夫「行ってきます」妻「……ん」(77)


妻「……お弁当持った?」

夫「あぁ」

妻「んと……ハンカチとポケットティッシュは?」

夫「スーツに着替えてる時に手渡したのは誰ですか?」

妻「………その他忘れ物は?」

夫「どっかの心配性な嫁さんのお陰でないですよー」ナデナデ

妻「んん……はふ……」

夫「んじゃ、そろそろ行ってくるな。行ってきます」

妻「……いってらっしゃい」ギュム

夫「……あの、さ」

妻「……ん?」

夫「そう引っ付かれると、出てけないんだけど……会社遅刻しちゃうよ? 分かってます奥さん?」

妻「……ん」ギュ

夫「分かってないでしょ……離してくれないと遅刻しちゃうんだってばよ……」

妻「……いってらっしゃいのギュー」ギュ

夫「いやいや、そこはチューでしょ! ……じゃなくて、本当に時間ないんだって」

妻「……もう少し……だけ」

夫「はぁ……分かった……数分だけな?」ギュ

妻「ん、はぁ……夫の匂い……落ち着く……」ムギュ

夫「そらぁ良かった……しっかし、嗅ぎ飽きないな」

妻「ん……好きだから?」

夫「……そ、そう赤らめて上目遣いされると……」

妻「……えへへ」ギュ

夫(あー……この含羞んだ笑顔かわええ……って、何時もこの笑顔に流されてるんだよなぁ……)

夫「ま、まぁ、確かに……俺もお前の匂い引っくるめて好きだしな……そう言うのも頷けるか」ギュ

妻「ぁ、ふぅ……」

夫「……こうしていたいのも山々だけど、そろそろ行かないとな」パッ

妻「ぁ……」

夫(やめてくれ、その潤んだ瞳で見上げるのは……罪悪感が込み上げてくる……)

夫「そんな悲しそうな顔すんなって。帰ってきたら好きなだけするから、な?」

妻「……ん」コクン

夫「ほんじゃ、行ってきます」

妻「あ……待って……ンっ」チュ

夫「んむっ!?」

妻「……えへ、いってらっしゃいのチュー……だよ」

夫「おおおおお、奥さん行きなりはひどいってばよ!」

妻「………えへへ」

夫(……あー、本当に流されてるよな俺。この笑顔見るだけで何でも許しちまう……)

夫「…………い、行ってきます」ドキドキ

妻「……はい、いってらっしゃい」ニコニコ


バタン


夫「…………不意打ちは卑怯だよな、ほんと……」ドキドキ

――――――――
――――――


同僚「昼飯だ昼飯ー」

同僚女「あ、私お茶淹れてきますね」

同僚「あ、お願いしますー……って、おい飯だぞ」

夫「……ん? あぁ、ちょい待ち」カタカタ

同僚「ったく、メリハリつけないと疲れるぞ? 身が持たないしな」

夫「分かってるよー……っと、終わり」

同僚「ほらほら、弁当持ってこっちに集まれ」

夫「へいへい……」


同僚女「お待たせしましたー」コト

夫「あ、女さんありがとう」

同僚「いつもすいません、お茶淹れて貰って」

同僚女「い、いえいえ、当然のことしたまでですよ!」

夫「じゃ、女さんのお茶も来たことだし、飯食いますか」

同僚「おうよ」

夫「さて、今日の弁当は……」パカ



同僚「……」

同僚女「……」

夫「……」

同僚女「ま、まぁ……何と言うか」

同僚「相変わらずのハートそぼろに美味そうなおかず……くそ、これだからお惚気は困る」

同僚女「逆に言えばそれだけ手が込んでるお弁当なのは愛されてるってことですよね。羨ましいですよ」

夫「あ、あはは……」

同僚「つーかお前結婚三年目ぐらいだったよな? 未だ新婚みたいに熱々とかおかしいだろ!」

夫「正確には四年目だよ……まぁ、幼稚園来の幼なじみだからな嫁」

同僚「sneg……信じられねえ」

同僚女「幼なじみだからこそ、なのかもしれませんね……小さい頃からお互いの距離感は分かってる訳ですし」

夫「ちゃんと交際し始めたのは高校生の時だけどね。籍入れてのは社会人になって直ぐで式は一昨年に挙げたっけか」

同僚「かーっ……うらやま爆ぜろ」

夫「それに両親公認だったし、お互いの家にしょっちゅう寝泊まりしてたから、結婚してもさほど変わらないんだ。言わば高校生活の延長線かな」

同僚女「へぇ~じゃ、高校生から蜜月のような生活を送ってたんですね」

夫「そうですね……今でも、あいつのこと愛してますしね。この弁当もそうですけど、高校生活ではあまりなかった事が嫁や俺もするようになりましたし」

同僚女「ほうほう……例えば?」

夫「例えば、ですか……うーん……いってらっしゃいキスとか?」

同僚女「の、濃密な仲ですね」

同僚「……何だか惚気で腹が一杯になってきた」

夫「あはは……口数は少ない嫁だけど、料理は美味いし献身的……何より可愛いし積極的で、俺には勿体無いくらいの妻ですよ」

同僚女「……何だか、羨ましいですね。それだけ親密で、相思相愛で……」

同僚「ほんと、恵まれてるよな」

夫「あはは……ま、家で待ってるあいつのためにも働かないとな」

同僚「俺も支える相手が欲しいですぞ……ところで女さん、帰りに一杯行きませんか?」

同僚女「帰りですか……んー、少しだけなら」

同僚「まじですか! よっしゃああああ!」

夫「あはは……ん?」ブルブル

夫(メールか……嫁から)

妻『今日のお昼です』

 絵文字も何もない妻からのメール。スクロールしていくと、色彩豊かな御膳がディスプレイに表示された。

夫(……にしても、写メがブレ具合といい、カメラの扱いにはまだ慣れてないみたいだな)

 幼稚園時代から不器用な妻、料理や掃除の手際は良いのだが、機械類に関してはてんでダメだった。今もまだ携帯の扱いには慣れてないらしく、よく携帯と睨めっこしている。
 その妻が必死にメールを打つ姿を想像したら微笑ましい光景がふと浮かんで頬が僅かに緩んだ。

同僚「何で携帯見てニヤニヤしてるんだよ?」

夫「いや、ちょっとな……ふふ」

 零れた笑みを崩さず、返信ボタンを押してメール編集画面へと移る。手早い操作で返事を作成すると送信した。
 送信完了との画面表示を確認すると携帯を懐にしまい、目の前にある愛妻弁当に舌鼓を打つことにした。

夫「モグモグ……美味い」

――――――――
――――――

今日は終わり

ネタバレするようであれだけど


ntrにするつもりはないです、はい

――――――――
――――――


夫「はぁ……今日も疲れた」

夫(明日は休みだけど、予定決めてないな……まぁ、あいつと夕食をゆっくり食べながら決めよう……)


ガチャガチャ


ギィィ……バタン


夫「ただいまー」

 そう一言、帰宅を告げると奥からパタパタとスリッパが床を叩く音が聞こえてきた。その音は段々と近くなり、廊下には見慣れた小さな人影が目の前まで迫ってくる。
 後ろに束ねた長い黒髪、体躯より少し大きめのエプロン、幼さが残るあどけない顔を笑顔一色に染めて迎えた。

妻「……おかえりなさい」

夫「あぁ……ただいま」ギュ

 そう言うや否や、鞄を傍らに放り投げて彼女の身体を両腕で包み込んだ。対する彼女も嫌がる様子は微塵もなく、彼の嬉しそうな面持ちで抱き返した。暫く熱い抱擁と2人っきりの空気が場を取り囲む。

妻「んぅ……」

夫「あーやっぱり疲れた身体には嫁成分が五臓六腑に染み渡るぅー……」ギュウ

夫(一種の癒し、この瞬間の為に生きてるって言っても過言じゃないよな……)

妻「んぅ……そう言ってくれるのは嬉しいけど……折角のご飯冷めちゃうよ?」

夫「おっと……嫁成分も摂取したいところだけど、それはいただけないな」

妻「ん……ほら、行こ?」グイグイ

 片手には何時の間にか拾った鞄を下げ、空いた手には彼の手首を引っ張り、居間へと歩行を進める。彼はというと促されるまま、彼女の後を辿る。
 ふと、彼女の背中から揺れる黒髪見ると高校時代のまだ交際して間もない頃を思い出した。
 何時も降ろしている黒髪も、朝起こしてくれてる時や、家事をこなしている時など、彼女との甘い一時にはよく見たものだ、と懐かしみが過る。それと同時に不思議と頬が緩む。

夫「こういうのを幸せ……っていうんだろうな……」ボソ

妻「……ん?」

夫「いや、何でもないよ」

――――――――
――――――

妻「……ちょっと先に座って待ってて……ご飯よそってくるから」

夫「おう」

妻「……~♪」

夫(嫁の頭が左右に傾く度にポニテが蛇の如く揺れる揺れる……あの黒髪にカリカリモフモフきゅんきゅいしたい気もする)

夫(……しかし、こう後ろ姿見てると身体の小ささといい愛らしさといい……幼さ妻みたいだよなー……って、妻だったなそういや)

夫(……下らないこと考えてるのも幸せの証、なんだろうな)

妻「……ん、どうぞ」コト

夫「ん、お、さんきゅ」

妻「……それじゃ」

夫「食べますか」

妻・夫「いただきます」


夫「今日もこれまた美味そうなこった……奥さんや、自信作とかあったりしますかな?」

妻「ん」

 隣に居座る嫁が椛よりも淡く色付いた煮物に指差した。ゴロゴロとした人参と柔らかそうなジャガイモと汁がよく染みてそうな肉。よく煮込んだからであろう、湯気が醤油ベースの甘い匂いを乗せて漂いながら彼の鼻腔を突く。

夫「ほっほー……肉じゃがですか。ほくほくのジャガイモが煮汁を吸って大変美味しそうでございますが……」

妻「…………あーん」

 謳うよりも早く、彼女の箸がジャガイモを乗せて彼の口に近づける。熱愛のカップルによろしく、お決まりの掛け声と共に。


 彼もその嫌がる様子をおくびにも出さず、彼女に応えるべく口を大きく開けてジャガイモに食らいついた。

夫「あー……んむ、モグモグ……」

妻「……どうかな?」

夫「美味え! 美味えよ!」

妻「……ふふ、良かった……少し煮込んで……柔らかくしたんだ……」

妻「……夫、柔らかいのが好きって中学生の頃言ってたしね」

夫「お、おまはん、そげな事までよく覚えてますな……つか、俺そんな事言ったっけ?」

妻「……む、言ったよ? 夕ご飯に肉じゃが作った時……俺、もうちょい柔らかい方が好みなんだよねー……って」

夫「く、口調まで似せる必要あるんですか!? ……そーいや、そんなことを言ったような言わなかったような……」

妻「……むぅ、そんなこと言うなら……良いもんね」

 覚えてないことに少し怒ったのか、拗ねた様子で頬をぷっくりと膨らませて、プイとそっぽを向いてしまう。
 そして彼とは目を合わせようともせず、少し大きめのジャガイモを口に放り込む。ゆっくりとジャガイモを数回咀嚼すると、彼に向き直った。
 そして、気がつくと彼女の顔が鼻先が当たりそうな距離まで迫っていた。

「お? ……っんむ!?」

「んっ……ちゅ、ふ……」

 当然ながら彼は目を見張った。朝にもあった、本日二度目の口づけ。だが、今朝とは違い、深い接吻だった。そして、形を留めぬ程小さく噛み砕かれたジャガイモが彼の口内へと運び込まれる。

 ――――――――甘い。

 ジャガイモの甘さではなく、それとは違った甘さ。本能的とも酷似した衝動が込み上げ、その甘さを求めて彼女の唇から口、舌へと、強引に絡み合わせつつ、飢えを満たす獣如く彼は吸いつく。

「んっ……ちゅ……」

「っふ、んぅう、む……」

 充分、吸い尽くすと満足したように舌が離れた。


夫「んっ、ふ……はぁ」

妻「はぁ、はぁ……ばか、やり過ぎ」

夫「……仕掛けてきたのはそっちだろうに」

妻「……むむ」

夫「そう怒るなって……ほら、さっさと食いましょうや、冷めちまうし」

妻「………この借りは……何時か果たそう」

夫「逆にやり返したる!」

妻「……よろしい、ならば戦争だ」

夫「あ、いや、今のはちょっとした言葉のあやというか反射というか……って、ちょ、おま、また口に含んだまま顔近づけるなってばよ!」


 ――――――――そんなこんなで、過剰なスキンシップを交えつつも夕食が過ぎた。

――――――
――――――――

少し早いけど今日は終わり

――――――
――――――――


カポーン

夫「……はぁ……極楽極楽……」ポチャン

妻『……湯加減どう?』

夫「おー丁度いいぐらいだぞー」

ガチャ……バタン

妻「……ならば問題ない」

夫「ほれほれ近う寄れ、共に入浴を勤しもうではないか」パチャパチャ


妻「ん……あ、先に洗うよ?」

夫「遠慮なくどうぞどうぞ」

妻「…………」コシコシ

妻「…………」クシュクシュ

夫(相変わらず、綺麗な髪だな……腰近くまでの長さだというのに、サラサラの髪質で手入れも欠かしてない)

夫「ほんと、綺麗だよな……」

妻「……クシュクシュ……え、何か言った?」

夫「いや何もー……綺麗だなーって言っただけ」

妻「…………ん、そっか」クシュクシュ

夫(露骨に顔を逸らされたけど嬉しそうに見える)


夫「あ、そうだ……あのさ」

妻「……ん、なに?」

夫「明日休みなんだけどさ……どっか行くか?」

妻「んー……ん、いや……まったりしたい、かな?」

夫「……そかそか、んじゃー久方ぶりにまったりと過ごしますか」

夫(休日っていっても、最近は出掛けてばっかだったしな)

夫(たまにはインドアで嫁とまったり……うん、良さそうだ)

妻「……」クシュクシュ

妻「…………」ジャー


夫「…………ふむ」

夫「……お背中流しましょうか」

妻「……ん……お願い」パサ

ザバーン

夫「……では、失礼して……」

夫(嫁の身体を巻いたタオルが解かれ、そこに現れたのは白磁色の上に僅かに赤らんだ小さな背中……滴る雫が肌を濡らしていゆせいだろうか、何処となく色っぽく見える。あとめっさ良い匂いがする)

夫(……不覚にも興奮した)ドキドキ

妻「………はやく」

夫(まぁ興奮するなっつうのも無理な話だよなー……しかし、こいつには悟られないようにせんとな……何をされるやら)

夫(さっきみたいに理性の箍が外されかねんし……無心、明鏡止水……)

夫「……ゆっくりやるぞー」ゴシゴシ

妻「んっ」


夫「……っと、ごめん、強すぎたか?」

妻「……ん、ちょっとびっくりしただけ……力加減はもうちょっと弱めでお願い」

夫「ほいほいさー」コシコシ

妻「……んん、ぅ……」

夫(……そう艶かしい声出されると……息子が)ムズムズ

妻「……はぁ……ぅん!」ピクッ

夫(……ビックサムがほ、本気を出しちまうだろうが!)ビクビク

夫「………」コシコシ

妻「ふ、ぅ……んっ……」

――――――
――――――――

夫「ほい、流すぞー」ザー

妻「ん……」

夫「さて、湯船に向かおう……って、奥さん、どうして手首掴んでるんですか?」

妻「…………まだ、前洗ってもらってない」グイグイ


夫「」

夫「それはそのー……あのー……ね? …………ね?」

妻「……」グイグイ

夫「その、理性的に困るといいますか……ね?」

妻「……洗うだけだよ? ……やましい気持ちがなければだいじょーぶ……」

夫(やましい気持ち抱かないわけないじゃないですかやだー)

夫(今だって息子さんが80%高度上昇してるのに、そんな選択するなんてとんでもない!)

夫(……何て思いつつ、どっちにしろ流されるだろうしいいんですけどね……何しろ洗いたくないわけないわけですしおすし)


夫「…………分かった、分かったよ……洗うよ」

妻「……けいかくどーり」ニヤリ

夫「やっぱお前分かっててやってたな! 謀られた!」

妻「……騙されるほうも悪い」



妻「……で、実際のところ、洗ってくれるの? ……洗ってくれないの?」

夫「まー……身体洗うのは今に始まったことじゃないからな……洗うよ」

 そう、昔から何度か入浴した仲なのだ。昔とは違うのは身体の大きさと気持ちだけ。
 困ったことなのは、その成長した身体と心が悶々とした感情を生み出すこと。

夫(エロいことはしょっちゅうやってるけど……こいつが魅力的過ぎて何時も流されるんだよなぁ……気付いたら励んでること多々……)

夫「……ま、いっちょやりますか」

 理性の琴線が触れないようにと興奮を落ち着かせつつ、バスチェアに腰を降ろして妻と向かい合った。

今日は終わり

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