初春 ―喫茶・国士無双―
一筒D「何だ、お前も照ちゃんかよー」
一筒B「いやだって、可愛いじゃん?彼女」
一筒A「まぁ、可愛いのは間違いないが…胸が…もう少しあれば…」
一筒B「あ!また一筒Aの奴は永水の小蒔ちゃんだな?」
一筒A「いや別にそういうわけじゃ…」
九筒A「おい、小蒔ちゃんの事を一番好きなのは俺だからな」
一筒D「出た…小蒔ちゃん大好き九筒A」
一筒B「テーブル越しにわざわざ食いついてくるなよ」
九筒B「なになに、何の話ー?」
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九筒A「小蒔ちゃんのピンチの時には俺が颯爽と駆け付けるって話」
九筒B「あー…九筒Aは小蒔ちゃん大好きだからなぁ…」
一筒D「そういう九筒Bは今年のイチオシ、決めたのか?」
九筒B「んー。やっぱ龍門渕の衣ちゃんかな」
一筒B「すいませーんここにロリコンがいまーす」
九筒C「いや待て…彼女は16歳だ。合法だ」キリッ
一筒A「なるほど…合法ロリか…そういうのもありだな…」
九筒B「いや、良いからお前は小蒔ちゃんにしとけよ」
九筒D(…というより、16歳は合法じゃないがな)
一索A「やぁ。みんなおひさー」
九索A「丸いのばっか」
一筒A「おお一索Aに九索A。久々だな」
一索A「まぁ、お前らと絡むより、二索とかと絡むことの方が多いからな」
一索A「で、何の話?」
九筒A「今年のイチオシも小蒔ちゃんで間違いなし、って話」
九筒B・C「いや衣ちゃんだから」
九筒A「小蒔ちゃんだろ!お前ら九筒の誇りを捨てたのか!?」
九筒B・C「知らんし」
一索A「ふーん。まぁ俺は憩ちゃんだけどね」
一筒A「!…わ、忘れていた…!ナース服のあらかわいい子…!」
一筒A「癒されたい…ナースに癒されたい…理不尽だ…」
一索A「どうしたのこの人」
一筒B「何かさっき、上がり牌だったのに安目だったらしくツモ切られたらしい」
一筒D「そんで振り込んでキレられたらしい」
九筒D「…確かに、それは俺たちの責任ではないな」
一索A「好きな人の方に吸い寄せられてそれじゃ辛いなぁ。ま、元気出せよ」
一筒A「どうせ俺なんかより同筋牌で横に広がりやすい四筒の方がみんな好きなんだよ…」
一筒A「配牌に四筒があったら第一打で真っ先に切られる候補の俺なんて、河の一打目で捨てられるのがお似合いなのさ…」
一筒B「落ち着け一筒A!①③④とかなら字牌処理から進めるから!」
一筒D「それに端牌は端牌で良いところあるから!」
一筒C「…………」
一索A「ダメだこりゃ。放っておこう」
九索A「あ、俺は洋榎ちゃんね」
一索A「君はまた変なタイミングで加わるな」
一索A「…で?」
一筒C「おわっ!一索A、いたのか」
一索A「いやーずっと暗い顔で、一筒C君は何を考えていたのだね?」
一筒B「どうせお前も照ちゃんの事か何か考えてたんだろ?」
一筒D「今年も一筒は過半数が照ちゃんを応援致します」
一筒C「いや…俺が考えてたのは照ちゃんの事じゃない…」
一筒D「まさかの裏切り!?」
一筒B「ちょ、誰だよ!お前誰好きになったんだよー」
一筒B「照ちゃんも三年生になった事だし、三年連続の優勝のためにもちゃんと一枚岩にならないとまずいだろ!」
九筒D(一筒だけに)
一筒C「そう。それだよ一筒B」
一筒B「あ?」
一筒C「照ちゃんが三年生になるということは…その、二歳年下の…」
一同「あっ……」
一筒A「……いや、しかしだな。一筒C」
一索A「………そうだよ。彼女は麻雀が嫌いになったはずだ」
九筒A「…………もう、彼女と一緒に遊ぶことはないんだよ、俺たち…」
九筒B「……確かに、彼女がもし今年の大会に出るようなら」
九筒C「イチオシの勢力図はガラッと変わるかもしれん」
九筒D「…けど、それは叶わない夢」
一筒B「嫌いなはずの僕らが…彼女の家で未だに、フルセットで置いて貰えている」
一筒D「……それだけで、十分だろ?」
一筒C「………うん…」
一索A「……何だか湿っぽくなっちゃったね。僕も座らせてもらって良いかい?」
九索A「俺は既に座っている」
一筒A「…よーっし!じゃあ空気を湿らせた原因の一筒Cに、今日の料金は払ってもらおうか!」
一筒C「ええ!?」
ハハハハハ…
一筒C(みんな笑っているけど、俺には分かる)
一筒C(強がりだって。みんな、彼女と一緒に遊びたいんだって)
一筒C(彼女の事が、みんな大好きなんだって…)
一筒C(ねぇ、咲ちゃん…)
一筒C(俺たちはもう、一緒に遊べないのかな…?)
―九年前―
「すごいすごい!色んな絵が書いてある!」
「鳥さんも!漢字も!わぁ!このまぁるいの、可愛い!」
「それはピンズって言うのよー、咲」
「ピンズさん!ピンズさんが…いち…にぃ……うぅ…たくさん!」
「はっはっは、咲は興味津々だな」
「うん!まぁるくて、でもざらざらしてて。でも可愛くて!ピンズさん大好き!」
「ふーん。じゃぁお姉ちゃんが萬子さん貰っちゃおっかなー」
「あ!ダメダメ!漢字さんも欲しい!」
「鳥さんも他の竹さんも…」
「で、でも…それじゃお姉ちゃんたちに迷惑かけちゃうか…」
「えと…えと……ど、どうしたら良いか分からないよー!」
一筒C(おいなんかすっげー天使が来たぞ)
九萬A(あぁ、これは天使ですわ)
二索B(生きてて良かった)
「……でね、ルールはこうなってて…」
「おいおい、咲にそんな事言ったって分かるか?」
「うぅ…難しいよぉ…」
「今日のところは三麻でもするか?咲は照の後ろで勉強…」
「やだやだ!私もお姉ちゃんとお母さんとお父さんと…牌さんと遊びたいもん!」
「それでも…覚えたてじゃ全く上がれないとかもあるぞ?」
(こいつら、事麻雀に関しては手加減しないし…)
「勝つもん!遊んで楽しんで、勝つもん!負けないもん!」
「その後牌さんたちと一緒にシュークリーム食べるもん!」
「…うん、じゃあ咲。そこまで言うなら賭けてみたら?」
「え…何を?」
「咲と照との点数で…勝負よ」
「その結果で、おやつの時間のシュークリームの数が変わるわ!」
「ええええー!?」
「シュークリームが増える!?」
「お、おいお前たち…」
(別に咲が負けても問題ないじゃない?あなたの分をあげれば良いんだし)
(やっぱり麻雀だもの。何か賭けないと盛り上がりに欠けるわ)
(お前なぁ………そして、俺の分はない前提なのね…)
じゃらじゃらじゃらじゃら
「わぁー!牌さんたちがみんな吸い込まれていく!」
「全自動卓だよ、咲」
「高かったんだぞー」
「すごいすごーい!!」
「もぐもぐ」
「照はもうシュークリーム食べてるし…」
「全部食べたらダメよー?」
「椅子の高さも調節出来るよー。わーい!」
一萬A「はいお前ら集合!」
「おう!」
一索A「聞いての通り、咲ちゃんが照ちゃんとシュークリームを賭けて戦うことになった」
白A「照ちゃんはお菓子のことになると盲目になるのが将来不安だな…」
発A「いつもは優しいお姉ちゃんなんだけどね…」
一筒C「ちょ、ちょっと待てよ!咲ちゃんはさっき一通りの麻雀のルールを知ったばっかりだぞ!?」
一筒C「いくら何でも咲ちゃんに不利過ぎるだろ!」
一筒C「何考えてるんだよあの母親は!」
中D「ああ、いくら何でも公平性がなさすぎる」
五索B「………だから、今こうして集まったんだろ?」
六萬C「……なるほど。やるんだな?あれを」
一索A「ああ」
三筒D「久々だな。健夜ちゃん以来か?」
八萬D「あの時は記録掛かってたからなー」
東A「…だが、良いのか?」
西B「正真正銘、初めての配牌で。初めての第一ツモで」
七索C「彼女は上がる事になる」
七萬B「……勝利に酔ってしまわないか?」
七筒A「……道を踏み外したりしないだろうか?」
七筒C「先ほどまでの彼女は…本当に…とても可愛かった」
九索A「こんな子と出会えた。こんな子に遊んでもらえる」
北D「私たちからすれば…間違いなく…牌として冥利に尽きる」
南A「だが…麻雀の実力が人生を左右するこの世界で…」
二萬D「こんないたいけな子を…こんなに早く…引きずり込んで…」
白C「彼女の人生を狂わせたりしないだろうか…」
「……………」
それでも、俺たちは。俺は。
「よいしょ…並び替え、並び替え…」
彼女の涙を見たくなくて。
「えーっと…どれを切れば良いのかな?」
彼女の手元に、十四の牌を集わせた。
「これ…って…」
-Blessing of Heaven-
―これから麻雀人生を歩む彼女に、天福を―
だが、彼女の天福はいとも簡単にこぼれ落ちた。
「咲ー。早く切りなさい」
「え、あ…その…」
「親の第一打が行われないと始まらない」モグモグ
照ちゃんのこの言葉は、ほぼ100%の状況において正しい。
彼女は姉のこの言葉を忠実に守ったのだろう。
照ちゃんに、罪はない。そして彼女にも、罪はない。
つまり。
「じゃあ、これで…」
ルールを碌に知らなかったというタイミングが。
何の悪意もなく教えようと話しかけた言葉が。
俺たちが送ったものが。
まだ始まっていないと勘違いした彼女がそれを切り飛ばすのは当然だった。
『咲ちゃん、ダメ―――』
全ては、彼女が天に愛されなかったからこそ。
「えいっ」
その贈り物を、彼女は自分で放棄する事となってしまった。
「うええええええええええええええええええええん!!」
当然、彼女は負けた。
一度も上がれずに。南入さえ出来ずに。
彼女の初めての対局は、終わってしまった。
勿論、シュークリームは彼女の父が分け与えてくれたものの。
その涙を、止めることが俺たちには出来なかった。
「そ、そんなに負けて悔しかったのか?咲…」
「でも、お姉ちゃんは咲より二つも上だし、お父さんたちは大人だから…」
「ううん、違うの!違うの!!」
「私、私、牌さんたちのプレゼントを自分で…自分で捨てちゃったのぉ!」
「え?」
「聞こえた気がしたの!一番初めに牌を捨てようとした時に、牌さんが私を止めようとした声が!」
「なのに、私はそのまま牌さんを捨ててしまった!うええええええええええええええん!!」
「牌さん、ごめんなさい!うわあああああああああああん!」
涙も通わぬ冷たい身体の俺たちに、何とも言えぬ感情が沸き立っていく。
違うんだよ、咲ちゃん。誰も悪くないんだ。
タイミングが。天が、味方してくれなかった。たったそれだけの事なんだ。
「ううっ…ぐすっ…」
もう、君を泣かせたりはしない。
天が咲ちゃんの事を味方してくれないのなら。
天が咲ちゃんの事を愛してくれないのなら―
その後、咲ちゃんはお年玉を賭けて行われる家族麻雀によって、麻雀を嫌いになってしまった。
照ちゃんとも疎遠になり、小学校を卒業。
それでも中学校できちんと学業に励み、ここ清澄高校へと入学した。
当然、俺たちとも疎遠になってるわけである。
はぁ…今年も照ちゃんをイチオシにするしかないのかねぇ…。
九索B「やーしかし、暇ですな」
五萬D「そうか?俺は東場じゃ優希ちゃんの所に早めに行く事が多くて忙しいわ」
一筒C「すげー出世したよなお前…赤くなる特権とかずりーわ」
「カモ連れてきたぞー」
カモが戻ってきた。まず君はルールを覚えろ。
八萬D「…一番のカモはあなた」
南B「全くだ…。………!?」
一筒C「どうした?みんな突然…」
「さっきの――」
来たには、カモなんかじゃない。
あの時みんなで誓った対象である彼女が。
もう二度と会う事のないと思っていた彼女が。
あどけない表情を浮かべながら、そこにいた。
「25000点持ちの30000点返しでウマはなし!」
「はい」
「タコスうまー」
「…うん」
東B「おおおおおおおお、お、俺今咲ちゃんに触られててててて」
一筒C「黙れ!何で俺は須賀君の手牌で頭なんだちくしょう!」
一筒A「うるさい!俺だって咲ちゃんの手牌に行きたいわ!」
「でも…やっぱり、牌さんの感触、好きだな…」ボソッ
東B「おおおおおおお俺、俺、今咲ちゃんにすすすすす好きって」
一筒C「死ね!そのまま面前大四喜に突き刺さって死ね!!」
一筒A「しーね!しーね!」
南B「いや刺さったら咲ちゃんの振込みだぞ?」
一筒C・一筒A「……………」
一筒C・一筒A「それは困る」
南B「うむ」
「会長起きて面子も足りてるようですし…」
「抜けさせてもらいますね。…図書館に本返さなきゃ」
結局、咲ちゃんはあの時と同じ…
麻雀を嫌いになり始めていた頃の打ち方で約束の三半荘を打ち終えた。
俺たちが知らない、読書という趣味を抱えて。
「±0!?」
家族麻雀で勝っても負けても理不尽に怒られた咲ちゃんが生み出した打ち筋。
まぁ、俺たちの影の努力もあってこそだけど。
それでも、一番は咲ちゃんの打ち方が問題だ。
「圧倒的な力量差だったら?」
久ちゃんの言葉に和ちゃんは踵を返し咲ちゃんの後を追う。
雨の中、傘も刺さずに向かうとは…体のラインが浮かび上がってしまうぞ。
あーあー。一筒Aの奴変な想像してやがるな。この野郎。
…いや、…後のことは、大体俺にでも予想は付くが…。
………咲ちゃんがここに来ることは、もうないだろう。
それでも。咲ちゃんとまた一緒に遊べて。嬉しかったよ。
一索A「やぁ」
一筒C「よう」
一索A「しかし咲ちゃんとまた遊べるとはね…」
一筒C「全くだ。相変わらず可愛かったな」
一索A「うん、でも女子高生は可愛いの形容より、綺麗の方が嬉しいんじゃないかな?」
一筒C「………次会う時には、もう大人になってるんだろうな」
一索A「どうして?」
一筒C「どうして、って…もう来ないだろ咲ちゃん。この部室には」
一索A「いやー…直ぐに来ると思うけどなぁ。彼女、そこまで麻雀嫌ってるわけじゃなさそうだし」
一筒C「何でそんな事…」
「待ち人来るー」
「…………」
一筒C「」
一索A「ね?」
東風で、赤4入れても、オーラスでリー棒の加算があっても。
いとも簡単に咲ちゃんは±0にしてしまった。
二索C「りりりりり嶺上開花だよ!咲ちゃんお得意の!」
二索B「良かった…嶺上牌で良かった…」
一筒C「咲ちゃんの生嶺上開花…」
一筒C「手牌で組み込まれながら見れるとかほんと生きてて良かった」
神か悪魔か?何言ってんだよ。
天使に決まってるだろ?
「宮永さん、麻雀は勝利を目指すものよ!」
「え…」
「次は勝ってみなさい!勝つための麻雀を打ってみなさい!!」
じゃらじゃらじゃらじゃら
七萬C「どう?久ちゃん。ちゃんと咲ちゃん連れてきたべ?」
一筒C「おう。…あ、さては一索Aに何か言ったのお前だな?」
七萬C「ふっふっふ…。咲ちゃんも勿論好きだが、俺の今年のイチオシは久ちゃんなのだよ!」
七萬C「めっちゃ頭切れるし綺麗だし…いやーもう、叩きつけられたい!」
一筒C「いやその願望は牌としてどうかと思うぞ…」
一萬A「はいお前ら集合!」
「おう!」
一萬A「今こうして、俺らは再び咲ちゃんに遊んでもらっている」
東A「これはこれだけで、とても喜ばしいことだ」
一索A「それでね…今度こそ、彼女にあげ損なった物をプレゼントしようと思うんだ」
一筒A「だが、今は咲ちゃんの親番でもないし…」
北A「まるっきりの初心者が玄人の卓に放り込まれたあの日のように、一方的に肩入れするわけにはいかない」
中A「だから、彼女には選んで、そして勝ち取って貰おうと思う」
一筒C「………選んで、勝ち取る?」
白A「一つは原点スタートの条件下での±0になる上がり」
発A「彼女は現在21200持ちだから、リーチ棒の出現が条件だが、満貫を上がれば±0になる」
八索D「点数状況的に二着まで満貫で良い優希ちゃんあたりがリーチをかける可能性は…まぁあるだろ」
六萬C「±0に少しでもプライドなりを持ち合わせているのなら、そう進めるってわけだな」
二筒A「正直これは簡単そうだけどなぁ。咲ちゃんだし。俺らだし」
七萬C「でもこれは、久ちゃんの言う条件を満たしていない!」
西D「そりゃーね。和ちゃんが断トツのトップだもん」
中C「だから満貫程度じゃお話になんないんだよ~こっちの事情も考えてよ~」
七萬C「つまり咲ちゃんは勝つつもりがない…もしくは、勝つ事が出来ないということになる!」
赤五筒A「『ここに連れてこられ面倒なので付き合ってますが、麻雀…興味ないんです』という意思表示に近いってことか」
一萬C「33400点差で2確の上がり上がっといてそれはきつくない?」
一筒A「だからこそ、選んで貰う。そういう配置にする」
五索A「そうなると、このケースは難易度中くらいか…?」
九萬A「もう一つが…オーラスの上がり放棄」
三索B「ふむふむ。今後別に麻雀に関わらないなら、別にどうでも良いって話か」
三索C「この局が終われば解放されるわけだもんな」
四萬D「…そうだね、もし咲ちゃんが今でも麻雀が嫌いなら…」
北C「今こうしている時間にも腹を立てているかもしれないわけだからな」
一筒C(…………)
六索B「難易度0ってところか」
七索C「±0を簡単に出来る咲ちゃんが着順にこだわってベタ降りとは考えづらいもんな」
北A「これを咲ちゃんが選んだとしたら…そうだな、もう二度と俺たちは咲ちゃんに会うことはないかもしれない」
「…………」
南A「最後が、久ちゃんの条件の元での±0を満たす上がり」
西A「要するに和ちゃんをまくってトップになるってことだな」
北A「まぁこれもリーチ棒が必要なんだけど…」
白C「いやでも、33400点差だぜ?」
五萬B「三倍満以上のツモか直撃…いや、久ちゃんの条件を満たすには…」
九筒D「…役満しかないわけだな」
南C「しかもどこかで選択しなきゃいけないんだろ?満貫にするのか、役満にするのか…それとも…」
南A「ああ。だから手っ取り早い手牌があるだろ?」
西A「出上がりなら満貫。ツモ上がりなら役満。………ベタ降りなら、オタ風暗刻落としと」
一筒C「……対々和、三暗刻!」
一索A「出来る限り、そうなるようにこれから配置するってことさ」
一萬A「だが、100%そうなるわけじゃない」
九索A「咲ちゃんが面前対々和三暗刻の聴牌にたどり着くためには、幾つもの条件がある」
一筒A「そこを、咲ちゃんには勝ち取ってもらう」
赤五索「対局が始まれば、俺たちは動けない。後は、巡り合いがこの卓上の世界を動かしていく」
赤五筒B「一人きりじゃ出来ない…それが麻雀だからな」
白A「九年前と違って、今回は四人が四人の意思で動いてその結末を迎える」
白A「だから、当然鳴きが入れば簡単にツモは変わるし、未来は変わる」
発A「そしてもう一つ。誰かがリーチ棒を出さないと、どの道咲ちゃんの±0は不可能」
発A「これは最早、誰がどうツモるとか、鳴くとか…そういう問題ではない」
中A「咲ちゃんが上がる前に誰かが聴牌を入れ、かつリーチが掛かるのを待ち、その後上がらなければ±0はやって来ない」
中A「言ってみれば、そういった天運を咲ちゃんが持ち合わせているかどうか」
中A「それは、俺たちがどうこう出来る問題ではない」
赤五萬「……するとあれか?これは結局殆どが…」
「再び、天に愛されるか否かの試練って事か?」
九萬B「あの三人だからね…尚更読めないよね…」
二筒C「俺らがいくら山を積んでも、人の行う未来だけは読めない」
四萬A「九年前に…そうはっきりと感じたもんな」
「ふふ…はははは!」
一筒C「良いんじゃないか?いや、面白いよ!」
一筒C「咲ちゃんがどれを選択するかは分からない」
一筒C「優希ちゃんや、他二人がリーチをかけるかどうかも分からない」
一筒C「もしかしたら、三人の鳴きでズレが起こるかもしれない」
一筒C「やってみようぜ。その先に、何が待ってるのか」
一筒C「…あの時は、配牌だった。他の三人が介入する余地のない上がりのはずだった」
一筒C「それでも、咲ちゃんは上がらなかった。…上がれなかった、が正しいのかもしれないが」
一筒C「今度は、違う。四人がそれぞれ違う意思を持って、戦っている。その中で、何が結末として待っているのか…」
一筒C「咲ちゃんが上がるかもしれない。和ちゃんが上がるかもしれない。まこちゃんが連荘するかもしれない」
一筒C「優希ちゃんが役満を上がって逆転トップになるかもしれないし、全員ノーテンで終わることだってある!」
一筒C「………………ふっ」
一筒C「……これだから麻雀牌は止められないぜ!行くぜ、みんな!」
「おうっ!」
一索A「やあ」
一筒C「……おう。お前とは隣か」
一索A「縦に重なりやすいように配置されてるからね。…君はどう転ぶと思う?」
一筒C「ん。さてね」
一索A「あれ…あんなに咲ちゃん咲ちゃん言ってた君が、さてとはねぇ」
一筒C「……いや、色々思うことがあってな」
一索A「………なるほど」
一筒C「……さっき言ってたよな?咲ちゃんは麻雀をそれほど嫌いじゃないって」
一索A「ああ。言ったとも」
一索A「嫌いなものを、あんな顔でやれると思うかい?」
一筒C「……俺には、そういった表情を読み取る力はない。でも、これだけは言える」
一筒C「仮に咲ちゃんが麻雀を嫌いでも…麻雀という競技が嫌いでも…俺たちの事が嫌いだとしても」
一筒C「この対局を最後に今生の別れとなってしまったとしても」
一筒C「俺は…俺たちは…咲ちゃんの事が大好きだ、ってことが」
一索A「そうだね。それだけは間違いないよ」
一筒C「……まぁ、ぶっちゃけた話」
一索A「?」
一筒C「咲ちゃんは最後の選択肢を選ぶと思うけどね」
一筒C「そんで、当然成功。これを機に麻雀部入り。照ちゃんの所まで突っ走ると思うよ」
一索A「……ふーん。まぁ、咲ちゃんは好きだけど、僕のイチオシはあくまで憩ちゃんだからね」
一筒C「へっ。言ってろ。憩ちゃんごとき咲ちゃんが粉砕してやる」
一索A「あはは。しかし、牌が人を好きになるなんて…一体、どういう事なんだろうね?」
一筒C「みんなイチオシが異なるってのがまた面白いよな」
一索A「残念なことにこの感情が一方通行なのが…ちょっと悲しいよ」
一筒C「でも、俺たちは遊んでもらうことが本分だ。感情は二の次、だろ?」
一筒C「好きな人の手配に組み込まれて、一緒に笑顔を咲かせれば…俺はそれで良いんだよ」
一索A「………そうかもしれないね。何か、変わったね。君」
一筒C「そうか?お、そろそろ牌山が立ち上がるらしいぞ。ほら、構えろ」
一索A「ふぅ、やれやれ…。しかし、咲ちゃん、上手く行くかな?」
一筒C「あ?」
一索A「咲ちゃんがそれを選んだとしても、他の三人によっては…」
一筒C「心にもないことを言うもんだな。全く」
「リーチだじぇっ!」
勢い良く跳ねたリーチ棒が収まると、告知を鳴らす。
それは天からの福音だった。
―俺たちが愛した
―この俺がイチオシする、咲ちゃんだぜ?
彼女の右手が牌山に伸び、牌を一つ引き入れる。
そのままその牌を重ねると、四つの牌を前に倒した。
まるで、次引いてくる牌が分かっているかのように。
その目は、自信に満ち溢れていた。
―天からの愛を、これ以上取り損なう訳ないだろ?
『頑張れよ、咲ちゃん。これからも、俺らで遊んでくれよ』
嶺上から引き寄せる牌が、花を咲かせた。
「うんっ。…ツモ」
一度は自ら放棄したその天福を。
その後破棄し続けた天運を。
九年越しに違う形で手に入れた、彼女の名は…
「四暗刻…8000・16000です…!」
―牌に愛された子、宮永咲―
カン!
一筒C君が長野団体決勝でどんな活躍をするのかは、また別の話。
読んで頂いた方、ありがとうございました。
>>19
×来た「に」
○来た「の」
依頼出してきます。咲ちゃん可愛い。
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