BLEACHとスーパーくいしん坊のクロスSSです。
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ある日、洋食屋『くいしん坊』店主、鍋島料市は驚愕した。
「バ、バカな!?」
驚愕の理由、それは……
「ねえ、阪神は勝ったぁ?」
「おい香介! これ見てみろ!」
料市は隣にいたまるまると太った自分の息子、香介にチラシを見せる。
そのチラシは、『ステーキハウス春』の開店を知らせるチラシであった。
「すげえ! 200gのステーキが980円で食えるの!?」
そう、そこには200gのステーキを980円という破格の値段設定で売り出すという広告があった。
「しかし、こんな値段でこの大きさのステーキを売れるってのか?」
「確かになあ、どうやってここまで安くしているんだろう?」
だが、洋食店としては近くに強力なライバルが現れたとなれば気が気ではない。
そこで二人は、件の『ステーキハウス春』に足を運ぶことにした。
車で店に向かった二人が見たものは、駐車場を満杯にするほどの車と、店の外まで続く行列だった。
「うへえ、すげえ並んでる」
「そりゃあ、980円でステーキが食べれるわけだからなあ」
行列の長さ故、二人は長時間待たされることとなったが、ようやく席に案内される順番になった。
「ああ、やっと食えるよ」
だが、そんな二人を出迎えたのは……
「…………」
全身をコートですっぽりと覆った、異様な店員だった。
「……」
「……」
「……」
コートの店員は無言のまま、二人を席に案内する。
「と、父ちゃん。なんなのあの店員さん?」
「……まあ、いいじゃないか。安くステーキが食べられるわけだし」
コートの店員に対して少しの疑問を感じながらも、二人は席に座って注文する。
注文を取ったのは、やはりあのコートの店員だった。
「……」
「あの、『春ステーキ』をふたつ」
「……」
店員は言葉を発さなかったが、注文は伝わったようだ。
厨房に向かっていく店員の背中を見送った香介はトイレに立った。
「よし、出すもん出したし腹いっぱい食うぞ!」
だが、香介は席に戻る途中にある調理場が気になってしまい、中を覗いた。
(へえ、でかい調理場だなあ)
そして調理場を覗いた香介が見たものは。
「あ、あいつは!」
先ほどのコートの店員が、焼く前のステーキ肉に立っていた。
店員は、肉をじっと見つめている……ように見える。
実際に見ているのかはわからない。
なぜなら、店員が被っているフードは異様に陰になっていて、顔が全く見えないからだ。
さらに、頭の部分が妙に大きいように見えた。
(なにやってんだあいつ?)
香介が疑問に思ったのは、コートの店員が肉を調理するでもなく、じっと見ているだけだったからだ。
だが、次の瞬間。
店員のフードに隠された頭の部分がモコモコと蠢いた。
「な、なんだぁ!?」
そしてその直後、ステーキ肉がひとりでに跳ねた!
しかも一回ではない! まるで意志を持って踊っているかのように、ステーキ肉が乱舞しているのである!
その様子は、動物が求愛行動をしているかのようであった!
「どうなってんだよ……?」
夢中で見ていた香介だったが、
「ほら、そこにいちゃ邪魔だよ!」
料理長と思われる男性に怒られたため、大人しく席に戻ることにした。
十数分後。
「……」
さきほどの店員が、ステーキを持ってきた。
香介たちはナイフで切り分けてそれを食べる。
「う、うめえ! それにやわらけえ!」
「確かにやわらかい。こんなやわらかい肉をどうやってこの値段で?」
料市が疑問に思う一方で、香介は肉の柔らかさの理由を察していた。
(さっきの店員だ……あいつが何かしたんだ! あいつ、ただの店員じゃない!)
中断
香介が考えていた通り!
あの人物は、ただのステーキ店の店員ではない!
その正体は……
見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)が擁する精鋭部隊、星十字騎士団(シュテルンリッター)の一員であり!
皇帝ユーハバッハから“C”の聖文字(シュリフト)を授かった滅却師(クインシー)!
ペルニダ・パルンカジャスその人である!
星十字騎士団の一員であり、尚且つユーハバッハの親衛隊のメンバーであるペルニダは、
その名誉ある地位に就いている故に多忙であった!
そして遂に、二年ぶりに休暇を取ることが許されたペルニダは現世へと繰り出したのである!
ペルニダが影の領域(シャッテンベライヒ)から出てたどり着いた場所は、『ステーキハウス春』の前だった!
とりあえずペルニダは、バイトの募集に応募して採用された!
そして……今に至る!
「ふーむ、直営の牧場から仕入れたとしても、ここまで安くはできないよなあ……」
料市が未だに悩む中、香介は立ち上がってコートの店員、ペルニダの秘密を掴もうとした。
だが、しかし!
「ちょっとあんた、『くいしん坊』っていう洋食屋の店長さんなんだって?」
料理長が、料市に話しかける。
「えっ?」
「まさか、こんな大胆に他店の技術を盗みにくるとはね」
「な、なに言ってんだ!」
料理長の物言いに、香介が激昂する。
「さっき、そこのボウズが調理場を熱心に覗いていたんだ。言い逃れは出来ねえぜ」
これは明らかな挑発である。
そしてそれを受け流せるほど、香介は大人ではなかった。
「へっ! 何が技術だ。あのコートの店員の力を借りているだけじゃねえか」
「なんだと?」
「あの店員が何か不思議な力で、肉を柔らかくしているのを見たんだよ!」
そう、香介はペルニダが何かの力で肉を柔らかくしているとにらんだのだ。
そしてそれは……
(こ、この小僧、あれを見たのか!?)
当たっていた。
「……」
そうこうしているうちに、ペルニダが調理場から出てくる。
「……」
「ペルニダ! お前は調理場にいろって言ったろ!」
「……」
この期に及んでも無言を貫いているペルニダに対し、香介が喰ってかかる。
「やい! お前が肉を柔らかくしているんだろ!?」
「……」
「そうじゃねえってんなら、こいつが居なくても、柔らかくて安いステーキを出せるよなあ?」
香介は料理長に問いかけた。
「む、むう、ああ出来るとも」
「えっ!?」
「そうだ! こいつはただの店員に過ぎん! こいつが一人居なくても、ステーキの質は変わらんよ!」
断言した料理長は、逆に香介に喰ってかかった。
「じゃあ、あんたらの店はこの値段でステーキを出せるのかな?」
「で、できらぁ!」
「ほう、言ったな!」
なにかまずい展開になることを察した料市は、香介を止めようとする。
「よ、よせ香介!」
「いいんだよ父ちゃん! おなじ値段で、もっと美味いステーキが作れるって言ったんだ!」
「ほお、面白い小僧だぜ」
「ま、待ってくれ、こいつはすぐ熱くなるんだ。だから……」
「そうはいかないぜ、こんな大勢の前でハジをかかされた以上、うちとおなじ値段でうまいステーキを作ってもらわなきゃなあ」
「え!! おなじ値段でステーキを!?」
「……!!」
いや、それさっき言っただろうが。
まるでそう言いたげなペルニダを尻目に、事態は進んでいく。
「よし、じゃあステーキのデリシャスマッチだ! 二日後、この店で勝負だ!」
こうして、『くいしん坊』と『ステーキハウス春』はステーキ勝負をすることになった。
中断
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