私は今、市内のビジネスホテルにいる。
外はとうに夜の帳がかかり、バーテックスをも通さぬ蚊帳となっている。現に、これまで夜更けに樹海化が始まった事は無い。
しかし、心臓の音がうるさい。
ただデリヘルを頼んだだけで、これだけ緊張するものなのか。ベッドに腰掛けながらも身体は浮いているような、現実感がなく……目眩が起きそうだ。
一時の気の迷い。それをわかっていながら私はここにいた。現実逃避からの自棄。理由はひとつ。
想い人に恋人が出来た。
その報告を耳にした時、表情では平静を保ちながらも、内心は動揺を抑えられなかった。その恋人は私もよく知る人物でーー
ーー考えの途中であったが、どうやら嬢が到着したようだ。ノックの音が部屋中を反響し、全方位でそれを感じる。
シャワーは浴びた。
湯船には既にお湯を張ってある。
あとは、扉を開くだけだ。
ドアの方へと歩く。
一歩一歩が早いのに、中々ドアへは近づけない。視線は、遠くにあるドアノブに釘付けだ。
ようやくのことソレに手をかけ、生唾を一飲み。
怖気付くな。東郷美森は勇者であった。これしきの敵に怯えていては勝利は到底掴み取れない。
一雫の汗が頬をつたり、
私は、扉を開けた。
「勇者倶楽部から来ました鷲巣夏凜です……って、あ、あれ?」
『東郷さん?』
聞きなれた、いつも通りのホッとする声音で……彼女が現れた。
・R15、又はR18
・キャラ崩壊有
・進行遅め
以上の通りです。よろしくお願いします。
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赤い、髪。
見慣れた私服。
見慣れた、笑顔。
相手方には、出来るだけ若い子が好ましいと要望を出した。しかし、学生を寄越すとは思わなかったので驚いている。
しかし、その相手が互いに素性を知っている人物となれば驚驚愕愕というもの。どうやってベッドまで連れてきたのかは全く覚えていない。
鷲巣夏凜……本名、結城友奈さんは同じ学校で、同じ部活動の深い友人である。
どうして私の旧姓を源氏名に使っているのか、どうして名を恋人のものにしているのか。突っ込みを入れたい箇所は複数あるが、今はそれどころではない。
横並びでベッドに腰掛けた二人。
水分を失い、乾いた口・喉を動かして最初に聞くべき事は決まっている。
「……どうして、こんな仕事を?」
生活に困窮しているようには見えなかった。見せなかったのかもしれないが、私にはそうは思えなかった。
「お金が、必要なんだ」
そう言う彼女は、眉尻を下げながらも笑顔を崩さず……学校に忘れ物をしたかのような、大事ではないように困り笑いで告げる。
「お金に困っているなら、私に手助けさせて」
東郷家は大赦の援助もあり、それなりに裕福だ。それは結城家も同じであるはずだが、もしかすると勇者でなくなった時点で何かしらの援助打ち切りがあったのかもしれない。
「ううん。これは、私の問題だから」
この子ならこう言うだろう。
友に迷惑をかけるくらいなら、自らを追い込み、犠牲にする。
どこまでも勇者。それが私の愛した結城友奈である。
「それで……東郷さん、どうする?」
正直、お言葉に甘えたかった。
お言葉だけでなく、身体的な意味でも甘えて……その後で深い事情を聞けたらいいな、と内心思う。
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