【艦これ】整備兵「鎮守府で働け?」提督「そうだ」 (1000)

・オリキャラ主人公

・キャラ口調崩壊の可能性有り

・半端な知識及び乏しい構成力による艤装、工廠、妖精等についての妄想独自設定有り

・ほのぼの7割シリアル3割

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428133858

【夕刻】
【整備兵宅】

整備兵「……」

提督「……」

ミーンミンミンミンミン

ジジジジジジジジ

整備兵「あのなぁ……栄えある海軍大学校首席卒業組の提督様と違って、俺は工作学校出だぞ?艦隊の指揮なんかできるか。暑さで頭でもやられたのか?」ウチワパタパタ

提督「いや、そういう意味じゃない。うちの鎮守府の工廠で働かないかってことだ」パタパタ

整備兵「そりゃどうしてまた……。聞いた話だと、今の海軍の主力――艦娘――の艤装や兵器は妖精とやらにしか扱えないから、人間の工員はもう必要無いそうじゃないか」

提督「そうだな。お前が軍から暇を出されて、日雇いで食いつなぎながらこんなボロ家でくすぶっているのもそのせいだ」

整備兵「ボロ家は余計だ」

提督「でもこの辺りの柱とかもう明らかに腐ってきてるし」ツンツン

柱「」ミシッ

整備兵「おいやめろ。こんな常識外れの格安物件、なかなか無いんだからな……」

提督「ボロさも常識外れだったな」

整備兵「黙っとけ……とにかくここを失ったら俺はもう生きていけないんだよ」

提督「そこで、この状況を何とかしてやりたい十数年来の親友からさっきの提案だ。うちの鎮守府に来れば、それだけで三食風呂付きの8畳間が手に入る。今ならもれなく布団も付いてくるぞ」

整備兵「な、に……?」

整備兵(三食、だと?俺なんてここ最近は一日二食もザラだぞ……。しかも、8畳間……!この家は2畳一間だから、単純計算で4倍……。その上、風呂に、布団……最後に見たのは工作学校にいた頃か……)

提督「悪い条件じゃないだろう?」

整備兵「ああ……」

整備兵(悪いどころか魅力的でしかない)

整備兵「……で、仕事は何だ?整備は全て妖精がやるんだろ?」

提督「もちろんだ。だが特別な職務がある」

整備兵「特別な、ね……」

提督「整備兵、お前には、その整備の知識と経験を使って妖精の整備技術の謎を探ってほしい」

整備兵「……?」

提督「確かお前、妖精が見えたよな?」

整備兵「ああ……高校の終わり頃にやった何ちゃら適性検査とかいうやつの話か。確かに見えたぞ。工具を抱えた小さい人形みたいなのが動き回ってて、そのときは本当に驚いた」

提督「知ってるだろうが、妖精が見える人間はかなり珍しい。その上、そういう人間は皆揃ってその力を生かし艦隊指揮官を目指す。お前みたいな、三度の飯より機械いじりが好きな物好きくらいしか工作学校には行かない」

整備兵「まあ、当然そうなるな」

提督「するとどうなるか?」

整備兵「何か問題があるのか」

提督「大ありだ。妖精と接触でき、かつ兵装について調査できる技術者が全く現れない」

整備兵「……分かってきたような気がする」

提督「もちろん、今は戦時下だ。なるべく多くの指揮官を育て、なるべく多くの艦隊を作る……すなわち戦力の増強が最優先だということは俺も分かっている。だが事実、今のところ、軍は妖精に装備を作ってもらう方法は知っていても、妖精がどうやって装備を作っているのかは全く明らかにできていない……というより、明らかにするためにリソースを割こうとしていない」

整備兵「原理の分からない技術をいつまでも使い続けるのは、得策とは言えないってことか」

提督「その通り。この調査は、間違いなく深海棲艦との戦いに役立つはずだ」

整備兵「しかし、どうして俺なんだ?俺は艦娘についてはずぶの素人だぞ。何やら、大戦期の艦艇の魂と装備を持った者たちだとは聞いたことがあるが……」

提督「それに関しては……まあ実際に姿を見て話してみれば、すぐに大体のことはつかめるはずだ。どうせ、まだ分かっていることも少ない。それに、お前は工作学校時代も『近代兵器学』の成績はトップだったからな」

整備兵(『近代兵器学』、か……懐かしいな)

整備兵「……まあな。もともと、子供の頃から昔の軍艦とかには興味があったんだ」

提督「調査の中では恐らく、既存の兵器と艦娘の艤装の違いも重要になるはずだから、そのことも含めて整備兵は向いていると俺は考えている」

整備兵「そうか……だが何か悪いな。お前に頼りっきりになるようで」

提督「……まあ、さっきまでの話は半分本音で半分建前だ。うち程度の規模の鎮守府なら、赤レンガに打診すれば案外人を寄越してくれたりするかもしれない。だが、俺は昔からお前の知識には舌を巻かされてきた。折角できる奴が身近にいるんだ。頼んでみたくもなる」

整備兵「……」

提督「だから今回のところはお節介を許せ。当然、仕事内容は前人未到の空前絶後。とんでもなくキツいだろうから覚悟は要るぞ?」

整備兵「……」

提督「……」

整備兵「……分かった。その仕事、引き受けさせてくれ。失望はさせない…た、多分」

提督「よし。……ちゃんと録れたか?」

??「ばっちりですヨ!ご主人さま!」ドアバァン

家「」ミシミシッ

整備兵「へ?ご主人さま?てかその女の子誰な」

提督「おっと、うっかり言い忘れていたが出発は今すぐだ。鎮守府を空ける時間はなるべく減らしたいからな。ん?何だ?言質は取ったから、今さら怖気付いてももう遅いぞ?」ニヤリ

整備兵「」

提督「俺の車が道の反対側に停めてある。さっさと乗り込むぞ」

??「ほいさっさ~♪」

整備兵「そ、その前に荷物を……」

提督「荷物なんて、そもそもそこに置いてあるダンボール箱一つしかないだろ。よっと……ちゃんと鍋も財布も入ってるな。ん?奥に何やら桃色の画集が……」ガサガサ

??「……」チラッ

??「……!///」メソラシ

整備兵「やめろぉ!」

提督「何だ。思ったより元気そうじゃないか」

整備兵(流石に最近は常時疲れ切っててご無沙汰です)

??「」ジトー

整備兵(そしてなぜ、こっちのドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきた見も知らない女の子には軽蔑の目で見られる羽目に……)

整備兵「ええっと、ごめん。あー、君は……」

??「……ふんっ」プイッ

整備兵(傷つくわ……)

提督「それじゃ行くぞ。……ああ、大家さん。急ですみませんが、こいつ、今日で出て行きますので。はい?理由ですか?自分探しの旅とか何とか。いやあ困った奴ですね本当に。で、これが今月分の……って、整備兵、財布の中身ほとんど空っぽじゃねえか。家賃の支払いだけでギリギリだぞ」

整備兵「……むしろその状態で一度も滞納しなかったことを褒めてくれ」

提督「おーすごいなー俺だったら多分無理だわーまー俺はそもそもそーならないけどー」

整備兵「うわーい。やっぱり提督はすごいなー」

整備兵(今すぐスパナで背後から一撃ってのもアリだな)

提督「はい、ちょうどですね……よし、これで後顧の憂いはすっぱり断てたな。整備兵、出発だ」キリッ

整備兵「……あいよ、了解」ヨッコイショ

整備兵(……だが、わざわざ任された仕事だ)

整備兵(頑張らなければ)グッ



バタン

ブロロロロ……

【暮(くれ)鎮守府前】

提督「着いたぞ」

整備兵「ん……まずい、すっかり眠り込んでしまった……。しかし長旅だったな。空が真っ暗だ」

整備兵(しかし、提督の奴……)

鎮守府「」デーン

整備兵「エリートだとは思っていたが、まさか天下の暮鎮守府の司令長官とは……」

提督「ちなみに、史上最年少での就任とのことだ」

整備兵「ひょっとして、提督って凄い奴なのか?」

提督「ひょっとしなくとも、だ」シレッ

整備兵「その無駄に落ち着きに溢れたドヤ顔はひた隠しにした方が良いぞ。キャリアに響く」

提督「善処しよう……さてと、もう真夜中近い。艦娘たちも皆、もう今頃は休んでいるはずだ。今日は、とりあえず部屋を渡すからゆっくりしておけ。明日の朝一番、俺の執務室で仕事始めの朝礼としよう」

整備兵「分かった。相変わらず万事手際が良くて助かる」

提督「褒めても明日の朝食のデザートしか出ないぞ」

整備兵「俺、これからは毎晩お前を讃えてから寝ることにするよ……ん?」

??「すぅ……すぅ……」

整備兵(こっちの、名前が分からない女の子も俺と同じく寝ていたようだ……というか、今現在も寝ている)

整備兵(ピンク色の髪を太めのツインテールにしているのが特徴的だ)

提督「どうした?忠告しておくが、手を出したらその場で名誉の戦死だぞ」スッ

整備兵「んなことするか。こんな所で軍刀に手を掛けるな……で、この子は誰なんだ?まさか、実はお前の方こそ誘拐犯」

提督「」アァン?

整備兵「……も、もちろん最初から気付いていたさ。この子が……艦娘」

提督「なかなか察しが良いな」シラジラ

提督「特Ⅱ型駆逐艦9番艦、漣。今のところ、俺の秘書役……いわゆる秘書"艦"の役職をやってもらっている」

整備兵「こんなに小さい子がか」

提督「一応、俺の着任と同時にここに配属された最古参だからな。鎮守府や事務仕事についての知識なら右に出る者はいない」

整備兵「ほー。あ、それはそうと、気になってたんだが……」

提督「何だ?」

整備兵「ご主人さま呼びがタイプなのか?」

提督「ぶっ」

整備兵「司令官の権限を悪用していたいけな少女にメイドごっこを強要か……」

提督「強要なんてするか!……これは漣が勝手にやっているだけだ」

整備兵「嘘つけ……」

提督「嘘じゃない!こ、こいつはな、よく風変わりな言動で人を惑わす。だがな、ほ、本当はちゃんとお話ししたいと思っている。そういう艦娘だ」

整備兵「そんなに力説されても」

提督「とにかくそういうことだ。……分かったら早く行くぞ」スタスタ

整備兵「ちょっ、待て!俺はともかく、自分の秘書艦を置いて行くなよ……」

ドーン

整備兵「……ば、爆発!?基地の方からじゃないか……!?」

提督「深海棲艦……?いや、哨戒は常時行っている。もしそうならば……」

<ケイジュンヨウカンセンダイ!カレイニヤセンニトツニュウ!

<コンヤハオールナイトナカチャン!

提督「」

整備兵「……艦娘たちは皆もう休んでいるんじゃなかったのか?」

提督「くそ、あいつら……さては俺の留守を聞きつけたな……」

漣「んぅ、うるさい……」モゾモゾ

提督「お。漣、ちょうど良いときに起きたな」

漣「( ゚д゚)ハッ」

漣「すみませんご主人さま!漣、眠っていました!」

提督「いや、それは構わない。ただ、起きた途端で悪いが早速仕事だ」

漣「何でしょう?」キョトン

提督「……俺の不在を良いことに暴れているバカどもを狩る」

<ヨーイ!テー!

<キャーカオハヤメテー

漣「……今日という今日は、徹底的にやりましょう」

提督「ああ」

整備兵「……一体どうしたんだ?」

提督「すまんが、俺たちは野暮用ができた。この地図の通りに進めばお前の部屋だ。明日の詳しい予定もここに書いてある。お前の荷物も明日部屋に届くように手配しておく」パサッ

整備兵「お、おう……」

提督「よし、早く行け。勝手に他の建物に入ったりするなよ。……漣、行くぞ」ダッ

整備兵「えっ、おい!?」

漣「合点承知!」ダッ

整備兵「……何だか訳が分からないうちに置いて行かれた」ポツーン

提督「港の街路灯を片っ端から点けろ。奴らを照らし出せ」

漣「ほいさっ!」ポチッポチッ

提督「マイクスイッチオン」

漣「はいよっ!」ポチッ

提督「――あー、第一埠頭付近の艦娘2名に告ぐ。無許可での演習は禁止されている。繰り返す。無許可での演習は禁止されている」

<ゲッ!テイトクッ!

<ソンナコトイワレテモナカチャンハロセ

提督「……投降の意思は無しか」

漣「こんな時のための原稿がここに……ありました!」

漣「えー、一、今カラデモ遅クナイカラ宿舎ヘ帰レ。二、抵抗スル者ハ全部逆賊デアルカラ解体スル。三、オ前達ノ神通ハ国賊トナルノデ泣イテオルゾ。以上、艦隊司令部ヨリ」

<ウワーニゲロー!

<ナカチャンスマイルカラノーナカチャンダッシュ!

提督「逃がさんぞ……俺はしつこいからな」ダダッ

漣「漣のセリフを取らないでください!」ダダッ

整備兵「だ、大丈夫なのか、この鎮守府……」

整備兵「……仕方ない。もう何も考えず部屋に行こう……」トボトボ

【整備兵の部屋】

整備兵「ふー……ここか」パタン

部屋「」ヒッローイ

整備兵「これが8畳の威力……何てことだ……」

整備兵「窓にはちゃんと割れてないガラスがはまってる上、壁にもひびや穴は無く扉の立て付けも良好……これに慣れたら外じゃ暮らせなくなりそうだ」

整備兵「お、布団もあるじゃないか!こちとらこれだけが楽しみで……ん?奥にも扉があるな」ガチャ

整備兵「トイレか。一人で使えるなんて、贅沢なもんだ……」パタン

整備兵「でもって、こっちには本棚か。何冊か本が入ってるな……」

海軍省監修建造開発最新レシピ集「」ドン

改訂版装備品目録~見分け方から活用法まで~「」ドドン

海軍艦艇型録第一巻 駆逐艦の歴史と型式「」ドドドン

整備兵「このぐらいの基礎知識、さっさと読んで頭に叩き込めってことか」

整備兵「……」ペラリ

整備兵「…………」

整備兵「………………」ペラリ

整備兵(確かに、状況は大体提督の言った通りみたいだ)

整備兵(妖精たちに資材を与えると、妖精にしか扱えない道具を用いて艤装や装備を作ってくれる……与える資材の量をいわゆる『レシピ』通りに調整すればある程度は出来上がるものを固定できるが、作っている過程は大部分が不明)ペラリ

整備兵(艦娘や装備の種類・性能はそこそこ記録がある一方で、その仕組みについての解説はほぼ皆無……)

整備兵(艦艇型録は……大体、知ってることしか書いてないな)

整備兵「さて、次は……」

……ペラリ…………ペラリ………………


【港・埠頭】

提督「……申し開きは有るか?」

??「だって提督がいつも夜戦させてくれないからー!」

??「アイドルを縛り上げるなんてヒドイよー!」

提督「……」

漣「全く反省してませんね」

提督「……二人共、朝までその場で謹慎処分とする。朝食の時間には解放してやろう」

??「そんなー!」

??「鬼ー!」

提督「帰るぞ、漣」スタスタ

漣「はい、ご主人さま」スタスタ

【執務室】

提督「では、遅くなったが今日の執務はこれで終わりだ。明日に備えてゆっくり休め。それと……」

漣「何ですかご主人さま?」

提督「……ああ、いや、何でもない。自分でできることだ」

漣「それなら良いですけど、ご主人さまも早く休んでくださいね」

提督「問題無い、すぐに終わる……下がって良いぞ」

漣「はいっ!」

パタン

提督「……」スッ

提督「……」ピッピッピッ

提督「――こちら提督執務室。夜間警備ご苦労。すまないが、今夜は第一埠頭付近を重点的に哨戒してくれ。水偵の巡回ルートも、200mほど港側に寄せてもらえると――」

提督「……助かる。何かあればいつでも連絡するように」チンッ

提督(湾入口の機雷敷設はこの前済ませた……その上、いざとなれば持っていた主砲で自衛もできるだろう)

提督(危険は無いな)

漣「……」トビラノソト

漣「( ・∀・)ニヤニヤ」

提督「……ふう、茶でも飲んで寝るか」ポツリ

漣「お淹れしますよ!」ガチャッ

提督「っ!……何だ漣、まだ起きていたのか?」

漣「車で寝ていたのであんまり眠くないんです」

提督「まあそれなら、淹れてくれるに越したことは無いが……」

漣「了解しました~♪」カチャカチャ

【??】





カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ……




本日はここまで。次は明日の午後の予定です。
このような形で書き溜め→投稿を繰り返して進めていきたいと考えていますが、不定期更新になると思いますので、ごゆるりとお付き合いいただければ幸いです。

おつつ
こういうの結構好きだから期待せずにはいられないな
…空気読めてないとは思うが「暮」ってワザとなのよね?一応…

>>34
ワザとです。
ただ単に、純度100%の現実世界を舞台にしているわけではないですよー、ということを示そうと思って字を変えてみただけです。

始めます。

【朝】
【廊下】

整備兵「まずいまずい……!」

整備兵(ついついあのまま本を読んでいて気がついたら寝ていた)

整備兵(そして寝坊した!)

整備兵「昨日もらったメモ書きによれば執務室集合は7時半……急がないと」スタスタ

【執務室前】

整備兵「……危なかったが、なんとか遅刻は免れたな」

整備兵(よーし……何事も最初が肝心だ。気合入れて行くぞ)パシパシ

整備兵(まずはノックを……ん?扉の向こうから声が……?)ピクッ

漣「……さま!」

提督「前々から気になっていたんだが……どうしてご主人さま呼びなんだ」

漣「なんとなくです。合っているかなと」

提督「合っているとは何だ合っているとは……。普通に司令官とは呼べないのか?」

漣「ムリです」ニッコリ

提督「無理か……」

漣「ムリです」ニッコリ

提督「……」

漣「……」ニッコリ

整備兵「……」

整備兵(おもしろい)

整備兵(……さて、立ち聞きも悪いしこの辺で入るか)

コンコン

提督「入れ」

ガチャ

整備兵「整備兵、ただいま参りました」ビシッ

提督「……」

整備兵「?」

提督「いや、整備兵が柄にもなく背筋を伸ばしていたので驚いた」

整備兵「ひどいですよ……」

提督「……」

整備兵「……」

提督「今すぐその気色悪い丁寧語をやめろ」

整備兵「え」

提督「できなければ、艦娘に対するセクハラの濡れ衣を着せて懲戒免職に追い込み、泣きついてきたところに暴利で金を貸して一生搾取するぞ」

整備兵「とんでもないクズじゃねえか!」

提督「それで良い」

整備兵「働く者としての自覚を見せようと思ったんだが……」

提督「古来から、何事も自然体でと良く言われる。余計な気遣いは必要無い。どうせ、艦娘達含めて誰も気にしない」フン

整備兵「そ、そういうものなのか……」ガーン

漣「……」ジーッ

整備兵(す……すごく……見られてます……)

整備兵「……初めまして。と言っても、昨日会ったかな」

漣「」ピクッ

整備兵「整備兵といいま……じゃない……整備兵という。今日から、この鎮守府の工廠で働くことになった。よろしく。えー、それで……」

整備兵(自己紹介が名前だけってのは物足りないよな……何か軽く自分を説明するようなことを言うべきか?)

整備兵「俺は……」

漣「……変態です」

整備兵「おう、俺は変態で……って違うわ!」

漣「m9(^Д^)プギャー」

整備兵(……もう帰って良いかな俺……)シクシク

整備兵「き、昨日のは……何と言うかその、申し訳なかった」

漣「いえ、気にしてませんよ?」ケロッ

整備兵「え、気にしてないんで……してないのか?」

漣「実際に会ってみたら、何だか悪いことは出来なさそうな人でしたし」クスッ

整備兵「それは褒められているのかどうなのか……」

漣「ともかく、よろしくお願いします。この鎮守府はみんないい子ばかりですから、すぐに慣れますよ」

整備兵「それは嬉しいな。俺もまだ分からないことばかりで何かと迷惑を掛けるかもしれないが、よろしく頼むよ」ペコリ

漣「はい♪」ペコリ

提督「自己紹介が済んだようなら、さっさと食堂に行くぞ。ちょうど朝食の時間だ」

整備兵「おう」

漣「了解しましたー!」

【食堂】

整備兵「朝食を餌に食堂に誘い出されてみれば、」

かんむすのむれ「」ザワザワ

整備兵「……完全に晒し者だった」

??「ねー彼女とかいるのー?」

??「そ、そのような質問ははしたないですわよ!」

整備兵「ずいぶんと元気な子たちだな……」アセアセ

提督「もちろんだ。うちの鎮守府は一人一人の個性を大事にしているからな」

??「ちょっと冴えない感じね」

??「立ち方もなんやぼさっとしとるし」

??「こら、失礼よ……」

??「翔鶴さんの言う通りです。二人とも、そういったことを、ましてや初対面で言ってはいけませんよ」

提督「見ろ。この通り、皆伸び伸びしているだろう?」ニヤニヤ

整備兵「……物は言いようだよホントに」シクシク

提督「大丈夫だ。俺が完璧にフォローしておく。……さて諸君、静粛に」

艦娘達「……」シーン

提督「こいつは、今日から工廠に勤務することになった整備兵。俺とは中学校以来の仲だ。皆、虐めたりハブにしたりいびったり無視したりどつき回したりストレスのはけ口にしたりせず仲良くするように。以上だ」

整備兵(そんなフォローされたらむしろ怖くなるだろこのクソ提督!)

提督「……ほら、早く挨拶しろ」

整備兵「あ、ああ……新しくこの鎮守府で働くことになった整備兵だ。みんなに色々と教わりながら、早くここに慣れていきたいと思う。よろしく」ペコリ

艦娘達「」パチパチパチパチ

提督「次はこちらの番だ。そっちの端から順に自己紹介していってくれ。漣はもう知っているから飛ばして構わない」

鈴谷「最上型重巡洋艦の3番艦、鈴谷だよ!よろしくね!」

熊野「同じく最上型重巡洋艦の4番艦、熊野ですわ。どうぞ、よろしくお願い致します」

龍驤「軽空母龍驤や!ほな、よろしく頼むで!」

鳳翔「軽空母、鳳翔と申します。よろしくお願いしますね」

翔鶴「翔鶴型航空母艦1番艦の翔鶴です。あの、先ほどは妹が無礼を……申し訳ありません」

瑞鶴「翔鶴姉の妹、翔鶴型航空母艦の2番艦瑞鶴よ。……さっきはごめんなさい。よろしくね、整備兵さん!」

整備兵「いやいや、構わないよ……改めて、みんなよろしく」

艦娘達「はい!」

??「皆さーん、朝食ができましたよー」ダイシャゴロゴロ

漣「朝ごはんktkr!!」

龍驤「おおっ!タイミングばっちりやな!」

鈴谷「やりぃ!もう鈴谷お腹ペコペコー!」

間宮「あらあら、そんなに楽しみにしてくれると私も嬉しいわ……おや?そちらは……?」

整備兵「はっ、はい!今日から工廠で働かせてもらうことになった整備兵といいます!」

整備兵(あ……また丁寧語になってしまった)

間宮「新しく入られた方でしたか。ご丁寧にありがとうございます」

間宮「私はこの食堂を任されている給糧艦の間宮と申します。これからどうぞよろしくお願いしますね」ニコ

整備兵「はい、こちらこそ」ペコリ

整備兵(給糧艦……鎮守府の主計科みたいな存在ってことか)

鈴谷「鈴谷、味噌汁一番乗り!行っくよー!」

瑞鶴「あっ、待ちなさい!油揚げ取り過ぎたら承知しないわよ!ほら、翔鶴姉も早く!」

翔鶴「そ、そんなに急がなくても……」

鳳翔「まあまあ皆さん、慌てず順番に取りましょう。全員に行きわたるように作ってくれていますから大丈夫ですよ」

龍驤「せやせや。朝っぱらからうるさしゅうてかなわんわ。こんなんやったらおちおち飯も食べられへん」

熊野「全くですわ……はぁ。鈴谷も、もう少し落ち着きなさいな」グイッ

鈴谷「むー……」ズルズル

整備兵「ははは……楽しそうな鎮守府だ」

漣「だから言ったじゃないですか」フンス

提督「まあ……もう少し規律が有った方が良い気もするが」

全員「いただきまーす!」

整備兵「温かい白ご飯……出汁の効いた味噌汁……。うまい……うますぎる……!涙が出そうだ……!」ガツガツムシャムシャ

間宮「おかわりもありますよ」

整備兵「もうこれが最後の晩餐になっても良い……」

提督「何と言うか、本当に貧乏性だなお前」

整備兵「腹が減るってのはな……それだけ辛いことなんだよ……」モグモグゴックン

整備兵「ふー……やっと落ち着いた」

鈴谷「ねーねー、整備兵さんって工作学校出の人?」

整備兵「……ん、一応な。だから工廠で働くことになった」

鈴谷「へー。でも、工廠でどんな仕事するの?」

熊野「そうですわ。艤装の整備や修理は、妖精さん達がしてくださいますし……」

整備兵(やっぱり、そこは気になるよな……)

整備兵「……」チラッ

提督「……」ウナズキ

整備兵「それがだな……その妖精達の整備技術を研究するのが、俺の仕事なんだ」

熊野「妖精さん達の……」

鈴谷「ふーん……?」

整備兵「つまりは、妖精達がどうやって艤装を作ったり直したりしてるのか調べるって事だ。まあ、簡単にはいかないだろうが」

熊野「難しそうですが、確かに重要そうな仕事ですわね。言われてみればわたくし達も、艤装の使い方はともかく仕組みはあまり知りませんもの……」ムムム

整備兵(艤装を使える艦娘も、その仕組みには詳しくないのか……そりゃまあ、艦娘に聞いて分かるならとっくに解明されてるもんな)

鈴谷「雰囲気地味なのになんかすごい任務背負ってんじゃーん」

整備兵「雰囲気はどうでも良いだろ!」

龍驤「ほっほー、おもろそうな話やな。ウチも入れてもらうで」ズイッ

整備兵「うわっとっと……」

龍驤「ちゅーことは、キミ、妖精が見えるんやな?」

整備兵「ああ。そういう人間は珍しいらしいけどな。龍驤たち……艦娘は、やっぱりみんな見えたり話ができたりするのか?」

龍驤「見えることには見えるんやけど……話せたりはせえへんな」

整備兵「そうなのか?でも、見えるのに意思疎通ができないとなると不便だな……」

龍驤「そういうことやないねん。妖精と話はでけへんのやけど、意思疎通はできるんや」

整備兵「……?」

龍驤「妖精はウチらの言うことが分かるんや。そんで話しかけると、身振り手振りで答えたり紙に字を書いて返事してくれたりするっちゅーわけや」

整備兵「んなバカな……」

龍驤「ほんまもんの話や。艦載機に乗ってる妖精からの通信なんて、モールス信号で来るで」

整備兵「高度過ぎる!」

整備兵(というか、妖精は航空機のパイロットもやっているのか。兵器の整備だけでなく、運用もしているとは……)

整備兵「そうか……教えてくれてありがとな、龍驤」

龍驤「気にせんでええ。新入りの面倒を見るんも仕事のうちや」ヒラヒラ

整備兵(いい子だなあ……)

整備兵「そうだ、話は変わるんだが……」チラッ

間宮(←給糧艦)「――はい、今日は旬の野菜を揃えてみまして」

鳳翔(←軽空母)「あっさりとして品のある味付けです。見習いたいほどですね……」

瑞鶴(←正規空母)「翔鶴姉、その煮物の人参とこれ、取り替えっこしない?」

翔鶴(←正規空母)「良いわよ。ほら……はい」

鈴谷(←航空巡洋艦)「どうしたの?元気ないじゃん熊野」

熊野(←航空巡洋艦)「昨晩は夜間警備の係でしたので、何だかお肌の調子が良くなくて……」

鈴谷(←航空巡洋艦)「何言ってるんだよー。熊野の肌はいつもスベスベのもち肌だよー」プニプニ

熊野(←航空巡洋艦)「こら!やっ、やめなさいっ!」

漣(←駆逐艦)「……」モグモグ

提督(←人間)「……」パクパク

整備兵「……航空主兵論」ボソッ

龍驤「あー……確かに、これだけ規模の大きい艦隊にしては砲撃戦火力に欠けるかもしれへんな」

整備兵(……そう言えば、昔から提督は筋金入りのペラ屋だったっけか)

整備兵「提督の方針か?」モグモグ

龍驤「わざとそうしてるっちゅーわけやないやろ……あ、醤油取ってくれへん?」パクパク

整備兵「はいよ」ポン

龍驤「おおきに……っちゅーより、建造は妖精のさじ加減やから提督はんにどうこうできることやない。たまたま戦艦が着任せえへんかった。それだけやろ」パクパク

整備兵「ま、そうだよな。ごちそうさま」カチャ

龍驤「ごちそうさん」コトッ

提督「食べ終わったみたいだな。早速工廠を案内する。ついて来い」ポン

整備兵「い、いつの間に背後に……」

提督「今日は一日、出撃や遠征の予定は無い。漣の指示に従って各自で訓練や準備に励むように」

全員「はい!」

提督「漣、頼めるな?」

漣「(`・ω・´)ゞ」ビシッ

提督「じゃ、行くぞ……ん?」

……ドタドタドタドタッ!

本日はここまで。全ての艦娘を書くという芸当をこなせる>>1ではないのでありました。ごめんなさい……。
明日も午後にできると思います。何かございましたらお気軽にどうぞ。

??「お腹空いたー!」バァン

??「那珂ちゃん、今日も元気に朝ごはん入りまーす!」キャハッ

??「ああ……」ガックリ

整備兵「ん、まだ他にも艦娘がいるのか」

龍驤「これで晴れて全員集合や。一番最初にドアを吹き飛ばしそうな勢いで入って来たんが川内で、うなだれてるのが神通、で、右目にピース当てて決めポーズしてるのが那珂や。ウチの艦隊の護衛担当、川内型軽巡洋艦三姉妹やな」ハァ

整備兵(聞き覚えのある声だ……多分、昨日港にいた二人組は川内と那珂だな)

提督「神通、迎えご苦労。仕事を増やしてすまない」

神通「いえ……。こちらこそ、いつも二人がご迷惑をお掛けして……」

整備兵(この子が昨夜、とばっちりで国賊にされてた子か……)

神通「……本当に申し訳ございません」ズーン

整備兵(も、物凄い苦労人のオーラを放ってる……)

提督「それで、川内、那珂、お前達は少しは反省し……」

川内「提督ー!朝ご飯まだ残ってる?」

提督「……ああ。もちろん、ちゃんと『一人分』残してあるぞ」ビキビキ

那珂「一人分……?あ!那珂ちゃんの分」

提督「もちろん神通の分だ。神通は俺の命令でお前達を迎えに行って遅れたが、お前達二人は勝手に捕まって遅刻した。飯なんかやれるか」イライラ

川内「そんなぁっ!」

那珂「えー!?」

神通「えっと……あの……!」

鳳翔「提督さん、意地悪を言ってはいけませんよ。川内さん、那珂さん、間宮さんがお二人の分も取っておいてくださっていますから安心して下さい」クスッ

川内「なーんだ、心配して損したよ!」

那珂「やったー!間宮さーん、今日のお味噌汁の具何ー?」

間宮「ふふっ、今日は……」

ワイワイヤイノヤイノ

神通「ほっ……」

川内「ご飯も魚もおいしいっ!あぁ……なんか食べたら眠くなってきたかも……」

那珂「おいしいごはんは元気の源だよっ!」

提督「……」ギリギリ

整備兵「いやあ、一人一人の個性を大事にするのもなかなか大変だなあ」ニヤッ

提督「……」ギリギリギリギリ

整備兵「そんなに歯軋りしてると奥歯が無くなるぞ」ハハハ

【港】

整備兵「――へー、それであの二人は、しょっちゅう問題を起こしてはお前に追っかけ回されてるってわけか」スタスタ

提督「最近は静かだと思っていたらその矢先にこれだ。川内は夜戦の権化、那珂は派手なことが大好物のお調子者ときた。軍人として、少しは落ち着きを持ってほしいものだ」スタスタ

整備兵「たまには敵の水雷戦隊かなんかと夜戦させてやれば良いじゃないか。川内も満足するし、那珂も実戦で有り余った体力を消費すれば落ち着くと思うぞ?」

提督「俺は夜戦は好かん。航空攻撃が行いにくいせいで敵兵力の漸減が難しくなり、思わぬ反撃を受ける可能性も昼戦と比べて高まる。艦隊の損害を減らすことを考えれば、夜戦をしないに越したことはない」

整備兵「まあ、お前に言わせればそうだろうな」

提督「今はまだ深海棲艦との戦いでも、敵に空母がいない限りは砲戦が戦闘の主役になるという考え方が主流だ。小回りが利かないという艦砲の欠点を、艦娘は克服できるからな」

提督「……しかし、所詮砲弾は水平線上に見えている相手までしか貫けない。本物の軍艦ならまだしも、身長が普通の人間と変わらない艦娘にとっての水平線は精々数km先って所だ。じきに航空機の時代が来るだろう」

整備兵「ほー、だからこの艦隊には戦艦も巡洋戦艦もいないのか?」

提督「その言い方、まるで俺がこの鎮守府にお気に入りだけ揃えてるみたいじゃねえか……俺は飛行機は飛ばすが飛ばし屋じゃないぞ。ここの工廠で建造された艦娘達の中に偶然その辺の艦種が」

整備兵「ま、分かってたけどな」シレッ

提督「それなら聞くな」フン

整備兵「……で、後どのぐらい歩けば良いんだ?いい加減、うららかな初夏の日差しが痛いんだが……」ダラダラ

提督「工廠は離れにあるからな……このまま海岸に沿って15分くらいってところか」

整備兵「遠っ!」

提督「敷地が広くて豊かだと言え」

【工廠】

提督「着いたぞ」

整備兵「うー暑い暑い……ここが工廠か。本当に海が目の前だな」

整備兵(とてつもなく巨大なレンガ造りの長屋……ってとこか?)

提督「このシャッターを開けて出入りする。海に面しているから、潮風が入らないように基本閉めとけ」ガラガラガラ

提督「提督だ。入るぞ」

整備兵「お邪魔します……でいいのか……?」ソーッ

カーンカーンカーン

バチッバチバチッ

ジジジジチュイーン

整備兵(うわ……あっちにもこっちにも機械やら資材やらが散乱して、足の踏み場も無いな)

工廠妖精達「」ワチャワチャ

整備兵「おお……妖精がたくさん……」

整備兵(ちょこまか動いてると、何かかわいいな)

??「おう若造!話に聞いた新入りかァ?」

整備兵「え?提督、何か言ったか?」

提督「いや、何も言っていないが?」

整備兵「あれ……?」

??「若造!下だ下ァ!」

整備兵「は?下……ってええ!?」

工廠妖精?「どこに目ェ付けてんだここだよここォ!」グイグイ

整備兵(ベージュ色の工員服を着たオッサンぽい妖精が喋ってる……)

整備兵「え?は、はい……ええ?」

工廠妖精?「俺ァこの工廠の荒くれ男どもを束ねてる、言ってみりゃ頭領、御頭、工廠長よォ!」バーン

整備兵「こ、こうしょうちょ……」

工廠長「そうだァ!どうやらここで働くつもりみてェだが……俺のお眼鏡にかなわねェようなら、二度とここには来れなくなると思え……良いなァ!?」

整備兵「」

工廠長「分かったら返事ィ!」

整備兵「は、はい……?」

工廠長「声が小せェ!」ペシッ

整備兵「はいぃ!!」

提督「どうした?うるさいぞさっきから……」

整備兵「どうしたもこうしたもねえよ!何か妖精が滅茶苦茶怖い口調で喋ってるんだよ!」

提督「はぁ?言い忘れてたがな、妖精は話さな……」

整備兵「それは龍驤から聞いて知ってるんだが……事実この妖精が普通に喋ってる」ヒョイ

工廠長「うぉっ!いきなり持ち上げんじゃねェ!離せ!」ジタバタ

整備兵「な?」

提督「……ただ無言でジタバタしているようにしか見えないが」

整備兵「な……」ガーン

提督「……本気か?」

整備兵「本気も本気だ」

工廠長「下ろせ!下ろせって!」ジタバタ

提督「……」

整備兵「……」

提督「……よし分かった。何やら原因は分からんが……お前は俺や艦娘達と違って妖精と話せる。そうだな?」

整備兵「ああ……」

提督「……ふむ。だがそれはそれで、お前にとっても俺にとっても大いに利益になる。文字や絵でのコミュニケーションには限界があるから話せて損は無い。やったな」グッ

整備兵(お前はどうしてそんなに前向きになれるんだ)

整備兵「ま、まあ、結果オーライと言えばそうなのか……?」

工廠長「た、頼む……俺ァ高いトコは苦手なんだよォ……」ブルブル

整備兵「……あ、悪い悪い。ほいっと」ポン

工廠長「ふう、まだ心臓がバクバクしてやがる……」ゼイゼイ

整備兵「……ただこの妖精、話し方がかなり……というかすごくオッサン臭いんだが、妖精ってのはこういうものなのか?俺が昔見たのはもっとこう何と言うか、のんびりした感じだったんだが……」

提督「いや、確かに工廠の妖精達は工員服なのもあってやや力強いイメージだが……艦載機のパイロット妖精なんかはむしろ女の子と言った方がしっくり来る外見だぞ?」

整備兵(やや?これが?は?)

工廠長「おい若造……さっきはよくもやってくれたなァ!?」

整備兵(これじゃまるで近所の工場の頑固親父……いや、学校時代世話になった鬼教官にすら近いかもしれない)

工廠長「こんの、聞いてんの……」

整備兵「……」ヒョイ

整備兵「……」クルクル

工廠長「うぼぁぁぁ振り回すなぁぁぁ!」ヒュンヒュンヒュン

整備兵(でも小さくて助かった)

提督「まあともかく、妖精がオッサンだろうと何だろうと関係無い。目的は、妖精との信頼関係を築き技術を学ぶことただ一つだ。忘れるなよ?」

整備兵「あ、ああ……」ポン

工廠長「」チーン

整備兵(……既に信頼度最低かも)

工廠妖精達「」ザワザワ

工廠妖精A「工廠長!大丈夫ですかい!?」バタバタ

工廠長「お、俺ァこんなモンでやられるほどヤワじゃねェ……心配要らねェよ……」フラフラ

工廠妖精B「流石っス工廠長!流石っス!」

工廠妖精達「」ヤンヤヤンヤ

工廠長「いいから作業に戻れ!仕切り直しだ!……おら、野郎共ォ!」

工廠妖精達「「「へいっ!」」」ザッ

整備兵(バラバラに作業していた妖精達が一瞬でまとまった……!)

工廠長「誰が手を休めろと言ったァ!?」

工廠妖精達「「「申し訳ございません工廠長!」」」スッ

工廠長「俺が倒れようと海に沈もうと、常に目の前の仕事に集中する!それが工員の流儀ってモンだろォ!」

工廠妖精達「「「その通りであります工廠長!」」」ビシッ

工廠長「俺達ァ海には出れねェ。いつも安全な陸で味方の帰りを待つ事しかできねェ工員だ。だがだからって、俺達にここでぬくぬく丸まってる暇と資格は有るのかァ!?」

工廠妖精達「「「有りません工廠長!」」」スチャッ

工廠長「その通りだァ!俺達ァどこにいても、海の男としての誇りを忘れねェ!俺達が金槌を置いていいのは、資材が尽きた時と!」

工廠妖精達「「「工廠と共に焼き尽くされ、土に還る時だけであります!」」」ビシィッ

工廠長「各自、作業開始ィ!!」

工廠妖精達「「「作業開始ぃー!!」」」ウォォォォ!!

カーンカーンカーン

バチッバチバチッ

ジジジジチュイーン

整備兵「」ボーゼン

提督「ここの妖精達は鎮守府の中でも特段に勤勉で、団結しているような雰囲気があるな。見ているだけで、こちらも身が引き締まる思いだ」ウムウム

整備兵(いや、この統率力はもはや前線行けるレベルじゃ……)ヒキッ

工廠長「ってな訳で若造。……ウチの新人研修は、ちょいと『効く』かもしれねェぜ?」グイッ

整備兵「……」ダラダラ

工廠長「 よ ろ し く な ァ ? 」ニカァ

整備兵(アカン)

提督「整備兵、妖精に作業の進捗はどうか聞いてみてくれ。俺が聞くより効率が良い」

整備兵「……お、おう。分かった」

整備兵「えー、おほん……工廠長」

工廠長「あァん?」

整備兵「提督が作業の進捗はどうかと聞いてるんだが……」

工廠長「若造、この俺に向かってタメ口ってのは、いくら何でも無礼が過ぎるんじゃねえかァ?」

整備兵「……提督が、作業の進捗はどうかと聞いているんですが……」

工廠長「声がちっさくて聞こえねえなァ?」

整備兵「……」スッ

工廠長「わーったわーった!好きに喋って良いからそうやってすぐつまみ上げようとするんじゃねェ!進捗、進捗な……おい一班!作業状況報告!」

工廠妖精B「事前策定計画通り、ほぼ完了したっス!間もなく最終工程に移行、続いて竣工の予定っス!」

工廠長「……ん、そういう事だ若造。間もなく竣工、そう伝えな!」

整備兵「ありがとう。……提督、間もなく竣工だそうだ」

提督「そうか。思ったより早いな……それならもう少しここで待つか」

整備兵「竣工って言うからには……今まさに、艦娘を建造してるってことか?」

提督「そうだ。まずは建造の様子を見せておきたかったからな。ちょうど建造中にここを見学できるようにしておいた。言っておくが、建造もあまりしょっちゅうできるわけじゃないぞ」

整備兵「そりゃ有難い」

提督「建造の方法については分かるか?」

整備兵(そう言えば、昨夜読んだ本に書いてあったな……)

整備兵「妖精に燃料や弾薬、鋼材やボーキサイト等の資材を渡して艦娘を作ってもらう。ただし、建造される艦娘はある程度ランダムに決まる……だな」

提督「ああ、装備開発もほぼ同じ流れで行われる。だが妖精と言っても、ここにいる妖精達のように工廠での業務を専門としている妖精に頼まなければならない」

整備兵「建造や開発ができる環境は限られるってことか……」

ピリリリリ

整備兵「携帯鳴ってるぞ?」

提督「ああ、分かってる」スッ

提督「提督だ。……漣か。何……?分かった……すぐ戻る」ピッ

提督「悪い整備兵、緊急に処理を要する書類が入った。先に執務室に戻っているから、建造された艦娘を連れて後から来てくれ」

整備兵「提督ってのは忙しいんだな……分かったよ」

提督「仮にも、海軍では五本の指に入る規模の根拠地の長だからな。頼んだぞ」スタスタ

ガラッ……ガラガラガラ……ガタン

本日はここまで。危うく午後ではなくなるところでした。
次は明後日の夜以降になると思います。今しばらくお待ちを。

整備兵(さて、どうやって建造されるのかを見るのも仕事だな……いやそもそも、見るなと言われても見るほどには俺自身が気になるんだが……)

工廠長「運搬始めェ!」

運搬妖精達「」ワーイ

整備兵「ん?何かを運び始めて……」

整備兵(連装砲……のミニチュア――おそらく50口径三年式12.7センチ砲――に、魚雷発射管と……あれは何の部品だ……?)

運搬妖精達「」ワッショイワッショイ

整備兵(何も喋ってない時はかわいいだけなんだけどな……)

工廠妖精A「待機姿勢!整列!気をつけ!休め!」

工廠妖精達「はっ!」スタッザッビシッ

運搬妖精達「」キャッキャッ

工廠妖精B「工廠長!整列・待機それぞれ完了したっス!」

工廠長「おう」

運搬妖精達「」グラッオットット

運搬妖精達「」ヨイショット

運搬妖精達「」キャッキャッ

整備兵「……あの部品を運んでる妖精達、何と言うか……違わないか?」

工廠長「あァん?」

整備兵「工廠長とか他の工廠の妖精達と違って怖くな……じゃなくて、やけにテンションが高い気がするんだが」

工廠長「あァ……あいつらか。そりゃそうだ。奴ら、本当はウチの工廠の妖精じゃなくて、戦闘の時に艦娘の装備を動かす妖精なんだからな」

整備兵「え?でも部品運んでるし、工員服着て工具持ってるし……」

工廠長「あいつらの担当してる装備が今修理中でなァ。暇だから何か手伝うってんで、一番楽な最終運搬をやらせてんだよ。工具は勝手に持って振り回してるだけで全然使えやしねェ」

整備兵「紛らわしい……それにしてもよく仕事を任せる事にしたな」

整備兵(この頑固そうな工廠長が、あののほほんとした妖精達と喜んで一緒に働くとはあまり思えない)

工廠長「まァ確かにおちゃらけた奴ばっかで気に食わねえが……自分の武器ぶっ壊されて無理矢理有休取らされてんだ。あんななりだが、あいつらも実のところ何かしてねェと気が済まねェんだろうよ」

整備兵「そうなのか……」

工廠長「……他の奴らが戦ってんのに自分達だけ働けねェってのは、やっぱり辛い事なんだろうなァ」

整備兵「……」

運搬妖精達「」ユレルユレルー!

運搬妖精達「」キャー

運搬妖精達「」ワイワイガヤガヤ

整備兵(……いや、深読みし過ぎだろ、多分)

ドシン

運搬妖精達「」ワーニゲロー

運搬妖精達「」ダダダダッ

整備兵(部品を置いたと思ったら、今度は一斉に部品から離れ始めたぞ……?)

整備兵「なあ工廠長、どうして急に……」

??妖精「」ピョコン

??妖精「」ススッ

整備兵(……!今、一人だけ妖精が出てき……)

工廠長「……若造、目ェ潰されたくなけりゃしっかり瞑っときな」

整備兵「へ?」

ピカッ

整備兵「うわっ……!」

??妖精「」ススッ

整備兵「……な、何だったんだ」ウスメ

整備兵(さっき出てきた妖精は……いない?気のせいだったのか……?)

シュゥゥゥゥゥ……

??「あ……れ……?」

整備兵(煙の中から人影……艦娘か?)

??「……!」

整備兵「この子が……?」

工廠長「おぉーう、こいつァべっぴんさんだぜ」グヘヘ

整備兵(だからオッサンかよ)

工廠妖精達「ヒューヒュー!たまんねえな!」ヘッヘッヘ

整備兵(……全員かよ!)

整備兵「あのな……ちょっと静かに……」

整備兵「……」チラリ

整備兵(漣と同じ、紺と白の水兵服……見た目も子供っぽいし、駆逐艦か……?)

??「はじめまして、司令官。特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪です。よろしくお願いします」ピシッ

整備兵「俺の名前は整備兵。よろしく、白雪」ビシッ

白雪「はい!」

整備兵「……えーと、それでだな。丁寧に挨拶してもらった手前非常に申し訳ないんだが、俺はここの司令官じゃないんだ」

白雪「え……そ、そうなんですか?」キョトン

整備兵「んー……その辺の事情は、提督執務室まで歩きながら話しても良いか?白雪が建造されたらすぐ連れてくるように、本当の提督に言われてるんだ」

白雪「分かりました」

工廠長「あっ、待て待て!」

整備兵「どうした?」

工廠長「お嬢ちゃんに、艤装を外して置いてくように言ってくれ。最初は点検が必要なモンでなァ」

整備兵「分かった。……白雪、工廠長が艤装を置いてってくれってさ」

白雪「はい、ではここに置いておきますね」ガチャガチャ

白雪「えっと、それで、工廠長とは誰のことを……?」

整備兵(……そうか、白雪には工廠長の声が聞こえないのか)

整備兵「この妖精を、俺が工廠長って呼んでるんだ。名前の通り、工廠の妖精達を束ねてるリーダーってところだな」

白雪「妖精さんのことでしたか……こんにちは。これから、よろしくお願いします」ペコリ

工廠長「へっへっへ。よせやい、照れるぜ」テレテレ

整備兵「気色悪いからやめろ」コツン

工廠長「いてっ。良いじゃねえかこんぐらい。どうせ聞こえねェんだ」

整備兵「俺には丸聞こえなんだよ……」

白雪「……えっと、もしかして整備兵さん、工廠長さんと話してらっしゃるんですか?」

整備兵「え、まさか、白雪にも聞こえるのか!?」

白雪「いえ、私には全く……でも、そんな風に見えたので」

整備兵「ああ、そういう意味か……」ズーン

白雪「話せるのは、整備兵さんだけなんですか?」

整備兵「正確には、妖精の声を聞き取れるのが俺だけってことらしいけどな。……さ、行こう。提督が待ってる」

白雪「はい」ニコ

短めですが本日はここまで。次は土曜日以降となります。
今さらですが、登場する艦娘は>>1の好みだけで決めております。あしからず……。

【廊下】

白雪「そうですか……整備兵さんも、私と同じで今日着任されたんですね」

整備兵「ああ……だから俺もまだこの鎮守府の事はあまり分からなくてさ。大した話もできなくてごめん」

白雪「そんなこと……」

整備兵「とにかく、これはほんの数時間前に他の駆逐艦の子に言われた事の受け売りなんだけど、ここはいい子達ばかりだから心配はいらないよ。提督も何だかんだ言って信頼は置ける奴だし」

白雪「ふふっ。整備兵さんと司令官は昔からのご友人なんでしたよね?」

整備兵「ああ。工員としてこの鎮守府で働けるようになったのも、多分そのお陰みたいなもんだ。あいつには感謝しないとな……」

白雪「それで今は、工廠で妖精さん達の整備技術について調べていらっしゃると」

整備兵「まあ、実際の所まだ何も始められちゃいないんだけどさ」ハハハ

整備兵「……さて、着いた着いた」コンコン

漣「どうぞ!」

提督「入れ」

ガチャ

整備兵「連れて来たぞ」

白雪「特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪です。よろしくお願いします、司令官!」ピシッ

提督「よろしく白雪。帝国海軍暮鎮守府司令長官として、君の着任を歓迎しよう」サッ

漣「わっ、ま、まさか駆逐艦!?」ガタッ

白雪「ひゃっ!?そ、そうですが、あなたは……?」

漣「駆逐艦、漣だよ!一応、提督の秘書艦。この艦隊、今まで漣以外駆逐艦いなかったから大感激!白雪ちゃん、よろしくね!」

白雪「はい、よろしくお願いしま……」

漣「これから一緒にやってく友達なんだし、もっと気楽にしていいよ」

白雪「えっと、それなら……よろしく、漣ちゃん……♪」ニコッ

漣「そうそう♪」

提督「……すまないが連絡事項だけ、良いかな?」

白雪「……!申し訳ございません!」キリッ

提督「そこまで堅くならなくても良いが。さて、白雪は現時点を以って当鎮守府内洋艦隊に参加、駆逐艦漣、軽空母龍驤、軽空母鳳翔と共に主として鎮守府周辺海域の防備につく。良いな?」

白雪「はい、了解しました」

漣「やった!同じ艦隊だね!」

提督「さらにそれに加え……」チラッ

整備兵「……ん?何だ?」

提督「白雪を整備兵の補佐官に任命する。通常の職務に支障が出ない範囲で構わない。整備兵の調査研究活動を補佐するように」

整備兵「ちょ、ちょっと待て。俺は補佐とかは別に……」

提督「俺も伊達に鎮守府で何年も働いていない。備品管理に書類整理、仕事に伴う雑務は山ほどある。この先調査の規模が拡大するだろう事を考えても、補佐官は絶対に必要だ」

整備兵「いや、だがな……」

提督「さらに伝令としても必須だ。お前の携帯電話が家の固定電話もろとも4ヶ月前に止められたことは知っている」

整備兵「う……って、なぜそれを!?」

提督「俺もそれなりに顔が利くのでな」

整備兵「そ、それにもし補佐官が必要だとしても、どうして白雪なんだ?」

提督「白雪だと嫌なのか?」

整備兵「え?」

白雪「……」ジッ

漣「……」ジトー

整備兵「そ、そういう意味じゃない!ただ白雪は俺と同じで今日着任したばかりだし、いきなり仕事を増やすのは……」

提督「理由は三つある。一つ目は、白雪が内洋艦隊所属だからだ。ここの艦隊は艦隊構成上、主力艦隊ではなく他鎮守府の艦隊の支援艦隊を務める事が多い。その際主にお呼びがかかる外洋艦隊のメンバーには、あまり新しい仕事をさせるわけにはいかない」

提督「二つ目は、白雪が駆逐艦だからだ。この鎮守府では毎日日没から日の出まで、艦載機または水上機を扱える艦娘達が持ち回りで夜間警備を行っている」

漣「つまりは、駆逐艦と間宮さん以外全員って事ですヨ」

提督「ああ。そしてそこから食堂を離れられない間宮と秘書艦である漣を除くと、白雪しか残らないというわけだ」

整備兵「確かに……あれ?三つ目は?」

提督「これも何かの縁だからだ」

整備兵「」ズコー

提督「新しい艦娘が着任するのもしょっちゅうというわけじゃない。提督以外の人間が着任する事に至っては、前例が無いかもしれないくらいだ。同じ日に二人着任したのは十分な縁になるだろう。まあ良く分からんが」

整備兵「色々言っておいて最後は適当だな!」

提督「ともかく、この辺りで軽く人を使う事を覚えておけ。これも仕事の内だ」

整備兵「あ、ああ……」

提督「……ということだ。できるか?」

白雪「分かりました。精一杯頑張らせていただきます」ピシッ

提督「ふむ。では……」

漣「ご主人さま!二人に鎮守府を案内したいのですが、どうでしょうか?二人とも、まだ工廠以外の場所はほとんど見てませんし」

提督「ああ、それが良いだろう。だが、他の艦娘達は……?」

漣「みんなちゃんと自主練してましたし、大丈夫だと思いますよ?」

提督「分かった。一通り見て回っても昼には間に合うだろう。ゆっくり行ってこい」

漣「やったー!白雪ちゃん、色々連れてってあげるから!綺麗な港とか、すごく広い弓道場とか、食堂とか……」ズイズイ

白雪「あ、ありがとう漣ちゃん……」アセアセ

整備兵(食堂……何か忘れているような……あ!)

整備兵「そう言えば提督、朝、デザートなんて出なかったぞ」

提督「……チッ……え、そうか?そうだったか?」

整備兵「昔から、聞こえるか聞こえないか微妙だけどやっぱり聞こえるから相手がどうしてもツッコみたくなる舌打ちするの得意だよなお前」

提督「まあそう怒るな。まるでケチな貧民だ」

整備兵「ケチな貧民だよ」

提督「仕方ない、今回だけの大盤振舞いだ……これをやる。三人分だ」ポン

整備兵「なになに……間宮、券?間宮さんに関係あるのか?」

漣「まっ、間宮券!?」カッ

白雪「漣ちゃん、知ってるの?」

漣「間宮さんはこの鎮守府の食堂で働いてて、みんなにおいしいご飯を作ってくれる人。そしてこれを間宮さんのトコに持っていくと、なんと……」

整備兵「なんと……?」

漣「特製スイーツを作ってもらえるのです」ジャーン

白雪「特製……」

整備兵「スイーツ……!?」

漣「この間宮券はめったにもらえないから、漣もほとんど食べたことがないんだよ!」

整備兵「ほー……」

白雪「とっても楽しみです……」キラキラ

漣「でしょ?」

提督「俺からの着任祝いといった所だ。暮鎮自慢の間宮の腕をしっかり確かめてこい」

整備兵「ずいぶん気前が良いじゃないか」

提督「新人を労うのも上司の責務だ。……ただし、昼飯があるのを忘れるな。がっつきすぎて腹を壊すなよ」ニヤッ

整備兵「おあいにく、貧乏暮らしのおかげで腹は丈夫なんでね。余計なお世話だ」

漣「ほら白雪ちゃん、早く行こ♪」グイグイ

白雪「わ、分かったから!押さなくていいから!」

ガチャバタン

提督「……」

整備兵「……」

提督「当然のように置いて行かれた一人の哀れな整備兵に合掌」ナームー

整備兵「うっせえ」スタスタ

ガチャバタン

提督「さて、仕事仕事」サラサラ

【食堂】

整備兵「間宮さんに作ってもらうんだとしたら、ここしか無いよな……?」コンコン

整備兵「すみませーん……」

漣「ずいぶん遅かったですネ」

整備兵(ビンゴ!)

整備兵「行き先も分からないまま置いてかれたら、そりゃ遅くもなるだろ……」

白雪「すみません。私達だけで勝手に来てしまって……」

整備兵「あー……いやいや、結局合流できたんだ。そこまで気にしてないよ」

漣「そうです、許してあげてください。白雪ちゃんが『さすがに食べるのはまだやめておこう』って言ってくれなかったら、今頃漣たちは一足先に最高級スイーツを味わっているところだったんですから♪」

整備兵「白雪は優しいな……」ホロリ

白雪「そ、そんな、泣くほどでは……」

整備兵「って、漣は最初から待つ気無いのかよ」

漣「もちろんですよ。……あんな本持ってるような変態整備兵さんのことなんて」ボソッ

整備兵「へっ……おい!こんにゃろっ……!」

整備兵「……白雪に聞かれたらどうすんだよ!」ヒソヒソ

漣「m9(^Д^)プギャー」

整備兵「朝も思ったけど、その笑い方なんか無性にムカつくな……!」

漣「あのねー白雪ちゃんー」

白雪「どうしたの、漣ちゃん?」

整備兵「おい待てぃ!」

ワーワーギャーギャー

白雪「……?」

白雪(話がよく分からないけれど……二人ともすごく仲が良さそう)

白雪(私も早く鎮守府の皆さんとこんな風になりたいです)ニコニコ

間宮「お待ちどおさま」ゴロゴロ

漣「キタ━(゚∀゚)━!」

整備兵「おおっ……!」

白雪「……」ドキドキ

コトリ コトリ コトリ

間宮「特製アイスクリームです。久しぶりに、腕によりをかけて作ってみました」ニコ

漣「いっただっきまーす!」

白雪・整備兵「いただきます!」

パクリ

漣「(゚д゚)ウ-(゚Д゚)マー(゚A゚)イ-…ヽ(゚∀゚)ノ…ゾォォォォォ!!!!」ガツガツ

白雪「冷たくて甘くて、とっても美味しい……」パクパク

整備兵「うまいっ!これは確かに暮鎮守府の自慢、いや海軍の自慢……」

間宮「ふふふっ、あまりおだてないでください」

整備兵「いや、これは冗談抜きで並の腕じゃありませんよ……。ですがすみません。突然押しかけてしまって……」

間宮「いえいえ、一日中、次の食事の献立を考えるくらいしか仕事がありませんから。こうして、いつもは作れない料理を振舞えるのは楽しいです」

整備兵「……やっぱり、砂糖や乳製品はあまり手に入らないんですか?」

間宮「ええと、あの、そういうわけではなく……」メソラシ

整備兵「?」

間宮「まだ鎮守府に人が少なかった頃は、よく作っていたのですが……皆さん食堂に入り浸りになってしまって、提督の許可制になったんです」

整備兵「た、大変でしたね……」

間宮「それにしても整備兵さん、私には丁寧語なんですね。遠慮なさらなくても……」

整備兵「あー、何というか……間宮さんは大人っぽいので、あまりぶっきらぼうに話すのはどうも気が引けて……」アハハ

漣「それ、漣たちは子供っぽいってことですか?」

整備兵「まあ、白雪はともかく漣はお子様だな」

漣「おおっと、そいつは聞き捨てなりませんよ……!」

白雪「……ふふっ」

漣「白雪ちゃん!笑わないでよ!」ウガー

白雪「あっ、ご、ごめんね……」シュン

漣「なーんてね」

白雪「え……?」

漣「遠慮なんかいらないよ。笑ってるときの白雪ちゃん、とっても幸せそうだから。人間……いや艦娘だけど、とにかく幸せが一番!」ビシッ

白雪「……!」

漣「ね?」

白雪「そ、そうだよね……えへへ」

整備兵(ああ……今日の漣はやたらと絡んでくると思ったら、白雪のためだったのか)

整備兵「さすがは最古参だな」ヒソヒソ

漣「当然ですよ。整備兵さんと違って色々考えてるんです」フフン

整備兵「……前言撤回。やっぱり、ただケンカ売りたいだけだろ」

漣「さあー?……それじゃあ白雪ちゃん、そろそろ出発進行だよ!」

白雪「うん、分かった」ニコッ

整備兵「……へいへい」ヤレヤレ

間宮「お粗末さまでした。お昼ごはんも楽しみにしていてくださいね」フリフリ

漣・白雪・整備兵「ごちそうさまでした!」フリフリ

本日はここまで。明日はできるか微妙です(できなければ月曜日以降となります)。
遅ればせながら、乙期待支援感想にお礼を申し上げます。感謝です。

【運動場】

漣「ここが運動場。陸の上でもできる訓練とか、体力作りとかをやるよ!」

白雪「広ーい……」

整備兵「暑っ……。こんな日に外で体力作りなんてしたら倒れるぞ……って、向こうから誰か来るな」

タッタッタッタッタッ……

神通「あの……整備兵さん、こんにちは」ペコリ

川内「」ヨロヨロ

那珂「」フラフラ

整備兵「三人とも……一体どうしたんだ?川内と那珂が今にも倒れそうだぞ……?」

神通「ええと、先ほど提督が二人に罰則を命じられまして……運動場を昼食までに10周と……」

漣「うわー……」

白雪「そ、そんな……」

神通「おや……そちらは、新しく建造された子ですか?」

白雪「はい。特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪といいます」ピシッ

神通「では、私とは水雷戦隊仲間ですね。私は軽巡洋艦神通。こちらが姉の川内、こちらが妹の那珂ちゃんです。……よろしくお願いしますね」

白雪(な、那珂ちゃん……さん?)

神通「白雪さんは、内洋艦隊に?」

白雪「そうです。神通さんは……?」

神通「私たち三姉妹と、鈴谷さん、熊野さん、それに正規空母のお二人は外洋艦隊に所属しています。他の鎮守府の艦隊と、協同作戦を実施することも多いんですよ」

白雪「す、すごい方がたくさんいらっしゃるんですね……」

神通「ですが、私たち外洋艦隊の帰る場所を守るのは白雪さん達の役目です。……大切なのは、鎮守府の皆さん全員で心を一つに頑張っていくことですよ」ニコ

白雪「……はい」ニコ

整備兵「ところで、そういえば神通は罰則を命じられてないんだよな?それなのに……」

神通「二人が、あの、やはり心配で……私も一緒に走っているんです」

漣「神通さんは優しいからね……」

神通「いえ……姉と妹が迷惑を掛けたのですから、当然です」

整備兵「何というか……あまり無理はするなよ……」

神通「はい。では……川内姉さん、那珂ちゃん、行きますよ」

川内「眠い……暑い……うぁぁ……」

那珂「アイドルは……へこたれないん……だから……」

タッタッタッタッタッ……

整備兵「神通はやっぱり苦労人みたいだな……」

白雪「でも神通さん、さっきこちらに走ってきたときも息一つ乱していませんでしたね……」

漣「神通さんはうちの水雷戦隊の司令塔だからね!航行も砲撃も上手だし、あの三人の中で一番戦果を上げてるのは神通さんだと思うよ?」

白雪「そ、そうなんだ……!?」

整備兵(人は見かけによらないな……)

【弓道場】

ヒュッ……カンッ!

漣「漣だよー!翔鶴さん、瑞鶴さん、いる?」ガラッ

翔鶴「あら、漣ちゃん」

瑞鶴「どうしたの、漣……あれ?」

整備兵「おはようございます」ペコリ

白雪「おはようございます」ピシッ

漣「今、二人に鎮守府を見せて回ってるトコなの」

瑞鶴「整備兵さんと……そっちは新しく入った艦娘?」

白雪「はい。特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪といいます」

翔鶴「白雪ちゃんね。私は正規空母の翔鶴。よろしくね」

瑞鶴「私は瑞鶴。翔鶴姉の妹よ。航空戦のことなら、私達に任せなさい!」フフン

白雪「は、はい……」アハハ

漣「翔鶴さん達は何してたの?」

翔鶴「今日は各自で訓練と言われていたので、二人で艦載機の発着艦の練習をしていたの」

整備兵(艦載機……何か分かるかも知れない)

整備兵「その練習、見せてもらうことってできるか……?」

瑞鶴「あれ、整備兵さん、艦載機に興味あるの?」

整備兵「もちろんそれもあるんだけどな。実は、俺の仕事というのが……」

カクカクシカジカ

翔鶴「そういうことでしたか……。艤装の仕組みを知る助けになるかもしれないので、見てみたいというわけですね」

整備兵「良いか?」

瑞鶴「もちろん。お安い御用よ!」

整備兵「念のために聞くけど、二人は艤装の仕組みについて何か知らないか?」

翔鶴「扱い方は何となく感覚的に分かるのですが、仕組みとなると……」

瑞鶴「妖精さんにしか、分からないんじゃないかな……」ウーン

整備兵「漣と白雪も同じか?」

漣「ですね……」

白雪「私はまだ実際に艤装を扱ったことは無いですが……確かに使い方は分かるような気がします。仕組みについては、皆さんと同じで分かりません」

整備兵「……分かった。じゃあ、早速練習を見せてもらえるか?」

翔鶴・瑞鶴「……」スッ

整備兵(へ?弓矢……?)

翔鶴・瑞鶴「……」

整備兵(まさか、弓で艦載機を発進させるなんて言わないよな……いやそもそも、つがえてるのがごく普通の矢だし……)

ミーンミンミンミン……

ジジジジジ……

翔鶴・瑞鶴「……戦闘機隊1番機、発艦!」パッ

ヒュッ……ブゥン!

整備兵(一瞬で、矢が小さい艦載機に……!?)

バババババッ!

的「」コッパミジン

漣「よっ!お見事!」

白雪「す、すごいです!」パチパチ

瑞鶴「ま、ざっとこんなもんよ。ふふん」ドヤァ

翔鶴「このように矢を放つと、艦載機を発艦させることができます。ただ、撃ち出すときに、こうして妖精さんに声で命令を発してあげないといけないのですが……。いかがでしたでしょうか、整備兵さ……ん……?」

整備兵「」ボーゼン

瑞鶴「おーい!整備兵さんってば!」フリフリ

整備兵「……はっ!すまん、少し驚いただけだ」

翔鶴「もしかして、艦娘方式の発着艦をご覧になったのは初めてですか?」

整備兵「ああ……しかし驚いた。まさか弓矢とは……」

瑞鶴「私達と鳳翔さんは弓矢で、龍驤は巻物と紙人形で艦載機を発艦させるの」

整備兵「ちょっ、ちょっと待て。弓矢はこの目で見たから良いとしても、巻物に……紙人形?」

瑞鶴「そうそう。式神って知ってるわよね、陰陽師が紙の形を変えたり動かしたりするやつ。大体あんな感じよ」

整備兵「……こりゃ本格的に人智を超えてきてるな……」

翔鶴「突然、混乱させたでしょうか……?」

整備兵「いやあ、何か、艤装の仕組みなんて到底解き明かせる気がしなくなってきた」アハハ

整備兵「でもまあ、そんな冗談を言ってる場合じゃないな。……次は、艦載機を詳しく見せてくれないか?」

翔鶴「分かりました。……帰投してください!」

ブゥン

整備兵(あ、降下してきた……)

翔鶴「着艦のときは、この飛行甲板を使います」スッ

ヒュッ……カッカカカッ……キイィ……

翔鶴「これで着艦完了です。どうぞ、自由に見てください」

整備兵「ありがとう。さて……」ジー

整備兵(手で握れそうなほどの大きさ……まるで模型みたいだが、ワイヤにしても鋲の一つ一つにしても、精密さが尋常じゃないな……)

整備兵「零式艦戦の……二一型か?」

瑞鶴「そうよ。よく知ってるわね」

整備兵(いやいや、一体どうやったら矢からこんなものが……)

ガラガラッ

整備兵「うわ、風防が勝手に……!」

零戦妖精「」ケイレイ

翔鶴「あら、妖精さん。お疲れ様でした。今日も完璧な飛行でしたよ」ニコ

零戦妖精「」エッヘン

整備兵「龍驤から話は聞いてたが……やっぱり、艦載機も妖精が操縦しているのか」

翔鶴「はい。私達のように単独では非力な空母娘にとっては、盾となり刀となってくれるこの子たちが一番の誇りなんです」

整備兵「そうか……」

整備兵(見た目は別に怖そうじゃないが……この妖精も、話してみたら工廠長みたいなんだろうか)

整備兵「……えー、ごほん。俺は整備兵。この鎮守府の工廠で働いてるんだ。よろしくな」

零戦妖精「」コクコク

整備兵(ん?どうして頷くだけで話さないんだ?)

整備兵「……な、何か、話してくれても良いぞ?」

零戦妖精「」ブンブン

整備兵「ええと、話したくない、のか?」

零戦妖精「」ブンブン

整備兵「それも違う……となると、もしかして、話せないのか?」

零戦妖精「」コクコク

整備兵「これは……一体……?」

瑞鶴「何言ってるの整備兵さん。妖精さんはみんな話せないのが当たり前よ?」

整備兵「いや、そうなんだが、俺となら話せるはずなんだ」

翔鶴・白雪「……?」キョトン

瑞鶴「えー……?」

整備兵「……おーい」フリフリ

零戦妖精「?」クビカシゲ

整備兵「……」

瑞鶴・漣「……」シラー

整備兵「やめてくれ……俺をそんな可哀想なものを見る目で見るな……」

瑞鶴「だって、全然話せてないじゃん……」

整備兵「工廠にいた妖精達とは話せたんだがなあ……」ウーン

漣「何かの間違いじゃないですか?幻聴とか、頭のネジが飛んでたとか」

整備兵「んなわけ……」

白雪「あの!私も建造されてすぐに見たんです。整備兵さんと工廠の妖精さんが話しているところを。だからきっと、整備兵さんが妖精と話せるのは本当だと思います」

漣「えー……?白雪ちゃんも見た、か……」ウーン

瑞鶴「でもやっぱり、まだ疑わしいわね……」

全員「……」

漣「……あっ、もうこんな時間に!まだ回りたいところがあるので、その話は一旦置いといて次行きましょう!」

翔鶴「では、漣ちゃん、白雪ちゃん、整備兵さん。またお昼の時間に会いましょうね」

瑞鶴「整備兵さんはもう寝た方が良いんじゃないの……?」

整備兵「だから幻覚じゃないって言ってるだろ……」

瑞鶴「あはは、冗談だってば。またね、三人とも」

漣「お邪魔しました~♪」

白雪「お邪魔しました」ペコリ

整備兵「お邪魔しました……」

整備兵(どうも腑に落ちないな……)

本日はここまで。次回はちょっと未定ですが、今週中にはやれると思います。

【宿舎前】

漣「ここが、漣たち艦娘が住む宿舎。一人部屋から三人部屋まであって、大体同型艦が相部屋、同型艦がいなければ一人部屋になってますね。……ちなみに、男子禁制ですので」ジロッ

整備兵「は、入る用もねえよ!」

白雪「あはは……漣ちゃんも一人部屋なの?」

漣「昨日まではね」

白雪「……?」

漣「今日からは白雪ちゃんと相部屋にするって決めたから!」ビシッ

白雪「そ、そうなんだ!?」

漣「嫌かな……?」ウルウル

白雪「う、ううん!そんなことないよ!こちらこそよろしくね」ニコ

漣「( ゜∀゜)b ケイカクドオリ」

整備兵「邪悪な顔だ……」

鈴谷「あ、整備兵さんじゃーん。ちーっす!」トコトコ

熊野「おはようございます。宿舎に何か御用でも?」トコトコ

整備兵「鈴谷と熊野か。今、漣に鎮守府を案内してもらってるところなんだ」

鈴谷「へえ……あ、そっちの子は新しく来た子?」

白雪「はい。特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪……」

鈴谷「白雪ちゃんかー。おさげかわいいねー、さらさらー」グイグイ

白雪「ひひ、引っ張らないでください!」アワアワ

熊野「……鈴谷」ジロッ

鈴谷「へいへい」パッ

白雪「……」ホッ

熊野「わたくしが熊野で、こちらが鈴谷ですわ。鈴谷はただ調子に乗りやすいだけですので、怖がらないであげてくださいな」

白雪「は、はい……」

漣「二人はここで何してたんですか?」

鈴谷「部屋に戻って、熊野が昨日夜間警備で使った零式水偵の整備してたんだー」

整備兵「整備?」

熊野「整備と言っても、汚れを落として表面を磨く程度ですけれど……哨戒飛行しただけなら、妖精さんの力を借りるほどではありませんから」

整備兵「艤装は普段から宿舎に置いてるのか?」

熊野「基本的に、わたくしたち全員、使っていないときは艤装を自分の部屋に置くことになっていますわ。非常時に備えるため……と」

整備兵「そうなのか」フムフム

鈴谷「そんじゃ、鈴谷たちはもう行くね」

熊野「では、ごきげんよう」ペコリ

鈴谷「白雪ちゃん、またおさげ触らせてね~」ニヤニヤ

白雪「さ、触らせませんっ!」

【港】

ザザーン……ザザーン……

白雪「わぁ……きれいな海……」

漣「でしょ?あっちの方に工廠があって、反対のそっち側には司令部があるの」

白雪「本当!建物がよく見えるね」

漣「そうそう。それで、向こうの方の海が演習場。他の鎮守府の艦隊と模擬戦闘をしたりするんだよ。普段は入れないけど……」

白雪「結構、遠くにあるんだね……」

整備兵「……いやあ、風が気持ち良いな」ポツリ

龍驤「せやなぁ……」ボー

整備兵「うわっ!?……龍驤、いたのか。何してるんだ?」

龍驤「見ての通り、釣りや」カチャカチャ

整備兵「成果のほどは?」

龍驤「アカンわ。さっぱりや」ゴロン

整備兵「こんなところで寝るなよ……」

漣「あっ!龍驤さん、こんにちは!」

龍驤「お、漣か。隣が新入りの……白雪やな。提督に聞いたで」

白雪「はい。よろしくお願いします」ペコリ

龍驤「おんなじ内洋艦隊のメンバーとして、仲良くしようや」ニッ

鳳翔「あら皆さん、こんにちは。白雪さんは初めまして」トコトコ

整備兵「こんにちは、鳳翔さん」

漣「こんにちは!」

白雪「はじめまして。よろしくお願いします」ペコリ

鳳翔「はい。……ところで龍驤さん、今は訓練もしくは整備の時間ですよ?」

龍驤「休憩や休憩。おいしい空気吸って、気分転換せなあかんときもあるんや」グテー

鳳翔「では提督には、龍驤さんは気分転換のため休憩していたと正しくお伝えしておきますね」ニッコリ

龍驤「いや、いやいや!そういう話でもないやろ、な?もうちょーっと穏便にいこうや?」アセアセ

鳳翔「でしたら近々、久しぶりに私と艦載機の特訓でもいたしましょうか。暑いのが嫌でしたら、夜でも構いませんよ?」

龍驤「げっ……そ、それもできれば遠慮したいかなー、なんて……」

漣「鳳翔さんはこの鎮守府に最初に来た空母なんだよ。だから他の空母の人はみんな鳳翔さんに艦載機の腕を鍛えてもらったんだけど、練習がすっごくすっごく厳しいんだって……」ヒソヒソ

白雪「そ、そうなんだ……」

整備兵(神通さんといい、静かに怖い人が多いな……)

漣「そろそろお昼の時間だね。帰ろっか」

白雪「でも、龍驤さんたちは……」

漣「大丈夫。後からすぐに戻ってくるから」

>アカンアカン、コンカイバカリハ!コンカイバカリハ!

>ハンセイシテイルンデスカ、モウ……

整備兵「ははは……」

【食堂】

コトッ

漣「ごちそうさまでした!今日も元気でメシがウマい!」

白雪「お昼ご飯も、とても美味しかったです」

間宮「お口に合って良かったわ」ニコッ

鳳翔「――ええ。戦闘機は全員、零戦の二一型を」

龍驤「他には、雷撃機に九七式艦攻と、急降下爆撃機に九九式艦爆を使ってるんや」

整備兵「後継機の開発はどんな状況だ?」

鳳翔「零戦の五二型は配備の目途が立ちそうなんですが、天山や彗星はまだ飛行隊を組めるほどの数も無いんです」

整備兵「偵察機はどうだ?二式艦偵……は、彗星も揃っていないとなると無いか」

龍驤「あらへんなぁ……専用の機体は無くて、艦攻を何機か偵察に回してる状態や」

整備兵「そうか……」

白雪「あ、あの」

整備兵(あれだけ規模の大きい工廠を持っていて艦娘も多いのに、開発はあまり進んでいないみたいだな……)

白雪「すみません……」

整備兵(艦載機の更新は後回しになっているのか……?いやしかし、空母の能力をほぼ決めると言っても良いぐらい価値のある艦載機より先に必要なものなんて、そもそもあるのか?)

白雪「整備兵さん……?」

整備兵「……!な、何だ?」クルッ

白雪「整備兵さんはどうして、私たちの……整備兵さんにとってはずっと昔の兵器について、色々ご存じなんでしょう?」

整備兵「ああ、うん、まあ……もともと俺自身、大戦期の兵器とかに子供の頃から興味があったのもあるけど……一番は、昔、工作学校でやった近代兵器学の勉強のおかげかな」

白雪「近代兵器学……ですか?」

整備兵「その名の通り、近代……特に大戦期の兵器の構造や能力について学ぶ分野だ」

白雪「でも、どうして工作学校でそんな勉強をしたんですか?もう六十年以上も昔の兵器のことを……」

整備兵「ああ、それは……」

ブーーーーーーッ ブーーーーーーッ ブーーーーーーッ

整備兵「……!何のサイレンだ!?」

提督『――以下の者は、至急提督執務室へ集合せよ。翔鶴、瑞鶴、鈴谷、熊野、漣、白雪、整備兵。ただし、整備兵以外の者は艤装を装着のこと。繰り返す。以下の者は――』

【執務室】

提督「全員集まったようだな。時間が無いので手短に話す。よく聞け」

整備兵「……」ゴクリ

提督「現在時刻より12分前、早瀬穂(させぼ)鎮守府所属の部隊から、宮崎市の北東約130kmの沖合で深海棲艦の部隊の離脱を許したという連絡が入った。離脱方向は、恐らく北ないしは北東方向……すなわち瀬戸内海方面と推定されている」

翔鶴「敵の兵力は判明していますか?」

提督「約1時間に渡って早瀬穂の部隊と交戦した後、潰走した敵中規模機動部隊の残党だとのことだ。軽母ヌ級が3隻、重巡リ級が1隻以下、随伴に若干数の駆逐ロ級もしくはハ級との報告を受けている」

瑞鶴「護衛は少なそうだけど……軽母が3隻っていうのはちょっとした脅威ね」

提督「予測が正しければ、間もなく敵艦隊は早瀬穂の管轄海域を出てこちらの管轄海域に侵入する。翔鶴、瑞鶴、鈴谷、熊野、漣の5名は機動部隊を編成、出撃の後、敵残存艦隊を捜索・撃破せよ。旗艦は翔鶴だ。頼めるな?」

翔鶴「はい」

提督「それと、鈴谷、熊野。カタパルトは置いて行け。索敵は空母の二人で十分だ。かわりに……そうだな、機動部隊同士の戦闘になる。機銃を乗せるのが良いだろう」

鈴谷「りょうかーい」

熊野「了解ですわ」

漣「ご主人様、白雪ちゃんと整備兵さんは……?」

提督「二人は工廠に向かい、艦隊の帰投に備えて艤装等の修復の準備を行え。艦隊に何らかの損害が出るかもしれん」

整備兵「分かった」

鈴谷「まーそんなに心配しなくていいよ?さくっと倒してきちゃうからさ」

熊野「そういういかにも危険そうなセリフを言わないでくださる?」ペシッ

鈴谷「いてて……」

提督「敵は残党とはいえ十分な航空兵力を備えている。全員気を引き締めてかかるように。以上だ」

全員「はい!」ビシッ

本日はここまで。次回は、できれば土日にやりたいと思います。

【沖合】

翔鶴・瑞鶴「偵察隊発艦!」

シュンッ シュンッ

九七式艦攻妖精(以下九七妖精)「」シュツゲキ-

ブゥゥン……

翔鶴「輪形陣を組んで航行しながら、私の偵察機で索敵を行います。敵に先手を取られることの無いよう、皆さんも警戒を怠らないようにしてください」

瑞鶴「制空と攻撃は私と翔鶴姉が担当するわ。三人とも、用意は良い?」

鈴谷「もちろん!敵機が来たら、この20.3cm連装砲が火を噴くから!」

漣「主砲じゃなくて、さっき載せた機銃使ってくださいヨ」

熊野「わたくしも準備万端ですわ」

漣「オッケーです……たぶん……」

翔鶴「大丈夫みたいですね」ニコッ

提督『ザザザッ――今現在、監視中の近隣泊地からも敵艦隊確認の報は来ていない。敵はまだ海岸から離れた洋上を移動中とみられる。以上』

翔鶴「分かりました。……では皆さん、しばらくはこのまま南西へ向かいます。何度も言いますが、対空・対水上警戒は怠りなく」

全員「はいっ!」

ツーツートンツートントンツーツー……

翔鶴「……偵察機より入電。敵機動部隊発見。軽母ヌ級2隻、重巡リ級1隻、駆逐ハ級3隻です!」

瑞鶴「よしっ、来たわね!第一次攻撃隊発艦!」

ヒュッ

翔鶴「戦闘機隊・爆撃隊第一波発艦。瑞鶴隊の援護に回って!雷撃隊は待機してください!」

シュンッ

零戦妖精達「」イクヨー

九七妖精達「」ライゲキビヨリダー

九九艦爆妖精(以下九九妖精)達「」イェーイ

ブゥン……

提督『敵の進行方向は?』

翔鶴「私たちがいる方向へ、ほぼ真っすぐに進んでいるようです。まだ、気づかれてはいないと思いますが……」

提督『分かった。彼我の距離を保ちながら、確実に制空権を掌握しろ』

翔鶴「はい。……艦隊、左回頭!」スッ

全員「了解!」スッ

キラッ

鈴谷「……ん、あれ何だろ?」

熊野「あれ、ですの?何も見えませんけど……?」

鈴谷「右の雲の端っこで、何か光ったような気がしたんだよね……」ジッ

熊野「鳥か何かか、それとも……」

鈴谷「……っ!熊野、少し黙って!」スッ

鈴谷(よぉく狙って……)

ドォン

敵偵察機「グギャアッ!」バァン

瑞鶴「敵の艦載機!?……まずいわね、位置を知られたかしら。念のため……直掩隊、発艦!」ヒュッ

翔鶴「対空警戒を密にしてください!」

熊野(敵は軽空母が2隻……偵察が一機とは思えませんわ。どこかにまだ敵が……)チラッ

熊野「……」ジッ

熊野「……」

キラッ

熊野「……そこですわ!」ガシャッ

ドォン

敵偵察機「……!?」ドゴォン

鈴谷「あっちにもいたの?熊野すごっ!」

熊野「最初の一機に気づいたのは鈴谷ですわよ。集中力ではわたくしなど到底かないませんわ」

漣「あんな遠くにいる敵機を主砲で一撃ってだけで、二人とも十分すごいです……」

瑞鶴「二人が見つけなかったら、絶対触接されてたもんね……でも、まだ油断しないで」

翔鶴「提督、敵偵察機2機発見、共に撃墜。敵艦隊に発見されたと思われます。敵艦隊との距離は十分にありますが、間もなくヌ級が攻撃隊を出してくるでしょう」

提督『2機、か……ならば、ほぼ敵の偵察は振り切ったと考えて良いな』

瑞鶴「どうして?」

提督『奴らは早瀬穂の艦隊との戦闘で戦力がすり減っていて、あまり偵察機を多く出す余裕が無いはずだ。さらに奴らは不意の襲撃に備えるため、全方位に偵察機を放たなければならない。ヌ級程度の搭載力では、同じ空域に留まれる偵察機は2機が限界だ』

漣「確かに……」

提督『だから、全く発見されないよりも、むしろ一瞬だけ発見された後に後続の情報を絶ったというこの状況の方が恐らく俺達に有利に働くだろう。このアドバンテージを最大限に利用すべきだが……ふむ』

提督『……よし、艦隊は直ちに、敵艦隊の進行方向に対して直角に航行せよ。進攻してくる敵攻撃隊及び敵艦隊の側面を突く』

翔鶴「……!了解しました!」

瑞鶴「偵察隊から入電よ。敵機動部隊より、攻撃隊計40機程度の発艦を確認!」

翔鶴「あまり余裕はありませんね……。艦隊右回頭。皆さん、全速で東北東へ……あの小島の方角へ移動してください!」

ブゥン……

ヌ級艦攻「……」

ヌ級艦爆「……」

ヌ級『……チョクシン、イケ……』

ヒュウウッ……

ヌ級艦戦「……?」

零戦妖精A「」オラァー!

零戦妖精B「」カチコメー!

ヌ級艦戦「……!?」

バババババッ!

ヌ級艦戦「」ボォン

翔鶴『接敵後、私の隊は制空に専念。瑞鶴の戦闘機隊が到着するまでに敵護衛戦闘機を排除してください』

零戦妖精C「」リョウカイ

零戦妖精D「」ソウコナクッチャ

ヌ級艦戦「……」ブゥン

バリバリバリッ!

零戦妖精C「」テキダー

零戦妖精D「」ミギミテミギ

零戦妖精A「」ヒョイ

零戦妖精B「」アブナイアブナイ

零戦妖精C・D「」テェー!

バババババッ!

ヌ級艦戦「」ズガァン

零戦妖精C「」テキハコンランチュウッポイ?

零戦妖精D「」テイクウニヒキコンデタタキオトセー

零戦妖精達「」ラジャー

ヌ級A「……ヒガシカラテキキ?ドウナッテイル?」

ヌ級B「テキハイドウシタノカ……?」

ヒュウウウウ……

リ級「……ッ!?」クルッ

ドゴォンッ!

九九妖精「」テキハッケン

九七妖精「」コウゲキセヨー

ヌ級A「テキキタスウ……ゲイゲキセヨ……」カパッ

ヌ級艦戦「ギギギギ……」ブゥン

零戦妖精「」ソウハサセナイヨ-

ヌ級艦戦「……」ブゥン

零戦妖精「」コッチガアイテ

ヌ級艦戦「……キシャァァッ!」

翔鶴「……やりました!攻撃隊が敵機動部隊の襲撃に成功。ヌ級1隻・リ級1隻・ハ級2隻撃沈、ヌ級1隻・ハ級2隻撃破、損害は軽微とのことです」

瑞鶴「迎撃隊からも入電よ。敵攻撃隊の過半を撃墜、間もなく帰投。散り散りになった敵残存機も、現在攻撃隊の護衛戦闘機が掃討中」

鈴谷「やったね、鈴谷たちの大勝利!」

熊野「一時はどうなるかと思いましたけれど……」

漣「あれ、でも確か、敵のヌ級って3隻じゃありませんでしたかご主人様?」

提督『早瀬穂からはそう聞いている。3隻程度でも3隻以下でもなくちょうど言ってきたところを見ると、確かなはずだが……』

瑞鶴「でも、撤退中の敵が分かれて行動するとも思えないし……誤認じゃないかしら?」

零戦妖精「」ブゥン

翔鶴「あら、お帰りなさい。よく頑張ってきてくれましたね」スチャッ

カカカッ……キイィッ

零戦妖精「」バタバタ

翔鶴「え、ええと、電鍵ですか?……はい、どうぞ」

零戦妖精「」カタカタカタカタ

トントンツーツーツートンツートン……

翔鶴「……はい、ええ…………何ですって!」

瑞鶴「どうしたの翔鶴姉?」

翔鶴「私の所属の零戦隊がすぐ先ほど、ごく少数ながら敵攻撃隊とは別の敵機を目撃したそうです。一瞬でしたし、距離も遠かったので見失ってしまったそうですが……」

瑞鶴「それが、まさかもう一隻のヌ級の……」

鈴谷「でもそれなら、今頃もう見える範囲に来てるはずだよね……鈴谷たちを狙ってるなら、なおさらさ」チラッ

熊野「雲も全く出ておりませんし……それらしい影も見えませんわね」キョロキョロ

瑞鶴「提督さん、そういうことみたい。雲も無い快晴で、周りは全部開けた外海。見えるものといえば、東の少し遠いところに、さっき移動の目印にした小島があるくらいで……」

翔鶴「島……島?」ハッ

提督『待て、小島だと?』

瑞鶴「ええ、そうだけど。本当に小さい島よ。急な崖に囲まれてて、小さいわりには結構高いけど……あっ」

漣「あ」

熊野「あっ」

鈴谷「あーっ!」

提督『……瑞鶴らしくもない。何だ、最近大きな作戦が無かったからなまっていたんじゃないか?』ヤレヤレ

瑞鶴「そ、そんなこと無いわよ!……でももう分かったわ、偵察隊発艦!」ヒュッ

提督『時間がかかりすぎている……奴らが出てきたところで鉢合わせになるかもしれん。帰還した翔鶴の戦闘機隊も飛ばしておけ』

翔鶴「はい!すみません。できれば休ませてあげたいのですが……」ヒュッ

零戦妖精A「」イイッテコトネ

瑞鶴「そろそろ偵察隊が島の直上に着くわね」ジッ

翔鶴「間に合えば良いのですが……」

……ブゥン!

漣「て、敵機です!島の裏側から敵機多数!」

熊野「遅きに失しましたわ……!」グヌヌ

翔鶴「偵察隊は即時帰還。戦闘機隊は正面からぶつからず、敵の集結を妨害しながら増援を待ってください!」

瑞鶴「……」ヒュッ

瑞鶴(迎撃隊は出したけど、あの裏に残りのヌ級がいるのは確実。爆撃隊で、逆に島影から不意を突いて一気に……)スッ

提督『翔鶴と瑞鶴は雷撃機を出せ。島を迂回して敵軽空母を攻撃せよ』

瑞鶴「えっ?」

提督『奴らは今まさに島影を利用しているところだ。こちらが同じ手で挑んでも、間違いなく何か対策が施されているだろう。その上、制空権争いが熾烈な島の上空に迎撃隊と爆撃隊を同時に送り込めば、無用な混戦を生む』

瑞鶴「それもそうね……」

提督『それに、島の頂上は一つしか無いが、回り込むならどちら側からでも良いからな』ニヤッ

瑞鶴「……ふふっ、ありがとね提督さん」

翔鶴「瑞鶴、私が北側から行くわ」スッ

瑞鶴「分かった。私は南ね」スッ

翔鶴・瑞鶴「「行くわよ!攻撃隊、発艦!」」ヒュッ

ヌ級艦攻「」ヒョイッ

零戦妖精A「」テキオオスギー

零戦妖精C「」ヤバイッポイ?

翔鶴「わずかですが、迎撃網を抜けた敵機があるようです!総員、対空戦闘用意!」

漣「あいあいさー!……鈴谷さん、熊野さん、機銃は持ちましたか!」

鈴谷「……あっ、あそこかー」スッ

熊野「バレバレですわね」スッ

漣「えっ、なんで二人は主砲を」

鈴谷「てぇー!」ドゴーン

熊野「とぉぉ↑おう↓!」ドゴーン

ヌ級艦爆「」バァン

ヌ級艦攻「」ボォン

漣「」

鈴谷「次弾そうてーん!」ドォン

熊野「とぉぉぉぉ↑おうぅぅぅ↓!!」ドォン

ヌ級艦爆「」ズガァン

ヌ級艦攻「」ドガァン

熊野「ふう。何とか撃退できましたわね」スチャッ

漣「いやいやいや!対空戦闘を主砲でやらないでくださいよっ!」

鈴谷「えー、だって機銃よりこっちの方が使い慣れてるし、射程も長いし……」

漣「それはまあ、確かに二人とも射撃はとっても上手ですが……ですがですネ……」

瑞鶴「艦攻隊より!『ワレ奇襲に成功セリ』!敵軽母ヌ級、大火災を起こして轟沈だって!」

翔鶴「やったわね、瑞鶴」ニコッ

翔鶴「……では皆さん、帰路も気をつけて帰りましょう」

全員「おー!」

本日はここまで。更新が遅れてしまい申し訳ありません。次回は金曜日までにやりたいです。

【工廠】

鈴谷「艦隊の凱旋だよー」

ゾロゾロガヤガヤ

整備兵「おう。お帰り、みんな」

白雪「皆さん、ご無事で何よりです」ペコリ

熊野「あの程度の寄せ集めごときに後れを取るようなわたくしたちではありませんのよ」フフン

龍驤「お!もう帰ってきてたんか!」トコトコ

整備兵「龍驤まで、どうしたんだ?」

龍驤「ちょっと海岸の方を散歩してたら、帰投してくる翔鶴たちが見えたんや」

漣「またサボりですか……」

龍驤「鳳翔のお許しは出とる。ま、かわりに特訓を三日連続で入れられたんやけど」

整備兵「それ、もっと良くないんじゃ……」

龍驤「後のことは後のことや。今が大事やねん」

整備兵「ただの能天気にしか聞こえないんだが」

翔鶴「――翔鶴戦闘機隊、損傷2機。艦爆隊、喪失1機、損傷1機。艦攻隊、損傷2機です」

工廠長「いち、にー……あいよ」カキカキ

工廠妖精A「損害が少ないと、忙しくなくて良いですなあ!」

工廠妖精B「そうっスね!今日なんて、入渠の準備もいらないっス」

瑞鶴「私は戦闘機隊に損害なし。艦爆隊が――」

整備兵「……損害報告か?」

龍驤「せやな。今日は艦には被害が無いみたいやから、工廠ですることは艦載機の補充と修理だけやな。……ほら、見てみ?ああやって、損傷を受けた機体は妖精が修理するんや」

工廠妖精A「こりゃ難儀でさぁ……右の翼が半分無くなってます。おまけにエンジンもふっ飛んじまってて」ガチャガチャ

工廠長「修理にかかる時間は断面の状態にもよるからなァ……その辺が分かったら、また報告しろ。良いなァ?」

工廠妖精A「わかりやしたっ!」ビシッ

整備兵「あんな状態の飛行機を修理できるのもそうだが、あれに乗って帰還できるなんて妖精はすごいんだな……」

龍驤「ここの艦載機妖精は優秀やからな。……いやいや、身内びいきってわけやないで。事実、寄越日(よこすか)鎮守府の元帥の艦隊を除けば、機動部隊の錬度で暮に勝てる艦隊はいないはずや」

整備兵「寄越日の元帥艦隊といえば、赤レンガのお膝元、海軍最強と名高い大艦隊だよな……ってことは、実質ナンバー2じゃねえか!」

龍驤「あくまで空母機動部隊としては、や。まあ、鈴谷と熊野は個人的に、砲撃の競技会で表彰台に乗ったりもしとるけど……」

整備兵「……なんか、な」

龍驤「なんや?」

整備兵(意外だな……龍驤とか、割とだらけてるイメージしか無いのに)

龍驤「……キミぃ、なんや失礼なこと考えとるやろ」ジトー

整備兵「いっ、いやいや、そんなことは無いぞ!」

工廠長「おい若造!」

整備兵「工廠長、なんだ?」

龍驤「あー、これが工廠長なんやな」

整備兵「……ん?龍驤には、この話してないよな?」

龍驤「昼に鎮守府中で噂になってたで。妖精とトークするイカしたメルヘンボーイ、整備兵っ!てな感じに」

整備兵「漣もしくは瑞鶴このやろぉぉぉっ!」

工廠長「若造ゥ!!」ガンガンッ

整備兵「うわっ、はい!すみません何ですか!」

工廠長「仕事だ仕事ォ!ここで働くとか言っといて、いきなり何にもせずに突っ立ってるつもりかァ?」

整備兵「わ、悪かった。何をすれば良いんだ?」

工廠長「ほら、ここに補充と修理に必要な資材が書いてあンだろ?これ全部、奥の倉庫から運んでこい」ペラッ

整備兵「分かった」

白雪「あの、整備兵さ……」

工廠妖精B「工廠長ー!この配管、取り替えた方が良いっスかー!?」

工廠長「うるせェ、大声出すな!すぐ行くから待ってろ!」

白雪「せ、整備へ」

工廠妖精B「申し訳ございませんっスー!」

工廠長「ったく、仕事が少ない気がしねェぜ。……じゃあ若造、ちゃっちゃとやっとけよ。そこに分けて積んどけば良いからな」スタスタ

整備兵「了解。さてさて、運ぶかな……」

白雪(全く気付いてもらえません……)ガーン

白雪(こ、今度こそ……)ソロソロ

整備兵「……いや、待て」

白雪(……?)ピタッ

龍驤「どないしたんや?」

整備兵(さっきの翔鶴の話では、喪失……つまり撃墜された機がいた。戦争には付き物だし、だからこそ『補充』と修理なんだろう)

龍驤「……」

整備兵(だが、艦載機は妖精が乗り込んで操っている。もし撃墜されれば、脱出でもしていない限り……)

龍驤「……キミ、ほんまに顔に出やすいなあ……」ヤレヤレ

整備兵「?」

龍驤「今、整備兵はんが何考えてるのか、当ててみせるわ。……撃墜された機体の妖精は、果たしてどうなったんやろなー、ってとこやろ?」

整備兵「……っ」

白雪(……!)

龍驤「結論から言うで。今のところ、ここの艦隊でも他の艦隊でも、被撃墜機の艦載機妖精が発見された例は無いんや」

整備兵「脱出や、救助は?」

龍驤「妖精の艦載機に脱出装置が付いとるかは分からんが、脱出した妖精はこれまた例が無い。艦娘のすぐ近くで撃墜された機体の周辺を捜索した部隊もあったみたいやけど、機体の残骸以外何も見つからなかったそうや」

整備兵「……辛いな」

龍驤「せやなあ……もち、ウチもそれなりには辛いで。空母娘はそういう点で不利なんや。砲や機銃の妖精と違って、艦載機の妖精とはどうしても離れて戦わなアカン。戦闘方法から来る、一種の宿命なんやろうな」

整備兵「……」

龍驤「その話、他ではせえへん方がええで。ウチなんかはまあ結構慣れとるけど、みんなやっぱり何となく気になるときはあるんや」

整備兵「……もちろんだ」

龍驤「そんじゃ、気合い入れてはよ倉庫行けや。急がへんと工廠長にシメられるで!」セナカパシッ

整備兵「お、おう!……ごめんな龍驤。それと、ありがとう」

龍驤「ええってええって。わざわざ余計な話始めたんは、ウチの方やしな。ほな、邪魔になるやろうからもう少し散歩してくるわ」フリフリ

整備兵「……ああ、あんまりサボりすぎるなよー」フリフリ

整備兵「……」クルッ

工廠長「――艦爆隊の欠員は?」

工廠妖精B「翔鶴隊6番機と、瑞鶴隊11番機っス!」

工廠長「工程表に書き込んどけ!尾翼に番号書くとき間違えんじゃねェぞ!」

工廠妖精B「はいっス!」

整備兵「……」

整備兵(……行くか)スタスタ

白雪「……」

ドスン

整備兵「腰が痛え……」

白雪「これで最後の一箱ですね。お疲れ様でした」

整備兵「ただの荷物運びかと思ったらとんでもない量だったな。工廠長の奴、ついでとか言って工具から何から運ばせやがって……でも、白雪が手伝ってくれたから早く終わったよ。白雪はどこか痛かったりしないか?」

白雪「いえ、大丈夫です。私も整備兵さんのお役に立てて嬉しいです」ニコッ

整備兵(ええ子や、ほんまええ子や)

工廠長「おう、終わったか。今日はこれで上がって良いぞ。明日からは本格的に開発をやってくからな」

整備兵「分かった。じゃあ、明日もよろしく、な……?」

??妖精「……」ウツラウツラ

整備兵(確かあれ、昨日白雪が建造されたときに、一瞬だけ出てきてすぐ消えた妖精だ……)

??妖精「……はっ」ピクッ

整備兵(ねじり鉢巻きに……はっぴ?ドライバーみたいな工具も持ってるし、工廠妖精か?)

??妖精「……はじめまして、整備兵さん」

整備兵「はい、こちらこそ、はじめまして……って、どうして俺の名前を?」

??妖精「工廠長から、聞きましたので……」

整備兵「ええと……じゃあ、君の名前は……?」

??妖精「そうですね……では、女神とでもお呼びください」

整備兵「女神……?」

整備兵(名前、なのか……?)

女神「そしてそちらが……白雪さんですね」チラッ

白雪「……?整備兵さん、この妖精さんともお話されてるんですか?」

整備兵「ま、まあな……。……女神、女神は工廠で働いている妖精なのか?」

女神「いいえ、そういうわけではありませんが……」

整備兵「ありませんが……?」

女神「……」ウトウト

整備兵「そこで眠るのかよ!」

女神「ああ、失礼しました……。ともかく、工廠で働くとは良い心意気です。工廠という場所には、船に比べるとどうしても地味な印象がありますから……」

整備兵「それは分かるよ。俺も工作学校時代から、艦に乗る機会が無くてずっと工廠にいたからな」

女神「そうでしたか……これも何かの御縁ですね。人はとかく、大きいもの、派手なもの、目立つものにとらわれがちです。小さいもの、地味なもの、日の当たらないものにも目を向けて、これからも精一杯励むのですよ……」

整備兵「は、はあ……あ、そうだ。一つ、聞いても良いか?」

女神「……」コクリ

整備兵「昨日、白雪が建造されたとき、女神が一瞬だけ艤装の近くにいたよな。あれは何かの仕事だったのか?それとも……」

女神「……日が、沈みますね」

整備兵「……へ?」

女神「この硬いレンガの壁の外、夕日が今まさに沈もうとしています……。そろそろ夕餉の時間でしょう。お仲間方を待たせては、いけませんよ……」

整備兵「え……いや、まあ、そうだが……」

女神「そちらの方も、お腹を空かせているようですし……」

整備兵「そちらの方……?」クルッ

白雪「は、はい?いえ、そ、そんなことは……」

グー

白雪「……」

整備兵「……」

白雪「……あっ、あの、これはそのっ!///」ワタワタ

整備兵「お、俺は何も聞いて……」

白雪「は、早く行きましょうっ!間宮さんも他の皆さんも、きっと私たちを待ってくださっているはずです!」ガリガリガリガリ

整備兵「い、行く行く!分かった!分かったからまずシャッターを引っかいてないで上げろ!」

本日はここまで。次は日曜日以降となります。


女神なら白雪も言葉分かるの?

>>213

他と同じく分からないはずだったのですが……すみません。大事なところでミスをしてしまいました。

>>211と差し替えをお願いいたします。>>213さん、ご指摘ありがとうございます。



整備兵「そちらの方……?」クルッ

白雪「は、はい?何でしょう?」

グー

白雪「……」

整備兵「……」

白雪「……あっ、あの、これはそのっ!///」ワタワタ

整備兵「お、俺は何も聞いて……」

白雪「は、早く行きましょうっ!間宮さんも他の皆さんも、きっと私たちを待ってくださっているはずです!」ガリガリガリガリ

整備兵「い、行く行く!分かった!分かったからまずシャッターを引っかいてないで上げろ!」

【港】

白雪「ところで、さっきの妖精さんとはどんなお話をされたんですか?」トコトコ

整備兵「ああ……とりあえず、あの妖精の名前は女神というらしい」スタスタ

白雪「女神……ですか?」キョトン

整備兵「そうだ。名前としては変だと俺も思うけど……」

白雪「その女神さんは……工廠で働いているんですか?」

整備兵「それは俺も聞いてみたんだ。女神は違うとだけ言ったんだが、じゃあ何の仕事をしてるのかってところは教えてくれなかった」

白雪「そうですね……私も今日は長い間工廠にいましたが、工廠妖精さんの中に女神さんのような服装の妖精さんはいなかったと思います」ウーン

整備兵「その後は、工廠で働くとは良い心意気だとか、小さいものにも目を向けて励めとか言われたかな……。何と言うか……少し神秘的な話し方をする妖精だった」

白雪「名前も女神さんですし、もしかしたら本当に工廠の守り神の妖精さんなのかもしれませんね」ニコッ

整備兵「ははっ、まさか……」

白雪「……そういえば、お昼に聞きそびれてしまったこと、今聞いてもよろしいですか?」

整備兵「昼に……ああ、近代兵器学の話か。何から話すべきか……そうだな。そもそもの始まりはもちろん、深海棲艦が現れたことだ。俺が中学の頃だな。全世界のあらゆる海域に突如として出現した深海棲艦に船舶を無差別に攻撃されて、各国は……まあ言ってみれば何だか訳の分からないうちに戦争に引きずり込まれた。ここまでは良いか?」

白雪「はい、知っています。その深海棲艦の脅威に対抗するために、私たち艦娘が戦っているんですよね」

整備兵「確かに、艦娘の力を借りた人類が何とか深海棲艦の勢力を押し返しつつある……ってのが今の状況だな。でも、この状況に至るまでには結構な紆余曲折があったんだ」

白雪「……?」クビカシゲ

整備兵「深海棲艦が現れた瞬間から、艦娘がいたわけじゃないからな」

白雪「……!そういえば、そうですね」

整備兵「深海棲艦が現れてすぐの時代に話を戻すぞ。放っておけば、世界の海運は文字通り寸断されることが確実になったんだ。世界中の海軍は混乱しながらも、保有する通常艦艇を総動員してそれぞれ深海棲艦に対抗しようと試みた。帝国海軍からも、ほぼ全ての護衛艦が対深海棲艦戦闘に駆り出された」

白雪「試みた……ですか?」

整備兵「ああ。……深海棲艦には、ミサイルも爆弾も魚雷も機関銃弾も、命中はするにも関わらず全く効かなかった。帝国海軍の最新鋭艦対艦ミサイルの直撃ですら、たかがイ級の装甲に傷一つ付けることができなかった」

白雪「そんな……」

整備兵「俺も高校の頃、地元の港から出航していく護衛隊を一度だけ見送ったことがあるんだ。俺は工作学校に行くことを決めていたけど、工廠勤務じゃなく艦隊勤務の兵ならああして出撃できるのかって思って悔しがったな。そして艦隊が港に帰ってきたときは、1隻健在、1隻小破……」

白雪「そ、そのくらいの被害でしたら……」

整備兵「……残りの2隻が、喪失だった」

白雪「……!」

整備兵「話によれば、戦艦級の敵複数に近接されて蜂の巣だったそうだ……とまあ、まともに戦闘することもままならないくらい、人類は追いつめられた。何を使って攻撃しても効かない。なのに相手は、船どころか沿岸の都市まで攻撃し始める。工作学校を出ても整備する船なんて残っていないんじゃないか、なんて話も良く聞いたよ」

整備兵「そしてそんな状態の日本に、最初の艦娘が現れた。俺も噂にしか聞いていないが、艦娘が現れたのは暮――この鎮守府のすぐ近くの海岸らしい。どこからか駆けつけて、作業中に深海棲艦の駆逐隊に襲撃された海軍部隊を守り、小さな砲を駆る妖精達とともに敵を壊滅させた……とか何とか」

白雪「その艦娘は、何という名前の人だったんですか?」

整備兵「それは分からない。何しろ噂だけだからな……。でも、その艦娘が手に持っていた砲は、旧海軍の14cm単装砲にそっくりだったらしい。そしてその艦娘の出現は、色々と謎を呼びながらも人類最後の希望とささやかれるようになったってわけだ」

白雪「14cm単装砲……川内さんたちも持っている砲ですね。ですが……そうです、そもそもなぜ艦娘の兵装だけは深海棲艦に効いたんでしょう?」

整備兵「そうなんだ。艦娘とは何なのか、という疑問と同じくらい誰もが思ったのは、そのことだった。最初は、艦娘の武器にのみ何かの力があると考えられたんだが……」

白雪「……?」

整備兵「同時期に他国から報告がもたらされて、状況は一変したんだ。曰く、稼働状態で博物館に保管されていた前大戦期の野砲で海岸沿いの深海棲艦を砲撃したところ、わずかだが損害を与えることに成功した……と」

白雪「それはつまり、昔の……大戦期の兵器であれば、深海棲艦に効くということでしょうか?」

整備兵「ああ。その後似たような事例が世界中で報告されて、海軍もそう結論付けた。その後、まだ一人しかいない上に情報の無い艦娘と戦うよりも、大戦期の兵器を人が扱う方が現実的だということで、それが海軍の基本方針になった。工作学校でも大戦期の兵器を学ぶ課目が作られて、『近代兵器学』と名づけられたんだ。……今から考えたら、突飛にもほどがあるけどな」

白雪「ですが、その頃の混乱の中では、他に手が無かったんでしょうね……」

整備兵「……そうだな。あと、もともと日本には現存している大戦期の兵器が少なく、ましてや稼働状態の物なんて無いも同然だという問題を解決するために、資源と古い設計資料をかき集めて大戦期の兵器の再生産も始められた」

白雪「再生産……でも、待ってください」

整備兵「どうした?」

白雪「例え昔の兵器であっても、『昔に作られた』のでなければ、効果が無いということは無いんでしょうか……?」

整備兵「……」クルッ

白雪「なっ、何でしょう?」パチクリ

整備兵「……すごいな、白雪。その通りだ」

白雪「え、本当に……そうだったんですか?」

整備兵「ああ。なぜだかは俺にも……多分お偉方にも分からないんだが、再生産された兵器は、現存していた前大戦の兵器と違って深海棲艦に対して効力を持たなかった。この方法も、時間と生産力の無駄遣いだったと分かったんだ。……もしそれが有効だったら、今頃は白雪たちを戦わせるなんて真似しないで、かわりに俺や提督が前線で深海棲艦と撃ち合ってたよ」ハハハ

白雪「……笑えない、話ですね」

整備兵「……悪かった。でもその頃になると、今度は工廠妖精や他の艦娘たちが次々と見つかり始めて、次第に艦娘を主力に戦おうという意見が優勢になっていった。……そして今に至る、かな。外国では艦娘がいないために苦戦を強いられているようだけれど、日本に限って言えば、ここ数年は艦娘が増えるとともに少しずつ航路や海域を奪回してきてるって状態だ」

白雪「……」

ザザーン ザザーン

整備兵「……ごめん、話が長くなっちゃったな」

白雪「いえ、知らなかったことをたくさん知ることができて良かったです。……私も艦娘として、早くこの戦争を終わらせるために頑張らなくてはいけませんね」

整備兵「あんまり肩に力を入れすぎるのも良くないんじゃないか……とはいえ、頑張らないといけないのは俺も同じか」ノビー

グー

整備兵「あ」

白雪「……」

整備兵「……」

白雪「……ふふっ」

整備兵「白雪、今笑ったな……?」ジー

白雪「ご、ごめんなさい!つい……!」ペコペコ

整備兵「いや、良いよ。あー腹減った……」

白雪「あ、あのですね、あまりにも良い音だったので、その……」グー

白雪「……へ?///」

整備兵「……ぷっ」

白雪「えうっ、え、ええとっ……!?」カーッ

整備兵「白雪は俺よりも夕飯が待ち遠しいみたいだな」ニヤッ

白雪「そ、そんなことありませんっ!」ポカポカ

整備兵「うぉっ、落ちる!岸壁近い岸壁近い!」

白雪「あっ……す、すみません」ショボン

整備兵「今のは俺も悪かった。お互いさ……」グー

ザザーン ザザーン

白雪「……」

整備兵「……」

白雪「……これで勝ち負け無しですね」

整備兵「ど、どういうことだ?」

白雪「今ので私も整備兵さんも、二回お腹が鳴りました。これで、おあいこです」ニコッ

整備兵「……ま、そういうことにしておくよ」ニコ

本日はここまで。次回は、イベントの進行状況にもよりますが、金曜日までにはやりたいと思います。

申し訳ございませんが、E6ラスダン中につき更新は明日以降に延期させていただきます。なるべく早く戻ってまいります。

【食堂】

全員「ごちそうさまでした!」

ワイワイガヤガヤ

鈴谷「よーし、早く帰って寝……」

熊野「鈴谷。夜間警備、忘れたとは言わせませんわよ?」

鈴谷「ぎくっ。……えー、熊野かわってよー。最近やってないじゃん」

熊野「昨日やったばかりですわ!」ムキー


川内「――だからそこで、塀を飛び越えて――」ヒソヒソ

那珂「――建物の陰から、さささーっと――」ヒソヒソ

神通「……え、えっと……」ハラハラ

提督「……次に何かしでかした奴がいたら、今度は運動場20周にするか」ボソッ

川内・那珂「」ビクッ

整備兵「ふー、食った食った……」

漣「白雪ちゃん、宿舎行こ!まだ家具の置き場所とか決めてないでしょ?」

白雪「うん、分かった。……整備兵さん、それでは」ペコリ

整備兵「ああ。また明日な」

提督「おい、整備兵。久々だ。少し付き合え」

整備兵「何にだよ?」

提督「これだ、これ」クイッ

整備兵「……店にでも行くのか?あまり鎮守府を空けるのは良くないんじゃなかったのか?」

提督「その点は問題無い。店には行くが、鎮守府からは出ないからな」

整備兵「?」

提督「まあ、とりあえずついて来い。すぐに分かる」

【居酒屋鳳翔】

鳳翔「あら、いらっしゃいませ」サラフキフキ

提督「な?」

整備兵「な?じゃねえよ。なんで司令部の建物内に居酒屋があるんだ……というか、鳳翔さんの店なのか」

提督「鳳翔がやってみたいと言うからな。作ってみた」

整備兵(いや、これは完全に海軍の職務の領域を外れてるだろ……)

鳳翔「提督、珍しいですね。最近いらっしゃるのは空母の皆さんばかりでしたが……」

提督「漣の案内ではここには来ていないだろうから、整備兵に見せておこうと思ってな」

鳳翔「そうでしたか。……今日は、いかがなさいますか?」

提督「そうだな……その奥から三番目の瓶で頼む。料理は鳳翔に任せる」

鳳翔「はい。白雪の上撰ですか……粋ですね」ニコ

整備兵「いやあ、しかし今日は長い一日だった」

提督「大体慣れてきただろう。明日からは本格的に仕事だぞ」

整備兵「あの妖精達と仕事ってのも、結構大変そうだけどな……」

提督「そこは頑張ってもらわないと困る。まあ、何とかなるだろう。というより何とかしろ」

整備兵「お前、結構容赦無いな」

鳳翔「お待たせしました。どうぞ」

コトッ コトッ コトッ

整備兵「おお、凄いもんだな……本当の街の店みたいだ」

鳳翔「うふふ、ありがとうございます」

提督「さて、乾杯だ」

整備兵「乾杯!」

チンッ

提督「……そろそろ、十年か」

整備兵「十年……ああ、深海棲艦が現れてからか」

提督「そうだ。まあ、俺が暮に来てからはまだ何年と経ってないがな」

整備兵「最初はここにも、提督と漣しかいなかったのか?」

提督「いや、間宮もいた。その三人から始まって、今では艦娘12人を抱える大所帯だ」

整備兵「言うほど大所帯……なのか?」

提督「これでも、一つの鎮守府としてはかなり多い方だ。今日はちょうど準備していたから出来たが、本来艦娘の建造はめったに……せいぜい数ヶ月に一度くらいしか出来ないことだからな」

整備兵「数ヶ月……そんなにか。資源事情が厳しいのか?」

提督「資源については、それほど差し迫っているわけじゃない。同様に資源を使う装備開発の方なら、もっと早いペースで出来る」

整備兵「なら、どうしてだ?」

提督「建造の場合、資源を妖精に渡しても断られることが多い。理由は分からないが、どうも建造は出来るときと出来ないときがあるようだ」

整備兵(出来るときと、出来ないとき……?資源以外にも、何か必要なものがあるのか?)

提督「だから、艦娘の総数も少しずつしか増えていない。急速な戦力増強はできず、新たな艦娘が建造されたら戦線をその分だけ拡大していく……言ってみれば自転車操業だ」

整備兵「今は、海軍全体でどれくらい艦娘がいるんだ?」

提督「120、あるいは130隻くらいだと聞いている。それが五つの鎮守府と、外地にあるものも含めて十数ヶ所の泊地・基地に割り振られているそうだ」

整備兵「ずいぶんと少なく見えるけどな……」

提督「既存の兵器と比べて、個々の戦力が凄まじいからだ。この数でも本土は概ね防衛できているし、最近では局地的な反攻も可能になっている。……だが結局、妖精に建造してもらう以外に艦娘を仲間に加える方法が無い以上、作戦もやはりその制限の中で行っていくしかない」

整備兵「そういう建造の困難さの原因を解明できれば、戦力の強化をより進められるってことか」

提督「まあ、それも整備兵の調査項目だ」

整備兵「仕事ばかり増えていくな……。けど、見れば見るほど妖精も艦娘も謎だらけだ。……一筋縄ではいかないと思う」

提督「まあ、あまり焦るのも良くない。今のところは、そういった謎が解けないままでも戦えている。あくまでも、これは先々のための調査ということだ」

整備兵「ああ。分かってるよ」

【整備兵の部屋】

ガチャッ

整備兵「よし、さっさと風呂に入って……いや待てよ、そういえば風呂なんてどこにあるんだ?」

整備兵(昨日この部屋を見て回ったときには、無かったような気がするが……)キョロキョロ

整備兵(戸はトイレに繋がる一枚しか無いし、後は本棚ぐらいしか……)スタスタ

ガンッ

整備兵「っあ痛ぁ!!」

整備兵の小指「」チーン

整備兵「ぁぁぁぁぁ……」ウズクマリ

整備兵(くそ……思ったより本棚が大きかった……)

整備兵(……ん?本棚の陰の壁に何かある?)

整備兵「よいしょ、っと……」グイグイ

ズズズ……

整備兵「……!」

整備兵(本棚の裏に戸がもう一つ……)

ガラガラッ

露天風呂「」キラキラ

整備兵「え……」

整備兵(ぎりぎり足が伸ばせるくらいの大きさとはいえ、立派な岩の露天風呂だ)

整備兵(洗い場の向こうの外は真っ暗……この音は多分、海に面してるな)

整備兵「……」

整備兵(……これは、入るしかない!)

整備兵「良い湯だった……」ホカホカ

整備兵(まさか天然温泉なわけ無いよな……?ただのお湯だよな……?)

整備兵(……さて、今夜も少し本を読んでから寝よう)

整備兵(明日は装備開発をしていくと工廠長も言っていた……それなら、今日はレシピの本にするか)パサッ

整備兵(何を作っているのかが分からなければどうにもならない。ちゃんとした予習が必要だ……)

整備兵「なになに、艦載機……比率は燃料20に対して弾薬60、及び鋼材10に対しボーキサイト100、ただし彩雲は……」ブツブツ

ペラリ……ペラリ……

【??】

??「いよいよだねぇ」

??「ついに……と言ったところかの。抜かりは無いじゃろうな?」

??「大丈夫ですよ。これが世の中に出れば、状況は一変します」

??「一変……とまで行くかのう?」

??「もちろんです、出来は保証しますから。あの人達も含めてここにいる全員が、これからはもっと働きやすくなりますよ」

??「そういえば、あの人たちにはこの計画の詳しい内容、もう伝えてあるの?」

??「そんなわけありませんよ。前もって伝えたら楽しくないじゃないですか」

??「でも、反対されるかも……」

??「むしろ、思い切り嫌がってくれた方が見ていて面白いです。……それにそもそも、上層部の許可は既に得ています。何の障害にもなりませんよ」ニヤリ

??「悪い奴だねえ……」

??「これも全ては、海軍のためですよ」

??「……二人共、そろそろ静かに見たまえ」

??「ほーい」

??「はいはい、分かりましたよー」

少なめですが本日はここまで。
宗教上の理由により掘りはしないので、ローマは見送って秋津洲を育てつつ、また通常通り書いてゴールデンウィーク中には次をやりたいです。
ゆーちゃんは削りで一人出ました。万々歳です。

【朝】

ピピピピピピピピピピピ

整備兵「……ん」パチッ

整備兵(よし、今日は目覚ましをかけるのを忘れなかったぞ)ムクリ

整備兵「はー、眠……」



【食堂】

整備兵「おはよう」ガチャ

白雪「整備兵さん、おはようございます」ペコリ

漣「おはようございますー」

整備兵「隣良いか?」

白雪「はい、もちろんです」

漣「えー……漣はちょっと……」

整備兵「……あからさまに嫌がられると辛いんだが」

漣「ほんの可愛いジョークですよ」

整備兵「可愛げの欠片も無いな……ふわぁ……それで、今日のメニューはどんなのだ?」

白雪「焼き魚は鮭で、お味噌汁はわかめに油揚げに大根、後のおかずは――」ニコニコ

整備兵「白雪は食べ物の話してると、いつもより表情豊かになるな」

白雪「――そ、そんなこと無いです!それに、聞いてきたのは整備兵さんの方じゃないですか!」ブンブン

整備兵「ごめんごめん」ハハハ

漣(朝っぱらから何ですかこの謎の甘い空気)

ガチャッ

提督「おはよう。全員揃ってい……」

バァン!

ダダダダダッ!

神通「姉さん、那珂ちゃん、早く……」

川内「いやー、危なかったけど何とか間に合ったね!」

那珂「那珂ちゃんセーフ!那珂ちゃん滑り込みセーフだよっ!」

提督「……」ギリッ

龍驤「……あー、あかんわこれ」

鳳翔「あらあら……」クス

提督「……では、気を取り直して朝の定時連絡を行う。食べながらで良いので、各自良く聞くように」

川内「ま、まさか冷奴に醤油をかけさせてもらえないなんて……」

那珂「那珂ちゃんなんて、納豆を何もかけないでそのままだよぉ……」

提督「」ジロッ

川内・那珂「ひぇー……」

提督「……今日の連絡事項は一つだけだ。急な話だが、寄越日の元帥艦隊との演習が行われることになった」

鈴谷「しつもーん!それっていつのことー?」

提督「明日だ」

鈴谷「へえ、明日かー……って、えっ!?」

エエーッ!?

ザワザワザワザワ

提督「だから急な話だと言った。だが、うちの艦隊は何度も元帥の艦隊と演習をしたことがあるだろう。普段から鍛錬を積んでいれば、今度も良い戦いができるはずだ」

整備兵「……元帥の艦隊と演習をしたことがあるのか!?」ヒソヒソ

漣「何回もありますよ」ヒソヒソ

白雪「す、凄いんですね。ここの皆さん……」ヒソヒソ

漣「ご主人さまが元帥様と協同作戦をしたりして、結構仲が良いらしくて」ヒソヒソ

整備兵「やっぱり、元帥の艦隊は強いのか?」ヒソヒソ

漣「私たちも、勝てたことはほとんどありません。金剛型姉妹と正規空母の加賀さんという人が、特に恐ろしく強いんですけど……」

提督「他に、何か質問のある者は?」

翔鶴「演習はいつも通り、六対六ですか?」

提督「ああ、そうだ」

瑞鶴「艦隊構成はいつ決めるの?」

提督「これから俺の方で考える。明日の朝には伝えられるだろう」

瑞鶴「……今度こそ、あいつに勝ってみせるんだから……!」ボソッ

龍驤「まあまあ、そう毎回加賀はんが出張ってくるとも限らんし、肩の力抜きぃや」ポンポン

鳳翔「演習で大切なのは相手に勝つことではなく、相手の良い所を吸収することですよ」

瑞鶴「そ、そうだけど……」

翔鶴「そうよ瑞鶴。大丈夫、私たちもこうして鍛錬を積んできたのだから。精一杯戦って、もっと成長するために生かしましょう?」

瑞鶴「翔鶴姉……分かった!一緒に頑張ろうね!」

翔鶴「ええ」ニコッ

提督「もう質問は無いようだな。では今日は内洋艦隊と外洋艦隊に分かれて、港付近で艦隊単位での戦闘訓練を行うように。内洋艦隊側には白雪がいるので俺が付く。整備兵は工廠だ」

全員「はい!」

ヨーシガンバロー

ヤレヤレ

ゾロゾロゾロゾロ

白雪「整備兵さん、すみませんが、私もこれで……」オズオズ

整備兵「構わないよ。艦娘としての訓練の方が大事だ。こっちは何とかなる」

白雪「はい。……あの、頑張ってください」ニコッ

整備兵「ああ、白雪もな」

整備兵(ただ仕事に行くだけで白雪みたいな子に労ってもらえるなんて、良い仕事だな……)

漣「整備兵さん、何だか表情が緩んでませんか?」ジトー

整備兵「……!い、いやいや、そんなことは無い」

整備兵(まずいまずい。……そうだ、どうせここからはひたすら工廠長にこき使われるだけの一日だ。気を抜くのは良くない)

漣「……」ジーッ

整備兵「……」ダラダラ

漣「……」クルリ

漣「……ささっ、ご主人さま。今日の訓練も頑張りましょうね!思えば最近、あまりご主人さまと一緒に訓練していませんでしたし!」

提督「ああ、そうだな」スタスタ

漣(……こっちはこっちで、どうしてこんなに素っ気ないんでしょう)ムスッ

提督「どうした?白雪ならもう龍驤に連れて行かれたから心配無いぞ?」

漣(……むかむか)

整備兵「お、俺ももう行くか。また昼にな」スッ

漣「……」キッ

ゾクッ

整備兵(い、今、何やら寒気が……)

【工廠】

ガラガラガラガラ

整備兵「誰かいるかー?」

ゴッチャゴッチャ

整備兵(うわ、相変わらず整理整頓の言葉の欠片も無い職場だな……)

工廠長「おう、来たか若造!」ガタッ

整備兵「おはよう、工廠長」

工廠長「大して早くもねェよ。すっかり待ちくたびれちまったぜ。早く入んな」クイクイ

整備兵「あ、ああ……」

整備兵(ぶっきらぼうというか、普段からこういう感じの性格なんだろうな……)

整備兵「ところで……」キョロキョロ

工廠長「あん?」トコトコ

整備兵「今日はいないのか?あの、女神って名前の妖精は……」スタスタ

工廠長「あー、女神の奴なら今は留守だな。あれはいつもここにいるわけじゃねェ。国中のあっちこっちを転々としてんだよ」

整備兵「国中を?それはまた、どうして……」

工廠長「……」

整備兵「どうしたんだ、工廠長?」

工廠長「……いや、俺もそれは知らねェな。あれがたまに来るときも、何をしてんのかは分からねえ。ただその辺に座ってるだけよ」

整備兵「そうか……」

整備兵(ますます女神が何をしている妖精なのか分からなくなってきたぞ……)ウーン

工廠長「……」

整備兵「……今日は、装備の開発をするんだよな?」

工廠長「ああ。じっくり見て流れを掴んどけ。これからやってく仕事の中でも、修理と並んで頻繁にやる作業だからな」

整備兵「建造はあまり頻繁にできないから、修理と開発が同率一位ってことか」

工廠長「良く知ってるじゃねェか」

整備兵「提督に教えてもらったんだよ。例えば今日とかも、建造はできないんだろ?」

工廠長「ああ……できねェな。今日は無理だ」

整備兵(やっぱり連続で二日もできるわけは無いか。しかし、できるときとできないときを分ける基準は一体……)

整備兵「工……」

工廠長「よし、着いたぞ若造。この区画で装備開発をする。……とりあえず、最初にやることは昨日と同じだ」

整備兵「あ……えーと、昨日と同じ……まさか資材運びか?」ゲッ

工廠長「そうだそうだ。俺達より何倍も体がでけェんだから、まずは肉体労働で奉公しやがれ。行動は素早く!」

整備兵「……へい」

工廠長「おら、お前らも手分けして運べ!新入りに任せてお前らが鈍ってたら笑いもんにもなりゃしねェぞ!」

工廠妖精達「「「分かりましたぁー!!」」」

工廠妖精A「十人一組、横隊組めー!弾薬はベルトごと、鋼材は三本ずつに分けて縛って運ぶように!」

工廠妖精B「災害防止、事故撲滅!今日も安全第一でいくっスよ!」

工廠妖精達「「「おぉー!!」」」

整備兵(今日もしょっぱなから大変そうだな……)

整備兵「……でも工廠長、こんなに床が物で溢れかえってたら、作業がしづらいどころか持ってきた資材の置き場所を作るのも大変じゃないか?」チラリ

工廠長「俺達ァもう慣れちまったけどなあ」

整備兵「慣れとかそういう問題じゃないだろ……」

工廠長「だが……そうだな……そうだ。そんなに言うならやらせてやっても良いぞ?」ニヤリ

整備兵「……え、いや待て。俺がやるのか?」

工廠長「直すべきところは気づいた奴が直す、だ。よし、よしよし……それがちょうど良いな。若造、これからは工廠の片付けも少しずつやっていくから、その時は中心になって進めろ」

整備兵「ま、待て待て待て!何をどこに置くべきかとかも全然分からないぞ!建物内の土地勘みたいなものも……」

工廠長「その辺は俺か他の妖精共に聞けば良い。まあこの際だ、新人研修にちょっとばかし追加ってとこだなァ」ニヤニヤ

整備兵(こ、これが藪蛇か……)ガーン

工廠長「けどまあ、その前にまずは資材運びだ。どの仕事も手を抜くんじゃねェぞ!」

整備兵「……へいへい」ドンヨリ

本日はここまで。
休み明け早々風邪を引いたため、ここ数日は疲労抜きしておりました。すみません。
次は土日にやりたいと思います。

ジジジジジ……

整備兵(日が昇ってだんだん暑くなってきたな……くそ)

ドンッ

整備兵「……ふう。これで全部か」

工廠長「運び終わったな?そんじゃお待ちかねの、装備開発と洒落込もうじゃねェか」

資材「」テンコモリ

整備兵「しかし、ものすごい量の資材だな……一度にこんなにたくさん使うのか?」

工廠長「あァん?使うから出したに決まってんだろうが」

整備兵「いや、そうだが……それに、これだけ運び出したっていうのに資材庫はまだまだ資材で一杯だったぞ。随分と潤ってるんだな……」

工廠長「まあ言われてみれば、モノに困ったなんて事ここでは一度も無ェな」シレッ

整備兵「……そういうセリフ、俺も一度は言ってみたいもんだ」ズーン

整備兵(提督は戦闘指揮も優秀だしやり手だからな……きっと、レシピを活用して開発に必要な資材を上手く節約しているんだろう)

工廠長「よし、じゃあ早速一回目だ。A班運搬開始、B班加工用意!300/300/300/300!復唱!」

工廠妖精A「うんぱーん、始めー!300/300/300/300!」

工廠妖精B「かこーよーいっス!300/300/300/300っス!」

工廠妖精達「「「うおぉーっ!!」」」バタバタ

整備兵(300/300/300/300……レシピを簡略化した呼称だったな。この場合全て300単位か。確か昨日読んだ本によれば……)


『――妖精が開発を引き受ける最少資材量を30単位と定義し、使用する資源量はこれを基準として相対的に計量する。一回の開発に妖精が使用できる資材は各300単位が限度であると考えられており――』

>>271と差し替え



工廠長「まあ言われてみれば、モノに困ったなんて事ここでは一度も無ェな」シレッ

整備兵「……そういうセリフ、俺も一度は言ってみたいもんだ」ズーン

整備兵(提督は戦闘指揮も優秀だしやり手だからな……きっと、レシピを活用して開発に必要な資材を上手く節約しているんだろう)

工廠長「よし、じゃあ早速一回目だ。A班運搬開始、B班加工用意!300/300/300/300!復唱!」

工廠妖精A「うんぱーん、始めー!300/300/300/300!」

工廠妖精B「かこーよーいっス!300/300/300/300っス!」

工廠妖精達「「「うおぉーっ!!」」」バタバタ

整備兵(300/300/300/300……レシピを簡略化した呼称だったな。この場合全て300単位か。確か昨日読んだ本によれば……)


『――妖精が開発を引き受ける最少資材量を10単位と定義し、使用する資源量はこれを基準として相対的に計量する。一回の開発に妖精が使用できる資材は各300単位が限度であると考えられており――』

整備兵「……?」

整備兵(……いや間違い無い。全資材300単位はこれまでの試行実験上、一度に妖精が扱える限界量だと書いてあった。資材消費が酷いせいで、このレシピは本にも試行の記録がほとんど無かったはず……)

整備兵「なあ工廠長、今までの装備開発の記録は残ってるか?行った日付とか使用資材とかが書いてあるやつだ」

工廠長「ん、ああ、それならこっちの棚に……ほらよ」ポン

整備兵「ありがとう」

ペラッ

整備兵「……ぅ」

ペラリ……ペラリ……ペラリ……

工廠長「どうしたァ?てっきり開発の様子も食い入るように見るかと思ったら……」

整備兵「……け、建造の記録も、見せてくれ!」

工廠長「あん?急に血相変えてどうした?建造、建造……ほら、これだ」ポン

整備兵「……」ガバッ

ガサガサ……ペラッ

整備兵「……め…………ろ」ブルブル

バサッ

工廠長「おい、落としたぞ?」

整備兵「や、やめさせろ、開発を。今すぐだ」ブルブル

工廠長「何だとォ?折角準備が整っ……」

整備兵「この記録全部借りるぞ。俺は少し提督のところへ行ってくる。悪いけど待っててくれ」ダッ

ガラガラガラ……ガタンッ

工廠長「……」

工廠妖精A「……」

工廠妖精B「……」

工廠妖精達「……」

【港】

ザザーン ザザーン

提督「……よし。全員、岸に上がれ」

漣「ふぃー、やっと休みだー……。最初から総合訓練でかなりハードだったけど、白雪ちゃん大丈夫?」

白雪「はぁっ、はぁっ……う、うん、初めてだからあんまり上手くできなかったかもしれないけど……司令官や漣ちゃんたちが色々教えてくれたから」ニコ

鳳翔「いえいえ。初めてなのに、白雪さんはとても頑張ってついて来ていたと思いますよ」

龍驤「航行中の重心移動なんて、ウチより上手いかもしれへんなぁ」ニッ

白雪「ま、まさか……」

提督「では、ここまでにやった航行・射撃・回避訓練について簡単に反省をする」

全員「はい!」

提督「まず鳳翔、いつも通り危なげないな。だが航行の際に、近くの者の動きを見て配慮しすぎる傾向がある。確かにそのおかげで艦隊運動がスムーズになっているが、あまり他の者が甘やかされても困る。少なくとも訓練では、もう少し自由に振舞って良いぞ」

鳳翔「はい、分かりました。気を付けますね」ペコリ

白雪(鳳翔さんが何度も進路を譲ってくれてたの、やっぱりわざとだったんだ……)

提督「次、龍驤。直線移動は申し分無いが、やはり回頭時に左右のバランスを崩しやすいのが見ていて怖いな」

漣「龍驤さんは仕方ないですよ、昔からそういうクセがありますから」

龍驤「せや。しゃーないやろ、もともとそういう艦形なんや……って何言わせてんねん!」バシッ

漣「いててっ」

提督「ゆえに、急な方向転換をせずに済むよう、前方を他の者より注意深く警戒しろ。しかし、艦載機発艦時の集中力と雷撃の正確性には目を見張るものがある。内洋艦隊のアタッカーとして、これからも精密な航空攻撃を大切にするように」

龍驤「ふっふーん、こりゃ、もう鳳翔はんに艦載機の特訓をしてもらう必要が無くなるのも時間の問題かもしれへんな」ドヤァ

鳳翔「あら、でしたら、次からは航行訓練を増やしていきましょうか」ニコッ

龍驤「そっ、それは堪忍……!」

提督「次に漣。概ね穴の無い動きだった。ただ、電探を背負っているときは、重みで体のひねりが遅くなり砲撃が不正確になりがちだ。まだ配備されて間も無いから仕方ないが、ゆくゆくは慣れるようにしろ」

漣「了解ですご主人さま!」

提督「……それと」

漣「何ですか?」キョトン

提督「白雪に限っては、漣が一番フォローしてやっていたな。良い心がけだ」

漣「まっかせてください!古参の貫録は伊達じゃありませんよ!」

白雪「……漣ちゃん、ありがとう」

提督「最後に白雪だが……航行訓練では何とか遅れず食らいついていた上、射撃も回避も連続でなければかなり優秀な成績だ。一回目の訓練にしては上出来過ぎるくらいだと言える。十分、自信を持って良い水準だろう」

漣「おおー!」パチパチ

龍驤「大型新人、到来ってとこやな。もっと喜んでええで?」パシパシ

白雪「いえ、そのっ、それほどでは……」カァァ

提督「しかし、まだ荒削りな部分も多い。一番は……そうだな、主砲を構えてみろ」

白雪「はいっ」ガシャン

提督「わずかだが、体の向きが前に出した足と反対側に曲がっている。これは主砲、さらに魚雷発射管の方向にまで影響し、砲雷撃の命中率を下げる原因になりやすい」

白雪「わ、分かりました!」ガチャガチャ

白雪(そ、そうだったんだ……自分だと、今まで気づかなかったなぁ……)

提督「肩の力は抜く。上腕よりも、まず肘から先がぶれないように真っすぐ伸ばして固定しろ」

白雪「……」スッ

提督「そして、拳もう一つ分だけ腰を落とせ。発射管が水面に近づくから、魚雷が海中へ進入する角度が浅くなり初速が上がる」

白雪「……」グッ

提督「なかなか良くなった。……では15分の休憩の後、再び海上での訓練を再開する。一旦解散」スタスタ

漣「白雪ちゃん、水、水飲みに行こうよー……」グデー

白雪「今日も暑いからね……そうしよう」アハハ

白雪(訓練は結構厳しいけど……司令官もみんなもとっても分かりやすく指導してくれるし、頑張れそう)ニコ

ワイワイガヤガヤ

提督(さて、この後はどうするか……)

提督「……?」

ダダダダッ

整備兵「おい、提督……ちょっと、話良いか?」ゼエゼエ

提督「どうした。まだ昼までは時間があるぞ?それとも、そんなに早く終わったのか?」

整備兵「これを見ろ……これを……」パッ

提督「開発と建造の記録がどうした?」

整備兵「内容だ内容!どうして開発も建造も、全部資源量最大でやってるんだよ!」バンバン

提督「ああ、工廠妖精達がそのレシピをいやに推すものでな。それなら、妖精の好きなようにさせてみようと思っただけだ」スズシゲ

整備兵「たった……それだけの理由で……。いやいや、お前、他の有効なレシピとか知ってるだろ?俺の部屋に本が置いてあったじゃないか」

提督「そうか、そんな本が入っていたのか」

整備兵「……は?」

提督「あの本棚はどこかの物置きの奥から出てきたものでな。お前の部屋の風呂へ続く戸を隠す嫌がらせのために、漣と鈴谷が運んだやつだ。だから、俺はその本棚の中身は知らん」

整備兵「何やってんだあいつら!……じゃなくて、となるとお前はレシピとかの本を読んだことは無いのか?」

提督「無いな。もちろんレシピも全く分からん」

整備兵「……て、提督さん、い、今、何と?」ガタガタ

提督「開発も建造も、直接俺が手出しできるものじゃないからな。まあ正直に言えば、あまり興味が湧かない」

整備兵「」ボーゼン

提督「それでも今のところ、戦力の不足を覚えたことは無いぞ。これも全ては、厳しい訓練を絶やさない艦娘達のおかげだな」ウムウム

整備兵「……一つ、聞くぞ」

提督「何だ?」

整備兵「お前の開発・建造に対する考え方を一言で教えてくれ」

提督「考え方か……」フム

提督「……妖精達にやる気があればそれで良い、だな」ウナズキ

整備兵「そうか、良く分かったよ。ありがとう」ニッコリ

カキカキ

バンッ!

整備兵「……これに今すぐハンコ押せ。開発と建造を指示する権限は俺がもらう」

本日はここまで。察してくださった方ありがとうございます。
差し替えが多くて申し訳ありません。次は水曜日くらいになると思います。

【食堂】

整備兵(開発・建造の記録書を調べるため、間宮さんに食堂を借りたは良いが……)

ペラッ……ペラッ……

整備兵「はぁ……300掛ける12で3600、足して11100……これで今年度分……」カキカキ

整備兵(提督の野郎、開発だけでどれだけ資材使ったんだ……まだまだびっしり記録があるぞ……)

整備兵(しかも、これに加えて建造に使った資材もある……本によれば建造は失敗が無いらしいから、建造は12引くことの2で10回……)

整備兵「999掛ける10、9990……嘘だろ……」カキカキ

整備兵(開発や建造は控えめに言ってもすさまじく雑だが、提督はこの前の戦闘も完璧に指揮していたようだし、他の物事にはむしろ鋭いはずだ……。したがって、開発・建造により艦隊運営に実質的な支障が出れば、やり方を改めようとするだろう)

整備兵(しかし、資材庫の様子や工廠長の話から考えても、事実この鎮守府は資材不足とは無縁。だからこそ、この有り得ないようなレシピが使い続けられてきたんだろうが……)

整備兵(建造はともかく、通常のレシピを使えば開発は今の何倍もできる資材量……人類が反攻を開始しつつあるとはいっても、赤レンガがこれほどの資源を支給してくれるわけがない。何か、これだけの資材消費を可能にする理由があるに違いない)

整備兵「……そういえば!」ピコーン

整備兵(海軍では普通、各根拠地ごとに、資材を得るための遠征――資源地帯からの輸送任務など――を日々行っているはず。それならあるいは……?)

整備兵(……いや、それも違うか。この鎮守府には遠征用の艦隊がいないんだった。ここに来て三日、どの艦娘も遠征をする気配すら無い。昼はもちろん、夜もみんな鎮守府に残っているし……)

整備兵(その都度艦隊を組んで、不定期に遠征を行っているんだろうが……それだと遠征の回数がかなり減る。この量の資材をまかなうのは難しいんじゃ……)

整備兵(というか、そもそも俺の考え方が貧乏くさいだけで、鎮守府ともなるとどこもこのくらい羽振りが良いものだったりするのか……!?)ガーン

整備兵「あー、訳が分からん……」クタッ

ワイワイガヤガヤ

整備兵(ドアの外が騒がしい……みんなが帰ってきたのか?)

ガチャッ

漣「――それでね白雪ちゃん、そのとき漣が……あれ、どうしました?」

整備兵「ちょっとした仕事だ……」グテー

白雪「整備兵さん、ずいぶんお疲れですね……」

整備兵「いや、そんなに体力は使ってないんだけどな……白雪達こそお疲れ。大変だっただろ?」オキアガリ

漣「白雪ちゃんってばすごいんですよ。初めてなのにばっちりついて来れてましたし、ご主人さまは『上出来過ぎるくらいだ』って……」

整備兵「おお、流石だな白雪」

白雪「ばっちりは言い過ぎだよ漣ちゃん……司令官や皆さんに、教えていただいたおかげです……」ウツムキ

漣「さすが白雪ちゃん、その上奥ゆかしさも完備だなんて……」

白雪「も、もうやめてよっ!///」

整備兵「はははっ……」

白雪「と、ところで!整備兵さん、工廠のお仕事はどうですか?」

漣「そういえばそうですね。どうして昼前から食堂にいるんです?まさか、サボりですか……」ジトッ

整備兵「断じて違う。……本当は装備開発をする予定だったが、少し問題が起こったから午後に持ち越しただけだ」

白雪「問題……ですか?」

整備兵「ああ……とんでもない問題だ……」ズーン

漣「それって、一体どんな……」

ガチャッ

龍驤「――せやから、こ、航行も自分で練習できる言うとるやろ!」

鳳翔「それなら良いですけれど」ニコッ

龍驤「お、おう!任しとき!」アセアセ


川内「やっと昼だー……。眠いのに訓練なんかしたら、お腹空いたよ……」フワァ

那珂「この香り!今日はカレーだねっ!」


間宮「はーい。皆さん、お待たせしました。お昼はビーフカレーですよ」ガラガラ


白雪「外洋艦隊の皆さんも終わったみたいですね」

漣「もうこんな時間でしたか。整備兵さん、続きは食べながら聞かせてください。……漣は、カレーの人参を獲りにいかなければなりません」

整備兵「ただの配膳に獲るも何も……」

鈴谷「カレーも鈴谷が一番乗りぃ!人参はもらったぁ!」バァン

漣「こういう輩が来るからですよ!……そこっ!止まりなさーいっ!」ダダッ

ワーワーギャーギャー

白雪「……あの、整備兵さんは取りに行かなくて良いんですか?」

整備兵「俺はこのページだけチェックした後で取りに行くから、最後で良いよ」

白雪「でしたら、私が自分の分と一緒に持って来ますね」ニコ

整備兵「……本当か!ありがとう、助かる」

白雪「はい、では」トコトコ

整備兵(あまり白雪に頼っていると、こっちがダメな奴になりそうだ……気を付けよう)

漣「もぐもぐ、ごっくん……そういうことでしたか。この鎮守府の開発や建造のしかたに問題がある、と。ご主人さまがこれで良いと言っていたので、漣もあまり考えたことがありませんでした」

整備兵「漣も、レシピのことは知らなかったのか?」

漣「はい。知っていれば、ご主人さまと話をしましたし」

整備兵(仕方が無いか……。艦娘の役割はそもそも戦うことで、開発や建造をすることじゃない)パクパク

白雪「私も工廠のことはまだほとんど知りませんが……そのやり方で良いと言われれば、そう思ってしまうと思います」

整備兵「うーん……」

整備兵(……自分が全く知らないことについて疑問を持つことはできない、だな。その通りだ)

整備兵「じゃあ漣、それと関連することなんだが……」

漣「……あっ!」ピョン

整備兵「な、何だ急に」

漣「漣としたことが、一つ仕事を忘れていました!」

白雪「どんな仕事があるの?」

漣「お昼前に赤レンガからお手紙が届くので……もぐもぐ、取りに行くはずだったんですよ……ごっくん」

整備兵「食べるか喋るかどっちかにしろ」

漣「ごちそうさまでした!……というわけで、漣は少し出ますね。すぐに戻ってきますから」トコトコ

ガチャバタン

白雪「整備兵さん、さっき漣ちゃんに何か言いかけていましたよね?」

整備兵「ああ。この鎮守府が膨大な量の資源をどうやって集めているのか、それを聞こうと思ったんだ」

白雪「……確かに、それは気になりますね」

整備兵「……そういえば、白雪はここに来てから、遠征の話を聞いたことはあるか?」

白雪「遠征……というのは、えっと、具体的にどういった……?」

整備兵「ああ、そうか……遠征っていうのは、鎮守府が独自に資材を手に入れるため、遠方からの資源輸送をしたりすることだ」

白雪「つまり遠征をしていれば、これだけの資材を集めることも可能かもしれないということですね。……でも今のところ、そういう話を聞いたことはありません。輸送任務なら、私みたいな新人がまず任されると思うのですが……」ウーン

整備兵「……」

整備兵(他の誰かにも聞いてみるか。提督は……)チラ


提督「……前進待機、ここで戦闘機隊が到着……距離6000、地点到達まで10分……」サラサラ

間宮「お昼まで作戦立案ですか?お体に障りますよ?」

提督「せっかくの間宮の飯を片手間にしてしまってすまない。しかし……」ペラリ

間宮「演習に備えてですよね。でも、一人で何でもやらないで、たまには休んでくださいよ?」フフッ

提督「分かっている。だが、万全の戦術を練っておきたいからな」サラサラ


整備兵(……忙しそうだ)

鳳翔「……ごちそうさまでした」カタリ

整備兵(そうだ、鳳翔さんに聞いてみよう。空母の中でも一番昔からいるそうだし、鎮守府にも詳しいかもしれない)スッ

整備兵「鳳翔さん、少し良いですか?」

鳳翔「ええ、何でしょうか?」

整備兵「この鎮守府では遠征をどのくらいしているのか、分かりますか?ここの資源事情が少し気になって……」

鳳翔「遠征……ですか。以前はしていましたね」

整備兵「以前は、ですか?」

鳳翔「以前と言ってもかなり昔のことで……まだ艦娘が、間宮さん、漣さん、神通さん、私しかいなかった頃くらいまでです」

整備兵「確かに、相当昔ですね……って、逆にそれ以降はやっていないということですか?」

鳳翔「そうですね……はい。ここ一、二年は全く無かったと思います」クビカシゲ

整備兵「そ、そんなわけ――!」ガタッ

シーン

整備兵(それなら、一体全体この資材はどこから出てるって言うんだ?どうやって手に入れているんだ?)

龍驤「整備兵はん、キミ今えらい目立っとるで……。どないしたんや?」

整備兵「え?」

艦娘達「……」ジー

提督「……」サラサラ

整備兵「あ、わ、悪い。今座る……じゃない!龍驤、聞きたいんだが……」

龍驤「何や急に……食堂にいる全員が聞いとるんや。大した話やなかったら怒るで」ジトッ

整備兵「鎮守府に必要な資材は、どうやって手に入れてるんだ?遠征はどうしてるんだ?」

龍驤「そんなことかいな……簡単や。まず、作戦で深海棲艦に支配されてる地域に行くやろ?敵倒すやろ?」

整備兵「あ、ああ……」

龍驤「そこにある資源頂戴するやろ?そんでおまけに、功績の分だけ赤レンガが資材の支給を増やしてくれるやろ?ほら、簡単や」ニッ

整備兵「…………は?」

鈴谷「この前のカレー洋なんてすごかったよねー。作戦のついでに占領した島から、鉄鉱石が出たんだっけ?」

熊野「そうですわ。あの島から特別に鋼材を送ってもらえるようになって、とても楽になりましたわね。まあ、私たちが確保したのですから当然ですけれど」フフン

瑞鶴「何と言っても、一番は私と翔鶴姉が獲ってきた南西諸島よね。油田もボーキサイト鉱山もあるし、西方海域よりも近いし」

川内「南西諸島海域なら、私も護衛でバッチリ活躍したからね。……夜戦は無かったけど」

那珂「那珂ちゃんも忘れないでよー!」プンプン

翔鶴「でも確か、私たちが攻略した資源地帯が多すぎて、いくつかは他の鎮守府に移管したのでは……」

瑞鶴「そのかわり、提督さんが交換条件として弾薬の支給量を上げてもらったんだから良いじゃない」

鈴谷「提督ったら、いつもそういうトコ汚いからねー」ニヤニヤ

熊野「汚くはありませんわ。提督も私たちも、働きに対して正当に報奨を得ているだけですわよ」

龍驤「な、整備兵はん?自分らでわざわざ遠征なんか行かへんでも、十分やっていけるんや」

整備兵「」ポカーン

整備兵(じ、常識が、通じない……こんな前代未聞の戦争経済があってたまるか……)

整備兵「……じ、神通!どうだ?神通も、結構昔からいるんだろう?輸送任務とか、やったことは無いか?」

神通「え、えっと、あの……夜間の鼠輸送のお手伝いを……」

整備兵「そ、そうか!そうだよな!」ホッ

那珂「でもお姉ちゃん、その輸送中に敵艦隊と出くわして、うっかり物資を投げ捨てて撃滅しちゃったんだよねっ!」

整備兵「え」

神通「あ、あの!私、そんなつもりは無くて……!///」

川内「今でも伝説になってるよ?たった一人の軽巡洋艦の前に、襲撃してきた敵水雷戦隊は一隻残らず炎上爆沈。自分の分の物資は落としちゃったけど、他の艦を守った武勲を認められて感状もらったんだよね。あー、私も夜戦したかったなー!」ブーブー

神通「~~!」カーッ

龍驤「あのときも確か、提督はんが赤レンガに『感状出すくらいなら使えるもの出せ』言うて、資材の割り当てプラスしてもらったんや。ホンマに、がめついこっちゃなぁ」ケラケラ

整備兵「じゃ、じゃあ何だ?この鎮守府はずっとそうやって資材を調達してきたってことか?」

艦娘達「」コクリ

整備兵「も、もしだ。もし資材が足りなくなったらどうするんだ?」

瑞鶴「そんなことまず無いと思うけど……。そうなったら、次の敵拠点を制圧して資材を手に入れれば良いじゃない」キョトン

整備兵(そ、それ、もはや海軍と言うより海賊の思考だろ……)アセアセ

整備兵「制圧してって……で、できなかったら?」

翔鶴「提督の指揮と私達の努力があれば、どんな敵にも必ず打ち勝つことができる……少なくとも私は、そう信じて戦っています」ジッ

整備兵「いや、その闘志は素晴らしいけど!でも!」

整備兵(ほ、鳳翔さん……)チラッ

鳳翔「?」チラッ

鳳翔「……何か、おかしな点がありましたでしょうか?」ニコ

整備兵「提、督……これは、一体……」ヨロヨロ

提督「……ん?」ピタッ

提督「別にそれほど驚くことも無いだろう。モノもカネも、有る所には有るものだ。俺やお前には想像も出来ないくらいの量がな。俺は艦娘達の力で少しだけそこから分け前をもらい、その分け前で艦娘達が強くなる手助けをしている。それだけだ」シレッ

整備兵「あ……ああ……」ウツロナメ

ガチャッ

漣「~♪」フンフンフーン

整備兵「さ、漣!良いところに来た!漣が最後の砦なん……」

漣「ご主人さま、赤レンガからお手紙です!『リランカ島空襲作戦における貴艦隊の功績を認め、海軍省及び軍令部は、暮鎮守府への燃料とボーキサイトのさらなる追加支給を決定した』……やりましたね!」

提督「ふむ……何とかこちら有利の妥協案を飲ませられたか。上出来だな。全く、最近はあちらさんも財布の紐が固くてかなわん」サラサラ

漣「もう、ご主人さまったら……」ニコニコ

整備兵「……あ、あは、あはは、あははははっ……」フラフラ

バタリ

整備兵「」チーン

本日はここまで。
土日に時間が無いので次回は未定ですが、来週中には必ず……。

【工廠前】

白雪「大丈夫ですか……?」トコトコ

整備兵「……も、もう平気だ。ようやく頭が現実に追いついてきた。しかし、ここはとんでもなく奇抜な鎮守府だな……」スタスタ

白雪「私も少し驚きました。そういう手があったのか……と」

整備兵「他の鎮守府じゃ、そうそう有り得ないやり方だよ。そもそも戦果をあんなに上げ続けられる方がおかしい。もっとも、ここの皆はそれを普通だと思ってるみたいだがな……さてと」

ガラガラガラ

整備兵「工廠長、いるかー?」

白雪「お邪魔します……」ソロソロ

バッ

白雪「……きゃっ!?」サッ

工廠長「遅ェぞ若造!少しとか言っておいて何時間待たせるつもりだァ!?」グイグイ

整備兵「うおっとっと……白雪、とりあえず、工廠長にレシピ変更の話をつけるから待っててくれ」

白雪「はい……」

整備兵「……いや、悪かった。提督と話をしてな。装備開発の新しいやり方を考えていたんだ」

工廠長「新しいやり方だとォ?」ジロリ

整備兵「具体的には、一回の開発に使用する資材量の変更だ。今までの資材量でやるよりも効率的に装備を生み出せる比率を採用する。具体的には――」ガサガサ

整備兵「――この本に書いてあるレシピを使いたい。目下の最優先課題は艦載機の更新だ」ペラッ

工廠長「あァん、なになに……けっ、んなもん使えるかよ」

整備兵「え?」

工廠長「誰かが決めた方法に従ってもなァ、やりがいってもんがこれっぽっちも無ェんだよ。もっと誰も考えてねェような方法を使った方が……」クドクド

整備兵「」ヒョイッ

工廠長「だからつまみ上げるなって言ってんだろうがァ!」ブラブラ

整備兵「そういえば、提督にあのレシピを勧めたのは工廠長達なんだってな?」

白雪(なかなか折り合いがつかないのでしょうか……)

工廠長「だ、だから何だよォ」

整備兵「今はそんなやりがいとかにこだわってる場合じゃないんだよ……事実として、この鎮守府の装備開発の遅れはかなり深刻だ。今のところは何とかなっているが、いつこの事が戦況に響いてくるか分からない。深海棲艦を全て倒してこの戦争に勝つためには、どうしてもより強力な装備が要る」

白雪「……」

工廠長「……」ムスッ

整備兵「その方が俺にも提督にも工廠長達にも、そして何より艦娘達にも、余計な負担や被害を出さずに済むんだ。……どうだ、協力してくれないか。頼む」ペコリ

白雪「あ、あの!」

整備兵「?」

工廠長「あん?」

白雪「私には工廠長さんの声が聞こえないので、話の筋を読み違えているかもしれませんが……一つだけ言わせてください。やり方を今までとすっかり変えてしまうのは大変だと思います……でもそれも、私を含めた鎮守府のみんなが戦って――生きのびるために、必要なことなんです。だから、その……整備兵さんの話を、聞いてあげてください。お願いします」ペコリ

整備兵「白雪……」

工廠長「……」

整備兵「……」

工廠長「……良い加減下ろせってんだ」ピョン

シュタッ

工廠長「……若造の言い分は分かった。俺ァ人間に資材を恵んでもらってる方だからな。そう言われりゃ従わないわけにはいかねェよ」

整備兵「じゃ、じゃあ……!」

工廠長「とりあえずこれからは、若造の言うレシピとやらで開発することにしてやるよ」フン

整備兵「おおっ!ありがとう工廠長!……白雪、俺達の考えに賛成してくれるってさ」

白雪「ありがとうございます、工廠長さん!」パアァッ

工廠長「……けっ」

整備兵(最初はどうなることかと思ったが、工廠長も分かってくれたみたいだ。これなら何とか……)

工廠長「……おい、野郎どもォ!」

工廠妖精達「へーい……」ションボリ

整備兵(全員、露骨にやる気無えっ!)

工廠妖精A「これっぽっちの燃料じゃ、燃した気がしないんでさぁ……」グテー

工廠妖精B「もっとこう、資材がうず高く積まれてないとつまんないっスー……」ダラー

工廠妖精達「はぁ……」ポケー

整備兵「いやいや、開発って普通そういうものじゃないから」アセアセ

整備兵(資材を浪費するのが楽しすぎて中毒になってるな……末期だろこれ)

整備兵「……おい、工廠長も、いつもみたいに何とか言ってやれよ」

工廠長「何かそう言われると、俺もやる気が出ねェよ……やっぱり今日はもう休むか……」ズーン

整備兵「一緒になって落ち込むなよ!?……ほら、立った立った!自慢の技を見せてくれるんだろ?」ポンポン

工廠長「分かった、分かったよ……お前ら、いつも通りだ。準備始め……」

工廠妖精達「あいあいさー……」ノロノロ

白雪「……何だか皆さん、目に見えて元気が無くなってしまいましたね」

整備兵「ああ……」

整備兵(この調子だと、もしかしたら開発そのものにも影響が出るんじゃ……)



提督『……妖精達にやる気があればそれで良い、だな』



整備兵(まさか提督、このことを見越して……)チラッ

工廠妖精A「……」チラッ

工廠妖精B「……」チラッ

工廠妖精達「……」ジッ

整備兵(や、やっぱり、少しぐらいなら今のレシピも……)

整備兵(……いや、いやいや!いくらあいつが有能だとしても、工廠専門の整備兵としてこんな暴挙を見過ごすわけにはいかない)ブンブン

整備兵(大丈夫だ。俺には膨大なデータと近代統計学がついている……レシピを信じろ……)グッ

工廠妖精達「……」ショボン

整備兵(う、胸が痛む……)キリキリ

整備兵(しかしここは心を鬼にして……!)フンッ

白雪(整備兵さん、どうしたんでしょうか……)

工廠妖精A「……」チラッ

工廠妖精B「……」コクッ

工廠長「……さてと、いつまでも落ち込んじゃいられねェ!俺達はプロだ。どんな時でも最高の仕事をする、それだけよォ!」スクッ

工廠妖精B「加工班、作業開始っス!」ピョン

工廠妖精達「「「へいっ!」」」

トンテンカンテン

整備兵(流石、一度作業を始めればいつも通りの動きだ)

工廠妖精達「ふっ、ふっ……」シュンシュン

整備兵「おお……資材がみるみる細かく成形されていくな……」ジー

白雪「はい。動きが速くて、目で追うのも大変です……」ジッ

トンテンカンテン

整備兵「開発にはそこまで時間がかからないんだよな?」クルッ

工廠長「ああ、長くても一分以内には終わる。ほら見ろ」

整備兵「も、もう出来たのか!どうだ……?」クルリ

工廠妖精達「「「作業完了、てっしゅーう!」」」ダダダッ

白雪「整備兵さん、艦載機です!」

整備兵「本当か!?」ダダダッ

スッ

整備兵「……」ジー

整備兵「中翼配置、細身の胴体に爆弾倉……彗星か!」

白雪「やりましたね!」

整備兵「最初から新型機だ、幸先が良いな。ほら工廠長、やったぞ!ちょうど欲しかったものだ」

工廠長「ま、俺達に任せりゃチョロい仕事よ」ドヤァ

工廠妖精達「「「どやぁ」」」

整備兵「さっきまでこの世の終わりみたいな顔してたのは誰だよ」

白雪「あ、あはは……」

工廠長「んで、後どのくらいやれば良いんだ?流石に一回とは言わねェだろ?」

整備兵「そうだな……とりあえず、工廠長達は持ってきた資材が無くなるまで開発を頼む。何回やって何が出来たかは開発記録に書いておいてくれ」

白雪「整備兵さん、私たちはどうしましょうか?」

整備兵「工廠の整理を始めよう。まずは今日中に、既に作られた装備品を一か所にまとめて、何がいくつあるのかを確認するところまで行きたい。工具類は妖精達が使うだろうから、また今度で良いだろう」

白雪「分かりました」ニコ

カーカー カーカー

整備兵「ふう。時間はかかったけど、だいぶ片付いたな」

装備品「」ドッサリ

白雪「今までたくさん開発してきただけあって、装備のストックも大量ですね……」

整備兵「しかし、艦載機は絶望的だな。このわずかばかりの九六式艦戦なんて、果たして使える時が来るのか……」チラッ

白雪「でも、機銃や副砲は充実していますね」

整備兵「ああ。7.7ミリ機銃……15.2センチ単装砲……15.5センチ三連装副砲……。これなんて掘り出し物だぞ、大和型にしか積まれなかった九一式徹甲弾だ。今のところ、この鎮守府じゃ使いようがないけどな」

白雪「何だかもったいないです……」

整備兵「まあ、活用法は後々考えよう。このレシピがその辺の装備を良く生み出すレシピだってことは分かった……あまり嬉しい発見の仕方じゃないが」ハァ

整備兵「さてと……今日も遅くなっちゃったな。工廠長から今日の分の開発記録を受け取ったら帰るか。白雪も、午前中は訓練だったから疲れただろ?」

白雪「そ、そう言われると少し……」

整備兵「着任早々、変な仕事ばっかり手伝わせて悪い。できれば、艦娘としての職務に集中させてやりたかったんだけどな……」

白雪「……いえ。両方の仕事をこなすのは大変ですが……それでも私は、やっぱりこれからも整備兵さんの補佐官をしていきたいと思っています」

整備兵「どうしてだ?」キョトン

白雪「整備兵さん、さっき工廠長さんを説得するときに言いましたよね。『何より艦娘達にも、余計な負担や被害を出さずに済むんだ』……と」

整備兵「うん……?」

白雪「その言葉を聞いて、私、整備兵さんは私たち艦娘のことを本当に大切に思ってくれているんだなあと思ったんです。だから私も、整備兵さんのお仕事を手伝いたいな……と」

整備兵「は、ははは……照れるな」ポリポリ

白雪「……そ、」

整備兵「?」

白雪「……そのときの整備兵さん、とても格好良かったです」ニコッ

整備兵「……!」ドキッ

白雪「……すっ、すみません!私、あの……///」カーッ

整備兵「あ、ありがとう。期待に応えられるように、俺も頑張らないとな……」メソラシ

整備兵(何ドキッとかしてんだ。これは単に、俺の真摯な職務遂行態度が仕事上の評価の対象になった、ただそれだけの事……そうだそうだ……)ウンウン

整備兵(しかし、普段は真面目な白雪も、笑うと……)ボー

整備兵「……待て待て待て!」ガンガン

白雪「ど、どうしたんですか!?」

整備兵「だ、大丈夫。少し壁に傷がついただけだ」ゼエゼエ

整備兵「ほら、行くぞ。今度こそ夕飯に遅れそうだ」スタスタ

白雪「ま、待ってください!」タッタッ

工廠長「おら若造!忘れ物だぞ!」ポイッ

整備兵「え……ああ、記録か。悪い。ありがとな!」フリフリ

タッタッタッタッ……

<セイビヘイサン、ハヤイデスヨ……

<ゴ、ゴメンゴメン……

工廠長「……」ニヤニヤ

工廠長「……♪たぁた~え~よわ~が青春を~」クルッ

工廠長「♪い~ざ~ゆ~け、遥か希望のお~かを越~えぇて~」トコトコ

工廠妖精B「急にどうしたっスか?桜の季節はもう終わったっスよ?」キョトン

工廠長「そういう問題じゃ無ェんだよ、こいつはな」ニヤニヤ

【??】

??「……さ…………さん……」

??「……な、に……?」

??「……聞こえ……ますか…………」

??「……ええ。……まさか、あなたが……?」

??「そうです。……状況は、私がかいつまんでお伝えします。同胞のため、ご一緒に、来ませんか?」

??「こんなに遠いところまで……迎えに来るのね……」

??「私は行きますよ……どこへでも、どこまでも」

本日はここまで。
次回も未定ですが、来週中に一回はやれると思います。

って、途中で送っちゃった……orz

ちなみに九一式徹甲弾は、wikiには「大和型の主砲弾」としか書いてないけど、実際は20.3cmや15.5cmの
所謂「巡洋艦主砲用」も生産されてる。
実際に運用もされてるから、大和型専用弾って表記は間違ってるよ。

>>336
すみません、>>1の知識不足でした。次からは正しく表記させていただきますね。

【朝】
【食堂】

ワイワイガヤガヤ

漣「――それでですね、最後にはご主人さまと神通さんが、那珂さんを無理やり食堂から引っ張り出しまして」

白雪「それ、本当なの?」アハハ

整備兵「漣、何の話だ?俺にも聞かせてくれよ」クルッ

白雪「」ビクッ

漣「整備兵さんも聞きます?間宮券が創設されたときの事件の話なんですが……あれ、白雪ちゃんどうしたの?」

白雪「え、えっと、私……」

漣「?」

整備兵「白雪、どうかし……」

白雪「す、少しおかわりをもらってきます!」ガタッ

タタタッ

整備兵「……」

整備兵(昨日の夜から何となく受け答えがぎこちなかったが……避けられてるのか?)タラリ

漣「そんなにお腹空いてたのかな?普段はおかわりするところ見たことないのに……って白雪ちゃん、食器を持っていくの忘れてる」チラッ

整備兵(何だ?やはり昨日の……いやいや、でも俺、そんなにおかしな反応はしてないぞ。なんとか平静を装ったはず……!)ブツブツ

漣「……整備兵さん」ジー

整備兵「な、何だ?」

漣「白雪ちゃんと何かありました?」ズイッ

整備兵「は?い、いや別に、何も無いぞ?」アセアセ

漣「ごまかすのが下手すぎますよ……で、ケンカでもしたんですか?」

整備兵「してない」

漣「でしたら、どうしてあからさまに避けられてるんですか?」

整備兵(ああ、やっぱり避けられてたのか……)ズーン

整備兵「何でも無い。平気だ平気」

漣「強情ですねー……」

整備兵(この話を漣にするくらいなら、埠頭から助走付けて海に飛び込んだ方がまだマシだ)

整備兵「……とにかく、何でも無いんだ」

漣「ふーん……白雪ちゃんを困らせるようなことだけはしないでくださいよ?」ジロッ

整備兵「す、するかよ!」

整備兵(さ、漣の眼光が鋭くて怖い……!)

提督「静粛に。これより諸連絡を行う」ガタリ

シーン

提督「今日の連絡事項は三つ。まず一つ目は演習についてだ。演習に参加する六人が決定した」

鈴谷「よっ、待ってましたー!」パチパチ

瑞鶴(今日こそ演習に出て、あいつに勝つんだから!)

提督「一人目は……翔鶴。旗艦だ。よろしく頼むぞ」

翔鶴「はい、お任せください」ニコ

提督「二人目、瑞鶴……」

瑞鶴「やったーっ!翔鶴姉、頑張ろうね!」ブンブン

提督「……最後まで聞け。瑞鶴は副旗艦だが、実質翔鶴とのダブルリーダーだ。艦隊全体の指揮を預かっていることを忘れるな」

瑞鶴「分かってるわ。必ず勝利を掴んでみせるから!」フンス

提督「頼もしいな。さて、次。川内、神通、那珂の三人。翔鶴達の護衛として、奮戦を期待する」

那珂「他の鎮守府から人が来るなら、やっぱり艦隊のアイドルは欠かせないよねっ!」キャピッ

川内「……うう、眠い……あれ、誰か呼んだ?」

神通「ね、姉さん、演習です。演習のメンバーですっ」ワタワタ

川内「演習……夜戦!?夜戦もあるの!?」ガバッ

提督「残念ながら昼戦のみだ。元帥は、夕方には寄越日に向かって発たれることになっている」

川内「なんだ……あー、眠……」パタッ

神通「ね、姉さん……!」

提督「いや、起こさなくて良い。どうせ演習は午後だ。それまでには目を覚ますだろう」

神通「すみません……」

提督「最後は……漣。先ほどの三人と同様、主な任務は護衛だ。演習の経験もこの中で一番多い、期待しているぞ」

漣「了解しました!漣、頑張ります!」ピョンピョン

提督「以上の者は、追って指示される装備を持って一四○○に演習場に集合すること。遅刻は厳禁だ」

六人「はい!」


鈴谷「いやー、選ばれなかったね」

熊野「そうですわね……残念ですわ」シュン

鈴谷「ま、ゆったり海辺で見学するのも楽で良いじゃん。どうする?ジュースか何か持ってく?……あ、アイスの方が良いかな!」ニコニコ

熊野「人が本気で残念がっていますのに、何ですのこの温度差は……」シラー

龍驤「こりゃまたガチガチの機動部隊編成やな……元帥艦隊はどう来るんやろ?」

鳳翔「こちらが機動部隊なのは確実ですからね……。同じ機動部隊で来るか、戦艦部隊で接近を試みてくるか……元帥さんの艦隊は人数がこちらよりずっと多いですから、誰が出てくるか予想できませんね」

龍驤「それに加えて、毎回次から次へと新兵器を繰り出してくるし、ほんまに参ってまうわ。前、演習に初めて北上と大井が来たときなんか……」ズーン

鳳翔「……ふふっ、そういえば、あの時は私も龍驤さんも出撃組でしたね」

龍驤「せや。足元から突然魚雷が飛んできてドン……甲標的って何やねん。カ級やないんやで。ホンマに腰抜かしたわ」

鳳翔「確かあのお二人、演習の少し前に大規模改装されたんでしたね」

龍驤「とにかく、寄越日は次に何を出してくるかがさっぱり読めへんってことや」

鳳翔「ですが裏を返せば、私達はそのおかげでいつも新たな発見ができるんですから、損というわけではありませんよ」

龍驤「そらそうやけど……やっぱりあそことの演習は心臓に悪いわ」ハァ

提督「では二つ目の連絡だ。実は、こちらの方が演習の事より重要だ」

全員「」ゴクリ

提督「近く、北部太平洋及び中部太平洋を作戦海域とする大規模作戦を行うとの情報が軍令部から通達された」

全員「」ゴクリ

提督「以上だ」

全員「」ズコー

瑞鶴「提督さん、それだけじゃ何が何だか分からないじゃない!もっと詳しく説明してくれないと……」

提督「まだこれしか通達されていないんだから仕方無い。詳細な作戦時期や内容はこれから伝えられるだろうから、その時はまたこうして連絡する」

瑞鶴「ふーん……分かったわ」

提督「だが、この通達はどうやら本土の鎮守府と警備府全てに届いているようだ。今までの諸作戦と比べても、一、二を争う規模の作戦になるのは間違いない」

龍驤「何や急に話が大きくなってきたなぁ……」

提督「特別な備えは必要無いが、皆は改めて日々の訓練を大切にするように。そして、三つ目の連絡だが……関係があるのは整備兵と白雪だけだな」

白雪「はい……?」

整備兵「?」

提督「工廠長から伝言で、今日は工廠に一一○○に集合、とのことだ。……では、これで解散とする」

アーオワッター

イヨイヨエンシュウカー

ワイワイガヤガヤ

整備兵(一一○○……まだ時間があるな。どうしようか……そういえば、白雪は?)チラリ

白雪「……」チラッ

整備兵(う、ちょうど目が合った……)

白雪「……あの、整備兵さん」

整備兵「何だ?」

白雪「ま、また後で、工廠で!」クルッスタスタ

整備兵「え、おい……」

シーン

整備兵(た、多分、工廠で作業するときにちょっとは話せるようになるだろう……)

整備兵「俺もどこかで時間潰すか……」ズーン

【廊下】

整備兵(本当なら、部屋で本でも読むのが良いんだろうが……)スタスタ

整備兵(体を動かしたくなったので、建物の普段行かない場所を探索してみることにした)スタスタ

整備兵(しかし、変わり映えの無い扉が並んでいるだけであまり面白くないな……流石に閉まっている扉を開けるのはまずいだろうし)スタスタ

整備兵「……ん?あそこの扉、少し開いてるぞ……?」

整備兵「何の部屋だ……?」ノゾキコミ

龍驤「何や用か?」ジロッ

整備兵「おわぁっ!ひ、人が!?」

龍驤「わっ、誰やと思ったら整備兵はんか……。そら扉が開いてたら、普通は中に人おるやろ。驚かせんといてや」

整備兵「りゅ、龍驤……ど、どうしてこんなところに」

龍驤「それはウチのセリフや。キミこそ、自分の部屋ここから結構離れとるやろ」

整備兵「いや、俺は少し建物を探索していただけなんだが……」

龍驤「この鎮守府に来たばっかりなのに、えらい暇なんやなぁ」ケラケラ

整備兵「うっ」グサッ

龍驤「ま、ええわ。いつまでもキミを廊下に立たせとくわけにもいかへん。話は入ってからや」ガチャ

整備兵「ありがとう。それでここは……結構狭いけど、本がたくさん有るな。図書室か?」キョロキョロ

龍驤「正確には資料室やな。……キミ、この鎮守府が昔、ウチら艦娘やなくて本物のフネを運用してたんは知ってるやろ?」

整備兵「ああ……今から七十年前、日本が大戦に負けるまでのことか。俗に言う、一代目暮鎮守府ってやつだな。ここも、その跡地を再利用して建設したらしいが……」

龍驤「良く知っとるやないか。まさに、その一代目について、残っている古い資料やら記録やら、戦後に書かれた本やらが保管されてるのがこの部屋ってわけや」

整備兵「ほうほう……」チラッ

整備兵(鎮守府の沿革に古そうな構内見取り図、大戦中の主要な戦役に関する歴史書……この鎮守府のことに限らず、大戦全般に関する本も色々置いてあるな)

整備兵「龍驤はよく来るのか?」

龍驤「昔のことに興味があってな……ときどき来て本を読んどるんや。変やろか?」

整備兵「いや……歴史を勉強するのは、良いことだと思うぞ」

龍驤「ウチ、思うんや。ウチら艦娘は、一人一人に実在した艦艇の名前が付いとるやろ?でも、それはどうしてなんやろなーって。だって、本物の方はフネなのにウチは人型や。ウチとその本物のフネと、一体何が関係あるんやろな」

整備兵「龍驤……」

龍驤「せやからさしあたっては、自分の名前になってるフネとか昔の戦いとかその頃の鎮守府とか、そういうことを調べてみたら何か分かるかと思って、ここに来とるんや」

整備兵(確かにそのことはとても不可解だ……。艦の魂を持つ少女たち……そう言われて何となく受け入れていたが、そもそも魂って何なんだ?実在した艦艇と、一体何が繋がっている?)

整備兵(しかし今は俺にも……多分、どの艦娘にも提督にも全く分からない)

整備兵「……龍驤」

龍驤「何や、変にかしこまって」キョトン

整備兵「これから、俺もたまにここに来て良いか?」

龍驤「もちろんや」ニッ

龍驤「……にしても、キミ、こういうのに興味あるんか?」

整備兵「学生の頃から戦史とかを読むのが好きだったからな……一応心得はあるつもりだぞ。例えば、そうだな……龍驤、今読んでる本は何だ?」

龍驤「これや。ちょうど読み終わったところやけど……」スッ

整備兵「暮海軍工廠の創設と発展……か。これなら、何度も読んだことがあるぞ。俺もかなり気に入ってる本で、これを読んで整備兵の仕事に興味が湧いたと言っても良いくらいだ」

龍驤「ホンマか!」

整備兵「当時現役だった暮海軍工廠の工廠長が、戦中に書いた本なんだよな」ペラリ

龍驤「大正解や。流石やなぁ……こりゃ、いい助っ人が手に入ったで」

整備兵「この本の一番面白い章は第三章で……?」ピタッ

整備兵(良く考えたら、この本を書いた工廠長と、ここの工廠長って性格が似てるよな……リーダーシップがあって人望が厚いところとか、結構口が悪いところとか)

整備兵(工員を集めての演説癖までそっくりだ。人も妖精も、同じ職人なら言動まで似るのかもな)ニヤニヤ

龍驤「どないして第三章が面白いんや?そこで止められたら知りたくなるやろ」

整備兵「……ああ、悪い。いや、それがだな、実はこの章の最初から三ページ目に――」

ホンマカイナー!

ソウソウ、サラニソノウエ……

ウソヤロー!

ハハハ……

本日はここまで。
次は水曜日までにやりたいと思います。

【工廠前】

整備兵「~♪」スタスタ

整備兵(楽しかった……時局柄、前大戦の知識は誰でも多少持っているが、趣味で本を読んだり調べたりする人はあまりいないからな)

整備兵(しかし龍驤の場合、趣味とは少し違うかもしれないが……)

ガラガラガラ

整備兵「来たぞ」

白雪「わっ……」

工廠長「おう。お嬢ちゃんならもう来てるぜ」

整備兵(……ここはごくごく自然体で。こちらがいつも通りの態度で押し切れば、白雪もそのうち慣れるはず!)

整備兵「よっ、白雪。早いな」

白雪「こ、こんにちは整備兵さん」ペコリ

整備兵(よし……やはり作戦は間違っていないな。普段通りが一番だ)

整備兵「それで工廠長、今日は何をするんだ?特に無ければ開発もしたいんだが……」

工廠長「悪いが、今日やる事ァほとんどが演習の準備と後始末になるだろうよ。演習の日はいつもそうと決まってる」

整備兵「ああ、そういえばそうだな」

白雪「具体的にはどんなことをするんでしょうか?」

工廠長「まず準備は、主に艤装を演習仕様にすることだな。弾を全てペイント弾に入れ替えて、審判を配置する」

白雪「ペイント弾に……審判、ですか?」

工廠長「おう。まさか、お嬢ちゃん達や艦載機連中を本当に大破や墜落させるわけにはいかねェからな。それぞれ一人妖精を乗っけてもらって、その妖精に損害を判断させる」

整備兵「艦載機にも一機に一人つくのか?確か、零戦とかは単座だろ?」

工廠長「主翼にでもへばりつくんだよ。近くにいなきゃ見えねェだろ?」

白雪「え、ええっ……!?」

整備兵「その審判をやる妖精っていうのは、どこから……?」

工廠妖精達「」ガタガタ

整備兵「……ん?」チラッ

工廠妖精A「あ、あっしなんて、戦闘機の係でさぁ!絶対ロールで振り落とされっちまうよぉ!」ガタガタ

工廠妖精B「何言ってるんスかっ!こちとら艦爆隊っスよ!?急降下爆撃って何メートル落ちるんっスか!?」ガタガタ

工廠妖精達「」ザワザワ

工廠妖精達「……」ガタガタガタガタ

整備兵「何だこれ……部下遣いが荒いどころの話じゃない……」ガーン

工廠妖精B「ちなみに、工廠長は高所恐怖症だからいつも審判はやらないんっスよ!」ビョンビョン

工廠長「んだとォ!?」ドンッ

工廠妖精B「す、すいませんっスー!」ドゲザァ

白雪「ほ、本当にそんなことをしても大丈夫なんですか?」

工廠長「演習の時は毎回やってるが、今のところ落っこちた奴はいねェよ」シレッ

整備兵「それも凄いな……!?」

工廠長「前準備はそんなとこだな。終わったら今度は後始末だ。艤装を元に戻して、お嬢ちゃん達の修復をする」

整備兵「ペイント弾やら審判やらを使うのに、修復が必要なのか?」


工廠長「ペイント弾の外殻も、流石に射出の衝撃に負けねェ程度には硬いからなァ。……まあ普通にやってりゃ、実際の被害は酷くても小破程度だ」

白雪「そうですか……」ホッ

工廠長「……ってな訳で若造、今日は大した仕事もできねェぞ。昼飯までそう時間が無ェから、整理を始めるのもあんまりお勧めできねえしなァ」

整備兵(……それならとりあえず、俺は俺の仕事をするか)

整備兵「じゃあ、艤装を演習用に転換する作業を見せてもらうかな」

工廠長「地味だが、見たいなら止めはしねェぜ」

整備兵「白雪も見て行くか?」

白雪「はい……ぜひ」ニコ

整備兵(白雪も……大体元に戻ったかな)ニコ

トンテンカンテン

工廠妖精A「」ソイヤッソイヤッ

工廠妖精B「」ソイヤッソイヤッ

整備兵「」スッ

工廠妖精A「……?」トリャッ

工廠妖精B「……?」ホイヤッ

整備兵「……」ジー

整備兵(こんなに小さな槌や鋸を、よく扱えるもんだ……その上、あの手作業で精密な模型のような艤装を作れてしまうのだから、凄いを通り越して末恐ろしい)

整備兵(……もしこの妖精達がいなかったら、人類は今頃どうなっていただろうか)

整備兵「……」ジー

白雪「整備兵さん」ヒソヒソ

整備兵「どうかしたか?」

白雪「妖精さんたちが、気にしているような感じが……」

整備兵「えっ……」

工廠妖精A「……何ですかい?」クルッ

工廠妖精B「……何っスか?」クルッ

整備兵「いや、悪い悪い。どんな風に作業しているのか、見てみたくてさ。今は何をしているんだ?」

工廠妖精A「艤装に追加の装甲板を取り付けてるんでさぁ!」

工廠妖精B「多少動きが悪くなっても、演習では参加部隊の負担を最低限に抑えるのが最優先っスから!」

整備兵「その金槌、少し見せてもらっても良いか?」

工廠妖精A「もちろんでさぁ!」スッ

整備兵「ありがとう」スッ

整備兵(小さくて持ちにくい……だがまあ、見た目通りの重さかな。触ってみた感じも普通の鉄だ)ギュッギュッ

整備兵(しかし……)

工廠妖精B「お嬢さん、よーく見てるっスよ?」フリフリ

白雪(……?見ていてほしいってことなのかな?)

白雪「……」ニコ

工廠妖精B「よーし!久々に本気出すっス!」グッ

工廠妖精A「普段から出してほしいもんだよ……」

工廠妖精B「」オラァッ

トンテンカンテン

白雪「……せ、整備兵さん!金槌で叩いただけで、板が鋲止めされていっています……穴も鋲も無いのにです!」

整備兵(……この工具、明らかに普通じゃない力を持ってるんだよな……)

白雪「お上手です」パチパチ

工廠妖精B「ふっ……」ドヤァ

白雪「良くできました」ナデナデ

工廠妖精B「ふぉおおおっ!?こんなに優しくされたのは初めてっスー!俺、心を射抜かれたっスー!」ピョンピョン

工廠妖精A「……そろそろ自重した方が良いんじゃあないかい?」ゲシゲシ

工廠妖精B「いででででっ!」

整備兵「白雪……あまりなでない方が良いんじゃないか?」

白雪「どうしてですか?」キョトン

整備兵「いや、そいつらただのオッサンだし……」

白雪「?」クビカシゲ

整備兵「……いや、何でもない。でも、仕事の手を止めさせちゃってるしさ」

白雪「そ、そうでした……すみません」パッ

工廠妖精B「ああ……」ショボーン

工廠妖精A「けっ、良い気味でさぁ……それで整備兵殿、そろそろ工具を返していただけますかい?」

整備兵「分かっ……いや、ちょっと待ってくれ。俺にも打たせてくれないか?」

工廠妖精A「本気ですかい?こいつはあっしらにしか使えませんよ?」キョトン

整備兵「もちろんそうだろうとは思っていたけど……触っていたら整備兵の血が騒いでさ。真似事だけで良い。少しだけ、適当な余った鋼板で良いんだ」

工廠妖精A「それなら……分かりやした」スッ

工廠妖精B「端材持ってきたっス!」ゴトッ

整備兵「すまない、ありがとう」スッ

白雪「何かするんですか?急に金槌を構えて……」

整備兵「少しだけ、俺も打たせてもらえることになったんだ」

白雪「それって……妖精さん達にしか使えないのでは……?」

整備兵「妖精にもそう言われたよ。けどまあ、実際に使ってみるのも情報収集だ」

白雪「さっき私に、妖精の仕事の手を止めさせるなって言いましたよね……」ジトー

整備兵「……こ、こういうことも調査のためには必要なんだよ」アセアセ

白雪「そうですか。……でしたらそれが終わるまで、私も妖精さんをなででいますからね」プクー

整備兵「それは、あー……いや、う、うん、良いんじゃないか?」

白雪「……」ナデナデ

工廠妖精B「あ゙ーいいっスー……ふへ……ふへえへへへ……」ヨダレダバー

整備兵(俺の精神衛生的には、妖精の言葉なんて聞こえない方が良かったかもしれない)

白雪「……」ニコニコナデナデ

整備兵(しかし声さえ聞かなければ、妖精も小動物みたいなものだ。微笑みながら小動物を可愛がる白雪……絵になるなぁ……)

整備兵「……」ポケー

工廠妖精A「オラオラァ!」ガンガンガンガン

工廠妖精B 「ぎゃぁっ、何するっスか!?やめろっス!」ダダッ

白雪「あっ……」シュン

工廠妖精A「こんにゃろっ、腑抜けてんな!……して整備兵殿、まだですかい?」イライラ

整備兵「……」ポケー

工廠妖精A「……何を見てるんですかい、整備兵殿?」ギロッ

整備兵「……うわっ、わ、別に!ごめんごめん、すぐ終わる!悪かった!」

工廠妖精A「こっちも時間がそれほど無いんでさぁ。頼みますよ……」ハァ

整備兵「よし……ふっ、はっ!」トンテンカンテン

工廠長「ん……お前ら、仕事はどうした?」トコトコ

工廠妖精B「整備兵殿が工具を見てみたいとのことでしたので、お貸しした次第っス!」

工廠長「あァん……?」

整備兵(久しぶりだな。あまり力は込められないけど……硬い鋼を打つこの感触、衝撃。整備兵の仕事はこうでないと)トンテンカンテン

鋼板「」シーン

白雪(妖精さんが打ったときのようなことは起こりませんね……)

工廠妖精A「……もちろん見ての通り、使えてはいませんが」ヒソヒソ

工廠長「当ったりめェだ。あれは俺達にしか使えねェんだからよ」

整備兵「~♪」ハナウタ

整備兵(そういえば、海軍工廠で働きたいと初めて思ったのも、実際に近所の工場で作業を手伝わせてもらったときだったな……)トンテンカンテン

鋼板「」シーン

工廠妖精B「それにしても夢中で叩いてるっスね……。そろそろ止めるっスか?」

工廠長「そうだな……お前らがずっと働けねェのも困りもんだ」

整備兵(やっぱり良いな、この仕事は……。地味で船にも乗れないが、俺にとっては一番誇れる仕事だ)トンテンカンテン

白雪「整備兵さん、多分、もうそろそろ……」

カンッ

整備兵「ん?」ピタッ

工廠妖精A「何の音ですか……い……」

鋼板「」トマッテル

白雪「……!」

整備兵「待ってくれ、これ、人間には使えないんじゃ……」

工廠妖精B「こっ、工廠長!見てくださいっス!一本だけっスけど、鋲が打たれてるっス!」

工廠長「何だとォ!?」ズイッ

整備兵「……」

工廠長「……こんなデタラメな事が……チッ。おい若造、時間切れだ!俺達は作業を続けるから、工具を返したらもう帰れ!」

整備兵「あ、ああ。時間を取らせて悪かった。でも、その鋼板……」

工廠長「でももヘチマも無ェよ!とりあえず出てけ!」グイグイ

整備兵「うわっ、きゅ、急に押すなよ!」

工廠長「お嬢ちゃんも帰った帰った!」グイグイ

工廠妖精B「お嬢さん、申し訳ないっスー!」

白雪「わわっ……!」

ポイッ ガラガラガラ ピシャッ

整備兵・白雪「……」

ザザーン ザザーン

整備兵「……全く、ひどい追い出し方をするな。確かに、しつこく長居した俺も悪いけどさ」イテテ

白雪「それにしても、さっきのは何だったんでしょう?妖精さん達の道具を、整備兵さんが使えるなんて……」

整備兵「俺も、ただぼんやりと打っていただけなんだが……なぜだ?」

白雪「整備兵さんだけが工廠の妖精さんたちと話せることと、関係があるのでしょうか……?」

整備兵「いや、分からない。……あれ?そういえば白雪こそ、さっきは工廠長とだけは話せていたよな?」

白雪「あっ……言い忘れていました。これです」サッ

整備兵(無線のイヤホン……か?)

白雪「本当は私の艤装に付属している通信用機器なんですが、整備兵さんより先に到着したときに、話せないと不便だろうと工廠長さんが予備を渡してくれたんです。私と話すときは、話すと同時に小型電鍵でその内容を送ってくれる、と。同時通訳みたいなものでしょうか?」

整備兵「便利なことを考えるなぁ……というか工廠長、会話しながら電鍵って器用だな。手の中でやってたのか?全然気づかなかったぞ……」

白雪「本当にありがたいです。これで、お仕事も今までより頑張れます」

整備兵「それは心強いな……。さてと、それじゃあとりあえず食堂に行くか。昼が近いし、その後は演習だ」ヨッコイショ

白雪「はい」スッ

ザザーン ザザーン

工廠長「……」

工廠妖精A「工廠長……」

工廠長「……」

工廠長(……くそっ、また相談事が増えちまったじゃねェか)

工廠妖精A「……」チラッ

工廠妖精B「白雪さん……」

工廠妖精A「……」ゲシッ

工廠妖精B「あだだだだっ!」

本日はここまで。今週末も時間が取れないので、次回は来週になります。

【旧港跡地】

ミーンミンミンミン

白雪「少し出発が早すぎたでしょうか……」トコトコ

整備兵「と言っても、10分やそこらの差だ。すぐに他のみんなも来るだろう」スタスタ

整備兵「しかし、寄越日の艦隊と演習ってことは、元帥が来るってことなんだよな……まさか会える日が来るとは思わなかった」

白雪「どんな方なんでしょう?」

整備兵「うーん……軍内では、知略に戦術に指導力、あらゆる分野に長けた稀代の軍人と言われていたかな」

白雪「何だか厳格そうな方ですね……」

整備兵「まあ、俺も軍籍はそこそこ長く持ってるけど、ここに来る前に軍で働けていた期間はそう長くなかったからあまり良くは知らないかな」

白雪「軍籍を持っていたのに軍で働けなかったんですか?てっきり、深海棲艦が現れてから軍は人手不足だと思っていましたが……?」

整備兵「結局、整備に関しては妖精がいれば人間はいらないからな。その上、新しく艦娘を建造できるのも妖精だけだ」

白雪「!確かに……」

整備兵「工作学校を出た後は、機械に触れない仕事ばかりして稼がないといけないから大変だったよ」ハハハ

白雪「整備兵さんは本当に機械が好きなんですね」

整備兵「同期の奴らもみんなこんな感じだよ。そうじゃなきゃ、整備の仕事……特に工廠勤務の仕事には就かない。何だかんだ言っても、やっぱり海軍に入るからには、俺も含めてみんな船で海を行くのが好きだからな。白雪もそうだろ?」

白雪「そうですね……はい。この前の訓練で初めて海に出ましたが、とても楽しかったです。何となく、ここが私の居場所なんだな……と思いました。私の場合は、艦娘だからかもしれませんけれど」ニコ

整備兵「そうかもな」ハハハ

ザザーン ザザーン

整備兵「ところで……この辺はあまり手入れされていないみたいだな。やたら不規則な段差が多いし、岸壁のコンクリートも古い」キョロキョロ

白雪「普段は立ち入れないからかもしれませんね」

整備兵「地面に金属の土台みたいなものもたくさんあるが、錆びていて良く分からないな……と、何か立ってるな。これは……!?」

白雪「地上に据え付ける型の対空機銃……でしょうか?」

整備兵「錆びも酷いしボロボロだが、地面にはちゃんと固定されてるな。少し見てみる」スッ

整備兵(銃架の支持力が相当弱っている……このままだと明日にでもバラバラに崩れ落ちそうだ)ジッ

整備兵(それでもここまで持っていたのは、偶然木の陰になっていたからか。しかしこの機銃、作りが古いな。まるで……)

白雪「待ってください。この機銃……出撃のとき、鈴谷さんと熊野さんが使っていたものに似ています。そちらは連装でしたが……」

整備兵「……ああ、白雪の言う通りだ」パッ

整備兵「旧日本海軍が使っていた九六式25ミリ機銃の単装型だ。もちろん艦娘の艤装じゃなくて、本物のな」

白雪「どうして、こんなところに……?」

整備兵「いや……あながち不自然とも言えないかもしれない」

白雪「そうなんですか?」

整備兵「暮は大戦以前から軍港の街で、旧海軍時代もここには鎮守府があったからな。その頃設置された防御陣地が、解体されずに残っていたと考えれば……」

白雪「それなら、この辺りに金属の土台がいくつもあったのも、地面に段差が多いのも説明できますね……」チラリ

整備兵「しかし見たところ、この一挺以外はどれも銃身から何から風化して残っていないな……あるのは基礎だけだ」キョロキョロ

白雪「ですが整備兵さん、これなら深海棲艦にも効く武器になるのでは……?」

整備兵「いや、流石に状態が悪すぎて、このままだととても使えないと思うぞ……」

整備兵(……だが、白雪の言う通りこれは貴重なものだ。放置しておくのはかなり惜しい)

整備兵「……よし、決めた」

白雪「?」キョトン

整備兵「駄目元だが、提督に許可を貰って直せるかどうか試してみよう。使える状態にできれば、何かの役に立つかもしれない」

白雪「それは良いですね!」

整備兵(まあ、ここ最近妖精のトンデモ技術ばかり見てきたせいで、普通の機械をいじる時間が欲しいっていう理由もあるんだけどな……)

整備兵(しかし、まさか大戦期の兵器の本物を見つけられるとは……本でしか見られないとばかり思っていたぞ)ニヤニヤ

白雪「――さん!整備兵さん!」

整備兵「……ん、どうした?」

白雪「ええと、時間が……」

整備兵「……」トケイチラッ

整備兵「……走るぞ白雪!」ダダッ

白雪「そ、そんなっ!?」ガーン

タッタッタッ……

白雪「はぁっ……はぁっ……」

整備兵(だいぶ疲れてるな……そりゃそうか、艤装を着けてない限りは普通の女の子だもんな)

整備兵(しかしまずいな。さっきの場所で時間を使い過ぎた。このペースじゃ間に合わないぞ……)

整備兵「白雪、大丈夫か?辛かったら無理しないで歩いて良いんだぞ?」

白雪「すみません……。整備兵さんは先に行ってください。私は後から遅れて着きますから」

整備兵「元はと言えば俺のせいなのに、そんなことできるか。そこまで薄情者じゃないよ」

整備兵(とはいえ、一体どうしたものか……。考えろ、考えろ……)

整備兵(俺の方はまだまだ体力に余裕があるんだが……そうだ!それなら、俺が白雪をおぶるか何かして……!)

整備兵(……いや待て待て!それはつまりだ、その……身体の無用な接触が生まれるという問題があるんじゃないのか……!?)

整備兵(第一どうなんだ?突然そんな提案されておいそれと乗っかるか普通?……だが今は非常事態、そうでもしないと恐らく遅刻だ……!)

整備兵「……し、白雪!」

白雪「はぁっ……はぁっ……はい、何でしょう?」

整備兵「の、乗って良いぞ、背中に」

白雪「……」

整備兵「……」

整備兵(言ってしまったっ!これは……さ、流石にドン引きされるだろうな……)ダラダラ

白雪「で、ですがあの、汗もかいていますし……」

整備兵(忘れてた……!けど確かに、背中も少し汗ばんでる……そりゃ嫌だろ。当たり前だ……)ズーン

整備兵「そ、そうだよな!男の汗臭い背中なんて触りたくないよな!ははは、冗談だよ、冗だ……」

白雪「いえ、そうではなくて……わ、私が、かいているという話で……///」ウツムキ

整備兵「……へ?」

白雪「で、ですが、そうしないと整備兵さんも遅れてしまうんですよね……それなら、あの、お願いします……///」カーッ

整備兵「ほ、本当に良いのか……?」

白雪「はい……」

整備兵「じゃ、じゃあ……」シャガミ

白雪「しっ、失礼します……!」スッ

トンッ

整備兵(うっ、し、白雪の腕が首に回ってる……息遣いもいつもより断然近い)

整備兵(背中が熱い……直射日光とかとはまた違った種類の熱で……)

ギュッ

整備兵(そ、そんなにしがみつかれると背中にその、あれだ、あれが……)

整備兵「……はァっ!」バシッ

白雪「どっ、どうしたんですか!」

整備兵「いや、じ、自分の頬に蚊が止まっていただけだ!」アセアセ

整備兵(……それ以上具体的に想像したら本当に最低の屑野郎だぞ!落ち着け!良識と常識を持て!)ブンブン

グラッ

白雪「わっ……!?」ギュッ

整備兵「あああああッ!」バシッバシッ

白雪「整備兵さん!?」

整備兵「こ、今度は反対側の頬に二匹だ。夏は蚊が多くて大変だな。ははは……」

整備兵(無心無心無心無心無心……)

整備兵「飛ばすぞ!落ちないようにな!」

白雪「は、はいっ!」

整備兵(俺は何も考えていない俺は何も考えていない俺は何も考えていない……)

タッタッタッタッタッ……

【演習場岸壁】

ダダダダダッ

整備兵「悪い……ギリギリになった……」ゼエゼエ

提督「早く出た割には遅かったな。二人して迷ったか?」

整備兵「そ、そんなとこだ……」ハハハ

白雪「うぅ……///」メソラシ

提督「……まあ良いだろう。すぐに始めるぞ」

整備兵(着く直前で下ろすことに気づけて本当に良かった……)

提督「演習に参加する者は全員揃ったな?」

翔鶴「はい」

提督「では、元帥閣下にその旨無線で連絡する」スッ

提督「全ての準備が整いました。……はっ。所定位置までは――」

整備兵「元帥はどこにいるんだ?この辺りにはいないみたいだが……」ヒソヒソ

漣「船に乗って、元帥艦隊の人たちと一緒に沖合にいると思いますよ?私たちがこの後陸側から出発して、十分距離が開いた状態から演習開始です」

白雪「でもそうなると、実際に戦闘するまで相手の艦隊構成が分からないんじゃ……?」

漣「そうそう。だから、偵察とか索敵を通じて相手艦隊に誰がいるのかを探りながら戦うの。今はこっちも向こうも、相手が六人だってことしか分かってない」

白雪「本格的だね……」

整備兵「ん……漣、それ電探か?」

漣「おっ、これに気づくとはなかなか通ですね?」

整備兵「そりゃ整備兵だしな」

漣「最近開発に成功した対空電探です。最新兵器を載せてもらえるのも、ご主人さまに頼りにされている証拠ですね」ドヤァ

整備兵「あーそうだな」

漣「雑な反応ですね……」

整備兵「開発の経緯を知ってるから素直に喜べないんだよ……」

白雪「あはは……」

提督「諸君、今回の演習は無司令で行うことに決まった」

提督「諸君、今回の演習は無司令で行うことに決まった」

翔鶴「……」ゴクリ

白雪(無……司令?)

漣「直前の作戦会議以外、戦闘中はそれぞれの司令官が一切指揮を執らないで、艦隊が自分たちだけで戦闘する方式のことだよ」ヒソヒソ

整備兵(難しい方法だな……だが、そのやり方なら実際の戦闘で必要なとっさの現場判断力が鍛えられる。元帥と提督……やっぱり高度な演習だ)

提督「事前の作戦会議は現在から5分間だ。……集まれ」

翔鶴・瑞鶴・川内・神通・那珂・漣「」ゾロゾロ

ヒソヒソ……ザワザワ……

提督「時間だ。これより、寄越日鎮守府演習艦隊との実戦演習を開始する。全員出航、所定の位置に付け」

翔鶴「皆さん、行きますよ!」スッ

瑞鶴「ええ!」グッ

川内「良く寝たらようやく頭が冴えてきたよ……さーて、一発かましてやりますか!」ガチャッ

神通「……軽巡洋艦神通、参ります」キリッ

那珂「例え相手が寄越日でも……那珂ちゃん以外、海軍に主役はいらないんだよっ!」キャハッ

漣「ご主人さま!漣の勇姿、ばっちりご覧になってくださいね!」ピョン

提督「もちろんだ。遠慮はいらん。あちらさんに暮の意地を見せてやれ」ニヤッ

整備兵「皆、頑張れよー!」

白雪「気を付けてくださいねー!」フリフリ

提督「元帥閣下、いつでも出撃可能です――はっ、了解。……艦隊、出撃せよ!」

全員「「「おーっ!」」」

本日はここまで。
白雪といちゃいちゃする以外のこともちゃんとやっていきますのでご安心ください。
次回は遅くとも金曜日までにはやります。

審判妖精「み、皆!艤装でも服でも良いからとにかくしっかり掴まれぇっ!」

審判妖精「死地に赴く仲間達、そして艦載機係の者達にも……敬礼!」ビシッ

審判妖精達「い、行くぞぉぉぉっ!!」ビシッ

グラグラッ

審判妖精「うわーっ!滑る!滑り落ちる!」ジタバタ

審判妖精達「大丈夫かぁー!?」

瑞鶴(……?何だか腕が重いわね……って!)

瑞鶴「ちょっと!妖精さん大丈夫!?」グイッ

審判妖精「め、面目ない……」プラーン

瑞鶴「危ないからちゃんと肩に乗ってて……さっ、速度上げるわよ!」

審判妖精「」ウワァァァ

審判妖精達「」イキテ、イキテコウショウニカエルンダァァァ!

ギャアアアアアア……

整備兵「……南無三」

提督「何見てるんだ?ぼさっとしてないでこれ立てとけ。少しは日差しが弱まるだろう」ヒョイ

整備兵「こんなバカでかいパラソルどこにあったんだよ……まあ良いか」キャッチ

提督「ほら、双眼鏡に通信機だ……こちらの艦隊の無線を傍受することしかできんが。後、椅子も一つずつ取れ。長丁場になるかもしれん」ポイポイ

白雪「ありがとうございます」ペコリ

整備兵「そういえば提督」

提督「何だ?」

整備兵「さっきの会議は何を話したんだ?提督のことだから、何か対元帥艦隊用の作戦を持ってきたんじゃないか?」

提督「そういうものも少しはあるが……相手の戦力があまり読めない以上、大したことは言えないな」

整備兵「ほー……?」

白雪「見てからのお楽しみということですね」

提督「その通りだ」


【海上】

瑞鶴「翔鶴姉。海岸からの距離、もう十分よ」

翔鶴「ええ。……では漣ちゃん、よろしくね。敵艦隊、おそらく1時方向から2時方向の間です」

漣「任しといてください!」ダッ

川内「気をつけて行ってきなよー!」

神通「空襲には気をつけてくださいね……漣さんがやられてしまっては元も子もありませんから」

漣「もっちろんです!ご主人さまにもらった電探、無駄にはしませんよ!」フリフリ

翔鶴「他の皆さんは一旦この場所で停止、航空戦に備えます。良いですね?」

ハ-イ!

リョウカイ!

漣「さてさて……翔鶴さんたちからはだいぶ先行しましたね。この辺にしましょうか」スイー

漣「電探起動、対空捜索開始……と」

漣「あとはじっと待つ……ですね」





ピッ……ピピッ……ピピピッ……

漣「……来たっ!」ピョン

漣「――こちら漣。敵航空隊発見。2時方向および11時方向より中規模編隊。二手に分かれてますね」

翔鶴『了解しました。距離と機種をお願いします』

漣「2時方向の敵、距離10000。11時方向……距離12000。機種はもう少し接近したら目視で確認します」

瑞鶴『確かに、まだ遠いわね……でも無理するんじゃないわよ?』

漣「はい、では!」プツッ

漣(なかなか緊張しますね……!)

漣「とりあえず、念のため高角砲を準備しておきましょうか」イソイソ

??「……」ジッ

漣「……っと、敵地で機関停止はご法度でしたね。警戒航行、警戒航行っと」スイー

??「……」ブクブク

漣「敵編隊との距離、7500および9500まで接近。どちらの編隊も、先頭に52型、その背後の高空に……彗星、低空に……天山です。それより遠方に他の編隊は認められません」

翔鶴『ご苦労様です。その様子だと、相手側艦載機の更新は無いようですね』

漣「……あっ、識別表示が見えました」

瑞鶴『どこ!?どこの機体!?』

漣「戦闘機、爆撃機、雷撃機……全て加賀航空隊の塗装ですっ!」

瑞鶴『やっぱり来たわねっ……!前はこっちが21型だったから分が悪かったけど、今なら性能はほぼ互角。絶対制空権は渡さないんだから!』

翔鶴『落ち着いて瑞鶴。体力を温存しないと。……漣さん、ありがとうございます。情報はほぼ集まりましたので、そろそろ離脱に移ってください』

漣「はい!了、か……」

漣(……?)クルッ

シュッ

漣(雷跡……っ!?)

漣「う、おりゃぁっ!」グイッ

ゴロンゴロンゴロン……

漣「うわっ、わっ、おっ、とっと……」ヨロヨロ

漣「Σ(゚д゚|||)アブナッ!」

??「……」ススッ

漣(微かだけど、水面下に影が……!)

漣「……そこ、なのねっ!」ドォン

??「……」ヒラリ

漣「くっ、すばしっこいですね……」

翔鶴『漣ちゃん、どうしました!?』

漣「現在、敵の水中戦力と交戦中です。さっきのは雷撃を受けたので、回避するときに転んだだけです……多分、北上さんか大井さんの甲標的かと!」

翔鶴『雷巡とは厄介ですね……敵の航空隊が到着するまでに、私達のところまで戻れますか?』

漣「何とか振り切ってみます。動きのトロい甲標的ごとき、速力では負けてませんからいけますよ!」

翔鶴『……では、頼みます。何にせよ、空の方は任せてください。漣ちゃんは、とにかく全力でその甲標的を!』

漣「はいっ!」プツッ

??「……」ブクブク

漣「駆逐艦が、接近戦で潜航艇に負けてたまりますか!」ダッ

??「……」スススッ

漣(今まで見てきたのと違って、やけに動きが速いですね……でも、)スッ

漣「そんな浅い所にいたら、すぐに潜望鏡撃ち抜かれますよっ!」バァン

??「……」ヒラリ

漣「ちぃっ……」ダッ

漣(方向転換も機敏な上、正確にこっちの航跡を追って来てる……化け物ですかあの潜航艇は)

漣(それなら……)

漣「」ピタッ

??「……」ピタッ

漣「どうぞ。真正面ですよ?撃たないんですか?」クイクイ

??「……」ジッ

漣「……」

??「……!」シュバッ

漣「見え、ましたっ!」ヒョイッ

??「……!?」

漣「ま、今のは普通かわせませんよね。昔ご主人さまと特訓しまくったおかげで、漣はできますが」

漣(これでかわした魚雷は2本。そして甲標的の魚雷搭載数も2本……)ニヤリ

漣「この勝負、漣がもらっ……」

??「……!」シュバッシュバッ

漣「え、ちょっ」

パァン

漣「うっくぅぅー……」フラフラ

漣「……」チラッ

審判妖精「漣、小破!……と、整備兵さんと違って聞こえてないのか……」ミブリテブリ

漣(小破の合図……確かに塗料は付かなかったけど、今度こそ海面にばっちり全身打ちましたからね)

??「……」スイー

漣(まさかまだ魚雷を持ってるなんて……一体何なんですかあれは)ドンッドンッ

??「……」ヒラリハラリ

漣(とりあえず、釘付けにされないように敵編隊から離れつつ戦わないと……)

漣「……漣、これは結構な難敵の予感がしますよっ!」ダダッ

??「……」スイー

翔鶴「漣ちゃんから続報がありません。……まずいですね」

瑞鶴「なるべく早く航空隊を送るべきよ。あっちの編隊に追いつかれたら、漣一人じゃひとたまりも無いわ」

翔鶴「そうね……そうしましょう。できればもう少し引きつけたかったけれど……」スッ

瑞鶴「……」スッ

翔鶴・瑞鶴「第一次攻撃隊、発艦!」

ブゥン ブゥン ブゥン

翔鶴「戦闘機隊の皆さんは、漣ちゃんを見かけたら対潜戦闘を援護してあげてください!」

暮零戦妖精A「」リョウカーイ

川内「なかなか敵は姿を現さないね……」キョロキョロ

神通「相手の方々が、大人しく航空戦の開始まで待機しているとも思えないのですが……」キョロキョロ

那珂「きっと、那珂ちゃんの主役オーラに恐れをなして近づいて来ないんだよっ!」イェーイ

ツーツートントンツー……

神通「」ピクッ

川内「神通の零式水偵から?」

神通「はい。……ええと、はい……っ、やはり来ましたか……」

那珂「どうしたのー?」

神通「相手方戦艦が一名、単艦にて10時方向より高速接近中とのことです!」

川内「こっちが準備を整えないうちの殴り込みってことか……!」

瑞鶴「どうする?艦載機はほとんど航空戦用だから、あまりそっちには振り向けられないわよ……?」

那珂「でも、こういうときのための作戦はもう立ててあるよね?」

神通「ええ。このまま座して待っていても、射程と火力に勝る戦艦が相手では不利になるだけです。それならば……」

川内「……断固反撃に転じ、水雷戦隊の本職を遂行すべし、ってね!」

神通「翔鶴さん、瑞鶴さん。私と川内姉さんとで、敵戦艦の接近を阻止します。那珂ちゃんを置いて行きますから……」

那珂「ま、まさかの那珂ちゃん置いてけぼりー!?」ガーン

神通「那珂ちゃん、翔鶴さん達の護衛をしっかりと頼みましたよ」

那珂「ぶー、ずるーい。那珂ちゃん、頼まれると嫌とは言えないんだよー?」スチャッ

神通「ありがとうね、那珂ちゃん」ニコ

翔鶴「例の戦艦対策ですね、分かりました。一筋縄ではいかないでしょうが、どうかよろしくお願いします」

瑞鶴「でも、これってものすごい賭けよ?私達の方の戦力が最低限になるんだから。せめて敵艦載機の襲来までには帰ってきてよね」

川内「私と神通なら、きっと大丈夫だって。まっかせてよ!」

神通「それでは……皆さんも、お気を付けて」クルッ

川内「じゃあね!」フリフリ

那珂「二人とも、ファイトだよっ!」ピョンピョン

瑞鶴「雷撃隊なら少しだけど予備があるわ……発艦!二人を支援して!」ヒュッ

九七妖精「」マカセロ

翔鶴(ここまではほぼ予想の範囲内……しかし、綱渡りなことに変わりはありません。気を引き締めないと……)

瑞鶴「翔鶴姉、リラックスリラックス」

翔鶴「……そうね」ニコ

川内「でさ、相手は誰なの?さっきは戦艦としか言ってなかったけど……」

神通「それが、水偵妖精さんも分からないみたいで……。主砲は連装らしいのだけれど、艤装が見慣れない形をしている、と……」

川内「ふーん……でもまあ連装砲ってことは、またいつもの金剛型四姉妹の誰かじゃない?ちょっと改装したとかさ」

神通「おそらくは……」コクリ

川内「しっかし金剛型か……二対一とはいえ、あんまり真正面から戦いたくないね」

神通「それは同感です……あの速力、火力、命中精度。全て侮れない方々です」

川内「気が付いたら全員射程距離に入ってて初弾から次々命中、気が付いたら金剛さん一人相手に艦隊が半壊してたー……なんてこともあったっけ」アハハ

神通「はい……ですから、今日こそは射程に収められる前に懐に潜り込まなければなりません」

川内「そうだね……ん、そろそろ見えてくるかな?」カシャン

神通「……」スッ

??「……」キョロキョロ

神通「見えましたっ――」

川内「夜じゃないのが残念だけど、いっちょやってやるか!」

ダッ

??「……!?」

神通「面舵一杯!神通、砲撃戦参ります!」ドォン

川内「取舵一杯!魚雷斉射、てぇー!」バシュンバシュン

??「くっ……!」ガシャッ

川内「今さら主砲なんか構えたって、間に合わないよっ!」

??「……!」ドゴォン

川内「甘い甘いっ!」ドォンドォン

??「……」スッ

神通(やはり身のこなしは一流ですね……まだこの距離ではかすりもしませんか)ジッ

神通「……撃てっ!」ドォン

川内「まだまだぁ……!」ダダッ

??「……」ドゴォン

川内「――うわっ!あ、危なっ!」ヒョイッ

神通「川内姉さん、副砲にも注意して!」

川内「分かってる分かってる!……それなら、一気に距離を詰めるまで!」クルッ

神通「姉さん、あまり無茶は……。……仕方ありません」スッ

??「……っ」ドゴォンドゴォン

川内「当たらないってば!」ヒョイ

神通「……」ヒラリ

神通(砲撃の照準がまるでなっていません……それこそ、初めて砲を持った艦娘かというくらいに。とても金剛さん達とは思えません)

神通(一体、どういうことでしょうか……)

川内「神通、距離600切った!そろそろだよね!?」

神通「……はい。ここから最大火力を叩き込めば、相手も無傷ではいられないでしょう」

川内・神通「よーい……」

川内「主砲、全門斉射ぁっ!」ドゴォン

神通「魚雷発射用意、撃……」

……ボチャン

神通(……自分以外の、魚雷発射音?)チラリ

ブクブクブクブク……

神通(魚雷……こちらに向かって!?どうして……!?)

神通「……姉さんっ!12時、雷跡二本!回避――」

川内「えっ――う、そっ」

パァン パァン

ベチャッ

審判妖精「川内、中破!」バッ

審判妖精「神通、小破!」バッ

川内「ち、くしょっ……」ベットリ

神通「姉さん、とにかく下がって――」グイッ

??「……この国では、初めて出会った人には丁寧に名前を名乗るのが礼儀だと聞いたわ」

神通「……っ!」クルッ

ビスマルク「Guten Tag.ビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルクよ。どうぞよろしく」ニコッ

本日はここまで。
次回はまた、来週の金曜日までにやりたいと思います。

漣「……」ジリジリ

??「……」ジリジリ

漣「……ほいさ!」タッ

??「……」ススッ

漣「もういっちょ!」ドォン

??「……」ヒラリ

シュバッ

漣「まーた魚雷ですかっ!」ダダッ

??「……」スススッ

漣「はぁっ、はぁっ……。こんなんじゃ埒が明きませんよ……」

漣(第一、ソナーも爆雷もありませんし。よく西方海域に出ていた川内さんたちなら、対潜戦闘にも慣れてるんでしょうけど)

漣(確かに、ちょっとずつ翔鶴さんたちの方には近づいてますが……)

??「……」ブクブク

漣(あれに進路を妨害され続けたら、帰り着くより先に敵の編隊に捕まりそうですね)

漣(あっちは漣を仕留めても、足止めしても良い。対して、こっちは一人で疲労は溜まる一方……)

漣「……どっちにせよ、タダでは帰さないってことですか」

??「……」シュバッシュバッ

漣「ちぃっ……」ダッ

漣「……って、えっ!」コケッ

漣(まずっ、足がもつれて……)

魚雷「」スイー……

漣(せ、せめて機関部だけは――)ギュッ

バリバリバリッ!

漣「……へっ?」

パァン パァン

ベチャベチャッ

漣「う、わわわっ!」サッ

暮零戦妖精A「」ヤッホーゲンキー?

暮零戦妖精B「」アンマリソウハミエナイネー

漣「まさか……翔鶴さん達の零戦ですか!?」

暮零戦妖精A「」ア、ソノヘンマンベンナク

暮零戦妖精B「」リョウカーイ

バババババッ!

??「……くっ、あともう少しだったのに……」ブクブクブク……

暮零戦妖精B「」ニゲハジメタケド-?

暮零戦妖精A「」フカオイハキンモツヨ

??「……」スィー

漣「あ、いなくなった……逃げ足も速いですね。……みなさん、航空支援感謝します!」フリフリ

暮零戦妖精A「」フリフリ

暮零戦妖精B「」タッシャデナー

ブゥン……

漣「……ふぅ。今度こそ、さっさと帰りましょう」クルリ

トントンツーツーツー……

翔鶴「……第一次攻撃隊、まもなく加賀さんの航空隊と接敵するとのことです。事前の計画通り、敵編隊の合流を阻止し二方向から挟撃する飛行ルートに入りました」

瑞鶴「漣の索敵のおかげで相手の動向がバッチリ把握できてるのは良いけど……まだ帰って来ないのかな」

翔鶴「先ほど戦闘機隊から、漣さんと交戦していた甲標的らしき敵を撤退させたとの報告がありました。そろそろ戻ってきても……」

漣「すみません、遅くなりましたー!」フリフリ

那珂「あっ、漣ちゃん!良かったーっ!」フリフリ

翔鶴「無事だったのね」

瑞鶴「遅いから心配したわよ……そんなにしつこい相手だったの?」

漣「しつこいなんてもんじゃないですよ。すばしっこくて、避けるわ魚雷をばら撒くわ……」

那珂「それってまさか、深海棲艦の潜水艦がまぎれこんでたんじゃないの!?」

漣「魚雷が塗料入りだったのでそれは無いですが……追い払うだけで精一杯だったので、この後また現れるかもしれません」

瑞鶴「……」

翔鶴「……ですが、一度撤退させられた以上、またすぐにこちらの制空空域へのこのこ入り込んできたりはしないでしょう。今はまず航空戦に備えます。念の為、対潜警戒も意識はしておいてください」

漣・瑞鶴「……」コクリ

那珂「まっかせてー!」

漣「ところで、川内さんと神通さんはどこに?」

翔鶴「ええ、あの二人でしたら先ほど――」

神通「雷跡三、右、左、また右です!」

川内「オーケー、見えてる!」ヒラリ

ビスマルク「上ががら空きね!」ドゴォン

神通「いえ、その程度ではまだ遅いです……!」サッ

ビスマルク「流石は日本の巡洋艦、すばしっこいわね……」

川内「そこぉっ!」ドォン

ビスマルク「でも、火力なら負けはしないわよ!」ドゴォンドゴォン

神通「っ!」ズザザッ

川内「うぁっ!……どうする?近づけば魚雷、離れれば砲撃。避けられることには避けられるけど、このままじゃどうにもならないよ……!」ヒソヒソ

神通「こちらの攻撃パターンを完全に読まれていますね……ですから例えば、こちらもビスマルクさんのように多様な攻撃を同時に行えればあるいは……」

川内「そうは言っても、射程の短い主砲と魚雷しか積んでない軽巡じゃ……」

神通「効果があまり無くても、あちらの注意を逸らせる程度でも、何か他に攻撃手段があれば……!」

……ブゥン

川内「……?」クルッ

神通「あれは……!」

九七妖精「」ヘイオマチ

川内「あれ、瑞鶴の雷撃機じゃない!?」

神通「追いかけてきてくれたんですね!」

九七妖精「」テキカンハッケンー

川内「……あれなら、いけるかも!」

神通「ええ!」

九七妖精「」モクヒョウメノマエー

神通「例え当たらなくても、雷撃後に必ず隙ができるはずです。私達も行きましょう」カシャン

川内「了か……」

パァン パァン

神通「?」

九七妖精「」ウワッ

パァン パァン

九七妖精「」ダンマクコスギー

ビスマルク「堂々と突っ込んでくるとは舐められたものね。私の国のFlakを甘く見ないで!」

審判妖精「左主翼、敵高射砲弾命中!小破!」

九七妖精「」エ、アタッテナイヨ

審判妖精「嘘をつくな嘘を!バッチリ塗料付いてるのが見えるぞ!」

九七妖精「」ウルサーイフリオトスゾー

審判妖精「おい待て!やめろロールするな!うわぁぁぁっ……!」グルングルン

川内「艦攻が離れていく……あのくらいじゃ、戦艦には簡単に対処されるのか……」

神通「何かあと一歩、あと一歩が……いえ、待ってください。航空機というのは良い作戦かもしれません。川内姉さん、確かまだ偵察に出していない水偵がありましたよね?」

川内「一機だけなら……でも、どうやって使う?」

神通「限界まで意図を読まれないために、まず――」ヒソヒソ

川内「――分かった。じゃあその間に、神通はさっきの艦攻に作戦を伝えて!」

神通「はい。それでは、一旦離れましょう。そろそろ……」カシャン

川内「……鉛弾が飛んでくる頃合いだからね」ニヤッ

……ドゴォン!

ビスマルク「何回かわしても、時間稼ぎにしかならないわよ!……あら、あれは……?」

川内水偵「」ブゥン

ビスマルク「あの軽巡の水偵……Flak!」

カカッ カカカカッ

川内水偵「」ヒラリ

川内水偵「」クルッ

ブゥン……

ビスマルク(逃げられたわね……さしずめ増援を呼びに行ったか、向こうの本隊に状況を報告しに行ったか……)

ビスマルク(……でも良いわ。それまでに、私があの二人に勝てば良いだけの事よ)フフッ

ビスマルク「……Feuer!!」ドゴォン

川内「うっ、わ!爆風広っ!」ズザザッ

川内「神通、まだ!?」クルッ

神通「もうすぐです!」

ビスマルク「よそ見してる暇なんて無いわよ!」ドォンドォン

川内「ま、まずっ……」

バシュッ

川内「……あれ?当たってない?」

ビスマルク「……!?今の弾は、必中コースに入っていたはずよ……!」

神通「……ええ。確かに、間違いなく当たっていたはずでした。弾がそのまま進んでいたらでしたが」カシャン

ビスマルク(単装砲……まさか)

神通「……」

ビスマルク「フフッ、砲弾で砲弾を弾くなんて。日本の艦娘は皆、侍か忍者なのかしら?」

神通「ビスマルクさんの副砲弾が徹甲榴弾でしたから何とか軌道を逸らせました。徹甲弾なら危なかったですね」

ビスマルク「今日は、面白い戦いがたくさんできそうね?」

神通「褒めていただけて嬉しいですが、私達もあなたをそう長く戦線に居続けさせる気はありませんので」ニコ

ビスマルク「……良い度胸ね。嫌いじゃないわ!」

ドォン カカカッ ドゴォンドゴォン

神通「姉さん、艦攻がもうすぐ来ます!」ザザッ

川内「こっちも準備万端だよ。よし!水雷戦隊、この川内に続けぇっ!」ダッ

神通(二人しかいませんが……って、そんなことを言っている場合ではないですね)ダッ

ビスマルク(……二人して突っ込んでくる?もしかして、自棄になったのかしら?)

ビスマルク(でも、勝利を急ぐ事にはリスクが伴うものよ……!)ドォン

川内「まだまだっ!」サッ

神通「……」ドォン

ビスマルク(そこまでは来られても、私のところにはたどり着け……)

ブゥン

ビスマルク(……?)

九七妖精「」リベンジダーオー

ビスマルク(さっきの艦攻……まだいたのね。でも、同じ手は何度やっても通用しないわよ)

カカカカッ

九七妖精「」アーコレハムリダワ

ベチャベチャベチャッ

審判妖精「胴体及び右主翼に被弾多数!撃墜!」バッ

九七妖精「」キビシーイ

審判妖精「だから公正に判断していると何度言ったら」

九七妖精「」チョットトンデカラセンセンリダツシヨー

審判妖精「……って聞けぇぇぇ!」グルングルン

ビスマルク「あとは貴女達二人だけ……っ?!」クルッ

ヒュウウウ……

川内水偵妖精「」コウイウヤクモシンセンカモ

ビスマルク「水偵……離れていったはずじゃ……!」

神通「ご存知ですよね?水偵は爆弾も積めるんです」バシュン

ビスマルク「!」チラッ

ビスマルク(もう緩降下態勢に入ってる……!機銃……は、艦攻に向けてたから旋回が間に合わない……!)

ビスマルク「副砲、対空射撃用意!Feuer!」

川内水偵妖精「」バクダントウカー

ビスマルク「……っ」サッ

ドォォォン!

審判妖精「川内水偵1番機、撃墜ぃぃぃっ!」グルングルン

審判妖精「ビスマルク、小破!」

ビスマルク「……はぁ、はぁ」

ビスマルク(何とか直撃は免れたわね。結構追いつめられたけど、後はあの二人を仕留めるだけ……)

神通「……そこですね」ザッ

川内「や。ようやく近づけたよ」バッ

ビスマルク「な、何ですって……!?」

川内「軽巡の取り柄って、速力くらいしか無いからさ。やっぱり夜戦も昼戦も、至近魚雷戦が一番だよね!」

ビスマルク「くっ、まだ!Feue……あ、あら?」スカッ

川内「機銃は海面ぎりぎり向いてる上に、副砲は仰角最大じゃさすがにね……?」ニッ

ビスマルク「まさかあなた達、このために……!?」

川内「神通、魚雷斉射準備。決着だよ」ガシャン

神通「はい」ガシャン

ビスマルク「……完璧ね。負けたわ、あなた達には」



審判妖精「――ビスマルク、大破航行不能。速やかに演習から離脱してください」

本日はここまで。更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありません。
次回もいつできるか不明です。最悪月末頃になるかもしれませんが、必ず戻ってきますのでお待ちください。

暮零戦妖精B「」フタリガカッタッテサ-

暮零戦妖精A「」ダレニ?

暮零戦妖精B「」センカンニ

暮零戦妖精C「」ナマエハ-?

暮零戦妖精B「」ビス…ナンダッケ?

暮零戦妖精C「」ソコシラナインカイ

暮零戦妖精A「」ソロソロシズカニ

暮零戦妖精C「」タイチョウキビシー

翔鶴『まもなく敵の攻撃隊の索敵範囲に入ります。制空と邀撃、頼みましたよ』

暮零戦妖精A「」ゼンイン、キアイイレテケヨー

暮零戦妖精達「」オー

翔鶴『攻撃隊の皆さんは、制空戦から距離を取り護衛機と共に敵艦隊を目指してください。最優先目標は……航空母艦、加賀です』

九七妖精達「」リョーカイ

九九妖精達「」ラジャッ

暮零戦妖精A「」ジャ、イッチョイクカ-

暮零戦妖精A「」ゼンキ、コウカ-!

暮零戦妖精達「」ウォー!

ブゥン――

パンッ……パパパパンッ

加賀零戦妖精A「」カチャカチャ

ツーツートントントン……

加賀零戦妖精A「」ワレテキセントウキノコウゲキヲウク

ヒュッ

暮零戦妖精C「」オラー!トツゲキダー!

加賀零戦妖精A「」ソンナニサケバナクテモイーデショウニ

暮零戦妖精C「」モンドウムヨウッ

バババババッ

加賀零戦妖精A「」ヒラリ

暮零戦妖精C「」コンドコソハ……カツ!

加賀零戦妖精A「」……アイカワラズアツクルシイブタイデスネ

翔鶴「航空隊が交戦を開始しました。瑞鶴、川内さんと神通さんは?」

瑞鶴「戦闘してる間に私達から結構離れちゃったから、戻るまでもう少しかかるみたい」

漣「そうなると、しばらくは防空に不安が残りますね……」

那珂「でもその分、今回は機体が更新されて今までより強くなってるんだよねっ!なら大丈夫じゃないかな?」

翔鶴「だと良いのですが……加賀さんの航空隊の錬度は侮れません」

瑞鶴「も、もちろん大丈夫よ!何てったって新型機だし!提督さんが、うちの航空隊の錬度は加賀とだって肩を並べられるくらいだってこの前言ってたし!」

那珂「あれ、でもよく考えたら、新型になったのは戦闘機だけなんだっけ?」クビカシゲ

漣「それに『肩を並べられるくらい』って、勝ってるわけではないってことですしね……」ボソッ

瑞鶴「う……」タラリ

瑞鶴「……もうっ!何でそうやって士気下げるような事ばっかり言うのよ!」ムキー

暮零戦妖精C「」ソコダ-オエー

加賀零戦妖精A「」ニゲテバッカジャイラレマセンカ

バシュン

暮零戦妖精C「」アブナッ

加賀零戦妖精A「」シンチョウサ、ダイジデスヨー

暮零戦妖精C「」チッコシャクナッ

パンッ  パパパパンッ

加賀零戦妖精A「」ヒョイッ

暮零戦妖精C「」……ソウクルトオモッタ

加賀零戦妖精A「」ナニガ……?

バッ

暮零戦妖精B「」ニヤリ

暮零戦妖精B「」イラッシャイマセ

加賀零戦妖精A「」……アア、ソウイウヤツデスカ-

クルッ

加賀零戦妖精A「」ナメナイデクダサイヨ

暮零戦妖精B「」ヤバッ

審判妖精「暮鎮守府零戦2番機被弾、中破!」

暮零戦妖精C「」ソノチュウガエリハハンソク-

暮零戦妖精B「」マテー!

加賀零戦妖精「」イヤ、フツーマチマセンッテ

スッ

暮零戦妖精A「」カチャリ

暮零戦妖精A「」……ニガサンヨ

加賀零戦妖精「」ウワ、マダイマシタカ

暮零戦妖精A「」チャンスハイッシュン……イマッ!

加賀零戦妖精A「」……クッ

ベチャベチャベチャッ

審判妖精「暮鎮守府零戦1番機被弾、小破!……う、酔った……うぷっ」グルングルン

審判妖精「寄越日鎮守府零戦1番機被弾、撃墜!……おえっ気持ち悪っ……」グルングルン

暮零戦妖精B「」サスガッ!

暮零戦妖精A「」グッ

――ブゥン

加賀零戦妖精B「」ヨクモタイチョウヲッ!

暮零戦妖精A「」チョクジョウ!カイヒッ!

暮零戦妖精C「」マズイッ

ベチャッ

審判妖精「暮鎮守府零戦3番機被弾、撃墜!」

暮零戦妖精B「」チクショウッ

暮零戦妖精A「」イッタンキョリヲトレッ

暮零戦妖精D「」オリャ-ライゲキキフゼイガ-

天山妖精「」ヒラリ

暮零戦妖精D「」アツマラレルトキツイ-

ベチャベチャッ

審判妖精「寄越日鎮守府天山12番機被弾、撃墜!」

審判妖精「寄越日鎮守府天山15番機被弾、撃墜!」

暮零戦妖精D「」ヨシッ

加賀零戦妖精B「」ハラガマルミエデスヨット

暮零戦妖精A「」シタダヨケロッ

暮零戦妖精D「」ナッ……

審判妖精「暮鎮守府零戦4番機被弾、大破――」

天山妖精「」コウブジュウザモアルンデス

バシュン

審判妖精「――撃墜!」

暮零戦妖精B「」チィッ

暮零戦妖精A「」ニキヒトクミッ!コリツヲサケロ-!


アブナイサガレ-

ナンノコレシキッ!

審判妖精「寄越日鎮守府零戦11番機被弾、撃墜!」

審判妖精「暮鎮守府零戦9番機被弾、撃墜!」


暮零戦妖精A「」ニバンキ!ボカンニジョウキョウホウコク!

暮零戦妖精B「」リョウカイ!


審判妖精「寄越日鎮守府彗星7番機――」

審判妖精「寄越日鎮守府天山6番機――」

審判妖精「暮鎮守府零戦8番機――」

翔鶴「――制空隊から連絡が来ました。戦闘機数で二倍近いという数的優位もあり戦況は全体として優勢のようですが……抵抗も激しく消耗戦になっているとのことです」

瑞鶴「攻撃隊の方は?」

翔鶴「そちらは護衛機も含めて損害は軽微よ。被害のほとんどは制空隊から出ているみたい」

瑞鶴「……まあ、一筋縄じゃいかない相手だとは思ってたわ。押し負けないだけでも優勢は優勢よ。この調子なら対空戦闘はかなり楽になりそうね」

ピピッ ピピッ

瑞鶴「通信機鳴ってるよ?」

漣「また制空隊から連絡ですか?」

翔鶴「いえ。確か、この通信帯は直掩機のはずなのだけれど……」カチャッ

翔鶴「……」

翔鶴「!」

??「こんなにずーっと隠密行動してると、いい加減肩が凝ってくるクマー」

??「いやいや、逆に隠密じゃなかったら進むだけでも大変だし」

??「もう少しの辛抱ですよ」

??「でもさー、ホントに加賀さん一人にして大丈夫だったの?」

??「五航戦ごときに遅れは取りませんって言って、どれだけ止めても意地張ってたんだから仕方ないじゃないですか」

??「加賀は本当に翔鶴達と張り合うのが好きだクマ」

??「実際張り合ってるのは瑞鶴さんとだけだけどねぇー」

??「まあ、青葉は心配してませんけど」

??「加賀さんなら安心ってこと?」

??「それもありますが……加えて今回の加賀さんには秘密兵器がありますし、ね」

ブゥン

??「ん?あれって翔鶴さんトコの零戦じゃない?」

??「秋雲は目が良いクマね」

??「流石は"寄越日の画伯"……って、感心している場合じゃないですよ。発見されたってことですから」

??「元よりそういう予定だクマ」

??「そりゃそうだけどさー。警戒してってことじゃない?」

??「ヴォー!頑張るクマー!」グッ

??「それは警戒っていうより吶喊だよねぇー」

??「ともかく、ここからは全速で行きます。ちゃんとついて来てくださいよ」

??「重巡が軽巡と駆逐艦に言うセリフじゃないクマ」

??「い、言われてみれば確かにそうですね……」

ザバッ

??「私はどうすれば良いの?」

??「無理に早く来なくて良いですから、とにかくこっそりとお願いします」

??「了解よ」

??「上手くいけば大物が狙えますよ。何と言っても、相手はまだイムヤさんの存在すら知りませんから♪」

??「分かったわ」ニコッ

ブクブクブク……

??「では、行きましょう!」

瑞鶴「距離5500……私達の攻撃隊よりも手前!?もうすぐ目視できる距離じゃない!」

漣「3人でしたよね!誰と誰と誰ですか!?」カシャン

翔鶴「青葉さんを先頭に、球磨さんと秋雲さんが続いていたそうです。今度は全員面識がある方ですね」

那珂「こんな大事なときなのに、那珂ちゃんは姉妹で一人だけ仲間外れってひどいよー!」

漣「それにしても、敵艦隊はいつの間にそんな近くまで……」

瑞鶴「そうよ。よりによって、あれだけ航空部隊を送った正面から真っすぐ敵が来てるのよ。どうして見つけられなかったのかしら……」

翔鶴「……いえ、案外、見つけられないように仕向けられていたのかもしれないわね」

漣「どういうことですか?」

翔鶴「私達は、加賀さんの航空隊を早くに発見して挟撃するルートに航空隊を出しました。つまり、ギリギリまで加賀さんの航空隊に見つからないルートを進んだということです。しかし、それは逆に言えば、加賀さんの航空隊に見つかるルートには飛行機を飛ばさなかったということになります」

瑞鶴「……ってことはつまり、青葉達がその偵察できていなかったルート近辺を通ってきたとしたら辻褄が合うってこと?」

翔鶴「……」コクリ

那珂「でもそうすると、漣ちゃんが加賀さんの航空隊の位置を把握してたってことも知られてることになるよね?」

漣「いえ……それは確かに知られています。あの甲標的っぽいのに」

翔鶴「……となれば、早急に対策を立てなければなりません。敵水上艦隊の接近を阻止しつつ、敵空母への攻撃を実施する必要があります」

瑞鶴「でも、青葉達がここまで来てるなら今頃加賀の方は丸裸じゃない。攻撃隊をいくらか呼び戻して青葉達への攻撃に転用するべきよ。……良かった。もう少し遅かったら無駄に戦力を偏らせることになってたわ」

翔鶴「そう……そうね……」

翔鶴(確かに、攻撃隊は引き返せばまだ十分青葉さん達に追いつける位置にいる。でも、こんなにちょうど良く呼び戻せるタイミングで敵が見つかるなんてこと……考え過ぎかしら)

瑞鶴「制空隊から連絡よ。『敵攻撃隊、組織的戦力をほぼ喪失。補給のためこれより残存機は帰投する』!やったわ!」フフン

翔鶴「……」

瑞鶴「ね、翔鶴姉?今なら、一番良いタイミングで青葉達を攻撃できるわ」

翔鶴(加賀さんには直掩隊が付いているとはいえ、一人相手に攻撃隊全てを投入するのは確かに戦力過剰……適正数に戻して余力を制空権下の敵部隊攻撃に回す。何も、間違いは無いはず……)

翔鶴「……分かったわ。攻撃隊の爆撃機・雷撃機の半数を、青葉さん達の攻撃に向かわせましょう。直掩機も偵察を中止させてその援護に回します」

瑞鶴「漣、那珂。砲撃戦の準備は良い?」

漣「はい。ですが、私達だけで大丈夫でしょうか……?」カシャン

瑞鶴「バッチリ航空支援するから安心して。ね?」

那珂「そうだよ漣ちゃん!那珂ちゃんがいれば、絶対にセンターは抜かせないからっ!」

漣「分かりました。……漣、やってやりますよ!」ニコッ

漣「……ですが、下がらないんですか?特に空母のお二人は……」

翔鶴「あまり陸から距離がありませんので、下がると浅瀬に乗り上げるかもしれませんから。それに、制空隊の皆さんをできるだけ早く回収してあげたいですし」

漣「了解です!」

瑞鶴「まあ、急に色々慌ただしくなっちゃったけど、これで相手の戦力がほとんど明らかになったと思えば気が楽よね」

漣「加賀さん、青葉さん、球磨さん、秋雲さん、ビスマルクさん。で、多分最後の一人が、私を追ってきたあの……」

那珂「でも那珂ちゃん、潜水艦の艦娘がいるなんて聞いたことないよー?」

瑞鶴「私もよ」

翔鶴「私もです」

漣「もちろん漣もです……そもそも、服を着たままどうやって潜るんでしょうか?」

翔鶴「寄越日は規模も他の鎮守府とは段違いですし、新しい艦娘が頻繁に着任するらしいですから。この際、もう何が現れても驚いてはいられませんね」

漣「なんだか、演習をするたびに未知への耐性が付いていく感じがします……」

瑞鶴「それ言えてる!」アハハ

本日はここまで。ようやくまとまった時間が取れました。次回は今日明日中にできると思います。

対空電探はあるけどソナーはないのかな?

敵にカ級とかまだ確認されてないんだろうか

>>474
本文にもあるように、ソナーも爆雷も既に保有されており深海棲艦の潜水艦との戦闘に使われています。
ただ、潜水艦娘の存在はまだ暮の面々には知られていないようです。

球磨「敵襲クマー!」ドォンドォン

審判妖精「暮鎮守府九七艦攻20番機被弾、撃墜!」

九七妖精達「」コウドサゲロー!

青葉「思ったより数が多いですね」

秋雲「ほら青葉、遅れてるよ~?」スイー

青葉「しょうがないじゃないですか……。遅いんですし」バシュン

審判妖精「暮鎮守府九七艦攻14番機被弾、撃墜!」

秋雲「ほらー!球磨もあんまり前行かないの!」

球磨「悪かったクマ。つい本能で小さいものは追いかけてしまうんだクマ」クルリ

九九妖精達「」ネラエ-!ソコノジュウジュンダ-!

秋雲「青葉、装填まだ時間かかる?」

青葉「よいしょっと……もう少しです」ガチャガチャ

秋雲「んじゃ、それまでは秋雲さんの独壇場ってわけねー」カシャン

九九妖精達「」トウカジュンビ-!

秋雲「艦載機ども!秋雲さんの対空射撃、ちゃーんと見ときなよー?」スッ

シャッ つ10cm連装高角砲+高射装置

シャッ つ13号対空電探改

秋雲「照準よしっ!」

バババババッ!

審判妖精「暮鎮守府九九艦爆22番機被弾、撃墜!」

審判妖精「――暮鎮守府九九艦爆25番機――」

審判妖精「――府九九艦爆――」

九九妖精達「」ウワーッ

九九妖精A「」ナニガオキタンダー!?

ワーワーキャーキャー

球磨「見た目は地味だけど、球磨のことも忘れてもらっちゃ困るクマー」ドォン

審判妖精「――被弾、撃墜!」

九七妖精A「」カンバクタイハナニヤッテルンダロー?

九七妖精B「」サァ?

青葉「……よし、準備完了です!」カチャリ

九七妖精A「」シャゲキクルヨー

九七妖精B「」アタラナケレバドウトイウコトハナイ

青葉「撃てっ!」ドゴォン

九七妖精A「」ヒラリ

九七妖精B「」マッタク、マトハズレモイイトコ……

パァン!

九七妖精A「」ナニ!?

ベチャベチャッ

審判妖精「暮鎮守府九七艦攻19番機――」

九七妖精B「」グラリ

九七妖精A「」アイボウーッ!

九七妖精A「」イッタイ……!

パァン!

審判妖精「暮鎮守府九七艦攻――」

瑞鶴「どういうことなのよ、これ……!」

翔鶴「……駄目だわ。雷撃隊も爆撃隊も、攻撃開始以降全く連絡が取れないの」

瑞鶴「相手には戦闘機の一機もいないのよ?なのに……」

ブゥン

漣「あれ、見てください!制空隊の零戦です!」

瑞鶴「帰ってきたのね!……でも、様子が変じゃない?」

暮零戦妖精B「」クルッ

ドォン

暮零戦妖精B「」ベチャリ

那珂「う、撃ち落とされちゃったよっ!?」

瑞鶴「何、あれ……あんなに正確な対空射撃、鈴谷達でもできないわよ!」

暮零戦妖精A「」ヒラリ

瑞鶴「頑張って!あともう少しで……」

パァン パァンパァン

暮零戦妖精A「」モエツキタゼ……

翔鶴「そんな……。あの炸裂音、一体……」

漣「敵艦発見!青葉さん、球磨さん、秋雲さん……例の三人です!」

翔鶴「もう来てしまいましたか……!」

那珂「それに、なんか全員元気そうだよ!?」

青葉「」ドヤァ

秋雲「」ドヤァ

球磨「」クマァ

瑞鶴「ものすごく勝ち誇った顔しててムカつく……!」

翔鶴「皆さん、原因は分かりませんが航空攻撃の効果は薄かったようです……そして、ここまで接近されてしまっては仕方ありません。港の方角へ後退しながら砲撃戦で決着を付けましょう」

漣「了解しました!漣が最後尾行きます!」ダッ

那珂「那珂ちゃんも行っくよー!」ピョン

球磨「敵の空母が見えたクマ!これは球磨達の勝ちだクマ!」

青葉「追撃しちゃいますよ!」

秋雲「よぉ漣ぃー!久しぶりー!」

漣「お久しぶりです秋雲さん」カシャン

秋雲「他人行儀だなぁ~。秋雲さんって呼んでいいのは秋雲だけだってー」カシャン

漣「……」ザッ

秋雲「……」ザッ

漣・秋雲(――来るっ!)カッ

ドゴーン ドゴーン

那珂「うわーん!どうして一対二なのー!」ピョンピョン

球磨「ふっふっふ……せいぜい存分に逃げ惑うクマ!」バシュン

青葉「それ、青葉達が悪役になってません?」バシュン

那珂「漣ちゃんは秋雲ちゃんと一騎打ちしてるし……もしかして那珂ちゃん、一人ぼっち……」ウルウル

??「――そんなことはありませんよ」

球磨「何か言ったクマ?」

青葉「いえ、何も?」

那珂「そっ、その声はっ!」

ドゴォン

球磨「クマ!?」

青葉「新手ですか!」

神通「遅くなってすみません。……何とか間に合いました」ニコ

川内「妹をいじめる奴は放っておけないからね!」

球磨「ええい小癪な奴らだクマ!まとめて地獄に送ってやるクマ!」ガオー

青葉「球磨さんノリノリですね」

川内「旧式艦に負けてたまるか!」ガシャン

球磨「言うほど差は無いクマ!」ガシャン

翔鶴「瑞鶴、港までの距離は?」

瑞鶴「えーと……これ以上下がるのはもう危険かも。水深があんまり無いから」

ドゴーン ドゴーン

クマー! ナッカチャーン!

翔鶴「皆頑張ってくれているけれど、押し込まれるのも時間の問題ね……」

瑞鶴「……しょうがない。翔鶴姉、あれ出せる?」

翔鶴「……仕方ないわね。分かったわ」

――シュッ

瑞鶴「魚雷!?……翔鶴姉っ!」ドン

審判妖精「瑞鶴、中破!」パッ

審判妖精「翔鶴、小破!」パッ

??「……」ブクブク

翔鶴「瑞鶴、大丈夫!?」

瑞鶴「うん、まだ中破だから……あの夜戦バカもいつも言ってるし。『中破は無傷』って」

翔鶴「……多分、今のが漣ちゃんの言っていた甲標的もどきね」チラリ

瑞鶴「うん。問題は、浮上してくれないと見つけることもできないってことだけど……あっ」

翔鶴「何か思いついたの?」

瑞鶴「もう少し陸側までおびき寄せれば、水深が足りなくなって浮上してくるかも。空母をみすみす見逃すはずも無いし、私達が逃げればきっと追ってくるはず」ヒソヒソ

翔鶴「……そうね」ヒソヒソ

瑞鶴「――せーのっ!」

翔鶴・瑞鶴「」ダッ

??「……!」スススッ

ガンッ

??「ぁ、痛っ!」ザバッ

翔鶴「!」

??「!」

瑞鶴「み、水着だ……」

伊168「な、何よ!泳ぎやすいんだから良いじゃない!」

翔鶴・瑞鶴・伊168「……」

伊168「ってそんなこと言ってる場合じゃないわよ!」ジャキッ

瑞鶴「翔鶴姉!」ガシャン

翔鶴「ええ!」ガシャン

伊168「えっ、あなたたち、何で空母なのに砲持ってるのよ!?」

瑞鶴「空母だって、元々はたくさん副砲を積んでたのよ?護身用に、ね♪」

伊168「15.5センチ三連装砲持ってる空母なんて初めて見たわよ!」

球磨「クマー!」ドォン

翔鶴「球磨さん……もうここまで……!?」

神通「くっ……すみません翔鶴さん。前進を許しました」ザッ

青葉「やっぱり、重巡と軽巡じゃ砲火力が段違いですね」

川内「はぁっ、はぁっ……」

那珂「な、那珂ちゃんもピンチかもっ……!」

秋雲「ふぅ、漣も、結構鍛えてるみたいだねぇー……」ゼエゼエ

漣「秋雲さんも、です……っ」

球磨「って、どうして翔鶴と瑞鶴が砲構えてるクマ!?」

瑞鶴「あんた達を……吹っ飛ばすためよ!」ドォン

球磨「クマー!?」

ベチャベチャベチャッ

審判妖精「球磨、中破!」パッ

審判妖精「青葉、小破!」パッ

球磨「やったクマね!そっくりそのまま返してやるクマ!」ダッ

翔鶴「私と瑞鶴も支援します!全員、順次輪形陣を組みつつ砲撃戦から雷撃戦に移ってください!」

漣・川内・神通・那珂「はい!」

球磨「クマクマクマクマクマ!!」ヒュンヒュン

神通「は、速いっ……!」

川内「止まれっ!」ドォン

漣「左舷魚雷、斉射っ!」シュッ

球磨「効かないクマー!」ヒョイッ

神通「瑞鶴さん!下がってください!」ドンッ

秋雲「オマケの魚雷だよ……もう一斉射!」シュッ

バァンッ!

審判妖精「神通、秋雲、青葉、中破!」パッ

ウワー キャー

瑞鶴「あっぶない――みんな固まりすぎ!」

那珂「ら、雷跡っ!1時と3時と9時と11時と……多すぎるよー!」アワアワ

瑞鶴「艦隊全速後退!とにかく魚雷を――」

翔鶴「後退はダメです!瑞鶴、後ろを見て!」

瑞鶴「後ろ?……えっ、もう岸がすぐ――!?」

球磨「こうなったら、この一撃で勝負を付けてやるクマ!」シュッ

青葉「く、球磨さん!ストップストップ!」

瑞鶴「ちょっ、待ちなさいよっ!こんな所で魚雷なんて撃ったら……!」

翔鶴「全員、身を守って――!」



ドンガラガッシャーン




加賀「……ふう」

暮零戦妖精E「」ナ、ナニコレー……

――ブゥン

九七妖精達「」ヤラレタッ

九九妖精達「」テッテキハドコダッ!

暮零戦妖精F「」トテモオイツケナイゾ……ウワー!

――ブゥン

暮零戦妖精E「」……ウエカ!?

ベチャッ

審判妖精「暮鎮守府――」

加賀「……なかなか良い機体ね。明石さんにお礼を言っておかないと」

本日はここまで。次回は明日か明後日になります。

戦闘回もっとコンパクトにしてほしいんよー

ちょっと冗長かな

>>498 >>501
ご意見ありがとうございます。励みになります。
確かに冗長だったかもしれませんね。今後に生かしたいと思います。

「――さん!整備兵さん!」

整備兵「……はっ!」ガバッ

白雪「大丈夫ですか!……痛たっ」サスリサスリ

整備兵「あ、ああ……って、俺なんでこんなとこに転がってるんだ?」ビッショリ

整備兵(確か演習を見ていて……そうだ。なぜか知らないが演習中の艦隊が岸に突っ込んできて巻き込まれたんだった)

提督「これはまた随分と派手にやってくれたな……」パラソルノカゲ

整備兵「……おい提督、俺のパラソル盗って盾にしただろ。そのせいでこっちはまともに海水浴びてんだぞ」

提督「工員服と違って第二種軍装は洗うのが大変なんだよ。まあ良いだろ、涼しくなって」ヨッコイショ

整備兵「なんて奴だ……」クルッ

整備兵「白雪、立てるか?どこか怪我してないか?」

白雪「いえ、特に怪我は……でも、今は」

整備兵「良かった。とりあえず、周囲の安全を確認しないといけないな。ほら、引っ張るから白雪も立って……」グイッ

パサッ

整備兵(パサッ?)

白雪「あっ……!?」

整備兵「な……」

整備兵(白雪のセーラー服の前が、何というか……ごっそり破れて落ちている)

白雪「……ううっ」ウズクマリ

整備兵「わ、悪かった!ほら、俺の上着貸すから……!」

整備兵(って、ずぶ濡れなんだった……)

白雪「だ、大丈夫です……。整備兵さんのせいではありませんから……」グスッ

漣「また白雪ちゃんを泣かせてるんですか、整備兵さん」スタスタ

整備兵「違う。というか、そもそもの原因は漣たちがぶつかってきたことだろうが……って、おい!漣も、服っ!」

漣「艦娘のダメージの受け方はこういうものなんです。整備兵さんの方が気にしなければ良いんですよ」シレッ

整備兵「いや、もう少しこう、恥じらいというものを……」メソラシ

提督「……それで漣、何が起こったんだ?」

整備兵(提督は顔色一つ変えていない……やっぱり慣れなのか?)

漣「あ、何見てるんですかご主人さまー。そんなに気になっちゃいます?」ニヤニヤ

整備兵「俺のときと態度が違」

提督「だから見ていないといつも言っているだろう。良いから早くこの大事故の説明をしろ」ハァ

漣「ショボーン(´・ω・`)」

提督「それと、まずは全員工廠へ移動して艤装の修理だ。元帥閣下にも事情を伝えて、工廠までご足労頂けるように頼んでおく」

【工廠】

工廠長「一体どうなってんだよこれはァ!?」バァン

整備兵「仕方ないだろ、事故なんだから……ほら、鋼材こっちに置いとくぞ」

工廠長「だからってなァ、ただの演習で本物の大破が五人も六人も出るなんざ有り得ねェだろうが!このせいで俺達全員今日は徹夜だぞ!?」

整備兵「待て。それ、俺も入ってるのか?」

工廠長「工廠で働いてんだから当たり前だろォ!?」

整備兵(勘弁してくれよ……)ガックリ

ワーワー

整備兵「……?」チラッ

工廠妖精A「そっちがそういうことするからでさぁ!」

工廠妖精達「そうだそうだ!」

零戦妖精達「」ソコヲナントカー

工廠妖精B「それならもう判定に口出ししないっスね?無駄なロールもしないっスね?」

九七妖精達「」モチロンデゴザイマスー

工廠妖精達「前もそんなこと言ってただろー!」

工廠妖精達「この口だけ野郎がー!」

九九妖精「」コノトオリー

整備兵「……何か揉めてるみたいだぞ?」

工廠長「演習の後はいつもああだ。艦載機の連中が遊び感覚で審判を振り落とそうとしただの何だので、ストライキ寸前まで行ったりする。まあ、最終的にはいつも俺達が折れるがな」

工廠妖精B「……分かったっス。今回は許してやるっス。次やったら今度こそ、そっちの艦載機を全部スクラップにしてやるっスよ?」

零戦妖精達「」ハハーアリガタヤー

整備兵「しかし、どうも悪いのは艦載機の妖精の方に見えるけどな……」

工廠長「俺達には俺達の仕事があって、あいつらにはあいつらの仕事がある。最終的に職務を遂行するためなら、時には譲ることも必要だ。……俺達工廠の妖精は、全員ちゃんとそのことが分かってンだよ。それだけだ」

漣「すいませーん!お風呂、空いてますか?」

工廠長「」コクリ

漣「ありがとうございます。さっ、白雪ちゃん、早く早く!」グイグイ

白雪「整備兵さん、そんなに時間はかからないと思いますので……戻るまでよろしくお願いします」

整備兵「えーと……分かった」メソラシ

漣「ではっ!」

ダダダッ

整備兵「風呂……って、工廠に風呂があるのか?てっきり宿舎にあるものとばかり……」

工廠長「ここで風呂に行くって言ったら、ただの風呂のことじゃねェ。修復に行くってことだ」

整備兵「修復に風呂が必要なのか?」

工廠長「まァ……まず若造も気づいたとは思うが、お嬢ちゃん達はあんな大事故起こしたってのにピンピンしてただろ?」

整備兵「ああ」

工廠長「ありゃァな、艤装と服が直接の傷を引き受けてるからなんだよ。戦いで酷くやられても、お嬢ちゃん達は目に見える怪我をほとんどしない。俺達が修理しなきゃならねェのは艤装と服だけだ」

整備兵「それは……良いな」

工廠長「だがな、そのダメージは怪我としては残らなくとも、お嬢ちゃん達の体に疲労として残る」

整備兵「走っていて転んでも擦り傷はできないけど、走った分の疲れは残るって感じか?」

工廠長「どっちかと言うと……走っていて転んでも擦り傷はできねェが、転ばずに走ったときより余計に疲れるって方が近いかもしれねェな。で、その疲労を解消する施設が風呂だ」

整備兵「なぜ、風呂……」

工廠長「さっきも言ったが、もちろん普通の風呂じゃあない。疲労が良く取れる湯が入ってるからな。さっきのお嬢ちゃん達なら、ものの二、三時間ですっかり元気になるはずだ」

整備兵「一体何が入ってるんだその風呂……」

工廠長「後、高速修復材と呼ばれる液体を追加投入すると効果が高まる。どんな疲れも数秒で吹き飛ぶようになるな」

整備兵「本当に何が入ってるんだよ……!?」

整備兵(……待てよ。風呂の湯の成分を検査してみるのもありかもしれないな。何が修復を可能にしているのかのヒントになるかもしれない)

整備兵「その風呂の湯、少しもらうことってできるか?」

工廠長「……あァん?」

整備兵「いや、湯を少し。どうも気になってさ……」

工廠長「……若造。俺も男だから分からないでもねェが……」

整備兵「ん……?何の話だ?」

工廠長「……残り湯集めるってのはちょいと趣味が悪いんじゃねェか?」ヒキッ

整備兵「そうじゃねえよ!」

工廠長「どっちにせよ修復用の風呂はお嬢ちゃん達以外立ち入り禁止だ。何だかんだ言っても一応風呂だからな。若造も自分の風呂が無ェってわけじゃねえだろ?」

整備兵「まあ、そりゃそうだけど……それなら、高速修復材の方はどうだ?」

工廠長「使いきりの量しか無ェから、ちょっと分けるってこともできねえ。それに貴重品だ。一つたりともやれねェよ」

整備兵「……ケチだな」ボソッ

工廠長「あァん!?」

ガラガラガラ

整備兵「誰か来たのか?」クルッ

提督「こちらです、元帥閣下」スタスタ

元帥「うむ」スタスタ

整備兵(あの人が、元帥……!)バッ

整備兵「……」ビシッ

提督「こちら、工廠に勤務している整備兵です」

元帥「ふむ、君が例の……」ビシッ

元帥「提督から話は聞いておるよ。調査の具合はどうじゃね?」

整備兵「えー……。まだ開始したばかりでして、ご期待に添えるような進捗は……」

元帥「ふぉっふぉっふぉっ!」

整備兵「」ビクッ

元帥「分かっておるよ。老い先は短くとも、流石にそこまでせっかちではないわい」

整備兵「は……はっ、ありがとうございます」ペコリ

整備兵(想像していたよりも、茶目っ気のある人みたいだ……)

元帥「ところで、整備兵君。君さえ良ければじゃが、近々会わせたい者がおる」

整備兵「……?」

元帥「寄越日鎮守府の工廠を運営しながら、君と同じように妖精の整備技術について調査している艦娘じゃ。名を明石と言う」

整備兵(明石……工作艦だな)

元帥「同じ調査をしている者同士、意見交換などできると良い刺激になるじゃろう。どうかね?」

整備兵「ありがたいお話です。是非とも、お願いいたします」

元帥「うむ。では暇を見てこちらへ派遣するから、それまでは引き続き職務に励んでくれたまえ」

整備兵「はっ!」

ガラガラガラ

元帥「おお、加賀か」

加賀「他の皆がここにいると聞きましたので」スタスタ

元帥「高速修復材を使わせておるから、終わり次第ぼちぼち戻って来るじゃろう」

加賀「では、秘書艦として私もここで待つことにします。……あら、あなたが整備兵さんね」

整備兵「ああ、初めまして。加賀は特に損傷を受けていないんだな」

加賀「空母というのは、元来後方にいて戦闘に直接巻き込まれたりはしないものよ。……それが分かっていない子もいるみたいだけれど」フン

整備兵(ああ……確かに、これは相当対抗心を燃やしてるな……)アハハ

元帥「しかし提督君、あの電探運用はなかなかのものじゃった。さながらレーダーピケット艦じゃな」

提督「元帥閣下に予測されていなければ、ですがね。元帥閣下の艦隊の戦略こそ、素晴らしいものでした」

元帥「ほう。どのようにじゃ?」

提督「我々の攻撃隊が加賀へ集中していても青葉達へ集中していても、集中した側には流石に損害が出たでしょう。しかし絶妙なタイミングで攻撃隊の分割を誘い、対抗できるギリギリの戦力で各個撃破することで空母の少なさを補う……素晴らしい戦略です」

元帥「それだけ分かっていれば、君も凡庸とは言えまい」ニコ

提督「それと元帥閣下。今回は、潜水艦と外国の艦がいましたね」

元帥「伊168とビスマルクのことじゃな。伊168は演習への参加が初めてじゃが、実はかなり昔から寄越日におったのじゃよ。これまでは他の潜水艦娘と同じく南西諸島海域での資源確保作戦に忙しかったから、あまり他の作戦に参加できなかったのじゃ」

元帥「そして、ビスマルクの方は本当に新入りじゃ。着任は今日の朝じゃったからな。提督君の言う通りドイツの戦艦娘じゃ」

整備兵「着任が、今朝ですか……!?」

元帥「この国の艦娘の力をどうしても早く見たいと言うものじゃからな。急遽演習艦隊に加えたのじゃ。じゃから、まだ砲撃などで拙い所が多く見られたのう」

バタン

翔鶴「ふぅ……」トコトコ

瑞鶴「あ、提督さん。本当に私達だけ高速修復材もらって良かったの?」トコトコ

提督「二人は今日と明日、夜間警備の係だからな。あまり長風呂されても困る」

瑞鶴「あ、そういうことか。なーんだ……って」ジロッ

加賀「こんにちは。翔鶴さん、瑞鶴さん」

翔鶴「こんにちは、加賀さ……」

瑞鶴「久しぶりね加賀。……会えて嬉しいわ」キッ

加賀「私は別に嬉しいとも思わないけれど」

瑞鶴「……っ、こっちこそ、コソコソ後ろに隠れて出てこないお高くとまった空母と会っても嬉しくも何とも無いわよ」ビキビキ

翔鶴「ちょっと、瑞鶴……」

加賀「敵の接近を許す方が空母としては失格ね。艦載機の錬度だけでなく指揮能力も上げなければ、機動部隊の強化には繋がらないわ」

瑞鶴「うっ……。こ、こいつ……!」グヌヌ

ワーワーギャーギャー

整備兵(あー……始まってしまった)

提督「……申し訳ございません元帥閣下。後でよく言い聞かせておきますので」キリキリ

元帥「構わんよ。人も艦娘も、皆多かれ少なかれ衝突して育ってゆくものじゃ」

整備兵「……とは言っても、流石に張り合い過ぎな気もするな……」ポツリ

青葉「ですよねぇ」

整備兵「うわあっ!?」クルッ

青葉「はじめまして。寄越日鎮守府所属、重巡洋艦青葉です!以後お見知りおきを!」

整備兵「は、はぁ……一体どこから出てきたんだ?」

青葉「そこは気にしちゃダメですよ。それにしても、ここの工廠はやっぱりミステリアスですね。特に資源収支の辺りとか」パラパラ

整備兵「おい、それ開発記録か?勝手に見て良いものじゃ……」

青葉「まあまあ、良いじゃないですか。これは面白いネタになりますよ……」メモメモ

整備兵「何のネタだよ……」

青葉「では整備兵さんも、一発インタビューを。まずは職務に対する抱負をどうぞ!」

整備兵「……ノーコメントだ」

青葉「何ですか。面白くないですね。……ですが、この鎮守府は他とは違うことだらけですから。悪く言えば変、良く言えば見ているだけで楽しいですよ」

整備兵「まあ、それは俺も思ったことがあるが……」

青葉「ここを舞台に映画を作っても良いくらいなんじゃないでしょうか。こう記録映画風に、対深海棲艦戦争の真っただ中、一風変わった方法で戦果を上げ続ける一つの鎮守府があった……みたいな」

整備兵「そこまでずば抜けて変わってると言われ続けると流石に嬉しくないな……」

青葉「あはは、すみません。ともかく、これからもお互いに頑張っていきましょう」ポンポン

整備兵「……そうだな」ニコッ

青葉「では、青葉は加賀さんを連れて行きますので。そのあと、他の四人が戻り次第、青葉達は寄越日へ帰ります。またいつか会いましょう!」スッ

整備兵「?」

青葉「握手ですよ。親交の握手です」

整備兵「あ……ああ。青葉も元気でな」ギュッ

青葉「もちろんです♪」サッ

<マアマアカガサン、マアマアマアマア

<チョッナニヨアンタ!

<イヤーゴメイワクオカケシマシタ!イヤースミマセン!デハ!

<サテ、ワシモモドルトスルカノウ

ガラガラガラ……ガタン

本日はここまで。次回も明日か明後日になります。

結局どっち勝ったの?

>>527
事故による被害が双方甚大で誰が誰に有効打を与えたのか分からなくなってしまったため、勝ち負けの判定も今回は付かなくなったと脳内補完をお願いします。
本文中ではっきりと説明するべきでしたね。すみません。

【工廠】
【夕刻】

整備兵「工廠長、燃料足りなくなったら言ってくれ。中途半端に開いてるドラム缶がある。……それにしても提督、俺を鎮守府に入れることは元帥にも話してたのか」

提督「当たり前だ。どこの馬の骨とも分からないお前みたいな人間に許可無く艦娘の情報を与えたら、俺の首が飛ぶぞ」

整備兵「馬の骨扱いかよ」

提督「しかし元帥も、軍内では珍しく妖精の技術を調査することに積極的でな。案外素早く話が通った」

整備兵「寄越日では明石という艦娘が俺と同じ調査をしているらしいが、それも元帥のお膝元だからってことか」

提督「明石は寄越日の工廠を最初期から運営している、海軍一の艦娘の専門家だそうだ。以前から俺も、色々と有用な情報を持っているかもしれないと思っていた」

整備兵「となると、明石との意見交換の機会を作るよう元帥に掛け合ったのもお前か?」

提督「当然だ」

整備兵「……いやあ、流石出来る奴だよ提督は」バンバン

提督「やめろ」グイ

提督「俺が引き込んだわけだからな。協力できることがあればやってみるのが筋というものだ。……そのかわり、明石からはきっちり情報を引き出せ。こっちには届かない話がごまんとあるはずだ」

整備兵「ああ、もちろんだ。それぐらいは心得てる」

提督「じゃあ、俺は執務室に戻る。今日はせいぜい働け」ヒラヒラ

整備兵「言われなくてもそうするしかないんだよ……」

ガラガラガラ……ガタン

整備兵(……さて、と)

整備兵(工廠の整理もだいぶ進んできたことだ。明石に会うまでに、俺の方でも妖精の技術について色々調べておかないとな)

整備兵(しかし、まずどの方向から調べてみるかという問題がある)

整備兵(もちろん、最も優先すべき調査対象は艤装そのものだ。幸い、ここには修理中の装備がたくさんある。今日は無理かもしれないが、雑用が忙しくないときにその構造を実際に見ることはできるだろう)

整備兵(実際に見るといえば風呂や高速修復材、変な力を発揮する工具なんかも調べたいが……覗きで捕まるのは最悪だし、修復材は渡せないと言われた。工廠妖精から工具を借りてまた仕事を中断させるのも良くない。ここは後回しだな)

整備兵(……そして、艤装そのものと同じくらい気になるのは妖精達自身だ。一番の疑問は当然、なぜ俺にだけ工廠の妖精達の声が聞こえるのか、ということだ)

整備兵(一方で、艦載機の妖精の声は聞こえなかったのも謎だ。工廠の妖精達と装備の妖精達は確かに性格が違うように見えるが、何か他にも違いがあるんだろうか?)

整備兵(他にも、撃墜された艦載機の搭乗員妖精の行方や、そもそも妖精はどこから生まれてくる何なのかということも全く分からない)

整備兵(それを探るためには、やっぱり妖精達に直接話を聞いてみないといけないだろうが……気軽に話せるのは工廠長くらいか。装備の妖精達は見分けすらつかないし、出撃のとき以外はどこにいるかも……)

整備兵「……とりあえず、できることからやってくか」ノビー

【深夜】

整備兵「白雪、その書類に今日使った資材量記録したらもう上がって良いぞ」

工廠妖精B「……!」ピクッ

白雪「整備兵さんは、まだ残るんですか?」

整備兵「修理が終わるまでは帰るなって工廠長から厳命されてるんだ。これだけ一度に何人も艤装が使えない状態はまずいから、今は猫の手でも借りたいんだとさ」フワァ

白雪「やっぱり、私ももう少し……力仕事はあまり力になれませんけど、書類仕事なら……」チラリ

工廠妖精B「そうそう、それが良いっスよ!」

整備兵「お前は黙っとけ」コツン

工廠妖精B「うびゃっ」

整備兵「……いや、白雪は明日も訓練があるからダメだ。俺はいざとなったら明日一日寝てられるし大丈夫だよ」

工廠長「あァん!?誰が明日は寝て良いって言った!?これが終わったら、明日はそのまま通常業務だ!」

白雪「……」

整備兵「あー……」ハハハ

白雪「……分かりました。でしたら、せめて今少し休憩をはさんでください。夕食を取ってからずっと働きづめです」

整備兵「まあ、な……」

白雪「良いですよね、工廠長さん?」ズイッ

工廠長「いや、今抜けられるとな……」ウデグミ

白雪「今抜けられると、何でしょう?」ズイッ

工廠妖精B「腰に手を当てて詰め寄る白雪さんも、ちょっとキツめでまた良いっス……俺も詰め寄られたいっス……」ウヘヘ

整備兵「……何とかしてくれこの妖精」ハァ

整備兵(とは言っても、白雪が自分の意見を前面に出すことってあまり無いよな……)

工廠長「……わーったわーった!確かに、集中力が落ちたらそれはそれでこっちが困るからな……短めに頼むぜ」ケッ

白雪「分かりました。では、お茶を淹れてきますね」ニコ

白雪「給湯室はどこでしょうか?」

工廠長「そこの扉入って右だ」クイッ

白雪「ありがとうございます」ニコ

工廠長「……けっ」

【工廠前 岸壁】

ザザーン ザザーン

整備兵「この辺で良いか……よいしょっと。ほら、白雪も」

白雪「休憩とは言いましたけれど、出てきてしまっても良かったんでしょうか……?」コシオロシ

整備兵「いや……折角休むなら、外に出た方が休んだ気がするだろって工廠長が言ってさ」

白雪「そうだったんですか……」

整備兵(本当は、白雪がいると工廠妖精Bの作業効率が地に落ちるから今だけでも出ろって言われたんだけどな……)

整備兵「工廠長も、さっき白雪に叱られて遠慮したのかもしれないぞ?」

白雪「し、叱ってなんか……///」カーッ

整備兵「口調が割とそんな感じだったけどな」ハハハ

白雪「やっ、やっぱり、きちんと休みは取るべきですから!整備兵さんの体調を考えてです!」

整備兵「ありがとう。白雪は真面目だな」ニコ

白雪「笑わないでください」プイ

整備兵「ごめんごめん」

白雪「……はい、どうぞ。緑茶です。漣ちゃんに、夜は目が覚めるように淹れたての濃い緑茶が良いと聞いて、練習したんです」ニコ

緑茶「」ホカホカ

整備兵(少し、冷ましてから飲むかな……)フーフー

白雪(あっ……)ハッ

白雪「すみません。夏なのに暑いお茶って、よく考えるとおかしかったですね……」シュン

整備兵「えっ?ま、まあ……でも、冷ませば良いし」

白雪「でも、余計な労力を使わせてしまって……」

整備兵「あと……あれだ!夏は冷たいものばかり飲みがちだから、ちょうど良いかもしれない」

整備兵「それにほら、潮風も涼しくて白雪のお茶との……そう、コントラストが良い感じだ!」

白雪「……」クスッ

整備兵「な、何だ?」

白雪「ふふっ……どうして整備兵さんが必死になるんですか。普通、ここで言い訳をするのは私の方ですよ?」クスクス

整備兵「は、ははは……お、ちょっと冷めてきたかな」ゴクリ

整備兵(……!)

整備兵「……おいしい。凄く。今まで自分で淹れてきた茶が、ただの湯みたいだ……!」

白雪「そ、それは言い過ぎでは……」

ザバッ

秋雲『くぅー!久々の暮の風呂は良いねぇー』グテー

漣『寄越日のも暮のも変わりませんよ……』グテー

秋雲『そ、れ、でー……どうなのよ最近は?』ニヤリ

漣『……何がですか』ジロッ

秋雲『提督とのことだよー』

漣『別に何も変わりませんよ』

秋雲『えぇー、何それ。もう何年秘書艦やってるんだか。いい加減、実は漣ご主人さまのことがっ……そうだったのか、俺もっ……きゃーっ、二人は幸せなキスをして終了っ!みたいな展開が』

漣『』ガシッ

秋雲『ちょまっ、溺れる!艦娘なのに溺れて死ぬ!』ガボガボ

漣『』ヒョイ

秋雲『ひどいねぇ。貴重なアドバイスを無下にするなんて』プカプカ

漣『別に何のアドバイスにもなってませんよ……』

秋雲『秋雲さんはー、ただ自分の心に忠実であれって言ってるんだよ?どうも漣は、口は回るくせに大事なことは言わないというかさー』

漣『確かに、秋雲さんがこっそり描いて売りさばいてる漫画は自分の心に忠実ですけどね』ジトッ

秋雲『あれはあれ、これはこれだよー。……まあでも、秋雲が本当に心の奥底から描きたいのはまた違ったものなんだよねぇ。別に媒体も漫画とは限らないから、そう……例えば、真実の恋とか?』

漣『何言ってるんですか、全く……とにかく、今ご主人さまは真剣に艦隊を指揮して深海棲艦と戦っているんです。そういうことは……』

秋雲『そんな時だからこそ、そういうことが大事なんだと思うけどねぇ……ま、いっか』




漣(……はぁ、眠れませんね)パチッ



ザザーン ザザーン

漣(適当に海の方へ来てしまいましたが、確かこちらには工廠しかありませんでしたね)

漣(この辺で引き返しますか……あれ?)

白雪「」ニコニコ

整備兵「」ニコニコ

漣(何してるんでしょうか……?)ジッ

漣(……ああ、白雪ちゃんがお茶を淹れてあげたんですね。練習の成果が発揮できたみたいで何よりです)

漣(盗み聞きも悪いですし、戻りましょう……)クルリ

漣(流石にあの二人はまだ会ったばかりですし、そういうのとは違うって分かりますが……)スタスタ

漣「……やっぱり、自分と重ねちゃいますよねー」ノビー

漣「まあ良いか。さっさと……おや?」

漣(執務室の明かりが点いていますね)

漣「……」

【提督執務室】

提督「……」カリカリ

コンコン ガチャ

漣「こんばんは、ご主人さま~♪」

提督「漣か。どうした?」

漣「いえ。遅くまでお仕事を頑張っているご主人さまに、お茶のサービスをと思いまして」

提督「もう夜も遅いだろう。わざわざ気を遣わなくても、」

漣「いえいえ!夕方はお風呂に浸かりっぱなしだったので、体力があり余っているんですよ」

提督「それなら、淹れてくれるに越したことは無いが……」

漣「了解です」ニコ

漣「ところで、何の書類を書いているんですか?昼には、そんなにたくさん無かったと思うんですけど……?」

提督「……『鎮守府間演習試合中の衝突事故に関する釈明と再発防止策』だ」

漣「Σ(;゚ロ゚)ゲッ」

漣「……と、ともかくお茶ができました!どうぞ!」スッ

提督「ありがとう。……うむ、旨いな」

漣「もちろんです。漣が何百回提督にお茶を淹れたと思ってるんですか」フンス

漣(……これで良いんです。こうして、今までと同じように過ごして行ければ。例え、何も変わらなくても……)

提督「……む」

漣「どうしました?」キョトン

提督「甘いな……玉露を入れたのか?」

漣「前も入れましたよ?同じ煎茶と玉露の組み合わせです」

提督「いや、だが今回の方が上手になっているな」

漣「えっ……」

提督「玉露の甘みを引き出して渋味を抑えるために、前よりも温度が低く抑えられている。いや……もしかしたら、夏だからあえて温めにしたのか?」

漣(……!)

漣「そ、そこまで細かく味わっているとは思いませんでした……」

提督「まあ……自然と、な。こっちこそ、何百回漣に茶を淹れられたと思っているんだ」

漣(自然と、ですか……)

提督「もう一杯、もらえるか?」

漣「……喜んで!」ニコッ

【工廠】

女神「こんばんは……」

工廠長「おう、女神か。ちょうど良い所に来た。……話があるんだが、良いか?」

女神「またすぐに別の場所へ発たなければなりませんので、どうか手短に……。そういえば、整備兵さんは……?彼がいると思ったのですが」

工廠長「若造なら、今は外で女と茶でも飲んでんだろうよ」

女神「それは良いですね……」ニコ

工廠長「良いもんかよ……だが、この話は若造がいない今しか出来ねェんだ。本題に入るぞ」

女神「ええ、どうぞ……」

工廠長「例のレシピはもう終わりだ。あんたには悪いが、俺が独断で中止した。流石にここの艦隊に与える影響が大きすぎる。資源という意味では問題ねえが、更新の遅れが無視出来ねェ」

女神「ああ、その話ですか……。きっと、整備兵さんや白雪さんに説得されたんでしょう……?」

工廠長「……まあな」

女神「分かりました……。大丈夫です。私の方からも、そろそろ止めるように言おうと思っていたところでしたから……」

工廠長「そいつは良かったぜ。俺達としても、あのレシピを使い続けるのは気が進まなかったからな。……それともう一つ。これを見ろ」ポイ

ガシャン

女神「鋲が打たれた鉄板ですね……。これが何か……?」

工廠長「……若造がやった。妖精の工具でな」

女神「……それは、驚きですね」

工廠長「驚きですねじゃねェ!どういうことだ?こいつは俺達にしか……」

女神「……知識は感情に、感情は心に、心は魂に」

工廠長「何の話だ?」

女神「つまり、経験は重要ではないのですよ……。過去を持っていなくとも、過去を知れば、それが魂になるのです……。工廠長、貴方も少しは期待したのではないですか……?」

工廠長「……バカバカしいこった」

女神「でしたら、整備兵さんに声が聞こえたとき、全てを気のせいにすることにすることもできたでしょう……。そうしなかったのなら、それは貴方がわずかでもそういう存在を求めたからに違いありません……」

工廠長「……チッ」

女神「私はその試みに反対しません……。私達の目的にも、決して反してはいません……。ですが、どうするかは貴方が決めることです……」

工廠長「……最後に良いか?若造も……『そうなる』ことは、あるのか?」

女神「そうですね――」



女神「――彼がそう、望めばですが」

本日はここまで。大体ですが、ここまでで序盤戦が終了、ここから中盤戦です。
次回も明日か明後日になります。

【??】

??「~~!」ブルブルブルブル

??「……ぷっ。殺してやるって目でこっち睨んでる」ニヤニヤ

??「ええと……流石にこれはやり過ぎじゃありません?」キョロキョロ

??「何を今さらー。一緒に作った共犯が引かないでよー」

??「いや、確かにそうですけど……」

??「   !      !」ガタガタガタガタ

??「あははっ、もっと震えだした。でも残念ながら声は出せませーん」

??「……」

??「あ、もう静かになっちゃったか。残念。まあ、まだまだ先は長いからねぇ……」

【朝】
【工廠】

整備兵「ぁー……肩痛い。腰痛い。腕痛い」ノビー

工廠長「どうだ?全部終わったか?」

整備兵「何とかな……」

工廠長「そろそろ終わりが見えてきたぞ。修理も全て、午前の訓練には間に合いそうだ」

整備兵「それは良かった」

工廠長「で、一旦若造の仕事も終わりだ。開発がしたかったら、俺達が修理を終わらせてから……そうだな、朝飯の後くらいからだな」

整備兵「なら工廠長、朝食まではまだ少し時間がある。修理の様子を見ていても良いのか?」

工廠長「……」ピクッ

整備兵「ん、ダメなのか?」

工廠長「いや、まだそうは言ってねェが……なんで、そんなもんが見てみてェんだ?」

整備兵「それはもちろん……」

整備兵(……いや、ちょっと待て)

整備兵(確か、まだ工廠長に俺の目的を話したことは無かったはずだ。だから、今ここで普通にその目的を話してしまえば工廠長の質問に対する答えになる)

整備兵(しかし、俺の目的――妖精の技術を調査すること――は、工廠長の側から見れば……妖精達の技術を盗むことを意味するんじゃないか?)

整備兵(今のところ工廠長は色々な情報をくれるし、妖精達が自分達の仕事内容を隠そうとする素振りも無い。案外、快く技術を分けてくれるかもしれないが……)

整備兵(……それでもやっぱり、工廠の妖精達が仕事に誇りを持っているということは考慮した方が良いように思える。そしてかつ、完全にごまかしにかかるのもかえって怪しいから、あくまで自然に……)

整備兵「……妖精達の整備技術に興味があるからだ。同業者として、さ」

整備兵(これも嘘じゃない。この鎮守府に来たきっかけとしては正しくないが、知れば知るほど妖精の技術を調査したい気持ちが増すのもまた事実だ)

工廠長「……」ジロリ

整備兵「……」

工廠長「……どうするかは俺が決めること、か」ボソッ

整備兵「……?」

工廠長「何でもねェ。……よし分かった。好きに見せてやるから、ついて来い」

カーンカーンカーン

バチッバチバチッ

工廠妖精達「ふっ!ふっ!」

整備兵「おお……ちゃんと見たことが無かったけど、やっぱりすごいな」

工廠妖精A「工廠長、どうしたんですかい?」

工廠長「若造が修理の様子を見たいってんで、連れてきたんだよ」

工廠妖精A「……そうでありましたか!おはようございます、整備兵殿!」ビシッ

整備兵「おはよう。別に早起きしたわけでもないけどな」

工廠妖精B「おはようございますっス!……して、白雪さんは?」

整備兵「まだ寝てるに決まってるだろ。諦めろ」

工廠妖精B「ああ、俺も白雪さんと一緒にお休みしたいっス……!」

整備兵「……妖精じゃなかったら、提督に頼んで憲兵隊を呼んでやれたんだが」ハァ

整備兵「ところで、今二人は何を修理してるんだ?」

工廠妖精A「魚雷発射管と魚雷でさぁ!」

整備兵「これが、九三式酸素魚雷……!」

整備兵(……のミニチュア版か)

整備兵「俺の腕の長さも無いぞ……こんな細かい配線よく扱えるな」ジー

工廠妖精A「あっしらの経験の賜物でさぁ」フンス

整備兵(でも……見た感じ、大体の構造は本物とそっくりに見えるな。気室、ジャイロ、スクリュー……)

工廠妖精A「見ても良いですが、この魚雷は組み立て中ですから触らないようにしてくださいよ」

工廠妖精B「安全装置が外れたら、蹴飛ばしただけで工廠を粉々にするかもしれない代物っス」

整備兵「そっちにあるのは何だ?」

工廠妖精B「修理の終わった12.7センチ連装砲っス。漣さんのものっスね。持ってみるっスか?」

整備兵「良いのか?……よいしょっと」ヒョイ

整備兵「おお……砲塔の根元辺りの形が本物とは違うのか。握れる部分が付いてるんだな」ギュッギュッ

工廠妖精A「その横にある突起を握りこんで押すと射撃でさぁ。もちろん今はロックが掛かっていますが……」

整備兵「射撃がここか……じゃあ、旋回と仰角の調節は……」

ピョコン

砲妖精「」ホウシンノナカカラコンニチハ

整備兵「よ、妖精?」

工廠妖精B「もう中に戻ってたっスか。早いっスね」

砲妖精「」シゴトネッシンナノデ

工廠妖精A「艦載機と同じで、それ以外の装備も細かい動作は妖精がやるんでさぁ。その連装砲も、弾の発射以外は全て妖精が受け持つんでさぁ」

整備兵「すごいもんだ……まるで、本物の船の乗員みたいに働くんだな」

工廠長「……」

整備兵「でもこれ、構造的に艦娘じゃない人間にも扱えるんじゃないか?」

工廠妖精B「妖精が言うことを聞かないから、まず照準ができないっス」

整備兵「うーん……だけど、照準できなくても射撃はこの部分を押せば良いだけなんだよな。それならできそうだが……」

工廠長「生身の人間が使うのは、やめておいた方が身のためだな」

整備兵「そうなのか?」

工廠長「考えてもみろ。人体の耐久力に対して反動が大きすぎる。艦娘は艤装が衝撃を肩代わりするから良いが……もし人間が使えば、」

整備兵「……」ゴクリ

工廠長「五体満足じゃいられねェかもしれないぜ……?」ニヤリ

工廠妖精A「」ニヤリ

工廠妖精B「」ニヤリ

整備兵「……じゃあ、これは返しておくから」ソソクサ

工廠妖精B「怖がりすぎっス……とは言っても、ここの区画にはもうその砲とさっきの魚雷くらいしか無いっすスよ。他はほとんど奥にしまうか、宿舎に届けちゃったっスから」

整備兵「それなら、もう一度さっきの魚雷を見るか……ん」

工廠妖精A「何ですかい?」

整備兵「これは……ちょうど今から、奥から二番目の……そこのバルブ締めるところか?」

工廠長「……!」

工廠妖精A「な、なんと……」

工廠妖精B「よ、良く分かったっスね!?」

整備兵「ああ、良かった……合ってたか。俺が知ってる、本物の方の魚雷と構造が同じだったからな」

工廠長「良く覚えてんな、そんなモン……」

整備兵「そっちの魚雷の仕組みは、軍でも勉強したし個人的にものめり込んだことがあったからさ」ハハハ

工廠妖精B「それならもう、整備兵殿も修理の仕事をすれば良いんっスよ!そうすれば、白雪さんもきっと一緒に来てくれるから……へっへっへ」

整備兵「心の声漏れてるぞ」

整備兵(でも、もしそうできれば妖精の技術のことがより分かるかもしれない。絶好の機会だ……!)

工廠妖精A「……工廠長、どうですかい?」クルッ

工廠長「……」ウデグミ

整備兵「……」

工廠長「……そう、だな。やってみるか。若造も、いつまでも荷物運びじゃつまんねェだろ。まァ、そんなに期待はしねェが」

整備兵「ほ、本当に良いのか?そんなに気軽に!?」ズイッ

工廠長「工廠を吹き飛ばしかねない様子なら即クビだがな」

整備兵「いや、俺も物凄く嬉しいんだが、仕組みはともかくどの装備も小さいから手先が……」

工廠長「そりゃ若造、いきなり魚雷みてェな繊細な部分を任せるわけ無ェだろうが!まずは基礎から、デカい部品からだ!」

整備兵「へ、へいへい……」

整備兵(まあ、そりゃそうか)

整備兵「……と、朝食の時間だ。一旦抜けさせてもらうぞ」

工廠長「おう」

工廠妖精A「頑張っていきやしょう!」

工廠妖精B「ご飯の後の作業には、白雪さんを是非連れ」

ガラガラガラ……ガタン

整備兵「ふう。眠い分、飯で体力を補わないとな……つらい」スタスタ

整備兵(……しかし、無茶な夜勤のおかげで、まだ朝なのにもういくつか大きな収穫があった)

整備兵(一つ目はもちろん、修理の仕事を勉強させてもらえるようになったことだ)

整備兵(そして二つ目はそれとも関係があるが……見たところ、艦娘達の武装の構造は、小さくなっていることを除けば現実の大戦期の兵器と何ら変わりないということだ)

整備兵(……まあ、さっき見た連装砲のように、艦娘が装着するための構造が追加されていることはあるが)

整備兵(このことは重要だ。艦娘の装備は妖精にしか扱えないとはいえ、別に未知の機械というわけじゃなく、その構造が人間にも理解できるということが分かったからな……)

整備兵「よし……ここからだ。頑張るぞ」グッ






工廠妖精A「工廠長、これで良いんですかい?」

工廠長「……ああ。昨日女神と話をしてから、良く考えて出した結論だ」

工廠妖精A「女神さんは何と?」

工廠長「てめえで勝手に決めやがれ、だとさ」フン

工廠妖精A「それは……また何とも……」

工廠長「……とにかく、俺は若造を巻き込んでいく方に決めた。このことが、戦いを終わらせるためにも良い方向に働くはずだ。これからは、そのために技術を全力で差し出していくしかねェ」

工廠妖精A「技術だけなら良いですが……工廠長やあっしら自身のことに興味を持たれたら、どうなさるおつもりですかい?」

工廠長「流石に、そこまで勘が良いとは思えねェな。……昔の俺だって、いきなりそんなことを言われたら絶対信じねェよ」

工廠妖精A「それは、あっしもです……しかし、もしもそうなったら……?」

工廠長「……」

工廠長(……畜生。決心したつもりでも、迷いは消えねェもんだな……)

工廠妖精B「ああ白雪さん、まだっスか……。もう六時間と四十七分も離れ離れに……」ウロウロ

工廠妖精A「」ゲシッ

工廠妖精B「」ゴフッ

本日はここまで。
次回は>>1の夏イベ攻略完了後になりますのでいつとは言えませんが、しばしお待ちを。

【数日後】
【食堂】

漣「いやー、朝一番の鳳翔さんのお味噌汁は最高だね!」プハー

白雪「はい……」

漣「あれ、どうしたの?元気無いけど……」

白雪「少し、整備兵さんが心配で……」

漣「……?」チラッ

整備兵「……はぁ」モグモグ

漣「確かに暗い雰囲気……でも確か、この前は新しく艤装の整備を教えてもらえることになったって喜んでたよね?」

白雪「それがどうも、思い通りに進んでいないみたいで……」

【工廠】

工廠長「全ッ然駄目だこんなモン!実戦で使ったら死人が出るぞ!」バンッ

整備兵「す、すまん……」

工廠長「溶接の位置がズレてる上に、成形も雑!もっと正確にやれねェのか!?」

整備兵「でも手の震えはどうにも……」

工廠長「若造がやるっつったから教えてやってんだろォ!?弱音吐く前に努力しろ努力!」

整備兵「く……!」スッ

バチッ バチバチッ

工廠長「さっきとなーんも変わってねェだろうが!」

整備兵「う……」

工廠長「ずっとこんなもん繰り返してても何も進みやしねェ……一旦お開きだ!若造、ちっと休んで気合い入れ直して来い!次は午後、分かったな!?」スタスタ

ガラガラガラ……ガタン

整備兵「はぁ。厳しいな……」ドンヨリ

整備兵(最初こそ楽観的に構えていたが、艤装の整備は想像以上に大変な仕事だった)

整備兵(部品が小さいので、手元が少しでも狂えば即品質不良が起こる。そして、実際の兵器には無い艤装独特の機構も覚えきれないほど膨大)

整備兵(極めつけは妖精の工具だ。以前まぐれで鋲を打てたときのように何とかなるかと思ったら、そんなに簡単なものではなかった)

整備兵(どう使おうとしてもダメなときは全くダメ。あの魔法のような作用が出ることがあるのは百回か二百回に一度くらいだ)

整備兵(構造が分からないから、当然コツもテクニックも無い。毎日がむしゃらに使い続けていても、効果が発揮される確率は一向に上がる気配が無い)

整備兵(やっぱり妖精にしか使えないのが当然で、人間の俺が使おうというのは無茶なんだろうか……)

整備兵(それに、ここ数日は朝から晩まで整備の練習をやっているにも関わらず、身体的にも精神的にも全く慣れが出てこない)

整備兵(数日くらいでは……とも思うが、ここまで集中しているのに仕事の断片すら飲み込めないのはもどかしい)

整備兵(俺だって、機械に関してはそこまで物覚えが悪い方ではないはずなんだが……)

整備兵(……そんなことを悶々と考えていたから、ついに工廠長から暇を出されたのかもしれない)

整備兵「今、何時だ……?」チラッ

整備兵(十一時か。白雪……は、軽巡洋艦と駆逐艦の合同砲撃訓練だったっけ)

整備兵「昼食もまだ先だし、どうするか……」スタスタ

龍驤「」スタスタ

整備兵(……ん、あれは)

整備兵「おーい、龍驤!」

龍驤「お、整備兵はんか。どないしたんや?工廠は反対方向やで?」

整備兵「いや……艤装の整備を手伝ってるんだけど、なかなか上達しなくてな。工廠長に、気合い入れ直して来いって追い出されたんだ」ハハハ

龍驤「そ、そら災難やな……」

整備兵「龍驤はどこに行くところだったんだ?」

龍驤「資料室や。時間が空いたから、また本でも読もうかと思て。……せや、ならキミも一緒にどうや?昼まで暇やろ?」

整備兵「そうだな……ありがとう。行くよ」

【資料室】

整備兵「今はどの本を読んでるんだ?」

龍驤「今は……こっちの、こっちの、これやな。もうほとんど読み終わったようなもんや」

整備兵「旧帝国海軍海戦史、大戦期編……か。今回は歴史の本だな。ちなみに、どうして読もうと思ったんだ?」

龍驤「ウチは、大戦のことを全然知らへんから。大戦で、ウチやこの鎮守府の皆と同じ名前のフネがどんな風に戦ったんか……それを知りたいと思ったんや」

整備兵「そうか……」

龍驤「……ま、大体のフネは大戦が終わる前に沈んでしもたみたいやけど」

整備兵「……ああ」

龍驤「1942年8月、第二次ソロモン海戦……道中色々あったようやけど、孤立して結果的に囮みたいな形になってしもた『龍驤』は、複数の爆撃と雷撃を受けて沈没。そう書いてあったわ」

整備兵「……あまり、読んでいて気持ちの良いものじゃないよな」

龍驤「せやけど、ウチはあんまり気にしてへん。ウチとこのフネとは、やっぱり全くの別物やと思うし。……でも、なーんか違和感があるような気もするんや」クビカシゲ

整備兵「どういう意味だ?」

龍驤「上手く表現でけへんのやけど……『龍驤』の沈没のところを読んでると、ふと、その映像が思い浮かんでくるような感じになるんや」

整備兵「『龍驤』が海に沈んでいく光景が、か?」

龍驤「というより……海中から上を見てる自分が、沈んでいく感じっていう方が近いやろか。こうやって『龍驤』は沈んでったんやろな……みたいな。そんな、光景や」

整備兵「……?」

龍驤「デジャヴ……ちゅうのとは、ちょっと違う話やけど。ま、感情移入のしすぎやろなぁ。同じ名前のフネに、勝手に親近感が湧いたのかもしれへん」ニッ

整備兵(……そんなに、簡単な話なのか?いや、でも龍驤は最初から『龍驤』について特に何も知らなかった。となると、やっぱり艦娘の龍驤と艦艇の龍驤は無関係ということに……)

龍驤「それで、や」ペラリ

龍驤「この本読んで、ウチが一番気になったんはさっき言った部分なんやけど……もう一つ、気になるところがあるんや。ここやな」ペラリ

整備兵「?」ノゾキコミ

龍驤「1945年……」

整備兵「暮軍港空襲……これか。ここは大戦のさらに前からずっと海軍の拠点だったからな。……狙われるのも、無理はなかったかもしれない」

龍驤「このときもまた、何隻もフネがやられたんやな……」

整備兵(天城、榛名、伊勢、日向……このとき沈んだ艦の艦娘も、どこかの鎮守府にいるのだろうか)

龍驤「あと、特にここや。6月22日の空襲」チョンチョン

整備兵「……暮海軍工廠造兵部空襲。工廠機能喪失、工員の死傷者多数……か」

整備兵(空襲での艦への被害はいくつかの本で読んだことがあったが、工廠の被害について詳しくは知らなかったな……)

龍驤「なんや、無性に悲しくなったんや。フネに乗ってて沈められるのも辛いやろうけど、工廠で働いてて爆弾落とされるのも同じくらい辛いやろな、て」

整備兵「……しかも、自分達が作っているものを壊されながら、だもんな」

龍驤「せやなぁ……」

整備兵(同業者として、その悲しみを想像するのは難しくない……俺にとってみれば、ここの工廠がある日突然深海棲艦に破壊されるようなものだ)

整備兵(そのときの工員達はどんな思いだったんだろうか。……そして、俺に整備兵の仕事の面白さを教えてくれたあの本の著者の工廠長。彼はどんな気持ちで、空襲の日を迎えたんだろうか)

整備兵(しかし、暮軍港空襲のことを知っていながら、今日まで俺は工廠の被害を意識したことがあまり無かった)

整備兵(……恥ずかしい、な)

龍驤「……キミ、キミ!」ポンポン

整備兵「ん。……悪い、ちょっと考え事してた」

龍驤「いや、謝るのはウチや。暇潰しに誘っておいて、暗い話ばかりして。堪忍な」シュン

整備兵「そんなことは無いさ。普段考えてなかったことが考えられて、知識が深まった。良い時間だったよ……と、もうこんなに時間が経ったのか」

龍驤「ほな行こか。さっさと行かへんと、お腹空かせた水雷組が鍋空っぽにするで」パタン

整備兵「それはもっともだ」ハハハ

【午後】
【工廠】

整備兵「……」トンテンカンテン

整備兵(……あれ?)

整備兵「……」トンテンカンテン

整備兵(どうしてだ……手先が定まる。朝やったときよりも、思い通りに工具を動かせる)

整備兵(妖精の工具も、十回に一回くらいは効果を発揮するみたいだ。明らかに確率が高まっている)

整備兵(どうすれば上手くいくかが、何の手掛かりも無いのになぜか分かる……そんな気分だ)

整備兵「……こ、工廠長。出来たぞ」

工廠長「あァん?こんなに早く出来るわけ無ェだろ。真面目にやんねェなら……な、何だこりゃァ!?」ガタッ

整備兵「……」

工廠長「おい、貸せ!早くしろ!……ん、良し、良し、良し……何てこった」

整備兵「ど、どうだ……?」

工廠長「新米としちゃ、十分合格点がやれる出来だ。……若造、今朝までのは一体何だ?手抜いてたんじゃねェのか?」ジロッ

整備兵「そんなことするか!なぜか、今朝までと違って上手く出来たんだ……」

工廠長「じゃあ、慣れたってことか?」

整備兵「いや……」

整備兵(今朝までは、慣れどころか身に付いている実感すら無かった。こんな短時間で急激に伸びるわけが……)

整備兵「……あれかもな。やっぱり、一旦作業をやめて休んだのが効いたかもしれない」

工廠長「んなことで、ここまで変わるとは思えねェけどなァ……?」ジー

整備兵「まあ、俺もそれは思ったけど……」

整備兵(他にさしたる理由も見当たらない)

ガラガラガラ

白雪「こんにちは、整備兵さん、工廠長さん」ペコリ

整備兵「白雪!」ニコッ

工廠長「よう、お嬢ちゃん」

白雪「整備兵さん、何だか……」

整備兵「ああ……バレたか。いや、実は整備の練習の調子が良くてさ」

白雪「本当ですか!」

工廠長「おう。今朝までの調子が続くようなら、もう止めようかとも思ってたがな……今さっきの出来なら、まだ見込みがある」

白雪「良かったです!」ニコ

整備兵「いやぁ、俺も驚いてるくらいだよ」ハハハ

工廠長「おい。ちょっと上手くいったからって、気ィ抜くんじゃねェぞ!今やってんのは基本も基本だ。まだまだ難しくなるから覚悟しとけ!」ムスッ

整備兵「分かってる。……じゃあ、キリが良いから、この辺で今日の分の装備開発を済ませることにするか」

白雪「はい。早く戦闘機の更新も始めたいですね」

工廠長「ったく、ちゃんと聞いてんのか……?」ブツブツ

整備兵「」ニコニコ

白雪「」ニコニコ

工廠長「……けっ」

本日はここまで。イベント完了につき更新再開です。
次回は明日か明後日になります。


イベント完了オメです

乙です
更新楽しみにしています

>>593
ありがとうございます。とは言っても丙提督ですが……。

>>596
ありがとうございます。その言葉が励みです。

【数日後】
【食堂】

漣「いやー、朝一番の鳳翔さんの焼き魚は最高だね!」パクパク

白雪「はい……」

漣「あれ、どうしたの?元気無いけど……」

白雪「少し、整備兵さんが心配で……」

漣「……また?」チラッ

整備兵「」ガツガツ

整備兵「ごちそうさまでした!」ガタッ

鳳翔「あまり早く食べては体に毒ですよ」ニコ

整備兵「あー……すみません。でも、急いで工廠に行かないといけないので!」ペコリ

ガチャバタン

漣「あれ、でもこの前と違って元気そうだけど……。にしても、白雪ちゃんはいつも整備兵さんのこと気に掛けてあげてるよね。漣だったら、整備兵さんもいい大人なんだから別に放っておいて良いかーとか思っちゃうけど」ノビー

白雪「それは……私は補佐官なんだから、当たり前だよ」

漣「ふむふむ、さすがは白雪補佐官殿!」

白雪「へ、変な呼び方はやめてよ……」

漣「それで、今回は整備兵さんがどうしたの?」

白雪「ええと、実は――」

漣「……ほうほう。つまり、整備兵さんはスランプを脱してから寝る間も惜しんで工廠で作業をしていると」

龍驤「さらにその上、工廠の通常業務もこなしながら空き時間もどこかへ出かけていて、休む暇も無い生活を送っていると」

漣「だから心配、と」

白雪「うん。そうなんだ……って、龍驤さん!?」ガタッ

龍驤「そんなに驚かなくてええやろ。それとも、聞かれたくない話やったか?」ニッ

白雪「そ、そういうわけでは……」

漣「そうだよ白雪ちゃん。龍驤さんなら、先輩として良いアドバイスをくれるかも!」

龍驤「で、まず大事なんは、白雪がその問題にどう対処したいかっちゅうことや。まさか仕事するなとも言えへんし」ウーン

白雪「はい……整備技術の調査ができるのは良いことですから。けれど、あまり仕事量が多くても良くないと思うんです」

漣「だけど、白雪ちゃんも仕事を手伝ってあげてるし、言うほど大変じゃないんじゃないかな?」

白雪「うん……でも、事務作業をお手伝いすることはできても、整備兵さんにしかできない仕事や工廠の仕事以外の負担は私にも……」

龍驤「あー、空き時間に出かけてることなら、仕事やないから気にする必要無いで」

白雪「そうなんですか?」キョトン

龍驤「多分それ、ウチと資料室行ってるときやから」

白雪「資料室、ですか……?」

漣「あっ、白雪ちゃんは知らないよね。この鎮守府や海軍について古い本がたくさん置いてある部屋のことだよ。あんまり行く人はいないかな……」

龍驤「懐古趣味っちゅうか軍事趣味っちゅうか……そんなようなトコで話が合うから、最近は毎日ウチと整備兵はんで本読みに行っては色々話してるんや」

白雪「それなら、気分転換はできているんですね……いえ、ですが!」キリッ

白雪「やっぱり、休息が足りていないことには変わりないと思うんです。私が何か、疲労を取るお手伝いをできれば良いな、と……」

漣「疲労を取る、つまり癒やし……何だろ?」ウーン

龍驤「難しく考える必要はあらへんのやないか?男連中なんて、白雪みたいな子が茶出して肩の一つでも揉んどけばたちまち疲労回復やろ……あら、塩どこや塩」キョロキョロ

漣「でも、それだと何だかインパクトに欠けません?」

龍驤「インパクト言うてもなぁ……それならマッサージはマッサージでも、踏んでみるとかどうや?」ニヤッ

白雪「え、えっと……それはやりすぎでは……」

漣「なら、自分がされて癒やされることを考えてみるとか?」

龍驤「ちなみにウチが一番癒やされるんは、訓練の後、岸壁で鳳翔に膝枕してもらう時や」

漣「そんなことしてもらってるんですか……」

龍驤「いや、これがホンマにええんやって……。漣も白雪も、一度経験したらやめられなくなること間違いなし。そのままズブズブとはまっていくんや……くれぐれも気をつけるんやで」

白雪「膝枕って、そんなに危ないものだったんですか……!?」

龍驤「ってなわけで、膝枕、どや?」パチン

白雪「それは……えっと、龍驤さんと鳳翔さんなら普通にできますけど……!」アセアセ

白雪(私と整備兵さんだと、また話は別じゃないかな……。そういうのはもっとこう、深い仲の人がするものなんじゃ……)

漣「うーん……確かに、整備兵さんに白雪ちゃんの膝枕は贅沢すぎる気もするかも」アハハ

白雪「ど、どういう意味……!?」

龍驤「となると、膝枕はしないんか?」

白雪「し……しません。普通な方法でいくことにします」プイ

龍驤「なんや。つれない返事やな」ガッカリ

白雪(露骨にがっかりされてる……!)

漣「まあ、頑張ってしてあげれば整備兵さんは何でも喜ぶと思うから大丈夫じゃないかな?」

漣(何だかんだで、整備兵さんは白雪ちゃんのことをかわいがってますし)

龍驤「あんまり面白味あらへんけど……ま、頑張りや。ウチはもう出るで」ガタッ

白雪「は、はい。相談に乗ってくれて、ありがとうございました」ペコリ

龍驤「いやー、こりゃ面白くなりそうやと思ったんやけどなー。いやぁー残念やわー……」チラッチラッ

スタスタスタ……

白雪(……もしかして私、からかわれてただけかな……)ハァ

【夜】
【工廠】

白雪「整備兵さん、今日の分の書類処理が全て終わ……」

バチッ バチバチッ

整備兵「……」ジッ

白雪(……集中してるみたいだから、少し待っていようかな)

整備兵「……」カチャカチャ

白雪(本当に真っすぐ、手元だけを見てるんだなぁ……)

整備兵「……よし、できた」フゥ

白雪「お疲れさまです。書類、全て片付きました」

整備兵「ああ、白雪か。ごめん、気づかなくて」

白雪「いえ。それだけ集中していたということですから」ニコ

整備兵「白雪のおかげで俺も調査に没頭できるんだ、ありがたいよ。……それじゃあ、流石にもう遅いから帰るか」

整備兵(ふー、首と肩がバキバキだ……眼精疲労ってやつか)ノビー

白雪「あの、整備兵さん……良ければですが、肩をお揉みしましょうか?」

整備兵「え……?」

白雪「見たところ、細かい作業でお疲れのようですし……もちろん、整備兵さんが良ければですが」

整備兵「う、ん……確かに肩は凝ってる、けど……」

整備兵(提案はありがたいが……果たしてこれは受けてしまって良いのか?肩揉みは、普通補佐官にやらせる仕事じゃないような気がする)

整備兵(そもそも補佐役の女の子に肩揉ませるとか、もしそんな偉そうな奴がいたら絶対軽蔑するぞ)

整備兵(しかし自分がされる側になるとしたら、嫌な気はするわけないし……どうしたものか)

白雪(……さ、流石にお節介すぎたかな。よく考えたら、肩揉みは普通補佐官がする仕事じゃないような気がするし……)

白雪(でも、結局それくらいしか思いつかなかったし、何もしなかったら整備兵さんだけじゃなくて漣ちゃんや龍驤さんにも悪いよね……)

白雪「……」ジッ

整備兵(白雪の視線から決意を感じる……これだと、むしろ受けない方が白雪を嫌な気分にさせてしまうかもしれない)

整備兵(……そうだ。人の親切は快く受け取らないと。そう、だから俺は別に肩を揉んでもらいたいとかそういうのではなくて……)ウンウン

整備兵(そうそう。ただ単に、白雪の親切心を無駄にしないため。間違えてもらっちゃ困る。ただそれだけのために……)ブツブツ

整備兵「……そ、それなら、頼もうかな」

白雪「本当ですか!」パァァ

整備兵「だけど、白雪こそ良いのか?今だって白雪は十分仕事してくれてるし……」

白雪「でも、整備兵さんがお疲れでしたら私が放っておくわけにはいきませんから」ニコ

整備兵「うっ……」

整備兵(や、優しさが眩しくて何も言葉を返せない……)

……ギュッギュッ

白雪「ど……どうですか?」

整備兵「」ビクッ

白雪「す、すみません。強かったでしょうか?」

整備兵「……いや、違う違う!ちょうど良い力加減だ。上手いよ」

整備兵(耳元で急に白雪の声がして驚いてしまった……俺が緊張してどうする。ともかく落ち着こう……)

白雪(良かった……ぶっつけ本番だったから心配だったけど、何とかなったみたい……)

整備兵「お、思えば、生まれてこのかた他人に肩を揉んでもらうことなんて無かったからさ……いや待て、それは当たり前か。とにかく、自分でするのとは全然違うな……と。もちろん良い意味で」

白雪「やっぱり、手が届きにくいところとかもありますしね」

整備兵「そうそう」

白雪「……」ギュッギュッ

整備兵「……」

整備兵(こういうときって、何を話せば良いんだろうか。いやむしろ、余計な話をし続けるのも良くない気が……)

白雪「……」ギュッギュッ

整備兵(それにしても……本当に上手いな。強すぎず、弱すぎず、的確な場所を……)

白雪「……」ギュッギュッ

整備兵(ふぅ……心地良いとはまさにこのことを言うんだろう……)

整備兵(……あれ、気が抜けたら、何だか、急に、眠く……)




ギュッギュッ

白雪「……?整備兵さん?」

整備兵「……」ウツラウツラ

白雪(あっ……)

白雪「……やっぱり、疲れていたんですね」

白雪(少しは、整備兵さんをリラックスさせることができたのかな……?)

白雪(……でも、どうしよう。すぐに起こせば良いのかもしれないけど、眠っていてほしい気もするし……)

白雪(かと言って部屋まで連れて行くのも無理で、ここに置いて行くわけにも……)




龍驤『となると、膝枕はしないんか?』



白雪「……!」ハッ

白雪(そ、それはもう完全に補佐官の仕事じゃないと思う……!)

白雪(で、でも……膝枕はすごく癒やされるって龍驤さんも言っていたよね)

白雪「……」キョロキョロ

白雪(今なら誰もいないし、少しくらいなら試してみても……)

白雪「……よいしょっ、と」スッ

ポフッ

白雪(頭だけでも、結構重いんだ……。あまり動かないようにしないと)プルプル

白雪「……」ドキドキ

白雪(……ど、どうしてこんなに緊張するんだろう。脚に乗せてるだけなのに)

白雪「」チラッ

整備兵「Zzz……」

白雪「」メソラシ

白雪「……」ドキドキドキドキ

白雪(やっぱり、こっそり膝枕しているという状況が良くないのかも……。と、とにかくもう終わりにしなきゃ)

白雪(……って、一回膝枕しちゃったら起こさないと下ろせないよ!な、何やってるの私……!)

白雪「うぅ……」ナミダメ






工廠妖精B「白雪さんの善意につけ込み己の下卑た欲望を満たそうとする奸賊め――整備兵、この世に生きる価値も資格も無い貴様に、俺が引導を渡してやるっス!御覚悟ぉぉぉッ!」ダッ

工廠妖精A「……」ゲシッ

工廠妖精B「」ヒラリ

工廠妖精A「……なっ!?」

工廠妖精B「俺の白雪さんへの想いが俺に無限の力を与えてくれるっス……。ふはははは!もはや何物も俺を止めることは出来ないっスよ!」

工廠妖精A「ひっ、非常呼集!砲科と魚雷科の全工員を投入!何としても奴を止めるんでさぁ!」

工廠妖精達「待てやぁぁぁ!」ダダダッ

ウワー ハナセー ウルセーシズカニシテロー

工廠妖精B「……む、無念。白雪さん、すまないっス……」ジタバタ

工廠長(あー、全員で覗き見ってのはちょいと趣味が悪すぎたかもしれねェな……)

工廠長(……ま、良いか)

本日はここまで。次回は明後日になります。

【朝】

チュンチュンチュン

整備兵「……?」パチッ

整備兵(ここは……工廠?……そうか。昨日の夜、白雪に肩を揉んでもらっている間に寝ちゃったのか)

整備兵(……ん?工廠の床ってコンクリだったはずだよな……何だか、柔らかくて温かい……?)チラッ

整備兵「なっ……!?」

整備兵(お、おい待て!どうして白雪に膝枕されているんだ……!?)

整備兵(昨日頼んだのは、確かに肩揉みだけだったはずだ。膝枕なんて頼んだ覚えは無い。これは絶対だ……)

整備兵(となると、白雪が自分からしてくれたのか?……いや、そうする理由も無いだろう。やっぱり俺が、知らない間に白雪に膝枕させたのか?)

整備兵(だが、幸い白雪はまだ寝ている。こっそり起きれば気づかれないはずだ。事情を聞くのはそれからで良い)チラッ

白雪「……すぅ、すぅ……」

整備兵(艤装を外して眠っていると、本当に普通の子供……いや、もう子供ってほど幼くもないか。とにかく、人間にしか見えないな……)ジッ

整備兵「……」ボー

整備兵(……ってまずいまずい、寝顔を見るのは非常識だ)

整備兵(では、失礼して……)ムクリ

白雪「ん、ぅ……?」パチッ

整備兵「あ……」

白雪「せ、整備兵さん……!///」カーッ

整備兵「ま、待ってくれ!退く!今退くから!」ガバッ

白雪「……」ズーン

白雪(どうしようか悩んでる間に寝ちゃったんだ……。何て言い訳しよう)

整備兵「……ええと、ごめん」ペコリ

白雪「ど、どうして整備兵さんが謝るんですか?」

整備兵「いや……多分これ、俺がさせたんだと思うから。でも俺、昨日肩を揉んでもらっている最中に眠ったみたいで、記憶が……」

白雪「いえ、違います!そうではなくて……」

整備兵「違うのか?」

白雪「そうではなくて……」

白雪(否定したは良いけど、私の方からしたとは言えないし……。それなら)

白雪「わ、私も、肩揉みの最中に眠ってしまったみたいで。多分、二人とも眠っている間に、自然に整備兵さんが倒れ込んでこうなったのではないかと……」

整備兵「そう、か……」

整備兵(ただ倒れ込んだだけであの姿勢になるとは思えないが、白雪が言うならきっとそうなんだろう……)ウーン

整備兵「それじゃ、とりあえず食堂に行こうか。朝食の時間だ」

白雪「……あの、整備兵さん」

整備兵「?」

白雪「疲れ、少しは取れましたでしょうか?」

整備兵「もちろん。すごく楽になった。気づかないうちに、結構疲れが溜まってたんだな」

白雪「それは良かったです。よければ、また……」

整備兵「……で、でも、しばらくは良いよ。多分、また途中で寝て迷惑かけるからさ。それに、しょっちゅうやらせても白雪に良くない。白雪も途中で寝るくらい疲れてたんだろ?」

整備兵(本音は、こんなの何度もやってもらってたらいずれまた何か事故が起きそうだからだ……。膝枕だからまだ何とかなったが、万一白雪と気まずくなるようなことが起こったら……!)

白雪「……そ、そうですね。整備兵さんの言う通りです」

白雪(何言ってるの私!次に何か変なことしたら今度こそ言い訳できないし、もうやめておいた方が良いに決まってるよ……)

整備兵「大丈夫か?足、しびれてないか?」

白雪「はい、平気です……」

白雪(でも……)


整備兵『……いや、違う違う!ちょうど良い力加減だ。上手いよ』


白雪(少し……残念、かも)

【食堂】

龍驤「おっ、白雪。どうやった、昨日は?」パクパク

白雪「ど、どうと言われても……」

漣「そうそう。結構夜遅くまで待ったのに帰って来なかったし、今朝も漣が起きたらもういなかったから、ずっと気になってたんだ」モグモグ

白雪「あの……少し肩を揉んであげて、とりあえず、疲れは取れたって言ってもらえました」

龍驤「ええやん!これは整備兵はんもドハマリやろ。またやってくれー言うて、泣きつかれたんやないか?」

白雪「そ、そんなことないです。もう、しばらくはやめておこう……ということになりました」

漣「ええっ!?なんで!」

龍驤「何や?まさか白雪、整備兵はんが嫌がるくらい肩揉みが下手なんか?」

白雪「えっ……」ポロッ

カチャン

漣「白雪ちゃん、箸!落としたよ!」

白雪「あ……ごめん。ありがとう」

龍驤「何動揺しとるんや。冗談や。疲れが取れた言うてたんやないか」コツン

白雪「は……はい、そうですよね。そういう理由ではないと思うんですが、とにかくやめておこうということに……ほら漣ちゃん、早く食べないと訓練に遅れるよ!」アセアセ

龍驤(これは、何か訳ありやな……)

漣(怪しい……)

【工廠】

ガラガラガラ……ガタン

整備兵「おはよう」

工廠長「おう、入れ」

整備兵「早速、整備の練習の続きを……」

工廠長「……したいところだが、今日はそうはいかねェ」

整備兵「別の仕事か?」

工廠長「ああ。今日の朝早く、他の艦隊の支援に出てた空母のお嬢ちゃんが帰ってきたからな。その艦載機の整備と補充をしなきゃなんねェ」

整備兵「翔鶴と瑞鶴、もう帰ってきてたのか!」

整備兵(二人が、寄越日の艦隊の南方海域進出を支援するために数日前から派遣されていたのは知っていたが……帰投予定日は昨日だったのか。色々あり過ぎて忘れていた)

工廠長「てなわけで、まずは仕事だ。……手ェ出すんじゃねえぞ。まだ艦載機は若造じゃ力不足だ」

整備兵「分かったよ……」





ガッシャンガッシャン

カーンカーンカーン

工廠妖精A「魚雷の補充が必要な班は報告!補充理由として使用か搭載機喪失かを述べること!」

工廠妖精達「「「了解ー!」」」

工廠妖精B「損害の少ない機から修理するっス!特に発動機を損傷した機は最後に回すっス!良いっスね!」

工廠妖精達「「「了解ー!」」」

整備兵「お疲れ、二人とも」

工廠妖精A「おはようございます、整備兵殿」

工廠妖精B「……ふん」ジロッ

整備兵「……俺、何かしたか?」

工廠妖精A「整備兵殿は気にしなくて良いことでさぁ」

工廠妖精A「今回の艦載機の損害状況でさぁ。さ、どうぞ」スッ

工廠長「おう。……今度の出撃はかなり消耗が大きいな。艦攻は半数が未帰還か……」

工廠妖精B「何でも、南方海域では敵が新型艦載機を大量に投入してきて、制空権の確保がこれまでより難しくなっているらしいっス」

工廠長「そうか……まァ良い。前線のことをどうこう言っても仕方ねェ。俺達の仕事は、いつでも十分な物資と武器を供給することだ。修理と補充を急げ!」

工廠妖精A「了解!」

工廠妖精B「了解っス!」

整備兵「……」


龍驤『……撃墜された機体の妖精は、果たしてどうなったんやろなー、ってとこやろ?』


整備兵(いつまでも、技術的な方面からだけ調べてるわけにはいかないよな。そろそろ、そっちの方についても情報を集めなければ)

整備兵「……となれば、青葉じゃないがまずはインタビューだな」

整備兵(えーと、紙とペンはあるな。よし)

整備兵「忙しいところ悪いんだが、ちょっと良いか?」

零戦妖精A「?」クビカシゲ

整備兵「質問したいことがいくつかあるんだ。手短に済ませるから、聞いてくれないか?」

零戦妖精A「」コクリ

整備兵「ありがとう。答えるときは、この紙に書いてくれ」スッ

零戦妖精A「」コクコク

整備兵「じゃあ、まず……俺と、君みたいな艤装を動かしている妖精達は本当に話せないのか?」

零戦妖精A「」カキカキ

『ほんかんのことばがせいびへいどのにきこえないだけ。そういういみなら、たしかにはなせない』

整備兵(平仮名しか書けないのか。……字も、あまり上手くはないな)

整備兵「俺は工廠で働いている妖精達の声なら聞くことができるんだが、どうしてか分かるか?」

『わからない』

整備兵(……にべもないな)

整備兵「それじゃあ……工廠の妖精達のことは、どう思ってる?」

『いつもがんばっている。ほんかんたちとちがってまじめ。すごいとおもっている』

整備兵(何だか単純というか、子供みたいな感想だな……)

整備兵「艦載機の妖精達は、真面目じゃないのか?」ハハハ

『ふまじめなときも、たまにあるかもしれない。ほんかんはひこうたいちょうなので、すこしはんせいしている』

整備兵「飛行隊長なのか。戦闘機隊の?」

『はい』

整備兵「ちょっと話を変えるぞ。自分が生まれたときのことを覚えてるか?」

『うまれる、ということばのいみがわからない』

整備兵「……それなら、言い方を変えるよ。覚えている中で、一番昔の出来事は何だ?」

『せんとうきにのって、そらにとびだしたこと』

整備兵(つまり、翔鶴達に撃ち出された矢が戦闘機に変わった瞬間のことを言っているのか?となると、妖精達はその瞬間に生まれてくるということになるが……)

整備兵「今までに出撃した回数は何回だ?」

『ごかい』

整備兵「五、回……?ちなみに、さっき教えてくれた一番最初の出来事は、そのうちの一回目の出撃のときのことだよな?」

『はい』

整備兵「……分かった。これで最後の質問だ。気を悪くしないでほしいんだが……撃墜されると、君達はどうなるんだ?」

零戦妖精A「……」

零戦妖精A「」カキカキ

『おとされたことがないから、わからない』

『それに、おとされたらかえってこられないから、だれもそのしつもんにはこたえられない』

整備兵「その……通りかもな。ありがとう。それじゃ、またな」

零戦妖精A「」フリフリ

整備兵「……ふぅ」クルッ

整備兵(過去に、翔鶴達が五回より多く戦闘機隊を発艦させているのは確実だ。そして、あの妖精は今まで撃墜されたことが無いと言っている)

整備兵(つまり、あの妖精は五回前の戦闘から出撃を行っていて、それ以前は別の妖精が出撃していたことになる)

整備兵(さらに、あの妖精が言っていた「落とされたら帰って来られない」という言葉を考慮すると、おそらくあの妖精の前任だった飛行隊長は撃墜され、「帰って来られなかっ」たのだろう)

整備兵(だからそのかわりに、あの妖精が後任になった。……龍驤の話と照らし合わせても、一応筋は通る)

整備兵「……これじゃ、まるで消耗品だな」

整備兵(しかし、まだこの筋書きが正しいのかの確証は持てない。あくまでも推測だ)

整備兵「……必要なのは、実験か」

整備兵(提督のところへ行こう。もらうべきは一時外出許可と……)

整備兵(……次の出撃の、計画だ)

本日はここまで。次回は明後日になります。

ツ級しね(お疲れ様でした)

>>643
特に赤い奴(ありがとうございます)

【街】

整備兵「鎮守府の外に出るのも久しぶりだな……」

整備兵(まずはここ……電機屋だ)

整備兵(一時は原料不足から製造業も壊滅に追い込まれたが、資源地帯の奪回と共に回復の兆しを見せ始めている。今では民間消費財の生産も部分的にだが可能だ)

整備兵(ええと、受信機に送信機、電池、ケーブル……)キョロキョロ

整備兵(こんなものかな)

整備兵(それにしても、少し前は無かったような機械がこんなに……欲しい、いじりたい)プルプル

整備兵(しかし、ようやくまともな職に就いたとはいえ、突然散財するとなると何だか罪悪感が……!)

整備兵「くっ……これで、お願いします」

店主「あい、まいどありー」

整備兵(……貧乏根性が抜けないのも困ったもんだ)スタスタ

整備兵(ん?何の店だ……?)チラッ

整備兵「菓子屋……か」

整備兵(菓子なら、使う金額もたかが知れているだろう)

ガラッ

整備兵(懐かしいな……子供の頃は、こういう店にもよく来ていたっけ。最近じゃ、主食以外の食べ物なんて買うことも出来なかったが)

整備兵(……お、これは!)

整備兵「すいません、これ二袋」

店主「あいよ」

【数日後】
【工廠】

ガラガラガラ……ガタン

工廠長「よう、来たな。残念だが今日も練習は途中までで中断するぜ。今から……」

整備兵「今から出撃する艦隊が、午後には帰投するからだろ?」

工廠長「何だ、知ってたのか」

整備兵(わざわざ、前々から提督に予定を問い合わせておいたからな)

工廠長「それなら話は早ェ。帰投次第、修復作業に移行。それまでは自由練習だ」

整備兵「分かった」

整備兵(……さて、艦載機の準備をしてる区画は確かあっちだったな)クルッ

整備兵「悪い。忙しいところだけど、ちょっと良いか?」

零戦妖精A「?」クビカシゲ

整備兵「今日の出撃なんだが、もし重量に問題が無ければこれを持って行ってほしいんだ」スッ

零戦妖精A「」カキカキ

『このくらいなら、もんだいない

整備兵「ありがとう。それと、とにかく肌身離さず持っていてほしいんだが……」

『ひこうふくのなかにしこめばよい?』

整備兵「ああ。帰ってきたら俺がすぐ受け取りに来るから、そのとき返してくれ」

零戦妖精A「」コクリ

『では、そろそろしゅつげきなので』

零戦妖精A「」スタスタ

整備兵(……よし。あと何人かにも渡しておかないと。急ごう)




整備兵「……」カチャカチャ

ガラガラガラ……ガタン

白雪「今日も整備の練習ですね。お疲れ様です」

整備兵「いや、今日は違うんだ。別の調査をしようと思ってさ」

白雪「別の、ですか……?」

整備兵「……白雪は、不思議に思ったこと無いか?撃墜された艦載機の妖精達は、どうなるんだろうな……って」

白雪「た……確かに、それは分かりませんね」

整備兵「龍驤に聞いたら、今まで救助されたり帰って来たりした妖精はいないそうだ」

白雪「……!」

整備兵「でも、本当に妖精が帰って来ないと決まったわけじゃない。俺はどうも、あのどこか呑気な妖精達が簡単に死んでしまうとは思えない……」

整備兵(何か奇跡的なことが起こってひょっこり戻って来ていたりはしないかと考えることも、たまにあるほどだ)

整備兵「……というか、思いたくないだけなのかもな。だから、調査をするんだ」

白雪「どうやって調べるんですか?」

整備兵「艦載機の妖精に発信機を持ってもらって、GPSで居場所を探知する」

白雪「GPS……というのは?」

整備兵「あー、簡単に言うと、地球のどこにいても居場所が分かる仕組みだ」

整備兵(衛星のメンテナンスに割ける資源が減って精度は昔より落ちたが、まだ何とか機能している……ありがたい)

整備兵「今組み立ててるこの機械で居場所の情報を受け取って、艦載機の妖精が今どこにいるのかを知る。そして、途中で居場所の信号が途絶えた妖精や居場所が海上で動かなくなった妖精がいたら……」

白雪「……」

整備兵「ただ、このやり方は全然道徳的じゃない……妖精が撃墜されるのを待っているも同然だからな」

整備兵(……まるでハゲタカだ。獲物が死ぬのを待ち、データというエサを手に入れる)

白雪「そんな……」

整備兵「でも、俺はこのことをはっきりさせておきたい。俺の仕事は技術自体もそうだが、それを持っている妖精についても調べることだからさ」ウツムキ

白雪「……」

整備兵「まあ、言い訳にしか聞こえないと思うけど」

白雪「……いえ、私には分かります。整備兵さんが最終的には私たち艦娘や妖精さんたちのためになることをしようとしているだけだ……と。私も手伝います」

整備兵「そう言ってもらえると、少し気が楽になるよ」

白雪「……」

整備兵(暗い雰囲気になってしまった……白雪を面倒事に巻き込むのは迷惑だったかもしれない)

整備兵「……そうだ白雪、飴いるか?この機械の材料を買いに出たとき、久々に見かけて買ったんだ」

白雪「飴……ですか?はい、それなら……」

整備兵「ほら」スッ

白雪「どうして、ポケットではなく作業着の袖から……!?」

整備兵「昔からこの飴が好きでさ。工作学校時代は作業前も作業後も所持品検査が厳しかったんだが、このやり方でこっそり持ち込んで隙を見て食べていた」

白雪「そ、そんなに好きだったんですか……。真ん中に穴が開いて、何だか浮き輪みたいな形です。黄色いですが、何味なんですか?」

整備兵「パイナップルだ。まあ、海上輸送が難しい今じゃ、本物のパイナップル果汁がどのくらい使われてるか分からないけどな」

白雪「世知辛いですね……ぁむ。……はい、おいしいです」ニコ

整備兵「もちろん。俺の一押しだからな」パク

【夕方】

工廠長「艦隊が帰投!総員配置に付け!」

工廠妖精A「砲、魚雷、機関、全て受け入れ体制完璧でさぁ!」

工廠妖精B「艦載機も収容完了っス!修理開始するっス!」

整備兵(……よし、今だな)

白雪「……」

整備兵(欠けている機は……五番機、十二番機……)

整備兵「白雪、さっき書いたメモを取ってくれ」

白雪「はい」スッ

整備兵「……」チラッ

整備兵(全体の損害は少ないにも関わらず、信号が途絶えた機は全て例外なく戻って来ていない)

整備兵(雷撃隊も爆撃隊も同じだ。……やっぱり、帰って来られないというのが真実だったのか)

整備兵(信号が途絶えなかった機は……良かった、戻って来ている。まずは、あれだな)

整備兵「受け取りに来たぞ」

零戦妖精A「」ピョコン

零戦妖精A「」ドウゾ

整備兵「ありがとう。無事で良かった」

零戦妖精A「」フンス

『まかせてください。たいちょうですから』

整備兵「ああ……流石だな」ニコ

整備兵(妖精の様子は、今までと同じだ。死の危険で溢れた戦場へ行くという緊張が全く無いように見える……いや、もはやそれが、当たり前になっているからだろうか)

白雪「次で最後の機です。戻って来ています」

整備兵「ああ。……結局、最初の予想の通りみたいだな」

白雪「はい、残念ですけれど……」

整備兵「当たり前と言えば当たり前か。……妖精だから都合良く何かが働いて助かっているんじゃ、なんてのが馬鹿馬鹿しい考えだったのかもしれない」

白雪「私たち艦娘が沈んでいなくても、妖精さんたちは……いつも辛い思いをしているんですね」ウツムキ


龍驤『せやなあ……もち、ウチもそれなりには辛いで。空母娘はそういう点で不利なんや。砲や機銃の妖精と違って、艦載機の妖精とはどうしても離れて戦わなアカン。戦闘方法から来る、一種の宿命なんやろうな』

龍驤『その話、他ではせえへん方がええで。ウチなんかはまあ結構慣れとるけど、みんなやっぱり何となく気になるときはあるんや』


整備兵(……龍驤、その言葉の意味がようやく分かったかもしれない)

整備兵「ありがとう。受け取りに来たぞ」

零戦妖精G「」ピョコン

白雪「ありがとうございました」ニコ

整備兵(さっさと片付けて、この機械は部屋にしまうとするか。とりあえず、またしばらくは技術面からの調査に重点を置き直そう……)

工廠長「――おい!」

白雪「」ビクッ

整備兵「な、何だ工廠長?」クルッ

工廠長「今、艦載機の妖精から何か受け取ってただろ。何だそりゃ?若造が渡したのか?」

整備兵「えーと、あー、これは……」

工廠長「教えたくねェってか?おら、見せてみろ!」ヒッタクリ

整備兵「待て!ちょっと待て!」

ポロッ

発信機「」コロリ

工廠長「……」ジー

白雪「あっ……!」

整備兵「あ……」

整備兵(良く考えたら、工廠長に言わずに持たせたのはまずかったか……?)タラリ

工廠長「……拾っとけ。作業に戻るぞ」

整備兵「そ、それだけか?」

工廠長「別に興味無ェからな。重量も飛行には影響が無い程度みてェだし」クルッスタスタ

整備兵「そうか、そ、それなら良かった。ははは……」

白雪「怒られませんでしたね……さっきはどうなるかと思いました」ホッ

整備兵「今度からは、あまり思いつきで行動しないようにするよ。こっそり悪事を働いてるみたいな気分だ……」




工廠妖精A「工廠長!さっきの、発信機――」

工廠長「分かってるから静かにしろ!……俺が気づいてねえわけ無ェだろうが」ヒソヒソ

工廠妖精A「ということは、整備兵殿はやはり技術だけでなく……」ヒソヒソ

工廠長「ああ」

工廠妖精A「良いんですかい?」

工廠長「……別に、悪いことじゃねェだろうが」

工廠妖精A「ですが、整備兵殿は手に入れた情報を他の者にも報告しますよ?もし、あっしらの出自が掴まれて知れ渡ったら皆大混乱でさぁ。そうなれば、何が起こるか想像も……」

工廠長「もう少し様子を見る。何度も言うが、別に知られたらまずいことでもねェ」

工廠妖精A「それなら、どうして工廠長の口から全部話さないんですかい?……やっぱり、迷っているんじゃないですかい?」

工廠長「……違う。こんな訳の分からない話、突然他人から言われて信じる奴がいるか。……それだけだ」

工廠妖精A「……」

本日はここまで。
急に立て込んでしまい更新が遅れました。ごめんなさい。
しばらくまた時間が取れないので、次回は未定です。

【翌日】
【朝】
【資料室】

整備兵「龍驤、いるかー?」ガチャ

龍驤「整備兵はん、今日はまたえらく早いお出ましやな。暇なんか?」

整備兵「いやいや、最近は整備の仕事が結構身についてきてさ。工廠に缶詰にならなくても良くなってきたんだ」

龍驤「ちょっと前までは、全然出来なくてヒィヒィ言っとったのになぁ」

整備兵「なんだ、龍驤にも気づかれてたのか」

龍驤「練習がはかどってなかったっちゅうことか?それなら、白雪から聞いたんや」

整備兵「ああ……そういうことか」

龍驤「整備兵はんが疲れてるみたいやって話になって、白雪がどうすればええかって聞くもんやから、ウチが……あ」ピタッ

整備兵「……待て。ということは、もしかして肩揉みは龍驤の差し金か?」

龍驤「え、えーと……ちーっとのアドバイスくらいなら、したかもしれへんな?」アセアセ

整備兵「はぁ、そういうことか。どうも怪しいと思ったんだ。白雪が突然そんなことまでしてくれるなんて……」

龍驤「でも理由はどうあれ、良かったやろ?疲れも取れたやろ?」

整備兵「ま、まあな……」

整備兵(それは当たり前だ。肩揉みに加えて、事故ながら一晩白雪の膝を借りたりもしてるんだから。これで疲れが取れない奴は人間じゃない)


白雪『せ、整備兵さん……!///』


整備兵「……」ウツムキ

龍驤(ははーん、これは相当良い思いした顔やな。白雪の態度で怪しいとは思っとったけど、上手くいきすぎて逆に恥ずかしくなったってとこやろか)

龍驤「どないしたんや整備兵はん。顔が赤いで?熱中症やないやろな?」ニヤニヤ

整備兵「違う違う!だ、大丈夫だ!」アセアセ

龍驤「で、どうやった、白雪の腕前は?詳しい感想が聞きたいなぁ?」ニヤニヤ

整備兵(何だ?ま、まさか龍驤、その日の出来事も知っていてからかってるのか……!?)ハッ

整備兵「……良かったよ。さ、今日も本読むぞ」メソラシ

龍驤「なんや。それだけかいな」

整備兵「資料室は雑談するところじゃないぞ。静粛にだ」クルッ

龍驤「キミ、ものすごーく今更なこと言うとるの分かっとるか?」ジトー

龍驤「整備兵はん、ちょっち聞きたいことがあるんやけど……」

整備兵「何だよ……?」ジロッ

龍驤「さっきとは別の話やから、そんなに警戒せんでもええって」ケラケラ

整備兵「べ、別に警戒なんかしてないぞ……。で、どんなことだ?」

龍驤「今もまた大戦の歴史の本を読んでるんやけど、意味の分からへん単語があるんや」パラパラ

整備兵「意味が分からない、か……。龍驤に分からないなら、俺が知ってるかは怪しいが……」

龍驤「あったあった、ここやここ」チョイチョイ

整備兵「ほぉ……?」ノゾキコミ

整備兵(……!)

龍驤「この、神風特別攻撃隊っちゅうやつや。大戦終盤の章に多く出てくるんやけど、何が特別な攻撃をする部隊なんや?」

整備兵「ええとだな……それは、航空機が敵の船を攻撃するやり方の一つだ。普通の攻撃とは違って……爆弾を積んだ飛行機ごと敵艦に体当たりする」

龍驤「何やて!?そんなことしたら、操縦手が死んでまうで!」ガタッ

整備兵「……生還は最初から考えない戦法だからな」

龍驤「お、おかしいとしか思えへんわ……。ウチら艦娘みたいにパイロットが無限にいる状況でも、そんなこと絶対せえへんで」

整備兵「まあ、全くその通りなんだけどな。そんな戦法を組織的に使うほど、この国は追い詰められてたってことだ」

龍驤「何か良いことでもあるんか?普通に攻撃したらダメっちゅうことは無いやろ?」

整備兵「……いくつか目的はあったみたいだ。例えば、一度の攻撃で早急に敵の戦力を削らなきゃならない時局柄、爆弾だけでなく機体そのものや燃料も武器にできる特攻は有利とも言える。普通じゃない攻撃方法で、相手の意表を突けるかもしれないしな」
 
龍驤「……」

整備兵「あと、敵の航空兵力がこちらより圧倒的に勝っているときは、敵に近づくのも、精密に爆撃するのも、攻撃後帰還するのも難しい。だから、どうせなら……というわけだ」

龍驤「なんや、それ……」ブルブル

整備兵「特攻にはあらゆる航空機が使われたけど、代表は零戦だ。速度も数もあったから、爆装して相当数が参加した」

龍驤「……酷い話やな」

整備兵「ああ。……本当に、酷い話だ」

龍驤「……ごめん。一瞬だけ、黙るわ」

整備兵「……ああ」

龍驤「……」

整備兵(そうだ……龍驤は、いつも艦載機を指揮している空母艦娘。搭乗員妖精のことだって、何だかんだ気に掛けている……その龍驤に、この話は堪えるだろうと考えるべきだった)

龍驤「……うん、もう平気や」

整備兵「無理しなくて良いんだぞ?」

龍驤「してへんよ。……その戦法を使ったのはあくまで昔の軍や。今ウチが考えなアカンのは、二度とそんなことにならへんように深海棲艦と上手く戦うことだけや」

整備兵「そう……そうか。龍驤は強いな」

龍驤「もちろんや。ウチだって、鳳翔はんと並んでこの鎮守府の空母の先輩組なんやで。ウチが弱気でどないするんや」ニッ

整備兵「頼もしいな」ニコ

龍驤「ふふん。……あ、そういえば整備兵はん。話は変わるんやけど、この前読んでた古い雑誌の中にキミが好きそうなコラムがあったで」パラパラ

整備兵「?」

龍驤「これや。『暮の名物工廠長、その足跡をたどる』――」スッ

整備兵「まさか、『暮海軍工廠の創設と発展』を書いた……!?」ガタッ

龍驤「そのまさかや」ニッ

整備兵「……本当だ。すごいな、こんなところであの工廠長について書かれたものが読めるなんて……!」

整備兵(短い記事だが、元工員の証言なども絡めて詳しく書かれている。工廠長の知られざる人となりを解明するというテーマらしい)

整備兵「ふむふむ……何だこれ!高所恐怖症で、竣工した艦の艦橋の最終確認だけは部下に任せていた……だってさ」ハハハ

整備兵(まるで妖精の方の工廠長みたいだ。工廠長には悪いが、あの怖がり方は見物だった)

龍驤「普段は厳しくて逆らえないんやけど、このときばかりは部下も笑っていたんやと」

整備兵「そして、隠された特技は類い稀なる電鍵さばき。小型電鍵を手の中に握り込み、手のひらで長音と短音を打ち分ける技は電信員をも唸らせた……か。これもすごいな」

整備兵(多分これも、妖精の方の工廠長が白雪と話すためにやってるやつだな。そんなこと、まさか現実にできる人間がいるとは思わなかった……)

龍驤「うーん……」

整備兵「どうした?」

龍驤「すごいはすごいんやけど、なんや使い時がよう分からん特技やなーと思ったわ」

整備兵「身も蓋も無いことを言うな。……ん、この工廠長、暮軍港空襲で亡くなったって書いてあるぞ……!?」

龍驤「そうらしいんや。工廠が爆撃されて、部下の工員を避難誘導している最中に……って話や」

整備兵「そう、だったのか……」

整備兵(俺に整備の仕事の面白さを教えてくれたこの工廠長も、無念の中で亡くなったんだ)

整備兵「……やっぱり、戦争ってのはできればしたくないな」

龍驤「そらそうや。大体みんな、そう思ってるやろ」

整備兵・龍驤「……」

龍驤「……なぁ、整備兵はん。思ったんやけど」

整備兵「ああ……?」

龍驤「ウチとここで話してると、何の話でも暗い雰囲気になるのはなんでなんやろ……。ウチのせいやろか?」ズーン

整備兵「……いやいや、そんなわけ無いだろ!第一、誰のせいとかいう話じゃないし」

龍驤「うん……」

整備兵「それに前も言ったけど、普段考えないようなことを考えられる時間はとても貴重なんだ。俺もここにはまだ十回と来てないけど、随分知識が深まった気がする」

龍驤「……!」

整備兵「龍驤だって、昔のことや本物のフネのことがもっと知りたいだろ?その時その時で勝手に変わる雰囲気なんて、関係ないさ」

龍驤「……せやな」ニッ

龍驤(ウチも、もっと頑張って色々知識を入れてかなアカンっちゅうことやな)

【午後】
【工廠】

ガラガラガラ……ガタン

白雪「お邪魔します。……どうしたんですか、整備兵さん?」

整備兵「ん、これか?工具やら資材やらを積み込んでるんだ」ヨッコイショ

白雪「はい、それ……リヤカーですよね?」

整備兵「ああ。今日は外でする作業があるからな。まあ、白雪もついて来てくれ」ゴロゴロ

白雪「はい……?」

【旧港】

白雪「ここ、演習場へ行くときに通ったところですよね。ということは……」ハッ

整備兵「その通り。これの修理だ」

機銃「」ボロッ

整備兵「提督から修復許可が下りたんだ。まだ崩れずに残っていてくれて良かったよ」

白雪「かなりひどく壊れていますけど……直るんでしょうか?」

整備兵「今日一日でってのは無理だけど、時間をかければ多分大丈夫だ。で、修理が終わったらここに残すか移動するかを考える」

白雪「分かりました。まずは何をすれば良いでしょうか?」

整備兵「ええとだな、まずはその部品を――」

【夕方】

整備兵「――よし。日も落ちてきたし、今日はこのくらいにしておくか」

白雪「もうですか……!?」

白雪(時間が経っている感じが全然しない……。あんまり疲れてもいないし)

整備兵「二人して夢中で作業してたからな。でも、白雪がいたおかげで随分はかどったよ」

白雪「いえ、私なんて……ほとんど全部、整備兵さんがやったようなものですし」

整備兵「謙遜しなくて良いよ。今日の成果は白雪のサポートあってこそだ。工具の種類もすぐ覚えてくれたし、完璧なタイミングで必要なものを渡してくれたじゃないか」

白雪「え、ええと……」

整備兵「まあでも、こういうのはどっちのおかげってことでもないと思うんだ」

白雪「どういうことですか……?」

整備兵「二人とも頑張った。上手くいった。きっと単純に、俺達の息が合ってたんだよ……なんてな」アハハ

白雪「……」

整備兵(ち、ちょっとクサすぎたか?……考え直すと、昔見た青春映画のセリフみたいだ)

白雪「……そうですね。私も、その通りだと思います」

整備兵(ほっ……。良かった。馬鹿にされはしなかった)

白雪(息が合ってた……か)ニコ

白雪(……あれ、どうしたんだろう。顔が熱い気がする)ペタ

整備兵「白雪、少し顔が赤くないか?体調でも……」

白雪「へ!?え、あの……いえ、きっと夕日のせいです」

整備兵「ああ、そうか。変なこと言ってごめんな」

整備兵(うーん……どうも、夕日のせいとは違うような。外は結構暑いから、白雪も疲れがたまってるのかもしれないな)

白雪「……いえ」

白雪(ど、どうしよう。とっさに言い訳したけど、多分本当に赤くなってるよ……。風邪かな……でも、整備兵さんを心配させるわけにはいかないし)

白雪(どうしてかはよく分からないけど、とにかくああ言っちゃったからには治まるまで夕日を浴びてなきゃ……)

白雪「せ、整備兵さん。夕日、綺麗ですね」チラリ

整備兵「ああ……いつもはこの時間、工廠の中だもんな。こうして見るのは新鮮だ」チラッ

白雪「少しだけ……見ていても良いですか?」

整備兵「もちろん。まだ夕食までは時間があるし平気だよ」

白雪・整備兵「……」

整備兵「……白雪、この鎮守府の名前の由来って知ってるか?」

白雪「暮鎮守府の……ですか?考えたこともありませんでした」

整備兵「実はここ暮の街は、昔は超が付くほどの名も無い田舎だった。暮っていう名前がついたのは、旧海軍の基地……すなわち、一代目暮鎮守府が置かれたときなんだ」

白雪「基地が置かれると同時に、地名が作られたということですか?」

整備兵「そうだ。そして、同時にそういう名前のつけられ方をした都市がもう一つある。それが寄越日だ」

白雪「寄越日もだったんですか……。ですが、どうしてこの名前になったんでしょうか?」

整備兵「それに関係があるんだけど……この国に最初に置かれた二つの海軍の拠点、暮と寄越日には一つ共通点があったんだ」

白雪「……?」クビカシゲ

整備兵「港から見える景色が開けていて、美しい太陽と海が見られること……だ」

白雪「確かに、綺麗な夕日ですが……。それが、地名と関係あるんですか?」

整備兵「じゃあヒントだ。寄越日は横浜の近くだから、日本の東にあるだろ?で、暮はどちらかといえば日本の西側にある」

白雪「東、西……あ!分かりました!東から太陽を寄越すのが寄越日で、暮は太陽が沈んでいく場所……ということですか?」

整備兵「正解だ。帝国海軍は、日の出る場所から沈む場所まで日本の全てを守る……って精神らしいな」

白雪「そんな理由があったんですか……整備兵さんは博学ですね」ニコ

整備兵「いや、前に本で読んだことがあるだけだよ。ちょっと無駄知識をひけらかしたくなってさ……」アハハ

整備兵「……もう、ほとんど日が沈んじゃったな。そろそろ帰るか」

白雪「はい」

白雪(あ、顔、治ってる……)

整備兵「よし。白雪、この暑いときに外にいて疲れただろ。物が減ってリヤカーにスペースができたから、乗ると良いぞ」

白雪「えっ……!?それって……」

整備兵「ほら、乗った乗った。労いの気持ちってことだ」クイクイ

白雪「あの、では……」ヒョイ

整備兵「よいしょっ……と。では、出発!」

ゴロゴロ

白雪「何だかすみません……人力車みたいにしてしまって」シュン

整備兵「白雪の一人や二人くらい、全然苦になる重さじゃないさ。ほら、走っても大丈夫だぞ」ダッ

白雪「ひゃっ!ちょ、ちょっと速すぎませんか……?」

整備兵「何のこれしき!」ダダダッ

白雪「や、やっぱり速いですよ!」アワアワ

整備兵「その分早く着けるし、大丈夫だ」ニヤッ

ガタンゴトン!

白雪「も、もう!ふざけないで普通に運んでくださいっ!」ワタワタ

整備兵「はははっ――」

本日はここまで。次回も未定です。

【工廠】
【朝】

工廠長「今日は若造に重要な知らせがある。心して聞け」

整備兵「どうしたんだ?いきなり改まって……」

工廠長「若造も、最近は段々と整備の作業に慣れてきた。……まだ俺から見りゃあド素人も良いとこだがな」

整備兵「それはいつも聞いてる」ムスッ

工廠長「んなわけでだ。そろそろ若造も、練習ばかりじゃなくて新しい仕事がしてェだろ」

整備兵「まあ、そりゃそうだが……」

工廠長「航空機の整備。どうだ?」

整備兵「ど、どうだって……まさか、俺にやらせてくれるのか?」

工廠長「おう」

整備兵「本当か!?」ガタッ

工廠長「がっつくんじゃねェ。やる内容は、まだ指示されたことだけだからな。こっから先は、また若造の努力次第だ」フン

整備兵「分かってるさ」

整備兵(……これでついに、実際の整備に参加できる!これからはさらに本格的な調査ができるな)

工廠長「それで良いなら、今日から早速新しい仕事に入ってもらうぜ」

整備兵「もちろんだ!」

【昼】


白雪「……それで、こうなっちゃったんですか?」

カーンカーンカーン

バチッバチバチッ

工廠妖精達「急げ!まだボロッボロの二個飛行隊が丸々外で待機してるぞ!」バタバタ

工廠妖精B「損傷度報告!区分けして搬入っス!入口詰まってるっスよ!」

工廠長「若造、遅ェぞ!何やってんだ!」

整備兵「すぐだ!今行く!……くそっ、工廠長の奴、忙しくなるのを見込んで俺を引き入れたんだ。手放しに喜んでたのが馬鹿みたいだ……」

白雪「あ、あはは……」

整備兵「にしても、数が多いな。誰の艦載機なのか分かるか?」

白雪「はい。今日の昼に帰投予定なのは……内洋艦隊の龍驤さんと鳳翔さんですね。作戦地域は、最近進出を開始した南方海域です」

整備兵「内洋艦隊が遠方作戦か。珍しいな。しかし、南方海域……戦闘機も全部五二型に更新されて向上した戦力をもってしてもこの被害か」

白雪「敵方の艦載機も進化しているようです。まだまだ、艦載機開発のペースは落とせそうにありませんね……」

工廠長「おい若造ッ!」

整備兵「分かった分かった!……白雪、今日の分の開発は頼めるか?」

白雪「任せてください」ニコ

【夕方】

整備兵「やっと……一段落ついた……」フラフラ

白雪「お疲れ様です。大丈夫、ですか……?」

整備兵「……あんまり。ひどいスパルタぶりだ」ハァ

工廠妖精達「」ガヤガヤ

零戦妖精A「」ポツン

整備兵「ん?あそこだけ妖精が集まってるぞ。どうしたんだ?」

白雪「行ってみましょう」

白雪「工廠長さんまでいらしていますね……」

整備兵「一体何があったんだ?」

工廠長「いや、この機体なんだが……。一機だけ特に損傷が酷い。修理に何日もかかりそうだ」

整備兵「ああ……」

工廠長「しかし運が悪ィことに、こいつはここの艦隊の――内洋艦隊も外洋艦隊も含めた戦闘機隊全体の隊長機だ。総隊長が何日も不在ってのもまずい。どうしたものかと思ってな……」

工廠長「……やっぱりここは、配置変えして留守番させて、修理完了後に部隊に戻すしかねェか。しかしそうなると……」ブツブツ

白雪「?」

工廠長「問題は、その間この機の搭乗員はどうするのかってことだ。適当に放っておくわけにもいかねェ。勝手にどっか行っちまうからな」

零戦妖精A「」ショボン

整備兵(勝手にどっか行くって……自由なんだな)

整備兵「前みたいに、作業を手伝わせれば……」

工廠長「ありゃあほんの数時間だけ暇な連中だ。数日間は、流石に俺達も面倒は見きれねェ。仕事もあるし、何より……」チラッ

工廠妖精達「……」チラチラ

工廠長「……毎度毎度演習後に湧いてくる、微妙に硬い雰囲気がまだ抜けきってねェ。いつも、そうだな……後一、二週間もすればだいぶマシになるんだが」ヒソヒソ

整備兵「ふぅん……」

工廠長「となると……いや、待てよ」

白雪「何か思いついたんですか?」

工廠長「若造、お前が面倒見ろ。それで万事解決じゃねェか」

整備兵「は!?」

工廠長「俺達以外に工廠にいる奴って言ったら、若造だけだしな。妖精の相手も艦載機整備の仕事に含まれねえとは言えねェだろ」

整備兵「無茶苦茶だな……」

白雪「整備兵さん、そうしましょう!私も手伝います。このままじゃ、あの妖精さんがかわいそうです」

整備兵「白雪まで……」

工廠長「まあ、やる事と言えば工廠の中にちゃんといるかどうか見張るぐらいだ。難しい事は無ェよ」

整備兵「……それなら、分かった」

工廠妖精「よし、んじゃ頼んだぜ。長くは待たせねェ」

整備兵「……ということなんだ。しばらくの間だけど、よろしくな」

白雪「よろしくお願いしますね」

零戦妖精A「」カキカキ

『こちらこそ』

白雪「かわいいです……!」キラキラ

整備兵(……この流れは!)ハッ

白雪「~♪」ナデナデ

整備兵「……」ジー

零戦妖精A「」キャッキャッ

整備兵(良かった。工廠妖精とは違って反応もかわいい!)ホッ

整備兵「ん……そういえばさっきから思ってたんだけど、君は確か、この前俺が渡し物をした妖精じゃないか?飛行隊長の……」

零戦妖精A「」コクコク

整備兵「やっぱりか!」

『またあえてうれしい』

白雪「あの妖精さんでしたか……何かの縁でもあるのかもしれませんね」ニコ

整備兵「ところで……工廠妖精達とは演習以来、まだ打ち解けてないのか?」

零戦妖精A「……」ウーン

『わるいのはたぶん、ほんかんたちのほう』

整備兵(まあ、そりゃそうだろうなあ……原因が原因だし)

『でも、こうしょうのようせいたちはよくしてくれている。せいびもきちんとしてくれる。もんくもいちどいったら、あとにはひきずらない』

白雪「工廠妖精さんたちの優しさなんですね。搭乗員妖精さんたちも、それに応えて悪戯はそこそこにしておかないといけませんよ?」

『ほんかんたちは、こうしょうのようせいたちとちがってまとまりがないので。ほんかんもがんばっているけれど、みんな、あまりまじめにやくそくをまもれない』

整備兵「うーん……それはまずいなぁ」

『こうしょうのようせいに、まるでこどもみたいだといわれたこともある』

白雪「確かに……。工廠長さんのお話を聞いていると、工廠の妖精さんと艦載機の妖精さんたちはかなり様子が違うような気がします」

整備兵「ああ」

整備兵(工廠妖精達の方が、軍人っぽいんだよな。装備妖精達は、基本的にあまり深刻そうにすることがない)

零戦妖精A「」ションボリ

整備兵「……ま、まあ、俺達は別に怒ってるわけじゃない。他の搭乗員妖精達も、これから段々分かってきてくれるさ」

零戦妖精A「」コクリ

整備兵「だからさ、元気出せよ」ナデナデゴシゴシ

零戦妖精A「」オットット

白雪「整備兵さん、少し力が強いですよ。もっとこう、優しく……です」ナデナデ

零戦妖精A「」ウットリ

整備兵「あっ。何だよ、俺より白雪の方が良いってか……」ムスッ

整備兵「こうなったら……なあ、この袖の丸まってるところ見ててくれ」

零戦妖精A「?」クビカシゲ

整備兵「何の変哲も無い袖から……じゃん、飴ちゃんが出たぞ!」ドヤァ

零戦妖精A「」ワースゴイー

整備兵「ふっ、そうだろうそうだろう。いるか?」

零戦妖精A「」コクコク

整備兵「ほら」スッ

零戦妖精A「」パクッ

『あまずっぱくて、おいしい』

整備兵「ふっふっふ」

白雪「整備兵さん、食べ物で釣るなんてずるいですよ……」ジトー

整備兵「撫でることじゃとても敵わないんだから、仕方ないだろ」

白雪「ちょっと軽蔑しました」

整備兵「え」クルッ

白雪「じょ、冗談ですよ?」アセアセ

整備兵「そ、そうか……」

整備兵(怖い冗談を言うのはやめてくれ……ヒヤヒヤする)ズーン

白雪(何だか、整備兵さんを暗くさせちゃった……。漣ちゃんは、私は真面目すぎるからもう少し冗談を言った方が良いって言ってたんだけど……やり方が下手なのかな)




工廠妖精B「……ちょっとこっち来るっス」チョイチョイ

零戦妖精A「?」トコトコ

工廠妖精B「おお、白雪さんの残り香が……尊い!かぐわしい!」スンスン

零戦妖精A「」クスグッタイ

工廠妖精B「……待つっス。俺が今こいつに撫でてもらえば、間接ナデナデになるんじゃないっスか!?」カッ

工廠妖精A「工廠長、奴がいよいよ危険な領域に踏み込んじまいそうでさぁ。斬りますかい?」

工廠長「やめろ。あいつァ昔っから色々問題児だったんだ、心配するな。お前も知ってんだろ」

工廠妖精A「それはもちろん。『前』と『今』を合わせれば、あいつとは二十年近い仲ですからね……しかし、正直引きますよ」

工廠長「そいつァ俺も同感だぜ」ニヤッ

【翌日】
【食堂】

漣「え?冗談を言うのにあんまり向いてないかも?」

白雪「うん……」

漣(でも、それって整備兵さんが打たれ弱すぎるだけじゃ……。そうでなければ、よほど嫌われたくない、つまりは――)

漣(――うーん、それは流石に早計かも)

漣「まあでも、漣は白雪ちゃんの真面目なところ好きだけどね。漣が言うのもなんだけど、結局自然体が一番良いんじゃない?」アハハ

白雪「やっぱりそうなのかな……?あっ、もう行かなきゃ。ごちそうさまでした」カタリ

漣「工廠のお仕事?」

白雪「うん。それと、妖精さんが待ってるから」

漣「妖精さんが……?」

【工廠】

整備兵「」ニコニコ

白雪「」ニコニコ

零戦妖精A「」キャッキャッ


工廠妖精A「二人とも、あの妖精をまるで子供みたいに可愛がってますね」

工廠長「若造とお嬢ちゃんで、おとうさんとおかあさんってか?はははっ、面白ェ!」

工廠妖精A「でも、良かったですよ。艦載機の妖精も楽しそうで。……あっしらの前じゃ、見せねェ姿でさぁ」

工廠長「そいつは仕方ねェ。奴さん達装備妖精は俺達とは違うんだからな。色々我慢して、波風立てずに同じ職場でやってってるってだけでも、俺ァ自分の部下を高く買ってるぜ」

工廠妖精A「それは工廠長の統率力の賜物でさぁ。この性格の違いがあって衝突しないのも全て、工廠長の説得のおかげでさぁ」ウンウン

工廠長「その説得をちゃんと聞き入れて従う辺り、流石は全員暮の工員だ。お前も含めて、頼りにしてるぜ」

工廠妖精A「珍しいですね。感傷ですかい?」

工廠長「ふん、違ェよ」

【数日後】
【工廠】

零戦「」キラキラ

整備兵「おお……すごい、これがあのボロボロだった機体か」

白雪「まるで新品ですね……」

工廠長「ま、軽くこんなもんだ」フフン

整備兵「良かったな」

零戦妖精A「」コクコク

工廠長「前線に出られなくて待ちくたびれただろ。これで晴れて飛行隊長に復帰だ」

零戦妖精A「」ヤッター

工廠長「早速だが乗り込んでくれ。出撃準備だ」

整備兵「本当に早速だな」

白雪「今晩出撃して、明日の朝帰投の作戦があると聞いています。外洋艦隊に出撃命令が出ているそうですよ」

工廠長「そういうわけだ。若造とお嬢ちゃんも、ご苦労だったな」

整備兵「苦労でも何でもないさ。……それじゃ、短い間だったけど楽しかったぞ。頑張ってこいよ、隊長」

白雪「気をつけて行ってきてくださいね」ナデナデ

零戦妖精A「」ケイレイ

整備兵「それじゃ、俺達も夕飯行くか」

白雪「はい」

【翌朝】
【食堂】

漣「ねえ白雪ちゃん。最初の艦娘の話って聞いたことある?」モグモグ

白雪「最初の……整備兵さんから聞いたことがあるよ。この鎮守府の近くの海岸に、突然現れたんだよね」

龍驤「せや。でもその正体は、ここの最古参の漣も含めてだーれも知らんのや。な、気にならへん?」ズイッ

白雪「は、はい……けれど、手掛かりがありませんよね……」

龍驤「信頼できるか微妙な情報やけど、その艦娘が使ってた武器は14cm単装砲だったらしいで」

漣「ということは、やっぱり軽巡でしょうか?」

龍驤「だとしても、川内型三人組は漣の後に来たんやから違うやろなぁ。となると、今は別の鎮守府にいるんやろか」

白雪「会ってみたいです。きっと、私達が知らないような昔のことをたくさん知っているんでしょうね……」

漣「そうだね……。漣が来る前の暮の様子とか知ってたら、漣も教えてもらいたいかも」

間宮「皆さん、今日は食べるのがゆっくりですね」

白雪「あっ、すみません!話に夢中になってしまって……」パクパク

間宮「うふふ、急いで食べてとは言っていませんよ。あくまで味わってくれると嬉しいです」

白雪「は、はい……///」カーッ

龍驤「まあ、今朝は外洋艦隊がおらへんからなぁ。珍しく、落ち着いてのんびり食べられるわ」

鳳翔「確かに、静かですね。食堂が広く感じられます」

漣「こういう日も、たまには……あれ?」

……ドタドタドタッ!

龍驤「はぁ、せっかくの平穏とももうおさらばかいな。……もうちょっと味噌汁取っとこ」

那珂「お腹空いたー!」バァン

川内「眠……」ヨロヨロ

神通「姉さん、食堂着きましたよ!」ヒソヒソ

翔鶴「整備兵さん。新型戦闘機の試験配備、ありがとうございました」

整備兵「おお、どうだった?零戦とは違うだろ?」

瑞鶴「本当にすごかったわよ!紫電改二って言ったっけ?あれが全部隊に行き渡れば、敵の新型なんて相手にもならないわ!」

整備兵「それは良かった。開発を急ぐよ」

鈴谷「おやー?まだ提督は来てないの?」

漣「さっき電話を受けてたので、そろそろ来ると思うんですけど……」

ガチャッ

熊野「噂をすれば、ですわね」

提督「おはよう諸君。外洋艦隊の者は今帰投したばかりだろうが……重要な連絡がある。手を止めて聞いてほしい」

ザワザワ

白雪「重要な……?」

漣「あの言い方は、多分相当大きい話だと思う。何となくだけど」ジッ

整備兵「……」ゴクリ

提督「以前伝えた、北部太平洋及び中部太平洋を作戦海域とする大規模作戦……その具体的な内容が通知された」

全員「」ザワッ

提督「作戦名はAL/MI作戦。アリューシャン列島に対する陽動攻撃の後、ミッドウェー島の敵飛行場及び航空戦力を強襲し、釣り上げられた敵機動部隊ごと捕捉・撃滅、太平洋の西半分の制空権・制海権を完全に確保するのが目的だ」

龍驤「ひえー……何やて、ホンマもんの一大決戦やないか」

提督「その通りだ。大本営は間違いなく、この戦いに深海棲艦との戦争の行方を賭けている。成功すれば人類の生存圏は大きく広がり、失敗すれば戦況の大幅な停滞と継戦能力の喪失を招くだろう」

提督「全ての鎮守府・警備府・基地・泊地が作戦に参加する。暮鎮守府艦隊が参加するのは、ミッドウェー方面機動部隊の本隊だ。この部隊は敵基地、陸上航空隊、機動部隊……その全てと交戦し、絶対に勝たなければならない」

提督「作戦開始は、今日からちょうど三週間後だ。艦隊はその前日に出航し、近海へ進発してミッドウェー島空襲の手筈を整える。艦隊序列の発表は後日。何か質問のある者は?」

全員「……」シーン

提督「この鎮守府が担う役割は大きい。だが、焦りは禁物だ。出航の一週間前までは通常通りの出撃を続ける。もう一度言うが、くれぐれも焦ったり浮き足立ったりすることの無いように。……以上だ」

ワイワイガヤガヤ

整備兵「……急に、すごいことになってきたな」

白雪「はい。内洋艦隊にも、出撃命令が出るんでしょうか……」

鳳翔「その可能性はあります。とはいえ、提督、あるいはその上の方々のご意思次第ですが……」

龍驤「もしそうなったら、ウチらの隠れた実力を発揮する時や。外洋艦隊と違って、ウチらは普段あんまり他の艦隊と共同作戦せえへんし。これも良い機会やで」ニッ

漣「ですが、これだけの大規模作戦だと、そもそも鎮守府内の部隊分けは関係無くなっちゃうかもしれませんし。……とにかく、緊張しますね」

【工廠】

整備兵(ともかく、俺に出来ることは装備を充実させることだけだ。やることは変わらない。提督の言う通り、普段通りにいこう)

ガラガラガラ……ガタン

整備兵「おは……」

工廠長「あー、くそっ!忙しい忙しい!」バタバタ

整備兵「やっぱりてんてこ舞いか。今朝帰投の部隊があるって聞いてから、そんなことだろうと思ってたよ」アハハ

工廠長「分かってんなら早く手伝え!今日も破損機がよりどりみどりだ!」

整備兵「ああ、了解。……そういえば、隊長機はどこだ?見当たらないけど」チラッ

工廠長「隊長機?」

整備兵「えーと、昨日まで修理だった戦闘機隊の隊長機だ」

工廠長「何だ、一番機のことか。一番機、一番機……おい!報告書持って来い!」

工廠妖精B「どうぞっス!」ダダッ

工廠長「さて……。ん……残念だが」パラパラ

整備兵「え――?」

工廠長「――未帰還、だ」

本日はここまで。次回は金曜日か土曜日です。

【夕方】
【港】

整備兵「……はぁ、白雪には言えないよな」トボトボ

整備兵(ひどくあっけない別れだった。これが戦争……多分、そういうことなんだろうな)

整備兵(ああやって戦っては消えて、次の妖精に職務を託す。それを繰り返すうちに戦争を終結へ近づけていく)

整備兵(……やっぱり、消耗品か。それも、人間と違って代替はいくらでもいる、恐ろしく都合の良い消耗品……)

整備兵(だが消耗しないのは不可能だし、消耗した分は補充しなければならない。消耗と補充のどちらが欠けても、人類は戦い続けられない)

整備兵(……それに、結局人間の軍人だって厳密には消耗品だ。死の危険にあえて晒されながら戦い、いなくなれば誰かが替わりをやらなければならない。妖精との違いは、数が有限であることだけだ)

整備兵(結局、俺が精神的に弱いだけか。軍人たる者、こんなことで動揺するようじゃ駄目なんだろう……きっと)

整備兵「ほら、もう良いだろ。気合入れろ」パシパシ

整備兵「……はぁ」

整備兵(一人でいると、思考が暗い方向にばかり向かってしまうな。誰かと他愛のないことでも話して気分を変えよう……)

整備兵(白雪……はまずい。もし何かの弾みでこの話になってしまったら、気分転換どころか白雪まで悲しませてしまう)

整備兵(他に、気軽に誘えそうなのは……)

【居酒屋鳳翔】

整備兵「いやー、急に呼んで悪かった」

提督「全くだ。俺のように、いつ急用が入っても問題無いよう計画的に職務をこなしている優秀な提督でなければ、ここまで急な誘いには乗れないだろう」

整備兵「へいへい。その通りだよ。有能有能」

提督「流石に鳳翔まで付き合わせるわけにはいかない。自分で注いで自分で飲め。つまみが食いたきゃ自分で作れ。セルフサービスだ」

整備兵「その辺は提督がやってくれれば良いだろ?俺よりもここには詳しいわけだし」

提督「あいにく料理には疎いからな。それに、むしろ呼んだお前の方がそういうことをするべきだと思うが」

整備兵「じゃあこのナッツの袋開けてやるよ。ほら食え」ビリッ

提督「とても提督に対する態度とは思えないな」ポリポリ

整備兵「でもその方が良いんだろ?」

提督「勿論だ」

整備兵「……それにしても、いよいよ一大決戦だな?」

提督「ああ、AL/MI作戦の話か……まあそれで正しい。文字通りの決戦。何より、動員する兵力の規模が前代未聞だ。例えば整備兵、本土には暮を含め四つの鎮守府と一つの警備府があるが……」

提督「そこから寄越日鎮守府を除いた四拠点に対して、海軍省が要求してきた戦力はどのくらいだと思う?」

整備兵「さあ……?」

提督「全員。それぞれの鎮守府の艦娘全員が作戦に参加しろと言ってきた」

整備兵「全員……!?じゃあその間、他のことは何も出来ないってことか?遠征も、出撃も……」

提督「当然だ。それどころか、作戦期間中それらの拠点は全てもぬけの殻になる。鎮守府でも何でもない、ただの建物の集まりだ」

整備兵「それじゃ、近海に深海棲艦が現れでもしたら……」

提督「一応、寄越日にだけはいくらか艦娘を残すとのことだ。だからその支援を待てば問題無いと言っている」

整備兵「でも、その支援が来るまではどうにも出来ないってことじゃないか?」

提督「本土近海の制海権は既に確保されている上、敵の主力は全てMI方面に釣り上げられるので、下手に戦力を後方へ分散させるよりも作戦正面における兵力優位を確立すべきだ、というのが赤レンガの出した結論らしい。実際ここ一年ほどは、本土が攻撃を受けたことなんて一度も無いしな」

整備兵「まあ、筋は通ってるな……」

提督「とはいえ、それを聞いて俺も色々と思うところがあったわけだ。だから、今はその作戦に口を出すか否か考えている」

整備兵「口を出すって……たかが一鎮守府の意見を赤レンガが聞くか?後、もっとナッツ食え。開けちゃったんだから」ポリポリ

提督「俺はカシューナッツしか食わないぞ。ピーナッツは全部やる。……まあそれももっともだが、俺も『たかが一鎮守府』よりは上の発言権を持っていると自負しているからな。脅してすかして少しくらい風向きを変えられる可能性があるかどうか、見極めているところだ」ポリポリ

整備兵「……やっぱ、真面目な顔しておかしいこと言うよなお前」

提督「ま、作戦の話はこの辺にしておくか。面倒なだけの裏話をしてもつまらないだろう。……整備兵はどうだ?仕事は順調か?」

整備兵「鎮守府の戦力向上って意味なら、貢献できているとは思う。だが妖精に関してはな……分かったこともたくさんあるし工廠の妖精達とも仲良くなったが、これといって核心的な発見はまだ無いな……」

提督「だが聞くところによると、最近は妖精にしか出来ないはずの整備を手伝い始めたそうじゃないか」

整備兵「ああ……まあな。少しづつ身についてきていると思う。自分でやってみるってのも、原理を解明する手段になるんじゃないかと思ってさ」

提督「……」

整備兵「どうしたんだ?」

提督「なぜ、妖精にしか出来ないはずのことが身についてきているのか。どう思う?」

整備兵「んー……強いて言えば、練習しているからか?」

提督「お前ならそう言うと思ったが……ここで冷静かつ客観的な意見を言わせてもらうと、これはそんなに簡単な話じゃない」

整備兵「いや、うん……」

提督「お前は知らず知らずのうちに慣れてきてしまっているかもしれないが、あれほど小さな精密機械を寸分の狂いも無くいじることが出来る人間というのは、単純に異常な人間だ」

提督「努力とか練習とかそういう問題じゃない。俺はお前の機械に関する才能を十二分に認めているが、それでも説明がつくとは全く考えられない」

整備兵「……」

提督「訳の分からないことが出来る――はっきり言って、お前にはそういう危機感が希薄だと思うぞ。謎を解いているはずが、いつの間にかお前自身まで謎の一部になってしまっては困る」

整備兵「っ……ああ、確かに提督の言う通りだ。少し能天気だった。軽く考えすぎてた……かもしれない」

提督「とは言ってみたものの、だ」

整備兵「?」

提督「今のお前が取れる一番有効な作戦は、リスク覚悟で謎に突っ込むことのようにも見えるがな」ポリポリ

整備兵「おい、こっちがせっかく真面目に聞いてるのに、結局何が言いたいんだよ……」ジトー

提督「さっきのは小言じゃなく軽い助言だぞという、俺なりの遠慮だ。別に俺は今、直接お前に何かしてやれているわけじゃないからな。うるさいだけの外野にはなりたくない」ノビー

整備兵「いや、ここに連れて来てもらっただけでもう十分……」

提督「そこで、だ。実は明日から、数少ない俺のサポートが一つ発揮される」

整備兵「明日から?何だ?」

提督「本当は明日の朝連絡しようと思ったんだがな。まあ、ぼちぼち役立ててくれ」

【翌日】
【工廠】

ガラガラガラ……ガタン

明石「こんにちは!工作艦、明石です。寄越日鎮守府より技術交流のため参りました。今日から一週間ほど、この鎮守府にお邪魔させていただきます。よろしくお願いします!」ペコリ

整備兵「……はっ、もうそんな時間か!え、ええと、こちらこそよろしくお願いします」ペコリ

明石「お仕事中でしたか?」

整備兵「ええ、まあ……明石さんは、寄越日海軍工廠で工廠長をされているんですよね?」

明石「はい。私は本職が整備で、あまり戦闘は得意ではないので……あと、普通に話してもらって良いですよ?」ニコ

整備兵「そうか?じゃあ遠慮なく、そうさせてもらうよ」

明石「ではまず、お届け物からですね」

整備兵「お届け物?」

明石「これです。どうぞ」ポン

整備兵「海軍省監修建造開発最新レシピ集改訂版?ん、確か似たようなのを部屋の本棚で……」

明石「海軍では、各工廠での建造・開発記録を寄越日に集めて統計しレシピ集を作っているんですが、その最新版がこれです。前の版よりも使用しているデータが増えて、より効率の良いレシピがたくさん盛り込まれていますよ」

整備兵「それはありがたい!……なになに。新事実、ボーキサイトの量は一定量を超えると増やしても艦載機開発に影響を与えない……そうだったのか、知らなかった」パラパラ

整備兵「ほぉ……確かに、色んなところで情報量がぐっと増えてるな。……ん?まさかこれ、この鎮守府の建造・開発記録も使われているのか?」

明石「もちろんです。全ての工廠の全データを集めていますから。あ、そういえばここの工廠の方針はその……少し特殊でしたね。くっ……くくっ」

整備兵(明らかに笑いを噛み殺されてる……恥ずかしい)

明石「すみません……ですが、このレシピの情報を提供してくれる工廠が他に無いので、とても貴重な情報になりましたよ?」

整備兵「そりゃそうですよ……あんな開発のやり方、普通はしませんって」ズーン

明石「……あら?この魚雷、整備兵さんが整備していたんですか?」

整備兵「一応は……」

明石「むむ……そこのビスの留まり方が少し甘いですね」ノゾキコミ

整備兵「え、そうか?」ノゾキコミ

明石「きつ過ぎてもいけないので結構難しいんですが、これだと作動時に耐えられない可能性があります。反対のこっちはちょうど良いので、こちらよりほんの少し弱いくらいの力加減で……」

整備兵「あー……そっちは空気室に近くて特に圧力が高まるから、強めに留めたんだ。一回そこからビスが配管ごと吹き飛んだことがあってさ……」

明石「あははっ、やりますよねそれ!私も徹夜のときたまにやります!」

整備兵「良いのかそれで……」ハハハ

明石「あっ!こっちの管は――」

整備兵「ああ、それは――」

整備兵「――だから、なかなか難しいんだ。最近はコツがつかめてきたけど」

明石「ふむふむ。整備兵さん、詳しいんですね。ここまで機械について話ができる人には、初めて会いました」

整備兵「明石こそ凄いよ。あんな小さなミスも一瞬で見抜くし、艤装の構造が丸ごと頭に入ってるみたいだ。やっぱり本職なんだな……」

明石「それはもちろん、私は艦娘ですから。それも工作艦の……って、待ってください」

整備兵「何だ?」

明石「整備兵さんは普通の人間ですよね?つまり、艦娘じゃありませんよね?」

整備兵「もちろん。どう見ても、艦『娘』には見えないだろ?」

明石「どっ!どうして妖精でも艦娘でもないのに、艤装を整備できるんですか……!?」

整備兵「い、いや、何か練習していたらだんだん慣れてきてさ……。工廠長の妖精にやってみるかって言われて始めたんだが……」

明石「言われて……?まさか、妖精の声が聞こえるんですか!?」

整備兵「工廠の妖精ならな……装備の妖精は無理みたいだ」

明石「なんと……なるほど。そういうことでしたか。だから、突然私がここに呼ばれたんですね」

整備兵「どういう意味だ……?」

明石「私、普段は工廠長として工廠の運営をしているんですが、別の仕事もしているんですよ。……妖精と、その技術の解析・研究です」

整備兵「……!」

明石「少し、場所を変えません?お互いに、色々と話したいことがあると思いますし」

本日はここまで。今月中には次回をやりたいと思います。

【居酒屋鳳翔】

整備兵(……それで、ここか)

明石「ふんふんふーん♪」カチャカチャ

整備兵「って、呑むのか明石。まだ明るいぞ」

明石「鳳翔さんに伺ったら、何でも自由に飲んで良いとのことでしたので。大丈夫ですよ。私、お酒強いですから」ニコニコ

整備兵「そういう問題か……?」

整備兵(一体どんな話が飛び出すか、結構緊張しながらここまで来たんだが……軽いなおい)

明石「整備兵さんもどうですか?」

整備兵「……俺は茶にするよ」

明石「さて」コトリ

明石「早速だけど、本題に入っても良いかしら?」

整備兵「ああ」

明石「さっきも言ったように、私は寄越日で結構昔から妖精の研究をしているんですよ。とはいえ、私は整備兵さんと違って妖精と話せたりはしませんし、専門は機械なので、妖精の作る艤装に関する研究が主ですが」

整備兵「艤装か……確かに、まず表に現れてくる謎はそれだもんな。他の兵器とは明らかに異質だ」

明石「やっぱり、怪しいと思いますよね。整備兵さんは整備を手伝っているそうですから知っていると思いますが、艦娘が使う武器の構造は……」

整備兵「……現実に存在した大戦期の兵器と似ている、か」

明石「似ている……どころではないですね。艦娘の身体に装着するための構造を除けば完全に同一で、未知の部分は何らありません。さらに分析の結果、使用されている金属や火薬の成分までもがぴったり一致しました」

整備兵「そんなところまで……!?」

明石「違いらしい違いは一つだけ……どれも、艦娘が扱えるサイズまで小さくなっているということだけです。……まあ、このたった一つだけの違いが、整備兵さんが艤装を扱うときの障害になっているんですが」

整備兵「その通りだ……もう少し大きければ、整備の難しさは半減するんだけどな」

明石「というわけで、この事実により大きな謎が生まれます。なぜ特別な構造も素材も持たない艤装が、深海棲艦に対して異常な性能を発揮するのか……ということです」

整備兵「構造がそのままで小さくなっているなら、炸薬量も質量も減っている分、威力は実在の兵器よりむしろ弱くなるはずだからな……」ウーン

明石「はい。そして、あまり目立たない謎としては妖精の使う工具があります。……整備兵さんは、まさか妖精の工具まで使えたりしませんよね?」ジロッ

整備兵「あー……少しなら。使えるときと、そうじゃないときがある」

明石「……羨ましい」ボソッ

整備兵「な、何だ?」

明石「いえ、何でも。……とにかく、妖精の工具も艤装と同様、特別な能力を秘めているにも関わらず仕組みはごく普通です。提供は拒まれてしまったので非破壊の検査を行いましたが、材質にも特筆すべき点はありませんでした」

整備兵「妖精の技術は、全くわけが分からないってことか……」

明石「少なくとも、科学的な視点から見ればそうですね。……ですが、科学的ではない視点から見るとどうでしょうか?」

整備兵「科学的ではない……?」

明石「……ここから先は、私の個人的な推論になります。機械を扱う者には似つかわしくない、根拠に乏しい想像です。それでも良いですか?」

整備兵「……」コクリ

明石「分かりました。……整備兵さんは、こんな話を聞いたことがありませんか?『艦娘は、大戦期の艦艇の魂と装備を持った者たちである』……」

整備兵「もちろんあるさ。そのことならみんな知ってる……というより、直接艦娘に関わることがない人間は、艦娘と言えばそれくらいしか知らないんじゃないか?」

明石「あれ、私が大本営を通じて流した情報なんですよ」

整備兵「はぁ……!?それで、本当なのか!?」ガタッ

明石「いえ、実際のところは良く分かりませんけど」テヘペロ

整備兵「おいっ!」

明石「艦娘について何も情報が無いと、思わぬ猜疑心や好奇の目を向けられることも増えます……それを防ぐための、新聞やテレビで繰り返し流すいわば合言葉的な説明を考えてほしいと大本営に依頼されて、私が出した案がこれです」

整備兵「道理で、何も分からないはずなのにその説明だけはよく聞いたわけだ……」

明石「この説明について、整備兵さんはどう思いました?」

整備兵「どうって言われてもな……。確かに、よく考えてみると字面からじゃ何の意味も読み取れないが、何となく……魂とか神秘とか、そういう存在なのかと思っていたな」

明石「それなら、私の狙い通りです」

整備兵「……でも、実際は違うんだろ?」ジロッ

明石「この説明を考えたときの私は、違うと思っていました。魂という曖昧な言葉を使ってごまかすだけの表現だと。……ですが」

整備兵「……?」

明石「科学的には特別なところが何もない艤装に、大きな力を与えているもの……それが精神的な何かや神秘的な何かであるということは、有り得ない話ではないのではないか。最近は、そう思い始めたんです」

整備兵「それは、具体的にどういうものだと思うんだ?」

明石「……艦娘が現れる前、深海棲艦に対して唯一効果を発揮したのは、わずかに残存していた大戦期の兵器だったんですよね。けれど、後から作ったそれらのレプリカは効果を発揮しなかった」

整備兵「そうだが……」

明石「大戦期の兵器自体は、何の変哲もないただの兵器だと確実に言えます。それが尋常ならざる効き目を持った原因はやはり、それが前大戦で使われたものだったという過去でしょう。つまり……兵器の記憶のようなものです」

整備兵「兵器の……記憶、か。うーん……結構、突拍子も無い話だな」ウデグミ

明石「だから、最初に注意したじゃないですか……話を戻しますよ。ともかく、そうは言っても兵器は単なる鉄の塊です。鉄自体は何も変化しません。そこに何らかの痕跡を残すものがあるとしたら……それは、過去にその兵器を使った人々の思念、あるいは魂のようなものなのではないかと思います」

整備兵「そこで魂に繋がるわけだな。……そして、その話を艦娘で考えると、艦娘は旧海軍の軍人達……その艦に乗っていた人達の思念あるいは魂によって成り立っていることになる……ってことか?」

明石「はい。おそらく、それぞれの名前に対応した実在の軍艦に関係する人々の……私なら、工作艦明石ですね」

整備兵「……しかし、どうしてそういう思念や魂を持った兵器は深海棲艦に効果を発揮することになるんだ?つまり、その思念やら魂やらが深海棲艦を敵と認識して攻撃しようとしない限り、特別な効力は望めないだろ?」

明石「深海棲艦の正体が分からない限りその答えは出ませんが……これに関しても二つ、予想を立てることが出来ます」

明石「一つ目は、深海棲艦が、大戦において我が国の敵だった国の兵器もしくは兵士の要素を含んでいるという可能性です」

整備兵「大戦のときと同じように、二つの陣営に分かれて争っているってわけか……。確かに、艦娘に精神的な力が働いているのと同じように、深海棲艦にも働いているということは有り得る」

明石「また、二つ目は、深海棲艦にも艦娘同様、大戦時の我が国の兵器もしくは兵士の要素が含まれているという可能性です」

整備兵「……?それは、別に敵対しないんじゃないか?」

明石「軍人も人間ですから、未練を残して亡くなった兵士も、戦争や作戦の意味に疑問を持ちながら亡くなった兵士もいたはずです。その方々の思念が残った場合、自らを死地に追いやった我が国の軍、艦艇、上官などへの憎しみを生むことも考えられないとはいえません」

整備兵「そう、か……。無いとは、言えないな」

明石「そして、最後に付け加える形になりますが……同じように思念や魂の影響を受けているとしても、博物館にあるような大戦期の兵器と違い、艦娘にはいつも一緒にいる存在があります」

整備兵「妖精……だな」

明石「艦艇と常に共にあり、その兵装を運用するのは乗組員です。そして、艦艇と乗組員という関係をそのまま艦娘と妖精に置き換えたとしたら。……妖精達が、普通ではない力を使いこなして普通ではない艤装を作るという事実にも、この話は繋がります」

整備兵「……」

明石「……」

明石「……と、これで話はおしまいです。突然こんな変な話をしてすみません。答えが見つからないから空想に逃げたと言われれば言い返せませんし、そんな馬鹿馬鹿しい話、と思ったなら忘れちゃってください」ニコ

整備兵「いや……聞いてたら、そう簡単に想像と片付けられる話でもないような気がしてきたよ。今は何だって有り得る……何てったって、艦娘やら深海棲艦やらが現に海で戦ってるような時代なんだからな」

明石「あはは……言われてみればそうですね」

整備兵「……ん?」チラッ

女神「……」フヨフヨ

女神「……」スィー

整備兵「女神……か?」スッ

整備兵「」スタスタガラッ

整備兵「おーい。あれ?もういない……」

明石「どうしました?窓の外に誰かいましたか?」

整備兵「いや、たまに会う妖精がさ。女神っていう名前なんだが、工廠ですらあまり見かけないのにここで何をしてるのかと……」

明石「女神さん……?法被に、ドライバーとねじり鉢巻きのですか?」

整備兵「え、明石も知ってるのか?」

明石「寄越日の工廠にもたまに来ますよ?いない日の方が多いですが。寄越日や暮以外の工廠にも時々出没するらしくて、工廠関係者の間では密かに海軍全体の可愛いマスコットになっているんですよ」

整備兵「そうだったのか……全然知らなかった。だからたまにしか見かけないのか」

明石「曰く、見かけるとその日は幸運な一日になるそうです。どこから出た噂かは分かりませんけどね」

整備兵「何だそりゃ……」

明石「かくいう私も、実は手帳に見かけた日を記録しているんですよ。ほら」ペラッ

整備兵「ほー、なになに……たまにとは言っても、うちよりは多く来てるんじゃないか?……って、どうでも良いけど。明石って意外にミーハーなんだな……。それで、良いことはあったか?」

明石「特にはありませんね」テヘペロ

整備兵「」ズザー

【工廠】

整備兵(だいぶ話し込んでしまった……。工廠長に言わないで出てきてしまったが、大丈夫だろうか)

ガラガラガラ……ガタン

白雪「あっ、整備兵さん!」

整備兵「白雪、もう来てたか。ごめん、明石と話をしてたんだ」

白雪「そうだったんですか。あの今朝いらっしゃった、寄越日鎮守府の――」

工廠長「おい若造ゥ!どこ行ってたんだ!」バンッ!

整備兵「いてっ!いや、何も言わず出たのは悪かった。どうしても必要な……」

工廠長「言い訳は良いから早く手伝え!」バシバシ

整備兵「まさか、今日もまた修羅場なのか……!?」ゲッ

白雪「前と同じように、龍驤さんと鳳翔さんが他艦隊の支援から帰ってきたばかりなんです……」

工廠長「そういうこった!分かったらさっさと動け!」

整備兵「はぁ……」

白雪「整備兵さん、これから忙しくなりそうなので今のうちに計画を立てておきますけど、今日の午後はどうしますか?」

整備兵「ええと……開発は午前中に白雪がやってくれるから良いとして、午後は……午後は……」ウーン

白雪「特に無いようでしたら、機銃の修理をしませんか?なるべく続けてやった方が良いですし」

整備兵「確かに。じゃあ、そうするか?」

白雪「はい!」ニコッ

整備兵「……あ、待ってくれ」

白雪「どうしましたか……?」キョトン

整備兵「今日の午後は、明石に工廠を案内しなきゃならないんだった。悪いけど、修理はまた今度にしてくれないか?」

白雪「そ、そうだったんですか……」シュン

工廠長「まだか若造ゥ!?」

整備兵「分かった今行く!……ごめんな、白雪。今日の午後は他にすることも無いし、自由にしてて良いぞ!」ダッ

白雪「あっ……」




工廠妖精達「」バタバタ

零戦妖精達「」ワチャワチャ

整備兵(さて……次はどの機を修理するか。あの機は……損壊がひどいし、まだ俺には難しいか?)スタスタ

整備兵(しかし、今日も戦闘機隊は結構な数がやられてるな……。一応は機体番号順に並べられているが、抜けも多い)


――『またあえてうれしい』


整備兵(……くそっ。また思い出してしまった)

整備兵「……」チラッ

整備兵(今回は、一番機もちゃんと帰還したみたいだな)

整備兵「……」

整備兵「忙しいところ悪いんだが、ちょっと良いか?」

紫電妖精A「?」クビカシゲ

整備兵(……何やってるんだ俺は。番号こそ同じだが、既に機体すら変わっている見も知らない相手に何を期待しているんだ)

整備兵「質問が、ある」

紫電妖精A「」コクリ

整備兵「教えてほしいんだ。……今までに出撃した回数は何回だ?」

紫電妖精A「」カキカキ

『こんかいがはじめて』

整備兵(……っ)

整備兵「……まあ、そりゃそうだよな」ポツリ

整備兵(下らない自己満足は終わりだ。これで良い加減、諦めもついた。ついたんだ……)

紫電妖精A「……」ジー

紫電妖精A「」ピョン

整備兵「……うわっ、何を」

紫電妖精A「」グイグイ

整備兵「お、おい、袖を引っ張るな……!」

バラッ

整備兵「ほら、飴が落っこちたじゃないか……」

紫電妖精A「」ヒョイパク

整備兵「あ、盗んだな!何だ、そんなに食べたかったのか?それならそうと……」ピタッ

整備兵「……違う。おかしい。どうして、飴のある場所を知ってるんだ……!?」

紫電妖精A「?」モグモグ

整備兵「どうしてだ?俺はあの妖精にしか、このことを教えてない。どうしてそれを全く関係無い君が?」

紫電妖精A「」カキカキ

『わからない』

整備兵「分か……らない?そんなはずは無い。つい今さっき、自分でしたことだぞ」

『わからない』

整備兵「袖の膨らみで分かったか?それとも匂いか?いや、もしかしたら最初から少しはみ出して……」

『ちがう』

整備兵「ち……がう?」

『なぜだか、わかった』

『なぜかは、わからない』

整備兵「嘘だ。そんな、ふざけた、話が……!」

紫電妖精A「?」キョトン

整備兵「……」

整備兵(……何なんだ?どうなっている?一体、何が起こっているんだ?)

本日はここまで。次回は木曜日の予定です。

【数日後】
【港】

白雪(整備兵さん、もう工廠へ行っちゃったかな……少し急がないと)スタスタ

整備兵「」スタスタ

白雪「……!あっ、整備兵さ……」ピタッ

明石「――他の鎮守府では当たり前のことですよ?妖精がレシピを考案するなんて」スタスタ

整備兵「そうなのか?となると、どこの工廠もここと同じで資源消費に苦しめられることになるはずじゃないか」

明石「おかしいですね……他のところの妖精達はバランス良く色んなレシピを提案してくれているみたいで、どこも大助かりと言っていますけど。妖精のアイデアから新しく効率的なレシピが生まれることも、少なくはないんですよ?」

整備兵「それはすごいな。こっちの工廠長にも見習ってほしいくらいだ」ハハハ

明石「そんなこと言ってると、工廠長さんに怒られちゃいますよ?」ニコニコ

白雪「……」サッ

白雪(あれ……私、どうして隠れてるんだろう。普通に声を掛けて、一緒に工廠まで行けば良いのに。普通に、声を、掛けて……)

白雪「……」

【朝】
【食堂】

白雪「……」モグモグ

漣「白雪ちゃん、この煮物の人参!すっごくおいしくない!?」

白雪「うん……」モグモグ

漣「……あれ、どうかしたの白雪ちゃん?」

白雪「うん……」ボー

漣「おーい」フリフリ

白雪「……わっ、な、何、漣ちゃん?」ビクッ

漣「大丈夫?何だか、心ここにあらずって感じだったけど……」

白雪「べ、別に大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから……」アセアセ

漣「何か悩みでもあるの?それなら、漣が相談に乗るけど」

白雪「き、気にしなくて良いって。平気だよ」

漣「それならいいけど……」

白雪「……」ボー

漣(……絶対何かあるよねー)

龍驤「まーた大方、整備兵はん周りの悩みなんやないの?」ヨッコイショ

白雪「りゅ、龍驤さん、い、いつから!?」ガタッ

漣「やっぱり龍驤さんもそう思います?」

龍驤「めっちゃくちゃ思うわ。白雪のその物憂げな表情が、前に整備兵はんを労う作戦を立てたときとそっくりやねん。ホンマ、分かりやすいなあ」ニッ

白雪「えっ……!?」

龍驤「それで、今度はどないしたんや?」

白雪「え、いえ、あの、本当に大丈夫ですから……」アトズサリ

漣「」ガシッ

白雪「ひっ」

龍驤「ええからええから。ウチという人生の大先輩に聞けば、どんな悩みも一発解消やで。さっさと吐いて楽になろうや。な?」ニコニコ

漣「そうそう。漣も、友達として力になりたいから。一人で抱え込むのは良くないって」ニコニコ

龍驤(まあ、何だかんだ言うても……)

漣(……面白そうなんだけどね!)

白雪(な、何か二人とも怖いよ……!)

龍驤「ほな!」ズイッ

漣「ほら!」ズイッ

白雪「え、ええと……。それなら……」

白雪「さ、最近、寄越日鎮守府から明石さんがいらっしゃいましたよね」

龍驤「せやな。工廠の技術交流とか何とか……」

白雪「それで、整備兵さんともよくお話をされたり、毎日長い間一緒に作業をされたりしているんですが……」

漣「一応、同業者?みたいなやつだしね」

白雪「……」

龍驤「ですが、何なんや?」

白雪「……あの、やっぱりこの話は」

龍驤「ズバリ、嫉妬やな?」ニヤリ

漣「∑(=゚ω゚=) マジ!?」

白雪「しっ……!?そ、そういうわけでは……」

龍驤「なら何やねん」

白雪「その、いつの間にか整備兵さんと作業するのが日課というか当たり前のことになっていて……それが変わると、自分でも良く分からないんですが、違和感みたいなものが……」

漣「あー……」ウンウン

龍驤(見事に墓穴掘ってるやん)

白雪(さ、漣ちゃんなら分かってくれるよね……?)クルッ

漣「嫉妬だね」ポン

白雪「え……」

漣「白雪ちゃんは、整備兵さんとしょっちゅう一緒にいる明石さんを見て嫉妬してるんだよ。つまり、白雪ちゃんは整備兵さんのことが……」

龍驤「好き、なんやな?」ヒュー

漣「あ、良いとこのセリフ取らないでくださいよ」

龍驤「ごめんごめん。つい言いたくなってしもたんや」

白雪「すっ……///」カーッ

白雪(わ、私が、整備兵さんのことを?)

白雪「で、でも、私はただの補佐官としてずっと整備兵さんと働いてきただけですし……」ワタワタ

龍驤「今までは身近すぎて気づかへんかったんやろ。いつも一緒にいるうちにだんだん……そして、離れて初めて分かる恋心っちゅうやつやな。いやぁ、青春やね」

白雪「……///」プシュー

漣「白雪ちゃんだって、整備兵さんと一緒にいると楽しいでしょ?時間の流れが早く感じられたりしない?」

白雪「それは……うん……」

漣「それに、好きじゃなかったら……ただの補佐官としての仕事だけで整備兵さんと一緒にいるなら、さっき白雪ちゃんが言ってたみたいな気持ちは起こらないよ」

白雪「……うん」コクリ

漣「その気持ちだけで良いんじゃない?好きって言っても何か特別な条件が必要なわけじゃないし、難しく考えなくて良いんだよ」

白雪「難しく、考えなくて……」

白雪(た、確かにそうだよね……。やっぱり、私が、いつの間にか……)

白雪「……漣ちゃんと龍驤さんの、言う通りかも、しれません……」ウツムキ

龍驤「よっしゃ!言うたな?それなら早速、整備兵はんを取り戻す作戦を練らなアカンで」

漣「了解です!」ビシッ

白雪「え……えぇっ!?待ってください。明石さんに迷惑をかけるようなことは……」

龍驤「何言っとるんや。恋は先手必勝!航空戦とおんなじやで!」

漣「さすが龍驤さん、分かってますね!」

白雪(な、何だか、この前の相談のときと同じで二人とも楽しそう……)

龍驤「やっぱり、明石はんは機械に関して整備兵はんと話が合うからなぁ……とは言っても、白雪が知識で追いつくのは無理そうやし」

漣「それに、明石さんってどこか大人の魅力がありますよね」ウデグミ

龍驤「スタイルも何気にええしなぁ……白雪みたいなちんちくりんにとっては強敵やな」

白雪「ち、ちんちくりん……」ガーン

漣「大人といえば、明石さんお酒も強いみたいですよ?この前はお昼から……」

龍驤「それや!」

漣「何か思いついたんですか?」

龍驤「白雪が整備兵はんを飯……いや、この際どうせなら飲みやな、に誘うんや。二人で出かけるっちゅう雰囲気作りもできるし、酒が入れば恥ずかしさがちょっとは薄れて大胆になれるやろ」

白雪「お酒ですか……?」クビカシゲ

漣「お酒って……勝手に飲んで良いんですか?漣も飲んだことないですよ?」

龍驤「艦娘には成人も法律もあらへんし平気やろ。まあ駆逐艦には普通呑ませへんけど、今回の白雪は作戦のために特別や」

白雪「それは、鳳翔さんのお店でということですか……?」

龍驤「鎮守府内やと余計な邪魔が入るかもしれへんから、外へ出るんが一番や。実はウチ、ええ店知っとるんやで?」

漣「それなら、外出権は漣の分を一日分けてあげるね。まだ白雪ちゃん着任してから長くないから、外出許可下りにくそうだし」

白雪「あ、ありがとう……」

龍驤「ほな、作戦開始や!頑張るで、おー!」

漣「おーっ!」

白雪「お、おー……」

白雪(大丈夫かな……)

白雪「……あっ、ごめんね。私、もう訓練の準備しに行かなきゃ」ガタッ

龍驤「ほな頑張りや。詳しい計画はまた後で伝えるわ」ヒラヒラ

漣「今のところ、決行日は次の訓練が無い日かな。AL/MI作戦があまり近づかないうちにしないといけないけど……とりあえず、今日の訓練頑張ってね!」フリフリ

漣「まさか、白雪ちゃんが整備兵さんをなんて……」

龍驤「なんや、不満でもあるんか?」

漣「そういうわけじゃありませんよ」

漣(あのちょっと頼りなさそうな整備兵さんが、ちゃんと白雪ちゃんの気持ちを受け止めてくれるかどうかは不安ですけど……)

漣「しかし、一緒の時間が多いとこういうことになっちゃったりするものなんですかね。知らないうちにだんだん……とか」

龍驤「そんなん、漣もおんなじやないか」

漣「……はい?」キョトン

龍驤「提督はんのことや。漣と、て、い、と、く、は……」

漣「」ガタッ

漣「だ、誰から聞きましたか?」プルプル

龍驤「そら一人しかおらんやろ。秋雲や」ニヤニヤ

漣「あ、の、問題児がぁっ……!」

龍驤「他人の心配もええけど、もっと自分を大事にするんやで?ほな、さいならー」スタスタ

漣「ちょっ、に、逃げる気ですね!」ダッ

【港】

龍驤(ふー、ようやく撒けたわ。漣もしつこいやっちゃなぁ)スタスタ

龍驤(にしても、最近はだいぶ過ごしやすい陽気になってきたわ。そろそろ秋やねぇ)

龍驤(さてさて、午前中は暇やし、また整備兵はんでも誘って資料室に……)ハッ

龍驤(……待つんやウチ。それはまずいんやないか?)

龍驤(白雪は整備兵はんのことを好いとって、その整備兵はんと良くくっついとる明石はんに嫉妬しているんやろ?)

龍驤(てことは、や。整備兵はんとウチが資料室に行くっちゅうのも、十分白雪の嫉妬を誘う行動になるんやないか?)

龍驤「二人きり……密室……修羅場……」ウーン

龍驤(……アカン、こらアカンわ。危ない危ない。刺されるところやった。今日は一人で、ゆっくり……)クルッ

整備兵「よ、龍驤」スタスタ

龍驤「せ……!?」ビクッ

整備兵「どうした?」

龍驤「な、何や整備兵はんか。あはは、急に話しかけられたからびっくりしたわ……」

龍驤(こう図ったようなタイミングで現れられたら、そら驚くで……)ハァ

整備兵「ごめんごめん。それで龍驤、これから訓練か?もしそうじゃないなら、資料室に……」

龍驤「あー、今日はちょっち用事があって行けへんのや」

整備兵「そうか……分かった。それなら、次はいつ頃行けそうだ?龍驤に感想をもらいたい本が何冊かあるんだが……」

龍驤「いつ……とは言えへんなぁ。しばらくは、訓練が多くて無理そうやわ」ショボン

整備兵「それは残念だな……。よし。じゃあまた、空き時間ができたらな」

龍驤「了解や。それまでに面白い本探しといてや」

整備兵「もちろんだ」ニコ

スタスタ

龍驤「……ふぅ、何とかなったわ。裏方も楽やないで、ホンマ」ブツブツ


白雪「……」ジー

【数日後】
【工廠】

整備兵「うーん……」カチャカチャ

整備兵「……駄目だなこりゃ」ポイ

工廠妖精A「失敗ですかい、整備兵殿?」トコトコ

整備兵「ああ。最近、整備の仕事がどうも上手くいかなくてさ」

整備兵(龍驤と資料室に行かない分、自主練の時間も増えて上達すると思ったんだが……)

工廠妖精B「言われてみれば、ここ二、三日は何だか覇気が無いような気もするっス。風邪でも引いてるんじゃないっスか?」

整備兵「覇気って……体調は万全なんだけどな」ハァ

白雪「お疲れ様です、整備兵さん。今日の業務、全て終了しました」スタスタ

工廠妖精B「白雪さん!ご機嫌うるわしゅう!」ビシッ

白雪「妖精さんもお疲れ様です。いつもありがとうございます」ナデナデ

工廠妖精B「」ビクンビクン

工廠妖精A「その喜び方は怖いからやめてほしいんでさぁ」

白雪「はい、おしまいです♪」パッ

工廠妖精B「ふぅ……」

工廠妖精A「あとその満ち足りた顔は何なんですかい?」ジロッ

整備兵「お疲れ、白雪。俺もこの辺で切り上げようかな。そろそろ夕飯だ」ヨッコイショ

白雪「……あの、整備兵さん。その前に、一つお話があるんです」オズオズ

整備兵「話?開発関連で、何かあったか?」

白雪「いえ、そういうわけではなくて……個人的なことです。つ、次の日曜日……」

整備兵「日曜日……?」

白雪「私と一緒に……よ、夜ご飯に行きませんか!」バッ

整備兵「夜……食堂でってことか?それなら、いつも一緒に食べてるじゃないか」キョトン

白雪「そ、そういうわけではなくてっ!外です、外のお店です!」ブンブン

整備兵「外?ああ、そういうことか……って、外!?」

整備兵(つ、つまりあれか?白雪は俺をディナーに誘ってるってことなのか……?)

整備兵「えーと……ちなみに、俺と白雪以外は誰が来るんだ?それとも……そうか!鎮守府の皆で行くとか……」

白雪「わ……私と整備兵さんだけ、です」ウツムキ

整備兵「ふ、二人なのか……!?」

整備兵(どういうことだ!?二人でディナーに行く、しかも男女となると俺だってそういう想像をしてしまうが……)

整備兵(……いやいやいや、有り得ないだろ。なんて自意識過剰なんだ。俺は別段モテるタイプじゃないし、白雪だって俺のことは同僚としか思っていないはずだ)

整備兵「そ、それで、どうして急に?何か、理由でもあるのか……?」

白雪「……///」プクー

整備兵(睨まれたって、一体どうすれば良いんだよ……!?)

整備兵(……はっ。もしかして、また龍驤の奴が何か入れ知恵をしたんじゃ……)キョロキョロ


龍驤「……お」サッ

龍驤「整備兵はんがウチを怪しんでるわ」モノカゲ

漣「えっ、どうしてそんなことが分かるんですか……」モノカゲ

龍驤「どいつもこいつも分かりやすいんや。自分で言うのも何やけど、ウチは空母として、偵察と隠密行動においては一流……」

漣「分かりましたから、とにかくもっとこっち入ってくださいよ。見つかったらコトですから」グイグイ

整備兵(龍驤のことだから、何かしていれば面白がって見に来ると思ったが……流石にこんな趣味の悪い冗談は無かったか)フゥ

整備兵(だが本当に、なぜ白雪は俺と夕飯なんて……ん、まさか)ピコーン

整備兵「白雪、もしかして……」

白雪「……!は、はいっ」ドキドキ

整備兵「肩揉みのときみたいに、俺を気遣ってくれてるんだな?」ドーン


漣「何ですかこの甲斐性無しは……」イライラ

龍驤「まあまあそう言わへんといてや。まだ、整備兵はんの方が白雪を好きになるかは分からへん」ヒソヒソ

漣「いやいや。整備兵さんごときが白雪ちゃんを振るなんて、それこそ贅沢も贅沢、大贅沢というものですよ」ジー

白雪「じ、実は……そういう理由も、あったり……」

整備兵「ああ、やっぱりそうか!確かに、白雪と出かけたら疲れも取れそうだな」ウンウン


漣「……これもうダメなんじゃないですか?」ドンヨリ

龍驤「酒や……酒の力を信じるんや……」ジッ


整備兵(……しかしどうしたものか。もちろん、俺は白雪と夕飯を食べに行くのは嫌じゃない。というか、絶対楽しいだろう。いつも白雪と作業しているときも、飛ぶように時間が過ぎる)

整備兵(だが、後のことを考えると……つまり、俺と白雪の仲を周りに勘違いされたらと考えると白雪に良くないな。これもまた、喜び勇んで噂を流しそうな奴がいるし……)


龍驤「……あ、何やくしゃみ出そうや。誰かがウチのこと考えとるで」ヒソヒソ

漣「やめてくださいよ!それは流石にバレますって!」ヒソヒソ

整備兵(それに下手をしたら、白雪の見た目的に俺がその……少女趣味の烙印を押される可能性もある。もちろん艦娘に大人も子供も無いし白雪のことも可愛いと思うが、俺は白雪を絶対そういう目線で見てはいけない立場の人間だ……と何となく思う。そうなることも、そうなったと思われることも避けなければ)

整備兵(……となると、白雪への返答はただ一つだ)

整備兵「白雪、気持ちは嬉しいけど、この時期に俺達だけ出かけるのは皆にも悪い。それに何度も言うようだけど、普段から白雪には、鎮守府の中にいるときでも助けられてる。だから……」

白雪「……」シュン

整備兵「……だから、行こう!夕飯!」

白雪「……はい、分かり……えっ!?」


漣「もう何か、支離滅裂ですね……」ズーン

龍驤「うーん……これは案外、整備兵はんの方もまんざらやないみたいやな。希望が持てるわ」ニッ

漣「まあ、結果的には良い方に転びそうですけど……危なっかしいですねコレ」

整備兵(……まずい。気がついたら、言おうと思っていたことと逆のことを口走っていた)

整備兵(気の迷いなんかに負けるな。ほら、今度こそ、きちんと言い直して大人の対応をするんだ……!)グッ

整備兵「じゃなくて、俺が言いたいのは……」

白雪「よ、良かった……です。楽しい食事になるように、私、頑張ります」ニコ

整備兵「いや、頑張るとかそういうものじゃないさ。こういうのは、一緒に楽しむものだと思うぞ」ニコ

白雪「そう……ですね」ニコ

整備兵(……はっ)

整備兵(ダメだ……まるで口が言うことを聞かない。話をすればするほど、どんどん逆の方向へ進んでいるようにしか……)

工廠妖精A「……整備兵殿、お取込み中ですけれども時間は大丈夫なんですかい?」

整備兵「え……あ、ああ。もう食堂に行かないと……白雪、そろそろ帰る時間だ」

白雪「はい、では片付けを手伝いますね」

バタバタ

工廠妖精A(全く、こういうことは別の場所でやってほしいんでさぁ)

工廠妖精A(……そういえば、奴は!?)クルッ

工廠妖精B「」ボーゼン

工廠妖精A(まあ、これだけ見せつけられれば当然ですかな……)ハァ

工廠妖精A「よいしょっと」グイッ

工廠妖精B「」ズルズル

【飲み屋】

整備兵(それで、どうしてこんなことになっ……)

白雪「」ゴクゴクゴク

白雪「ぷはぁっ!……どーしたんですか、せーびへーさん。お酒が全然減ってませんよ!」ゴトッ

整備兵「おい……もう、そのくらいにしておいた方が……」

白雪「何言ってるんれすか!私のお酒が、飲めないとでも言うんれすか!」カオマッカ

整備兵「別に、そういうわけじゃないが……」

整備兵(店に来て、食事だけでなく酒もあると知ったときに止めるべきだったか……まさか、白雪がこんなに弱いとは)

整備兵(それによく考えたら、白雪の服は一般人から見ればただのセーラー服だ。その姿でこんな目立つような酔い方をしているんだから……)

店主「」ジロジロ

客「」ヒソヒソ

整備兵(……あらぬ誤解を大量に生み出している気がするぞ)

白雪「大体ですね……整備兵さんは、酷い人なんです!薄情者です!」バンッ

整備兵「お、俺がか……!?」

白雪「そーです!私は今までずーっと整備兵さんと一緒に働いてきたのに、この頃は何だかよそよそしいから!」

整備兵「え?まさか、そんなことは……」

白雪「あるんです!最近は明石さんとばっかり一緒にいますし!私が修理に誘ってもすぐ断っちゃいますし!」

整備兵「う、それは……」

白雪「だから酷いんですよ!私はこんなに楽しみにしてるのに、整備兵さんは……」ブツブツ

整備兵(そんなに作業を楽しんでいてくれたのか……こういう状況では呑気な感想だけど、そのことは嬉しい)

整備兵「ご、ごめんな。明石が寄越日へ戻ったら、また前みたいに……」

白雪「それじゃダメなんれすっ!」ガタッ

整備兵「」ビクッ

白雪「整備兵さんは、私よりも明石さんの方が大事なんですか!私よりも明石さんの方が好きだから、そーやって私に我慢させるんですか!」

整備兵「すっ……好き!?いや、そ、そういう問題じゃないだろ?」アセアセ

整備兵(おい……まさか、俺と明石がそういう関係だと疑ってるのか!?その誤解は、俺と明石両方のために何としても解かないと……!)

白雪「そーいう問題なんです!私があんまり機械のことも知らなくてちんちくりんだから、整備兵さんは私に意地悪するんです!」

整備兵「ち、ちんちくりん……」

白雪「私は整備兵さんと一緒にいたいだけなのに、整備兵さんは、整備兵さんは……」グスン

整備兵「泣くなよ白雪……っ!?ま、待て待て。一緒にいたいだけって、その言い方はちょっと勘違いの原因になるというか……」

整備兵(まるで、白雪が俺のことを……何だ、す、好きみたいな)

白雪「かんちがいじゃありませんっ」ポロポロ

整備兵「勘違いじゃない……!?」

整備兵(う、嘘だろ?そんな、ベタな映画みたいなことが起こるわけ……)

白雪「言っておきますけど、わたしは明石さんに嫉妬してるんれす……うぅっ、ぐすっ……だからっ」

整備兵「嫉妬って、それじゃ……」ドキッ

整備兵(もう、言ったも同然じゃないか……!?こ、このまま言わせて良いのか?早く、何か俺に今言えることは……!)

白雪「わたしは、整備兵さんの、ことが――」ズイッ

整備兵「し、しらゆ――」

パタリ

整備兵「……あ、れ?」

白雪「すぅ……すぅ……」コテン

整備兵「……はぁ」グッタリ

整備兵(寝た、のか……)

店主「……お客さん。その女の子、潰れたんならさっさとおぶるか何かして持って帰ってほしいんだけど」ジロリ

整備兵「す、すいません!すぐ帰りますんで!本当に、ご迷惑おかけしました!」ペコペコ

店主「まあ、良い見世物にはなったからそれで帳消しにしといてやるよ」

整備兵「へ……?」

客「」パチパチ

イヤーオモシロカッタゼー

ソノオジョウチャンサイノウアルワー

ナンノサイノウダヨーハハハ

整備兵「……っ!///」カーッ

ガラッ

店主「ほら、これ女の子のカバン」

整備兵「本当に、本当にすみません……手がふさがってるので、首にかけてください」

店主「ほい。あんたらはね、来る店を間違えてるんだよ。あんた達みたいなのはあっちの建物の管轄さ」

整備兵「あっち……?」クルッ

整備兵(なになに、HOTEL……)

整備兵「って、店主さん、冗談きついですよ……!」アセアセ

店主「へっへっへ。弄りがいのある兄ちゃんだ。ま、これに懲りたら、酒と女には気を付けるこった」

ピシャッ

整備兵「はぁ……やってしまった。もうとてもこの店には来れない」ポツン

整備兵「……」チラッ

『HOTEL NIGHTFALL』

整備兵「……」ゴクリ

整備兵(……おい、どうして唾飲んだ)ガンッ

整備兵「痛っ」

整備兵(うん、俺までおかしくなったら終わりだよな。とりあえず、あと何回か壁に頭ぶつけて落ち着こう……)ガンガン

【港】

整備兵「……」スタスタ

整備兵(白雪をおぶって歩くのも、これで二度目か……)

白雪「……ぅぅ」

整備兵(この前は何も考えずただ走っただけだったが……今は違う)


白雪『わたしは、整備兵さんの、ことが――』


整備兵(俺はああ言われて、その先に何を予想していたんだ?そしてその予想が実現した場合、断りたいと思っていたのか?)

整備兵(白雪は良い子か?そうだ。優秀な補佐官か?そうだ。気の合う仲間か?そうだ。……何だ、俺は白雪のことを全然嫌っていないじゃないか)

整備兵(しかしだからと言ってそれは……そういう意味での好きになるのか?いや、そんなに厳密に考える方がおかしいのか……?)

整備兵(そして、もしもそうなるとして、それならみんな幸せになれるのか?見た目関連の俗な話を除いても、白雪は艦娘で俺は軍人なわけだ。他にも艦娘はいるし、提督も……)

整備兵「……はぁ。やっぱり、何でもかんでも考えすぎか?」

整備兵(でも、とにかく何事も考えないよりはマシじゃないか。思考あっての行動……整備と同じだ)

白雪「せいびへいさん……」ギュッ

整備兵「!」ビクッ

整備兵(……い、今はあまり考え事に適した時間じゃないな)バクバク

漣「あれ、整備兵さんじゃないですか?」オーイ

龍驤「ホンマや。もう少し遅いかと思ったんやけど。白雪はどこに……あ、おぶわれとるんか」

漣「どうしたんでしょうか……?」

龍驤「十中八九潰れとるんやろ。平気や平気、風呂入ればすぐ治るわ。艦娘舐めたらアカンで」ケラケラ

龍驤「――整備兵はーん!白雪、そんなに酒弱かったんかー?」フリフリ

整備兵「……ああ、そうだよ!おかげでこの有様だー!」ゲッソリ



整備兵「――漣、龍驤。ただいま」スタスタ

漣「白雪ちゃん、大丈夫ですか?……うっ、お酒の匂いすごいですね」

整備兵「ああ。今は寝てるだけだ。心配なのは二日酔いか……いや、艦娘は二日酔いとかしないのか?」

龍驤「寝てる白雪に変なことしてへんか?」ニヤニヤ

漣「へっ……!」ドキドキ

整備兵「してねえ!……ところで龍驤、やっぱり今回の件もお前が一枚噛んでるな?」ジロッ

龍驤「さあ?どうしてそう思うんや?」

整備兵「さっき俺に手を振りながら言っただろ、『酒弱かったんか』って。でも、俺も白雪もみんなには夕飯に行くとしか言ってないはずだ。酒を飲むことを龍驤が知っているはずが無い」

龍驤「……」

整備兵「それなのに、酒の匂いも届かないくらい離れていて、しかも俺の陰になってよく見えない白雪の状態を当てて見せた。疲れたとか怪我をしたとか、他にも考えられる理由があるのにだ」

漣「……」チラッ

龍驤「……うん、合ってるわ。ええ推理やった。実は今回の件、ウチと漣の全面後援や」

整備兵「やっぱりか……それで、理由は何だ?」ハァ

漣「最初にそれを聞かれると、漣も龍驤さんも思ってました。……白雪ちゃんの、恋愛相談ですよ」シレッ

整備兵「……!?」

龍驤「白雪の気持ちの整理を手伝って、その後チャンス作りを手伝ってあげたんや。……ま、流石に今日のことは詮索したりせえへんから安心してええで」

整備兵「な……」

龍驤「せやけど、もしも今日『何かあった』んやったら……せいぜい慎重かつ大胆に動くんやで。ウチの言いたいことはそれだけや」ヒラヒラ

漣「結局、白雪ちゃんの話をちゃんと聞いてあげてほしいってことですよ」ウンウン

整備兵「ま……まさか龍驤、この話に持っていくために、わざとさっき隙を見せて……!」ハッ

龍驤「……縁の下から支えるんやったら、力やなくて頭も使わへんとアカンのや」ニヤリ

漣「それでは、白雪ちゃんは漣たちが宿舎まで送りますから♪」ヨイショッ

龍驤「整備兵はんも、もう帰ってええで。どうせ今夜は白雪も目を覚まさへんやろうし。最低限のフォローはウチらでしとくわ」ヨッコイショ

スタスタ

整備兵「え、お、おい……」ポツーン

龍驤「寝てるやつっちゅうのは結構重いもんやな。ウチは軽空母やから、馬力には自信あらへんで……」スタスタ

漣「やっぱり、漣がおぶりましょうか?」

龍驤「ええってええって。宿舎に着いてからは同室の漣に任せるわけやし。それに、元はといえば呑ませる案を出したのもウチや」

漣「まあ、確かにこれはちょっとやり過ぎだと思いますけど」ジトー

漣「……でも、どうだったんでしょう?白雪ちゃん、少しは本心を伝えられたんでしょうか?」

龍驤「ウチの観察眼はそう言ってるで。大きく状況が動いたのは確実や。さっきの整備兵はん、明らかに動揺して……」

白雪「……ん、ぅ」モゾモゾ

漣「白雪ちゃん、目、覚ましたんじゃないですか?」

龍驤「え?ああ、これは違うやろ。夢うつつなだけではっきりとは……」

白雪「りゅうじょう……さん、そんなに心配しなくても……」ボソボソ

龍驤(何の話やろ。寝言やろか)

漣「何か言ってます……?」

白雪「またせいびへいさんと、本をよんであげて……ください……」ブツブツ

龍驤(……!)

龍驤「何やて?」

白雪「すぅ、すぅ……」

漣「今、白雪ちゃんが何か言いませんでしたか?」クビカシゲ

龍驤「……ウチもよく聞こえへんかったけど、寝言やな」

漣「そうですかー……ふわぁ」ノビー

龍驤(万事上手いことやったはずが、まさか本人に気を遣われるとは思わへんかったわ)

龍驤(……油断大敵、これは縁の下失格やなぁ)ニヤッ

本日はここまで。遅れてしまった分、少し長めの更新になりました。
真面目な女の子を酔わせたら振り回される話は好きです。
次回は土曜日までにやります。

【数日後】
【資料室】

龍驤「そういえば、明石はんが昨日の夜帰ったんやって?」パラパラ

整備兵「ああ。妖精の調査についてはもちろんだが、開発関連でも色々と情報が得られたよ」ペラリ

龍驤「これでようやく、白雪に平穏が訪れるんやな」

整備兵「やめてくれ……第一、白雪はあのときのことを覚えてないんだ」

龍驤「残念やったなー……。覚えてれば、また楽しめたんやけど」ケタケタ

整備兵「おい」

龍驤「冗談や冗談、半分くらいは。にしても整備兵はん、白雪が忘れてるとは言うても、明石はんが帰った途端またこんなところにウチと二人っきりで居てええんか?」ニヤッ

整備兵「もちろんそのくらいの考えは働くよ。龍驤には悪いが、俺だって色々理由を付けて控えようとした。……しかしその白雪本人が、龍驤との読書会は有意義だからどうしても続けろって言うもんだからさ」

龍驤「はぁ……?」

整備兵「そう言われたら、何とも言い返せないじゃないか。白雪のために控えるって言ったって、白雪が何も覚えていなかったら……」

龍驤「そらそうやけど……」

龍驤(不自然やな……白雪が整備兵はんを好きなんは変わっとらんはずやし。白雪の目的は何なんやろか)クビカシゲ

龍驤(……もし、単にウチが嫉妬の対象になる女として見られとらんっちゅうことやったら、悲しいわ)ハァ

【工廠】

整備兵「……」カーンカーン

工廠長「おう若造、スランプは脱したか?」

整備兵「スランプ?」

工廠長「最近、整備の調子が出なかったみたいじゃねェか」

整備兵「その話か……何か、いつの間にか治ったみたいだ。というか、スランプとは言っても短い間だけどな」カチャカチャ

整備兵(明石が来てしばらく経った頃に始まって、今日は嘘のように綺麗さっぱり治っているから……数日間といったところか。整備を始めてすぐの頃のスランプよりも短いな)

工廠長「まァ、若い奴にはそういうムラが付き物だ。たるまず励むんだな」バシッ

整備兵「いてっ。……了解しました、だ」

白雪「整備兵さん、装備の開発が終わりました」スタスタ

整備兵「ありがとう、白雪」

整備兵(白雪と夕飯を食べに行った次の日、目を覚ました白雪は前日の夜のことをすっかり忘れていた。酔い潰れるとそういうことも起こるらしい)

白雪「ところで、開発自体は成功したんですが少し問題が……」

整備兵(ともかくその結果、白雪は以前と変わらない様子で俺に接している)

白雪「ようやく、全空母の戦闘機を紫電改二へ更新できました。ですがそのことで、旧式の零戦が大量に余ってしまい倉庫を圧迫していて……」

整備兵(しかし一応、俺は白雪の本音……のようなものを聞いてしまったわけだ。今は何となく俺の方も普段通りの態度を装ってしまっているが、このまま状況を放置するのは良くないんじゃないか……とは思う)

白雪「……整備兵さん、聞いてますか?」ジトー

整備兵「え、ああ、もちろん聞いてるぞ」アセアセ

整備兵「倉庫が圧迫、倉庫が圧迫……とりあえず、一世代前の五二型は工廠で保管しよう。使う必要が出てくるかもしれない。二世代前の二一型は……将来的には廃棄だけど、具体的な日を決めるまで別のところに置ければ良いんだが」

白雪「工廠以外の場所で、邪魔にならなくて、廃棄するときにすぐ取り出せる場所ですか……」ウーン

整備兵「執務室で良いかな。いつも誰かしらがいるし、言っちゃ悪いけど無駄に広い。俺が提督に頼んでおくよ」

白雪「ありがとうございます」ニコ

整備兵「……」ドキ

白雪「どうかしましたか?」キョトン

整備兵「……何でもない」

【翌朝】
【提督執務室】

整備兵「休暇……」

白雪「……ですか?」

提督「そうだ。鎮守府では全員に一定の休暇を与えている。二人も着任してから日が経ったので、休暇を与えるということだ」

整備兵「何日間だ?」

提督「最初だからな。それぞれ一日ずつだ」

整備兵「み、短いな……」

白雪「いつが休暇になるんですか?」

提督「それは自由に決めてもらって構わない。連絡をしてくれれば、こちらで出来る限り予定を合わせる。休暇中は普段と違って、鎮守府外へ出ることも可能だ」

整備兵(自分で決めた日に休暇兼外出許可……有給休暇みたいな扱いか?)

提督「……まあ予定を合わせるとは言っても、それは白雪だけだ。整備兵の労働計画は俺でなく工廠の方で決めているから、休暇が欲しくなったらそっちに直談判するんだな」

整備兵「工廠長にか……」ズーン

整備兵(あまり予定を合わせてなんてくれなさそうだ。一日分休暇があるとはいえ、本当に丸一日休めるとは思わない方が良いな……)

【港】

整備兵(休暇か……取ったとしても、することなんて……)スタスタ

漣「お客さんお客さん」モノカゲ

龍驤「良い情報があるで?」テマネキ

整備兵「……二人とも、そんなところで何やってるんだ」

漣「ですから、有用な情報があるって言ってるじゃないですか」

整備兵「有用な……って、何だ?」

龍驤「ウチらも早いとこ訓練に行かなアカンから、手短にいくで。……整備兵はん、休暇もらったやろ」

整備兵「まあな」

漣「ということは、着任日が同じですから白雪ちゃんももらいましたよね」

整備兵「そうだが……」

龍驤「そして整備兵はんは今、休暇の使い道がいまいち無くて困ってる。そうやろ?」

整備兵「あ、ああ……」

漣「そこで漣たちから、ぴったりの使い道の提案です」

龍驤「ずばり、これや」ピラッ

整備兵「えーと……地元の夏祭りのビラか。俺は、祭りにはそんなに……」

漣「あーもう、じれったいですね……」イライラ

龍驤「絶好の機会やと思わへん?」

整備兵「何のだ?」

龍驤「……白雪を連れ出す機会、や」

整備兵「……!」

漣「忘れたとは言わせませんよ、この前のこと。……何があったかは分かりませんけど、いくら白雪ちゃんが覚えていなくても整備兵さんは覚えているはずなんですから」

龍驤「結局整備兵はんは、そのとき白雪と納得いくまで話が出来たんか?」

整備兵「……」

龍驤「ま、今の様子を見るとそうやろなぁ……でも、このままうやむやに出来る話でもあらへんし、時間が経てば経つほど話しづらくなるやろ。早いところ、二人で真正面から話した方がええんとちゃうか?」

整備兵「真正面から……か」

漣「……でないと、白雪ちゃんに誠実じゃないと思いますヨ」プイ

整備兵「……」

龍驤「整備兵はんが思うことを、そのまま話せばええんや。……これは白雪にも言ったようなことなんやけど」

整備兵「……分かった。漣、龍驤、ありがとう。このビラもらって良いか?」

龍驤「もちろんや。ちなみにこの祭り、今夜やで」

整備兵「今夜!?……い、いや、大丈夫。今からでも間に合うはずだ」

漣「その意気です」

整備兵「それじゃ、訓練頑張れよ。俺も工廠に急がないと」ダッ

タッタッタッ……

漣「ふぅ。ありがとうございました」

龍驤「ええって。……でも、流石にここまで世話を焼く必要があるんやろか?漣がどうしてもっちゅうから手伝ったけど……」

漣「漣が、あの二人はこのままじゃもったいないと思ったので」

龍驤「……ほーん」

【夜】
【宿舎前】

整備兵「」ジリジリ

整備兵「」ウロウロ

白雪「す、すみません。待ちましたか……?」

整備兵「しっ白雪!いや、待ってないぞ。今来たところだ……って、それは……!」ドキ

白雪「あの、漣ちゃんが貸してくれた浴衣、着てみたんです。私は、わざわざ着なくても良いよって言ったんですけど……」モジモジ

整備兵(白地に、薄い水色と紫色の紫陽花が控えめにあしらわれたシンプルな浴衣だ。白雪の雰囲気にとても合っている)ジー

白雪「どう、ですか……?」ファサ

フワリ

整備兵(首元がはだけてうなじが……髪も、さらさらだな……)ボー

白雪「……?」

整備兵「え?あ、ああ、似合ってると思うぞ……凄く」メソラシ

白雪「良かったです……///」ウツムキ

整備兵「そ、それじゃあ早速行くか。休みとはいえ、あまり帰りが遅くなるとまずいし」

白雪「は、はいっ」

【祭り会場】

ワイワイ

白雪「たくさん人がいますね……」キョロキョロ

整備兵「まあ、今のご時世こういう催しは少ないからな。たまの祭りに皆集まるんだろう」スタスタ

整備兵(祭りの屋台には、不足している金属やら電気やらを使うものが少ない。大体が火か人力でできるものだから、全く開けなくなるということは無いみたいだ)

整備兵(規模は以前より小さくなったとはいえ、こういう祭りは全国で細々と続けられているらしい。人間は、やっぱり娯楽が無いと生きていけないのだと思う)

整備兵(もちろん沿岸の地域には、深海棲艦を引き寄せる可能性があるとして今も厳しい灯火管制が敷かれている。こういうことができるのはある程度内陸の場所だけだ)

白雪「……でも、どうして急にお祭りに誘ってくれたんですか?」

整備兵「ええと、だな……白雪に見せてあげたかったんだ。お祭りをさ。白雪はまだ鎮守府から出たこと自体が一回しか無いわけだし」

整備兵(まだ焦ることは無い。まずはゆっくり、白雪と祭りを楽しめば良いんだ……)

白雪「確かに、道がこんなに人で埋まっているのは初めて見ました……」

整備兵「そうだろ?こういう祭りができるのも、白雪達が頑張ってくれてるおかげだ」

白雪「整備兵さんや提督さんも、です」ニコ

整備兵「ははっ、照れるな……」

ガヤガヤ

整備兵(また一段と人が増えてきたな……)

整備兵「白雪、混んできたけど大丈夫か?」

白雪「大丈夫だと思います……でも、少し声が聞き取りづらくて」

ワイワイガヤガヤ

整備兵(確かに良く聞こえなくなってきたし、歩きづらい。白雪は慣れない服装だし心配……)ハッ

整備兵(こういうときこそ、ちゃんとリードしてあげるのが俺の仕事じゃないのか?)

整備兵(しかし……いや、躊躇うのはやめよう。まず行動、行動だ……)スーハー

ギュッ

白雪「」ビクッ

白雪「せ、整備兵さん……!て、手が……!?」ワタワタ

整備兵「い、今だけ、はぐれないように繋いでおこう。心配だ」メソラシ

白雪「わわ、分かりました……」ギュッ

白雪「……///」プシュー

【射的屋】

整備兵「うーん……」ジッ

整備兵「」パンッ

スカッ

整備兵(ダメだ。まるで当たらない。軍人とはいえ、整備兵は小銃の扱いも最低限しか習わないからな……)

白雪「適切な姿勢、適切な操作、適切な思考……呼吸を殺し、ぶれを殺し、迷いを殺す……弾が相手を撃ち抜く様子を、目の前の光景に投影する……」スッ

白雪「」パァン

スコーン

店主「ひぇっ……一等だ。お嬢ちゃん何者だい?」ビクビク

整備兵「上手い……流石、訓練してるだけあるな」

整備兵(言ってることが怖かったけど)

白雪「はい。毎日、神通さんに教えてもらっていますから♪」ニコニコ

客「笑ってやがる……ありゃ、もう何人か殺った奴の目だぜ……」ヒソヒソ

客「ああ、間違いねえな……」ヒソヒソ

白雪「そ、そんな……」ガーン

整備兵(今のはそう見えても仕方ないだろうな……)

【金魚すくい屋】

金魚「」ビチビチ

整備兵「ほいっ」ポイ

白雪「……」スッ

金魚「」ビチィ!

白雪「あ、また破れちゃった……」ショボン

整備兵「ほいっ、ほいっ、ほいっ……」ポイポイ

白雪「す、すごい……。どうしてそんなに取れるんですか……!?」

整備兵「ポイは構造的に、強度があるところとないところがあるんだ。強い部分に金魚を乗せれば、そうそう破れない」

白雪「やっぱり、手先が器用なんですね」

整備兵「ま、まあそうかもな。仕事柄、必要なことだよ」ハハハ

店主「それ、全部持って帰りますか……?」ビクビク

整備兵「い、いえ!流石にそんなことは!」ブンブン

店主「ほっ……」

【食べ物屋】

整備兵「ほら、何でも食べたいもの選んで良いぞ?」

整備兵(この言葉、一度言ってみたかったんだよなぁ……)ホロリ

白雪「で、でしたら、あれを……」

整備兵「チョコバナナか。……おやじさん、チョコバナナ一つ!」

店主「あいよー」スッ

白雪「ありがとうございます。……バナナの周りに、こんなにチョコが付いてるんですね。贅沢です」クルクル

整備兵「間宮さんもチョコバナナは作らないもんな。しかし、バナナなんて特に贅沢品なのに……おやじさん、このバナナ、どこのです?」

店主「南西諸島産だよ。貨物船の定期便が運行を再開してくれたから、仕入れられたんだぜ」

整備兵「それは嬉しい話ですね……あ、焼きそばください」

店主「ほい」スッ

整備兵(こうして、俺達の仕事が国民のためになっている。そういう意味でも、整備兵になって良かったな……)クルッ

白雪「これ、結構……外のチョコだけ食べてもおいしいですね……」ペロペロ

整備兵「ぶっ」ゲホゲホ

白雪「?」ハムハム

整備兵「何でもない、何でも。おいしいなら良かった。間宮さんに教えてあげたら、お菓子作りの参考にしてくれるかもしれないぞ」アセアセ

整備兵(浴衣姿を見たときと言い今と言い、そういう思考に走り過ぎだ!大人としてどうなんだそれは!)ガツガツ

整備兵「……」チラッ

白雪「ごちそうさまでした。街には、こんなにおいしいものがあったんですね!」キラキラ

整備兵「気に入ったみたいで良かった。ちょっと待ってくれ、俺もすぐ食べ終わるから……ん?白雪、チョコ付いてるぞ?」

白雪「えっ、どこですか?」

整備兵「鼻の横の辺りだ。そっち側じゃなくて、ここだ」サッ

白雪「あ……///」

整備兵(と、とっさに拭ってしまった……!)ハッ

白雪「ありがとうご、ございますっ!///」ペコペコ

ポトッ

整備兵「し、白雪!串落としたぞ!」

白雪「す、すみません……!」ヒロイヒロイ

白雪「……あっ。整備兵さんも頬にソースが……」

整備兵「うわ、本当か?」ゴシゴシ

白雪「反対ですよ」セノビ

キュッ

白雪「はい、取れました。……って、あれ……!?」ハッ

ポトッ

白雪「整備兵さん、は、箸がっ!」ワタワタ

【土産物屋】

整備兵「土産物屋……ちょっと見て行くか」

白雪「わー……」キラキラ

整備兵(すっかり夢中だな……ちょっと自由に見せてあげるか)

整備兵「この並びは全部土産の露店だ。しばらく別れて回ってみるか?」

白雪「はい!」ニコニコ

白雪(……色々なものがあるんだなぁ)トコトコ

店主「はい御守り!御守りはいらんかねー!」

白雪(御守り……ここ、神社じゃないよね……?)

店主「お嬢ちゃん、御守りに興味あるのかい?」

白雪「いえ、神社以外に御守りがあるとは思わなくて……」アセアセ

店主「ここの御守りは別に霊験あらたかってわけじゃないからね。もう少し娯楽向きの御守りよ」

白雪「どんな御守りがあるんですか?」

店主「何でもあるよ。健康、勉学、交通安全は当たり前、鳥のフンが落ちてこない御守りに、タンスの角に小指をぶつけない御守り……ま、可愛いお嬢ちゃんに一番関係ありそうなのは恋愛かな?」ニヤッ

白雪「れ、恋愛……///」カーッ

白雪(どうしよう、か、買っちゃおうか、な……)

店主「」ニヤニヤ

白雪「……えっ、遠慮します!かわりに、これ二つお願いします!」

店主「え、これで良いのかい?本当に?」

白雪「良いんです!」

整備兵「何か、良いものは見つかったか?俺はいまいち欲しいものが無かったよ」

白雪「御守りを買いました。整備兵さんの分は……これです」

整備兵「開けても良いか?」

白雪「……は、はい」

整備兵「ふむふむ……『武運長久』か。ちょっと違うかもしれないけど、確かに俺向きだな。白雪の分は?」

白雪「私も同じもの……です」

整備兵「はははっ、白雪はやっぱり真面目だな。もっとふざけたやつを買っても良いのに」

白雪「わ、笑わないでください!私は本当に、整備兵さんの無事を祈ってこの御守りを買ったんですから!」プクー

整備兵「ごめんごめん。ありがとな、白雪。もちろん俺だって、白雪の無事を祈ってるよ」

【港】

白雪「今日は楽しかったです。……あっという間のお祭りでした」

整備兵「俺も同じだよ。白雪は初めての祭りが楽しめたし、俺も何年ぶりかの祭りを堪能できた。短かったけど、良い休暇だった」ニコ

整備兵「……あのさ、白雪」

白雪「何でしょう……?」

整備兵「まだ門限まで時間があるから、そこの岸壁にでも座って少し話さないか?」

白雪「……はい」

ザザーン ザザーン

整備兵(もう、夜風が少し冷たい季節になってきたな)

整備兵「……」スーハー

白雪「……」

整備兵(……よし)グッ

整備兵「白雪は覚えてないだろうけど……この前、俺と夕飯を食べに行った日、俺と白雪は結構大きい話をしたんだ」

白雪「……」

整備兵「そこでした話の内容は、わざわざ改めて説明する必要は無いんだけど……まあ、白雪が説明してほしければするよ。とにかく、大事な話だったんだ」

白雪「……」

整備兵「そ、それでだ、どうして説明する必要が無いかと言うと、これから俺がする話を聞いてもらえばその内容もほとんど分かるからなんだ」

白雪「……」

整備兵「で、その話の方が重要で……つまり、俺はこの鎮守府に来てからずっと白雪と一緒に働いてきたわけだけど、仕事でもそれ以外でも、白雪と何かしてるときはいつも楽しくてさ」

白雪「……」

整備兵「どうしてなのか考えて思ったのは、やっぱり白雪だからだってことだけだった」

白雪「……」

整備兵「結局言いたいことは、俺は、その……だな、つまり、白雪の、」

白雪「……すみません」

整備兵「」エッ

整備兵(すみません……すみません?すみませんだって?すみませんってつまり、こういう場合、お断りですって意味だよな?と、ということは……)

白雪「すみません、実は……一緒にご飯を食べた夜のこと、覚えてるんです」ボソボソ

整備兵「……え、は!?……ええっ!?」クルッ

白雪「覚えていることが知られたら、恥ずかしくて顔も見られなくなりそうで……嘘をついてしまったんです。すみません」

整備兵「覚えてるって……ぜ、全部か?」

白雪「……はい、全部です」

整備兵(そ、そうなると、色々と話が違って……)


白雪『……うぅっ、ぐすっ……だからっ』

白雪『かんちがいじゃありませんっ』

白雪『わたしは、整備兵さんの、ことが――』

白雪「――整備兵さん」

整備兵「な、何だ?」

白雪「さっきみたいに、また手を繋いでくれませんか……?」

整備兵「……」

ギュッ

整備兵「……白雪の手、小さいな」

白雪「整備兵さんの手は大きいです」ニコ

整備兵「……」

白雪「……」

整備兵(結局、用意してきた告白の台詞は言わずじまいになりそうだ)

白雪「……もう少し、近くへ行っても良いですか?」

整備兵「……ああ」

…………

……………………

………………………………

ザザーン ザザーン

【宿舎前】

整備兵「それじゃ、おやすみ。白雪」

白雪「はい。整備兵さんも、ちゃんと休んでくださいね」ニコ

スタスタ……

整備兵(ふぅ……。すっかり遅くなっちゃったな。さっさと俺も部屋に……)

??「」フワフワ

整備兵(何だあれ?海の方を、何かが飛んでる?光の球みたいな……)

??「」キョロキョロ

整備兵(妖精?いや、あのねじり鉢巻きは見覚えがある。あれは……)

女神「」フワフワ

整備兵(女神じゃないか。何やってるんだ?)

女神「」フワー

整備兵(動き始めたぞ……追ってみるか)ダッ

整備兵(ここどこだ……?海岸だが、足元がコンクリートじゃなく砂だ。多分、鎮守府の敷地外には出ているだろう)ゼエゼエ

女神「」フワー

整備兵(おいおい……沖の方へ行くのか?)

女神「」ピタッ

整備兵(止まった……しかし、あんな海の真上で止まられちゃ近づけないぞ)キョロキョロ

整備兵(……お!あそこはちょうど良く陸地が突き出してるな。あの先まで走って……)ダダダッ

整備兵(よし。ここからなら様子が分かるな)

女神「聞こえ……ますか……」

整備兵(海に向かって、話しかけている……?)

女神「天城さん……大淀さん……」

整備兵(誰だ……?人の名前じゃないよな……いや、待てよ。どこかで聞いたことがあるような……)

女神「……状況は、私がご説明します。同胞のため……ご一緒に……」

整備兵(説明?ご一緒?ただの海に向かって……っ!?)

ピカッ

整備兵「……うわっ!」

整備兵「な、何だ今の光……って、あれ?」

整備兵(女神も……誰もいない)

整備兵(……とにかく、今は早く鎮守府に帰らないと。また海沿いに戻れば帰れるはずだ)ダッ

本日はここまで。お話は中盤戦が終了、ここから終盤戦に入ります。
しばらくは空き時間を全て秋刀魚漁につぎ込まなければならないので、次回は未定です。

秋刀魚の砂糖漬けのようだ

>>877
字面がツボにハマって笑いました。……もし本当にある料理でしたらすみません。

【翌日】
【食堂】

漣「おはようございますー……って、あれ?何だか食堂が空いてる?」

整備兵「実際空いてるんだよ」ノビー

白雪「外洋艦隊のみんなは昨晩の間に、もうミッドウェーへ出発しちゃったから……」

漣「あっ、そうだった」ポン

白雪「お見送り、ちゃんとしておくべきだったよね……」

整備兵「……それは同感だ」

龍驤「ま、別に大丈夫やろ。もともとウチらも、見送りはそんなに大々的にやってへんから。白雪達は、帰ってきた後でばっちり出迎えてやればええんや」モグモグ

白雪「そう言ってもらえるとありがたいです……」

龍驤「にしても、戦争の趨勢を賭けた決戦やっちゅうのに、ウチら内洋艦隊はまた留守番やったなぁ」フン

漣「名前に『内洋』って付いてますし、そういうものなんじゃないですか?」

龍驤「ウチはそうは思わんで。主力艦隊に参加してバーンと戦果上げるんが、全艦娘共通の花道やろ。漣もこの鎮守府で最高クラスの錬度の持ち主やっちゅうのに、それを生かしたくないんか?」

漣「いやいや、漣は単に着任してから長いだけですって。それに、ご主人さまにも何か考えがあっての艦隊編成でしょうし……」

龍驤「あー、忘れとったけど、漣は提督はんに甘いんやった。こんなん話にならへんわ」ニヤニヤ

漣「なっ……そういうことじゃないですよっ!」バンッ

鳳翔「ですが龍驤さん、私たちは提督から鎮守府の防衛という重要な職務を預かっていますよ。まずはそれを……」

龍驤「そんなん代わりにならへんのや。第一、鎮守府が襲撃されること自体、今まで一度もあらへんかったやろ……」ブツブツ

鳳翔「……つまり、暇ということですか。それでは、私と訓練でも……?」ニコ

龍驤「ひっ……そ、そういうのとも違うわ!」

提督「聞こえているぞ、龍驤」ガチャッ

漣「おはようございます、ご主人さま!」ピョン

龍驤「提督はん、ウチらは今回も居残りかいな。今度の作戦は規模が大きいっちゅうから期待してたんやで?」ムスー

提督「居残りではなく戦略予備だ……」

整備兵「内洋艦隊を残したのは、やっぱり提督の意思か?」ヒソヒソ

提督「……そうだ。やはり寄越日だけに本土を任せることは出来ない。外洋艦隊のみで十分な戦果を上げることと引き換えに、編成の変更を引き出した。恐らくは全て杞憂に終わるだろうが、外洋艦隊が十分な戦果を上げることはそれ以上に確実だ。結局俺にお咎めが来ることは有り得ない」ニヤリ

整備兵「は、はぁ……」

整備兵(……その訳の分からない自信と心強さは一体どこから出てくるんだ)

提督「まあ龍驤、悪いがこらえろ。確かにこの戦いは一つの決戦だが、この戦争自体の終わりは未だに全く見えない。戦う機会ならこれから、嫌でもいくらでも手に入る……皮肉なことにな」

龍驤「嫌でも、ねぇ……それは恐ろしい話やな。……ま、それなら今回のところは我慢しとくわ」ニヤッ

白雪「ところで整備兵さん、そろそろ工廠に行く時間では……?」ヒソヒソ

整備兵「ん、そうだな。それじゃあさっさと片付けて……いや」

白雪「何か別の用があるんですか?」

整備兵「調べ物をしに少し資料室に行って……あと、いくつか行きたい場所が増えるかもしれない。悪いけど、その間はいつも通り装備開発を進めておいてくれないか?」

白雪「そうですか……分かりました」

龍驤「今日は、別にウチは資料室に行かへん。何か怪しいことしようとしてるようにも見えへんから、安心してええで」ニヤッ

整備兵「怪しいことって何だよ」

龍驤「うーん、浮気とかやない?」ボソッ

白雪「う、浮気って……」

整備兵「……ま、待て。どういう意味だ?」ゲホゲホ

龍驤「だって二人は、付き合っ……」

整備兵・白雪「わーっ!!」

提督「……?何だ、騒々しい」

鳳翔「あら……ふふっ」

整備兵「おい龍驤っ!どうやってそれを……!」ヒソヒソ

龍驤「とある信頼できる情報筋から、重大な証言が取れてるんや。昨日の夜遅くに帰ってきたお二人さんが、宿舎の前で何やら親密な様子を……」ヒソヒソ

白雪「まさか、その情報筋って……!」クルッ

漣「(*⌒∇⌒*)テヘッ」

白雪「さ、漣ちゃんっ!///」

漣「いやー……ごめんごめん。でも、一応漣たちだって関係者だし?もう何となく分かってたし?」

白雪「そういう問題じゃないよ!」

整備兵「……ほ、ほら、もう行こう白雪。時間過ぎてるぞ」ガタッ

白雪「は、はいっ」バタバタ

バタン

提督「何だ、工廠組はもう出勤か。俺も、さっさと食べて執務室に戻るとしよう……間宮」

間宮「はい♪」ガラガラ

龍驤「カマ掛けたら見事に引っかかってくれたわ。……これにて作戦完遂や。漣、今までよく頑張ったで!」バシバシ

漣「あ、あはは……」チラリ

提督「……」パクパク

漣「……さ、龍驤さん。漣たちもそろそろ食器片付けません?」

整備兵「まさか見られていたとは……」ドヨーン

白雪「……漣ちゃんは、もう眠っていたと思ったんですが」ズーン

整備兵「でも、いずれ知られることだし仕方ない……。それじゃ、俺は資料室だからあっちに……」

白雪「ま、待ってください」

整備兵「えっ?」クルッ

白雪「」グイッ

チュッ

白雪「……」パッ

整備兵「し、白雪っ!?」

整備兵(唇に、白雪、の……)

白雪「整備兵さんが私を置いて調べ物に行ってしまうので、そ、その罰です……///」ウツムキ

整備兵「ば、罰……」バクバク

白雪「……き、昨日もしたんですから、そんなに驚かないでください」ドキドキ

整備兵「昨日もしっ……そ、その言い方は何かまずいからやめろ!///」

白雪「……そっ、それでは、頑張ってください」プイ

スタスタ

整備兵「あ、ああ……」

整備兵(何だか俺と白雪は、付き合い始めても前とあまり変わっていないような気がする……)

白雪「」クルッ

整備兵「?」

白雪「……あの、なるべく早く終わらせてくださいね」モジモジ

整備兵(……いや。それでも少しづつ、変われてはいるのかな)

整備兵「ああ、そうするよ」ニコ

【資料室】

整備兵「艦艇型録、艦艇型録……実艦の方はあるか……?」キョロキョロ

整備兵(調べ物というのは、昨日の夜遅くに見た女神についてのことだ)

整備兵(何をしていたかは分からないが、正体の分からない相手と話したり突然消えたり、普通の様子でなかったのは確かだ)

整備兵(そして、その女神が昨日話しかけていた『天城さん』と『大淀さん』……人の名前にしては派手だが、聞き覚えがあった)

整備兵「ん、あったぞ……天城は雲龍型航空母艦、大淀は連合艦隊旗艦にもなった軽巡洋艦。よし、記憶は正しかったな」パラパラ

整備兵(多分あれは、この艦艇の名前だ。女神はあの場所で、天城や大淀という名前の艦娘と話していたのか……?)

整備兵(しかし、あの場所には女神以外誰もいなかった。女神の言葉に対する返答の声も聞こえなかったし……)

整備兵(……いや、そもそも艦娘には女神の声が聞こえないはずだ。となると、艦娘と話していたというのはあり得ない)

整備兵「何か、忘れているような……」ウーン


『それは、過去にその兵器を使った人々の思念、あるいは魂のようなものなのでは――』

『はい。おそらく、それぞれの名前に対応した実在の軍艦に関係する人々の――』


整備兵「……関係が、あるのか?」

整備兵(もしこの件に関わりがあるとするなら、確かめる方法は……)

整備兵「もしもし。暮鎮守府工廠所属、整備兵です」

明石「あら、整備兵さんですか?こっちの工廠の電話番号、教えましたっけ?」

整備兵(良かった……ちょうど良く明石が出てくれた)

整備兵「提督に聞いたんだ。電話も提督のを借りてる」

明石「ふむふむ。それで、何か御用でも?」

整備兵「ああ、質問なんだ。全国の工廠から情報を集めてる寄越日の工廠長なら知ってると思ってさ……最近、新しく建造された艦娘はいないか?昨日か、あるいは今日とか」

明石「それでしたら、まさに寄越日で二人ほどいますよ。建造完了は、今日の明け方です」

整備兵「そ……その艦娘の名前は何だった?」

明石「ええと……航空母艦天城と、軽巡洋艦大淀ですね」

整備兵「……!」

明石「どうかしましたか?」

整備兵「い、いや……そういえば明石、女神が工廠に来た日を記録してるんだよな。それ、教えてくれないか?」

明石「はい……分かりましたけど。何のためにいるんですか?」

整備兵「ちょっとした理由なんだが……悪い、説明は後にさせてくれ。あと、寄越日で今まで行われた建造の記録も欲しい。特に日付だ」

明石「女神の来た日と建造記録ですね。……はい、持って来ましたよ」

整備兵「ありがとう。まず、女神の方から読み上げてほしいんだが……」

明石「……と、こんなものですね。記録し始めてからなので、それ以前は分かりませんけど」

整備兵「よし……大丈夫だ。次は建造記録を頼む」カキカキ

明石「建造建造……こんなに昔のは久しぶりに見ますよ。あ、私も書いてありますね。ええと……」パラパラ

明石「……?」ペラリ

明石「……」ペラリ

整備兵「どうした?」

明石「さっき伝えた女神さんの滞在日と……かなりの日付が被っています」

整備兵「な……!」

明石「読み上げますね」

整備兵「……」

整備兵「……ありがとう。確かに、偶然じゃ済まされないほどそっくりだ」

明石「これを確かめるための電話でしたか……しかし、一大事ですね」

整備兵「ああ。女神はやっぱり、建造と何か重大な関わりを持ってる。そうとしか思えない」

明石「……まさか整備兵さん、何か気づいたんですか?女神さんや艦娘や、妖精の……」

整備兵「そうかもしれない。……でも、まだ確証が無い。やっぱり、直接女神と話してみる必要がありそうだ」

明石「そうですか……。では新しいことが分かったら、状況が落ち着き次第連絡をください」

整備兵「もちろんだ。忙しいのに、時間を取らせて悪かった」

明石「いえいえ♪」

【翌朝】
【食堂】

整備兵(……とか言いつつ、結局昨日は女神に会えなかったなぁ)モグモグ

整備兵(良く考えたら、女神もあまりしょっちゅう工廠にいるわけじゃない。一体いつになったら話せるのやら)

整備兵「そういえば、漣は?それに、提督もいつもならそろそろ来る時間だけど」

白雪「昨日の午後からミッドウェーで本格的な戦闘が始まって、執務室は夜通し遠隔指揮と情報収集で忙しいそうなんです」

龍驤「漣も秘書艦やから、提督はんと同じでしばらくは執務室から出てこれへんやろな」

鳳翔「食事は、間宮さんが執務室まで持って行ってくれているそうですよ」

整備兵「うわ……大変だな」

白雪「作戦が順調に進めば、今日の昼には目途がつくらしいですが……」

整備兵(そう上手くいくとも限らない、か)

龍驤「ま、ウチらに出来ることはあらへんし、普段通り過ごすんが一番や。あの二人はこういう仕事にも慣れてるから問題ないで」ノビー

鳳翔「そうですね」フフッ

整備兵(……それなら、俺達も出来ることをやりきっておくか)

【旧港】

整備兵「……よし、完成だ!」

機銃「」キラキラ

白雪「あんなにボロボロだったのに……やりましたね!」ニコ

整備兵「そして最後に、これだ」

白雪「その箱、何ですか?」

整備兵「この機銃の弾だ。薬莢とかは元からこの機銃に詰められていたものを出来るだけ再利用して、火薬や劣化がひどい部品だけは工廠妖精達にも協力してもらって再現した。そしてこの箱を……」ヨイショ

ズズズ……

白雪「地面の下に……収納場所も作っていたんですか」

整備兵「そうだ。ここにコンクリートの蓋で密閉して弾薬箱を保管する。これでこの機銃は、とりあえずいつでも使用可能になったわけだ」

整備兵(まあ、使用するようなときが無いだろうと言われたらそれまでだが)

整備兵「さて、今何時だ……」チラッ

整備兵「ん、思ったより時間がかかっちゃったな。白雪、先に急いで戻って開発をしておいてくれないか?昼食の時間までずれ込むと良くない」

白雪「整備兵さんは……?」

整備兵「俺は風化防止用の屋根を張ってから戻るよ。屋根とは言っても、機銃のほとんど真上だけを覆える小さいテントみたいなものだけど」

白雪「分かりました。では」

白雪(……でも、これが完成しちゃったってことは、もう整備兵さんと二人でここに来る用も無くなるってことだよね)

白雪「……」

整備兵「それにしても、相変わらずここの海は凄く綺麗だな。建物が無くて開けてるおかげか?」

白雪「そうですね……」

整備兵「……」

ナデナデ

整備兵(はぁ……見た目通りさらさらの手触りで、撫でていて気持ち良い)

白雪「せ、整備兵さん……?」

整備兵(って、いけないいけない)ゴホゴホ

整備兵「いや、ええとだな……機銃の修理はもう終わっちゃったけど、また暇なときにでも海を見に来ようなってことだ」

白雪「は……はいっ!」ニコ

整備兵「」パッ

白雪(あっ……)

整備兵「……どうかしたか?」

白雪「も、もう少し、撫でてくれて良いです……よ?///」クビカシゲ

整備兵「」ズキューン

整備兵「じゃ、じゃあ遠慮無く……」ナデナデ

白雪「はぁ……何だか、心が落ち着きます……」トロン

整備兵(こっちは落ち着くというかその逆というか……)ドキドキ

整備兵「……ふぅ。これで正真正銘の作業終了だな。荷物もまとまったし、帰るか」スッ

整備兵(しかし、今朝も工廠に女神はいなかった。あの件はまた持ち越しか……)スタスタ

整備兵「って、あれは……!」

女神「……」フワフワ

整備兵「め、女神?」

女神「あら、整備兵さんですか……」

整備兵「工廠にしかいないと思ってたが……港にいることもあるんだな。しかも旧港に」

女神「この美しい海を静かに眺めていたくなることも、たまにはあるのですよ……。ともかく、こんな所で出会うなんて、素晴らしい偶然ですね……」

整備兵「ああ。すごい偶然だ……本当に」

女神「……」

整備兵「……女神、話がしたい。少し長くなるかもしれない話だ」

女神「そうですか……。でしたら、場所を変えましょう。もう秋の気配も迫ってきたとはいえ、太陽光の照りつける岸壁というものはやはり世間話に不向きです……。工廠の裏で良いですか?」

整備兵「良いが……どうしてわざわざ裏に?」

女神「周囲の目が気にならない場所の方が、話が弾むということもありますから……。整備兵さん、あなたもそう思うでしょう……?」

整備兵(……)

整備兵「……確かに、そうかもな」

本日はここまで。漁は終わりましたが相変わらず時間が取れません。次回も未定です。

【工廠裏】

女神「それで、一体どういったご用件でしょうか……」フワァ

整備兵「頼むから前みたいに眠るなよ……ついさっき明石と、寄越日の工廠で新しい艦が建造された日付について話したんだ」

女神「はい……」

整備兵「寄越日鎮守府が設置されてから、通算でおよそ三十隻強。他の鎮守府と比べてもずば抜けて多い。さすが寄越日だ」チラリ

整備兵「そしてもう一つ、明石から教えてもらった日付がある。……女神が、寄越日の工廠に現れた日付だ」

女神「私が現れた……そうですか」

整備兵「女神は全国の工廠に出没するから、工廠関係者の間では密かにマスコットみたいな扱いを受けていたんだってな。見ると幸運が訪れる……みたいに。知ってたか?」

女神「いえ、知りませんね。私は別に、幸運をもたらす力を持っていたりもしませんし……」

整備兵「まあ、それが迷信や都市伝説の類いだったとしても、だ……とにかく、その噂を面白いと思った明石が、実は女神が工廠を訪れた日付を記録していたんだ」

整備兵「当然、こっちの記録は明石が建造された後の分しか残っていないが。合計で、だいたい二十日くらいだ」

女神「まめなことをするのですね」

整備兵「新艦娘の建造日と女神の訪問日。この二つの日付は、ほとんど完全に一致した。さらに言えば、一致しなかった日付もおかしい。女神がいたのに建造が無かった日こそ何日かあるが……建造があったのに女神がいなかった日は皆無だ」

女神「ええ……」

整備兵「このことは白雪のときも例外じゃなかった。白雪が建造された日、確かに女神は工廠にいた。建造の瞬間に艤装の一番近くで光の中にいたのも、女神だった。そうだろ?」

女神「……」コクリ

整備兵「さらにその上、昨夜の出来事だ。昨日の夜遅く……多分、真夜中近くだ。女神は海岸にいた。正確な位置は俺も覚えてないが、鎮守府の敷地から少し外れた砂浜だったと思う」

女神「……ふむ」

整備兵「盗み聞きしたのは悪かったが、女神が言った言葉も覚えている。『天城さん』と『大淀さん』。女神はそう言っていた」

整備兵「天城は旧海軍が戦時に急造した雲龍型航空母艦の一隻、大淀は大戦後期に連合艦隊旗艦として改装された軽巡洋艦。この二隻には共通点があった」

女神「何でしょう」

整備兵「どちらも前大戦末期、暮軍港空襲で……暮港付近に大破着底している」

女神「……悲しいことです」

整備兵「おそらくまさにその場所で、俺は女神を見たんだ。そしてその翌日――つまり今日の明け方、寄越日海軍工廠で新たに建造された艦娘が二人いる」

整備兵「――天城と、大淀だ」

女神「……なんと」

整備兵「旧海軍の艦艇、建造された艦娘、そして女神。これらの間に何も関係が無いとは、俺は考えられない。艦娘とは何なのか、建造とは何なのか。女神は何か……いや、もしかしたら何もかも、知っているんじゃないか?」

女神「……」

整備兵「……」

女神「……そうですね」

女神(私から伝えてしまうのは、工廠長に悪いですが……)

女神「私は知っていますよ。艦娘のことも、建造のことも。まだあなたの知らないことを、数えきれないほどに……」

整備兵「……!」ピクッ

女神「ですが、知らないとは言っても、その大部分はあなたが確信を持っていないだけのことです……。あなたは考えたことも、聞いたこともあります」

整備兵「俺が考えている……?」

女神「お洒落な居酒屋さんで、明石さんと話していたでしょう……」

整備兵(鳳翔さんの……そんな、馬鹿な)

整備兵「魂……明石の言っていた、推論。……聞いていたのか」

女神「盗み聞きの件は、これでお互い様です……。しかし一応、謝っておきます……申し訳ございませんでした」

整備兵「それより、まさかあの推論が正しかったって言うのか……!?」

女神「全部が全部ではありませんが、悪くはないと思いましたよ……。艦娘の身でありながら……明石さんは聡い方です」

整備兵「それなら、艦娘は……」

女神「前大戦において、業火と弾雨の中で命を落とした膨大な数の軍人達が、この世界に残していったある種の痕跡。御魂、御霊……分類など、しようもないことですが」

整備兵「な……」

女神「私はその中から生まれました。……いえ、結局私にも、その中から生まれたのか、外部で別のものから生まれたのかは分かりませんが。そもそも生まれるという表現も、この場合は単に存在を始めたという意味しか持たないのかもしれませんが……」

女神「海の中。生まれてすぐの私の耳に、声が聞こえました……。幾千もの声が、幾万もの声が……」

女神「『殺さないでくれ』」

女神「『逝かせないでくれ』」

女神「『まだ』」

女神「『まだだ』」

女神「『まだ、護らせてくれ』」

整備兵「……」

女神「私はやり方を知っていました。彼らをどうしてやれば良いのかも知っていました。私は、彼らを導くことにしました……」

女神「つまり、私はそうすべきなのです。知っている私が、求める彼らの前に現れたのですから。それが私に課せられた責務、と言っても差し支えないかもしれません……」

女神「船は古来より、船に乗る人間にとって家のようなものでした……それは単に、風雨や荒波から乗員を守る防壁としての家ということでありません。帰る場所、戻る場所、共に海へ漕ぎ出す仲間というある種の家族がいる場所だったのです……」

整備兵「家族……」

女神「そして、もう一つ……。戦争のための道具に過ぎない艦には、しかし、いつからか大きな力が宿ると信じられてきました。艦内神社、船霊信仰……そのとき艦は、鉄の塊以上の力を得ました。……いえ、少し言い方を変えましょうか」

女神「紛れもない人々の心こそが、艦に新しい力を与えたのです……」

女神「……さて、整備兵さん」

整備兵「何だ?」

女神「整備兵さんは、艦に命があると思いますか……?」

整備兵「命……?艦に……そりゃ、もちろんだ。海軍の軍人なら誰だって、艦をただの物として見るなんてことは……」

女神「いいえ、艦に命などありません……。そう、決して」

整備兵「……どういう意味だ?」

女神「誰も乗っていない艦に、命は無いのです。人々が乗り込み、信じ、敬い、操る……その瞬間にのみ、艦は命を、そして力を冷たい鉄の身体に宿すのです。分かりますか……?命を持つのは艦ではなく、いつでも人の方なのですよ……」

整備兵「それは……そうかもしれないが」

女神「ですから、もしも艦娘に艦の魂が宿っているとすれば……その魂とは、艦を拠り所として自ら集った人々の痕跡が一体化し、無秩序に混じり合った塊なのです。私の役目は、ただそれを陸へと曳いていくことだけです……」

整備兵「でも、どうしてそんなことを……。かつての軍人達も女神も、どうして深海棲艦と戦ったり、俺達の戦いに協力したりなんか……?」

女神「ただ一つだけですよ。……現在の人間が過去の人間に敗北することなど、絶対にあってはならないことだからです」

整備兵(……過去の人間?)

女神「水底へと沈んだ過去の人間は、どれほど辛くともどれほど悲しくとも、残念ながら静かに消えなければならないのですよ。……次の時代を作ることができるのは、どう足掻いても、今ここに生きている生身の人間だけなのですから」

女神「しかし人類は、あまりにも……あまりにも多くの絶望と怨嗟を海に沈めすぎました。それらが、世界の理を破り再び地上に現れるほどにまで……」

整備兵「それなら、深海棲艦の正体は明石の想像通り……!」

女神「忠誠、庇護、献身……軍人達の精神の正の要素こそが、艦娘達の原動力です。すなわち逆に、深海棲艦の原動力は……」

整備兵(……奴らだって、元々は艦娘達と同じだったんだ)

整備兵「酷い……そんなの、酷過ぎるじゃないか」

女神「しかしそれでも、今の人類はこの過去の幻影に打ち勝たなければなりません……。彼らを再び水底へ葬り、取り戻した世界の主導権を手に、明日を創らなければならないのですよ。……私達妖精も全員が、そう考えています」

整備兵(……っ)

整備兵「当然、俺たち人間だって、深海棲艦が現れたその日からずっとそう思っていたし、今も思っている……。それは……変わらない」

女神「良いのですよ……それで。そうするしか、手は無いのですから。護るためには、戦うしかないのですから……」

整備兵「……」

整備兵「……ところでさっき、妖精もそう考えているって言ったよな。工廠の妖精達も装備の妖精達も、皆そう思っているのか」

女神「そうですね……まず、工廠の妖精達は間違いありません。私が差し出した手を掴み、今の人類のために全てを捧げると誓った者達ですから……」

整備兵「……それは、比喩的な表現だよな」

女神「あながち間違ってはいないと思いますよ。一人一人、私がこの手で連れて来たのですから……」

整備兵「一人一人?軍人達が残した痕跡は、集まって艦娘を形作ったんじゃ……」

女神「艦娘の一部として集うことができるほど一つの艦に引き寄せられた人間は、当然その艦に乗り込んでいた人間だけですよ」

整備兵「……!」

女神「確かに工廠の工員達も、船に対しては尋常ならざる思いを持っていました……。しかし、彼らが命を落としたのは海ではなく陸です。……特に、ここ暮の街では」

整備兵「暮海軍工廠造兵部空襲……」

女神「はい……。ですから工廠の妖精達はそれぞれが、たった一人自らの声のみで、私の呼びかけに応えてくれた者達です」


工廠長『おう若造、スランプは脱したか?』

工廠妖精A『おはようございます、整備兵殿』

工廠妖精B『風邪でも引いてるんじゃないっスか?』


整備兵(全員……か)

女神「彼らは本当に良く頑張ってくれています。私のお願いにも従って、戦争終結のために全力を挙げてくれています」

整備兵「……資源管理に関しては、あまり頼りにならなかったけどな」

女神「?」

整備兵「装備開発についてだ。それだけ真面目なんだったら、あんな開発の仕方をするとはとても……」

女神「そのことでしたか……。それに関しては、彼らを悪く思わないでください。私のさせたことですから……」

整備兵「め、女神が……させた?」

女神「はい。開発で使用する資源量については、私が各工廠を回って指示を出しています」

整備兵「一体、何のために……?」

女神「工廠の妖精は確かに艦娘の装備を開発することができますが、どんなレシピを使えば何を開発できるかは本人達にも、私にも分かりませんから……。様々なレシピを各工廠に指示して、新しい有用なレシピを探しているのです……」

整備兵「でも、それは工廠にいる人間に任せれば……」

女神「本当に、そう思いますか?もし私が何もしていなくとも、これほど多くの新たなレシピが試され、発見されていたと思いますか?」

整備兵「……何が言いたいんだ?」

女神「それでは、想像してみてください。今の世界の状況が、ゲームの中のお話だったとしたら……と」

整備兵「ゲーム……」

女神「ゲームをする人は提督となり、工廠にもレシピを指示し、装備を開発して深海棲艦と戦います。何十万人、何百万人という人々が、そのゲームを遊びます……」

女神「人々はどうすれば良い装備を開発できるか思案し、色々なレシピを適当に考えては試してみるでしょう。効率の悪いレシピに資源を注ぎ込んではがっかりし、資源が底をつけばまた貯め直して次のレシピを試すでしょう……。そうして、新しいレシピが開拓されるのです……」

女神「ですが、もしそれが現実の出来事であれば、そんなことを積極的にできるでしょうか?」

整備兵「……できない、か」

女神「そうですね。国全体が苦しい状況で、そんなことは出来ないでしょう……。現実の日本に、工廠は数えるほどしかありません。資源を無駄に使えば、周囲からは非難され、戦略的にも取り返しがつかない結果に繋がるかもしれません。そうなるくらいなら、他人のレシピを真似ることを選ぶでしょう……」

女神「人間は恐れて、ややもすると極端に慎重になり過ぎてしまいます……。その結果、旧態依然とした質の悪いレシピが使われ続ければ、結局は私達の陣営の弱体化を招くのです。各鎮守府の資源状況を鑑み、慎重と大胆の均衡が取れた開発を妖精の方から提案させるというのも、私の仕事です……」

整備兵(女神には、人間のすることなんてお見通しか……確かに俺も、開発であまり冒険したいとは思わない)

整備兵「そんなところにまで、手を回していたのか……」

女神「そのせいで、この鎮守府にもあなたにも迷惑をかけました。しかし、こんなレシピを十分な回数試すことができるような余裕のある鎮守府は、ここか寄越日くらいです……。そういう意味では、大変感謝していました……」

整備兵「……提督も喜んでるよ、多分な」

女神「全ては、人類の勝利のためです……」

整備兵(しかし本当に、そこまで……。となれば、今まで人間がやっていると思っていたことも、実はこうして妖精が主導権を握っているかもしれないということになる)

整備兵(人間が妖精の力を利用しているのか、それとも逆に、妖精が人間の力を借りて戦っているのか……)

整備兵「……そうか、ありがとう。工廠の妖精については良く分かった。それなら、装備の妖精達も同じように、この戦争への意識を持っていたのか?」

整備兵(言っては悪いが、あまりそういう風にも見えなかったが……)

女神「装備の妖精達は、実のところ、私にも良く分かりませんね……」

整備兵「え……?」

女神「彼らとは、高度な会話をすることが不可能ですから」

整備兵「不可能って……装備の妖精達も、昔は工廠の妖精達と同じように人間だったんじゃないか」

女神「砲、魚雷、航空機といった装備を動かしている妖精は結局、艦娘の一部なのですよ。膨大な痕跡の集合体である艦娘から必要に応じて分離される、産物に過ぎないのです……」

整備兵「工廠の妖精達とは違って、艦娘から生み出されるってことか?でも、どちらにせよ元々は同じ……」

女神「……かつての軍人達の残した痕跡が艦娘達を形作ったというのに、彼女達は前大戦のことを覚えていたり、本物の軍人のような振る舞いを見せたりはしません。なぜだか分かりますか……?」

整備兵「いや……」

女神「私は先ほど、艦娘に宿っているものを『一体化し、無秩序に混じり合った塊』と言いました。……そうなのです。艦娘達は、無数の人々の感情も精神も全て内包し、深海棲艦に対抗する力を手にしました。しかしそれゆえに、艦娘を構成する個々人は……もはや残っていないのです」

整備兵「残っていない……?」

女神「元いた軍人一人一人の性格や記憶は溶けて消え去り、今も残るかつての人々の意思はただ一つ。人類を守り深海棲艦と戦う使命感……それだけです。その艦娘から切り離されたほんの一部である装備妖精に、どうして高度な認識や判断を要求できるでしょうか……?」

整備兵「な……そ、そんな……」

女神「強大な力を得た代償、なのでしょうか……」

整備兵「代償なんて、どうして払わなきゃならないんだ。そんなことじゃ、とても報われない……」

女神「――彼らは」

整備兵「……」

女神「それを求めました。私は自分に出来る限りのことをしました。……それだけです」

整備兵「……そうやって、装備妖精達は出撃しては消えていくのか?」

女神「妖精が消える、ですか?まさか……。装備妖精達は艦娘の一部なのですから、もしそんなことがあれば艦娘もすぐに存在できなくなってしまいますよ……」

整備兵「でも、艦載機の妖精は未帰還になると、また新しい妖精に入れ替わって……」

女神「新しい妖精……そう見えますか。いえ、仕方ありませんね……」

整備兵「……違うのか」

女神「艦載機の妖精は、艦娘の持つ『塊』の一部が艦載機に宿ったものです……。ゆえに、艦載機が破壊されればその一部は仮の器を失い、元あった場所……『塊』へと戻ります」

整備兵(しかし、あの隊長機の妖精に以前の記憶は残っていなかった。女神の言うように、妖精がある種蘇っているとしたら……)

整備兵(……いや、違う。そういうことじゃないんだ)

整備兵「元の『塊』と再び一体化した妖精は、『無秩序に混じり合ってから』また生み出される……」

女神「ええ」

整備兵「そうか……分かったよ、そういうことか……」

整備兵(そりゃ、覚えているはずも無いよな)

整備兵(……くそっ)

整備兵「でも、艦娘を構成する要素自体は変わらないんだ。何らかの形で、今まで積み上げてきたものが残っていても……」

女神「……それが再び正しく形になって現れるなどということは、まず有り得ないことですが」

整備兵「……」

整備兵「……話せないから、紙に書いたりなんかして意思疎通してさ。何となくあの妖精達のことも分かったような気になっていた。でも、違った。俺が想像もしなかった状況で、あの妖精達は……ひたすら戦ってたんだな」

女神「……」

整備兵「……装備の妖精達が工廠の妖精達と違って話せないのも、そうして個々人が失われてしまったせいなのか?」

女神「それはあまり重要な原因ではありません。結局、人間は例外なく、妖精とは話せないはずなのですから……」

整備兵「むしろ、俺が工廠の妖精達と話せることの方が問題になるって言いたいのか……いや、それこそ、女神ならその理由が分かるんじゃないか?」

女神「はい。あなたには、能力があるのですよ……普通の人間には出来ないという点では、工廠の妖精達と話す能力の他に、彼らの工具を扱う能力も含まれますが」

整備兵「……能力?急に何を言ってるんだ?そんなもの俺は生まれつき持っていないし、妖精達や工員達とも家族が関係あったりは……」

女神「今あなたの考えているものは、能力でなく才能です……。当然、あなたにはそんな才能はありません。先天的なものではないのですよ……」

整備兵「それなら、一体何が……」

女神「では、思い出してみてください。あなたは妖精の工具を扱うことに関して、上手くいく時期と上手くいかない時期を経験したことがありますね。そのとき、あなたは何をしてどう生活しましたか……?」

整備兵「えーと……どうだったか」

女神「まずは、妖精の工具を扱い始めてすぐの頃です……」

整備兵「すぐの頃は……朝から晩まで練習したが、もちろん最初だから上手くいくわけがない。全くできなかった」

女神「では、上手くいくようになったのはいつですか……?」

整備兵「いつと言っても……ある日突然か?」

女神「思い出すのです。何か、きっかけとなった出来事があったはずです……」

整備兵「そんなもの……」

整備兵(……ん)

整備兵「強いて言えば……急に体が慣れてきたように感じた日は、確か練習の前に龍驤と資料室に行ったな。工廠長に暇を出されて……」

女神「そこで何を話しましたか……?何か、工廠に関係することは……?」

整備兵「あー……そうだ、あの日初めて、暮軍港空襲での工廠への被害を知ったんだ。本があって……」

女神「それからは、順調に技術が向上したんですね。その後、龍驤さんとは他にもお話を……?」

整備兵「本を読みながら、色んな話をしたな。特別攻撃隊の話をしたこともあったし……俺の尊敬している、昔の暮の工廠長に関する資料が見つかったときもあった。あそこには暮の工廠についての本も多くていつも……」

女神「尊敬している……ですか。ちなみに、誰でしょうか?」

整備兵「『暮海軍工廠の創設と発展』っていう素晴らしい本があって、その著者なんだ。女神は知らないだろうけど……」

女神「……ふむ。ともかくその方について、新しく知識を得たということですね……。では、その次に技能が伸び悩んだ時期はいつですか?」

整備兵「す、進むのが早いな……ちょっと待ってくれ」

整備兵(スランプ……スランプ……そうだ)

整備兵「あれは多分……明石が来てから数日か、一週間くらい経った頃だ。今ひとつ整備の仕事が上達しなくなったときがあった。別に腕が落ちるわけではなかったけど、それまでは一足飛びに上手くなってきたはずだったから……」

女神「もう少し、直前に何かがありませんでしたか?」

整備兵(明石と良く作業をしていたことや、白雪とあまり一緒にいてあげられなかったこともあるが……そんなことは関係無いだろう。……というか、言いたくない)

整備兵「そういえば、その頃は龍驤が訓練で忙しいとかで、しばらく資料室に行かなかったな」

女神「二度目ですね。龍驤さんと資料室へ行かない状況で、整備技能が伸び悩んだのは……」

整備兵「……え?ああ、確かにそうだけど。まさか、それが関係してるとか言わないよな?」

女神「……では、その不調から回復したのはいつですか?」

整備兵「それは……」

整備兵(白雪と夕飯に出かけて、帰って来て……数日後くらいか?その前に、何かあったか?)

整備兵「……あ」

女神「どうしましたか……?」

整備兵「龍驤と資料室だ。急に訓練が減ったとかで、久々に龍驤と本を読んだ。工廠関連の新しい本を龍驤が何冊も見繕ってくれていて……その日の整備は、快調だった」

女神「さて……?」

整備兵「本を読んだから、技術が向上したって言うのか?……そんな馬鹿な」

女神「私はさっき、妖精や艦娘の原動力は何だと言いましたか……?」

整備兵「かつての人間達の、痕跡……」

女神「その通りです……。さらに、工廠の妖精達に関して言えばより狭まるのですよ。分かりますか?かつての工員達の痕跡とは、整備という職務への誇り、機械への情熱……そして何より、彼らが抱いたそれらの感情が、彼らの命と共にこの世から綺麗さっぱり消えていくことへの恐怖だったのですよ」

整備兵「恐怖……?」

女神「彼らはもはや、誰かにそれらの感情を語り理解してもらうことなど出来ないのですよ。彼らは既に、人間ではないのですから……。ですが、あなたは……整備兵であるあなたは、彼らが過去に抱き、一度たりとも忘れることなく今も持ち続けているのと同じ誇りや情熱を持っていました」

女神「そしてあなたは資料室で、暮の工廠について情報を集めました。この地で轟音と慟哭の中に消えていった暮の工員達の足跡を、歴史という形でたどりました。人間としての彼らを想い、彼らが何を考え何を成したのかに思いを馳せました……」

女神「そう。あなたは、妖精のあらゆる言葉と技術の源泉、彼らの言わば最も深い部分に触れることが出来たのですよ……。現在の人間が唯一、過去の人間の素顔を僅かながら垣間見ることのできる手段……知識によって」

整備兵「……っ」

女神「もう、お分かりでしょう。あなたが思いがけず、何をしたのか……」

整備兵「……俺は、工廠の妖精達を知ったのか」

女神「ええ」

整備兵「知った。思った。考えた。ただ単に、それだけのことで……」

女神「理由は簡単です。……それだけのことが、人ですらなくなることを受け入れた今の彼らを突き動かす、全てなのですから」

整備兵「……は……ぁ」

女神「それは、何の溜め息なのでしょうか?」

整備兵「あいつらは今でも皆、十分過ぎるくらいに人間なんだな……と思ってさ」

女神「……そうですか」

整備兵「でも、一つだけ不思議なことがあるんだ」

女神「何ですか……?」

整備兵「俺が工廠長と初めて出会ったとき、どうして俺には工廠長の言葉が聞こえたんだろうな。まだそのときの俺は、何も知らなかったのに……」

女神「工廠長に限って言えば、あなたはここに来る前から良く知っていたではありませんか」

整備兵「……何だって?」

女神「あなたはいつでも、彼のことを尊敬していたではありませんか。あなたに素晴らしい本を残し、整備の道を照らしてくれた工廠長『さん』のことを……」

ガチャリ

整備兵「」ビクッ

白雪「整備兵さん、こんなところにいたんですか!なかなか戻って来ないので心配したんですよ?」バタバタ

白雪「……あっ、女神さん?」

女神「」フリフリ

パッ

白雪「行っちゃいました……じゃなくて、整備兵さん。戻って来ているなら一声掛けてください」ズイッ

整備兵「え……あ、ああ、ごめんごめん」チラリ

整備兵(女神……)

白雪「もう……聞いているんですか?」プクー

【工廠】

白雪「そういえば、ついさっきAL/MI作戦が完了したみたいです」トコトコ

整備兵「本当か!?」スタスタ

白雪「はい。敵の抵抗も激しかったそうですが、敵機動部隊、基地航空隊ともに壊滅。作戦は成功を収めた……と」ニコニコ

整備兵「それは良かった……ああ、良かった。誰から聞いたんだ?」

白雪「間宮さんからです。先ほど、そのことを伝えに工廠まで来てくれました」

整備兵「間宮さん?漣は事後処理があるからともかく、龍驤や鳳翔じゃないのか?」

白雪「龍驤さんと鳳翔さんは艦載機を使って沿岸の警備をしてくれているので、司令部の付近から動けないんです」

整備兵「ああ……一応、そもそもはそういう目的で残ったんだもんな」

白雪「でも、すぐに二人の任務も解除されるはずです。今夜には外洋艦隊も帰投するので、お迎えの準備をしないといけませんね」

整備兵「そうだな……盛大にやろう。でもその前に、仕事を片付けないとな。白雪はこれから何をしようと思ってたんだ?」

白雪「それなんですが……私、機銃の近くに工具を忘れて来てしまったんです。今から、それを取りに行こうと……」

整備兵「そうか……。ごめん、俺も気づかなかった。見たら持ってきたんだが」

白雪「いえ、私のせいですから。少し走って、取って来ても良いですか?」

整備兵「いや、ちょっと待ってくれ。おーい、工廠長!」

工廠長「あ?何だ?」ドタドタ

整備兵「確か、予備の艤装ってあったよな。白雪が旧港まで行って帰ってくるのに使いたいから、貸してくれないか?」

白雪「ええっ……!?」

整備兵「その方がずっと速いし、白雪も疲れないからな」

工廠長「あるにはあるが……分かったよ。壊すんじゃねェぞ?」

白雪「も、もちろんです……。ありがとうございます」ペコリ

白雪「」カシャン

整備兵「主砲や魚雷発射管まで持たなくても……」

白雪「海岸沿いとは言え、海に出るわけですから。それに何だか、艤装が一つでも欠けると違和感があって……それでは、行ってきますね」

ガラガラガラ……ガタン

整備兵「気を付けろよー!」フリフリ

整備兵(さて……どうするか)

整備兵「なあ、工廠長。ちょっと話したいことが……」

工廠長「あァん?今の今までどっかに消えてたんだから、まずはきっちり仕事しますだろうが!何か言いてェことがあるんなら、昼の休みにでも来い!」ベシッ

整備兵「す、すまん……」イテテ

工廠長「ふん……」ドタドタ

整備兵「」ポツーン

整備兵(まあ、工廠長が言うことももっともだ。まずはちゃんと働こう。話ならまた……いつでもできる)

整備兵(さて、何からやるか……お)

整備兵(やりかけてた魚雷の整備があったな。とりあえず、それでも進めておくか)

整備兵「」カチャカチャ

整備兵「ふー……一本取って、締めて、あとはここを動かせば安全装置が解除、と」ブツブツ

――ドォン!

整備兵「……ば、爆発!?」ビクッ

整備兵(びっくりした……魚雷が爆発したのかと思ったぞ)

整備兵「しかし、かなり大きかったな……」

整備兵(音は外からしたが、訓練でも始まったのか?方向は多分、演習場や旧港がある側……)ハッ

整備兵「まさか、白雪に何か……!?」ダッ

整備兵(って、待て!)ピタッ

整備兵(魚雷が整備の真っ最中だ。特に今は、ほんの少し触るだけで安全装置を外せてしまう危険な状態……ここに放り出していくわけにはいかない)

整備兵「工廠長!」

シーン

整備兵「誰でも良い!来てくれ!誰かいないか!」

シーン

整備兵(くそっ……どうすれば良いんだ?注意書きでもしてここに置いていくか?……ダメだ、ペンも紙も今は持っていない)

整備兵(しかし、今はとにかく白雪が心配だ。それが、何よりも先決……)グッ

整備兵「」サッ

整備兵(工員服の内ポケットに入れて持っていけば……多分、問題無いだろう。念の為、応急処置的に外殻だけ組み立て直して……)ギュウギュウ

整備(よし……行くぞ)ダッ

ガラガラガラ……ガタン

本日はここまで。ちなみに、史実における天城と大淀の着底位置は割と離れています。
次回も未定です。

【提督執務室】

提督「――各鎮守府に緊急連絡だ。暮鎮守府は現在空襲を受けている。敵規模は不明。加えて寄越日には支援要請を」

漣「りょ、了解しましたっ!」バタバタ

ジリリリリリ!

提督「こちら暮鎮守府提督執務室」ガチャリ

提督「……はい」カキカキ

提督「はい。はい……了解いたしました」ガチャリ

提督「……」フゥ

漣「ご主人さま……どうしました?」

提督「他の各鎮守府も同様に攻撃を受けている。寄越日では残っていた艦娘が迎撃を開始したそうだが、それ以外の鎮守府では沿岸部から退避するしかない状態だ」

漣「そんな……!アリューシャンでもミッドウェーでも、かなりの戦力を喪失したはずなのに……」

提督「小規模な強襲なら、潰走した深海棲艦の残党の置き土産という可能性もあった。しかし、これだけ統制のとれた同時攻撃となれば……全ては奴らの計算通りというわけだ」

漣「!」

提督「今回の作戦で倒した敵の機動部隊も、基地航空隊も……恐らく、こちらの戦力を誘き寄せるための囮だ。本隊は今まさに、日本本土に迫っている部隊……」

漣「鳳翔さんと龍驤さんには……」

提督「連絡は必要ない。あの二人なら、既に自分達で戦闘態勢を整えているはずだ。先遣の偵察機を出した後、すぐにここへ……」

バァン

鳳翔「龍驤と鳳翔、参りました」スッ

龍驤「何なんやこれ!一体全体、どないなっとるんや!?」バタバタ

提督「うむ。敵部隊について何か情報は?」

鳳翔「鎮守府の沿岸を空襲しているのは、深海棲艦の新型艦載機……MI方面や南方海域に現れたのと同じものと見られます。敵兵力は大きく、少なくとも三個以上の敵編隊が現在もこちらへ向かっているとのことですが、定期哨戒中だった機は通報直後に消息を絶ったため詳細は不明です」

提督「少なくとも三個以上……だと?」

鳳翔「……はい」

提督「……」

鳳翔「恐らく……正面からぶつかれば、とても抗しきれる数では……」

提督「分かっている。……まずは、報告を続けろ」

鳳翔「はい……また、戦闘機と爆撃機の精密な共同運用と編隊飛行から、本土近海に敵航空隊を束ねる有力な機動部隊が存在する可能性が非常に高いと考えられます」

鳳翔「さらに、それほど数は多くないものの、敵の駆逐艦や巡洋艦も単艦あるいは数隻の艦隊を組み、いくらかが鎮守府へと向かってきています。敵部隊は、小型艦による鎮守府の偵察や直接攻撃も企図している模様です」

提督「敵の戦艦は?」

鳳翔「現在は一隻も確認されていません。偵察機からのさらなる報告を待っている状況です」

提督「了解した。敵の陣容については、偵察を続け判明次第連絡しろ。……漣、MI方面派遣艦隊の帰還予定は?」

漣「他の鎮守府の艦隊と同じく全速で本土へ向かっているそうですが、まだしばらくは……」

提督「分かった。……では、各員に命令を与える」

提督「三人は鎮守府正面の湾内へ移動。まず、鳳翔と龍驤は敵艦載機の迎撃を最優先し、鎮守府への空襲を妨害せよ。さらに並行して、可能であれば敵機動部隊を捜索せよ。ただしあくまで迎撃が優先だ。深追いはするな」

提督「鳳翔と龍驤、艦載機は持っているな?」

龍驤「もちろんや。宿舎にあった戦闘機は全部持って来たで」

提督「良い判断だ。工廠に予備の艦載機を取りに行く暇は無い。使えるのは現有の艦載機と、運の良いことにそこに置いてあった箱の中身だけだ。旧式だが一応持って行け」

鳳翔「はい」

龍驤「分かったで!」

提督「漣は鳳翔と龍驤の前面を守れ。二人の艦載機の援護を受けながら敵の小艦艇の湾内侵入を阻止せよ。また同時に、敵艦による鎮守府施設への砲撃も防いで欲しい」

漣「はいっ、ご主人さま!」

提督「空襲及び砲撃から最低限防御しなければならない施設は、司令部と第一埠頭だ。この二カ所を破壊されることは鎮守府の機能停止を意味する。逆に言えば、それ以外の施設の保護は戦力の許す限りで構わない。甚大な被害は元より承知だ」

提督「そして全員、必ず湾内に留まって戦え。外洋は非常に危険な状態だ。わざわざ釣られて餌になりに行く必要は無い。こちらの目的はMI派遣艦隊の帰還まで鎮守府機能を維持し、時間を稼ぐことだ……忘れるな」

提督「最後に漣、大破した場合どうする?」

漣「作戦を放棄、安全を確保、迅速に後退……です」

提督「それで良い。久々だがきちんと覚えていたな」

漣「漣一人で出撃していた頃は、毎回言わされましたからね。忘れようがありませんよ」ハァ

提督「さて、何か質問は?」

シーン

提督「以上だ。諸君の奮戦に期待する。出撃せよ」

漣・龍驤・鳳翔「……」ビシッ

龍驤「鳳翔はん、ウチの弓も持って先行っといてや!ウチが箱全部持ってくわ!」ヨッコイショ

鳳翔「分かりました!」タッ

龍驤「ええい、えらいこっちゃで、ほんまに……!」ダダッ

バタン

漣「……そういえばご主人さま!工廠の方はどうするんですか?多分、吹雪ちゃんと整備兵さんが……!」

提督「それに関してはもう手を打ってある。救援を向かわせるつもりだ」

漣「でも、漣たち三人以外にもう戦力は……」

間宮「間宮、参りました」ガチャッ

提督「来たか」

漣「間宮さん?……って、どうして14センチ砲を?」

提督「出来ればこういった任務はもう命じたくなかったが……理解してもらいたい」

間宮「もちろんです。鎮守府の危機に、ただ見ているだけとはいきませんから」

漣「まさか、間宮さんも戦うんですか……!?いくら艦娘とは言っても、戦闘経験が無いなんて危険過ぎま……」

間宮「いえ、経験ならありますよ。もう、かなり昔のことになってしまいましたが」ニコ

漣「……え?」

提督「漣の……そして、全艦娘の先輩だからな。間宮は」

漣「先輩……?つまり、それなら……暮の近くに突然現れた『最初の艦娘』は……!」ハッ

間宮「黙っていてごめんなさい。そう……私が、私の知る限り一番昔からいる艦娘なの。前線に出ていたのは、漣ちゃんや提督が着任するよりもっと前の話だけれど」

漣「謝る必要なんて無いです……。でも、なぜ……」

間宮「私が、給糧艦としての任務に専念したいと言ったの」

提督「間宮の戦闘の腕は確かだ。深海棲艦との戦争の最初期には、全国各地で警備に参加し華々しい戦果を挙げている。知る者は少ないがな。……しかし、間宮は給糧艦だ。本来の職務に就きたいという陳情を受け入れ、今のような措置を取っていた」

漣「そうだったんですか……」

提督「間宮はこれより岸伝いに海上を通って工廠へ向かい、白雪および整備兵と合流せよ。その後全員でこちらへ戻るか、工廠側で独自に防戦するかの判断は任せる。判断結果の連絡は不要。以上だ」

間宮「了解しました」ビシッ

漣「あの……気をつけてください」

間宮「ええ。漣ちゃんもね」スタスタ

バタン

漣「……」

提督「漣もそろそろ出た方が良い。いつ敵艦が鎮守府の目の前に現れるか分からん」

漣「ご主人さまはどうするんですか?」

提督「俺はここで、他鎮守府と通信しながら情報を集める。今はとにかく状況を知ることが重要だ」

漣「待ってください!この司令部は海から近すぎます。空襲はともかく、敵の砲弾が飛び込みでもしたら……!」

提督「そのために漣がいる。さっき言ったように、敵艦を沿岸砲撃の射点につかせないことも漣の任務だ」

漣「でも、もし漣がやられたら……」

提督「――漣」

漣「分かりました。……もし漣がやられそうになって撤退したら、どうするんですか?正面がガラ空きになりますよ?」

提督「それについては考えていない」

漣「どうして……!」

提督「……」ジッ

漣「……」ジッ

提督「あらゆる条件を加味しても、戦況は極めて不利だ。航空機だけでも戦力比は良くて一対三、悪ければどうなるか想像もつかない。……漣が負けるほどの敵であれば、どちらにせよ鎮守府前面で食い止める方法は無い。解決策が無いことを考えるよりも、内線の利を保持する方が重要だ」

漣「そんなに不利な戦況で、どうして迎撃なんて……」

提督「西日本の鎮守府で艦娘がいるのはこの暮だけだ。他の鎮守府の機能喪失は時間の問題だろう。ゆえにここが落ちれば、この先西日本全体が次の攻撃に対し全く無防備になる。……だからこそ、暮だけは抵抗しなければならない。それはここに残っている俺達の責務でもある」

漣「……」

提督「……すまない」

漣「……っ。いえ、分かっています……」

提督「もう一度命令する。出撃し、鳳翔と龍驤に合流せよ。損傷には必ず気を配れ」

漣「了解……しました」クルリ

漣「……ご主人さま」

提督「……何だ?」

漣(……)スーハー

提督「……」

漣「……やっぱり、何でもありません」ガチャリ

バタン

漣「……」ギュッ

【旧港】

白雪(工具も見つかったし、早く帰らなきゃ)パシャッ

白雪(やっぱり、海路だとすごく近く感じる……)スイー

白雪(……?)

深海艦戦「」ブゥン

白雪(し、深海棲艦の艦載機……!)

ドォン

白雪「きゃぁっ!」

白雪「……っ」カシャン

パァン

深海艦爆「」シュウウウ……

ボチャン

白雪(ど、どうしてこんなところに敵が……!?)

深海艦爆「」ワラワラ

白雪(う、嘘……あんなにたくさん……)アトズサリ

白雪「……ま、待って。冷静にならないと」

白雪(これ以上海にはいられないから、早く岸に上がって陸路で工廠に戻らなきゃ。整備兵さんや工廠妖精さんに伝えて避難してもらって……。よし……!)クルリ

白雪(とにかくこの岸を上がれば、あとは走って逃げるだけで……!)グイッ

深海艦戦「」ヒュッ

白雪(近い……っ!)サッ

白雪(……あっ、手が滑る……!)

バシャッ!

白雪「い、痛っ……」

深海艦爆「」グルグル

白雪(私を狙ってる……!)ダッ

ドゴォン!

白雪「はぁ……はぁ……」

深海艦爆「」ジリジリ

白雪(こんな状況じゃ、とても陸に戻れない……。一体どうすれば……)

深海艦戦「」クルクル

白雪「……」

白雪(数も多いし、たった一人じゃ、ずっと耐え続けることも……)サッ

深海艦戦「」ブゥン

深海艦爆「」ブゥン

白雪(直上……!投弾コースに入られた……!)カシャン

白雪(駄目、間に合わない……!)

――ドンッ!

深海艦爆「……?」

白雪「え……?」クルッ

整備兵「白雪っ!大丈夫か!」ガシャン

白雪「せ……整備兵さん!?」

整備兵「こっちから爆発の音が聞こえて、様子を見に来たんだ!白雪、俺が機銃で敵を追い払うから早く岸に上がれ!」

白雪「は、はいっ!」グイッ

整備兵「くそっ。近づくな……!」ドンッドンッ

深海艦爆「」ヒラリ

整備兵「まずい……白雪、左!」

白雪「!」サッ

深海艦爆「」クルクル

白雪「……整備兵さん!やっぱり、今すぐ陸に戻るのは危険です。戻れたとしても、その後で整備兵さんも私も爆撃されます。しばらく迎撃して、敵の勢いを削いでから逃げましょう!」

整備兵「ちっ。白雪がそう言うなら……」

整備兵(しかし、構造が分かっているだけの整備兵が扱う旧型の機銃じゃ、制圧力はたかが知れている)

整備兵「……けど、俺の機銃じゃ流石に当てるのは無理だ!こっちは敵を撹乱するから、白雪は始末を頼んだぞ!」

白雪「分かりました!」

【港】

ドォン ドォン

深海艦戦「」ブゥン

龍驤「戦闘機隊第一派、発艦したで!」

鳳翔「では、半数を上空直掩、半数を沖合に。私の部隊が既に敵第二派の迎撃に出ています」

龍驤「了解や。最初は不覚を取ったけども、次は鎮守府上空に入れさせへんで……よしっ、奴さんに目に物見せたれや!」

紫電妖精A「」ビシッ

紫電妖精達「」オー

漣「そこっ!」バシュッ

深海艦爆「」ボォン

漣「主砲、撃てっ!」ドゴォン

イ級「」グギッ……

ハ級「」ゥ……ガガッ……

龍驤「漣、大丈夫かー?」

漣「はいっ!……ぅわっ!」ヒョイ


深海艦爆「」ヒュッ

龍驤「おっと!……さっきから落としても落としても、ずーっとブンブンブンブンうるさいでホンマに……!」ヒョイ

鳳翔「増援を沖合で足止めするのと同時に、まずは私達の周りの敵機を追い払いましょう。……直掩隊!」

龍驤「せや。とにかくウチらの頭の上は安全にせな……」

ドォン!

漣「龍驤さんっ!」

龍驤「至近弾や、こんなん怪我にも入らへん!漣はとにかく湾の外と自分の上見とくんや!」

漣「」コクリ





紫電妖精B「」テキオオスギー

紫電妖精C「」コレマデデイチバン

紫電妖精A「」ヤツラハキョウリョク、ユダンスルナ

紫電妖精B「」ヘイッ

バババッ

深海艦戦「」ボフン

紫電妖精C「」テキ、ニジ、サンジ、クジホウコウ……クッ

紫電妖精A「」ドウシタッ

紫電妖精C「」ヒダンナレド、セントウニシショウナシ

紫電妖精B「」オドロカセルナヨー

紫電妖精A「」サンカイ-!コウドアゲ-!

龍驤「何やあの艦載機……数も数やけど、動きが異常に鋭いで」ダッ

鳳翔「本土攻撃のために温存されていた主力なんでしょうか……!」ザッ

龍驤(アカン。このままだと、数に任せて一機ずつ切り取られていくだけや。戦力を集中せな……)

龍驤「直掩が不利や。増援出すで!」スッ

鳳翔「予備機はまだありますね。それなら大丈夫です!……ええ、はい。ええ……」

龍驤「どうしたんや?沖合から通信か?」

鳳翔「……敵第二派の規模が大きく、そちらでも先遣隊が数で圧倒されているとのことです」

龍驤「奴ら、どれだけ蓄えとったんや……!」

鳳翔「ですので……帰投命令を出して一旦戦線を下げましょう。幸い速度では負けていませんから逃げることはできます。良いですか?」

龍驤「ええで。そうするしかないやろうし……」

漣「すみません、しばらく上空お願いできますか!敵の雷巡が来ていて……!」

龍驤「分かった!今行かせるで!」

ボンッ

紫電妖精C「」クソッ

紫電妖精B「」ヒトリヤラレタゾッ

龍驤「……っ」

【旧港】

整備兵「はぁ……はぁ……」

整備兵(相変わらず敵機は飛び回ってるが……かなり減ったんじゃないか?)

カラン

整備兵(しかし、もう機銃の弾が底をつきそうだ。引き際を逃すわけにはいかない……!)

整備兵「白雪っ!そろそろ陸に上がれそうか!」

白雪「行ける……かも、しれません……!」バシュン

整備兵「それじゃ、三つ数えたら岸壁に向かうんだ!その間は俺が撃ち続ける!」

白雪「は……はい!」

整備兵「いち……に……さん!」

白雪「」ダッ

ドォン ドォン ドォン

白雪「」グイッ

深海艦爆「」ブゥン

整備兵(来るなっ……来るなっ!)ドォン

深海艦戦「」グルグル

整備兵「……退けっ!」ドォン

白雪「はぁっ……はぁっ、の、登れました!」

整備兵「走れ!こっちだ!」

白雪「は、いっ……」

深海艦爆「」ギロッ

ドゴォン!

白雪「きゃ……ぁぁぁっ!」

白雪(当たった……ダメ、吹き飛ばされる……っ!)

整備兵「白雪っ!」

整備兵(こ、このままじゃ白雪がコンクリートに突っ込むぞ……!)

整備兵「」ダッ

白雪「……っ!」

ギュッ

白雪「え……?」ウスメ

整備兵「ま、間に合った……ぞ。白雪が、か、軽くて良かった……」ゼエゼエ

白雪「せ――整備兵さん!……痛っ。すっ、すみません……さっきの爆撃で……」ギュッ

整備兵「大丈夫だ。ここからは任せろ。とりあえず工廠まで行くぞ!」ダッ

【港】

鳳翔「敵第四派、引き上げていくようです!……っ」ヨロッ

龍驤「鳳翔はん、無理して叫ばんでええ。さっき撃たれてるやろ。……おーい、まだ残ってる機は戻ってくるんや!誰かおらへんのか!」

紫電妖精A「」ココニ

龍驤「他の機はどこや……まだおるんやろ……?」

紫電妖精A「」フリフリ

紫電妖精A「」ウツムキ

龍驤「……何て、何てことや」

龍驤(稼働機は全部直掩に回した。敵の攻撃もことごとく退けた。……そして、残っとるのはたった一機)

龍驤「地獄や。し、正気の沙汰やない……」ブルブル

鳳翔「龍驤さん……今の攻撃時の戦果は撃墜確実二十機以上、未確認三十五機以上。こちらの損害は未帰還七機です」

龍驤「は、ははっ……大戦果やなぁ。ウチらの戦闘機隊はもう全員余裕でエースや。勲章で矢筒が重くなるで」

龍驤(こんなん、どうしろって言うんや。敵を味方の何倍落としても、あっちはまるで何にもこたえてへんみたいや……!)

鳳翔「龍驤さん、予備機は残っていますか?」

龍驤「悪いんやけど、もう見ての通りすっからかんや。今の空襲で全部削り尽くされたわ」

鳳翔「私も同じです。今飛んでいるのはあの子だけ……」

紫電妖精A「?」クビカシゲ

鳳翔「残念ですが……潮時、ですね。これ以上ここに踏みとどまろうとすれば、私達自身が危険にさらされます」

龍驤「……分かっとる。……分かっとるで」

漣「けほっ、けほっ……ど、どうかしましたか?」ザッ

龍驤「艦載機が尽きたんや。もうこれ以上は持ちこたえられへん」

漣「そ、それじゃ……」

鳳翔「このままでは漣さんも危なくなります。確か、漣さんは中破していましたね?」

漣「……」コクリ

鳳翔「それなら尚更です。……撤退しましょう。司令部に戻って、次の空襲までに提督の指示を仰ぎます」

漣「……っ」ギリッ

龍驤「さざな……」

漣「――いえ、大丈夫です。……冷静な判断くらいできますヨ」アハハ

ポロッ

漣「あ……あれ?」ポロポロ

龍驤「……漣、泣くのにはまだ早いで。戦って戦って戦って、撤退してもまた戦って……そして勝って、思いっきり泣けるくらい安全になったら、そのとき初めて泣くんや」

龍驤「これで、もう何もかも終わったんか?そんなわけないやろ?」ニッ

漣「は……はい。すみ……ません」ゴシゴシ

龍驤「ほな、先に執務室に戻るんや。状況報告、きちんと頼むで」ポンポン

漣「」コクリ

タッタッタッ……

鳳翔「立派な先輩でしたよ。龍驤さん」

龍驤「……ま、ウチにだって漣の気持ちは痛いほど分かるわ」

鳳翔「さて、それでは……この箱をどうするかですね」

龍驤「中身は全部二一型なんやったっけ?」

鳳翔「はい。工廠の倉庫が一杯になったので、一部の旧型機を執務室に移していたそうです」

龍驤「……正直、性能面からだけ言わせてもらうと、二一型なんてもう役に立つとは思えんわ。敵の艦載機は、ウチらの紫電改二や寄越日の烈風に対抗できるような代物なんやで」

鳳翔「含みがありますね?」

龍驤「せやけど……まあ、時間稼ぎにはなると思うわ。何も無いよりマシや。とりあえず発艦させて、ウチらが下がってからも出来る限り防空するように指示するしかあらへんやろ」

鳳翔「残酷なことを言うんですね。帰還の予定も無い出撃なんて」

龍驤「……妖精は無限に生まれてくる道具や。死ぬんやなくて消費される、消耗品や。人間や艦娘とは違うんやで」

鳳翔「龍驤さんが、本当にそう思っているなら良いのですが」ニコ

龍驤「……発艦準備始めるわ。敵の航空隊がいつ現れるかも分からへん」

鳳翔「私が半分受け持ちましょうか?」

龍驤「せんでええ。怪我しとるやろ。全部ウチが出すわ」スッ

鳳翔「小破ですから発艦は出来ますが……ありがとうございます」ニコ

鳳翔(汚れ仕事は自分で……ですか。……やはり嘘つきですね、龍驤さん)

ブゥン

龍驤「よしっ、あんまり沖合に出過ぎるんやないで!ウチらは一旦下がるけど、また迎えに来るから……」

……ズキン

龍驤「……迎えに来るから、それまで頑張って耐えるんやで。紫電のキミは、隊長機として頑張るんや」

紫電妖精A「」ビシッ

零戦妖精達「」ビシッ

龍驤(いつもと何にも変わらへん出撃やな……嘘の気配なんて、微塵も感じへんままで)

龍驤(……最低や、ウチ)

龍驤「これで全機発艦完了や。……さっさと下がるで」クルリ

鳳翔「はい。では――っ!?」

龍驤「?」

鳳翔「龍驤さん!今の戦闘機隊、爆装させましたか!?」

龍驤「は?おかしくなったんかいな。迎撃に行く戦闘機を爆装させるわけあらへんやろ」キョトン

鳳翔「ですが、見てくださいっ!」

龍驤「増槽と見間違えとるんや……なっ!?」

龍驤(ほ、ホンマや……!)

龍驤「まっ、待つんや!全機帰投!爆弾を投棄して帰投や!」ブンブン

零戦妖精達「」フリフリ

龍驤「何や、聞こえてへんのか……?」カチャカチャ

龍驤(……無線が入らへん。壊れたんやろか)カチャカチャ

龍驤(いや、どこも異常あらへん……どうして返答せえへんのや)

龍驤「鳳翔はん、ちょっち無線貸してくれへん?ウチのがなんでか知らへんけど使えへ……どないしたんや?」

鳳翔「……」

トンツーツートントントン……

龍驤「あ、鳳翔はんも無線聞いとるんか?どこからや?」

鳳翔「……先ほどの、紫電からです」

龍驤「ほな、鳳翔はんから言ってやってくれや。はよ帰って来いって。……それで向こうは、出発早々わざわざ無線で何を言っとるんや?」

鳳翔「……我、これより敵機動部隊を求め決戦す」

龍驤「は……な、何やて……?」

鳳翔「現状を鑑みるに敵の兵力大きく爆撃止む気配なし。海岸における邀撃も我が方の損害を徒に増すのみなり。よって本部隊は空襲の間隙を突き敵機動部隊を捕捉、我が身を以て一挙之を撃滅し戦局を覆さんとす……」

龍驤「ばっ――!?」

鳳翔「航空母艦、龍驤。き、貴艦の未来に……栄光と、勝利あれ。……い、以上、です」

龍驤「……」

鳳翔「り、龍驤さん……?」


『――例えば、一度の攻撃で早急に敵の戦力を削らなきゃならない時局柄』

『あらゆる航空機が使われたけど、代表は零戦――』

『――敵の航空兵力がこちらより圧倒的に勝っているときは』

『どうせなら――』


龍驤「……無線、寄越すんや」パシッ

鳳翔「……」

龍驤「な、何を……」

龍驤「……何を馬鹿なこと言っとるんや自分らぁっ!?」ダンッ!

龍驤「そんなこと出来るわけが無いやろっ!奴らは絶対待ち構えとる!そんなことしようとしたら自分ら全員死ぬんやで!誰にも見られへんままその辺の適当な海で犬死にするんやでっ!?」

龍驤「自分らが何しようとしてるんか分かっとるんか!?自殺や!自分らは勝手に死にに行こうとしとるんやっ!」

龍驤「せやから、今からでもはよ戻ってくるんやっ!母艦命令や!ほら聞こえてるんやろ!何か言うてみいや!?」

『……』

龍驤「ど、どうしてや……どうしてウチの命令を聞けへんのや……。自分らはウチの航空隊や……ウチの航空隊なんやで……」ポロリ

『……』

龍驤「お願いや……頼む、頼むから、聞いてくれや……ウチの……ウチの航空隊の……」ボロボロ

『……』

龍驤「」フラリ

龍驤「ま、待ってくれや……置いていかへんでくれ……ウチを……一人にせえへんで……」ヨロヨロ

鳳翔「……」ギュッ

龍驤「何するんや、鳳翔はん……あれはウチの子達やで……ウチも、ウチも行かへんと……」

鳳翔「いけません」

龍驤「何でや……何なんや自分……おい、離せ言うとるやんけっ!」

鳳翔「いいえ、離しません。絶対に」ジッ

龍驤「……」ギロリ

鳳翔「……」ジッ

龍驤「ぁ……あぁ……」

龍驤「……もう、わからへん……なんで……なにが……」ヘタリ

鳳翔「大丈夫です。分かるまで、私がずっと一緒にいますから……」

本日はここまで。
かなり間が空いてしまいました。次回は来週中にはやりたいです。

【暮鎮守府沖】

零戦妖精B「」イヤー、ヤッチャッタ

零戦妖精C「」ヤッチャッタネー

零戦妖精C「」オオバクチ、ッテヤツー?

零戦妖精B「」ジッサイ、コノママジャマズイシ

零戦妖精C「」デモ、ドウヤッテカツノ-?

零戦妖精B「」マズ、バクダンオトシテ-

零戦妖精B「」フネシズメテー

零戦妖精B「」ソノアト、ヒコウキオトシテー

零戦妖精B「」ショウリ?

零戦妖精C「」ソレ、デキルノ?

零戦妖精B「」……サア、ネ

零戦妖精B「」ヤレルダケヤル、ッテコト

ブゥン

零戦妖精D「」タイチョウ!

紫電妖精A「」ドウシタ?

零戦妖精D「」テキキドウブタイ、ハッケンシマシタ

紫電妖精A「」キタカ

紫電妖精A「」……シンロ、ヒガシヘ

零戦妖精達「」ビシッ

紫電妖精A「」チョイチョイ

零戦妖精D「」コクリ

紫電妖精A「」ココデリダツセヨ

紫電妖精A「」アトハ、ケイカクドオリニ

零戦妖精D「」ビシッ

零戦妖精D「」クルッ

紫電妖精A「」サア、イクゾ

零戦妖精達「」オー!





空母ヲ級改flagship「……敵ノ戦闘機隊、方位120、距離20000」

空母棲姫「来タカ」

ヲ級改「敵機ハ少数……旧式機バカリ。攻撃隊モ随伴艦艇モ、無シ……」

空母棲姫「奴ラ、ヤケデモ起コシタカ?ワザワザ墜トサレニ来ルトハ、阿呆共メ……」

空母棲姫「スグ迎撃準備ダ。迎撃ガ終ワッタラ、次ノ爆撃隊ヲ出セ。奴ラノ鎮守府ヲ今度コソ焼キ尽クス」

ヲ級改「……」コクリ

空母棲姫(……他愛無イ)

零戦妖精B「」ミエタ!テキカンタイダ!

零戦妖精C「」クルゾ、キヲツケロ-

深海艦戦「」ヒュッ

バババッ

深海艦戦「」シュウウウ……

紫電妖精A「」カマウナ、ススメッ!

深海艦戦「」ブゥン

零戦妖精B「」マズ、バクゲキダッ

零戦妖精C「」テキカンニチカヅケ!

ドォン ドォン

零戦妖精C「」タイクウホウッ!

紫電妖精A「」クッ……モチコタエロ!

零戦妖精達「」リョウカイッ





ヲ級改「……行ケ」カシャン

ヲ級改「制圧隊発艦、迎撃ヲ開始……。敵機ハ全テ爆装」

空母棲姫「爆装ダト?本当ニ死ニニ来タトシカ思エナイナ。鈍重ナ機体デ、機動部隊ニ正面カラ挑ムナド……」

ヲ級改「アイツラ、マルデ怖クナイミタイニ、無理矢理突入シテ来ル……」

空母棲姫「……ソレナラ、アノ馬鹿ナ妖精共ヲ、一人残ラズ海ノ藻屑ニシテヤルダケダ」

空母棲姫(ヤハリ奴ラハコノ程度ダ……アノ時カラ、ズット)





ボォン

零戦妖精「」ウッ

零戦妖精B「」ダイジョウブカッ

零戦妖精「」スマナイ……

グシャッ

零戦妖精C「」アキラメルナ!ココヲヌケレバ……

空母棲姫「……撃チ落トセ」

深海艦戦「」ブワッ

ヲ級改「……」

バリバリバリッ!

零戦妖精C「」クソッ

零戦妖精B「」バクダンナンテ、オトセルワケ……!

零戦妖精C「」ドウスレバイインダ!?


零戦妖精E「」ブゥン


紫電妖精A「」マテ、コウドヲサゲルナ!

零戦妖精B「」オイ、ドコニ……

零戦妖精E「」ジッ

ヒュウウウ――

軽母ヌ級「……ッ!?」


――ドゴォン!


ヌ級「」ドシャッ

零戦妖精B「」ゴ、ゴバンキガ……

零戦妖精C「」ツッコンダゾ!

紫電妖精A「」ナンダト!?

ヲ級改「敵ガ一機、自爆シタ。多分、ワザト」

空母棲姫「下ラナイ、本当ニ下ラナイ。……反吐ガ出ル」

零戦妖精「」ソウ、ソウカ……!

零戦妖精「」タダデヤラレルクライナラ……!

ヒュウウウ―― ヒュウウウ――

紫電妖精A「」オイ、ハヤマルナッ!

アトハタノンダ……!

サキニイクゾッ

マケルカ……ウワァッ!

紫電妖精A「」ソン、ナ……

ヲ級改「トニカク空母ヲ狙ッテイルミタイダ……コッチニモ来ル」

空母棲姫「無謀ナ上ニ、大物狙イカ……無視シテ撃チ続ケロ。アンナ物デハ、突入スル前ニ木端微塵ダ」

零戦妖精C「」タイチョウ、トメナイトッ!

零戦妖精B「」ナンテコッタ……!

紫電妖精A「」ボウゼン

グシャッ

紫電妖精A「」……ッ

ボチャッ

紫電妖精A「」


――グラリ


紫電妖精A「……?」

零戦妖精B「」……イヤ、イッソノコト

紫電妖精A「…………っ」

零戦妖精C「」ゼンインデ……


紫電妖精A「………………待、て」


零戦妖精達「」クルリ

――ボウッ

紫電妖精A「……聞こえる、か?」

零戦妖精達「……?」グラリ

紫電妖精A「思い、出してくれ……。いや……思い出さなくて、良い。覚えている、だろう?」

零戦妖精達「…………!」

――ボウッ

空母棲姫(何ダ、アレハ?……妖精共ノ体ガ、光ッテイル?)

ヲ級改「青イ光……見タコト無イ、光」

紫電妖精A「そう……覚えている。覚えて、いるんだ」

空母棲姫「……?」

零戦妖精「……覚えて、いる」ブゥン

ヲ級改「奴ラガ下ガッタ。追イカケサセ……」

空母棲姫「イヤ、待テ。少シ様子ヲ見ル」

ヲ級改「……」コクリ

零戦妖精「……この前、化け物と戦った」

零戦妖精「……その前も、化け物と戦った」


「その前も」

「その前も」

「その前も、その前も、その前も、その前も――」


空母棲姫「……マサカ」


「そして」

「遥か前の」

「そのまた前の前」

「化け物じゃない」

「俺達と同じ人間を乗せた」

「鉄の塊と」

「――本物の、フネと」


ピカッ

ヲ級改「……眩シイ」

空母棲姫「クッ……」サッ

零戦妖精B「……隊長、いやに久方ぶりな気がしますよ」

零戦妖精C「そりゃ、もう七十年は会っていませんでしたからね」クルッ

零戦妖精B「会ってはいたじゃないか」ニヤリ

零戦妖精C「……それもそうだ」ハハハ

紫電妖精A「まさかもう一度……もう一度、皆と隊を組めるとは」

零戦妖精B「皆が思っていますよ。ここにいる皆が……」

零戦妖精C「ええ、そうです」ニコ





紫電妖精A「……」ブゥン

ヲ級改「一機、真ッ直グ向カッテクル。多分、マタ自爆スル気」

空母棲姫(……気ノセイダッタカ。結局ハ、何モ成長シテイナイトイウコトダ)

紫電妖精A「……」

空母棲姫(アノ戦争ノ時ト、何一ツ変ワラナイママ)

空母棲姫(愚カナママデ、繰リ返スダケ)

空母棲姫「……撃テ」

紫電妖精A「……今だ」クルリ

空母棲姫「何ダト……!?」

零戦妖精B「背後がお留守だぜ?」サッ

零戦妖精C「余所見は良くないな」スッ

ドゴォン ドゴォン

重巡リ級「グァッ!」

軽巡へ級「ゥグウッ!」

空母棲姫「……陽動カ」

零戦妖精B「いやぁ、上手くいったな」

零戦妖精C「内心は緊張したがな……」

紫電妖精A「……良い動きだった。弛んではいないようだな」ブゥン

零戦妖精達「……」スイー

零戦妖精達「……隊長に、敬礼ッ!」ザッ

零戦妖精B「さあ隊長、命令をお願いします」

紫電妖精A「……ああ」コクリ

紫電妖精A「良く聞いてくれ。もう我々の後に味方は来ない。我々が最後の望みだ。ここに残っている我々こそが、本土を守る唯一の御盾だ」

紫電妖精A「だから決して、自分達の機体と身体を無駄にしてはならない。自棄を起こして敵艦へ突入するなど、言語道断と思うように」

紫電妖精A「爆弾を投下し終えたら機銃を撃つ。撃ち尽くしたら回避機動で他の機の囮になる。燃料が尽きたなら、そのとき初めて突入のことを考えるんだ」

紫電妖精A「そしてその後は……そうだな。また、我々が飛び立った母港で――」

深海艦戦「」ヒュッ

バシュン

深海艦戦「」ボォン

空母棲姫(サッキマデト動キガ違ウ。ヤハリ何カ……)

紫電妖精A「――暮で、会おう」サッ

零戦妖精達「……」ビシッ

紫電妖精A「先頭に出る。……続いてくれ」

ブゥン

空母棲姫「……迎撃ダ。一機モ帰スナ」

空母棲姫(無駄ナ、足掻キヲ……)

【工廠裏】

整備兵「はぁっ、はぁっ……」

整備兵(何とか振り切ったか……)

整備兵「大丈夫か?」

白雪「はい……私は。でも、艤装はかなりやられてしまって……主機も魚雷も駄目です」

整備兵(……どう見ても大破している。次敵機に出会ったら、一方的にやられてしまうだろう)

整備兵「とりあえず、工廠に入ろう。工廠長達に避難を呼びかけないと」

整備兵(それとできれば、白雪を応急手当してもらう必要があるな……。艤装が負傷を肩代わりするとは言っても、白雪自身へのダメージが心配だ)

整備兵「悪い、一旦降りて背中に乗ってくれ。前に抱えるのは効率が悪い」

白雪「へ、平気です。自分で歩けます……から……」ヨロッ

整備兵「ふらついてるじゃないか。……今はとにかく無理をしないでくれ」

白雪「……すみ、ません」ウツムキ

整備兵「ほら」ポンポン

白雪「……」ギュッ





【工廠】

ワイワイ ガヤガヤ

工廠長「若造!」

整備兵「工廠長!良かった……!」

工廠長「急にいなくなるんじゃねェ。一体どこほっつき歩い……」

整備兵「大事なのはその話じゃない!今、鎮守府が深海棲艦の空襲を受けてるんだ!」

工廠妖精達「っ!?」ビクッ

工廠長「何だとォ!?」

整備兵「工廠にはまだ来ていないみたいだが、司令部も攻撃されている。俺は今さっきまで、白雪を探しに行ってたんだが……」チラリ

白雪「……」

工廠長「……襲われたのか。こいつはまずいな」チッ

整備兵「この工廠も、入口の扉の外はすぐ海だ。早く逃げないと、多分ここも危ない」

工廠長「分かった。……よし!作業は中止、裏から内陸へ避難しろ!指揮はお前だ!」

工廠妖精A「了解でさぁ!」

工廠長「それと……そこのお前!お嬢ちゃん用の修理道具を最低限運び出す。手伝え!」

工廠妖精B「はいっス!」

整備兵「白雪、もう少しの辛抱だ」

白雪「分かりました……」

ヒュウウウ―― 

白雪(……?)

整備兵「どうかしたか?」

白雪「今、何かの音が……」

――ドゴォン!

工廠「」グラッ

工廠妖精B「ば、爆撃っス!真上っス!」

工廠長「クソッ、もう来たってのか!?」

工廠妖精A「工廠長!作業中の工員、全て裏口へ向かいました!」

工廠長「おう、お前も出ろ!その先の誘導も任せたぞ!」

工廠妖精A「工廠長もお気をつけて!」ダッ

整備兵「工廠長、俺達も早く行こう!修理道具を取ってる暇なんて無いぞ!」

工廠長「んなことは分かってる!じゃあ、全員急げ!外へ出たら、その後は……」

グラグラッ

工廠妖精B「ぅわっ!」ドテッ

白雪「う、上、見てくださいっ!」

整備兵「え……!?」

整備兵(嘘、だろ……!天井が、砕けて、落ちて……)

工廠長「――退きやがれっ!」ドンッ

工廠妖精B「――っ!」ダッ





整備兵「……うぅ……っ」ムクリ

整備兵(俺は、一体……どうしてこんな、瓦礫の中に……)キョロキョロ

整備兵(……そうだ、工廠の天井が崩れて……!)

白雪「」ウズクマリ

整備兵「白雪!」ダッ

白雪「そん……な……、こんな、こんなの……」

整備兵「何かあるのか?そこに……っ!」

工廠妖精B「良かった……っス……白雪さん、無事、だったんス、ね……」

整備兵「お、お前、それっ……!?」

白雪「て、鉄柱が落ちてきて……私をかばって、この妖精さんが、代わりに……」

工廠妖精B「毎日、鉄材を扱ってたら……背中から、て、鉄パイプ生えてきたんっスよ……なんて、ははっ……」

整備兵「い、意味分からない冗談言ってる場合か!」

工廠妖精B「それなら、冗談じゃないこと……言わせて……もらうっス。整備兵殿、白雪さんに……伝えて、くれると、嬉しいっス」

整備兵「おい……!」

工廠妖精B「白雪さん……いつもいつも、楽しかった、っス……。白雪さんの、笑顔を、見ていたら……疲れも、吹き飛ん……で……」

工廠妖精B「工廠に来て、くれるのが……待ち遠しかった……っス。できれば……もう一度、元気な姿を見たかったっス……けど」

工廠妖精B「……整備兵、殿。とりあえず、今のところは……白雪さんのこと、任せておくっス……。絶対に、守って……やるっス」

整備兵「待っ……!」

工廠妖精B「ついでってわけじゃ、ないっスけど……整備兵殿も、今まで……ありがとうございましたっス。敵と思ったことも、あったっスけど……実は結構、感謝してる……っス」

白雪「妖精……さん……!」

工廠妖精B「ごめんっス……。もう……白雪さんの、顔も……見えな……く……」ヨロッ

ドサリ

工廠妖精B「……」

整備兵「……そん、な」

整備兵(あの、いつでも近くにいた妖精が……目の前で倒れている?動かない?どういうことだ?)

整備兵(嘘だ……こんなことが、あってたまるか……。今さっきまで、工廠長や他の工廠妖精と一緒に……工廠長?)

整備兵「……工廠長はどこだ!?」ハッ


工廠長『――退きやがれっ!』ドンッ


整備兵(工廠長も、さっき俺をかばって……!)キョロキョロ

工廠長「……」グッタリ

整備兵「――工廠長っ!」

工廠長「おう、若造か。……あいつはどうした?」ゼエゼエ

整備兵「白雪をかばって、鉄柱が……背中に……」

工廠長「流石、俺の部下だな。ちゃんと、やるべきことが分かってやがる……」

整備兵「工廠長も、その、瓦礫……!」

整備兵(工廠長の体が見えない……レンガやら柱やらがごちゃ混ぜになった山に、埋もれている)

整備兵「」グッ

工廠長「あァ……引っ張ろうとしても、無駄だ。見くびるんじゃねェぞ?簡単に抜ける程度なら、とっくの昔に自分で這い出てるからな」

整備兵「それなら……!」

ガシャン ガサガサッ

整備兵(くっ……重い……)

工廠長「手でどかしてたんじゃ、何年かかるか分からねェよ。……じきにまた敵機が来る。お嬢ちゃんを連れて、早く逃げるんだな」

整備兵「そんなこと……出来るわけないだろ!工廠長を連れて行くまでは、絶対に逃げないからな……!」

工廠長「若造……」

整備兵「……」ジッ

工廠長「……」

工廠長「若造の癖に強情だな。……そう言うなら、逃げる前に少し話でも聞くか?」

整備兵「話なら、工廠長を助けてからいくらでも聞く!だから、諦めるようなことを言……」

工廠長「――若造。俺達の正体ってのは、もう知ってるか?」

整備兵「なっ……!」

工廠長「……やっぱり、知ってたか。女神の奴に聞いたんだろうな?」

整備兵「どうして、それを……」

工廠長「妖精の正体やら何やらを若造に教えてやるかどうか、あいつと相談したんだよ。……知らせることにしたのに、俺の口からは伝えられなかったがな」

工廠長「俺ァ、若造が知ることでこれからの工廠にも鎮守府にも、良い影響が出ると思った。少しづつでも、人間と妖精が分かり合うのが必要だと思った。……例えそれが、最初は信じられねェような突飛な話でもな」

工廠長「にも関わらず、俺は結局最後まで言えなかった。若造が信じるか、話が理解されるか……そこが何となく不安だった。躊躇いや迷いを、断ち切れなかった」

整備兵「……」

工廠長「でも、勘違いしてもらっちゃ困る。俺は若造のことを信頼していた。うだうだ言いながらも作業にはついてきたし、才能もあった……何よりも、若造は確かに、工員だった。俺達と同じように」

工廠長「今だから言うが……初めて会ったとき、俺の声が聞こえていることに気づいて内心は本当に驚いた。下手な接触を持たないために、話すのをやめようかとも考えた。もしそうしていたら、若造は俺の声を気のせいだと思って、何もかも無かったことになっていただろうな」

工廠長「……だが、俺はあえて話し続けようと思った。今思えば、若造が重なったのかもしれねェな……ああ、そうかもしれねェ」

整備兵「重なった……?」

工廠長「昔の俺達に……三度の飯より機械が好きで、工員が世界一の職業だと心の底から信じ込んでいる馬鹿共に、だ」

整備兵「……」コクリ

工廠長「だから、俺が話せなかったのは、単に俺の臆病の問題だ。若造は良くやった。……もちろん、何事も手際良くとはいかなかったがな」

整備兵「……ありがとう、工廠長」

整備兵「俺も一つだけ、言っておきたいんだ」

工廠長「……」

整備兵「工廠長と初めて会う前から、工廠長のことは知っていたんだ」

工廠長「どういうことだ?」

整備兵「『暮海軍工廠の創設と発展』……俺が整備兵になろうと思った、きっかけの本だ」

工廠長「……そいつはまた、とんでもない縁だ。やっぱり、俺の目に狂いは無かったな」

整備兵「ああ。……その通りだ」

工廠長「……」

整備兵「……」

工廠長「行け、若造」

整備兵「それは出来な……」

工廠長「行けって言ってるのが聞こえねェのか!?」ジロリ

整備兵「」ビクッ

工廠長「さっきの話はさっきの話。今の話は今の話だ。……俺は工廠長、若造の上官だ。これは命令だぞ?」

整備兵「でも……!」

工廠長「でもも何も無ェ!若造は一人じゃねェんだぞ!?そこのお嬢ちゃんもここに放置しておくってのかァ!?」

整備兵「……」

工廠長「鎮守府の工員が、大破した艦娘を危険な場所に残したままにするのか!?工員の責務はどこに捨てて来た!?工員の誇りはどこに落として来た!?」

整備兵「……っ」

……ブゥン

工廠長「この音が敵の艦載機のプロペラ音かもしれねェぞ?ここに残って、お嬢ちゃんを俺と同じように瓦礫の下へ送るのか?違うだろォ!?」

整備兵「……くそっ、くそっ、くそっ!」グッ

工廠長「向こうの扉から別の部屋に行ける。裏口は潰れちまったかもしれねェから、とにかく走り回ってまだ崩れてねェ出口を探せ」

整備兵「……白雪、乗れ」

白雪「……」コクリ

整備兵「……工廠長、これだけは言っておく」クルッ

整備兵「今までも、これからも……どんなときでも、俺は工廠長を尊敬しているからな!」

整備兵「海軍も、機械も、工廠も……。俺に全部の始まりをくれた、工廠長を!」ダッ

ガチャリ

……バタン

工廠長「……」

深海艦爆「」ブゥン

工廠長「……けっ、口だけは一人前に叩きやがって」

【太平洋上 沖合】

瑞鶴「翔鶴姉、鎮守府まで後どのくらい?」

翔鶴「まだ、数時間は……」

瑞鶴「……」コクリ

翔鶴「瑞鶴……」

鈴谷「……あれ?」

熊野「どうしましたの?」

鈴谷「三時方向、多分……航空機?」ジー

川内「それ、本当にっ!?」

神通「本当です!確かに、何かがこちらに飛んできて……!」

那珂「きっと仲間だよ!本土からじゃないかなっ?」ワーイ

翔鶴「いえ、まさか……こんな状況で、友軍が現れるとは思えません。それも単機で」

瑞鶴「むしろ間違いなく敵よ!翔鶴姉、発艦準備出来てる?」

翔鶴「ええ。行くわよ瑞鶴。戦闘機隊、発艦始……」

鈴谷「ちょ、ちょっと待って!あれ……零戦じゃん!?」

翔鶴「何ですって!?」ピタッ

零戦妖精D「」フリフリ

瑞鶴「龍驤の隊……どうしてこんなところに。いや、そもそも、なんで龍驤が旧式の零戦を使って……?」

ピピピッ

瑞鶴「翔鶴姉、無線鳴ってる」

翔鶴「あの零戦からね……」スッ

翔鶴「……はい。…………はい」コクリ

ピッ

神通「何と言っていましたか……?」

翔鶴「鎮守府を空襲中の敵機動部隊が付近に展開している、その場所まで誘導するので撃破してもらいたい……と」

瑞鶴「そ、それって……!」

熊野「もちろん、願ったり叶ったりですわ。本土に戻るよりも早く空襲を止められるのでしたら……!」

翔鶴「皆さん、他の意見はありますか?」

シーン

翔鶴「分かりました。……それでは、本艦隊はこれより敵機動部隊の撃滅に向かいます。全員、対空警戒を厳にしてください!」

全員「はいっ!」

瑞鶴「……これで、暮のみんなを助けられるよね」ギュッ

翔鶴「ええ。……絶対に、助けるのよ」

【暮鎮守府沖】

空母棲姫「……状況ハ、ドウナッテイル?」

ヲ級改「敵機ハホトンド撃墜シタ。コチラ側デ損害ヲ受ケタノハ、護衛ノ小型艦ト戦闘機ガホトンド。空母と爆撃隊ハ無事」

空母棲姫(大物ヲ仕留メルノハ無理ト気付イテ、方針ヲ変エタカ。……ドチラニセヨ、影響ハ小サイ。空母ガ健在ナラ、爆撃ハ可能ダ)

ヲ級改「マダ飛ンデイル奴ハ、アノ一機ダケ」

深海艦戦「」ブゥン

紫電妖精A「……」グルグル

空母棲姫(機体ノマーク……隊長機カ)

空母棲姫「分カッタ。早クアレヲ片付ケロ。奴ラノ基地ガガラ空キノウチニ、空襲ニ戻ラナケレバナラナイ」

ヒュッ

ヲ級改「……!アイツ、コッチニ来ル」

空母棲姫「……五月蠅イ」スッ

バシュン バシュン

紫電妖精A「……っ」グラッ

シュウウウ……

ヲ級改「ビックリシタ」

空母棲姫「墜チタカ。全軍、モウ一度空襲ノ準備ヲ――」

紫電妖精A「」ジタバタ

空母棲姫「――ドコマデモ五月蠅イ奴ダ。良イ加減ニ……」

紫電妖精A「……しない。最後まで戦うと、友に約束したからな」ジッ

空母棲姫「……!オマエ、マサカ」

紫電妖精A「そうだ。お前達を水底に送り返すため、お前達と同じところから来た……お前達と同じ、人間だ」

空母棲姫「……フン。高尚ナ理想ヲ掲ゲタモノダナ。ダガ、オマエ達はマタシテモ負ケタ。敗北シタ。残念ダッタナ」

紫電妖精A「いや、俺達は負けていない。……違うな。お前達は、決して俺達には勝てない」

空母棲姫「勝テナイ?勝テナイダト?面白イ冗談ダ。コウシテ今コノ瞬間、オマエ達ハ一人残ラズ海ニ沈ンダジャナイカ?」

紫電妖精A「俺の仲間は、この飛行隊の戦友達だけじゃない。俺のいた鎮守府の提督、整備兵……お前達を倒すため戦っている人間が大勢いる」

空母棲姫「ハッハッハ!何ノ話カト思エバ、『今』ノ人間共ノ話カ!ソレナラ尚更取ルニ足ラナイ。アノ恩知ラズノ屑共ハ、私達ヤオ前達ノ事ナド何モ考エテナドイナイカラナ」

空母棲姫「私達ヤオ前達ガ恐ロシイ戦争ニ放リ込マレテ、モガキ苦シミ死ンデイッタコトモ、他人事カ何カノヨウニ忘レテノウノウト生キテイル。『今』ノ人間共ハ、ソウイウ奴ラダ」

空母棲姫「ソモソモ、ソンナ奴ラヲ何故守ロウトスル?オ前達ガ何ヲシテモ、奴ラガオ前達ニ目ヲ向ケルコトハ無イ。タダ使ワレ、マタスグニ忘レ去ラレルダケダ」

紫電妖精A「俺はそうは思わない。国の人間達は、俺達が考えられることよりも遥かに多くのことを考えている。むしろお前達の方が、新たなことを何も知らず、ただ未練がましくこの世に縋りついているだけじゃないのか」

空母棲姫「ナンダト!?」ダンッ

紫電妖精A「う……っ」

空母棲姫「何故分カラナイ?奴ラハ私達ヤオ前達ヲ蔑ロニシ、切リ捨テ、都合良ク闇ヘ放リ投ゲタ。ソシテ奴ラハコレカラ私達ニ敗北シ、無理矢理ソノ目ヲ開カレテ、罪ノ報イヲ受ケル!」

紫電妖精A「違う、違うな……。お前達も、本当は分かっているんじゃないのか?俺達やお前達のような存在が表舞台に現れても、何の意味も無い。今の世界は、今の人間のものだ。お前達は進歩できない。今の人間達は進歩できる。だからお前達は勝てない。今ここで俺には勝てても、絶対に、俺達には、勝てない……」

空母棲姫「――黙レッ!」バシュン


グチャッ


空母棲姫「……馬鹿馬鹿シイ。愚カナ奴メ」

空母棲姫「全部隊ニ告グ。コレヨリ敵根拠地ノ爆撃ヲ再開スル。航空隊ハ準備ガ出来次第発艦……」

ヲ級改「……」バタバタ

空母棲姫「何ダ?」

ヲ級改「北東ヨリ、敵ノ機動部隊ガ接近中。MIカラ帰ッテキタ艦隊ダト思ウ」

空母棲姫「チッ……モウ来タノカ。予想ヨリ早イナ。……ダガ問題無イ。戦ウ順番ガ変ワッタダケダ」

空母棲姫「空襲ハ延期スル。空母ハ直掩機ト偵察機ヲ出セ。鎮守府ニ向カッテイタ部隊モ、一旦帰投サセロ」

ヲ級改「……」コクコク

空母棲姫(ガラ空キノ敵根拠地ヲ破壊スルト同時ニ、MIデ疲弊シタ機動部隊ヲ釣リ上ゲテ壊滅サセル……ソウ、当初ノ作戦通リダ)

空母棲姫(無謀ナ強襲ハアッタガ、空母ハ全テ無傷。ドコモオカシナ所ハ無ク、全テハ順調ニ進ンデイル)

空母棲姫(……私達ハ、勝利スル)

【工廠】

整備兵(あちこちが崩れてしまっていて、良く知っているはずの工廠が全く別の建物に見える)スタスタ

整備兵(進んでいる方角も、たまに良く分からなくなるくらいだ)

整備兵(出口はどこなんだ……?)キョロキョロ

白雪「整備兵さん」ツンツン

整備兵「何だ?」

白雪「さっきから、爆撃の音がほとんどしていません。……空襲は止んだのでしょうか?」

整備兵「言われてみれば……」

シーン

整備兵「そうだな。一旦補給で引き返したか、別の場所に行ったか……」

整備兵(どちらにせよありがたい。後は出口が見つかれば……!)

整備兵「……?この部屋、もしかして正面から入ってすぐの部屋か?」

白雪「そう……だと思います。となると、いつも使っている出入口があるのでは……?」

整備兵「一応、探してみるか」

整備兵(まだ無事なら確かにそこから出られそうだが……正面の扉は開けるとすぐ海だ。出来れば、一番使いたくなかった出口だな……)

整備兵「……あったぞ。ここだ」

白雪「壊れてはいないみたいですね……」

整備兵(とは言え、不用心に開けて敵の艦載機と鉢合わせしたら万事休すだ)

整備兵「少し、外の様子を窺いながら待とう」

白雪「はい……」





整備兵(しばらく待ったが、プロペラ音も爆発音も聞こえることは無かった。……おそらく、問題無いだろう)

整備兵「開けるぞ?」

白雪「……」コクリ

ガラガラガラ……ガタン

整備兵(敵機は……)チラッ

整備兵(……いない)

ザザーン ザザーン

整備兵「よし。後は、さっさと……っ!?」

駆逐イ級後期型「」ザバッ

整備兵「なっ……」

イ級後期型「」クワッ

整備兵(砲口――!)

ドォン!

整備兵「うぁぁぁっ!」

白雪「きゃあああっ!」

――グシャッ

整備兵「深海棲艦……う、そんな……白雪!白雪っ!」ユサユサ

白雪「大丈……夫、です……。さ、流石に痛かったです……けど……。すみません、ちょっと……身体、動かなくて……」グッタリ

整備兵(既に大破していてこの損傷はまずい。白雪の身体が危険だ……!)

整備兵「逃げ、ないと……」

……ヒタッ

整備兵「!?」クルッ

イ級後期型「」ノソノソ

整備兵(深海棲艦が……陸に、上がってきた……!?)

整備兵(有り得ない。深海棲艦は沿岸までは来るが、陸上に現れた例なんて一つも……!)

イ級後期型「……」ギロリ

整備兵(次にあの口が開いたら、今度こそ俺も白雪も死ぬ……しかし白雪が動けない今、逃げ切るなんて無理だ。一体、どうすれば……!?)

整備兵(何か、何か、一瞬でも良いからあれを止められるものは……!)

12.7cm連装砲「」ボロッ

整備兵(白雪の主砲……これなら……!)

工廠長『考えてもみろ。人体の耐久力に対して反動が大きすぎる。艦娘は艤装が衝撃を肩代わりするから良いが――』

整備兵「……」

白雪「あれ……?私の、主砲……?」

整備兵(右手で掴み、左手で支えて……)

整備兵「……」カシャン

整備兵(砲身を向けて……強く握り込む。頼む、動け……!)

白雪「な、何をする気でっ――!?」

ドゴォン

イ級後期型「……グァァッ!」

……ボチャン

整備兵「……は、はははっ。やったぞ……!」ボトリ

白雪「整備兵さん!」

整備兵「な、何が、五体満足じゃいられない、だ……。どこも、痛くも、痒くも……」ガクッ

白雪「整備兵さん……!?う、腕がっ!右腕がっ!」

整備兵「え……?右手?右手が……どうか……」チラッ

整備兵(あぁ……)

整備兵(……確かに、な。丸ごと吹っ飛んでたら、痛みすら感じないかも、しれない……)ゼエゼエ

整備兵「だ、大丈夫だ……これでもう、あの深海棲艦は沈んだぞ。心配は、いらな……い」

白雪「心配なのは整備兵さんです!早く、こっちに来てください!傷口を塞がないと、血が……!」

ズ……ズズ……

白雪「」ビクッ

整備兵「何の音だ……?」

イ級後期型「ギ……ギギ……」

白雪「そんな……また、上がって……!?」

整備兵「……はぁっ……はぁっ」

整備兵(あいつを、殺さないと……。二度と白雪の前に現れないように、完璧に、完全に……)

コツン

整備兵(……そうだ、どうして思いつかなかったんだ。これなら、確実に仕留められる……。ほんの少し触るだけで、あんなものは、粉々に……)

整備兵「……」スッ

カチャカチャ……カチャリ

整備兵「お前が撃つのは……これ、だ」フラフラ

白雪「待ってください!どこに行くんですか!?そっちは海――」

整備兵(早く、行かないと……急げ、急いで、離れろ、白雪から……)

イ級後期型「ガ……ガァッ……」

整備兵(まだ……だ、まだ撃つな……。ここはダメだ、海の、海の中で……引きずり込んで……)ヨロヨロ

白雪(――魚雷っ!?どうして、そんな、何を……!?)

イ級後期型「」クワッ

整備兵「ざ、残念だった、な……もう目の前、だ」ニヤッ

グイッ

イ級後期型「……!」グラリ

ボチャン

白雪「――!?――――――!」





ピカッ




次スレ:【艦これ】整備兵「鎮守府で働け?」提督「そうだ」2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450955355/)

本日はここまで。次スレ立てましたが残りは後日談程度です。このスレは埋めてください。
次回は年内に。今度こそ予告通りにやります。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月20日 (月) 01:22:21   ID: lXspH_yR

面白い( ゚д゚)

2 :  SS好きの774さん   2015年04月20日 (月) 01:50:03   ID: b8RRacoJ

面白いです!更新が楽しみですね!

3 :  SS好きのBTOさん   2015年05月13日 (水) 17:01:42   ID: exb06dy-

面白いでち

4 :  SS好きの774さん   2015年05月18日 (月) 20:05:53   ID: On4pCphh

面白いです!

5 :  SS好きの774さん   2015年06月13日 (土) 15:42:45   ID: 5PRA6Ef_

面白くてとても続きが楽しみです。頑張ってください!

6 :  SS好きの774さん   2015年10月29日 (木) 02:15:59   ID: R-WMz3Xt

おもしろい!

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