男「……!背筋がゾッとした、風邪でも引いたか?」
烏天狗「隠れ簑って便利だなぁ」
男「まあ実際に妖怪が出たら洒落にならないがな、妖怪好きのくせしてビビりだし」
烏天狗「独り言が多い若者だ」
男「あんたもな」
烏天狗「!?」
男「隠れ簑で声まで消せますか?」
烏天狗「ふかぬーですね」
男「あなたは愚者ですか?」
烏天狗「いいえ、烏天狗です」
男「なるほど、烏頭ですね」
烏天狗「誉めてもお礼しかでませんよ、ありがとう」
男「妖怪っているんですね」
烏天狗「そりゃあいますよ、人間社会溶け込んでいるのがほとんどですけど」
男「何と」
烏天狗「河原に住んでるオジサンの8割は実は河男なんですよ」
男「むしろ河男の元ネタがホームレスなんじゃ……」
烏天狗「動物園の獏は夜になると大体が他の動物の夢を食べてます」
男「やっぱり動物も夢をみるのか」
烏天狗「あなたも動物でしょう?」
烏天狗「この前、町で小豆洗いを見た」
男「へー、何やってた?やっぱり小豆農家?」
烏天狗「ニート」
男「おうふ」
烏天狗「妖怪界で芸が無いと言われ、面接会場で資格が無いと言われ……」
男「あの妖怪って人食べるんじゃないの?」
烏天狗「どうやら口先だけの模様」
男「きっとベジタリアンなんだよ」
烏天狗「地震発生機ってあるだろ?」
男「ああ、あの防災訓練とかの時に使うやつ?」
烏天狗「あの中には家鳴りが入ってるんだ」
男「家鳴りが家を揺らせるの?」
烏天狗「中は満員電車状態らしい」
男「怖え」
男「天狗には社会があるって本当?」
烏天狗「本当、でも住みにくい」
男「なぜ?」
烏天狗「総人口数200人」
男「少子化か……」
烏天狗「少子化さ……」
河童「少子化だね……」
男「!?」
烏天狗「河童だ」
河童「河童だとも!」
男「ビックリした……」
河童「おい!人間!お前等が少子化の原因なんだぞ!」
烏天狗「まあまあ落ち着きなさい」
男「どういうこと?」
河童「妖怪はお前等人間と違って年中発情してるわけじゃないんだ、一生に何回か来る発情期に子作りをするんだけど」
烏天狗「人間社会に溶け込んだ妖怪が人間に恋をして結ばれるのは珍しいことじゃない、結婚して交われば普通に子供はできるんだけど……」
河童「永い妖怪の人生で数回しか訪れない発情期と愛する人と過ごせる時間が重なる確率はすんごい低い」
烏天狗「愛する人が亡くなると義理堅い奴や愛が深かった奴は誰とも交わろうとしなくなる」
河童「そんな理由で我々は少子化している」
男「人類は悪くないと思います」
烏天狗「みーとぅー」
河童「ええい!裏切るのか烏天狗!」
烏天狗「コイツ人間嫌いのフリしてるけど実は人間製の皿に拘ってるんだぜ」
男「何だ恥ずかしがり屋さんか」
河童「うるさい!川に引きずりこむぞ!」
男「ほら、キュウリあげるから向こうで遊んでなさい」
河童「わーい」
男「妖怪のほとんどが人間社会に溶け込んでいるんだろ?」
烏天狗「んだ」
男「人間を襲ったりする奴ってやっぱりいる?」
烏天狗「まあいないことは無いけど、妖怪全盛期ほどの力を持ってる奴はあんまりいない」
男「と、言いますと?」
烏天狗「ガシャドクロの身長が1,8mになったり」
男「怖くない」
烏天狗「鎌鼬が止血剤も塗るようになったり」
男「優しいけど斬る意味無くなってね?」
男「鬼太郎って実在する?」
烏天狗「いるっちゃいる」
男「?」
烏天狗「ゲゲゲの鬼太郎を読んでファンになった妖怪達が勝手に鬼太郎ファミリーって名乗ってる」
男「興味深い話ですな」
烏天狗「だけど悪事を働く妖怪がそんなにいないから普段はゴミ拾いとかボランティアしてる」
男「もしかしたら近所にいるかも」
男「何か怪談話してよ」
烏天狗「嫌だよ、怖いし」
男「妖怪のクセに」
烏天狗「あなたはやーさんを恐れないのですか?それと同じです」
男「なるほど」
河童「おかわり」
男「もうありません」
河童「きゅ……り……」
男「煮干しならあります」
河童「わーい」
男「怖い話を話してやろう」
烏天狗「怖くなかったら承知しません」
男「先からアンタの後ろから何かチラチラ見えてる」
烏天狗「後ろ?」
木霊「ども」
烏天狗「ぎゃぁぁあ!!」
木霊「そんなに驚くことでもないでしょう」
男「振り返ってそこに節穴三つの顔があったら誰でも驚くぞ」
烏天狗「大体なんで君たちはあんなに不気味に首を揺らすかなぁ!」
木霊「あれは流行してた動きで意味は特にありません」
男「何をしでかすか分からない恐怖ってやつなのか」
木霊「別に驚かせたい訳じゃないんですけど……」
烏天狗「いいや!君たちは多くの子供のトラウマだね!絶対!」
男「烏天狗はそういう恐怖に弱いの?」
烏天狗「ええ、のっぺらぼうとかも苦手です」
木霊「未知の恐怖は恐ろしいですからね~」
男「木霊が思う一番怖い妖怪って何よ?」
木霊「うーん、まあ個人的には巨大な妖怪全般が無理かな、自分折られたらたまんないし」
河童「ダイダラボッチさん!」
男「あー、あのデカイ妖怪?」
烏天狗「あの妖怪は伝説級で馬鹿力だからなー、妖怪界でも結構高い地位なんだよなー」
木霊「あの妖怪は気を使って森を避けてくれるから好きだな」
男「じゃあ強さ的に言ったら誰だろ?」
烏天狗「チート能力持ち除くならやっぱりダイダラボッチさんじゃないの?全盛期には山とか運んでたらしいし」
河童「でもあの妖怪、この間同じような話してる時に見越し入道には勝てないって言ってたよ」
男「見越し入道かー、まあ弱点知らなきゃ倒せないよな」
烏天狗「デカくても毒には勝てないんじゃないか?土蜘蛛とか」
木霊「ウワンとかは?」
男「あれはチート扱いでいいだろ」
河童「ぬらりひょんさんは?」
烏天狗「諜報員としては優秀だと言っておこう……」
・
・
・
男「結論でないな」
烏天狗「今度、武闘大会でも開くか」
河童「ツッパリ!ツッパリ!」
木霊「痛い、痛い」
男「暗くなってきたな」
烏天狗「そろそろ帰った方がいいよ」
男「そうするか、あっ、一応俺ん家の電話番号渡しとくよ」
烏天狗「じゃあな」
河童「あばよ!」
木霊「さいなら~」
男「楽しい一日だった」
男「もしかしたら、すれ違う人は人喰い狼男かもしれない」
男「もしかしたら、汚い池にいる魚は水龍かもしれない、そんな風に思ったことはなかったな」
男「素敵な素敵な毎日、その裏で同じように素敵な日々を暮らす妖怪達……」
男「不確かな存在、でも呼びかければ気さくに答えてくれる」
男「クスッ」
男「何か用かい?ってね」
完
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