みゃーもり「野球大会、ですか?」 (133)


 ナベP「そうなんだ。明日、その決勝なんだが」

 ナベP「監督も山田さんも円さんもペストとスペイン風邪とエボラ出血熱を併発しちゃって」

 ナベP「で、代わりに助っ人が必要なんだよ」

 みゃーもり「でも、わたし野球ってやったことないですし……」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427024942


 みゃーもり「それに、明日はアニメ同好会の友達と遊ぶ約束をしているんです」

 ナベP「だったらその子たちも連れてくるといい」

 ナベP「状況は切迫しているんだ。人数は多い方がありがたい」

 みゃーもり「いやいや、むちゃくちゃ言わないでくださいよ」

 みゃーもり「友達を会社の付き合いに呼ぶわけにはいきませんって」


 ナベP「まあ、それもそうか」

 ナベP「安藤さんはどう?」

 ナベP「阪神ファンみたいな髪型をしてるけど」

 安藤「いえ、わたしタイガースはタイガースでもデトロイトの方が好きなので」

 安藤「最近の野球ってよくわからないんですよね。タイ・カッブの頃が好きだったんですけど」

 ナベP「そうか……」


 ナベP「佐藤さんはどう?」

 佐藤「いえ、わたし、仕事とプライベートははっきりわけたい人なので」

 佐藤「それに、明日は三浦大輔選手の登板日ですし横浜スタジアムに行かないと」

 ナベP「そっか。200勝かかってるもんな」

 ナベP「しょうがないか……」


 ナベP「というわけだ。頼む! 宮森! 手を貸してくれ!」

 みゃーもり「無理ですよ。わたし、仕事も大事ですけど友達も同じくらい大事なんです」

 ナベP「せめて聞くだけでも聞いてみてくれないか?」

 ナベP「頼む!」

 みゃーもり「…………」

 タロー「宮森なんていらないっすよ。この高梨太郎がいれば優勝間違いないっす」

 ナベP「黙ってろ」

 みゃーもり「…………」

 みゃーもり「わかりました。一応聞くだけ聞いてみます。無駄だと思いますけど」


 ミムジー「ありえないよね。折角の休日に野球とか」

 ミムジー「しかも友達も連れてこい、だよ」

 ミムジー「ブラックだよね。やってらんないよね」

 ロロ「しょうがないよ。会社ってのは人間関係でなりたってるんだ」

 ロロ「誰かのために誰かが貧乏くじを引かないといけないものなんだよ」

 ミムジー「あーあ。やってらんない」

 みゃーもり「…………」


 みゃーもり「野球ってしたことないんだよな」

 みゃーもり「お父さんは好きでよく見てたけど」

 みゃーもり「わたし全然興味なかったし。コナン見たかったし」

 みゃーもり「……行きたくない」

 みゃーもり「聞いたことにして断っちゃおうかな」

 みゃーもり「まあ、一応聞くだけ聞いてみるか」


 絵麻「あ、おいちゃん。ちょうどそのことで電話しようと思ってたの」

 絵麻「わたし、井口さんに誘われて野球行ってみたいなって」

 絵麻「だから、明日行けない。ごめんね」

 みゃーもり「そうなんだ」

 絵麻「ごめんね。アニメ同好会の約束の方が先だったのに」

 絵麻「でも、どうしてもやってみたくて」


 みゃーもり「絵麻ってスポーツとか苦手だったよね?」

 絵麻「うん。でも、バッティングセンターに行ってみて感動したの」

 絵麻「こんな世界があるんだって」

 絵麻「小笠原さんのフォームってすごくきれいで」

 絵麻「あんな動きをアニメで描いてみたいなって」

 絵麻「やったことないことするのは仕事にも活かせるだろうし」

 絵麻「だから、ごめん。おいちゃん」

 みゃーもり「…………」


 みゃーもり「先に断られちゃった」

 みゃーもり「明日は絵麻抜きか」

 みゃーもり「野球なんて何がいいんだか」

 みゃーもり「……次、かけよ」


 みーちゃん「え、野球!」

 みーちゃん「わたし、超やってみたいです!」

 みーちゃん「今、CGでイチロー選手のモーション作ってるんですけど」

 みーちゃん「イチロー選手のフォームってすごくきれいで」


 みーちゃん「特に95年のフォームが好きなんです」

 みーちゃん「なめらかで、しなやかで。ずっと見ていたい感じで」

 みーちゃん「2000年頃からメジャーにかけての」

 みーちゃん「すり足になってからのフォームもいいんですけど」

 みーちゃん「でも、やっぱイチロー選手は振り子ですよね」

 みゃーもり「……わかった」


 みゃーもり「みーちゃんまで」

 みゃーもり「明日は三人か」

 みゃーもり「……次、かけよ」


 りーちゃん「野球っすか」

 りーちゃん「あんまり興味ないっすね」

 みゃーもり「だよね!」

 みゃーもり「そうだよね。りーちゃんはそう言ってくれると思った」

 みゃーもり「よかったぁ」

 りーちゃん「あれ、でも、なんか興味でてきたかもっす」

 みゃーもり「…………」


 りーちゃん「わたし、スポーツって人間ドラマだと思うんすよ」

 りーちゃん「で、父が中日ファンなんすけど」

 りーちゃん「日本シリーズで完全試合のままマウンドを降りた山井選手に代わって」

 りーちゃん「岩瀬選手がマウンドに上がったとき震えたっす」

 りーちゃん「すごいプレッシャーだろうなぁって」

 りーちゃん「一点差っすよ? 日本シリーズ優勝かかってるですよ?」

 りーちゃん「その上完全試合継続中っすよ」

 りーちゃん「抑えられるわけない。そう思ったっす」


 りーちゃん「でも、そこで抑えちゃうのが岩瀬選手なんすよね」

 りーちゃん「感動したっす」

 みゃーもり「……そうなんだ」

 みゃーもり「りーちゃんはどうする?」

 りーちゃん「正直、行ってみたいっす」

 みゃーもり「…………」


 みゃーもり「……嫌い」

 みゃーもり「野球なんて嫌い。大嫌い!」

 みゃーもり「いいよ。もう明日はずかちゃんとデートだ」

 みゃーもり「いっぱい話して全部忘れてやる」


 ずか「行く」

 みゃーもり「え?」

 ずか「野球でしょ。行く」

 ずか「行かないわけないじゃん」

 みゃーもり「……ずかちゃん、野球好きだったっけ?」


 ずか「前はそんなに好きじゃ無かったけど」

 ずか「でも、最近毎日見てるから」

 ずか「朝はメジャー。昼はデーゲーム。夜はナイター」

 みゃーもり「そうなんだ……」

 ずか「おいちゃんってプロ野球どこファン」

 みゃーもり「うーん。特にないけど」

 みゃーもり「強いて言うなら阪神かな。お父さんが好きだから」

 ずか「ちーん(笑)」

 みゃーもり「…………」


 みゃーもり「みんなわたしより野球取っちゃうんだ」

 みゃーもり「明日、一人か」

 みゃーもり「はぁ……」

 みゃーもり「野球、行こ」


 みゃーもり「え? 渡辺さんもタローさんも来れないんですか?」

 ナベP「すまん。エボラ出血熱が移ったみたいだ」

 ナベP「今隔離されてる。ちょっと今日出るのは無理そうだ」

 みゃーもり「そうなんですか」

 ナベP「……今日の試合なんだがな」

 ナベP「ムサニの命運がかかってるんだ」

 みゃーもり「は?」


 ナベP「決勝の相手であるボーンのチームは」

 ナベP「ここ10年地元の大会では負けたことがない」

 ナベP「うちも長い間、ずっと苦汁をなめ続けてきた」

 ナベP「そこに今回。フリーの監督と山田さんと円さんが加わって」

 ナベP「最強のエースと四番バッターが加わった」

 ナベP「小笠原さんだ」


 みゃーもり「小笠原さんってそんなにすごいんですか?」

 ナベP「すごいなんてもんじゃない」

 ナベP「あのフォームならプロに混じってもまったく遜色ないだろう」

 ナベP「山田久志と門田博光をそのまま足したような選手」

 ナベP「それが小笠原さんだ」

 みゃーもり「はぁ、そうなんですか」


 ナベP「大会でボーンに負け続けた歴史は」

 ナベP「ムサニが終わったとバカにされていた時期とぴったり符合する」

 ナベP「これは社の命運をかけた戦いだ」

 ナベP「三女を成功させ、ムサニの復興を決定づけるためには」

 ナベP「なんとしてでもこの試合に勝たなければならない」

 ナベP「宮森、頼んだぞ」

 みゃーもり「…………」


 みゃーもり「と言われても、なぁ」

 みゃーもり「同好会の五人に、小笠原さん、井口さん。それに矢野さん」

 みゃーもり「……一人足りないし」

 絵麻「おいちゃん、どうかした?」

 みゃーもり「いや、なんか他の人来れなくなったみたいで」

 みゃーもり「人数、足りないっぽいんだよね」

 絵麻「でも、一人くらいならなんとかなるかも」


 みゃーもり「え?」

 絵麻「えっと、ここかな? ここかな?」

 みゃーもり「どうしたの、絵麻。ゴミ箱なんて開けて」

 絵麻「いや、久乃木さんがいるかなって」

 絵麻「いつもついてきてくれるから」

 みゃーもり「いやいや、いくらなんでもそれは……」

 絵麻「あ、いた」

 久乃木「…………」

 みゃーもり「…………」


 絵麻「野球したことある?」

 久乃木「な!(野球をしたことはありません)」

 絵麻「そっか。でも一緒にやってくれたら、助かるんだけど」

 久乃木「る!(はい。是非やらせてください)」

 絵麻「やってくれるって」

 みゃーもり「…………」


 みゃーもり「えっと、オーダー? を持っていくんだよね」

 みゃーもり「井口さん、オーダーってわかります?」

 井口「ああ、それなら綸子はんが書いてくれてたよ」

 井口「これこれ。はい」

 みゃーもり「その小笠原さんはどこですか?」

 井口「多分トイレだね」

 井口「綸子はん。試合前、いつも瞑想してるから」

 みゃーもり「……これ、草野球ですよね?」

 井口「いやいや」

 井口「聞いてない? ムサニの命運がかかってるから」


 審判「すいません。武蔵野さんチーム代表の方、オーダー持って来てください」

 みゃーもり「あ、はい、今行きます」

 伊波「よう、宮森あさり」

 伊波「久しいな」

 みゃーもり「あおいですって」

 伊波「あれ、そうだったか」

 伊波「今日渡辺はどうしたんだよ?」

 みゃーもり「それがちょっと病院で」

 みゃーもり「エボラ出血熱にかかったみたいで」

 伊波「そうか。まあ、治るだろ」

 みゃーもり「そうですね」


 伊波「そっちはなんだか大変みたいだが」

 伊波「こっちは容赦しないからな」

 伊波「ムサニの反撃もここまで」

 伊波「これからはボーンの時代よ」

 みゃーもり「…………」

 伊波「ま、せいぜいがんばるんだな」


 審判「プレイボール!」

 みゃーもり「ちょっと勝ちたいなって思っちゃったけど」

 みゃーもり「でも、わたしたち寄せ集めだし。素人ばっかだし」

 みゃーもり「勝てるわけ、ないよね」

 1 右翼手 みーちゃん
 2 遊撃手 矢野
 3 一塁手 ずか
 4 投手  小笠原
 5 二塁手 井口
 6 捕手  絵麻
 7 三塁手 みゃーもり
 8 左翼手 りーちゃん
 9 中堅手 久乃木

 みゃーもり「サードか……。ファーストすごく遠い」

 みゃーもり「とんでこないといいなぁ」


 キィン!

 サード前。ぼてぼてのゴロ。

 みゃーもり(うわ、とんできた!)

 みゃーもり(えっと、取らなきゃ。グローブ出して……)

 みゃーもり(あ!)

 みゃーもり(弾いちゃった)

 みゃーもり(どこ? どこいったの?)


 矢野「宮森、どいて!」

 みゃーもり「は、はい!」

 矢野「このっ!」

 https://www.youtube.com/watch?v=Gf0LbdNrrUk

 みゃーもり(すごい! 反対方向に跳びながら投げるなんて)


 みゃーもり「矢野さん! すごい! すごいです!」

 みゃーもり「野球やったことあったんですか?」

 矢野「ソフトだけどね。高校までしてた」

 矢野「自分で言うのもあれだけど結構いい選手だったんだよ?」

 矢野「身長足りなくてあきらめたけど」

 みゃーもり「そうなんですね。かっこよかったです」


 みゃーもり「ごめんなさい。わたし、ミスしちゃって」

 矢野「初心者なんでしょ。しょうがないよ」

 矢野「大丈夫。わたしできる限りフォローするし」

 矢野「それに、小笠原さんだから」

 みゃーもり「……?」

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!(ストライクです)」

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!!(ストライクツーです)」

 https://www.youtube.com/watch?v=xa3UJ0G_eTE


 みゃーもり(すごい。あっという間に追い込んだ)

 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!(三振です)」

 みゃーもり「小笠原さん、すごいです!」

 小笠原「いえいえ。宮森さんのおかげです」

 みゃーもり「え?」


 小笠原「相手がサードを狙おうとしてたので」

 小笠原「外のストレートで追い込んだ後」

 小笠原「ボールになるシンカーで三振を取ったのです」

 みゃーもり「……すいません、小笠原さん。ご迷惑をおかけして」

 小笠原「とんでもない」

 小笠原「わたしは助けられたと言っているのです」

 小笠原「味方の欠点を利用し、長所にしてしまう」

 小笠原「それがチームというものでしょう?」

 みゃーもり「小笠原さん……」


 小笠原「さあ、あと一人」

 小笠原「きっちり抑えましょう!」

 みゃーもり「はい!」

 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 みゃーもり「また三振!」

 みゃーもり「小笠原さん、すごいです!」

 みゃーもり「これなら勝てますよ!」

 小笠原「いえ、敵はそう甘くはありません」

 みゃーもり「え?」


 小笠原「ザ・ボーン社長伊波政彦」

 小笠原「最高球速142キロ」

 小笠原「打者の手元で動くストレートが持ち味の速球派」

 小笠原「甲子園出場経験もある男です」

 みゃーもり「…………」

 みゃーもり「どうしてアニメやってるんですか?」

 小笠原「さあ? 好きなのではないですか?」


 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 みーちゃん「うーん、なかなかうまくはいかないなぁ」

 矢野「大丈夫。良いスイングしてたし、次は当たるよ」

 みーちゃん「はい、ありがとうございます」

 ずか「イチローの真似なんかして三振とか(笑)」

 みーちゃん「…………」


 みーちゃん「ずかちゃん先輩は打てるんですか?」

 ずか「うん。だって野球毎日見てるし」

 ずか「鏡の前でフォームの物まねとかしてるし」

 ずか「多分プロでも一割くらいは打てるんじゃないかな」

 みーちゃん「…………」

 みーちゃん「……そうですか」


 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 矢野「やっぱブランクあるなぁ、もう」

 ずか「大丈夫です。わたし、打ちますから」

 矢野「おお、頼もしい」

 ずか「あんなおじさんの球余裕ですから」


 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 ずか「…………」

 みーちゃん「…………」

 ずか「……ちょ、ちょっと調子が悪かっただけだから」

 ずか「つ、次、絶対打てるし」

 みーちゃん「そうですか」


 みゃーもり(伊波さん、すごいなぁ)

 みゃーもり(三者三振。全部ストレート)

 小笠原「宮森さん。ちょっとお願いがあるんですけど」

 みゃーもり「はい」

 小笠原「次、打球が来たら逃げてください」

 みゃーもり「え?」

 小笠原「他の打者ならいいのですが」

 小笠原「次は四番、伊波政彦」

 小笠原「甲子園でホームランを打ったこともある男です」

 みゃーもり「……ほんと、なんでアニメやってるんですか?」

 小笠原「さあ?」


 キイイイイイイインッッ!!!

 みゃーもり「え?」

 みゃーもり「今、打ったの?」

 みゃーもり「打球、見えなかった……」

 みゃーもり「レフト、ポール際」

 みゃーもり「ホームランだ」



 フェンスによじ登るりーちゃん「ここっす!」パシッ


 みゃーもり「り、りーちゃんすごいよ!」

 みゃーもり「どうしてわかったの?」

 りーちゃん「伊波さんのスイングと」

 りーちゃん「小笠原さんの投球を見てたら」

 りーちゃん「なんとなく、ここかなって」

 みゃーもり「わかるものなんだ」

 りーちゃん「でも、矢野さんのおかげっす」

 みゃーもり「え?」

 りーちゃん「球種。サインで教えてくれましたから」


 矢野「あれ? 見ててくれたんだ」

 りーちゃん「はい、ばっちりっす」

 りーちゃん「グーがストレートでパーが変化球ですよね」

 矢野「そうそう」

 矢野「なんとなく癖でやってたんだけど」

 矢野「わかってもらえるとは思わなかったな。やっててよかった」


 矢野「次も出すからね?」

 りーちゃん「はい! がんばるっす!」

 みゃーもり「……野球ってなんか色々あるんですね」

 みゃーもり「投げて打って。それだけだと思ってました」

 矢野「まあね。でも、宮森はそんな難しく考えないでいいと思うよ」

 矢野「取って投げて打って走って。それが野球の一番の醍醐味だからさ」

 みゃーもり「はい!」


 みゃーもり(とはいったものの)

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!(ストライクです)」

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!!(ストライクツーです)」

 みゃーもり(こんなの……)

 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 みゃーもり(打てるわけないよ……)

 みゃーもり「矢野さん、あんなの無理です」

 矢野「ま、たしかにちょっと厳しいかもね」

 矢野「でもさ。あきらめずバット振ってみなよ」

 矢野「何か起きるかもしれないからさ」

 みゃーもり「はい……」


 みゃーもり(その後、小笠原さんは)

 みゃーもり(七回までランナーを出しながらもなんとか無失点)

 みゃーもり(しかし対する伊波さんは)

 みゃーもり(依然としてパーフェクトピッチング)

 みゃーもり(まるで攻略の糸口を見つけることができないまま)

 みゃーもり(七回裏の攻撃を迎えた)


 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 みーちゃん「くそ、当たんないなぁ」

 矢野「合ってきてるよ。もう少し」

 みーちゃん「はい!」

 ずか「…………」

 みーちゃん「ずかちゃん先輩は打てるんですよね」

 ずか「も、勿論よ!」


 矢野(まともに振って当たらないなら……)

 矢野(これで……!)

 みーちゃん「わ、セーフティバント」

 ずか「うまい、ライン際だ」

 伊波「取るな! 切れる!」

 打球は力なく、

 蛇のようにのたうって、



 線上で止まる。


 みーちゃん「やった! 初ヒット!」

 みーちゃん「次はずかちゃん先輩ですよ!」

 ずか「と、当然よ」

 ずか「ホームラン……は無理だけど」

 ずか「ヒットなら……それも厳しいけど」

 ずか「でもフォアボールなら……」

 みーちゃん「…………」


 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 ずか「ごめん、みーちゃん」

 ずか「わたしがわるかった」

 みーちゃん「いえ。気にしてないですから」

 ずか「…………」

 みーちゃん「つ、次、打てますよ」


 伊波「遂にきたか」

 竹倉「…………」

 竹倉「ツーアウトだ。無理はせず歩かせても」

 伊波「いや、あいつを抑えないと勝ったことにはならねえ」



 小笠原「…………」

 伊波「……勝負だ」


 伊波(ここまでの二打席)

 伊波(先頭打者ということもあってか随分粘ってきやがった)

 伊波(一打席目10球、二打席目12球)

 伊波(最後は三振に取ったとは言え)

 伊波(やっぱりこいつは別格だ)


 伊波(ツーアウト一塁。打者は四番)

 伊波(セオリーなら外野は下げて長打を警戒すべきだが)

 伊波(そんなものは必要ない)

 伊波(この勝負俺は負けないからだ)

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!(ストライクです)」

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!!(ストライクツーです)」

 小笠原「…………」

 伊波(よし、追い込んだ)


 キィン

 伊波(またファールか)

 伊波(追い込んだはいいがこの女、随分粘りやがる)

 伊波(俺の球種はフォーシームとツーシーム)

 伊波(横と縦のカットボールに)

 伊波(緩急を付けるカーブ)

 伊波(…………)


 伊波(このカーブは今日一度も投げていない)

 伊波(逃げるようでしゃくだが、これで終わらせるか……)

 伊波(外の速いボールにもだんだん合ってきているようだし)

 伊波(…………)

 伊波(いや、やっぱりストレートだ)

 伊波(インコース。力勝負……!)

 キィン!

 伊波(またファール)

 小笠原「…………」

 伊波(ん……?)

 伊波(笑った、だと)


 伊波(なるほどな)

 伊波(外狙いはあくまでブラフ。撒き餌)

 伊波(本命はインコースの速いボール)

 伊波(外のボールであれば踏み込んでもホームランにするのは難しい)

 伊波(だからインコース。ずっと待ってたわけだ)

 伊波(頼りになるのは自分だけ。次打順が回ってくるかさえわからないとなれば)

 伊波(点が入るかわからないヒットよりも一発で二点)

 伊波(たしかに、理にかなっている)


 伊波(だが、残念だったな)

 伊波(野球はそんな甘いもんじゃない)

 伊波(女に打てるほど)

 伊波(俺のボールはふぬけちゃいねえんだよ)

 伊波(外のカーブ。これで終わりだ)


 伊波はセットポジション。

 左足が上がる。
 
 全体重が軸足にかかり、

 スパイクがマウンドを蹴る。

 引き絞られた弓が放たれるように、

 目にも留まらぬ速さで

 右腕が振り抜かれた。

 刹那――



 https://www.youtube.com/watch?v=USTd2177_Do

 小笠原綸子はバットを振り抜いた。



 小笠原「たしかに、インコースのストレートを狙うのは合理的ではありますが」

 小笠原「しかし、伊波さんの手元で動くストレートは)

 小笠原「わかっていても確実にホームランにする自信はありませんでした」

 小笠原「で、あればホームランにできるボールを投げてもらう」

 小笠原「それが、野球というものです」

 伊波「…………」

 伊波「負けたよ」

 伊波「あんた、たいしたもんだ」



 伊波「だが、まだ試合は終わっちゃいない」

 七回裏。武蔵野アニメーション二点先制――

今日はここまで。
続きは仕事が早く片付けば明日の夜やりたいと思っている。
感想もらえるとうれしい。


 みゃーもり(伊波さんは続く井口さんを三振に切ってとり)

 みゃーもり(八回表、ザ・ボーンチームの攻撃)

 みゃーもり(打順は二番から。四番の伊波さんに回る好打順)

 みゃーもり(ランナーを出したくないのはわたしでもわかる)

 二番打者(…………)

 みゃーもり(あれ? なんか見られてる?)

 矢野「!」

 矢野「宮森、前! セーフティーだ!」


 三塁線へのセーフティーバント。

 想定外の事態に宮森の足は動かない。

 ボールまでの距離は永遠みたいに遠く。

 ボールに触れたときには二番打者は、

 一塁ベースを駆け抜けているだろう。

 混乱でわわー、となる宮森の前に、

 小笠原「…………」

 白い影が割り込んだ。


 グラブのない左手でボールが掴むと、

 下からのスナップスローでボールを一塁へ送る。

 一瞬の静寂の後、

 アウトのコールが球場に木霊した。

 みゃーもり「……すいません、小笠原さん」

 小笠原「言ってるでしょう。欠点を補い合い、助け合うのがチームです」

 小笠原「謝る必要なんてありません」

 小笠原「その代わり、わたしが苦しいときは」

 小笠原「宮森さんがわたしを助けてください」

 みゃーもり「……はい!」


 快音が響く。

 左中間への当たり。

 久乃木はボールを中継の矢野に返すのが精一杯。

 待望のランナーが出塁する。

 ワンナウトランナー二塁。

 迎える打者は――

 伊波「…………」

 四番伊波。

 井口はマウンドに近寄ると、

 井口「歩かせます?」

 声をかけた。


 小笠原「すいません、タイムをお願いします」

 マウンドに選手が集まる。

 小笠原「みなさんは、どう思われますか?」

 小笠原「安原さんは?」

 絵麻「わ、わたしですか」

 絵麻「わたしは……」

 絵麻「歩かせるべきだと、と思います」

 絵麻「正直、何をどうしても打たれるような気がします」

 絵麻「すいません。小笠原さんのボールが悪いというわけではないんですけど」

 小笠原「わかりました」

 小笠原「矢野さんはどう思われますか?」


 矢野「わたしも、歩かせるべきだと思います」

 矢野「一打席目は勿論、二打席目のピッチャーライナー、三打席目のツーベースヒット」

 矢野「全て完璧に捉えられてます」

 矢野「歩かせる方がベターかな、と」

 小笠原「宮森さんは?」

 みゃーもり「わたしは、その、矢野さんの言うとおりだと思います」

 小笠原「坂木さんは?」

 ずか「……わたし、野球詳しくないのでわからないです」

 みゃーもり(落ち込んでる)


 小笠原「そうですか」

 井口「…………」

 井口「でも、二点差ですし。ランナーを貯めるのも怖いと言えば怖いですよ」

 絵麻「それはありますよね。じゃあ、フォアボール前提で厳しいところで勝負するのはどうですか?」

 矢野「わたしは反対だな。それならはっきり歩かせた方が間違いないです」

 矢野「そうやって中途半端なことして痛い目見たことありますし」

 小笠原「…………」

 井口「結局、どっちを選んでもどう転ぶかはわからないと思うんですよ」

 井口「だから、ここは小笠原さんがしたいようにすればいいとわたしは思います」

 小笠原「…………」

 小笠原「すいません。勝負させてはもらえませんか?」


 小笠原「伊波さんは歩かせた方が間違いない場面で、わたしと勝負してくれました」

 小笠原「わたしも逃げたくない」

 小笠原「そう、心が言っているのです」

 矢野「小笠原さんが勝負したいならそれがいいと思います」

 矢野「小笠原さんが取った二点ですし」

 小笠原「すいません。ここは勝負させてください」

 井口「謝ることなんてないですよ。その言葉を待ってました」

 選手がフィールドに散る。

 伊波「…………」

 小笠原「…………」

 視線が交錯する。


 伊波(小笠原の球種はストレート、カーブ、シュート)

 伊波(そして決め球のシンカー)

 伊波(二点差。ランナー二塁。セオリーでは長打を警戒し、外中心で来るところ)

 伊波(まして小笠原は左投げのアンダースロー)

 伊波(右打者の俺のインコースは攻めづらい)

 小笠原「…………」

 伊波(だが、それが狙いなんだろう?)


 伊波(誰がどう見ても外を狙ってくる場面)

 伊波(だからこそ、インコースを待つ)

 伊波(一球捨てるだけの価値はある)

 小笠原はセットポジション。

 ボウリングのような下手投げから、

 インコースへのストレートが放たれた。

 伊波(もらった……!)

 キイイイイイイイイン!!!!!

 打球がレフトスタンドへ舞い上がった。


 小笠原が打球を目で追う。

 バットを振り抜いた伊波は、

 伊波「くそっ」

 バットをグラウンドに叩きつけた。

 勝負を分けたのは僅かな力み。

 狙い通りの球がきたことがほんの少しの力みをうみ、

 この日一番のストレートが、

 紙一重で真芯をかわしていた。

 りーちゃん「おーらい、おーらいっす」

 高々と上がった白球が、

 雲の切れ間から落ちてくる。

 その瞬間、

 目映い陽射しがグラウンドに降り注いだ。

 りーちゃん「ぼ、ボールが消えたっす」


 白球が大きく弾む。

 みどりは慌てて返球するが、

 ランナー一人生還。

 伊波も二塁へ到達している。

 りーちゃん「…………」


 りーちゃん「すいません……」

 矢野「太陽が目に入ったんでしょ。仕方ないよ。それに、今井さんには一度助けられてるしね」

 みゃーもり「そうそう。気にすることないよ」

 矢野「過ぎたことは仕方ないから気持ち切り替えてね。じゃないと、もう一度とんでくるよ」

 りーちゃん「はい……」

 一点差。

 尚も、ワンナウトランナー二塁。

 武蔵野は重たい空気を変えられないまま、

 試合が再開される。


 続く竹倉は痛烈なライト前ヒット。

 小笠原は次の打者にも四球を許してしまう。

 ワンナウト満塁。

 小笠原はこの回二つ目のタイムを取る。

 小笠原「すいません。打たせます。助けてください」

 みゃーもり(小笠原さんを助けなきゃ)

 守備についた宮森の後方に、

 浅いフライがふらふらと上がった。


 みゃーもり(絶対取るんだ!)

 みゃーもり(何度も助けてくれた小笠原さんに)

 みゃーもり(わたしもがんばって返さないと)

 みゃーもり(あれ?)

 みゃーもり(いまわたしはどっち向いてるんだろ)

 みゃーもり(どっちが前でどっちが後ろで)

 みゃーもり(うわ、ボール落ちてきた)

 みゃーもり(えっと、えっと)

 矢野「宮森! どいて!」

 みゃーもり「や、矢野さん!?」

 二人は交錯して、もつれ合うようにグラウンドに転がった。


 みゃーもり「いたた……」

 みゃーもり「そうだ、ボール! ボールは!」

 矢野「大丈夫。取ってるよ」

 みゃーもり「よかった……」

 みゃーもり(これでなんとかツーアウト)

 矢野「…………」

 矢野「ごめん、ちょっとまずったかも」


 みゃーもり「え?」

 矢野「ちょっと足をひねっちゃったみたいでさ」

 みゃーもり「そんな……」

 矢野「でも、大丈夫。大丈夫だよ。我慢すれば出られ……」

 矢野「…………」

 矢野「ないみたい」

 矢野「ごめん」

 みゃーもり「……すいません、わたしのせいで」

 矢野「いやいや、宮森はわるくないよ。わたしが声かけるの遅かっただけ」


 みゃーもり「ほんとにすいません」

 矢野「だから気にしないでいいって」

 矢野「それより、わたしの代わりどうしよう?」

 みゃーもり「それは……」

 小笠原「困りましたね」

 井口「そうだねえ」

 矢野「やっぱり、わたし、出ようかな」

 みゃーもり「それはダメですよ」

 矢野「でも、そうするくらいしか手がないんじゃ――」



 興津「わたし、出ましょうか?」


 みゃーもり「興津さん!」

 みゃーもり「いつ来られたんですか?」

 興津「今ほどです。社の命運がかかっているとなれば」

 興津「わたしにも何かお手伝いできないかと思いまして」

 矢野「よかった。これで安心だよ、宮森」

 みゃーもり「え?」

 矢野「興津さんなら、間違いないから」


 矢野に代わって興津がショートの守備につく。

 井口「代わったとこいきますよー」

 興津「ええ。承知しています」

 みゃーもり(ツーアウト満塁)

 みゃーもり(ゴロならベースを踏めばいいんだよね)

 みゃーもり(セーフティーバントは多分ないはず)

 みゃーもり(あとは、えっと……)

 キイイイイイン!

 痛烈なライナーが左中間を襲う。

 みゃーもり(ヒット、逆転だ……!)

 宮森は目を瞑ろうとする。

 その瞬間、



「――――!」

 興津由佳が打球をもぎ取った。


 井口「興津さん、さすがですよ」

 小笠原「すいません。助かりました」

 興津「いえ。取れるボールでしたから」

 みゃーもり「興津さんって野球されたことあるんですか?」

 興津「ええ、昔少しだけ」

 みゃーもり(興津さんってどういう人生送ってこられたんだろう)


 矢野「さあ、小笠原さんを援護しないと!」

 絵麻「がんばります!」

 みゃーもり「はい!」

 りーちゃん「絶対打つっす!」

 気合い十分の武蔵野打線だったが、

 絵麻「……当たらない」

 みゃーもり「やっぱり無理だよ」

 りーちゃん「難しいっすね」

 伊波の前にあえなく三者三振。

 一点リードのまま最終回。

 九回表の守備につく。


 キイイイイイン!

 武蔵野アニメーションはピンチを迎えていた。

 小笠原が連打を許し、ノーアウト一二塁。

 井口(さすがの綸子はんもお疲れか)

 井口(九回もボーンの強力打線を抑えてきたんだもんね)

 井口(球数も120球を超えている)

 井口(仕方ない。仕方ないことだけど)

 井口(でも、これはちょっちまずいなぁ)

 球審白井「ボールフォアッッッ!!!」

 四球でノーアウト満塁。

 三番の小野寺が打席に入る。

 その初球、

 痛烈な打球がサードを襲った。


 井口「宮森、あぶない!」

 打球は黒土を鋭く蹴って、

 宮森の身体へ一直線。

 井口が目を瞑った。

 その瞬間、

 ぱし、と。

 小気味いい音がグラウンドに響き渡った。


 みゃーもり(と、取れた!)

 絵麻「おいちゃん、こっち!」

 みゃーもり「うん!」

 バックホームで本塁封殺。

 これでワンナウト。

 小笠原「宮森さん、ありがとうございます」

 小笠原「助かりました」

 みゃーもり「い、いや、そんな」

 小笠原「次もお願いします」

 みゃーもり「はい!」

 みゃーもり(取れた)

 みゃーもり(わたし、アウト取れたんだ)

 みゃーもり(やった、やった!)


 小笠原(なんとかアウト一つは取れましたが)

 小笠原(続く打者は……)

 伊波「…………」

 小笠原(四番、)

 小笠原(伊波政彦……)


 小笠原(ボールに力がないのは自分でもわかっています)

 小笠原(それでも、マウンドを降りられないのだから)

 小笠原(投手というのは孤独なものですね)

 小笠原(あとアウト二つ)

 小笠原(勝つために)

 小笠原(もう一度、あなたを抑えます……!)

 この日、小笠原が投じた130球目は――

 爆発のような打球音を残して、

 レフトスタンドに突き刺さった。


 伊波「ここまであんた、よくやったよ」

 伊波「一人でうちをここまで追い詰めたんだ」

 伊波「ほんとたいしたもんだと思う」

 伊波「だが、ここまでだ」

 伊波「今日はうちの勝ちだ」

 小笠原「…………」

 小笠原はリードを守り切れず、5-2。

 三点差で九回裏、最後の攻撃へ突入する。


 絵麻「久乃木さん、がんばって!」

 久乃木「打つっ(打ちたいです。がんばります)」

 絵麻(あれ、ちゃんと言葉になってるみたい)

 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 しかし、三振に倒れてワンナウト。

 久乃木「…………」

 絵麻「がんばったね。うん。しょうがないよ」

 久乃木「くやっ」

 みーちゃん「…………」


 みーちゃん(ひげのおじさんはストレートだけで)

 みーちゃん(わたしたちを抑えられると思ってる)

 みーちゃん(ストレート。ストレートだけなんだ)

 みーちゃん(タイミングを合わせて。投げ終わる前から振り始めるイメージで)

 みーちゃん(きた……!)


 快音が響く。

 チーム三本目のヒットはセンター前。

 みーちゃん「やりました!」

 ずか「みーちゃん、すごいすごい!」

 みーちゃん「次はずかちゃん先輩ですよ!」

 ずか「う、うん……」

 みーちゃん(自信なくしてる)


 興津(たしかにいいストレートですが)

 興津(しかし、打てないボールではありません)

 快音が続く。

 興津が連打で続いてワンナウト一二塁。

 矢野「興津さん、さすがです!」

 みゃーもり(ほんと、あの人何者なんだろう)

 ずか「…………」

 ずか(やばいやばいやばい)

 ずか(なんか盛り上がってるけど)

 ずか(あんなの、絶対わたし打てないよ)


 ずか(そうだ、振らなかったらフォアボールとかもらえたり)

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!(ストライクです)」

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!!(ストライクツーです)」

 ずか「…………」

 ずか(どうしよう。これじゃわたし戦犯だ)

 ずか(戦犯スレが乱立して)

 ずか(日本シリーズ戦犯ずかとか言われちゃうんだ)


 みーちゃん「ずかちゃん先輩大丈夫です!」

 みーちゃん「絶対絶対打てますよ!」

 みゃーもり「そうだよ、ずかちゃん! 打てる打てる!」

 りーちゃん「ずかちゃん先輩は不可能を可能にできる人だってわたし知ってるっす!」

 絵麻「ずかちゃん、がんばって!」

 ずか「…………」

 ずか(みんな……)

 ずか(最初からあきらめてちゃダメだよね)

 剛速球がうねりをあげて近づいてくる。

 ずか(お願い)

 ずか(当たって……!)


 かこん、と軽い音と共に、
 
 ふらふらとあがった打球は、

 追い風を背中に受けながら、

 ライトの前にぽとりと落ちた。

 ずか「やった、やった!」

 ずか「みんな、わたしやったよ!」

 「さすがです!」「ずかちゃん最高!」「わ、わたしは知ってたっす!」「ずかちゃん、すごい、すごい!」

 ずか(わたし、打てたんだ)

 ずか(…………)

 ずか(やっぱり、プロで一割もありえなくはないかも)


 竹倉「大丈夫か?」

 伊波「なにがだよ」

 竹倉「いや、疲れの具合とかさ」

 伊波「問題ねえよ」

 伊波「まぐれが三つ続いただけだ」

 竹倉「でも、ボール自体力がなくなってるようだし」

 伊波「俺に降りろっていうのか?」

 竹倉「そこまでは言わないけどさ」

 伊波「ま、言われても降りねえけどな」

 伊波「だってそうだろ」

 伊波「こんな面白い場面で投げねえで」

 伊波「なんで、ピッチャーやってるって話だ」

 伊波「なぁ」

 小笠原「…………」


 ワンナウト満塁。

 三点差。

 ホームランが出れば逆転サヨナラのこの場面で。

 井口「小笠原さん、頼みました!」

 矢野「一発お願いします!」

 みゃーもり「小笠原さんなら絶対打てます!」

 小笠原が味方の声援を背に打席に入る。


 小笠原(できるなら、ここで決めたいところですが)

 小笠原(カーブは間違ってもこないでしょうし)

 小笠原(インコースもまずこないでしょう)

 小笠原(で、あればまずは長打で同点)

 小笠原(あとはみなさんに託します)

 初球、小笠原は外のボールを強く叩こうとホームベース側へ踏み込む。

 小笠原(な!)

 慌てて身をかわした。

 放たれたボールはインコース高め。

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!(ストライクです)」

 審判の声が高らかに響く。


 小笠原(まさかインコースとは)

 小笠原(しかし、次は外でしょう)

 球審白井「アァァァァァァイッッッ!!!!!(ストライクツーです)」

 小笠原(またインコース)

 伊波「…………」

 小笠原(裏をかいてきた、というわけではなさそうですね)

 小笠原(なるほど)

 小笠原(真っ向勝負というわけですか)

 小笠原(面白い……!)


 伊波は大きく振りかぶった。

 走者度外視のワインドアップ。

 興津(ホームスチールは……!)

 興津は前の塁へスタートを切ろうとするが、三塁ランナーが動かないのを見て自重する。

 右腕が振り抜かれ、

 白球は目にも留まらぬ速さでインハイへ構えられたミットへ。

 瞬間――



 小笠原綸子はバットを振り抜いた。


 球審白井「アァァァァァァァァァッッッ!!!!!!(三振です)」

 伊波「しゃあっ!!」

 小笠原「…………」

 小笠原は唇を噛み、

 バットを握りしめてベンチへ戻る。

 絵麻「そんな、小笠原さんが……」

 りーちゃん「信じられないっす……」

 井口「…………」

 井口(ラストバッターか)

 ツーアウト。

 遂に後が無くなった。

 チームに重たいムードが立ちこめる。

 みゃーもり「…………」


 みゃーもり「これから」

 みゃーもり「まだまだこれからですよ!」

 みゃーもり「井口さんも、絵麻もいます」

 みゃーもり「それに、」

 みゃーもり「わたしだっています!」

 みゃーもり「絶対逆転できますよ!」

 矢野「宮森……」

 矢野「そうだね!」

 矢野「うん、絶対勝てる! 絶対勝てるよ!」

 小笠原「そうです! これからです!」

 りーちゃん「井口さん、打てるっすよ!」

 絵麻「井口さん打てます! 絶対打てます!」

 井口「…………」


 井口(そうだよね)

 井口(勝負は何が起こるかわからない)

 井口(最初からあきらめるなんて)

 井口(そんな勿体ないことしてどうするんだっての)

 井口(さあ、来い)

 井口(いけ……!)


 井口の打球は一二塁間。

 ころころと転がり、

 セカンドのグラブをかすめて、

 ライト前へ。

 これで二点差。

 井口「さあ、次は絵麻っちだよ!」

 久乃木「がんっ!」

 絵麻「うん、がんばってくるね」


 絵麻(どうしてだろう)

 絵麻(不思議と怖くない)

 絵麻(打てなかったらここで終わりなのに)

 みゃーもり「絵麻、打てるよ!」

 りーちゃん「絵麻先輩ならいけるっす!」

 絵麻(…………)

 絵麻(きっと、みんないてくれるからだ)

 絵麻(来る)

 絵麻(当たって……!)


 ふらふら、と打球が上がる。

 ファーストの後方。

 背走するファーストのグラブをかすめて、

 ライン際にぽとりと落ちる。

 静は本塁をうかがうが、

 ファーストが拾うのを見て引き返す。

 遂に一点差。

 絵麻「おいちゃんも打てるよ!」

 尚もツーアウト満塁。

 バッターは――

 みゃーもり(わたし、か)


 みゃーもり(どう考えても打てないはずなのに)

 みゃーもり(そんな気がしないのはなんでだろう)

 みゃーもり(みんなと一緒だからかな)

 みゃーもり(みんなで同じゴールを目指すって)

 みゃーもり(なんだか、アニメの仕事に似てるかも)

 みゃーもり(…………)


 みゃーもり(野球なんて大嫌いだと思ってたのに)

 みゃーもり(行きたくないな、って思ってたのに)

 みゃーもり(なんでだろう)

 みゃーもり(今は全然そんな感じがしないんだ)

 みゃーもり(…………)

 みゃーもり(そっか。わたし、楽しいんだ)

 みゃーもり(びっくりするくらい)

 みゃーもり(野球に夢中になってる)

 みゃーもり(打ちたいな)

 みゃーもり(打って、勝ちたい)

 みゃーもり(勝ちたい!)


 願いを込めてバットを振り抜いた。

 強い打球がファーストベースに当たって、

 ファウルグラウンドを転々と転がる。

 夢の中にいるみたいに、

 ふわふわした気持ちで一塁ベースを踏んだ。

 セカンドランナーの井口さんが

 両手を上げて、ホームベースを踏む。

「宮森さん、よくやってくれました」

 一塁ランナーコーチをしていた小笠原さんに抱きすくめられた。

 わたしは何が起きたのかわからなくて、

 いや、わかっていたけれど信じられなくて、

「どうなったんですか?」

 とバカな質問をした。

 小笠原さんは目にいっぱいに涙を溜めて、

「サヨナラです。わたしたちの勝ちです」

 と言った。


 数日後――

 ナベP「宮森、よくやった」

 ナベP「これで、ムサニの復興は決定的なものになった」

 ナベP「円盤爆売れ間違い無しだ」

 みゃーもり「は、はぁ」

 みゃーもり「渡辺さん、エボラは大丈夫だったんですか?」

 ナベP「あんなもん、うがいしとけば治るだろ?」

 みゃーもり「それはまあ、そうですけど」


 ナベP「ボーンの伊波さん、怒り狂ってたよ」

 ナベP「早くリベンジさせろだって」

 ナベP「はは、ざまあ」

 みゃーもり(渡辺さん、野球のことだと性格悪くなるんだよなぁ)

 ナベP「明日も練習なんだよ」

 ナベP「いつまでも伊波さんの再戦の申し込みから逃げてばかりもいられないからな」

 ナベP「向こう30年はムサニに手は出せないなとなるほどの勝ち方をしてやる」

 みゃーもり「そうですか」

 みゃーもり「…………」

 みゃーもり「まさか、また人数足りないとか言わないですよね?」


 ナベP「いや、それは問題ないよ」

 ナベP「監督たちも退院したし、それに明日は試合じゃないから」

 みゃーもり「そうですか」

 みゃーもり「…………」



 みゃーもり「あの、渡辺さん」

 みゃーもり「明日の練習、わたしも行っていいですか?」


 ナベP「それはいいけど」

 ナベP「でも、どうして?」

 みゃーもり「それは、その……」

 みゃーもり「一度、試合をしてみて」

 みゃーもり「もっと野球したいなって思ったというか、ですね」

 ナベP「宮森!」

 ナベP「俺はお前を信じていた!」

 ナベP「よし、早速宮森用の野球道具を買いに行こう」


 みゃーもり「いやいや、そんな本気でやるつもりはないですから」

 みゃーもり「それにまだ仕事中ですよ」

 ナベP「仕事と野球どっちが大事なんだよ」

 ナベP「野球に決まってるだろう!」

 みゃーもり「…………」

 ナベP「ほら、行くぞ! 宮森!」

 みゃーもり(まだ仕事あるのに……)

 みゃーもり(やっぱり野球なんて嫌い!)


 なんて思いながらも、

 グローブにボールが収まる、

 ぱしっという音を、

 想像するだけで、

 わたしの胸は、

 どうしようもなく弾んでいるのだった。


 おわり

以上。
長くて本当に申し訳なかった。
感想もらえるとうれしい。

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