おじさんと鋼鉄と少女と (25)

そう遠くは無い未来の世界。平和ムードが漂っていた世界情勢が一転、戦争の時代が幕を開けた

日本もその波に飲まれ、東西に分断。西日本国・東日本国に別れ争いを続けていた

そんな時代に生きるサラリーマンとその仲間とのお話……





千葉県 松戸市


スーツをだらしなく着こなし、普通の会社員なら働き始めているであろう時間にダラダラと歩いている一人の男がいた……

守谷 雅仁。このお話の主人公である


雅仁「あー…だる……」

ポケットからハイライトを一本取り出し咥えると、愛用のジッポで火をつけた

雅仁「……すぅ……ふー……」

やっぱりハイライトが一番美味い。いろいろ吸って試したりもするけど、やっぱりこれに落ち着く

雅仁「……」

腕時計を見ると時刻は9:20分。とっくに始業の時間は過ぎていた

まぁ……ゆっくりいくか……

俺は急ぐ事もなくゆったりと会社へ向かっていった

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こんなかんじでダラダラと書いていきます。通勤と退勤の間に書くので一度に多くは書けません

会社に着くと、俺は自分の所属する「営業4課」の部屋へ向かった

雅仁「おはよっす……」

ガチャリとドアを開けるといつも通りデスクに座りPCと睨めっこしたり、書類をカリカリとする4課の面々がいた

「また遅刻か」

低音でやたら響く声が聞こえた。窓際の一際広いデスクに座っている男のものだ

雅仁「どうせ大した仕事も無いじゃないすか」

名前は犬神 竜二。4課の課長である。筋骨隆々とした肉体、若々しい顔つきからはとても50代だとは想像出来ないくらいの容姿だ

竜二「それはそうなんだがな」

雅仁「……」

俺は頭をポリポリと掻きながら自分のデスクへ腰を下ろした

雅仁「……」

仕事が無い……

今大した仕事が無いと言ったが、本当に仕事が無いのだ

営業4課は社内で「会社のお荷物」だとか「意味なし部署」とか呼ばれている。何故かと言うと、大した仕事も与えられずただそこにあるだけの課…だからである

多少の雑務は任されるがその程度である。今に他の人間がやっている仕事もすぐに終わるだろう

「終わった!」

ほら

「守谷さん、今日はどうしますか?」

身体を解すように捻ったりしている青年が言った。名前は結城 和也。俺の仕事のパートナーである

雅仁「どうするっつったってな……」

竜二「今日は特に無いが明日は外回りだぞ」

和也「外回りっすか……」

気だるそうに言う。まぁ…実際だるい仕事ではある

雅仁「じゃあ……明日に備えて寝るか……」

「おい!」

デスクを枕に寝ようとすると、少女が声を掛けてきた

雅仁「なんだよ……」

「仕事が無いなら探せばいいだろう。どうしてお前はそうやってやる気が無いんだ!」

眉を釣り上げてむっとした表情で言うのは桐島・リオーネ。19歳の少女だが、年齢以上に大人っぽく、頭脳明晰で運動神経抜群。多分高校では生徒会長とかやってたんだろうな……という様なイメージである

雅仁「わざわざ他人の仕事を奪ってやる事ないだろ……めんどくせ」

リオーネ「お荷物と呼ばれて悔しくないのか!?それなりの成果を出せばそう言われる事だって無くなるんだぞ!」

雅仁「言わせとけばいいだろ……俺たちは俺たち。他人は他人」

リオーネ「……」

竜二「リオ、どうせ言った所で無駄だ。諦めろ」

リオーネ「しかし課長……」

と、言いかけた所で課長の無言の圧力に負けたのか、眼鏡をくいっとやるとしぶしぶ諦めた

さて、これでゆっくり寝れる……

竜二「雅仁、寝ても構わないが外回りはしっかりやれよ」

雅仁「わぁってますよ」

その一言を最後に、俺は段々と眠りへ落ちていった……


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和也「守谷さん、起きて下さい」

雅仁「あ……」

両面を擦り擦り。大きなあくびをしながら身体を起こすと、部屋の中には電灯がついており、外は暗闇に包まれていた

和也「外回りの時間ですよ」

辺りを見回すと和也しかおらず、時計の針はピッタリ12時を刺していた

雅仁「……」

きっと昨日寝ないで漫画読んでたからだな…

少し寝すぎたなと思いながら、俺は引き出しにしまっておいたコッペパンを取り出すとそれを貪った

和也「先に準備しておきますね」

雅仁「んぐ……もぐ……」


東京 金町

昔の日本の首都である東京は、荒廃した廃墟と化していた。そして、東日本国と西日本国との戦闘が一番激しく行われている地域でもある

最前線である江戸川の土手から100m程先にあるマンションの一室に雅仁と和也はいた

雅仁「……」

和也「……今の所動きは無いですね」

雅仁「このまま何も無しに終わればいいんだけどな」

俺はM5の弾をリロードすると、ポケットからハイライトを一本取り出して火をつけた

和也「ちょ……火で見つかりませんか?」

雅仁「問題ねーよ」

煙を肺に循環させながらそう答えた


M5

長く米軍などで使われて来たM4の後続。形状や機構はほとんど同じだが、発車速度や冷却機構を強化している。様々なアタッチメントを装備する事も可能で、今現在世界の主流となっているカービンライフル

和也「……あ」

雅仁「……始まったか?」

二本目も燃え尽きようとしていた時、突然発砲音が連発して聞こえ出した

和也「行きますか?」

雅仁「……そうだな」

フローリングに先端を擦り付けて火を消すと俺はのっそりと立ち上がる

ネクタイを締め、スーツを整える。腰に刺したブレードの位置を改めて確かめると、深呼吸を一回した

雅仁「さぁ…『営業』にいくぞ」

和也「うぃっす」

コツコツと革靴が床を叩く音が部屋に響いた

戦うサラリーマン…というイメージで書いてます。おじさん主人公のものは読んでみたいと思っていたのですがあまり書いてる人もいなかったので自分で書き始めてみました

稚拙な文章とか表現ですけど脳内で保管しながら、興味があればお付き合い下さい

野戦服に身を纏った兵士達が土嚢の裏からビルの影に潜む敵と銃撃戦を繰り広げていた

雅仁「あれ2課の連中じゃねえか?」

あの野戦服には見覚えがあった

和也「営業2課ですよね」

どうやら交戦していた片方は同じ会社の人間だったらしい

雅仁「苦戦してるみたいだな……」

和也「廃ビルの窓から攻撃されてるみたいですよ」

雅仁「……」

どうしたものか……

和也「少し手伝いますか…」

和也は背中に背負った狙撃銃を手にすると、スコープの穴を覗き込んだ

丁度俺たちは2課の後方のビルの屋上にいる。狙撃にはうってつけの場所だった

雅仁「……仕方ねえか。また課長になんか言われるのもアレだしな」

今日で5本目のハイライトに火を点けると、煙を一杯に吸い込んだ

雅仁「ふー……」

一息つくと口に咥えたままにM5を構える

タタタンッ

タタタンッ

和也「ナイスショット」

放った弾は見事に敵の頭にヒットした

雅仁「俺だけにやらせるなよ……」

和也「もちろん」

パァンッ

和也はリロードと射撃を淡々とこなしていく。手早くやってはいるが全弾命中させていた

雅仁「……動き始めた」

敵の弾幕によって動けずにいた2課の兵士達が前方に進行し始める

今回の外回りの内容は前線の偵察だったが……まぁこんなものだろう

雅仁「疲れたし帰るか……」

和也「そうですね。これで……」

和也がそう言いかけたその時

雅仁「待て、何か聞こえないか?」

俺は耳を澄ませてみた。銃撃の音、人が動く音、風の音、それに混じってなにやら鉄の擦れる音が聞こえてきた

和也「……」

それは段々と大きくなりズゥンと重たいものが地面を叩く音、微かに地面も揺れる

雅仁「……不味いな……」

ギギギィ!!

前方、敵がいるであろうビルの間から突然、巨大な蜘蛛がドスンと重たい脚を降ろした

M224多脚式戦車、確かそんな名前だった気がする。6本の脚に重武装した戦車の胴部分。その姿は『鋼鉄の巨大蜘蛛』

雅仁「……」

ビルの半分以上の背丈を持つそれは、唸りを上げながらこちらに向けて弾をばら撒き出した

バラタタタタタタ!!

土嚢やコンクリートすらも吹き飛ばしてしまうそれは2課の兵士達を次々と肉塊へと変えていく

雅仁「対戦車ミサイル……」

和也「そんなもの持ってきてません」

雅仁「だよなぁ……」

和也「ケータイで報告を……」

和也はポケットから携帯電話を取り出すと画面を指でなぞる

和也「……ジャミングされてますね」

雅仁「だろうな……」

この蜘蛛は恐らく江戸川の防衛線まで向かうはずだ。なんの前触れもなく戦車の襲撃を受けたとなれば…

被害は大きいだろうな……

雅仁「戻ってる時間はねえぞ」

和也「どうします?」

雅仁「分かってる癖に聞くなよ」

鼓動が高まっていく。ハイライトの煙が普段よりも美味く感じた

俺は機関砲を唸らせる蜘蛛を背に、ビルの階段へ走り出した


「打つ術無しか……」

営業2課課長、本田 昭善がそうつぶやいていた

目の前には迫り来る蜘蛛。対戦車兵器も無し。希望などとっくに消えている事だろう

雅仁「お困りで?」

身を低くしながら昭善の隣へと移動した

昭善「雅仁か…」

和也「俺も居ますよー」

昭善ははぁ…と溜息をつく

昭善「この状況、どう打破するんだ?」

2課の兵士達は見ると無傷なのが数名、死傷者は多数と言った所だった

雅仁「『村正』があれば楽勝ですけど…そうはいかないですからね」

和也「昭善課長は本部に戻って下さい。俺と守谷さんでここはなんとかします」

昭善「なんとかって……まさか蜘蛛と殺り合う気か?」

雅仁「まさか、あんなのと殺り合ってたら幾つ残機があったって足りないですよ」

昭善「そうだろうな……どんな考えがあるかはわからないが任せてもいいんだな?」

不安気に言う昭善に俺はニヤリと笑ってみせた

昭善「……よし。戦線を離脱するぞ!動ける者は俺と来い!」

そう言ってからは早かった。蜘蛛を一瞥し、再び周囲を見た時には姿が見えなくなっていたのだ

雅仁「逃げるのだけは日本一かもな」

和也「そうですね」

和也「で…ここまで来ましたけどなにか作戦はあるんですか?」

雅仁「無い」

和也「やっぱり……」

勢いでここまで来たが作戦など特に思いついてはいなかった

蜘蛛の足音が更に近づいてくる。もう少しで接触する所まで来てしまうだろう

機関砲が更に激しく唸りを上げて俺たちを狙い撃とうとする。2課の兵士も小銃で対抗するが、ダメージを与える事は勿論出来ないでいた

雅仁「……」

考えろ。何もないなんて事はありえない。なにかあるはずだ……

再び周囲を確認する。なにか使えるものはないか、利用する手だてはないか……

雅仁「……あれだ」

見つけた。ただ一つ、有効な手段を

雅仁「走れ!」

和也「え、どこへ!?」

俺は弾に当たらないよう、土嚢や瓦礫を盾に走り出した

雅仁「あれを見ろ!」

指を指す先には2課の兵士が乗ってきたであろうジープが停車していた。幸いエンジンもかかりっぱなしのようだ

和也「あれで体当たりでもするんですか?」

雅仁「んな訳ないだろ

冗談を言えるという事はまだ和也にも余裕があるようだ

雅仁「よっ」

俺は降り注ぐ弾丸を掻い潜りジープの運転席に飛び乗ると、エンジンを唸らせた

和也「これに乗って逃げるんですね」

雅仁「同僚見捨てる訳には行かないだろ……しっかり掴まれよ」

和也が助手席に乗り込んだのを見届けると、ジープを勢いよく発進させた

ブォォンッ

雅仁「蜘蛛にありったけの弾ぶつけてやれ!」

和也「…なるほど。わかりました!」

和也は俺の意図を汲んだようで、狙撃銃を蜘蛛に向けて構えると、先ほど見せた手さばきで弾を放つ

和也「あいつら関節が弱点だからなんとかぶち当ててやれば……!」

パァンッパァンッ!

頑丈な装甲、中隊レベルの火力、その弱点は関節。全装甲の中で特に、脚部の関節だけはダメージに弱かった

キキィッ

俺は瓦礫をかわしながら蜘蛛に向かって突進する

和也「そんなに動かれたら流石に当たらないですね…」

雅仁「俺たちに気づかせられればそれでいい」

俺の思惑通り正面を激走するジープに気がついたのか、砲塔が俺たちに向けられる

ダダダダダ!!

強烈な射撃が俺たちに向けて放たれる

雅仁「そんなに簡単に当たると思うなよ」

俺は巧みにハンドルを左右に動かし、なんとか当たらない様に走っていく

ピチュンッ

和也「危ねっ!!」

雅仁「脳天持ってかれたか?」

和也「それ洒落になってないですよ……」

弾丸の雨が執拗に迫る……が

雅仁「ここまでくれば当たらねえだろ」

ガタンガタンと車体を揺らしながら、ジープは蜘蛛の真下に入った

蜘蛛の唯一狙えない場所、それは自分の真下だったのだ

だがそこには留まらずそのまま背後へと抜ける

和也「守谷さん、いいものを見つけましたよ」

和也が助手席の下から取り出したのはM25-ファルコンと呼ばれる対戦車ミサイルだった

雅仁「ぶっ放せ」

和也「了解!」

和也は砲身を蜘蛛の背中へ向けると、カウントを始める

和也「3、2、1、ファイア!」

ブシュウウウという音と共に弾頭が飛び出した

雅仁「あっつッ!!」

それと同時にバックファイアが俺の髪の毛をチリチリと焦がした

雅仁「なにやってんだ!」

和也「すいません」

笑いながらそう言う。もう少しずれていたら笑い事では済まない所だった

ボコォォンッ

和也「あったりぃ!」

真っ直ぐ発射された弾頭は見事蜘蛛の背中に命中した。それと同時に、俺たちを危険と判断したのか、蜘蛛の胴体がぐるりと回転し、こちらを向いた

雅仁「よし、逃げるぞ!」

俺の狙いは援軍が来るまで蜘蛛の注意を引きつける事。電波障害の範囲はそこまで広くないだろうし、恐らくすぐに到着するはずだ

ダダダダダ!!

再び執拗な弾丸の雨が降り注ぐ。多分これに当たったら一撃でジープがオシャカになってしまうだろう

ハンドルを切り、サイドブレーキを踏み、車体を蛇行させながらもほぼトップスピードで荒れた道路を走る

和也「守谷さん……俺酔いそう」

雅仁「頼むからここでブチまけないでくれよ」

そんな冗談を交わしながら逃げる。だが、和也がゲロをブチまける前に俺たち両方が血飛沫をブチまけそうだった

いい加減逃げるのも辛いな…

時間で言えば全然経っていないだろう。だが蜘蛛は徐々に狙いを正確にしていき、ジープに迫る

和也「やばくないですか……」

雅仁「あぁ……」

正直言って本当にやばい。やばい

「雅仁おおおおおおおお!!!!」

そんな時だった。そんな声が聞こえたかと思った瞬間、強烈な爆音と射撃音が響き渡る

雅仁「来たか……」

後ろを見れば、蜘蛛が壮絶な攻撃を受けていた

これで勝ったな……そう油断した時

ビチュンッ

和也「ゴヒュッ」

雅仁「……!!」

蜘蛛の最後の抵抗だろうか。一発の弾丸が和也の頭部を……貫いた

ゴトリと音を立てて、和也は助手席の扉に頭をもたれた。額には大きな穴が開き……灰色の混じった紅い液体が零れていた……

……

雅仁「……」

和也「……」

蜘蛛が炎上し、地面へ崩れ落ちる頃。俺はひた走っていたジープを土方へ停車させた

雅仁「……」

和也「……」

俺が和也の虚ろな瞳を閉じさせると、後ろを振り返る。そこには、巨大な体躯を佇ませている鋼鉄の巨人がいた

レスありがとうございます。sagaは伏字になってしまう所がある時だけ入れたいと思います。あげは投下の最初だけにしようと思います

引き続き、お付き合い下さい

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