金獅子物語 (29)


僕の名前はルクス。
白狼傭兵団で養われる、ありふれた戦争孤児。

戦時のいざこざの中、任務に来ていた団長に拾われたのがはじまりだった。
団長はゼオさんっていう、とても優しい人。家族を戦争に奪われて、泣きながらその辺の木片を振り回していた僕を、片手で抱き上げてくれたことを覚えている。
僕は悲しかったけれど、新しいお父さんができたみたいで嬉しくもあった。


ゼオさんに育てられている間、僕は傭兵団の一員として働いた。
みんなの靴を磨き、それができるようになると武具を磨き、さらにはいつかなりたかった戦士としての腕も磨いた。
傷付いて戻ってくるみんなの為に、手当ての仕方も教えてもらった。



ゼオ「ぬ」

ルクス「え……? 今の、当たった?」

ゼオ「ははは、大きくなったな。ルクス」


そうして成長していった僕は、手に慣れ親しんだ木の剣を、ようやくゼオさんの太ももに打ち据えたのであった。

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……それから一週間……



宴じゃー!!!


ルクス「うわ、わわわ……すごいお料理」

ゼオ「今宵はお前さんが主役だ。腹いっぱい食べなさい」

ルクス「なんか、申し訳ないです」


デューム「ああ、なんだ坊主! 俺のメシが食えねえってか? ガハハハ!」

ルクス「わわ、わわわ! は、離してください~! いただきますから~!」


大木のような腕を僕の肩に回したのは、傭兵団でフライパンを振るうデュームさんだ。
巨漢と呼ぶにふさわしい人で、フライパンだけでなく大きな斧を軽々と振り回す姿は絵本で読んだミノタウロスにそっくり。
僕が拾われた頃からずっと僕を可愛がってくれた、大切なおじさんだ。


デューム「しかし団長、どうしてルクスを戦場に?」

ゼオ「ふふ。ついこないだ、稽古を付けていたら私のももに剣を当ててくれてな」

デューム「なんだって!? 団長、それ本当ですか!」

ゼオ「ははは、私も歳だな……」

デューム「~っ!」にまぁ
デューム「てやんでえ、坊主!! ははははは、やったじゃねえか!!」
デューム「どうして早くに自慢しなかったんだぁ? こいつ、こいつぅ!!」ぐりぐり

ルクス「あはははは、やめてください~!!」


おーい、おっさん! 離してやりなよー!
主役を独り占めすんじゃねぇよー!


デューム「っといけねえ、おつまみ作らなくちゃ怒られちまう」

デューム「気張れよ、坊主!」

ルクス「はい!」


ゼオ「それでは皆の者、乾杯!」




明日は僕の初陣だった。



ガヤガヤ……


ルクス「ふぅ」

僕は用を足すついでに、夜風に当たっていた。頬が火照っているのは、明日への緊張もあると思う。


ゼオ「ははは、いささかうるさすぎたか?」

ルクス「あ、団長」

ゼオ「ゼオさん、で良いよ……」



ゼオ「初陣の祝いとして、これを渡そうと思ってな」



ルクス「これは、三日月刀?」

それはいかにも刃物であったが、妙な形の剣であった。まるで細い三日月の真ん中に握り手を付けたような、普通の人には扱えない形。
だかしかし、それは僕が幼い頃に削りだし、今も愛用する木の剣と同じ形だった。

ゼオ「はっはっは、苦労したぞ……ふたつに刃が伸びる両刃の剣と言っても、鍛治に通じなくてなあ」

ルクス「僕の為に、わざわざ?」

ゼオ「うむ。特注のものだから、軽くて丈夫なはずだ」

ルクス「ありがとう、ゼオさん」

ゼオ「その剣には、お前が無事でありますようにと願いを込めてある。市販の高級な剣を渡そうかとも迷ったが……」
ゼオ「お前の独特な太刀筋は、相対した兵士を少なからず怯ませるまずだ。何より、この形が使い慣れているであろう?」

ルクス「うん」

ゼオ「まだしばらくはテントでも酒が進んでいるだろう……少し、感触を確かめに素振りしてくると良い」

ルクス「分かった……あまり遠くにはいかないようにする」

そう言いながらも、ゼオさんは明日の作戦や僕の初陣について注意するよう伝えに行くのだろう。
僕は好意に甘える事にした。


ルクス「一応敵地だから、フェンリル連れていっても良いかな?」

ゼオ「うむ。気をつけるのじゃぞ」


フェンリル「ぶるぶる」

ルクス「寒い?」

フェンリル「わう」

銀色の毛並みが美しいこの狼は、ゼオさんが引き連れている魔獣、フェンリルだ。
この世界の兵士には調獣士というクラスが存在し、魔獣と信頼関係を結び、協力して戦う人達がいる。ゼオさんもそのひとりだ。

魔獣が人間の頬に口付けを交わす事で、契約は成立する。
それにより特別な拘束力を持つわけでもないが、魔獣にとって口付けは神聖な儀式でもあり尊敬の証でもある。
ゼオさんは僕にそう教えてくれた。

この白狼、フェンリルは魔獣の中でも高位に位置するらしく、作戦のあとは立てた武功を誇るように傷ひとつなく帰ってくる。


ルクス「行こっか、フェンリル」

フェンリル「わん」


人見知りはするみたいだけど、長年共に育ってきたからか僕には随分懐いている。
特に躊躇する事もなく背中を差し出してくれるのがその証拠だ。


少しがっちりとしていて美しい背に僕はまたがり、刃がフェンリルに当たらないよう強く握りしめた。


…………

ルクス「すごい、軽いっ」

ルクス「面白いように振れるぞ!」

フェンリル「くぅん」

テントからいくぶん離れた森の中。退屈そうなフェンリルには目もくれず、僕はゼオさんにもらった三日月刀の使い勝手に感激していた。
重心がバラバラな木の剣に比べると、刃先がとっても早く動く。手首を軽く返すだけで風切り音が鳴る事に調子を良くして、何度も斬り返した。




しかし、いよいよ人を斬る事が現実味を帯びてくると、何の為にこの剣を振るうのか、そんな事ばかり考えてしまう。

……ゼオさんは、調獣士であると同時に、槍術の達人でもある。その槍の穂先には数多くの骸が連なると、デュームさんは言う。
稽古の際は、槍とは違う棍を使うとはいえ、そのゼオさんに一本を取った僕の力も決して他の兵士に劣らないはずだ。
事実、デュームさんや他の団員と稽古をした際も幾度となく勝ち星を上げている。明日への緊張は、自分の実力不足を危惧してのものではなかった。



僕を助けてくれた大切な人たちに、恩返しがしたい。
けれど、それの為にまた僕みたいに不幸な子供を生んでしまっても良いのだろうか?



答えは出ない。
僕の歳で、人殺しに対して明確な大義を持てる方がおかしいに決まってる。

ルクス「突き、払いっ、逆袈裟斬り!」

僕は剣を振るった。


大義といえば、僕が戦争孤児となり拾われてから、国のあり方は様変わりしたけれど未だに戦争は続いている。
この国は大きく4つの勢力に分かれ、それぞれの方法で時代を争っている。


大陸の東にあるのは、白狼傭兵団の雇い主でもあるルーベント王国。
その西に位置するのは、ルーベントと目下戦争中のジオリス共和国。
ジオリスの領地となる事を早くに決断し、市民と文明を守った南のセント領。
厳しい豪雪と険しい山脈が、度重なる侵略を退けてきた北のカリ国。


大きく争うルーベントとジオリスの戦乱が、他の2国を引きずりつつある。それが今の時代だった。


ルクス「……あまり熱中しててもな。夜襲がないとは限らないし」


テントの方ではどんちゃん騒ぎをしているが、今いる場所も半分は敵地のようなもの。酔っていようが戦えるタフな人たちだから、心配はしていないけれど。




比較的面積の大きいこのゾーダ島は、ルーベント軍とジオリス軍、両国の軍隊が上陸・交戦して1ヶ月もの時が経っていた。

海上の気候により島に近付ける季節が決まっており、両軍ともに同時期に侵攻を開始した為、ゾーダ島の入り組んだ地形と相まって戦況は五分となっていた。
とはいえ、白狼傭兵団が参戦してからは戦況は傾きつつあり、既に島の7割5分を押し込んだ計算になる。



僕が今いる場所も、地図の上では既に制圧した地域の為、危険はないだろうと判断したゼオさんが勧めたものだ。



ルクス「ふう、ふう……」

ルクス「実戦では、へばってられないな」

フェンリル「くぅん」

ルクス「ははは、わかったよ。休憩しよう」

三日月刀を樹木にかけ、僕はフェンリルの横に座った。


ルクス「さて。そろそろ戻ろうかな」

フェンリル「……」

ルクス「フェンリル?」

フェンリル「ぐるる」

ルクス「……敵?」

フェンリル「ぐるる」



僕は三日月刀を取り、静かに立ち上がる。物音を立てないようにし、姿勢を低くした。

ルクス「この島に、民間人は居ないはず……」

ルクス(ひとりで応戦するのは最悪だ。でも、既に尾けられている可能性もある)

ルクス(どんちゃん騒ぎの団で応戦できれば良いけれど……夜中の奇襲を受けるのは分かってても危ないし、察知されたとしても酔ったみんなを夜休ませないのは消耗が痛い)

ルクス(本隊と挟撃されかねないし、下手したら壊滅……もしかしたら、ジオリスの勢力が弱いのはこちらが本命とも限らないし)



ルクス(大切な人たちは、もう失いたくない)ぶんぶん



ルクス「フェンリル、ギリギリまで様子を見てみる」

フェンリル「うぅ~」

ルクス「交戦は絶対しないから。せめて敵兵の規模くらいは知らせないと、必要以上に僕らの足が遅くなっちゃう」
ルクス「確認できたらすぐに離脱する。力を貸して」

フェンリル「わう」

ルクス「ありがとう。気配の方に案内してもらっていい?」

フェンリル「ぐるる」


例えば団の洗濯物を洗っていたりとか、ちょっとした買い出しの合間にこのような緊張が走る事は、今までにも良くあった。
だいたい後でゼオさんに無理するなと叱られてしまうのだが、フェンリルと一緒なら偵察、陽動などもこなせる。

ましてや、明日から白狼傭兵団の傭兵になるんだ。

僕のための宴で劣勢なんかさせたくない。
逃げ道も複数確認したところで、僕はフェンリルの背に乗って気配の方へに進む事にした。







くははははは…………







これで、この力で、いよいよ世界は我がものに……

ええ、いよいよですわね……










気配のもと、辿り着いたのは地形図にも載っていない、石造りの遺跡だった。
ここは海に近いらしく、崖の向こうからは波の砕ける音がする。


ルクス「あれは」

フェンリル「ぐるる、うううう~」

ルクス「フェンリル、大丈夫だよ……」

中央に、人影が2つ見える。
闇夜の中でもなぜ見えるかといえば、男の手のひらから強い光が出ていたからだ。



紫の 怖い 光
自然物を 食べてしまうような
生き物に生まれた自分が
あの光を前にする事を 怖くなるような



フェンリルは、僕よりもっと確実に震えていた。






封印は施されましたわ。あとは慎重に摘出するのみ……

うむ……





遺跡の台座から白い光が昇り、少しずつ男の手に吸い込まれていく。

ルクス「……」

ある程度平静を取り戻し、ふたりの会話も聞き取れる状況に居た僕は、この行為を続けさせてはいけないのではないかと直感的に感じていた。
おそらく夜襲とは異なる目的で現れた相手に対し、少し安心感を覚えていたということもある。

こちらは傭兵。相手は兵士でなければ、危険はないと……







フェンリル「うわああああおおおおおんん」







思考は、発狂したようなフェンリルの咆哮にすべて掻き消された。

光に向かい飛び込んでいく白狼。

牙を剥き、草間を駆け、男の腕に飛び掛かる。





女「あら」





女がかざした手からは、火が出た。


フェンリル「ごふっ」



家族同然だった獣は、動かなくなった。



ルクス「……」

男「餓鬼。死ぬか」



そして、止めることも守ることもできず、茫然と立ち尽くす僕に男は視線を合わせたのだった。




女「調獣士の方かしら?」



ああ。
死ぬ。



人は、死ぬと思う事は少ない。
僕もそうだ。
だから、死んでしまうと思った時に、どうすればいいか分からなかった。


考えろ。何を?

考えてる場合じゃない、動くんだ。
どこに?

祈ろうか。
でも死ぬだろう。



それほどまでに、対峙するふたりは恐ろしかった。



女「さようなら」



赤い炎が、予想よりも早く飛んでき、て…………








がきん!

ゼオ「……間に合って、良かったぞ」


ルクス「ゼオさん! ごめん、僕……!」

ゼオ「良い。遅いと思ったから、おかしいと思ったのだ」




男「貴様。何者だ」

女「ガーランド様。摘出に集中してください」






ゼオ「白狼傭兵団団長、上位二等調獣士ゼオ……推して参る!」

女「上位の調獣士……ふふ。肝心の獣はそこで寝ているけれどね」

女「貴方は何分生きていられるかしら?」



ゼオ「さあルクス、逃げろ!」

ルクス「で、でもあいつらは……!」

ゼオ「物の怪の類に、まともに張り合えるとは初めから思っておらん!」

ゼオ「私が、死ぬ!! だから、逃げるのだ!」

ルクス「そんなっ!!」


ゼオ「フェンリルの礼をしてやらねばな……!」

女「ふふ、美しいのね」





アニス「私はアニス。こちらのお方はガーランド様……」

アニス「冥府に沈みゆく者には、必要のない名前ですが」





アニスの炎がゼオさんを襲う。





ゼオ「けぇぇい!」がきん

月に輝く槍の穂先が、どうにか弾きかえす。

アニス「頑張るのね」




このままでは、ゼオさんが死んでしまう。
けれど、逃げなければ僕も死んでしまう。
せめて僕の力で、彼らに一矢報いる事は……




ゼオ「私を、見捨てろ!! ルクス、生きるために、人は何かを捨てなければならん!!」

ゼオ「私は、お前を、捨てない!!」がきん





僕に、力があれば。





ガーランド「ぐはははは……あと、もう少し……」

大切な人の気迫が、恐怖に掠れた僕の思考を呼び戻す。
考えろ。今度こそ考えろ。


あのガーランドを守るように、アニスは炎を飛ばしている。

アニスも、僕が逃げだせば追う追わないに関わらずそこから離れたと思うはずだ。

光を放ち手元に注意を向けているガーランドになら、奇襲が通じるかもしれない。

それによって、ガーランドを優先するアニスに隙が生まれれば……



ルクス「……さよならっ、ゼオさんっ!」だっ



アニス「ふふ、ガーランド様の儀式が完了してしまえば、いくら逃げようが同じこと」

ゼオ「はっはっは、私の目的は果たした……元気でな、ルクス」




ゼオ「ふう……ふう……その程度では私に届かんぞ」

アニス「では、炎を3つに増やしてみましょう」ぼぼぼ…

ゼオ「っ……」





ルクス「はっ、はっ、はっ……」


力が、力があれば!


ガーランド「……。光が、傾いている?」

ガーランド「制御を……」


ルクス「見えた……光の裏側、逆光!」


力があれば!!


ガーランド「な! 光が、引かれている!?」




ルクス「ああああああああ!!!」
力があれば!!!






ゼオ「ルクス!?」

アニス「っ、ガーランド様!」

ガーランド「アニス、使えん奴め」



ガーランド「餓鬼! 動けんとでも思ったか……!!」

ルクス「それでも手だけは離せないはずだ!!」



僕は手首をひねって振りかぶる。
まばゆい光を目掛け、強く三日月刀を振り下ろした。









ガキン!!







ガーランド「!! 封印がっ」

ルクス「あああああっ」



白い光には、手応えが存在した。

しかしながら刃はいっこうに通る兆しを見せず、光のまばゆさと手に掛かる重さだけが増してゆく。

ガーランド「や、やめろ!! 摘出途中にそんなことをしたら……!!」

ルクス「ぬあああああああ」

男が何かを叫んでいる。知らない。
僕はこの刀を振り切る。

ガーランド「く、くそっ、離れるぞアニス……!」







ルクス「くうっ、うう……?」

……異変に気付いたのは、ガーランドが手を離したのが見えた時だ。
既にして輝きは最高潮、その光には生命の息吹すら感じる。




光は僕に吸い寄せられ

ルクス「あ……」

弾ける、と感じた時には遅かった。







ボッ






そんな音がした。きっと爆発音だろう。
それからは、耳がごわごわして、何も聞こえなかった。

目も焼きついて、開けたのに視界が開けない。
身体もふわふわ浮いている気がする。そして、とても痛い。

死ぬというより、既に死んでいるのではないかという危機感に襲われた時、背中に何か叩きつけられる感覚がした。



そして、知っている冷たさが僕を包んだ。
僕は爆風に飛ばされ、海に転落したのだ……やっと、現状を把握した。



…………

しかし、しょっぱい。
苦しい。
喉が、鼻が、肺が痛い。

助けて。

あまりに苦しく、僕は呼吸を諦めた。
パニックをやめて諦めると、溺れている現状は把握できるようになったが苦しさは増す一方だ。



さて、口は閉じないのだ。
鼻もだ。
全身が痺れたように、力をなくしている。
思い出したように身体が痛んだ。
僕は吹き飛ぶ程の爆風を受けたのだ。

どうにも、ならない。

如何様にもならない……僕に分かる範囲で、僕は死んでゆく。






白い光が、みなもから飛び込んでくる気がした。
お迎えか、と察した。

ごめんなさい、ゼオさん。



けれど、あの光にはどこか見覚えがあって……?

あって…………

……ああ、もう死にそうなのか。
考えがまとまらない。






僕は、光に包まれた。




ガーランド「ぬ、ぐうう……」

アニス「ガーランド様! お怪我は」

ガーランド「平気だ。しかし、摘出は」

アニス「申し訳ございません! お調べいたします……」





アニス「……」

ガーランド「どうだ?」

アニス「消えていますわ。『獅子』の力は、抜かれたままです」

アニス「なまじ、摘出の終わり際に中断されてしまった為に……」




ガーランド「ふざけるなァァ!!!」




ガーランド「力を手にする今日の時を、どれほどに待ち侘びた事か!!!」

ガーランド「あの、糞餓鬼め……!!!」

ガーランド「探せ! 探せェ!! 『獅子』も、あの糞餓鬼もだ!!!」

アニス「はっ、はいっ!」





ガーランド「畜生め、畜生めェ!! あの顔、挽き肉にしてすり潰してやる……!!!」


ゼオ「ふ、ふふふ……」


ガーランド「……」

ガーランド「何がおかしい」

ゼオ「はっはは……!! 良くぞ、私のルクスは良くぞ育ってくれたものだ!!」

ゼオ「敵に背を向け、なおも立ち向かう! 立派な傭兵だ!! はははははは!!」

ガーランド「貴様!! 黙れ黙れ黙れ、消し炭にしてやらわァ!!」だっ







ゼオ「ふふ。」

ゼオ「私は父には、なれなかったかもしれんが」

ゼオ「それでも、お前の事を息子だと思っていたよ……」




……………………

…………

……








ルクス「う、くぅ……」


ここは、天国だろうか。


海と砂が、見える。


ルクス「ん……腰が痛い……」


長らく、眠っていた気がする。


死後の国とは、こんな場所なのか。




「んに……」




頭が、優しく包まれている事に気付いた。


掌の感触が、頭から両耳までを包んでいる。


後頭部に砂の感触もしない。


というか今、声がした気が。

頭を撫でられてる。

視界の端に、何か肌が写ってる。

ここどこだ。
これ、誰だ。
起きなきゃ。





頭の向きを空に向ける。




少女「ちゅ」ケイヤク




その少女は、僕の頬を静かに吸った。

プロローグここまで
オリジナルです
虹に期待して来た人は、ごめんなさい





見知らぬ少女の膝元で、死んだはずの僕は眠っていた。




ルクス「きみは……」

少女「ちゅ」

ルクス「あ、あのっ」

少女「ちゅう……」

ルクス「く、くすぐったいって」

少女「……zzz」

ルクス「もしもーし!?」




少女「んー」うるさいなあ


頭をポリポリと掻きながら、彼女はそんなような表情で僕を見る。




少女「れお」




彼女は、ボヤけた様子もなく、そんな活字を並べた。


ルクス「れお……?」

れお「んー」

ルクス「僕は、ルクス。呼び捨てで良いよ」

れお「zzz」

ルクス「……おーい」

心底眠そう。

ルクス「ありがとうね、介抱してくれて」

れお「んー」

僕は起き上がり、ぺたんと座っている彼女の手を取った。


ルクス「君が、僕を助けてくれたのかい?」

正直、あの状況下で意識を失った僕が海岸に流れ着くまで命を落とさないでいられる筈がないと思うのだが……。

れお「のー」ふるふる

ルクス「じゃあ、君は?」


れお「んー」ハグハグ

ルクス「え?なに? ハグ?」

れお「」こくん


れお「んー」ぎゅー

ルクス「あのー……」

なんだか、ハグされた。温かい。



れお「ルクスが、たすけてくれた」



ルクス「僕が? えっ、君を?」

僕はただ死にかけていて、今初めてこの子に会ったのだが……。

れお「ちからを、求める、こころ」





……力があれば!!!……






れお「それが、わたしをたすけてくれた」ボッ


れおは身体を離すと、手に光を灯す。その光には見覚えがあった!


ルクス「遺跡の光は君だったのか!」

僕が溺れた時も、生死の境で確かにあの光が見えた。つまり、この子が……


ルクス「ありがとう……」

れお「んー」ぎゅー

ルクス「おう……ハグが好きなのね」




れお「あのおとこ、わたしをうばおうとしてた」

れお「でも、ルクスのこころと剣が、わたしをあそこから出してくれた」



れお「わたしはちから。星のちからをつかさどる、『金獅子』」

れお「わたしは、ルクスに、ついてく」ぎゅう

ルクス「れお……」


あの男というのは、ガーランドの事だろう……何やら事は重大そうにも聞こえる。
ガーランドは彼女を奪うために何かをしていたわけで、直感的に止めに入ろうと思った僕の考えは間違ってもいなかったわけだ。
……失ったものは、あまりに大きすぎるが。




れお「というか。」


れお「あんなに、はげしく、求められたら」ぎゅうっ





れお「どきどき、する……」かあぁ





ルクス「えっ? そ、そういう意味じゃ」

れお「zzz」

ルクス「あの、動けないんだけど……」


ルクス「えーと、じゃあ、ここはどこなの?」

れお「……」うーん

れお「…」うーん

れお「zzz」

ルクス「わからないのね」




ゾーダ島から漂着したとなると、ルーベントかジオリス、あるいはセント領の海岸となるだろう。

敵国であるジオリスやセント領であった場合、どうやってこれからルーベントに戻るか考えなくてはならないが……。


ルクス「いや……」

そもそも白狼傭兵団は、どうなってしまったのか。フェンリルは倒れ……ゼオさんも……分からない。
僕も消えてしまって、きっと傭兵団は狼狽している。


でも、僕も傭兵団の一員だ。
傭兵は、今できる事をする。


ルクス「悔いるのも、謝るのも、その後だ」

れお「zzz」

ルクス「よし! れお、付いてきてくれるかい?」

れお「……!」パチン

れお「」てくてく



れおのそばに横たわっていた三日月刀を回収し、僕は海岸を離れる。
行けそうな道から進み、内地を目指した。


ルクス「れおはどうして人の形で出てきたの?」

れお「……」?

れお「…」うーん

れお「zzz」

ルクス「あ、ごめんね考え込ませて……」



しばらく歩いてみたが、沿岸からはなかなか離れられず、代わりに港町らしきものが見えてきた。
人がいれば現在地が聞けるはず……。


ルクス「僕の出自は隠した方が良いか……危ないし。れおも迂闊なこと喋らないでね?」

れお「んー」

……うん、大丈夫そうだ。







ルクス「ほーら。しゃっきり」

れお「ぬー……」ふらふら

寝ぼけ眼のれおを引っ張りながら歩く。石造りの建物が立ち並んでいる様子が見えた。


屋台……いや、市のようなものも見える。活気がありそうだった。




………………
…………
……



ルクス「……むしゃむしゃ」

れお「zzz」

ルクス「うまーい!!」

れお「!」ぱちん!


?「はっほほほ、たんとおあがり」


市に近付き、気さくそうなおばさんに僕たちは話しかけた。
現在地を聞くと共に、僕らは戦争孤児であり旅人である、と話すと情報どころか食事まで提供してくれた次第である。


どんなに世が荒れ果てても、温かい人はいる。


ルクス「ここは……セント領なんですね」

おばさん「そうさ。あっちの建物がセント領の中核……セントラル・パレスさ」

どうやらここは敵国であるようだが……幸いにして、セント領の思想は穏やか。
もともと、その小さい国土や少ない住民、貧弱な軍備に対して、豊富な資源を有していたのが災いのもと。

宣戦布告したジオリス共和国に対しあっという間に降伏、その資源を提供する条約を納め、領民を守ったのである。

現在の立ち位置としては、一番の穏便派といって差し支えないだろう。



おばさん「そっちの嬢ちゃんは食べないのかい?」

ルクス「この子、少食で……」

れお「……」うつらうつら


れお「zzz…」

おばさん「ダメだよ、食べてる最中に寝ちゃあ!」

れお「!」ぱちん!

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