さんの生徒会の手伝いで生徒会を掃除していた時,偶然屋上の鍵を見つけた。
放課後は図書室で過ごすことが多かったけれど,それ以来ここにこっそり来るようになった。
屋上の搭屋の上に登って本を読んだり,ぼんやりと景色を眺めたり,妄想したりしてのんびりと時間を過ごす。
ここに来る人なんて普段は誰も居ないはずなんだけど今日はいつもと違っていて,ガチャリと扉が開く音がした。
「あれ?千鶴さん?」
下を見下ろすと船見さんが立っていた。
「あ,船見さん」
誰も来ないだろうと思っていたけれど,ここに来るということは何かこの場所に用があるのだろうか?
「京子見なかった?」
なるほど,あいつを探していたのか。
あいつはマグロみたいに動き回ってないと死ぬタイプなんじゃないかってくらい,せわしなく動き回るもんな。
「見てない」
「そっか。綾乃のとこ行ってくるって言ったきり戻って来ないから探してたんだけど,ここには来てないみたいだね」
「うん」
「……ねぇ,そっちに行ってもいい?」
「いいけど」
船見さんは梯子を登って搭屋の上に来ると私の隣に腰を下ろした。
「いい眺めだね,ここ。初めて来た」
「うん。私も好き」
私の言葉を最後に沈黙が流れる。船見さんの事は知ってるんだけど,特に話したことないし……どうしよう。
「……歳納に振り回されて大変そう」
こんなかんじの会話の切り出し方でいいのかな?
「あはは,京子はいつもこんな感じだから,もう慣れたよ。確かにあいつは自己中でワガママで,大変だけどね」
「疲れない?」
「まぁ,疲れるけど……でも,嫌いじゃないかな,そういうのも」
「そういうものなのか?」
騒がしくて,執拗に絡んできて,正直ちょっと苦手。
「うん。何も考えてないようで……いや,本当に何も考えてないかもしれないけど,一緒の時間を過ごすのが好きで,一緒に楽しみたくて……ってそんな感じで動いてるヤツだからさ」
「そうなんだ」
「うん。京子へのツッコミばっかりやってると疲れるけども,なんだかんだで私も楽しいかな」
「なるほど……なんとなくアイツに友達が多いのわかる気がする。なんかムカツクけど」
あの底抜けの明るさや,人懐っこいとこや,自分の感情を素直に表現できるところが,友達作るの得意な理由なのかもしれない。
なんかムカツクけど。
「あはは……ちょっと鬱陶しいかもしれないけど京子も悪いヤツじゃないから」
「……うん」
まぁ,抱き着くのは鬱陶しいけど,こんな私に絡もうとしてくれるし……私はもう少し柔らかくなる必要があるのかな。
アイツの事ちょっと苦手だけど,なんだかフクザツ。
「歳納って昔からあんな風なの?」
「いや,昔は違ったよ。今と逆で引っ込み思案で泣き虫で,私の後ろをついて歩いているような,そんなおとなしい性格だったよ」
「意外……」
小さい頃のアイツと私は結構似ているのかもしれない。それなのに,どうしてこんな風に違うんだろう?
「だから私が強くならなきゃ,守らなきゃって思ったんだけど,今の京子は私なしでも歩いて行けそうで,ちょっとさびしいけど」
船見さんはすごいな。なんというか,大人って感じで。
私は姉さんに守られてばっかりだし,「守る」とまではいかなくても,何かを人に与えることなんて出来てないと思う。
多分私の心は幼いままで,見たくないものから目を背けてるだけだから。
「ごめんね,話しすぎちゃって」
私がいろいろと考え込んで黙っていたら船見さんが申し訳なさそうに謝った。ちょっと悪いことしちゃったな。
「大丈夫。船見さんって今日が誕生日なんだっけ?」
「うん。でも,いきなりだな」
「なんか大人だなって思ったから」
新しい年度が始まってすぐに誕生日を迎えるから,そこのところが大人っぽいとことちょっと関係があるかなって,
何となくそう思ったから。ちなみに今日が誕生日だということは姉さんが言っていた。
「そうかな?千鶴さんの方が大人っぽいイメージがあるから。」
「違うと思う……大人っぽいふりをしてるだけかも」
友達つくって仲良く遊んだりしたいけど,自分から踏み出す勇気が無くて一人が好きなふりをしている。
実は人恋しい幼い心をごまかして,大人ぶってるだけだから。
「私も,もしかしたらそう……かもしれない」
「似た者同士?」
「うん,似た者同士だ」
真っ直ぐに伸びる飛行機雲を見つめて,船見さんは目を細めた。
「そういえば屋上って立ち入り禁止じゃなかったっけ?前は鍵がかかってた気がするけど,最近はかかってないの?」
「実は……」
ポケットに手を突っ込んで鍵を取り出した。
「ここの鍵?どうして持ってんの?」
「姉さんの手伝いで生徒会の掃除してたら出てきたんだ。それ以来,放課後はこっそりここに来てる」
「へぇ……意外とワルだね,千鶴さん」
「船見さんも。茶道部占拠してるし,ワルだよ」
お互いにぷっと吹き出してしまった。
理由はよく分からないけれどなんだかおかしくて,その感覚が心地よくて,笑いが止まらない。
「なんか千鶴さんと話してると落ち着くな。普段騒がしすぎるせいかもしれないけど」
「私も,こういうの嫌いじゃない」
「今日はありがと。私,そろそろ行くね」
「うん」
船見さんは立ち上がると梯子を降り始めた。
「船見さん,ちょっと待って」
の中から本を取り出し,挟んでいた栞を抜いた。白いツツジがデザインされた金属製の栞。
「はい,誕生日おめでとう。こんなものしかなくてゴメンけど」
「ありがとう。また,ここに来てもいい?」
「いいよ」
「ありがとう。それじゃあ」
船見さんは手を振って梯子を降りはじめる。私も手を振って応える。
>>12 冒頭の「カバン」が抜けてた…
船見さん階段への扉と搭屋の中間のあたりまで行くと立ち止まり,こちらを振り返って叫んだ。
「千鶴さんの笑顔初めて見たけど,とっても素敵だった!」
ふわりと花びらの舞うような柔らかな笑顔を見せて,踵を返して小走りで去っていった。
胸のあたりがきゅうってなってぽかぽか温かくて,何だか不思議な感覚。
仲良くなるとこういう感覚になるんだっけ?
こんなふうに頬が熱くなってしまうんだっけ?
でも一つ言えるのは,もうちょっと仲良くなりたいなって,そんな気持ちなんだ。
―――fin―――
ギリギリ間に合ってよかった……
結衣ちゃんお誕生日おめでとう!
このカップリングに需要があるか分かりませんが書いてみました。
ありがとうございました。
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