ティガレックス「・・・!ガァァァァ!!」
飼育員「おー、よしよし。嬉しいか。・・・まだ近くで吠えられるのは慣れてないなぁ」
飼育員「先輩はティガレックスの咆哮は慣れで何とかなるって言ってたけど・・・本当かな?」
闘技場飼育員を初めてまだ2年目の僕にはこいつの咆哮はなかなか厳しいものがある。
闘技場飼育員。表には出る事の無い裏方の仕事だ。
様々な生物を管理し、ハンター様達の腕試しの場を作る訳である。
何故僕がこんな裏方の仕事をしているのかと言うと、こいつ。
ティガレックスの「タイガー」のお陰なのだ。
タイガー「グルルルル・・・カチッ!カチッ!」
飼育員「なんだよ、早く食べさせろってか?」
こいつが歯を鳴らす時は大体「早く飯をくれ」と言っている時だ。
このまま放っておくと、怒って手をつけれなくなってしまう。
いつもの、弱ったガーグァが欲しいわけなんだけど・・・。
飼育員「まいったな・・・」
今日は弱ったガーグァではなく、死んでいるジャギィノスだ。
餌捕獲担当のハンター様が間違ってガーグァを取り逃したらしくやむを得ずジャギィノスにしたらしい。
飼育員「ガーグァじゃないと食べが良くないんだよなぁ」
しかも死んでいる。
彼等、飛竜種などのモンスター達は生き餌では無いとあまり食べてくれない。
鮮度の違いなのか、それとも本能がそうさせるのか、必ず狩猟をしてから食べた方が食いが全く違うのだ。
飼育員「今回はしょうがないか。・・・そーれっ」
飼育員用の餌やり窓からジャギィノスを放り入れる。
結構重たいので大変だ。
タイガー「グアアア!!・・・・・・・・・・・グルルルルル」
死んだジャギィノスを見るやいなや、そのまま檻の奥へ行き、寝てしまった。
飼育員「やっぱり食べないかぁ・・・」
こういう時のタイガーは大体ふて寝。ご飯が食べたく無いものだったから寝てしまう。
ここで放っておいては飼育員失格である。機嫌を治してやらなければ。
飼育員「おーい、タイガー。こっち来いよ」
タイガー「・・・・」
飼育員「僕と遊ぼうぜー」
タイガー「・・・・・・・」
ドス、ドスと二本足で近づいてくるタイガー。今でもこいつの大きさに驚く。
ハンター様はこれを討伐してるんだよなぁ。僕には出来ないよ。
ここからのご機嫌取りが大変だ。こいつのお腹を限界まで減らさなければならない。
その為には、体を動かさなくてはならない訳である。
飼育員「よーしっ、気合いだ!!」
僕は檻の中へと入り、タイガーと対峙する。
飼育員「さぁ、タイガー。鬼ごっこだ!!」
タイガー「!!グアアアア!!」
タイガーも理解したらしく、四本足で僕に突進してくる。
それを僕は避ける。避け続ける。
・・・正直捕まったらどうなるのか、ぼくにも分からない。食われるのだろうか?
タイガーに限ってそんな事はないと思うけど、万が一を思い徹底的に避ける。
そこまで広くないのでジャンピング突進は出来ないから、恐らく捕まる事はない。
避ける事20分。タイガーが疲れてきた。
僕も疲れた。
タイガー「・・・・・・・」
唾液が口から出てきている。
・・・チャンスだ。
僕はジャギィノスを部屋の中心に引きずり持っていき、檻の外へ出た。
タイガー「・・・・カチッ!カチッ!・・・ガツガツ!」
飼育員「・・・はぁー、やっと食べてくれたか」
安堵の息をつき、タイガーの部屋から出る。
タイガーは幼体の頃から知っている。というよりは僕が捕獲し、育てたのだ。
親父がハンターだった事もあり、草原くらいは一緒に連れて行ってくれた。
そこでたまたま幼体のタイガーを拾ったのだ。
普通なら母親のティガレックスが近くに居る筈なのだが、育児放棄だろうか。
そのまま持って帰ってきて、今に至る訳だ。
幼体の時の咆哮はそんな凄く無かったんだけどなぁ・・・。
親父に飼育員の知り合いがいるという事で、知り合いの紹介で飼育員になったのだ。
タイガー「・・・・・・・」
飼育員「お腹いっぱいか?」
タイガー「グルルル・・・」
ノシッノシッと奥へ消えていくタイガー。どうやら満足したらしい。
そろそろ僕も帰る時間かな・・・。
飼育員「それじゃあな、タイガー」
タイガーに手を振り、いつも通りの帰路につく。
タイガーは今上位ランクのティガレックスだ。
下位、上位、G級の割り振りは戦闘力、年齢、経験値によって考慮される。 ここで言う経験値とは、僕達飼育員との特訓の事だ。
一度闘技場に出されてしまえば、倒されるか、倒すかの二択である。実際、モンスター側が生き残って帰ってくる方が少ないように思う。
飼育員の仕事はモンスターの管理をし、最高の状態でモンスターを出場させてやること。
だから特訓をするのである。
手塩にかけて育てたこいつ達が倒される姿は見たくないので、かなり強化させてから送り出すのだが、G級クラスのハンター様が出場すると大体倒されてしまう。
タイガーもいつか倒される運命にあるわけなのだが、子供の頃から育てているモンスターはこいつだけだ。出来れば倒されないで欲しい。
上司に掛け合い、G級になるまで他のティガレックスを使う事をお願いしたのだが・・・・。
タイガーは怒った時に通常のティガレックスの倍以上の力を出す。
希少種でも無いのに、なんとも不思議なやつだ。
ただ、普通の時は普通のティガレックスより弱いので、それがG級になれない理由でもある。
考えてる間にも、飼育員用の宿舎に着いた。
闘技場から歩いて五分。とても便利な所にある。
飼育員2「よーう、帰りが遅いな。タイガーがグズったか?」
こいつは僕と同期の飼育員。
なかなか出来るやつでブラキディオス、ジンオウガを担当している。
飼育員「まぁね、ハンター様が間違えて死んでるジャギィノス取ってきてさ」
飼育員2「まじかよ!そりゃ大変だったなぁ。全く、だったら生き餌にして欲しいもんだよ」
狩猟してから食べるのが当たり前のモンスター達にとっては、生き餌が一番適している。
ジャギィ、ガブラス等の小型モンスターは例外なのだが。
飼育員2「そういや、聞いたか?狂竜状態にするモンスター候補の件」
飼育員「またそれか・・・・狂竜ウィルスはなぁ、好きじゃないんだよなぁ」
飼育員2「知ってるよ。でもやりたいハンター様が多いんだよな」
狂竜ウィルスにかかると寿命が縮まる。最近の研究で明らかになった事実だ。
自然に狂竜ウィルスにかかるのならまだ許せるのだが、闘技場の場合は強制的に狂竜ウィルスに感染させる。
強制的に寿命を縮ませる訳だ。
それが僕にはどうも許す事が出来ない。
最近、ゴア・マガラが出現し、狂竜化モンスターが激増した。
狂竜化モンスター討伐に悪戦苦闘してたハンター様達だったが、一人のとても強いハンター様がゴア・マガラの成体、シャガルマガラを討伐した事により、また元の生態系に戻りつつある。
これで終われば良かったのだが、事態は少し変化してきた。
腕自慢のハンター様達が「狂竜化モンスターを出してくれ」と闘技場側にお願いしてきたのだ。
ハンター様のお陰で成り立っているこちら側としては要望を呑むしかなく、狂竜化モンスターを用意する様になった。
飼育員達の間では避難が当然の如くあった。
「わざと寿命を縮めさせて良いのか」
「ここでも(飼育小屋)苦しんでるモンスター達を見るのは嫌だ」
等の意見が出たのだが、強制的に狂竜化モンスターは闘技場デビューした。
飼育員「・・・とりあえず、人気枠のリオレウス、リオレイアをお願いするよ」
飼育員2「了解。・・・あ、お前には伝えとくけど、ティガレックスの要望も多いよ。正直ね」
飼育員「・・・うん、分かった」
心の中がざわめく違和感を感じたが、夜も遅いので僕はご飯を足早にすませ、寝床に着いた。
ー飼育員の朝は早い。
飼育小屋の温度管理から、部屋の掃除、モンスターの掃除、餌やり、体調チェック、これ全てを闘技場開始までにやり終えなければならない。?
僕の担当はティガレックス、ゴア・マガラ、グラビモスだ。
飼育員「おはよう、ゴア」
ゴア・マガラ「・・・・・・」
こいつの場合、飼育小屋は隔離されている。無駄に狂竜ウィルスを感染させないためだ。
それに、服なども決められており、飼育員側も感染しないように守る。
飼育員「体温チェックするぞーー」
ゴア・マガラの口の中に温度計を入れる。こいつの場合、素直に口を開けてくれるのでとても助かるなぁ。
測定したあとは、身体の掃除だ。
隅々まで洗い、清潔に保つ。不潔になると病気になってしまうのは人間もモンスターも同じだ。
一通り済ました後は、ゴアの頭を撫でてやる。気持ち良さそうに寝そべるので、可愛いものだ。
こういったモンスターのケアも大事な仕事なのである。
闘技場が開始し始めた。?
続々とハンター様達が入場する。
ここからの僕達の仕事は、担当モンスターを闘技場に入場させる事だ。
モンスターの中には、嫌がるのもいるので信頼関係を築いている飼育員が誘導する。
他には、ハンター様が倒せなかったモンスター達の治療もこちらの仕事だ。
飼育員3「G級イビルジョーがハンター様を負かした様です!治療をお願いします!」
流石イビルジョーだ。生半可なハンター様では返り討ちにあってしまう。
闘技場が開始し始めた。?
続々とハンター様達が入場する。
ここからの僕達の仕事は、担当モンスターを闘技場に入場させる事だ。
モンスターの中には、嫌がるのもいるので信頼関係を築いている飼育員が誘導する。
他には、ハンター様が倒せなかったモンスター達の治療もこちらの仕事だ。
飼育員3「G級イビルジョーがハンター様を負かした様です!治療をお願いします!」
流石イビルジョーだ。生半可なハンター様では返り討ちにあってしまう。
イビルジョー「・・・・・・・」
飼育員「尻尾切断による出血多量!他、全表面の裂傷!」
飼育員4「モンスター用ガーゼ持って来い!」
このイビルジョーは大分弱っている。中々強いハンター様だったのかもしれない。
イビルジョー「ゴオオオオオ!!」
飼育員「怒ったぞ!離れろ!!」
まだ錯乱状態でここがどこか分かっていないらしい。
怒るとこいつは手をつけられないので、かなり手を焼く。?
飼育員2「飼育員5さん呼んで!イビルジョーの担当だったはず!」
飼育員5「はいはい!来たよ!・・・・ジョー!落ち着け!」
イビルジョー「ゴオオ!・・・・!・・・・・・」
飼育員5「落ち着いた!麻酔で眠らせろ!!」
飼育員「了解!」
落ち着いたイビルジョーを麻酔玉で眠らせる。 ?
これで一段落だ。
治療を施し、イビルジョーを飼育小屋へと搬送する。
飼育員「ふぅ・・・」
飼育員5「お疲れ、大変だったろ?」
飼育員5さん、長年勤めてるベテランだ。
担当はイビルジョーとディアブロス、アルセルタス、ゲネルセルタスだ。
飼育員「イビルジョーは大変ですよ・・・。よく毎日温度チェックとか出来ますね」
飼育員5「ハッハッハ、慣れだ慣れ!可愛いもんよ、イビルジョーもな」
そう、この人が僕に飼育員を紹介してくれた張本人だったりする。
イビルジョーを手懐けてるなんて、さすがと言うしかない。
一通り、闘技場の試合が終われば後は担当するモンスターの特訓だ。
G級の数が絶対的に少ないので、増やさなければならない。
野生のG級モンスターから捕まえても良いのだが、暴れるわ、うるさいわ、費用もかさむので、捕まえる事はあまりしない。
なので、育てて強くするのがこちらの常識だ。
タイガー「グルルル・・・・」
飼育員「さぁ、いくぞー」
タイガー「グアアア!!」
タイガーの動きが良くなってきた。
通常時でも、普通のティガレックスと動きが変わらないし、良い感じだ。これならG級になれるかもしれない。
タイガー「グアアアアアアア!」
逃げていたら、イライラしたのか突然怒りだした。
飼育員「・・・・?消えた」
突然タイガーの姿が消える。
・・・おかしい、後ろにいた筈だけど。
タイガー「グアアア!!」
気づくと、後ろにタイガーが大口を開けて迫ってきていた。
ーやばい、死ぬかも。
タイガー「・・・・・・グルルル・・・カチッカチッ」
飼育員「え・・・?」
寸前で止まり、僕の横を通り過ぎていった。
タイガーは「お前じゃ弱すぎる」と言わんばかりの顔を僕に向けて、寝た。
怒るとかなり強くなるといっても・・・、ここまで強くなるのか?
これはもう、G級の申請をした方が良いかもしれないな。?
飼育員5「お、タイガーをG級に?」
飼育員「はい、もうG級に行っても大丈夫だと思います」 ?
飼育員5「G級に行くってことは、もう匿ってやる事も出来ないぞ?」
飼育員「分かってます。でも多分、並のハンターはあいつを倒せないと思います。なにか、特別な感じがするので。」
飼育員5「・・・わかった。ただし、倒されても文句は言わないようにな?」
飼育員「はい。・・分かりました。」?
G級への昇格は各々飼育員の判断で出来る。
理由は、普段触れ合っているモンスターが強くなったか、どうかが分かるのは、一番世話をしている人という理屈でそうらしい。
飼育員5「じゃ、手続きはしておくから早速明日からG級へ行ってもらうよ」
明日からタイガーもG級か・・・・長い様で短かったなぁ。
最初は僕と身長変わらなかったのに、今じゃ3倍以上だ。
大きくなったよ、本当に。
飼育員「タイガー・・・・」
あらかた仕事が終わり、僕はタイガーの小屋へ顔を出すことにした。
タイガー「・・・・・・・」
寝る体制で片目を開けるタイガー。「何だよ?」と訪ねている様な態度だ。
飼育員「明日から・・・・お前もG級だ」
タイガー「・・・・・・・」
飼育員「僕は、お前ならハンター様達に勝てると思う」
飼育員「僕が手塩に掛けて・・・・。いや、小さい頃から一緒だったんだ。簡単に負けるなんて、許さないからな」
タイガー「・・・・・・カチッカチッ!」
タイガーは歯を鳴らして返事をしてくれ、瞳からは「任せろ」と強く言っている様に見えた。
飼育員「タイガー。おやすみ。・・・・頑張ろうな」
タイガーに別れをつげ、飼育小屋を出る。空を見上げると、満点の星で光り輝いていた。
飼育員「・・・・・・よし!」
僕は気合いを入れ直し、飼育員宿舎へと帰っていった。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません