周子と… (20)

モバマスSSです
今ごろになって周子に一目惚れしたので衝動的に書き上げました
地の文ありです

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プロデューサーさん、お疲れ様でした」

俺はこの瞬間が好きなんだと思う。
アイドル達との別れ際、元気な声を聴いて明るい笑顔を見て、また明日も頑張ろうと思える力が湧いてくる、この瞬間が好きなんだ。
俺がアイドルのプロデューサーを始めてから、もう二年が経とうとしていた。
アイドルのプロデューサーと言えば華やかなものを想像しがちだが、俺もそうだった。
実際はストレスが溜まりやすく、休みも自由に取れない、それはそれはハードな仕事なのだ。
それでも辞めようと思わないのは、彼女島村卯月をはじめ、担当アイドル達が皆総じて明るく元気でいてくれるお陰だと思っている。

「ああ、お疲れ卯月。気をつけて帰れよ」

いつまでもこちらに手を振る卯月の姿が、改札に吸い込まれ見えなくなったのを確認してから、俺も帰路につこうかと回れ右したときだった。

「やっほー。今終わり?」

こちらに手をひらひらと振りながら、いたずらっぽく笑うのは塩見周子。

「ああ、今卯月を送ってきたところだよ」

「そっか。一人でアイドル何人も抱えて大変だねー」

他人事のように軽々しく言ってのけるが、彼女も一ヶ月前にスカウトしたばかりのアイドル候補生だ。

「お前もそのアイドルの一人だろうが」

俺と年が4つしか違わないせいか、周子は初対面から馴れ馴れしかった。と思っていたのはほんの数日の間だけで、誰に対してもあっけらかんとした態度なのだとわかってきた。

「ねぇ、ご飯まだでしょ?食べにいかない?」

「残念だけど、卯月と食べてきたよ」

「なんと、Pさん(下の名前)は周子ちゃんのお誘いを断るんだ」

そして、俺を名前で呼ぶのも彼女だけだ。大手アイドル事務所にはプロデューサーをハニーの愛称で呼ぶことで有名な娘もいるが、周子はその辺の区別をつけてくれているので好きに呼ばせている。
こんなに可愛い娘から名前で呼ばれるんだ、嫌なわけがない。

「あたしはPさんの誘いを受けてアイドル始めたっていうのに…」

「あのな、周子?ご飯おごって欲しいなら素直にそう言えって何度も言ったろ?」

実はこのやり取り、今日で六日目だったりする。
周子の様にスカウトされてアイドル候補生になると、特待生扱いでレッスン費用や寮の家賃などは事務所持ちになるが、さすがに光熱費に食費、携帯電話代などは自己負担としてもらっている。
そこで、親元を離れたアイドルは、親に仕送りをお願いしたりアルバイトをしたりと、いずれかの方法をとっている。
だが、周子はご両親からの仕送りを拒否しているらしく、かといってバイトをするわけでもなく、店の手伝いで貯めたお金を食い潰しているのだという。
そんなことでは、すぐに貯金も尽きてしまうというので、最近節約のために俺にご飯をたかるようになってきたというわけだ。

「だってさ、あたしも少しは遠慮しなきゃなーって思うし、ね?」

「ね?じゃない」

ちくしょう、可愛いなぁ!とは口に出さない。別のアイドルに言ってしまった苦い経験が喉奥で言葉を抑える。そのアイドルは調子に乗り、ボクはカワイイと今でも言い続けているので、そんなのが増えるのはごめんこうむりたいのだ。

「で、今日は何が食べたいんだ?」

ため息交じりに尋ねると、周子は目を細めてニコッと笑う。

「お寿司。回るお寿司でいいよ」

こいつ、可愛すぎるだろ。さっきから道行く男性たちの視線が周子に集まっているのを感じる。羨ましいだろ?と心の中で得意気に自慢する。

「それじゃ、寮の近くでいいか?」

言うよりも先に歩き出すと、左側に並んだ周子からいい匂いがする。他のアイドル達はもう少し離れて歩くのに、周子は腕を絡めてきそうな距離で歩くので、いつも気が気でない。
周子はまだデビューもしていないので、写真を撮られる心配しているのではない。
俺の理性が持つか気が気でないのだ。

「……だよね」

もちろん担当アイドルに手を出そうとは微塵も思っていない。思っていないが、明確には周子はまだアイドルではない。

「……てる?」

そんなことを考えるのも今日で六日目だ。
普通にナンパしてればよかったかな?と、ちらと思うことはあるが、周子は俺がプロデューサーだから懐いてくれているだけだ。
周子だけでなく、他のアイドルたちも皆、俺がプロデューサーだから慕ってくれているのだ。

「おーい!」

「うわっ!?」

耳元で弾けた大声に驚き左側を見ると、周子はご機嫌斜めだぞと主張するように、頬を膨らませていた。

「周子ちゃんが話しかけてるのに無視って酷いなー」

口調は軽いが、目は怒っている。

「悪い、考え事をしてた」

「あたしがいるのに?」

お前がいるからだよ!と心の中で叫び、これって恋人同士みたいじゃね?と、童貞よろしく思考をこじらせる。
そう、俺は童貞だ。童貞で、

「悪かったって」

こういうとき、卯月達ならどうしていたか。
思い出すよりも先に周子の頭に手が伸び、そのままわしわしと撫でていた。

「ちょ……そんなに子どもっぽく見えた?」

「いや、そんなことないぞ」

「じゃあ何で?」

「卯月達もたまに拗ねるんだよ。そういうときは頭を撫でると機嫌が…うっ!」

ていっ!の掛け声とともに脇腹を小突かれた。

「なんだ…うぉっ!」

また脇腹を。今度はちょっと強い。
その後、回転寿司に着くまで同じやりとりが何度も続いた。

「お腹空いたーん」

テーブル席に向かい合って座る。
周子曰く、まずこの掛け声をしないと始まらないらしい。
関西の方の方言で『お腹が空いたんだよ』を可愛くアレンジしたとのこと。
うん、可愛い。

「これとこれと、あ、これもいいなー」

回転寿司なのにレーンを流れる寿司には目もくれず、周子はタッチパネルで注文をしていく。

「Pさんも何か食べる?」

「俺はいいよ」

「もー、遠慮しちゃってー」

「俺の金だろうが…」

周子にしてみれば、俺はただのプロデューサーで、ご飯をおごってくれる便利な人なんだろう。
だから、仲良くはしてもそれだけだ。
俺みたいに好意を抱いているわけが無い。

「きたきたー」

メロディと共にお寿司が三皿流れてきた。

「それだけで足りるのか?」

「え?まだ来るよ。出来たのから流してるんでしょ。いただきまーす」

俺なら一口のお寿司を、周子は二口で食べる。
決して大きくはないお寿司を半分口に入れただけで、ハムスターみたいに頬が膨れるのが可愛い。

「へひゃーほほはるほ」

「飲み込んでから喋れよ」

「んぐ。ふぅ…。デザートもあるよ」

「だからいらないってば」

周子なりに気を遣ってくれるんだろう。
むしろ、周子に変に気を遣わせない為にも少しは食べた方がいいのかもしれない。
俺のおごりだけど。

「だったらそんなに見ないで。恥ずかしいよ」

周子の頬が少し紅くなっているのがわかる。

「すまない。周子が可愛くってさ」

そんな恥ずかしがる周子が可愛いと思っていたら、口をついて出てしまった。
お寿司を食べようとした周子の手が止まり、開いた口はそのままで見開いた目が俺を捉える。
突然のことに、言った俺自信パニクっている。
周子は瞬きもせずに俺の方を…あ、瞬きした。

「いきなりどーしたの?」

「すまん、悪かった」

「どーして謝るの?」

口調は相変わらず軽く、怒ってはいないようだが、きっと周子を困らせたに違いない。

「いや、だって、俺に言われたって嬉しくないだろ?本当に──」

「あたしは嬉しいよ」

「え?」

あまりの衝撃につい聞き返してしまった。

「聞こえなかった?嬉しいって言ったんだよ」

幻聴などではないらしい。
目の前の可愛い女の子が、俺が褒めたら嬉しいって言ってくれた。
あ、これラノベのタイトルにできそう。

「事務所でさ、Pさん卯月や幸子とかには可愛いって言ってるでしょ?」

「あ、ああ」

「でも、あたしには一度も可愛いって言ってくれてなくてさ…」

もしかして、周子は他のアイドルに妬いていたのか?
童貞ならではの都合の良い解釈をしてしまいそうになる。

「スカウトしてくれたけど、嫌われてるのかなーって。嫌われることしちゃったかなーって。あたしさ…すっごく…うぇ…」

都合の良い解釈じゃなかったようだ。
というか、こんなとこで本格的に泣かれると困る。
俺は店員を呼ぶと、野口英世がいなかったので新渡戸稲造を渡して「釣りはいらないから」と言って、周子の手を取り逃げるように回転寿司を後にした。

すっかり辺りも暗くなって、公園には俺と周子の二人だけだ。
ベンチに座って俯く周子が今どんな顔をしているのかよく見えなかった。
逆に、俺はどんな顔をすればいいのかわからなかった。

「ごめんな、周子…」

泣き止む様子のない周子に、何と言っていいのかわからず、俺はただ立ち尽くしていた。
どうして俺から嫌われてると思い込んだんだろう。
どうして俺は周子に可愛いと言わなかったんだろう。

「ぐすっ……でて…」

聞き取れなかったが、これ以上周子を泣かせたままにするわけにもいかない。

「嫌いなわけないじゃないか。俺が可愛いと思ってスカウトしたんだぞ」

他のアイドルをあやしたり、なだめたりするのと同じように、周子の頭を撫でながら、優しく話しかける。
回転寿司に行くときには嫌がられたが、まさか抱きしめるわけにもいかず、馬鹿の一つ覚えで頭を撫でる。

どれくらい撫でていただろうか。徐に周子が俺の手を掴むと、

「Pさんの手…好き」

と呟いた。
ヤバい。周子の手が柔らかいのもヤバいが、好きって言われたことがもっとヤバい。
泣き止んでくれたようだが、顔は俯いたままだ。

「Pさんはどーしてあたしをスカウトしたの?」

「可愛いと思ったからだよ」

俺は素直に答えた。
ここで、変に恥ずかしがると、また周子を勘違いさせてしまうかもしれない。

「どこが?」

「透き通った白い肌と、丸みのある狐目…かな」

「他には?」

周子と目が逢う。きっと赤く腫れてしまったのだろう。まだ薬局はやってるだろうし、あとで目薬を買ってやろう。

「色素の薄い髪が特徴的だったし、その、スタイルも良くて、声も可愛らしいよな」

「それだけ?あ、頭撫でててよ」

周子に掴まれてない左手で、ぎこちないながらも柔らかい髪を優しくなぞる。
なんだ、嫌いってわけじゃなかったのか。

「スカウトした後になるけど、人懐っこい性格っていうのかな、すぐにみんなと打ち解けてさ。周子と話すのがすごく楽しかった」

「Pさんはあたしのこと好き?」

「好きだ…おわっ!」

言い終わる前に周子に抱きつかれる。

「あたしもPさんが好き。いきなり街でスカウトされて、よくわかんないままアイドル候補生になったけど、スカウトされてよかったよ」

俺に抱きつく力が一層強くなる。
どうしよう。抱き返してもいいのだろうか。

「まだ一ヶ月くらいしか経ってないけど、何でPさんがアイドルの子達に好かれてるのかわかったし、それがわかったらあたしも好きになってたの」

だめだ。我慢できない。

「周子…」

周子の頭を抱きかかえ、腰に手を回す。

「Pさん…」

腕の中で上目遣いに俺を見る目が閉じられた。
漫画やアニメ、それとギャルゲでしか知らなかった領域に、俺もついに……

とは、ならなかった。
正確に言うと、複数のアイドルを抱える俺がその内の一人と付き合って、全員のプロデュースに支障が出ないわけがないので、なんとか寸前で踏み止まったのだ。
周子からは『意気地なし』となじられたが、こればかりは仕方が無い。
その代わり周子がトップアイドルになったら、俺からプロポーズすることで納得してもらった。
そして、今日も今日とて俺は周子にご飯をおごっている。
デビューするまで毎日これが続くのはさすがに困るので、さっさとデビュー案考えて企画通そう。

「お腹空いたーん」



短いですがこれで終わりです

最後まで読んで下さった方ありがとうございます

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