穏乃「……ハッ」ガバッ
穏乃「夢か……」
憧「おはようしず。何の夢見てたの?」ヒョコッ
穏乃「あぁ憧……」
穏乃「いや、とってもおかしい夢だった。和が、長野リーグの契約を蹴って、うちの球団に戻って来てくれるっていう夢」
憧「ん、ああ、そう」
憧(……球団?)
憧「なんかよくわかんないけど、まだ寝ぼけてるみたいね」フフッ
穏乃「……そうだね。そんな話、有り得ないんだから」
憧(……)
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玄「おはよーっ」ガラッ
穏乃「玄さん」
玄「今日も寒いね」ブルブル
穏乃「うん。本当はもっと良いミーティング場所があれば良かったんだけど……」
憧「ミーティング?」
玄「そうだよ?」
憧「今日何か話すことがあったんだっけ……」
穏乃「何言ってるの、来季戦力の総チェックをするんだよ!」
玄「うちはそういうフロントみたいなことまで皆でやってかなきゃいけないんだよね……」
憧「ん……ちょっと待って。意味わかんない」
穏乃「ちょっとー、エースがそんなんじゃ困るよー」
憧「え、エース……?あたしがエース?」
憧「ま、まあ中堅がエースな高校もあるしそれでいいのか……けど、改まって言われるとちょっと照れるわね……!」キャー
穏乃「それ麻雀の話でしょ!まったく……」
憧「えっ……?」
憧「だって、麻雀の話じゃないの……?麻雀じゃなかったらなんだっていうのよ……?」
穏乃「わかった、わかったから……」
玄「ふふっ」
玄「憧ちゃん、ちょっと聞いてー」
玄「まず、ここは阿知賀の部室だね?」
憧「う、うん」
玄「うちの球団は貧しいから、どうしてもミーティングの場所を確保出来なくて、ここでやってくしかないんだけど」
憧「……は、はいっ!」シュタッ
玄「はい、新子さん」
憧「きゅ……球団って、なに……?」
玄「球団っていうのはね……」
玄「われわれ女子プロ野球チーム、阿知賀カープスのことです!」エッヘン
憧「ん、ん、んんん……?」
穏乃「そうだよ憧。今女子野球のチームは全国にある。うちらはその戦国時代を勝ち抜いて日本一になろうって、ずっと言ってるじゃないか!」
憧「あ……う、うん……そうだ、った……かも……」
憧(そうだっけ……?)
憧(でも、まずはそういうことにしておいて話を聞くのが良さそうね)
憧「分かった。続けて」
玄「うん」ニコッ
玄「わたしたちのチームは貧しいから、普通だったら別部隊がしてくれる新戦力の交渉や調整なんかも自分たちでやらないといけないんだよー」
玄「今年も全然新戦力は入ってないんだけどね……」
穏乃「……」
玄「それで今から現戦力の総チェックをするというわけです」
玄「ちなみにうちのエースは憧ちゃんだから、よろしくねー」
憧「あー、エースってそういう……」
憧「……えっ」
憧「わ、私がボール投げたり、ボール投げたり、するの!?」
穏乃「憧は前年まで三年連続二桁勝ってるんだから大丈夫だよ!」
憧「ん、そ、そう……」
憧(まあよくわかんないけど、大丈夫なら大丈夫なんでしょう)
穏乃「だけど、毎年この時期になると、悔しいよね……」
憧「……?」
玄「そうだねー」
穏乃「和がうちに戻って来てくれれば……」
憧「和……?和も野球をしてるの?」
玄「和ちゃんはすごいんだよー」
穏乃「さっき全国に野球チームはあるって言ったけど、一部だけ別リーグと化している場所がある……」
憧「……」
穏乃「……長野県。あそこはあまりのレベルの高さから人外魔境と例えられ、やがて全国リーグから独立し、それでいて最高峰のリーグとして運営している」
穏乃「自分の力を試したいと、全国リーグからも様々な選手が移籍していっては……不良債権となって帰ってくる。恐ろしいリーグなんだ」
憧「……」
穏乃「和はね、昔阿知賀にいたんだよ。でも、家の事情で長野の球団に移った。皆心配したんだけど、和は凄かった。向こうでも立派に戦力になって、しまいにはエースの立場になってる」
憧「す、すごいじゃない……」
玄「そうだよー。そんな和ちゃんにうちは毎年、帰ってきてほしいってお願いしてるんだけどねー」
穏乃「……まあ、無理な話だよ」
穏乃「でも、諦めきれない。だからこそ、毎年この時期は悔しさが込み上げるんだ」
憧「ふーん……」
ガラッ
玄「あ、赤土監督」
穏乃「監督!」
憧(なるほど、ハルエが監督なのは変わりないのね……って)
憧「ハルエ、大丈夫……?なんか顔色悪いけど」
ドサッ
玄「赤土さん!」ダッ
穏乃「監督!」ダッ
穏乃「大丈夫ですか!しっかりして!」ユサユサ
晴絵「ってくれるって……」
穏乃「えっ!?」
晴絵「戻って、くれるって……和……うちに……」
晴絵「和がうちに戻ってくれるって!」ガバッ
穏乃「!?」
玄「!?」
穏乃「ほ、ほんとうですか……!?それは……」
玄「う……うそ……」ガクガク
晴絵「ああ、本当だ。今朝電話があった。一言『戻ります』だってさ」
晴絵「これは来シーズン、とんでもないことになるぞ……」ニヤッ
穏乃「う、うっ……うっ……」
穏乃「よっしゃーーーーーっ!!!」ガバッ
玄「すごい……すごいよ……」ポロポロ
憧「……」
憧(……なんかよくわかんないけど)
憧(きっとすごいこと、なんだな)
穏乃「憧!」バッ
憧「え、えっ……!?」ドキドキ
穏乃「優勝しよう!来年、絶対優勝するんだ!」
憧「えっ……ああ……」
憧「うん……そうね」
……
…
……
…
晴絵「ふふふ……」
穏乃「気味悪いなー……」
晴絵「いや失礼。現役バリバリの長野リーガーがまさかうちにいてくれるなんて、考えただけでニヤニヤが止まらないってもんさ」
和「そ、そんな、そこまででは……」
晴絵「……なんにせよ!」
晴絵「今年はうちにとって最っっっ大の優勝のチャンス!今日から勝って勝って勝ちまくるよ!」
一同「オーッ!」
和「」ザッザッ
穏乃(さあ和……きて!)グッ
和「……」コクッ
和「」ビュッ
ズバーン
恭子「気をつけてください主将。漫ちゃん絹ちゃんの一二番がお手上げ状態の相手です」
絹恵「あ、あんなん打てるわけあらへん……」ガクガク
恭子「特にツーシームが厄介そうですね。長野リーグとこっちじゃボールが違うからそんな脅威やないと思ってましたが……大したもんです」
洋榎「ふんふむ」
洋榎「まあー、打席たってみりゃわかるやろ!」
ズバーン
洋榎(……なるほど)
洋榎(こりゃすごいわ……さすが怪物長野リーグでつい去年までエース張ってただけのことはある)
洋榎(こりゃ今シーズン……楽しくなりそうやな!!)
ゲームセット!!
穏乃「やった!和!」
和「穏乃……」
キャッキャッ
憧(しずったら、和ばっかり……)
憧(あたしだって、ビシッと抑えてやるんだから!!)
ズバーン
ットライーッ!!
ゲームセット!!
穏乃「あ、憧……」
穏乃「すごい!まさかノーヒットノーランやるなんて!」
憧「……そ、そりゃあ、和ばっかりに頼ってもいられないでしょう?」
穏乃「やった!やった!」
和「流石です。憧」
憧「い、いやあ……」
穏乃「和!一緒に憧を胴上げしよう!」
憧「ん……?」
和「いいですね。そうしましょう」
穏乃「ばんざーい!ばんざーい!」
憧(なんなの……結局くっついちゃってるじゃないこのふたり)
憧(……まったく)
……
…
穏乃「今日は日本シリーズ最終戦……勝てば日本一だ」
玄「相手は晩成スターズ。相手にとって不足なしだねっ!」
灼「……自分達の野球をするだけ」
穏乃「気合い入れていこうーっ!」
一同「おーっ!」
和「……」
穏乃(和……頑張って……!)
洋榎「いきなりピンチになってもうたな」
恭子「そうですね。全体的に球が高い。多少緊張というものがあるんでしょう」
穏乃(和……ここ!)
和「……」コクッ
ビュッ
カッ
和「!」
憧「う、打たれた!」
穏乃(そんな……コースも完璧だったのに)
洋榎「今のはええ球に見えたけどな」
恭子「ええ……常人なら腰が引けとるところです」
恭子「それをきっちり踏み込んで打ち返した……打ったバッターを褒めるべきでしょうね。小走、ですか」
晴絵「うーん……」
晴絵「まあ和のことだからすぐ立ち直ると思うけど……」
晴絵「憧。一応準備しといて」
憧「えー?あたしこないだ投げたばっかりなんだけど」
晴絵「シリーズってそういうもんだろ?」ニヤッ
憧「……ま、まあ、チームのためだし、ね」
憧(よし……あたしがきっちり抑えて終わらせてやる)
憧(……待ってて、しず)
ワイワイ
洋榎「だいぶ塁が賑わってきたな」
恭子「なんとか逆転に成功した阿知賀カープスですが、9回のこの土壇場に来て原村のスタミナが限界みたいですね」
洋榎「代えたほうがええんやないか?」
恭子「どうでしょうね。カープスは今年原村のおかげでここまで来てますから、心中というのも大いに有り得ます」
恭子「……!」
恭子「いや、代えますね」
洋榎「かつてのエースから、新エースへスイッチか」ニヤッ
ブロロロロ
憧「……」
スタッ
穏乃「憧……」
玄「憧ちゃん……」
和「ごめんなさい、こんな状況にしてしまって……」
憧「いーっていーって、三人仕留めれば良いんだから。任せてよ!」
和「憧……」
憧「皆……バックは任せたから、宜しくね」
灼「……」コクッ
玄「……うんっ!」
憧「しず……」
穏乃「憧……」
憧「リードはしずに任せるから。あたしはそこに全力で投げ込む!」
穏乃「憧……!」
穏乃「よし!やろう!勝とう!」
憧「もちろん!」
ズバン
ットライーッ
由華「……!」
ドバン
ットライーッ!!アウッ
紀子「な……!」
憧「よっし!」
穏乃(憧……すごい球だ!)
洋榎「新子、すごい球走っとるな」
恭子「正直驚きです。とても中一日のピッチングとは思えません」
洋榎「しかし、このタイミングで最も厄介なバッターの登場か」
恭子「そういうことですね。満塁だから敬遠もできひん。真っ向から料理するしかないですね」
やえ「……」
やえ「あんた達には悪いけど、ここまでとさせて貰おう」スッ
憧「……」
穏乃(ここでこの打者か……)
穏乃(さっきは和のツーシームを完璧に捉えられてる。ここでも一歩間違えばやられる)
穏乃(でもこの場は、だからこそ、さっきと同じコース……それでいて少しだけ外したところを要求したい……!きっと打ってもファールにしかならないようなところに……)
穏乃(でも、少しでも甘く入ったらもう終わりだ……この場面、間違いは許されない)
穏乃(どうする……)
穏乃(……!)
憧「……」ジーッ
憧(しず、信じて!今日のあたしに投げミスはない!)
穏乃(憧……)
穏乃(……よし)
穏乃(憧!ここだ!頼む!)
憧「……」コクッ
憧「」ガバッ
ビュッ
やえ「ぬっ……!」
カキーン
憧「……!」
穏乃「ファ、ファールだ!」ガバッ
ファール
穏乃「あ、あぶない……」ホッ
やえ「……」
穏乃(だけど、やっぱりそうだ……あのコースはファールにしかならない!)
穏乃(もう一度要求出来れば……いや、二球ほど外のボール球で釣ろう)
穏乃(憧、ここ!)サッ
憧(……オーケー、しず!)
ビュッ
ボール
ボール
恭子「みじんも打つ気を見せませんね。小走」
洋榎「……誘っとるのかもな。さっきのボールを」
恭子「えっ」
穏乃(ピクリとも動かない……簡単に誘いには乗ってくれないか)
やえ「……」スッ
穏乃「!?」
憧「……!」
憧(さっきのコースに……)
穏乃(……バットを構えている)
やえ「私がヒットに出来ないボールなんてない。この場でそれを証明して、優勝する」
憧(……上等!同じとこに投げ込んで打ち取ってやるわよ!)
穏乃(……これは、どうするべきか)
穏乃(でも、さっきの二球に全然手を出してこないということは……そこに投げ込まなきゃどのみち押し出しか、打たれて終了だ)
穏乃(……くそっ!やるしかない!)
穏乃(憧!ここだ!)
憧(もちろん!)
ファール
やえ「ちっ……!」パシッ
穏乃「……」フーッ
穏乃(心臓に悪いな……)
穏乃(でもこれで追い込んだ)
穏乃(さあ憧!渾身の力でもう一度!そうすれば打ち取れる!)
憧「……」
憧(しずが、あんな真剣な眼差しであたしを見てくれている……)
憧(ありがとう、しず……ありがとう、みんな……)
憧「……」ガバッ
憧(それだけで、あたしはもう誰にも負けない……しずと一緒に、優勝するんだ……!)
穏乃(そうだ、優勝するんだ……憧と、みんなと……)
穏乃(……)チラッ
和「穏乃……」
穏乃(そう……和と!優勝するんだ!)
穏乃「来い!憧!」バシッ
憧「いっ…………」
憧「けえええええええーーー!!!!」
ットライーッ!!
バッターアウッ!!!
やえ「な……!?」カランッ
やえ「この私が……空振り……?」
ゲームセット!!
穏乃「やった……!やったあああああああ!!」
憧「しず!」
憧「やったあ……しず……しずう……」
玄「やったねー」グズッ
灼「私達が、日本一……」
晴絵「よくやった皆!あたしの自慢の教え子だ!」
和「みんな……」
穏乃「和……」
和「……阿知賀に帰ってきて良かった。本当に、ありがとうございます」グスッ
憧「和……!こっちこそ、ありがとう!和が帰ってきてくれたから優勝出来たんだよ!」
和「憧……」
玄「あれ、そういえば和ちゃんは何で帰ってこようと思ったの?」
憧(……ん?)ドクン
憧(なんだろう……なぜか嫌な予感が……)
和「それはですね……」
和「まだ戦力になるうちに、ここで優勝したいと思ったからです……皆と」
憧「……」
和「……そして、穏乃と」ガシッ
憧「!!?」
穏乃「ちょ、和、こんなところで……」
憧(ま、待って……)
和「いい感じに最優秀バッテリー賞のタイトルも取れそうだし、こうして穏乃と一緒になれて、本当に帰ってきて良かったです」
憧(まって……否定して、しず……)
穏乃「ま、まあ……」
穏乃「私もそうなりたい、って、思ってたから……本当に優勝出来て良かったなと……」カァァァァァァ
憧「ちょ……ちょっと待ってよ!!」
穏乃「!?」ビクッ
憧「しずは、しずはあたしの……」
憧「あたしのっ……!」
憧「あたしのっ……!」ガバッ
憧「……!」ハッ
望「はいはい、心配しなくてもこのお粥はあんたのだから。とりあえず熱測りな?」
憧「お、お姉ちゃん……」
憧(ゆ……)
憧(夢、か……)
ジワッ
憧(……なんであたし泣いてんだろ。そんな怖い夢でもなかったのに)
望「そろそろ熱も下がってくるでしょ。まあ心配しなさんなってね」
望「あ、それと」ガサガサ
望「穏乃ちゃんがお見舞いに来てくれてたよ。はいこれ預かったお菓子」
憧「……」ガサッ
ジワッ
憧(……なんであたし泣いてんだろ)
カンッ
これで終了です
黒田投手が日本球界復帰ということで勢いに任せてやりました。支離滅裂な内容ですいません
ありがとうございました
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