岡部「……」 梨花「にぱ~☆」(54)

昭和58年――つまり1983年の雛見沢。

6月19日
五年目の綿流しの祭り

6月19日 深夜
東京から来たフリーのカメラマンが自殺

6月19日~7月になるまで
古手神社の巫女が惨殺される事件が発生

6月19日~7月になるまで
数日後、雛見沢大災害


決して抗えない運命。
世界は必ず“収束”する。

そして、
そんな運命に、
愚かにも立ち向かおうとした、ひとりの少女がいた。

しかし世界は、“収束”に抗おうとする少女の努力を、決して認めなかった。
無慈悲な収束に翻弄され、そのうち少女は心を壊し、運命に屈した。

少女の名は――古手梨花という。

なるほど。ループを混ぜましたか。

>>3
正解です
しかし、かなりgdgd進行が予想されます
深夜だから別に良いよね?


1983年 6月1日 雛見沢 古手・北条家

ザーザーと雨が降っている。
時刻は夕方。
学校から帰ってきて(今日は部活を休んだ)、思ったことを紙に書き出してみた。

梨深「…………」

手にしていた筆ペンを机に置くと、自分が書き連ねた文章を声に出してみる。

梨深「……“『未来から来た人間が、私たちを救ってくれる』という幻想を抱いてもいいでしょう?”」
梨深「ふふ、なにこれ……」

弱々しい笑い。
私はそれを便箋に入れてからポケットにしまうと、外に出かけた。
向かうのは古手神社の境内。

ハルヒもひぐらしも大好きな俺得ですね。

>>5
ハルヒは関係ないけど……


2010年 7月15日 秋葉原 未来ガジェット研究所

岡部「おいダル、これを見てみろ」

キーボードを叩いていた指を止め、ダルを呼ぶ。
太った身体を乗り出してきたダルに場所を譲って、画面に表示された記事を読ませる。

ダル「なになに? おお~、“雛見沢連続怪死事件”? すげー懐かしい記事じゃん」

岡部「1983年、俺たちがまだ生まれてすらいない頃の事件だからな」

雛見沢連続怪死事件。
通称“オヤシロさまの祟り”

ダル「今でもたまにオカ板のスレで見ることあるけど、結局、真相は闇のまま」

ダル「一年に一度の村祭りの日に、必ずひとりが死んで、ひとりが神隠しに合うんだろ?」

岡部「神隠しではなく、“鬼隠し”だな。当時はそういう風に呼ばれていたらしい」

>>6
すまん。ハルヒの岡部かと思った…。

>>7
なんかごめん


リンクをクリックし、雛見沢村の情報を表示させる。

そこに書かれている文章。

『雛見沢村はかつて、鬼ヶ淵村という名前でした。』
『祭りの日には鬼が生贄として、人間を山奥に連れていったという伝承があります。』
『それが所謂、“鬼隠し”と呼ばれるようになった理由です。』

ダル「相変わらずゾクゾクする話だよね、それ」

訳知り顔で頷きながら、ダルは語り続ける。

ダル「しかもあのガス災害は、実は人為的災害だったんじゃないかって説もあるんだぜ」

なに!? 人為的災害だと!?

岡部「それはますます“機関”の陰謀である可能性が高い……! 話によると確か――」

岡部「“34号文書”というものがあるらしい」

ダル「なんぞそれ?」

岡部「それには、“オヤシロさまの祟り”の真実が書かれているそうだ」

ダル「オヤシロさまって、あの“オヤシロさま”? 例の学校立てこもり事件の、少女aが証言したっていう」

岡部「ああ、そうだ。その少女aが証言した“オヤシロさま”の正体が、そこには記されているという噂だ」

興味がムクムクと湧いてくる。
浮き立つ心を抑えきれず、俺は音を立ててpcチェアから立ち上がり、

岡部「気になる、気になるぞ! 狂気のマッドサイエンティストとしての知的好奇心が抑えられん!」

ダル「もしかしてまた妙なこと考えてたり?」

少々引っかかる言い方だが、あえて聞かなかったことにしてやろう。
今の俺は久々に湧いた面白そうな話題に、実に上機嫌なのだ。
俺はソファの上に立ち上がり、高らかに宣言した。

岡部「実際に行ってみようではないか! 雛見沢に!」

ダルは面食らったような顔をする。

ダル「あそこ、未だ立入禁止じゃなかった?」

まったく、こいつは実に発想の転換というのができないな。

岡部「三十年近くも封鎖されてるんだぞ。もはや警備員なんか居なくなってるだろう。出入り自体は自由にできるはずだ」

ダル「そうなん? じゃあどうせ暇だし、行ってみる? ここから電車で数時間はかかるだろうけど」

岡部「おお、賛同してくれるか! そうだ、ついでにまゆりも連れて行こう!」

まゆりにも連絡を入れた。
後はラボメン全員の用事が空く日を待つだけだ。


今日はもう夜遅いのでここまでです
続きはゆっくり書いていきます

頑張ってください。応援します。

一応立入禁止は解除されてたはずだぞ
そうじゃなきゃ赤坂が雛見沢に入るtipsとは矛盾するぞ

>>12
支援ありがとう

>>13
ヒント:無限の世界線

……正直なところ、忘れてただけです。 スイマセン。

ダルは「封鎖されてなかったっけ?」と聞いているだけなので、実は封鎖されてなかったと脳内補完してください。


ちょっとだけ続き書いていきます

数日後

まゆり「わー、草だらけだよ」

岡部「暑い……」

全身から汗を垂れ流しながら、俺は何年も手入れのされていない田んぼ道を進む。

岡部「誰だ……、こんなド田舎に来ようとか言い出した奴は……」

ダル「オカリンっしょ……、ひぃ……ふぅ……」

ダル「ごめん、ちょっと休憩頼むわ……」

俺はそんな情けないダルを叱咤した。

岡部「駄目だ。ネットの情報によると、もう少しで古手神社につくはずだ。それまでは頑張れ」

ダル「神社? なんでそんなところに行くん?」

岡部「あそこで人が殺されたという情報があってな、犯人の手がかりがあるかと思って」

まゆり「……まゆしぃはあまり怖いことはしたくないのです」

ダル「つーか、それは警察が調べたっしょ。僕たちみたいな素人が調べたところで、何も出るわけないじゃん」

岡部「うるさい! つべこべ言わず、とにかく行くのだ!」

古手神社は、長い石の階段を登りきったところにあった。

境内からは村中の景色が一望できる。
音を立てて吹き通る風が、じっとりとした汗をどんどん乾かしていく。

かつてはここも、長らく思い出に残るような絶景ポイントだったのだろう。
しかし廃村となっている今では、不気味さしか感じられない。

岡部「この辺りだったらしい」

俺は賽銭箱の前あたりを指差す。

岡部「この辺りで、かつて“オヤシロさまの生まれ変わり”と呼ばれていた人物が殺された」

ダル「言われてみれば、血痕みたいなのが残ってるような、残ってないような……ぜんぜん分かんね」

まゆり「ねえ、もう帰ろう? なんだかまゆしぃは、とってもイヤな予感がするのです……」

岡部「もう少しだけ調べさせてくれ…………っと、賽銭箱の下になにか挟まってるな」

引っ張り出してみると、土や泥が付着した汚い便箋だった。

ダルがそれを見て、ブルブルと大きな身体を震わせる。

ダル「それ手紙じゃね? なんか文字書いてあるもん」

ダル「それつまり、警察も見つけられなかった手紙ってことっしょ? それを僕たちが見つけるとか……」

ダル「もしかして殺された人の怨念が、僕たちに見つけるように差し向けたとかじゃね……?」

……怨念か。
ありうるな。

しかし、そこはこう言うべきだ――

岡部「これはまさに、運命石の扉(シュタインズゲート)の選択っ!」

宣言してから、空へ向かって勢いよく両腕を突き出す。
まゆりが不安そうに周囲をきょろきょろ見回しながら、

まゆり「多分開けたらダメなんだよ。開けちゃったら、夜中に枕元で『うらめしやー』って髪の長い女の人が」

ダル「ひぃーっ! やめてまゆ氏! 寝れなくなっちゃうから!」

まゆり「あ、ごめんねダルくん」

まゆり「でも、『お化けなんて嘘さ♪』っていう歌もあるぐらいだから、怖がらなくていいんだよー?」

頭を抱えて地面にうずくまるダルの背中を、まゆりが優しくさすっている。

致命的な間違いを犯してました。
便箋ではなく、封筒ですね

恥ずかしい……

それを一瞥してから、俺は手元の封筒に視線を戻した。

岡部「とにかく中を見てみよう。話はそれからだ」

俺は無造作に封筒を開き、中に入った便箋を取り出した。

古ぼけてうっすら黄ばんでいる紙。
そこには筆ペンのようなもので、あるメッセージが綴られていた。

岡部「なになに? “この手紙を読んだ人へ 私は古手梨花” ……古手神社の関係者か?」

『私は古手梨花。
1983年の6月の間には、必ず殺される運命の持ち主。

そしてその数日後に、雛見沢が壊滅するはず。
例えばガス災害なのか、それとも村人全員が鬼隠しにあうのか、それは分からないけれど。

信じられないと思いますが、私は何十回も死を経験しています。
死んでも死んでも、気がつけば数年前に戻っていて、それからまた殺されるまでを、何度も繰り返している。

だから私は、この先に起きる出来事を既に知っています。

6月19日の夜、綿流しの祭りの日。
東京から来た、富竹ジロウというカメラマンが、喉を掻きむしって死ぬ。

その数日後、私も殺される。
その数日後、雛見沢が壊滅する。

辛い辛い辛い辛いつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつら』

岡部「待て待て待て!? なんだこのホラーな手紙は!?」

ダル「オカリン、早く続きキボン」

岡部「くっ、あまり見たくないのだが……!」

恐る恐る、再び手紙に視線を落とし、続きを読む。

『つらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつら

運命に抗う気力が、枯れ果ててしまいました。

私はこれまでに、たくさんの仲間の命を犠牲にしてきたけど、それももう終わり。
彼らが無残に殺される姿を、私はもう見たくないのです。

私は運命に屈した。
そう言われても仕方がない。

ですから、この手紙を読んだ数年後の、いや、数十年後かもしれないけど。
あなたに頼みがあります。

過去を変えて欲しい。
雛見沢を滅亡の運命から救って欲しい。

そして、決して抗えない運命などないと、私に教えて欲しい。

運命は無慈悲に、私と仲間たちの命を刈り取っていく。
そんな、私たちに待ち受ける運命を、どうかあなたが変えてください。

こんなこと、狂っていると思われそうですが。

事実、私はすでに狂っているのでしょう。
何度も繰り返す因果の輪の中で、私の価値観はきっとおかしくなってしまった。

だから、
『未来から来た人間が、私たちを救ってくれる』という幻想を抱いてもいいでしょう?

これを読んだあなた、どうか私をこの悲惨な運命から救ってください。
それだけが、私の願いです。

1983年 6月1日 水曜日 雨が降る自宅にて』

ダル「……これマジ?」

岡部「…………」

まゆり「オカリン、まゆしぃはね? この人のこと、助けてあげたいな」

岡部「そんなの、どうやって……?」

まゆり「…………」

手紙を持つ手が震えている。
嫌な汗が全身から吹き出す。

これは間違いなく藪蛇だ。
興味本位で雛見沢に来たりしなければ、こんな手紙を見つけることもなかったのだ。

岡部「……これがもし事実なら、とんでもないことだぞ」
岡部「輪廻転生に近いものは実在し、しかも雛見沢の壊滅は、人為的災害だったという可能性が強くなる。いや、ほ

ぼ間違いない」

もはや学生の遊びでは済まされない領域なのだ。
それを理解できないラボメン二人ではないだろう。

ダル「それには同意。過去のことだし、僕たちに何かできるとは思えないね」

ダルはいつも通りのポーカーフェイス(強がっているようにも見えた)で、自分の意見を告げた。
しかし、まゆりは納得のいかない顔をして、

まゆり「でも……」

ダル「……それより僕らは、電話レンジの研究をしないといけないっしょ?」

その言葉に俺は頷いた。
そして、自分に言い聞かせるように。

岡部「そうだ、俺たちのやるべきことは、過去を変えることじゃない。電話レンジ(仮)を完成させることだ」

まゆり「…………」

岡部「もう帰ろう。今日見たことは一切他言無用だ。絶対に俺たちだけの秘密にするんだ」

まゆりがとても悲しそうな顔をしていたが、俺はあえて無視して、古手神社に背を向けて歩き出す。

焦り。
不安。
恐怖。

一度も会ったことがないけれど。
古手梨花という人物の願いを知りながら、俺がそれを踏みにじろうとしている罪悪感。

心の奥底で、様々な感情がグルグルと渦を巻いていて。

俺はその感情を押し殺すために、血が滲むように強く唇を噛み締めた。



今回はここまでです
続きはまたゆっくりと

ゆっくりペースでまた投下していきます
支援感謝


月日は流れ、西暦2025年。

岡部「15年前の俺――狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真よ」

岡部「過去のお前自身を騙せ。世界を騙せ。そして必ず、紅莉栖を救うのだ」

ビデオカメラのスイッチを押す。
過去へ送るためのビデオを撮り終わり、俺は机に置いてあったコーヒカップの中身を一気飲みした。

俺が今いるこのβ世界線では、“あらかじめ決められていた”通り、第三次世界大戦が勃発した。
それから俺は地下に隠れ潜み、タイムマシンを作る計画を推し進めていた。
全ては“紅莉栖を助けたいという”俺の執念からくるものである。

未来を司る女神作戦(オペレーション・スクルド)

鈴羽はまだ子供だが、彼女が18歳になった時――すなわち2036年頃に、2010年へとタイムトラベルしてもらう予定になっている。

彼女には2010年の俺と接触し、俺が考えた紅莉栖を救う方法をレクチャーさせる。
後は過去の俺自身が、うまく行動するのみだ。

作戦が成功すれば。
β世界線から、世界の“収束”の影響を一切受けない“アトラクタフィールドの狭間”
通称“シュタインズゲート”への扉が開かれる。

大丈夫だ。
きっと俺なら、この作戦を必ず成功に導いてくれる。
なにせ狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真なのだからな。

俺はボロボロになった白衣のポケットからケータイを取り出すと、アドレス帳からダルを選びコールした。
数回の呼び出し音の後、聞きなれた相棒の声が聞こえてくる。

ダル「もしもし?」

あの頃と比べると、少し渋くなったダルの声。

岡部「俺だ。c204の完成は近いか?」

ダル「まあね、基本理論はほとんど出来てる。予定の11年後までには、絶対完成してると思うよ」

岡部「そうか。……もし俺が死んだら、その時は頼むぞ」

ダル「……どうしたん? 最近やたらそういう話するけど」

岡部「…………」

話によると、それまでにここに居る俺は死んでしまうらしいのだ。
まあどうでもいい。
シュタインズゲートに辿り着けば、“2025年に俺が死ぬ”という世界の収束もなくなる。
不安を感じる要素なんて、どこにもない。
だから俺はあえて、ダルには“今年中に俺は死ぬ”ということを言わないでおいていた。

岡部「いつだって命懸けなんだ。いつ死ぬかわからない、それは分かってるだろう?」

ダル「……まあ、いつどこぞの軍隊がここを見つけて、突入してくるかも分かんないしね」

第三次世界大戦はタイムマシンの技術を争う形で発生したので、俺たちがこうして独自(一部sernのパクリでもある)のタイムトラベル理論を研究しているのを表に知られるわけにはいかなかった。

岡部「そういうことだ。あらかじめ自分が死んだ後のことは、考えておいたほうがいいぞ」

ダル「俺もカミさんと娘がいるからなぁ……」

それから思い出したように。

ダル「そういや、“バイトの鈴羽って子が実は僕の娘だった”っていうオチにはかなり驚いたよ」

ダル「その話に影響されて、実際に生まれてきた娘に“鈴羽”って名づけちゃったしね。由季も『いい名前だね』とか言ってたから別にいいんだけどさ」

ダルは実際にバイト戦士に会ったことはないが、存在自体は知っている。
俺が数々の世界線の話を説明したからだ。
そのおかげでようやく、“紅莉栖を助けたい”という俺の願いを聞き入れてくれた。

岡部「ふっ、随分と昔の話をするんだな。今何をしている?」

ダル「リフターの調整」

岡部「ああ……、それは特に集中してやってくれ。鈴羽をゼリーマンにはしたくないからな」

ダル「分かってるつーの。じゃあそろそろ切るぜ」

岡部「ああ、じゃあな、頑張れよ」

通話を終了し、ケータイをポケットにしまう。

岡部「……いよいよ、か」

一番の目的は、牧瀬紅莉栖の救出ではあるのだが。

それともう一つ。
忘れてはいけないことがあった。

“1983年の過去を変えること”

15年前のあの手紙は戦火によって焼失してしまったが、内容は未だ忘れていない。

古手梨花。
初めて手紙を読んだ時は、ただ不気味なだけだったと思う。
しかし今では、彼女に深く共感している。

何度も世界を繰り返し、悲惨な運命に立ち向かおうとして、最終的に挫けてしまった。
それはあの時――歩道橋の上で膝を抱えていた俺と全く同じ。

あの時、紅莉栖が俺に声をかけてくれたからこそ、今の俺が存在する。
そう考えると、古手梨花にも声をかけてくれる人物が必要だ。

俺の中にもはや、“古手梨花を見捨てる”という選択肢は無かった。
この俺が、彼女も紅莉栖も必ず救ってみせる。

俺はsernと命懸けの戦いをして、ついにラグナロックを生き抜いた。
そうして真の“時空の支配者”となった俺に、その程度のこと造作もない。

岡部「あの時代にケータイは余り普及してないし、そもそも番号も知らないから、物理的タイムトラベルを敢行することにした」

大きく手を広げ、どこへともなくつぶやく。

岡部「古手梨花。貴様の願いは10年前の俺、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が果たすだろう」

シュタインズゲートにたどり着くには、まだまだ時間がかかりそうだった。

2010年 8月21日 ラジ館の屋上

体感時間ではついさっき。
現実時間では一ヶ月ほど前。

紅莉栖を刺し殺した俺は、溢れる笑いをこらえきれずにいた。

岡部「フ、フフ……! フゥーハハハ!!」

岡部「未来の俺は実に痛いな! 狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だと!?」

……だが俺はそういうの。
嫌いではない。

わざとらしくニヤリと唇の端を歪めると。
大空に両手を突き出して、高らかに宣言した。

岡部「あえてもう一度言おう! 俺は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だ!!」

鈴羽「じゃあ、やってくれるんだね?」

俺はうなずいた。
鈴羽が説明してくれた内容と、未来の俺からのdメール。
かなり掻い摘んでの説明だったが、ミッションを把握するには十分だった。

俺は紅莉栖を助ける前に、タイムマシンに乗って、1983年の6月に飛ぶ。
まずは過去から、世界の歪みを修正していく。
それが未来の俺が出してきた指示だった。

オペレーション未来を司る女神作戦(オペレーション・スクルド)とか、厨二病全開の名前に思わずゾクゾクする。

岡部「それが未来の俺が選んだ――いや、シュタインズゲートの選択だというのなら」

鈴羽「……良かった。燃料はちゃんと往復分積んであるよ。タイムマシンのメンテナンスもばっちり」

なら記憶を失う恐れはないな。
ダルとまゆりに視線をやる。

岡部「いよいよ、あの手紙の主を救出する時が来たようだ」

ダル「あの手紙って、古手梨花さんからの手紙?」

まゆり「あ、そっかー♪ タイムマシンがあれば、過去に戻って梨花さんを助けられるんだねー?」

岡部「そうだ。俺は1983年にタイムトラベルし、雛見沢の運命を変える」

岡部「なに、アトラクタフィールドの特徴はしっかり理解している。俺なら必ず出来るさ」

それは、自身に言い聞かせる言葉でもあった。

きっと雛見沢が滅びるという運命もまた、世界に定められた出来事のはず。
それを変えることなんて、俺に出来るのか?

正直なところ、そんな自信はほとんどなかった。
アトラクタフィールドについて、しっかり理解しているからこそ、“絶対に不可能”だという気持ちがこみ上げてくる。
まゆりを救うのでさえ、紅莉栖を見殺しにすることによって、ようやく実現したことだった。

そんな決断をもし、もう一度迫られたとしたら?

……今度こそ、俺の心は壊れてしまうかもしれない。

湧き上がる不安と恐怖を、唇を噛むことによって必死で抑え込む。

岡部「出来る出来ないじゃない、やるんだ」

もう一度、自分の心に言い聞かせる。
それからパシパシと頬を叩いた。

岡部「すぅ……はぁ……」

数回深呼吸をする。

よし、不安はもう消えた。
いける。

俺はダルとまゆりに背を向け、タイムマシンに歩み寄りながら。

岡部「あとついでに鈴羽も来い。お前の体術はなにかと役に立つかもしれん」

すると鈴羽は、あっさりと頷いた。

鈴羽「当然だよ、おじさんはタイムマシンの操縦できないでしょ?」

岡部「そうだったな」

俺は苦笑した。
鈴羽は朗らかに笑って力こぶを作ると、表情とは裏腹な物騒なことを口にする。

鈴羽「それに“護衛”や“暗殺”なら大得意だから任せといて!」

岡部「……ああ、任せたぞ」

タイムマシンに乗り込み、シートベルトを締める。
鈴羽がスイッチをあれこれ操作すると、ハッチの扉が閉じ始めた。

ダル「健闘を祈るぜぃ!」

ダルがグッと親指を立て。

まゆり「二人共、無事に帰ってきてね! 約束だよー!」

まゆりが大きく手を振った。

鈴羽「行くよ、準備はいい?」

岡部「いつでもいい、覚悟は出来ている」

鈴羽「そっか」

最後に赤いスイッチを深く押し込んだ。

身体中に激しいgを感じながら。

ラボメン二人に見送られて、俺たちは1983年――昭和58年へと旅立った。



今回はここまで
また続きはゆっくりと

ちょい続き


6月1日 雨の中。
私は傘も刺さずに、雨が身体を濡らすのも気にせずに、ひとりで古手神社に来ていた。

梨花「私は、何をしてるのかしら……」

神社の賽銭箱の裏に、書いた手紙を隠してから小さくため息をつく。
私はどうかしてるんだと思う。

未来から誰かが助けに来てくれるなんて、絶対に有り得ないんだから。
そんなカケラは、これまでに一度もなかった。

でも。
そんな“有り得ないこと”に望みを託すしかないほどに。
私の精神はボロボロに磨り減っていたのだ。

羽入「あうあう……」

羽入「梨花、元気を出すのですよ……」

私のそばをフワフワと浮遊していた羽入が、気弱な声をかけてくる。

私はその全く意味のない励ましを、鼻で笑ってやった。

梨花「元気? 出せるわけないでしょ」

羽入「うぅ、どうして……?」

梨花「……考えても見なさい。毎回、悲劇を回避するために頑張って、向けられるのは敵意の視線ばかり」

羽入「圭一や部活の皆が協力してくれたときもあったのです……」

梨花「それで何かが変わった?」

羽入「それは……」

羽入はうつむいて黙ってしまう。

そう、それらはすべて無駄なあがきに終わった。

梨花「運命はそれでも変えられなかった」

梨花「しかも“みんなで運命に抗った”ということ自体、私以外は誰も覚えていないのよ?」

梨花「誰かが“お前を助けてやる”と言ったわ。誰かが“みんなで戦えばきっと勝てるよ”と言ったわ」

梨花「結果はどうだった? 惨敗して、仲間たちも私も無残に死んで、そしてまた次のカケラに移動するだけ」

梨花「前の世界で、仲間たちが私に掛けてくれた優しい言葉は、当の仲間たちの誰も覚えていない」

羽入「…………」

涙が溢れてきて、自嘲気味に笑ってみる。

梨花「私たち、まるで世界から切り離された存在みたい」

羽入「あうぅ……梨花……」

梨花「ずっとひとりぼっち……ずっとずっと……」

それから、目の前に広がる雛見沢の景色をじっと見下ろした。
かつては眩しく輝いていたこの景色も、今や私を捕らえている薄暗い牢獄にしか見えない。

いつか、戻ってくるのだろうか。

あの輝いていた雛見沢が。

未来のことなんて何も気にせず、
毎日バカ騒ぎしていればそれで良かったあの日々が。

強烈な風が吹き、辺りの木々がザワザワと自己主張を始める。
なびく髪を押さえつけながら、私は空を見上げた。

大量の雨粒が顔を濡らし、私の涙と交じり合う。
私が涙を流しているのか、それとも空が涙を流しているのか。
それすらも分からないぐらいに。

灰色の空に手を伸ばし、小さな声でつぶやいた。

梨花「……私たちだけが知っている、未来に待ち受ける運命。決して抗えない惨劇を」

その声は私の耳にも届かない。

梨花「そう――」

梨花「孤独の観測者みたいにね」

ふと。
首筋が、チリチリとした。
またあの“視線”だ。
見られている。何者かに。

――私を、見るな。

思わず振り返った。
目の前には、オヤシロさまの御神体が眠っている本殿。

――この視線は、オヤシロさまのもの?

その問いに、誰かが答えるわけもない。
しかし、確実にその“誰か”は私を見ていて。

梨花「……っ」

身震いがして、ぎゅっと身体を抱きしめた。

――私を、見るな。

もう一度、その誰かに声をかけた。

羽入「あうぅ……」

その言葉に、なぜか羽入が、くすぐったそうに身体をモジモジさせた。

同時に強烈な視線が消えた。
首筋に走っていた、チリチリという痛みも消えた。

いったいなんなのだろうか?

この感覚は、最近になって急に現れ始めた。
今までそんなことなかったのに。

雛見沢症候群のせいだと言われれば、それまでかもしれない。

だけど、“絶対に違う”っていう確信があった。

“そこに必ずあるのに、それがなんなのか、確かめることができない”

未知に対する苛立ちと不安が、私の心をざわつかせていた。


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またゆっくり書いていきます

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月10日 (火) 08:03:12   ID: i37UlHo3

ハルヒ、ひぐらし、シュタゲ・・・これらに共通するもの、そう、廻る廻る・・・・・(SIRENのアマナ風に)。

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