朝潮はずっと秘書艦 (29)

小説の書き方を意識しています。

前スレ
朝潮は『不安症候群』

>>30 さんとの約束を守りました。

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約束守ってくれて凄くありがたい
ずっと待ってたよ

 「スー……スー……」

 文字通りの『目と鼻の先』から聞こえてくる、少女の寝息。彼女の名前は『朝潮』。

 真面目な性格で強い責任感を持つ、利口な少女。そんな彼女は今、私の膝の上で、スヤスヤと眠っている。

 普段の朝潮であれば間違っても自発的に、上官である、私の膝の上に乗ることはあり得ない。今日の彼女は、何かが違うのだ。

 我が鎮守府は、国に命じられていた深海棲艦の撲滅に成功した。現在、特別調査隊が生き残りの調査をしているらしい。それも、もう少しで終わる見込みと聞いている。

 最後の決戦で秘書艦を務めた朝潮は、その後もずっと、秘書艦をやってくれた。他の艦娘たちは、外出許可を取って遊びに行ったり、解体後の生活の準備をしたりしているにも関わらず――

 朝潮は、戦争が完全に終結するその時まで任務を遂行する、と言って、今日も私の隣で、ただただ読書をしていた。

 一一〇〇を回る頃、艦娘の『赤城』が、私たちに差し入れを持ってきてくれた。

 「コンビニエンスストアに寄ったら、美味しそうでしたので差し入れに。新商品みたいですよ!」

 赤城がくれたのは、有名アイスクリームメーカー、ハーゲンダッツの、カップアイスのチョコミント味。蓋には『期間限定』の文字と、爽やかなミントの写真。

 「ありがとう。暑かったから、ちょうど良いよ」

 私は、赤城が執務室から出ていったのを見計らい、自分のアイスを朝潮の方に寄せた。

 「悪い、ミントが苦手なんだ。良ければ食べてくれないか?」

 「えっ、良いのですか?」

 「ああ、食べてもらえた方がありがたい」

 「では、司令官の分もいただきます!」

 朝潮は嬉しそうに、アイスクリームを2カップ食べた。

 今思えば、このアイスクリームに、何かが入っていたのかもしれない。

 一二〇〇頃、朝潮の顔が赤くなっていることに、私は気が付いた。

 「朝潮、顔が赤いが、大丈夫か?」

 「はい? はい、朝潮は大丈夫です!」

 満面の笑顔でそう答える朝潮。いつもの落ち着きはどこへ行ったのか。私は余計に心配になり、手のひらを、朝潮の額にかざす。

 「ひゃっ! し、司令官、どうかしたんですか?」

 手のひらから伝わる朝潮の体温は普通。熱があるわけではなさそうだ。

 しかし、ふと朝潮を見れば、陶然とした表情を浮かべ、私を見ているのだ。何かがおかしい。いつもの朝潮らしくない。



*陶然:気持ちよく酔い、うっとりとする様子(大きなお世話ごめんなさい)

 「……しれいかん」

 そして彼女は、自発的に、私の膝の上に乗ってきた。おまけに、私の腕に頬をこすりつける。

 「しれいかん……」

 彼女はそんな動作を何度も繰り返したのち、眠ってしまった。

 私の膝の上で――

 もしかしたら、あのアイスクリームに何かが入っていたのかもしれない。くずかごからカップを拾い、成分表を確認してみたいのだが、今はそれができない。私の膝の上で、朝潮が眠っているからだ。

 また、朝潮を私のベッドに寝かせたいが、それもできない。膝に座っている彼女を、どうやって持ち上げれば良いのかが、分からない。

 そして私は数分、朝潮の頭を見つめていた。

 軽い体重、小さな肩、やわらかそうな頭皮。私はだんだんと、この朝潮が、可憐で、あどけない存在に思えてきた。思えば、私もどこか、おかしかったのかもしれない。

 『守ってあげたい』

 きっかけは、ちょっとした出来心だったのだろう。私は朝潮の頭に手を伸ばし、頭を撫でる。そして気付いたときには、私は、両腕を朝潮の腹の前に回していた。徐々に力を入れていく。

 ぎゅっ、と、私は朝潮を抱きしめた。やわらかい体、小さい体、もっと力を込めれば折れてしまうのではないかと思えるほど、かよわい存在。

 「……んっ……」

 朝潮が声を上げた。しかし私は、朝潮を抱くのをやめない。

 時間が凍結しているかのように、私は長い時間、ただひたすら、朝潮を抱いていた――

 その後、私は朝潮を横向きに座らせ、朝潮をお姫様抱っこする。

 そして私のベッドまで運んだ。暑苦しいと思い、上から布団は掛けない。私はそのまま机に戻った。

 夕飯の頃にちょうど、朝潮は起き上がった。自分が上官のベッドに寝ていたことに動揺しながら、私に何度も謝ってくれた。私はもちろん許した。そして私の希望で、執務室で一緒に夕飯を食べた。朝潮の表情は、どこか楽しそうに見えた。

 「朝潮」

 私が呼ぶと、彼女は純粋無垢な表情を私に向け、はい、と返事する。

 「私の膝の上に来なさい」

 「……はい」

 一瞬、困惑した表情を見せたが、すぐに、失礼します、と言った後、私の膝に乗った。

 私は朝潮の頭を撫でる。さらさらとした髪が、どこか儚い。

 「……司令官、これは何かの暗号でしょうか?」

 今の私なら、これが朝潮の照れ隠しであると分かる。その証拠に、朝潮の表情はどこか満足げだ。

 その日の夜は、ひたすら、朝潮の頭を撫でていた。初めは困惑していた朝潮も、次第に、嬉しそうな表情を見せてくる。そんな表情を見られるのが、私は嬉しかった。

 二一〇〇、就寝時刻。私は朝潮を部屋に返す。

 「司令官」

 朝潮は去り際に、私の方を振り向く。

 「明日も、よろしくお願いします!」

 そう言い残して、彼女は執務室を去った。その時の彼女の表情は、どこか、楽しそうだった。

 こんな平和が、これからも続きますように。
-FIN

>>2
待ってくれてありがとう!
楽しんでもらえたのなら、それだけでお腹いっぱいです

閲覧、ありがとうございます。楽しんでいただけましたか?

記念に過去作の宣伝をさせてください。

電「二重人格……」

艦むすの感情

映画『艦これ』―平和を守るために

朝潮は『不安症候群』

朝潮はずっと秘書艦

現在、映画『艦これ』の前にあたる話を執筆中です。結構な大作になりそうな予感。


朝潮ちゃんのSS待ってるからまた書いてくれよ

>>18 首を長くしてお待ちください

質問などあればどうぞ

艦むすの感情も貴方だったのか
朝潮編リクエストしたの俺だけど素晴らしかったよ


結局アイスの成分はなんだったんだろう?

>>21
嬉しいです! ありがとう!
背伸びした感じが悔いだったのですが、楽しんでいただけて、幸いです。

>>22

リキュールです。
自分自身酒にとても弱いので、ハーゲンダッツのチョコミントを子どもが二つも食べたらと思うと……

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