女友「主人公になりたい」女「は?」 (14)


・百合風味ss

・一話完結式

・更新は遅め






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女・本作の主人公、女子中学生。

女友・女子中学生、女の友人。



「漫画の主人公みたいな人生が送りたい」

 昼休み。弁当の包みを畳みながら校内放送に耳を傾けていたところ、隣から妙な雑音を拾ってしまった。
私の友人、女友だ。

「何言ってんのアンタ。今は冬だよ? 春じゃないよ?」

「もう……分かってるよ、いきなり変なこと言ったなぁってことはさ。
でもこれ読んでたらああ主人公になりたいって思っちゃったんだよ。桐も読む? これ」

 そして女友から漫画を押し付けられる。
 表紙を見てみるとそこには目の大きな女の子に腕を取られる男の子の絵があった。
この漫画は知っている。読んだことはないけれど、有名な漫画だ。

 …………というかこれ恋愛マンガじゃない。しかも主人公は男なんだけど。
 これを読んで主人公みたいな人生が送りたいってことは……だ。

「なに、女の子にもてたいの? そっちの気があるの?」

 わざとらしくススス、と身を引いてみる。

「んええ!? いや違うよ! 私はこの男の子がたった一週間の勉強で赤点回避するから
羨ましいなぁって思っただけで……そっち方面には何の興味もないよ! 
他はギャグのところしか読んでないしね、知ってるでしょ!? 私はギャグマンガ好きなの!」

「アハハ」

 思った以上の反応がもらえたのでついつい声に出して笑ってしまった。
 そうすると女友は頬を膨らませ、ぷいと明後日の方向を向いてしまう。
 私はそんな彼女の後頭部を数秒見つめ、それから黒板の方に向き直った。ふぅーっと息を吐く。

「主人公ねぇ…………」

「………………………………」

 主人公。それは漫画でも小説でもなんでも、創作物において物語の中心となる人物のことを指す。
なろうと思ってなれるものかと問われれば、多分なれる。
 自伝を書いてみればいい。誰だって主人公になれるから。

 …………いやまあ分かっている。女友の言わんとしているのはそういう事じゃないというぐらい。
私と十和子は既に10年以上の付き合いがあるけれど、そう言うのは関係ない。
十和子のそれは、よくある願望だから。

 平和は尊いのだろうけど、面白くはない。

 誰だってぶち壊してみたいと思う物だ。

 私だってしょっちゅうそう思う。
お気に入りのアイスが売切れてたときとか、肝心な時に携帯の電源がないときとか。

 けれど、普通は思うだけだ。

 思うだけでそれ以上、何かをするわけではない。

 平和を享受することに不満を抱いてはいるけれど、平和をぶち壊すのはいつだって悪役だから。
誰だって――いや、たまには奇特な人間だっているのだろうけど、
大抵の場合は悪役になんかなりたくない。

 となると悪役によって平和を脅かされる主人公になりたいというのは、
多分当然の感情なんだろう。

 女友にまだ返していない漫画に目を落とす。
 ペラリ、ペラリとページを捲っていく。

 漫画の中で男の子は女の子に恋をして、それが日常生活に影響を及ぼすこととなっている。
目を合わせることは出来ず、声を聞けば動揺して、結果不審がられて、
平和という物からかけ離れた生活を送る事となる。

 為すすべもなく翻弄され、答えが分かっているのに正解できない。
 考えてみると相手としては最悪だな、恋心。

「…………ねえ」

ミスってた。

×桐

○女

 頭の側面を机に接着させて、女友がこちらを見ていた。
私は漫画を机の上に投げ出して、体ごと十和子の方に向ける。

「どったの」

「女は主人公になりたいって、思った?」

「…………んー」


 主人公、ねえ。と今度は頭の中で呟いてみる。
 机の上の恋愛漫画に目を向けた。
何だか表紙の女の子の方と目があった気がしたけど、それは気のせいだろう。

 答えを待つように私を見上げる十和子を見て私は、
「……そうだね、うん。取りあえず、この漫画の主人公にはなりたくないかな」
 などと、答えた。

 うん、別に女の子にもてたいわけじゃないし。

「ふーん」

 何ですかその返事は。

 これ以上、この話題について話すのは不毛だ。
そう思った私は女友に向けて別の話題を振ろうと頭の中に何かないかと探してみる。
 探していた、のだけど。それが見つかる前にまた、女友が質問してきた。

「ねえ、主人公って何かな」

「すんごい面倒な事やらされる奴」

 しかも晒し者にされる。……ああうん、主人公にはなりたくないわ。


 主人公をやるなら世界の片隅で、私は平和に生きていたい。

 不満があっても、どっちの方がましだって言う問題だ。
 私は主人公になるよりも、もちろん悪役になるよりも、平和を享受していたい。
それはとても退屈だけど、でも平和だ。

 平和は尊い。これは世界共通。

 それでも平和の我慢ならない奴だけが、主人公になれるんだろう。
 どっちが良いかはもちろん、個人が決めることだ。他人が口を出せるものでもない。

 私の答えに女友は一瞬、きょとんとした顔をした後、
クックッと堪えるような笑いを漏らし出した。

「何だよう。私なんかおかしいこと言った?」

「んふふ、間違ってないよ。うん、間違ってない」

 そう言うと女友はまた明後日の方向を向く。
 私は訝しんで彼女を見た後、黒板の方を向いた。

 もう一度漫画本を持ち上げて、続きから読み始めてみる。
 男の子が女の子にこっぴどく振られていた。

 ………………ええー、何それ。

「女友これ二巻は?」

「ん? 家にあるよ。帰りに寄ってく?」

「うん、そうするわ」

 まだ見ぬ漫画の続きを想像しつつ、思った。

 平和っていいわぁ……、漫画の続きが読めるもの。


一話終わり、次は一週間後ぐらいに。

もう一つミスがあった

×十和子

○女友

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