春香「えっ、冬馬君が妊娠したんですか!?」 (277)
小鳥「ええ、さっき社長から電話があって…」
春香「え…あっ…、お、おめでたいですね!」
千早「春香、めでたくないでしょ」
千早「赤ちゃんができたということはアイドルができなくなるということなのよ」
春香「あ、確かにそうだね…」
小鳥「それだけじゃないのよ、めでたくないことは」
春香「えっ?」
小鳥「実は冬馬君を妊娠させたのは………うちのプロデューサーさんなのよ」
春香・千早「ええええええっ!?」
響「…」
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春香「ど、どうしてプロデューサーさんが冬馬君を妊娠させたのですか!?」
小鳥「どうもこっそり数ヶ月間一緒に付き合ってたらしいのね、二人とも」
小鳥「その数ヶ月間の間にやっちゃってできちゃったのねきっと…」
小鳥「プロデューサーさんも悪気があってやったわけではないと思うわ、きっと事故なのよ」
千早「事故で一人のアイドルの人生をめちゃくちゃにするなんて許せない!」
春香「プロデューサーさんはどこに!?」
千早「社長と一緒に冬馬君がいる病院に行ってるわよ」
春香「行くよ、千早ちゃん!」ダッ!
千早「ええっ!」ダッ!
響「…」ダッ!
小鳥「えっ、ちょっと!?」
病院
社長「本当に、申し訳ございません…」
冬馬父「謝ってすむ問題じゃないでしょ!」
冬馬父「冬馬はまだ17なんですよ!」
冬馬父「子供なのに…こんな辛い思いをさせてしまうなんて…」
P「…」
冬馬「親父、もういいって…」
冬馬「ここで怒りをぶつけても何の意味もないぜ」
冬馬父「確かにそうだが…だが冬馬、お前だって辛いだろ!」
冬馬「確かに辛いが怒りをぶつけて解決できる問題ならいくらでもぶつけるさ」
冬馬「だけどぶつけたてもこの現実は変わらないぜ…」
冬馬父「…」
病院の外
春香「ハァ…ハァ…」
千早「と、飛ばしすぎよ春香…」
春香「ご、ごめん…」
響「…」
春香「それで、プロデューサーさんは一体どこに?」
千早「あ、聞くのを忘れてたわ」
北斗「今病院内で冬馬たちと話しているよ」
春香「北斗さん…」
北斗「だけど今は行かないほうがいい」
北斗「これは冬馬たちの問題だ、俺たちが口を挟む問題じゃない」
春香「そんな! こっちはプロデューサーさんに話したいことがたくさんあるのに!」
北斗「どんなことをだい? 何故妊娠をさせたのかという批難をするのかい?」
春香「………」
北斗「彼らは今は取り込み中だ、会っても無駄だよ」
北斗「それにプロデューサーさんは君たちに会いたくないだろう」
北斗「君たちが来ても返って彼を追い詰めるだけだ」
北斗「せっかく来てくれたけどここは引き下がってほしい」
春香「でも…」
千早「帰りましょう、春香」
千早「プロデューサーの気持ちを考えたら、私たちに合わせる顔はないと思うわ」
春香「…」
響「…」
千早「だけど帰る前に説明して欲しいわ、どうしてプロデューサーと彼が一線を越えたの?」
千早「どういう経緯で妊娠したの?」
北斗「冬馬から聞いた話をそのまま伝えると数ヶ月前から彼と男友達として付き合っていた」
北斗「初めはあくまで友達として付き合ってたけど次第に両者共に行動がエスカレートして…」
北斗「挙句の果てには未成年なのにチューハイを飲ませて両者共に酔い」
北斗「プロデューサーさんの家で一夜を明かしたということだ…両者丸裸でね」
春香「ま///」
千早「丸…裸!?」
北斗「ちなみに一夜のことは全く覚えていなかったらしい、まあただ思い出したくないだけかもしれないけど」
北斗「その後互いに気まずくなって会うのを避けていたんだけど…」
数ヶ月前
冬馬「北斗、翔太、ライブお疲れ!」
北斗「ああ、お疲れ」
翔太「おつかれ~♪」
冬馬「さて、そろそろ支度でも…」
ドクン
冬馬「うぐっ!」
北斗「冬馬?」
冬馬「すまん、ちょっとトイレ…」ダッ!
翔太「どうしたんだろ、もしかしておなか壊したとか?」
北斗「…」
冬馬「う…うぇぇ…」ビチャビチャ
冬馬「なんだよこれ…どうなってるんだよ…」
バタン
北斗「冬馬、大丈夫か…って」
冬馬「!?」
北斗「心配して着いていってみればどうしたんだ一体!?」
冬馬「北斗!?」
北斗「毎回トイレに行った後顔が真っ青になって戻ってきているじゃないか」
北斗「ダンスのキレも落ちているし、どこか体調が悪いのか?」
冬馬「ははっ…、みたいだな」
北斗「健康管理も大事だぞ、とりあえず病院に行ってみよう」
冬馬「ああ」
冬馬「曖昧だったけど風邪見たいらしいぜ」
北斗「ならしばらく休んだほうが良いな、無理するなよ」
冬馬「ああ、こんな風邪すぐに治してステージにすぐに立ってやるぜ!」
北斗「…今思えばあの時気付くべきだったか…」
北斗「いや、気付くわけないか…、まさか男が妊娠するなんてまともな思考だと考えないからな」
春香「確かに」
響「…」
千早「妊娠したと気付いたのはいつごろでしたか?」
北斗「冬馬が復帰して3人でライブを行おうとした時だった…」
更衣室
北斗「さて、みんなが待っているから早いうちに着替えようか」
翔太「うん!」
冬馬「あれ、おかしいな?」ヌギヌギ
北斗「どうかしたのか?」
冬馬「シャツがきつくて着れないんだ」
北斗「そんな馬鹿な? プロデューサーさんがサイズぴったりの服を用意したといってたはずだけど」
翔太「冬馬君だけ間違えたとか?」
冬馬「マジか?」
北斗「とりあえず手伝わせてくれ」
冬馬「ああ」
北斗「…冬馬、なんかちょっと太ったか?」
冬馬「えっ!?」
翔太「それに胸もちょっと膨らんだような…」
冬馬「マジかよ!? 俺いつの間にか太っちまったのか!?」
翔太「甘いもの取りすぎたから太ったんだよ」
北斗「冬馬は甘いものが大好きだからな」
冬馬「うっ…、健康管理は気をつけたはずなのに…」
北斗「しかし参ったな…、これじゃあライブはできないな…」
冬馬「待てよ、俺がぽっちゃりになったくらいで中止にさせてたまるかよ!」
冬馬「意地でも着てやる、ぐぬぬぬぬ…!」ギチギチ
北斗「借り物だから傷つけるなよ」
いろいろあってライブ終了
冬馬「なんとか…うまく……いったぜ…」ゼェゼェ
北斗「それにしてもダンス少し雑じゃなかったか?」
北斗「俺より下手だったぞ」
冬馬「だな……太ったせい…かな」ゼェゼェ
翔太「冬馬君息が荒いよ、とっても疲れているんだね」
冬馬「ああ…早いうちに…ダイエット……を…」バタリ
北斗「冬馬!? おい、どうしたんだよ!?」
冬馬「ハァ…ハァ…」
翔太「大変だ…凄い熱だよ!」
北斗「プロデューサーさん、救急車!」
北斗「その後救急車を呼んで冬馬を病院に運んだんだ」
北斗「妊娠3ヶ月だった、もちろん誰もが驚いたさ」
北斗「翔太も顔が真っ青になっていたし俺もプロデューサーも医者も何が起こったのか全く理解できなかった」
北斗「だけど一番理解できなかったのは冬馬本人だろうな」
北斗「知らない間に子を身ごもっていたんだからな」
響「…」
千早「それでその後は?」
北斗「その後は…」
北斗「その後、冬馬の父さんが四国から遥々やってきて心配したり」
北斗「765の社長さんとプロデューサが来て話すことになったりしてね」
北斗「それで今にいたるということだ」
北斗「まあこんなことかな、俺が言えるのは…」
千早「は、話が全くわからないわ…」
春香「これが冬馬君じゃなくて女性だったら理解できるのに…」
響「…」
北斗「詳しいことは後の診察次第でわかるかもしれないけどね」
北斗「それまではそっとするよ、あいつのために」
春香「………」
春香「プロデューサーさん…まさか冬馬君に手を出していたなんて…」
千早「最低ね…」
律子「話は社長から聞いたわ」
春香「律子さん、プロデューサーさんは?」
律子「自宅待機よ、しばらくはみんなと会うことはないわ」
春香「えっ?」
律子「考えて見なさい、アイドルを孕ませた人が私たちと一緒に仕事をできると思う?」
春香「…」
響「…」
千早「確かにそんな最低な人と話すのはいやですね」
春香「千早ちゃん、そんな心無いことを…」
千早「実際最低だからしょうがないでしょ」
千早「例えば春香、プロデューサーが美希を妊娠させたらどう思う?」
春香「えっ…、それは………」
千早「少なくとも私は軽蔑するわ、プロデューサーは事務所、冬馬、私たちに凄い迷惑をかけたのよ」
千早「これを最低なんて呼ばなかったらなんて言うの?」
春香「…」
千早「私はもう行くわ、それじゃあまた明日」
律子「じゃあね」
春香「………」
響「…」
冬馬「…」
冬馬「なんでこんなことになっちまったんだよ…」
冬馬「うっ…うぐっ…」
冬馬「うぇっ…吐きそうだ…」
冬馬「…これからどうすればいいんだ」
冬馬「…ちくしょう」
今日はここまで
豆知識その1
男が妊娠する場合は女性が性転換して男性になった時のみ発生する
>>20と>>21の間に入れるのを忘れてしまった
冬馬「なんだよ…なんでこんなことに!」
翔太「冬馬くん…どうして妊娠したの?」
冬馬「俺にもわかんねえよ…」
北斗「冬馬、相手が誰なのかわかるか?」
冬馬「思い当たる節が見当たらな…あっ…」
北斗「あるんだな」
冬馬「………」
北斗「誰だ?」
冬馬「…765のプロデューサー…」
北斗「プロデューサー、聞きましたか、急いで冬馬のお父さんと社長に…」
翔太「それにしても男なのに妊娠するんだね」
病院
医者「もう退院しても大丈夫です」
冬馬父「そうですか、ありがとうございました」
冬馬「…」
医者「ただしばらくは無理をさせないようにしてください」
315P「何か気をつけることは?」
医者「妊娠しているため全体的な生活の見直しを行ってください」
医者「特に食生活には気をつけてください」
医者「母胎に負担がかかってしまうので」
冬馬父「わかりました…」
冬馬父「冬馬、力になれない私を許して欲しい…」
冬馬「もういいって、それより今は何をするべきか考えないとな」
冬馬「プロデューサーもほら、悲しそうな顔をするなって」
315P「いえ…私が力不足だったためにこんな…」
冬馬「別に何も悪くないじゃないか、責任を感じる必要はないぜ」
315P「しかしその体だとアイドルを引退せざるを得なくなります」
冬馬「まあ、確かにそうなるな…、こんな体じゃできないしな…」
冬馬「体育とかも運動とかもやめたほうがいいだろうな、それに…」
冬馬「他にも…いろいろ…やめといたほうが……」
冬馬「やめといた…ほうが………」
冬馬「ぅぅ……」グスン
冬馬父・315P「…」
冬馬「…ああ、すまねぇプロデューサー、情けないところを見せちまった…」
315P「いえ…」
冬馬父「冬馬、今後は私も一緒にいることにするよ」
冬馬「え、それじゃあ仕事は?」
冬馬父「こっちにも会社の支部があるからそこで勤めることにするように話してみる」
冬馬「そうなのか、迷惑かけちまってすまねぇ…」
数週間後
『天ヶ瀬冬馬、電撃引退! 俺様系アイドルが消えた理由は!』
春香「冬馬くん、引退したそうですね」
小鳥「せっかく新しい舞台で旅立てたのに…」
響「…」
千早「ハァ…プロデューサーったらなんてことをしてくれたのかしら…」
千早「どうやら雑誌やテレビを見る限り妊娠が理由というのは一言も書かれてないわ」
小鳥「なんとかうまく誤魔化したみたいだけど…」
千早「バレるのも時間の問題ですね」
春香「ねぇ私たちに何かできることはないのかな?」
千早「春香、手助けをするの?」
千早「彼のプライドを考えると他人から手を借りるのは嫌だと思うけど」
春香「うん…だけど冬馬君があんな風になったのは事務所全体の責任だと思うんだ」
春香「だから責任を取って手伝うべきだと私は考えているけど」
千早「お人よしね…まあ、春香がそういうのならいいわ」
千早「私も色々気になることもあるから」
春香「うん、ありがとう千早ちゃん」
響「…」
千早「住所とか知っているの?」
春香「北斗さんから聞いてあるから」
千早「そうなの」
響「…」
春香「えっと、この階の突き当たりに…あった」
ピンポーン
ガチャ
春香「冬馬く……あれ?」
315P「おや、765プロの…」
春香「あなたは?」
北斗「この人はうちのプロデューサーだよ」
春香「北斗さん」
千早「はじめまして」
315P「はじめまして」
北斗「手伝いに来てくれたのか、心遣いはありがたい、感謝するよ」
北斗「だけど冬馬の今の状態を見せるのは…」
「いいぜ」
北斗「冬馬!?」
315P「いいのですか?」
「別にいいぜ、これ以上何かしても減るもんなんてないしな」
「それにあいつらなら見せちまっても問題ねえよ」
北斗「…」
春香「あの…」
北斗「冬馬ああ言っているんだ、どうぞ上がって」
春香「はい…」
千早「おじゃまします…」
響「…」
北斗「この部屋のベッドで休んでいるんだ」
ガチャ
春香「おじゃまします…」
冬馬「よお…」
千早「そのお腹…!」
冬馬「かっこ悪いだろ、不気味だろ」
冬馬「これ以上奇妙な光景はあると思うか?」
冬馬「この俺が…妊娠だぜ…、正気じゃねえだろ…」
春香「ごめんなさい…」
冬馬「天海が謝ってどうするんだよ、あいつの代弁か?」
千早「体調はどうなの?」
冬馬「いいのか悪いのかはっきりしないぜ…」
冬馬「身体的には問題ないがな…」
響「…」
春香「お腹…大きいんだね」
冬馬「医者曰く4ヶ月といってたんだが…」
冬馬「4ヶ月にしてはでかいとは思わないか?」
千早「確かにそうね…」
冬馬「成長が早いのか…一部脂肪がたまっているのか」
冬馬「それとも………」
ガチャ
北斗「みんな、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ」
北斗「来てくれないかな?」
春香「あ、はい」
千早「今行きます」
響「…」
バタン
冬馬「…本当に、奇妙だな…ハハッ」
数十分後
北斗「冬馬、鉄分やビタミン豊富な料理を作ったぞ」
冬馬「ほとんど野菜ばっかだな」
北斗「体調管理は気をつけないといけないからな」
北斗「彼女たちが手伝ってくれたんだ、お礼を言っておけよ」
冬馬「それで天海たちは?」
北斗「プロデューサーさんと話をしているよ」
冬馬「そうか…」
北斗「いいか、誰かに頼ってもいいんだ、強がらなくていい」
北斗「かっこ悪いとか迷惑かけたくないとかそんなの考えなくてもいい」
北斗「辛かったら助けを求めろ、俺たちがついているから」
冬馬「ああ…」
春香「ごめんなさい…プロデューサーさんのせいで冬馬君が…」
千早「春香、もうそのくらいにして」
春香「…ごめん」
千早「それで、私たちに他にできることは?」
315P「気持ちはありがたいのですが、何もする必要はありません」
春香「どうしてですか?」
315P「…これはうちの事務所全体の問題です、あなたたちを巻き込むわけにはいかないのです」
315P「あなたたちはアイドルとしてあなたたちのやるべきことをやって欲しいのです」
春香「わかりました…そうおっしゃるのなら」
春香「でも何か困ったことがあったらぜひ手伝わせてください」
315P「…わかりました」
千早「それではこれで」
響「…」
春香「冬馬君…顔色がとてもよくなかったね」
千早「あれじゃあまるで病人ね…」
春香「結局何もできなかったね…」
千早「私たちにできること、見守るだけかもしれないわね」
響「…」
千早「しかし気になって見てきたけど本当に妊娠していたなんて驚いたわ」
千早「男でも妊娠するものかしらね」
春香「もしかして冬馬君って女の子だったりして?」
千早「それはないわ、雑誌とかで半裸の彼を見たりしたけど女の胸ではなかったわ」
春香「じゃあカモノハシのような感じかも?」
千早「あるわけないじゃない、真面目に答えているの?」
春香「ごめん…」
響「…」
北斗「それじゃあまた明日」
315P「お大事に」
冬馬「じゃあな、北斗、プロデューサー」
バタン
冬馬「………」
冬馬「頼ってどうにかなる問題じゃねえだろ…」
冬馬「代わりに妊娠してくれるのかよ…」
冬馬「代わりにこの痛みを味わってくれるのかよ…」
冬馬「代わりに人生を蔑ろにしてくれるのかよ…」
冬馬「何も知らないくせに…」
病院
医者「検査の結果、前の診察の時は隠れてて確認できませんでしたが」
医者「間違いありません、双子です」
冬馬父「ふ、双子…?」
医者「ええっ…お腹が4ヶ月でこの大きさなのも納得がいきます」
医者「冬馬さん、念のためお尋ねしますが、出産をするつもりは?」
冬馬「…」
医者「仮に出産するつもりなら帝王切開を行う可能性があることを危惧してください」
医者「冬馬さんは今は男性、お腹の中に双子がいるためかなりの負担がかかります」
医者「出産に失敗したら胎児はおろかあなたまで命にかかわります」
冬馬「…」
医者「中絶という選択肢もありますが、どうしますか?」
冬馬「ちゅっ…中絶?」
冬馬父「先生、そんな残酷なことを…」
医者「ええ、確かに残酷ですが、そのまま放っておいていい問題ではありません」
医者「中絶をしたら少なくとも前と同じ生活を送ることができます」
315P「えっ…それって…アイドルがまたできるということか?」
医者「すぐにとはいきませんが、できるようになります」
315P「そうですか」
冬馬「…」
医者「それで、どうしますか?」
冬馬「…考えさせてくれ」
冬馬父「冬馬…」
医者「わかりました」
冬馬「………」
315P「今お父さんが今後について話しているそうです」
冬馬「そうか…ところでプロデューサー…俺…」
315P「迷っているですか?」
冬馬「…まあな」
315P「それで、どうしますか?」
冬馬「プロデューサーならどうするんだ、仮に妊娠したとしたら」
315P「私ですか? 思ってもいませんでしたが…」
315P「大切な命を奪うような真似はしません」
冬馬「そうか」
315P「…といっても実際に身ごもったわけではないので」
315P「もし妊娠したら答えは違うかもしれません、しかし私なら少なくとも中絶はしません」
冬馬「…そうか」
315P「以前のあなたなら私と同じことを言っていると思いますよ」
315P「あなたは優しいですから、こんなことはしないでしょう」
冬馬「…そうだよな、俺だって二つの命の火を消すようなことはしたくない」
冬馬「…」
今日はここまで
豆知識その2
中絶費用は4ヶ月未満と4ヵ月後で2倍近く違う
それもそうだ、それじゃあやめようかな?
765プロ
ガチャ
P「おはよう、みんな」
春香「あ、プロデューサーさん、おはようございます」
千早「…」
律子「おはようございます」
響「…」
小鳥「おはよう…、ございます…」
P「…」
P「………あっ…」
律子「…」
春香「…」
響「…」
千早「…」
美希「…」
真「…」
P「…みんな…」
P「ごめん! 俺のせいでみんなに迷惑をかけてしまった!」
P「俺が馬鹿なことをしたせいで…」
律子「そう、馬鹿なことをしたせいで一人のアイドルの人生を滅茶苦茶にしたんですものね」
P「…ああ……」
律子「まあ確かに私たちもとばっちりを喰らいましたけど」
律子「巻き添えはまだいいです、それだけですみましたからね」
律子「あとプロデューサー、謝る相手を間違えてますよ」
律子「私たちじゃなくて天ヶ瀬に謝るべきだと思いますけど」
律子「彼がこの件で一番の被害者ですからね」
P「…ああ、律子の言うとおりだ」
響「…」
P「だけど謝っても冬馬は許してくれるのだろうか?」
P「数え切れないほど謝ったんだが…やっぱり普通に謝るだけじゃダメだろ」
春香「なら責任を取るべきだと思います」
P「責任?」
春香「はい、プロデューサーさんは冬馬君に辛い思いをさせてしまいましたよね?」
春香「その償いをするべきですよ」
P「償いって…どうやって?」
春香「そりゃもう結婚ですよ!結婚!」
P「はぁ!?」
小鳥「!?」ブーーーーーーーーーーーーッ!
美希・真・律子「…ハァ……」
P「何で結婚になるんだよ!?」
春香「いいですか、望まない妊娠をした女の子たちはその後どういう運命を辿っていったかわかりますか?」
春香「男は俺は悪くねえと言わんばかりに逃げ出し…」
春香「たいていはシングルマザーになって一人、または親元で必死になって子供を育てているんです」
春香「その途中で育て切れなくて養子に出したり捨てたりしているんですよ!」
春香「プロデューサーさんはまさか逃げ出して冬馬くんをシングルマザーにしたりしませんよね?」
千早「なんでそういう話をそんなに詳しいの春香?」
春香「この前学校で教わったの!」
千早「そう…」
響「…」
P「結婚か…、そうでもしないと許してくれないのか?」
春香「もちろんですよ、プロデューサーがやったことは非人道的ですからね」
春香「冬馬君と生涯一緒にいて幸せにしてやること、これがプロデューサーさんが受ける罰です!」
春香「ちゃんとした責任を取らないと人間として失格ですよ」
P「…わかった」
P「俺も男だ、覚悟を決めて冬馬に結婚を申し込むことにするよ」
春香「本当ですか!」
P「ああ、冬馬の苦労が減るためなら、俺はいくらでも結婚してやる」
P「あいつの苦しむ顔なんて見たくないからな」
春香「流石プロデューサーさんです、最低だと思いましたけど見直しました!」
春香「ところで冬馬くんの妊娠についてですけど、あの日本当に覚えてないんですか?」
P「あの日って?」
春香「冬馬君を妊娠させたことですよ」
P「あっ…」
春香「あの夜ズッコンバッコンやって孕ませたことを本当に覚えてないんですか!?」
P「は、春香!? お前自分が何を言っているのかわかっているのか!?」
P「仮にもアイドルがそんなことを言うなよ、みんなが聞いたらどうするんだよ!」
千早「大丈夫です、もう私たちしかいないので」
P「えっ?」
千早「ほかのみんなは自分たちの仕事に行きました」
小鳥「…」
響「…」
P「いつ行ったの?」
千早「結婚のくだりから」
P「そう…」
千早「話が馬鹿馬鹿しくて愛想突かされたんですねきっと」
P「そう…」
千早「それで本当に覚えてないんですか、初夜」
P「…ああ、本当に覚えてないんだ」
千早「基本的に突っ込まないと孕まないのに?」
P「頼むからアイドルとしての自覚を持ってくれ」
春香「でもやっぱり変ですよ、男の子が妊娠なんて」
千早「そうね…、普通なら考えられないわ」
千早「一体どうやって…」
響「プロデューサー、嘘ついてるぞ」
響「本当は覚えているんだろ、あの夜」
P「響、お前何を言っているんだ!?」
響「自分わかるんだ、プロデューサーが冬馬のために覚えてないふりをしているということを」
P「何を根拠に…」
響「冬馬のお見舞いに行ったあの日、やっとわかったんだ」
響「何度も冬馬と会ったことがあるけどあのなんとも言えないもやもや、その正体が今回の妊娠でわかった」
響「これは自分の勘だけど…いや、勘じゃなくてもきっとそうだ」
P「やめろ!」
響「天ヶ瀬冬馬は…」
響「両性具有だ」
今回はここまで
豆知識3
ふ○○りは現実では直視できないほどアレ
P「」
千早「りょ、りょうせ…何?」
春香「そ、それって…まさか…」
小鳥「両性具有…別名半陰陽」
小鳥「二次元では○○なりと呼ばれている」
千早「ふた…!」///
春香「な……!」///
小鳥「創作上のものだと思っていたけどまさか現実にあるなんて…」
P「響…」
響「ごめんプロデューサー、冬馬のために黙っててたのに…」
響「でもここで隠しても何も変わらない、何も前に進まない」
響「疑念をずっと抱くより、真実を知って早いうちに慣れさせたほうがいい」
響「拒絶をして傷つかないようにするために」
春香「ひ、響ちゃん…ふた○りって…もしかしてあの?」
響「そう…よくぴよ子が読んでいる本に載っているアレだ」
小鳥「!?」
春香「本当に存在するの!? アレが!?」
響「自分が一緒にいた家族が両性具有だった」
響「だけど今はその話じゃない」
響「二人とも、この話を聞いて今どう感じた?」
響「冬馬がふ○な○と聞いてどう思った?」
春香「あ…そ…それ…は…」
千早「信じられない…信じられないわそんな…現実的じゃないわ」
響「ぴよ子、ちょっとパソコン借りるぞ」
小鳥「え、ええ」
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
響「ほら」
小鳥・春香・千早「!?」
響「どう思ったのか正直に言ってほしい」
千早「あ…ああ…………」クラッ
小鳥「未成年になんてものを…ウップ…」
春香「蓮コラをデスクトップの壁紙にしたほうがまだマシだったよ」
響「どうだ、見るだけでこの拒絶反応だ」
響「アレを持っている冬馬はどんな心境なんだろうな?」
千早「…気の毒という言葉では表現しきれないわね」
春香「…この話を聞いてどんな顔をして会えば良いのか…」
P「俺も、あいつの秘密を知ってから…近寄り難くなった」
P「どう反応したら良いのか…、どう接したら良いのか…わからなかった…」
響「不気味だと思っただろ、気持ち悪いと思っただろ」
響「思ったよな、そうだよな!」
春香「響ちゃん、どうしたの!?」
響「自分だって家族が両性具有だって知った時気持ち悪いと思ったぞ」
響「だけど、その瞬間に自分は最低だって思った」
響「好きでなったわけじゃない体を持った相手に気持ち悪いと思ったんだ」
響「家族相手に気持ち悪いだぞ! ひどいとは思わないか!?」
春香「響ちゃん、落ち着いて!」
響「冬馬が妊娠と聞いてまさかとは思ったけど、こんな嫌な勘があたるなんて…」
春香「でも何でプロデューサーさんは○た○○と知ったと同時に冬馬君を襲ったんですか?」
千早「かなりの変態だからでしょ、穴があれば何でも突っ込むのよああ言う人種は」
P「…ごめん」
P「それじゃあ…俺行くよ、思いを伝えに」
春香「うまくいけば良いですね」
小鳥「頑張ってください」
P「ありがとうございます、それじゃあ」
バタン
響「…ま、うまくいかないと思うけど」
春香「え、どうしてそう思うの?」
響「冬馬の性別のベースはどっちだ? 男か、女か?」
春香「………」
ピンポーン
ガチャ
冬馬「…なんだよ」
P「冬馬…話があるんだ」
冬馬「話だと?」
P「ああ」
冬馬「…まあ、入れよ」
P「それじゃあお言葉に甘えて」
冬馬「あんたとは病院以来だな」
P「ああ」
P「あの時は本当にすまなかった…」
P「俺は本当に馬鹿だったよ、まだ未成年であるお前をこんな辛い目にあわせたんだから」
冬馬「なんだ、まさか許して欲しいのか?」
P「いや、俺はお前の全てを奪ったんだ、今更許してもらえるとは思えない」
P「だけど俺は償いきれない罪を犯したのは確かだ、だから責任をとらせて欲しい」
冬馬「責任だと?」
P「ああ、腹の子を一人で育てるのは大変だろ」
P「だけど子育てとかの負担を一人で抱え込ませるわけにはいけないと思うんだ」
冬馬「…何が言いたい?」
P「俺に手伝わせてくれ、俺がお前の面倒を見る」
P「当然お腹の子もだ」
冬馬「…何?」
P「今思えばあの時お前と仲良くなってから、心の中で好きという感情が芽生えていたのかもしれない」
P「冬馬、今は無理だが一年たったらお前はもう18になる」
P「18になったら結婚ができるんだ、もしそのときが来たら」
P「結婚しよう」
冬馬「………」
P「もちろん決めるのは冬馬だ、返事は今すぐじゃなくでも…」
ヒュン!
P「うわっ!?」
パリーン!
P「グ、グラス?」
冬馬「ふざけるのもいい加減にしろ糞野郎!」
P「ふざけてない! 俺は真面目にお前のことを大切に…」
冬馬「それふざけているというんだよこの変態が!」
ヒュン!
P「うおっ!?」
冬馬「何が結婚だ! 何が全てを奪っただ!」
冬馬「てめえが考えている全てと俺が思っている全てを一緒にするんじゃねえ!」
冬馬「何もわかってねえ癖にわかったように言うんじゃねえ!」
P「冬馬、ちょっと待て!」
冬馬「消え失せろ、二度とその面見せるな!」
ヒュン!
P「くっ…!」
ガチャ
バタン!
冬馬「ハァ…ハァ…」
冬馬「ちくしょう…結婚だと?」
冬馬「ふざけんな…」
P「…」
春香「プロデューサーさん、結果は?」
P「ふられちまったよ…見事にな」
P「無様だろ…初の告白と同時に初の失恋を経験したんだぜ」
響「冬馬の気持ちを全く考えなかっただろ、プロデューサー」
響「冬馬は戸籍や体とかは男なんだぞ、男が男に告白されたらどう思う?」
響「常識的に考えたら気持ち悪いだろ」
響「冬馬はそんな気持ち悪い経験を受けたんだ、しかも人生を滅茶苦茶にされた男からな」
P「だって春香がプロポーズしたらうまくいくと言ったから…」
春香「私のせいにするんですか!?」
響「あんなの実際にうまくいくわけないに決まっているぞ、たとえ相手が女性でもね」
響「春香は漫画の見すぎだ」
春香「ごめん…っていうか…」
春香「ダメとわかっていながら何で止めなかったの!?」
響「どうせ嫌われるのわかっているから言っても言わなくても同じかなと思ったんだ」
春香「同じじゃないよ、冬馬君、心に傷がついたじゃない!」
響「そう、冬馬は今、心に傷がついている、だから」カチャ
春香「携帯?」
響「さっき北斗に連絡をしておいた、冬馬を慰めるようにって」
響「自分たちより冬馬の身近にいる人物で慰めたほうが効果的だろ?」
響「失敗した責任を北斗に押し付けたのは悪いと思っているけど、これで冬馬の悩みを解決できればいい」
響「本音を聞くために敢えてプロポーズというショックなことを与えさせたんだ」
響「ちょっと荒療治だけど、これで冬馬の本音がわかればいいな」
P「振られた俺はどうなんだよ…」
千早「我那覇さん…、なんだかいつもと全然違うみたい」
響「自分、完璧だからな」
千早「答えになってないわ」
P「無視かよ…」
北斗「火に油を注ぐような真似をするなんて…、あの人は…」
315P「大丈夫ですか?」
北斗「ええ…まあ、この件を解決できそうなのは俺たちしかいないから…」
北斗「これも冬馬のためです」
ピンポーン
ガチャ
北斗「冬馬、俺だ」
冬馬「帰ってくれ」
バタン
北斗「…」
北斗「冬馬、教えてくれ、何をそんなにふさぎこんでいるんだ」
北斗「お前が悲しんでいる原因が知りたいんだ」
冬馬「今は誰にも会いたくないんだ、帰ってくれ…」
北斗「くっ…、こんなに後ろ向きな冬馬ははじめて見た」
冬馬「早く帰ってくれ」
北斗「お腹の子のことが不安なのか、なら心配はない」
北斗「生活費とかは事務所がカバーをしてくれる、安心して育児に取り込めるぞ」
冬馬「違う! 俺がそんなんで悩んでいるわけがないだろ!」
北斗「じゃあ何をそんなに深く悩んでいるんだ?」
冬馬「…」
冬馬「…俺、体の大体は男だろ」
北斗「ああ」
冬馬「男なのに子を孕んだんだぞ、気持ち悪いだろ」
冬馬「不気味だろ…、お前らだって逃げ出したいと思っているだろ?」
315P「そんなことはありません、私たちはあなたの気持ちをよく理解して…」
冬馬「嘘をつくな! どこの世界に妊娠する男がいるんだ!」
冬馬「そんな意味不明のことが理解できるのかよ!?」
冬馬「お前らに俺の苦しみがわかるもんか!」
315P「それは…」
北斗「ああ、わからない」
315P「北斗さん!?」
冬馬「へっ…、だろうな…、わかるわけないもんな…普通ありえないからな」
北斗「ああ、だから教えて欲しい」
冬馬「何?」
北斗「お前のことをもっと知りたいんだ、教えてくれ、お前の痛みを」
北斗「なんでも一人で全部抱えるのは間違っている」
北斗「今まで黙っていたのは、自分と同じ境遇の人間がいないから話しても無駄だと思ったから」
北斗「違うか?」
冬馬「…」
北斗「もちろん俺はそんな境遇にあってないからお前の気持ちがわからない」
北斗「だからこそ知りたい、お前の苦しみを」
北斗「全部話してくれ、一つ残らず俺たちが受け止めてやる」
北斗「前にも言っただろ、俺たちを頼ってくれって」
ガチャ
冬馬「北斗…」
しばらくして
315P「なんとか説得はできましたね」
北斗「まだ完全じゃないですけどね、でも前より心が開いた気がしますよ」
315P「冬馬さんの本音を聞くためにお腹の子という話をして鎌をかけて」
315P「その後本音を聞き出す、結構うまくいきましたね」
北斗「ええ、俺もうまく言ったと思っています」
315P「それにしてもすごいですね、何でも冬馬さんのことを知ってるなんて」
315P「自分なんてどう接してよかったのか…プロデューサー失格ですね…」
北斗「いや、プロデューサーもうまくやってますよ、俺が言うから間違いありません」
315P「その気持ちだけでも嬉しいです」
北斗「そうですか」
響「あ、メールだ」
春香「誰から?」
響「北斗から」
春香「さっき言いそびれたけどメアドいつ交換したの?」
響「ずっと前から交換してたぞ、北斗のほかにもジュピターやディアリースターズ全員とかも持ってるぞ」
春香「いつの間に…」
響「どうやら説得はできたみたいだな」
響「だけどまだ第一段階…、ここからが本当の戦いだ…」
書いてて気分が…きょうはここまで
豆知識4
かたつむりは両性具有
閲覧注意
いまさらだけど>>1に閲覧注意とつけるべきだった
2ヵ月後
北斗「冬馬、もうそろそろ外に出ないか?」
北斗「いつまで中に閉じこもっていたら体に毒だ、引きこもりなんてかっこ悪いだろ?」
冬馬「だけどこの姿でどうやって出るというんだ…」
冬馬「間違いなく注目されるぜ」
北斗「それもそうだけど…」
冬馬「………そうだ!」
冬馬「なあ北斗、頼みがあるんだ」
北斗「頼み?」
冬馬「ああ、これから言うものを連れてきて欲しい」
冬馬「外にでるために必要なんだ」
北斗「まあ、いいが…」
冬馬「ありがとうそれじゃあ…」
北斗「ほら、言われたものを持ってきたぞ」
冬馬「よし、それじゃあ着替えてくるから待っててくれ」
北斗「本当に着るのか?」
冬馬「怪しまれずに外に出るにはこれしかないだろ」
北斗「確かにそうだけどさ…」
北斗「だけどだからと言ってこれはお前のプライドに傷がつくんじゃないのか?」
冬馬「もうプライドなんて微塵も残ってねぇよ」
北斗「…スマン」
冬馬「謝るなよ、まあ待ってろって」
10分後
冬馬(女装)「待たせたな」
北斗「」
冬馬(女装)「どうした、固まっちまって?」
北斗「いや、別に」
冬馬(女装)「まさか俺に惚れたんじゃないだろうな?」
北斗「…えっ?」
冬馬(女装)「まあ冗談はさておいて、行こうか、外に」
北斗「あ、ああ…」
北斗(冬馬ってこんな奴だったか?)
北斗(いやそれ以前にこんなに女装が似合ってたか、前おふざけでメイド服着た時より女っぽいぞ?)
冬馬(女装)「~♪」
北斗「あまり無理するなよ」
北斗「後、下手に行動してばれない様にするんだぞ、俺も変装しているから」
冬馬「わかってる」
北斗(何十日かけて俺とプロデューサーで説得したりして調子を取り戻させた)
北斗(取り戻させたはず…だけどなんだか変だ、冬馬の性格はあんなに気持ち悪くない)
冬馬「なあ、ボーッとしてどうしたんだ?」
北斗「ああ、すまない、ちょっと考え事をしてた」
北斗「そうだ、どこか行きたいところでもあるか?」
冬馬「それじゃあ映画が良いな」
北斗「映画か、それなら負担がかからないし安心だな」
北斗「それじゃあ冬馬の好きなアクション系でも見るか」
冬馬「ああ、頼むぜ」
2時間後
冬馬「最高に面白かったぜ、『米国隊長 冬の兵士』」
北斗「気に入ってくれてよかった、…にしてもいい笑顔だな」
冬馬「そうか?」
北斗「ああ、ここ最近見せなかった笑顔だ」
冬馬「そんなに褒めるなよ、照れるぜ///」
北斗「…」
北斗(喜んでくれて嬉しいが、これは俺の知ってる冬馬じゃない)
北斗(どうなっているんだ、妊娠が原因か?)
美希「あの~」
冬馬「えっ?」
美希「まさかとは思うけど…いやそんな…まさか…そんなまさか…」
貴音「落ち着いてください、美希…、ほらよくみなさい、こんなに趣のある妊婦が…」
冬馬「よお、お前たちも映画を見ていたのか」
美希「」
貴音「」
響「…」
北斗「チャオ☆ 765プロのエンジェルちゃんたち☆」
美希「一瞬本当に女性と思ってしまったの…」
貴音「間近で見ない限りわからないですね、見事な変装です」
冬馬「お前たちも映画を見に来たのか?」
美希「うん、今日ミキが出ている映画が公開したから見に来たんだ」
冬馬「えっ、そうだったのか?」
美希「うん、この映画だよ」
冬馬「この…えーと、何だ? ゲーム?」
美希「人間が人間を騙しあって金を手に入れるゲームの映画なの!」
冬馬「物騒だな…」
美希「まあね、でも面白かったの!」
貴音「美希の性格が豹変していました…、人間、あそこまで変われるものなんですね…」
響「…」
美希「それにしてもお腹、大きいね」
冬馬「6ヶ月半くらいなんだ」
美希「6ヶ月半のお腹には見えないの」
冬馬「双子が入っているんだ、すごいだろ」
貴音「とても神秘的ですね」
冬馬「あっ」
北斗「どうかしたのかい?」
冬馬「いま動いた」
北斗「…!?」
美希「え!? 動いた!? ちょっと触らせて!」
貴音「興味深い…、失礼致します!」
美希「…本当だ、動いているの、生命の神秘なの!」
北斗「…」
冬馬「あと4ヶ月くらいだぜ、もし産まれたら見せてやるよ」
北斗「………………………………………………………」
響「一瞬冬馬がどこか遠くに行きそうだと思ったか?」ボソッ
北斗「!?」
美希「名前とか決めてあるの?」
冬馬「男なら隼、女なら…」
北斗「ねぇ響ちゃん、大事な話があるんだけど?」
響「話か?」
美希「何? なんかいやらしい事でもするの?」
北斗「ははっ、俺はそんなことはしないよ」
響「それじゃあ二人は冬馬と適当に話してくれ」
美希「あ、ちょっと…」
響「じゃっ」スタスタ
北斗「それじゃあ向こうで話そうか☆」スタスタ
美希「行っちゃったの…」
貴音「響の様子が前からおかしいですね…、響はあんなに冷静沈着ではなかったはずですが…」
美希「そういえばジュピター三人目はどうしたの?」
冬馬「翔太か? 北斗の話だと普通に学校に行ってると聞いたが…」
北斗「…何だって?」
響「だからもう冬馬は今のままじゃ男のような感じには戻れないといったんだ」
響「このままだと心も体も本物の女になるな、間違いなく」
北斗「そんな馬鹿な…、何を根拠に…」
響「一目でわかった、女装をしててもあの容姿、男らしさが感じられない」
響「時間がたつにつれ女性の体になってきてる」
北斗「何でなんだ?」
響「前例がないから推測でしかないけど、女性ホルモンの過剰分泌のせいかもしれない」
北斗「ホルモンだって?」
響「ああ、男性ホルモンが多いほど男性らしく、女性ホルモンが多いほど女性らしくなるのはわかってるな?」
響「例えば秋月涼は生まれつき女性ホルモンが多いからあんなことになっている、わかりやすいだろ」
響「そして冬馬の場合は…、母性に目覚めたこと、子を身ごもったことかな?」
響「そのせいで女っぽくなっているんだ」
北斗「たったそれだけで変わるものなのか?」
響「男か女かわからない不安定な状態から一気に偏ったからな」
響「急に変わっても不思議じゃない、前例ないけど」
北斗「性別不明だって、そんな馬鹿な!?」
北斗「俺たちと一緒に活動した冬馬はただ下半身に余計なものがついただけでれっきとした男のはずだ!」
北斗「少なくとも女性らしさは全く見当たらなかった、強いて言えば家事が得意なくらいだ」
響「本当に冬馬の性別は男として固定されていたのかな?」
北斗「え?」
響「女性が男として育てられたら男らしくなるし男性が女として特訓させたら頭がイかれて女と思い込む」
響「どっちも属さない性別不明の人間が男として育てられたら男だと割り切るのが筋だろ」
響「それにさっきも言っただろ、冬馬には性別の概念がない」
北斗「概念がない?」
響「例えばナメック星人の性別はなんだ?」
北斗「そりゃ男…いや、卵を産むから…あれ?」
響「今の冬馬はまさにそれだ、冬馬の性別はナメック星人と同じなんだ」
響「ただ違うのは環境によって男や女になりかねないということだ」
響「妊娠前が男っぽかったのは今まで男として育てられたから性格や体格が男っぽくなったからだ」
北斗「なんとかならないのか!?」
響「男に戻す方法なら子供が生まれた後に男性ホルモンを投与すれば戻るぞ」
北斗「それだけで戻るのか?」
響「ああ、意外と簡単だろ、まあ費用とかかかるけど」
北斗「そうなのか、それじゃあそれまで俺たちにできることは?」
響「…なんで冬馬をそこまで助けようとするんだ?」
響「お前はこの問題とは関係ないはずだぞ、友達だからとか?」
北斗「冬馬は夢を失った俺をアイドルという新たな道に導かせてくれた大事な仲間だ」
北斗「仲間を助けるのは当然のことだ、違うか?」
響「ふ~ん、冬馬もいい仲間を持ったんだな」
響「だけど男に戻るか女になるのか、最終的に決めるのは冬馬だ」
響「北斗は冬馬が男に戻って欲しいと思いたいなら、それは北斗のエゴだ」
北斗「エゴだって?」
響「冬馬は自分は女として生きると言ったわけじゃないんだろ」
北斗「ああ」
響「だったら先走る必要はないんじゃないのか、今あせってもお前が疲れるだけだ」
響「少なくとも冬馬は男としてお前といたいはずだ」
響「今は冬馬と楽しい時間をすごす、それが二人にとって最善の策だと思うぞ」
北斗「…」
響「もう一度いうが、男女どっちになるのか最終的に決めるのは冬馬だ」
響「そのことを覚えておくんだぞ」
北斗「…ああ」
響「質問は?」
北斗「二つある」
響「一つ目は何だ?」
北斗「何でそんなにホルモンや性別とかそういう事情に詳しいんだ?」
響「あ~~~~~~~……………」
響(…!)
響「真美たちから教えてもらったんだ、ほら、医者の娘だからって」
北斗「本当に?」
響「本当だ、自分は嘘をつかない、はい二つ目は?」
北斗「俺たちより冬馬のことよく知ってそうだけど、どうしてなんだい?」
北斗「間近で見たわけではないのに冬馬の身体的事情に詳しすぎる…」
響「ノーコメント」
北斗「…」
響「いずれわかるさ…いずれな…」
響「もうこの話は終了…ハイハイ、やめやめ」
北斗「…」
冬馬「あ、戻ってきた」
美希「二人で何を話していたの?」
北斗「ちょっと世間話をね…」
美希「大丈夫? 何か変なことされなかった?」
北斗「あはは、ひどいな~…」
響「…ほら、美希、貴音、そろそろ行くぞ!」
美希「うん、それじゃあね」
貴音「それでは後程」
冬馬「ああ、じゃあな」
北斗「チャオ…」
北斗宅
北斗「…という訳で今話した内容が冬馬の現状です」
北斗「冬馬のしぐさとかを見るとだんだん女性らしくなっていきました」
北斗「本人には自覚はまだありませんがこのままだと女性になるのも時間の問題かと」
北斗「はい、それでプロデューサーさんはどう思いますか?」
北斗「えっ……………?」
北斗「そうですか、本人の意思しだいということですね」
北斗「わかりました、それじゃあ」ピッ
北斗「…ちょっとお節介すぎたな」
北斗「まだ女らしいだけで女として生きると言ったわけではない」
北斗「響ちゃんやプロデューサーさんの言うとおりどうやら杞憂だったようだ、思いつめた俺がなんか馬鹿みたいだ」
北斗「ふぅ…、安心してたらなんだか眠くなったな…寝るか」
北斗(あれからどれくらいたったんだろう)
北斗(俺はプロデューサーと女装した冬馬の3人で出かけたり遊びに行ったりした)
北斗(少しでも冬馬の気が楽になれるように、一生懸命気を使ってね)
冬馬(女装)「次はあっちに行こうぜ!」
315P「いいですけど無理をしてはいけませんよ」
冬馬(女装)「わかってるって!」
北斗(以前のような内気な冬馬は見えなくなった、もう大丈夫だな)
北斗(後は無事に何事もなく子供が産まれればいいだけだ)
北斗(ちなみに翔太は置いてきた、中学生には刺激が強すぎる)
冬馬(女装)「よし、今日の晩飯ゲットだぜ!」
北斗「手伝わなくていいのか?」
冬馬(女装)「家に運ぶくらい一人でできるぜ」
冬馬(女装)「それに何度も気を使わせちゃ悪いからな」
北斗「遠慮しなくてもいいんだぞ」
冬馬(女装)「まあまあ、北斗だって用事とかあるだろ?」
冬馬(女装)「俺のことはいいからさ」
北斗「…それじゃあ、お言葉に甘えることにしよう」
北斗「何かあったら連絡するんだぞ」
冬馬(女装)「おう!」
冬馬(女装)「さて、後はそのまま帰るだけだな」
パシャ
冬馬(女装)「早く帰って作らないとな…ん?」
男A「どこだ…どこいったんだ?」
冬馬(女装)「どうかしましたか?」
男A「実はめがねを落としまして…それで今こうやって探しているのですが…」
男A「困ったな…、これじゃ一寸先の前も見えない…」
冬馬(女装)「それじゃあ手伝います」
男A「本当ですか!? ありがとうございます!」
パシャ
冬馬(女装)「メガネメガネ…」
男A「…」スウ…
ズルッ
冬馬「うわっ!?(かつらが!)」
パシャ
男A「うわわっ、な…なんですかァこれ!?」
冬馬(女装)「いや、なんでもない…です」ササッ
男A「そ、そうですか…?」
冬馬(女装)(間違えて引っ張ったのか…びっくりさせやがって)
男A「あ、眼鏡がありました!」
冬馬(女装)「見つかってよかったですね」
男A「はい、すみません手伝ってくれて」
冬馬(女装)「いいんですよ、困ったときはお互い様ですよ」
男A「どうもありがとうございました、それじゃあ」
冬馬(女装)「それじゃあ」
冬馬(女装)「あ~、びっくりした…だけど見つかってよかったぜ」
男A「おい、うまくいったか?」
男B「ああ、ちゃんとこのカメラに収めたぜ」
男A「それにしてもまさか天ヶ瀬冬馬が妊娠していたとはな…」
男A「ずっと家の前で張り込んたときに何度も女の姿を見たときは彼女かと思ったが…」
男A「女装でしかも妊娠と来たものだ!」
男B「電撃引退の理由が妊娠なんて大スクープじゃないか」
男B「この写真を載せればアイドル界に激震が起きるな」
男A「しかし男でも妊娠するのかね?」
男B「謎だよな、まあそんなことはどうでもいいか」
男B「さて、早速これを記事に載せるか!」
数日後
春香「おはようございま~す!」
ザワザワザワザワ
春香「どうかしましたか?」
律子「大変なのよ、これ見て!」
小鳥「この記事のこのページ!」
春香「え、これ?」
小鳥「そうそう、ここよここ!」
春香「これって…」
『天ヶ瀬冬馬の引退の理由はなんと妊娠!』
『元伝説の男性アイドルに明かされる衝撃の真実!』
春香「どういう…こと?」
小鳥「冬馬君が妊娠してるって全国の人にばれたんですよ!」
律子「まずいわ…、天ヶ瀬はきっと突然の事態に混乱しているはず…」
春香「一体どうしてこんなことに…」
P「…」
記者A「冬馬さんは本当は女性だったんですか!?」
冬馬父「お引取り願います!」
記者B「冬馬さんを妊娠させた相手は誰ですか?」
315P「帰ってください!」
記者C「男性なのに妊娠したと言うことは元は女性とか?」
315P「それだけはありえません!」
冬馬「どうして…どうしてこんなことに…」ガタガタ
今日はここまで
豆知識その5
ホルモン注射は肝臓を傷める
響「………」ペラッ
春香「一大事ですよ、一大事!」
小鳥「これ絶対まずいわ、とってもまずい!」
響「………」ペラッ
千早「スキャンダルとかそういうレベルじゃないわね…」
千早「アイドルが妊娠というだけでもニュースなのに…、男が妊娠なんて…」
響「………」ペラッ
律子「うちのプロデューサーが天ヶ瀬を孕ませたのかが知られるのも時間の問題ね」
P「スマン、おれのせいで…」
響「………」ペラッ
春香「ど、どうしましょう!?」
律子「とりあえずこのことを社長に連絡をしないと」
律子「いつこっちに火の手が上がってきてもおかしくないですからね」
律子「小鳥さん!」
小鳥「はい、今すぐ連絡します!」
響「…」
春香「冬馬君、大丈夫かな?」
千早「こんな騒ぎじゃ今頃家の中で閉じこもっているわね…」
響「…」
響「…」
響「…」
響「…」
響「…」
響「…」
響「…」
響「…………………………………」
バタン
記者A「ちぇっ…、結局話を聞けなかったな」
記者B「せっかくの特ダネだというのに…、これじゃあ骨折り損だぜ」
記者C「男性アイドルが妊娠なんて前代未聞の大ニュースだというのに…」
記者B「それでこれからどうする?」
記者C「このまま待っていても絶対に出ないだろ」
記者C「きっとほとぼりが冷めるまで外に出る事はないと思うぜ」
記者A「それもそうだな、それじゃあ俺たちも日を改めて帰るか」
記者A「こんなところにいつまでもいたら凍え死んでしまうからな」
記者B「そうしよそうしよ」
響「…」
響「この事態を予想はしたりしていたけど、深刻すぎるな…」
響「こんな騒ぎじゃ下手したら冬馬の身が持たない」
響「………」
「あれ?」
響「ん?」
北斗「響ちゃん?」
響「北斗か、ここに来たという事はもう事態を把握しているんだな?」
北斗「ああ…」
北斗「ネットを見て冬馬のことが記事になっていたところを見たんだ」
北斗「この携帯のページを見てくれ、twitterからの反応だ」
響「どれどれ?」
響「『オカマだったのか』『悪魔の子』『産まれてくる子供がかわいそう』」
響「『リアルナメック星人』『ふ○な○マジキモイ』」
響「こいつら…!」
響「冬馬が何をしたというんだ!」
響「今一番辛いのはあの子だというのに、さらに追い討ちをかけるつもりか!?」
北斗「同じ日本人とは思えない…」
北斗「俺はこの書き込みを見て、いてもたってもいられなくなって様子を見に来たんだ」
響「…」
北斗「俺はこれから冬馬と話をしに行ってくるつもりだ」
北斗「きっとあいつ、今とても傷ついてるはず…」
響「ああ、自分ももうこの展開は正直飽きた…」
響「今回は自分も直接話すことにする、もう冬馬が悲しむのは懲り懲りだ!」
響「行くぞ北斗、冬馬のところに、今なら家の前に誰もいないからチャンスだ」
北斗「…」
響「どうかしたか?」
北斗「響ちゃん、君と冬馬とはどういう関係だい?」
響「関係?」
北斗「君は俺を影からサポートしてくれたり、両性具有に異常に詳しかったり」
北斗「俺が知らない冬馬の複雑な心情をよく知っている」
北斗「冬馬の体を実際に直接見たわけではないのに直接見た俺たちより詳しい」
響「…」
北斗「君はもしかして前から冬馬が両性具有だってことを知っていたのかい?」
北斗「その知識も本当は自分が調べた知識じゃないのか?」
響「…ああ、そうだ、冬馬が妊娠するずっと前からな」
北斗「何で君がそんなことを…?」
響「そんなことは後でいい、今は冬馬が大事だ」
響「理由が知りたかったら当ててみな」
北斗「…」
ここまで
響「…ま、どうせ行っても信じてもらえないだろ、馬鹿馬鹿しいからな」
北斗「そんなことない、君は嘘をつくような女性ではないはずだ」
響「そう言われるとなんか嬉しいぞ」
響「まあいつか話すからそれまでは後にして欲しい」
北斗「…わかった」
響「しかし…、面倒なことになりそうだ」
響「流産してなきゃ良いけど…」
響「冬馬ァ、いるか?」
315P「しーっ、今眠っています」
響「眠っている?」
315P「はい、泣き疲れてぐっすりと」
北斗「ひどい部屋の散らかりようだ…、皿やコップ、フィギュアまで割れている」
北斗「こんな暴れ方、冬馬らしくない」
響「大体の把握はできた、それで冬馬は何て言ってたんだ?」
315P「言葉がほとんど泣き声と混じっていて…聞き取れた部分だけを申し上げると」
315P「ずっとこうなることを恐れていたと…」
響「ふ~ん」
響「ちょっと様子を見させてもらうぞ、大丈夫、起こさないようにするから」
315P「はぁ…」
冬馬父「見るだけですよ…」
ガチャ
冬馬「…」スースー
響「かわいそうに…顔が涙の跡だらけだ…」
北斗「………彼女は?」
響「見てわからなかったか?冬馬だ」
北斗「…は?」
冬馬「…」スースー
響「可愛そうに…本当によく耐えたね…」
北斗「えっ…え?いつの間に…こんな…え?」
響「ずっと一緒だったのに気づかなかったのか、まあ変装していたから違和感が感じられなかっただけかもな」
北斗「今の冬馬の状態は…一体?」
響「ちょっと外にでてくれ、調べるから」
北斗「え!?あ、ああ…」
バタン
北斗「…」
北斗(あれ? よく考えたら何で外で待っているんだ?)
北斗(いやそれ以前に響ちゃんは部屋の中で何をしているんだ?)
北斗(そもそもどうして冬馬の仲間である俺が追い出されているんだ?)
北斗(納得がいかない、ここは俺も行くべきだ!)
ガチャッ
北斗「響ちゃん、やっぱり俺も…」
北斗「…っ!?」
響「おい、誰が開けていいと言った!?」
北斗「あ…ああっ…」
北斗「うっ…」
バタン
響「ああもう、ややこしい事がさらにややこしくなった…」
響「耐えられるわけないだろ、こんなものを見たら…」
北斗(何だあれ…、女性の体に男のアレが付いた体だった…)
北斗(まさか…あれが上級者向けの同人誌に載ってある本物の○○○りというものか?)
北斗(そういえば今まで冬馬のところを直接は見たことがなかった…)
北斗(いままでずっと隠していたり避けられたりしたけど…)
北斗(あんな風になっていたのか…なんか気持ちがとても…)
響「悪いと思ったか?」
北斗「はっ!?」クルッ
響「当然の反応だ、あんなもの現実で見たらとても直視できるものじゃない」
北斗「何であんな…その…服とかを」ワナワナ
響「直接見ないとわからなかったから脱がしただけだ」
北斗「何でそんなに落ち着いて…」ワナワナ
響「むしろ何でそんなに動揺している、男の癖に気が弱いんだな、だらしない」
響「というかさっき待ってろと言ったのに入ってくるなんてどういう神経しているんだ全く…」
北斗「ごめん…」
響「そうだ、今頃起きた頃だから会ってみないか?」
北斗「…」
響「嫌そうだな」
北斗「…今あっても、どう接したらいいんだ…」
北斗「正直会いたくない…、会ったら返って傷をつけてしまいそうで…」
響「向こうも似たような気持ちだと思うな、変わりすぎた姿をメンバーに見られたくないだろうからな」
響「だがここで逃げたら一生後悔する、今機会を逃したらこれからずっと会おうとする意思すら起きなくなるぞ」
北斗「…何でそんな無理矢理人に勧めようとするんだい?」
響「ん?」
北斗「俺も、冬馬もお互い会うのが辛いんだ、だからこのまま会わないで放っておいてくれてもいいじゃないか」
響「だがあいつの本音や気持ちも知りたいんだろ?」
北斗「そりゃ仲間だから知りたいけど…」
響「…じゃあ会わなきゃいいんだな、ドア越しとかで話を聞くだけなら問題ないか?」
北斗「…盗み聞きは趣味じゃないけど…、あいつの気持ちを知るためなら…」
響「決まりだな」
コンコン
カエレ
ガチャ
響「おじゃまします」
冬馬「帰れと言っただろ…」
響「硬いこと言うなって、自分とお前の仲じゃないか」
冬馬「それほど仲良かったり交流したりした覚えはないぞ」
響「そうだっけ?まあ、そんなのどうでもいいや」
冬馬「…」
響「今とても辛いんだな、今までとは比べ物にならないほど」
冬馬「…こんな気持ちになるの何度目かな…」
冬馬「今まで母親死んだり裏切られたり身ごもったり辛い目に遭いまくっても耐えてきたが…」
冬馬「今回だけはもうどうしようもない…、とても耐えられない、疲れた…、」
冬馬「もう放っておいてくれ…、誰にも会いたくない…」
冬馬「ずっとこの中に閉じこもってる…、ほとぼりが冷めてもずっと引きこもってる…」
響「それじゃあずっと逃げ続けるのか?腹の子はどうするんだ?」
冬馬「知ったことじゃない…、もともと勝手にできて勝手に俺の腹で成長しているんだ」
冬馬「こいつらが生きようが死のうが俺の勝手だろ…」
響(かなり追い詰められてるな)
冬馬「もう帰ってくれ…、頼むから」
響「…はぁ、口では他人事のように言っているが実際はどうなんだろうな」
冬馬「何?」
コツッ
冬馬「………っ!?」
冬馬「…何だ、急に腹が…」
響「訴えてるんだよ、お前に生きて欲しいって」
響「感じるだろ、お前より遥かに幼いこいつらでも生きようとしているんだ」
響「年上のお前が弱気でどうする?かっこ悪いぞ」
冬馬「…確かにおれ自身も弱気になっちゃいけないと思っている…」
冬馬「だがよ、だとしたらこれから一体どうしたらいいんだ?」
冬馬「周りが俺を変な目で見てるんだぞ、どう逃げればいいんだよ」
響「逃げても無駄だったら、前に進むしかない」
響「周りにどんな罵声や非難が飛ぼうと無視をしろ、関わるだけで時間の無駄だ」
響「もしインタビューとか受けてもシカトするんだ」
響「今はこの子達を大切にすることが先決だ、いいか」
冬馬「ああ、わかったよ…」
響「よし」
冬馬「だが何で俺にそこまで気にかけるんだ?」
冬馬「俺はお前と何の接点もないぞ」
響「…少し昔話をしようか」
冬馬「…?」
響「昔、自分のところに家族ができたんだ、そりゃもうとても喜んだ」
響「だけど大切な家族が両性具有だったことを知り、一瞬拒絶反応が出てしまったんだ」
響「だがそれと同時に大切な家族に対して凄まじい罪悪感と嫌悪感を味わった」
響「大切な家族を化け物みたいに見てしまった自分に凄く腹が立ったんだ」
響「だから自分はその家族を大切に守ろうと、育てようとしたんだけど、ある日を栄えにもう会えなくなっちゃってさ…」
響「悲しくて、悔しくて…自分の力のなさに嘆いたよ」
響「だから自分は決めたんだ、たっぷりと両性具有について、長い時間かけて勉強して」
響「もう一度大切な家族を救ってやろうってね」
冬馬「我那覇…まさかお前…」
冬馬(…いやそんな非現実的なことがあるわけない…、考えすぎか…)
響「それじゃあ帰るから、何かあったら電話よろしく」
冬馬(…)
北斗(…全く状況がわからない…、話を聞けばわかると思っていたのに…)
響「…で、話を盗聴した感想は?」
北斗「…」
響「さっきより顔が強張ったな、笑顔はどうした?チャオ☆も最近聞いてないぞ」
北斗「今はそんなことを言ってる場合じゃ…」
響「危機感を持つのはいいけどだからといってお前がそこまで心配する必要はないと思うんだ」
響「だいたい王子様がそんな悲しそうな顔してたらエンジェルちゃん達が心配するぞ」
北斗「…」
響「何か言いたそうだな」
北斗「………もし仮に俺が冬馬に会うとしたらどうしたらいいんだ?」
響「アイツのプロデューサーに頼んで冬馬の部屋から刃物や尖っているもの、鈍器にロープとかは全部片付けておいたから」
響「もし会うんだったらそれらを部屋の中に持ち込まないようにしてくれ、今は落ち着いているけど念のためにな」
響「後、そうだな…あいつの喜ぶものでも持ってったらどうだ?」
響「あっ、でも食べ物に関しては糖分は控えたほうがいい、甘党のあいつにはちょっと辛いか」
北斗「…わかった」
響「じゃ」
北斗「…」
北斗(冬馬のことをよくわかればわかるほど、君のことがわからなくなってくるよ…)
冬馬「…」
冬馬「あっ…また蹴った…」
冬馬「…訴えているのか、俺に?」
冬馬「…俺がこんなに死にたくなるほど追い詰められているのに、お前たちは俺に生きろと思っているんだな」
冬馬「まさかあいつらだけじゃなくてこんなに身近に俺のことを大切に思っているやつらがいるなんて…」
冬馬「…わかった、アイドルはみんなに夢を与えるという役目があるんだ」
冬馬「お前たちに夢を与えてやるよ、これが俺の最後のアイドル業だ」
一週間後
春香「見てください!twitterが冬馬君の話題でとんでもないことになってますよ!」
千早「大多数の人が彼の味方になっているみたい、彼自身が一番辛いとか同情してくれているわ」
千早「でも叩いてる人もひどいわね、『リアルふ○○りはNG』だとか」
響「放っておけ、あんなの無視するのに限る」
響「なあハム蔵?」
ハム蔵「ヂュゥ…」
P「ああ、響の言うとおりだ…こんなただ吼えているだけの連中、相手にする必要はない」
春香「それにしてもネットでこれならテレビはどうなっているんだろう?」
千早「どこかの局が変な情報とか流さなきゃいいけど…」ピッ
翔太『会場のお兄さんお姉さんたち~!』
翔太『僕のために来てくれてありがとう!みんなだ~い好き!』
春香「あっ、翔太君だ」
千早「最近いつも一人ね」
春香「仕方ないよ、状況が状況だし…」
春香「…そういえば彼、冬馬君と最近会ってるの?」
響「仕事に学校、そして冬馬の気持ちを考えて会ってはいないらしい、本当は一番会いたがっているがな」
千早「二人が苦労している間、ああやって一人でジュピターを支えているのね」
P「内面は平気そうだけど、あいつもきっと苦労しているんだな…」
千早「そういえば彼らはどうしているのかしら?」
北斗「外の様子は大丈夫だ、誰もいない」
冬馬「そうか…誰もいないのか…」
北斗「…外に出るか?」
冬馬「…」
北斗「怖いのか?」
冬馬「ああ…、やっぱ正直怖い…」
冬馬「おかしい…、こういうパパラッチとか周囲の目とか慣れているはずなのに…」
冬馬「体が…震えて…」グスン
北斗「…」
響『えっ?部屋の中に閉じこもっている冬馬を外に出す方法?』
北斗「ああ、思っていた以上に深刻で…」
響『精神疾患を患っている人を無理矢理外に出すのは逆効果だ』
響『まずは冬馬の心を開かせることだ』
響『…と言ったけど自分に電話したと言うことはそれができないんだな』
北斗「まあ…ね…」
響『あいつに必要なのは何かに立ち向かおうとする勇気だ、まず勇気を与えるきっかけを作らないと』
響『そうだな…、twitterとかさせて自分の状況をみんなに敢えて教えるってのはどうだ?』
北斗「twitter?」
響『twitterで自分の状況を世界中の人に伝えて』
響『それを見た人たちが冬馬に応援メッセージを送るという作戦だ』
北斗「それってちょっと危険なんじゃないのかな?」
響『まあ高確率で心無い人たちからの罵声を浴びさせられるだろうな』
響『だが全員が全員ではないだろ?世の中悪い人ばかりじゃない』
響『それにそういう罵声が飛んできたらなんとかするんだ』
北斗「なんとかってそんなどうやって?」
響『冬馬のtwitterアカウントのパスワードをお前が知っておいて』
響『冬馬がtwitterを見る前にお前が先に見て、変なやつがツイートしたらそれをブロックする』
響『つまり不純物を取り除いて、きれいなものだけを残すようにする、冬馬はそれを見て勇気をもらえるという作戦だ』
北斗「本当に効果があるのか?」
響『このまま何もしないよりましだ、そもそもたくさんの人から応援してくれるというのは想像以上にかなり元気をもらえるんだぞ』
響『千里の道も一歩からだ、まずは試してみるんだ!』
響『あっ、ブロック作業は一人じゃ大変だろ?自分も手伝うから』
北斗「う、うん…」
冬馬「twitter?」
北斗「ああ、自分の状態をたくさんの人に知ってもらうんだ」
冬馬「嫌に決まってんだろ…きっと化け物呼ばわりするに決まってる…」
冬馬「そうなるのを避けるために前のアカウント削除したと言うのに…」
北斗「ちゃんと事情を説明すれば、きっとみんなからもわかってもらえるさ」
北斗「何事もやってみないとわからない、違うか?」
冬馬「…」
北斗「まさかやらなくてもわかると言う言葉だけで片付けるつもりか?」
冬馬「…だがよ」
北斗「今ここで何かしないと、一生何もできないまま過ごすことになるぞ!」
冬馬「…わかったよ」
冬馬「…書いたぜ、twitterに俺の本音、状態、今までのエピソード…餓鬼の頃から抱いていたコンプレックス…その他もろもろ」
北斗「十分だ、後はツイートが来るのを待つだけだ」
冬馬「だな」
北斗「言われた通りにやったけど…」
響『ご苦労さん、次は自分たちの番だ』
北斗「何をするんだい?」
響『手助けをするんだ』
北斗「手助け?」
響『後でわかるさ』
響「春香、ちょっとtwitterで冬馬って検索してみてくれ」
春香「twitter?」ポチッ
春香「あっ、twitterに冬馬君の新しいアカウントがある」
千早「本当だわ…彼の本音とか色々書いてあるわね…」
P「俺のせいで…こんな辛い思いをしていたなんて…」
春香「…………うぅ………」グスン
千早「話を聞いただけの言葉と本人の言葉とでは話の重みが違うわね…」
響「春香、フォローとリツイートしてくれ」
響「後、このことをみんなに伝えて欲しいんだ」
春香「うん…わかった…」グスン
響「さて、後はあっちのやり方しだいだな」
北斗「…思った以上に激励のツイートが多いな」
北斗「765プロの女の子たちもたくさんフォローしてくれてるよ、心強いな」
北斗「…案の定悪口を言いに来たやつが出てきたな」
北斗「ふ○○りとか化け物、非童貞非処女…不愉快だな」
北斗「こういうのはブロックだ、全くマナーのかけらもないな」
北斗「人を傷つけるようなことを言うやつはモテないぞ」カチッ
冬馬「…」
『頑張ってください!』『勇気出して!』『乗り越えていきましょう!応援しています』
『体を大切にしてください!』『諦めたら人の心は死んじゃうんだよ!』『周りに負けないでください!』
冬馬「…」
冬馬「…」グスン
冬馬「…お前たちも見ているか?俺にはこんなに味方がいたんだぜ…」
冬馬「とても心強いぜ…心強い…」
冬馬「…だけど、だからと言って外にでようにも…」
冬馬「…んっ、何だこれ?俺と似たような境遇にあった人からもツイートが来ている」
冬馬「俺だけじゃないのか、こういうことが起きたのって」
冬馬「…なるほどな、そんなことがあったのか…、確かにいつまでも後ろ向きじゃダメだよな」
冬馬「勇気を持って前に進まないといけないよな」
>響「放っておけ、あんなの無視するのに限る」
この台詞から響が関智一(fateのギルガメッシュ)ボイスで再生された
数日後
響「春香達がリツイートしたおかげでたくさんの人が応援のツイートをしてくれたな」
春香「これで元気になってくれたらいいね!」
貴音「声援と言うものは人の心に勇気を与えてくれます」
貴音「きっと彼も勇気を取り戻してくれるでしょう」
真美「これも全部ひびきんのおかげだね!」
亜美「完璧完璧言うけれどまさかここまで完璧だなんて思わなかったよー!」
亜美「正直見直したよ!」
響「当然だ…自分、完璧だからな」
真美「おお!超クールだね、ひびきん!仕事とかでもスタッフから『イメチェンした?』って言われるくらい変わったよね」
亜美「最近本当にカッコいいよね!今までのポンコツキャラが嘘みたいだよ!」
響「ポンコツは余計だぞ」
真美「かっこよさの秘訣は何々教えて?」
響「いずれわかるさ…いずれな…」
真美「む~、もったいぶらないで教えてよ~…」
千早「ねぇ、我那覇さんってあんな感じだったかしら?」ヒソヒソ
千早「あんなに冷静でカッコよかった覚えはないわ、まるで別人みたい」ヒソヒソ
春香「そう?響ちゃんってもともと冷静でカッコよかった気がするけど?」ヒソヒソ
千早「そうだったかしら…、それにしてもちょっと変だとは思わない?口調もちょっとおかしいわ」ヒソヒソ
千早「それに最近『うがーっ!』とか頭抱えて戸惑ったりしたことあった?」ヒソヒソ
春香「そういえば半年以上前から全く見てないね」ヒソヒソ
春香「でも人って結構時間経つと変わるものだから響ちゃんもその間に変わったと思うよ」ヒソヒソ
春香「千早ちゃんだってアメリカから帰ってきた時、大分変わってたじゃん!」ヒソヒソ
千早「あれは…!あれは別よ…」
北斗(冬馬…俺に『来てくれ』たけ書かれたメールをよこして…一体何があったんだ?)
北斗「…ん?」
冬馬「そろそろ来る頃だと思ってた」
北斗「…お前、その姿は…また女装か?」
冬馬「女装とは言えないんじゃないのかな?もうこんなになっちまったから」
冬馬「むしろ男物の服を着たら逆に違和感あるだろ」
北斗「そんなことない、どっちも似合うと思う」
冬馬「ははっ…、嬉しいような悲しいような…それって女物の服着ても似合うということだよな」
北斗「あっ…」
冬馬「まあいいや、どうせどうしようもないことだ」
冬馬「今は先のこと考えようぜ」
北斗「…」
冬馬「で、何でお前をよんだかというと、食材切らしたから買い物に付き合ってくれ、もうすぐタイムセールなんだ」
北斗「…わかった」
冬馬「じゃあ行こうか」
テクテクテク
北斗「…?」チラッ
シーーーーン
北斗「…」
冬馬「どうかしたか?」
北斗「なんでもない、さあ行こう」
冬馬「ああ…」
スーパー
冬馬「えっと、今日は鳥肉のももが安いから…」
ジーッ
冬馬「…なんだ?」クルッ
少女「おねぇちゃん、おなかおっきいね」
冬馬(お、お姉ちゃん…)
少女「なかにあかちゃんいるの?」
冬馬「ああ、ふたりいるんだ」
少女「ふたりもいるの!?すごい!」
少女「それじゃあ家族がふえてとってもたのしくなるね!」
冬馬「そうだな」
少女「あたしももうすぐ家族がふえるんだよ!」
少女「もうすぐお姉ちゃんになるの!」
冬馬「そうか、やったじゃないか」
少女「うん!とってもたのしみ!」
少女「ねぇ、さわってみてもいい?」
冬馬「ああ、ちょっとだけだぞ」
スリスリ
少女「…うごいている、おとがきこえる」
少女「とってもげんきいっぱい…、でもなんだか退屈そう」
少女「きっとこの子たち、はやく外にでたがってるよ」
冬馬「なんでそんなことわかるんだ?」
少女「そう感じる、それに誰だってせまいところにいたらたいくつすぎるよ」
冬馬「確かにそうだな、俺も狭いところにいるのはいやだしな」
少女「だからはやくだしてあげてたくさん遊ばせてよ!」
冬馬「ああ、わかったよ」
ドコイッタノー
少女「あ、お母さんがよんでる!」
少女「それじゃあねお姉ちゃん、無理しないでね!」
冬馬「ああ、ありがとう」
タタタタタタ
冬馬「…そんなにはしゃぐなって、ちゃんと責任持って外に出させるからさ」
冬馬「後少しの辛抱だ、待ってくれよな」
北斗「冬馬、どうかしたのか?
冬馬「いや、なんでもない…ところで言われたものは持ってきたか?」
北斗「これでいいか?」
冬馬「よし、十分だ」
店員「はい、1284円です」
冬馬「1300円で」
店員「16円のおつりです」
アリガトウゴザイマシター
冬馬「じゃあ、帰るか」
北斗「ああ…、だけどその前に」
タタタタタ
スッ…
ガシッ
パパラッチ「!?」ビクッ
北斗「隠し撮りなんて趣味が悪いですよ」
パパラッチ「うっ…」
北斗「変な視線とか感じたと思ったらあなたが原因でしたか」
北斗「もうこんなことをするのはやめてくれませんでしょうか?」ヒョイ
北斗「こういうことをして喜ぶ人はあまりいないと思います?」ピッピッ
北斗「人の嫌がることをしてはいけないのは昔教わったはずだと思いますが」ピピッ
北斗「よし、削除っと…」
パパラッチ「っ…」
北斗「もう近づかないでください、次見かけたら訴えますから」
北斗「自分たちには知り合いに弁護士や警察官もついてますので、もし法廷で会いたかったらそれなりの覚悟をしておいてください」
北斗「そのことをあなたの周りのパパラッチや出版社によく伝えておいてくださいね」
パパラッチ「わ、わかりました…」
北斗「それでは俺はこれで」
北斗「全く…、あんなにコソコソやっていたら目立つに決まっている…」
冬馬「北斗…」
北斗「ん、どうかしたか?」
冬馬「スッゲェかっこよかったぜ!なんか悪を撃退とかヒーローみたいな感じがして!」
冬馬「いつもの北斗とはまた違ったかっこよさが出ていたぜ!」
北斗「ガラにもないことをしたな…そういうなって、ちょっと照れるじゃないか」
冬馬「ああ、すまん…だけど、いつも、守ってくれて、礼を言うぜ」
北斗「ハハッ、そうか、ありがとう」
北斗「それじゃあ、帰ろうか」
冬馬「ああ!」
北斗(何はともあれ、元気を取り戻してくれてよかった)
北斗(冬馬は外に出てから勇気を持ったせいか、あれ以来積極的に外に出るようになった)
北斗(外では思ったほどそれほど注目されなかった、ただの妊婦に見えたせいだろうか)
北斗(以前にも似たような事があった気がする、前と同じことにならなければいいが…)
『天ヶ瀬冬馬、伊集院北斗とお忍びデート!?』
『同性愛者といえるような何かが芸能界で起こっている』
冬馬「…」
北斗「またこのパターンか…、あれほど忠告したのに…懲りないな」
北斗「冬馬、何度も言うように…」
冬馬「わかってる、気にする必要はない…だろ?」
冬馬「こういうのは俺が一番よくわかってるし、俺ももういじけたりするのは疲れた」
冬馬「それに俺には味方がたくさんいるからな、twitterを見てみろよ、俺にこんなに励ましの声を送ってくれる人がいるんだぜ」
冬馬「俺のために応援してくれる人がいるのに肝心の俺が腑抜けになってたら意味ないだろうが」
冬馬「だから前に進むぜ、ゴシップ記事がなんだ!俺はそんなことで屈するほど柔じゃねえ!」
北斗「強くなったな…冬馬」
冬馬「元に戻っただけだぜ」
北斗「いや、前より芯が強くなってる、間違いなく」
冬馬「そうか?」
北斗「ああ」
冬馬「北斗が言うんだったら、きっと強くなったんだろうな」
冬馬「さて、ちょっと出かけるとするか、こんなところで引きこもってちゃ体に毒だしな」
北斗「無理はするなよ、母体に響くから」
冬馬「わかってる」
冬馬「あっ、そうそう、実は俺、ブログを始めたんだ」
北斗「ブログ?」
冬馬「ああ、今まであった出来事とかまとめたりしてな」
冬馬「twitterじゃたくさんの人に伝えるの限界があったからブログでもっと見てもらおうと思ったんだけどさ…」
冬馬「アクセス数がしょっぱなからもう万を超えたんだぜ!流石にびっくりしたぜ!いきなり万なんてありえるか普通!」
冬馬「コメントも全部俺に気遣ってくれていてよ!俺もう嬉しくてなきそうになったぜ!」
冬馬「それで…!」
北斗「…」グスン
冬馬「どうかしたのか北斗…、泣いているのか??」
北斗「…いや、ちょっと嬉しくてな」
北斗「ようやくいつもの明るくて元気なお前に戻ってくれて…」
冬馬「…すまん、今まで迷惑かけちまったみたいで…」
北斗「いや、いいんだ…」
北斗「ところで冬馬、これからのことは考えているのか?」
冬馬「これからか…」
冬馬「…もう復帰は難しそうだしなぁ」
冬馬「諦めるなとか周りから言われそうなんだが…、正直もうどうしようもないしな」
冬馬「北斗はピアニストを目指したけど挫折したからアイドルになったんだろ?」
北斗「ああ、ピアニストの代わりになるかもしれないと思ったんだ」
冬馬「なら俺も代わりを見つけることにするよ、アイドルの代わりになるものを」
北斗「手助けするよ、全力で」
冬馬「よろしく頼むぜ」
765プロ
春香「あれから随分たったけどすごいフォローの数だね」
千早「ええ、ブログもランキング一位を得とくしているわ」
春香「写真も貼ってある、お腹おっきいね~」
千早「全く会ってなかったからわからなかったけど、今の彼のお腹こんなことになっているの?」
千早「ちょっといくらなんでも大きすぎない?」
春香「二人はいっているらしいからね~」
春香「こんなに大きいとどうやって産まれるんだろうね?」
響「…」
北斗「あれからどれくらいたったのだろう」
北斗「冬馬は性格は元に戻った、元には戻ったんだ、だけど…」
冬馬「よしよし、ここがいいのか?」ナデナデ
いぬ美「くぅ~ん♪」
響「開き直ったように明るくなっているな」
響「まるで何かを必死に考えないようにしているみたいだ」
響「でも前のような暗い性格から戻ってよかったよ」
北斗「…」
冬馬「ほーら、よしよし」ナデナデ
響「何か思いつめているようだな」
北斗「まあね…」
響「これからのこととかか?」
北斗「まあね…」
響「先ばかりのことを考えても疲れるだけだ、未来のことなんて誰もわかりはしない」
響「今は目の前のことを考えるんだ、先のことばっか考えているせいでお前顔色が凄いことになっているぞ」
北斗「………」
冬馬「なあ、我那覇…、ずっと前に俺とどこかであってなかったか?」コショコショ
冬馬「なんか懐かしい感じがするんだが…」
響「さあ?」
冬馬「随分曖昧だな」
冬馬「……!」ビクッ!
ガクッ
北斗「冬馬、どうしたんだ?」
冬馬「あっ…ああ……!」ガクガク
北斗「まさか…陣痛!?」
響「にしては早すぎる…」
冬馬「がっ…!ああ…あっ…ああ!!!」ガクガク
響「救急車を!」
北斗「もしもし、救急ですけど…」
病院
医者「陣痛ではありません…その前兆です」
医者「母体がかなり不安定なのでそのまま生活を続けるのは危険です」
医者「しばらくは外出を控えるべきか、入院するべきかをお勧めします」
冬馬父「そうですか…」
冬馬「…」
医者「後、体格から、普通の出産だと高確率で両者の命を落とすことになります」
冬馬「!?」
医者「確実に出産するには帝王切開をしなければなりませんが、よろしいでしょうか?」
冬馬父「そんな苦渋な決断をこの子にさせろと!?」
医者「お気持ちはわかります…しかしこのままでは命が危険です」
冬馬「…」
北斗「どうやら、冬馬は入院することになったんだ」
北斗「しばらくは会えなくなるかもしれない」
響「そろそろか、いつか来ると思っていたんだが…、いざとなると辛いな」
響「とりあえず、仕事とかをキャンセルして付きっ切りで面倒を見てくれてありがとな」
響「もうその必要はない、ゆっくり仕事をしてくれ、お前のファンが待っている」
北斗「…ああ」
響「それじゃあな」
北斗「…」
響「ああそうだ、たまにでもいいから顔を出したほうが喜ぶかもな」
北斗「…」
病棟
冬馬「………」
冬馬(あの痛みでもまだ軽いほうなんだよな…)
冬馬(女性ってあんな痛みを経験したのか…母さんも…)
冬馬(だが…俺は…)プルプルプル
冬馬(俺は…死ぬのか…?こんなところで…)プルプルプル
冬馬「…」ピッピッ
冬馬(twitterで気を紛らわそう…こんな重圧、耐えられない…)
春香「…」
千早「どうしたの春香、そんな険しい顔して?」
春香「これ、冬馬君のtwitter…見て…」
千早「…入院…出産、帝王切開…」
千早「帝王切開!?」
春香「それってもう完全にあれだよね…下手したらアイドルができなくなるんじゃなくて、その…死んじゃったり」
響「体のつくりからして予想はしていたけど、本人にとってはやっぱり恐怖以上の何者でもないか」
P「…どうしたら、いいんだろう…」
響「せっかくだから千羽鶴でも折ってみるか?」
響「励ましのメッセージとか書いたりしてさ、もしかしたら喜ぶかもしれないぞ?」
春香「うん、確かに入院と励ましには千羽鶴は必須だもんね」
P「折り紙たくさん買ってくる!」
数週間後
北斗『今日はみんなに素敵な贈り物を…』
冬馬「やっぱテレビに出たほうが輝いているな、北斗はこうでないとな」
冬馬「…」グー
冬馬「さっき食ったばっかなのにもう腹減りやがった…」
冬馬「飯まずいし体動かしづらいし…全体的にだるいし…辛いこと多すぎるぜ…」
ガラガラ
北斗「冬馬、いるか?」
冬馬「北斗か」
北斗「お、今俺の番組をやっていたのか」
冬馬「ああ、正直、こうしてテレビに出れるお前がうらやましくてな…」
北斗「…」
北斗「冬馬、お前に会いたいという人を連れてきた」
冬馬「会いたい人?誰…」
ガラガラガラ
冬馬「だ…」
翔太「冬馬君!」
冬馬「…翔太?」
翔太「会いたかった…本当に会いたかった!」グスン
翔太「いろいろ忙しかったり状況が状況で会えなかったけど…、これでやっとお話ができるね」
冬馬「わかったから泣くなって…」
翔太「すっかり変わっちゃって…、もうお姉さんになっちゃって…、声もちょっと高くなってるね」
冬馬「親みたいな反応するなって」
翔太「僕ね…冬馬君にね…たくさんお話したいことが…あってね……」グスン
冬馬「俺も、お前に話したいことがたくさんあるからな」
北斗「あ、あともう一人いたんだ」
冬馬「えっ?」
P「やあ…冬馬」
冬馬「ああ、あんたか」
P「その…これ」
冬馬「千羽鶴か、随分たくさんあるな」
冬馬「しかもメッセージまで書いてやがる、まさか俺が励まされるなんてな…」
P「後、甘いものとか持ってきたぞ、ゼリーとかプリンとか…」
冬馬「悪いな、色々貰って」
冬馬「礼を言うぜ、正直不安だったんだが、これで元気が出た気がする」
冬馬「みんなから応援されるってちょっと情けないけどやっぱ嬉しいな、勇気がわいてくるぜ!」
P「…冬馬、その…」
冬馬「なんだ、まだ罪の意識があるのか?」
P「頼みが…あるんだ」
冬馬「また気持ち悪いプロポーズか?」
冬馬「生憎、あんたと結婚する気はないぜ」
P「そう…か…」
冬馬「ただ、こんなことになってもあんたと一緒にいた頃は、結構楽しかったのは事実だ」
冬馬「あの時は正直言いすぎちまった…気持ちが高ぶってて…」
P「俺のほうこそいきなり責任取るとか結婚とか言ってごめん…」
P「だけど、こうなったのも自分の責任だ…、このまま何もしないで終わるのは釈然としない…」
冬馬「なら、俺の手術代とこれから行う手術の治療費を全額負担してくれ、それでチャラにしてやるよ」
P「それだけでいいのか?」
冬馬「もう過ぎたことだし…これ以上あんたに責任を追いやっても意味ないしな」
P「…わかった、もしそれでも不満だったらもっと言ってくれ」
冬馬「ああ」
翔太「それじゃあね、また来るから!」
翔太「冬馬君が寂しがるといけないからね!」
冬馬「べ、別に寂しがってなんかないからな!」
冬馬「無理して来なくていいんだぞ、お前たちも大変だろ」
冬馬「特に北斗!ずっと俺に付きっ切りだったろ!少しはステージの前に立てよな!」
冬馬「テレビで応援してるからよ」
北斗「はいはい、了解」
翔太「じゃあねー♪」
P「それじゃあ…」
冬馬「ああ」
冬馬「…はぁ、バッカみてぇだな」
冬馬「今までたくさん励ましの言葉や勇気を貰ったというのに」
冬馬「結局また弱気になっていたのかよ、あきれて何も言えねぇ…」
冬馬「腹切るのがなんだ、そんなの今までのあの苦しみと比べれば軽いもんだ」
冬馬「もう深く考えるのはやめだ、俺に向いてない」
冬馬「それにいつまでも弱気になっていたら、北斗たちに余計心配かけちまうからな」
冬馬「さて、来るべきの時に、ゆっくり休むか」
冬馬「待ってろよ、もうすぐだからな」スリスリ
冬馬「もうすぐ…だからな」
夜中
冬馬「ZZz…」
冬馬「ZZz…」
冬馬「ZZz…」
冬馬「ZZz…」
冬馬「ZZz…」
ズキッ
冬馬「………………ZZz…」
――
――――
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――――――――
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――――――
――――
――
女性ファン「北斗様!ぜひサインを!」
北斗「はいはい、順番だよ☆」
315P「北斗さん!」
北斗「プロデューサーさん、何か?」
冬馬「冬馬さんが…!陣痛が!」
北斗「…車を出してください」
315P「わかりました」
北斗「ごめんねエンジェルちゃん達、とても大事な用ができたんだ」
女性ファン「そんな…」
北斗「でも大丈夫、また明日ここに来るから、期待して待っててね」
女性ファン「わかりました!」
ブロロロロロ
北斗「このことは他に誰が?」
315P「彼の保護者と翔太さんにも伝えてあります、もう既に病院の中です」
北斗「そうですか」
ピッポッパッ
北斗「響ちゃんかい?実は冬馬に陣痛が…」
北斗「…よろしくお願いするよ」ピッ
北斗(無事でいてくれ…)
響「…」
P「どうかしたのか、響?」
響「車を出してくれないか?そろそろ産まれそうなんだ」
P「!?」
響「早く」
P「…わかった」
病院裏口前
ブロロロロロロ
P「…何だあれは?」
記者たち「詳しく説明を!」「どのような状態ですか?」「冬馬さんの容態は!」
医者「関係者以外は立ち入り禁止です!」
P「これはひどいな…、正面玄関はおろか、裏口でこれかよ」
響「モラルのかけらもないな、仕方ない」
響「自分がおとりになるから、先に入っていてくれ」
P「わ、わかった…」
ガチャ
響「はいさい!記者のみんな、こっちを向いてほしいぞ!」
記者たち「えっ?」クルッ
「あれは、我那覇響ちゃん?」「本物の!?」「どうしてここに?」
響「実は自分、今取って置きの新曲があるんだけど、聞く?」
「ぜひ!」「いい宣伝になる!」「お願いします!」
響(マスコミは金になりそうなものを撮ろうとする習性がある)
響(いつまでも医者とにらめっこしているより自分のパフォーマンスのほうが金になると思ったか、まあ当然だ)
響(さて、これが最後の大仕事かな)
冬馬「ハァ…ハァ…」
医者たち「早く運んで!」「しっかり!」
冬馬「ハァ…うぐっ…!」
バタン!
P「…」
北斗「…」
北斗「どうやら、予定よりちょっと早く生まれることになったらしいです」
P「そうか…」
北斗「…」
P「俺たちに、何ができるんだろうな?」
北斗「祈ることしかできないのが、正直辛いです…」
翔太「…僕、何もできなかった」
翔太「力になりたかったのに…僕…」
北斗「いや…俺たちがいないジュピターを支え続けたのは翔太のおかげだ」
北斗「感謝してるよ、翔太」
翔太「うん…」
バタン
響「やっと静まった、本当にうるさい奴らだな…」
P「響、すまないな、苦労をかけて」
響「なんくるないから心配しないでいい」
P「俺たちに、何ができるんだろうな?」
北斗「祈ることしかできないのが、正直辛いです…」
翔太「…僕、何もできなかった」
翔太「力になりたかったのに…僕…」
北斗「いや…俺たちがいないジュピターを支え続けたのは翔太のおかげだ」
北斗「感謝してるよ、翔太」
翔太「うん…」
バタン
響「やっと静まった、本当にうるさい奴らだな…」
響「何時間かかったんだろうなもう?」
P「響、すまないな、苦労をかけて」
響「なんくるないから心配しないでいい」
響「それにしても…よくここまで、耐えてきたな…、いろんなことがあったのに」
響「あんな体で、よく頑張ったよ、本当に…」
北斗「…」
チッチッチッチッ
P「…」
響「…」
チッチッチッチッ
翔太「…」
北斗「…」
響「…ちょっと話をしよう、ここから離れたい、いるのが辛くて」
北斗「?」
P「俺は?」
響「そこにいてくれ、北斗と話がしたい」
P「…わかった」
――――――――
――――――
――――
――
女性ファン「北斗様!ぜひサインを!」
北斗「はいはい、順番だよ☆」
315P「北斗さん!」
北斗「プロデューサーさん、何か?」
315P「冬馬さんが…!陣痛が!」
北斗「…車を出してください」
315P「わかりました」
北斗「ごめんねエンジェルちゃん達、とても大事な用ができたんだ」
女性ファン「そんな…」
北斗「でも大丈夫、また明日ここに来るから、期待して待っててね」
女性ファン「わかりました!」
響「ここでいいかな」
響「よいしょっと」ドスッ
響「…さて、まず一言言わせて貰う…冬馬に付き合ってくれてありがとう」
響「自分一人じゃ何もできなかった、信頼できる仲間がいたからあいつの心も開いてくれた」
響「感謝し切れても仕切れない…」
北斗「そんな…俺は別に…」
響「いや、お前のおかげでここまでこれた、冬馬もいい友達を持って幸せものだな」
響「もうこれ以上ここにいる必要もないな」
北斗「それってどういう…?」
響「まあ、後でわかることだ」
響「それじゃあ、突然だけどもうお別れだ」
北斗「お別れ?」
響「ああ、もうこれ以上はいられない、代わりに冬馬に別れの言葉を伝えてほしい」
響「本当にありがとう、次会うときは別の形で」
北斗「ちょっと待って!話が見えない!」
オギャー! オギャー!
北斗「…!? 生まれた!?」
オギャー! オギャー!
北斗「手術は無事に成功したのか…」
北斗「よかった…響ちゃん、無事に…」
響「くかーっ……ZZz…ムニャ…」
北斗「…えっ?」
響「Zz……んあ?」パチッ
北斗「ひ、響ちゃん?大丈夫かい?」
響「…?」
響「………あぁそうか、もう逝っちゃったんだ」
響「…うぅ…頭が痛い…おまけに寒気がする」ブルブル
北斗「響ちゃん…?どうかしたのかい?」
響「ああ~、まあなんだろうな…後で話しておくよ」
響「とりあえず今は赤ちゃんを見に行くか?産まれたらしいし」
北斗「あ、ああ…」
看護士「今は面会を許されていません、もうしばらくお待ちください」
北斗「何故です!?」
看護士「まだ治療が済んでいないので」
北斗「そうですか…」
響「…それじゃあ、済むまで少し話でもするか」
響「北斗…自分、なんかこの数ヶ月間ずっとクールに振舞ってただろ?」
北斗「ああ…、確かにそうだけど」
響「あれの原因は、冬馬の母親のせいなんだ」
北斗「冬馬の母?彼女はもう既に他界しているはずだけど」
響「そう、そのはずだったんだけど…別の形で残っていたというかさまよっていたというか…」
北斗「…まさか、幽霊?」
響「そう、あいつの母親の霊が自分を通して話していたんだ」
北斗「幽霊なんてそんなオカルトやファンタジーなことが現実にあるわけが…」
響「自分もそう思ったよ、だが冬馬の状況も随分オカルトだと思わないか?」
北斗「…いやちょっとおかしい気が…そもそもいつ乗り移ったんだい?」
響「確か春香達と一緒に病院に行って、その後お前に帰れといわれて家に戻ろうとした時だ」
響「道端で急に頭が重たくなって、その後頭の中であいつの母親と話したりしてな」
響「事情を聞いたらとても複雑だったんだ、幽霊だから手をさし伸ばすこともできないとか親失格とか言っててちょっと同情したな」
北斗「何で君に乗り移ったんだい?」
響「完璧そうとか一番面倒見がよさそうとかいろいろ理由があるけど…」
響「一番の理由は境遇が似ているところかな?自分も早く親なくしたからあいつの気持ちがなんとなくわかって…」
響「それで乗り移ってもらったんだ、差し詰めもう一人の自分とその相棒のような感じにな」
北斗「君自身にその時の記憶は?」
響「あったよ…、だけど自分はただの操り人形として動いていたからな」
響「ほとんど彼の母親が主導権握っていたからやることなくてたまにたくさん寝たりしたな」
響「まあ彼女も自分のために仕事とかしてくれたから、正直感謝している」
響「…だけど今思えば自分じゃないとはいえかなり恥ずかしいことをやったな…柄にもない…」
響「けどいちいち突っ込むのもダルイからいいや…、きりがないし」
響「…あっ、長い間振り回されていたからなんかいろいろ移っちゃったみたいだ…戻るかなこれ?」
響「…まあ、仮にも自分もこの騒動に参加したんだ、最後まで見届けるのも礼儀だな…」
北斗「…」
看護士「お待たせしました、もう面会しても大丈夫です」
響「だそうだ、行こうか、赤ちゃんたちが待ってるぞ」
北斗「あ、ああ…」
男の子「ZZz…」
響「はわわわわわ////こ、これが…////」
響「ぷにぷにしてる…やわらかいぞ!」
響「あっ!触った!動いた!凄いぞ!」
P「………この子たちが、俺の子なんだな…」
P「とってもかわいいな…とっても…」
冬馬「我那覇…前と性格変わったな…なんか元に戻った…」
響「うすうす感付いてるだろ」
冬馬「…半信半疑だけど、やっぱりそうなのか?」
響「信じるのか?」
冬馬「お前は嘘言うやつじゃないだろ」
響「まあな」
冬馬「でもそれならもっと話がしたかった…」
響「立場的にそれは無理だ、わかってほしい」
翔太「何の話?」
冬馬「お前には関係ない」
翔太「えー、また僕に秘密?」
翔太「ちょっと不公平じゃない?僕だけのけ者にして~…」
女の子「…」ジーッ
北斗「…」ナデナデ
翔太「…それで、冬馬君…これからどうする?」
冬馬「これからか…そうだな…」
冬馬「完全に一つの性別にするために手術を受け、その後親父の住む四国に行って…二人を育てようと思う」
冬馬「アイドルはもう無理だけど、こいつらのアイドルくらいならできそうだしな」
男の子「ZZz…」
女の子「ウー」
北斗「…だとしたら、もうお別れか…」
冬馬「別れの言葉をいうのはまだ早すぎる気がするが…」
冬馬「機会があったらこっちにきてくれよ…、待ってるからさ」
冬馬「待って…」グスン
北斗「たとえ見た目がどんなに変わっても、冬馬は冬馬だ」
翔太「会いに来るからね、だけどその代わり冬馬君もたまに戻って来るんだよ」
冬馬「ああ、わかった」
空港
冬馬父「冬馬、そろそろだ」
冬馬「それじゃあ…、俺はこれで」
315P「またいつか必ず会いましょう」
翔太「手術、無事に成功するのを祈ってるよ」
冬馬「ああ」
響「達者でな」
冬馬「なんか悪いな…、まさかお前まで来てくれるなんて」
響「仮にも長い間面倒見たからな…腐れ縁だ」
男の子「アー」
女の子「ニャー」
病院に最初に見に行った時ってことはじゃあ家族が発言は冬馬の母親でいなくなったってのは父親が冬馬連れて離婚か何かしたってことだよな
なら気持ち悪い思った相手は冬馬ってことになるのか死ぬほど後悔したんだな…
P「…もし、その…気が変わったら…一緒に…」
冬馬「ああ、変わったらな」
P「…仕送りとかは、するからな」
P「嫌でも送るからな、そうでないと気が収まらない」
冬馬「そういうなら、貰っておこうかな」
冬馬父「冬馬…」
冬馬「わかってるって」
北斗「それじゃあ…またいつか」
冬馬「また…いつか会おうぜ!」ジワッ
冬馬「次会ったときはアッと言わせてやるからな!楽しみに待ってろよ!」グスン
北斗「…ああ、待ってる」
冬馬「じゃあな!」
キイイイイイイイイイイイイイイイン!
キイイイイイイイイイイイイイイイン!
翔太「…また会えるよね」
響「会えるさ、別にこれが永遠の別れというわけじゃないだろ?」
北斗「…響ちゃん、この世界には冬馬みたいな体をもった人はたくさんいるのかい?」
響「冬馬の母親の知識を通して見たけどかなりいるぞ」
響「身体的じゃなくて精神的で冬馬のような感じの人はその倍以上いるんだ」
北斗「そうなのか…」
P「どうかしたのか?」
北斗「俺、新しい夢ができました」
翔太「夢?」
北斗「ああ、冬馬のような症状を持った人たちを助けたい…そういう夢だ」
北斗「この1年間、あいつを見て、冬馬でこれならもっと辛い人もいるだろうと確信した」
北斗「俺はそんな人たちを見捨てるわけにはいかない、冬馬を見ていたらなおさらだ」
北斗「だから助けたい、そんな人たちを冬馬のような辛い目にあわせたくない」
響「いい夢じゃないか、これ以上犠牲者を出さないためにも」
P「応援してるぞ」
北斗「ありがとうございます、でもその前に」
北斗「今はジュピターを続けないとな、でないとあいつに怒られる」
翔太「だね♪」
315P「それじゃあ帰りましょうか」
全員「ええ!」
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春香「それが15年前の出来事ですか?」
北斗「ええ、そうです」
やよい「その後のことは?」
北斗「ジュピターは彼の思いを無駄にしないためにも、しばらく続けましたよ」
やよい「それで、冬馬さんは?」
北斗「手術も無事に終わり、今は親子共々高知に住んでいます」
北斗「冬馬の容姿は、面影は残っていましたけどもうすっかり変わってしまいました」
北斗「これからは自分のためではなくて子供たちのためのことを考えてああいう決断をしたので仕方ないかもしれません」
北斗「でも姿が変わっても冬馬は冬馬なので、関係も変わったりはしません、自分も翔太も時間があるときは直々遊びに行ってます」
春香「そうですか、最後に何か伝えたいことはありませんか?」
北斗「たまにはまたこっちに顔を出してくれよな、待ってるからさ」
春香「聞いていればいいですね、このラジオ!」
やよい「というわけで今日のゲストは伊集院北斗さんでした!」
やよい「これにて春香とやよいのやよい式ラジオを終わります!司会は私、高槻やよいと」
春香「天海春香がお送りいたしました!」
春香「どうもありがとうございました!」
北斗「いや、こちらこそ」
やよい「でも言ってよかったんですか?あんな話をラジオで放送して?」
北斗「本人からもちゃんと話してほしいと言われたからね」
北斗「自分と同じ境遇の人がいたらその話で勇気を持つようにするためにって」
やよい「そうですか」
北斗「それじゃあ、俺はそろそろ帰らせてもらうよ」
春香「今日はありがとうございました!」
北斗「こちらこそ」
ラジオ局外
北斗「…ん?」
少女「やあ」
北斗「えっ!?」
少女「何、その驚きよう…」
北斗「いや、何で君がここに?高知にいるはずなのに?」
少女「アイドルのオーディションに受けに来ていたんだ」
北斗「アイドル?」
少女「冬馬の夢、もうかなえられなくなったから、あたしが変わりにやろうと思ってね」
少女「ちなみに結果は合格、しばらくここで活動するつもり」
少女「わざわざ四国まで行って会う必要もなくなるってわけだよ」
北斗「それはいいね、これで毎日君に会えるというわけだね」
北斗「…って、そのことを何で俺に教えてくれなかったんだ、手伝ってあげられるのに」
少女「サプライズだよ、サプライズ」
北斗「サプライズねぇ…、まあ確かに驚いたけどね」
少女「ところで何かあったの、今日?」
北斗「実は今日ラジオの収録があったんだ、それで冬馬の昔のことを長々と語って」
北斗「いろいろ思い出して、ちょっとナイーブになって…」
少女「そう、今度はラジオで活動か」
北斗「もっとたくさんの人に知ってもらいたいんだ」
北斗「今どこかで冬馬と同じ状態、またはそれに近い状態だった人がいる」
北斗「そのせいで体が不自由になったり人生が狂ったりしたりしているからね」
北斗「そんな中で自分たちができることはそういう現状をたくさんの人に認知してもらい、とにかく味方を作ること」
北斗「間接的だけどただ黙って何もしないよりは遥かにマシだ…」
少女「こんなにやって十分じゃないの?他にも膨大な医療費の提供とかやってるんでしょ?」
北斗「これでも足りないくらいだ、まだその症状で不幸な人がたくさんいる」
北斗「もちろん完璧に障害を消すことはできないけれど…せめて不自由のない生活を送るようにしてもらいたい」
北斗「差別も軽蔑もされない世の中にするためには、多くの人に状況を知ってもらって、共感してもらうしかないんだ」
北斗「差別をする人が逆に差別されるくらいたくさんの味方をつくるようにする、これくらいのことしかできないけれど…」
北斗「一緒に支えてくれる人がたくさんいるだけで勇気を貰ったりできる、下手なカウンセリングよりも効果的だ」
北斗「だからこれからも伝え続けるよ、そういう人たちの支えになるために」
少女「頑張ってね、応援してるよ」
終わり
衝動書きをしたら後悔する、自分のように
>>260
離婚はしていません、会うことができなくなったのは母親が死んでしまったからです
なんとかしようとする前に死んでしまったのでその悔いが残り霊体になっても長い年をかけて勉強して冬馬を救おうとしました
このSSまとめへのコメント
ジュピターssは結構あるけど、冬馬が妊娠までするのは珍しいね。だから意外だったな。