Fate/Hollow ataraxiaとからくりサーカスのクロスSSです
時系列としては、からくりサーカスはローエンシュタイン編とゾナハ病棟編の間くらい
Fateの時系列は後日談。後。バゼットとカレンが士郎の家を間借りしている状態です
第五次聖杯戦争の可能性をかき集めた世界なのに何で冬木と無関係な人間がいるんだよってツッコミは勘弁してください
基本的には台本形式の軽いノリで、怪我人死人は絶対に出さないよう、あくまでコメディな雰囲気を重視していきたいと思います
書き溜めは今回の投下分しかないので、連載形式になりますがご了承ください
では次レスから本編の投稿を開始します
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冬木市・新都
ギイ「着いたぞ、ナルミ。ここがフユキ市だ」
ギイ「ふむ……このチョンマゲ男の故郷にしては、中々ハイカラじゃないか。無論、パリの足元にも及ばないがね」
鳴海「誰がちょんまげだ、誰が……!」ヒョイッ
ギイ「ああっ、返せ、返してよぅ……その醤油臭い手で僕のママンに触るなぁ~!」ギリギリ
鳴海「悪かったよ、ったく。故郷っつっても、中国に行く前にほんの半年くらい住んでただけだから、あんまり思い入れはないんだけどな」
ギイ「ふん、なるほどな。そのイノシシ頭じゃ、昨日の夕飯の献立だって覚えておくのは苦労するだろう。仕方あるまい」
鳴海「なあルシール。何かあったのか? いつもにも増してムカつくぜ、このマザコン野郎……!」グリグリ
ルシール「まあ、お前さんに分からないのも当然のことだね。知ってさえいれば、真っ当なしろがねなら誰だってこの町には来たがらないだろうさ」
鳴海「何? どういうことだよそいつは」
ギイ「痛たたた……ま、こんなバスターミナルのど真ん中で立ち話もなんだろう。ホテルに向かうとしよう」
鳴海「おいギイ。てめえまた俺だけ床で寝ろなんてことはないだろうな? こないだからずっと腰がズキズキしやがるんだ」
ギイ「悪かったと言っているだろう。図体に似合わず陰湿な男だな君は」
ルシール「そんなことでピーピー泣き言をお言いでないよ! 情けない男だね」
鳴海「覚えてやがれよこいつら~!」
リズ「………………あれは」
某ホテル・談話室
鳴海「じゃ、とっくり聞かせてもらうぜ。この冬木市がどういう場所なのかをな」
ギイ「……さて、どこから話したものかな、ルシール?」
ルシール「御三家のところからひとくさりやっておやり。下手にかいつまむと余計に混乱するからね」
鳴海「御三家? 何だよそりゃ」
ギイ「それを今からこの僕が語ってやろうと言うのだ。少し静かにしていたまえ」
鳴海「お、おう」
ギイ「時は200年ほど遡る。かつて、このフユキの地にユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン、マキリ・ゾォルケン、トオサカナガトの三人が降り立った時から始まったのだ」
ギイ「――――聖杯を巡る7人の魔術師たちのサーヴァントを用いた殺し合い、聖杯戦争がな」
――――――――
鳴海「――――つまり、そのアインツベルンってのは自動人形をわんさか作ってるフザけた奴らってことでいいんだな?」
ギイ「……この話で、どうしてそのような発想に行き着くのだ」
鳴海「だってよ、フランシーヌ人形ってのはそこらへんの自動人形どもと違って、人間の血を吸わなくても壊れたりしないんなんだろ?」
鳴海「なら今のお前の説明に出てきた『ホムンクルス』ってのとそっくりじゃねえか」
ルシール「そもそもホムンクルスと自動人形は丸っきり別物だよ。一緒にしたらアインツベルンに失礼ってもんだね」
ギイ「あくまで木材と金属の寄せ集めでしかない『からくり仕掛け』と、自然の触覚であるところの『高次存在』は雑巾とナプキンくらいに違う」
ギイ「つまり、かのフランシーヌ人形でさえ、ホムンクルスに比べれば木彫りの玩具に等しいということさ」
鳴海「な、何だよお前ら。やけにアインツベルンをよいしょするじゃねえか。どういう風の吹き回しだ?」
ルシール「吹き回しも何も、ごく当然のことだよ。錬金術の恩恵に与って生を拾った、私たちしろがねにとってはね」
ギイ「星が在り続ける限り、決して寿命を迎えることのない超生命を量産できるのだぞ? これがどれほどものすごいことか、ナルミ。お前にはまさか本当に理解できないというのではないだろうな」
鳴海「そう言われたってな……別にそいつらが俺たちの人形退治を手伝ってくれるわけじゃねえんだろ?」
鳴海「それに……どうにも気に食わねえ。そうやって本でも刷るみたいにポンポン命を創り出すなんてのがな」
ギイ「……お前らしい答えだな、ナルミ。では仮に、アインツベルンが総力を上げてしろがねを支援するのなら、我々は明日にでも『真夜中のサーカス』の本拠地に乗り込めると言ったらどうする? どこにあるかというのはとりあえず棚に上げるがね」
鳴海「なっ……! そ、そんなのありかよ!」
ギイ「ありだ。単騎で熟練のしろがね十数人分に匹敵する戦力を量産し、それをしてなお余りある資金力。むしろ、ホムンクルスたちに任せて我々はバカンスでも楽しんでいていいくらいだ」
鳴海「と、とんでもない連中なんだな……」ゴクリ
鳴海「……って、そんな連中に、どうしてしろがねは頭下げに行かないんだ? そのホムンクルスってのがいれば百人力なんだろ?」
ルシール「行ったともさ。それこそ飽きるほどね。だけど、彼らの答えは決まってノーさ」
ギイ「錬金術の秘儀を、訳の分からない人形破壊などに使わせるのが嫌なんだろう。ましてや、その一端を身に宿して世界中を飛び回っているしろがねなどにはね」
鳴海「そりゃあれか? 『魔術は秘匿されるべし』とかっていう……」
ギイ「それは魔術協会が一番口煩く言っていることだが、そういうことだな」
ルシール「魔術というのは、人々に知られれば知られるほど『神秘』を失い、その威力を落としていく……アインツベルンにしてみれば、いっそしろがねなど、自動人形と共倒れにでもなってくれればいいと思っているはずだよ」
鳴海「へえ~……よく分かんねえけど、面倒な連中なんだな、魔術師ってのは」
ギイ「しろがねがこの地を避ける理由というのはだな、ひとえにそのアインツベルンの別荘がまさにこのフユキにあるからだ」
鳴海「自分たちを毛虫みてえに嫌ってる連中の住処ときたら、確かにあんまり来たくはねえよな……」
ギイ「だが、現に今日我々はこうしてここに来た。何故だと思う、ナルミ」
鳴海「……そのアインツベルンに用事があるからだろ? じゃなきゃわざわざこんな長話をするはずねえからな」
ギイ「おお! 珍しく今日は冴えているなナルミ、何かいいことでもあったのか?」
鳴海「そのくらい馬鹿でも分かるっつーの!」
ルシール「ギイ。そろそろお遊びはおよしよ。ここからが本題なんだからね」
ギイ「ああ、分かったよルシール。では話すとしよう。何故我々がこのフユキの地に足を踏み入れたのかを」
鳴海「アインツベルンの力を借りたいんだろ?」
ギイ「……ナルミ、察しがいいのはよいことだがね。せめて最後まで話させておくれよ」
鳴海「お前そのもったいぶった口ぶりにゃうんざりしてんの! ちゃっちゃと話を進めろよな」
ルシール「アンタの悪い癖だよ、ギイ」
ギイ「いちいちうるさいな、ルシール」
ルシール「何だってギイ? よくもまあこのルシールに向かってそんな口が利けたもんだ。お前のママンが聞いたらなんて言うだろうねぇ……」
ギイ「それを持ち出すのはやめてくれ――!」
ギイ「……ゴホン。分かったよ、その通り。今このフユキに滞在中のアインツベルン製ホムンクルス、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
ギイ「彼女にこれから一つ頼み事をしに行くのさ」
鳴海「大丈夫なのかよ? そのイリヤスなんとかってのも、俺たちのこと毛嫌いしてるんじゃねえのか?」
ギイ「ふん、確かに魔術に関しちゃアインツベルンはしろがねの二歩も三歩も先を行っているだろうよ。だが現代戦は情報戦だ。敵の弱みを早く握った方が勝つのだよナルミ」
ルシール「しろがねの情報網は世界中に張り巡らされている……アインツベルンが言うところの『神秘』も一緒にばら撒きながらだがね」
ギイ「調べによると、イリヤスフィールは冬木市のある邸宅をしばしば訪問し、そこの住人と親しい関係を結んでいるそうだ」
鳴海「おいギイ。てめえまさか……」
ギイ「……特に、家主の18歳の少年とは家族同然の仲らしい」
ドガッ!
鳴海「けっ! そいつをひっ捕まえて人質にでもするってのか? 胸クソ悪いぜ! 俺は降りさせてもらうからな!」
ギイ「……ナルミ。再三同じことを言いたくはないのだがね、僕たちは自動人形をこの地上から滅ぼすためならば、どんな手段でも講じなければならないのだ」
ギイ「しろがねに人間の心など必要ない。ただ、自動人形を倒すことだけを考えればいい」
ギイ「ローエンシュタインで、僕たちのやり方ははっきりと知らしめておいたと思うのだがね」
鳴海「…………」
ルシール「しろがねはね、ナルミ。この程度の悪どいやり口など、息をするように使ってきた。全ては自動人形を破壊するためにね」
ルシール「鬼畜と呼ばれようと、外道と蔑まれようと……あの日、クローグ村の皆が味わった苦痛や恐怖に比べれば、兎に影を踏まれるようなものさ」
ルシール「もう、後には戻れないんだよ。私たちはね」
鳴海「……で? そいつの名前は何て言うんだよ」
ギイ「あー、エミヤシロ、エミ、ヤシロウ? ええい、日本人の名前はどうにも呼び慣れないな。その資料の一枚目に載っている。自分で確かめたまえ」
鳴海「なるほど、こいつか――――」
鳴海「――――衛宮士郎」
ギイ「ああ。今日からナルミ、お前はこの家で拳術指南役として住み込みで働いてもらうことになる」
ルシール「そこでイリヤスフィールと接触し、何とかしてアポイントメントを取ってくるんだ」
ギイ「しろがねの未来が掛かった重大な任務だ。しくじるんじゃないぞ」
鳴海「ちっ、どうせこの衛宮ってのを痛めつけてイリヤスフィールの弱みでも……」
鳴海「……な、何ィ~~~~!?」
ギイ「ちなみに、この屋敷にはサーヴァントという超常の存在や元魔術協会の執行者、聖堂教会の代行者……の見習いなども住み着いているらしい」
ルシール「さしものあんたでも、こいつらの相手は荷が重いだろうからね。くれぐれも刺激するんじゃないよ」
ギイ「まあ、仮に荒事になったとしても死にはすまい。何、我々の拠点まで逃げてこられればどうにかしてやるさ」
鳴海「……に、逃げてこられなかったら?」
ギ・ル「「…………」」
鳴海「そっぽを向くんじゃねえ~~~~~!」
ギイ「嫌ならいいんだぞ鳴海。この足で直接アインツベルンの城まで訪ねて行っても」
ルシール「そのときはしろがねの一個中隊が必要になるだろうがねえ……いや、それでも足りないか」
ギイ「仕方がないな、ルシール。鳴海が嫌だと言うのだ、無理強いはさせられまいよ。ああ、どうかこの臆病なゴリラを許してやってくれ同胞たちよ……」
ルシール「ミッシェル、カストル、モンフォーコン……すまないねえ、この男が怖い怖いって泣きべそをかくから……」
鳴海「ええい分かったよ、やればいいんだろやればよ――――!」
→ やる
やらない
→ やる
つづく
これにて投下終了です
鳴海なら五次言峰とくらいなら善戦は出来そうですが、さすがにバゼットや英霊相手だとどうしようもなさそうですね
まあしろがねになると身体能力は元の5倍に跳ね上がるそうですし、デモン化して手足を換装すればリズくらいなら……いや、さすがに低く見過ぎでしょうか
コンクリの壁を殴って壊したり、鉄格子を素手で捻じ曲げたりできるわけですし、破壊力ならバゼットにも引けをとらないような……ううむ
では読了いただきありがとうございました
本日分の投下に参りました
次レスから投下を開始します
――――――――――
同日衛宮邸・居間
セイバー「シロウ。言い訳を聞かせていただけますか」
士郎「な、何だよセイバー藪から棒に。別に俺はやましいことなんて何一つしてないぞ」
セイバー「な……こ、この私に相談もなく、新しい剣術指南役を呼んだそうではないですか!」
セイバー「アーチャーやライダーだけでは飽き足らず、さらにまだ貴方は浮気心を起こすつもりですか!」
士郎「う、浮気心って変な言い方するな! 俺はただ、早く強くなってセイバーに認めてもらいたかっただけで……」
セイバー「だからといって、師匠の許しもなく他流派の技を身につけようなど不届千万です」
セイバー「私の剣筋には、私の剣筋に合った身のこなしがあるというのに、それを余所で勝手に学ばれては私の立つ瀬がない」
セイバー「何より、よりにもよってライダーというのがダメです。許せません」
ライダー「私は別に、浮気相手でも構いませんが」
セイバー「む……ライダー、それはどういう意味ですか」
ライダー「どういう意味も何もそのままです。一番になれなくとも、少しでも士郎の中に私の教えたことが生きていてくれればそれでいい」
セイバー「なっ……! ライダー、よもや士郎に何かよからぬことをも教授したのでは」
士郎「ライダーも混ぜっ返さないでくれ! ……そもそも、セイバーは勘違いをしてる。俺が呼んだのは剣術指南役じゃなくて拳術指南役。拳法の先生を呼んだんだよ」
バゼット「そしてそれを呼んだのは士郎君ではなく私です。差し出がましい真似をして申し訳ありません」
セイバー「バゼット、これは一体どういうことですか! 説明を要求します!」
バゼット「単に、剣がなければ手も足も出ないままでは十全でないかと思いまして、彼に体術を仕込んだ方がよいかと」
セイバー「そう思うのなら、貴女自身が教えればいいでしょう。それに今の発言は聞き捨てなりませんね。剣術の間合いの利は、体術の即応性を凌駕します」
バゼット「私はあまり、人に物を教えるタチではありませんので……口より先に手が出てしまうのです」
バゼット「それにここは戦場ではありません。学生であり、部活動にも所属していない士郎君がおいそれと得物を持ち歩くわけにはいかないでしょう。貴女とて、四六時中彼の傍にいられるわけない」
セイバー「いいでしょう、これからは私が二十四時間片時も離れずシロウを護衛します。それならば文句はありませんね」
バゼット「風呂やトイレ、寝室にまでですか? 貴女はよくても、それでは士郎君が困るでしょう」
士郎「バゼットの言う通りだ。セイバーが霊た……いや、何でもない。とにかくそんなのはダメだ。セイバーは女の子なんだから、もっと自覚を持たなくちゃダメだぞ」
セイバー「またそのようなことを――――」
ぴんぽーん
バゼット「ちょうどよかった。到着したようですね。迎えに行ってきます」
士郎「分かるのか?」
バゼット「予定時間ぴったりですし、それに塀の外からただならぬ気配が近づいてきていたので」
士郎「すごいなバゼットは! これなら親父の結界よりバゼットの方が便利そうだな」
セイバー「シロウ。私とてその程度のことは分かります。さらに言うなら、実は曲がり角を曲がったあたりから既に気づいていました」
ライダー「…………」クスリ
セイバー「何ですかライダー。言いたいことがあるのなら、はっきりと言ってもらえますか」
士郎「まあまあセイバー……ライダーも」
セイバー「士郎。貴方はどちらの味方なのですか!」
士郎「ど、どっちって言われてもなあ……」
バゼット「では改めて。あまり待たせては悪いですので」
セイバー「分かりました、私も同行します。不逞の輩ならば、即刻お帰り願わなければなりません」
バゼット「それについては、魔術協会時代のツテで呼んだのであまり保証はできませんね。腕は確かだということですが」
セイバー「そんなことは当然ですっ。行きますよ、魔術師(メイガス)!」
どたどたどたどた!
士郎「……やけに今日のセイバーは荒れてるな。何かあったのか?」
ライダー「さあ? 大方、昼食のおかずが好みでなかったとか、そのあたりでしょう」
士郎「いや、セイバーは俺が作ったものは何でも美味しいって言ってくれるし、それはないと思うんだけど……」
ライダー「では、私の預かり知るところではありません」
士郎「む……」
――――――――――
衛宮邸前
ギイ「ここが今日からお前が住み込みで働くことになるエミヤの屋敷だ」
鳴海「へぇ~~~~学生だってのに、ずいぶん立派なトコに住んでるんだな、衛宮ってのは! ……しかしこの門。見てると何だか嫌なこと思い出しそうだぜ」
ルシール「ここまで来て怖気ついたのかえ、ナルミ? とっとと腹をくくるんだね」
鳴海「分かってるよ、お婆ちゃん……よし、インターホンを押すぜ」
ぴんぽーん
ギイ「では僕たちはこのへんで失礼するとしよう。後は一人で頑張ってくれたまえ」
鳴海「なっ……! てめぇギイこの野郎どういうつもりだ!」
ルシール「どういうつもりもないさ。しろがねは魔術側とはあまり仲が良くないことくらい分かってるだろう?」
ギイ「お前のようなヒヨッコならともかく、僕やルシールはどこで顔が知られているか分かったものじゃないからな」
ルシール「屋敷を実際に一目見ておきたかったからここまで付いて来てやったんだよ。まさか、アンタを心配してのことだとでも思っていたのかえ?」
鳴海「くっそぉ~~~~イヤミな連中だぜ! けっ、分かったよちくしょう、とっとと行っちまいな!」シッシッ
ギイ「ああ、お前に言われずともそうするさ。ではなナルミ。せめて3日くらいは持ってくれたまえよ」
ルシール「死ぬんじゃないよ、後処理が面倒だからね」
鳴海「~~~~~~~!(聞くに堪えない悪口)」
――――――――――
ギイ「……どうだ、ルシール。屋敷の間取りは把握できたか?」
ルシール「ま、六割くらいだね。塀が邪魔なのと、奥行きが妙に広いせいで分かりにくかったよ」
ギイ「エミヤシロウの義父・エミヤキリツグは、あの屋敷に何度か無理な改装を重ねている。おまけに結界なる魔術的な警報装置が作動しているために、内部に侵入しての調査は不可能だったらしい」
ルシール「エミヤキリツグもなかなか有名な傭兵にして魔術師だったらしいからね。外敵への対策はひと通りしてるってことかい」
ギイ「あの屋敷の戦力はしろがねのそれを遥かに凌駕している。正面からの突破はまず不可能だ。巡航ミサイルの使用すらも検討されたらしいが、これはさすがに却下された」
ルシール「そうだろうね。そのサーヴァントとかいう連中がカタログ通りのスペックを持っているなら、ミサイルなんかものともしないだろうさ」
ギイ「まあ、そもそも『神秘』のないミサイル攻撃ではサーヴァントは傷一つつかない上に、肝心のイリヤスフィールを害してしまう可能性があるからな。当然だろう」
ルシール「だからこそ、ナルミに内側から懐柔してもらおうってことになったんだが……」
ギイ「ええい、もっと内部工作に秀でた者はたくさんいるだろうに! 何だってあの大男がこんなデリケートな任務に抜擢されたんだ!」
ルシール「仕方がないだろう。あそこの住人の一人、バゼット・フラガ・マクレミッツは現存するほとんどのしろがねの顔を知っているはずだからね」
ギイ「ふん。魔術協会にとってしろがねは神秘を撒き散らす憎き怨敵だからな。面と向かって対立してはいないから見逃されているが、機会があれば容赦なく叩き潰せるようにってことか」
ルシール「その通りさ、ギイ。いくら百年ものの神秘であるおまえのオリンピアと言えど、執行者の拳にかかればひとたまりもないからね」
ギイ「ま、それは対峙してみないと分からないがね……それを言うなら、ルシールの肉体自体も二百年ものの神秘と言えるんじゃないのか?」
ルシール「ほっほっほ、何を言うかと思えば……私たちしろがねの使う操り人形だって、相応の魔術的要素が加わっているのさ。そうでなくちゃ、いくら歯車で増幅したってあんな馬力が出るわけがないだろう?」
ルシール「しろがねが持っている程度の魔術的要素じゃ、とてもじゃないけど神秘なんて呼べるもんにはならないよ」
ギイ「それは承知の上さ、ルシール。僕だって操り人形の構造には精通している。ただ、僕のような若造はともかく、あなたのような古参のしろがねならばと思ってね」
ルシール「仮に私が千歳のババアだとしたって、サーヴァントには太刀打ちできないよ。そのための操り人形なんだからね」
ギイ「ふうん、それはずいぶんと面白くない話だ」
ルシール「無駄話はいいんだよ、ギイ。それより、アインツベルン城の位置の特定は済んでいるのかえ?」
ギイ「いや、ほぼ進展はないな。朝方はナルミに大きな口を叩いてしまったが、まだ森の中に踏み入ることさえできていないらしい」
ルシール「何だい、アインツベルンのお嬢ちゃんは森におっかない番犬でも放してるってのかえ?」
ギイ「……番犬なんて可愛いものじゃないさ。あれはサーヴァントだな。それも、並みのヤツじゃない」
ルシール「それは難儀なことだねえ……」
ギイ「まあ、結局我々はナルミに頼るしかないということさ。実に遺憾なことだがね」
――――――――――
衛宮邸前
鳴海「(……と、強がってはみたものの不安で仕方ねえぜ……一体どんな化け物が出てきやがるんだ?)」ドキドキ
鳴海「(くっそぉ~~~おっかねえなぁ~~~早くも帰りたくなったきたぜ~~~!)」
――――――――――
バゼット「(尋常ならざる気配……二人分減ったが、それでもまだ一人……くっ、一体どれほどの使い手だというのですか?)」
セイバー「どうしたのです、バゼット。早く門扉を開けてください。私には少々重くて開けづらいのです」
バゼット「え、ええ……」
鳴海・バゼット「「(南無三…………!)」」
ぎいいいいいい……
鳴海「………………」
バゼット「………………」
鳴海「(お、男……? いや、そんなわけねえな。男装してるだけで結構な美人さんだ。泣きぼくろが色っぽいぜ――――)」
バゼット「(お、大きい……! 確実に190センチは超えている……しかし、顔は何というか、面白い造作だ――――)」
鳴海・バゼット「「(だが強い……!)」」ゴクリ……
セイバー「……? 何を二人で黙って見つめ合っているのですか」
バゼット「あ、いえ、これはとんだ失礼を。私はこの屋敷を間借りさせていただいているバゼット・フラガ・マクレミッツという者です。此度は遠方からご足労いただき、ありがとうございます」
鳴海「あ、ああ……俺は加藤鳴海。形意拳をちょいと齧ってるんだが、アンタが俺を?」
バゼット「はい、そういうことになります。今日のところは長旅でお疲れでしょうから、稽古は明日からお願いしたく……」
セイバー「バゼット、少々よろしいですか」
バゼット「セイバー……!」
セイバー「安心してください。この方が賊の類でないことは既に分かっています」
鳴海「アンタは……」
セイバー「名をセイバーといいます。バゼットと同じく、この屋敷にいそうろ……間借りさせていただいている者です」
バゼット「間借りって、貴女家賃の類など一銭も払っていないはずでは」
セイバー「その独特の呼吸法……音に聞く東方の武術のそれとお見受けいたしました。どうか、一度手合わせ願いたい」
バゼット「(くっ、この戦闘大好き娘……いや、しかしこれは好機だ。彼……鳴海の実力を早速確かめることができるのだから……)」
バゼット「………………」
鳴海「ああ、それは全然構わねえんだけどよ……」
セイバー「ご要望があれば、存分に承りますが」
鳴海「お嬢ちゃん華奢だから、まともにぶつかったら怪我さしちまいそうなんだよな~。せめてもう5キロ肉つけてからってことじゃダメか?」
セイバー「…………」ブチ
バゼット「(い、いけない! この男、早速セイバーの逆鱗に触れてしまった……!)」
セイバー「……し、心配は無用です。受け身の訓練は十全に積んでおりますので」ワナワナワナワナ
鳴海「そうか? なら流す程度に軽~くってことで、じゃあバゼットさん……でいいか? 稽古場に案内してくれよ」
バゼット「りょ、了解いたしました。ではこちらへ……」
バゼット「(どうか……どうかご無事で)」
――――――――
道場
バゼット「(士郎君、どうにかしてください。私では彼女をなだめることなど出来ません!)」
士郎「(俺だってあそこまで怒ったセイバーはもうどうしようもない……!)」
凛「(形意拳使い……それも相当な功夫を積んでると見たわ……あの人なら綺礼よりも強いかも……)」
桜「(わ、私ライダーとお夕飯の買い物に行ってきます……!)」ピュー
鳴海「ルールはどうする? 枠がないから場外の判定は無理だし、先に寸止めが入った方ってことでいいか?」
セイバー「はい、私としては一向に構いません……念のため聞きますが、得物は必要ないのですか?」
鳴海「武器の類は一通り使えるけど、必要ないぜ」
鳴海「――――ハンデってことにしといてやるよ、お嬢ちゃん」ニヤ
セイバー「――――!」
士・バ「「(うわ――――!)」」
スパァンッ!
士郎「…………!」
バゼット「…………!」
セイバー「……一対一の立ち合いで不意討ちに頼るとは。私も衰えたものだ」
鳴海「へっ、冗談……! 踏み込みの気迫だけで縮み上がりそうだったぜ……」
士郎「う、そだろ……セイバーの一撃を、素手で受け止めるなんて……!」
バゼット「気を練る暇すら与えぬ速攻だったというのに……あの男は一体何者なのですか!」
凛「いや、アンタが呼んだんでしょうが」
凛「(セイバーの不意討ちに見えたけど、先に動いたのは男の方……挑発で冷静さを奪っておいて、最速の崩拳を打ち込む腹積もりだったみたいね……)」
凛「(でもセイバーの切り込みの方が速かった……予備動作が殆どない、『近づいていることさえ分からせない』ことを極意とする崩拳をさらに上回る速度……!)」
凛「(剣の英霊の誉れは伊達じゃないということね……!)」ゴクリ
鳴海「(ちっ……挑発まで使ってこのザマじゃ、毒飲まされるくらいじゃ勘弁してもらえねえぜ……!)」
鳴海「(崩拳が入りそうになかったからすぐ流したってのに、身体の芯までズシンと来たぜ!)」
鳴海「(このお嬢ちゃん、やっぱりただモンじゃねえ……!)」
セイバー「(……敢えて挑発に乗ったフリをして後の先をとったつもりだったが……こうもあっさり防がれるとは)」
セイバー「(ケイ兄さんが見たら、散々に馬鹿にしてくるに違いない……)」クスッ
鳴海「! 隙ありッ!」
セイバー「しまっ……!」
ドンッ!
ズザァアアアアア
セイバー「くっ……」
士郎「た、ただの当て身で数メートルも飛ばされたぞ!」
バゼット「いえ、あれはセイバーの方から衝撃を殺すために後方へ跳んでいる……だが、完全には威力を殺しきれていない……!」
凛「鉄山靠……八極拳の套路まで身につけているなんて、底の知れない男ね……!」
セイバー「…………」
鳴海「…………」
鳴海「仕切り直しといきたいところだけどよ……もう身体が持ちそうにねぇんだ。ここは、俺の負けってことで手打ちにしてくれねえか?」
セイバー「……いえ、もし貴方が武器を持っていたら私は死んでいた。この勝負、私の負けです」
士郎「りょ……両者、敗北で引き分けってことでいいのか?」
バゼット「よかった……何とか落とし所が見つかったようですね……」
凛「ま、妥当なところかしらね。これ以上やったら、組み手じゃ済まなくなりそうだもの」
鳴海「お見逸れしたぜ、お嬢ちゃん……いや、セイバー。アンタ、すげぇ強いな!」
セイバー「いえ、ナルミの方も相当なものです。もし、貴方が棍なり槍なりを持っていたらと思うとゾッとします」
士郎「とんでもない戦いだったな……」
バゼット「ええ。互いに一歩も譲らない、手に汗握る攻防でした」
士郎「だが、次はどちらが勝つか分からない……それほど二人の実力は拮抗していると俺は見た」
バゼット「どうでしょう。セイバーは自らの宝具を持っておらず、鎧も纏っていなかった。彼女が本気になれば、さすがの鳴海も……」
凛「そうかしら? あの鳴海って人も、まだ奥の手を隠し持ってるみたいだったし、それこそちゃんとした武器型宝具でも持ったら化けるわよ」
士郎「それもそうだな……」
バゼット「なるほど、言われてみれば……」
凛「何にせよ、次あの二人が戦ったら……冗談じゃ済まないでしょうね」
セイバー「しかしナルミ。それはそれとして、先ほどの言葉は聞き捨てなりません。ここでもう一度白黒つけるとしましょう」
鳴海「ちょ、ちょっと待ってくれよセイバー~~! 俺もうクッタクタで今にもぶっ倒れそうなんだぜ? そんなところに再戦を申し込むなんて騎士道精神に反するってもんじゃねえのかよぉ~~~!?」
セイバー「それはそれ、これはこれです。さあ立つのです、ナルミ。私を矮躯と軽んじたことを後悔させて差し上げます」
鳴海「じゅ、十分後悔してるって! お、おいアンタたちも何とか言ってやってくれよ!」
士郎「そうだぞセイバー。鳴海さんだって別に悪気があったわけじゃないんだから。それに、セイバーが年頃の女の子っぽく見えるのは仕方ないことだろ?」
鳴海「おっ! アンタがここの家主さんか! 頼むよ、この子を何とかなだめてやってくれよ~~~!」
バゼット「……いや」
凛「……もう手遅れかも」
セイバー「~~~~~~~」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
セイバー「二人ともっ! そこに直りなさい――――――!」
士・鳴「「ひ、ひええええええ――――――!」」
なだめる
→
なだめない
→ 無理
つづく
これにて今回分の投下は終了となります
ではまた次の機会に
読了いただきありがとうございました
乙
>>それこそちゃんとした武器型宝具でも持ったら化けるわよ
原作が原作だからあれだけど、そんなもの持ってるのかなりのレアケースだよ
どんな仮定の話だよ
宝具級でなくともある程度の概念武装レベルならって意味じゃない?
>>45さん>>46さんレスありがとうございます
現代人で宝具持ちなんてそれこそ伝承保菌者の家系でもないとありえないですよね
概念武装、そう概念武装という表現が適切でしたね、ありがとうございます
凛の台詞の武器型宝具は武器型概念武装とでも読み替えておいてください
聖ジョージの剣も一応百年ものの神秘を内包してるわけですが、まあこれといった伝承も逸話もないので、せいぜいらっきょで橙子さんが買ってたウィジャ盤に毛の生えた程度の代物でしょうね 対サーヴァント用の武装としてはいささか心許ないです
まあ台本形式で大真面目にシリアスバトル展開するのも何なので、そういうのはいつか地の文形式で書いてみたいと思います
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