モバP「watanuki project の話をしよう」 (22)

モバP「皆さん、初めまして。年度初めの目出度いこの日、然しそれでも、もし暇を持て余しているのであれば、少しばかり私の話を聞いてほしい」

モバP「私? 私はしがないプロデューサー。とあるアイドルのプロジェクトを引き受けた者だ」

モバP「まあ、そんなことはどうでもいい。私は、私などのことより、私の育てるアイドルたちの話をしたい」

モバP「あなただって、こんなむさ苦しい男の話などより、花を愛でるほうが好きなはずだと思う」

モバP「さて、私が支えさせてもらっているアイドルたちは、ソロデビューした子もいれば、ユニットを組んでいる子もいる」

モバP「彼女たちの紹介は、それぞれのデビュー事情ごとにしよう」

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モバP「まずは、プロジェクトの顔たるトリオを紹介しよう」

モバP「小柄な体にはち切れんばかりの情熱その他を宿す、片桐早苗(28)」

モバP「その年齢相応の瑞々しさと彼女個人のレトロな雰囲気が独特な世界を作り出す、長富蓮実(16)」

モバP「そして――ナウなヤングで若さ溢れるフレッシュガール、ウサミン星からやってきた、安部菜々(17)」

モバP「彼女たちこそが、我らがwatanuki projectの先陣を切っていった第一の矢、その名も」

モバP「“旧ジェネレーション”である」





モバP「“旧ジェネレーション”である」

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モバP「――わかっている。あなたたちの言いたいことはよくわかっている。事情はそれぞれ異口同音にこう言いたいのだろう?」

モバP「『このユニットは、おかしい』」

モバP「企画したのはこの私自身であるが、しかしながら実のところ、その自覚は、大いにある」

モバP「おかしなユニットを組ませてしまった、という自覚は。意外だろうか?」

モバP「例えば、そうだ。このユニットはバランスが悪い」

モバP「アイドルの特徴を、キュート、クール、パッションに分けたとき、キュート:蓮実・菜々、パッション:早苗で偏りがある」

モバP「どうせなら、片桐早苗のかわりに、キュートな雰囲気の子を入れるか、キュートのどちらかをクールと入れ替えるべきかもしれない」

モバP「次に、世代だ」

モバP「早苗が28と実にアダルティであるのに対し、蓮実が16、菜々が17と、二人はほぼ同年代であり、これも2:1で偏っている」

モバP「このメンバーでは、ジェネレーションギャップによるストレスで、メンバー間に余計な負担がかかるかもしれない」

モバP「最後に、ユニット名も懸案事項だろう」

モバP「“旧ジェネレーション”とは何事か」

モバP「“旧”とは何事か」

モバP「多数のアイドルを擁する一大プロジェクトのスタートダッシュを決める大事な一番手に、“旧”とはいったいどういうつもりであるのか! ……と」

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モバP「皆さんの考え至極もっとも」

モバP「自分でもそれらの問題について大きく悩んだ。一昼夜食事はのどを通らず、睡魔も私を迂回して営業していた」

モバP「しかし、しかしだ! たとえそれほど悩もうと、このユニットをひらめいた時の魅力には勝てなかった……」

モバP「――あれは、プロジェクトのメンバーを決める幾度目かのオーディションの時だった」

モバP「既に、早苗、蓮実を含む大方のメンバーが決まり、さてあと一人くらい入れるか入れまいか、と悩みながらのオーディションだった」

モバP「最後の一人は、伸びしろのある子がいいだろうと10代限定で行ったオーディション」

モバP「応募、抽選を経る形で、七名の少女で行うことになった」

モバP「一人、二人、三人……、美少女たちが会場に入ってくる。いずれも劣らぬ、群を抜いた輝きを持っている少女たちだ」

モバP「……が、何かが足りない。アイドルになったこの子を見てみたいと思わせるような、決定的な、何かが」

モバP「四人、五人、六人――。だめだ。今回は、締切、今日までのメンバーでプロジェクトの発足か……」

モバP「そして最後の七人目……。その少女もそれまでの六人と変わらぬ抜群の美少女だった」

モバP「しかし、なぜか、なぜか彼女には何かの引っ掛かりを覚えた」

モバP「それまでの六人とは、決定的な何かがずれているような……」

モバP「そういう形で私の感じていた違和感は、彼女の自己紹介を聞いたとき大きな衝撃と変わる」

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菜々『エントリーナンバー7番! ウサミンパワーでみんなをキュンキュンさせます! ウサミン星からやってきた安部菜々、17歳です。キャハっ!』

モバP『なんだ……この子は……』

モバP「いずれも劣らぬティーンエイジャーが並ぶ中、彼女だけが一人異彩を放っていた」

モバP「あまりにも在り来たり――ベーシックすぎるキャラづくり、あまりにもやりなれた感のある――経験を感じさせる媚びっぷり」

モバP「しかも、それらが今現在のトレンドからちょうど一世代ほどさかのぼったかのようなずれっぷり」

モバP「いや、あるいは彼女は本当に一世代上の人間で、サバ読んでオーディションを受けたのか……?」

モバP「そんなはずはない。仮にも今後の人生を左右するはずの、面接なのだ」

モバP「その大舞台で見栄を張って年齢詐称するような大人はいまい」

モバP「なんにしろ、ほかの候補者の面々にはとてもではないがまねできない、強烈な個性がそこにはあった」

モバP「そして、それを目の当たりにした瞬間、すでに決まっていた早苗、蓮実のキャラクタが脳裏をよぎり」

モバP「シナプスがスパークするような衝撃的な閃きを得た」

モバP「つまるところ――“旧ジェネレーション”でいこう……!――と」

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モバP「一筋縄でいかぬトリオであることは百も承知だが――それでも、私は三人にかけてみたいと思った。そういうユニットなのだ」

モバP「……あんなにナウなヤングでフレッシュな菜々が、“旧”というユニークな冠をどう処理してくれるのか、が一番の山かもしれない」

モバP「さて、次のメンバーを紹介しよう」

モバP「今度のユニットは二人組だ」

モバP「一人目は、ナースから異色の転身を果たしてくれた柳清良(23)。深みのありそうな笑みが魅力的だ」

モバP「もう一人は、射抜くような視線が病みつきになる財前時子(21)」

モバP「いずれも成人を果たしている、ちょっと大人なこのユニットの名前は――」

モバP「“NABU RANAIKA”である」





モバP「“NABU RANAIKA”である」

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モバP「諸君が何を言いたいのかはわかる」

モバP「わかるが、だからこそまず言わせてほしい」

モバP「世にサディスティックアイドルは必要なのだ」

モバP「いわんや特殊性癖筆頭として、S、サディズム、M、マゾヒズムが存在するのはどうあれ常識なのである」

モバP「常識であるとはどういうことか? 普遍的であるということだ」

モバP「S/Mは普遍的――そう、普遍的に、誰しもが考えたことがあるのだ。自分がSであるか、Mであるかという命題を」

モバP「つまり、誰もが自らの嗜虐性ないし被虐性に、なにがしかの自覚を持っているといっていい」

モバP「そう考えれば、つまるところ、それぞれに50%の需要が存在しているとさえいえる」

モバP「50%。クラスの半分が夢中になるアイドル。これが必要といわずしてなんというのか」

モバP「時子の基本を押さえた冷たい熱を持った瞳、清良の底知れない穏やかな圧力」

モバP「ベストというよりかジャストなコンビというのに異論はあるまい」

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モバP「次はソロデビューをしてもらった子になる」

モバP「この子は独特の空気を持っているがために、それを十二分に発揮してもらおうとソロデビュー」

モバP「もちろん、ユニットを組ませて失敗するということもなかろうが……」

モバP「その彼女の名は、大原みちる(15)。三度の食事にパンが大好きな健啖家系美少女である」

モバP「ソロユニット名は――」

モバP「“当然増えるエンゲル”」





モバP「“当然増えるエンゲル”」

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モバP「何はなくともまず聞き給え」

モバP「前提として、だ。“うまそうに飯を食う”女の子に勝る魅力などない」

モバP「人間の三大欲求である、食事、睡眠、そしてエロス」

モバP「エロさを求めた魅力というものは当然すぎて世に過ぎるほど溢れかえっている」

モバP「女の子の寝顔なども魅力としては定番である」

モバP「そこへきてものを食べているという魅力だが……前二つに比べ、そこまでのスタンダードはない」

モバP「が、それら二つに対し差別化できる大きなポイントがある」

モバP「何を隠そう、いやというか隠さなくてもいいということ、その健全性だ」

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モバP「前者二つには、無防備さに触れるような禁忌の想起が、魅力の錯覚を引き起こし増幅しているのだ」

モバP「そこへ行くと、食事の魅力というのはありふれているということだ」

モバP「普通、人に隠れて食事をすることはないし、食べているところを隠されることもなかなかない」

モバP「そう! みちるの魅力とはすなわち、隠すところなくすべてを見せることができるということだ」

モバP「隠すところのないみちるのオープンな可愛さ」

モバP「それは、彼女のすべてを自分は知っているのだという、安心感と独占欲を刺激し」

モバP「囚われたファンは、知らず知らずのうちにみちるのことを知っていなければ気が済まなくなり」

モバP「どんどんと深みにはまっていく」

モバP「さながらみちるの体内に咀嚼嚥下されていく無数のパンのように……」

モバP「…………我ながら、末恐ろしいアイドルをデビューさせてしまったのかもしれない」

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モバP「ようし、次だ。次のユニットの話をしよう」

モバP「次は、“旧ジェネ”以来の三人ユニットだ」

モバP「一人目は、着ぐるみ可愛い新感覚幼女、市原仁奈(9)」

モバP「二人目、小柄ながらも剣道に情熱を燃やす、脇山珠美(16)」

モバP「三人目の、その名に反して春先に咲き誇る野の花を思わせる、日下部若葉(20)」

モバP「全体的に小柄ではあるものの、先の“旧ジェネ”に対し正統派のユニットである三人」

モバP「彼女たちの名前は……」

モバP「“Daddy Island”」





モバP「“Daddy Island”」

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モバP「そう! 正統派ユニットだけに、そのコンセプトも皆さんがわかるそのとおりである」

モバP「このユニットは、存分に父性を満たすためにくんだユニットだ」

モバP「実年齢として幼気な仁奈はもとより、珠に若葉と小柄なアイドルを惜しむことなく集めたこのユニット」

モバP「見れば誰もが思うだろう。思わずにはいられないはずだ」

モバP「自分こそが、彼女の父だと」

モバP「誰が嫁になど出すものかと」

モバP「門限は八時厳守だぞと」

モバP「お父さんは彼氏なんて許しはしないと」

モバP「……と、ちょっと私も暴走してしまったようだ」

モバP「まあしかし、外すことはないユニットであることは伝わったと思う」

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モバP「うむ、では次だ。……あー、あー、次のユニットは」

モバP「サクサク説明しよう」

モバP「服部瞳子(25)、強い意志を持った凛々しい女性」

モバP「白坂小梅(13)、ホラー・スプラッタが大好きな冷暗所のような穏やかな空気が心地よい」

モバP「高森藍子(16)、ゆるふわの化身ともいうべき圧倒的安心オーラを持つ」

モバP「ユニット名は」

モバP「“べっこでーしょう”」





モバP「“べっこでーしょう”」

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モバP「まず説明しよう。“べっこ”というのは、三人それぞれが別個の魅力を持っているということと」

モバP「東北の南部地域で使われる“べっこ”という方言のダブルミーニングであり」

モバP「“べっこ”というのは、少しだけ、少量であるという意味で……」

モバP「まあ、そうだ。うん」




モバP「言い訳は、しない」

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モバP「最後のユニットは二人組だ。若干先のユニット名の所以にもかかわるが……」

モバP「何はなくともメンバーの紹介から」

モバP「ブルーの髪色も象徴的な海産物系美少女、浅利七海(14)」

モバP「女性の象徴たる双丘への高すぎる熱量がほとばしる、棟方愛海(14)」

モバP「それぞれ、独特な感性を持つ14歳であり、コンビとして組ませれば、成長込みでの活躍が見込めると」

モバP「そんな二人のユニット名は」

モバP「“アオ森スク”」





モバP「“アオ森スク”」

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モバP「まあ、御想像のとおりである」

モバP「プロフィールを見てまず閃いた」

モバP「青森といえば、まず方言の強さが印象の強い地である」

モバP「実際の二人は、普段は問題なく標準語を話しているが」

モバP「同郷二人で組ませていれば何かの拍子でぽろっと方言がこぼれないかな、と目論んだんだが……」

モバP「うっかり出てしまう方言のリスクというネーミングだったんだが……」

モバP「正直、愛海のリスクが大きかったというか、七海がマイペース過ぎて抑えにならないというか」

モバP「個性の爆発という点においては間違いなく成功だったが……良かったのか悪かったのか」

モバP「愛海の危険性はヤバい。方言の話を聞いていたはずが」

モバP「気が付けば私は“べっこでーしょう”を企画――」

モバP「……ああ、いや、これは忘れてほしい」

モバP「何を言っているかわからないと思うが、そういうことなんだ……」

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モバP「と、まあ以上がこのwatanuki projectの全ユニット、全メンバーである」

モバP「それぞれがそれぞれの、濃すぎる個性を持った女の子ばかりであるが」

モバP「それを武器にしてこそ彼女たちは大きく活躍してくれると私は思っているし、そのために助力は惜しまないつもりだ」

モバP「彼女たちを見守る皆も、どうか暖かくそれぞれの形でサポートしてあげてほしい」

モバP「そうそう、ところで、プロジェクトの名称」

モバP「皆さんもお気づきだと思うが」

モバP「watanukiだが、まあ綿貫、四月一日ということで」





モバP「そういうことなのである」


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それぞれのアイドルのPやファンの方申し訳ありませんでした。
何かエイプリルフールをやりたかったもので、まあその、
そういう事で、以上です。

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今日慌てて考えたからそこまで気を回せませんでした……

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