毒牙に倒れたお姫様(24)

昔、とある大陸にブリッシュクラドという国がありました。その国は、
長らく戦争なども無く、平和な空気が流れていました。

ある日、ブリッシュクラドの女王様が急に死んでしまいました。
いつも優しい笑顔を誰にでも、別け隔てなく見せていた女王様の死に、
国民はみんな悲しくなりました。

それから国は荒み始め、農夫は鍬を捨て、鍛冶屋は立派な竃を捨て、
王様は国を捨てました。

さて、王様にはお姫様がいました。クルレというお姫様です。彼女は、王様が国を捨てる
その時まで王様や国民を励まし続けましたが、王様が国を捨ててしまうと、クルレは
諦めたかのように、何も言わなくなりました。


そんな頃が何日か続いた後、隣国のダルビンからお手紙が届きました。
『親愛なる、ブリッシュクラド王族の皆様へ。
王様、お久しぶりです。先日の女王様の葬儀では、大変お世話になりました。
その時の王様の悲しみようを見ると、とても胸が痛んだのです。
今回我が国で舞踏会を開催いたします。楽しく踊って、少しでも悲しみが紛れれば幸いです。
では、また後日お会いしましょう。』

王様は乗る気がしませんでしたが、クルレはとても喜びましたので、渋々
出かけることにしました。王様は、外国に出かけるときに着る服を、そして、
クルレは綺麗なドレスと、女王様が履いていた綺麗なハイヒールを履いていきました。

ダルビンは、ブリッシュクラドよりも凄い軍隊を持っていました。
王様がダルビンのお城へ入るときに見た軍隊は、ぴかぴかの銃と剣を持っていました。

さあ、舞踏会が始まりました。ダルビンの皇帝は、この日のために国で美しいといわれている
女性や男性を集めていました。王様も上機嫌で、楽しく踊っていました。一方、クルレのほうは
踊りに飽きて、内緒で街へ出ました。なんと活気に溢れていることでしょう!!
街の皆は笑顔で、お店も華やかに輝いて見えます。

もっとこの国を歩きたいクルレは、裏道にも足を踏み入れました。そこは、さっき見た表の
表情とはまるで正反対の光景が広がっていました。家の無い人々が、恨めしげにこちらを
睨んできます。怖くなったクルレは、走ってお城に戻ろうとしましたが、靴のかかとが折れ、
足を挫いてしまいました。そこに一人の青年が通りがかり、クルレを介抱しました。
顔こそは悪いものの、クルレは青年の優しさに一目惚れし、お城へお誘いました。

お城に着いたクルレと青年は、お城に入ろうとしましたが、門番から止められました。
お姫様は入ることが出来ましたが、青年は入ることが出来ませんでした。お姫様が
どれだけ訴えても、状況は変わりませんでした。お姫様は、青年とまた会う約束をして、
別れました。

舞踏会が終わった後、王様と皇帝はお話をしました。王様は、ダルビンの軍隊を褒め、
我が国にもあのような軍隊が欲しいといいました。すると皇帝は、そちらの軍隊を我が国へ
派遣なさい。そして、我が国の軍隊を勉強なさい。そうすれば、我が国と等しい程度の軍隊が
出来るでしょう。と言いました。

ブリッシュクラドに戻った王様は、早速準備に取り掛かりました。
が、国の軍隊は崩壊状態にあり、いつ蜂起が起きてもおかしくありませんでした。そこで、
軍隊の一部だけをダルビンへ派遣しました。

ぴかぴかの銃と剣を作るためには、腕のいい鍛冶屋が必要です。王様は、鍛冶屋に新しい
かまどを与え、銃と剣を作らせました。
軍隊が動くためには、美味しい食事が必要です。王様は、農夫に新しい鍬を与え、
食物を作らせました。

一度は国を捨てた王様も、また国のために動き出しました。そして、その様子を見た国民も
一生懸命働きました。

やがて、ダルビンに行った軍隊も帰ってきました。ブリッシュクラドの軍隊は、
もっと強くなり、ぴかぴかの銃と剣を持って、ダルビンの軍隊に負けないほどになりました。
それを喜んだ軍隊は、パレードをしました。国の再興を、高らかに謳うようでした。

クルレは、いつか青年と約束したとおり、ダルビンへ出かけました。前のような格好だと
大騒ぎになるので、庶民が着るような服で、軍隊の馬車を借りていきました。

クルレは、青年と長い間お話をしました。青年の名前がアムと言うこと、アムの小さな
庭にある綺麗な花のこと、アムの父や母はもういないと言うこと・・・
あぁ、なんと楽しいことでしょう。クルレは、こんな素晴らしいアムと共に暮らせるのならば、
と思いました。クルレは勇気を出して、アムに結婚を申し込みました。
アムは二つ返事で承諾し、クルレは王様に話してくるといって、別れました。

クルレがその話をすると、王様は激しく怒りました。
「お前には、もう花婿が決まっておる。上にある国アラルノリテの王子、イファじゃ。
お前がイファと結婚すれば、ブリッシュクラドは今よりもっと栄える。ダルビンに、
負けない国になるのじゃ。」

その話に驚いたクルレは、泣きながら自分の部屋へ駆け上がりました。
そして荷物をまとめると、お城を飛び出してアムの下へ行きました。

泣きながら飛び込んできたクルレにアムは驚きましたが、優しく抱きしめてあげました。
そして二人は、まだ暗い森へ向かって、隣の裕福な家の馬車を盗んで、駆けてゆきました。

もう、どれほど馬を走らせたでしょうか。流石の馬もくたくたです。
二人は馬車を止め、少し休ませることにしました。クルレはお腹が空いていましたので、
アムと一緒に食べ物を探しにいきました。しばらく歩くと、美味しそうな実の成っている
林檎の木を見つけました。アムは、クルレに一つ�据いであげました。クルレは美味しそうに
林檎を食べ、その姿を見たアムは、とても幸せなのでした。

お腹いっぱい林檎を食べた二人は、馬車へ戻ろうとしました。馬車まで後数歩のところで、
突然クルレが悲鳴を上げました。何事かと思ったアムがクルレを見ると、クルレは足から
血を流していました。どう言うことだと思いましたが、やがて、クルレの近くを這っていた
蛇を見つけました。クルレを噛んだ蛇が憎くなったアムは、これでもかというほどに
踏みつけました。

クルレは、蛇に噛まれたところが紫に染まっていました。熱もあります。どうやらあの蛇は、
毒蛇だったようです。急いで、ダルビンの上にある国、アラルノリテへ馬車を走らせました。
そしてアラルノリテの田舎町に着いたアムは、薬屋さんに駆け込み、事情を話して
お薬を分けてもらいました。

アムは、お薬をお姫様に飲ませましたが、少ししか良くなりません。
クルレに元気になってほしいアムは、もう一回薬屋さんへ行って、もっと効くお薬を
貰おうとしました。が、薬屋さんは分けてくれませんでした。クルレは、何とか
一日乗り切れるぐらいの体力しか残っていません。

さて、その噂を聞いたアラルノリテの王子様イファは、街で一番有名な薬屋さんに、
一番効くといわれた、一番高いお薬を持って、急いで馬を走らせました。

すいません、勝手なオナニーでした…
まだまだ長い割に誰も見てないようなので…
勉強し直します、すいませんでした。

うわーん、なんだよ、うわーん、
泣きそうじゃないか


途方に暮れているアムを押しのけ、イファはクルレにお薬を飲ませました。すると、
さっきまでぐったりしていたクルレが、みるみる元気になりました。
クルレはアムを睨みました。そして、

「何故あなたは私を助けてくださらなかったの?」

と聞くと、

「お金が無くて、薬が買えなかった。」

とアムはいいました。そんなアムに、クルレは失望しました。あの時クルレを助けた
アムの姿は、もうお姫様には見えません。
そして、クルレはイファの馬に乗りました。泣き叫ぶ青年などには目もくれず、
イファと一緒にアラルノリテのお城を目指しました。

やがて、王様がクルレを探しているという話を聞きました。クルレは、イファと一緒に
ブリッシュクラドのお城へ向かいました。 王様は驚きました。あんなに嫌がった
イファとの結婚を、自ら進んでしようとしているのですから!!
勿論、王様は反対しませんでした。そしてクルレは、ブリッシュクラドのお姫様ではなく、
アラルノリテのお妃様になったのでした。

アムは、クルレを愛しく思っていました。まだアラルノリテを出発していないアムは、
アラルノリテのお城へ馬車を走らせました。途中で、鍛冶屋に刀を拵えさせました。

お金が無いアムは、切れ味を調べる目的も兼ねてその鍛冶屋を斬りました。
素晴らしく斬れる剣にアムは満足し、改めてお城へ向かいました。

その頃クルレとイファは、一緒に街へ出ました。後ろには軍隊がついているので、
何も心配する事はありません。クルレは、街のドレス屋さんで新しいドレスを
買ってもらいました。それを着たクルレは、なんと美しいことでしょう。イファも、
その姿に満足するのでした。

お城へ戻ると何やら騒がしくなっています。何があったのでしょうか。
イファが門番に尋ねると、

「先ほど、ダルビンのアムと言う青年が、王子様に決闘を挑むと言って押しかけて
きたのですが、軍隊によって抑えました。王様はこれをダルビンからの宣戦布告として、
戦争が始まりました。さぁ、早く王様の部屋へ。」

イファは、門番の頭がおかしくなったと思いましたが、分ったとだけ言って、
王様の部屋へ向かいました。
門番はおかしくなかったのです。本当にダルビンとアラルノリテに戦争が始まったのでした。
王子は卒倒しそうになりましたが、ぐっと持ちこたえて自室へ戻りました。

その話を聞いたクルレは、アラルノリテではなく、ブリッシュクラドが心配でした。
ブリッシュクラドも巻き込まれてしまったら・・・
せっかく国が元気になったと言うのに、戦争で国が滅んでは何にもなりません。
いくら強い軍隊を持っていても、心配だったのでした。

さて、そのブリッシュクラドはダルビンと一緒に戦うことにしました。ダルビンからは軍隊を
強くしてもらいましたし、何よりダルビンの軍隊は強いのです。そして、アラルノリテには
クルレがいます。クルレを使ってアラルノリテを降伏させれば、血を見ずに戦争を
終わらせることができます。

しかしクルレは、別の事で悩みました。祖国のブリッシュクラドが、アラルノリテに攻め込む。
もしそうなれば、強くなったブリッシュクラドにアラルノリテが勝てるわけがありません。
今ならば、クルレはブリッシュクラドに戻れそうな気がしました。
そして、クルレは青年を深く恨みました。彼さえいなければ、私は悩まなくて良いのに・・・
クルレは、捕らえた青年を自ら殺してしまおうと、青年が捕らえられている牢獄へ行きました。

牢獄は、いつか見たダルビンの裏道のようでした。囚人は、やはりクルレを恨めしげに
睨み付けるのでした。

奥の方に進むと、青年の牢獄が見えてきました。そしてクルレは、青年にこう言うのでした。

「青年よ、そなたのせいで、私は今不幸である。償うには、自らの死しかあるまい。分かるだろう?」

「あぁクルレよ、君はダルビンの夕べを忘れたか。あれは、幻だったというのか。」

クルレは笑います。

「ははは、あれは幻などではない。ただの妄想だ。いい加減、夢から覚めたらどうなのだ。」

青年は、驚きました。ここまでクルレを変えたものは何なのでしょう。アムにはまったく分りません。

「さぁ、剣を授ける。そなたの剣だ。さぁ、今すぐ私の目の前でその首を切れ。」

アムは諦めたかのように、こう言い放ちました。

「貴様のために、この命を無駄には出来ぬ。それならば、そなたが殺せばいいだろう。」

クルレは、その通りだと思い、手に入れた鍵を掴みました。

「良いだろう。今すぐこの扉を開けて、貴様を叩き斬ってやる。」

アムには、一つ考えがありました。そして、鍵が開いた途端に、

「ありがとう、クルレ様!!あなたは私の恩人です!!さぁ、一緒に逃げましょう!!」

と大声で叫びました。その声を聞いた看守達は駆けつけ、本当にクルレが、青年を逃がしているのだと錯覚しました。

クルレは、突然の事に何が何だか分からなくなり、立ちすくみました。その間に逃げ果せたアムは、
クルレが乗ってきた馬車を奪い、逃げました。クルレは、看守たちに捕まりました。

さぁ、その話がイファの元へ行く前に、王様の耳へ入りました。戦争を決断した王様です、
勿論死刑を宣告するのでした。
イファも父の言った事は守らなければならないのでした。自分の立場が歯がゆく、
イファも同じく、アムを恨んだのでした。が、怒れば怒るほど、アムよりもクルレが
恨めしくなりました。いえ、もうどちらでもよくなっていたのです。どちらか一方を
自分で殺せば、イファは満足なのでした。

当時の死刑は凄いものでした。大きな包丁が上から降ってきて、
首がスポンと飛ぶのだそうです。これを、皆々はギロチンと呼んでいました。
自分がされる事は考えず、ただその爽快さが、道楽の無い庶民の唯一の楽しみだったのです。
勿論、自分や親族でなければ、相手は誰でも構いません。それがクルレでも、構わないのです。

さぁ、とうとうクルレの処刑の日が来ました。クルレは、私はなんて不幸なのだろう・・・
と、恨み先が無い怒りと絶望を胸に、その包丁の下に首を載せたのでした。
なんと怖いのでしょう。いつ落とされるのか分りません。時々シュルシュルと音がしますが、
どうも処刑人が悪ふざけをしているようなのでした。いつ落とされるのだろう。次は多分
本当かもしれない。と思いながらも、次も多分おふざけで、実は殺される事などは無いのよ。
とも、考えるのでした。

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