高垣楓「シンデレラ前夜」 (34)

仮面はいい。モデルという仕事をしている限り、どんな表情でも取って付けかえることが出来る。
悲しい時、嬉しい時、楽しい時、辛い時、色んな表情の一瞬をフィルムの先へ。
感情なんていらない。仮面の上にその時を浮かべればいいだけ。だからとても…。

多くを着飾って、取り繕って、誰かの求める物を形にする、そんな仕事の毎日。
私じゃなくてもいい。
これはお人形と一緒。着せ替え人形のように毎日色んな物を着飾られて、フィルム越しの形を作る。

でも楽でいい。感情を殺して、ただある物を着て、仮面を付け替えて、
色んな表情のできるモデルであれば、あとは何も必要ない。それだけで仕事は十分にこなせてしまうから。

自分の限界も分かっている。多分どこまでか行けば私は捨てられる。
もっと魅力的な人が現れて、私なんか汚れた人形のように、誰にも見向きもされずに放り出される。
それが分かっていても、私は私にしかなれない。これしか私は私を知らないから。




「…」


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