そらとレイラさん 百合 エロ 書きためなし
いくとこまでいく予定ですのであしからず
オレンジの照明へ吸い込まれるように彼女は飛んでいた。
飛ぶ、という表現が人間に適しているかは分からないが、
彼女の演技を見た者ならば、一度は錯覚する。
そらの背中にある――翼を。
「レイラさん!」
上空から舞い降りてくる少女。3回宙返りした後、マットの上に見事なバランスで着地した。
はっとして、私は声の方を見やった。
「そら、演技は見事だけれど、意識が集中できていないわね。何を考えて演技していたの?」
「え?! い、意識ですか?」
そらは驚いた顔で、唇を尖らせた。
「ええ、そうよ。まさか、私に見られて緊張していたなんて……」
「ち、違います違います!」
「そうよね。じゃあ、ダンスパーティーのことかしらやはり」
「う……」
「見知らぬ男性と踊るなんて、今に始まったことではないでしょ?」
「で、でも」
「もしかして、ユーリの言っていたこと気にしてるんじゃないでしょうね」
「あう……」
「確かに中には婚約者を求めて来る人もいる。でも、私たちが最高のパフォーマンスをするのと何か関係がある?」
「レ、レイラさんは、私がそういう目に合ったらどうしますか……?」
「祝福するわ」
「で、ですよね」
「ほら、バカなこと言ってないで」
「は、はい!」
私こそ、そらの演技に集中できていたのか。
その疑問を悟られぬように、
「もう一度、やってみましょう」
「はい!」
「これが終わったら、パーティードレスに着替えるわよ」
「は、はい!!」
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なぜ、私がブロードフェイを離れカレイドスターにいるかというと、このパーティーに呼ばれたからだった。
世界各国の劇団関係者が一堂に会するイベントで、私も呼ばれるのは今回が初めてだった。
短く切った後ろ髪に、果たしてドレスが合うかと乙女らしい悩みも抱いたりもした。
そんな憂慮も束の間、パーティーの主催者側から今回のパーティー用の演舞を作って参加して欲しいと申し入れがあった。
会場はなんせ、ここ、カレイドスター。飛ぶもよし、跳ねるもよし、舞うもよし。
そのため、急遽ワルツを取り入れた技を作ることになったのだが――。
「オーケーいいわ。繊細さに欠けるけど、その荒々しさも逆に映えるように彼女が作ってくれてるから。普段通りでいきましょう」
「す、すいません」
「パートナーの男性を転倒させないようにね」
「う……頑張ります」
「心配はしてないわよ、そら」
「ありがとうございますッ」
演舞に関しては一切問題は感じてはいない。
ただ、その場で出会った男性パートナーと一緒に演舞するため、相手のレベルが低すぎると、そらに即興で合わせることは難しい。
むしろ、今のそらと組める男性などレオンの他にいるだろうか。そこが、私の最も心配とするところだ。
相手に合わせるというのをそらができないとは思わないが――。
私自身、人の心配をしている場合ではない。
今回、皆仮面を被って会に出席する。
中には、この一大興行を見るために、各国の政治家やジャーナリストなんかも集まっている。
怪我でもさせれば、極論だが国同士の争いに――なんてことになりかねない。
「じゃあ、私はこっちで着替えてくるわ」
「え、控室一緒じゃないんですか?」
「主催者側からの指示で、カレイドスター側も誰が誰だか分からないようにしてくれって言われたでしょ」
「ああ、そう言えば」
「そういう所、抜けてるんだから。しっかりしなさい」
「す、すいません!」
「じゃ、また後で」
「レイラさん、私、頑張って発見しますね!」
「しなくていいわよ」
「えええッ」
私はそう言い残して、自分の割り当てられた部屋の扉を開けた。
数時間後――
ユーリが私の斜め後ろに立ち、くつくつと笑っていた。
「まさか……君が、こっちの控え室にいるなんて」
「お言葉だけれど、ユーリ。あなたこそ、その長いブロンドヘアーお似合いよ」
「君こそ、そのタキシード、惚れ惚れするね。ああ、それともロングドレスが着たかったのかい?」
「まさか。観客が喜ぶならなんだって着るわよ」
望まれてするのだ。悔いはない。たぶん。
「しかし、君が髪を切らなければ、男装をさせられることもなかっただろうに」
「これは、あなたも知ってるでしょ」
「ああ、愛しのそらに切ってもらったんだろう?」
「ふざけてるの?」
「ごめんごめん。あまりにも君の姿がカッコいいから嫉妬してしまったんだ。ドミノマスクの下の、不機嫌そうな君の顔を想像してもいいかな?」
「ユーリ」
マスクの下を見透かされた私は、やはりマスクの下からユーリを睨みつけた。
「最高のマスカレイドになりそうだ」
足音。
「あ、ユーリさん! よ、よくお似合いで」
遠くから叫ぶ声。引き笑い気味にそらが歩を緩めた。
「あらら」
「び、びっくりしました!」
「そら……どうして、僕がユーリだと分かったんだい?」
「え、野生の感……ですかね? そちらの人は?」
ユーリと私は、一瞬顔を見合わせた。
「ああ、彼はミラノから来た人でね、控室で知り合ったんだ」
ユーリがスラスラと口から出まかせを言う。
私も、それに便乗するように、声のトーンを低くした。
「あ―ごほッ……そうなんだ。僕は、レイヤー。君は?」
「私は、そらです」
「そうかい。今日は、よろしく頼むね」
「こちらこそ」
そらが右手を差し出す。
私も左手を差し出した。
横にいたユーリが笑いを堪えているのが分かった。
それを無視して、私はそらに会場へ移動するように促した。
会場はすでに満員だった。舞台にはいくつかの仕掛けが施されている。
マスクで互いに挨拶を交わす人々。
貴族同士のお遊びに似ている。
「ユーリさん、あの、レオンは……」
「ああ、パーティーは嫌いだと言ってね、お腹が痛いと寝込んでいるよ」
そらは呆れた声で笑う。
それから、きょろきょろと辺りを見回した。
何事とかと問いかける。
「え、いや、知り合いを探していて」
探すも何も、今回の趣旨は誰かわからないのが当たり前。
相変わらずなそらに、私は胸中で溜息を吐いた。
ロゼッタやメイでも探しているのだろうか。
と、背後から黄色い声。
アンナだ。
私と同じように男装をさせられている。
彼女は、また、なんとも分かりやすい恰好をしていた。
「あ、ちょ、君達……やめ、あ、誰か! 助けて!」
そらは巻き込まれまいと、素知らぬフリで私の背後へと回った。
「助けなくていいのかい?」
ユーリが苦笑い気味に言った。
「ちょっと、怖いので……」
確かに、アンナのファンに目をつけられたくはない。
「そら、ユーリ。開幕するよ」
華やかなファンファーレと共に、主催者の一人でもある私の父が壇上に立つ。
一言二言挨拶を述べる。まさか、観客席から父を見る日が来るとは。
同じ舞台に立つ喜びに、私は背中を震わせた。
父に恥じない舞台にするのはもちろん、父の為せるこの興行も、きちんと見届けなければならない。
それが、私の務めでもあるだろう。
挨拶が終わり、その後、照明が消え、聞き覚えのある声が響き渡る。
「ケンだ」
そらが言った。
確か、序盤の進行役だったか。
まだかまだかと待ち構える観客席からの熱気。
今夜、最高の同志達の最高のパフォーマンスを見れるなんて。
誰もが、心躍らせているに違いない。
しかも、誰が誰か分からない。
演技だけが、彼らを判断する唯一の手がかり。
一体誰と当たるのか。
私自身未知なる世界に興奮していた。
さあ。今宵、私を楽しませてくれる者は、誰だ。
控室で、私たちはくじを引かされていた。
同じ番号の者と、自分たちの作ってきた演舞とを組み合わせて、即興で踊る。
舞台に置いてあるものは自由に使っても良い。
そして、番号が発表され始めた。
5組ずつ選ばれていく。
相談時間は5分。
個性的は面々ばかり。どう、ペアでまとまっていくのか。
ウケを狙う者もいれば、涙を誘う者もいた。
「隠し芸大会みたい……」
横でそらが何か呟いていた。
なんだろう。日本の言葉だろうか。
「楽しそうだね」
そらの横顔を見て、私は言った。
「え、分かりますか?」
「雰囲気がそう言ってる」
「何か出てますか?」
後頭部をぽりぽりと掻いた。
真面目な返答だったものだから、私は笑うのを堪えた。
「ああ、炎が見えるよ」
だからだろうか。
私もついと口からそんな言葉が出てしまった。
しまった。私は、口元を抑える。
バレてしまったか。
そらは一瞬反応するのを忘れたかのように固まっていた。
「そういう風に言われたの、あなたで二人目です」
と、ユーリが、
「レイヤーは、良い目をしているんだ。どうだい、そら。彼、婚約者を探しているんだって」
「は? 何を」
私はユーリを睨み付ける。効果は無い。
「え、ええ!? あ、あの、えっと、私は、その……」
そらはそらでまんざらでもない反応。
気に食わない。
いや、違う。
ユーリのペースに巻き込まれてどうする。
「そうだね、僕もそらみたいな女性とだったら……」
なら、あえて乗ってしまうのも手だ。
標的をそらに変えて。
どうせ、分からないなら、楽しんだ方が勝ちだろう。
「レ、レイヤーさん……私、そういうのはまだ良く」
「ダメかな?」
「あの、あの……」
「どう、今夜?」
「こ、今夜!? ど、どうって!?」
「だから、二人で」
「二人で!?」
ダメだ。そらのオーバーリアクションがいちいち酷い。
可笑し過ぎる。
新しい番号が呼ばれた。
私だ。
「じゃあ、行ってくる」
そらは、頬に手を当てて、反対側の手で見送ってくれた。
ユーリは肩を震わせていた。
ペアになったのはやはり男性だった。
相手も、こちらが女性だと分かっているだろう。
タキシードとタキシードになってしまっているのだが、その辺りはいいのだろうか。
しかし、これで、私が女性であるとそらにバレてしまったわけだ。
そして、演技を見れば彼女なら一目で見抜くだろう。
過去に、私はマスクを被ってそらの前に現れたことがあった。
その時も、彼女は確信に満ちた瞳で私を見ていた。
彼女の前で、私はいつも『レイラ・ハミルトン』だった。
私を『レイラ・ハミルトン』にさせてくれる。
人生における光。翼。夢。そして、誇り。
否、まさに――彼女はレイラ・ハミルトンの人生そのものと言っても過言ではない。
レイヤーがレイラであると気付いてくれないのには、多少寂しさもあるが。
(見ていなさいそら……私は、レイラ・ハミルトンよ)
5分程、相手役の男性と相談して、彼のレベルがトップクラスということを理解した。
「では、そのようにレディ」
彼は完全に私を支える側に回ることになった。
その役を徹底的に演じてくれる。
なら、私はあなたに支えられる女を演じきって見せましょう。
私は、観客席にいるそらを見た。
暗がりだが、そこに彼女が見える。
なにせ、常に魂を燃やしながら存在しているのだから。
どこにいようが、感じることができる。
彼女を。
そらを。
「では、行きましょうか」
私は彼に合図する。
瞬間――そら、ではなく意識は会場全体に移っていた。
二人、ブランコに飛び乗る。
助走はほとんどつけない。
筋力と関節の柔軟性を頼る。
後は、身体が軌跡をたどる。
慣れた動き。
新しい動き。
一度、ブランコを離れる。
コマのように回転し、
別にブランコへ飛び移る。
遅れて、彼が飛び乗る。
小さなターン。
地面へ。
加速しながら。
そのままワルツに。
彼の腕をバネに、
一度大きく飛ぶ。
大きくターン。
もう一度飛ぶ。
そして、
大きくターン。
数えきれない観客の、歓声。
聞きたいのはそんなものじゃない。
そらの目を釘付けにできているか。
私を見ている?
そら。
彼女の歓声を浴びたい。
私を唯一熱くさせる彼女の。
自由度の高い演技。
自分をありのまま表現すればするほど、
そらに見て欲しいと、思ってしまって。
一際、ダイナミックに宙を舞って、そこでタイムオーバー。
重力のまま、彼の隣に戻って来て、一礼する。
他のペアも揃って挨拶をしている。
弾けるような拍手と歓声。
ペアの男性と、一度握手をしてから観客席へと戻っていく。
全てのペアが舞い終わった後に、最も優れたペアにはプレゼントがあるそうだ。
興味はない。
最高のパフォーマー達の演技を見れるだけで十分なご褒美である。
席へ戻ると、そらが煩いくらいの拍手で迎えてくれた。
「すごい! すごいです、レイヤーさん!」
「え、ああ。ありがとう」
気付いていないようだ。
「私、あんな演技ができる人、一人しか知りませんでした……でも、世の中はやっぱり広いんですね! 私、井戸の中のカエルでした!」
「は、はあ?」
興奮した様子の彼女に、私はなんと声をかければ良いのか。
頭を捻って、ユーリを見る。
「レイヤー、君、男性と組んでも映えるね」
「……」
誰か、そらに教えていないのか。
ペアは男女だと。
「喉が渇いたから、ちょっと飲み物もらってくるよ」
「あ、私も行きます」
「どうぞ」
私は腕を差し出した。
「?」
きょとんとしている。
ユーリが、
「エスコートしてくれるってことだよ」
横から耳打ちする。
「あ、はい! お願いします!」
どこかぎこちなく、私の腕を掴む。
唐突に立ち上がったせいか、私の方へバランスを崩した。
「ご、ごめんなさいッ」
「いや。怪我がなくで良かったよ。行こうか」
「はい」
そろそろ、男役を演じるのも疲れてきた。
ただ、そらが面白いので、まだ黙っておこう。
先ほどの演技について、そらに聞くことはしなかった。
私は当たり障りのない会話をしながら、飲み物を配るピエロの所へそらをエスコートする。
今ちょうどカレイドスター見てるわ
「アルコールになりますが、よろしいですか?」
ピエロが言った。
言ってから、そらを押しのけて、私の肩を掴んだ。
後方の壁際にぶつかりそうになる。
「な、なに?」
「れ、レイラさん!?」
小声で、ピエロが言った。
「その声、メイ……」
「なんで、男装なんか……素敵過ぎて死んでしまいます」
「そらには秘密にしてあるから、離してちょうだい」
「え、ええ? なんでですか?」
「……面白いからかしら。でも、そらに言わないでよ」
いい歳して、と思われかねない。
知り合いに言うのも、なにやら恥ずかしい気もしてきた。
「れ、レイヤーさん? 大丈夫ですか?」
そらがこちらを心配そうに見ていた。
「ああ、ピエロが躓いたみたいだ」
「ふぉっふぉふぉ!!」
「飲み物頂くよ。そらも、はい」
「ありがとうございます」
「ふぉっふぉ!」
「二人の出会いにカンパーイ」
しまった。また、恥ずかしい台詞を。
ピエロがなぜか横で地団駄を踏んでいた。
そらも、恐る恐る乾杯し、口づける。
「美味しい……」
「ああ、美味しい……ん?」
そう言えば、先ほどメイがこれはアルコールだと。
「ま、待ってそら」
「……ぷはッ!」
そらの右手に空になったグラスを見た。
「そ、そら……」
「……喉がかーっとなって。あれ、こりぇ……なに」
しまった。
なんてこと。
「もしかして、そら、お酒飲むの初めてかい?」
「あ、おしゃけだったんですね……いえ、さあ、ええ」
度数の高いワインだったのか。
一口飲んだだけで、私自身頬が熱い。
先ほどの演舞で代謝が上がっているせいだろうか。
そらの出番はまだ。
「そ、そら、何番なんだい?」
「100番でひゅ……」
私はメイを見た。
「そらの番号が呼ばれるまでにあと30番ある。それまでに、なんとかするから……メイ」
「は、はいッ」
「ダメだったら、頼んだわ。メイ」
「よ、喜んで!」
「そら、行くわよ……!」
「ふぁーい……」
軟体動物か。
私は、そらを抱きかかえる。
廊下に出て、空いている控え室を探す。
館内放送が聞こえる所でないと。
「ここね……」
恐らくイベントが終わるまでは戻って来ないはず。
「っしょ」
そらを引きずりながら、ソファーへと寝かせる。
念のため、部屋の鍵をかけておくか。
が、そらはすぐに立ち上がって、ドアに目がけて突進してきた。
「そら、何してるッ?!」
「だ、だって行かないと……みんなの見たいし」
「いいから、まずは……酔いを醒まさないと」
冷蔵庫に確か、水が常備されているはず。
私は、そらが逃げ出さないように手を握り、冷蔵庫から水を取り出した。
「飲みなさい、そら」
「あ、冷たくて気持ちいれす……」
「もお……」
私は蓋をあけてやり、口元に近づける。
「んむ……ッごく」
口の端からこぼれてしまう所を見ると、飲む気がないのか。
らちが明かないので、私は口に水を含んだ。
そして、彼女の口を覆い、それを移し替える。
「んくッ……ッん……」
「はあッ……飲んで、覚ましなさい」
「……な、なにするんですッ…!?」
「目が覚めたみたいだね」
「へ、あ、ここどこ!?」
「控室だよ」
「うそぉ?! って、つめたいッ……?」
彼女は全く事情が呑み込めていないのだろう。
マスクを取って、顔全体を腕で拭く。
「な、なんで顔濡れてるんですかッ?」
「水だよ。心配ない」
「ど、どうして二人きりなんですか……ッ?」
「それは」
どうも、今夜の彼女は加虐心を煽る。
「そらを、食べるためだよ」
そらは唇の端を震わせる、という器用な事をしてみせた。
「だ、誰か助け……んむッ!?」
「大きい声で叫ばない。人が来てしまう」
「ぷはッ……わ、私。100番だから、行かないと」
「大丈夫、残り28番だから。諦めて」
「……や、やだッ、やだッ」
本当に怖がっているようだ。
私の腕の中でもがき回る。
そろそろ種を明かさないと、そらに後で何を言われるか分かったものではない。
「ごめんごめん……そら、私」
と、そらが振り回した腕が机に当たり、
山盛りになった雑誌が落下してきた。
「そらッ……!」
私はそらを庇って、どさどさと雑誌の猛襲に耐える。
最後に降ってきたライターの角がやたら痛くて、私は涙目で小さく舌打ちした。
「つぅ……」
「れ、レイヤーさん……」
ふと、下を見る。
そらの小さな胸をしっかりと握りこんでいる。
いや、少し成長しただろうか。
「わわわッ!?」
私が乗りかかっているせいで、そらは身動きがとれずじまい。
ただ、私の腕をポカポカと殴っていた。
「いたッ……た」
「酷いッ! 私、レイヤーさんのこと……好みのタイプだったのに」
そらはこういうのが好みなのか。
「退いてくださいッ」
赤ら顔で睨むそら。
それを上から眺める私。
全く、誰に似たのか。
これもあのたった一口のせいなのか。
「まだ、顔が赤いみたいだ」
私はペットボトルを取って口に水を含んだ。
彼女の両腕を床に押し付ける。
艶のある彼女の唇に、自分のを押し付けた。
「ッんく!? ……ッあむ?!」
可笑しい。私は唇を離す。
私は、彼女に、熱を感じているようだ。
「そら……」
「がるるるッ……」
犬か。
まあ、これ以上騙すのも可哀相か。
「実は」
「と、おりゃあ!!」
「は?」
と、言った瞬間、私はそらと形成が、つまり上下が逆になっていた。
今、何が起こったのか全く理解できない。
私はそらに組み敷かれていた。
足で、腕もがっちりと固められている。
どういう技なのか。
「さあ、よくもやってくれたわね……」
指の関節をならすそら。
「ま、待って」
「待たない!」
「そら、私よ!」
「レイヤーさんでしょ!」
「レイラよ!」
「レイラさんでしょ! え? レ、レイラさん?」
そらは私のマスクを剥ぐように取った。
かくして、私の正体がばれることになる。
「……」
「あー、そのごめんなさい」
「……」
そらは、なんというか、すごく、驚いていた。
無理もないけれど。
小さく首を捻る。
私を見つめる。
「そら?」
「……レイラさん?」
「ええ、そうよ」
「な、何……してるんですか!!」
そらに怒鳴られる日がくるなんて。
私も丸くなったわね。
私は事の発端を話し、ここにいたるまでの経緯を説明した。
そらがそれで納得するわけもなく、
「レイラさん……趣味悪いです」
心に突き刺さるような言葉をいくつか吐いていた。
「そういう訳だから、退いてもらってかまわないかしら?」
「レイラさん」
「なあに」
「乙女の純情を弄びましたね……?」
「そういうことになるのかしら」
「レイラさんが、もし、逆の立場だったらどう思いますか!?」
「そのパターンはあり得ないわ」
「一蹴しないでくださいよ、もお!」
「悪かったわ。私もおふざけが過ぎていた。どうしたら、許してくれる?」
そらを怒らせれば怒らせる程、彼女の酔いが回ってしまう気がする。
大人しくやられてしまおう。
「……レイラさんが、自分で考えてください」
頬を膨らませる。
やるじゃない、そら。
「……そら、可愛い」
彼女の頬が一瞬緩む。
しかし、すぐに膨れ上がる。
「そら、すごく、可愛い」
「……ふ、ふーんだ」
フールといる時のそらはこんな感じなのだろうか。
また、新しい彼女の一面を見れて、こんな状況なのに私は喜んでいるようだ。
つい、笑ってしまう。
自分とそらが可笑しくて。
二人きりだから。
他に、誰もいないから。
「そら、キスしたい」
その言葉に、そらは表情を固くした。
しどろもどろに、
「え、あ、その……そ、そんなことで許すとッ……んッぁ」
言い終える前に、私は今宵何度目かの口づけを終えた。
「……なんでですか。勝手なことばっかり」
顔を離してやると、そっぽを向いた。
「そら?」
「だって、レイラさん、私が結婚を申し込まれても……祝福するだなんて言ってたじゃないですか……」
「ああ……根にもってたの」
「べ、別に……寂しくなんてないですけど」
「あなた、私以外と一緒で満たされるの?」
彼女の耳に触れる。熱い。
こちらを向かない。
「ねえ、そら」
「なんて……返したらいいんですか、それッ」
両耳を擦ってやると、ふにゃと力が抜けたように手を床についた。
「決まってるわ」
彼女を抱きしめる。
胸の上に落ちてきたそらの肩に顔を埋める。
「満足できない、そう言えばいいじゃない」
「う……もう、もう! レイラさん、カッコイイ! 卑怯もの!」
「なによそれ」
そらが私の胸にぐりぐりと顔を押し付けてくる。
彼女の頭を撫でながら、しばし、それを楽しんだ。
「だって、あなたの好みのタイプ、私なんでしょ?」
「げッ、忘れてください……」
そらは自分の頭を抑え込んで、数秒程唸っていた。
「続き……どうする?」
「あ、いや……私は……」
そらの小振りなお尻を掴み上げる。
「ひやぁッ!?」
細い腰が跳ねた。
ボディラインを指で辿ると、彼女の熱い吐息が漏れる。
「私に、どうされたい?」
「だ、だめですッ……だめッ、レイラさッ……んッ」
ドンドン!
『ふぉっふぉ!!』
部屋の扉が叩かれる。
「メイ……あなた」
『ふぉ!ふぉ!』
なにやら狂気すら感じる。
「さて、そら行きましょうか?」
「……は、はい」
先ほどに比べて、随分としおらしくなったそらの手を引いて、私は控室を出た。
100番目のそらの演技が終わり、パーティーも幕引きとなった。
優勝者はそらのペアに決まった。
鬼気迫る演技に全ての者が魅了された。
私ももちろん。
まあ、彼女相手がジョナサンだったという所で、全て持っていかれていたかもしれないが。
閉幕した後、カレイドスターの片づけを終え、今日の宿に戻ろうとした時のことだ。
「レイラさん……待ってください」
タクシーに乗る直前に、そらが駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「あの、私……まだ」
「もしかして、続き?」
そらが固まる。
「そう、じゃあ――おいで」
手を伸ばして、私は彼女をタクシーに乗せたのだった。
終わり
>>16
タイムリーでしたね
読んでくれてありがとう。
カレイドssは無いに等しいから、最近はまった身としてはつらいです。
このSSまとめへのコメント
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