??「ボクの名前は、一式陸上攻撃機」(118)


一式陸攻「乗ってる人からは、一式陸攻って呼ばれてる」

一式陸攻「ボクは開戦当初、大活躍したんだ」

一式陸攻「イギリスの戦艦を沈めたのにも貢献しているんだよ?」

一式陸攻「すっごく低く飛んでね……、それこそ海面に当たりそうなくらいに」

一式陸攻「対空砲火の中、お腹に抱えた魚雷を発射する」

一式陸攻「ボクは、傷だらけになりながらも 何とか任務を成功させた」

一式陸攻「ふふっ、誇らしかったな」


一式陸攻「中国にも行ったっけ」

一式陸攻「あの時は、ちょっと大変だったな」

一式陸攻「ボクは軽くて、それまでの日本の飛行機の中で」

一式陸攻「一番遠くまで飛べる爆撃機だった」

一式陸攻「でも…それゆえに、ボクについて来れる 護衛の戦闘機がいなくてね」

一式陸攻「爆撃に行く度に 何機かの兄弟が撃墜されたんだ……」

一式陸攻「あの時、九六式艦戦くんは、迎撃に出てきたi-15、i-16に」

一式陸攻「勝ってる機体だったから」

一式陸攻「尚の事、悔しかったな」


一式陸攻「だけど、しばらくして 頼もしい戦闘機が来てくれたんだ」

一式陸攻「それは、十二式艦戦くん」

一式陸攻「後で、米軍に『ゼロファイター』と恐れられた」

一式陸攻「零式艦上戦闘機……零戦くん!」

一式陸攻「引き込み脚、風防つき戦闘機で、最初は 怪我ばかりしてて」

一式陸攻「大丈夫かなぁ…なんて思ってた」

一式陸攻「でも、僕たちの護衛に付いてきた時」

一式陸攻「そんな心配は無用だったんだ」


一式陸攻「ある日、いつもの様に爆撃任務で飛んでた時だった」

一式陸攻「向こうから、すごい数のiー15、i-16が飛んできているのが見えた」

一式陸攻「どう見ても零戦くんの倍の数は居た」

一式陸攻「ボクは、ボクも、兄弟も、きっと何機か落とされるって思った」

一式陸攻「それだけに信じられなかった」

一式陸攻「次の瞬間、零戦くんは速度を上げて、敵機に向かって行くと」

一式陸攻「次々とi-15、i-16を落としていった」

一式陸攻「いやホントに」

一式陸攻「零戦くんは とにかく、後ろを取るのが上手かった」

一式陸攻「そして、あっという間に敵機を撃墜していく」

一式陸攻「九六式艦戦くんも上手かったけど、更に磨きがかかったような」

一式陸攻「そんな動きだった……」


一式陸攻「それからの爆撃任務は、楽だった」

一式陸攻「何しろ、迎撃の戦闘機が一切出てこなくなったからね」

一式陸攻「ボクに乗ってる人は、『零戦を怖がってる』って言ってた」

一式陸攻「そりゃそうだよね」

一式陸攻「未知の戦闘機に倍以上の数で挑んで」

一式陸攻「全滅した上に、零戦くんは 損失無しだったんだから」

一式陸攻「ホントに零戦くん様様だったよ」


一式陸攻「それからしばらくして、ボクは中国から南方戦線での」

一式陸攻「任務が多くなった」

一式陸攻「台湾、サイパンを経由してラバウルって所に配属された」

一式陸攻「ここは最前線だった」

一式陸攻「来るのが楽だったから、あんな事になるなんて」

一式陸攻「思いもしなかった……」


一式陸攻「ガダルカナル……」

一式陸攻「地名だから、仕方ないんだけど」

一式陸攻「この名前は、あまり思い出したくない」

一式陸攻「元々は、日本軍が整地して 基地にしようとしてたんだけど」

一式陸攻「それを米軍に奪われた」

一式陸攻「その為、『ガ島奪還作戦』が、繰り広げられる事になった」


一式陸攻「ボクの任務は変わらない」

一式陸攻「敵地に行って爆弾を落とす…つまり爆撃任務だ」

一式陸攻「問題は距離」

一式陸攻「ラバウルから560海里(約1000キロ)もの距離を往復しなくちゃならない」

一式陸攻「それは、とんでもない事だった」

一式陸攻「巡航速度(燃料を効率的に消費かつエンジンに負担のかからない飛行速度)で」

一式陸攻「片道3時間くらい掛かる距離だ」

一式陸攻「ボク達はいい」

一式陸攻「機械だから整備不良が無ければ出来る」

一式陸攻「でも、乗っている人達は そうはいかない」


一式陸攻「特に護衛に来てくれる零戦くんのパイロット達は、かなり深刻だ」

一式陸攻「たった一人で、いつ襲われるか分からない」

一式陸攻「空の中を飛ばなくてはならない」

一式陸攻「そんな緊張状態を7時間近くも続けないといけないのだ」

一式陸攻「……ボクを言いようのない、不安が襲った」

一式陸攻「そうこうしている内に作戦が始まった」


一式陸攻「そういえば、この頃 米軍はいろいろ新しい戦闘機や戦法を使ってた」

一式陸攻「最初は、零戦くんの敵ではなかったはずのグラマンf4fも」

一式陸攻「この頃には すぐ逃げ出して、なかなか倒せなくなってたし」

一式陸攻「新型戦闘機のグラマンf6fやf4uコルセアなんて」

一式陸攻「性能面では 多分、自分より上だ、と零戦くん自身が言ってた」

一式陸攻「……守ってもらってて申し訳ないけど」

一式陸攻「頼りない事、言わないでよ、と思った」


一式陸攻「……ガダルカナルでは、たくさんの兄弟達が散っていった」

一式陸攻「悔しいけどね、ボクは、米軍に”ワンショット・ライター”なんていう」

一式陸攻「不名誉な あだ名をつけられていた」

一式陸攻「一発でも当たれば火を吹くから、らしい」

一式陸攻「……実際そうだから、なんにも言えないけどね」

一式陸攻「そして、あれ程頼もしかった零戦くんも」

一式陸攻「どんどん落とされていった……」

一式陸攻「結局、ガ島奪還作戦は失敗に終わり」

一式陸攻「ラバウル基地の維持すら難しい程、ボク達は疲弊していた」


一式陸攻「正直、ボクも よく生き残れたと思う」

一式陸攻「なにしろ、ガダルカナルに行く度に」

一式陸攻「米軍は どんどん数が増えていったからだ」

一式陸攻「信じられなかった……」

一式陸攻「攻撃しても攻撃しても、全然数が減らない……」

一式陸攻「ホントに恐怖だった……」


一式陸攻「それからボクは、輸送任務が多くなった」

一式陸攻「人も物資もたくさん運んだつもりだったけど」

一式陸攻「なんだか前線では全然足りていない様だった……」

一式陸攻「それから、ご飯(燃料)が不味く(オクタン価が低く)なってきた」

一式陸攻「これでは任務にも張り合いがなくなるけど」

一式陸攻「やるしかなかった……」


一式陸攻「突然、ボクは内地(日本本土)に戻る事になった」

一式陸攻「なんでも、m1作戦?というのが失敗して」

一式陸攻「南方戦線が維持できなくなったらしい」

一式陸攻「一足先に戻ったボクだったけど……」

一式陸攻「ボロボロになった零戦くんに マリアナやサイパンでボロ負けした事を聞いた」

一式陸攻「……信じられなかった」

一式陸攻「いや……」

一式陸攻「信じたくなかった」


一式陸攻「もうダメかな……」

一式陸攻「そう思ったのは」

一式陸攻「零戦くんの話を更に聞いた時だった」



零戦「苦肉の策として、自爆攻撃までしたんだけどな……」



一式陸攻「ボクは、絶句した」

一式陸攻「……それは、神風特攻隊、と呼ばれていた」

一式陸攻「零戦くんの話では、一定の効果はあったらしい」


一式陸攻「でも、たったの一回で飛行機を失う作戦は」

一式陸攻「どう見ても異常だった」

一式陸攻「作戦とも言えない作戦……」

一式陸攻「いずれ……ボクにもお鉢が回ってくるのだろうか?」

一式陸攻「そんな事を考えたな、あの時は……」


一式陸攻「ボクは輸送任務をこなしながら、だんだん内地でも」

一式陸攻「よく敵機を見かけることが、多くなった事に気がついた」

一式陸攻「迎撃に上がる 陸軍機の飛燕くんと鍾馗くん」

一式陸攻「でも、相手の米軍機は とんでもな速度で、すぐ逃げてしまう」

一式陸攻「銀色に輝く 見たこともない新型戦闘機だった」

一式陸攻「ボクは、ただ、怖かった」

一式陸攻「飛燕くんですら追いつけない戦闘機が、内地をウロウロしてるなんて……」

一式陸攻「ボクは、どうやっても逃げ切れない」

一式陸攻「でも、さらに恐ろしいモノをボクは見てしまった……」

一式陸攻「あれは、まさに”化物”と呼ぶのにふさわしい相手だった」


一式陸攻「硫黄島が奪われてから しばらくしての事……」

一式陸攻「ボクはいつもの様に、輸送任務に就いていた」

一式陸攻「ボクに乗っている人の一人が」

一式陸攻「空を、上の方を見上げて『あれはなんだ?』と言った」

一式陸攻「幾筋もの雲を引く 数機の銀色の機体」

一式陸攻「僕の飛べる高度の遥か上を行くそれは」

一式陸攻「雄々しく、悠然と編隊飛行を行っていた……」

一式陸攻「後で迎撃に上がった 飛燕くんに話を聞いてみた」


飛燕「化物だったよ」

飛燕「あいつは……いや、あいつらは、高度1万mの上空で」

飛燕「悠々と飛んでいやがった……」

飛燕「こっちは上がるだけで精一杯だってのに」

飛燕「一撃を加えることすら、出来なかった……」



一式陸攻「……飛燕くんは、エンジンが4つも付いた大型の爆撃機と言っていた」

一式陸攻「後で、それがb-29、という名前だと知った」

一式陸攻「どんどん絶望感だけが増していってたな、この頃は……」


一式陸攻「それからしばらくは、飛行が怖くて仕方なかった」

一式陸攻「b-29の絨毯爆撃は、恐ろしい程激しくなるし」

一式陸攻「それに付いてくる護衛戦闘機のp-51ムスタングが」

一式陸攻「なによりも怖かった……」

一式陸攻「そう、ボクが前に見た 謎の新型戦闘機」

一式陸攻「それだった」

一式陸攻「…………」


一式陸攻「ああ……とうとう出てきたか」

一式陸攻「うっすらと見える黒い点々……」

一式陸攻「多分、グラマンf6fの大群だろうな」

一式陸攻「対してこちらは」

一式陸攻「護衛無しのボク達兄弟が5機だけ……」

一式陸攻「どうして、こんな事になったんだろう?」



一式陸攻「ボクの最後の任務」

一式陸攻「ボクのお腹に抱えられている『桜花』を」

一式陸攻「敵・機動艦隊空母に命中出来る距離まで運ぶ事」

一式陸攻「……………………」


一式陸攻「……………………」

一式陸攻「無理だ」

一式陸攻「『桜花』は重さが2トン近くもあって、ボクが運べる重さの限界ギリギリ」

一式陸攻「そんなんじゃ回避行動すらままならない」

一式陸攻「おまけに護衛戦闘機もなし」

一式陸攻「今、見えているだけでも敵機は40~50機は居る」

一式陸攻「絶対無理だ」

一式陸攻「……ボクの事はいい」

一式陸攻「ボクは戦いの道具として作られたから」

一式陸攻「ボクの代わりは、いくらでも作れるしね」

なんか悲しい結末しか見えない…

(´;ω;)


一式陸攻「でも」

一式陸攻「ボクに乗っている人達は違う」

一式陸攻「代えが効かない」

一式陸攻「…………」

一式陸攻「ううん、そうじゃない」

一式陸攻「この人達に死んで欲しくない」


一式陸攻「機長の山田のおっちゃんは、着陸の後」

一式陸攻「いつも『ありがとう』と言ってボクを撫でてくれる」



一式陸攻「副操縦士の堀田は、ちょっと乱暴な操縦をするけど」

一式陸攻「機体不良の箇所を誰よりも早く見つけてくれる人だ」



一式陸攻「航海士の袴田は、口が悪くてボクを『ポンコツ!』って怒鳴るけど」

一式陸攻「一番最後までボクに残って、ボクの中を丁寧に掃除してくれた」


一式陸攻「爆撃照準をする偵察員の鈴木は、懐に酒がないとイライラして人を殴る奴だけど」

一式陸攻「暇さえあれば照準器を磨いて、仕事は常に完璧に、を心がけていた」



一式陸攻「左右・後方の銃撃士兼整備員の三人は、いつもつるんで悪さをして」

一式陸攻「機長の山田のおっちゃんに怒られていたけど」

一式陸攻「どんな苦境にも めげず、明るくつとめて、機内はいつも賑やかだった」



一式陸攻「そして……みんな家族の話をする時は」

一式陸攻「いつも懐かしそうな、嬉しそうな顔をしていた」


一式陸攻「なのに」

一式陸攻「どうしてみんなは」

一式陸攻「こんな馬鹿げた任務をやろうとするの?」



一式陸攻「山田のおっちゃん」

一式陸攻「この前、二人目の子供がやっと立ったって」

一式陸攻「会いたいって、言ってたじゃないか」



一式陸攻「堀田は悔いはない、とか言ってたけど」

一式陸攻「女物のハンカチを大切に持ってる」

一式陸攻「そうだよ、今、握り締めてるそれだよ」


一式陸攻「袴田もいつもみたく悪態をつかないで、どうして笑顔で」

一式陸攻「ボクにお礼を言うんだよ……やめてくれ、似合ってない」



一式陸攻「鈴木、ボクにお酒なんて、かけないでくれ」

一式陸攻「何が『お前とは、まだ飲んでなかったな……』だよ」

一式陸攻「ボクが、飲めるわけないだろ」



一式陸攻「銃撃士の三人、昨日まで泣くほど 怖がってたじゃないか」

一式陸攻「どうして、今になって そんなに笑えるんだよ」

一式陸攻「どうして、笑顔で『迎撃よーい!』とか言えるんだよ」


一式陸攻「そして……」

一式陸攻「純粋な自爆兵器『桜花』に乗るのは」

一式陸攻「まだ、あどけなさの残る 十代の若者だ」

一式陸攻「彼には、もう迷いは無い様だった」

一式陸攻「……………………」

一式陸攻「ボクは、彼の事は何も知らない」

一式陸攻「何が彼を そうさせるのか……」

一式陸攻「知らないし、知りたいとも思わない」

一式陸攻「ただ、言えるのは」

一式陸攻「死んでいい人間じゃないって事だ」


一式陸攻「…………」

一式陸攻「…………ボクも頑張るよ」

一式陸攻「力の限り飛んで飛んで、飛び続けて」

一式陸攻「みんなの気持ちに答えるよ」

一式陸攻「…………どこまで出来るかは、わからないけどね」

一式陸攻「そうさ…」

一式陸攻「無駄にして、たまるものか」

一式陸攻「みんなの気持ちを、生き様を、これまでを」

一式陸攻「無駄になんてして、たまるか」

一式陸攻「それがボクの、一式陸攻の意地だ」


一式陸攻「……………………」

一式陸攻「でも……」

一式陸攻「願わくば、平和な空を飛んでみたかったな……」

一式陸攻「敵機にも 銃撃にも 対空砲にも 怯えないで」

一式陸攻「この広く、青い空を」

一式陸攻「どこまでも、どこまでも」



一式陸攻「ただ……真っ直ぐに」




       おしまい

乙…(´;ω;`)

戦争は航空機を飛躍的に進化させたけど…

出来る事なら全ての翼に平和な空を自由に飛ばせてやりたい

昨日原爆の日だったし、もうすぐ終戦記念日でもあるので
たまには こんな話でも……と思って書きました。
これだけだと短いので、もう一つお話を続けます。
後、>>1の知識は 広く浅くがモットーなので、いろいろ間違っているかもしれません。
あしからずです。支援してくれた人、ありがとう。


??「俺の名はb-29スーパーフォートレス!」



b-29「まあ、長ったらしいからb-29でもb公でもいいぜ?」

b-29「好きに呼んでくれ!」

b-29「そう、日本人にとって悪名高き、『あの』爆撃機さ!」

b-29「……………………」

b-29「そうさな、どこから話すかな?」

b-29「うん、まず、俺の生まれは、アメリカのカンザスって所だ」

b-29「ステイツは”カンザスの戦い”っていう呼び方をするが」

b-29「短期間で大量生産された内の一機だ」


b-29「俺が実戦配備された頃」

b-29「もう日本は、青息吐息ってやつだった」

b-29「南アジアもマレーシア、フィリピン、台湾、サイパン、パラオを取られて」

b-29「降伏も時間の問題と、兵隊も言っていたな」

b-29「……だが、日本人は”カミカゼ”とか言う」

b-29「爆弾抱えて飛行機ごと突っ込む、自爆攻撃を仕掛けてきた」

b-29「……クレイジーだと、俺に乗ってた機長のボブが言った」

b-29「俺も同感だったね」


b-29「さて、それからしばらく カミカゼに悩まされつつも沖縄、硫黄島を落とし」

b-29「いよいよ俺たちの出番となった」

b-29「俺はまず、サイパンから飛び立った」

b-29「目標は敵の軍需工場」

b-29「……とは言うがな」

b-29「敵機対策とは言え、高度1万m上空から正確に狙えるわけがねえ」

b-29「だからボブ達は、目標と思われるポイントに来たら」

b-29「とりあえず、狙いをつけて爆撃していたよ」


b-29「これは俺が言ったわけじゃないがな」

b-29「日本の軍事生産拠点は、工場等で限るのではなく」

b-29「一般の家も該当している」

b-29「と、もっともらしい 言い訳みたいな事を 理由に挙げている」

b-29「…………」

b-29「誰が言ったと思う?」

b-29「なんと、カーチス・ルメイ将軍様さ!」

b-29「そう!」

b-29「あの、自衛隊設立に一役買ってくれたあの、な!」

b-29「…………」

b-29「皮肉なもんだよな……」


b-29「さて、それからだ」

b-29「日本軍は、俺達にも迎撃の戦闘機を向けてくる」

b-29「まあ、当然だよな」

b-29「…………けどよ」

b-29「高度1万mに上がって来た迎撃機は」

b-29「どれもこれもフラフラ。 ヒイヒイ言ってやがった……」

b-29「それもそのはず」

b-29「なんと過給器を積んでいなかったんだ」

b-29「高高度では空気が薄くなるから、当然燃焼率は下がる」

b-29「それはエンジンのパワーダウンって事だ」

b-29「喧嘩で自分に重りをつけている様な感じかな……」


b-29「だけど、もっと驚く事があった」

b-29「それは、武器を外してまで上がって来ていた事だ」

b-29「機体を出来るだけ軽くしてって発想なんだろうが……」

b-29「生憎と俺様は、b-29”超要塞”(スーパーフォートレス)」

b-29「乗組員の命を守る防弾装備はバッチリだった」

b-29「ゼロファイター(零戦)の武器7,7ミリはもちろん」

b-29「20ミリ弾だって至近距離からでないと貫通させられないくらいの余裕はあった」

b-29「…………」

b-29「ん? それからどうなったのかって?」

b-29「そうだな……、一言で言うなら」

b-29「空でも日本人は”カミカゼ”をして来たんだよ」


b-29「正直に言う」

b-29「あれは、怖かったね……」

b-29「俺に乗っていた搭乗員もみんな」

b-29「『バカげてる!』って言ってたよ……」

b-29「…………」

b-29「…………」

b-29「俺の隣で飛んでた兄弟に、トニー(三式戦”飛燕”の事)がぶつかった」

b-29「そいつは、翼をもがれて きりもみ落下……」

b-29「…………」

b-29「その時だ」

b-29「トニーに乗ってた日本人が、何か叫びながら ぶつかって行った事に」

b-29「俺は気がついた」


b-29「日本人が自爆する時に 何を言っているのか?」

b-29「信じてくれないかも しれないが」

b-29「俺に乗ってた乗組員も気が付いてた奴がいてな」

b-29「俺と同じく、興味を持っていたんだ」

b-29「…………」

b-29「どうせ”バンザイ”だろって誰かが言った」

b-29「サイパンやグァムで、そういう突撃や自決があったと聞いていたから」

b-29「ここもそうだ、と、推測したわけだ」

b-29「…………」


b-29「俺は、いつもの様に爆撃任務についていた」

b-29「日本軍は、日に日に弱くなっていった印象があったな」

b-29「相変わらず高高度からの爆撃で」

b-29「そこに上がってくる迎撃機のトニー(飛燕)やトージョー(鍾馗)は」

b-29「変わらずアップアップしていた」

b-29「そうそう」

b-29「俺の自慢は、防弾性能だけじゃない」

b-29「360度 ほぼ全域をカバー出来る、対空性能も売りだ」

b-29「しかも俺は、過給器のおかげで速度600キロ近く出せる」

b-29「上がるだけで苦労している日本軍にとって」

b-29「接触するだけでも大変だったろう」


b-29「そんな俺達に向かって」

b-29「三機のトニー(飛燕)が、攻撃してきた」

b-29「俺達は、もちろん迎撃する」

b-29「編隊で組んでた兄弟達の対空機銃が、一斉に火を吹いた」

b-29「トニー(飛燕)は、被弾しながらも 三機が三機とも」

b-29「俺達に体当たりをしようとした」

b-29「…………」

b-29「……結局、一機だけ兄弟を地獄に引っ張っていった」

b-29「残りは、ぶつかる直前に撃墜していた」


b-29「そして」

b-29「日本軍のパイロットが、何を言っているのかが、わかった」

b-29「サチコ、キミエ、タロー」

b-29「…………」

b-29「そうさ、何の事はない」

b-29「誰かの名前を叫びながら」

b-29「俺達に向かって来ていたんだ」

b-29「…………」

b-29「乗組員が、それを日本語に詳しい奴に聞いた時」

b-29「俺も含めて静まり返ったよ」


b-29「色んな事を考えた」

b-29「それは、パイロットにとって どんな存在だったのだろうか?」

b-29「恋人? 家族? それとも子供か?」

b-29「…………」

b-29「敵わないと知りつつ、無謀な体当たりをするのは」

b-29「いや……」

b-29「勇敢に立ち向かってくるのは」

b-29「それらを守りたい一心だったのか、と」

b-29「みな、口にしなかったが……理解した瞬間だった」


b-29「だが、これは戦争だ」

b-29「敵に同情していたら、こちらがやられる」

b-29「家族は俺達にだっている」

b-29「…………」

b-29「でも、出来る事なら 早く降伏してくれ、と」

b-29「誰かが、ポツリとつぶやいた」

b-29「…………」

b-29「下っ端が勝手に戦いを 止められない事を知りつつも、な」

b-29「……かく言う俺も、この時まで”ジャップ”呼ばわりしていた」

b-29「これを機に、俺はそれを止めた」


b-29「8月のクソ暑い日だったな」

b-29「護衛にp-51ムスタングが付くようになって」

b-29「高高度攻撃も終了し、低空での爆撃も ほぼやり尽くした頃だった」

b-29「兄弟の一機、『エノラゲイ』が新型爆弾を投下して」

b-29「ひとつの街を灰にしたって聞いた」

b-29「俺はジョークだと思ったね」

b-29「単に俺が、信じたくなかった だけかもしれないが」

b-29「その三日後に、もう一つの街が灰になった」

b-29「…………」

b-29「残念ながら、俺は、その灰になった街を見てしまった」


b-29「………恐ろしくなったね」

b-29「”カミカゼ”とは 全く別のベクトルでな……」

b-29「…………」

b-29「そして」

b-29「あのトニー(飛燕)のパイロットがこれを見たら、と」

b-29「考えずには いられなかった」

b-29「…………」

b-29「それから程なくして、日本は、無条件降伏した」

b-29「それだけは、少し嬉しく思った」


b-29「それからは、輸送任務が主な仕事になったな」

b-29「運んだのは主に人、だが」

b-29「たまにある、食糧支援物資輸送の時、お菓子の箱を見ると」

b-29「嬉しくなったものだね」

b-29「ん? 何が? だって?」

b-29「乗組員が喜んでたからさ」

b-29「日本の子供達が、これで笑ってくれるぞって言ってな!」

b-29「俺は子供たちに会えないが……」

b-29「兵士のそういう話を聞くのが、何よりの楽しみでな」

b-29「戦いのために作られた俺だが」

b-29「そんな俺にも平和に貢献できる仕事が出来る」

b-29「そう考えたら、楽しくてしょうがなかった」


b-29「…………」

b-29「それから、何年後だったかな」

b-29「ん? 5年後?」

b-29「そうか……そんなに後だったか」

b-29「お前さんも知っての通り」

b-29「朝鮮半島で戦争が勃発した」

b-29「…………」

b-29「俺は再び戦場へと駆り出された」


b-29「俺は爆撃任務についた」

b-29「ここでも一方的に攻撃するだけ」

b-29「……俺は憂鬱だったな」

b-29「だが」

b-29「それは俺の勘違いだった」

b-29「…………」

b-29「ある日、俺はいつもの様に爆撃任務についていた」

b-29「そいつは突然現れた」

b-29「聞いた事のない爆音を轟かしてな」


b-29「とんでもない速度だった」

b-29「俺の、俺達の、対空射撃が全然間に合わない」

b-29「護衛のp-51ムスタングも 全く相手にならなかった」

b-29「奴は、この高高度でも問題なく行動し」

b-29「信じられない事に……」

b-29「俺達を どんどん穴だらけに していったんだ」

b-29「撃墜される兄弟もいた」

b-29「自慢の防弾板が、その役割を果たしていなかった……」


b-29「俺は、命からがら基地に戻ると」

b-29「兄弟にそいつの話を聞いた」

b-29「奴は、ミグ-15 と、いうらしい」

b-29「ドイツの技術を元に ソ連が開発した ジェット戦闘機だという」

b-29「おまけに37ミリ、という大口径の機関砲を搭載しているのだ」

b-29「………俺は絶句したね」

b-29「ともあれ、任務には逆らえない」

b-29「俺も 乗組員も 覚悟を決めて出撃した」


b-29「…………」

b-29「…………で」

b-29「その結果が、ご覧の有様さ」

b-29「俺は、タフさが売りだからな。 こんな無様な姿になっても」

b-29「何とか 戻ってくる事ができた」

b-29「……残念ながら、スミスとエディーは守れなかったがな」

b-29「…………」

b-29「これで全てだ」

b-29「長いこと 聞いてくれて、ありがとうな」


b-29「ん? 何でこれで最後みたいな言い方をするのかって?」

b-29「そりゃ最後だからさ」

b-29「俺は、スクラップ処分される事が もう決まっている」

b-29「それに 決して珍しい事でもない」

b-29「俺の前に 何機も解体されているからな」

b-29「…………」

b-29「そんな顔をするな」

b-29「俺は……お前さんの同胞を 大勢殺しているんだぜ?」

b-29「日本風に言えば『因果応報』って奴さ」

b-29「殺しも殺したりってな……」


b-29「でも、な……」

b-29「出来るなら、もう兵器に生まれたくは ないかな」

b-29「使い方次第でって事はあるが」

b-29「戦後、平和的な任務につけた時が、一番楽しかった」

b-29「どんな戦果も」

b-29「どんな破壊よりも」

b-29「どんな勲章よりも」

b-29「価値があったと、俺は思っている」

b-29「…………」

b-29「ん? 何だ? 生まれ変わるなら 何がいいかって?」


b-29「そうだな……」

b-29「…………」

b-29「船がいいかな」

b-29「飛行機は、もうういい」

b-29「船になって、世界中をのんびりと進みたいな」

b-29「もちろん大量の物資を持ってな!」

b-29「そして港に着く度に、子供達にお菓子を配って回りたい」

b-29「お菓子を食べて喜ぶ子供達を見ながら」

b-29「俺も笑いたい」



b-29「そんな世の中になると……いいな」



     おしまい

という事で、これで終わりです。それから、>>1は欧米戦線には詳しくないので
ドイツ兵器は ちょっと無理かなぁ…。
そして、読んでくれた人、支援してくれた人、ありがとう。

再び乙…(´・ω・`)

いつか航空機が人類の夢の為だけに飛ぶ日が来ればいいな…

b-29は、第二次世界大戦で使われた米軍の戦略爆撃機です。
爆撃機とは、爆弾を空から落とす為の飛行機で、
当時、b-29は 世界の爆撃機の中でも群を抜いて性能が高かった。
今みたいに、ミサイルの様な物(厳密にはドイツのv2ロケットがミサイルの原型と言われている)は
無かったのでこんな飛行機が兵器としてありました。
現代にもありますけどね。

ちなみに一式陸攻も爆撃機です。 
桜花は、ロケット推進のミサイル。
人間がそれに乗ってコンピューターの役割を果たしました。
もちろん、搭乗者は間違いなく死にます。

蛇足ですが……戦闘機編も書いてみました。
良かったら暇つぶしにでもどうぞ。


??「俺の名は、p-51ムスタング」



p-51「…………」

p-51「俺は、『正義』という言葉が嫌いだ」

p-51「…………」

p-51「俺の生まれは、少し複雑だ」

p-51「設計はアメリカで行われ、エンジンはイギリスの物を使っている」

p-51「言ってみれば、アメリカ生まれのイギリス育ち」

p-51「と、いう所か」


p-51「俺は、俺が生まれた経緯を聞いた」

p-51「日本、という悪の枢軸国と戦うために 俺は作られた」

p-51「アメリカの『正義』を体現するために」

p-51「そういう話だった……」

p-51「俺の初仕事は 硫黄島、という所からの出撃が最初だった」

p-51「硫黄島から敵国、日本本土に向けて出発し」

p-51「帰ってくる事」

p-51「最初は、偵察程度の任務ばかりだった」


p-51「……それにしても」

p-51「俺は、違和感を感じていた」

p-51「聞いた話では、日本はアメリカに対して」

p-51「卑怯な だまし討ちをし、冷酷で、残忍な戦法を平気で使う」

p-51「悪魔の様な民族だ、と聞いた」

p-51「確かに”カミカゼ”は、そうだろう」

p-51「冷酷で残忍だ」

p-51「…………味方の日本人に対して」


p-51「それからしばらくして、俺は、b-29の護衛に付く任務を受けた」

p-51「数十機のb-29の編隊は、壮観で優美だった」

p-51「俺は、ようやく日本機と戦える事に 喜びを覚えていた」

p-51「……………………」

p-51「…………所がどうだ」

p-51「迎撃に上がってきた日本機は、どれもこれもフラフラ」

p-51「高度一万mに『やっと』上がってきた、という有様だったんだ」

p-51「これが、冷酷で残忍な日本軍……」

p-51「俺は、哀れにすら思ったな」


p-51「だが、奴らの”カミカゼ”は驚異だ」

p-51「仲間のb-29を守るために、集中しなければ……」

p-51「俺は、そう割り切る事にした」

p-51「……………………」

p-51「俺に乗ってたパイロットのマイケルは」

p-51「正直、好きじゃなかった」

p-51「操縦は雑だし、射撃もそんなに上手くない」

p-51「はっきり言って『ハズレ』だと思った」


p-51「だが、こいつの僚機、もう一機の俺の兄弟に乗るパイロットは」

p-51「確かな腕を持っていた」

p-51「名前をタケシ・ギルバート、と言う」

p-51「皮肉にも戦っている相手の血を引く、日系人だった」

p-51「……腕だけで言えば、マイケルなんぞ相手にもならない」

p-51「タケシの操縦技術は、優れたものだった」


p-51「…………」

p-51「ある日、上官であるマイケルに タケシは強く責められていた」

p-51「理由なんてモノはない」

p-51「ただ、タケシが気に入らない、それだけだ」

p-51「だが……」

p-51「いつもは、大人しいタケシが珍しく怒った」

p-51「あれは、俺も驚いたな」


p-51「マイケルはタケシを”ジャップモドキ”と罵った」

p-51「するとタケシは」



タケシ「俺はアメリカ人だ! アメリカに忠誠を誓い、いつでもアメリカの為に死ぬ覚悟がある!」



p-51「……………………」

p-51「俺はつくづく、くじ運がない、と思ったな」


p-51「それからも俺は、b-29の護衛として頑張っていた」

p-51「そして、日本の迎撃が だいぶ少なくなって来たので」

p-51「高高度から低空での爆撃を行う作戦に 切り替わっていた」

p-51「日本のパイロットは優秀な奴ほど、先に死んでいる」

p-51「低空といえども、大した迎撃は出来ないだろう、との事だった」

p-51「……実際、そんな感じだった」

p-51「かつて、アメリカを悩ませたはずのジーク(零戦)も」

p-51「低空では 気をつけろ、と言われたジャック(雷電)と ジョージ(紫電改)も」

p-51「パイロットの技量も数も」

p-51「本当に大した事が無かった」


p-51「もちろん たまに、ベテランが乗った機体もいる」

p-51「だが、そういう奴に対して 大抵、数で圧倒する戦法を取るので」

p-51「ほとんどが何も出来ずに撃墜されるか」

p-51「命からがら逃げるか、のどちらか、だった」

p-51「……………………」

p-51「そして、情けない事に」

p-51「俺に乗るマイケルは、あれだけチャンスが有りながら」

p-51「撃墜数は、たったの三機だ」

p-51「それも内一機は、タケシのスコアを横取りしている」

p-51「…………ため息しか出ない」


p-51「……………………」

p-51「やがて、日本本土もおおむね制空権を握り」

p-51「日本機の迎撃自体も下火になったな……」

p-51「俺達は、哨戒任務をする事が多くなった」

p-51「それでも、たまに日本機を見かけては、攻撃していたが」

p-51「時々、ベテランが素人のフリをしていて」

p-51「危ない時もあった」

p-51「マイケルの奴は、その度にタケシに救われていたよ」


p-51「……………………」

p-51「そして、あの事件が起こった」

p-51「……………………」

p-51「ある日、俺達は いつも通り哨戒任務に就いていた」

p-51「日本機は、もうほとんど見かけなくなり」

p-51「マイケルは、遊覧飛行と変わらねぇ とか、ほざいてたな」

p-51「するとマイケルは、とんでもない事を言い出した」



マイケル「暇つぶしに ジャップでも殺すか!」



p-51「……俺は一瞬、マイケルが何を言っているのか、わからなかった」


p-51「奴は、そう言うと急降下しだした」

p-51「どんどん地面が近づき、畑仕事をする日本人が 数人見えた」

p-51「……………………」

p-51「俺は…………」

p-51「何も…………出来なかった…………」

p-51「……………………」

p-51「本来は、金属製の戦闘機に向けるハズの機銃を」

p-51「日本人に……」

p-51「……………………」


p-51「……僚機のタケシが、無線で再三止めるよう言ってきた」

p-51「マイケルは、それを無視し続ける」

p-51「そして」

p-51「何度目かの攻撃の時だった……」

p-51「タケシの機が、俺達の前に割り込んだ」

p-51「奴は、身を挺してマイケルの邪魔をした」

p-51「…………」

p-51「…………だが」

p-51「…………次の瞬間」

p-51「タケシの機は、燃えていた」


p-51「…………」

p-51「…………そうさ」

p-51「マイケルに銃撃されたんだ」

p-51「……………………」

p-51「…………タケシは、脱出する間もなく爆散していった」

p-51「……………………」

p-51「マイケルは、上には日本機と遭遇し」

p-51「タケシは撃墜され、自分は、その日本機を何とか撃墜した」

p-51「と報告した」

p-51「……………………」

p-51「俺は心底、こいつが嫌いになった」


p-51「タケシは、日本人を守ったんじゃない」

p-51「アメリカを」

p-51「アメリカの正義を」

p-51「守りたかったんだ!」

p-51「武器を持たない民間人を攻撃するなんて……」

p-51「そんなものが、正義であってたまるか!」

p-51「俺の信じる正義であって、たまるものか!」

p-51「はあ……はあ……」

p-51「……………………」

p-51「……………………」


p-51「それからは……もうどうでも良くなったな」

p-51「新しくきた僚機のパイロットは」

p-51「マイケルと気があっている様だった」

p-51「……………………」

p-51「二機で仲良く」

p-51「”ジャップ狩り”を行っていた」

p-51「……………………」

p-51「…………クズ共め、と俺は思った」


p-51「そして」

p-51「日本に原子爆弾が落とされた」

p-51「……………………」

p-51「あの灰になった街を見て」

p-51「俺は、そこで始めて 気が付いてしまった」

p-51「日本人を冷酷で残忍と言っていた、俺たちの方が」

p-51「よっぽど冷酷で残忍な『悪魔』じゃないのか?」

p-51「ってな……」


p-51「…………フッ」

p-51「クククッ……」

p-51「……聞こえてきたな」

p-51「この、つんざく様な爆音」

p-51「マイケルよ、気分はどうだ?」

p-51「お前は、朝鮮半島でも 楽な人殺しが出来るって」

p-51「息巻いて志願したっけな……」

p-51「所がどうだ、このミグ-15ってジェット戦闘機」

p-51「恐ろしい程の速度と 37ミリという大口径の機銃を装備していやがる」

p-51「完全に当てが外れたな?」


p-51「今、護衛している、b-29の防弾板を貫通する様な代物だ……」

p-51「奴の機銃弾を食らったら、恐らく一撃であの世行きだろう」

p-51「おまけに」

p-51「怖いからって逃げ出したら」

p-51「敵前逃亡罪に問われる」

p-51「これだけ味方がいたら、ごまかす事も出来無い」

p-51「クククッ…………」

p-51「さあ、戦え、マイケル」

p-51「……あの時」

p-51「絶対に勝ち目が無いと知りつつも 勇敢に立ち向かって来た」

p-51「日本機のパイロット達の様に」


p-51「俺も運がなかったと思って」

p-51「地獄の底まで お前に付き合ってやる」

p-51「そして」

p-51「これこそが」



p-51「俺の………『正義』だ!」



     おしまい


??「俺の名は、零式艦上戦闘機」



零戦「……ゴホッ……ゴホッ」

零戦「……………………」

零戦「俺とお前が出会ったのは」

零戦「南方の前線基地、ラバウルだったな……」

零戦「ふふ、俺の兄貴達が 中国で勝利を収めた後」

零戦「俺達、零戦は……」

零戦「向かう所 敵無しだった」


零戦「いろんな戦闘機と戦ってきた」

零戦「真珠湾攻撃の後、主に米軍の戦闘機と戦う事が多かったな……」

零戦「『ビア樽』って呼んでた、f2aバッファロー」

零戦「不格好だが、打たれ強いグラマンf4f」

零戦「アメリカ陸軍機のp-36、p-39、p-40……」

零戦「そうそう」

零戦「あの有名な、イギリスの スピットファイアにも勝ったっけな」

零戦「……………………」

零戦「その後くらいだったな……俺達が出会ったのは」


零戦「お前は、まだまだケツの青いヒヨっ子で……」

零戦「先輩の零戦乗りに 付いて行くのが、やっとだった」

零戦「……ゴホッ……ゴホッ」

零戦「……本当に凄い男達だったな」

零戦「ああ、そうだ」

零戦「その中でも とびきり凄い奴が居たな」

零戦「坂井三郎」

零戦「西沢広義」

零戦「太田敏夫」


零戦「あれは……、最前線のラエだったな」

零戦「後に、”大空のサムライ”と呼ばれた坂井三郎達は」

零戦「一つの戦いを済ませた後」

零戦「米軍の前線基地、上空で……」

零戦「三機で、見事な編隊宙返りをしてみせた!」

零戦「ハハハハッ……」

零戦「あれは愉快だったな」

零戦「敵は、一発の対空砲も打たずに」

零戦「それを見ていたって言うんだから……」


零戦「それも、わざわざラエに 見事な宙返りだったと」

零戦「お礼の通信筒まで投下していくし……」

零戦「相当、綺麗な宙返りだったんだろう」

零戦「……もっとも」

零戦「それで事がバレて、坂井三郎達は」

零戦「大目玉を食らっていたがな……」

零戦「ハハハッ……」

零戦「…………」

零戦「……充実していたよな、あの時は」


零戦「……ゴホッ……ゴホッ」

零戦「…………その後は」

零戦「ミッドウェーで空母を4隻も沈められ」

零戦「ガダルカナルでは、多くの仲間達が」

零戦「散っていったな……」

零戦「…………」

零戦「そして」

零戦「敵は、どんどん新型戦闘機を投入してきた」

零戦「グラマンf6fに f4uコルセア」

零戦「奴らは……手ごわかったな……」


零戦「おまけに、常に俺達より上空から襲ってきて」

零戦「一撃加えて、そのまま去っていく……」

零戦「一撃離脱戦法には、相当手を焼いたな」

零戦「高速で急降下していく奴らに 俺達零戦は、ついて行く事が出来無い」

零戦「構造的に、急降下による加速に、機体が耐えられないからだ……」

零戦「それから右旋回」

零戦「いつからだったか……」

零戦「奴らは、後ろを取られそうになると、高速右旋回で逃げる様になった」

零戦「これも俺達は、構造的に左より右旋回の方が落ちるため」

零戦「追いかけるのが難しくなった」

零戦「…………俺達の弱点を知っているかの様な動きで」

零戦「俺達の得意な巴戦(互の後ろを取り合う戦い方)が」

零戦「出来なくなっていた……」


零戦「……結局」

零戦「南方戦線は、維持できなくなり」

零戦「その後、マリアナ沖で戦う事になった」

零戦「……ゴホッ……ゴホッ」

零戦「…………」

零戦「…………あれは」

零戦「…………酷かったな」


零戦「元々、飛行機は」

零戦「離陸よりも 着陸の方が難しいが」

零戦「空母のそれは、100倍難しくなる」

零戦「けど……」

零戦「半数近くが離艦がやっとの状態で」

零戦「戦いを仕掛けるなんてな……」

零戦「いくら考えても……どうかしてる」


零戦「あの戦いで特に、攻撃機である」

零戦「天山艦攻や 彗星艦爆は」

零戦「壊滅的な被害を被った」

零戦「…………」

零戦「護衛についてた俺達も 相当被害が出たっけ……」

零戦「…………」

零戦「それも、味方空母三隻の内」

零戦「二隻を米軍潜水艦に沈められるという」

零戦「おまけ付きだ……」

零戦「今にして思えば、よく生き残れたもんだな、俺達」

零戦「……ゴホッ……ゴホッ」


零戦「そして、あれが始まった」

零戦「…………」

零戦「神風特攻隊……」

零戦「…………」

零戦「……ゴホッ……ゴホッ」

零戦「…………」

零戦「俺もお前も、愕然としたよな」

零戦「…………」

零戦「結局、一定の効果はあったが」

零戦「米軍の足を止める事は 出来なかった……」


零戦「俺達は内地(日本本土)に戻って、迎撃任務についたな」

零戦「だが、そこでも米軍は手を緩めなかった」

零戦「新型機のp-47サンダーボルト、p-51ムスタング」

零戦「両方共、速度も武装も強力な上に」

零戦「旋回性能も俺と渡り合えるくらいだった……」

零戦「まあ、それでもお前は、p-51ムスタングを一機撃墜したっけ」

零戦「フフフッ……」

零戦「いつの間にか、お前も一流の腕を持っていたんだな」

零戦「俺は嬉しかったよ……」


零戦「そして、b-29……」

零戦「高度一万mの高空で、そこを悠然と飛ぶ あいつらは」

零戦「まさに化物だったな……」

零戦「俺は、上がるだけで精一杯だっていうのに……」

零戦「そういやこの頃か……」

零戦「六三型なんていう」

零戦「爆弾を半埋め込みにする、特攻専用の零戦が作られたのは……」

零戦「俺も悲しくなったな……」

零戦「生まれてすぐ自爆させられる」

零戦「兄弟を見るのは……」


零戦「…………ぐっ!?」

零戦「……ゲホッ!……ガホッ!」

零戦「はあ……はあ……」

零戦「す、すまねえ……な」

零戦「へっ……いやなに」

零戦「わかっていたんだよ……こうなるって」

零戦「お前が、教練任務についた時から、な……」

零戦「……ゲハッ……ゴヘッ!」

零戦「……はあ……はあ」


零戦「田中と大池は、音楽が好きだったよな……」

零戦「あいつらの笛とトランペットには、随分癒されたものだった……」



零戦「立花と平沢、佐藤は、料理が上手かったな」

零戦「有り合わせの材料で、料理長が舌を巻くほど 旨い料理を作ってたのには」

零戦「お前も驚いていたよな……」



零戦「黒田に新田は、何を考えているのか わからなかったけど……」

零戦「家族の写真を いつも肌身離さず持っていた」



零戦「小野田に前田は、普段からボケとツッコミをする漫才師の様な奴で」

零戦「よく、場を和ませてくれたよな……」


零戦「そんなあいつらを……」

零戦「一緒に釜の飯を食いながら育てた、あいつらを」

零戦「わずか3週間で、まだ真っ直ぐ飛ぶ事しか出来ない様な ヒヨっ子を特攻させて」

零戦「それに群がるグラマンf6fの大群に……」

零戦「一機……また一機と殺られるのを」

零戦「黙って見ていられないよな……!」

零戦「特攻の戦果確認 任務なんて、糞くらえだ」

零戦「後の事なんて考えていなかったよな? お前は……」

零戦「……ゲハッ!……ゲアッ!!」

零戦「…………くっ」


零戦「……いや、責めちゃいねぇよ」

零戦「俺だって、気持ちは一緒さ……」

零戦「ちいっとばかし……穴だらけに され過ぎだがな……フフッ」

零戦「…………」

零戦「……ほら……見えてきたぜ」

零戦「あいつらが、命をかけて守った」

零戦「日本だ……」

零戦「へへっ……綺麗だよな、俺達の国は……」


零戦「…………ぐっ!?」

零戦「……ゲハッ!……ゴハッ!!」

零戦「……はあ……はあ」

零戦「……クソ……オイルか…?」

零戦「…心配するな」

零戦「ココまでくりゃ、この速度でも後、20分ってとこさ」

零戦「充分持つ……」

零戦「お前こそ、しっかりしろよ?」

零戦「腕に二発食らって、片手で操縦だからな……」

零戦「大池と前田が、戦艦と駆逐艦に しっかり当たった事を伝えなきゃ……」


零戦「……そういや」

零戦「先に出てきた坂井三郎は、片目にガラス片が刺さりながらも……」

零戦「ガダルカナルから ラバウルに、4時間かけて戻ってきたよな……」

零戦「何? あんな鬼才と一緒にするな?」

零戦「ハハッ……ちげぇねぇ……」

零戦「…………」

零戦「でも…よ、坂井三郎も…お前と同じ……人間で、日本人だ……」

零戦「あいつに出来て、お、お前に…出来ない事は…ないさ……」

零戦「もっと自信を持て……。 俺が……保証してやる……」


零戦「……グハッ!……ガッ…!」

零戦「………グウッ…!」

零戦「…………」

零戦「俺は、よ……幸せだったぜ……」

零戦「この国に生まれて……お前に出会えて……」

零戦「お前と共に飛べて……お前と共に戦えた事を……」

零戦「こころ、から、誇りに…思う……」

零戦「楽し、かった…ぜ……」


零戦「…………ん?」

零戦「……………………」

零戦「フフッ……そう……だな」

零戦「……かなう…ならば…………」

零戦「へ、平和、って奴を…………味わいたい、な」

零戦「……………………」

零戦「……………そ…そして」

零戦「平和に、なった……空でも……」



零戦「お前と……飛べたら…いい…な……」



     おしまい

お粗末さまでした。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年06月12日 (日) 23:37:05   ID: zclO-2rl

泣いた

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