お経はいらない(11)
仏壇の前で母と祖父がお経を唱えてる。
毎日毎日、朝と夜に一時間ほど喧しく頑張ってる。
正直ウザイ。
お経を聞くと私は気分が悪くなる。
母には同情する。
母はぶっちゃけ宗教が大嫌いで、もちろんお経も大嫌いだ。
祖父に付き合わされてのお経はストレス以外の何物でもないだろう。
これは介護みたいなもんだ。
祖父はもうボケてるから、自分一人でお経すら読めない。
母は祖父のお経を手伝っているだけ。
付き合わないと祖父は機嫌が悪くなって、最悪の場合には暴れだすからだ。
私もその被害にあった事がある。
重たい置時計を投げつけられて顔に怪我もした。
だから、私が大好きだった祖父はもういない。
ボケてしまった祖父は、もう私が大好きだった祖父じゃない。
あれはもう祖父の脱け殻だ。
残り少ない時間の有意義な使い方さえ分からなくなった、ただの脱け殻。
時間の使い方くらい、ちゃんと知ってる母まで巻き込んでる、
ただの迷惑な脱け殻。
私は以前から母に言っていた。
「私が死んでもお葬式はいらない。戒名も法事もいらない。お経はノーサンキュー」
母は私のこの意見に賛同してくれたけど、
「自分が先に死ぬからどうにもならない」
などと言っていた。
しかし昨日。どうやら私の方が母より先に死ねそうな事実が判明した。
もしかしたら、既にボケている祖父よりも先に死ねるかもしれない事実が判明した。
健康診断なんて、軽い気持ちで受ける物じゃない。
二十代で癌だそうだ。笑えない……
笑えないけど、別に泣くつもりもない。
とりあえず落ち着いて、遺言でも残しておこう。
お母さんへ。
お葬式はいりません。戒名はいりません。法事はいりません。お経はいりません。
時間やお金は有意義に使ってください。死んだ私の為に使うのは馬鹿げてます。
今までありがとうございました。
さようなら。
貴女の娘より。
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