提督「クソったれなこの世界で」 (270)
金剛「Hey提督ぅ! 今日も今日とて無事任務遂行してき痛ぁ! なんでいきなり叩くデース!?」
提督「うるせぇんだよ娘っ子、毎度毎度お前が帰還してから最初にする仕事は俺の鼓膜をダメにすることか?
少しは声のボリューム下げろって何回言やわかるんだよこのポンコツ」
金剛「酷いっ!? それが戦果を上げて意気揚々と帰ってきた女の子に言う台詞デスか!?」
提督「女の子? おいおい面白れぇ冗談だな。今この部屋のどこにレディがいるってんだ、撃つ機械の間違いじゃねーか?」
暁「レディと聞いて!」
提督「呼んでねーよ」
金剛「う、撃つ機械!? Noooooo! 提督、その発言は聞き逃せないネ! 今すぐ謝罪の記者会見を開くべきデース!」
青葉「ご入り用ですか?」
提督「呼んでねーよ」
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金剛「大体提督はいつもいつも私たちに厳しすぎマース! 今日は一言物モース!」ズズイ
提督「とかなんとか言いながらさりげなく身を寄せてんじゃねーよ顔近ぇんだよ離れろポンコツ」
金剛「なっ、こ、これは別に不可抗力であって別に提督に近づくチャンス! とか考えてたわけじゃ……」アセアセ
提督「俺の半径1メートル以内に入るなとも前に言ったはずだ、その辺のわんころの方がまだマシな学習能力持ってるぞ」
金剛「え、いや、提督? ほらほら、私今あからさまに顔赤らめてマスよー?」
提督「言ったはずだ」
金剛「そ、その、『まさかこいつ俺に気があるんじゃ……! なんてこった、これからはもっと優しく扱ってやらなければ!』みたいな
展開は……?」
提督「言ったはずだ」
金剛「(´・ω・`)」
提督「言・っ・た・は・ず・だ」
金剛「うううぅぅぅ……」
金剛(そもそもさっき叩いたときは自分から近づいてきたくせに……)
提督「――うむ、ご苦労さん。さがっていいぞ、娘っ子」
金剛「失礼しましたネー……」ガチャ
金剛「はぁ、疲れた……」
雪風「あ、金剛さん! 報告お疲れ様でした!」
金剛「Oh、雪風、待っててくれてたんデスか?」
雪風「はい!」ペカー
金剛「うう、笑顔がまぶしいネ……この天使のようなスマイルをいつも仏頂面の提督が1パーセントでも見習ってくれたら……」
雪風「え? 司令官ってよく笑いません?」
金剛「え?」
雪風「え?」
金剛「……提督の話デスよね?」
雪風「はい、司令官の話です」
金剛「実はこの鎮守府では『提督』と『司令官』は別の人物のことを……?」
雪風「指さない、と思いますけど」
金剛「…………」
雪風「…………」
金剛「……ああ、ナルホド!」
雪風「なにかわかりました?」
金剛「雪風は冗談が上手ですネー」ケラケラ
雪風「考えた結果がその結論!?」
金剛「だって雪風、提督ですよ? あの提督。あの人が笑ったのなんて私がヘマして帰ってきて
失敗しちゃいましたてへぺろ☆ って言ったときに回し蹴りを叩きこんできたときくらいデスよ?」
雪風「……なんていうか、どっちもどっちなやりとりですね」
雪風「でもおかしいですね、司令官私と話すときは結構にこにこしてる印象ですけど」
金剛「……ロリコンなんデスかね? あの人」
雪風「違うと思いますけど……」
* * * * *
提督「っくしょい!」
提督「なんだよ畜生、誰か俺の噂でもしてやがるのか」ズビー
提督「…………」
提督「なんとなくあの娘っ子を蹴り倒したくなってきたな、なんとなくだが」
雪風「あ、でもでも、ロリコンっていうのも違うんじゃないでしょうか」
金剛「なんでデース?」
雪風「だってこの前島風ちゃんが提督に『おいおいまた大破かそんなに風呂でゆっくりしてぇのか連装砲ちゃんとやらの
浮き輪は風呂でぷかぷかするためについてるのか優雅だなぁおい速いのはぼろぼろにされて帰ってくるスピード
だけかあぁん?』って言われてましたし」
金剛「鬼デスかあの人は……」
雪風「島風ちゃん、涙目でぷるぷるしてたなぁ……さすがに提督もそれ見たらちょっとばつが悪そうな顔してましたけど」
金剛「なんと、提督にもばつが悪そうな顔をするくらいの人間らしいさが残っていたとは」
雪風「え、そっち?」
金剛「だって私が蹴り倒されて悶絶してるときだって『おうおう痛ぇかでもな蹴った俺の脚だって痛ぇんだぞちなみに俺は今
拳の方も痛くしたい気分だ』って言いながらシャドーボクシング始めてマシたし」
雪風「鬼ですねあの人は……」
>>7の雪風の台詞の提督は司令官に脳内補完よろしく
金剛「それにしてもデース、さすがに半径1メートル以内に入るなー、なんていうのは酷い話デスよ!
さすがの私だって傷ついちゃいマース」
雪風「半径1メートル……?」
金剛「これも言われてないんデスか? おっかしいナー、私嫌われてるのかナ……」
雪風「いえまあ言われてはないんですけど……だけど」
金剛「なんデース?」
雪風「言われて困ります? それ」
金剛「……What?」
雪風「だって司令官って執務室からめったに出てこないですし、自分から近づこうとしなければ
半径1メートルに入ることってない気がするんですけど」
金剛「そ、そうデショウか?」
雪風「顔を合わせるのも、特に用事がなければブリーフィングと報告くらいですか。どちらにせよ
近づかなくても支障はありませんよね」
金剛「やー、でも、その……」モジモジ
雪風「……まあ実際そう言われたこと自体がショックっていう部分もあるんでしょうけど」
金剛「それ! それデース!」ペカー
雪風「そもそもどんな流れでそんなこと言われたんです?」
金剛「え? そ、それは――」
雪風「――なんというか。結構大胆なんですね、金剛さんって」
金剛「Why?」
雪風「だって『あからさまに顔赤らめてマスよー』とか、もう告白みたいなものじゃないですか。
無反応な司令官も朴念仁ですけど、金剛さんもなかなかですねえ」
金剛「…………」
雪風「それにしてもなるほど、たしかに好きな人からそんなこと言われたらショックですよね。
あ、私は応援しますよ、金剛さん!」
金剛「…………」プルプル
雪風「……金剛さん?」
金剛「わ、私――告白しちゃいマシタ!?」
雪風「あ、無自覚だったんだ……」
金剛「アワワワワワ……」
雪風「で、でもでも、話を聞く限り司令官も気づいてないみたいですし、大丈夫ですよきっと!」
金剛「!」
金剛「そ、そうデースよね! あのにぶちんな提督のことデス、気づいてるはずありまセーン!」
金剛「いつもいつもそうデス、私がどんなにアプローチしたって提督全然気づいてくれないデース……」
雪風「気持ちを知ってほしいのか知ってほしくないのかどっちなんですか……」
雪風「あ、だけど気づいててスルーしたって可能性もありますよね。もしそうなら脈は残念ながら……」
金剛「雪風はさらっとえげつないデース!」
雪風「ご、ごごご、ごめんなさい!」
雪風「それで……伝えないつもりなんですか? 司令官に」
金剛「それ、は」
雪風「つらくないんですか?」
金剛「提督の私への態度から察するに伝えたほうがつらい現実が待ってそうな気がしマース……」
雪風「…………」
金剛「黙らないデー! 否定シテ―!」
雪風「というか。金剛さんがとかいう問題でなく、司令官が誰かの告白にOKを出す姿を
想像できません」
金剛「さっきの話を聞いた限りだと雪風の告白にはOK出しそうな気もしマース」
雪風「あっはっは」ケラケラ
金剛「ゆ、雪風?」
雪風「ありえませんから」
金剛「急にマジな顔で否定しないでくだサイ! ちょっと怖いデース!」
雪風「まあ私と司令官のつきあいもそこそこ長いですからねぇ。今いる艦娘の中ではひょっとして私が最古参?
って感じですし」
金剛「Oh、それは初耳ネー。私が来た時にはすでにいましたがそこまで大先輩だとは」
雪風「だから経験もそこそこ積ませてもらってるんですけどね。やっぱり駆逐艦だと戦力としては
限界があるみたいで……最近も重用はしてもらってますけど、戦艦や空母のみなさんに
比べたら出番は減ってます」
雪風「まあ、そんなわけで司令官が私によく笑うのだってそんなに深い意味があるわけじゃないですよ。むしろ
最近金剛さん任務に出ずっぱりじゃないですか。司令官に気に入られちゃってたりするんじゃないですか?」
金剛「そ、そうデスかね……」テレテレ
金剛「…………」
金剛「冷静に考えたら気に入ってる相手にあそこまでの仕打ちをするなんて人間の所業じゃない気がしマース……」
雪風「まあ小学生が好きな女の子にイタズラするレベルではないですよね……」
金剛「うう……考えれば考えるだけ告白なんてできなくなっちゃいマース」
雪風「よし。それならもうあれですね」
金剛「アレ?」
雪風「提督の方から告白させます」
金剛「……Pardon?」
雪風「いえ、いっそのことプロポーズさせましょう!」
金剛「……ぱーどぅん?」
雪風「司令官が誰にもなびいていないってことは、言いかえればまだ誰にもチャンスはあるってことじゃないですか!」
金剛「むしろ誰にもチャンスが無いようにしか見えないネー……」
雪風「…………」
金剛「だからそこで黙らないデ! 『確かに……』みたいな顔しないデー!」
雪風「とにかく! 司令官を振り向かせるんです! 司令官の笑顔をゲットするんです!」
金剛「……その目標だと目下のライバルが雪風になっちゃいマスけど?」
雪風「はうっ!?」
金剛「……デモ、雪風の言う通りかも知れマセン」
雪風「おぉ?」
金剛「うん、決めました! 私、提督にもっともっとアプローチしマース! いつか提督が私のことを見てくれるその日まで!」
金剛「……あ、さげすむような視線でならしょっちゅう見てくれてマシたネ……」
雪風「ちょくちょくネガティブ挟むのやめません!?」
* * * * *
提督「…………」ブルッ
提督「なんだ今の寒気」
提督「…………」
提督「やっぱり鳩尾に正拳づきの方がいいな、うん」
導入終了
こんな感じで不定期にぼちぼち金剛が提督にいじめられる様を書いていきます
『プレゼント』
~入渠ドック~
チャポーン
金剛「ふあぁぁ、作戦の後の入渠は体に染みるネー……」
金剛「それにしても……雪風との会話ではつい勢いに任せて言ってしまったケド」
金剛「提督に……アプローチ……」
金剛「…………」カァァァ
金剛「アーモウ! 考えるだけで顔がVery hot! ネー!」
金剛「…………」カァァァァァァ
金剛「……イヤ、単純にお湯のせいですかネ」
金剛「のぼせる前に上がるとしマースか……」ザバァ
金剛「…………」チャプン
金剛(上がっても顔がHotなママだったら……お湯のせいにできないネー……)
金剛「もうちょっとゆっくりしますかネ」
金剛(提督、テイトク、てーとく)
金剛(考えれば考えるほど酷いお人デース)
金剛(顔を合わせればいつも第一声は「口を閉じろ」)
金剛(ちょーっと提督への想いが声の音量に現れてるだけなのに)
金剛(かといって近づいてみたら「寄るなポンコツ」)
金剛(ちょーーっと隙あらば抱き付こうと思ってるだけなのに)
金剛(挙句の果てには見てるだけで「こっち見るな気色悪い」ッテ!)
金剛(ちょーーーっと視線でLove beamを発射してるだけなのに!)
金剛(…………)
金剛(酷いお人デース)ウンウン
金剛(そんな、酷いお人、なのに――)ポケー
金剛「なーんで好きになっちゃったんでショ?」ポツリ
比叡「なんのお話です? お姉さま」
金剛「ひっ!? エーイ!?」
比叡「ひえぇっ、急に大きな声を出さないで下さいよ!」
金剛「オ、Oh、Sorryネー……」
金剛(び、ビックリしたネー! よりによって比叡に聞かれるとは……)
金剛(決して悪いコではないですケド、普段から私のこと慕ってくれてることを考えると……)
金剛(……サイアク、血の雨が降りますネー……)
比叡「それにしてもお姉さまも入渠ですか、奇遇ですねー」
金剛「そ、そうですネー、ハハハ……」
金剛(勘付かれないようにしないと……!)
比叡「ところで誰が誰を好きになっちゃったんですか?」
金剛「…………」ブクブクブクブク
金剛「き、聞いてたんデスかー!?」
比叡「そりゃお姉さまの言葉ですもん、一言一句聞き漏らしませんよ」
金剛(Oh my god! これで私が提督にLoveだなんてことがばれたら……!)
――――――――――
提督『ほう……比叡、提督であるこの俺に楯突こうってか? 言うこと聞いて弾ぶっ放すだけが取り柄の
ポンコツが謀反たぁ世も末だなぁおい』
比叡『軽口を叩いていられるのも今のうちですよ、提督……! 今日こそ己が拳のみで、あなたを討つ!』
提督『面白れぇ、上等だ。青タン程度で済むなんて思うなよ……!』
比叡『望むところです! 恋も戦いも負けません!』
――――――――――
金剛「…………」
金剛「思ったよりいつも通りの鎮守府ですネー」
比叡「なんか酷いこと言われてる気がするけどお姉さまだし許しちゃう!」
比叡「――で。ごまかされませんよ、お姉さま」
金剛「うぐっ」
比叡「まったく、私の方がよーっぽどお姉さまのこと好きな自信があるのに……よりによって
誰よりもお姉さまをいじめてる提督に取られちゃうなんて」
比叡「あーあ、やっぱりあの人には恋も戦いも勝てないなぁ」
金剛「そ、そう落ち込まないでほしいね比叡。別にあなたのことが憎いわけでも――」
金剛「――What?」
比叡「お姉さまってあれですか、マゾってやつなんですかね? サドになるのがベストアンサーだったなんてなぁ」
金剛「ちょちょちょ、ちょっと待つネ、比叡」
比叡「あ、サドでもマゾでもいけるクチでしたか?」
金剛「そんな話してないネー! なんで私の想い人が提督だってわかるデスか!?」
比叡「え? それはもちろんお姉さまの部屋に監視カもとい24時間お姉さまのこと見てるからに
決まってるじゃないですか!」
金剛「マイルドに言い換えてますけどどっちにしろドン引きですからネ!?」
比叡「まあ冗談はさておいて」
金剛「……冗談、なんですよね」
比叡「…………」
金剛「だからなんでみんな大事な時に黙るデース!」
比叡「いやでも冗談抜きにしても、気づいてる人は結構いると思いますよ? お姉さま積極的ですし」
金剛「やっぱり積極的に見えるデスか……」
比叡「『あの』提督にあれだけ自分から関わり持とうとしてる艦娘がそもそも少数派ですしねぇ」
比叡「その中でもお姉さまのアピールっぷりときたら。ほんと妬けちゃいますよ」
金剛「そ、そうデース?」
比叡「そうでーす。ま、それに気づかない提督もなかなかに鈍感ですね」
比叡「あるいは気づいてないフリとか? でも気づいててなおあの態度ってことは……」
金剛「…………」ウルウル
比叡「あーうそうそ! 絶対気づいてないですって!」
金剛「……たしかに今は手厳しい提督デース」
金剛「デスが! それもいずれは過去のお話!」
金剛「これから始まる私の猛烈アッピールにより!」
金剛「提督も私のことを気にし始めるハズ!」
金剛「そしていつかは――」
金剛「提督に、その笑顔を見せてもらうんデース!」
比叡「え? 提督って結構笑いません?」
金剛「…………」ブクブクブクブク
比叡「ひえぇ、お姉さま轟沈しないでー!」
金剛「……ちなみに提督はどんな時に笑うデース?」
比叡「え? たとえば昨日私が提督の執務室に道場破りをしにいった時なんかは……」
金剛「シチュエーションがすでに理解できないデース!」
――――――――――
比叡『たのもー!』
提督『あんだ、娘っ子の妹か。手前ぇら姉妹艦のやかましさはどうにかならんもんかねぇ』
比叡『ごたくはのーさんきゅー! 今日こそあなたを己が拳のみで討ち倒し、その席をいただきます!』
提督『へっ、こんなけったいな席いくらでもくれてやらぁな』
提督『それに姉貴の真似だか知らんが無理な英語なんて使うもんじゃねぇよ、だっせぇだけだ』
比叡『なっ、私のお姉さまに対する畏敬の念を侮辱するつもりですか!』
提督『かっかっか、あんなののどこに尊敬する要素があるってんだよ』
比叡『えぇい、前置きはここまでです! 提督、お覚悟を――!』
――――――――――
比叡「という具合です」
金剛「私、自分の知らないところでも存分にdisられてるんですネ……」
金剛「ちなみに戦いの結果はどうなったデース?」
比叡「もちろん、ワンパンで決着でしたよ!」
金剛「おお! あの提督に一撃食らわせなおかつ沈めるとは、比叡もなかなかやるデース!」
比叡「え? やられたの私ですけど」
金剛「敗戦結果をどうしてそこまで偉そうに語れるデース!」
比叡「いやぁ、危うく陸上で轟沈するハメになるところでしたよ」ケラケラ
金剛「それ笑い事じゃないデスからネ!?」
比叡「しかし艤装無しとはいえいくつもの修羅場を潜り抜けてきた艦娘を一撃でノックアウトさせるとは、
つくづくあの提督も人間離れしてますよね」
比叡「あれだけの力の持ち主ならあと腐れなくお姉さまを譲れるってものです」
金剛「もともと比叡に譲られるいわれもないデース……」
比叡「しかしお姉さま、猛烈アッピールとは具体的になにをなさるつもりで?」
金剛「それはまだ、その、考え中で……」ゴニョゴニョ
比叡「ふむ、それなら不肖比叡、お姉さまに提言いたしましょう!」
比叡「殿方の心を掴む秘訣……それはずばり、プレゼントです!」
金剛「プレゼント?」
比叡「いくら提督といえども所詮は男、女の子からのプレゼントを貰えばイチコロです」
比叡「それがお姉さまのように美しい女性ならばなおのこと!」
金剛「そういうものデスか……」
比叡「そういうものです! 少なくとも私は嬉しいです!」
金剛「男とか関係なくなってマセン?」
金剛「まあ……好意を示すのに手っ取り早いのはたしかデース」
金剛「だけどプレゼントするにも理由は必要デース。提督の誕生日は半年先デスし」
比叡「さりげなく提督の誕生日を知ってるのがガチっぽいですね……」
比叡「しかし心配には及びません! お姉さま、明日はなんのにかご存知ですか?」
金剛「明日? ……ああ、ナルホド!」
比叡「いえーす! 明日は年に一度の女の子の祭典、バレンタインデーでーす!」
比叡「これはチャンスですよお姉さま! 年に一度のビッグチャンス! スペシャルなお手製チョコレートをプレゼントして
提督を胃袋から轟沈させるのです!」
金剛「そのチョコ明らかに混ぜるな危険的ななにかが混入されてマース……」
金剛(手作りチョコレート……デスか)
比叡「チョコレート。なんて甘美な響きなんでしょう! ちなみに私は甘いもの大好きです!」
金剛(材料はあるし、時間も……寝る時間を削ればいけそうネー)
比叡「手作りといっても簡単なものなら溶かして固めるだけ。お手軽簡単! ちなみに友チョコならぬ姉妹チョコって
私はアリだと思います!」
金剛(私が一生懸命作ったら……提督、食べてくれるカナ?)
比叡「ぎぶみーちょこれーと! ぎぶみーちょこれーと!」
金剛「比叡はちょっと黙ってなサーイ」
比叡「あ、はいごめんなさい」
金剛「――ヨシ、善は急げと言いマース! 早速作成に取り掛かるネー!」
比叡「その気になりましたねお姉さま! 微力ながら私もお手伝いさせていただきます!」
比叡「いえ、いっそ榛名と霧島も召集しましょう! 金剛型4姉妹の総力戦です!」
金剛「それは素晴らしいアイデアデース! 榛名の純朴さと霧島の頭脳が加わったチョコレートはきっと無敵ネー!」
比叡「私は!? 私はなんの役に立てますかお姉さま!?」
金剛「応援よろしく……いやそれも鬱陶しそうなので隅っこでおとなしく見ててくだサーイ」
比叡「お姉さまの辛辣な41㎝連装砲が私の心に突き刺さる! だけどそれも悪くない!」
金剛「…………」
比叡「あ、リアルに引くのはやめてください結構きついです」
~金剛ルーム~
金剛(ふぅ、ちょっとのぼせてしまったネー……)ホコホコ
金剛(比叡が榛名と霧島を連れてくるまでちょっと時間がありマース)
金剛(…………)
金剛(なんだか今日は目まぐるしく事態が進行してしまいマシタ)
金剛(そばにいて何気ないやり取りをできるだけで満足だったあの提督に、プレゼント……)
金剛(ううん、それだけじゃありまセン)
金剛(雪風はああ言ってマシタが……やっぱりこの気持ち、伝えたい)
金剛(……自分の、口で)
金剛「提督――愛してマス」
榛名「なるほど。榛名、状況把握完了です!」
霧島「私の頭脳を働かせるまでもありませんね」
比叡「そういうわけよ、二人とも。お姉さまの恋の成就のため、金剛型戦艦、出撃よ!」
三人「おー!」
金剛「なっ、三人ともいつの間に!?」
比叡「え? それはもちろんばれないようにこっそりと」
榛名「匍匐前進したり?」
霧島「ころころ転がったり?」
金剛「高速艦のスキルを無駄遣いしないでくだサーイ!」
日付も変わったのでここまで
急な仕事が入ったのでバレンタイン話は明日ということで
~執務室前~
金剛(ついにここまで来ましたネー)
金剛(妹たち(比叡除く)に手伝ってもらった結果、なんとかバレンタインにを間に合わせることが
できマシタ……)
金剛(あとはこれを渡すダケ……)
金剛(渡す……ダケ……)
金剛(…………)
金剛(それが一番の難所デース!)
金剛(渡した途端ゴミ箱にぽいっ、なんてことになったら……)
金剛(私のハートはマリアナ海溝より深い深い海の底へ轟沈確定ネ……)
金剛(……そもそも受け取ってすらもらえないかも?)
金剛(うう、悪い想像ばかりがよぎりマース)
金剛(…………)
金剛(やっぱりプレゼントは日を改めて……)
~金剛ルーム~
榛名「お姉さまは今頃、提督にチョコを渡しているのでしょうか……」
霧島「どうだろ。お姉さまのことだし、案外まだ提督の部屋の前でうだうだしてたりしてね」
榛名「あ、想像出来ちゃいますね、それ」クスクス
榛名「……ちゃんと渡せますかね? お姉さま」
榛名「積極的に見えて意外と踏ん切りつかないところもありますし」
榛名「結局渡せず終い、なんてことには……」
霧島「大丈夫よ、榛名」
榛名「霧島?」
霧島「たしかにお姉さまはいざって時にチキンで二の足ふんでばっかりでもう見ててバレバレなんだから
早く告白しちゃいなさい! って感じだけど」
榛名(そこまで言ってない……)
霧島「だけどね――」
――――――――――
金剛(……ううん、それじゃあダメダメネー、金剛!)
金剛(このチョコには妹たち(比叡除く)の想いだって込められてる……)
金剛(これを今日渡さないということは、すなわち)
金剛(妹たち(比叡除く)を裏切ることに他なりマセーン!)
――――――――――
霧島「私たちの期待はいつだって裏切らない、素敵なお姉さまでしょ?」
榛名「……ふふっそうでしたね」
榛名「それにしても……」
比叡「くかー……」
榛名「つまみ食いするだけして真っ先に眠りこけるなんて……」
~執務室前~
金剛「これ以上悩んでいても決心が鈍るだけデース」
金剛「いざ! 私の実力見せてあげ、」
バタァン!
島風「…………」
金剛「Wow、ぜかまし! 急に中から出てこないでくだサーイ!」
島風「…………」ウルル
金剛「……ぜかまし?」
島風「提督の――――ぶぁっっっっかああああぁぁぁぁぁぁ!」
スタタタタタタタ……
金剛「…………」ポカーン
金剛(中で何が起こったのかわかりませんが……)
金剛(私の中で決心が音を立ててへし折れたのはたしかネー……)
金剛(ぜかまし、泣いてたネー……)
金剛(一体、なにが……)
金剛「――ええい、ままヨ!」
ガチャ
金剛「ヘーイ提督! 今日が何の日か知ってマスかー!」
提督「俺が初めてお前にコブラツイストをかけた日と俺が初めてお前に腕ひしぎ十字固めをかけた日と
俺が初めてお前に投げっぱなしジャーマンをかけた日のどれにしたい? いずれにしても忘れられない
記念日にはなりそうだなぁ」
金剛「失礼しましたネー!」
バタン
金剛「…………」
金剛(はっ、体が反射的に防衛行動を取ってしまいマシタ)
金剛「し、失礼しますネー……」ガチャ
提督「……ったく、できるなら最初から普通に入って来いってんだ」
提督「俺がやかましいのが嫌いだってのは知ってるだろうが、嫌がらせか? むしろ嫌がらせか? あぁん?」
金剛「そ、そういうわけではないデース!」
金剛「ただ、その……」
金剛(テンションに任せないと……何を喋っていいのかわかんないんデース……)
提督「で? 何の用だ。俺だって暇じゃねぇんだ、手短にな」
金剛「あぅ……」
金剛(後ろ手に隠したチョコレートが……重いデース……)
金剛(と、とりあえず世間話を挟んで……)
金剛「そ、そういえば今しがたぜかましが泣き叫びながらこの部屋を飛び出していきマシタよ?
まーったく、一体どんな酷い仕打ちをしたデスかー?」
提督「ああ、島風か。あいつならバレンタインだーとかほざいてたからチョコレートは嫌いだと一喝してやったらあのザマだ」
提督「あいつのやかましさも筋金入りだな、お前にゃかなわんが」
提督「……どうした、世界が終わったような顔しやがって。間抜け面に拍車がかかってるぞ」
金剛「え? あ、いや……」
金剛(チョコレートは嫌い、ですか)
金剛(任務失敗――ですネ)
一旦離脱、夜には終わらせると思う
金剛「あ、ゴメンナサーイ、私ちょっと急用を思い出したネー!」
提督「あぁん?」
金剛「いやー申し訳ない、可及的速やかに処理しなければならない案件を抱えていたことをすっかり
忘れていマシター! それでは私はこれにて失敬するネー!」
提督「……ったく、台風みてぇな奴だな手前ぇは。まぁお引き取り願えるってんならそれに越したこたぁ
ねぇけどよ」
提督「その手に持ってるブツをどうにかする暇もねぇくらい忙しいのか」
金剛「…………!」
金剛(今日に限って……なんでこんなに鋭いデース……)
金剛「や、これはその……」
提督「はぁ……あのな、普段手前ぇが俺のことをどう見てるのかは知らんが、俺だってそこまで馬鹿な
わけじゃねえさ」
提督「手前ぇが俺にチョコを渡しに来たんだろうってことぐれぇ簡単に想像つくわこのたわけ」
金剛(……全部ばればれデース……)
金剛「て、提督がチョコレートを嫌いだなんて知らなかったんデース! それは、ほんとに、ごめんなさいネー……」
金剛「これは私が責任もって――」
提督「持って帰る必要はねぇだろうが」
金剛「――え?」
提督「せっかく持ってきた手荷物をそのまま持って回れ右する必要もないだろうって言ってんだよ、
察しが悪ぃな脳内螺子不足娘」
金剛「脳内螺子不足娘って……いや、そんなことより!」
金剛「じゃ、じゃあその、これ……」
金剛(あ、私今すっごくドキドキしてる……)
金剛(きっと、人に気持ちを伝えるときってこんな気持ちなんだ……)
金剛(胸がぎゅってなって、顔がかーって熱くなって、切なくて苦しくて……だけど――)
金剛(――嫌な気分じゃ、ないデース)
金剛「提督、じゃあ、このチョコレート――」
提督「おう、そこのゴミ箱にでも突っ込んどけ」
金剛「――――ぇ、」
提督「俺に渡すためのチョコレートだったんだろ? 俺が受け取らねぇならつまりはゴミってことじゃねぇか」
提督「わざわざゴミを持って帰る必要もないだろ」
提督「あぁ、敗戦処理が趣味だってんなら無理にとは言わねぇがよ」
金剛「――――」
金剛「――あ、はは」
金剛「は、ははは、ははははは!」
提督「……なんだよ」
金剛「いえいえ、なんでもないデース! 提督の想像通りの反応にちょっとおかしくなっただけネー!」
金剛「ただ、ひとつだけ予想外だったのは、」
金剛「海の底って、こんなに真っ暗なんデスね――」
バレンタイン編終わらず
続きはまた明日
~金剛ルーム~
金剛「ただいまネー」
榛名「お帰りなさいお姉さま!」
霧島「お帰りなさい。首尾はどうでした?」
金剛「あはは……残念ながら、デース」
榛名「あ……」
霧島「それは……なんというか……」
金剛「そんな顔しないでくだサーイ、二人とも! ある意味予想通りの結果ネー!」
金剛「この程度でめげてなんていられまセーン! バレンタイン大作戦が失敗に終わっても第二第三の作戦が
提督に襲い掛かりマース!」
榛名「……お姉さま、無理してますよね……」ヒソヒソ
霧島「……みたいね。あんまり励ましたりしないで流してあげたほうがいいかしら……」ヒソヒソ
金剛「二人でなんの内緒話デース?」
榛名「あっ、いえ、なんでもありません」
霧島「ちょっと今後の話について……」
金剛「Oh、そうでしたカー! それなら――そこのねぼすけさんもお話に混ぜてあげましょうかネ」
比叡「くかー……むにゃむにゃ」
金剛「Hey、比叡! さっさと起きるデース!」
比叡「んぅ……むにゃ?」
比叡「ぅあれ? お姉さま……」
金剛「やーっとお目覚めですネー! まったく、徹夜で手伝ってくれたのは妹二人も同じなのに
次女が聞いてあきれマース!」
比叡「…………」
金剛「ホラ、いつまで寝ぼけてるデース? ちゃっちゃと頭を切り替えて次の作戦を、」
比叡「えーっと、お姉さま? よくわかんないんですけど――」
比叡「私でよければ胸を貸しますよ?」
金剛「……っ」
金剛「……まだ頭がお目覚めじゃないみたいですネー。まずは顔を洗って……」
比叡「うーん……まどろっこしい!」ガバッ
金剛「ひゃうっ!? 急に抱きしめないでくだサーイ!」
比叡「もー、私がどれだけお姉さまのこと見てると思ってるんですか」
金剛「ひ、えい?」
比叡「そりゃ私真っ先に寝ちゃって状況よくわかんないですけど、お姉さまが無理してるなーってことくらい
顔見て声聞いたら一目瞭然ですよ」
比叡「元気いっぱい明るさ爆発はお姉さまのいいところですけど……」
比叡「私らの前で無理なんかしないでください。悲しくなっちゃいます」
金剛「――――」
金剛「――なぜ、なんでしょうネ」
金剛「顔を見れば憎まれ口」
金剛「気に食わなければすぐ暴力」
金剛「ホント、酷いところしか見つからないような人なのに」
金剛「なんで、なん、で……」
金剛「なんで――嫌いになれナイの……!」
金剛「つらいよ! 苦しいよ!」
金剛「胸が、胸が……張り裂けソウなの!」
金剛「嫌いになれたどれだけ楽になれるか……!」
金剛「デモ、無理なの!」
金剛「私は好き! あの人が、提督が好き! それだけはどんなにがんばっても嘘つけナイ!」
金剛「あの日から、初めて会ったあの日から――」
金剛「最初で最後の、あの人の『本当の笑顔』が、忘れられナイ……!」
金剛「ひっ……く」
金剛「うっ……ぁぁぁぁぁあああああん!」
比叡「よしよし、お姉さまは泣き虫ですねー」ナデナデ
金剛「ひっ、ぅぅぅぅぅううう! ぁぁぁぁぁあああ!」
比叡「仕方ないですよね、恋ってそういうものらしいです」
比叡「ささいなことがきっかけで」
比叡「希望ないなー、これ無理だなー、ってわかってて」
比叡「でも、諦められない。諦めたくない」
比叡「ほんと、泣きたくなっちゃいますよね」
榛名「…………」
霧島「…………」
比叡「でもね、お姉さま。この戦いに終わりなんてないんです」
比叡「敗北なんてないんです」
比叡「人の心なんてとっても不確かなものだから、『今』が無理でも『いつか』がある」
比叡「相手が振り向いてくれるって信じていられるなら――恋に終わりなんて、ないんです」
金剛「……ひっく……比叡……」
比叡「だから、お姉さま。大丈夫ですよ」
比叡「お姉さまが嫌いにならないなら。嫌いになれないなら」
比叡「恋の戦いは――お姉さまの完全勝利です!」
金剛「…………」
金剛「…………くすん」ゴシゴシ
金剛「そう、ですね」
金剛「エヘヘ……ちょっと情けないところ見せちゃいマシタ」
金剛「うん、そうデース! つらくても頑張りマース! 立ち向かいマース!」
金剛「いつの日か――恋の地平線に、勝利を刻むその日マデ!」
霧島「……なんていうか、さ」ヒソヒソ
榛名「……なんでしょう」ヒソヒソ
霧島「本当、お姉さま『たち』は……期待を裏切らないわね」ヒソヒソ
榛名「ふふ……そうですね」ヒソヒソ
金剛「……ところで比叡?」
比叡「なんでしょうお姉さま? 泣き足りないならいくらでも……」
金剛「いや、そうじゃなくて……いつまで私のこと抱きしめてるデース?」
比叡「……お姉さま」
金剛「……What?」
比叡「相手が振り向いてくれるって信じていられるなら――恋に終わりなんて、ないんです」
金剛「いいセリフが一気に台無しデース! ええい、さっさと離すデース!」
比叡「嫌だー! 数少ないお姉さまをハグできるチャンス、みすみす逃せませーん!」
ギャーギャーワーワー
霧島「……うん、ほんと裏切らないわよね……」
榛名「あはは……そう、ですね……」
もうちょっとだけ続くんじゃ
明日は無理なんで明後日でようやくバレンタイン編に一区切りの予定
改めて読み直すといろいろとミスが酷いけど気にしない
書いていきます
提督「…………」カリカリ
提督「…………」トントン
提督「……ふう、終わった」
提督「これでようやくこの仕事も一区切りか」
提督「……けっ、もう日付が変わっちまうじゃねーか」
提督「どれ、寝る前に仕事上がりの一服でも――」
コンコン
提督「――入れよ、秘書艦」
長門「失礼します」ガチャ
長門「よくわかりましたね、私だと」
提督「悲しいことにご丁寧にドアをノックするような奴、この鎮守府にゃお前以外いねぇんだ
ったく、泣ける話だぜ」
長門「なるほど、そうでしたか」
提督「で? 我が信頼すべき秘書艦サマがこんな時間になんの御用だい?
悪ぃが夜這いなら余所当たってくれや、ラブドールのデリヘルなんかじゃ
勃つもんも勃ちゃしねぇ」
長門「そろそろお仕事を終えられた頃かと思いまして。明日の任務に必要な資料です、
今日のうちに預かっておこうかと」
提督「……図ったかのようなタイミングだな、相変わらず気色悪ぃ。手前ぇのそういうところは
いつまで経っても好きになれねぇやね」
提督「ああすまん語弊があったな、お前に好きになれる要素なんざなかったわ」
長門「ご安心ください、私も貴方のことが嫌いです」
提督「そうか、そりゃ安心だな」
長門「ええ」
提督「…………」
長門「…………」
提督「……話を戻そうか」
長門「……はい」
長門「――たしかに受け取りました」
提督「おぉ、好きなだけ持ってけ。そして二度と俺の一服の時間を邪魔するんじゃねぇ」
長門「それは失礼しました。それでは――」
長門「――この、ゴミ箱に捨てられているのは?」
提督「あぁん?」
提督「……はん、クソみてぇな目ざとさだな。ビッグセブンなんて御大層なあだ名つけられてるわりにゃ
目の付け所はゴミ屑みてぇなみみっちさだ」
長門「そうですか」
長門「して、これは?」
提督「……見ての通りだ。ゴミになったチョコレート。それ以上でも以下でもねぇ」
長門「チョコレート――なるほど。あの娘ですか」
提督「一体どいつのことを思い浮かべたのかさっぱり想像もつかんが違うとだけ言っておく」
長門「金剛型戦艦の一番艦のことですが」
提督「訊いたわけじゃねぇ黙っとけ」
長門「それで? なぜ彼女のチョコレートがこのように捨ててあるのでしょう?」
長門「丁寧にラッピングされているところから察するに、バレンタインのプレゼントかなにかだったのでは
ないでしょうか」
提督「……はんっ、知るかよ」
提督「俺は食わねぇから持って帰れと命令したんだ。しかしあの娘っ子、泣きわめきながら結局
そのゴミ箱に捨てていきやがった、けっ、余計なゴミ増やしやがってよ」
長門「…………」
長門「……ゴミ箱に捨てる、ということは、所有権を放棄するということ」
提督「あ?」
長門「言い換えれば今このゴミ箱に捨てられているチョコレートは誰のものでもない」
提督「おい秘書艦、手前ぇ急になに言ってやがる」
長門「それはつまり」
長門「このチョコレートを今の段階で拾ったとしても、それは誰かから受け取ったということにはならない」
提督「……なにが言いてぇ」
長門「時刻は……もう日付を跨いでいますね」
長門「バレンタインデーも終わりました。日付とチョコレートの因果関係もなくなります」
提督「やめろ」
長門「もしも提督がそれを『捨てさせた』のだとしたら――」
提督「長門」
長門「……そう呼ばれるのも久しぶりですね」
提督「くだらねぇ戯言はやめろ。詭弁だ」
長門「そうだ、詭弁だ」
提督「――――」
長門「ゴミ箱に捨てられたのだとしても」
長門「日付を跨いだのだとしても」
長門「それが彼女からの、貴方に対する想いの現れであることに変わりはない」
長門「それは誰よりも貴方がわかっているはずだ」
提督「…………」
提督「……何の話をしてるのか、さっぱりだな」
長門「……そうか。ならばこれ以上言うことはなにもあるまい」
長門「つくづく難儀な生き方を選んだものだな」
長門「では。……上官に対する無礼な発言、どうぞお許しください」
提督「不問にする。とっとと失せろ」
長門「ありがとうございます。それでは私はこれで」ガチャ
提督「ああ、最後にひとつだけ」
長門「……なんでしょう」
提督「難儀な生き方を選んだのは――お互い様だろうが、長門」
長門「…………」
長門「……ふっ、なんのことだかわからんな」
提督「そうかよ、とっとと行っちまえ秘書艦」
長門「失礼しました、提督」
バタン
提督「……詭弁、か」
提督「…………」ガタッ
ガサゴソ
提督「……ったく、チョコレートが嫌いだってのは本当なんだがな」パクッ
提督「…………」モグモグ
提督「……けっ、甘ったりぃな糞が」
中途半端なところで寝落ちしたごめん
とりあえずここでバレンタイン編終了
また後でくるかも
『金剛四姉妹』
雪風「……指令、作戦会議の前にひとつお尋ねしたいんですが」
提督「なんだ雪風」
雪風「今回の任務……なんでこのメンバーなんでしょう?」
提督「ああ、そのことだがな」
金剛「Wow! 私たち四姉妹が一堂に会するなんて提督もわかってマース!」
比叡「戦艦四隻に駆逐艦一隻、この艦隊にどんな意図が……はっ、まさかそれを突き止めるのも
指令からの挑戦状!?」
榛名「お姉さま方と一緒の任務だなんて……榛名、緊張します」
霧島「これはデータにない戦果を挙げられそうですね……!」
提督「俺が聞きたい」
提督「大方どっかで書類だか伝達だかにミスがあったってとこなんだろうが……」
雪風「ち、ちょっと個性的な面々が揃っちゃいましたね」
提督「この惨状を個性的の一言で容認できるお前の懐のでかさにゃ感服するわ。俺はもうすでに頭が痛い」
提督「幸い大した任務じゃねぇ、多少バランスが悪くても問題はなかろうが……」
比叡「さあ二人とも、これはお姉さまを引き立てるチャンスよ! 私たちがうまーく周りの雑魚を蹴散らして
お姉さまに敵旗艦を叩いてもらう。そうすれば見事お姉さまがMVP、指令もお姉さまに一目おくって
寸法よ!」
榛名「なるほど、比叡お姉さまはそこまで考えてらっしゃるのですね! 素晴らしいです!」
霧島「任務ひとつをとっても指令を振り向かせるひとつの作戦になり得る……さすが比叡お姉さま、お考えが
深いですね」
金剛「ちょっ、三人とも声が大きいデース! 提督に聞かれちゃいマース!」
比叡「だーいじょうぶですよ、あのにぶちん指令じゃ聞こえてたってなんにも気づきはしませんって」
金剛「だからシャラップ! にぶちんとか提督に聞かれたら悲惨な目に遭っちゃうヨー! 主に私が!」
榛名「お、お姉さま、お姉さまが一番大きい声だしてますよ」
金剛「Ouch!」
提督「出撃まで俺の堪忍袋がもつかわからん」
雪風「あ、あはは……抑えて抑えて……」
提督「おい四馬鹿共、作戦会議とピクニックの話し合いの区別がつくくらいの知能があるってんなら
ちっとは黙ってみせろ」
金剛「ほ、ほら、提督もう怒ってるネ……あはは、ごめんなサーイ、提督ぅ。私たち四人が揃って任務に
当たるなんて初めてのことだからちょっと舞い上がっちゃったネー」
提督「はっ、どうせなら雲の上まで舞い上がってお天道様に黒焦げにされて来いってんだ。年中春真っ盛りの
手前ぇらの頭ん中にもようやく夏が訪れるんじゃねぇか?」
金剛「て、提督! 私はともかく妹たちのことは悪く言わないであげてくだサーイ!」
提督「あぁ?」
金剛「妹たちが騒がしくしてるのは一番艦である私の監督不足デース! 罵るなら私だけにしてくださいネー!」
比叡「お、お姉さま……」
提督「……そうか、なら前言撤回してやろう」
比叡「! 指令……!」
提督「榛名と霧島には悪ぃこと言ったな」
比叡「私はー!? 私にはー!?」
金剛「わかってもらえればいいんデース」ウンウン
比叡「全然よくありませんからね!? 謝罪相手がひとり足りてませんからね!?」
提督「言っておくが今回のメンバーはイレギュラーだ。なんらかのミスでこんなみょうちくりんな艦隊が
出来上がっちまった。間違っても俺の采配ではないということは念押ししておく」
金剛「あ、そうなんデスか……ちょっとがっかりデース。あ、でも、」
提督「手前ぇら組ませるくらいなら雪風を単騎突入させる方がまだマシだ」
雪風「いやいや指令さらっとおそろしいこと言わないでください!?」
提督「……まだ間に合うか」ボソッ
雪風「早まっちゃダメですー!」
提督「冗談に決まってんだろうが。いくらお前でも一人で無理させたりはしねぇよ」
雪風「もう……指令の冗談は冗談に聞こえません」
提督「お前さんはもうちょっとユーモアを持つべきだな」
雪風「そういう問題じゃありません!」」
提督「かっかっか、お堅ぇなお前は」
金剛「あ、……」
提督「あんだ娘っ子、なんか言いたいことでもあんのか」
金剛「や、えっと……なんでも、ない、デス」
金剛(普段の作戦会議ってモットお堅いからわからなかったケド)
金剛(提督と雪風って……こんなに仲良くお話するんですネ……)
金剛(提督……楽しそう……)
金剛(私には、あんな態度、なのに……)
金剛(やっぱり提督、雪風のこと……)
金剛(アハハ、難しい恋だなんてわかってたはずなのに)
金剛(こうして見せつけられちゃうと……ちょっとつらいネー……)
雪風「…………」
比叡「ちょっと待ってください、指令!」
提督「誰が発言を許可した会議中は挙手しろタコ助」
榛名「そういえばこれ、会議でしたね……」
霧島「なんだかんだで指令も雑談ばっかりだったわね」
提督「そこの二名も黙れぃ」
比叡「はい! はい! 発言してもいいですか!」
提督「却下だ!」
比叡「理不尽極まりない!」
比叡「指令、さっきから雪風とばっかりきゃっきゃうふふしててずるいです!もっと私たちも
構ってくださいよ!」
提督「お断りだ馬鹿野郎。脳内花畑連中はお仲間同士でよろしくしてろ」
雪風「指令。そろそろちゃんと会議しましょうか。待ちくたびれちゃってる人もいるみたいですし」
提督「ん? あぁ、そうだな。そしたら――」
雪風「それと、ちょっと後でお話ししたいことがあります」
雪風「――金剛さんとのことについて」ボソッ
提督「――――」
提督「――どいつもこいつも、くだらねぇことばっかり気にしやがって」
提督「それじゃあ行って来い――出撃せよ」
五人「了解!」
バタン
提督「……ふぅ」
――――――――――
雪風『お話は作戦の後で』
雪風『指令、なんだかおかしいです』
雪風『まるで――全部わかってやってるみたい』
――――――――――
提督「……おかしい? 俺が?」
提督「…………はっ」
提督「はっ、はははは」
提督「ははははははははははは!」
提督「おかしいのは、手前ぇらの方だろうが……!」
今日はここまで
四姉妹メインでくだらないぐだぐだ話書こうと思ったのに
どうしてこうなった
『秘密』
金剛「それじゃあ私は入渠してくるネ」
比叡「はーい、ごゆっくりー」
バタン
金剛「ふぅ……」
金剛(妹たちとの初出撃……ちょっとはりきりすぎちゃったネ)
金剛(だけどその甲斐あってかMVPは私)
金剛(提督……少しは見直してくれてるカナ?)
金剛(…………)
金剛(期待はできないネー……)ハァ
金剛(それにしても、雪風が進んで報告に行くなんて珍しいネ)
金剛(大抵はFlagshipの私が行くのに、今日は雪風の強い要望でつい任せちゃったケド)
金剛(提督と雪風……)
金剛(今頃、どんなお話してるデース……)
金剛(作戦会議の時も内緒話してマシタし……)
金剛「ええい、気にしてもしかたありまセーン!」
金剛「ひとっ風呂浴びて心も体もさっぱりしてくるデース!」
~執務室前~
金剛「……来ちゃった」
金剛(自分の意志の弱さにうんざりデース……)
金剛(いや、これは偶然デース!)
金剛(入渠ドッグに向かおうとしてたらうっかり道を間違えてしまったネー!)
金剛(彷徨っていたら知らぬ間に提督の執務室前に来ていマシタ!)
金剛(イヤー、偶然って怖いネー!)
金剛(……むなしいヨー……)
ガチャ
雪風「失礼、しました……」
金剛(あっ、しまっ)
雪風「あ……金剛、さん」
金剛「あ、アハハ……こんなところで偶然ネー、雪風」
雪風「…………」
金剛(うう、なんだかすごい見られてマース……盗み聞ぎしてたと勘違いされてるのカモ……)
雪風「……聞いてました?」
金剛(Shit! 案の定ネー!)
金剛「き、聞いてないヨー! 全然、全く、ホントに!」
金剛(嘘ついてないのに我ながら嘘くさいネー!)
雪風「…………」
雪風「どうやらほんとみたいですね。よかった……」
金剛(よかった……?)
金剛(そこまで聞かれたくない話、ダッタの?)
雪風「いや、ごめんなさい疑っちゃって。別に大した話をしてたわけじゃないんですけど……」
金剛「ほんとに、デスか?」
雪風「え?」
金剛「雪風、今すっごく安心してたネー。そこまで私に聞かれたくなかったってことデスよね?」
雪風「違、そういうわけじゃ!」
金剛「それだけじゃありまセーン。雪風、作戦の間もなんだか上の空デシタ」
金剛「今の話が、関係あるんじゃないデスか?」
雪風「…………」
金剛「私には……言えマセンか?」
雪風「……ごめん、なさい」
金剛「あ、はは……謝らなくていいデース。内緒にしたいことのひとつやふたつ、誰にだって……」
雪風「そうじゃなくて!」
金剛「……え?」
雪風「そうじゃ、なくて……」
金剛「雪風……?」
雪風「ごめんなさい……ごめん、なさい……っく」ポロポロ
金剛「ちょっ、雪風!? 泣かないでくだサーイ! 別にそこまで気にしなくても……」
雪風「ごめんなさい、ごめんなさい……金剛さん」
雪風「司令官のこと……諦めてください」
金剛「――――」
雪風「本当に、ごめんなさい……私、応援するとか無責任なこと……ひっく」
金剛「待っ、……て。くだ、さいネー……」
金剛「それ、……一体、どういう……?」
雪風「……ぅぐ……ごめん、なさい……」
金剛「謝っててもわかんないヨー! どういうことデース!」
雪風「そのままの意味ですよぉ!」
金剛「ひっ、」
雪風「司令官にこれ以上付きまとわないでください! 司令官にこれ以上アタックしないでください!」
雪風「司令官のこと――好きでいること、やめてください!」
雪風「ダメ、なんです……から……」
雪風「だから……ごめんなさい!」ダッ
金剛「あっ、待って……」
金剛「どういう、ことデース……」
金剛(……そっか)
金剛(どういうことも、なにも)
――――――――――
提督『手前ぇら組ませるくらいなら雪風を単騎突入させる方がまだマシだ』
雪風『いやいや指令さらっとおそろしいこと言わないでください!?』
提督『……まだ間に合うか』ボソッ
雪風『早まっちゃダメですー!』
提督『冗談に決まってんだろうが。いくらお前でも一人で無理させたりはしねぇよ』
雪風『もう……指令の冗談は冗談に聞こえません』
提督『お前さんはもうちょっとユーモアを持つべきだな』
雪風『そういう問題じゃありません!』
提督『かっかっか、お堅ぇなお前は』
――――――――――
金剛(そういうこと、なんデスね)
金剛(うん、考えてみればしっくりくるネー)
金剛(雪風、提督と一番長い付き合いだって言ってたし)
金剛(仲もよくて息もぴったり)
金剛(考えれば考えるほどお似合いデース)
金剛(初めから――私に入る余地なんて、なかったネー)
金剛(アハハ……とんだピエロデース)
金剛(よく任務に出されるから、ひょっとして気に入られてる? とか勘違いシちゃって)
金剛(バレンタインのチョコレート? 食べてもらうまでもなくゴミ箱行きネー)
金剛(そもそもまともに会話したのも……最初の頃に少しだけ)
金剛(そうデース、最初から私に勝ち目なんて……)
金剛「……勝ち、目?」
――――――――――
比叡『恋の戦いは――お姉さまの完全勝利です!』
――――――――――
金剛(ふ、ふふふ……)
金剛(大事なこと、忘れそうになってたネー……)
金剛「…………」スゥ
金剛「私――提督のこと諦めまセェェェェェェエエエエエン!」
金剛「雪風ぇぇぇぇえええ! 待つデェェェェエエエエエエス! 詳しく話を聞かせなサァァァァァアアアアイ!」
ダダダダダダ……
~執務室~
――――――――――
金剛『私――提督のこと諦めまセェェェェェェエエエエエン!』
金剛『雪風ぇぇぇぇえええ! 待つデェェェェエエエエエエス! 詳しく話を聞かせなサァァァァァアアアアイ!』
――――――――――
長門「随分と大胆な娘ですね、あの戦艦は」
長門「まさか本人と扉一枚越しにあれほど大きな声で告白とは」
長門「私も見習いたいものです」
提督「…………たわけが」
寝落ちった
続けます
提督「それで。手前ぇはいつまでここに居座るつもりだ」
長門「おや、手厳しい。あの駆逐艦に対する気遣いの1パーセントでも私に分けて貰いたいくらいです」
提督「一生叶わねぇ夢だ捨てちまえ」
長門「そうですか。残念です」
提督「…………」
長門「…………」
提督「おい秘書艦、いい加減に、」
長門「いつまでと言うなら」
提督「あ?」
長門「いつまでと言うなら、提督は……いつまでこんな中途半端な生き方をしていくんですか?」
提督「…………はぁ」
提督「あのな? 秘書艦。んな話はとっくの昔にケリつけたじゃねぇか」
提督「なんでいまさら蒸し返す必要がある?」
長門「同じでしたから」
提督「何が?」
長門「さっきの駆逐艦――あの日の私と、同じ顔でしたから」
提督「…………」
長門「あの日私は決めました。全てを、提督の想いの全てを知った上で、それでもなお貴方のそばにいることを」
長門「私は強かった。全てを知ってなお、貴方の秘書艦でいられる強さがあった」
長門「自分で言うのもおかしな話ですがね」フッ
長門「ですが、あの駆逐艦は……」
提督「…………」
長門「もう一度お尋ねします、提督」
長門「いつまで、こんな中途半端なことを続けるつもりですか」
提督「……いつまで、か。んなもん決まってらぁな」
提督「この戦いが――終わるまでだ」
長門「――――」
長門「この戦いの結末を、貴方は以前予想していましたね」
長門「それはつまり……そういうこと、なのですね?」
提督「……そうだ」
長門「そう、ですか」
長門「それならば私からはもう言うことはありません」
提督「そうか、ならとっとと――」
長門「ええ」
長門「現時刻をもって、長門型戦艦一番艦長門、秘書艦を解任させていただきます」
提督「……は?」
提督「おい、ちょっと待て」
長門「長い間お世話になりました。これからは一戦艦として鎮守府を守る力になります」
提督「待てと言っている!」
長門「……何か?」
提督「何かも糞もあるか! 勝手に決めてんじゃねぇぞ糞アマが! それを決めるのは俺の判断で、」
長門「はっはっは!」
提督「な、」
長門「おかしなことを仰いますね、提督。貴方が望んだことではありませんか」
提督「は? 何訳のわかんねぇことを……」
長門「燃料6000。弾薬5000.鋼材7000.ボーキサイト2000」
長門「建造妖精が見積もったおおよその時間は八時間」
長門「もうじき報告があがるかと」
提督「…………?」
提督「……っ! まさ、か」
長門「ええ、そのまさかです」
長門「提督が次の秘書艦に予定していた艦娘が、間もなく建造されます」
提督「ついに、あいつが……」
長門「そういう訳です。もう私は用済みでしょう?」
提督「いや……待て」
長門「なぜです? 私より強い彼女が、貴方の望みだったはず」
長門「貴方が仰っていた言葉ではありませんか。『あいつさえ造れればお前はもう用済みだ』と」
長門「それを今さら何を仰っているんですか。まさか――」
長門「今になって同情ですか?」
提督「違、う……」
長門「そうですよね、違いますよね。貴方にとって艦娘なんて使い捨ての駒に過ぎない」
長門「駒として有用な条件は純粋な強さ――ああ、あの駆逐艦は例外ですが」
長門「より強い駒が手に入れば、後はお役御免」
長門「そこに艦娘側の私情が挟まる余地はない。だって艦娘だから」
長門「人ではないから」
長門「化け物だから」
長門「だから貴方は――簡単に使い捨てられる」
提督「それは違う!」
長門「――――」
提督「それだけは、違う。使い捨てになんかしねぇ。だから、だからこそ俺は――」
長門「――そう、ですね。失礼しました」
長門「また、口が過ぎてしまいましたね。私はこれで失礼します」
長門「私が秘書艦としてこの部屋に来ることは、もうありません」
長門「…………世話になったな、提督」
提督「長門……」
長門「そんな顔するな。別に鎮守府からいなくなるわけじゃない」
長門「ただ少し――距離が離れるだけだ」
提督「――――」
長門「楽しかったよ、提督。貴方から浴びせられる罵詈雑言の数々、嫌いではなかった」
長門「ただ……無理をするのはもうよせ。貴方のためにならない」
長門「いや、少し違うか」
長門「誰のためにも、なりはしない」
長門「その、難儀な生き方――限界なんじゃないか」
提督「……うるせぇ。とっとと消えちまえ。手前ぇなんか大嫌いだ」
長門「そうか」
長門「私は愛してるよ――提督のこと」
提督「……糞が」
長門「ふふっ、一日に二人から告白されても口は減らないんだな」
長門「では――失礼しました」
バタン
提督「…………」
提督「はぁ……」
提督「俺ぁ……一体何のために戦ってんだ……」
ここまで
長門さんエピソードもっと深めてからにすればよかったか
どうも思ったより展開が早い
金剛(あの日から――雪風が態度を翻した、あの日から)
金剛(鎮守府に、ちょっとだけ変化が訪れマシタ)
金剛(まずは雪風)
金剛(私とはもちろんのこと、他の艦娘たちとも距離を取るようになりマシタ)
金剛(表情もなんだか浮かない様子デース)
金剛(結局あの日提督と何を喋ったのか、知ってるのは当事者のみ)
金剛(段々と、彼女の存在は鎮守府の中で浮いていきマシタ)
金剛(次に提督)
金剛(意気消沈の雪風に倣ってか、提督もなんだか元気がありまセーン)
金剛(私への暴言も物足りない感じがシマース)
金剛(別に望んでる訳ではありマセンが!)
金剛(……だけど)
金剛(提督があんなだと……調子狂っちゃいマース……)
金剛(やっぱり、雪風と何か関係があるんでしょうカ……)
金剛(これは私にはあんまり関係ありマセンが)
金剛(長門さんが秘書艦を解任されたそうデース)
金剛(てっきり提督が勢い余ってクビにしたのかと思いましたが、どうも自分からやめたとのこと)
金剛(本人が言ってるのだから間違いないのでショウ)
金剛(Why? と思ったのも束の間)
金剛(理由は、すぐにわかることとなりマシタ――)
金剛「みんな、お疲れさまネー。提督への報告は私からしておきマース」
島風「よろしくお願いしまーす。行こっ、連装砲ちゃん」
比叡「後はお願いします、お姉さま! 私はお先にひとっ風呂浴びてきます!」
島風「あ、一番風呂は私だもーん!」
比叡「へへーん、早い者勝ちですよ島風!」
島風「速さなら負けない! ほらほらおっそーい!」ピュー
比叡「え、ちょ、フライングは反則ー!」タター
金剛「あの二人はあんなに元気なのに入渠する必要あるんでしょうカ……」
金剛「ねぇ? 雪風」
雪風「……私も、失礼します」
金剛「あ、……行っちゃいマシタ」
金剛「なんだかあんまりHappyって様子じゃアリマセンが……」
金剛「提督とうまくいってる、って言うわけじゃないんデショウか……」
金剛「提督は提督で暴言にキレがなくなってマスし」
金剛「……なにがなんだかさっぱりデース」
~執務室前~
金剛(…………)
金剛(ちょっとだけ、ほんのちょこっとだけですケド)
金剛(入り、づらいネー……)
金剛(どうもむっつりして不機嫌そうな提督は苦手デース)
金剛(どうせなら罵詈雑言をまくし立てられる方がよっぽどマシネー……)
金剛(――――)
金剛(――今の提督、なんだかまるで)
金剛(本気で怒ってるみたい、デース……)
金剛(今までは、実はそこまで怒ってなかったんじゃないかってくらい)
金剛(今の提督――怖い、デス)
金剛(かと言って報告をブッチするわけにもいかないデース……)
金剛(ハァ……腹をくくるしかないみたいネー)
金剛(…………よし!)
バターン
金剛「Hey、提督ぅ! 今日もCuteでPrettyな私が――」
「――ふふ、そうなんですか。それで提督は……あら?」
金剛「…………What?」
金剛(知らない人が提督と二人きり……予想外デース)
金剛(いや、というか本当にドチラサマ?)
金剛(『ここ』にいる女性、という時点で艦娘なのはおそらく間違いないのデショウが――)
金剛(――――?)
金剛(私――知ってマス)
金剛(この人のこと――知ってる)
金剛(アレ? おかしいデース)
金剛(会ったことは、絶対ありまセン。顔に見覚えが全くないデスし)
金剛(じゃあ、これは……何?)
金剛(知ってる。覚えてる)
金剛(私の中の『ナニか』が、彼女のことを覚えてる)
金剛(そう、彼女は。彼女の名は――)
金剛「――――大和」
大和「――――」
大和「――覚えていて、くれたんですね。金剛さん」
大和「ちょっとだけ……ううん、すっごく嬉しいです」
金剛「大和……大和!」
金剛(怖い。怖い怖い怖い)
金剛(なにコレ……彼女の名前を呼ぶ度に、胸の中がアツくなっていく)
金剛(何かが溢れて――こぼれそうになる)
金剛(これは、誰の気持ちデース?)
金剛(わからない……わからない!)
大和「……そっか。まだ大和のこと、完全には思い出してないみたいですね」
金剛「っ!」
金剛「あの、私、その……」
大和「いいんです。大和は日陰者でしたから」
大和「貴女とこうして一緒に戦える――それだけで、十分」
金剛「大和……」
提督「感動の再会は終わったか?」
大和「あ、提督……ごめんなさい、お話の途中だったのに」
提督「いや、構わんさ。口を挟んできたのはそっちの娘っ子だ」
金剛「……っ」
金剛「ご、ごめんなさい。私、邪魔だったネ……」
提督「あ……いや、」
金剛「報告……作戦の報告、だけデース。終わらせたらすぐに出ていきマース」
提督「……そうか。ならさっさと済ませて行っちまえ」
金剛「はい、デース」
大和「えっと……提督、金剛さんに対して少し冷たくはありませんか?」
金剛「や、大和! 私は別に構いまセーン!」
大和「だっておかしいですよ、提督。さっきまではあんなに優しそうだったのに……」
大和「金剛さんが入ってきた途端別人みたいです」
金剛「えっ……」
金剛(優しそうだった? 提督が?)
金剛(は、ハハ……大和にも取られちゃいマシタ)
金剛(大和にも……)
金剛(来たばかりの、大和にも……!)
金剛(…………)
金剛(……来たばかりの大和に、優しく?)
金剛(それって、なんだか……)
提督「こいつにはいいんだ、大和。放っておけ」
大和「そうは言いましても……」
提督「それよりもさっきの話、よろしく頼んだぞ」
大和「……まだ、お答えはできません」
提督「構わんさ。だが、色よい返事を待ってるぞ」
提督「……で? 娘っ子は報告があるんじゃないのか」
金剛「はっ、はいネー。先の任務の報告をしマース」
大和「それでは、私はこれで。……金剛さん、よかったら近いうちにお話ししましょう?」
大和「話したいこと。大和には、いっぱいありますから……」
金剛「あ、はい。私は全然OKデース」
大和「そう、ですか」ニコッ
大和「ありがとうございます。それではまた後日、お誘いに伺いますね」
大和「では、私は本当にこれで。失礼しました」
ガチャ バタン
金剛「…………」
提督「……報告、するんだろう?」
金剛「あ、はいデース……」
金剛(二人きりになると、やっぱり気まずいデース……)
金剛(それにしても、さっきの感覚)
金剛(来たばかりの頃に優しく、か)
金剛「では、報告を始めるネー――」
金剛(――なんだか、私が来た時のこと、思い出しマース
とりあえずここまで、間隔空いてすまぬ
後ほどまた来ます
『ティーパーティー』
~金剛ルーム~
金剛「……さて大和。まずは最初に日本語が不勉強な私にひとつ教えていただきたいのデスが」
大和「なんでしょう金剛さん」ニコニコ
金剛「『後日』という言葉の意味なのデスが……『次の日以降』、という意味であってマスか?」
大和「ええ、その通りです。不勉強なんて謙遜しなくていいですよ」
金剛「そうデスか、ありがとうございマース。それでは次の質問デスが」
大和「はい?」
金剛「『また後日お誘いに伺います』と言った、なぜその日にお茶会が開かれてるデース!?」
大和「…………?」
金剛「なんで不思議そうな顔するデース! なんで小首を傾げるデース!」
大和「金剛さんはとってもお元気なんですね」クスクス
金剛「Oh my god! 会話のCatch ballができまセーン!」
大和「いいじゃないですか、そんなこと。善は急げと言いますし」
金剛「……まあ、私も別に困るわけではありまセーン」
金剛「ただ……」
金剛(大和と話をするなら、もう少し時間が欲しかったデース……)
金剛(正直心の準備が全然できてまセーン)
金剛(やっぱり……大和と一緒にいると、胸の奥がざわざわしマース)
金剛(なんなんデスか……この気持ちは……)
大和「ただ……なんですか?」
金剛「あ、いや、なんでもないデース」
金剛「さ、お湯も沸いたみたいですしお茶を淹れますネー」
大和「ありがとうございます。金剛さんの淹れるお茶、楽しみです」
金剛「…………」
金剛「さ、どうぞ召し上がれ。日本風に言うなら『粗茶デスが』といったところデース」
大和「粗茶だなんてとんでもない。とってもいい香りがします」
金剛「私の国ではポピュラーな紅茶デース。大和の口に合えばいいのデスが……」
大和「では、いただきます――あちっ」
金剛「Oh、大丈夫デスかー? 気を付けないと火傷しちゃいマース!」
大和「ご、ごめんなひゃい……私、猫舌だったみたいれす……」
金剛「慌てる必要ありまセーン、その人にとって飲みやすい温度が適温なんデスから」
大和「うう、ありがとうございます……」
金剛「お茶請けは……スコーンでいいデスか?」
大和「はい。……はふぅ、ようやく舌が慣れてきました」
大和「うん、とっても美味しいです。大和、気に入っちゃいました」
金剛「それはWonderfulデース。大和は日本茶の方が好きそうでしたから気に入ってもらえてなによりデース」
大和「日本茶……なんでですか?」
金剛「なんとなく、デスかね。ほら、名前も『大和』って昔の日本の呼び名デスし」
金剛「立ち振る舞いもまさしく『大和』撫子って感じデスしネー」
大和「なるほど。……ふふ、金剛さんにそう言われると、この名前、好きになりそうです」
金剛「とってもBeautifulな名前でうらやましいデース。私なんて『金剛』デスよ?
女の子につける名前じゃありまセーン!」プンプン
大和「……女の子につけられた名前じゃ、ありませんもんね」ボソッ
金剛「Pardon?」
大和「いえ、なんでもありません」
大和「だけど、金剛さんの名前もかっこよくて素敵だと思いますよ?」
金剛「そう、デスかね?」
大和「はい、そうです」
金剛「……まあ、大和がそう言うならそういうことにしておきマース」
大和「そういうことにしておいてください」クスクス
金剛「そんなことより! ほらほら、冷めないうちに紅茶飲んでくだサーイ! 適温逃したらもったいないデース!」
大和「あ、ごめんなさい。それじゃあスコーンと一緒に――」
ワイワイ キャッキャ
金剛「そういえば」
大和「はい?」
金剛「さっき提督と話していたのはいったいなんのお話デース?」
金剛「お答えできマセンとか色よい返事を、とか言ってマシタけど」
大和「ああ……大した話ではないんです」
大和「ただ、提督が私に秘書艦にならないか、と持ち掛けてきまして」
金剛「アハハ、なんだそんな話デシタか」ズズー
大和「はい、そんな話です」ズズー
金剛「…………って秘書艦!?」ブハァッ
大和「にゃっ!? きちゃない、きちゃないです金剛さん!」
金剛「げほっ、げほっ、Sorryネ、大和。でも秘書艦って、あの秘書艦……?」
大和「あのもなにも秘書艦っていったらひとつしかないと思いますけど……」
金剛(秘書艦といったら提督の一番そばでその仕事を助けるいわばPartner Ship!)
金剛(私も着任直後に提督から直々に任命されたものの)
金剛(なぜか一週間でお役御免となりその後はお声がかかる気配もなし)
金剛(……そういえば提督が私に冷たくなり始めたのもそのころからデース)
金剛(やっぱり書類間違えて私と駆逐艦五隻で任務に行くことになって私以外が
ぼろぼろになって帰ってきた事件がまずかったのデショウか……?)
金剛(あの時の提督……怖かったナー……)ブルル
大和「どうかしました?」
金剛「……ちょっと嫌なこと思い出しただけネー」
大和「なんでも前任の艦娘――長門さんが、辞められてしまったみたいで」
大和「それも私の着任を見越して、ということだったらしいんです」
大和「だから提督としてもなんとか私にやってもらいたいみたいで……」
金剛「Oh、たしかに長門が秘書艦を辞めたって話、この間任務で一緒になった時聞きマシター」
金剛「なるほど、心強い後釜が来るとわかっていてこその決断というわけだったんですネー」ウンウン
大和「うう……そんな、大和には秘書艦だなんて……」
金剛「アレ? あんまり乗り気じゃないデース?」
大和「提督から聞いたんです……昔、書類ミスのせいで一艦隊潰しかけた秘書艦がいるって……」
大和「そんな話聞いたら、プレッシャーになっちゃいますよぉ……」
金剛「……ソレハタイヘンデスネー」
大和「だからお返事は待ってもらっているんです。まだ、心の準備ができてませんから……」
金剛「……まあ、あんまり無責任なことは言えマセンけど」
大和「え?」
金剛「やってみてもいいんじゃないデースか? あの提督が誰かをアテにするってとってもRareなことデスし」
金剛「私なんかきっと土下座したって任せてもらえまセーン。ちょっぴりうらやましいくらいデース」
金剛「だから、っていうわけじゃないデスけど……やってみるのも、アリじゃないかと思いマース」
金剛「もちろん、」最終的に決めるのは大和デスけどね
大和「金剛さん……」
大和「……もうちょっと、考えてみたいと思います」
金剛「それがいいネー」ニコ
大和「そういえば今の話で思い出したんですけど」
金剛「What?」
大和「金剛さんって、その……提督からあまり……」
金剛「Oh、痛いとこを突いてきますネー……」
大和「ご、ごめんなさい! 話づらいことだったら全然気にしないでください!」
金剛「アハハ、別に構わないヨー」
金剛「ただ……そうですね、前からそうでしたけど、最近の提督は特にあたりが強い気がしマース」
大和「やっぱり……」
金剛「でもネ、大和」
金剛「あなたを見ていたら、ちょっとだけ昔のこと思い出しマース」
金剛「提督がまだ、私に厳しくなかった最初の一週間」
金剛「ホントに短い間でしたケド、とってもとっても楽しくて、幸せデシタ
金剛「あ、今は今で楽しいし幸せですけどネ?」
金剛「……提督が私に向けてくれた最初で最後の笑顔、忘れられないナァ――」
――――――――――
提督『待ってた……ははは、ずっと待ってた!』
提督『よく来てくれた……この、俺の鎮守府へ』
提督『これから、俺のために戦ってくれ――金剛!』
――――――――――
金剛「――ああ、そっか」
大和「へ?」
金剛「や、なんでもないネー」
金剛(私、あの瞬間から――初めて顔を合わせたあの瞬間から)
金剛(提督のこと……好きだったみたいデース)
大和「……? おかしな金剛さんです」
金剛「ふふ、ごめんなさいネー。まあ大和は私みたいに一週間でアイソ尽かされないように頑張ってくだサーイ」
大和「むしろなにをしたら一週間で愛想尽かされちゃうんですか……?」
金剛「……ワカンナイネー」
大和「嘘です、絶対嘘です! 今後の参考のためにもおしえてくださーい!」
金剛「無理デス、絶対無理デース! こんなBlack Chronicle教えられまセーン!」
ワイワイキャーキャー
また間が空いたけどここまで
じわじわ終わりに向かってます
読み返したら地味にミスがあった死にたい
所々かぎかっこおかしくなってるけど気にしないでよろしく
果てしなく今さらだけど人によっては不快になる要素が多々含まれています
特に今回は展開急なのではぁ?って思うかも知れないけど残念ながらそういうSSなんですごめんなさい
投下します
――――――――――
雪風『ねえ、金剛さん』
雪風『指令のこと好きですか?』
雪風『ふふ、そうですか。でもね、金剛さん――』
雪風『指令は、私とお付き合いしてるんですよ?』
――――――――――
金剛「っ!」ガバッ
金剛「はぁ、はぁ……」
金剛「また、この夢デースか……」
金剛(こんな時に、私……最低デース)
金剛(今日の予定は……Offデシタか)
金剛(ちょうどよかったデース)
金剛(こんな気分で出撃なんて、したくありマセーン……)
金剛(それに、今日は――)
比叡「あ、お姉さま……」
金剛「比叡……おはようございマース。良い朝ですネー」
比叡「……えと、えと」
金剛「……ゴメンナサーイ。軽口が過ぎマシタ」
比叡「いえ、そんな……」
比叡「……今日まで、なんですよね」
金剛「……そうデスね」
比叡「み、短くありませんかね?」
金剛「え?」
比叡「だって、たった三日ですよ? そんな短いんじゃ、なにも――」
金剛「比叡は……初めてデシタっけか」
比叡「あ、……はい」
金剛「そうデシタか。最近はめっきり減りましたもんネ」
金剛「減った……はずなのにネ……」
比叡「お姉さま……」
金剛「昔はネ、もうちょっと長かったんデース」
比叡「そう、なんですか?」
金剛「ええ。誰よりも必死になってマシタから」
比叡「誰がですか?」
金剛「提督が」
比叡「……指令が? あの指令が?」
金剛「ふふ、やっぱりそう思いますよネ。私も初めて提督のあの姿を見た時はビックリギョウテンだったヨー」
金剛「でも、『あの』提督が、必死になってたんデス。私たちのために」
金剛「大本営にTelしてたこともありマシタ。『七十二時間なんてふざけんな、もっと仕事しろアホンダラ!』って」
比叡「大本営にアホンダラって……怖いものなしですね、あの人は」
金剛「――むしろ。怖かったのかも知れませんネ」
比叡「え?」
金剛「怖かったのかも知れマセン。提督は」
比叡「なにが、ですか?」
金剛「――現実が。怖かったのかも知れマセン」
金剛「だから、必死に走り続けていたのかも知れないデース」
金剛「追いつかれないように。捕まらないように」
金剛「必死に目を背けながら、足掻いていたのかも知れまセーン」
比叡「じゃあ……」
金剛「ん?」
比叡「じゃあ、なんで今の指令は、傍観してるんですか?」
比叡「ピンチじゃないですか」
比叡「時間、ないじゃないですか」
比叡「なのに、なんで今の指令は、なにもしようとしないんですか?」
比叡「指令は、なんで……あんなに艦娘に対して、冷たくなっちゃったっていうんですか……!」
金剛「比叡……」
比叡「……ごめんなさい。お姉さまに当たったってなにも解決しないことくらい、わかってるのに……」
金剛「いいんデース。それで比叡が少しでもRelaxできるナラ……」
金剛「ケド……私にもわかりまセーン」
金剛「ある艦娘には怒鳴ってみて」
金剛「ある艦娘にはSmileしてみて」
金剛「ある艦娘にはDryにしてみて」
金剛「ある艦娘には優しくしてみて」
金剛「提督が何考えてるのか……全然わかんないデース……」
比叡「お姉さま……」
ピーンポーンパーンポーン
比叡「!」
金剛「――――」
長門『秘書艦代理、長門だ』
長門『本来秘書艦を解任された私がする仕事ではないのだが、現在秘書艦の座が空席のため急遽私が
代理として任されることとなった』
長門『……鎮守府全人員に連絡する』
長門『先の任務――トラック諸島海域における連合艦隊作戦から、早くも三日の時間が流れた』
長門『まだ傷の癒えていない者もいるだろう』
長門『そんな諸君らに追い打ちをかけるようになってしまい申し訳ないが、報告する――』
――――――――――
――――――――――
長門『――さらには探索開始から七十二時間の経過』
長門『以上の理由をもって……』
比叡「いや……いや!」
金剛「比叡……耳を閉じてはいけまセーン」
比叡「だって! お姉さまは平気なんですか!?」
金剛「平気なわけがないでショウ!」
比叡「っ!」
金剛「平気なわけ、ないデース。平気な人なんて、この鎮守府にいるはずありまセーン」
金剛「だけど、これが現実なんです」
金剛「目を背けちゃいけない……ウウン、目を背けては進めないことなんデース」
比叡「う、うううぅぅぅぅ……!」
長門『――以上の理由をもって、陽炎型駆逐艦八番艦、雪風の捜索を断念する』
長門『――轟沈だ』
一旦ここまで
~金剛ルーム~
榛名「ねえ、金剛お姉さま?」
金剛「……………」
榛名「雪風はどこに行っちゃったんですか? なんで帰ってこないんですか?」
金剛「榛名……」
榛名「比叡お姉さまは? 教えてくれないんですか?」
比叡「あのね、榛名……雪風は、ね?」
榛名「?」
比叡「あ、う……」
霧島「……ほら、榛名。お姉さま方を困らせないの」
榛名「だって雪風が……」
霧島「うん、きっとお仕事で忙しいのよ。だからいい子にして待ってましょ?」
榛名「……うん」
霧島「……ごめんなさい、お姉さま方。ちょっと榛名にはショックが大きすぎたみたいで」ボソボソ
金剛「榛名、ちょっとChildに戻ってしまったみたいネー」ボソボソ
比叡「幼児退行……現実逃避ってことですか」ボソボソ
霧島「きっとすぐ元には戻ると思いますから、少しだけ話を合わせてあげてください」
榛名「お仕事、お仕事……ふふふ」
金剛「榛名、どうしマシタか? なにか楽しいことでもあったデース?」
榛名「あのね、金剛お姉さま。この前のお仕事すっごく楽しかったなーって」
比叡「この前?」
榛名「はい」
榛名「金剛お姉さまがいて」
榛名「比叡お姉さまがいて」
榛名「榛名がいて」
榛名「霧島がいて」
榛名「それから、それから――雪風が、いて」
榛名「みんなで仲良く出撃して」
榛名「榛名、とっても楽しかったです!」ニコニコ
金剛「…………」
比叡「…………」
霧島「…………」
霧島「あの日から、でしたよね」
比叡「え?」
霧島「雪風の態度がおかしくなったのが、です」
比叡「ああ、そういえば……」
霧島「それまでいつもにこにこ笑顔を振りまいてるような子だったのに」
霧島「あの日から、雪風……全く笑わなくなって……」
比叡「鎮守府の中でも浮いてってたしね……なんかとっつきづらくなったというか」
霧島「私は、壁を張られているように感じました」
比叡「そう、それ! なんか一定の距離を置こうとしてる感じ」
霧島「今さら、ですけど……今回の彼女の件とは、やっぱり関係は……」
比叡「ある、でしょうね。鎮守府の中でまず間違いなく沈まないだろうってもっぱら噂になってた雪風だもん」
比叡「なにが原因かって言ったら、もうそれくらいしか思い浮かばないわ……」
霧島「本当……雪風になにがあったのかしら……」
金剛「二人は。あの日の作戦会議のこと、覚えてマスか?」
比叡「え? お姉さま、急になにを?」
金剛「いいカラ。覚えてますか?」
比叡「え、えっと……記憶力には自信ないからなぁ……」
霧島「……そっか。指令との会話」
比叡「へ? へ?」
金剛「うん、そうデース。あの時、たしかに雪風は提督となにか内緒話をしてマシタ」
金剛「それからデス。雪風の態度がおかしくなったのは」
霧島「言われてみれば、作戦実行中も物憂げな様子ではありましたね」
霧島「つまり、なにかを知っているとするならば――」
金剛「提督、ということになりマース」
比叡「よ、よくわかんないですけど! つまりは指令のとこへカチコミい行けばいいってことですね!」
霧島「いや、比叡お姉さま、さすがにそれは短絡的では……」
金剛「ウウン、それであってマスよ、比叡」
霧島「お姉さま?」
比叡「それなら私が! 難しい話はできなくても拳で語り合うことくらいなら、」
金剛「No、デース」
金剛「提督のもとへは私が行きマース」
比叡「そんな、でも!」
金剛「拳で語り合う必要はありマセンよ、比叡」
金剛「私がちょっと言ってお話してきマース」
金剛「だから、三人には……ここで待っていてほしいデース」
比叡「まあ、お姉さまがそこまで仰るのであれば……」
霧島「お願いします、お姉さま」
金剛「ハイ、ちょっと行ってくるネー」
榛名「金剛お姉さま、お出かけするんですか?」
金剛「……そうデース、提督とちょっと大事なお話してくるネー」
榛名「ふーん……? 行ってらっしゃい!」
金剛「ウン、行ってくるヨー」
今日はここまで
金剛(――――)
――――――――――
雪風『とにかく! 司令官を振り向かせるんです! 司令官の笑顔をゲットするんです!』
――――――――――
金剛(――――)
――――――――――
雪風『司令官のこと――好きでいること、やめてください!』
――――――――――
金剛(――結局、最後まで雪風の考えてること、わかりませんデシタ)
金剛(とってもとっても、付き合い長かったハズなのに)
金剛(私、雪風のこと……なんにも知りませんデシタ……)
金剛(…………)
金剛(……もっと、知ろうとしていれば)
金剛(雪風が孤立してた時。雪風が苦しんでた時)
金剛(私が力になってあげれば……)
金剛「雪風は……沈まなかったデース?」ウルッ
金剛「…………」ゴシゴシ
金剛「後悔してもしょうがないデース」
金剛「今はただ、確認しなくちゃいけまセーン」
金剛「雪風がなにを知ったのか」
金剛「提督がなにを隠してるのか」
金剛「二人が――なにを想っていたのか」
~執務室~
金剛「失礼するネー」ガチャ
金剛(暗い……お留守デシタか?)
提督「――誰だ」
金剛「ひゃっ!」
金剛「て、提督……いたんデース?」
提督「……俺の部屋だ、居てなにが悪い」
金剛「別に悪くはないですケド、電気くらいつけてくだサーイ。心臓に悪いデース」
提督「……るせぇ。出てけ」
金剛「で、出てけって、随分なゴアイサツデース。今電気つけマスから……」
提督「出てけってんだよ!」
金剛「ひっ……」
提督「どうせ手前ぇもおんなじなんだろうが! あいつが、あいつらが沈んだのは、俺のせいだと思ってんだろ!」
提督「ああそうさ、俺のせいだよ! 俺が非力で! 無能で! 役立たずだから!」
提督「だから手前ぇらが沈む! ははっ、どんだけ自分を鍛えたところで結果は変わりゃしねぇんだからお笑い草だわな!」
提督「全部……全部俺のせいなんだよ!」
金剛「て、提督、ちょっと落ち着くネー!」
金剛「提督が悪いわけじゃありまセーン。雪風が沈んだのは――」
金剛「…………」
金剛「……あいつ『ら』?」
金剛「あ、あいつらって……提督、雪風のことを言ってるんじゃ、」
提督「夕立も!」
金剛「え?」
提督「漣も! 五十鈴も! 叢雲も神通も白雪も綾波も敷波も電も霰も不知火も荒潮も三日月も!」
提督「……雪風、も」
金剛「っ!」
提督「全員……全員、俺が殺したんだ……!」
金剛「提、督……」
金剛(……聞き覚えのある名前、何人かイマース)
金剛(みんな、昔轟沈した艦娘デース)
金剛(というコトは)
金剛(私の知らない、他の名前の艦娘も……)
金剛「提督……それって、もしかして……」
「よしてやれ」
金剛「あ、長門……」
長門「よしてやれ。これ以上今の提督にその現実は突きつけてやるな」
長門「本当に壊れてしまうぞ」
金剛「……長門は、知ってるデース?」
長門「何をだ?」
金剛「全部デース。雪風が何を知ったのかも、提督が何を隠しているのかも、それに……今の名前も」
金剛「全部、デース」
長門「そうだな。端的に言ってしまえば、知っている」
長門「というより、全て同じ話だがな」
金剛「それナラ!」
長門「教えないぞ」
金剛「っ! ……なんで、デース?」
長門「理由はふたつ」
長門「ひとつ。私が勝手に話していい話ではない」
長門「提督のプライバシーに関わる話だ。聞きたいのなら提督から直接聞け」
金剛「……もうひとつは、なんデスか?」
長門「答える前にひとつ訊きたい。知ってどうする?」
長門「確かに一概に君とも無関係だとは言い切れん。しかしそう簡単にほじくり返していい話でもない」
長門「決していい気分にはならない話だ。それでもなぜ問おうとする?」
金剛「そ、そんなの……提督の力になりたいし、」
長門「なれなかったのがあの駆逐艦だ」
金剛「…………」
金剛「……What?」
長門「この話を聞き、抱えきれなくなり、迷い苦しんだまま水底へと消えていったのが、あの駆逐艦だ」
金剛「……それって、雪風のことデース?」
長門「ああ、そうだ」
長門「彼女も提督から直々にこの話を聞いた」
長門「そして悩んだ。自分と提督との関係に。彼の在り方に。自分のこれからに」
長門「その結果が――轟沈だ」
長門「君はそうならないと断言できるのか?」
金剛「それ、は……」
長門「確か君も明日大きな作戦を控えていたはずだ」
長門「悩みは迷いを生み、迷いは遅れを生み、遅れは痛手を生む」
長門「その先に待ってるのは、彼女と同じ結末だ」
長門「悪いことは言わん。聞かないでおけ」
金剛「…………」
長門「……まぁ、想い人の悩みを憂う気持ちは、わからんでもないのだがな……」ボソッ
金剛「え?」
長門「独り言だ。さ、もう部屋へ戻れ」
金剛「あ、ちょ、押さないでくだサーイ!」
バタン
金剛「…………」
金剛「……もう、どうすればいいんデスか……」
ここまで
ちまちま進行でもうしわけない
~金剛ルーム~
榛名「比叡お姉さま、ご本読んでください!」
比叡「あ、はい、ちょっと後でね……」
榛名「え……榛名は今読んでほしいです……」
霧島「榛名、わがまま言わないの」
榛名「でも……」
霧島「ほら、あっちで私とおはじきしましょう?」
榛名「うん……」
金剛「…………」
金剛(どんどん、なにかが壊れていきマース)
金剛(今まで積み重ねたものが)
金剛(砂のCastleみたいに、あっけなく崩れていくデース)
金剛(どうして、なんでショウ)
金剛(どうしてこんなことになっちゃったんでショウ)
金剛(私は、多くを望んだつもりはアリマセンでした)
金剛(ただ、提督に振り向いてもらいたい)
金剛(笑ってもらいたい)
金剛(傍にいてもらいたい)
金剛(それだけ……だったのに……)
比叡「私、時々思うんです」
金剛「え?」
比叡「あ、これ理不尽だなーっていうか、どうしようもないじゃん、っていうか」
比叡「世界ってそんなにうまくできてないんじゃないかな……っていうか。そんな感じのことを」
比叡「時々思うんです。最近は特に」
金剛「……Oh、奇遇デース。私も最近そんな目にばかりあってる気がしマース」
比叡「きっと私たちが知らないことって、思ってる以上にあるんだと思います」
比叡「それを知ってるのはごく一部の人たちだけで、私たちみたいなのは一生知ることもできなくて」
比叡「なんだかまるで、私たちだけ置いてけぼりにされてるみたい――って言うと大げさですけどね」
金剛「比叡……」
比叡「……ごめんなさい、ただの独り言と思って忘れちゃってください」
金剛「イエ……」
金剛(置いてけぼり……デスか)
――――――――――
長門『彼女も提督から直々にこの話を聞いた』
長門『そして悩んだ。自分と提督との関係に。彼の在り方に。自分のこれからに』
長門『その結果が――轟沈だ』
長門『君はそうならないと断言できるのか?』
――――――――――
金剛(あそこで、あの場面で)
金剛(迷わずにYesと答えることができれば)
金剛(覚悟を決めれば。向き合う勇気を持てば)
金剛(私も置いてけぼりにならないんデショウか?)
金剛(私も――提督と同じもの、見れるデース?)
比叡「――あぁ!」
金剛「Wow! だから比叡は急に大きな声を出さないでくだサーイ!」
比叡「ご、ごめんなさい……」
金剛「モウ……それでどうしたデース?」
比叡「いや、お姉さま……明日の作戦の資料って司令からもらってきました?」
金剛「What? なんのことデース?」
比叡「や、長門さんが秘書艦を辞めちゃって以来、作戦資料を指令からもらって艦隊のメンバーに必要事項伝達するのって
旗艦の仕事になったじゃないですか」
比叡「明日の作戦、お姉さまが旗艦ですよね? 私なんにも教えてもらってないんですけど……」
金剛「……Oh my god」
比叡「忘れてたんですね……」
金剛「仕方アリマセーン、今から提督のところに行ってもらってくるデース」
比叡「すいません、面倒な仕事押し付けてしまって」
金剛「別に比叡が申し訳なく思うことじゃアリマセーン。これも私のお仕事デース」
金剛(提督……少しは落ち着いてたらいいですケド)ハァ
金剛「バタバタしちゃってSorryネー、ちょっとまた出てきマース」ガチャ
クイクイ
金剛「……What?」
榛名「お姉さま――どこ行くんですか?」
金剛「ちょ、榛名、袖を引っ張っちゃダメデース」
霧島「こら榛名、お姉さまの邪魔をしちゃだめよ。こっちに戻ってらっしゃい」
榛名「どこに行くんですか? 金剛お姉さま」
金剛「ど、どこって、提督のところデスよ? すぐに戻ってきマース」
榛名「……やだ」
金剛「……は?」
榛名「やだ。やだ、やだやだやだやだやだやだ!」
金剛「え、は、榛名? 急にどうしマシタ?」
比叡「どどど、どうしました? なにがあったんです?」
金剛「いや、それが私にもさっぱり……」
榛名「やだやだやだぁぁぁぁぁぁあああ! うああぁぁぁぁぁぁあああん!」
金剛「Oh、Jesus……泣かないでくだサーイ、榛名」
霧島「ちょっと榛名、どうしたの? ほら、私と一緒に――」
榛名「いなくなっちゃやだあぁぁぁぁああ! みんな、榛名のこと置いてっちゃやだああぁぁぁあああ!」
榛名「ひっく……えぐ……」
榛名「もう……一人ぼっちは……やだぁ……」
霧島「落ち着きなさい、榛名。私と比叡お姉さまは一緒にいてあげるから、ね?」
比叡「そ、そうですよ榛名。一緒にお留守番してましょ?」
榛名「いやです……榛名、また置いてかれちゃいやです……ひっく」
金剛「榛名……ちょっと頭がPanicになってしまってマース……」
霧島「――金剛お姉さま、ここは私たちに任せてこっそり抜け出してください」ボソ
金剛「霧島? でも……」ボソ
霧島「なーに、心配はいりません。こう見えても私、双子の妹ですから」ボソ
金剛「……ふふ、頼もしいデース」クスッ
金剛「じゃあ、ゴメンナサイ霧島、後はお任せしマース……」コソコソ
ガチャ――パタン
金剛(ふぅ……Child榛名はワガママで大変デース)スタスタ
金剛(まぁ、普段強がってばかりの子デスからね。たまにはあれくらいだだこねてもカワイイものデース)スタスタ
金剛(最後もあんなに泣いちゃって。元気があるのは良いことデース)スタスタ
金剛(もう一人ぼっちはやだとか、また置いてかれちゃうとか)スタスタ
金剛(昔のことでも思い出したんデショウかね。これも幼児退行の影響――)スタスタ
金剛(――――)ピタ
金剛(――昔のこと?)
金剛(ほんの半年前に建造された榛名に――どんな昔があるっていうデース?)
金剛(ア、レ?)
金剛(なにかが……なにかが変ネー)
金剛(考えちゃ、気づいちゃ、いけない気がしマース)
金剛(榛名が、半年前で……え?)
金剛(霧島の建造は――いつ?)
金剛(でも二人は双子で……榛名がお姉さん?)
金剛(おかしい……おかしい、のに)
金剛(なんで誰も疑問に思わないデース……?)
ズキ……
金剛「ぁ、う……」
金剛(また……貴方デスか)
金剛(貴方は一体、誰なんデース?)
ギュ……
金剛(私の胸の奥に棲む、貴方は――)
~執務室前~
『現在立チ入リヲ禁ズ』
金剛「なんデスか、この張り紙は……」
金剛(提督の顔見て、安心したかったのに……)
ズキ……
金剛「っ!」
金剛(胸が、苦しいデス……)
金剛(どうしまショウ……資料、受け取らないといけないのに……)
金剛「……ん? コレ……」
『明日作戦ノ旗艦デアル娘ッ子ハ当文書ヲ持ッテ行クコト』
金剛(提督……わざわざ用意して置いておいてくれたデース?)
金剛(……まあ、私がこれを持っていかないと作戦が成り立たなくなってしまうから、なんでショウけど)
金剛(ちょっとダケ、嬉しいヨー……)
金剛(さあ、これ以上体調がBadになる前に部屋に戻るデース)
金剛(ん、表紙にデカデカと書いてあるのが明日の作戦名デスかね?)
金剛(なになに――)
金剛(――――)
金剛「――――え」
金剛「あ」
金剛「あ、あ、……ああぁ」
金剛「てい、とく……」
フラ……フラ……
金剛「提督……」
金剛「いや、デス……」
金剛「怖いデス……いやデス……」
金剛「提督……助け、」
提督『だからこその手前ぇなんだ……大和』
金剛(提督の、声?)
金剛(この、扉の向こうに)
金剛(提督が、提督が――)
提督『明日の手前ぇの初陣をもって――あの娘っ子はお役御免よ』
金剛「――――」
金剛(深い、深い、海の底)
金剛(心も、体も、沈む)
金剛(冷たくて、寂しくて――懐かしい)
金剛(――ああ、そういうこと、だったんデスね)
金剛(貴方は、そういうこと、だったんデスね)
金剛「全て――思い出しマシタ」
~金剛ルーム~
ガチャ
金剛「…………」
比叡「あ、お姉さまお帰りなさい。もー聞いてくださいよ、あれから榛名ったら――」
金剛「比叡」
ギュッ
比叡「ひえっ……ひえええぇぇぇ!」
比叡「お、おおお、お姉さまそんな大胆な! 妹たちが見てますでも嬉しい!」
金剛「比叡……ああ、比叡」
比叡「……お姉さま?」
霧島「お姉さま、一体、」
金剛「霧島も」
ギュッ
霧島「ひゃっ……」
金剛「ゴメンナサイ……姉の私が、ふがいなかったばかりに……」
比叡「ちょ、お姉さま? なにがあったんです?」
霧島「さ、作戦の資料をもらいに行ったんじゃなかったんですか?」
金剛「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……!」
金剛「それに……榛名」
榛名「?」
金剛「一人ぼっちに、させちゃいましたね」
金剛「本当に……ゴメンナサイ」
ギュッ
榛名「お姉、さま……」
比叡「ど、どういうこと? 霧島」
霧島「わ、わかりません……あら?」ペラ
霧島「これ、明日の作戦の……?」
比叡「ひょっとして、これが関係してるとか?」
霧島「どうでしょう……なにか特別なこと、書いてあります?」
比叡「どれどれ……ううん、見たところただの作戦資料みたい」
霧島「ちなみになんていう作戦なんですか?」
比叡「えーっと……」
比叡「――レイテ沖海戦、だって」
ここまで
史実はちょっと自信ないから「そういう話なんだ」で納得してもらえると助かる
多分あと二、三回で終わります
書き溜め中途半端だけど投下
後は時間と眠気の許す限り書く
ザザァ――ン
比叡「うぅーん……敵棲地と予想される座標までまだしばらくありますねー」ノビー
島風「みんなおっそーい! 早くしないと置いてっちゃうよー!」
赤城「こらこら島風ちゃん、隊列を乱してはいけませんよ」
島風「だぁーってー」
暁「まったく落ち着きがないわね、島風は。そんなんじゃ一人前のレディには程遠いわ」
島風「そんなの興味ないもーん」
暁「あぁもう、うろちょろしないの! ちょっとは赤城さんを見習いなさいよ!」
暁「見てみなさい、このどっしりと構えた居住まい!」ビシッ
赤城「……空母だから、ってことですよね? 暗に食べ過ぎで肥えてて存在感が増してるとかそういうことじゃありませんよね?」ゴゴゴゴゴ…
島風「……よくわかんないけど、暁ちゃんは謝った方がいい気がする」
暁「ご、ごごご、ごめんなひゃい……」ガクブル
比叡「あはは……なんていうか、平和ですねぇお姉さま」
金剛「――――」
比叡「お姉さま?」
金剛(遠い水平線)
金剛(揺れる波の感触)
金剛(鼻をくすぐる潮風)
金剛(眩しいほどの、蒼)
金剛(全部全部、飽きるほど慣れているはずなのに)
金剛(こんなにも懐かしく感じるのは)
金剛(やっぱり、ここが――)
比叡「おねーさまっ」ペチッ
金剛「わっ……」
比叡「もう、いくらまだ戦闘がないといっても、旗艦がそんな調子じゃだめですよ」
金剛「……ゴメンナサーイ」
比叡「……なにか、悩んでるんですよね」
金剛「え?」
比叡「昨日の夜からお姉さま、様子おかしいですもん。わかりますよそりゃあ」
比叡「もう、私が何年お姉さまの妹やってると思ってるんですか」エヘヘー
金剛「…………」
金剛「何年、デスか?」
比叡「へ?」
金剛「何年、デスか? 比叡が私の妹になって、何年経ちマスか?」
比叡「何年って……そりゃ、私が建造されてからですから……」
金剛「比叡が建造されてから? つまり、『この鎮守府に着任してから』?」
比叡「そ、それ以外なにがあるっていうんですか?」
金剛「イエ……」
金剛(やっぱり、そうなんですね……)
大和「金剛さん」
金剛「……大和」
大和「思い、出したんですね」
金剛「…………」
大和「そうなのだとしたら、この作戦は金剛さんにとってつらいものになるかも知れません」
大和「だけど、恐れる必要はありません。過去は過去。今は今。歴史が繰り返されるわけではありません」
大和「今日の作戦だって『あの』レイテ沖海戦ほどの規模ではありませんし」
大和「ですから、なにも心配することは――」
金剛「そうじゃ……アリマセーン」
大和「――え?」
金剛「もちろん、それもありマース。さっきから手の震え、全然止まりまセーン」
金剛「私の中の『彼女』が、ずっとずっとCryしてマース」
金剛「でも、そうじゃナイ。そうじゃないんデース。私が、ずっと考えてること」
大和「金剛、さん?」
金剛「今まで疑問にも思いませんデシタ。自分が建造されるより前のことなんて」
金剛「だって、それこそが私たちのハジマリ」
金剛「産声を上げた瞬間だと思ってたからデース」
金剛「だけど、そうじゃなかった。――No、半分ダケ違ってマシタ」
大和「っ」
金剛「たしかに艦娘としての私たちは、建造された瞬間から存在し始めマース」
金剛「でも、『大和』や『金剛』としての存在は――そうでは、ないんですよネ?」
大和「…………」
金剛「『艦娘はかつての軍艦の魂をその身に宿した存在』」
金剛「誰から教えてもらうでもなく、艦娘なら誰でも知ってることデース」
金剛「だけど、きっとほとんどの艦娘は――私と、大和以外の艦娘は、こう解釈してるはずデース」
金剛「かつて戦場を駆け巡った軍艦たち。その乗組員たちの意志を、『魂』と表現している――と」
金剛「アハハ……そうですよネ。普通ならそう捉えますよネ」
金剛「私もずっとそう思ってマシタ」
金剛「大和――貴女に会うマデは」
大和「……ごめんなさい」
金剛「大和が謝る必要なんてアリマセーン」
金剛「悪いのは、気づいてしまった私デース」
大和「でも……」
金剛「ハイ。でも、そのきっかけは大和との出会い――再会、デシタ」
金剛「私は自分の胸の奥で『ナニか』が感情を揺らしていることに気づきマシタ」
金剛「変な話デース。自分の心の中なのに、全然理解できなくて」
金剛「私の中に別の誰かが棲んでいる。そう、考えマシタ」
金剛「だからこそ私はその『ナニか』を『貴方』だとか『彼女』だとか表現してマシタ」
金剛「……違ったん、デスね」
大和「…………」
金剛「この胸の奥でざわめいているものこそが、魂」
金剛「かつて日本海軍として戦場に赴いていた戦艦金剛、それ自体」
金剛「マゴウコトなき、『私自身』デシタ」
大和「「……そこまで、気づいていたんですね」
金剛「ハイ。全て根拠があるわけではアリマセーン」
金剛「だけど、わかりマース」
金剛「『金剛』は、今も叫んでる」
金剛「海を疾れと」
金剛「火を噴けと」
金剛「敵を沈めろと」
金剛「キット、人間で言うところの本能ってヤツなんでショウね」
金剛「私たち艦娘は、この衝動には抗えまセーン」
金剛「なぜならそれが、私たちの存在理由だからデース」
金剛「艦娘が艦娘たる理由……それが、軍艦の魂」
金剛「不思議なことにそれに気づくどころか、軍艦だった頃のMemoryを持ってる者もほとんどいませんケドね」
金剛「私たちはなんの疑問も持たず」
金剛「ただ、魂の命令に従って、戦い続ける」
金剛「それが――艦娘としての、定め」
大和「金剛さん……でも、」
金剛「だからね、大和。おかしな話なんデース」
大和「え?」
金剛「私たち艦娘がかつての軍艦の魂を宿して」
金剛「戦闘衝動にのみ従い敵艦を沈めるというのナラ」
金剛「――感情なんて、いらないんデース」
大和「なっ!」
金剛「だって、そうでショウ?」
金剛「情なんて持ってしまったら、相手を攻撃するのをためらってしまうかも知れまセーン」
金剛「私たちは、ただ砲撃できればいいんデース」
金剛「雷撃できればいいんデース」
金剛「艦載機を発艦できればいいんデース」
金剛「全ては敵を沈めるため。ダッテ軍艦なんデスから。だから、だから――」
金剛「――誰かを想う必要なんて、ないんデース」
大和「違っ、違います、金剛さん!」
金剛「違いまセーン! 恋愛感情なんて私たちにはいらないんデース!」
金剛「こんなの、こんなの邪魔になるだけデース!」
金剛「私たちは、敵を攻撃するために存在しているんデース!」
金剛「私の中の『金剛』はそう言ってマース!」
金剛「あなたの中の『大和』も――そうなんじゃありマセンか!?」
大和「……っ!」
金剛「……そうデス、あの人だって言ってマシタ。私たちは『撃つ機械』だと」
金剛「その通り、デシタね。否定の言葉も出てきまセーン」
大和「それ、は……」
赤城「――っ! 偵察機が敵影確認! 距離3000!」
金剛「!」
大和「!」
金剛「……やることは、変わりありまセーン。敵を沈めるそれだけネー」
大和「…………」
金剛「赤城! 敵艦隊の詳細は!?」
赤城「――駆逐イ級二隻、雷巡チ級、戦艦ル級、および空母ヲ級一隻を確認!」
金剛「Main dishの前の前哨戦といったところデスか……」
金剛「FlagShip金剛より全艦へ通達! これより我が艦隊は敵艦との戦闘海域に入りマース!」
金剛「艦隊は単縦陣を継続、そのまま敵艦隊と衝突しマース! 赤城は艦載機の発艦Please!」
赤城「了解!」
金剛(怖くナイ――怖くないヨー、『私』)
金剛「さあ――全砲門、Fire!」
思ったより進まなかった、とりあえずここまで
魂のくだりとか艦娘は軍艦の頃の記憶をうんぬんとかは多分原作と食い違うだろうから
そういう設定ってことで勘弁
――――――――――
金剛「――ハァ、ハァ。これでようやく敵さん殲滅、デース?」
赤城「いえ、敵増援部隊確認! 数20! うち空母ヲ級3隻!」
金剛「くっ……!」
金剛(そろそろ、燃料と残弾数が心配になってきマシタね……)
金剛(最悪撤退も考慮しないと――)
金剛(…………)
金剛(No)
金剛(逃げの一手なんてアリエマセーン)
金剛(おめおめと尻尾を巻いて帰ったところで――どうせ私はお役御免、なんデスから)
金剛(仲間たちを逃がすのは、私が沈んでからでも遅くありまセーン)
金剛(最後マデ、『艦娘』として戦い抜く――!)グッ
金剛「さあ、次の相手は――」
比叡「待ってくださいお姉さま!」
金剛「なんデスか? 比叡」
比叡「さっきから無茶が過ぎますお姉さま! わざわざ隊列を崩してまで単艦で敵陣に突っ込む必要ないでしょう!?」
比叡「そもそもなんで旗艦であるお姉さまが他の艦を庇うんですか!? お姉さまおかしいです!」
金剛「……なにも、おかしくなんてありまセーン」
比叡「いえ、おかしいです! まるで、お姉さままるで――」
比叡「――自分から沈もうとしてるみたい!」
金剛「――――」
比叡「ねえ、お姉さま? 一旦退きましょう。もう他の娘たちもぼろぼろです。
――お姉さまが必死に庇うおかげでお姉さまほどではないですけど」
比叡「だからお姉さま、ここはひとまず体勢を整えて――」
金剛「比叡。配置に戻りなサーイ」
比叡「……え?」
金剛「配置に戻りなさいと言ったんデース。戦闘中は無駄口を叩くものではありまセーン」
金剛「私たちは軍艦デスよ? 戦闘中におしゃべりをする軍艦がどこにいるデース?」
比叡「そ、そんな……」
金剛「戦闘に集中しなさい、比叡。撤退命令はまだ出せまセーン。みんなまだ戦えるデショウ?」
比叡「それはお姉さまが庇うから!」
金剛「私のことはいいんデース」
比叡「よくない! よくないです!」
金剛「比叡」
比叡「う、うぅ……!」
金剛「行くデース」
比叡「…………」
比叡「絶対……沈んじゃヤですからね」ザザッ
金剛「…………」
金剛「ゴメンナサイ、比叡」ボソッ
金剛(私に帰るべき場所なんて、もうないんデース)
金剛(あの人にとって役立たずになった私に、帰る場所なんて)
金剛(あるのは――還る場所、ダケ)
金剛(この海のどこかに、あの日沈んだ『私』は眠っている)
金剛(だから、ね? 怖くないんデスよ? 『私』)
金剛(ただ、あるべき場所へと戻るだけなのだから)
金剛(軍艦として、戦って沈むならそれは本望デース)
金剛(それが『私』の、軍艦『金剛』の魂の、望みでショウ?)
金剛(――――ナノに)
金剛(――――どうして)
金剛(こんなにも、苦しいんでショウ――)
――――――――――
暁「くっ、避けきれない! ――うぅ!」
金剛「暁!」バッ
ゴウゥーーーン
金剛「っつぅ……!」
暁「こ、金剛さん!」
金剛「だ、大丈夫デスか? 暁」
暁「私が大丈夫でも金剛さんが!」
金剛「私のことは気にしないでくだサーイ」
暁「で、でも……」
金剛「なるべく攻撃よりも回避に集中してくだサーイ。間違っても轟沈だけはないように」
金剛「もしもの時は撤退もやむを得まセーン。それと……」
金剛「私のわがままにつき合せて、ゴメンナサイ」ボソッ
暁「えっ?」
島風「連装砲ちゃん! まだいける!?」
島風「…………」
島風「…………ねえ」
島風「…………ねえってば」
島風「……返事してよぉ! 連装砲ちゃん!」
島風「……やだ、よぉ……ひとりぼっちになっちゃうよぉ……」
駆逐イ級「■■■■■■」ジャキ
島風「――あ、」
駆逐イ級「■■■■■■」ゴゥン!
島風「っ!」
金剛「ああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!」
ガイィーーーーン
ズゴゥゥゥウン
島風「――へ?」
金剛「……ア、ハハ……綺麗に殴り飛ばせるかと思いましたケド、そううまくはいかないみたいデース……」
島風「あ、ああ……」
金剛「ハァ、ハァ……平気、デスか?」
島風「金、剛さん……手が……右手が……!」
金剛「ハハハ……真っ黒こげデース……」
島風「笑ってる場合じゃ!」
金剛「――もしもの時は、迷わず逃げてくだサーイ」ザザッ
島風「金剛さん!」
赤城(艦載機のみなさんも、大分墜とされてしまいました……ごめんなさい)
赤城(他の娘たちは大丈夫かしら……)
金剛「赤城!」
赤城「――金剛さん! 貴女なんでそんなけがを!」
金剛「そんなことより、赤城の方はまだDangerな状態ではないみたいデスね」
赤城「え、ええ……」
金剛「もう少しだけ、もう少しだけ耐えてくだサーイ」
金剛「戦艦組が敵旗艦を叩ければ戦況は大分楽になるはずデース。あるいは――」
金剛「こちらの旗艦が大破以上の損傷を受ければ、さすがに撤退せざるを得なくなるはずデスから」
赤城「え……?」
赤城「……! 貴女、まさか!」
金剛「もしもの時は、他の娘たちを連れて行ってあげてくださいネ」ザザッ
赤城「待ちなさい、金剛さん!」
比叡「だあぁぁぁぁらあああああぁぁぁぁぁぁあぁあああ!」ズダダダダダダダ
比叡「私が、私が頑張らないと!」ゴウゥン
比叡「お姉さまが無茶しちゃうんです!」ズガァン
比叡「私が頑張らないと!」ズウゥン
比叡「お姉さまが沈んじゃうんです!」ガァン
比叡「私が……私がああぁぁぁぁぁぁあああ!」ダァァァァァン
金剛「比叡……」
金剛(ゴメンナサイ、比叡)
金剛(残されるつらさ、私の方が痛いほどわかってるハズなのに)
金剛(……もしもの時は、妹たちのこと、お願いしマース)
金剛(後は――大和のところデスか)グッ
金剛(…………)
金剛(…………)スッ
金剛(彼女のところに行って――私になにができるデース?)
金剛(あの戦艦『大和』のところへ)
金剛(私が行って、なにをするデース?)
金剛(私よりもあの人に頼りにされている、大和のもとに――)
金剛(っ!)フルフル
金剛(こんな考え――いりまセーン)
金剛(今はただ、敵を沈めることに集中しないト――)
金剛「――――」
金剛「――ハハ」
金剛「――アハハ」
金剛「この展開は――ちょっと聞いてないデース」
金剛(サイアクの『もしも』が――起こってしまったみたいデスね)
戦艦棲姫「サア……シズミナサイ」
期間空いたごめん
今日はここまで。思ったより長引きそう
このSSまとめへのコメント
期待
文章はとても読みやすく艦娘も可愛いんだけど、提督が非道すぎてプレゼントの下りで冷めちゃったのが残念
理由があるにしても同情できないよなぁ
なんだか結末が気になるss
ただのくそ提督じゃんスレタイに胸糞って書いとけよ
も し か し て 流 し 読 み で す か ぁ ?
読み込んでもつまんなかったよ?
オリ提督の過去のトラウマとか全く共感も感情移入もできんのよ
落差が酷すぎて鬱展開以外じゃ茶番にしかならん駄作やね
艦娘が轟沈するほどの話を提督のプライベートだから聞くなってのは無理があるよな、生き死にかかってる方にしてみればお前のメンタルなぞ知るかって感じだろうし
ようは考え方次第だ
ここで終わるとめちゃくちゃモヤモヤするんだが