志保「お腹いっぱいです」 (31)


なんか、こんな雰囲気で書きたくなったのです。


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夜。事務所。プロデューサーが一人。
彼が椅子の上で伸びをすると椅子はギギギと鳴きました。
彼はお腹を見つめます。
学生時代は引き締まっていたお腹はだいぶ大きくなっていました。

「運動しないとなー……」

椅子から立ち上がり、足は給湯室に向かいます。
給湯室はあの人やあの人のおかげでちょっとしたキッチンになっています。
ホールケーキくらい簡単に作れます。中華料理なら満漢全席だって作れます。

プロデューサーは辺りに誰もいない事を確認して、炊飯ジャーの中身を確認しました。
5号焚きの炊飯ジャーは保温になって久しいらしく、お米は少し硬くなっています。
冷蔵庫にお目当ての食材がある事を確認して、エプロンを手慣れた感じで身に着けます。

「いざすすめや~キッチーン~♪」

腕を捲り準備は万全です。
時計の長針は10と11の間。この時間に食べれば肥る訳です。


道路から見える事務所のガラス窓が明るい事を確認して彼女はため息をつきました。
明かりが点いているという事は、誰かが居るという事です。

忘れ物を取って直ぐに帰ろうと思っていた彼女にとってはあまり好ましい事ではありませんでした。
弟を長く待たせるのも嫌でした。

世間話は得意ではないのです。

人気のない階段では蛍光灯が一本、寂しそうに光っています。
夜の階段はいつだって寂しいものです。


中華鍋の中で卵とごはん、長ネギが踊っています。
香ばしい匂いが換気扇に向かって流れていきます。

中華鍋を振りながら左手で塩を振り入れます。
そして用意しておいた豚肉とニンジンを入れて炒めます。

「アイフィールスーパーサイズラブ!」

中華鍋がビートを刻みます。中華お玉が声を届けます。
そこは油飛び散りカロリー舞うステージでした。


アルミ製の簡素なドアの前で彼女は立ち止まりました。
換気扇の向こう側からいい匂いと微妙な歌声が鼻と耳に届きます。

あの人が馬鹿な事をしているんだなと呆れながら事務所に入ります。

まだ自分は夜ご飯を食べていない事をお腹が訴えていました。


「幸せをおかわり!」\ハイ!/

出来上がったチャーハンを盛り付けてポーズをとるプロデューサーの目に、

「……何やってるんですか」

冷ややかな目をした志保が映りました。


・・・・・・・・・・・・・・・


「……こんばんわ、志保」

「私は何も見てませんので」

円盤投げをする石造のような恰好で固まっているプロデューサーの隣を志保がスタスタと歩き抜けます。
後ろ姿を視線だけでプロデューサーが追います。右手に持ったチャーハンからは湯気がもくもくと立っています。

いったんそれを置いて、何事も無かったかのようにプロデューサーが志保に話しかけます。

「忘れ物?」

休憩スペースの持ち物入れを漁りながら志保が答えます。

「はい。見つけたらすぐ帰りますので」

「そうだね。もう夜遅いからね。家は近いんだよね?」

「はい」

志保が短く言葉を投げると二人の間に会話は無くなります。
プロデューサーは少し考えて、また給湯室に戻ります。

事務所には志保が持ち物入れを漁る音と、プロデューサーが何かを漁る音だけが小さく響きます。


「見つかった?」

後ろから声が聞こえて志保が振り向きます。
そこにはチャーハンを配膳板に乗せたプロデューサーが立っていました。
中くらいの深さのお皿が二つ乗っています。

「まだですけど……なんなんですか、それ」

「チャーハン」

「いや、料理名を聞いてるんじゃなくて」

いつもより鋭い目がプロデューサーと配膳板を睨んでいました。
志保の少し癖のある後ろ髪が揺れます。

「食べない?」

「要りません」

「炒ってるんだけどなー」

志保が呆れたような顔をすると、ぐーっと誰かのお腹が鳴りました。

「……」

「スープは要る?」

志保が持ち物入れに向き直ると忘れ物はすぐに見つかりました。

「……いただきます」


休憩スペースにあるテーブルの上にわかめスープを入れたカップが二つ置かれました。

「チャーハンにはレンゲだよねー。チャーハンの美味しさの何割かはレンゲが担保していると思うんだよ、僕は」

プロデューサーはそう言いながら志保に木製のレンゲを手渡します。
志保はそれを素直に受け取り、プロデューサーの手作りチャーハンを眺めます。

「どう? 結構上手に出来たと思うんだけど」

「そうですね。美奈子さんには負けますけど、よく出来てると思いますよ」

半球状になっているチャーハンの一部を崩して志保が言います。

「でしょー。いやー苦節一か月。やっと中華鍋が片手で振れるようになったんだよー。いやー、重いのなんのって。あ、食べようか」

いただきます。とプロデューサーが手を合わせるのにつられて志保も手を合わせます。
深夜の事務所は、レシピの少ないレストランでした。


「今のお仕事はどう? うまくやれている?」

レンゲでチャーハンの山を崩しながらプロデューサーが志保に語りかけます。
口の中を空にしてから一呼吸おいて志保が答えます。

「大丈夫です」

「そっか。志保はしっかりしてるね」

スープを啜りながらプロデューサーが答えます。

「静香が心配し」
「余計なお世話です、と言っておいてください」

また、志保の切れ長の目が僅かに鋭くなりました。

「……仲悪いの?」

「別に……」

志保はお節介焼きな人の顔を思い浮かべて、頭を振ります。

「二人ともしっかり者だからねー」

喋りながらも手は止めないプロデューサーでした。


「でも僕は静香にも、志保にももっと頼って貰いたいんだよなー」

レンゲを加えたままプロデューサーがぽつりと呟きました。
志保がチャーハンの山を削りながら答えます。プロデューサーの方は見ません。

「プロデューサーさんが頼りないのが悪いんじゃないですか?」

「うっ……まぁ、それはそうなんだけど……。……最近このみさんにも言われたんだよなー。頼りなく見えるわよって」

志保はプロデューサーのお腹を見つめます。
愛嬌のある顔と体格を見て一言。

「……ぷーさんみたいですからね」

「それはないよー志保ー」

プロデューサーが大げさに落ち込みます。

なんだか、こんなやり取りも悪くないなと少し思ってしまい、志保は頭を振りました。


「まぁでもさ、僕以外にもさ小鳥さんも居るし、社長だっているし、このみさんだって居るし」

わかめスープをかき混ぜながらポツポツとプロデューサーが呟きます。

「あずささんに風花に千鶴。頼れる人はいっぱいいるんだからさ」

「……何人か抜けてませんか?」

「そこはオフレコだよ、オフレコ」


・・・・・・・・・・・・・・・


「……本当に一か月間ずっと中華鍋振ってたんですか?」

チャーハンが更地になった頃、志保が少し驚いたような声色で言いました。

「うーん、わりとそうだったね。素振りとかもしたよ」

「……中華鍋で?」

「うん。中華鍋で。高いものだから緊張感もあるしね」

「高いんですか? 中華鍋って」

「たぶん」

かわめスープを空にしてプロデューサーが答えました。

「高いものなんて、何がいいんでしょうか」

「うーん、気分がいいんじゃないかな」

「別に、高い万年筆も安いボールペンでも、出来る事は変わらないと思うんですけど」

プロデューサーがレンゲを置きます。空になったカップが小さな音を立てました。

「志保はしっかりしてるね。でも、気分がいいと仕事のスピードも上がるから、きっと値段相応の価値はあるんだよ」

腕を組んでうんうんとプロデューサーは一人頷きます。

少し呆れて志保は下を向きます。
そして思い出したようにスマホの画面を確認して時間を見ます。

事務所に来てから十五分が経っていました。


「すいません、長居しすぎました。もう帰りますね」

空になったお皿の上にカップを置き、志保が食器を片づけます。

「うん。ごめんね、つき合わせちゃって」

同じようにプロデューサーも食器を片づけます。
そして志保の分の食器を渡すよう促します。

立ち上がろうとする志保にプロデューサーが言いました。

「お腹いっぱい?」


・・・・・・・・・・・・・・・


『お腹いっぱい?』

『うんっ! お腹いっぱい!』


・・・・・・・・・・・・・・・


「……なんですかそれ」

志保が鞄についている黒猫のストラップを握りました。
小さい呟きにどこか強い語気がありました。

「うーん、口癖かなぁ?」

プロデューサーは能天気に答えました。

ポリポリと頭をかくその姿にあまりに邪気が無かったので、志保は言及する事がめんどくさくなりました。

「はぁ……まぁいいです」

出口へ向かう途中、志保が立ち止まりました。
振り向かず、でもどこか逡巡している後ろ姿でした。

「どうかした?」

「……ごちそうさまでした」

そういって簡素なドアを開きます。

静かにドアを閉めて、聞こえないように呟きます。
「お腹いっぱいです」と。


・・・・・・・・・・・・・・・


「あー! ぷーさんだー!」

「違うよー! せめてぴーさんにしてくれよー!」

「あれプロデューサー、その子誰?」

「志保の弟さんですよ」

「です!」

「おー、よく言えたなー。えらいえらい!」

「おっ! プロちゃんに隠し子発覚!?」

「あー! うどんのおねーさんだ!」

「うどっ?! だ、誰よそんなこと教えたの!?」

「ぷっ」

「ちょっと志保!」

支援だよ

>>6
北沢志保(14) Vi
http://i.imgur.com/Aa85Bfk.jpg
http://i.imgur.com/iinWIGe.jpg


「……何がおかしいんですかプロデューサー」

「楽しいでしょ?」

「……まぁそうですね。楽しいですね」

「志保も一歩大人になったから、今度は静香の番かな?」

「大人、ですか……」

「うん大人。……一つ聞いていい静香?」

「なんですかプロデューサー」

「……僕、ダイエットした方がいい?」

「した方がいいと思います」


PLSからIMCの期間が短すぎやしませんか?
このみさんPを殺しにきてるとしか思えないんですけど。
……二枚取るでー。

IMCファイト・・・・・乙でした

>>24
最上静香(14) Vo
http://i.imgur.com/xLn56G5.jpg
http://i.imgur.com/XcP2c9j.jpg

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