「来いよ…」
室伏の兄ィはそう言うとベッドに横たえた肢体を広げた
ゴクリ、と唾を飲み込む音は拓也のものだ。
視線は大胸筋、腹直筋をなぞりそして茂みに到達する…
――
「アカン、今日寒いわ。」
そう独りごちると拓也は部屋に引き返し外套を選び直した。
先日の暖かさとはうってかわって今朝は大変に冷え込んでいた。
こんな日は嫌でも室伏の兄ィに抱かれていたときの事を思い出してしまう。
拓也は自分のアヌスがキュッと窄まるのを感じた。
「何処行ってもうたんや兄ィ…」
出て行ってしまった原因は自分にある事を拓也は知っていた。
あれは一年前の今頃だろうか。
「室伏の兄ィとのセックスは好きや。せやけど俺ホモと違うねん。ケツは嫌や。」
拓也はもっぱら室伏に掘らせるばかりで掘ることをしなかった。
しかし室伏は掘られることを望んでいた。
――何故拓也は俺を掘らないのか
室伏に聞かれた時拓也はそう答えた。それから室伏と拓也は疎遠になっていった。
一年後の今日、拓也はかじかんだ手を握り締めながら駅に向かう。
拓也は不意に肩を叩かれ、振り返った後硬直した。そこには室伏が立っていたのだ。
―白昼夢。
そんな言葉が拓也の脳裏をよぎるが鼻腔をくすぐる男臭が確かにそこに室伏が居るのだと告げていた。
「何で今更やねん。今まで俺を放って何処に行ってたん?兄ィ?」
心とは裏腹につい怒りが先走ってしまう。それは拓也の悪い癖だ。
しかし室伏はそんな拓也の事を良く知っていた。
室伏はこれ以上ない穏やかな顔でただ一言
「俺を掘れ。拓也。」
そう言った。
――
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