片側二車線の幅広の道路、その車道沿いにある歩道を俺は歩いていた。
日は今にも沈みかけようとしていて、橙色の空は物悲しい雰囲気を滲ませている。
往来にはスーツを着たサラリーマン、駅に向かって歩いていく賑やかな四人組、制服を着た学生などが居て、人通りが激しい。
目当ての少女を見逃さないように、俺は向かってくる歩行者の顔を遠慮なくじろじろと見ながら歩く。
見つけた。
制服に身を包んだ少女は、トレードマークとも呼べるものを頭に付けているはずもなく、代わりに赤い縁の眼鏡をしていた。
「やあ、久しぶり」
歩行者に紛れてしまわないように、大きめの声を出す。
向こうもこちらに気がついたようだ。
が、俺の顔を見た途端、表情をこわばらせ、踵を返して来た道を引き返そうする。
「ちょ、ちょっと待て!」
俺は慌てて追いかけて回り込み、彼女の進行方向を塞いだ。
「何も逃げることはないだろうが……みく」
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久方ぶりに会った少女、前川みくは不満げな顔を隠そうともせず、言った。
「……こんなところで、何してるの?」
「何してるって、お前を待ってたんだよ。無視することはないだろ」
「久しぶりだね、Pチャン」
まだ俺をプロデューサー扱いしてくれるのか、と安堵する。
しかし今はそんなことで喜んでいる場合でもない。
「とりあえず立ち話もなんだから、どっか店に入ろう」
「みくはPチャンと話すことなんて何もないんだけど」
「俺には、山ほどあるんだよ」
辺りを見回すと、往来の人々がこちらを好奇の目で見ていくのがわかる。
中には明らかに不審げな視線を投げかけてくる者も居た。
思い出すのは、とあるプロデューサーの話だ。
一人の女の子をアイドルに勧誘するべく、連日通学路に張り込み、名刺を渡そうとする男が居た。らしい。
もちろんそんな奴は不審者以外の何者でもなく、当然のごとく警察に通報された。
その男と俺との共通点は二つある。
プロデューサーであることと、女子高生に話しかけている、ということだ。
もし通報されて、警察の厄介になれば、共通点が三つになってしまう。それは避けたかった。
「とにかく、頼むよ。久しぶりに会ったんだし、お茶を飲むだけでもいいからさ」
「それ、完全にナンパだよ」
「ナンパでもなんでも良い。とにかく話をさせてくれ」
みくは大きなため息を一つついた。
「Pチャンのそういう頑固なところ、全然変わってないね」
俺はその時、というかさっきから強烈な違和感を覚えていた。
その正体にすぐに思い至った矢先、みくは歩き出した。
「いいよ。どうせ今日断っても、また来る気なんでしょ?」
俺はみくの後を追いながら、それに答える。
「明日にでも」
「だったら、Pチャンの負担になるのも嫌だしね」
「負担だなんて思ってない」
「負担だよ。今日だってどうせ仕事の合間を縫って、わざわざ来たんでしょ?」
負担だと思っていないことも、仕事の合間を縫って来たことも、事実だった。
「だからさ。もうはっきりさせるよ」
みくはそれが何でもないことであるかのように、平坦な口調で、続けた。
「みくはもう、アイドルを続ける気はない、ってこと」
日は完全に沈み切り、夜の闇が空を覆っていた。
書き溜めがないのでのんびり進行でいきますー。
どうぞよろしくお願いします。
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