【ミリマスSS】紗代子「光の日」 (18)

「ううっ、寒い…」

事務所を出て思わず出た言葉がそれだった。あまりの寒さに体がブルっと震えてしまう。
顔以外で唯一出していた両手を反射的にジャケットのポケットに入れる。夕方にこんなに寒くなるんだったら手袋を家に忘れなければよかった。
時間に余裕があったし手袋を取りに戻れ、と数時間前の自分に言ってあげたい。

「ううっ、さむっ」

と同じことを言いながらプロデューサーが事務所から出てきた。コートのポケットに手を入れる動作までまったく一緒で何故だか少しだけ嬉しくなった。

「それじゃあ行くとするか。確か駅の方だっけか」

「はい。楽しみですね、プロデューサー!」

「忙しくて見に行けないと思ってたから誘ってくれて嬉しかったよ。ありがとうな」

そう、今日12月29日は私の誕生日であり、プロデューサーとデートする日でもあった。と言うより、今日突然なったと言うべきか。

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恒例の誕生日パーティーでプロデューサーとのり子さんと駅前のイルミネーションの話題になったのがきっかけだった。
私もプロデューサーも忙しくて見に行けないと聞いたのり子さんが

「んじゃ二人でこの後行ったら?」

と言ってきた。
確かに今日しか見に行く暇がないし、プロデューサーと一緒なんてこっちからお願いしたいくらいだった。
けどプロデューサーの予定も分からなく、とりあえずプロデューサーの口が開くのを待っていた。

「まぁ、俺もこの後くらいしか見に行けないし、紗代子がいいって言うなら俺もいいけど」

嬉しくてすぐに返事をしてしまいそうになったが、のり子さんがニヤついてるのを見てぐっと言葉を飲み込んだ。もしかしたら気持ちが顔に出てたのかも。

「私も大丈夫ですよ、一緒に行きましょう!」

プロデューサーに悟られないよう落ち着いてそう返し、今日のデート(と言えるか分からないけれど)の予定が決まったのだった。

「そろそろ今年も終わりだな。あっという間だったようなそうでないような」

「そうですね、あと三日で新年ですよ」

「今年もお参りするんだっけ。また大吉が出るまで引き続けないようにしろよ」

とプロデューサーがケラケラ笑う。わざとらしく頬を膨らませると、プロデューサーは申し訳なさそうな顔をした。

「でもああいうの俺は好きだよ。自分の未来は努力でいいものにする、紗代子らしいしな」

「じゃあ来年もたくさん引いてもいいですか?」

調子に乗るんじゃない、と私の頭を優しく叩いてきた。

「来年は一月からプラチナスターライブか…新年だからって気を抜いてられないな」

「そういえば今年一番変わったことって、やっぱりプラチナスターライブですよね」

劇場から1ユニット5人ずつ選ばれ、シーズン毎に2組のユニットが競い合うようにして2ヶ月間ファンを増やしていき、本番であるプラチナスターライブで100万人――つまりミリオンライブを目指すプロジェクトのことだ。
響ちゃんがリーダーの『レジェンドデイズ』、未来がリーダーの『乙女ストーム!』から始まり、これまで『クレシェンドブルー』と『エターナルハーモニー』、『リコッタ』と『灼熱少女』が成功を収めてきた。
シーズン4では真たちの『BIRTH』と、このみさんたちの『ミックスナッツ』がミリオンライブを目指して色々なイベントやライブを行っている。

そしてシーズン4のメンバーが発表されたということは、ユニットはまだ分からないがシーズン5、最後のメンバーも決まったということでもある。

「あの二つのユニットが成功したら私たちが最後に…ってことですよね」

「ほぼ確実にやるだろうな。無事に終わったら嬉しいが、終わったら終わったで少し寂しいような」

「ふふっ、それじゃあ寂しくなんて思わせないようなライブにしますね♪」

「おっ、紗代子がそう言うなら期待できるな」

プロデューサーが微笑む。ファンや仲間の笑顔ももちろん大好きだが、彼の笑顔は私にとって特別だ。

「わぁ…すごい綺麗…」

駅前に着いて、思わず口から言葉が出てしまった。
目の前に広がっているのは青色の光の海だった。柵で囲まれたその海だけ、私たちのいる世界とは別の世界のように思えた。
柵の周りではたくさんのカップルらしき人たちがイルミネーションを見ていた。

「おお、すごいな。何回かイルミネーションは見たことあるが一番綺麗かもしれない」

プロデューサーも楽しそうに光の海に目を向ける。どうやら誘って正解だったみたいだ。のり子さん、ありがとう。

「私、今まで写真でしか見たことなくてちゃんと見たことなかったんですけど…こんな綺麗だったんですね、サ…イルミネーションって」

「サイリウムねぇ…」

バレないと思ったのに揚げ足を取られてしまった。自分でもなぜサイリウムとイルミネーションを間違えそうになったのか分からない。どっちも綺麗なのに変わりはないけれど。

「それじゃあ紗代子はステージから見るサイリウムの光とこのイルミネーションの光、どっちの方が好きなんだ?」

プロデューサーからそんなイジワルな質問を投げかけられた。突然だったので少しどもってしまう。

「えっ、あの、えっと、どっちが好きかですか?」

もちろんアイドルとしては前者を選ぶべきだろう。あの光はファンのみんなが作ってくれる光だ、あれに勝る光はない。アイドルであるということを抜きにしても好きかもしれない。
ただ、今見ているイルミネーションもある意味では他より勝ってると言える。一人で見たなら迷わず前者の方が好きだと言えるだろう。

「……選べないです。私にとって、どっちも大切ですから」

もしこのイルミネーションを大切な人――家族や友達、ましてや好きな人と見たならそれは大切な思い出になる。その二つを比べることなんて、今の私にはできない。

「そっか」

答えを聞いたプロデューサーはどことなく嬉しそうだった。

「そうだ、写真っと…」

ポケットからスマホを取り出し、カメラを起動する。こんな綺麗な光景を自分の頭の中だけに残すのは流石にもったいない。

「そういえばお袋見たいって言ってたな。写メでも送って自慢してやるか」

プロデューサーも携帯のカメラでイルミネーションを何枚か撮り始めた。私も撮ろうとするが、寒さで手が震えて真が撮れない。なんでプロデューサーはそんな平然と撮れるのだろう。

「これくらい撮ればいいかな。って紗代子、まだ撮れてないのか?」

「さ、寒さで手が…」

プロデューサーがニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。何か考えているんだろうか。
プロデューサーがニヤニヤしながら見守る中、私は震えでピントがまったく合わないと苦戦していた。ピントが合っても上手くタップできずにまたズレるなんてことも。

「よーし…」

心頭滅却すれば火もまた涼し、ではないけれど、心を熱くすれば寒さなんて気にもならなくなるはずだ。
プロデューサーが笑ってるのも私が写真撮れないのを小馬鹿にしてるからだと勝手に決めつけ、それなら意地でも撮ってやる、と意気込む。

スマホを持ち直して画面を凝視し、ピントが合うまでじっと待つ。本当に心が熱くなったからか、それとも単に寒さに慣れただけか分からないが手の震えが大分マシになってきた。
カメラがピントを合わせ、一呼吸置いてシャッターを切るところをタップしようとする。

「ひゃっ!」

が、突然両方の頬に何か冷たいものが触れ、驚いてスマホを落としそうになってしまう。

「おー、紗代子のほっぺも冷たいなー」

いつの間にかプロデューサーが後ろに立って、私の頬を両手で触っていた。そう分かった途端、顔が一気に熱くなってしまった。
それを知られないためにも手をすぐにどけ、少しだけ距離を取る。

「な、何してるんですか!?」

「いや、紗代子真剣に写真撮ろうとしてるのが面白くてついちょっかい出したくなってな。すまんすまん」

悪びれた様子がまったくない。その証拠に謝ってる時も笑顔のままだった。そんな顔を見たら怒る気力も失せてしまった。
…少し嬉しかったし。

「ほら、スマホ貸してみな。俺が撮ってやるよ」

そう申し出てくれたのでスマホを手渡す。私とは違ってテンポよく撮っていくのを見てると、本当に人の手かと疑ってしまう。私が極端なのかもしれないけど。

「ありがとうございます。…けど、私だってプロデューサーの邪魔がなければ撮れてたのに…」

またわざとらしく拗ねると、これまた申し訳なさそうなプロデューサーの顔が見れた。
撮ってくれた数枚の写真を見る。…多分私よりも上手に撮れてる、ちょっとだけ悔しい。

「自分で撮りたかったなら悪かったよ。お詫びって訳でもないけど、何か温かいものでも買ってくる」

「あっ、大丈夫ですよ。結構着込んでるのでそんなに寒くはないです。手は冷たいですが…」

「それなら手を握って暖めてやるよ、なんつって」

写真を確認し終え、スマホと手をポケットに入れようとするのを止める。
もちろんプロデューサーも冗談で言ってるのは分かる。けれど、もし本気にしたら私の手を握ってくれるんじゃないかと期待してしまう。

「それじゃあお言葉に甘えて…いいですか?」

両手を前に出すと、まさか本気にするとは思ってなかったのか、プロデューサーが分かりやすく焦っていた。

「どうしたんですか? 温めてくれるんですよね?」

そう急かすと、諦めたように深く息を吐き、私の手を両手で優しく包むように握ってくれた。
プロデューサーの手も暖かくはなかったけれど、触れているだけで手だけでなく、体中が暖かく…どころか、熱くなっていく。

「…………」

「…………」

それから沈黙が私たちを包んだ。私の視線は二人の重なった手にしか行かなかったから、今プロデューサーがどんな顔をしているのか判断することができない。
何か話さなきゃ、という謎の焦燥感に駆られるが、一体何を話せばいいんだろう。
話題を頭の中で探すと、さっきプラチナスターライブのことを話していたのを思い出した。

「えっと、さっきプラチナスターライブの話したじゃないですか」

「あ、ああ。それがどうした?」

話を降るとき自然とプロデューサーの顔を見ることができた。頬の辺りがほんの少し赤くなっていて、なんだか嬉しくなった。

「プロデューサーは誰がリーダーになると思いますか?」

「うーん…美希か貴音…紗代子も千鶴もロコも…みんなできると思う」

「もし私がリーダーになったら…みんなを引っ張っていけると思いますか?」

「紗代子がリーダーなら安心だよ。もし心配だって言うなら俺もお前を支えるし、みんなも紗代子を支えてくれるよ」

プロデューサーの手に力がこもる。それだけで私のことを信頼していることが伝わってきた。

>>2
福田のり子(18) Da
http://i.imgur.com/VjvEPr4.jpg
http://i.imgur.com/xyHAL2k.jpg

乙、紗代子の誕生日おめでとう!
あと紗代子役の人2ndLIVE出演決定おめでとう!

>>15ミス
福田のり子(18) Da
http://i.imgur.com/lZZTtPM.jpg
http://i.imgur.com/CHpA0ML.jpg

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