「伊織と美希の108の出来事」 (121)

1.初めて

伊織と初めて会った時のこと?
もちろん覚えてるの!
……きっと忘れないと思うよ。
伊織がいたから、ミキはちゃんと「アイドル」になれた、って思ってるから。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420039277

ミキね、最初はアイドルなんかぜんっぜん面白くなんかなかったの。
ハニーに、……その時は「そこの人」とか「プロデューサー」って呼んでたんだけど、いつも怒られてばっかだったし、オーディションとかも全然選ばれなかったし、写真撮影の時はカメラマンの人がミキのこと、えっちな目で見てくるし。

でね、その時ミキにトラックがぶつかりそうになったの。
で、ハニーがミキを助けてくれたんだー。ミキ、その時に思ったんだ。
「アイドル、本気で頑張ってみようかな?」って。
でもさ、それは「ハニー」のために頑張って、「ファン」の人のほうをさ、見てなくてさ。

「あんた、アイドルとしては0点ね」
って伊織に言われちゃったの。

ミキ、昔から何でも人より上手く出来てたしさ、そんなミキが本気になったんだもん。
「アイドルなんて簡単だ」って、「こんな娘に負けるはずがない」って本気でそう思ってたんだ。

フェスの結果はもちろんミキの負けだったの。
当然だよね。
「ファン」のために歌ってるアイドルが、「ファン」を見てないアイドルなんかに負けるはずがないの。
「あんたもアイドルなら、歌も踊りも、その心もファンのみんなに向けて魅せなさい」
この伊織の言葉で、ミキね、やっと「アイドル」って何なのか分かったの。
たぶん伊織に会わなかったら、ミキはずっと「アイドル」になんかなれないままだった。
アイドルアルティメットになんか来られなかった。

だから今日その伊織を超えていくの。

【注意書き】
あけましておめでとうございます。
こんな感じでいおみきのショートストーリーを書いていきます。
百合要素をたくさん盛り込んでおりますので、苦手な方はお控えください。


せっかくのお正月なので、煩悩の数の108個を書いてみたいなと思います。
話間では繋がりは無いので、あんまり気にしないでください。
ついでにクオリティとか文章力の差も気にしないでください。



お題はこちらからお借りしました。
サイト管理人に108のお題。さま
http://kakairu.s6.xrea.com/108/

2.おはよう

美希「……ミキ、おにぎりは好きだけど、……おにぎりにはなりたくな、あふぅ」

伊織「なーに、幸せそうな夢見てるのよ。ほら早く起きないと、遅刻しちゃうわよ?」

美希「……でこちゃんおはよー」

伊織「のんきに挨拶してる暇あんならさっさと着替えなさいよ。あの教授、出席厳しいんだから」

美希「…………」

伊織「何よ?じっと私のほうを見て」

美希「朝起きたらさ、でこちゃんを一番最初に見られてさ」

伊織「ええ」

美希「幸せってこういうことなんだなぁって」

伊織「ッ~~~!な、ななななな、」

美希「なーんてね。顔洗ってくるの」

伊織「……ばーか」

3.花

美希「ねーでこちゃん」

伊織「……何よ」

美希「真面目に練習しないんだったら、ミキ寝たいんだけど」

伊織「なっ!な、何言ってるのよ!ちゃんと真面目にやるわよ」

美希「なら早くミキに寝技をかけてほしいの。華やかな技じゃないといけないんでしょ?ほらー」

伊織「……だ、だから」

美希「……?……!でこちゃんのえっち」

伊織「はぁ?」

美希「ミキ、寝てるだけだよ?なんでそういうこと思い出しちゃうかなー?」

伊織「ち、違ッ」

美希「ふーん。ならほらミキを好きにして、いいよ?」

伊織「……あんた分かってやってるでしょ!」

美希「ムッツリなでこちゃんが悪いだけだと思うの、ミキは」

伊織「だって、……だって」

美希「もーでこちゃん可愛いの」

言い忘れてましたが、伊織と美希がアイドルじゃなかったり、とかいう世界線が違う話もありますんで、お気をつけください。

4.子供

美希「どうしたの、でこちゃん?そんなにぷりぷりしちゃって?」

伊織「お父さまの頼みで、取引先の方の息子とお見合いしてきたのよ」

美希「ほへー、そういうの聞くとやっぱりお金持ちなんだね、でこちゃん」

伊織「からかわないの。で、その息子と来たら『君のやりたいことに僕は合わせるよ』 なーんて言い出すのよ。ったく、お父さまの顔なんて考えなかったら蹴っ飛ばしてたわよ、あんな奴」

美希「まぁまぁ。しょうがないんじゃない?今って『そーしょく系』っての増えてるし」

伊織「まぁね。私に合わせることなんてどうでも良いから、あんたの考えを聞かせなさいよ、って感じよ、全く」

美希「あーそれミキも分かるかも」

伊織「でしょ。……なんか怒ったらお腹空いたわね。ミキ、お昼食べに行きましょうよ」

美希「いいよー。……今日はハンバーグにしようよ」

伊織「私、麺類の気分なんだけど」

美希「えー、ハンバーグの気分になってよ」

伊織「あんたが麺類の気分になりなさいよ」

美希「それは無理なの」

伊織「もう少し考えたりしなさいよ」

美希「だって無理なものは無理なんだもん!」

ほらね。
やっぱりこんな感じの方が私好みなのよ。
まぁもうちょっと大人になってから出直してきなさいよ、ぼうやって。
最初から私を狙おうなんてランクが高すぎるのよ、なんてね。

5.チョコレート

その日もひどい雨だった。
「雨が私の分まで泣いてくれてるのかしらね?」
「……そう、かもね」
冗談めかした口調で伊織ちゃんは言ったんだろうけれど、声の調子は明らかにそれを外していた。
「涙、出ないのよ」
「美希が死んじゃって、悲しいはずなのに。悔しいはずなのに」
「泣けないのよ」

私はただそれを黙って聞く。今の伊織ちゃんに必要なのは同意の言葉じゃなくて、きっと自分の話を聞いてくれる相手だと思うから。
「ばっかみたいでしょ。探しちゃうのよ、あの金髪を。事務所の窓とか、この交差点とかで。……いるわけ、ないのにね」


『今日バレンタインデーだったの!ミキとしたことがすっかり忘れてたの!……ちょっと買ってくるね!」



「……ほんとどこまでチョコのお使いに行ってるのかしらね」

6.読書

美希「でこちゃーん!」

伊織「……」

美希「あれ?いつもみたいに『でこちゃん言うな』って言ってくれないの?」

伊織「レポートで死にかけてるんだから、あんたにかまってる暇無いのよ。本読みながらレポート書かなきゃいけないのよ」

美希「最近レポート、レポートでミキにかまってくれないね、でこちゃんったら」

伊織「はいはい、ごめんごめん。はい、どいて」

美希「つれないの」

伊織「終わったらかまってあげるから、あんたはあんたで好きなことしてなさいよ」

美希「……好きな、こと?」

伊織「そうよ」

美希「急に言われても困るの」

伊織「じゃあ今日の夕飯の準備でしておいて?」

美希「えー。……あっ」

伊織「なに、って!……なに抱きついてんのよ、あんたは」

美希「だってでこちゃんが好きなことしろって言うから。ミキにとって、好きなことはこれなの」

伊織「もーあんたは」

美希「ミキのこと、嫌いになっちゃった?」

伊織「嫌いって言ったらどうなるのよ?」

美希「んー泣いちゃうと思う」

伊織「……惚れなおしたって言ったら?」

美希「……照れちゃうの」

伊織「もーあんたは」ワシワシ

美希「えへへー」



7.癖

こんなに自分が泣き虫だって知らなかった。

こんなに自分が嫉妬しやすいってのも知らなかった。


あんた好みのお米の炊き方が出来るようになったのも。

好みのおにぎりの固さで握れるようになったのも。

あくびが「あふぅ」ってなったのも。
もう1人には戻れないのも。
全部ぜーんぶあんたのせいだからね!

8.マグカップ

伊織「ココア飲む?」

美希「うーん。ちょーだい」

伊織「はいはい。……それにしてもいつ止むのかしらね、雪」

美希「2、3日は降るってテレビでは言ってたよー」

伊織「全く買い物にも行けないじゃない、こんなのじゃ」

美希「いいじゃんいいじゃん、その分お仕事お休みになったんだから」

伊織「でもこの雪じゃあねぇ」

美希「久しぶりに2人でダラダラしてようよ。……最近忙しかったからでこちゃん成分不足気味なの」

伊織「……まぁあんたがそうしたいのなら付き合ってあげてもいいわよ?」

美希「それじゃあ遠慮なく」ワキワキ

伊織「ココア飲んでからよ……時間はあるんだから焦らないの」

9.休日

美希「んー、悩むの」

伊織「何をよ?」

美希「ミキは今でこちゃんに膝枕してもらってるの」

伊織「ええ。そろそろ重いからどいてもらっていいかしら?」

美希「それはミキが頭の中にいっぱいいろんなことが詰まってるってこと?」

伊織「おにぎりといちごババロア、あとはキャラメルマキアートしか無いのになんでこんなに重いのかしらね」

美希「ヒドイの!」

伊織「で、何なのよ」

美希「ミキは今きゅーげきに何か飲みたくなったの」

伊織「……?飲めばいいじゃない」

美希「でも飲もうとしたら頭がでこちゃんの足から離れちゃうの、それはヤ!」

伊織「どういう理屈なのよ、それは」

美希「だからでこちゃん、飲ませてよ!」

伊織「はぁ?」
美希「ミキにでこちゃんが飲ませて!」

伊織「ちなみにどうやってかしら?」
美希「それはもちろん!くちうつッ!痛いの!」

伊織「バカ言ってる暇あるならさっさと立ちなさい」

美希「あーミキの足ー、膝ー、太ももー!」

伊織「私のよ!」

10.不安

美希「すっごい雨だね。風もスゴイの」

伊織「気をつけなさいよ、あんたこれから仕事でしょ?」

美希「はーい」

伊織「……それとそのはしたない長さのスカートからこっちに履き替えていきなさい」

美希「えーでこちゃんのだと落ちちゃうじゃん」

伊織「あんたのほうがウエスト太いでしょうが」

美希「あはっ、覚えてたんだ」

伊織「そりゃ一昨日あんだけ騒いでたらね。……夜中にあんだけおにぎり食べてたらそうなるわよ」

美希「ミキ的にはね、あんな美味しいの作っちゃうでこちゃんに問題があると思うなー」

伊織「はいはいバカなこと言ってないで、ちゃっちゃっと着替えちゃいなさい」

美希「つれないのー。でもなんで?」

伊織「別に。そのスカートの長さじゃ風邪引いちゃうかもでしょ?看病するのは嫌なのよ」

美希「ふーん。まぁいいや、そうするね」

自分でも何でかは分からないのよ。
ただもし風のイタズラであんたの下着が誰かに見られるって思ったら、いつの間にかそうしてた。
なんて言えないわよね。

11.「お帰り」

なんで私はまだみっともなくこんな生にしがみついているのだろう?

美希が私の前から姿を消したあの日から、それを受け入れて前に進むことも、後ろを振り向き思い出に浸ることも出来ず、私はずっとどこにも、どっちにも進めないでいる。

美希が隣にいない未来を夢想することに意味はなく、美希が隣にいた過去を思い出せば、今のこの現状がたまらないほど辛くなる。

自慢だった顔も髪も、私の全ては痛みきっている。

でもそれをどうにかしようなんては思えない。
だって褒めてくれるあの子がいないのだから。
だったらそんなのは無意味なことだから。

美希がいなくなった世界で生きていく自信なんて無い。だけど。それなのに。私は今だに死を自分から選べずにいる。
こんな私の姿を見たらあんたは何て言うでしょうね?
笑う?
怒る?
それとも泣くのかしら?

出来ればその答えを、この部屋の扉をいつもみたいに飛び開けて教えてほしい。

いつでも「お帰りなさい」って言う準備は出来ているのに。
いつまで経ってもその準備は活かされることはない。

そんなありもしない希望にすがることぐらいしか、私が生きていく理由は無いのだから。

12.氷

美希「なんでミキ結婚出来ないのかな?」

伊織「結婚してない私に聞かないでよ」

美希「確かに」

伊織「納得しないでよ」

美希「あー結婚したい」

伊織「そっちの職場に良い人いないの?」

美希「いはするけど、みーんな結婚してたりするの。ミキ、二番さんなんて絶対イヤだし。伊織の方は?」

伊織「ほとんど女だから無いわね」

美希「ってことは伊織に紹介してもらうのも無しかー。どうしよう、このまま1人でシワシワのおばあちゃんになっちゃったら」

伊織「うちの化粧水使えば皺は出来にくくなるわよ?」

美希「そういうんじゃないの!」

伊織「……あんたの理想が高すぎるんじゃないの?」

美希「えーそんなことないと思うけどな」

伊織「試しに言ってみなさいよ」

美希「んーとね、まず伊織みたいにミキにちゃんとツッコミを入れてくれて」

伊織「うん?」

美希「伊織みたいにミキのお酒にちゃんと付き合ってくれて」

伊織「うん、うん?」

美希「伊織みたいにミキを、」

伊織「なんで全部、私みたいにってつけるのよ?そ、そんなんじゃ」

美希「ん?」

伊織「わ、私と付き合いって言ってるみたいじゃない」

美希「あー盲点だったの。伊織、ミキと付き合おうよ?ついでに結婚しよ?」

伊織「女同士でしょうが」

美希「あー」

伊織「……」

美希「グラス空いたけど何か頼む?」

伊織「ベイリーズ。ロックで。あんたは?」

美希「ビールおかわりかな」

伊織「そりゃモテないわ、あんた」


13.月

美希「月が綺麗だね」

伊織「……そう?ずっと前から月は綺麗だったと思うわよ?」

美希「……そうだったんだぁ」

伊織「そうよ。気付いてなかったの?」

美希「うん。やっぱり月が綺麗だね」

伊織「ええ」

14.友達
美希「でこちゃんにとってさー」

伊織「うん?」

美希「ミキってどういうソンザイ?」

伊織「そうね、……ガールフレンドかしら?」

美希「女の子のおトモダチってこと?」

伊織「正解。よく英語が分かったわね」

美希「ミキ、そこまでおバカじゃない、……!ねぇさ、でこちゃん?」

伊織「なによ?」

美希「girlfriendってさ、最後はいー、とえぬとでぃーで終わるよね?」

伊織「そうね」

美希「うん、だからさ」

伊織「?」

美希「友達はおっしまーい!」

伊織「はぁ!?……んっ!んんっ!……いきなり何するのよ!」

美希「何って女の子のおトモダチってのを振りエンドしたの!もうそれはおしまいなの」

伊織「はぁ。……じゃあ今はどういう意味なのよ」

美希「コイビト、かな?」

15.キャンディー

美希「おにぎり食べたいのー」

伊織「今お米炊いてるとこでしょ、ちょっとくらい待ちなさいよ」

美希「むーりぃーなの」

伊織「それ、別の子。ああ、もう仕方ないわね」

美希「でこちゃんを人差し指に塩つけてどうしたの?」

伊織「……これでもしゃぶってなさいよ、お米が炊けるまで!」

美希「変態さん?」

伊織「蹴るわよ」

美希「まぁこれはこれで」

伊織「……んっ。噛まないでよ」

美希「痛くないでしょ?……それとも痛いのが好きだった?」

伊織「そんなことあるわけないでしょ」

美希「ふぅーん」

伊織「何よ?」

美希「いややっぱり変態さんちっくだーなんてさ」

伊織「指出されて素直に舐めてるあんたのほうが変態よ」

美希「それもそうかも、なの」

16.浴衣

美希「この浴衣可愛いね、でこちゃん」

伊織「……ぬ、がしッ、ながら、言わないの」

美希「こういう可愛いのだと、ミキも脱がしがいがあるの」

伊織「……ほんとに可愛いと思ってるの?」

美希「思ってるよ、どうかしたの?」

伊織「……あんた何でも可愛いって言うから信用できないのよね」

美希「それだけでこちゃんが選ぶのが、でこちゃんに良く似合ってるってことなの」

伊織「……ばぁーか」

美希「あはっ、照れてるでこちゃん可愛いの!」

伊織「るっさいわよ!ばーか!ばーか!」

美希「それにね」

伊織「うん」

美希「でこちゃんがミキのために選んでくれてるってことが、もうすっごく可愛いの!」

17.ウソツキ

美希「嘘でもいいから、今だけでいいから好きって言って?」

伊織「好きよ」

美希「うん」

伊織「好きよ」

美希「……うん」

伊織「あんたのことが大好き」

美希「……ありがとう、伊織」

18.写真

伊織がやよいとお喋りしてる。
笑顔。
伊織が律子と仕事の打ち合わせをしてる。
真剣な顔。
事務所での打ち上げであずさが酔っ払っちゃって伊織が介抱してる。
ちょっと困ったような顔。
伊織が志保にダンスを教えてる。
自信いっぱいの『センパイ』って顔。
春香を見てる。
悔しそうな顔。

伊織の顔はいっぱい変わる。
みんなといるとほんといろんな顔が見える。
一つ一つを写真に収めたいくらい魅力的なんだ。

ミキといる時の伊織は、どんな顔、してるのかな?
笑ってる?それとも怒ってる?……悲しんだ顔はしててほしくないなー。

近くにいるはずなのに全然分からないんだ。

伊織からミキはどんな顔に見えてるんだろう?
やっぱり笑顔がいいの。なーんて、ね?


19.血液

美希「雪って綺麗だねー」

伊織「そうね」

美希「でもミキね、もっと綺麗なもの知ってるんだー、分かる?」

伊織「さぁね」

美希「正解はでこちゃんの血!……さぁミキに見せてよ!」

伊織「……ほら早くしなさいよ」

美希「むー、ちょっとは抵抗してくれないとやるきにならないのー」

伊織「私はあんたのお人形よ。あんたが飽きるまで何度も殺されて、その度に生き返って。ずっと君悪がられてさ、……あんたが飽きたら、私はまた1人ぼっちよ」

美希「ミキは飽きたりしないよ。伊織、知ってる?殺し方ってさ、それこそいっぱいあるんだよ。これを全部やり終わるまでどれくらいかかるんだろうね!それを試しきれないと死にきれないの!」

伊織「……ふふっ、そうよね」

美希「お互い不老で不死身の身体。殺し殺されてこの無限の時を楽しもうよ」

伊織「ええ」

美希、伊織「「死が2人を別つまで!」」

20.恋心

あの子の笑顔が好き。

でもその笑顔が1番綺麗に輝く時を私は真っ正面から見ることは出来ない。

「ねぇねぇ、ハニーこっち向いて?」

だってプロデューサーに話しかけてる時が1番綺麗に輝くんですもの。

「ねぇ、美希」

「なぁに、でこちゃん?」

「別に。呼んだだけよ」

「変なでこちゃん」

21.色とりどり

でこちゃん、今日はどんなパンツ履いているんだろう。ウサギさんプリントのやつかな?それとも久々にシルクかな?

ってことでチェックたーいむ!

…………!

「えっちなの!すけべなの!でこちゃんはこんなの履いちゃいけないの!」

「毎日出会い頭に下着見て感想言うのやめなさい!」

22.「大好き」

美希「……やよいってさ、でこちゃんと付き合ってるんだっけ?」

やよい「うえっ!……うー、えっと、その」

美希「隠さなくてもいいじゃん?ミキたち……仲間でしょ?」

やよい「……!そうですね。私は、伊織ちゃんと、……えへへっ照れますね、これ?」

美希「ミキ的にはお似合いだと思うよ?」

ーーー
伊織「あら?あんた一体今日は髪どうしちゃったのよ?」

自分でもバカだな、とは思ってる。もうこの2人の世界は出来ていて、自分みたいな『異分子』が入れる隙間なんてないだろうなって。
でも、それでも、何もしないままだなんて、それは自分が許さなかった。

美希「ツインテールだよ?……今日はねー、1年に1度のツインテールの日なんだよ。まさかでこちゃん知らなかったってことないよね?」

あなたが好きな女の子の髪型をマネしてみてみるのも、今日くらいは許してね。

23.雨

伊織「ねぇ?」

美希「んー誰なの、キミ?」

伊織「あんたはなんでこんな雨の中で踊ってるの?」

美希「雨の中で踊ったらいけないんだっけ?」

伊織「だってそれが常識だもの!」

美希「でもミキは踊りたいんだもん。他の人はどうでもいいの。ミキがしたいか、したくないか。それだけなの」

伊織「……でも他の人は、」

美希「キミは誰の人生を生きてるの?他の誰かのために生きてるの?……ミキは嫌だなぁ、そんなのはさ」

伊織「……」

美希「ミキはミキのために生きるの。そこに他の誰かなんて関係ないの」

24.玩具

やよい「あれー?伊織ちゃん、シャルルはどうしたの?……はっ!また無くしちゃったしちゃったんじゃ!」

伊織「……心配しないで、やよい。あの居眠りお嬢さまがっと!……にひひっ、ほらやっぱり」

やよい「あー美希さんがシャルルを!」

伊織「『ちょっと話すことあるから借りるね』って持っていちゃって。……ったく、人のぬいぐるみを勝手に抱き枕代わりに使ってんじゃないわよ!」

やよい「伊織ちゃん、すんごい口がニマニマしてるよ」

伊織「気のせいよ」

やよい「ふーん。えへへっ、そういうことにしといてあげる」

伊織「んなっ!」

美希「……でこちゃん、うるさいのー」



ちなみになんで美希がうさちゃんを借りたか、というと。


美希「あのね、ミキはずぅぅーっとキミに言いたいことがあったの!」
うさちゃん「……」
美希「キミはね、でこちゃんにいつもいつもくっついててね、でこちゃんとミキの甘い時間のお邪魔虫さんなの!……今度からは気をつけてね!」

響「美希は人形と会話できるの?」

貴音「妖の類でしょうか?

25.アイスクリーム

伊織「美希、アイス食べましょー」

美希「いいよー。あっ、いっぱいあるの。んーどれにしようかな?……でこちゃんは決まったー?」

伊織「ふぇっ!……あの、その……パピコ。べ、べべ別にあんたと半分こが言ってるんじゃないわよ!パピコ美味しいし、半分にすれば経済的だし、というかこのスーパーセレブの伊織ちゃんなんだから値段のことは気にしなくていいというか、私としては雪見だいふくでもいいし、そ、そそれよりもでこちゃんって言うなっててて、な、何度言ったら……」
美希「じゃあ美希はガリガリくんにしようかな、やっぱり王道のソーダで、でも梨に会えるのは夏だけだし、でも浮気は良くないよね」

伊織「」

26.教室

美希「ねーでこちゃん授業どうするのー?」

伊織「秋期に選択必修は取ったから今期は言語系とかを取ろうって考えてるわ」

美希「……それって英語とか?ミキ、必修のだけで手いっぱいなの」

伊織「中国語とドイツ語よ」

美希「むぅーりぃなーの」

伊織「これからの時代、喋れるようになってたら楽よ?」

美希「むー。そうかもだけどー」

伊織「旅行とか行く時も選択肢増えていいじゃない?」

美希「でこちゃんじゃないんだし、そんなにしょっちゅう海外になんか行かないの」

伊織「あら、そう?」

美希「うん!それにさ」

伊織「何よ?」

美希「旅行に行く時はでこちゃんが必ず隣にいるからミキが喋れる必要は無いかなーって」

伊織「……ばぁーか」

美希「へへっ」

伊織「ったく、じゃあ他には何取るのよ?」

美希「うーん、佐藤先生の『比較社会学』を取ろうと思ってるかな」

伊織「……出席重視しないんでしょ、それ」

美希「……よく分かったね」

伊織「あんた、朝くらい起きなさいよ。学校近くに家あるんだから!」

美希「じゃあ起こしてくれたって良いじゃん」

伊織「あんた起きないじゃないの!「うん……うん……起きるの、起きるの」っね言うばっかりで」

美希「……それは、しょうがないの」

伊織「しょうがなくないのよ!」

美希「でこちゃんが夜ミキをイジメすぎるのが悪いの!」

伊織「誤解を招くようなこと言わないの、って」

美希「うっわー、やっぱり学食混んでるねー」

伊織「……しょうがないわね、中庭で食べましょう」

美希「うん!賛成!じゃあミキ、おにぎり買ってくるね」

伊織「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

美希「えーどうしたのさ、でこちゃん?早く行かないとコンビニ混んじゃうの。あっ、でこちゃんも何か買うの?」

伊織「か、買いに行く必要なんかな、無いわよ!」

美希「えーミキ今日おにぎり作ってきてないよ?」

伊織「あんたが作ってきてなくても!……私が作ってきてるのよ」

美希「ふふっ、そうだったんだー」

伊織「そうよ!」

美希「じゃあさ、早く中庭行こうよ?」

伊織「うえっ、ちょっと引っ張らないでよ」

27.三角

翼「……もう伊織さんったら、そんなに抵抗してちゃ、可愛い顔が台無しですよ?」

伊織「あんたの前じゃ可愛い顔なんてしてやんないわよ」

翼「も~それをさせるのが私なんですよ~、伊織さん」

伊織「……悪趣味ね」

翼「そんなに美希さんのことが好きなんですかぁ~」

伊織「ええ、そうよ。知らなかった?」

翼「も~生意気なんですから、伊織さんったら。そんなに生意気な態度取られると、もーっとイジめたくなっちゃいますよ?」

伊織「……本当に悪趣味ね、あんた」

翼「褒め言葉って受け取っておきますよ」

伊織「そんなんじゃ美希になんか勝てないわよ、あんた?」

翼「大丈夫ですよ、こういうの負けたことないんで~」





28.プレゼント

伊織「あんたってシャンプー、何使ってるの?」
美希「えーとね、セブン印のなんか適当なの」
伊織「だからか。せっかく綺麗な髪なのに、それじゃあ傷むばっかりよ」
美希「だってー。近くて何でも揃ってるから、つい」
伊織「そりゃ家の真下に入ってるから近いでしょうけれど」

美希「でこちゃんは何のシャンプー使ってるの?」
伊織「ビダヴォサスーンよ」
美希「使ったことないの。だからでこちゃんの髪、いつも良い匂いなんだ」
伊織「……使って、みる?」
美希「泊まっていいの?」
伊織「……別に、いいわよ」
美希「へへっー、でこちゃんの家でお泊まりデートー」

伊織「そ、そういうのじゃない、っていうか、お泊まりデートって」
美希「まぁまぁ、お菓子の廃棄、たくさん持ってくからさ。……量は期待してていいよ?」
伊織「いや廃棄って売れ残りだから期待できないわよ」
美希「ミキはこのさやえんどうのお菓子好きだけどなー」
伊織「あら?これなら私も好きよ」
美希「裏に期限切れ間近のがあとダンボール四つくらいあるの」
伊織「……自分の味覚を疑いたくなってくるわね」
美希「ってことだから、それを一箱持っていくね」
伊織「多すぎるわよ!……っていうかお菓子よりご飯はどうするの?」
美希「うーんとね」
伊織「うん」

美希「でこちゃんの作ったご飯が食べたいなーなんて」
伊織「……たいの?」
美希「えっ?」
伊織「何が食べたいのか、って聞いてんのよ!」
美希「えっとねー、……ミキ、ハンバーグがいいなぁ」
伊織「了解。とびっきりの作ってやるから覚悟しておきなさいよね」
美希「うん!」

29.願い

美希「どうしたの?」

伊織「つかれちゃった」

美希「ふぅーん?だから」

伊織「だっこ」

美希「だっこを?」

伊織「だっこして」

美希「だっこをして……何かな?」

伊織「だっこさせてあげる」

美希「んー違うの」

伊織「……だっこしてちょうだい」

美希「よく出来ましたなの!」


「幼稚園伊織と保母美希さん」

30.トキメキ

律子「あんたってスゴイわよね」

美希「えー、律子なーに?」

律子「律子『さん』!……今日一日歌って踊って喋って、……今時の言い方だと何だっけ『リア充』だったっけ?」

美希「……律子って意外におばさん?」

律子「どういうことよ!あと「さん』」

美希「だってリア充ってそういう使い方しないよ?」

律子「そ、そうなの?」

美希「うん、そうなの!リア充ってのはね、主に彼氏さんとか彼女さんがいる人のことなの」

律子「ほへー、そうだったのね。……でも、あんただって伊織が」

美希「でもねー、最近デコちゃんったらね!おにぎりの具がいつも鮭とおかかなんだよ!前は日替わりで変えてくれたのに!」

律子「……美希?」

美希「ん?なぁーにッ!痛いの!」

律子「こぉのぉー、リア充がぁー!」

美希「なんなのなのー!」

31.流れ星

伊織「なんでミリマスの美希は上位報酬かガシャなのよ!」

美希「知ったこっちゃねーの」

伊織「ほら私、ドリンク飲むのよ。そしてもっと美希と志保と翼を働かせなさい」

美希「でこちゃんがスタミナ回復しても意味ないと思うんだけどなー」

伊織「よし、もう一本!」

美希「聞いてないの。……でもさー」

伊織「何よ」

美希「ミキが目の前にいるんだからよくない?ほらミキ喋るし、動くし、触れるよ?」

伊織「バカねぇ」

美希「えっ?」

伊織「あんたに関係するもの全てが欲しいのよ。……言わせないでよ」

美希「…………。本当は?」

伊織「ゲームにハマっちゃいました」



ギリギリ爆死は免れました。

32.硝子

美希「あー画面割れてたわ」

伊織「画面ならまだショップに持っていけば直せるわよ。あっ、そういえば知ってる?」

美希「なにー?」

伊織「携帯って全部充電するより80%とかその辺で止めた方が電池長持ちするんだってさ。律子が言ってたんだ」

美希「……へぇ」

伊織「どうしたの?」

美希「でこちゃん分も八分で止めたほうが長持ちするんじゃないかなって思って」

伊織「バカねぇ、アンタは」

美希「ふぇっ?……きゃっ!」

伊織「これは満タンにしといていいの!ほら、ぎゅーってしなさいよ」

美希「でこちゃんってばさ、甘えん坊さんだよね」

伊織「でもちゃんとしてくれるんだね」

美希「ミキも負けず劣らず甘えん坊だからね。ミキもぎゅっとして、ね?」



33.犬

美希「でこちゃーん!」

伊織「っわっぷ!いきなり何すんのよ!あんたは!」

美希「別にー。なんとなくだよ?」

伊織「……ッ!は、早く、どきなさいよ!」

美希「えーどうしたの?」

伊織「……別に。邪魔なだけ、」

美希「ミキがこんなに近くにいるからドキドキしちゃった?」

伊織「そんなこと!……そんなことない、わよ」
美希「ふぅーん」

伊織「な、何って!ちょっ、あんた!」

美希「ミキはこんなにドキドキしてるのに、でこちゃんだけドキドキしてないなんてズルいの」

伊織「ッ!……も」

美希「うん?」

伊織「ドキドキしてなくもない!って言ったの!……何回も言わせないの!このおバカ!」

美希「うん!やっぱりでこちゃんは可愛いの!」

34.手をつなごう

美希「土曜日、だっけ?式はさ」

伊織「そうよ。で、明日から土曜日までは式の準備やら何やらでお屋敷に缶詰め」

美希「じゃあ今日が「水瀬伊織」に会える、最後の日ってわけだ」

伊織「……そうね」

美希「ねぇ伊織、手、繋いでいい?」

伊織「……分かってんの、あんた?土曜日には、私は、」

美希「分かってるよ!……分かってるよ、そんなの」

伊織「……だったら!どうしてよ?」

美希「終わらせるから。ちゃんと終わらせるからさ」

伊織「……」

美希「土曜日には笑ってるからさ。今日だけは、さ」

伊織「あんたにしちゃ、ずいぶん素直ね」

美希「これでも我慢してるんだよ。でもさ、これ以上しちゃうとさ」

伊織「うん」

美希「笑顔、作れなくなっちゃうからさ」

伊織「……うん」

美希「結婚おめでとう、伊織」

伊織「ありがとう」

35.ミルク

伊織「おにぎりとか食べてると」

美希「うん?」

伊織「甘いもの、欲しくならない?」

美希「あー分かるかも」

伊織「私、さっきポッキー食べ終えたばっかりだから、逆にしょっぱいの欲しいんだけど」

美希「……顔、真っ赤だよ?」

伊織「ッ!そ、そんなこと無いわよ!」

美希「……ふぅーん」

伊織「な、何よ!」

美希「でこちゃんのおねだりの仕方、可愛いよね?」

伊織「なッ!……んっ!」

美希「ごちそーさまでした。これでおにぎりがもっと美味しく食べれるの」

伊織「……私も、ポッキー、もう一つ食べましょうかね」

美希「もー可愛いの、でこちゃんってば!。ミルク味だったんだね、これ」

伊織「な、舐めるなー!」

36.任務(仕事)

美希「でこちゃんはさー、浮気しすぎなの!」

伊織「また唐突ね、今度は何よ?」

美希「だって月曜日はやよいだったでしょ、火曜日は志保で、他の曜日は……。あー、もうとんだタラシさんなの。もっとミキに構ってよ」

伊織「あんたに1番構ってると思うわよ?それこそ週休七日制の休み無しでね」

美希「そんなことないのー」

伊織「膝枕されながら言うセリフがそれかしら?」

美希「ついでに耳掃除してほしいの」

伊織「じゃあ夕飯当番変わりなさいよ」

美希「今日はでこちゃんの作った料理が食べたい日なのー!」

伊織「……調子の良いことで。何が食べたいのよ?……おにぎりは無しで」

美希「んーとね、オムライスが良いなぁ」

伊織「はーい」

37.くちびる

伊織「おとなしく降参したらどうなのよ?」

美希「ミキはまだまだ平気だもーん。そういうでこちゃんこそさっさと降参しなよ」

伊織「はぁ?私のほうこそまだまだ余裕よ」

伊織、美希「「むー!ふんっ!」」

真「雪歩、何やってるか知ってる?」

雪歩「何か先にキスしたほうが負けのゲームやってるんだって」

真「はぁ」

38.窓

伊織「……はぁー」

美希「どうしたのさ、伊織?ため息なんかついて」

伊織「もう32にもなるってのに、休日にあんたと昼から飲んだッくれてるって現実を思い返したら、勝手に出たのよ」

美希「ふぅーん、誰かいい人いないの?」

伊織「仕事してたらみーんな結婚しちゃったのよ」

美希「あらら」

伊織「あんたこそいないの?モテそうなのに」

美希「いっぱい来るよ。でもさぁ」

伊織「なによ?」

美希「その人たちと食事に行ったりするより、伊織とこうやってお酒飲んでるほうが楽しいんだー」

伊織「……そんなこと言うから相手が勘違いしちゃうんでしょうね」

美希「伊織も勘違いしちゃう?」

伊織「…どうかしらねー?」

美希「勘違いしちゃったらさ、私と結婚しようよ、でこちゃん?」

伊織「でこちゃん言うな!……懐かしいこと言うのねー、あんたも。そうね、それもありかもね」

美希「じゃあ乾杯しとく?」

伊織「何によ?」

美希「二人の幸せな未来に?」
伊織「ばーか」

「「かんぱーい」」


窓に映った私たちの姿は、案外幸せそうだった。



39.独り言

恋に落ちる音ってこんな音、なんだね。
今まで好きになられたことばっかりで、好きになったこと無かったから、そういうの分からなかったの。

恋をするってこんなになっちゃうんだね。

ずっと伊織のことだけ考えちゃってる。
伊織のことを想うとほっぺたが赤くなっちゃう。
伊織としたいことが頭の中で暴れてしまって止まんない。

恋ってさ、こんなにスゴイんだね。

40.緊張

美希「でこちゃんってさ」

伊織「……な、何よ」

美希「案外緊張しいさん?」

伊織「は、はぁ?こ、このスーパーアイドル伊織ちゃんが、まさかそんな緊張だなんて、」

美希「足がガクガクだし、顔スゴイよ?」

伊織「……緊張してるわよ。だってあの玲音とフェスなのよ、緊張しないわけ、んっ!」

美希「……ぷはーって、どう?でこちゃん、緊張ほぐ、ッ!?いたいの!」

伊織「い、いきなりキスしちゃダメって何度言ったら分かるのよ!」

美希「えへへー」

伊織「なによ」

美希「いつものでこちゃんだーって」

伊織「ッ!」

美希「大丈夫だよ。ミキ、玲音より伊織のほうがイカしてると思うもん」

伊織「……あったりまえよ!」

41.告白

美希「ねーでこちゃん、ミキ別の番組みたいー」

伊織「私はこれが見たいのよ」

美希「ねーでこちゃん、お風呂洗ってきてー」

伊織「やーよ。今日はあんたの当番の日でしょ」

美希「ねーでこちゃん、アイス取ってきてー」

伊織「あんたのほうが近いんだから、あんたが行きなさいよ」

美希「ねぇ伊織、結婚しようよ」

伊織「そうね、しましょうか?」

一旦ここで止めます。

早ければ朝に、遅くとも夕方から再開します。

もうしばらくお付き合いください。


再開します。

42.時計

美希「誰か来ちゃうんじゃないの?」

伊織「大丈夫よ、あと1分くらいは帰ってこないわよ」

美希「……そう。綺麗だね、ドレス。似合ってるよ」

伊織「ありがとう」

美希「なーんで隣にいるのがミキじゃないんだろうね?」

伊織「……そうね。私もそう思うわ」

美希「……最後にキスくらい、良いよね」

伊織「誓いの口づけの前にするなんて性格悪いわよ、あんた」

美希「だったら控え室に入れたりしないでしよ。……そういうことだってミキじゃなくたって勘違いしちゃうよ」

伊織「……そうね」

美希「あと一回いいでしょ?」

伊織「ダメよ。もう時間よ、ってん!」

美希「もう貰っちゃった。じゃあね」

伊織「式、出ていかないの?」

美希「見たくないの。伊織がミキ以外のになるとこなんてさ」

伊織「そう」

美希「うん」



伊織「…………ばか」

43.夜

伊織「……待った、わよね?」

美希「『待った』なんてもんじゃないよ!あとちょっと遅かったら現役アイドルの凍死体が出来上がってるとこだったの、全く!」

伊織「……ごめんなさい」

美希「ってことで!」

伊織「きゃっ!いきなり何すんのよ!」

美希「冷えたから温めてもらおうと思って!これがお仕置きー!」

伊織「ちょバカ冷たいでしょ!」

美希「お仕置きだもーん。キツイくらいがちょうどいいの」

伊織「買ってきてあげまココアでも握ってなさいよ!ていうかあんたホント手が冷たって」

美希「……でこちゃん走ってきてくれたでしょ?あったかいけどさ、汗拭かないと風邪引いちゃうよ?」

伊織「話を聞きなさい。話を」

美希「言い訳聞いてあげてもいいけらど……」

伊織「けど……なによ?」

美希「もうちょい美希に抱きつかせておいて!」

伊織「……分かったわよ」

美希「で?お仕事何かあった?」

伊織「撮影がちょっと長引いちゃって……で、携帯も充電無くなっちゃって、連絡も出来なくて」

美希「コンビニで充電器買えば良かったんじゃない?」

伊織「あっ」

美希「ばーか。でこちゃんのばーか」
伊織「……う、うるさいっ!」

美希「まぁこの買ってきてくれたココアと温かいでこちゃんに免じて許してあげるの。……はい、何か言う言葉は?」

伊織「……ありがとうございます」

美希「よく言えました!……じゃあ伊織行こ?まよなかデートの始まりだよ!」



44.喧嘩

美希「むー」

伊織「どうしたのよ、美希?そんな難しい顔して」

美希「律子ー、聞いてなの!」

律子「律子『さん』!んで、どうしたのよ?」

美希「これ見てよ!」


http://i.imgur.com/OZWNLQM.jpg


律子「あーGWの伊織のイベントの写真ね、これがどうかしたのよ?」

美希「これのここ!ここ!ここ!」

律子「シャルル持った伊織じゃない。何かあるの?」

美希「見てよ!うさちゃんのいる位置をさ!」

律子「胸のあたり、」

美希「でこちゃんのしょぼパイを頭で感じるとかとんだえっちウサギさんなの!」

律子「はぁ?」

美希「ミキのおっぱいなのに!なんなの、なんなのなの!この勝ち誇ったような目!かんっぺきにバカにしてるの!って、律子どこに行くの!まだ話は終わってないの!」

律子「律子『さん』!……アホらしくて付き合ってられないわよ」

美希「むー!」

律子「ところであんた後ろ大丈夫なの?」

美希「後ろ?……うえっ、で、でこちゃん!」

伊織「だぁーれがしょぼパイよ!何がえっちウサギなのよ?」

美希「あわわわ、た、助けて律子さん」

律子「まぁ頑張りなさいな」

伊織「美希ー!覚悟しなさーい!」

美希「うわぁーん、ごめんなさいなのー!」



45.お茶

美希「ここ立ち入り禁止だよ?知らないの、でこちゃん?」

伊織「ええ!その立ち入り禁止の場所でサボってる金髪さんをお見かけしたんで、風紀を指導しにね」

美希「えー!でこちゃん、ミキのこと探してくれてたの?」

伊織「話を聞け!あと、『委員長』って呼びなさい」

美希「やだ。だってミキふりょーだもん」

伊織「カップに、ポットに、ソファー。……あんた学校に何しに来てるのよ?」

美希「お昼寝かな」

伊織「家で寝てなさいよ、ったく。ほら授業行くわ、よ?……ッ!」

美希「まぁまぁゆっくりしていきなよ、でこちゃんのことだから予習完璧でしょ?一回サボったっていいよ」

伊織「はーなーしなさーい!」

美希「や、なの」

……………
…………
………
……


伊織「人生で初めて授業サボったわよ」

美希「授業ねー。聞いてたって面白くないの、あんなの」

伊織「今勉強しないと大人になってから後悔するわよ」

美希「そうかな?教科書より大事なことがここで学べるよ」

伊織「例えば何よ?」

美希「Cの意味とか、ぶっ!」バシッ

伊織「エッチ!バカ!変態!信じらんない!」

美希「冗談なのー。……人生は1度っきりだよ、退屈してたらもったいないの」

伊織「それでも、んっ!」チュッ

美希「こんなこと教室じゃ教えてくれないでしょ?」

伊織「あ、あんたいきなり、何すんのよ!」

美希「教室じゃ教えてくれないことの実践編1」

伊織「ッ!帰る!」バタン

美希「2が受けたくなったらいつでもおいでよ」

伊織「もう来ないわよ!」

美希「……ううん、でこちゃんは来るの。絶対にさ」




46.料理

伊織「うー寒々。ただいまー、ってあれみきー寝ちゃってるのー?」

美希「……」

伊織「爆睡ね。昼間にあんなに寝てるのに、よく眠れることだこと。……ご飯どうしようかしらね。美希が寝てるんなら外ですませてくればよかったわね」

オムライス『…………』

伊織「あらオムライスじゃない」

オムライス『でこちゃんのことだから外で食べようとかって考えてるでしょ、ミキにはお見通しだよ、そんなの!』

伊織「……ふふっ」

オムライス『それはもったいないからダメ!オムライス作っておいたからチンして食べてね!
P.Sキレイに包めたでしょー。これで「美希が得意なのはおにぎりだけね」なんてもう言わせないの!』

伊織「そうね、いただきます」

美希「どうぞー」

伊織「最近のオムライスは喋れるのね?」

美希「うん、そうなの」

47.ひざまくら

美希は最近私のひざを枕にしてよく昼寝をする。
美希に聞くと「えーでこちゃんのが一番寝やすいんだもん」とのこと。

美希が律子のことを好きなことなんてずっと前から気づいてる。
私が美希のことを好き、ってことに美希は気づいてはいない。


美希はもう律子のことは好きなんかじゃなくて私のことが好き、というもしかしたら。
本当に私のことを何とも思ってないからこうやって枕にしてるというもしかしたら。

確かめたいけれど、夢が終わって現れる現実を見るのが嫌だから。

望めるならこの距離をずっと。

48.潤滑油

幸せな恋か、って言われるとちょっと自信がない。

かといって辛い恋か、って言われるとそれも違う。

どうして自分じゃないのかって繰り返すのはもう飽きたから。

だから、「おめでとう伊織!やよいと幸せにね!」

涙は見せずに笑っちゃおう。

それが私だから、『星井美希』なはずだから。

49.鳥肌

伊織「あんた寒そうね、私ちょっと暑くなっちゃったからこの毛布上げるわよ、……くっしゅ」

美希「でこちゃん、クシャミしながら言っても意味ないよ。それに、ミキねちょっと暑いなーって思ってたとこだからさそれいらな、っくしゅ!うー」

伊織「あら星井さんもお寒いんじゃないんですの?」

美希「ふーんだ。そんなことないもーん」

伊織「ウソね」

美希「違うもーん」

伊織「気づいてないと思うけど何か隠してるときのあんたって、語尾伸びるのよ」

美希「えっ、ウソ」

伊織「ウソよ、でもやっぱり寒かったんじゃない」

美希「ズルイー。ズルイの、でこちゃん」

伊織「引っかかるあんたが悪いのよー、ほらこれ」

美希「いいよ、でこちゃんが被りなよ」

伊織「あんたが」

美希「でこちゃんが」

伊織「……」

美希「……」

伊織、美希「「一緒に入る?」」

伊織「ふふっ」

美希「えへへ」

伊織「ったく強情っぱりなんだから。……もっと寄りなさいよ」

美希「それはでこちゃんのほうなの。……これでいい?」

伊織「はい、どうも。あんた体温高いわね」

美希「伊織のほうがあったかいの。……やっぱりお子ちゃまだからかなー?」

伊織「今に見てなさいよね、絶対あんたを追い抜いてやるから」

美希「もうごめんごめん。んっ、これで機嫌治してよー」

伊織「……おでこじゃヤダ」

美希「やっぱり伊織のほうが強情っぱりなの」チュッ

伊織「んっ。そうよ、それでいいのよ」




美希「はいはい、おやすみなさーいなの、でこちゃん」

伊織「おやすみなさい、美希。明日、あんたがご飯当番なんだからちゃんと起きなさいよね」

美希「はーい。……おにぎりでいい?」

伊織「せめてもう一品つけなさいよ」

美希「んー?たくあん」

伊織「それは一品とは言わないわよ」

美希「冗談だよ。……冷凍庫に残ってたハラス使っていい?」

伊織「あーいいわよ。そろそろ食べようと思ってたとこだったし」


美希「んー。まぁお味噌汁の具材は起きてから考えるの」

伊織「んっ」

美希「じゃあおやすみなさい」

伊織「おやすみなさい」

50.トラウマ

伊織「ねぇ美希、私の一生のお願い聞いてくれる?」

美希「なぁーに?」

伊織「絶対に、私より先に死なないで。あんたまでいなくなったら、私、……私。もう生きていく自信無いから」

美希「確かに「一生」のお願いなの。でもね、お断りなの、そんなの」

伊織「えっ?」

美希「ミキも自信ないもん、そんなの。だからさ、もし死ぬ時は一緒に死のう、ねっ?」

51.一人ぼっち

あの大きなお屋敷の中で、私はいつだって一人ぼっちだった。

お父様もお母様も、私を、「水瀬伊織」を見てはくれなかった。

新堂もそうだった。新堂が見てたのは「お嬢様」の私だった。

私に求められているのは、いつか嫁ぐことになるだろうその家で、水瀬として恥ずかしくない『娘』であることだった。

学校でもそうだった。

私は「伊織」じゃない。

「水瀬」だった。


けれど美希に会って、私は始めて自分自身を「愛される」ということを知った気がする。

「でこちゃん」なんてあだ名で呼ばれることなんて、私の人生には無いと思っていたから。

もし美希がいなくなったら?

私はまた一人ぼっちになっちゃう。


孤独の味しか知らなければ、ここまで苦しくは無かったかもしれない。

でも、誰かに愛される、「伊織」を見てもらえる、そんな喜びを知ってしまったから。


ねぇ、美希?
私を、一人にしないでね。

52.羽根

伊織「何よ、帰ってくるなりいきなり抱きついてきて」

美希「……」

伊織「もう言わなきゃわかんないでしょ?」

美希「……でこちゃんは女の子にちょっかいかけすぎなの」

伊織「はぁ?」

美希「やよいだって、志保だって、みんなみーんなでこちゃんのこと好きなのに、でこちゃんってばむぼーびにそっち行っちゃうし」

伊織「何よ、そんなこと?」

美希「そんなことじゃないもん!ミキにとっては一大事だもん!」

伊織「……とりあえず離しなさいよ」

美希「ヤ!」

伊織「離す!」

美希「絶対ヤなの!ミキのでこちゃんなの」

伊織「……あんたも嫉妬したりするのね」

美希「ミキ、そんなによいこじゃないもん」

伊織「……ったく、このばぁーか」チュッ

美希「バカとは、なんな、の?えっ?」

伊織「……離してくんないと、口に、できないでしょ?……さっ、離してくれる?」

美希「うん!えへへー、でこちゃん」

伊織「何よ?」

美希「ミキ離れたよ?ほらほら」

伊織「できないとは言ったけれど、してあげるとは言ってないでしょ?にひひっ!」

美希「ひ、ひどいの!ミキの気持ちをもてあそんだの、でこちゃん!」

伊織「弄ぶって、人聞きの悪っ、って泣くことないでしょうが!」

美希「でこちゃんの女の敵、すけこまし、女たらしー」

伊織「るっさいわね!ほら!」

美希「んっ!」チュッ

このあと滅茶苦茶キスした。

53.雪

美希「……眠れないの?」

伊織「なんか眠くなくてね。……あんたこそよく今まで起きてたわね?」

美希「……なんか眠くなくてね」

伊織「あんたが眠れないなんて大阪に雪でもも降らすつもりなのかしら?」

美希「それを言うなら、でこちゃんが緊張する、なんて。……いつものことだったの」

伊織「んなわけないでしょ!……そう見える?」

美希「うん。……春香がいないから?」

伊織「大正解よ。……今までツアーの始まりで春香がいないから、なんだかね。……ッ痛!なにすんのよ」

美希「らしくないんじゃない?」

伊織「……」

美希「でこちゃんなら『春香がいないってことは私が今回のセンターね?……いつものことだわ、おっほっほっ』ぐらい言いそうな、ッ痛!なにするのさ!」

伊織「あんたが私のことどう思ってるか、よーく分かったわよ!」

美希「……冗談なのにー。じゃあさ、おまじないしてあげるよ」

伊織「おまじない?……って、何す、る」

美希「伊織がよくやってくれたおまじない。小指に髪を巻いて、うんこれで大丈夫なの!」

伊織「……覚えてたんだ」

美希「……忘れたことなんてなかったの。よくやってくれたよね、ミキだけライブの時とか、伊織がさ」

伊織「最近は一緒のことが多かったしね」

美希「二人なら負けないから」

伊織「……」

美希「伊織には、伊織と美希の二人分のパワーが今宿ってるの。……春香を超えられるよ、絶対に」

伊織「…………がと」

美希「え?」

伊織「私だけでも充分、って言ったのよ」

美希「それでこそ伊織らしいの。……よく眠れそう?」

伊織「ええ。……抱き枕があるともっと良いけれどね」

美希「あまえんぼー」

伊織「今日くらいいいでしょ?」

美希「はいはい。ほら?」

伊織「ありがとっ」

美希「どういたしまして。……頑張ってね?」

伊織「ええ!」

54.「お疲れさま」

伊織「ふあーあ」

美希「デコちゃん、眠そうだね」

伊織「ちょっとね。昨日寝付けなくって」

美希「ふーん、じゃあさお仕事までもうちょっと時間あるみたいだし、寝てたら?美希、起きてて起こしてあげるよ」

伊織「あんたも一緒に寝てましたー、ってやつじゃないわよね?」

美希「さっき寝たばっかだから大丈夫だもーん」

伊織「あらそう、……それなら」

美希「……あのー、デコちゃん、そのなんでミキの膝で寝てるの?」

伊織「ちょうどよいクッションが無かったのよ。結構いい枕よ、美希?」

美希「あ、ありがとうなの」

伊織「……すぅ」

美希「早いの。……伊織はさ、頑張りすぎなの。もうちょっと他の人、頼ってもいいんだよ?」

伊織「……」

美希「別に、特別な意味なんかないの。そう、いつも頑張ってる伊織にミキからの応援パワーの注入するだけなの」チュ

春香「ただいまー!ってあれ、美希どうしたの?顔真っ赤だけど?」

美希「は、春香は黙っててなの!」

春香「なんで!」

55.お酒

千早「うちの真美が可愛いのよ!」

伊織「あら、美希だって負けてないわよ!」

真美「あーあ、また始まったよ、あれ。どうする、ミキミキ」

美希「あーなると手がつけられないから放っておくの」

真美「だね。なんかおかわりいる?」

美希「んー。まだいいや」

真美「そっ。すいませーん、ハイボール一つで!」

美希「良く飲めるよね、そういう強いお酒。しかもウイスキーでしょ、それ」

真美「あの酔っ払いに付き合って飲んでるうちにね。そういうミキミキこそ飲まなくて大丈夫なの?」

美希「ミキまで潰れたらもう1人の酔っ払いはどうやって連れて帰るの?」

真美「……違いないね」

美希「それにね、ミキあんまりお酒飲めないの」

真美「あー言ってたね、そういや。ならさ、ロックとかでチビチビと飲んでいけば?」

美希「……試してみようかな」

真美「そうこなくっちゃ、すいませー、ってあれ」

美希「良い大人がお店で寝ないでほしいの」

真美「……ったく。すいませーん、伝票くださーい!」

56.退屈

美希「飽きちゃった。よくもまあそんなダンスで、歌でミキに挑んだもんなの。……キミたちとのフェスなんて、ただ退屈なだけ。時間が勿体無いの」

貴音「美希、言いすぎです!」

響「そうだぞ美希!いくらなんでも」

美希「……はぁ」

……………
…………
………
……



貴音「美希ッ!」

美希「何さ、貴音。怖い顔して」

貴音「あそこまで心を折る必要はなかったのでは、ということです。帰り際彼女たちを見ましたが……。あれではもう舞台に立つのも怖くてしょうがなくなってしまうのではなってしまいます」

美希「別に良いんじゃん?」

貴音「なっ!」

美希「美希は勝ち続けないといけないの。頂点で待ってないと」

貴音「それならば何故今日戦ったユニットより遥かに格下の竜宮小町を気にしてるのですか?」

美希「……気づいてたんだ」

響「その、竜宮小町って美希が前いた事務所のユニットだよね。なんでまたそんなとこのを気にしてるのさ」

美希「約束したんだ」

貴音「約束、ですか?」

美希「うん。待ってるって、ね」

響き 「待ってる、か」

美希「そう。だからミキは勝ち続けないといけない。負けたりなんかしたら、ダメなんだよ。待ってられなくなっちゃうから」

貴音「美希」

美希「伊織は来るって約束したの。だからミキは待つ。この玉座で!何年経っても!……邪魔するってなら、2人だって踏み倒していくからね」

響「自分、そう簡単に踏み倒されたりしないけどな」

貴音「ええ。私もそのつもりです」

美希「ふふっ、だから2人ともミキの『仲間』なの」


57.髪の毛

美希「あーつーいーのー。本当に今日から5月?」

伊織「そこのカレンダー見なさいよ。ちゃーんと5月7日って書いてあんでしょ」

美希「うぅん、去年ってこんなに暑かったっけ?」

伊織「こんなもんじゃなかったかしら?」

美希「なんででこちゃん平気なのさ、ふこーへいなの!」

伊織「はいはい」

美希「ずーるーいのー」

伊織「あんたの髪、もわもわしてるからそのせいじゃないの?」

美希「あー確かに。……切っちゃおうかな」

伊織「あら、もったいない」

美希「ちなみにでこちゃんは長いのと短いのどっちが好き?」

伊織「……んー」

美希「へーちゃんと考えてくれるんだ」

伊織「ねぇ、美希」

美希「なーに?」

伊織「どっちもってありかしら?」

美希「それはズルいからダメ!どっちか選んで欲しいの」

伊織「そっ。じゃあ長い方が好きよ」

美希「それはまたどうして?」

伊織「べっつに。特に理由なんか無いわよ。私が好きならそれでいいでしょう?」

美希「確かに。……にしても暑いの」

伊織「せっかく紛らわせてあげてたのに」

美希「ってことでもっとお喋りしよ!」

伊織「はいはい。……ところで晩ご飯は何がいい?」

美希「えーこういう暑い時でもするっと食べれて、あといっぱい栄養のあるもの」

伊織「もっとこう具体的に言いなさいよ」

美希「分かんないからお買い物に行こうよ」

伊織「あんたも着いてきなさいよ」

美希「もっちろんなの!」

58.鎖

気がつくとミキは伊織の首を締めてた。
伊織がいなくなったこの世界で一人で生きていくなんて寂しくって出来ないのに、出来ないはずなのに。

涙は一滴もこぼれなかった。
それどころかミキの顔は笑っていた。

手の力を緩めようと思ってるのに、まるでミキの手じゃないかのように、言うことを聞いてはくれなかった。

いやだ。イヤだ。厭だ。嫌だ。
伊織を殺したくない、なのに手の力は緩まない。
涙だってこぼれない。

「……大丈夫だよ、伊織。ミキも一緒に死ぬからさ」


伊織が微笑んだような、そんな気がした。

59.未来

美希「……でこちゃんって目、悪かったっけ?」

伊織「悪くなったのよ。仕事柄細かい文字ばっか見るからね」

美希「社長さんも大変だねぇ」

伊織「ええ。自分んとこのアイドルが社長室でゴロゴロしてたらそりゃあ大変よ」

美希「……誰のことなの?」

伊織「あんたよ!あんた!」

美希「ミキ?」

伊織「この部屋にあんた以外誰がいんのよ?」

美希「んーとね、小梅がよく言ってる『あの子』とか?」

伊織「……あ、あんた、まさかみ、見え」

美希「でこちゃんってば怖がりすぎなの。ミキ、そういうの全然見えないんだー」

伊織「何よ、脅かさないで、って!違うわよ、そうじゃなくて」

美希「ミキはね、ゴロゴロなんかしてないの!」

伊織「じゃあ何をしてんのよ?」

美希「何もしないをしてるんだよ?」

伊織「それを世間ではゴロゴロしてる、って言うのよ!」

美希「へーそうなんだ」

伊織「ちょっとは聞きなさい!って言ってももうあんた、今日の仕事全部終わりなのよね」

伊織「あら、あんたでも気にすることなんてあるのね」

美希「当たり前なの。好きな人にはいつだって綺麗なミキを見ていてほしいからね」

伊織「……ばっかねー」

美希「?」

伊織「あんたがどんなに皺くちゃになっても、私はあんたが一番綺麗だと思うわよ」

美希「……ふふっ、ミキもそう思うな」

60.無邪気

最近ミキにも悩みが出来たの。
ミキね、アイドルになったんだけど、事務所に同い年がいるの。
お人形さんみたいに可愛くて、名前は「水瀬伊織」って言うんだって。

で、その悩みってのは。
その子のことを何て呼べばいいかってことなの。

「水瀬さん」
ないの。
ミキ的にそれは絶対ないの。

「伊織」
んー?いつかは呼んでみたいけれど、さすがにそれは馴れ馴れしすぎないかな?

あの子、おでこがとってもキュートだから、…………。
「でこちゃん!」

うん、これなの!


伊織「なんでよ!」

61.罪

最近伊織の匂いがする。

伊織の視線を感じる。

伊織の笑い声が聞こえる。

そんな気がする。

そんなことないのに。

だってミキがこの手でちゃんと絞め殺したんだもん。

あぁそうか。

「もうホントに寂しがり屋さんだね、でこちゃんってば」


分かったよ、すぐ行くってばさ。

62.指輪

伊織「美希ー!ちょっと来なさい!」

美希「なぁに、でこちゃん?」

伊織「これはなに?」

美希「パンツ、だよ」

伊織「私が言ってるのはたたみ方の話よ。グチャグチャってしちゃいけないって何度言ったら分かるの」

美希「グチャグチャじゃないもん。ちゃんとたたんだもん」

伊織「大きくて入らないのよ、これだと!」

美希「むー」

伊織「いい?床に置いて左右から真ん中に向かって折る。長方形になるように整えて、中に入れ込む。分かった?」

美希「はーい」

伊織「それと、干し方もよ!」

美希「えーまだあるのー?」

伊織「下着を干すときはこれの真ん中に干して、タオルとかTシャツとかで隠すようにしなさい。外から見えちゃうでしょ」

美希「でこちゃんこういうの、知らなさそうなのに。案外知ってるよね」

伊織「当然よ、だって花嫁しゅ、な、何でもないわ、忘れなさい!」

美希「ふーん?ミキのとこに来るときに花嫁修業終わらせてきたんだ、ふーん」

伊織「そんなこと言ってないじゃない!」

美希「ならミキがタキシードか。お色直しで交換しようよ」

伊織「はぁー?……っていうか私は花嫁修業なんかしてないっての!」

美希「ミキだってウエディングドレス着たいのー!」

伊織「話を聞きなさいってばー!」

63.海

美希「ねぇ、でこちゃん」

伊織「なによ、ご飯なら今作ってるから……」

美希「ミキと逃げて、今の生活は幸せ?」

伊織「……ええ」

美希「ほんと?」

伊織「 ほんとって、言われても。私は今のこの生活、好きよ?……まぁアイドルだった時に未練は無いかって言われたら、そこはまぁ、ね?」

美希「……」

伊織「でもね」

美希「……え?」

伊織「したくもない結婚させられて、オニンギョウさんで過ごすより、あんたといる今の方が何倍も楽しいわよ」

美希「……ッ!」

伊織「どうしたのよ?」

美希「……えっと、見ないで!」

伊織「なーに泣いてんのよ、あんたは」

美希「……でこちゃんだって」

伊織「へ?」

美希「でこちゃんだって泣いてるくせに」

伊織「泣いてないわよ!」

美希「ウソ!目がウルウルしてるもん!」

伊織「さっきまで玉ねぎ切ってたからよ、これは!」

美希「今日の晩御飯は何なの?」

伊織「鯖の味噌煮よ!」

美希「玉ねぎなんか使ってないの!」

伊織「……with玉ねぎ」

美希「みじん切りなのに?」

伊織「……あーもう、泣いたわよ!」

美希「ミキも。……お揃い、だね」

64.確信犯

伊織「雨、降ってるわね」

美希「本当だー!……朝の天気予報じゃ言ってなかったのにー!」

伊織「何よ、あんた?傘持ってきてないの?」

美希「……うん」

伊織「もう、しょうがないわねー。ほら私の使いなさいよ」

美希「え、でもそしたらでこちゃんが濡れちゃ、」

伊織「こうするんなら一本あれば充分でしょ?」

美希「だね」


65.くだもの

伊織「みきー、これなおしておいてー」

美希「……?でこちゃーん、これ直すとこなんかないよ?どこ?」

伊織「冷蔵庫に決まってるでしょ」

美希「えっ!冷蔵庫壊れちゃったの?」

伊織「はぁ?冷蔵庫壊れたの?」

美希「でこちゃんが言ったじゃん『冷蔵庫を直せ』って」

伊織「違うわよ、『冷蔵庫にこれをなおしておいてって言ったのよ」

美希「……?…………?冷蔵庫は壊れてないよ?」

伊織「それは分かったからなおしてって」

美希「だから直すとこなんてないの!」

伊織「あら?そんなに冷蔵庫にいっぱい入ってかしら?」

美希「ううん、空っぽなの」

伊織「だったら早くなおしなさいよ」

美希「うん?……うん?」

66.たった一つの

美希「あーあ、おにぎりがでこちゃんだったらいいのに」

伊織「いきなり何よ、それ?」

美希「だってさ、おにぎりはいつもミキが『ほしいなー』って思ったらあるけれど、でこちゃんはそうは行かないもん」

伊織「は、はぁ」

美希「もっとこう休憩中におにぎりを食べる感覚ででこちゃんと会いたいの!」

伊織「人のことをおにぎり呼ばわりとは良い度胸ね、あんた」

美希「えー褒めてるのに」

伊織「どこがよ?」

美希「ミキの好きなものランキングナンバーワンと同じなんだから褒めてるでしょ?」

伊織「あんたのランキングだと私おにぎりに負けてるんじゃない!……まぁ、でも」

美希「でも、なに?」

伊織「そうやって久しぶりに会った時、あんた私のことをめちゃくちゃにして、食べてるじゃない。……ごめんなさい、ちょっとおげひ、んっ!」

美希「伊織、可愛いよ?」

伊織「いきなりキスするの、やめて、って!どうして私は脱がされてるの、ちょっ、美希!目!目が据わってる」

美希「いただきまーす!」

67.匂い

伊織「……あんた、また浮気したでしょ」

美希「あはっ、分かっちゃった?」

伊織「分かるわよ。……シャンプーの匂い、いつもと違うもの」

美希「……でこちゃんはいつもこの匂いだね」

伊織「あんた好きだったでしょ、この匂い」

美希「覚えててくれたんだー。ありがとうなの!」

伊織「……いつもこれで誤魔化せ、んっ!」

美希「誤魔化してなんてないよ。ミキはいつもでこちゃんだけなの」

伊織「ウソばっかり。あんた、私じゃなくたっていいんでしょ?」

美希「そんなことないよ。ミキにはでこちゃんだけしかいないの。他の子は遊び、でこちゃんだけなの」

伊織「……」

美希「だからでこちゃんはミキ以外知らなくていいんだよ」

伊織「……あんたも私以外知らなくても良かったのに」

68.包帯

美希「ぬーん、なの」

伊織「あんたが悩むなんて珍しいわね。どうしたのよ?」

美希「ミキだって悩むことくらいあるの!でこちゃんが作ってくれたおにぎりの具は何かなー、とか」

伊織「逆にそんなことで悩めるあんたが望ましいわよ」

美希「でも今日はちがうのー」

伊織「んもぅ、ほら聞いてあげるから言ってみなさいよ」

美希「ミキが歌う歌ってさ」

伊織「うん」

美希「失恋しちゃうのばっかじゃない?」

伊織「……あー確かに」

美希「ミキだって、たまにはずーっとラブラブしてるの歌いたいの」

伊織「『ショッキングな彼』とかあるじゃないのさ」

美希「もっとこう、『コーヒー一杯のイマージュ』とか『しあわせのレシピ』みたいなのも歌っていいの」

伊織「そうね」

美希「悲しい恋のお話ばっかりしてたら、いつかミキもそーなっちゃうのー」

伊織「そんなこと無いわよ?」

美希「ふぇっ?……ちょ、でこ、ちゃん、狭っ」

伊織「だって私はそんなことしないし、させないわよ、あんたを」

美希「……ッ!うん!えへへ、破ったら絶対許さないの」

伊織「ええ、約束するわ」

69.恋敵

翼「美希先パイって、伊織さんのこと好きですよね」

美希「……だったらなんなの?」

翼「もう付き合ったりしてるんですか?」
美希「さぁ?」

翼「その様子だとまだ何ですね。……美希先パイ、伊織さん貰っても良いですかぁ~?」

美希「ミキ、冗談は嫌いなんだ」

翼「わたしもですよぉ~」

70.嫉妬

おや美希ちゃん、また泣きながら眠ってるね。

僕の見立てだと伊織ちゃんのことでしょ?

やよいちゃんに、伊織ちゃんが自分には見せたことのない顔を見せていたということだろうね。

……ふふっ、でもね。
実はそれを最初に見たのは僕なのさ。確かにやよいちゃんは美希ちゃん以上だよ、でも僕には勝てないよ。

以上、伊織ちゃんの初めての友達。『うさちゃん』からの勝利宣言でした。

……でもね、伊織ちゃんが美希ちゃんに対して見せるあの『ライバル』としての顔はさ、やよいちゃんもこの僕だって見ることは出来ないんだ。

……それはちょっと望ましかったりする、かな?

71.帰り道

美希「でこちゃんってミキよりやよいのほうが好きでしょ?」

伊織「はぁ?」

美希「だってやよいといる時のほうが笑ってる気がするし。ミキといる時は、んっ!」チュッ

伊織「……」

美希「いきなりだね」

伊織「好きじゃなきゃこんなことしないわよ」

美希「……うん」

伊織「わかった、このあほ」

美希「ごめんね」

伊織「べ、別にあんたといる時が楽しくないってわけじゃないのよ!ただ……」

美希「ただ?」

伊織「その、気の利いたことでも、言おうと思ったり、とか、その」

美希「ミキのためにいろいろ考えてくれてたんだ」

伊織「……そうよ」

美希「やーっ!」

伊織「ちょっと重いってば」

美希「でこちゃん」

伊織「何よ?」

美希「大好き」

72.手紙

毎日夜の日課だったあんたからの電話があんなに幸せだったなんて。
他愛のないやり取りのあんたとのメールがあんなに楽しかったなんて。
あの時は私は本当にバカだった。
もうあんたがどんな声で喋ってたのかも思い出せない。
どんなに待ってもあんたからメールは届かない。

携帯のディスプレイにあんたの、『星井美希』の名前を探す。
探したってあるはずない。読んだことのあるメール。見たことのある着信履歴。一つだって私の知らない文字は無い。情報が無い。

「……もうこの伊織ちゃんをこんなに待たせるなんて。……あんただけ、なんだからね」

73.涙

美希「サイテー」

伊織「ごめんなさい」

美希「ミキ、すっごく怖かったんだからね。でこちゃんがいつものでこちゃんじゃないって!」

伊織「悪かったわよ」

美希「もう千早さんとお酒飲んでくるの禁止!というか千早さんのペースにでこちゃんがついていけるわけ無いじゃん!」

伊織「……はい」

美希「あんなムリヤリされてミキの心はふかーく傷ついたの」

伊織「んぐっ!」

美希「さっきも言ったけれど本当に怖かったんだからね!」

伊織「……っ!」

美希「だ•か•ら」

伊織「だから?」

美希「次は優しくしてね、いおり?」

伊織「……卑怯よ、あんた」

美希「そうかな?」

伊織「そうよ。……私以外に見せないでよね、そういうとこ。特に律子とかには」

美希「んー、どうしよっかなー?」

伊織「あ、あんたね!」

美希「これからちゃんと優しくしてくれるんだったら考えてあげるよ」

伊織「……うん」

美希「たのんだよ、いおり?」

74.放課後

美希「でこちゃん、今日はカレー食べたいの」

伊織「珍しくわね、あんたがおにぎり以外のもの食べたいだなんて」

美希「別にミキそんなにいつもおにぎり、おにぎりって言ってるわけ、……あったの」

伊織「でしょ?まぁ別に良いけれど、どうしたのよ?」

美希「んー別に理由無いよー。ただ食べたくなっただけ」

伊織「そう。……お肉無いから買いに行くわよ」

美希「うん。……ねぇ、ねぇでこちゃん、お菓子買ってよー」

伊織「これからカレー食べるんでしょうが」

美希「女の子だからお菓子は別腹なの」

伊織「あっ、そう。……豚肉安いからポークカレーで良いわよね?」

美希「うん、いいよー!あっ、そうだった!」

伊織「何よ?」

美希「トイレットペーパー切れかけだったの」

伊織「……あらほんと。じゃあそれも買いましょうか」

美希「川のほう?」

伊織「反対のほうよ。時間あるし、大丈夫でしょ?散歩がてら行きましょうよ」

美希「えへへ、やったー」

伊織「何よ?」

美希「でこちゃんとデートだもん」

伊織「買い物よ、買い物」

美希「ふふーん」

75.野生化

伊織「何してんの、あんた?」

美希「んーとね、でこちゃんが最近志保とか杏奈とかに浮気してばっかだから、ミキもね考えてみたの」

伊織「はぁ」

美希「で、小鳥に相談してみたら「それはマンネリってやつよ!ピーヨピヨ!」って言って、これ、貸してくれたの」

伊織「何でよりにもよってそこに相談したのよ?」

美希「……可愛くない?ミキの猫耳?」

伊織「……バカねぇ」

美希「えっ?あっ、ちょ、んっ!……んっ!」


ホントバカねぇ、美希ったら。
そんな可愛い格好されたら、我慢できなくなっちゃうでしょうが。

76.瞳

「あれ、でこちゃんって目が悪かったっけ?」

「伊達よ、伊達眼鏡。変装用よ」

「でもでこちゃんってお家からお迎えの車じゃなかったっけ?」

「……たまに電車を使うときもあるのよ」

「なんだか律子みたいだね。あっ、律子ー!」


律子のマネなんかしてもやっぱりダメね。

77.宝物

伊織「電車ってあんまり好きじゃないよね」

美希「お嬢さまだから?」

伊織「違うわよ」

美希「ふぅーん?話変わるけれどミキ眠くなってきちゃったの。着いたら起こしてね」

伊織「変わってないわよ、おバカ」

美希「ふぇ?」

伊織「私が電車が好きじゃないのはね、あんたが構わず寝るせいでみんなにあんたの寝顔が見られちゃうからなのよ」

美希「そ、そうだったんだ」

伊織「ってことであんたはこれから電車で寝るの、禁止!良いわね?」

美希「えーだって電車って……」

伊織「えーもだってもダメ!……あんたの寝顔見ていいのは私だけなの」

美希「しょうがないなぁ、でこちゃんはー」

伊織「ふんっ」

78.一人遊び

伊織は言ってた。


「待ってなさい!いつか追いついてみせるから!」


そう言ったなら、伊織はどんなに時間がかかってもミキの前にやってくるの。

だから。

待ってるよ、伊織。

この玉座にたった一人っきりでも。
いつかまた一緒に歌って踊れるそんな日を。

79.過去

人が恋に落ちる瞬間を見るのは、これで2度目なの。

1度目は春香がプロデューサーに。
2度目はでこちゃんがやよいに、の今この瞬間。

ちなみに美希の恋愛が人知れずに終わったのも、これで2度目なんだけどはこれはまぁ秘密で。

「どうしたの、でこちゃん?やよいに恋でもしちゃった?」

そうでないことを祈ってみるもの……。

「そ、そんなんじゃないわよ!な、何言ってんのよ、あんたは!バッカじゃないの!」

こんな反応してたら、言葉ではどんなに言っても認めてるようなもんだとミキ思うんだ。

「……嘘なのバレバレだよ、でこちゃん」

80.片思い

翼「美希センパー、……あっ」

「誕生日くらいシャキッとしたらどうなのよ?」
「でこちゃんをプレゼントに貰ったらそうするよ」
「……?どういうことよ?んっ!」
「えへっ、こういうことー」
「ば、ばっかじゃないの!」

翼「……やっぱりわたしが入りこむ隙間、なんて無いのかな?」

わたしの見たかったのどんな顔よりも綺麗な顔をしてる美希さんが目の前にいた。
でも美希さんの視線はわたしを見てはない。
伊織さんを見ている。
それはまるでわたしが二人の間に割って入る余地なんて無い、ていう現実を改めて突きつけるようで。

翼「ばっかみたいじゃん」

81.裏切り

誰にも負けない、そのつもりだった。
あの子がミキたちが、私たちに挑戦に来るまで負けないって。
でも負けてしまった。
約束を守ることが出来なかった。ゴメンなさい、美希。
美希に言えば気にすることないって言うでしょうね。
……でも私が私を許せない。

……この嘘の、この罪は重い。

82.鍵

美希「はぁ。律子と結婚したいの」

伊織「願望ダダ漏れよ」

美希「でこちゃん、聞いてたの?」

伊織「あんたが自分で言ったんじゃない」

美希「誰にも言わないでね、でこちゃん!えーと、そう!『おふれこ』ってやつなの!いい!」

伊織「……こういうのはね、私にもオフレコにしとくもんよ、ばーか」

83.笑顔

律子「伊織ー!ごめーん、こっちでおにぎり握るの手伝ってもらえなーい?」

伊織「何で!私がケータリングのおにぎりを握らなくちゃいけないのよ」

律子「あんたのおにぎりがみんなに好評なのよ。……んっ!絶妙な塩加減に固さ。これはプロね」

伊織「やーよ、そんなプロ。得意にならざるえなかっただけよ」

律子「ふーん」

伊織「なにニヤついてんのよ」

律子「べっつにー。あの子、喜んでるでしょ?」

伊織「ええ。ずっとニコニコしてて食べてるわよ」



84.特別

律子の横にいるあんたが嫌い、
律子の傍で笑ってるあんたが嫌い。
律子に甘えてるあんたが嫌い。

あんたの「特別」じゃない、私が嫌い。

なんてやよいと付き合ってる私が言えた義理ではないけれどね。
身勝手だと思う。
やよいには本当に申し訳ないって思ってるわ。

85.束縛

伊織にいきなりキスしてみた。
伊織ってば、目をまん丸にして驚いてるの。
いつもより長くキスをしてみる。
いつもよりも、もっと乱暴に。

息苦しくなったのか、ミキの胸を押してくる。
息を吸いたい?だぁーめ。

伊織「……ッ、ハァハァ、……な、なにすんの、……あんた」

美希「今日やよいとキス、してたでしょ?」

伊織「……見てたの!?」

美希「べつにやよいにキスされたからー、って嫉妬じゃないの」

伊織「……」

美希「ただ伊織が誰のものなのか、もう一回ハッキリと分からせてあげた、それだけなの。伊織ってば、まんざらでもなさそうな顔、してたしね」

次は身体にも教え直してあげる、その意味を込めて、首筋に顔を寄せた。

86.思い出

美希が生まれてきた時の顔。
美希が初めて喋った時の言葉。
小さい時にどんな子供だったのか、どんなことを喋っていたのか。
それから、それから。
私が知らない美希の姿はこんなにもある。
ずっとそれが悔しくてたまらなかった。

でも今は平気よ。
なんでかって?
だって美希の今際の際の顔と声を知ってるのは、私だけなんだから。

87.指先

美希「あっ!でこちゃんからメールだ!見て見て!」

『?』

響「うぇっ!貴音、これ分かるか?」

貴音「いえ私ではなんとも……。何かを訪ねてるのは分かるのですが……」

美希「もー2人ともでこちゃん力低いの。……これでよしっと!」

伊織「……、ふふっそう良かったじゃない」

亜美「ミキミキからの返信?」

伊織「そうよ」

あずさ「美希ちゃんも伊織ちゃんもよくこれだけで分かるわね」

伊織「そう?私たちいつもこんな感じだけれどね」

美希『!』

88.蜜月

美希「でっこちゃん!ただいまなのー!……ってあれ?もう寝ちゃってるの?」

伊織「……」

美希「ふふっ、寝てるんだったらキスしちゃおうかなー」

伊織「……!」

美希「顔真っ赤だよ、伊織?」

伊織「なっ!」

美希「寝たフリだった?」

伊織「寝たフリなわけないじゃない。……今だって寝てるんだから」



89.真実

美希「このおにぎりってさ、でこちゃんが作ったの?」

伊織「……私は知らないわよ」

美希「ふぅん?」

伊織「……どうかしたの?」

美希「いや、これ作った人、お塩とお砂糖間違えてるから教えてあげようと思って」

伊織「ウソっ!そんなこと……あっ!」

美希「うん、そんなことないよ!これとって美味しいの!」

伊織「もうっ!」

90.虜

私が誰かのためにご飯を作ってる、だなんて言ったらお父様やお母様は目をまん丸にするでしょうし、お兄様たちは大笑いするでしょうね。
新堂は……「……お嬢様、うぅ」って言って泣くのかしら。

でも当然よね。
私だって、自分のことなのにビックリしてるもの。

美希「ねーねー、でこちゃん。ミキ、今日はおにぎり食べたい気分なの」

伊織「あんたいつもそれじゃない。今日は野菜を食べる日よ」

美希「はーい」

って、まぁこんな感じね。
これが惚れた弱みってやつなのかしら。

……それなら案外悪くない、わね。
なんて。

91.痣(印)

伊織「あんたさ」

美希「んー?」

伊織「終わったらいつも私の胸のとこをさ」

美希「うん」

伊織「変な感じで触るけれど、なんなのよあれ?」

美希「あっ、気づいてた?」

伊織「そりゃまあね。で、なんなのよ」

美希「ミキのサインだよ」

伊織「えっ?……きゃっ!」ギュッ

美希「伊織が美希のだってー。他の誰が見ても分かるようにね」

伊織「……見えないから分からないでしょうよ」

美希「感じるんだよ、こういうのはさ。見えてなくても、ね?」

92.コスチューム

美希「どう?でこちゃん、似合ってる?」

伊織「……馬子にも衣装ってやつね」

美希「もーちゃんとこっち見て言ってほしいの!……もしかして照れてるの?」

伊織「そっ、そんなわけないでしょ!あと、声!そんな声の男、いるわけないでしょ?」

美希「そうだね。あー、うん。伊織、愛してるよ?」

伊織「なっ!なっ!」

美希「顔真っ赤ー!」

伊織「いきなり言うからよ。……はぁ、なんだってあんたが相手方なのよ」

美希「だってそういうお芝居だもん、ミキは女だけど男として育てられた王子様の役、でこちゃんは、ぷぷっ、可憐なお姫様役」

伊織「なんでそこで笑うのよ!」

美希「だってでこちゃんが可憐なんだもん、似合わないの」

伊織「きー!言わせておけば、あんたー」

美希「そうそう。そういうのがでこちゃんなの!……あっ、そうだ!でこちゃんでこちゃん?」

伊織「何よ?」

美希「役みたいにミキに惚れちゃっても、いいんだよ?」

伊織「……ッ!ばっかじゃないの!……ばっかじゃないの!」

美希「また顔真っ赤だよー!」

伊織「怒ってるからよ」


93.熱

美希「デコちゃんってミキのこと、いつも見てるよね?」

伊織「そ、そんなことないわよ」

美希「ウソ!……なに?もしかしてデコちゃんってミキのこと?きゃー!あのね、ミキには律子っていう、」

伊織「違うわよ!……その、あの胸よ!胸!そのバカデカイ乳には寝ればいいのかな、って見てたのよ!それだけ!」

美希「ミキ、でこちゃんのお手頃おっぱい好きだよ?」
伊織「誰がお手頃おっぱいよ!」


ばっちり大正解よ、あんた。
たぶんこの思いは届くことは無いだろう。だってフラれちゃうなんて、私我慢出来ないもの。それならいっそ、ずっとずっとこのままで。この距離で。

94.デ・ジャ・ヴ

伊織「私ね、この病気で死ぬことは無いのよ。……ただ思い出せることが、覚えてることが一日一日、一つ一つ少なくなっていくのよ」

美希「……」

伊織「いつの日か、私は私が「水瀬伊織」ってことも分からなくなって、そうなったらさ、もうおしまいなのよ。身体は生きてるけれど、私は死んじゃってるの」

美希「……」

伊織「現にね、あんたと初めて会った時のこと、もう思いだせないのよ」

美希「……ないの」

伊織「えっ?」

美希「忘れないの!例えでこちゃんが、伊織が自分の名前を忘れちゃっても!ミキは伊織の名前を忘れない!」

伊織「……美希」

美希「大丈夫だよ。例え伊織が全部忘れちゃっても、ミキと伊織が初めて会った日のことを伊織にミキが教えてあげる。毎日何を話したか、笑ったか、全部ミキは覚えておく!そして全部伊織に教えてあげる」

伊織「……」

美希「そう簡単に伊織を死なせたりしないの!」

伊織「……やっぱり物好きよね、あんてってばさ」

美希「えっ?」

伊織「何よ?」

美希「最初に会った時のこと、覚えてる?」

伊織「? だからさっき思い出せないって」

美希「最初会った時、伊織はミキに言ったんだよ。「こんな私を好きになるなんて、あんた物好きね」って」

伊織「ッ!」

美希「で、今「やっぱり」って」

伊織「……覚えてるの、私?」

美希「うん!」

伊織「……良かったぁ」

美希「もう伊織ってば泣いちゃダメなの。可愛い顔が台無しだよ?」

伊織「そういうあんたこそ涙でグチャグチじゃないのさ」

美希「み、ミキ、泣いてなんかないもん!」

伊織「泣いてるわよ」

美希「こ、これはその、」

美希、伊織「「目から汗が出てるだけだもん」」

美希、伊織「ふふっ、あははっはっ」」

95.お勉強

伊織「『すぐ学校に来てー!』って電話してくるから何かと思えば……」
美希「宿直で暇だったの♪」

伊織「……あんたねー。っていうかいいの?」

美希「何が?」

伊織「生徒の私がこんな時間に学校にいて」

美希「いいのいいの。あの頭の固い律子、さんは今日は出張だし。……そ・れ・に!」

伊織「……何よ」

美希「でこちゃんさ、日本史がこの前の小テストからっきしだったんだって。あずさが言ってたよ?」

伊織「それは」

美希「言い訳しちゃだめだよ、でこちゃん。『学生の本分は勉強にあり』、これを忘れて遊んじゃうでこちゃんには、……ふふっ、お仕置きが必要なの」

伊織「それは、あんたがテスト前だからってのに、ここに呼び出して、……その、あの……」

美希「んー?ミキ、覚えてないかもー?」

伊織「あ、あんなにキスしまくられたら、そりゃ勉強にも集中出来ないでしょうが!」

美希「……ふーん、遊ぶ悪い子じゃなくてえっちな子だったんだね、ふむふむ」

伊織「違うっての!」

美希「じゃあさ、今日はさつづきしてみる?」

伊織「はぁ?……って!」

美希「でこちゃん軽いね。ダイエットとか必要ないんじゃない?」

伊織「変態教師」

美希「伊織だって期待してたでしょ?」

伊織「んなっ!……そ、そんなわけないでしょ?」

美希「どーだか?」


96.運命

美希「運命って信じてる?」

伊織「いきなり何よ?」

美希「んー、別に。ただミキとでこちゃんが出会ったのは運命なのかな?」

伊織「なわけないでしょ。私が選んで決めたことよ」

美希「そう言うと思ったの。ところでさ」

伊織「ん?」

美希「今ミキが押し倒されてるのも伊織が決めたこと?」

伊織「……どうかしらね?」

美希「どう考えても伊織のせいなの」



97.寝癖

でこちゃんは案外隙だらけだし、抜けてるとこもあるの。

寝相は悪いから、朝起きると服がはだけてえっちな感じだし、寝癖でいつも髪ぐしゃぐしゃだし。
よだれはダラダラ垂らしてるし。

寝言は「あんぱんが……牛乳に……飛び込んで」って意味分からないし。

シュークリームの中身をいつもこぼすし。
お風呂出たら、ちゃんと身体拭かないから床ビショビショだし。

えっ、そんなとこ見たことない?
まぁね。
それを見れるのは隣に立てるミキだけの特典だしね。

98.遺品

『あっ、あんた、やっと起きたわね?』
『えっ!えっ!……何で伊織が?』
『何を言ってんのよ?今日は私が朝ごはんの当番だったでしょう』
『……そ、そうだったの!でこちゃん、ミキね、でこちゃんの作ったおにぎりが食べたいの!』
『またー?あんたよく飽きないわね』
『それだけ美味しいってことなの』


「……。うさちゃん、おはようございますなの」

99.声を聴かせて

美希『ねぇー!』

伊織『うっさいわね!そんなにがならなくてもイヤホン入れてるんだから聞こえるわよ!』

美希『そうなんだ。……でこちゃんってバイク運転できたんだー。いーがーい!』

伊織『どういう意味よ!喋りすぎて舌噛まないようにね』

美希『ふぁーい。でもこれいいね』

伊織『何がよ?』

美希『でこちゃんの声がさ、いつもより近く感じられてさ』

伊織『……うっさい!!」

美希『あはは、でこちゃん照れてるの』

伊織『振り落とすわよ』

美希『でこちゃんの声が頭の中に響いてきてわしゃわしゃされてる感じー!。気持ちいいの』

伊織『そんなんだったらいつでも耳元で叫んでシェイクしてやるわよ』

美希『恥ずかしがってできないくせにー』

伊織『出来るわよ!』







100.キス

伊織「そんな色持ってた?」

美希「んー、この前の撮影の時に使ってそのまま貰ってきちゃった。新色だって」

伊織「ふぅーん。……!」

美希「どうしたの?」

伊織「……別に」

美希「キスしたくなっちゃった?」

伊織「はぁ!……はぁー!」

美希「そんだけ口見られてたら嫌でも気づくの」

伊織「……ッ!」

美希「いいよ」

伊織「別にそんなこと思ってないわよ!何言ってんのよ!」

美希「ほら。……ふぅ、ほんとにいじっぱりなの。……ミキ、キスしてほしいなー」

伊織「……そこまで言うならしてあげるわよ」

美希「次からはもうちょっとスマートになるのを期待してるの」

伊織「……善処します」

美希「よろしい!ほら、どうぞ?」

伊織「目くらい瞑りなさいよ」

101.溜息

美希「ねぇ、伊織良いの?」

伊織「……何が?」

美希「ミキぐらい良い人なんてもう現れないかもしれないよ?」

伊織「……かもね」

美希「だったらさ」

伊織「それでもあいつと生きていくって、決めたのよ、私は」

美希「……そっかぁ。……ねぇさ」

伊織「なに?」

美希「最後に、キスしてよ?」

伊織「さっきしたじゃない」

美希「伊織からしてほしいんだよ」

102.ダブルベッド

美希「今日はえらく素直だね」

伊織「……あんたがいきなり押し倒したりするからそれに当てられたんじゃないの?」

美希「……ふぅーん」

伊織「まぁあんたがしたくないってなら、んっ!」

美希「キスしたい」

伊織「してから言うんじゃないわよ、バカ」

美希「じゃあもう1度したいからいい?」

伊織「……やっぱやめた」

美希「えーなんでさ」

伊織「あんたみたいな体力オバケと違って私はもう疲れちゃったの、はいおやすみなさい」

美希「えーもう一回ー!もう一回ー!期待させておいてそれはズルいの!」

伊織「いーやー!」

美希「声のことなら気にしなくていいよ?」

伊織「私が気にすんの!……あんなみっともない」

美希「……可愛いから気にしなくていいと思うよ、ミキは。……えへへー」

伊織「……なによー、やっぱおかしいって思ってるんじゃない」

美希「えー違うよー」

伊織「じゃあなによ」

美希「伊織のこの声聞けるのが、ミキだけだーって思ったら嬉しくなっちゃってさ」

伊織「……ありがたく思いなさいよね」

美希「うん!……じゃあありがたく思ってるから、ね?いいでしょう?」

伊織「……優しくしなさいよ?」

美希「うん!」

103.夢

気がつくと知らないステージの舞台袖だったの。ううん、知らないのはステージだけじゃ無くて、今着ている黄緑とピンクを基調としたこの衣装もそうなの。黄緑はミキとして、ピンク?……でこちゃん?

「なにボーっとしてんのよ、あんた?そろそろ本番よ?」

「うひゃぁ!で、でこちゃん?……どうしてここに?」
「はぁ、何言ってんのよ?今日はあんたと私の『 』の結成一周年のライブでしょ?……この伊織ちゃんがいなきゃ始まらないでしょ?」

ユニットの名前が聞こえなかったけれど、ミキとでこちゃんがユニット?
そんなはずは無いの。……だって。……だってミキは竜宮小町に入れなくて、765プロ飛び出して、961プロで響や貴音と『プロジェクトフェアリー』っていうユニットを結成したはずだもん。
……あ。
そうか、夢か。
そんな都合が良いこと、あるはず無いもん、ね?

でこちゃんとミキがユニット、だなんて。

「本当に大丈夫、あんた?」
「……えへへー、大丈夫だよ!でこちゃんの可愛い顔に見とれてたの」
「なっ!ななな、何言ってんのよ!ばっかじゃないの!……っていうかでこちゃんって呼ばないの!」
「……へへっ」

「ようやくあんたらしくなってきたわね」
「でしょ?一曲目は『DREAM』だっけ?」
「ええ!全開で行くわよ」
「もちろんなの!」

夢が夢じゃ終わらないからさ。
もうちょっとくらい、この夢を楽しんでもいいよね?
夢で逢える、それだけでいいからさ。
……起きたくないな、なんてね。

104.切望

おにぎりをたくさん食べちゃうときはなんだか落ち込んでる時。

夜に眠れなくて長電話しちゃう時は寂しい時。

そんな時でこちゃんは何も言わないでも付き合ってくれる。

まるでさ、ミキのことを全部分かってるみたいに、さ。


だからさ、言わなくたって分かってよ。
ミキが伊織のことを好き、だって。
あの人は別れてって。
ずっとミキの傍にいてって。

……分かってよ。

105.お風呂

美希「やっぱでないー?」

伊織「……ええ。ったく雪だってのに。はぁ寒いったらありゃしない」

美希「なんか設備トラブルらしいよ。……どうする?今日お風呂やめとく?」

伊織「……レディとしてありえないでしょ、それ」

美希「だよね。……!あっ、そうだ!」

伊織「ん?どうしたのよ?」

美希「じゃっじゃーん、無料招待券!」

伊織「招待券?」

美希「そう!ほら前にさ、郵便局近くのパチンコ屋さんが潰れちゃって、何か建ってでしょ?」

伊織「……?」

美希「ほらでこちゃんがお水こぼしちゃったあのラーメン屋さんの近くの」

伊織「……!あっ、あそこの!」

美希「ぴーんときた?」

伊織「でも何であんたそんなの持ってるのよ?」

美希「この前のお仕事の帰りに律子、さんがくれたの。あずさがまた新聞断れなくて、おまけでついてきたんだって」

伊織「どんだけ新聞好きなのよ……」

美希「最近は英字新聞も増えたって」

伊織「読まないでしょう、それ」

美希「うん、そう言ってた」

伊織「……まぁ、そのおかげでこうしてお風呂に入れるからよしとしましょう。……実家よりは全然狭いけれどね」

美希「家に帰れる距離って言っても、この時間だと電車も無いしね」

伊織「わざわざ迎えにこさせるのも、ねぇ?」

美希「タクシーは……」

伊織「もったいないからダメ」

美希「でこちゃんの口から『もったいない』なんて言葉が出るなんて。……やよいにみっちり叩きこまれたんだっけ?」

伊織「ええ。……今じゃ家計簿のつけ方も完璧よ。じゃあどうしましょうか?」

美希「せっかくだし歩いていこうよ!……昔みたいに、さ?伊織?」

伊織「名前で呼べるんなら普段から呼びなさいよ、……まぁそれでいいわ」

美希「久しぶりのデートだね?」

伊織「行くのは銭湯だけどね」


106.境界線

事務所へ帰ると美希が寝ていた。
誰もいない事務所、という珍しい空間が私に魔を寄こしたのだろうか?
私は、気づかれないように美希の髪にキスをした。

本当は起きている時に唇にしたいけれどね。
あんたは律子の方しか見てないから。
私のほうなんて向いてくれないから。

ここ。
ここの私とあんたの間に引いてある境界線。
「友達」の境界線。
起きてる時には絶対にそれを超えることなんて出来ないから。
だから、今、この瞬間だけはあんたを独り占めさせて。

この口づけに言えない思いを託すようにもう一度だけキスをした。

「……好きよ、美希」

107.「さようなら」

美希「また会える、よね?」

伊織「大丈夫よ」

美希「でもさ、」

伊織「生まれ変わっても、私はあんたを絶対に見つける。見つけてみせるわ」

美希「うん」

伊織「だからあんたも、……ちゃんと私が来たら出迎えなさいよ?」

美希「うん、約束するの」

伊織「……火、つけるわよ?あと、ほら、これ飲んで」

美希「はぁーい。……今度さ」

伊織「ええ」

美希「生まれてくる時はさ、どっちか男の子が良いね」

伊織「……そうね」

美希「ねぇ、伊織?」

伊織「なぁに?」

美希「最期までギュッってさ、しててね」

伊織「ええ」

美希「離さないでよ?」

伊織「あんたこそ」

美希「愛してるよ、伊織」

伊織「私もよ、美希」

美希「じゃあまた『あっち』で」

伊織「ええ、『あっち』で」


108.終わり

美希「世界、今日で終わるんだってね」

伊織「そうね」

美希「なんかやりたいことないの、でこちゃんは?」

伊織「無いわよ、だってバタバタするなんてみっともないでしょ?」

美希「でこちゃんらしいね」

伊織「あんたは何か無いの?」

美希「伊織のさ、作ったおにぎりが食べたいの」

伊織「そんなのでいいの?」

美希「それがいいの」

ID変わってしまいましたが >>1です。

いっぱいあるんで読んでくれた方本当にありがとうございます。

拙いし、お題を無視してある作品も多くありますが、いおみきへの愛は全てに込めたつもりです。


もしよろしかったら何番のいおみきが好き、とか、こういういおみきが読みたいみたいなのを書いていただくと幸いです。

それでは。



このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom