拓海「アタシんちぃ!?」 (36)
※某家族コメディとはいっさい関係ありません
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―――事務所―――
拓海「あぁ?!明日アタシの部屋で薫を預かってくれだぁ!?」
P「そうなんだよ。女子寮の薫の部屋のお風呂が壊れちまってな。一日で直るらしいから、頼む。この通りだ」
拓海「なんでアタシなんだよ。他のやつに頼めばいいだろうが」
P「そうもいかない事情があってな」
拓海「どういう事だよ」
P「拓海、今はどういう時期だ?」
拓海「どういう時期ってそりゃお盆……あっ」
P「そういう事だ。薫はお盆前に実家に帰省したからお盆は事務所でゆっくり過ごすと言っていたが、他のやつらは帰省中だ」
拓海「だけど帰ってないやつらもいるだろ?」
P「その帰ってない子達は帰った子がやってた分の家事の穴埋めをしてる。聞くが拓海、お前に掃除洗濯料理が出来るのか?」
拓海「……で、できるさ」
P「得意料理は?」
拓海「卵焼き」
P「掃除機と洗濯機。どっちか壊した事あるか?」
拓海「……両方1回壊した」
P「だろ?」
拓海「だけどよ。アタシが子守なんか……」
P「いいじゃねぇか。俺は似合ってると思うぞ?」
拓海「どういう意味だよそれ」
P「道端に捨てられてた猫拾ったり、どこかに逃げ出した女子寮近くに住んでるお婆ちゃんの猫を探してあげたり」
拓海「あれは……気まぐれだ」
P「そんな優しい拓海なら、薫だって懐いてくれるさ」
拓海「……どうだか。薫が嫌だって言ったらどうすんだよ」
P「その心配はない。楽しみにしてると言っていたぞ」
拓海「……けっ」
―――翌日 女子寮―――
薫「今日は、よろしくお願いしまー!」
拓海「……ああ」
薫「えっと……拓海、さん」
拓海「さんはいらねぇよ」
薫「じゃあ拓海お姉ちゃん!」
拓海「……勝手にしろ」
薫「拓海お姉ちゃん。拓海お姉ちゃんの部屋ってどんな部屋なの?」
拓海「別に面白くもなんともない普通の部屋だよ」
薫「そうなの?」
拓海「ああ」
薫「あの、ドラマでよく見るような拳銃とか飾ってないの!?」
拓海「お前は一体アタシをどんな目で見てんだよ!」
薫「ひっ、ご、ごめんなさい」
拓海「あ……す、すまねぇな。アタシも怒鳴っちまって」
薫「う、ううん。だいじょうぶ」
拓海「……」
薫「……」
拓海「(気まずいなぁ……だから言ったのに)」
拓海「ここがアタシの部屋だ」
薫「そ、そうなんだ」
拓海「今日一日、我慢してくれよ」ガチャ
薫「お、お邪魔しまー……」
―――玄関―――
薫「……あれ?」
拓海「どうしたんだよ」
薫「この猫の小物……」
拓海「それはみくからもらったやつだよ。何でもアタシに似てるからってくれたんだ」
薫「うん。確かに拓海お姉ちゃんに似てるかも」
拓海「それ見たやつはみんなそう言うんだよな……」
薫「でも、それ以外にも猫の小物、たくさんあるね?」
拓海「たまに集めたりしてんだよ。悪いか」
薫「ううん。拓海お姉ちゃんは、猫が好きなの?」
拓海「……そうだけど」
薫「じゃあじゃあ!今度一緒に事務所の近くの公園に行こ!あそこ、猫がたくさんいるんだよ?」
拓海「アタシがいると、あいつら寄って来ないぞ」
薫「だいじょーぶ!かおるが、拓海お姉ちゃんはいい人なんだぞってみんなに教えてあげるから!」
拓海「ははっ……なんだそりゃ。っと、ここがアタシのプライベートルームってやつだ」ガチャ
―――拓海の部屋―――
薫「わぁ……」
拓海「どうしたんだよ」
薫「拓海お姉ちゃんのお部屋、初めて見るけど……みくちゃんのお部屋と似てる!」
拓海「……あいつも猫グッズ集めてるからさ。たまに部屋で話したりすんだよ」
薫「あー!この猫の小物入れ!」
拓海「あん?……ああ、それは和久井の姉御からもらったやつだな」
薫「かおるも和久井さんからもらったんだー!えへへ、おそろいー!」
拓海「そ、そうか」
薫「……あれ?この写真はー……」
拓海「ああそりゃ、あいさんとツーリングに行った時の写真だな。あの人車だけじゃなくバイクも運転できるとかやっぱすげぇわ」
薫「へー……今度あいお姉ちゃんに乗せてもらおー!」
拓海「うーん。流石にあいさんでも難しいと思うぜ?サイドカーがありゃ、話は別だけどよ」
薫「そっかー……かおるも早く、バイクに乗れるようになりたいなぁ」
拓海「じゃあまずは自転車に乗れるようにならなきゃな」
薫「今ね、あいお姉ちゃんと一緒に練習してるんだ!」
拓海「へぇ。どうなんだ?」
薫「うーん……まだ手を放されると少し怖い。でも、倒れそうになったらあいお姉ちゃんが支えてくれるからへーき!」
拓海「何でもできるなあの人は本当……」
薫「この前はあいお姉ちゃん、木場さんとテニスしてたよ」
拓海「そんな事してたのか。見たかったなぁ……で、結果は?」
薫「うーんとね。ばびゅーんってなって、ばしゅーんで引き分けだった」
拓海「……なんとなく凄いってのはわかった。あいさんってやっぱり弱点とかないのかね」
薫「弱点、弱点……あ、この前怖いもの言ってた!」
拓海「あのあいさんの怖いものか。それは興味あるな」
薫「紗枝さんにおまんじゅうが怖いって言ってた」
拓海「そりゃ落語のオチだな……」
薫「らくご?」
拓海「簡単に言えば、駄洒落みたいなもんだ。だから本当に怖いわけじゃない」
薫「なんだそっかぁ」
拓海「つーかさっきからあいさんの話ばっかしてんな。アタシ達」
薫「うん。でも、これでお話しやすくなったね!」
拓海「……そうだな」
薫「こうやってあいお姉ちゃんのお話してたら、拓海お姉ちゃんとお話しやすくなるって、やっぱあいお姉ちゃんって凄いんだね!」
拓海「はは、だな」
薫「ね!このクッション使っていい?」
拓海「ああ。それお気に入りのやつだから薫もきっと気に入る」
薫「ほんとだぁー……ふかふかぁー……」
拓海「……ん?」ピピピ
薫「拓海お姉ちゃん、電話が鳴ってるよ?」
拓海「誰からだ……って、噂をすりゃあってやつか」
薫「もしかしてあいお姉ちゃん?」
拓海「だな。もしもし?」
あい『もしもし。拓海君。君のところに薫が泊まると聞いてね」
拓海「わざわざ電話してくれたんすか」
あい『いや、何。薫が迷惑かけていないか心配でね」
拓海「薫なら最初は話すのもぎこちなかったっすけど、あいさんのおかげで何とかやってけてますよ」
あい『私とおかげ……とは?』
拓海「あいさんの話題で薫と話せるようになったんっす」
あい『そうか。それは何よりだ。私が役に立てたのなら嬉しいね』
薫「拓海お姉ちゃん。かおるもあいお姉ちゃんとお話したい!」
拓海「ん?ああ、ちょっと待ってろ……薫が話したいそうなので変わります」
薫「あいお姉ちゃん!」
あい『やぁ薫。ちゃんといい子にしているかい?」
薫「うん!かおる、いい子にしてる!」
あい『そうかそうか。じゃあそのままの調子で頑張るんだよ」
薫「頑張る!そうだ、あいお姉ちゃん!」
あい『なんだい?』
薫「かおるもバイクに乗りたい!」
あい『……ふーむ。もしかして、拓海君の部屋の写真を見たのかな?』
薫「わっ。凄いあいお姉ちゃん。大当たり!」
あい『なるほどね。わかった。考えてみるよ』
薫「本当!?わーい!かおる、楽しみにしてるね!」
あい『楽しみにしていてくれ。さて、拓海君に変わってもらえるかな?』
薫「うん!はい、拓海お姉ちゃん!」
拓海「はい、変わりました」
あい『今日一日、薫の事をよろしく頼むよ』
拓海「わかりました。あいさんの頼みなら」
あい『ははっ。頼もしいね。それじゃあまた』プツッ
拓海「……また?」
薫「拓海お姉ちゃん!」
拓海「あ、ああ。なんだ?」
薫「この漫画、読んでいーい?」
拓海「いいけど男向けのやつだし、薫が読んでも多分面白くねぇぞ?」
薫「それでも読んでみたい!」
拓海「わかった。もし飽きたら言えよ?ちゃんと少女漫画とかもあるからさ」
薫「わかったー!」
―――数時間後―――
拓海「薫ー……って」
薫「なにー?拓海お姉ちゃん」
拓海「今最終巻読んでるっつー事は、もしかして全部読んだのか?!」
薫「うん!この漫画、面白いね!こう、ばきゅーん!ずばーん!って感じで!」
拓海「(任侠物だからすぐ飽きると思ってたのに……)」
拓海「まぁいいや。とりあえず風呂入ろうぜ」
薫「お風呂!やったー!」
拓海「昨日はどうしてたんだ?」
薫「昨日はあいお姉ちゃんのところに入れてもらった!」
拓海「じゃあなんで今日……ああ、電話かけてきたから忘れてたけど、あの人仕事か」
薫「うん。今日は一日、ドラマの撮影なんだって……」
拓海「そっか。んじゃ入るか」
薫「拓海お姉ちゃんも一緒に?」
拓海「まぁな。一人じゃ背中とか洗い辛ぇだろ」
薫「うん!じゃあよろしくお願いしまー!」
―――風呂場―――
薫「じー」
拓海「なんだよ」
薫「拓海お姉ちゃん……おっきい」
拓海「……まぁな」
薫「あいお姉ちゃんよりおっきい」
拓海「この事務所でアタシよりでかいやつなんてあんまいねぇだろ」
薫「いーなぁ。かおるも、それぐらいおっきくなりたい!」
拓海「大きくてもいい事ねぇぞ?よくみんな言うと思うけど、肩が疲れるし」
薫「そーなの?」
拓海「そうだよ。しかもこんだけでかいとブラがさ……」
薫「ブラってなーに?」
拓海「薫もいずれつける事になると思うが、まぁ、下着だよ。胸の」
薫「ふーん……」
拓海「さ、頭洗うから目つぶれよー」
薫「うん!ひゃっ、くすぐったい!」
拓海「我慢しろ。すぐ終わっから」
薫「えへへ……」
拓海「どうした?」
薫「なんかね。拓海お姉ちゃん、やっぱ優しい人だって」
拓海「……そうでもねぇよ」
薫「かおるね。最初はすごく不安だったんだ。拓海お姉ちゃんの事、よく知らなかったし、なんだか事務所では怒ってばっかりだったし……」
拓海「あれは……Pの野郎がな」
薫「だけどね。せんせぇとあいさんが、拓海お姉ちゃんは優しい人だから大丈夫だって。心配しないでもいいって」
拓海「……」
薫「だから薫、勇気を出して拓海お姉ちゃんの部屋に来て……よかったなって!」
拓海「そうか……アタシも今、薫を泊める事になってよかったと思ってるよ」
薫「えへへー……」
拓海「さて、流すぞー」
薫「うん……わぷっ」
拓海「大丈夫か?」
薫「だいじょーぶ……ぶるぶるっ」
拓海「ははっ。何か猫みたいだな」
薫「次はかおるが拓海お姉ちゃんの頭……は難しいから、背中洗ってあげる!」
拓海「お、ならお願いすっかな」
薫「かしこまー!」
―――拓海の部屋―――
ピンポーン
拓海「……ん?誰だ?そろそろ夕食だっていうのに……」ガチャ
あい「やぁ、拓海君」
拓海「あいさん!?」
薫「あいお姉ちゃんだー!」
あい「薫。ちゃんといい子にしてたみたいだね」
薫「うん!」
あい「なら知人からサイドカーを借りる事ができたから、今度バイクに乗せてあげよう」
薫「本当!?」
あい「もちろん拓海君も一緒に」
拓海「そ、そりゃいいっすけど……どうしてここに?」
あい「何。薫がお世話になったお礼に、夕食でも作って一緒に食べようかと思ってね」
拓海「ありがたいっす」
あい「お礼を言うのはこっちの方さ」
拓海「……こう見ると、あいさんって本当に薫の姉貴みたいっすね」
あい「よく言われる。何でかな。薫には何かしてあげたくなるんだ」
薫「今日のご飯、あいお姉ちゃんが作ってくれるの!?」
あい「ああ。そうだよ。今日は冷やし中華にしよう」
薫「やったぁ!」
あい「……本当、不思議な魅力を持っている子だよ。この子は」
拓海「今日、一日薫と一緒に過ごしてアタシもなんとなく分かる気がしました」
あい「おや、嬉しいね。お姉ちゃん仲間が増えるのか」
拓海「いやいや……」
あい「でもね、拓海君。薫は滅多な事では人の事を『お姉ちゃん』とは呼ばないんだよ」
拓海「え?」
あい「基本的に年上の人には『さん』、年の近い子や親しみを覚える子には『ちゃん』……『お姉ちゃん』と呼ばれているのは私と早苗と君くらいじゃないかな」
拓海「そう、なんすか」
あい「まぁ更にレアな呼び方で『せんせい』というのもあるが……あの領域に辿りつくのは、難しいだろうね」
拓海「ははっ、違いないっす」
あい「それじゃあ、キッチンを借りるけどいいかな。拓海君」
拓海「はい。アタシも楽しみにしてます」
あい「ふふっ。これは頑張らないとな」
薫「かおるもお手伝いするー!」
あい「そうか。じゃあ薫にお手伝いを頼むとしようかな」
薫「うん!」
―――後日 事務所―――
P「見事に懐いてるじゃないか」
拓海「……あんま大きい声出すなよ」
P「わかってるって」
薫「んにゅ……」
拓海「ああもう危ねぇな……アタシの膝の上なんだからあんま動くなよ」
薫「えへへ……あいお姉ちゃん……拓海お姉ちゃん……」
拓海「……」
P「どうだ?妹分が出来た気分は」
拓海「……まぁ、悪かねぇよ」
拓海「……へへっ」
おわり
お疲れ様でした。
ただ薫に「お願いしまー!」と言われたいだけの人生だった。
ではありがとうございました。
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