P「伊織か?」伊織「お兄様!?」 (794)

アイマスssです。
Pが伊織のお兄様という設定になってます。
他、設定の改変あり。
主にPの一人称視点ですが地の文あり。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419535638

P「申し訳ありませんが高木さんに折り入って頼みがあります」

高木「君は水瀬君のところの…一体どうしたというんだい?」

P「少しばかり、家庭内で不和が生じてしまい家を出ることになってしまったんです」

高木「なんてことだ…私にできることなら何でも言ってくれ」

P「高木さんならそう仰って下さると思いました。ではひとつお願いがあります」

高木「ああ」

P「高木さんのもとで働かせてください!」

高木「!!…頭を地につけてまでお願いするのはよしてくれ。ほら、顔を上げるんだ」

P「ですが…」

高木「何か事情があるのだろう?」

P「…はい」

高木「…うむ。なるほど、父親と衝突して君は勘当されてしまったわけか」

P「ええ、恥ずかしい話ですが…」

高木「でもちょうど、うちも従業員不足でね、人手が欲しかったところなのだよ」

P「そう言っていただけると助かります」

高木「私がどんな計画を立てているかは知っているかい?」

P「ええ、アイドルを養成、プロデュースして売り出す。という認識で間違いありませんか?」

高木「ああ、それで構わないよ。そして、君にはその売り出すまでをやってもらうが、いいかね?」

P「はい、もちろんです。私に出来ることは何でもやります」

高木「では、来週の頭からさっそくうちに来てくれたまえ。設立のためにいろいろやることがあるからね」

P「明日からでも構いませんが…」

高木「何を言ってるんだ。君にもやることがたくさんあるだろう。まずは居を構えないといけないからね」

P「いえ、そこまで迷惑を…」

高木「いいのだよ。君の活躍の前投資だと思えばね。ということで期待しているよ!はっはっは…!!」

P「まいったな。そんなプレッシャーをかけられちゃ…」

というようなことから二年あまりが経った。

高木社長はアイドルプロダクションを設立する計画を立てていた。

俺たちは資金集めから始めて、その二年という時間をかけてようやくスタート地点にたどり着いた。

もちろん社長には感謝してもしきれないので、どれほど時間をかけても彼に協力するつもりでいたのだが、
ちょっと動揺するような出来事が起こる。

それは所属することになったアイドル達との初顔合わせの時だったのだが、どうにも見知った顔がいるなとは思っていた。

伊織「初めまして、私『水瀬伊織』と申します。今後ともよろしくお願いするわ」

長いスカートを上品に持ち上げ、可愛らしくお辞儀をする少女にやはり見覚えがあった。というか妹だった。

伊織「…え?お、お兄様!?」

顔を上げた伊織は俺の顔を見て驚愕の表情を浮かべた。
周りもついていけずに呆然としていた。

P「人違いだ」

咄嗟にそう答えてしまった。とにかく顔を合わせづらかったというのはあった。

伊織「嘘…私がお兄様の顔を忘れるはずがないもの…」

まあそんな嘘はすぐに見破られるわけで…ちょっと気まずくなった。

P「まあ、なんだ久しぶりだな伊織。だが今は自己紹介の最中だ。控えおろう」

動揺しまくってた。最後のセリフが明らかにおかしい。他の子達は声を殺して笑ってた。
特に如月がやばかった。

伊織もやっぱり上品に笑うと、一歩引いた。

アイドル加入からしばらくして…。

P「まずはみんなにレッスンしてもらわないとなー」

小鳥「そうですねー」

俺と音無さんでこうやって話しながら事務をこなす。

P「まあ、みんな次第ですが最低三か月は我慢してもらわないと話になりませんねー」

小鳥「そうですかー」

P「でもみんな、すげー頑張ってるので問題なさそうです」

小鳥「それは安心ですねー」

P「今度、宣材写真でもとろうかなと思ってますけど、予算大丈夫ですか?」

小鳥「ちょっと待ってください………ええ、なんとか捻出できそうですね」

P「かつかつですねー」

小鳥「かつかつですよー」

何の気ない会話がだらだらと続いているが、二人してどうにかこうにかアイドル達を売り出そうと必死だったりする。

撮影当日。

P「さてお前ら揃ってるか?これから宣伝用の写真撮りに行くから外に出て車に乗っといて」

『はーい』

P「グループ分けは任せる。手前にあるのは俺、向こうのは音無さんが運転する」

亜美「兄ちゃん、ファンタスティックな運転を頼むよ」

真美「兄ちゃん、そんでもってエキセントリックな運転を頼むよ」

P「何言ってんだ双子…それと兄ちゃん言うな」

伊織「そうよ亜美、真美、あなたたちの兄じゃないでしょ!私のお兄様なんだから!」

P「お前もプロデューサーと呼びなさい」

伊織「嫌よ。お兄様って昔からそういうところは堅苦しかった気がするわ」

P「当たり前だ。仕事なんだからな」

伊織「でも仕事じゃないとお兄様に会えないじゃない…」

P「あのなぁ伊織、仮にもお前はアイドルだし、俺は家を追い出された身なの。プライベートでお前と会ってたらアイドルやめさせられちまうぞ?」

伊織「いつもは会えないんだから仕事場くらいではお兄様って呼んでもいいじゃない!」

P「…はぁ、わかったよ。好きにしろ」

こんな強情な子だったっけ?でもお兄様は伊織が強く育ってくれて嬉しいよ。内心で血の涙を流しつつ。

伊織「元よりそのつもりよ」

亜美「じゃあ、あみは兄ちゃんの方に乗るね」

真美「まみも!兄ちゃんよろよろー」

P「おい双子、兄ちゃんはやめろっつっただろが」

伊織「私もお兄様の方でいいかしら、やよいも一緒に乗りましょ?」

やよい「うん!伊織ちゃんも良かったね!」

伊織「な、なんのことよ…?」

やよい「だって伊織ちゃんこの前お兄さんの傍にいたいって…」

伊織「わぁーーーーーーーー!!!!!!」

P「うっせーぞ伊織!いいからお前らさっさと乗れ!」

律子「じゃあこっちの騒がしそうな方には私が同伴しましょうか…」

P「お、おう。秋月、助かる」

真「じゃあ僕たちは小鳥の方だね。雪歩はプロデューサーダメみたいだし」

P「なに?おい菊地どういうことだよ」

真「雪歩は男の人が苦手みたいなんですよ。だからプロデューサーがいない方がいいみたいです」

P「おいやめろ菊地。そのまるで俺の存在を否定する言い方」

これが無意識なのかわざとなのか…。わざとだったら性格が悪いが、無意識だったら性質が悪いな。

P「というか萩原、そうなのか?」

雪歩「ひぅっ!…はいぃ、実はそうなんですぅ…」

P「おいおい。それなら先に言ってもらわないと困る。ていうかそんなんでアイドルできんのか?」

声かけただけで怯えてるし。

雪歩「ううぅ…そうですよね…こんなダメダメな私…穴掘って埋まってますぅぅぅ!!」

P「って、おい!駐車場に穴を掘るんじゃない!っていうかどうやったらスコップでアスファルトを掘ることができる!?」

春香「あはは…じゃあ小鳥さん。お願いしますね」

千早「お世話になるわ」

あずさ「助手席、失礼します。うふふっ」

小鳥「はいどうぞー!」

撮影前からこんなドタバタで大丈夫か?

と思ったのも束の間、撮影自体はスタッフさんに迷惑をかけるようなこともせず滞りなく進行していった。
しかし、双子、お前らはもっと落ち着け。

P「おいこら、双子、ちょっと来い!」

しかたなく俺が説教することにした。

亜美「兄ちゃんがあんなにしょうろんで怒るなんて…」

真美「まみ結構怖かったかも…」

律子「小論って…正論って言いたいのかしら?とにかく、これ以上プロデューサーを怒らせたくなかったら大人しくしなさい。次は私もセットですからね!」

真美「うあうあー!そんなことになったらまみ、本気で泣いちゃうかも…」

亜美「おお、まみくん、泣いてしまうとは情けない!」

P「亜美は説教が足りねーのか?」

亜美「………ごめんなさい」

P「よろしい」

そう言って双子の頭をなでてやる。この子らはまだ子供だ。
子供だがプロとして働く以上は社会人でもある。というのが勝手ながら俺の意見。

自分で決めた道と言っても年相応の覚悟しかないだろうし、認識も甘い。

だが彼女たちはそれでも、大人の世界に片足どころか全身を突っ込んで歩んでいかなければいけないのだ。

多少辛い思いをしても、大人の誰かがその辛い思いを子供たちに教えていかないといけない。

とにかく今は学べ、少年少女。といったところだろうか。

亜美「兄ちゃん…ごめんなさい」

真美「まみもごめんなさい」

P「いいんだ。次から気を付けてくれれば、いきなりああしろ、こうしろ、なんて言ったってできっこない」

真美「まみにもお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな…」

P「さあな。本当の兄貴だったらきっとお前らのことをもっと理解してるさ」

亜美と真美は現場の人たちに謝って回っていた。やればできる子たちなのだ。現場の方たちもさすがは大人、笑って許してやっている。そもそも怒ってすらいなかったのかもな。

P「よし!とりあえず亜美と真美は着替えて撮影に行っておいで」

『はーい!』

他の子は撮影どうかな?

心配なのは特に萩原と高槻かな…。

P「おーい、高槻」

やよい「はわっ!…な、何でしょうかプロデューサー!?」

P「いや、大丈夫かなって思ってな。やっぱ緊張してるか?」

俺は中腰になって高槻に視線を合わせる。

やよい「あの、その…」

P「あー、わかったわかった。不安なのはわかる。こんなん初めてだから緊張もするよな…」

やよい「はい…でもあずささんはとってもピシッとしててかっこいいです…」

P「ああ、三浦はなんか余裕あるよな。天海とかもノリノリになったらすごいよな」

やよい「やっぱり私には無理なのかなぁ…」

P「泣くな、泣くな。一見かっこよく見える三浦もなぁ、ちょっと見てろ」

俺は立ち上がってカメラマンの斜め後ろに高槻を連れていく。

やよい「プロデューサー?」

俺は答えずに三浦に向かって手を振ってみた。

すると三浦の凛々しく大人びたそのたたずまいが嘘のように顔を綻ばせ、こちらに手を振り返している。

これが彼女の素なのだ。

カメラマン「お!いいねぇ!さっきとのギャップがグッドだよ!!」

P「見てたか高槻?」

隣の高槻に視線をやると彼女は目を丸くして三浦を見ていた。しばらくして驚きの表情のままこちらに振り返る。

P「三浦も緊張してたってことだ。人は見かけじゃわかんねーよな。ほら見てみろ、さっきよりいい表情になってないか?」

やよい「本当だ…プロデューサー、すごいです!」

P「えーっと、つまり何が言いたいかっていうとだな…高槻のこともちゃんと見ててやるから、緊張すんなって」

やよい「はい!プロデューサーが見ててくれたら私も安心かもっ!…私もうわぁーってなったら手を振ってください!」

『うわぁー』ってなんだ?と高槻のまれに難解な高槻語に一瞬思考が止まりかけたが、
『不安になったら視線を送るから勇気づけてください』と勝手に解釈した。

これなら高槻の撮影は俺がついていたら上手くいきそうだな。

問題は萩原か?カメラマンが男ってのが特に問題。

P「萩原ー?」

雪歩「は、はいぃ!…ななななんでしょうか、プロデューサー?」

萩原は返事をするも距離がやや遠い。俺はため息が出そうになった。

P「俺にもまだ慣れないか?」

雪歩「ごめんなさい…」

P「いやいいんだ。ちょっと話がしたいと思っただけだからさ」

雪歩「話って、私がダメダメだからお説教ですか…?」

おずおずと尋ねる萩原。自虐的すぎるのでは?

P「まさかね。それとも何か失敗したのか?」

雪歩「…どうなんでしょうか?」

P「心当たりがないってことは大丈夫だ。それより撮影の方は大丈夫か?」

雪歩「あの…カメラマンの方が…」

P「男性だから怖いですってところか…」

萩原は小さくうなずいた。

P「萩原。こっちへおいで」

実は結構な距離を保って会話をしてたのだった。

俺はひざまづいて萩原が怯えないようにできる限り優しく言った。

萩原は依然としておどおど、あたふたしてたがゆっくりゆっくりと近づいてきてくれた。

P「おお、よく来れた。やればできるじゃないか。そんなに自分を卑下するなよ」

雪歩「は、はい。でもプロデューサーがずっと待っててくれたから、行けたのかもしれません」

P「そうかもな。でもな萩原、これから番組に出演した場合みんなは待ってくれないと思う。どうする?」

俺の問いに困惑した萩原は、しどろもどろしながらも確かに口を開く。

雪歩「自分から…待ってくださいって……」

P「とってもいい回答だ。そうだよ、自分から何かを伝えれば受け取ってくれる誰かがいる。でも何かを伝えるには勇気が必要だ。アイドルを目指す君には必ず勇気がある。自信をもって…」

雪歩「はい。ありがとうございます」

はっきりと意志の通った声で萩原はお礼を言った。

そんな彼女に俺はひざまづいたまま手を差し伸べた。

P「はい。握ってみて」

おそるおそると、萩原は両手で俺の右手を優しく丁寧に握った。

P「怖いか?」

雪歩「…はい、でもほんのちょっとだけです。プロデューサーの手、温かくて、優しい…。」

P「それならよかった。よし、ここまで男に近づけたんだ。カメラマンさんはもうこれで平気なはずだ。いいや、平気じゃなければおかしい!」

雪歩「ふふっ…ありがとうございますプロデューサー。ちょっと勇気出たかもです!」

P「ああ、行ってらっしゃい」

萩原の顔にもう困惑の色はない。俺も上手くコミュニケーションとれたかな?

本日はここまで。次回は再来週。
ワードに書き溜めて100ページになってしまったので一部を投下。
着地点が見えないので小分けにして投下する予定。

ご意見等ありがとうございます。
次回から名前の呼び方には気を付けます。
言葉遣いは指摘が多いですがこのままでいきます。

再来週といいましたが今から投下していきます。

撮影はしばらく続いた。天海と菊地はかなりノリノリだな。調子乗ってへましなきゃいいけど。

伊織も問題なさそうだ。意外としっかりしてるんだよな、あいつ。

双子もやるじゃないか。なんだかんだで撮影を心から楽しんでるように見える。

三浦は大人の余裕があるなって思ったんだけど、実際そうでもなかったんだよな。
今は伸び伸びとしてて、自分の持ち味が出せてるみたいだ。

萩原と高槻も緊張せずに魅力的に映ってるな。いや、萩原がまだ緊張気味か?あとでまた声かけとくか。

……なんだありゃ。完全にノーマークだったのが秋月と如月だった。そういやちょっとお堅いやつらだったな、と今になって思い出す。しっかり者のイメージが先行し過ぎたようだ。

撮影さんに一言断って秋月を連れ出す。

P「おいおい秋月、お前堅すぎ。如月もだけど」

ちょうど傍を通っていた如月も捕まえとく。

P「どうしたってんだ。しっかり者と堅物は紙一重だったか…」

律子「し、失礼ですね!これでも私なりに研究して…」

P「その研究の成果が出てないんだよ」

律子「うぅ……」

千早「ですがプロデューサー…私、どうもこういうのは苦手で…」

P「如月はクールな感じでまだマシだがなぁ…秋月に至ってはもはや怖い顔になってるぞ」

律子「なっ…!ふんっ!どうせ私は怖い顔してますよーだ!!」

と言いつつそっぽを向く拗ねた顔の秋月は可愛らしかった。

P「あ、その拗ねた感じ可愛いかも」

なので素直にそう言った。

律子「え?な、なんですか急に…今さらそんなこと…しかも拗ねた顔って…微妙です!」

P「照れてんの?結構いいじゃん。なあ如月?」

律子「べ、別に照れてないわよっ!」

千早「そうですね。私も今の律子、可愛いと思うわ」

律子「ええ!?千早まで…?」

とは言ってもそんな表情を宣伝の資料にするわけにもいかないのである。

P「とにかく笑え、秋月」

秋月は意外に素直で、笑顔を作ろうとしていたがやはり怖い顔になってしまった。
それを見た如月はいい笑顔になっていた。如月、合格。

P「秋月はともかく如月はちょっとしたきっかけで魅力的な笑顔になれるじゃないか、今の感じでもっかい撮っといで」

千早「ふふっ!…はい…ふふふふっ!」

律子「ち、千早ー!」

千早「ごめんなさい律子…でも…ふふふっ!」

P「よかったじゃないか秋月、お前の力で一人の人間を笑顔にできたぞ」

律子「腑に落ちません!」

如月はその勢いのまま撮影に戻った。どんな勢いだ。まあとにかく彼女は大丈夫だろう。

P「うーん。秋月が思ったより重症だな」

律子「…プロデューサーさっきから言いたいことをはっきりと言いすぎです!私も傷つきます!」

P「いや、遠回しに言っても………あー、いや、そりゃ悪かった」

秋月がはっきり傷つくと言ったのだ。この真面目ちゃんは素直ちゃんでもあるのだから本当に傷つくのだろう。

P「まあなんだ。自信を持て、お前は控えめに言っても可愛いから。笑顔のお前がもっと可愛いことは俺もみんなも知ってるよ。だからもうちょい頑張ってこい」

律子「…本当、何言ってるんですかプロデューサー。多分、無理ですけどプロデューサーがそう言うんなら、もちょっと頑張ってみます」

そう言って秋月は再び撮影に挑戦していった。

俺も彼女の魅力を引き出せないまま今日の撮影を終えるのは避けたい。

P「三浦ー?」

あずさ「はーい。何でしょうかプロデューサー」

P「撮影終わってる三浦には悪いけど、ちょっと秋月と一緒に映ってきてくれないか?」

あずさ「はい、それはいいんですけど律子さん、どうかしたんですか?」

P「ああ、まあな。緊張気味であの通りだ」

二人で秋月に目をやる。例のぎこちない笑顔に三浦も苦笑いだった。

あずさ「あらあら~…私がリラックスさせてあげればいいんですね?」

P「話が早くて助かる。見たところ歳も近いし、お互い一番親しいんじゃないかと思ってな。一人じゃ不安なら、誰かに協力してもらって。秋月のこと頼んでもいいか?」

あずさ「はい、もちろんです」

P「ありがとう」

三浦はのらりくらりと秋月に向かっていく。

あずさ「律子さーん」

とか言いながら後ろから抱き付いてた。女子ってああいうスキンシップ平気でするよな。対して、わたわたと慌てる秋月。

律子「あ、あずささんっ!?どうしたんですか!?」

あずさ「いいえ~、なーんか律子さんが恋しくなっちゃって…」

律子「えー?なんですかそれー?変なあずささんっ!」

あずさ「それに、律子さんと記念写真撮りたいなぁって」

秋月のことが恋しくなっちゃった変な三浦はうまく秋月の気持ちをリラックスさせている。恐るべきは三浦の和やかオーラ。

けれど、恋しくなったのも記念撮影がしたいのもきっと少なからず彼女の本心なのだろう。

秋月のぎこちない姿を見て愛らしいとも、助けてあげたいとも思っただろうし、そんな可愛らしい秋月との写真を撮りたかったのだと思う。

P「とにかくいい働きをしてくれたな。今度なにかごちそうしてやろうかな」

こうして宣材写真の撮影は成功に終わったと言えるだろう。

小鳥「みんな可愛いっ!!よく撮れてますよねプロデューサーさん!」

P「そうですね。秋月はどうなるかと思いましたけど…」

律子「うっさいです、プロデューサー」

小鳥「あら、でも律子さんとあずささんのこのツーショットとっても絶賛してたじゃないですか」

律子「え?」

P「まあ、そうですね。俺は良いものは良いって言いますよ?」

小鳥「ですって、律子さん?」

律子「あ、その、えっと………あ、ありがとうございます!!!」

なんて、ちょっと怒り気味でいう秋月、彼女なりの照れ隠し…だと思いたい。
まあそっぽ向いて顔を赤くしちゃってるから、照れてんだろうな。

P「やっぱ、お前のそういうの可愛いけど」

律子「ば、ばかにしてるんですかー!!?」

ぺちぺちと二の腕をパンチしてくる秋月。鬱陶しい。

あずさ「あらあら~、二人はとっても仲がいいのね」

微笑ましい光景を、優しい微笑みで見ている三浦。

P「ああ三浦。さっきはナイスフォローだ。今度、俺持ちで飲みに行くか?」

確か三浦は二十歳だったな。飲みに誘っても問題ないはず。

あずさ「まあっ!いいんですか、プロデューサーさん?」

P「まあな。そのくらいの貢献はしたろ?」

あずさ「じゃあお言葉に甘えますね」

お酒好きなのかな?すごく嬉しそうにするもんだから、今から楽しみになってきちゃったじゃないか。

小鳥「いいなー!私も連れてってください!」

P「音無さんには奢りませんよ?」

小鳥「ぶー!さっきプロデューサーさん持ちって言ったじゃないですかー!」

P「そりゃ、三浦だけのつもりでしたから」

律子「プロデューサー、あずささんだけって…酔わせていやらしいことしようとしてたんじゃないですか?」

秋月、貴様は耳ざといな。未成年のくせに…未成年のくせに…。

P「おい秋月バカ言ってんじゃねーぞ。三浦は確かに魅力的な女性だが、俺が上司という立場を利用して飲みに連れ出し、酔わせて襲うなんて非道な真似は絶対しない」

律子「どうだか…」

P「なんだ?信用ねぇな」

律子「それ私も行きますから!」

P「はぁ?お前もしかして一緒に行きたいだけじゃ…」

律子「そ、そんな、そんなことありませんけどー!?…あずささんが心配なだけです!」

小鳥「私もいるからそこは安心してもいいのに…」

あずさ「それでは四人で行きましょう?」

P「ま、いいか。四人で帰れるときに行くとしよう」

小鳥「決定ですね!今から楽しみになってきました!」

P「仕事はちゃんとしてくださいよ?」

小鳥「もちろんです!」

張り切る小鳥さんを見てちょっと不安になった。

亜美「ねえ兄ちゃん。何の話ー?」

真美「お出かけするのー?まみたちも行きたいよー!」

あ、ややこしくなりそう。

P「お前らはまた今度だ。レッスン頑張ったら連れてやらんこともない」

伊織「あら、じゃあ約束してくださる?お兄様」

P「伊織…ちっ…」

伊織「何よ、その舌打ちは!?」

P「…はぁ、わかった。頑張ったやつにはご褒美をあげよう」

真「ほんとですかプロデューサー!?へへっ、やりぃ!ボク、もっと頑張っちゃお!」

やよい「はわっ!ご褒美かぁ…何がもらえるんだろう?」

なんか広まってるんですけど…。みんなが頑張るならいいんだけどさ。

それからというもの、彼女たちの売り込みは軌道に乗り始めた。
多分、ご褒美は関係ない。

伊織「ねえお兄様」

P「どうした伊織?」

ある日、心配そうに声をかけてくる伊織に少し鬱陶しさを感じた。面倒だぞと直感が告げる。

伊織「あまり無理はしないで?」

P「してないよ」

嘘だ。自分でもよくノータイムで嘘を言えるものだと思う。

伊織「…私知ってるわ。お兄様があれこれ仕事を拾ってきて、徹夜でみんなのスケジュール組んでるの」

P「大丈夫だ。ほら、健康じゃないか」

伊織「…なにかあったら私の家に来て頂戴」

P「それこそ無理だ。俺は勘当されたんだから、あの家には一歩も踏み入れることはできない」

伊織「そんな古いしきたりにいつまでも縛られなきゃいけないの!?そんなの嫌よ!」

P「古くてもしきたりはしきたりだ。古いからと言って無くなるわけじゃない」

伊織「けれど…」

P「まあ、わかるよ。地方に行ったときに見る前時代的なファッションみたいなもんだろ。あれって都市の人間からしたら古いじゃん?でもなくならないよな」

伊織「ふふっ!何それ…?わかりづらいわ。ていうより、全く関係ないじゃない」

P「………そうだな」

自分でも笑ってしまう。適当に言いすぎだろ俺。

伊織「…笑った」

P「は?」

伊織「お兄様やっと笑った」

P「はあ?俺はいつもニコニコ天使スマイルだろ?みんなには負けるけど…」

伊織「いつものあれは営業スマイルでしょ?あの貼り付けた笑顔が天使なら、その下はよっぽどの悪魔よ?」

P「言ってくれるねぇ」

伊織「でもお兄様の笑顔はやっぱり素敵。他のどんな男性よりも…」

P「惚れんなよ?」

伊織「馬鹿言わないで。お兄様のことは好きよ。でも恋愛感情なんてありえないわ」

伊織は抱えているウサギのぬいぐるみを撫でた。
そのぬいぐるみは俺が伊織にプレゼントしたものだ。

P「そうか、安心したよ。俺も伊織のこと家族として妹として、好きだ」

伊織「なんか面と向かって言われると恥ずかしいわね」

P「言うのも恥ずかしいだろ」

伊織「そうね…。でもやっぱりお兄様はもっと笑顔でいなきゃ」

P「心配し過ぎだ。お前らの笑顔が俺の笑顔だ。お前たちが充実して楽しく過ごしてたら俺だって頑張ってよかったって思えるんだから。あとちょっと頑張らせてくれ」

伊織「……無理はしないで」

最後の伊織の言葉は俺をいまいち信じ切れていない証拠。それと踵を返すときの悲しそうな表情は写真のように俺の頭に記憶された。

P「さて、仕事仕事…」

それにしたって伊織はどうしてアイドルになろうと思ったのだろう。

よく考えたらほかの子に関しても同様だ。
俺は彼女たちがアイドルを始める動機を知らない。

今まで俺のイメージで彼女たちに合いそうな仕事を割り振っていたが、どうにも上手くいかないのはそういうことだったのか。

P「向き合ってないのか俺は?」

これじゃ伊織も不安になるわけだ。さっき言ったように俺の笑顔が減るのはみんなの笑顔が減るからだ。

自分に必死で周りが見えてねーな。
ちょっと面談でもやってみるか…。

思い立ったが吉日。翌日から話を聞くことにしてみた。

ちょうど一週間はみんなレッスンのみだ。空いた時間に面談を設ける。

P「まずは天海、傍から見たら優れた点は一見無いにしろ努力の姿勢が十分に好印象だな」

春香「あの…プロデューサーさん?話って何ですか?」

応接室に天海が入室する。少しピリッとした空気を感じ取ったのかやや表情も堅くなる。

空気が読めるところも彼女の長所だ。

P「ああ、楽にしてよ。説教とかじゃないからさ」

春香「はあ…」

きょとん顔になる天海、ちょっと可愛い。それ狙ってんのかなぁ…?

P「なんていうか、面談?」

春香「あ、いや、私に聞かれても…!?」

そりゃそうだよな。だが、その慌てっぷりに笑ってしまう。

P「ああ、悪い悪い。聞きたいことがあってな」

春香「聞きたいこと…ですか」

P「うん。天海は何でアイドルになろうと思ったんだ?」

春香「ええっ!?わ、私が…ですか?」

いや聞き返しすぎだろ。この場に俺とお前しかいないよ。少しもどかしかった。

天海はしばらく沈黙して、言うか言うまいかとしているようだった。
視線がキョロキョロキョロちゃんクエックエッて感じだったがやがて恥ずかしそうに口を開く。

春香「…憧れてるんです」

P「ん?」

思わず聞き返した。

春香「アイドルのライブに小さい頃連れて行ってもらったことがあるんです」

俺は相槌をうって話を聞いた。

春香「その時に、なんかいいなぁって…。あの舞台に立ったらどんな景色が見えるんだろうって思って…。それでアイドルに興味を持ちました」

P「そっか、憧れね…」

春香「やっぱり、おかしいですよね?そんな単純な気持ちでアイドルなんて…」

P「…楽しいんだろ?」

春香「え?」

P「アイドルやってて楽しいんだろ?」

春香「はいっ!…実は私の中ではもっとドロドロしててみんないがみ合うのかなー、なんて思ってたんですけど…全然そんなことなくて、確かに誰かが成功した時は悔しいと思うこともありますけど、むしろそうやって成功してくれた方が自分のことのように嬉しく思えて…ってすみません。こんなに喋って…」

P「うん。実は俺もそんな風に思ってた。でもお前らが仲良くて本当、助かるよ」

春香「えへへ…。…でもプロデューサーさんはどうしてこの仕事を?」

P「あらら、面談の立場が逆になっちゃったな」

春香「いいじゃないですか。プロデューサーさんのことも教えてください!」

P「ったく、しかたねえなぁ…。俺と伊織が兄妹なのは知ってるよな?」

春香「はい。それは…」

P「恥ずかしい話、俺は水瀬家から追い出されちゃってな…これは聞いてたか?」

春香「はい。伊織に聞いたら話してくれました」

P「そうか。で、当時よくしてもらってた高木社長に頭下げて、このアイドルプロダクションの設立に参加させてもらった。俺も働く場所が欲しかったし、社長も人手が欲しかったんだ」

天海は相槌をうちながら聞いていた。

P「最初は社長に仕事で恩を返してそれでいいと思っていたが、今はお前たちがもっと充実できるようにって考えてるな。それが社長の願いでもあるしな」

春香「そうですか。いいこと聞いちゃいましたっ!やっぱりプロデューサーさんって優しいなって思います」

P「何言ってんだ。俺は優しいだろ?」

春香「今ので台無しですけどね」

二人して笑う。こいつは結構、人の間合いに入り込むのが上手いな、あまり遠慮なしに言ってくるけど嫌じゃない。距離感を測って、わかったうえで踏み込んでくる。

P「ありがとな。天海のこと少しわかったよ」

春香「私こそプロデューサーさんのことちょっとわかった気がします。…あと、春香って呼んでもいいんですよ?」

挑発的な視線。これが素なのかどうなのか…。

P「ああ、気が向けばそうさせてもらうよ。呼び出して悪かったな。次、誰でもいいから呼んできてくれ」

天海は、ちぇー、と口を尖らせて言いながらも笑顔で退室していった。

今日はおちまい。
次回も再来週に投下予定。

指摘された名前の呼び方について、直さずに投下してしまいました。
すいません。

着地点が見えない。エタるかも…。

ご意見あればどうぞ。


着地点が見えないなら
961プロに伊織父か、もう1人の兄がつくという展開はどう?

47<<
伊織の家族を出すかどうかは検討中です。
今のところ出る予定はありません。
需要もなさそうだし、エピソード考えるのも疲れるので…。
ご提案、ありがとうございます。

>>47
数字の打ち方こうだった…。
恥ずかしす…。

他の方もコメントありがとうございます。
続き書くモチベがアップアップです。

ぼちぼち投下します。
この1週間、あまり書き溜められなかった…orz

さて、しばらくして如月が来たわけだ。

P「忙しいところ悪いな」

千早「いえ、暇でしたよ」

そうかい。仕事がなくてごめんなさい。

P「お前のアイドルになったきっかけを聞きたくてな」

千早「なぜそれを?」

P「そうだな。どういった仕事を中心に割り振ればいいのか検討中でな。だからみんなのことをもうちょい理解しようと思ったわけだ」

如月のやりたいことは大体わかるが…まあ、率直に言えば歌だろ。

千早「そうですね。でしたら私には歌を歌わせていただけませんか?」

ほら。でもなんでか…そこを知っておきたい。

P「それは心得た。でもなんで歌にこだわる?アイドルはそれだけじゃない」

千早「それはわかっています。それでも歌うチャンスがあると思ったから、今こうしてアイドルをやっています」

P「はぁ、なるほどね。歌以外はおまけって感じか」

千早「そういうことになりますね。たまたま社長が私をスカウトしてくださったので…」

P「それで、歌にこだわる理由は話してもらってないけど…」

千早「それは話す必要がありますか?」

P「いや、言いたくないならいい。まあそのうち話してくれ。お前が困ったとき頼ってくれたら、助けてやるさ」

千早「…ご理解していただけて助かります」

P「でもな?お前はアイドルだ。歌を聴いてもらいたいなら、まずはみんなに好かれなきゃ聞く耳を持ってもらえないぞ?」

千早「歌で好きになってくれればいいです」

P「甘いよ。いくら歌が上手くても好感が持てなきゃそいつの歌なんか聴きたくない。冷静によく考えてみろ」

千早「私の力量じゃ力不足だと…?」

如月の表情が強張る。こりゃ頭に来てんな。

P「いいや、確かに如月の歌は上手いさ。おまけに顔も可愛いし、美人でそこそこのことはそつなくこなす。しかしな、今のお前は『私の歌を聴け』って言ってるだけだ」

彼女は黙って聞いている。表情は強張ったままだ。

P「でも本当のお前は違うんだろ?人には言えない事情があるほど歌にかけてるのに、言ってることはただの自己満足でしかないなんて…」

千早「わかりました。そんな説教私には響きません。もう聞きたくありません。失礼します」

そう言って立ち上がる如月。

P「待て如月!お前は逃げるのか?」

如月は背を向けたまま立ち尽くしていたかと思うと、くるりとこちらに向き直った。

千早「いいえ、逃げるのではなく、無駄だと判断したまでです」

俺も立ち上がり、如月の前まで歩く。

P「俺はまだ大事なことを伝えてない。そんな態度だから余計に説教が増えるんだ」

如月は、ふぅっとため息をつき俺から視線を外す。

P「俺は言ったぞ、本当のお前は違うんじゃないかって…」

少しハッとした様子の如月。うん、人の話はよく聞きましょう。

P「いいか?お前はただ歌を聴いてほしいだけじゃないだろ?」

如月が俺を見上げる。その表情に怒りの色は薄れ、別の色が浮かんでいるように見えた。

P「自分の歌を聴いてくれた人に感動を与えたいんじゃないのか?…だから俺は自惚れるなって言いたいんだ。歌で人を魅了する前に、他のことでまずは魅了させてみろ。アイドルの本分だ。そこで追い打ちをかけるように歌で魅了してやれ、そこして初めてお前の見たい世界が見えるんじゃねぇのか?」

千早「プロデューサー、私…ごめんなさい。…そうね、今のままでは自分が歌いたいだけになってしまうもの…。そうじゃないの、わかってたのに…独りよがりで…」

如月は嗚咽をもらし、きれいな瞳からは涙がこぼれはじめる。

俺は如月の肩を掴み目線を合わせる。

P「よかった。わかってくれたみたいで、思い出してくれたみたいで…」

千早「…プロデューサー…ごめんなさい…私、酷いこと…」

P「いやいいんだ。俺だって酷いこと言ったな。ごめんな」

如月は俺の左肩に顔を埋めて、右腕と左肩をきゅっと握っていた。
落ち着くまでしばらくそうしたままだった。

千早「すみません。お見苦しいところを…」

P「ううん。もっと頼ってくれ、今の俺の生き甲斐はお前たちなんだから」

千早「はい!プロデューサーのおかげで目が覚めました。アイドルとしての仕事も頑張ります」

P「ああ、その意気だ。でも如月には歌の仕事を集めるつもりではあるから、ただ、歌を聴く人の気持ちを常に考えてくれ。な?」

千早「はいっ!…それとプロデューサー」

P「なんだ?」

千早「千早…でいいです」

何だそれ?天海のときといい、流行ってんのか?

P「………気が向いたらな」

千早「前向きに検討してください」

わりと強引なのかも、まあ強情ではあるかもな。

P「如月、悪いが次の子呼んできてくれ」

千早「…」

P「如月?」

千早「…」

P「おーい?」

千早「…」

え?なんで無言でじっと見てくんの?

………………嘘でしょ?強情どころか、頑固ちゃんじゃねーか。

P「………千早、頼む」

千早「はいっ!」

すっげぇいい笑顔だった。月並みな表現だが、一瞬で花が咲いたみたいな…。

それから如月は俺によく話しかけるようになった。

そのあとの子たちの動機と言えば単純なもので、

菊地は女の子らしくなりたい。

萩原は弱い自分を変えたい。

双海姉妹は楽しそうだったから。

秋月は本当は事務やプロデューサーをやりたいらしい。

三浦は運命の人に会えると思って。

高槻はちょっと特殊だけど、家計の足しにしたいと言っていた。

P「へぇ、高槻は五人兄弟なのか、そのうえ一番おねえさんって大変だな」

やよい「えへへっ、でもみんなも家のお手伝いやってくれるから、こうやってアイドルできてるんです!」

P「いい家族だな」

やよい「はいっ!…プロデューサーも伊織ちゃんのお兄さんなんですよね?」

P「そうだな、今は一緒に暮らしてないけどな」

やよい「なんかそれって悲しいです…」

P「おいおい、なんでお前が泣くんだ?俺はもう大丈夫だし、伊織も慣れただろ?」

やよい「でもぉ、伊織ちゃんプロデューサーの家族だから、離れ離れになって辛いと思います!」

P「でもな、こうして普段から会ってるわけだし、心配ないって」

でもぉ、でもぉ、となかなか引かない高槻がなんとなく新鮮な感じがした。

俺は大丈夫の一点張りでその場を収めた。

P「つーわけなんだが、伊織、お前何か言ったか?」

伊織「別に何も言ってないわよ?やよいは思いやりがありすぎるのよ」

P「ふーん。そうか。いや、それは知ってたけどさ」

最後の面談は一応、伊織。

P「高槻があそこまで言うんだ。本当にお前が寂しがってるんじゃないかと思ってな」

伊織「ば、ばか言わないでちょうだい!お兄様がいなくなって二年過ごしたのよ?今さら寂しく思うはずなんてないわ…」

P「…」

嘘だってわかった。俺のあげたぬいぐるみを今も大事に抱えてくれてるし、そのぬいぐるみを撫でるの、嘘をつく時の癖になってるって知ってる。

P「はあ、誰もいないからさ、隣においでよ伊織」

伊織「だから寂しくないって言ってるでしょ!?行かない、行きたくないわ…」

言いながらぬいぐるみを撫でる。

俺は立ち上がって、伊織の隣に腰掛ける。

P「ほら、我慢は良くないだろ?」

伊織「でも、そうしたら私…」

P「ああ、今の俺はあくまでお前を妹としか見れねぇ、それはわかってくれ。でも俺はもう水瀬じゃないんだ。先のことなんてわかんないよ」

伊織はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。

P「どういう意味か分かるか?」

伊織「全然わからないわ…」

P「まあ、なんだ。甘えたいなら甘えりゃいいんだ。昔みたいにさ」

伊織「今と昔は違うもの…」

P「そんなうじうじして、伊織らしいのからしくないのか」

伊織は普段は強気なくせに落ち込むときは情けなくうじうじする。
そんなん、かまってあげたくなっちまう。

P「わかった。じゃあ俺が甘える。いおりー」

伊織を抱えて膝に乗せる。そして後ろからぎゅっと抱きしめる。

伊織「きゃっ!?何よ!?ちょっと!お兄様!?変態!」

P「お前、変態とは何だ!?」

パッと離す。変態扱いされちゃ、たまんね…。

伊織は後ろを振り向き、赤い顔で俺を睨む。…膝に乗ったまま。
おい降りねーのかよ。

伊織「ふんっ!そんなに甘えたかったら甘えたらいいじゃない!」

P「さっきと言ってること違う…」

伊織「お兄様が急に変態になるからでしょ!?」

P「変態とは心外だ!お前が素直に甘えてればよかっただろ!?」

伊織「甘えたいなんて一言も言ってないわよ!」

P「言ってなくてもわかるんだよ!俺はお前の考えてることがわかるんだ」

伊織「なによそれ?」

変なの、そう言って伊織が笑う。俺もつられて笑ってしまった。

伊織「仕方ないわね。お兄様がそこまで言うんなら甘えてあげなくもないけど?」

P「じゃあ別にいいや」

伊織「なっ!甘えさせなさいよ!このっ…!」

伊織が俺の首に腕を回して抱き付く。ちょうど座ったままお姫様抱っこしてる形になった。

P「我慢は良くなかっただろ?」

伊織「………そうね。しばらくこうしてていいかしら?」

P「ああ、もちろん」

伊織「あと、さっきみたいに後ろからぎゅってして?」

P「注文が多いな」

伊織「私が甘えたりないお兄様に粋な計らいをしているのよ?」

P「そうかい。ありがたき幸せですこと」

伊織「そうよ、感謝しなさい?…にひひっ!」

そういや何が聞きたかったんだっけ?
そっか、アイドルになった動機か…。

P「ところで伊織」

伊織「なに?」

P「なんでアイドルになろうと思ったんだ?」

伊織「………家族の力なしで、自分の力だけでもやっていけることを証明したいのよ」

P「どうしてだ?」

伊織「お兄様に近づけるように」

即答だった。

P「何でそれが俺に近づくことになるんだ?」

伊織「お兄様は家を追い出された日に何もかも失ったわ」

P「そうだな。お坊ちゃまの俺は高木社長がいなかったら死んでたな」

伊織「それでもお兄様は自分一人の力で生き抜いてこれたのでしょ?」

P「自分一人じゃないよ。社長に助けられて音無さんに支えられて、その前だってお前や兄貴、親父と一緒に育ったさ」

伊織「いいえ、お兄様が自分で考えて行動したことに変わりはないわ。私もそうしたかったの。お兄様の苦難を私も…。そう思って高木社長の申し出を受け入れた」

P「そうか。お前も自分の覚悟があったみたいだな」

伊織「当たり前よ。でも、やっぱり私は何も失ってない。お兄様の状況とはずいぶんかけ離れているわ」

P「やめとけ。近づこうとする必要がないってことなんだよ」

伊織「私がそうしたいの、お兄様には関係ないでしょ?」

P「そうだな。お前の意思をどうこうできないが、俺が関係ないなんて言うな。関係大有りだろ」

伊織「…」

P「とにかく、俺が知らない伊織のこと聞けて充分だ。面談はおしまいだ」

伊織「あの、お兄様…」

P「まだ何か?」

伊織「もうちょっと、このままでもいい…?」

伊織の懇願するような表情と甘い声に俺は声を出すことも動くこともできなくなる。

P「…あとちょっとな」

ようやく絞り出した言葉がそれだった。

その後、今回の面談がみんなのモチベーションアップにも繋がったようで、仕事も順調に進みはじめた。

それとなぜか、アイドル達が積極的に俺に構ってくるようにもなった。
頼られるのは素直に嬉しいが、振り回されるのは勘弁してほしい。

それぞれのアイドルを売り出すことに一応は成功した『765プロダクション』

設立からおよそ四ヶ月で全員に仕事が少しずつ入ってくるようになった。
そして設立から半年が経ったとき、新たな仲間も加わった。

『星井美希』

社長がスカウトしてきた女の子だが、彼女がとんでもないやつだった。

美希「ミキの名前はミキっていうの!なんか、アイドル?っていうの面白そうだからやってみることにしたの!みんなよろしくね!」

俺の彼女への第一印象は自由なやつ、だった。

いや、それはどうでもいい。何がとんでもないって…

雪歩「美希ちゃんがまたいないよぉ!」

さぼる。

春香「ねえ美希、早く起きないとお仕事間に合わないよ?」

真美「ミキミキー!早くしてよー!」

寝る。

律子「こらー!美希ー!スタッフの方に失礼の無いようにしなきゃダメじゃない!」

美希「ミキ知らなーい」

生意気。

仕事で使ってもらえるものの、おかげで俺も頭を下げる回数が増えた。

今日はおちまい。
また再来週。
ご意見、質問あればどーぞ。

やよい兄Pの作者?

>>67
いいえ、違います。

響と貴音を出すとしたら765側961側どちらで出しますか?
それと竜宮小町は出ますかね?

再来週とはなんだったのか…。
今日中に投下していきます。

>>74
もちろん出ますが、しばらくは出ません。

だが俺は星井を叱るようなことはしなかった。
たまに頭の血管が、本気で切れそうになったこともあるが、なんとか耐えた。

みんなからはおかしいと言われるが、俺まで叱ってしまえばあいつの味方はいよいよいなくなる。それは避けたい。

俺はあいつに可能性を感じているのだ。
明らかに他よりも人の目を引く容姿。時折、垣間見せる天性の才能。

さすが高木社長、磨けば輝く原石を連れてきたものだ。
潰すには惜しい。

P「星井はいる?」

真「あ、プロデューサー。美希ならそこで寝てますよ」

P「よく寝るなぁ」

菊地は意外にも星井に対して不平を言うことはない。
本人曰く、頑張ってくれれば確かにいいんですけど、僕自身のことで精一杯ですから…とのこと。

菊地もどうやら必死らしい。

逆に秋月と如月、それに伊織はなかなか厳しいようだ。
本人は聞く耳持たずといった感じだが…。

P「星井?起きろ…」

美希「ん~?なんなのプロデューサー?ミキ眠いんだけど…」

こいつただのヤンキーじゃねぇの?ヤンキーミキーとか?…いや、寒いな。別に語感もよくないし、韻踏んでるだけ。

P「お前アイドル面白そうって言ってたのにつまんなくなっちゃったのか?」

美希「お前じゃなくてミキはミキだよ?…うーん思ったより楽しくないかも…」

P「やめたいか?」

美希「どうしよっかなーって感じ?律子もうるさいし、やめちゃおっかな…。うん、ミキやめたいかも!」

秋月がちょっと不憫だな。

P「なら俺から条件がある」

美希「条件?」

P「最後くらいうちに貢献してくれ」

美希「そしたらミキやめてもいいの?」

P「ああ、やめてもいい。お前は自由だ」

最初からお前は自由奔放だったけどな。

美希「それで、条件って何?」

P「まあ、最後の思い出づくりみたいなもんだ。小さな会場とったからソロでライブ。そこでお客さんを満足させてくれ。できるな?」

美希「別にいいけど、お客さん来るの?」

P「そこは心配するな。俺が満員にしてやるから、華々しく引退できるさ」

美希「ふーん」

興味なさげで態度は素っ気ない。

P「8曲ほど用意しとくから歌とダンス練習しといてくれよ?」

美希「ぶー…練習は嫌なのー…」

P「頑張ってくれ。これで最後なんだからさ」

美希「しょうがないなぁ。成功させるために歌とダンス覚えるの」

P「ああ、頼んだぞ」

よし、これであとは俺の客集めだな。

一か月でどうにかしねーと。

星井のライブまで残り一週間。

律子「プロデューサー、最近美希がちょっと頑張ってるみたいなんですけど、一体どんな魔法使ったんですか?」

P「……………………………………ん?どうした秋月?」

律子「なるほど、黒魔術を使ったのね…」

小鳥「不自然なほどラグがありましたね」

伊織「律子、冗談言ってないで…お兄様、相当やばいわよ?」

律子「そうね。明らかに美希の頑張りに反比例してプロデューサーの体調が蝕まれてるわ」

小鳥「美希ちゃんに事情を聞いてみますか?」

伊織「そうは言ってもお兄様は美希のことは今は放っといてやれって…。あの子が絡んでるのは間違いないけど…」

律子「プロデューサーがそう言ってる限り下手に聞き出せないわね」

伊織「そういうこと」

春香「プロデューサーさん…大丈夫ですか?あのぉ、パウンドケーキ焼いてきたので良かったらどうぞ…健康のことも気遣って野菜を使ってみました。…雪歩ー!」

雪歩「おまたせ春香ちゃん。プロデューサー、お茶もどうぞ…」

P「…………………………………んあ、助かる」

雪歩「プロデューサーが死んじゃいますぅ!」

真「落ち着いて雪歩!きっと大丈夫だよ」

亜美「重症ですなー」

真美「亜美、そんなのんきなこと言ってられなくない!?」

あずさ「そうねー。心配だわ…」

やよい「プロデューサーの顔色わるいです…」

P「……………大丈夫だ!!!!!」

雪歩「ひぅっ!!」

春香「きゃあっ!!」

真「うわぁっ!!」

律子「急に勢いよく立ち上がって、何が大丈夫なんですか!?」

P「いいんだみんな!心配しなくても!今は!俺のことは!放っておいて!自分のことに!集中!するんだ!あははははははははははははっ!!!!」

みんな絶句した。彼の異常な笑い声だけが部屋中に響いていた。

真「伊織…伊織のお兄さんでしょ?なんとかしてよ…」

伊織「私もこんなお兄様見たことないわ…泣きそうよ…」

千早「プロデューサー!プロデューサー!こんなにおかしくなってしまって!美希のせいね!?」

春香「千早ちゃん落ち着いて!!」

P「ちはやーーー!!」

千早「きゃっ!?」

P「あはははははっ!」

自分でもわからないがあの時は確実に頭が狂っていたようだ。

如月を持ち上げてぐるぐるとまわったのは、喜びを表現したかったのかも。

それからというもの暴れに暴れたらしい。

双子を持ち上げては下ろし、高槻を持ち上げては下ろし、さらに伊織も持ち上げては下ろしたらしい。

萩原と天海とは肩を組み、その後で脇に抱えて走り回ったり、戻ってきたかと思えば菊地をお姫様抱っこで抱き上げ狂喜乱舞していたということ。

さらに、三浦には正面から抱き付きながら耳に息を吹きかけ、

椅子に座ってる音無さんには後ろから抱き付き耳を甘噛みし、

秋月にも後ろから抱き付いて首にキスマークをつけた後なぜか髪をほどいて、そのヘアゴムを机に置き、爽やかな笑顔でお疲れ様でしたと言って帰ったらしい。

真昼間だったにもかかわらず。

その翌日。

P「すみません。あのぉ、体調が優れなくて…」

律子『はあ!?昨日、散々好き放題しておいて何ですか!?仮病使って逃げようったってそうはいきませんよ!!あと、首の跡どうしてくれるんですか!!』

…大声やめろ…頭いてぇ……。

P「………秋月か…大声出すんじゃねえよ」

律子『だから仮病は…』

P「あー、わかったわかった。とにかく今日は休むから、じゃあな」

律子『昨日のことを…って電話切らないでくだ』

切った。苦しさあまりに電話を放り投げる。そして倒れるようにベッドに寝転がり布団を被る。

投げた電話がすごい音を発したが、気にせず眠った。

何だよ昨日のことって、なんかあったか?

なぜだかここ最近の記憶があやふやなんだよな…。

後で熱を測ったら40度越えという大記録を出していた。

ちなみにさっきの話は熱を出してから二日目にお見舞いに来てくれた伊織が教えてくれた。

その時の俺を殺してやりたいと心底思う。

覚えてないと言ったら呆れた顔で伊織におでこを叩かれた。

なぜそんな奇行に走ったのかは自分でもわからないのだが、星井のミニライブチケットが完売したのを認めたのは覚えている。

星井のライブまで残り三日。

P「うぃーす………」

今は12月。
病み上がりということもあって、俺はもこもことした防寒マックスの装備だった。もちろんマスクも着用だ。

小鳥「あ!プロデューサーさん!!」

あずさ「え?プロデューサーさん?」

律子「やっと復帰しましたねプロデューサー!…って何ですか、そのフル装備は?」

P「まだ体の芯が冷えるので…うぅぅ…さっむ!」

あずさ「ちゃんとお食事取りました?」

P「うん。とった」

あずさ「本当ですか?」

P「…とった!…うぅ」

ぶるぶるっと身震いしてしまう。誰かが俺の噂を…。

あずさ「小鳥さん。なんとなくですけど…ちょっとプロデューサーさん可愛くないですか?」

小鳥「やっぱりあずささんもそう思います?私もなんか今のプロデューサーさんに尽くしたいって思っちゃいました」

なんか音無さんと三浦がひそひそ話してる。けど、この体調じゃ、あまり気にならない。
……ぶるぶるっと身震いする。誰かが俺の噂を…。

雪歩「おはようございます」

真「おはようございまーす!」

雪歩「あっ!ぷろでゅ………そこのもこもこの人、プロデューサーですか?」

P「………いかにも…ごほっ…」

咳も出てしまう。ちょっと苦しいな…。

真「あはは…。でもここに来るとき雪歩とちょうどプロデューサーの話してたから」

おや、これは…寒気がしたとき誰かが俺の噂をしてる説が有力に…?

雪歩「うん。でもプロデューサー大丈夫なんですか?」

P「見ての通り、万全だ…」

真「あー、うん、対策の方はそうみたいだね」

雪歩「今さら、予防しても意味ないんじゃ…」

P「うるさいよぅ…寒いんだよぅ…」

真「ダメそうなのは火を見るより明らかですね」

律子「そうなのよね…」

P「ねぇ、萩原、お茶頂戴?」

雪歩「はぅ…!ちょ、ちょっと待っててくださいね」

真「どうしたの、雪歩?」

雪歩「…ううん。何でもないよ、真ちゃん」

雪歩(まさかプロデューサーがこんなに愛らしく感じるなんて…確かにもこもこした服着てて可愛いし…でもそれだけじゃないような…)

あずさ「雪歩ちゃんもなのね?」

小鳥「こっちへいらっしゃい?」

雪歩「あずささん…小鳥さん…」

あずさ「あなたもプロデューサーの隠れた魅力に気付いてしまったの…」

小鳥「そう。弱ってるプロデューサーさんは…可愛い!…なんていうか、いつもは守ってほしいのに今は守ってあげたくなるような…」

雪歩「確かに…。よくわかりませんけど、母性っていうんでしょうか?」

あずさ「まさにそんな感じよね~」

…またしても、ぶるぶるっと身震いしてしまった。

P「…ふふっ。また誰かが俺の噂を…」

真「プロデューサー、頭大丈夫ですか?」

P「菊地、お前たまにさらっと酷いこと言うよな」

真「だってプロデューサーが急にニヤッとするから…」

P「…そうだったか、なら気を付けよう」

雪歩「はい、プロデューサー、お茶淹れてきました」

P「お、ありがとー………あちっ!」

いや熱いの知ってたけど、知っててもこうなっちゃうよね。

雪歩「だ、大丈夫ですか!?すいません、熱いの注意するべきでした」

P「知ってたんだけど俺の舌じゃ耐えられなかったよ…」

雪歩「ど、どうしよう?」

P「はぎわらー、冷ましてー」

雪歩「えぇっ!?」

真「プロデューサーかっこ悪いですよ…」

律子「甘えないの!!」

P「ちぇー…ごほっ…」

律子「自分でふーふーして冷ましてください」

P「ふーっ…ふーっ…!…ごほごほっ…!」

真「わっ!咳するときは湯呑から口離してくださいよ」

律子「わざとやってるんじゃないでしょうね…?」

P「あー、ごめん。その、わざとじゃないんだ」

油断してるとたまになっちゃうよね…。

律子「大体、先日もあんなにみんなに迷惑かけておきながら…」

話聞いてないし…。
そしてくどくどと秋月のお説教が続く。俺、病人だよ?ああ、泣きそう。

真「律子、言い過ぎ!プロデューサー泣いてるよ!!」

律子「へ?きゃぁっ!…そ、そんなに泣くほどのことですか?」

なんかわからんが、とにかく悲しい気持ちがものすごい勢いであふれてくる!

P「わがんね…」

真「東北なまりっぽく言われても…」

P「秋月はだめだぁ!はぎわらー!おれに優しくしてください!」

雪歩「は、はいぃ!」

律子「ダメって何ですか!?失礼な!」

あずさ「律子さん。今はやめときましょう?」

小鳥「あずささんの言う通りですよ。最近のプロデューサー無理ばかりしてましたから」

雪歩「よしよし…プロデューサーはよく頑張りました」

P「はぎわらー…」

真「はぁ…ダメだなこりゃ。ボク、仕事に行く前にダンスしてきますね」

小鳥「ええわかったわ、行ってらっしゃい真ちゃん」

律子「プロデューサー…何調子に乗って雪歩に抱き付いてるんですか?…セクハラですよ?」

雪歩「私は別に…」

あずさ「まあまあ、律子さん今日は大目に見てあげましょう?今回は前みたいに暴走してるわけじゃないもの」

P「温かいよぉ。萩原の心が温かいよぉ…」

律子「しかたないですね。今日は二人に免じて許しましょう。でも次はありませんよ!」

P「……すぅ…すぅ…」

あずさ「…寝てますね」

律子「ほんとっ、今日のこの人は子供ですか!?」

小鳥「とりあえず、寝かせてあげましょうか」

雪歩「私はどうすればー!?」

今日はおちまい。
ご質問、ご意見、ダメ出し等あればどーぞ。
次回は再来週の予定。

以下ちょっと反省点。
Pを暴走させすぎた。
以上。

危ない。
もう再来週終わっちゃう。

なので本日21:00頃に投下予定です。

30分くらいで起きました。さっきより割と楽になったかな。
さて、復帰したてのお仕事タイムだ。

P「今日は秋月と三浦が雑誌の撮影で、菊地と萩原がラジオの収録だったかな?」

小鳥「さすがですプロデューサーさん」

宣材写真のときの三浦と秋月のツーショットが先方の目に留まったらしい。
小さいだろうけど二人で撮影して雑誌に載せてもらえるようだ。

ラジオの方は昼収録の深夜放送だ。しかもローカル。ちいさいけれど大した一歩だと思う。

P「うちもそこそこお仕事増えてきて嬉しいなー。嬉しいなー」

律子「本当、大丈夫ですか?今日のプロデューサーやばいんじゃないですか?」

P「いつも通りっしょ」

雪歩「絶対、熱のせいで変なテンションになってますぅ…」

P「心配するなって………いっきし!……なんともないし」

律子「くしゃみした後では説得力がまるでありませんね」

あずさ「熱は何度あったんですか?」

P「平熱だから大丈夫…」

律子「答えになってません。だから熱は何度ですか?」

P「大丈夫!」

小鳥「頑なですね…」

あずさ「じゃあ、測ってみましょう。体温計見つけてきました」

P「…」

雪歩「測りましょう?プロデューサー?」

P「…はい」

しかたなく体温計を受け取り、もこもこフル装備を解除して脇の汗を拭く。俺は意を決して体温計をわきに挟んだ。

しばらくしてピピピッと音が鳴る。

P「…」

やば。俺は数字を見るなり必死で言い訳を考えた。

小鳥「ちょっと見せてください」

俺、体温計を隠す。

小鳥「大丈夫なんですよね?」

笑顔のまま引かない音無さん。
俺は精一杯、懇願するようにじっと音無さんの顔を見つめる。つまりアイコンタクトを試みた。

小鳥『ダメですよ』

失敗。いや、アイコンタクトは成功してたっぽい。

観念して体温計を手渡す。
そしていそいそと、もこもこのフル装備に。…落ち着く。

小鳥「38度4分…もあります」

律子「はぁ!?プロデューサー、どこが平熱ですって?」

P「俺の平熱は38度だ。問題ない」

律子「嘘つけ!」

雪歩「さすがに無理がありますぅ…」

あずさ「あらあら~、プロデューサーさん今日はやっぱりお休みになった方がいいのではないでしょうか?」

P「やることあるし、今さら休めないっての………ごほっ…」

小鳥「お言葉ですがプロデューサーさん…他の子にうつしたらどう責任を取るおつもりですか?」

律子「小鳥さん…」

そう言われるとその通りだ。
他の子たちは仕事が入ってる。俺の風邪かどうかわからないが、とにかくうつしたら大変なことになる。

音無さんもそれを危惧してるから語調が強いんだ。
周りが見えてなかったのは俺の方だ。ここは帰るのが正解のはず…。

…でも、星井のことがある。

一人の少女のアイドル人生がかかってる。ここで成功しなきゃ、彼女とはもう…。

P「……………わかりました。早退します」

俺は引くことを選んだ。

P「…でも、お願いがあります」

引き替えに…。

自宅に戻る。
しばらくして伊織がお見舞いに来てくれた。ご苦労様です。

伊織「お兄様、まだ熱引いてないのに事務所に行ったんですって?」

P「うん。でも追い返されちゃった。音無さんが珍しく怒ってさ」

伊織「それなら律子やあずさから聞いたわ。お兄様がまた泣くんじゃないかって冷や冷やしたそうよ?」

P「あはは…まいったな」

伊織「それで今も懲りずに仕事?…無理はしないでって言ったじゃない」

P「あと三日だから、やらせてくれ……ごほっ…」

伊織「はぁ…わかったわ。何かあったら連絡してちょうだい」

P「ああ、助かるよ」

星井のライブ当日。

P「うーん、結局微熱までは何とか下がったな…」

俺は今会場に来ている。先日も下見に来たり昨日もリハをやったらしい。
らしいというのは、この計画を共有する人が現れたからだ。

俺が早退したときに再びしばらく休むからと、引き継いでもらったのが音無さんだった。

みんなが気を遣わないように内緒で進めてきたこのライブ計画。
今では音無さんと共同して行ってる。もちろん社長も承諾済み。

そしてここが星井が残るかどうかの分岐点。上手くいくかは全くわからない。

しばらくすると、当事者の星井がやってきた。

美希「あ、おはようプロデューサー」

P「ああ、おはよう」

美希「熱大丈夫なの?昨日、プロデューサーの代わりに小鳥が来て教えてくれたよ?」

P「そっか、俺はいいんだけどさ。お前は大丈夫なの?」

美希「ミキのことは心配いらないの。もう全部間違えないで歌って踊れるよ」

P「本番で緊張して間違えんじゃねーぞ」

美希「余計なお世話なの!…プロデューサーともこれで最後だし、今までお世話になりました」

P「気が早いって、ここで失敗したらアイドル続けてもらうからな」

美希「どーぞご勝手に?」

…うざいなこいつ。もうやめさせてもいいんじゃない?
というのは冗談だけど。

くるっと踵を返して控室に向かう星井。

それにしても予定の1時間前から来るとは案外しっかりしてるんだな。

そして星井は早めのリハを行いほぼ万全の状態で本番に臨んだ。

本番直前。

P「緊張してる?」

美希「全然?」

こいつめ。本当に緊張してないな…。大物なのか、ただのバカか。

P「ひとつお願いがある」

美希「今になって、何?」

P「ステージの上では絶対に『やめる』とか『引退する』とか言わないでくれ」

美希「…お客さんが悲しむから?」

P「………そうだ」

嘘なの。全然違うの。

美希「ふーん。わかった。一応、約束は守るの」

P「おう、頼んだ」

星井はステージに上がっていった。

美希『みんなー!今日は来てくれてありがとうなのー!』

初めてで物怖じしないあの態度はやはり大物と呼ぶべきだろうか。

ていうかマジであれ初めてか?

そしておよそ1時間に及ぶライブは終わりを迎えた。

星井は完璧だった。控えめに言ってもこのライブは成功と言える。

歌も良し、踊りも良し、場をつなぐトークも問題なし。

それに彼女にはセンスがある。人を惹きつけるセンスが…。

しかも一人で8曲の歌と踊りを披露したにもかかわらずまだ余裕がありそうだ。

美希『じゃあねー!みんな、またねー!!』

『ウオォォォォォーーーーーーーーー!!!!』

すげえ盛り上がってんすけど…。ハコが大爆発する勢い。

それにしても今の星井のセリフ…。

星井が壇上から降りてくる。

P「お疲れ様、星井。…どうだった?」

美希「あの…あのねプロデューサー…ミキね…」

『………ール………アンコール……アンコール…!アンコール…!!』

星井が振り返る。もちろんたった今降りてきたステージに向かって…。

P「あらら、お呼びみたいだぞ?…でも、アイドルやめたいならここで降りてもいいよ?」

再びこちらを向く星井。その顔はいろんな感情であふれかえったもののそれだった。

美希「…」

星井は何も答えない。いや、答えたくても込み上げる思いに飲まれて、言葉が喉の下でつっかえて出てこない。聞こえるのは嗚咽ばかりだ。

だが俺を見つめるその眼差しには確かな光、美しくて希望にあふれた光が宿ってるように見えた。

P「…言葉もいらないな。行ってらっしゃい」

俺は星井の肩をそっと抱き、ステージにその身を向けさせた。
そして背中を強く叩いて送り出す。

美希「…いたっ!」

よたよたと2,3歩前に出た星井は恨めし気にこちらを見る。

P「声も出ないくらいに緊張してんじゃねーよ!」

星井の目にはさっきから大粒の涙が溜まっていたが、俺ににっこりと微笑むと吹っ切れたようにそれも汗と一緒に流れていった。

美希「…行ってきます!」

『ウオォォォォーーーーーー!!!!』

星井がステージに上がった瞬間、大歓声が起こる。たかだかキャパシティ200人の小さなハコとは思えない。

美希『みんな、お待たせなの…!』

星井の声は涙で震えてる。
客席のあちこちから『頑張れー!』だの『負けんなー!』だの『熱くなれよ!』だの聞こえてくる。………すまない。最後のは嘘だ。

美希『ミキ、本当にこういうのは初めてで…嬉しくて…とにかくみんな大好きなの!』

『俺もだー!』と、やっぱりあちこちから聞こえる。

星井は2曲プラスしてライブを終えた。

小鳥「ライブ、大成功ですね!」

P「あ、音無さん」

小鳥「それで美希ちゃんは…?」

P「わかるでしょう?星井がアンコールを受けた意味が…」

小鳥「それじゃあ…」

音無さんの表情がぱぁっと輝く。

P「おそらく星井は続投です」

小鳥「よかったぁぁぁ……」

P「音無さん。ライブはまだ終わってませんよ?」

小鳥「…と言いますと?」

P「社長にお願いして来てくれた方に特典を用意したんです。だから、スタッフの方たちと一緒に配るの手伝ってもらえますか?」

小鳥「はい、もちろんです。プロデューサーさんも一人でよく頑張りましたよ?」

P「あはは、恐縮です」

それでは、と音無さんは行ってしまった。

P「…」

美希「プロデューサー!」

その声に振り返る。
直後、ふいに視界がフェードアウトしていった。
微かに俺を呼ぶ声が聞こえた。

夢を見ていた気がする。
兄貴と伊織と父さん、母さんがいて俺を笑顔で迎えてくれてる。

けれど俺は行かないのだ。行けないのだ。

俺は家族に背を向け走り出す。振り向くなと自分に言い聞かせる。

あれはまやかしだ。俺は追い出されたんだ。

妄想はもうよせ。

俺は家族を顧みなかった。自分のことばかりだった。

当然の報いなのだ。

家族が俺を迎えてくれるという俺の妄想はただの幻想に過ぎない。

目を背けろ。理想は見るな。

兄貴も母さんも父さんも伊織だって、俺のことが嫌いだ。

軽蔑してる。水瀬家の恥さらしだって罵っている。

そのはずなのに…。

立ち止まって振り返る。

息が切れるほど走ったのに、変わらない家族との距離。

なのにさっきまでの笑顔は消えていて。

悲しそうな顔をしていた。

伊織たちはそれぞれ顔を見合わせて、また俺に向き直る。

ちょっと困った笑顔を浮かべて…。

悲しいのが伝わってきて…。

なんでそんな顔をするのかわからなくて…。

俺はまた逃げてしまった。

P「ん…」

知らない天井だ…。って言うのはもはやお約束だよね。

美希「プロデューサー!?」

P「星井?」

音無さんもいるな。

P「俺は何で病院に?」

小鳥「何言ってるんですか!プロデューサーさん気絶したんじゃないですか!」

P「俺が?…悪い冗談だろ」

美希「ううん。ミキが呼んだら倒れたの…」

小鳥「あれだけ無理しないでくださいって言ったのに…伊織ちゃんにも言われてたんでしょう?」

P「そっか。…じゃなくて!ライブは!?」

小鳥「そっちは大丈夫です。特典も配布し終えましたから」

P「よかったぁ…」

安心したらどっと疲れてきたかも。再び横になる。

小鳥「でも自分の心配もしてくださいね…」

P「ええ、わかりました。これからしばらくは休ませていただきますけど…」

小鳥「…社長に伝えておきます」

P「助かります」

小鳥「しっかり寝てくださいね?…聞いたところによるとただの寝不足ってことだったんで…」

P「…」

小鳥「あーあ、また伊織ちゃんに怒られますよ…」

P「まあいいですよ」

小鳥「じゃあ私はこれで失礼しますね」

P「はい。わざわざありがとうございました」

音無さんは微笑んで会釈をすると部屋から出て行った。

P「病院なんて大げさだな…」

美希「本当に心配したんだよ、プロデューサー?」

P「ああ悪かったな、星井。お前は戻らないのか?」

美希「うん、ミキまだプロデューサーに言ってないことあるの」

P「言ってないこと?…そういや俺もあったな…」

美希「プロデューサーも?なになに?」

P「星井、お前のライブは大成功だ。今までお疲れ様!」

自分でも意地悪だなぁって思う。彼女が納得するはずないこんな言い方に対して俺は星井がどんな返答をするのか気になってしまった。

美希「あの、そのことなんだけど…」

なんか、らしくないな…。しおらしいというか。

美希「キラキラしてたの…」

P「は?」

わけのわからない言葉に素頓狂な声をあげてしまう。

美希「ミキのライブ見に来てくれた人たち、最初は全然そうでもなかったのにどんどんキラキラしていって、ミキにもキラキラ分けてくれて…」

とりあえず黙って聞いておく。

美希「お客さんもミキもみんなもっとキラキラして…歌ってて、踊っててすごく気持ちよかった」

P「そっか。…それで?」

美希「…ミキやっぱり続けたい!」

P「練習もちゃんとやらなきゃダメなんだぞ?」

美希「やるの!今さらって思うかもしれないけど、ミキもっともっとキラキラしたい!」

P「……わかった。だったら俺は応援するし、最大限サポートしよう」

美希「プロデューサー…」

P「それより今日のライブだが…全然ダメだな」

美希「ええっ!?終わったときプロデューサー、大成功って言ってたよ?」

P「まあライブとしては成功だろ。すごい盛り上がりだったしな」

美希「じゃあどうして?」

P「歌も踊りもまあまあだったが、それだけだ。トークも微妙、もっと面白いネタもってこい。とにかく中途半端、俺だったら帰る」

美希「………あんまりなの」

星井はがっくりとうなだれた。

全部嘘です。ごめんね。超良かった。俺だったらファンになっちゃう。

P「でもな、星井。まだまだこれからなんだ。お前はこれからもっと良くなる」

美希「ほんと?」

P「当然だ。お前はまだアイドル始めたばかりじゃないか…」

だからまだ伸びる。経験値が圧倒的に足りてないだけ。

P「しかしなぁ、アイドルが生き残っていくためには練習だけじゃダメなんだよ」

美希「そうなの?じゃあ練習以外に何すればいいの?」

P「まずは礼儀正しく。次にみんなに優しく。そしてみんなのお手本になるように」

美希「そうすればミキ、もっとキラキラできるの?」

キラキラはよくわからんが…。

P「そうだな。世界中が星井美希に夢中になって、キラキラな世界の出来上がりだ」

そういうと星井は目を輝かせた。

美希「ありがとうプロデューサー」

P「何だ急に?」

美希「プロデューサーがライブやるって言わなかったら、ミキは何も知らないまま辞めてたと思うの」

P「ふーん。こっちも辞めさせる気なかったけど」

美希「え?」

星井が間抜けな顔をする。何て言ったの?といったような感じだ。

P「だから、俺も初めから辞めさせる気なかったって」

美希「どういうことなの…?」

P「ライブやればまたアイドルに興味持つと思ってな。失敗しても残ることになってたし」

美希「ミキ騙されたの?」

P「はぁ?そんなわけないだろ。別にマジで辞めてもよかったんだから。ただ、俺は星井がアイドル辞めたくないって言うと、思ったんだ」

美希「それってミキを信じてたってこと?」

P「どうだろうな。でもこのライブのために頑張った甲斐はあったと思ってる」

美希「ミキのために…」

P「俺のためだ。俺がアイドル星井美希の活躍を見たいと思ったんだ。お前にはその素質があるとも思った。だからこれは俺の勝手な判断と行動で自己満足でしかない。結局は音無さんにも手伝ってもらっちゃったけどな」

美希「プロデューサーって素直じゃないの!」

P「いや素直だっただろ…」

美希「ミキね、今日のことでとっても感謝してるよ?」

瞳を潤ませる星井。あまりに魅力的で言葉が出ない。

美希「あの時、プロデューサーが背中をたたいてくれたから、みんなのアンコールに応えられたの」

そっと目を閉じる。その時を思い出すような表情はとても綺麗だった。

美希「ついさっきまで辞めようって思ってたミキがもう一回みんなの前に出ていいの?って…」

俺は聞いた。彼女の想いを…。
ていうか星井もそこまで考えてたんだ。意外、自分のことばかりだと思った。

美希「そう考えてたミキの背中を押してくれたのはプロデューサーだよ…?」

しっかりと目を合わせる星井。潤んだ瞳に、今にも泣き出しそうな表情に、目を逸らしそうになる。

P「そうか…」

やっと出てきた言葉が何とも素っ気ない一言だった。
なんとか繋げようと次の言葉を絞り出す。

P「あ、その、なんだ…まあ続けてくれんなら頑張れ。俺がお前のファン1号なんだから、俺をがっかりさせないでくれよ?」

美希「あはっ!そっか、プロデューサーがミキの一番目のファンなんだ。それっていつ決まったの?」

P「………お前がアイドルになるって言った時から」

美希「ふーん。じゃあプロデューサーは初めっからミキの味方だったんだね…」

別に味方ってわけじゃないんだけどさ。

美希「……プロデューサー、ありがとう」

また聞くその言葉、やっぱ照れくさかったりする。
俺はちらちらと視線をさまよわせてしまう。

美希「これからプロデューサーのことハニーって呼ぶね!」

P「は?なんで?」

いきなりどうしたこいつ?わけわからん。さっきからわけわからん。

美希「ミキにとって大切な人だから!」

屈託なく言う星井に俺は唖然。

美希「ねえ、ハニー?ミキのこと見てて、これから頑張るから!」

P「それは分かったがハニーはやめろ」

美希「ヤ!」

反抗期、早っ!言うこと聞くんじゃなかったのか!?

こんなのがみんなのお手本になっちゃ困る。

P「おま…っ!」

『お前なぁ…』言いかけた時、星井に人差し指で口を押さえられる。
何の真似だ?と目で伝える。伝わるかな?

美希「『お前』じゃない、って前にも言った気がするの。お前じゃなくて『ミキ』って呼んでよ」

星井の手を払いのける。

逆の手の人差し指を押さえつけられる。

俺は払いのける。負けじと星井はその逆を…。
激しい攻防が始まった。

しまいには星井が抱き付いてきて離れない。俺は引っぺがそうとしたがなかなか離れなくて困ってしまった。

P「わかった。名前で呼ぶよ。離れろ星井」

美希「『星井』じゃなくて『ミキ』!…それと人にお願いするときはどうするの?」

何から目線なのこいつ?生意気だなぁ。

P「わかりましたよ。美希さん、離れてくださいお願いします」

美希「別に呼び捨てでいいのに…?」

P「お前、離れろやコラ」

美希「また『お前』って言ったの!ミキ離れない!」

だめだなこりゃ。矯正していかないといけないのか。

P「ごめんって、美希」

あんまやりたくないが…。
俺は美希の耳元に口を近づけ…。

P「…美希、離れてくれないか?」

出来る限り甘い声で囁いた。…つもり。

美希「………あ」

『あ』って何!?何だその反応!!
すると美希は案外素直に退いてくれた。

美希「しょ、しょしょうがないのー…ハニーがそう言うのなら離れてあげる…」

これすると、ほとんどのアイドルが割と素直に言うこと聞いてくれるんだよね。

P「今日は帰りなよ。明日も練習あるんだしさ」

うんうんと、素直に首を縦に振る美希。俯きがちでちょっと硬直気味なのが気になる。

なんだか、らしくない。

P「居てくれてありがとな、美希。それと顔あげなよ。可愛いのにもったいねーぞ?」

美希「…う、うん!ハニーもありがとなのー!」

美希は赤らんだ顔をこちらに向けて、満面の笑顔を見せると、くるりと背を向け慌てて帰っていった。慌てる必要ないのに…。

うーん。それにしても名前呼びか…。如月、いや、千早もそう呼んでって言ってたし改めるかな…。でもなんか恥ずかしいよな。…とりあえず試してみるか。

俺はそれから1週間休暇をもらった。無給のやつを。
余談だが、その月の給料が手取りで2万弱だった時の絶望感は半端じゃなかった。今から1か月1万円生活でも始めるんですか?ってくらい。

休みが明け…。

P「おはようございます」

小鳥「おはようございます。久しぶりですね」

P「はい、ご無沙汰です。……小鳥さん」

小鳥「ええ、そうですねぇ………って、ええ!?」

P「うわ!びっくりしたぁ…なんですか?」

小鳥「いえ、今『小鳥さん』って…」

P「ああ、いろいろありましてみんなのこと下の名前で呼ぼうかなと思いまして…やっぱ嫌でした?」

小鳥「とんでもないです!大好きです!…じゃなくて、むしろ嬉しいくらいですよ?…さっきは、いきなりで驚いただけですから」

P「はぁ…そうですか」

嫌がられてないどころか嬉しいくらいならいいか。

律子「おはようございます」

P「おはよう。…律子はいつも早いな」

律子「あ、プロデューサーお久しぶりです。…って今なんて!?」

またその反応?やっぱ嫌なんじゃ?

P「いや、来るの早いなって…」

律子「そっちじゃなくて…」

小鳥「律子さん。なんかプロデューサーさん、みんなのこと下の名前で呼ぶようにするそうです」

P「嫌だったか?」

律子「まさか!プロデューサーに近づけたみたいで嬉しいですよ?」

P「ならいいんだ」

他の子はどうなるのだろうか…。

律子「他の子もみんな嬉しがると思いますよ?」

P「へ?」

律子「ちょっと不安そうにしてたので私からアドバイスです」

P「おま……律子って優しいよな」

『お前』って口に出ちゃうな。接頭語みたいに。

律子「な、な、何言ってるんですか?…あー、仕事仕事っと!!」

P「なに照れてんだよ」

律子「別に照れてませんー!」

小鳥「プロデューサーさんが急に褒めたりするからですよ」

そんなものなのか?

とりあえず、他のみんなも下の名前で呼んでみたけど、どの子も律子や小鳥さんと同じような反応だった。

この頃からアイドル達との距離もグッと縮まったような気がする。

千早は言い直す必要がなくなったのが嬉しいらしい。
どうしても『如月』って呼んじゃってたから。

こうして星井美希引退ライブの件は引退せずに終わった。

美希は普段のマイペースはともかく、アイドルへの情熱を燃やし始めた。

おかげでみんなとも仲良くやっているようだ。

いろいろあったけど結果としては本当によかった。

さて、今回はおちまい。
キリがいいところで終えられたと思います。

以下反省等。
ちょっと投稿ペース早めようか思案中。
そこんところどうでしょうか?

ご意見ご質問、このスレに対しての批判やダメ出し等はご遠慮なく仰ってくだちい。
できる限り改善を試みます。

それとレスありがとうございます。
まさか続きを期待してくれる人がいるとは思わなかったです。(嬉しい)

長文で失礼しました。それではまた。のし

皆さんレスありがとうございます。
次回は1週間以内に投下します。

これは最終的にいおみきで取り合いの展開になる可能性が高い?
伊織が「お兄様は私のお兄様なんだからねっ!」と美希を引き剥がそうとするが美希が「ヤッ!ハニーはミキのハニーなの!」と維持でも剥がれまいとする
やっべニヤニヤしてきた俺超キモい

>>126みたいな展開はあまりないんだが
そういうのも欲しい?

ちなみに今日21:00頃投下予定

それから一月後。

今日は亜美と真美がテレビ出演である。うちでは今回が初テレビ出演。

双子アイドルっていうことで売り出したらこれが意外にウケたのだった。

双子自体はあんまり珍しくないと思うけどね。

P「でもよかったなー」

真美「なにが?」

P「こうやって真美と亜美がテレビ出演なんて…うちでは初めてだろ?」

亜美「そういえばそうだねー。ようやく時代があみたちに追いついたよね」

P「は、調子乗んな」

真美「兄ちゃんのおかげだよ?ありがと…」

P「…おお、なんか素直に言われると調子狂うな」

真美「そんなまみの魅力に負けてしまう兄ちゃんであった…」

P「は、調子乗んな」

亜美真美『ぶーぶー!』

P「うっせ、出演者の方々に迷惑の無いようにしろよ?」

亜美「大丈夫だよ!」

真美「いたずらもしないって!」

P「当たり前だ!いたずらしたら干す!」

亜美「あみたち洗濯されちゃうの?」

真美「これ以上綺麗になっちゃうの?」

P「バカ言ってないであいさつしに行くぞ」

深夜の放送ではあるけど駆け出しのアイドルを取り扱ってくれる番組だ。
これで多少でも認知度が上がればいいけど、そうもいかんだろーな。

スタッフの方にあいさつを済ませ、次は共演者。

司会の方に挨拶を済ませる。
あまり有名ではない芸人の方だが、徐々に注目を浴びている。

他の共演者は『ジュピター』という男性の3人組ユニットだ。
えーと、所属は961プロ!?

へー、黒井さんのとこか…今度あいさつに行かねーとな。

今日来てんのかな?

とか考えてるとジュピターの楽屋前だ。

ノックすると、どうぞーと言う女性の声が聞こえた。

P「失礼します」

そう言って扉を開ける。亜美と真美も通して前に出す。

P「本日共演させていただきます765プロダクション所属の双海亜美と双海真美です」

ほら挨拶、と促して二人にもあいさつさせる。

真美「双海真美です!お願いしまーす!」

亜美「双海亜美です!よろしくね!」

P「こらこら…そんなん失礼だろ?申し訳ありません」

北斗「ははは…!気にしないでください。これはこれは…。かわいいエンジェルちゃん達じゃないですか。俺は伊集院北斗と申します」

金髪の男性が笑い、立ち上がって律儀に礼をする。

翔太「こちらこそよろしく!僕は御手洗翔太」

3人のうちではやや幼さの残る少年も笑って答える。

冬馬「天ケ瀬冬馬だ。よろしく」

目つきの鋭い少年は無愛想に言い放った。

女P「冬馬ー。あんたもっと愛想よくできないのかしら?」

女性が呆れたような目つきで冬馬くんを見ている。

冬馬「うっせ、これでも愛想よくしてるつもりだ!」

翔太「ええー?冬馬くん、今ので愛想よくしてるつもりなの?」

北斗「だとしたら冬馬は今日の収録を何度も見返すといいな」

二人とも天ケ瀬を茶化して楽しんでた。仲は良いらしい。

冬馬「お前らまで…」

本人は困惑してる。どうやら愛想よく振る舞ってたらしい。

亜美「あまとう面白ーい!」

冬馬「あまとうって何だ!?」

真美「今度ケーキ買ってきてあげよう!」

冬馬「お願いしますっ!」

P「本当に甘党なのか…。じゃなくて、おい双子、失礼なこと言うな。天ケ瀬さん本当に申し訳ない」

冬馬「ああいや、別にいいって…。ケーキくれんなら」

そんな食いたかったの?

女P「そうですよ。気にしないでください。あとケーキもいいですから」

女性は笑って答える。そう言うなら、まあいいか。

P「あ、申し遅れました。私、こういうものです」

ふと思い出し、やや慌てて名刺を差し出す。

相手もそれに応じて名刺を交換する。

女P「765プロと言えば高木さんの…」

P「へぇ、ご存知なんですね。そちらも黒井さんのとこの…」

女P「そちらもご存知なんですね。私は高木さんには学生の頃何度かお会いしたのでお世話になってるんです…。もちろん黒井社長にも」

P「そうでしたか。実は俺もなんですよ。そちらの黒井社長にはお世話になったもので…。もうずいぶん会ってないんですけどね」

女P「私も黒井社長からお話を伺ったことがあります。高木さんについて、それと高木さんのもとで働く男性について…」

P「それって俺のことですか?」

女P「はい。おそらく」

P「どんな風に仰ってました?」

言うと彼女はおかしいことを思い出した風に笑って。

女P「ふふっ!そうですねー。絶賛してるのか罵倒してるのかよくわかりませんでした。でもとっても可愛がってらっしゃるんだなぁって思いました」

あの人らしいな。自然と笑みがこぼれてしまう。

P「今度、あいさつに伺いますね」

女P「ぜひいらしてください」

世間話にちょうど花が咲き始めたころ。

翔太「あれー?もしかしてお二人さんいい雰囲気?」

北斗「俺たちはお邪魔でしたかね?」

冬馬「いやいや、二人が外に出ろよ」

好き好きに言うジュピター。

亜美「兄ちゃん、その人とお熱い感じなのー?初対面なのにやるぅ!」

ニヤニヤする亜美。

真美「兄ちゃん!もう行こうよ!」

なぜか慌てだす真美。あんまり引っ張るもんだから。

P「わかったわかった。引っ張んな」

女Pさんはくすくすと笑う。

女P「真美ちゃんはPさんのこと好きなのね。」

真美「ち、ちがうもん!真美、飽きちゃっただけ!」

ここに、なんだか子供と大人の差を感じた。

女P「…それではPさん今日はよろしくお願いします」

P「はい。こちらこそ。そんじゃ二人とも行くぞ」

俺たちは楽屋を後にした。

真美が若干、不機嫌なのが気がかりだ。

P「どうした真美?何が気に食わないんだ?」

真美「べつにー…」

あからさま過ぎて逆にどうしたらいいかわからん。

P「なあ亜美…どうにかしてくれよ」

小声で亜美にヘルプを要請。

亜美「亜美もなんかよくわかんない。最近になってだけど、真美ってたまにああいう感じ出したりするから…」

P「そうかい」

亜美もダメ。じゃあ誰ならいいの?

P「なあ真美?」

真美「なに?」

やっぱり少し不機嫌そうに答える。おお、真美よ一体どうしてしまったというのだ!

P「今日の収録の後3人でちょっとしたお祝いをしよう。初テレビ出演おめでとうって…」

真美「…」

P「嫌か?」

真美「ううん。嫌じゃない」

そう言った真美の口調はさっきよりも穏やかだった。

亜美「じゃあ亜美は夜景の綺麗なビルの最上階がいい!!」

P「子供が背伸びするんじゃありません!それに俺も今月やばい」

亜美「いいじゃんいいじゃん!そんなことで何がお祝いなの兄ちゃーん?」

調子乗ってんなこいつ。

P「大きめのは事務所でやるからいいんだよ。俺たちはみんなに秘密でひっそりとやるのさ」

真美「…秘密で……」

P「そう。まあ高そうな所は無理だが、できるだけ大人っぽいとこには連れてってやるよ」

真美「約束だよ?」

亜美「約束!」

P「わかったって。だったら亜美と真美も今日はばっちり決めてくれよ?」

真美「うん!」

亜美「了解であります!」

そうして迎えた本番。
初めてにしては緊張感もなく、進行していった。

ジュピターとの掛け合いも割とウケていた。

冬馬くんの路線がよからぬ方向へ進んで行ってる気がしたが、見て見ぬふりをした。

しまいには、司会者までいじりだす始末。

あとは亜美と真美の魅力を十分に伝えるような編集になってることを祈るだけだ。

今から放送が楽しみだなぁ。

P「お疲れ様。真美、亜美、二人とも良かったんじゃないか?」

亜美「まあねー!」

真美「手ごたえばっちりっしょ!」

確かに、スタッフにも出演者にも好印象だったように思える。
そして亜美と真美にはスタッフのあいさつに行かせた。

P「あ、ジュピターのみんなもお疲れ様。とっても面白い現場だった。ありがとう」

北斗「いえ、こちらこそ。初めてでしたが十分に楽しませてもらいました」

翔太「一人納得いってないのがいるみたいだけどねー」

冬馬「うっせーよ!あんなの俺のアイドル活動終了じゃねーか!」

本当に彼は気の毒だった。

女P「あれじゃまるで芸人ね」

冬馬「ぐっ…!あんたは本当に優しくねぇな」

P「でもあんなツッコみ芸人顔負けじゃないか!とてもいい武器になるよ」

冬馬「やめろ。優しくしないでくれ」

女P「まったく。優しくしてほしいのか、ほしくないのかどっちなのよ…」

冬馬「こうなったのも双子のせいだぞ」

翔太「それは冬馬くんが悪いよ」

北斗「そうだぞ冬馬。お前がバカ正直に言い返すから」

確かに鬼ヶ島羅刹のくだりとか、ぺペン板崎のくだりの返しが鮮やかだった。

文字数しか合ってないとか、一瞬じゃわかんねーから。

でもこれじゃあまりにも彼がかわいそうだ。

P「本当に申し訳ないです。天ケ瀬さん」

冬馬「もういいって、身内がこんなだ。開き直るさ」

意外と図太いメンタルなのな。

冬馬「あとその呼び方はやめてくれ、冬馬でいいよ。年上に名字にさん付けで呼ばれるのはムズムズする」

P「そうですか…。では次にこういう機会があればまたよろしく頼むよ。冬馬くん」

俺も冬馬くんの方がしっくりくるな。

冬馬「ああ、二度と御免だけどな」

と言ってさっさと行ってしまった。

北斗「彼はああ言ってますけど別に本当に嫌なわけじゃないと思いますよ?」

翔太「そうだよねー!なんだかんだ言っても冬馬くんすごく楽しそうだったから」

P「そっか」

二人は最後にあいさつをして帰って行った。

女P「失礼な子で申し訳ありません」

P「いえ、こちらからちょっかいをかけてしまったので謝らなきゃいけないのはこちらです」

女P「…そうだ!」

急に手のひらをパシッと合わせる女Pさん。

女P「せっかくですから、番号交換しませんか?」

番号というのは無論、電話番号のことである。
こちらは断る理由もないので…。

P「そうですね」

あっさりと承諾する。

女P「じゃあ今度連絡いれますね。相談とか乗ってもらえれば助かります」

P「こちらこそ、まだまだ未熟なものですから頼りにさせていただきます」

お互いにお疲れ様、と残しその場を後にした。

本日の業務は終了。報告書を書いて後日提出だ。

亜美「兄ちゃーん。終わったよ」

真美「ディナー行こ?ディナー!!」

P「そうだな。なんか食べたいものあるか?」

亜美「そこは兄ちゃんがエスコートするってもんでしょー!」

P「そうか。ラーメンでいいのか?」

亜美「えー!兄ちゃんセンスないですなー」

P「うっせ。今どこでもいいっつったろが」

真美「言ってないじゃーん」

呆れた感じで真美が言う。

真美「どこに連れていくかで男の人のうちわが決まるってスタッフのお姉さんが言ってた」

団扇って何だ。器だろ器。

P「…まあ任せろ。ちょっといいとこ連れてってやるから」

俺はよく行ってた店に電話を掛ける。つまり、水瀬家がよく行くような店だ。
ちょうど席も空いているということなので、今から行くと伝えて電話を切る。

P「うっし、じゃあ行くぞー」

亜美「わーい!さっすが兄ちゃん!」

真美「期待してるかんね?」

P「生意気言ってんじゃねぇ。さっさと乗れ」

亜美真美『はーい』

ぶつくさ言いながらも車に乗り、目的地へ。

ここからでもあまり遠くない場所だ。

大体30分かからずに着いた場所は地上40階ほどありそうな高層ビル。

その下でそれを見上げ驚愕する二人。

亜美「兄ちゃん…」

真美「これマジな感じ…?」

P「任せろって言ったろ?まあ今日くらいは奮発してやるよ。みんなには絶対内緒な?」

亜美「ありがとう!兄ちゃん!」

真美「うん!約束する!」

でもこういうのって誰かに話したくなるだろうから、内緒にしなくてもいいと俺は思っているが。

内緒とか秘密って言うと特別感増すよね。

P「とりあえず行くか。俺も久しぶりなんだよなぁ…」

真美「兄ちゃん、来たことあるの?」

P「当たり前だろ。そうでなきゃ電話もかけないし、連れてきたりもしないって」

亜美「ふーん。前来たのはいつなの?」

わりと質問多いな。いいんだけど。

P「そうだな。もう3年は来てないなぁ」

亜美「へー」

興味ねえだろお前。

P「ほら、エレベーター乗って」

真美「うわぁ!50階まであるよ!?」

P「48階だ」

驚く真美にそれだけ言って俺は48のボタンを押す。

亜美「なんかドキドキすんねっ!」

真美「うんっ!」

二人ともみるみるテンションが上がってるようだ。

こちらまでそのワクワク感が伝わってくる。今にも工作しそうなくらいだ。

こういう場所のエレベーターはやけに速くて、亜美と真美が数字の光を目で追っているとあっという間に目的の48階へ着く。

真美「はやー」

亜美「はえー」

こういう子供っぽいところはやはり愛嬌のある二人だった。

エレベーターを出ると一人のウェイターが出迎えてくれた。

P「先ほど電話を入れたPです」

「お待ちしておりました。こちらの席へどうぞ」

ウェイターはそれだけ言うと俺たちをカウンターの席へと案内した。

目の前にはシェフと鉄板。

料理の様子を目の前で見ることができるのだ。

さらに窓の奥には夜景が広がる。まさしく都会の絶景だった。

真美「すごーい!」

亜美「おしゃれっぽい!」

まさに小並感である。というかリアル小学生でした。

俺は椅子を引いて二人に座るように促す。

P「ほら、座りなよ」

亜美「サンキュー兄ちゃん!」

真美「ありがとう」

そうして自分も腰を掛ける。ここのシェフと目が合う。

シェフ「お久しぶりでございます」

P「はは、久しぶり」

ここのシェフとは顔見知りだったりする。元常連だったもんで。

シェフ「本日は可愛いお客様もお連れのようで…」

P「まあね。仕事の同僚みたいなもんだよ」

シェフ「ほう。それはご立派ですね」

P「なに、まだまだ駆け出しのアイドルなんだ」

シェフ「アイドルですか。それではサインの方も今のうちにいただけますか?」

冗談っぽく言うシェフ。

P「あはは!まだ自分のサインなんて持ってないんじゃいかな?」

それに全然有名じゃないのにさ。これから有名になるけど。

亜美「あるよ?」

P「…マジ?」

真美「マジマジ!」

シェフは笑うと、近くのウェイターに目くばせをする。

シェフ「ちょうど色紙の方も用意してありますので、ぜひ書いていただけませんか?」

亜美「もっちろん!」

真美「いいですとも!」

気合十分に二人はおそらく初めて他人に渡すであろうサインを書き始めた。

可愛らしい文字で二人らしいサインが色紙を飾る。

P「地味に練習してたんだな」

亜美「まあねー」

真美「ちょっと緊張しちゃったかも」

P「まあでも上手いな」

素直に褒めると、嬉しそうに笑う亜美と真美。

シェフ「それではこちら飾らせていただいてもよろしいですか?」

P「そうしてもらえると助かるな」

一応、二人の宣伝効果にならないかな?

シェフ「ところで、ご注文はいつものでよろしいでしょうか?」

P「そうだね。じゃあ、みんな同じので頼むよ」

シェフ「かしこまりました」

真美「いつものだって!いつもの!」

亜美「なんかかっこいー!」

テンションもさらに上がる二人。

目の前で肉を焼き始めるのを凝視したり、少しお高めな雰囲気に多少緊張しながらも楽しく過ごせているようでなによりだった。

スープ、前菜、主菜と次々に出てくるコース料理に食べ盛りの二人の瞳もキラキラと輝く。

亜美真美『おいしー!!』

シェフ「大変嬉しいお言葉をありがとうございます」

シェフも満足そうにニコニコと笑顔でいる。

シェフ「坊ちゃまはどうですか?」

P「あはは、その呼び方はよしてくれよ。もちろん美味しい。それに、懐かしい」

シェフは何も言わなかったが、慈しむような目をしていた。

この人も小さい頃から俺を知っているんだと、実感させられる。

その後、デザートをいただき、しばらく談笑して席を立つ。

シェフ「また来てください」

P「ええ、また来るよ。今日はサービスしてくれてありがとう」

割引してもらった。社会人になったお祝いだそうだ。もう3年目だけどね。

シェフ「ご家族の方も頻繁にいらしております」

彼は事情を知っているのだろう。

P「お世話になってるみたいで」

シェフ「…いえ、こちらこそ」

彼はもう何も言及してこなかった。多分、俺の声の調子から踏み込むべき話題じゃないと思ったのか。気遣いも上手な人だ。

シェフ「お嬢さんたちも応援しているよ」

亜美「ありがとう、おじさん!」

真美「真美たち絶対有名人になるからね!」

シェフは優しく笑って俺たちを見送った。

P「よかったな。ああして応援してもらえるなんて幸せなことだよ」

亜美「うん!いいおじさんだった!」

真美「真美また行きたい!」

P「そんなホイホイ連れて行けるような場所じゃねーよ。二人とももっと頑張りなさい」

亜美真美『はーい』

満面の笑顔で息ピッタリに二人は返事をした。

来た時と同じようにエレベーターに乗る。

違うのは気持ちが若干落ち着いていたことだろうか。

車まで着くと俺はキーを解除しドアを開けて二人に入るように示す。

まるで執事とお嬢様みたいな構図に感じた。

車を出すと間もなく二人は眠ってしまった。

よっぽど疲れたのだろう。お腹も満たして満足したのだろう。

P「お疲れ様でした…」

事務所についてからも眠っていた彼女たちにそう言って運転席を降り、後部座席のドアを開ける。

動かしたらかわいそうだろうか。

そんな考えが頭をよぎる。

しばらくまごついていると二人が寒がると思って、やっぱりドアは閉めた。

どうしようと悩んだが、トランクに毛布が入ってたことを思い出す。

引っ張り出したそれを持って再びドアを開け、二人仲良く掛けさせてやる。

寝ている姿が微笑ましくて、俺も自然と笑顔になった。

大分、起きそうにない。

さらりと頭を撫でる。

今日はよく頑張ったと思う。

そんな二人を見ていると抱きしめたい衝動に駆られたがぐっと堪える。

起こしたらかわいそうだ。

起こさないように車から出て、後ろ手でドアを閉め、そのままもたれかかる。

タバコなんて吸ってたらかっこいいんだろうな、なんてガキっぽく考える。

パッと空を見上げてみた。特にやることもなかったから。

都会でもわりと星って見えるんだな。目を凝らせばだけど。

15分ほどたっただろうか。双海姉妹はなかなか起きる気配がない。

外も寒いし。

P「いったん事務所に戻るかぁ…」

独り言を言ってすぐそばの階段を上った。

P「ただいま」

小鳥「あ、お帰りなさいプロデューサーさん!亜美ちゃんと真美ちゃん、どうでしたか?」

P「上出来じゃないでしょうか。今から放送が楽しみですよ」

小鳥「本当、待ち遠しいですね!」

小鳥さんのテンションが高い。彼女もアイドル達に対する思いは並ではないのだ。

小鳥「あれ?ところで亜美ちゃんと真美ちゃんは?」

P「ああ、二人なら車で寝てますよ。今日はこのまま送ってっちゃってもいいですよね?」

小鳥「そうですね。遅い時間ですし…親御さんに連絡入れときます」

P「ああ、助かります」

小鳥「ふふっ!プロデューサーさんもお疲れ様です」

P「小鳥さんこそこんな時間までお疲れ様です」

もう彼女一人だけだ。社長はあっちへこっちへ色々と忙しいのであまり顔を出せないようで、代わりに小鳥さんが事務所を守ってるみたいだ。

小鳥「ところでプロデューサーさん、亜美ちゃんと真美ちゃんのテレビ初出演のお祝いは後日やることになりました。録画したその番組を見ながらってことで」

がらりと話題が変わる。

それにしても、番組見ながらって恥ずかしくないか?まあいいけど…。

P「了解です。今日は俺ももう帰りますね」

小鳥「はい。戸締りはしておきます。また明日…」

今日はもうあがろう。俺も疲れたかも。

そうして事務所を後にした。

俺は双海姉妹を家まで送った。

家は意外と大きい。聞けば父親が医者らしい。

そんなお父様は家の外で寒いのを我慢して娘の帰りを待っていた。

とても心配していたようだ。

寝てる二人を、俺と双海パパとで運んで短く会話を交わした。

いつもお世話になってるだの、娘をよろしくだの、腰の低めな父親だった。
俺の医者のイメージがいい方に変わったりした。

双海家を発ち、家に着いた俺は倒れこむように眠った。

時は流れ。

パーティーセットに彩られた事務所では、今か今かとテレビを凝視しているアイドル達。

そわそわと待つ亜美と真美。

小鳥「そろそろ始めますよ!」

今日はおちまい!
ということで亜美真美メインでした。
あとはこの話のエピローグ的なものがほんのちょっとだけあります。

>>128は無粋な質問でしたね申し訳ない。
好きなようにやります。

以下反省等。
読み返したがあんま面白くない。次回は頑張りたい。以上。

ご意見ご質問批判ダメ出しもろもろ受付中。

残りのアイドルのエピソードも書くつもり。
女Pとか出して嫌な人いるかもだけどご了承ください。

次回も早めの更新ができるように頑張ります!

ピピン板橋…

>>160
ごめんなさい。うろ覚えだったんだ…。
ちゃんと調べればよかった。

皆さんレスありがとうございます。

こんばんは
投下します

春香「うわぁ、楽しみ!ね、千早ちゃん!」

千早「そうね。二人ともどんな風に映るのかしら」

真「ついにうちからテレビに出るアイドルが…!くぅー!なんか感慨深いですね!」

P「そうだなぁ…みんなもこれから出てもらわないとね」

律子「おまけにうちじゃ最年少の亜美と真美でしょ?」

美希「先を越されちゃったの」

まあ美希は後輩にあたるけどな。

美希「ハニー?ミキもテレビ出たいな…」

いつもぐいぐい来るよな美希って…。

周りの視線が一気に集まるの怖いからやめてほしいんだけど。

今だって俺の袖をつかんでぶりっ子全開だ。

P「悪いな。今みんな売り込んでるからさ。後は先方次第ってことだ」

美希「そうなんだ。ハニーが頑張ってるのにミキ、デリカシー無かったの。ごめんねハニー?」

P「ああ、いいっていいって。いいから早く離れろ」

美希「ヤ!」

そしてこの一言である。

伊織「お兄様が困ってるでしょ!離れなさい美希!」

美希「やーん!デコちゃん怖ーい。助けてハニー?」

伊織「デコちゃん言うなぁ!」

P「美希、お前大丈夫だろうが。いいから離れなさい」

無理やり引き離す。なついてくれるのはいいんだけど、行き過ぎると確かに困るな。

美希は相変わらずのふくれっ面だ。

雪歩が苦笑いでこちらを見ていた。

P「ゆーきほっ!どうした?こっち見てたけど…」

雪歩「ええっ!?べべ別にどうもしてませんよぅ!プロデューサーこそ急にどうしたんですか?」

P「雪歩がこっち見てたからさ…」

熱出した時の一件以来、俺は雪歩によく絡むようになった。

雪歩「…そ、それは美希ちゃんのアプローチがすごいなぁって…」

美希「雪歩もミキを見習うといいの」

P「自分で言うセリフじゃないよな」

千早「美希、あんまりプロデューサーを困らせてはいけないわ」

美希「はーい。千早さんがそう言うなら仕方ないの…」

おいおい。俺は?…俺の意見は?

ところで千早にも美希は頭が上がらなかったりする。

それは純粋に美希が千早のことを尊敬しているからなのだ。

美希「ねえねえハニー!もっとそっち詰めてよぉ!」

こいつ、またか!!さっき注意されたばかりなのに…。

俺はもう端っこにいるだろうが!

P「無理だ。ていうか、美希の方がスペースに余裕あるじゃねえか!」

伊織「アンタねぇ!お兄様から離れなさいよぉ!」

千早「いい加減にしなさい美希!」

割って入ってくる伊織と千早。

二人もあんまりくっついてくるんじゃない!

春香「うわぁ…」

真「大変だなぁ…プロデューサー」

P「雪歩、助けて!」

雪歩「ええっ!?」

律子「もう!うるっさいわねぇ!」

亜美「亜美もー!」

事務所内がごちゃごちゃとしてきて…。

やよい「みなさん、もう始まりますよ!静かにしてくださいっ!」

しまいに普段は温厚なやよいに怒られてしまった。

意外な人物からの注意と意外にも大きな声にみんなはぴしゃりと黙る。

彼女はしっかり者だから、みんな逆らえなかったりする。

もしかすると、みんなが一番言うことを聞く人物がやよいなのかもしれない。

でもやよいも亜美と真美のことを考えて怒っているに違いない。

そういう気遣いができる子だ。

P「ああ、悪い」

千早「高槻さんに怒られた…」

美希「千早さんしっかりするの…」

なんやかんやしてるうちに収録が流れ始めた。

みんなも目を輝かせて見ていた。

司会の方が上手く話を振ったりしてもちろん面白いのだが、

亜美と真美とジュピターの掛け合いも、なかなか面白い。

特に冬馬くんが。

何あのツッコミ、あれで初めての出演だっていうんだから驚きなんだけど。

P「いやぁ、やっぱ冬馬くん面白いよね」

真「アイドルとして大丈夫なんですか?」

P「いやダメだろ。でも面白ければ生き残れるし、彼にはおそらくピンでも仕事入ってくるんじゃないか?」

黒井社長の売り出し方とはだいぶ違うと思うけど、別にそんなこと気にする人じゃないしな。どっちかって言うと結果を出せばいいって人だし。

あずさ「けっこう絶賛なんですねぇ」

P「まあな。やっぱ961プロはすごいと思うよ」

ツッコミの練習はさせてないと思うけど。社長の見る目があるってことで。

あずさ「961プロって言うと…黒井社長の?」

律子「高木社長と因縁の仲だって聞きましたけど?」

P「ああ、二人は良きライバルってことさ。お互いの方針は違えども実力は認め合っているはずだよ」

あずさ「そうなんですか」

律子「そういう関係ってなんだか憧れちゃいますねー」

律子も少年みたいなこと言うんだな。

でも確かに憧れはあるかなぁ。

高めあえる相手がいるってのは人を豊かにすると思う。

P「冬馬くんはこんな感じだけど、実は歌も踊りもファンサービスもすごいんだ」

律子「へえ…」

まじまじと画面を見る律子。そんな風には見えないと訝しんでる様子だった。

亜美「今んとこ最高だったっしょ!?」

真「思いっきり滑ってるんだけど…」

伊織「そうね。司会に苦笑いされてるわよ。しかも頑張って拾ってもらってるわね」

春香「でも笑いに繋げるあたりがさすがだよねー」

おお、ちゃんと映像を見て分析してるみたいだ。亜美は自画自賛やめような。

真美「なんか恥ずかしいよー」

対して恥じらいを見せる真美。

あずさ「あらあら~真美ちゃんとっても可愛いわよ?」

やよい「そうだよ真美!いっぱいファンが増えるかも!」

雪歩「私だったら応援したくなっちゃうな!」

765プロの良心がフォローを入れる。

しかしそれをお世辞と呼ぶにはあまりに無理がある雰囲気だった。

真美「ありがと…!」

P「よかったな真美」

真美「うん!兄ちゃんのおかげだよっ!」

まさかね…。これは真美の人柄が為せることだ。

それから、わいわいと時間は過ぎて行って…。

P「んじゃあ各自解散ってことで」

『はーい』

P「俺はやることあるから片付けは任せてくれ」

春香「ええ!?そんなの申し訳ないですっ!私たちも片付けていきますから」

P「そうはいってもなぁ。8時回ってるだろ?もう遅いし、ほら、あの眠そうな子たちを送って行ってやってくれ」

春香「でも…」

あずさ「あらあら~、亜美ちゃん?真美ちゃん?寝たらダメよ?」

P「やよいだって、まいってるみたいだし。美希は…相変わらずだなあれは…。何より律子がああなるとは思わなかった」

指さした先にはソファでぐったりとだらしなく目を閉じてる律子がいた。

春香は困った笑いを浮かべて、どうしましょうか、とこちらを向く。

P「残りのみんなで彼女たちのこと頼んだ。それにさっきも言ったが俺はまだやることあるから。あと事務所の片付けくらいやっとく」

千早「春香。ここはプロデューサーを信じて私たちが責任をもって律子たちを家に帰しましょう?」

春香「うーん。じゃあお願いしますね、プロデューサーさん?」

P「ああ、了解」

伊織「あまり無理はしないでよね、お兄様。また倒れたりしたら許さないわ」

P「はい」

わりと低いトーンだったもんでちょっとビビったじゃないか…。

伊織「じゃあ私がやよいを送ってくわ。車も出してもらおうかしら」

もう全員、伊織の家の車でよくない?

そう思ったが、みんなはそれぞれを送ることに乗り気な様子だ。

あずさ「じゃあ律子さん行きましょうね」

律子「…ふぁい。…あじゅしゃしゃん…おへあにないあふ………」

あいつ何て言ってんの?眠気がピークだな。ただのうめき声だったし。

P「あずさ、気を付けてな?」

主に道に迷わないように…。

あずさ「はい。任せてくださいー」

律子はもうふらふらしていて、見てて危なっかしかった。酔っ払いかよ…。

それぞれ帰っていく。

疲れたにしても、約半数が帰り際に寝るなんてちょっと異常だが、そういうこともあるだろう。

特に律子は真剣に映像見てたしな。

そういえば将来的には事務の方に就きたいだなんて言ってたような。

それはさておき、全員のスケジュールをチェックしなければ…。

仕事もだんだんと増えてきて把握するのも忙しい。

毎日、誰かしら仕事に出てる。

双海姉妹が他よりも若干、スケジュールが埋まってるな。

放送から数日、二人へのオファーが何件か来ている。

当然、引き受けることになってるのだが…。

P「…他の子が、このままじゃ…」

偏りが出始めるのは避けたい。

P「考えても仕方ないな」

夜も更けはじめた頃、とにかくコネを頼りに電話をかけまくった。

翌日。

小鳥「あれ、鍵開いてる!?」

小鳥「もしかして…空き巣?」

小鳥「…おはようございまーす」

小鳥「…ってプロデューサーさん!?」

小鳥「なんでそんな恰好でソファで寝てるんですか!?」

P「んおっ!…びっくりしたぁ。………小鳥さんですか。」

小鳥「こんな寒いのに上半身裸ってどういうことですか?」

P「うわぁ、すっげ寒い…」

小鳥「当たり前です!12月ですよ?…それで、なぜそんな恰好で?」

P「着替えようとして、…寝落ち?」

ちょっとだけ、茶目っ気を交えたつもりで、笑って終わると思ったんだけど。

小鳥「…あなたは本当にバカですね」

すごい真顔で言われた…。

P「…はは、本当ですね…」

寒い。俺は冷めた視線を冷え切った肌で感じながらそそくさと着替えた。

幸い風邪はひきませんでした。

数日後。

今日は真についていくことになった。

スポーツ系のカタログのモデルということで、こちらからスポーツ系女子に真を推薦したところ、見事に採用された。

真「今日はかわいいユニフォームが着れるんですかね?」

ちょっと期待のこもった様子。

残念ながらその線は薄そうだ。

P「どうだろうな。そうだといいんだが…」

嘘は言ってない。

真「ま、今回もどうせ着れないんだろうけど」

と言ってさっきまでの期待感はなくなってしまった。

P「…すまんな。こいつは俺の努力不足だ」

真「いいんですよ!プロデューサーのおかげでこうやって仕事ができるんですから!」

P「…」

真「でも、どうせなら可愛い服も着たいなぁ…」

ぼそっとつぶやいた真の言葉には幾分かの悲壮感が漂っていた。

P「本日はよろしくお願いします」

到着してすぐさま挨拶にまわる。

スタッフ「こちらこそ!それにしても菊地さん、とってもいいですね。爽やかな雰囲気が今回のコンセプトにピッタリだと先方も言ってましたよ!」

P「大変恐縮です。誠心誠意、努めさせていただきます」

爽やかね、深読みすればボーイッシュってことでしょ?

それにしても、周りの女性陣だ。真に視線が釘付けというか。

真が男から嫉妬されるんじゃなかろうか。…男のジェラシーは醜いぜ。

しかし彼女はそんなことは望んでいない。むしろ男性からは愛されたいはずだ。
少女漫画のヒロインのように。

真「やっぱり…」

P「どうかしたのか?」

真「いやぁ、いつも通りだなと思いまして…。いや、別に嫌なわけじゃないんですよ?ちっとも期待してませんでしたから」

その発言、ちょっと期待してたってことじゃん。

P「俺は真の仕事ぶりに期待してるよ」

真「任せてください!」

元気よく撮影に入る真。しかしこれは彼女の本当の姿ではない。
俺は知っている。

菊地真は誰よりも女らしくありたいのに、容姿が、環境がそうはさせてくれない。

そのかりそめの姿を俺はただ見守っていた。

撮影は終了し、スタッフにも褒められ、仕事は成功と言えるだろう。
これで次回も採用してもらえそうだな。よかった。

P「おう真、お疲れさん」

真「はい!お疲れ様でした!」

P「これから時間あるか?」

真「…?…まあ、ありますけど…。どうかしたんですか?」

P「実はちょうど俺も暇だ。これから遊びに行かないか?」

真「え!?いいんですか!?」

P「俺は誘ってる側だから、もちろんいいんだけど…」

真「じゃあ行きましょう!」

P「おお、ノリノリじゃないか」

真「だって、男の人に遊びに誘われるってあまりないですから…プロデューサーと言えど嬉しいです!」

P「お前はいっつも一言多いな…」

真「え?…ごめんなさい。なんか気に障るようなこと言いました?」

それ無自覚だったのね…。

P「いや気にすんな。とりあえず移動しようか」

真「なんだか楽しみになってきました!」

俺たちは大きなショッピングモールに行くことにした。

真「うわぁ!この服、可愛くないですか!?」

P「そうだな」

真「…わかってますよ」

P「なにがだ?」

真「可愛い服はボクには似合わないってことですよ」

P「そうか?別に似合わなくもないと思うが…」

真「いいですよ、そんなお世辞はむしろ惨めになりますから」

結構、思いつめてんのな。

P「まあ、そんなフリッフリなのは確かにどうかと思うけど」

真「ほら、そうですよね」

P「そんなのが似合うやつの方が少ないと思うけどな。似合うとしたら、例えば、まだ年端もいかない幼い子とかだろうさ」

真「でも、雪歩とか春香は似合いそうじゃないですか?」

P「む。確かに…」

真「そうでしょ?」

P「でも、千早がそれ着てるの想像できるか?」

真「………できませんね」

P「そうだろ?人それぞれってのはあるもんだよ。真には真らしさがあるのさ」

真「ボクらしさ、か…。じゃあボクは理想の女性にはなれないってことなんでしょうか?それじゃ、あまりにも、今アイドルを頑張ってることがバカバカしく思えてきます」

P「まさか。今やってることは決して間違ったことなんかじゃない。そんなものは真次第だ」

真「ボク次第?プロデューサーの言ってることがよくわからないです」

P「ちょっとこっち来い」

真「え?何ですか急に?」

P「とりあえず更衣室に入って待ってろ」

真「はあ…」

真はわけもわからないといった風で、でも俺の言うことにとりあえず従っていた。

俺は店内をうろつき服を何点か見繕って、真のもとへ戻る。

P「ほら、これ着ろ」

真「…」

P「いいから着てみろって」

真「わかりました。ちょっと待っててください」

そう言って更衣室のカーテンを閉める真。

しばらくしてカーテンが再び開く。

真「…どうですか?」

P「さすがは俺の選んだ服だな。コーディネートばっちりじゃねぇか」

真「へへ、自画自賛ですか?」

P「まあな。よく似合ってるよ」

ややふんわりしたレースの服に、その上から深い青のセーター、さらに少し大人びた黒のコート、下はチェック柄のミニスカートと黒のストッキング、茶色のロングブーツ。

真は鏡に向き直り、嬉しそうにその姿を眺める。

真「…かわいい」

P「お、自画自賛か?」

真「違います!服がです!服が!」

顔を赤くして抗議する真。いや、十分に可愛いと思うけど。

彼女の理想の女性とは程遠いと思うけど俺の理想はこういう可愛さだ。

ちょっと押しつけがましいかな。

P「真次第って言ったのは真がどう思うか、自分の理想と現実を織り交ぜてどこまで妥協できるかだと思う」

真「妥協ですか…」

P「ああ、お前にはお前に合った可愛さがあるってこと。それを自分自身で、なんだ、正しく認識すれば自信が持てるだろ?」

真「プロデューサー…。うん、プロデューサーのおかげでボクちょっと自信ついた気がします」

P「その意気だ。大丈夫、真はちゃんと可愛いよ。いずれわかってくれる人がいるはずだ」

真「うん」

紅潮した真の頬、嬉しさとちょっぴり恥ずかしさが滲んだ顔はそれでも笑顔であふれていた。

真「ありがと、プロデューサー」

数日後。

小鳥「最近、真ちゃんの調子がいいみたいですね」

P「そうですね、いい傾向じゃないでしょうか?」

真「あ、プロデューサー!ねぇ、聞いてくださいよ!最近の美希が本当にすごくて…」

P「そうか、なら真もダンス負けないように頑張れよ」

真「はい!それとこの前プロデューサーから買っていただいた服、みんなの評判も良かった
です!」

P「当然だ。俺が選んだんだからな」

真「その自信、相変わらずですね」

小鳥「服をプレゼントしていたの…?」

しばらくして真が俺から服をプレゼントされたことが広まってた。

後日。

伊織「お兄様」

P「なんだよ伊織」

伊織「真に服買ってあげたんだって?」

P「はあ?何で知ってんだよ?」

伊織「みんな知ってるわよ」

P「あ、そう。まあいいんだけどさ」

伊織「私のは?」

P「ねーよ」

伊織「私もお兄様に服買ってほしい!」

P「えー?」

お前そんなキャラだったっけ?

P「伊織はご家族の方が買ってくれるだろ…」

伊織「じゃあお兄様が買ってよ」

P「俺とお前は家族じゃ…」

伊織「家族よ!」

その先は絶対に言わせまいと鋭い眼差しで伊織は言った。

伊織「血のつながった、家族よ…」

あちゃー、これは俺のデリカシーが皆無でしたね。

P「冗談だ。悪かったって」

伊織「その冗談嫌いよぉ…」

伊織は声を震わせていた。目尻に涙が溜まってた。

P「ごめんごめん!」

俺は伊織を抱き寄せ、頭を撫でる。しばらくすると落ち着いたようだ。

伊織「…ぐすっ…お兄様の膝貸しなさい」

P「え?」

俺が疑問に思うも束の間、伊織は俺の膝の上にちょこんと座った。

膝というか太もも?

P「伊織、仕事できない」

伊織「お兄様の仕事は私を可愛がることよ!」

面倒なことになったなーと思いつつ頭を撫でたり、ぎゅっと抱きしめてみたり…。

時折、伊織の顔を覗き込んでみると満面の笑み。

伊織はそれに気づくと俺を睨んで恥ずかしそうに顔を赤らめる。

それでもニヤケ顔が抜けてないぞ。

俺もなんだかんだで伊織を可愛がるのが好きみたいだ。

いちゃいちゃいちゃいちゃ…。

小鳥「ぴよぉ…これはいけないわ!でもなんだか漲って…!」

この二日後、また噂が広まり大騒動になるのだった。

本日はおちまいです。

以下反省等。
服に関しては浅はかな知識しか持っておらずとかなりあやふやです。
おかしいだろうと思ったら指摘してください。
また服に関する質問も答えられないと思います。すいません。

以上を踏まえたうえでご意見ご質問批判ダメ出し仰って下さると助かります。

次回は1週間後に投下予定。

小鳥さん口が軽過ぎない?

>>189
小鳥さんはあれこれ妄想してるうちに、どうやらうっかり口を滑らせてしまったそうです。

皆さんレスありがとうございます。

こんばんは
1週間後と1日後って紙一重ですよね。

というわけで投下します。

とある休日の昼下がり。

P「今日は羽を伸ばすぞー!」

俺が来ていたのは近くのショッピングモール。

目的はCD。今週発売した765プロの各アイドルのデビューシングルが同時発売された。

これは買わざるを得ないなと思ったわけである。

実はただでもらえるけど…、ほら俺もファンだし、第一号だし、もはや義務だし?

先月はマジでかつかつだったが今月は豪勢に使えるほど給料をもらった。

さらにCDがもっと売れれば…。おっと、笑いと涎が止まらん。

なんてのは冗談だ。

金なんて俺みたいなそんなに使わないやつが持ってたって仕方ないもんな。

お金は使えるからこそ価値があるものだし。

お金のありがたみが社会人になってからわかるようになったしな。

いつまでも親からもらってるやつは成長しないんだなぁ、と思ったり…。

そう考えると、今まで親のすねかじって何の生産性もなく過ごしてた俺を踏み潰してやりたいね。

というか、親の恩を仇で返してたしな。

このことを思うといつも後悔する。俺なんて生まれなきゃ…なんてよく考えたものだ。

あんな良家に出来損ないなんて、親の顔に泥を塗って、自分すら肩身狭い思いをしてた。

兄貴は何でもできて優秀だったし、伊織も周囲の期待に応えられる器量の持ち主だ。

P「なんで今こんなこと思い出すんだろうな」

お金繋がりだな。考えるのはよそう。金なんてある程度蓄えて、あとは使っちまえばいい。

P「それでいい。…ん?」

思考を振り切るためにCDに視線を集中させると、そこで目に留まったのは同じく発売のCD。しかし、765プロではなく961プロの…。

P「へぇ、ジュピターか…。黒井さん、発売日を合わせてきたな?」

勝てばいいと言いつつ正々堂々、勝負してくるあたり黒井さんらしい。

P「…いいよな?」

他事務所のアイドルのCDを買うのはちょっと躊躇するが、これも買わざるを得ない。

特に理由はないが…なんとなくだ。

P「ジャケットもかっこいい…」

手を伸ばすと、もう一つの手とぶつかる。

P「あ、ごめんなさい」

「…こちらこそ、すみません」

パッと手を引きお互いに謝る。何この少女漫画みたいな出会いは…。

少女漫画読んだことないけど。勝手なイメージで。

P「あれ?あなたはジュピターの?」

女P「あら?そちらは765プロの…」

認識して会釈をする。

私服だったのでわかりづらかった。

もちろん俺も私服で、相手も一瞬、誰?ってなってた。

P「奇遇ですね、あなたはジュピターのCDを買いに?」

そう質問すると女Pさんはみるみる顔を赤くして、明らかに動揺した様子だった。

女P「あの、いえ、その、じゃなくて…えっと…」

P「どうかしました?」

ひととおりあたふたした後、彼女はうつむきがちに頷いた。

女P「………はい、実はそうなんです。あはは、変ですよね…自分のプロデュースしたアイドルのCDを買うなんて…」

まあ、タダでもらえるのにちょっとおかしいよな。

P「やっぱそう思いますよね」

女Pさんはさらにしゅんとしてしまった。失言でした。

P「…実は俺もね、うちのアイドルのCD買いに来たんですよ」

女P「…え?」

P「これ」

俺はカゴを前に出して見せた。10枚のCDはすべてうちのアイドルのものだ。

女P「あなたもだったんですね…ちょっと安心しました」

P「当たり前です。俺は彼女たちの一番最初のファンなんですから!」

女P「ふふっ…!仰る通りですね。そう考えたら私も気兼ねなく購入できます」

P「そうですよ。開き直ってしまいましょう」

怪しい宗教の勧誘みたいになってた。

女P「しかも、Pさんジュピターのも買ってくださってありがとうございます!」

P「いえ、興味あったのは確かですし、先日も共演していただいたので…」

女P「じゃあ私も亜美ちゃんと真美ちゃんのと美希ちゃんのと千早ちゃんのとあずさちゃんのやつ気になってたんで…」

P「そんな、別に気を遣わなくても…」

女P「いえ!気になってたのは本当です!買わせてください!」

おお、なんか勢いがすごいな。

P「も、もちろんです。…ありがとうございます」

少しの間沈黙してしまう。

女P「…あ」

沈黙を破ったのは彼女の声。

P「どうかしました?」

女P「これ、新幹少女のニューシングルですよ!」

P「新幹少女って今話題のアイドルグループですよね?」

女P「そうです!へぇ、ここはアイドルコーナーになってたんですね」

P「本当だ。うちの子のCDを見つけるのに集中して気づきませんでした」

女P「こっちは魔王エンジェルに、サイネリアも!」

P「いろいろあるんですね…」

女P「こんなグループたちとジュピターのCDが同じコーナーにあるなんて…!感激です!」

おお、今の女Pさん輝いてる。

それにしても、他の店でもこのグループは見たよな。

P「…うちのはこんなにわかりづらいところなのになぁ」

女P「いいえ、まだまだこれからですよ!」

P「ジュピターのはもう目立ってるじゃないですか」

そう、ジュピターのCDはジャケットが見えるようにして置かれている。

女P「えへへ、ということは私たちが一歩リードですね!」

悔しー。でもなんか、女Pさんのすごい嬉しそうな顔見たらこっちまで嬉しくなってきた。

P「そうですね。でもすぐに追いついてみせますよ」

女P「…そうは言っても、私たちもまだまだです。さっき行ったお店には置いてませんでしたから…」

P「…え?意外ですね、私たちのが置いてないのはわかるんですが…」

女P「このお店でたまたまプッシュしてくださってるだけですよ」

P「店によるものなんですね」

女P「そうです。さらに言うとお店の店長さんによります」

じゃあここの店長は女性だな。

話もそこそこに俺たちはCDを購入した。

女P「…あの、この後お暇ですか?」

P「ええ、今日は休みでこれを買いに来ただけですから…」

女P「でしたら、どこかでお話しませんか?Pさんの話、いろいろお聞かせください!」

P「へ?」

それって俺に気があるってこと?…ははは、まいったなぁ。

女P「Pさんのプロデュース、とても興味があります!」

ああ、そっちね…。うん、知ってたよ。

P「…私も黒井社長のこととかお聞きしたいところですから、そこのカフェでお話ししましょうか」

女P「はい、ぜひ!」

俺たちはおしゃれな雰囲気の漂うカフェに入った。

それぞれコーヒーを注文して席に着く。

女P「Pさんはどうやってアイドルの指導を?」

P「指導ですか?…私のは参考にならないと思いますけど…」

女P「そんなことはありません!765プロのアイドルの実力は本物ですよ。なんでまだくすぶってるのかわからないくらいです」

くすぶってるのはコネがないから。コネがないのは765プロの知名度が低いから。知名度が低いのは俺が無能だから。だと思う。

P「それはどうも。…指導はできる限り私が見てアドバイスするようにしています。トレーナーは雇えないのであとはセルフですね」

女P「え?トレーナーさんじゃなくてPさん本人が?」

P「ええ、まあ…」

女P「すごい!歌も踊りもですか!?」

P「はい。でもできる範囲でですよ?」

女P「それじゃあ、もともと歌や踊りの経験でも?」

P「いや、もともとではないです。この仕事をやるって決まってから必要だと思ったので…」

女P「たった数ヶ月で…」

P「ああ、違いますよ。765プロの設立は二年以上前に決まっていたので、その当時から始めました」

女P「ほえぇ…765プロの最初のメンバーなんですか。なんか羨ましいです…」

P「はは、羨ましいって…」

女P「憧れるんですよね。設立に携わって、どんな思い入れがあって、どんな風に仕事に取り組めるのか…」

P「…」

女P「考えるとちょっとワクワクします!」

P「……くくっ!…あははっ!」

女P「ええ!?急にどうしたんですか!?」

P「…いえ、失礼しました。可愛いこと言うなぁって思いまして…」

女P「なっ!…バカにしないでくださいっ!」

P「ああ、いや、本当にごめんなさい…」

女P「ま、まだニヤニヤしてます!ニヤニヤ禁止ですっ!!」

顔を真っ赤にしてプンプンと怒る女Pさんだった。

まあ初期メンバーって考えると、確かに魅かれるものがあるかもな。

P「バカにしてるわけじゃないんですよ…」

女P「本当ですか…?」

まだ疑いの目を向ける彼女を見据える。

P「今のこの時世、そんな素直でまっすぐな人はなかなか見ないんですけど…うちのアイドル達は全員素直なんですよ」

女P「…」

P「それと重なって、女Pさんが子供みたいに見えてしまったものですから…つい…」

女P「やっぱりバカにしてますよっ!」

P「そうかもしれませんね…」

うわーん、と喚く女Pさんはやっぱり子供っぽいのかも。

しばらくすると落ち着いて…。

女P「…Pさん」

P「はい?」

凛とした声で呼ばれたものなので、こちらの表情は強張ってしまったと思う。

女P「初めて、ちゃんと笑ったの見た気がします…」

P「…え?」

以前にも聞いたようなセリフ。

P「…双子と共演した時も笑ってたと思いますよ?」

女P「うーん。あれは営業スマイルのような…」

そうかなー…?

女P「でも…」

P「…?」

女P「さっきの笑顔、とても素敵でした」

P「…あ」

言葉が詰まる。

俺なんかじゃない。今の彼女の笑顔の方が比べものにならないほど素敵だ。

顔が熱くなっていく。こめかみが脈を打つのが明確にわかる。

P「…いいですよ。そんなお世辞は…」

女P「お世辞じゃないですよ…。あれ…?」

顔を合わせられない。冷めたコーヒーを一気に飲み干そうとする。

女P「もしかして…」

チラッと視線を戻すと上目遣いの女Pさん。

覗き込んでくるもんだから驚いてしまった。

P「げほっ!げほっ!ごほっ!」

むせてしまった。

女P「きゃっ!」

P「げほっ…し、失礼…しました…」

女P「あ、いえ、大丈夫ですか?」

P「だ、大丈夫です…」

女P「やっぱり、照れちゃってます?」

いたずらっぽい顔が思いのほか可愛い。

P「そんなことないですよ」

女P「えへへ…」

満足そうですね。

女P「なんだかPさんって隙がないのでこういう一面もあるんだなって…」

P「そりゃ、俺も人間ですから…」

女P「俺…」

やべぇ、やっちまった。俺の外面が剥がれかかってるんですが…。

P「ああ、いえ、失礼。…私も人間ですから」

女P「ふふっ…。別に『俺』でも構いませんよ?」

P「遠慮しときます」

女P「そうですか、残念…」

そう言ってまた嬉しそうに笑う。この一連のやり取りも楽しんでるようだった。

P「それはそうと、私もあなたのプロデュースとか黒井社長とのご関係とかいろいろ気になります」

女P「私なんて大したことないですよ。961プロのコネを使って仕事を取って来たり、レッスンもトレーナーさんに任せっきりですし…」

P「…」

女P「ただ、黒井社長にはお世話になってます。上京した時にたまたま、お会いしたんです。まだ右も左もわからなかった私にいろいろと教えてくださって感謝してます。口はあまり良くないですけど就職に困ったら来いとも言ってくださったんです」

P「へぇ、黒井社長に気に入られるなんてなかなかありませんよ。そのコネで、961プロに?」

女P「いえ、ちゃんと試験を受けて面接もやって採用していただきました」

P「…就職するの、かなり難しいって聞きましたけど…」

女P「…コネで入って無知のままで会社の足を引っ張るのは嫌だったんです」

P「すごい信念ですね」

女P「いえ、私なんて大したことありませんよ」

違う。この人は努力できる人間なんだ。

努力できる人ってのは、みんな等しく天才だ。

そもそも自分で頑張ったなんて言わない。

その人にとってそれが当たり前だから。

だから慢心もしない。

この人と比べれば俺の方がまだまだ未熟だ。

その後もいろいろ話し込み、気づけば三時間経っていた。

女P「わ、もうこんな時間…」

P「じゃあそろそろ出ますか?」

女P「そうですね。今日はお話聞けて良かったです」

P「こちらこそ。今後もよろしくお願いします」

女P「また連絡しますね?」

P「ぜひ。こっちからも連絡するかもしれません」

女P「はい、お誘いください」

そして解散の流れになった。

有意義な話が聞けたと思う。

P「あの努力の姿勢は見習いたいなぁ…」

つい独り言を漏らしてしまう、今日この頃であった。

本日はおちまい!

以下反省等。
ちょっと短かったかも。以上。

ご意見ご質問批判ダメ出しその他もろもろ何かあれば仰ってください。

次回の更新は遅くて2週間くらいになります。

つまり二日後かな?

皆さんレスありがとうございます!
21:00頃投下予定!

>>210
何故わかった…

休みの日から数日後。

先日は楽しかったと思いながら出勤。

P「みんなのCDも良かったし、これからが楽しみだなー!」

事務所の前で独り言を言ってからドアを開ける。

P「おはようございます」

小鳥「おはようございます」

P「早いですね」

小鳥「いつも通りですよ?」

そういえばそうだったな。

P「みんなのスケジュールはどうですか?」

小鳥「それでしたらホワイトボードに書いてあります。…やよいちゃんがテレビ出演ですね」

P「むっ!」

これは大事な仕事だ。

P「…実はこれ、やよいには内緒なんですけど、レギュラー化が期待できそうです」

小鳥「…なんとっ!?一世一代の大勝負ですか!?」

P「そんなおおげさじゃないですけど…この番組の平均視聴率よりもいい数字取れたらレギュラーのコーナーにしてもらえるそうです」

小鳥「これで定期的にうちのアイドルがテレビで拝めるわけですね…」

P「やよいなら行けます!」

小鳥「おお!すごい自信ですね」

俺が期待してるのには一応理由もある。

昼過ぎの情報番組のコーナーであるが、やよいが一日お手伝いさんとして一般家庭に訪問し、家事をするやよいを見るだけという内容。

一見しょぼそうに思えるが、まだ年端もいかない美少女が家事をこなす、ということに誰が心を打たれないだろうか。いや、打たれる。

昼間にテレビを見るだろうお婆様、お爺様からの支持はうなぎ登り(予定)!

これはいける。あとは運がいいかどうか。

律子「おはようございます」

P「あれ、律子早いな。どうした?」

律子「今日は、その早く来て小鳥さんのお手伝いでもと思いまして…」

小鳥「あら、助かるわ!」

P「ふーん。なんか最近、律子の仕事入ってないな」

律子「…」

小鳥「そういえば…」

P「すまないな。急にキャンセルされることが多いなとは思ったんだが、気が付けば仕事無しとは…俺のせいだ」

律子「………あ」

小鳥「律子さん?」

律子「ああ、いえ、仕事がないのは私に魅力が足りないからですよ!他のみんなが上手くいき始めてるから私も慢心してしまったみたいですね!」

律子が慢心?あり得るわけがない。

P「…」

なんか隠してる。今の態度で分かってしまった。彼女は嘘が下手だから。

P「いや、お前は頑張ってる。足りないのはお前の魅力を引き出せない俺の力だ」

律子「本当にそんなことありませんって!…それに、いいんですよ。私プロデューサーになりたいって思ってましたから」

P「そうだったの?」

俺は初めて聞いたけど。

小鳥さんとのアイコンタクトを試みる。

小鳥「ええ!?嘘っ!?…知らなかったわ」

こっち見てないな。でもあの様子じゃ知らなかったみたいだ。

P「なるほど。ドタキャンの理由が想像できた」

正確には仕事がキャンセルされてるわけではない。

律子へのオファーだったはずが他の子にチェンジ、ということになるのだ。

律子「…」

P「はぁ…。律子、お前なぁ、勝手に仕事断って他のアイドルに振ってただろ」

律子「…そ、それは」

歯切れが悪い。何をやってるんだかこいつは…。

小鳥さんも驚きを隠せない。

律子さん、何で…とか呟きながらそのまま妄想の世界に入って行ったようだ。

なにがトリガーだったのか…。頭の中でサスペンスの音楽でも流れてそうな顔をしてる。

それはそうとこいつときたら…。

P「お前なぁ。自分のやってることわかってんのか?」

律子「…」

律子は答えない。いや、答えられない。

P「てめえがやったことは先方の不信感を煽ることだろ?それに仕事を取ってきた俺への嫌がらせか?」

律子「そ、そんな…。私はただ…」

P「ただ…なんだ?…お前はなぁ、事務所の名前に泥を塗ってんだよ。これで765プロさんは信用できませんなんて言われてみろ。お前だけじゃなくて他の子はどうなる?」

律子「!…でも、私は…」

P「言い訳は聞きたくない。後先考えない勝手な行動…反省しろ」

律子「私は!…他の子の仕事が増えるならと、思って…」

P「それが後先考えてないって言ってんだろ!…お前がやってるのは欲求を満たすためだけのプロデュースごっこだ…」

律子「…あ」

律子はうつむき、肩を震わせる。

俺としても心苦しくないと言えば嘘だが、それよりも怒りが先行した。

裏切られたような虚無感が抜けない。

律子「…ごめんなさい」

微かに聞こえる彼女の声。

冷静になった俺は言いすぎたと思い、後悔の念に襲われる。

別に問題になるようなことは起きてないから別にいいじゃないか…。

いや、そういうわけにも…。

P「ああ、もう!」

大声を出して、律子はびくっと跳ねる。

P「わかった。説教は終わり!…お前プロデューサーになりたいんだろ?」

律子は小さくうなずく。

P「じゃあ今日ついてこい。やよいの現場だ」

律子「…で、でも、私、とんでも、ないことを…」

P「それに関しちゃもういい。お前なりの気遣いだったんだろう。俺も強く言い過ぎた。実際なんも起きてないし、律子がまだ若すぎたんだ。今のうちに失敗しておけ」

律子「…プロデューサー…うっ、私、うぅ…ごめんなさい…」

律子はとうとう声をあげて泣き出した。

P「いや、こっちこそ気づいてあげられなくてすまなかった」

律子「!!」

俺は律子を抱き寄せ、安心してもらえるよう努めた。

女性の涙で感情がひっくり返ってしまう自分なんか嫌いだ。

でも、他にどうしろってんだ。

小鳥さんも我に返って見守っていたが、やがて口を開く。

小鳥「そんなことが…。律子さん。私からは特に言うこともありません。プロデューサーさんが全部言ってくれましたから」

律子「小鳥さん…」

小鳥「私も気づいてあげられなくてごめんなさい…」

律子「そ、そんな…謝られるのが、一番……辛いです…。プロデューサーも、謝らないでください…」

P「ああ、俺ももう謝るつもりはねぇ。今回で終わりだ」

律子「…」

律子はこっちをまじまじと見つめる。どこか悲しそうな表情がうかがえた。

そして彼女はうつむく。次に上げたその顔は何かを決意したようなものだった。

P「そろそろやよいが来る。化粧直してこい」

律子「はい…!」

律子はメガネを外し、目じりに浮かんだ涙を拭って洗面台に向かった。

小鳥「プロデューサーさん、それでいいんですか?」

P「そうですね。律子は本当のアイドルの魅力に憑りつかれてしまったみたいです」

小鳥「はあ…。律子さん、十分やっていけると思うんですけどね…」

P「いや、彼女は目立つこと、人前に立つってことをあまり好まないようでしたから、俺が早めにそういう決断をするべきだったんですよ」

小鳥「あまり自分を責めないで…」

P「いや、責めずにはいられません。俺はプロデューサー失格です。俺も彼女のアイドルとしての魅力に憑りつかれて、ちゃんとした判断ができなかった」

なんだこれは…懺悔してるつもりなのか?……俺は愚かだ。

不意に目頭が熱くなった。

本当に愚かな自分。

これじゃあ変わらないんだ。

無理強いさせて何になる。

親父と変わらねぇ。

いや、もう親じゃなかった。

違うな。親だからかもな。

親だから、根本では変わらないのかもしれない。

嫌気がさした。一瞬で気持ち悪い感情が俺を埋め尽くす。

俺はあいつとは違う。

いや、同じだろ。

矛盾する思考がぐるぐると頭の中をかき乱す。

P「…ちょっと、仕事に備えて仮眠を取ります」

それ以上何か言おうものなら、泣いてしまいそうだった。

小鳥さんはこちらを振り向くと、目を見開いたように見えたが、俺はすぐに空いている椅子へ腰かけ、そのまま目を閉じた。

やよい「プロデューサー?」

しばらくして、声をかけられた。

今日の主役であるやよいは心配そうにこちらを見ている。

P「やあ、やよい。おはよう」

やよい「あっ、おはようございます」

思い出したかのように言うやよい。

おいおい、向こうでそんなんじゃ困るぞ。

やよい「あの、起こしちゃってごめんなさい…」

P「気にすんな、仕事に遅れたら元も子も無いだろ?むしろ起こしてもらって悪いな…」

やよい「…」

どうやら心配そうな表情のままだ。

P「困ったな。これから仕事なのにそんな顔じゃあ良いお仕事できないぞ?」

努めて明るい調子で言った。

やよい「あの…」

P「どうした?」

やよい「なんでプロデューサー、泣いてるんですか…?」

P「は?」

やよいは俺の声を聞いて少し、びくっとした。

やってしまった。

今のは自分でも、どすのきいた声だと思ったからだ。

そんなつもりは全くなかったのに。

そのせいでやよいはオロオロしている。

P「あ、いや、ごめん。怖い夢でも見ちまったのかもな。本当にごめんな、怖い声だったよな」

必死に弁解して謝ってたら、やよいは安心していったようだ。

でも、なんで涙が…?

やよい「よかったです…。プロデューサー、わたしのこと、ぐすっ…、嫌いに、ぐすっ…、なっちゃたかと…思ってぇ…」

今度はやよいが泣いちゃった。自分が思ったより迫力があったみたいだ。

P「全然そんなことないよ。やよいのこと嫌いになったりするもんかよ。むしろ俺、やよいのこと大好きだからさ。あんな声、出すつもりなかったんだよ。本当にごめんな」

やよいはしばらく、ぐすぐすと泣いていた。

ああ、俺かっこ悪ぃよ。

最悪だよ。やつあたりかよ。最低だよ。もう今日の午前だけで女の子二人も泣かして何やってんだよ。

とにかく、頭を撫でて落ち着かせる。

P「…もう大丈夫か?すまなかったな…」

やよい「はい。…私もしゅん、ってなっちゃってごめんなさい。プロデューサー、全然そんなつもりなかったのに…」

P「いいんだ。悪いのは全部俺だから」

やよい「プロデューサーは悪くないです」

やよいは本当に優しい子だ。

P「…やよい、今日のお仕事、頑張ろうな」

やよい「はい!」

よかった。調子を取り戻しつつある。

やよい「プロデューサー」

P「ん?なんだ?」

やよい「何か嫌なことでもあったんですか?」

P「…なんにもないよ。どうして?」

やよい「さっき…」

P「…よくわからないんだ。なんで泣いてたのか自分でもよくわからない」

やよい「プロデューサーが悲しかったら、私も悲しいです」

P「心配してくれてありがとう。俺は君たちがいるから悲しくないよ」

やよい「…」

P「とにかく、やよいがお仕事頑張ってくれたら、悲しいのを忘れるくらいに嬉しいからさ…」

やよい「じゃあ、私すっごく頑張ります!」

P「うん。その意気だ。あと笑ってくれた方が俺も元気になる!」

やよい「本当ですか?」

P「本当だ!あと、テレビを見てるみんなも元気になる!」

やよい「はわっ!」

そんなにですか!?とでも言いたげな驚き方だった。

P「だから…やよいが悲しむならもう泣くのは止めにするよ。俺はもう泣いたりなんてしないから安心して」

やよい「…はい。私も…泣かないようにします」

P「まあ、どうしても我慢できなくなったらいいけどさ」

やよい「私、もう泣きません。私、お姉ちゃんだから!」

やよいは長女だ。

それも6人兄弟の一番上。

弟たちの面倒を見て、家事をこなして…。

だから彼女は自覚し始めている。姉として強くあらねばならないと。

俺のやよいに対する印象はよく泣く子。

ちょっと感情が揺さぶられるとすぐ泣いてしまう子だと思ってた。

情緒豊かなのだろうと思って気にしてなかったけど、彼女自身は気にしていたのかも。

涙を見せてしまうような弱い自分をどこかでよしとしなかったに違いない。

今、俺はきっかけを与えたのだろうか?

彼女が変われるきっかけを…。

だとしたら、それは嬉しいことだな。

やよい「プロデューサー?」

P「いや、なんでもない。今日は頑張ろうな」

やよいは元気に返事をした。

さて、俺は律子とやよいを連れて局へと訪れたわけである。

P「律子」

律子「はい…」

まだ落ち込み気味の律子。

P「俺、今日何もしないから一人でできるとこまでやってみて」

律子「ええっ!?」

落ち込んでいたとしても、やはりこれには驚いたようだ。

律子「あの、いきなりなんて…」

P「安心しろ。俺もゼロからスタートだから」

しばらくオロオロと慌てていたが、不安そうにしながらも律子は承諾した。

P「挨拶くらいは一緒に回ろうか」

やよい、律子とともにスタッフたちに挨拶をする。

一通り終わるとやよいと今日のことの確認をして準備に臨む。

P「律子、やよい、質問とかはいいか?」

律子「ええ、不安ですが…今のところは大丈夫だと思います」

不安な返事。後ろ向きだなぁ。

P「自信もっていいぞ。今回、やよいの番組のレギュラー化が俺たちの目的で、そうなれば成功だと考えろ」

律子「…はい」

P「やよいは?」

やよい「大丈夫です!今日も笑顔で頑張りまーす!!」

P「うん。いい笑顔。期待してるよ」

かくして本番に向かう。

スタッフ「秋月さん。やよいちゃんの準備できましたか?」

律子「はい、やよいは準備オーケーです」

スタッフ「では10分後に本番入りますので、スタンバイお願いします」

律子「わかりました」

すでに今回、訪問するお宅へと到着してる。

スタッフたちはゆとりをもって準備を進めていた。

いいスタッフさんたちだ。

P「律子」

律子「はい。なんですか?」

P「やよいのフォローは任せた」

律子「ええ、任せてください!」

さっきとは裏腹に頼もしい返事だった。

今日はここまでにしとこうかな!
おちまいです!

以下反省等
りっちゃんしっかりしてー!
あとみんな泣きすぎ
以上

以下お詫びと訂正
1週間後と1日後は紙一重と申しましたが、1日と7日に大きな差があるのは明確な事実です
不適切過ぎる発言をここでお詫びいたします

ご意見ご質問批判ダメ出し等ありましたらズバズバ仰ってください!
ではまた明日。

アイドルに暴言吐いたり泣かせたり終いには泣き出したり未熟すぎて草
どこかでこういう部分フォローできる展開ないとPにヘイト集まるよ

>>236
ご意見ありがとうございます
ではしばらく反省しつつ今後の展開について考えてみます!

まあやりすぎた感はあったけどせっかく書き溜めたからいいやーって思って投下しました(言い訳)

とにかく不快に感じられたのなら自分が未熟でした。申し訳ない

さて今から投下っ!

皆さん、ご感想ありがとうございます!
だらだらと続けてるのに、ここまで見てくださってるだけでも感謝です!

合図があり、やよいとスタッフ少数がお宅へお邪魔する。

やよい「うっうー!高槻やよいの家庭訪問!第一回でーす!」

元気よくタイトルコールをするやよい。

実にシンプルなタイトルだ。

やよい「今日お邪魔するおうちはこちらですっ!」

こうして始まりは特に何事もなく過ぎていく。

「あまり使ってない部屋のお片づけをお願いしてもいいかしら?」

やよい「はい!任せてくださいっ!ピッカピカにしちゃいます!」

こうして依頼を受けるのだが…。

しばらくして…。

やよい「うぅ…」

どうやら必要なものか不要なものか決めあぐねているようだった。

明らかにいらなそうなものだが、やよいにはその判断がつかないみたいだ。

律子「やよいちゃん。奥様に聞いてみたら?」

お、律子ナイスフォロー。

ちゃんと編集で使えるように、馴れ馴れしくないのも細かい気配りみたいだ。

やよいはハッとした様子で依頼者の奥さんに聞きに行く。

どうするか答えてもらい、やよいはほっとしたようだ。

その一連の流れが可愛い。

とても応援してあげたくなる。

その後も荷物の整理、部屋の掃除、簡単な模様替えのお手伝いをした。

律子も上手くフォローをして、無事収録終了となった。

「助かったわぁ。ありがとう。やよいちゃんとっても可愛いし、私もこんな娘が欲しかったわ」

と依頼主の評価も高い。

やよい「ありがとうございます!私も楽しかったです!」

「やよいちゃん。これお礼よ」

と渡したのはお菓子の詰め合わせ。

やよい「はわっ!?ダメです!お仕事で来たのに受け取れません…」

それでも欲しいのか自分の中で葛藤をしてるであろうやよい。

その手を伸ばそうとしては引っ込め、伸ばそうとしては引っ込め…。

「いいのよ。これはお仕事で来たやよいちゃんにじゃなくて、お手伝いしてくれたやよいちゃんへの感謝の気持ちよ?」

やよい「でも…」

やよいがこちらを見る。

ああ、許可がなければダメだと思ってるのか。

それとも俺から断ってほしいのか。

どちらにせよ俺から言えるのはやよいの背中を押してあげることだ。

P「やよい。これはね、感謝の気持ちなんだ。やよいは自分の感謝の気持ちをいりませんって言われたらどう思う?」

やよいは、むぅっと考えて…。

やよい「そうなったら…うーってなって、しゅんってなっちゃいます」

つまりどういうことだ?

わかんないけど、負の感情であることは確からしい。

P「じゃあこちらのお母様の感謝の気持ちはどうしたらいいかわかるよな?」

やよい「プロデューサー…」

やよいは依頼主に振り返る。

やよい「ありがとうございます!弟たちもきっと喜ぶと思います!」

「ありがとう。家族思いでいい子なのね」

やよい「えへへ…」

スタッフ「お疲れ様です。とてもいい映像が取れました!」

P「それはよかったです」

スタッフ「俺もやよいちゃんのファンになっちゃいました。あはは…!」

最初はここにいるほとんどの人がアイドル高槻やよいを知らなかったのだが、今ではスタッフさんたちも認める立派なアイドルだ。

スタッフ「視聴率関係なしに次もよろしくお願いします」

ということはレギュラー決定。

P「こちらこそ高槻がお世話になります!」

隣にいた律子も慌てて頭を下げる。

律子「お願いします!」

スタッフ「そっちの新人さんもナイスフォローだったよ」

律子「あ、ありがとうございます!」

スタッフさんたちは機材を回収してその場は解散。

俺たちは事務所に戻ることにした。

すでに夕方。

俺の運転する車の助手席では律子が後部座席ではやよいが気持ちよさそうに眠っていた。

俺はやよいのレギュラーが決まってウキウキ気分だった。

事務所に着くと同時に律子が起きる。

たまにいるよね。目的地に着くとなぜか起きる人。

P「おはよう律子。お疲れ様」

律子「あ、おはようござい、あふぅ…」

美希かよ…。寝起きとか眠い時とかにはめっぽう弱いみたいだ。

律子「…プロデューサー、今までごめんなさい」

すぐにまたそんなことを言う。

P「ああ、俺はもう怒ってないって…。でもああいうのは俺と小鳥さんを通してからにしてくれ。これでもみんなのことを考えてスケジュールを組んでるんだ」

律子「…はい。ごめんなさい」

P「ああもう、謝んじゃねえ!いつまでもうじうじしてんな!」

律子はそれでも居心地悪そうな顔してる。

P「言っとくけどお前はもうアイドルクビだから」

律子「え?…そんな、待ってください!」

いきなりリストラされてさすがに慌てる律子。

P「勝手なことしといてお前に拒否権があると思うなよ。今日でアイドル業はおしまいだ」

律子「…あはは、そ、そうですよね。でも、最後に、プロデューサーのお仕事させてもらっただけでも…」

そこで彼女の言葉が詰まる。眼鏡の奥、瞳の端に光る滴が見える。

P「ああ、明日からプロデューサー業、頼んだぞ」

律子「…ふぇ?」

驚いたのか律子は顔を上げる。

P「だから俺たちはお前の意見を尊重する。明日から頑張ってくれ」

律子「…ぷ、ぷろでゅーさぁー…!」

ばっと俺にしがみつき声をあげて泣く律子。

律子「こ、こんにゃ、私が、いいんでしょうかっ!」

俺の体に顔を埋めたまま律子が叫ぶ。

やよい寝てるんだから静かにしてくれ。

P「ああ、たまたまミスもなかったし、運が良かったな」

律子「うぅ、ありがとう…ございましゅ!プロデューサー!」

噛み噛みだし俺にしがみついててかっこ悪いけど、こんな素直な彼女も悪くないなって思った。

やよい「良かったですね律子さん」

P「やよい…起きてたのか」

やよい「はい。二人とも言い合ってたので…」

やっぱり起こしちゃったか。

やよい「でも今日はいっぱい律子さんに助けてもらいましたし、アイドルもいいけどプロデューサーもいいかもしれません!」

律子「やよいぃ…ぐすっ…ありがとう…」

ぐすぐす泣きながら律子はやよいと目を合わせる。

P「さ、落ち着いたら事務所に戻ろう」

律子が落ち着いたところで事務所に戻る。

小鳥「お帰りなさい。お疲れ様です」

P「ええ、ただいま戻りました」

やよい「ただいまー!」

律子「小鳥さんお疲れ様です」

小鳥「どうでした?」

P「はい。おそらくレギュラーで決定です」

小鳥「わあ!やりましたね!今度パーティーしなくちゃ!」

やよい「パーティーですかっ!?」

やよいと小鳥さんはキャッキャッとはしゃいでいる。微笑ましい。

そして小鳥さんはふと思い出したように…。

小鳥「あ、律子さん。明日からよろしくお願いします」

律子「あ、はい。こちらこそ…。ご迷惑おかけするかもしれませんが…」

P「当たり前だ。もっと迷惑かけろ。たくさん失敗しろ。そうじゃなきゃ俺がつまらん」

律子「えー…」

呆れていた。けどそういう態度の方がいい。

P「これまでの失敗は活かせ。でもあまり気にすることもしなくていい」

律子「…本当、プロデューサーには助けてもらってばっかりです。前はだらしないって思ったりもしましたけど、今は素直に尊敬します」

そうは言ったが恥ずかしかったのか、もじもじと落ち着かない。

P「そっか、ありがとな。やよいもよく頑張った」

やよい「私、実はちょっと泣きそうになっちゃったりしました。でもプロデューサーと泣かないって約束したから最後まで頑張れました!」

ぱぁっと笑顔になるやよい。

やっぱりやよいは笑ってる顔が一番だ。

翌日。

P「やよいがお昼の番組のレギュラーに抜擢された。これを機に他のみんなにも仕事が増えるように頑張るよ」

みんなが揃った事務所で昨日の活躍を報告。

P「それと本日付で秋月律子がアイドルを辞職」

その場が固まる。アイドル達がざわめき始める。

真「確かに律子いないね…」

春香「律子さん、どうしちゃったんだろう…」

美希「いつも怒られるけど、なんだか寂しい気もするの…」

不安がる声がちらほらと聞こえる。

P「それと同時に新しくプロデューサーを雇うことにした」

雪歩「えっ、このタイミングでですか…?」

伊織「なんか複雑ね…」

律子の代わりで、というのが気に入らない子たちもいるようだ。

P「入ってきてどうぞ」

俺がそう声をかけると奥の扉から新人プロデューサーがやってきた。

『は?』

全員、目が点。

事情を知ってるのは俺と小鳥さんとやよいのみ。

それとこの場にはいないけど社長も…。

律子の異動の件として相談したらあっさりオーケーしてくれた。

P「じゃあ秋月プロデューサー、一言」

律子「はい。…おはようございます。本日付で765プロプロデューサーを務めさせていただきます秋月と申します。皆さんどうぞよろしくお願いします」

亜美真美『…って、りっちゃんじゃんかYO!!』

あずさ「あらあら~!律子さん、辞めてなくて本当に良かったわぁ…」

あずさは律子が辞めたと聞いたときひどく落ち込んでた。

本当に嬉しそうだ。

伊織「も~!紛らわしいわね!…どうせお兄様が考えたんでしょ!」

P「おお、よくわかったな」

千早「プロデューサーしかいないもの…」

千早も呆れ気味だ。

P「とにかく、今後はプロデューサー二人体制でいくから改めてよろしく」

重大発表と聞かされていたみんなは、なんだぁ…と肩透かしをくらっていた。

真「いつプロデューサーになるのかなぁって思ってたけどさ」

P「へ?何で?」

真「だって…」

春香「ねぇ…。仕事の話、律子さんが私が適任だって言ってたってスタッフの人が言ってましたし」

春香の言ってることなんかややこしいぞ?

雪歩「あ、私もこの前お仕事の話を受けた時、律子さんがどうのって言われましたぁ…。その時は気にしてなかったんですけど」

つまり、律子が自分に来た仕事を他の子に振ってたのはみんな知ってたらしい。

伊織「そう思えば、律子がアイドルよりプロデューサー志望だって想像つくわよね?」

千早「そうね」

いやお前ら早く俺に言えよ。

今度は俺が肩透かしをくらう番だった。

律子「へ?嘘…?」

それ以上に困惑してるやつがいたけど、もう何でもいいや。

ちなみに、やよいの家庭訪問はちらほらと話題を呼んで、気づけば検索ワード10位に引っかかっていた。

いったんおちまい!
今日の夜にまた投下します!

ご意見ご質問ご感想に、批判ダメ出し等あれば仰ってください!
できる範囲で改善に努めます!

律子、やよいのお話でした。
アイドルごとに話の長さに偏りがあるのはお許しください。
ご要望があれば指名のアイドルのお話をサブ形式で追加しますが、本筋の完結を優先します!

皆さんレスありがとうございます!
Pは賛否両論あるみたいですね。
意見してくださった方々ありがとう!

さて、夜も更けてきたので再び更新します
しばしお待ちを…

マイナーアイドルもがっつり登場する予定です
皆さんのキャラのイメージと異なるかもしれませんが
それでもいいならぜひ読んでみてください!

そして月日は流れ。

本日バレンタインデー。

男性諸君はそわそわと落ち着かない気持ちになるが、それも学生までの話。

というか俺は男子校だったのでそういうイベントはあってないようなものだった。

それに忙しい社会人にとっても忘れ去られてしまう不要なイベント。

別にチョコ欲しくないし。…本当だぞ?

ここまで俺の価値観。

しかし世間はバレンタインとなると騒がしい。

そのおかげでうちでも萩原雪歩がバレンタインイベントに参加できることになった。

その内容は都内にある大きなショッピングモールのイベント会場で女性アイドルが男性アイドルにチョコをプレゼントするというもの。

もちろん、会場に足を運んだお客様にも人数に限りはあるが、チョコをプレゼントする予定だ。

参加アイドルは安定した人気を誇るサイネリア。

現在注目株の新幹少女。

そうそうたるメンツなのは間違いない。

そんな人気アイドルたちに紛れる。ド新人の萩原雪歩。

片や雑誌の表紙を飾り、片や雑誌の小スペースに入れてもらえるかの大きな差だ。

うちが入れてもらえたのは他でもない、ジュピターや女Pさん、ひいては961プロの推薦というわけだ。

つまりこの企画は961プロプレゼンツなのだ。

そこで765プロからはイメージに合った雪歩を選抜した。

しかし人気アイドルを巻き込んでのこの企画。

さすがは黒井社長。抜かりない。

人気アイドルと絡めば、ジュピターの認知度も増すことは間違いない。

マスコミもいくらか来るらしい。

ここで雪歩を大きく売り出すチャンスになる!

というわけで俺は今、ショッピングモールで雪歩待ち。

雪歩「プロデューサー!お待たせしました!…来るの早いんですね」

P「いや、俺も今来たとこ」

本当は集合の1時間前からいたけど。

スタッフさんたちはもっと早くいるし、俺も下見を兼ねて早めに来た。

P「雪歩も集合の30分前に来るなんて偉いじゃないか」

雪歩「えへへ…他のアイドルとの共演なので気合入れてきました!」

むんっと可愛らしく胸を張って、えへへ…と照れくさそうに微笑む雪歩。

かわいい。

雪歩「プロデューサー?」

P「はっ!…どうした?」

雪歩「あ、いえ、プロデューサー、ボーっとしてたので大丈夫かな?って…。また無理してませんか?」

どうやら心配をかけてしまったようだ。

雪歩「プロデューサー!お待たせしました!…来るの早いんですね」

P「いや、俺も今来たとこ」

本当は集合の1時間前からいたけど。

スタッフさんたちはもっと早くいるし、俺も下見を兼ねて早めに来た。

P「雪歩も集合の30分前に来るなんて偉いじゃないか」

雪歩「えへへ…他のアイドルとの共演なので気合入れてきました!」

むんっと可愛らしく胸を張って、えへへ…と照れくさそうに微笑む雪歩。

かわいい。

雪歩「プロデューサー?」

P「はっ!…どうした?」

雪歩「あ、いえ、プロデューサー、ボーっとしてたので大丈夫かな?って…。また無理してませんか?」

どうやら心配をかけてしまったようだ。

P「ああ、大丈夫。今は律子もいるし無理なんて、したくてもできねーよ」

雪歩「なら良かったぁ…ふふっ…」

P「あ~!もう!可愛いなぁ!」

つい持ち上げてしまうほど可愛い。

雪歩「ひぁっ!」

本当に持ち上げられて、困惑の表情を浮かべている。

雪歩「プロデューサー!…は、恥ずかしいぃ…!!」

俺は雪歩の必死な言葉に我に返って、持ち上げてた彼女を降ろす。

雪歩「や、やめてください…プロデューサー…」

消え入りそうな声の雪歩は顔を真っ赤にさせ、ちらちらと周りを見る。

どうやら周りの視線を気にしてるようだ。

幸い、周囲の人からは見えにくい位置だったのでそこまで注目されてなかった。

ここイベントのスペースの裏だし。

P「悪かった。…つい」

雪歩「つい、じゃありませんー!」

ちょっとだけ説教されました。

時間もまだあるので二人でモール内をうろうろする。

P「こう見ると店ん中もバレンタイン一色なんだな」

雪歩「バレンタインは女の子にとって大事な日ですから」

こういうイベントデーを大事にするところも雪歩選抜の要因だ。

春香やあずさと迷ったけど。

雪歩の乙女チックな感性は一般的なイメージに近いものがある。

そう思ったのが決め手となった。

雪歩「ところでプロデューサーはチョコ貰ったことありますか?」

P「いや、無いよ」

雪歩「伊織ちゃんからもですか?」

P「ああ、無いな」

雪歩「なんだか意外ですぅ」

P「そう?あいつはあんまり料理とかお菓子作りとかしないからな。俺としては意外ってほどでもないけど」

雪歩「そうは思えませんけど…」

P「そういう雪歩はどうなんだ?好きな人にあげたりとか…」

雪歩「いえ、私は男の人が苦手で…友達同士ならありますけど」

そういえば苦手だったな。

あんまり自然に会話してるもんだから忘れてた。

雪歩「あ、お父さんとお弟子さんたちにも渡したことがあるんですけど…」

そして雪歩はみるみるうちに顔面蒼白になっていく。

雪歩「男の人は怖いですぅ…」

どうやらいい思い出は無いみたいだ。

俺は深く言及しなかった。

雪歩「でも、それから毎年作ってます。みんな欲しそうにするから」

P「へー、評判いいんだな」

雪歩からのチョコなんて嬉しくないわけないもんな。

P「っと、そろそろ時間だ。戻るぞ」

雪歩「はい。もうちょっと回っていたかったですけど…ふふっ…」

口では残念と言いつつも、割と満足そうな雪歩だった。

会場に戻ると、すでに他のアイドルも揃ってるようだ。

P「ほら、挨拶に行くぞ」

雪歩「はい」

スタッフの人には来た時に済ませてあるので、一緒にステージに立つアイドルに挨拶をする。

雪歩「765プロの萩原雪歩です。よろしくお願いします」

まず挨拶した相手はサイネリア。

彩音「ええ、よろしく。サイネリアの鈴木彩音よ」

金髪のツインテール、そばかすが特徴的の小柄で可愛い女の子だ。

P「萩原にこのようなイベントは初めてでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」

彩音「これはご丁寧に…。それにしても765プロ…伺ったことはありませんが」

P「設立して間もないもので、961プロさんのご厚意で参加させていただけることになりました」

彩音「そうでしたか…。961プロの推薦とあればきっと大丈夫ですよ。雪歩ちゃん、頑張りましょうね」

雪歩「は、はい!」

見た目とは違ってとても礼儀正しく、小さいのにお姉さんな感じがした。

サイネリアの別のメンバーにも挨拶をして一息つく。

P「良かったな雪歩。共演者がいい人そうで」

雪歩「はい。彩音さんとっても可愛かったですぅ」

P「じゃあ、次は新幹少女のみなさんだ」

そうして、こだまプロ所属の新幹少女に挨拶しに行く。

雪歩「765プロ所属の萩原雪歩です。よろしくお願いします」

テンプレになったご挨拶を丁寧に言う。

ひかり「ええ、よろしく。新幹少女のひかりよ」

つばめ「あたしはつばめ、よろしくね」

のぞみ「のぞみよ。よろしく」

簡単に自己紹介をして軽く握手を交わす。

P「萩原にこのようなイベントは初めてでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」

ひかり「そんなこといいですよ。失敗は誰にでもあるもの」

つばめ「それにしても765プロって聞いたことある?」

のぞみ「ううん。初めて聞くわ」

P「うちはまだ設立して1年も経っていませんのであまり知られていないかと…」

ひかり「そうなんですか」

「ひかり、つばめ、のぞみ、10分後に打ち合わせだ。961プロさんもお見えになったから挨拶しとけよ」

高そうなスーツに身を包んだ初老の男が新幹少女にそう言った。

彼は新幹少女のプロデューサーだろうか。

P「初めまして、私765プロのプロデューサーをやっておりますこういう者でございます」

俺はすかさず挨拶をし、名刺を差し出した。

新幹P「ああ、これはご丁寧にどうも…」

男も落ち着いた様子で名刺を取り出し、交換する。

新幹P「おや、水瀬グループの御曹司でいらっしゃいましたか。いつもお世話になっております」

P「いいえ、私は水瀬グループとは関係ありませんよ」

新幹P「ではそちらに所属している水瀬伊織とのご関係は?」

P「ええ、彼女は実の妹ですが私は恥ずかしながら勘当を受けまして…」

乾いた笑いが漏れてしまう。

この業界に入ってこういうのは割と多かったのですでに慣れている。

水瀬グループ。改めて強大な権力なんだと思い知らされる。少し惨めだ。

新幹P「それは大変でしたね…」

水瀬グループと関係無いとわかると、多少言葉は砕けていて話しやすい人だった。

P「それでは本日はよろしくお願いします」

新幹P「ええ、こちらこそ」

ひかり「じゃあまたあとで、雪歩」

つばめ「緊張しなくても大丈夫よ」

のぞみ「雪歩なら上手くやれるわ」

雪歩「あ、ありがとうございますぅ!」

こっちはこっちでなんか打ち解けてるみたい。

P「彼女たちもいい人たちみたいで良かったな」

雪歩「はい!私、今日は上手くいきそうな気がしてきました!」

おお!雪歩にこんなに自信をつけさせるなんて…。

ありがとう新幹少女!

今度のニューシングル買います!

最後は企画者961プロの所属、ジュピターだった。

P「ジュピターのみなさんお久しぶりです」

翔太「あ、765プロのお兄さん!やっほー!」

北斗「久しぶりですね」

冬馬「おう」

P「翔太くんに、北斗くんと………羅刹くん?」

冬馬「羅刹じゃねえ!お前まだそのネタ引きずってたのかよ!ちょっと間があったからそんな気はしたけどよ!」

P「あははは…!冗談だってば冬馬くん」

翔太「お兄さんも言うようになったね」

北斗「そうだな。最初の頃はあんなに丁寧だったから別人みたいですよ」

P「おっと、これは失礼しました」

北斗「嫌だな、やめてくださいよ。俺はどちらかというと砕けた方が好感持てますよ」

翔太「うん。僕もフランクな方が好きかな~」

P「そう言ってくれるとありがたいよ。外面の張りっぱなしは疲れるからね」

女P「Pさん、私にもフランクで結構なんですよ?」

P「あ、女Pさん。お久しぶりです」

女P「えー?お久しぶりって先日お会いしたじゃないですか」

翔太「そうなの?」

女P「ちょっとお食事に行っただけよ」

実はそういうこともあった。

俺から連絡を入れてお酒を少し嗜んだ。

北斗「二人で?」

女P「え?ええ、まあ」

冬馬「ホの字か?」

女P「は、はあ!?何わけわかんないこと言ってんの!?ただ食事に行っただけって言ってるじゃない!」

北斗「ちょっと落ち着いてくださいよ」

翔太「あはは…!」

961プロ劇場も始まったところで俺はそろそろ雪歩を紹介せねばと考える。

雪歩は俺の後ろに隠れて様子をうかがっていると思ったのだが、振り返ってみれば俺をガン見してた。

P「なんだ、どうした?」

雪歩「プロデューサーはあの女の人とどういう関係なんでしょうか…?」

P「もしかして、気になるのか?」

雪歩「やっぱり、そういう関係なんですか?」

P「雪歩の思ってることがどういう関係かは知らないけど、女Pさんは同じ仕事をしてる友達かな」

この歳の女の子が色恋沙汰に興味があるのはわかるけどね。

伊達にアイドルのプロデューサーやってないからな。

雪歩「そうですか」

一言そう言うと961プロの面々の様子をうかがい始めた。

いつまでもキョロキョロしてないで早く挨拶しなさい。

P「雪歩、挨拶」

雪歩にそっと話しかける。

おずおずと前に出ていく。

雪歩「あの…」

北斗「おや、これまた可愛らしいお嬢さんじゃありませんか」

北斗くんがまず声をかける。

翔太「お姉さん恥ずかしがり屋なの?さっきからお兄さんの後ろに隠れてたけど…」

と翔太くんが疑問を口にする。

雪歩「ひっ…!その…」

おろおろし始める雪歩。

雪歩「ぷ、ぷろでゅーさー…」

また俺の後ろに隠れてしまう。うん。雪歩にしては頑張ったよ。

P「あはは…。ごめんね君たち。雪歩は男の人がちょっと苦手なんだ」

冬馬「今のでちょっとかよ!?」

雪歩「ご、ごめんなさい…」

北斗「まあまあ、冬馬もそう声を荒げるなよ」

翔太「僕はてっきり双子ちゃんが来ると思ったんだけどね」

女P「ええ、私も。唯一面識あるの彼女たちだけだもの」

P「バレンタインのイメージに一番近いのが彼女だったんですよ」

冬馬「でも本番でもそれじゃあ失敗しちまうぞ」

確かに。せっかく新幹少女から自信をもらったのに…。

P「ほら雪歩、握手」

手を差し出す。

雪歩はいたって自然に俺の手を取った。

P「俺だって男だぞ」

雪歩「そうですけど、プロデューサーは大丈夫なんです」

P「慣れなのかもなぁ」

翔太「ねえ雪歩お姉ちゃん」

雪歩「きゃっ!」

いつの間に近くに来ていた翔太くん。突然声をかけられて驚く雪歩。

馴れ馴れしいと思うかもしれないが、相手に合わせて対応を変えるのが翔太くんだ。

これも雪歩と仲良くなるための対応の仕方なのだろう。

翔太「あ、その反応酷いなー。まあいいや、僕は御手洗翔太。今日のイベントよろしくね?」

と言うと翔太くんは俺に目配せをする。

P「ほら雪歩」

雪歩「あ、あの、萩原雪歩です。こちらこそ…よろしくお願い、します」

翔太「はい、握手!」

笑顔で握手を求める翔太くんはまさに理想の弟という感じだった。

雪歩は戸惑いつつも勢いに押されて差し出された手をきゅっと握る。

以前であれば、ちょんっと触れて終わりだったろうに、身近な男である俺と過ごしたおかげかしっかりと握手できている。

雪歩の表情も険しいものから徐々に笑顔に変わっていく。

弟的な接しやすさがあるのかもしれない。雪歩に弟はいなかったと思うけど。

北斗「俺は伊集院北斗。よろしくね雪歩ちゃん」

冬馬「天ケ瀬冬馬だ。よろしく頼むよ萩原」

翔太くんを皮切りに北斗くん、冬馬くんと続く。

雪歩は翔太くんで警戒心が大分解けたようで、あとの二人もすんなりと挨拶を交わせた。

女P「私は女Pと申します。よろしければ名刺をどうぞ」

最後に女Pさん。

雪歩「はい。こちらこそよろしくお願いします」

何事もなく終わると思ったのだが。

雪歩「あの、女Pさんはプロデューサーとどういったご関係ですか?」

ひそひそと秘密の会話が始まってしまった。

P「おい、ゆき…」

北斗「まあまあ、Pさん。レディには男に聞かれたくない話もあるんですよ」

何の話をしてるのか尋ねようと思ったら、北斗くんに止められてしまった。

むっ…。そう言われると確かに野暮ったいかもな…。

翔太「ほら冬馬くんも女の子同士の会話に水差しちゃダメだよ!」

冬馬「おい!まだ挨拶すんでねーだろ!?」

北斗「冬馬…時間はまだまだあるんだからさ。もちょっと余裕を持ちなよ」

苦笑いで諭す北斗くん。

さすがというべきか、北斗くんが言うことには説得力があるな。

女性にだらしないと思ってたけど、全く逆っぽい。

翔太「そういえば双子ちゃんは元気?」

P「そりゃもちろん」

元気すぎるくらい。

北斗「へえ、彼女たち以外にもまだアイドルはいるんですよね?」

P「まあ、そうだけど…テレビに出れる子はまだ少なくてね…」

こちらはこちらで会話が弾んできたころ…。

女P「…ど、どんな関係って言われましても…。同じ職種のお友達…かな?」

雪歩「お二人で食事に行ったりするんですか?」

女P「ええ、まあ…」

雪歩「それはプロデューサーから誘われたんでしょうか?」

女P「そ、そうですね。でも私からお誘いすることもありますよ?」

雪歩「そ、そうなんですか…。仲良しなんですね…」

女P「ええ!?いや、まだあって日も浅いし、仲良しとまでは…。Pさんも私には遠慮がちな部分ありますし。そもそもまだ敬語使われてますし…」

テンパってちょっと早口になる女Pさん。

女P(Pさん助けてくださいっ!)

心の中で思うもPは助けるはずもなく。

向こうでボーイズトークに花を咲かせていた。

雪歩「やっぱり、好き、なんですか?」

雪歩の質問は止まらなかった。というより、ようやく核心に迫っていた。

女P「す、すすす好きってな、何でしょう?…別っ、別に私はそんなことありませんよっ!」

思いっきり動揺したのだが、間をおいて心を落ち着かせる。

女P「…た、確かに同業者として尊敬していますけどそういう恋愛感情はありません。雪歩ちゃんくらいの歳の子が色恋沙汰が好きなのはわかりますけど、あんまり大人をからかうもんじゃありませんよ」

ちょっと説教臭くなってしまったなと後悔しつつ、雪歩の方を窺ってみると…。

めちゃくちゃ慈愛に満ちた聖母様のような顔をしていた。

雪歩「そうですよね。からかうつもりはなかったんですけど…ごめんなさい。女Pさんとお話しできて良かったです!…うふふふ…!」

雪歩はルンルン気分が目に見えてわかるほどの上機嫌でPの方へ戻って行った。

女P「もう…イヤ…」

墓穴を掘りに掘って取り残された彼女はがっくりとうなだれるしかないのであった。

雪歩「プロデューサー、お話済みました」

P「お、もういいのか。どうだった?」

雪歩「女Pさんってとっても可愛らしい人だと思いました!」

P「あはは…!やっぱりそう思うよなぁ」

冬馬「嘘だろ?あいつは言うことやること鬼畜だぜ」

北斗「それは冬馬のせいだろ…」

翔太「冬馬くんは反省しようね」

冬馬「なっ!お前ら…」

冬馬くんは納得いかない様子だった。

P「ちょっと俺も女Pさんに挨拶しないと…」

雪歩「あ、はい。行ってらっしゃいプロデューサー」

P「?」

なんか雪歩がマリア様みたいに見えるんだけど…。これはクリスマスイブに生まれた影響?

なんてバカなこと考えながらも、女Pさんに話しかけようとしたのだが…。

P「どうしました?」

まだイベント前なのに疲れ切った様子の女Pさん。

女P「きゃあっ!…Pさん!?」

P「わっ、ごめんなさい。驚かせてしまったようで…」

女P「あ、いえ、これは違うの…」

P「ところで雪歩どうでした?」

女Pさんの表情が固まる。

女P「雪歩ちゃんってぐいぐい来るんですね…」

はい?雪歩がぐいぐい?一体何があったんだ…。

P「へぇ、珍しいこともあるんですね」

雪歩に視線を移す。

彼女はジュピターにビクつきながらもちゃんと会話できてるようだ。

翔太くんには多少心を開いてるみたいだ。

雪歩からしたら弟に近い感覚なんだろう。

こうして見ても特に変わった様子はないけど。

女P「…」

そこで俺は視線に気づく。

女Pさんが俺の顔をまじまじと見ていた。

どうしました?と視線を合わせてみると、彼女の顔は紅潮しそっぽを向いて眼鏡の位置を整えた。

P「どうかしましたか?」

女P「いいえ!今日はよろしくお願いします…」

尋ねてみると、ちょっと慌てながらもぺこりとお辞儀する。

P「ええ、こちらこそよろしくお願いします。あと雪歩が迷惑をかけたならすいません」

女P「…そんなことはありませんよ。でも自分を見つめ直すきっかけはくれたかも」

P「何ですか、それ?」

女P「うーん…何でしょう?」

少し沈黙。お互いに吹き出して笑ってしまう。

しばらくして落ち着いたのでその場を後にする。

P「…ではまた後で」

女P「はい、また後で…」

そう言った彼女の、少し寂しそうな笑顔が印象的だった。

はい、おちまい!

以下反省点。
見返してみると表現が単調にならないようにしてはいるのですがなかなか難しいですね。
繰り返しの表現はコメディとしてはある種の武器になりますけど
大抵はしつこく汚いだけだったりして、どこまでがそう思われないのか線引きしづらい…。
あと単語の意味はその場面で使っても誤りではないかどうかも一応調べています。
逆ができれば困らないのですが…。
皆さんが飽きないように善処します!
まあ二次創作だから気にしすぎだとは思いますけどね!
以上、たまには真面目な反省でした。

ご意見ご感想ご質問ご要望、批判ダメ出し等あれば仰ってください!

すみません。訂正個所を発見しました。

>>285の6行目のこの部分
『ちょっと説教臭くなってしまったなと後悔しつつ、雪歩の方を窺ってみると…。』

『ちょっと説教臭くなってしまったなと女Pさんは後悔しつつ、雪歩の方を窺ってみると…。』

でお願いします。

女Pの視点に切り替わったわけではありませんので主語抜けが気持ち悪かっただけです。
あくまでPのモノローグということで…。
当事者でないP視点でのモノローグというのも気持ち悪いですけど、許してください。
文章自体が破綻してました…。不快に感じられた方、申し訳ない!

女Pさん眼鏡かけてたのかサイネリアってこんなキャラなの?
サイネリアは涼VS絵理ちゃんSSのようなイメージだった…
このSSは優しい世界でよかった
黒ちゃんの登場が楽しみだ

おっつおっつ!
強いて言うなら、先回りで自作品の駄目なトコを解説しない方がいいと思うよ

せっかく気づかず楽しんでたのに、「作者はああいうけどそうなんだろうか」とあら探しするようになったり、好きな作品をけなされてる気分になったりするかもしれない

皆さんレスありがとうございます!

>>296
わかりました。今後気を付けます!

>>295
実はどんなキャラなのか自分もよく知らないのです。
ここではコミック版の性格とは違うということで納得していただけると助かります。

今から投下!

イベント開始時刻。

ショッピングモールのひらけたスペースでそれは始まった。

先着でスタッフたちがお客さんを仕切りの中に通す。

新幹少女にサイネリアもいるのでおよそ定員100人の先着はすぐにいっぱいになった。

もちろんあぶれてしまった人もいるわけで、その人たちは仕切りの外、もしくは会場の一つ上の階から眺めることにしたようだ。

そして俺たちは他のアイドルやスタッフさんとともに設営されたステージの裏にいる。

雪歩「す、すごい人数ですぅ…」

ちらりと外を覗いた雪歩は呆気にとられていた。

モール内の一つのスペースにこれだけの人が集まれば、確かにとても多く感じる。

P「大丈夫だって。流れは頭に入ってるだろ?」

雪歩「はい、なんとか…。でもぉ…」

P「なあ、雪歩は俺のこと信じてる?」

雪歩「?…はい、もちろん信じてますけど」

P「じゃあ大丈夫だ!」

雪歩「え?」

P「雪歩の信じる俺が言ってんだから大丈夫だよ。自信持てって」

とんでもない暴論だけど雪歩は一応は納得してくれたみたいだ。

雪歩「ありがとうございます、プロデューサー。そんなに心配かけてごめんなさい」

P「いいんだ。もっと心配させろ」

雪歩「あはは…イヤですよぅ…」

嬉しそうに笑う雪歩はそれでも不安を拭えていない様子だった。

そしてスタンバイ、脇にいる司会のアナウンスが入りすぐにジュピター以外のアイドル達がステージに上がる。

この日のために来たであろう人たちも偶然居合わせた人たちも、わぁっと歓声を上げる。

『本日、参加いたしますアイドルのみなさん!それぞれ自己紹介をお願いします!』

とアナウンス。

最初にマイクを握ったのはサイネリア。

『私たちサイネリアです!』

彩音「鈴木彩音!一応サイネリアのリーダーやってます!今日は来てくれてありがとう!私のチョコ、ぜひ受け取ってくださいね!」

大変な盛り上がりで、彩音さんを呼ぶ声が途切れない。

それは他二人のメンバーも同様で歓声は続く。

二組目は新幹少女。

ひかり「みんなこんにちは!こだまプロ所属、新幹少女のひかりです!今日はバレンタイン、すべての女の子にとってハッピーな1日になりますように…!」

つばめ「おなじくつばめ!男の子のみんなにも幸せを届けるわ!」

のぞみ「のぞみです!みなさんぜひ楽しんでいってください!」

さすがに注目株だけはある。

新幹少女ははち切れんばかりの歓声を浴びていた。

そしてこの流れで…。

雪歩「は、初めましてっ!!」

無名の雪歩の自己紹介に移る。

力んで声が大きすぎたためスピーカーがキーンとハウリングしてる。

雪歩「ひいぃっ!!」

しかもそれにビビりまくる雪歩。

会場にいる誰もが呆然としていたが、やがて笑いに変わった。

雪歩は恥ずかしさでかぁーっと赤くなってしまう。

これは…。嫌な予感がした。

雪歩「こんなダメダメな私は穴掘って埋まってますぅ!!」

どこからともなく取り出したスコップでステージの端を掘り始める雪歩。

もはや材質とか関係ないのが雪歩の穴掘りだ。

P「ちょちょちょっ!!誰か止めてくださーい!!」

慌ててみんなで止めに入る。

会場は再び呆然。静まり返る。

アイドル達も顔面蒼白だった。

『お、お騒がせしました…』

不測過ぎる事態にとまどいながらも、なんとか仕切りなおす司会。

ひかり「本当、びっくりしたわ…」

つばめ「おお落ち着いて…?ね、雪歩?」

のぞみ「つばめも落ち着いて…」

周りのフォローを受けて雪歩はなんとか踏みとどまったようだ。

彩音「ほら、今度はリラックスして…。普通の声量で喋ればいいのよ?」

すーはーと大きく深呼吸する。

雪歩「…初めまして、765プロ所属の萩原雪歩です…。さっきは緊張して取り乱してしまってすみません…」

『萩原さん、ステージに立つのは?』

さらに緊張をほぐそうと司会が質問もかけてくれた。

雪歩「はい、今回が初めてです」

お客さんから、おぉ、と感嘆の声が漏れる。

ちらほらと応援の声も聞こえる。

みんな優しいなぁ。

雪歩「私からは皆さんに抹茶チョコをプレゼントしますので…よかったら受け取ってください!」

最後の部分、さながら告白する子のように言うもんだから。

『いやー、可愛いなあの子』

『名前なんて言ったっけ?』

『萩原雪歩じゃなかった?』

『雪歩ちゃんね…私ファンになっちゃった』

新幹少女やサイネリアほどではないが、会場は再びざわつき始める。

『えー、それでは!お待たせしました!本日彼女たちがバレンタインチョコを渡すお相手は…。この方たちです!どうぞ!』

笑顔を振りまき、ファンに応えながら颯爽と登場するジュピター。

女性客の甲高い声が響く。

冬馬「961プロ所属、ジュピターの天ケ瀬冬馬だ!チョコなんざ甘ったるいもん俺には似合わねーがな!」

翔太「御手洗翔太です!…ああ言ってるけど冬馬くんは甘いものがすっごい好きだから、本当は楽しみでしょうがないんだよ?今日、チョコ持ってきてくれたみんなは気兼ねなく冬馬くんに渡してあげてね!」

北斗「こんにちは、俺は伊集院北斗です。今日はこんな素敵な女性たちからプレゼントをいただけるなんて、男冥利に尽きるよ。よろしくね」

ジュピターのおかげで実は女性客も多い。

961プロの企画なのでジュピターメインなのは当然である。

『では皆さん揃いましたので早速プレゼントしちゃってください!』

女性アイドル陣がそれぞれ用意していた紙袋をスタッフから受け取る。

この紙袋にみんなが作ってきたチョコがラッピングされて入っている。

そしてジュピターへ贈る。

冬馬「サンキュー!」

翔太「ありがとう!」

北斗「ありがとう」

お客さんからは大きな拍手。

冬馬くんがやけに嬉しそうに見えたのは気のせいじゃないんだろうな。

『それではジュピターの皆さんもお返しをどうぞ!』

司会がそう言うと、今度はジュピター側に紙袋が渡される。

冬馬「借りっぱなしってのは性に合わないんでな。今すぐ返すぜ」

翔太「とか言いつつ冬馬くんすっごいこだわってたよね」

冬馬「翔太はいらねーことをいちいち言うんじゃねーっての!」

北斗「まあいいじゃないか冬馬。俺だって楽しかったさ」

あれこれ言い合いながら今度は彼らが女の子たちにチョコを贈る。

お客さんからは大きな拍手。

世間が羨むようなバレンタイン。

しかしイベントはこれだけではない。

『それではここで、アイドル達による生歌の披露です!』

会場はさらに盛り上がる。

トップバッターはもちろん無名の雪歩。

いったんステージ裏へと戻り、音響を調整する。

歌う曲は『Kosmos, Cosmos』

まだ持ち歌がこれしかない。

P「行けるか?」

雪歩「緊張するけど、なんとか…」

P「それでいい。ステージに立ってマイク握りしめて音楽が流れてきたら必ず歌える。レッスン終わった後も休みの日も練習したもんな」

雪歩「プロデューサー、どうして?」

なんで知ってるんですか?とでも言いたげだ。

レッスン終わった後や、休みの日に練習してるなんてのはさすがに口から出まかせだ。

けれども、自主練してたことは明らかにわかる。

そうでもしないと、一回のレッスンであんなに上達しない。

P「雪歩の努力はちゃんとわかってるつもりだから。もっと自信持ちなよ」

雪歩「………はい!」

雪歩は今までで一番いい顔で壇上に上がって行った。

『それでは萩原雪歩さんで、Kosmos, Cosmos、どうぞ!』

最後にみんなでバレンタインソングを歌って生歌は幕を閉じる。

雪歩は初ライブとは思えないほど安定して歌えていた。

新幹少女やサイネリアは、本当に初めて?と驚いていた。

『それでは最後に、今仕切りの内側にいるファンの皆様にアイドル達からチョコの受け渡しです!ではスタッフの指示に従ってお並びくださーい!それと、チョコを持参してきた方はアイドルにプレゼントするチャンスですよ!』

ファンの人たちはスタッフからやや小さめの紙袋を受け取る。

渡されたチョコを入れておくためのものだ。

961プロは経済的にも余裕があるし、気が利く。

何事もなく終わるかに見えたが…。

ファンの方がアイドルから渡されたプレゼントを落としてしまった。

しかもそれに気づいてないのか、嬉しそうな表情で行ってしまう。

気づいたのは俺と新幹少女のひかりちゃん。

ひかりちゃんは次のファンに一言断って、壇上に落ちたプレゼントを拾おうとする。

俺も落としたファンの方に駆け寄り、引き留める。

すぐ、ひかりちゃんの方に視線を戻すと、危なっかしい体勢になっていた。

俺は何か嫌な予感がして、次のときには体が勝手に走り出していた。

直後ひかりちゃんは躓き、ステージからふらりと…。

ダメだっ…!

周りから悲鳴が上がる。

ファンの人たちも咄嗟に手を伸ばすがもう遅かった。

そして…。

ひかり「…」

ひかりちゃんは唖然としていた。いや、むしろ放心状態だった。

P「あっぶねー!」

俺は外面が剥がれていた。

周りからは、おお!と声が上がり、拍手喝采。

ひかりちゃんが落ち、間一髪で俺が滑り込み、体で受け止めたのであった。

P「ひかりちゃん、大丈夫?」

ひかり「…765プロの…うぅ…ひぅっ…」

ひかりちゃんは怖かったのか、嗚咽をあげて泣き始めてしまった。

俺はひかりちゃんを立たせて自分も体を起こした。

新幹P「これはみなさまお騒がせしました。しばらくの間お待ちください」

新幹Pさんが慌てて駆け寄り、簡単にファンの方たちに呼びかける。

新幹P「Pくんありがとう。…さ、行くよ、ひかり」

その後ひかりちゃんを連れていったんステージ裏に引っ込んだ。

俺はファンの方たちから英雄みたいな扱いを受けていた。そんな大したことはしてませんよ?

しばらくして、泣き止んだひかりちゃんが姿を見せる。

ひかり「すみません。ご迷惑をおかけしました。先ほどは驚いてしまい見苦しい姿を…。痛むところもありませんので、私は大丈夫です」

そして俺の引き留めたファンに落としたプレゼントを渡していた。

落とした人は何度も謝っていたのだが。

ひかり「私たちはファンの方に笑顔をお届けするために活動しているので、謝っていただくなんてとんでもないです」

などと対応をしていた。

その後もみんなに心配されながらもイベントは再開し、終了した。

『トラブルもありましたがこれにて無事にバレンタインイベントは終了です!アイドルの皆さんありがとうございました!』

アイドルの退場。

もう何にもないだろうと誰もが思っていたのだが、やっぱりというべきだろうか…。

冬馬「ありがとなー!………ぬばぁっ!!」

ファンに手を振っていた彼が奇声を放ちながらステージから消えた。…と思いきや。

冬馬「何だよこの落とし穴!…おい、萩原!ちゃんと塞いどけよ!なんで落とし穴仕様にしちゃったんだよ!」

北斗「いや、引っかかる冬馬が悪い。みんなそこは避けてただろ?」

翔太「冬馬くん、わざとじゃないの?」

冬馬「んなわけあるか!」

雪歩「ごめんなさいぃ!!私、穴掘って埋まってますぅ!!」

つばめ「雪歩!落ち着いてってば!」

最後はみんな笑って終えることができました。

今日はここまでにしよう!おちまい!

ご意見ご感想ご質問、批判ダメ出し等あれば仰ってください!

こんばんは、投下します。

P「お疲れ様」

雪歩「今日はたくさん失敗しちゃいました…。冬馬くんごめんなさい…」

冬馬「いやもういいって…。引っかかった俺が悪いんだしよ」

翔太「そうだよ雪歩お姉ちゃん。冬馬くん笑いが取れて大満足だから」

冬馬「芸人じゃねえよっ!」

北斗「誰もそんなこと言ってないだろ」

始まりました961プロ劇場。

などと考えてると不意に後ろから女の子の声がする。

ひかり「あの…」

P「あ、大丈夫でしたか?本当に怪我とかありませんか?」

ひかり「はい。おかげさまで…」

P「それならよかった」

もじもじと落ち着かない様子のひかりちゃん。

雪歩「あの、あっちでお話しませんか?」

冬馬「なんでだよ」

北斗「ったく、冬馬、お前ってやつは」

翔太「いいから行くよ!」

取り残される俺とひかりちゃん。

みんな気遣いができる子だ。一人を除いて。

ひかり「お名前…まだお聞きしてなかったのですが」

P「私ですか?」

ひかりちゃんはこくりと頷く。

P「Pと申します。名刺もどうぞ」

ひかり「P…さん。……あ、ありがとうございます。あの、敬語じゃなくてさっきみたいなフランクな口調でも私は気にしませんけど」

P「そうですか。でも急には難しいです。慣れてきたらでいいですか?」

ひかり「…はい」

P「それで、どうかしましたか?」

ひかり「助けていただいたお礼に、これ!受け取ってください!」

そうして渡されたのはチョコだった。ファンに配ったものとは包装が違う。

P「大したことをしたつもりはないんですけど、せっかくなんでいただきます。ありがとうございます」

ひかりちゃんは安堵の表情を浮かべる。

ひかり「あ、あの、Pさんはお怪我ありませんか?もしあるとしたら私のせいで…」

P「大丈夫です。私、生まれてこの方一回も骨折ったことありませんから」

ひかりちゃんは俺が何を言ってるかわからないって表情だったが、すぐに笑った。

ひかり「私も折ったことありませんよ?」

そうだったのか。なんか世間一般的には骨折る人の方が多く感じるよね。

P「えーと、まあ丈夫ですから」

訂正してみる。

ひかり「ふふっ…!そうですか…よかった」

なんだかむず痒い空気が漂う。ちょっとばかり緊張してきたかも。

ひかり「今日はありがとうございました。Pさんかっこよかったです」

P「そんなことありませんって…」

ストレートな言葉にどう対応していいのか、処理が鈍くなってしまう。

ひかり「Pさん謙遜ばっかりですね」

ひかりちゃんは俯きがちで、時たま視線をあげたり、横にずらしたりしていたが、やがて口を開く。

ひかり「…では私はそろそろ失礼します。またお会いできるのを楽しみにしてます」

顔に笑顔を張り付けて行ってしまった。

P「ひかりちゃん!」

ひかりちゃんは立ち止まって振り返る。

あんな顔されたら、引き止めないわけにはいかない。

P「俺も次に会うの楽しみにしてるから!」

どうしてこの口調で言ってしまったのかわからない。

けれど俺はそれでよかったと思う。

彼女の笑顔を引っぺがしてその下に隠れてたとても素敵な表情を見せてくれたのだから。

そして会釈して彼女は今度こそ戻っていった。

P「はは…ダメだな俺」

彼女のアイドルとしてではなく女の子としての魅力を感じてしまって、心の中で自分に毒づく。

彼女はアイドル…。彼女はアイドル…。邪な気持ちを持つんじゃない。

まあ俺だって男だし…。そういうのは多少しょうがないことで…。

この仕事はじめてから処理してないし…。

言い訳はよくない。最初にそう決めたんだし…。

女P「Pさーん…」

P「うわっ!」

煩悩に思考を振り回されながらうんうんと唸っているときに話しかけられるもんだから盛大に驚いた。

女P「なんですか、その反応!?傷付きますよぉ…」

P「すみません。その、そんなつもりでは…」

女P「ふふっ…いいですよ。それより聞きたいことが…」

P「聞きたいことですか…私に答えられることなら何でもどうぞ?」

ぐっと近寄る女Pさん。ふわっと漂ってきた女性特有の香りがまだ悶々としてる俺の鼻腔をくすぐる。

女P「なんで今日会ったばかりのひかりちゃんにはフランクで私はまだ敬語なんですかー!?」

わっと喚きだす。

えー……。くだらないと思ってしまった。

P「というかあなたも敬語じゃないですか」

そう指摘すると女Pさんはハッと我に返る。

女P「でもひかりちゃんだって敬語でした」

P「それはなんというか…ノリで…」

我ながら苦しい。

女P「私の方が付き合い長いのになぁ…」

なんだ…この人やきもちやいてんのか。

確かにずっと友達だったやつが急に他の友人と仲良くなってるの見ると虚しくなるけどさ。

それと同じなのかな?

P「まあ喋り方なんて些細なことじゃないですか」

笑ってごまかす。

女P「でも、なんだかフランクな方が距離感が…」

うーんなかなか納得してもらえない。女の人って難しいな。

P「でも私はあなたの方が近しい仲だと思ってますよ?」

そう言っても女Pさんはやっぱり訝しんでいた。

P「まあそのうち慣れますよ。また飲みに行きましょ?」

女P「…わかりました、約束です」

はいはい、約束です。

女P「あと、これを…」

手に持っていた袋を渡される。

P「これって…」

チョコだよな。

女P「いつもお世話になっているので作ってきました!」

ああ、この人の笑った顔はやっぱり…。

いけない、また悶々とさせられてしまった。

P「ありがとう」

女P「いえ、来月楽しみにしてますから!」

そういえば来月にバレンタインと姉妹みたいなイベントがあったな…。

P「あはは…期待しないでくださいね」

それでは、とお互い軽く挨拶して別れる。

雪歩もしばらくして戻ってきたようだ。

P「男の子たちといて大丈夫だったのか?」

雪歩「ちょっと怖かったですけど、前ほどじゃありません」

雪歩の男苦手も多少改善されてきたようだ。

雪歩「私に弟がいたらあんな感じなのかなぁ…?」

P「翔太くんか?」

雪歩「あ、はい、そうです…」

P「どうだろうな。でもそう思えるってことはイヤってほどじゃないんだろ?」

雪歩「そうですね」

今日発見したことは、雪歩はたまに慈愛に満ちた表情をすることがある。

そして兄弟を羨ましいと思ってること。

P「さ、帰ろうか。うちまで送っていくよ」

雪歩「ありがとうございます。…プロデューサー、どうぞ」

チョコレートを控えめに差し出す雪歩。

P「ありがとう」

俺はもちろん受け取る。

お互い笑い合って、またともに歩んでいくのだ。

今日のイベントはいろいろあったなと思い返す。

邪な気持ちが芽生えかけたのは雰囲気にあてられただけだ。

きっとそうだ。今後は気を付けよう。

俺はホモ。俺はホモ。

呪文を心で唱えて暗示をかける。

いや待て、この暗示が成功してしまったらどうなるんだ?

そんなんホモになるに決まってる。

それはいかん!

と一人でバカな考えを巡らせながら、俺ってバカだなぁと落ち着くのであった。

雪歩を家まで送り届けて765プロへと戻ってきた。

P「ただいま戻りました」

現在午後5時。

小鳥「お帰りなさいプロデューサーさん!」

やけに元気がいいというか、待ってましたとばかりの小鳥さん。

P「どうしたんです?」

小鳥「もぉ…。今日が何の日か忘れちゃったわけじゃないですよね?」

がっかりする小鳥さん。

まあ今日という日はバレンタイン以外にないと思うのだが…。

P「もしかしてチョコあるんですか?」

小鳥「その通りです!実はみんな作ってきたんですよ」

おお、全員が!嬉しいなー。けどチョコは飽きたなー…。

なんて贅沢なことを思ってみる。

小鳥「プロデューサーさんのデスクには乗りきらなかったので、向こうの休憩スペースの机に置いてあります。持って帰ってあげてください」

P「了解です」

小鳥「それと…」

小鳥さんはいったん区切ってそわそわとする。

小鳥「こここれを、私からも…」

らしくもなく緊張してるのか、どもる小鳥さん。

恥ずかしそうに包みを取り出す。

小鳥「いつも頑張ってるので、どうぞ…」

あんまりこういう経験ないんだろうなぁ。特に男性がらみには疎いみたいだし。

でもしおらしい小鳥さんってなんだか貴重な気もする。

P「ありがとうございます」

小鳥「…どういたしまして」

P「みんなは?」

小鳥「もう帰しました。すぐ暗くなっちゃいますからね」

P「そうですか…じゃあこれから一杯行きます?」

小鳥「おっ!いいですねぇ!私もここのところ一人酒ばかりだったので行きましょう!」

その反応おっさんか。と思ったが言わないでおこう。

そうして小鳥さんは帰り支度を始めた。すでに業務は終了してるらしい。

俺は机に置かれた様々な箱や袋を眺めて、もらった紙袋に丁寧に詰めていく。

バレンタインにプレゼントをもらうこと自体初めてだったのに、こんなにもらえるなんて幸せなんだろうな。

そうして次の仕事と今日のお返しのことを考え、小鳥さんと事務所を出るのだった。

翌日。

朝の情報番組でバレンタインイベントが放送されていた。

『人気アイドルのサイネリアに今話題の新幹少女、そして先日一枚目のシングルを発表して注目が集まっているジュピター!』

とまあこんな具合で、雪歩はまだまだかぁ…。と思っていたのだが。

『そして一際注目を集めたのが新人アイドルの萩原雪歩さんです!!』

雪歩の自己紹介シーンが流れる。

『このキーンという音にびっくりしてしまったり、自分が入るための穴を掘り出したりと…』

雪歩の珍プレーが長々と画面に映る。

番組スタジオ内では結構ウケてた。

『面白いですねぇ。どうやってステージを掘っているのかも気になりますね』

いやいや、面白くないよ!

『そしてこんなハプニングも…』

これはひかりちゃんが落っこちるところだ。まさか…。

番組のスタジオでは、危ない!とみんながハラハラしてる様子だったが…。

『なんと、男性がスライディングで華麗にキャッチ!その後、関係者と裏へ戻ってしまうのですが…』

場面が切り替わり、ひかりちゃんが戻ってくるところだ。

『怪我もなく無事にイベントは続行されたようです。男性は姿を消してしまったのですが、我々が新幹少女のひかりさんにお話を伺ったところ、765プロダクションの関係者だそうです』

『萩原雪歩さんも765プロダクションということでしたよね』

『そうですね』

『まさに大活躍じゃないですか!』

そして再び場面が切り替わり、退場のシーン。

『ですが最後にまたハプニングが…』

冬馬くんが穴にはまって落ちるところだった。

テレビ越しから冬馬くんのツッコミが聞こえる。スタジオ内では大笑いだった。

こんなのが全国ネットに流れていいのか…と思いながら、出勤前の俺はテレビの電源を落とした。

これにておちまい!
バレンタインにちなんだお話でした!
一応、メインアイドルは雪歩で書いております。
マイナーキャラにスポットを当てすぎてますが許してください。

ご意見ご感想ご質問、批判ダメ出し等あれば仰ってください!

次回はメインではなくサブのお話を書いたのでそちらを投下します。
期待せずに暇つぶし感覚で読んでいただければ幸いです。

今から投下します

数日後。

俺はある決意をしていた。

引っ越しすることにしたのだ。

「荷物運び終わりましたよ!」

P「ありがとう!じゃあ先に引っ越し先に向かってもらえるかな」

「はい!了解しました!」

引っ越し業者お兄さんは一礼して外に出る。

荷物はもともと少ないので、トラックの中はすき間だらけでガラガラだ。

部屋を見渡すと何にもない殺伐とした風景。

こんなに広かったっけな、と考えてしまう。

このアパートともおさらばか…。

伊織にはよく押しかけられたっけ。

小鳥さんとあずさが来たときは焦ったなぁ。

物思いにふける。

P「さ、俺も行くか…」

引っ越し先は前より事務所からは離れているが、歩いて行ける距離にあるアパート。

グレードも上がってわくわくしてくる。

どのように模様替えしようか考えてると、時間がいくらあっても足りない。

大きい荷物だけを配置してもらって引っ越し業者の方々を帰らせる。

俺はこの段ボールに入ってる生活用品などの片付けを残りの時間をかけてやるつもりだったのだが…。

玄関のチャイムが鳴った。

引っ越して間もないのに誰か来るはずねーだろ。

そう思って無視、どうせ間違えちまったんだろうな。

しかし、チャイムが止まない。

それどころか勢いを増して、連打しているようだ。

なんだこの迷惑な客人は!!

しかたなく、玄関のドアを開ける。文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが…。

伊織「なに無視してんのよ!」

亜美「遅いぞ兄ちゃん!」

真美「れでぃーを待たせちゃダメだよ兄ちゃん!」

即座にドアを閉めて鍵をロック、チェーンもかけてさようなら。

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピピピピピピピピンポーン…!!

バンバンバンバンバン…!!ドンドンドンドン…!!

伊織『開ーけーなーさーいー!!』

亜美『開けるんだー!兄ちゃんはすでに包囲されている!』

真美『兄ちゃーん!真美たちのこと嫌いになっちゃったのー!?』

チャイムを連打しドアを叩き大声で騒ぎ立てる。

P「うるせぇよっ!!」

さすがに我慢できねーよこれ。

たまらずに全部のロックを解除してまたドアを開ける。

伊織「さっさと入れればいいのよ」

P「お前なぁ…ご近所迷惑も考えろっての!ブルジョアジーの甘ったれお姫様にはわかんねーだろうけどなぁ!」

伊織「なんですってー!?せっかくこんなかわいい妹がお祝いに来てあげたんだから感謝の一つもしてほしいわね!」

P「はぁー!?誰も頼んでねぇっての!わかったら帰れ!俺は暇なお前たちとは違って忙しいんだよ!」

伊織「ぜーんっぜん仕事取ってこないのはどこのどいつよ!」

亜美「ちょっといおりーん…」

真美「ちょっと兄ちゃん…」

圧倒的兄妹喧嘩に双子もたじたじだった。

こういうところは似た者兄妹なのだろうか…。

言い合ってると、隣の部屋のドアが開く。

「うっさい!!痴話喧嘩ならよそでやれ!!」

当然、怒られる。痴話喧嘩じゃないです。

出てきた男性は俺たちを見ると…。

「警察呼んだ方がいいか?」

俺たちは必死で弁解してなんとか難を逃れた。

結局、俺の方が折れて、しかたなく家に上げることになった。

伊織「初めからそうしなさいよ」

納得いかねー!

伊織「みんなー、入っていいわよー!」

なんだって?

春香「こ、こんにちは…」

やよい「こんにちはプロデューサー!」

美希「お邪魔しますなのー!」

さらにぞろぞろと集まる765プロのアイドル達。

こんの暇人どもめ…。

俺のサンクチュアリが…。引っ越して初日なのに…。

千早「本当にいいのかしら…」

あずさ「ちょっと伊織ちゃん強引すぎなんじゃ…」

良識のある組は控えめな反応だ。

伊織「入れてくれるって言ったんだからいいのよ」

このクソガキめ…。

あとで絶対デコピンしてやる。

俺も俺で大人げないのだった。

それはそうとまだまだ来る。

雪歩「これお父さんから、先日はどうもって…」

癒しの雪歩。しかも手土産まで持ってきて…。

P「ありがとう。遠かったでしょう。さ、雪歩はどうぞあがってあがって…」

伊織「なんで雪歩にはえこひいきすんのよ!」

P「はぁ?自分のその無い胸に聞いてみやがれ!」

伊織「なんですってー!?」

真「ほらほら落ち着こうよ二人とも…また怒られるよ?」

P「ぐっ…!」

伊織「ふん…!」

真「それにボクたち手ぶらで来たわけじゃないしさ」

律子「そうですよプロデューサー。ちゃんと差し入れ持ってきました」

小鳥「プロデューサーさんの新居でお祝いしましょう!」

そこで俺はあることに気づいて、小鳥さんに近づく。

P「小鳥さぁん?」

ねっとりと粘着したように言う。

小鳥「な、何ですか?」

びくっと肩を震わせる小鳥さん。

そんな小鳥さんの肩を組むと、小鳥さんは蛇ににらまれた小鳥のように震え上がった。

P「俺の引っ越し先の住所、みんなに教えたのあなたなんじゃないですかぁ?」

小鳥「いいいいえ、ぜぜ、全然教えてないでありますよっ!」

なにキャラだよ…。絶対教えてるな。

そもそもこの人くらいしか知らないだろ、俺の住所。

P「今度、駅前の高級居酒屋食べ飲み放題おごりで」

小鳥「ぴよぉ…」

小鳥さんは地に膝をつき、しくしくとうなだれた。

美希「ハニー、狭ーい」

P「なら帰れ」

美希「それはヤ!」

このわがまま娘が…。

P「あと離れろ」

美希「だって狭いんだもーん、しょうがないよね?」

伊織「んなわけないでしょ!離れなさい!」

千早「また美希はプロデューサーに迷惑かけて…」

やよい「プロデューサー!私も片付けるの手伝いまーす!」

大天使やよいはいつも出演してる番組よろしく、お手伝いする気満々で来ていた。

P「ありがとうやよい。俺も片付けやるからお前らはベッドで寝るなり買い出し行ってくるなり、とにかく俺の邪魔にならんようにしてくれ」

美希「はーい。じゃあ美希はベッドで寝るのー!」

こいつはブレねぇ…。

春香「じゃあ私もお片付け手伝います!」

P「おー、ありがとな春香」

春香「いえいえ…私もこのくらいしかできないので」

とは言うけど実際、助かる。

あずさ「私は買い出しに行こうかしら…」

律子「あずささん、私も行きますよ。亜美と真美もいらっしゃい」

亜美「何でも買っていいのー?」

真美「どっちにしても兄ちゃんの邪魔になっちゃうから行った方がいいよね」

小鳥「私も行きますよ」

5人で買出しに行くようだ。

残りは俺の手伝いということになった。

このアパート間取りは広くないが別に狭いというわけでもない。

12人はやっぱり窮屈だけどな。

真「プロデューサー、これはどこに置けばいいですか?」

P「それはやっておくから他の頼む」

千早「プロデューサー、このCDラックはやっぱりこっちの方が…」

P「ああ、それは絶対そこに置いといて。ちょっと邪魔かもしれないけどそれは譲れない」

伊織「お兄様、いかがわしい本は全部捨てておくわね?」

P「俺はそんな本一冊も持ってない!」

やよい「プロデューサー、お洋服畳んでおきますね」

P「おう。…ちょっと、やよい、その畳み方教えてくれ」

雪歩「ひぃっ!ゴキブリ!!」

P「なに!?…買い出し組にコンバット買ってきてもらおうか。見つけたやつは俺が駆除しよう」

春香「…」

P「おい春香。俺の下着がどうかしたのか?」

春香「うえぇ!?…ななな何でもありませんよ!」

そうして全部片付いた。

美希「あふぅ…。あれ?なんだかお部屋広くなった?」

P「片付けたからそう見えるだけだろう。…美希はずっと寝てたな」

美希「ハニーの邪魔しないようにしたの」

P「まあいい。…みんなが真面目にやってくれたおかげで早く綺麗になった」

春香「えへへ…。それならよかったです。最初は迷惑じゃないかなーって思ったんですけど…」

真「そうだよね。伊織たちとのやりとりを見て不安になっちゃったよ」

P「当たり前だ。引っ越し当日にこの人数で押しかけてくるやつがいるかっての」

やよい「プロデューサー、あとは細かいところの掃除しましょう?」

流石はやよい。細かいところまで気を配っている。

P「そうだな。帰ってくるまでに掃除機かけてゴミまとめておこうか」

もうちょい大きめのテーブルがあれば、みんなで食事でもできそうなもんだけど…。

時間もあるし…買ってこようかな。

P「お前らいつまでいるの?」

伊織「いつまでって…適当に帰るつもりだけど」

千早「そうね。今、大体4時くらいだから、買い出しに行った人が帰って来て少しお祝いしたらって感じじゃないですか?」

P「そうか。…みんな夕飯食べてかない?」

俺がそう言うと時間が止まったみたいにみんな硬直した。

P「あれ?俺なんか変なこと言ったか?」

真「変じゃないけど…」

雪歩「プロデューサーから言われると思ってませんでした」

美希「ミキもちょっとびっくりしたけど、ハニーの手料理食べたいな」

伊織「ていうかお兄様料理できるの?私見たことないわ…」

やよい「伊織ちゃん。プロデューサーのお昼いつもお弁当だったよ?」

春香「コンビニのじゃなくて?」

驚きすぎだろ。そもそも男でも一人暮らしなら自分で家事とかやる必要あるし、料理だって安上がりになるから自炊の方がいい。

P「…で、どうすんだ?いるんならご家族に電話しておけ、上司にごちそうしてもらうって言っとけ」

やよい「私は帰らないと…」

P「ん、どうして?できれば頑張ってくれたやよいにはいてほしかったんだけど…」

やよい「弟たちが…」

そうだった。やよいは弟たちの面倒を見なければいけないのだった。

伊織「やよい、とりあえず電話してみたら?もしかしたら弟たちもやよいに楽しんできてほしいかもしれないわ」

やよい「でも…」

やよいはきっとみんなで夕飯を食べたい。

でも自分だけ楽しい思いをするのは気が引けるのだ。

P「ほら電話してみな」

受話器を渡す。

やよいは意を決して電話をかけた。

やよい「…もしもし。…かすみ?…あのね、今日お姉ちゃん、伊織ちゃん達とお夕飯食べに行ってもいいかなーって………え?ホントにいいの?…うん、うん。ありがと、かすみ。…じゃあ切るね、うん、ばいばい」

P「よかったなやよい」

やよい「はいっ!ありがとうございます、プロデューサー!…伊織ちゃんもありがとう!」

伊織「ふんっ!やよいだって、たまにはハメを外しても許されるってことよ」

真「…伊織は素直じゃないなぁ」

春香「でも伊織らしいけどね」

千早「よかったわ高槻さん」

他の子たちも残るようだ。

P「じゃあちょっと出かけてくるからあずさたちが帰ってきたら伝えといてくれ」

雪歩「どこ行くんですか?」

P「テーブル買いに…」

春香「テーブル!?」

P「今のやつじゃ、みんなで食卓囲むには小さすぎるからな」

伊織「ちょっと待ってお兄様」

P「何だ?」

伊織「テーブルならあげるわ」

P「どういうこと?」

伊織「今から新堂にテーブル持ってきてもらうの」

P「おいおい。俺はもう水瀬と関係ないんだからさ。それに新堂…さんも大変だろ?」

伊織「これは私からの引っ越し祝いよ?それに新堂だって困ったことがあればお申し付けを、と言っていたわ」

P「そうかもしんないけど…でもなぁ…」

伊織「もう電話するから」

と言ってさっさと電話してしまう伊織。

この場は甘えておくことにしよう。人の好意は無下にはできないからな。

P「悪いな伊織。…俺は夕飯の買い出しに行くよ」

春香「じゃあ私も!」

P「いいって、待っててくれ。すぐ帰るし。…留守の間は何してもいいから」

これといって何にもないけど…。

P「んじゃあ行ってきまーす」

美希「行ってらっしゃいなのー!見送るのは妻の務めなの!」

だったら家事をしてくれ…。

ともあれ俺はエコバッグと財布を持って出かけるのだった。

およそ半分ほど投下し終えました。

ちょっと加筆したい部分がありますので残りの半分ほどは1時間後くらいに更新します。

お待たせしました!
残り一気に行きます!
ちょっと長いですがお付き合いください!

春香「ところでプロデューサーさん何してもいいって言ってたよね…」

伊織「そうね、本当にいかがわしい本がないかちょっと探ってみましょう」

雪歩「えぇー!?」

真「プロデューサーがそんなの持ってたらなんだか引くなぁ…」

やよい「伊織ちゃん、いかがわしい本ってどういうの?」

伊織「…え?」

春香「男性がベッドの下とかに隠すようなHな本のことだよ、やよい」

やよい「はうっ!えっちな…ですか?」

千早「春香、あなた惜しげもなく高槻さんになんてことを…」

春香「千早ちゃん、誰もが知ってることをやよいだけ知らないのは不公平じゃない?」

千早「そう言われるとなかなか反論しづらいわ…」

伊織「あっさり折れてんじゃないわよ!」

雪歩「でも、本当にあるのかなぁ…」

美希「ミキはえっちな本があってもハニーのこと嫌いになったりしないもん!」

春香「そういう美希が一番ショック受けそうだよね」

残った子たちでくだらない議論が始まった。

ちょうどそこに一つ呼び鈴が鳴る。

やよい「か、帰ってきました!」

真「これはあずささんたちじゃない?」

雪歩「私、開けてきます」

雪歩が開けると帰ってきたのは予想通りあずさたちだ。

あずさ「ただいま~」

律子「結構、買いましたね…」

亜美「ケーキ買ってきたよー!」

真美「お菓子も買ってきたよー!」

小鳥「ただいま。…ふふふ、なんだか男の人の部屋にただいまって言いながら帰ってくると…」

律子「小鳥さん、帰ってきてくださーい」

再び出かけてしまった小鳥を律子が呼び戻す。

ワンルームでは未だに、いかがわしい本あるなし討論会が開かれていた。

伊織「だからね!お兄様はきっと持ってると思うのよ!」

千早「水瀬さん。あなた実の妹でしょ?…この家にあってほしいの?」

伊織「違うわ、本当にあったら失望してしまうのがわかるから、こうやって予防線を張っているのよ…」

春香「伊織も大変だね」

やよい「プロデューサーの家に…そんなものは…うぅ…」

律子「何を言い合っているの?」

雪歩「ちょっと…」

真「あ、お帰り!…ねえ、プロデューサーの家にいかがわしい本あると思う?」

帰ってきた5人に尋ねる真。

律子「帰って来ていきなり何よその話題は…」

あずさ「あらあら~」

美希「ミキは別にあっても気にしないよ?」

春香「美希、それ何回目?」

真美「ももも持ってるわけないじゃん!あの兄ちゃんが…」

亜美「えー?意外と持ってるかもよー」

小鳥「健全な男性なら普通ありますよね…。そして私は知ってます…。プロデューサーがむっつりスケベなことも!!」

男を知らない小鳥に視線が集まる。

適当なこと言ってんじゃねーよとみんなの表情がシンクロする。

しかし、口に出すものはいなかった。

あずさ「でも、確かにプロデューサーさんってお酒でがらりと変わっちゃう人だから、何とも言いづらいですよね…」

伊織「あずさ、何それ?詳しく教えてちょうだい」

あずさ「プロデューサーさんの名誉のためにも言わないわ…ふふっ…!」

この場にいる全員があずさに敗北感を覚えるのだった。

伊織「ふん!…まあいいわ。…こうなったら賭けをしましょう!」

春香「賭け?」

千早「賭けって…」

やよい「ダメだよ伊織ちゃんお金のやりとりは…」

伊織「そうじゃないわ。…みんな、お兄様がそういう本を持ってるかどうか賭けをして、負けたら罰ゲーム!…で、どう?」

亜美「やるやる!」

真美「へー、面白そう!」

律子「でもこれ、賭けとして成立するのかしら…」

真「だよね…」

雪歩「失礼ですけど私はあると思うな…。お弟子さんたちもそういうの見てたし…」

雪歩のトラウマ加速の原因にもなっていたりする。

千早「まあ、萩原さんの言う通りよね…」

美希「ミキもあると思うな。あっても気にしないけど!」

春香「やよいはどう?」

やよい「え!?私ですか…?えっと、その…」

小鳥「正直に言っていいのよ?」

やよい「………あるかもです」

やよいがこれだから他の人も当然ある方にベットするかと思いきや…。

あずさ「私は無い方で…」

小鳥「あずささん、正気ですか!?」

この鳥、失礼である。

あずさ「プロデューサーさんのことですから、もしかしたら…。それに賭けが成立しないので…」

春香「大人な意見…」

再び敗北感を覚えるアイドル達であった。

そうして捜索開始、本棚、ベッドの下、押し入れの中、怪しい場所を調べていく。

すると…。

千早「みんな、ちょっとこれを見てもらえるかしら」

大きめのCDラックだ。インテリアとしても使えて、Pが配置にこだわっていたものである。

春香「見つけたの!?」

小鳥「やっぱりあったのね…」

千早「いえ、そうじゃなくて…私たちのCDが…」

律子「なぁんだ…。それ、プロデューサーはもらってるのよ?」

千早「いえ、なぜか二枚ずつ…」

律子「小鳥さん。二枚ももらえましたっけ?」

小鳥「いえ、一枚ずつしかもらえないはずですけど…」

雪歩「じゃあこれって…」

伊織「お兄様、みんなのCDもう一枚ずつ買ってくれたってこと?」

美希「ハニー…ミキ嬉しいな。もう本なんてどうでもいいって感じ!」

千早「ちょっと待って!…これは、ジュピターと新幹少女とサイネリアのCDもあるわ!」

美希「やっぱりハニーの粗を探すしかないの!」

真「手のひら返すの早いなぁ…」

春香「うわぁ、しかも全部のシングル集めてるよ…」

やよい「プロデューサーは勉強熱心なんですね…」

伊織「そういう見方もできるけど…先日の報道を忘れたのかしら…」

雪歩「バレンタインイベント…!」

伊織「そうよ。そこでお兄様は新幹少女のひかりを助けているわ!」

だから何なのか、よく考えるといまいち繋がらないのだが、ヒートアップし過ぎていた。

春香「これは問い詰めないと!」

美希「ハニーを叩いて埃をボロボロ出してやるの!」

つまり、単純に嫉妬しているだけだった。

亜美「ねえ!みんなこれ!」

なんだかやけに大人しいと思っていた双子がここで声を上げる。

亜美「ついに動かぬ証拠を見つけてしまったようですな…」

真美「そんな…」

亜美は探偵よろしくしてやったりと振る舞うが、真美はガチで絶句していた。

本棚に堂々と入っていた新幹少女の写真集、たまーに際どいショットがあるくらいなのだが、なんだかみんな許せなかった。

そうして賭けはあずさの一人負けということになった。

P「さーて何作ろうかなぁ…」

夕飯の後でどうせお菓子とか食べるんだろうから軽めの方がいいな。

主食、主菜、副菜、汁物。俺はこの四つを最低でも食卓に並べるように気を付けている。

P「まあ適当に刺身でいいか」

でももうちょい趣向を凝らすのも面白いかも。

色々買って帰宅。

家の前にはなんか高級そうな車が止まってた。

新堂と顔を合わせるのか。なんだかな…。

P「ただいま…」

あずさ「おかえりなさい、あなた」

P「…………………………こら、悪ノリはやめなさい」

不覚にもドキッとしたからマジでやめなさい…。

こつっとあずさの頭を軽く叩く。

あずさはちょっぴり舌を出して恥ずかしそうに微笑んだ。

亜美「あはは…!兄ちゃん顔赤くなってるー!」

P「うるせーよ。あずさはなんでこんなことしてんだ」

赤くなってるあずさの代わりに真美が答える。

真美「あずさお姉ちゃんへの罰ゲームなんだよ?兄ちゃんとの新婚ごっこ!」

P「俺と夫婦になるのは罰なのか…」

小鳥「そういうわけじゃないと思うんですけどね」

玄関でなんやかんやと話して奥のワンルームに行くと、新しいテーブルが用意されていた。

新堂「坊ちゃま、お久しぶりでございます」

P「あ、新堂…さん」

新堂は俺に近づくと顔を歪ませて、なんと言ったらよいかわからない風だった。

新堂「お久しぶりでございます、坊ちゃま…」

P「ちょっとやめてくれ…くださいよ。俺はもう水瀬とは関係ないんだし…」

新堂「私には関係あります。坊ちゃまがおしめを召していた頃から仕えておりますので…」

P「ああ、たくさん迷惑かけたもんな…。それでも俺だってもう大人だぜ?」

新堂「ええ、立派にご成長なられて…。この新堂、今にも涙が止まらなくなりそうでございます」

P「あはは…大げさだなぁ。新堂もいつも伊織の面倒見てくれてありがとな」

なんか拍子抜けした。

新堂にどんな目で見られるのかとびくびくしていた自分が恥ずかしい。

彼はいつまで経っても俺を心配していたのか…。

新堂は目に溜めた涙を拭って、一礼した。

新堂「それでは爺はこれで失礼します。坊ちゃまとお会いすることができて満足でございます」

新堂はあの高級車で待機してるんだろう。

伊織の送り迎えが残ってるもんな。

春香「やっぱりプロデューサーも名家の生まれなんですね…」

雪歩「ほんとですぅ…」

律子「伊織もね」

伊織「あんまり頼ることはしたくないんだけどね。今日は特別よ」

P「俺の引っ越しで大げさだな」

伊織「でもあんなぼろアパートからこれだけグレードアップしたんだから、多少大げさにもなるわ」

P「俺は前の家も気に入ってたんだ。あれはあれで慣れるといいもんだよ」

もちろん最初は本当に嫌だったんだけどな…。

急に牢屋に入れられたみたいだったよ。

千早「でも坊ちゃまって…ふふっ…」

真「想像できないなー。こんな言葉遣いの悪いプロデューサーがいいとこの生まれなんて…」

P「笑うんじゃねぇ。昔の話だ」

やよい「伊織ちゃんもお嬢様って…。お姫様みたい!」

やよいのその表現は的確だ。

P「とにかく、俺は飯作ってるから適当に時間潰してくれ…」

あずさ「私も手伝いますよ」

P「そうか、助かる。なら鍋にお湯と出汁入れて沸かしてくれ。出汁は買ってきたからその袋に入ってる」

あずさ「はい。わかりました」

小鳥「私も食材を切るくらいします」

小鳥さんとあずさは手伝ってくれるようで、他の子たちは向こうでガールズトークをしていた。

律子「やっぱり新婚さんみたいよね…」

雪歩「プロデューサーと…どっちがですか?」

律子「うーん、あずささんかな?」

真「そうかなぁ、ボクは小鳥さんだけど…」

春香「私はあずささんの方がしっくりくるかも…」

美希「ミキはミキが一番ハニーにふさわしいと思うな」

春香「えー…?美希はまずあの土俵に立とうよ…」

真美「兄ちゃんって何歳なの?」

千早「確か、23か24って聞いたけど」

伊織「今は24だと思うわ」

真美「真美と11歳も離れてる…」

亜美「じゃああずさお姉ちゃんとも、ぴよちゃんともあんまり離れてないね」

千早「でも私は高槻さんがプロデューサーの奥さんにふさわしいと思うわ」

やよい「はわっ!?私ですか…?」

律子「そうねー。やよいならしっかりしてるし、プロデューサーに限らずいいお嫁さんになれると思うけど…」

真「ところで小鳥さんはいくつなの?」

律子「小鳥さんは確か2Xだったと思う」

雪歩「え?」

亜美「りっちゃん今なんて?」

律子「え?2Xって…」

春香「なんか聞き取れなくて…20といくつなんですか?」

律子「聞き取れない?いや、だから20とX歳だって…」

真美「うあうあー!なんか怖いよー…」

千早「これ以上はこの話題に触れない方がいいわね…」

なんだか盛り上がったと思えば、戦慄してた。

P「ああ、二人とももう大丈夫ですよ。あとは俺がやるので味噌汁だけ注いで持っていってください」

バラバラな大きさと柄のお茶碗に味噌汁を入れて持っていく。

何度か往復しなければならなかった。

俺はというと底がやや深めのお皿を13枚用意する。

同じものが13枚もあるはずがなく、見てくれのいいもの、やや大きめのものを基準にして選ぶ。

P「もうできるから手を洗ってきなさい」

手洗い大事!

みんな聞き分けよくぞろぞろと洗面所に向かう。

律子『こら!亜美と真美はもっとちゃんと洗いなさい!!』

律子の怒声が飛ぶ。こういうときにちゃんと注意してくれるのは助かる。

俺は多めに炊いたご飯をよそって、切ってもらった葉のものと刺身を上に盛る。

最後に醤油やらマスタードやらいろいろ調合して作ったソースをかけて完成。

名付けて海鮮サラダ丼。まあ、名前はどうでもいいんだけど…。

もともとはご飯の上にサラダだけだったのだが、彩と味と健康を考えて魚介を足し、誕生したのがこのメニュー。

意外とお手軽だし、見た目、食感ともに良い。

味は大部分がこの特製ソースに委ねられるため、あんまり冒険したソース作りはおすすめしない。

みんなは戻ってくるなり、目を丸くしていた。

真「なんですかこれ?」

P「丼物は嫌だったか?」

真「いやそうじゃなくて…」

なんだか不思議そうに見つめていた。

小鳥「へー、いい感じの見た目ですね」

やよい「おいしそうです…」

亜美「ご飯の上にお刺身はわかるけど…」

真美「サラダ…?」

あずさ「あら、知らないの二人とも?…最近はご飯の上に葉のものが乗ってるお店もあるのよ?」

へー、と亜美真美。

P「まあ食ってみてくれ、箸でいけるから。…俺はちょっと片づけしてくる」

伊織「お兄様の料理…ま、お手並み拝見ね」

そう言われてもなぁ。簡単だから、それ…。

雪歩「伊織ちゃん、すごく嬉しそう」

伊織「なっ…にを言ってるの!?別に食べられれば何でもいいんだから!」

律子「素直じゃないわね」

美希「ハニーの手料理いっただきまーすなの!」

春香「ヘルシーそうだし、面白ーい!…いただきます」

千早「いただきます…」

それぞれ食べ始める。

俺はつい、みんなが食べるところを見てしまう。緊張して仕方なかったのだ。

『おいしい…』

そう言ってくれたことに本当に安堵した。

軽めの夕食を終えたのが、午後の6時ちょい過ぎ。

食後の休憩を取っていたのだが…。

伊織「あ、そうだお兄様、聞きたいことがあるの…」

P「なんだ?」

伊織「これ、どういうこと?」

取り出したのは新幹少女の写真集。

P「は?どういうことって…新幹少女の写真集だろ」

伊織「なんで他事務所のアイドルの写真集なんて持ってんのよ!」

P「いや、買ったからに決まってんだろ?お前、何怒ってんだ?」

見渡せば、白けた視線でこちらを見る一部の女の子たち。

P「よくわかんねーな。別にいいだろ?アイドルの写真集くらい…」

何故だかわからないが俺はここは引いては負けだと思った。

美希「ハニー…。なんでミキの写真集が最初じゃないの?」

P「いや、美希のは出てないだろ…」

真美「なんで新幹少女の写真集なんてかったのさー!」

P「え?なんでって…そりゃ先日共演させてもらったし、いい子だし、ファンになったからだけど…」

伊織「私以外のアイドルのファンになっちゃダメ!」

P「なんだそりゃ!…いいだろ別に!」

春香「でもまあ、そこまで悪いことじゃないような気もするよね」

いや、一つも悪い部分なんてない気がするんだが…。

律子「他のアイドルのリサーチと考えれば…」

やよい「やっぱり勉強のためだったんですね」

だからファンだって言ってんだろ。まあいい、また話がややこしくなるからな。

千早「本当にいかがわしい本は無かったみたいだし、私は改めて尊敬し直しました」

P「千早は嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

小鳥「あると思ったんですけどねぇ…」

P「最初に無いって言ったじゃないですか!」

あずさ「でもやっぱり、他のアイドルの写真集とシングル全部出てきたら複雑ですね…」

何してもいいとは言ったが、ここまで捜索されるとは思わなかった。

休憩もそこそこ取ったところでケーキやらお菓子やら取り出す。

女の子曰くお菓子は別腹ということだ。

あずさや小鳥さんは酒まで開けていた。

あなたたち帰れるの?

あずさ「うふ、うふふふ…!プロデューサーもどうですかぁ?」

P「いやいや、俺が飲んだら誰があなたたちを送るんですか?」

小鳥「飲みましょうよー!ノリわっるーい!きゃはは…」

P「あんたは自重しろ!!」

真美「大人って楽しそう…」

真「そうだね…。でもあれは…」

律子「紛うことなきダメな大人の例ね…」

P「ほんとだよ。あずさみたいにもうちょっと上品に飲んでくれないかなぁ」

春香「あれでも上品なんですか?」

あずさ「うふふ…」

P「まあな。ちょっとだらしなく見えるかもしれないがセーブしてるだろ。あずさはお酒強いしな」

伊織「それに比べて小鳥ときたら…」

あずさ「でも~、プロデューサーさんも酔っ払ったらすごいんですよぉ?」

いつにも増しておっとり話すあずさ。

P「俺にそんなことあったか?」

小鳥「私は憶えてますよっ!べろべろになったプロデューサーさん!あははは…!」

小鳥さん笑いすぎ。あと絶対憶えてねーなこの人。

春香「でも一度発狂したことあったから想像できちゃうなぁ…」

やよい「あの時のプロデューサー、怖かったです」

律子「あのあとの帰りに周りから変な目で見られてると思ったら首に跡が…」

P「わ、悪かったって!でも俺そのこと憶えてねーんだよな」

雪歩「びっくりしたんですよ?プロデューサーがおかしくなっちゃったと思って…」

あずさの会話が中断されたかのように思えたが…。

あずさ「プロデューサーさんったら、私が支えてないと倒れそうなくらいべろべろで、私に甘えたり、抱き付いたり、耳や首にキスしたり、耳元であずさ、あずさって…」

構わずに俺が酔った時のことを話し出した。…と思ったら、内容がとんでもない。

あずさ「そのとき私、ああ、この人の子供をうむぅっ…!……むぐ…」

俺は後ろに回って慌ててあずさの口を押さえる。

P「ストップだあずさ。その話はやめてくれ、その時の記憶は無いがそれはダメだ。ヤバい」

伊織「どういうことなのお兄様…?まさか小鳥にもやったんじゃないでしょうね!?」

P「やってない!…と思う」

伊織「何よ!その不安な返事は!」

というより、俺がべろべろに酔ってる状況で小鳥さんが何ともないはずがない。

けれども伊織はぷんすか腹を立てていた。

亜美「というかあずさお姉ちゃんも…」

千早「そうね。少なくとも上品な飲み方には見えないわ」

酔ったあずさはお喋りさんであった。

小鳥「ぷーろでゅーさーさぁん!!お酒買ってきていいですかぁ!?」

P「ダメダメ!あなたは自重してくださいってば!!」

あずさ「あ、私も~」

P「あずさもおしまい!」

気が付けば夜の8時。

そろそろお開きということになった。

P「伊織は外で新堂が待ってんだろ?俺は酔っ払い二人と、誰か俺の車でいいって人を送っていくから、後はそっちに頼んでいいか?」

伊織「ええ、いいわよ。じゃあやよいと亜美、真美、真、雪歩を送るわ。いいわよね」

当然だが反対する子はいない。

P「じゃあ残りは俺の方だ。高級車じゃないうえに酔っ払いも二人いてすまないな」

千早「そんなの気にしませんよ」

律子「じゃあ行きましょうか」

片付けないまま外に出る。

外には新堂の車がやっぱり待機していた。

新堂「どうぞお乗りくださいお嬢様方」

真「うわぁ…こういうの憧れだったんだ。なんだか嬉しいや」

なるほど、真を誘ったのは伊織の気遣いかな。

亜美「控えおろう!」

真美「面を上げい!」

それはなんか違うと思う。

やよい「うっうー!お世話になります!」

雪歩「よろしくお願いします」

挨拶をするやよいと雪歩。

P「じゃあ新堂、彼女たちは任せたよ」

新堂「お任せ下さい。この新堂、命に代えてもお嬢様たちをお送りします」

ははは…。相変わらずだな新堂は…。

伊織「それじゃあね、お兄様」

P「ああ、じゃあな。遠慮せず甘えていいんだからな?」

伊織「機会があればそうさせてもらうわ」

そうして、伊織が乗った高級車は発進して夜の道に光を灯して去っていく。

P「さあ、俺たちも行こうか」

律子「あずささんと小鳥さんは後ろに積んでおきました」

P「了解、春香と千早と美希から送っていいよな?」

律子「もちろんです」

俺たちもすぐに出発するのだった。

みんなを送り、新居へ帰ってくる。

家の前まで来て振り返り、空を見てみると、意外にも星が見えるのだ。

こんなこと以前にもあったな。

しばらく星を眺めていると意外な人物から声をかけられた。

女P「もしかしてPさんですか?」

振り返ると女Pさんが立っている。

女P「こんなところで何してるんですか?」

最初は不思議そうな視線を向けていたが、俺だと認識するとぱっと笑顔になって側まで寄ってくる。

P「あなたこそどうしたんです?」

女P「どうしたって、そこ私の部屋ですから」

俺の部屋の隣を指差して、おかしいな、という風に笑う女Pさん。

女P「Pさんこそ何でここに?」

P「俺の家、今日からここなんですよ」

そう言って自分の部屋を指し示す。

女Pさんは二度ほど俺の指とその先を交互に見ていた。

女P「えーっ!?」

驚く女Pさんはわたわたと落ち着かなくなる。

P「大丈夫ですか?」

女P「すいません。ちょっと驚いちゃって…」

P「これからよろしくお願いします」

女P「こ、こちらこそ…」

俺がお辞儀すると、彼女もお辞儀を返す。

少しの間、沈黙する。

女Pさんは何かを話そうとしているが、ためらっているのか視線だけを動かしている。

俺も視線で応える、どうしたんですか?

女Pさんは手に持っていたビニール袋を前に出す。

女P「で、でしたら!一緒に飲みませんか!?わ、私今日一人で飲もうかと思ったんですけど、寂しいので!…Pさんがよければご一緒にどうですか!?」

慌てたのか早口で言い切った。

ビニールの中には缶のチューハイが数本、ビールも二本入ってる。

どんだけ飲むつもりだったんだろう…。

P「はい。俺でよければ、愚痴聞きますよ?」

女Pさんはキョトンとしたのも束の間、ニコッと笑って、お願いしますと頭を下げた。

俺は片づけをしてない部屋に彼女を入れる。

P「ごめんなさい。今から片付けますから、くつろいでいてください」

女P「私も手伝いますよ」

二人でごみをまとめて簡単に掃除も済ませる。

お酒を取り出し、グラスを用意する。

P「なんか物足りないですね」

女P「あ、おつまみ買ってなかったです」

P「じゃあなんか作りましょうか」

女P「私も作ります」

二人で一品料理を作る。食材は買い溜め分を少し使った。

用意ができた。今は午後10時を回っている。

二人横並びでソファーに腰掛け、グラスにビールを注ぐ。

『乾杯!』

お互いのグラスを合わせて料理と一緒にお酒をいただく。

それからほどよくお酒も回り、女Pさんの愚痴もエスカレート。

世間話も仕事の話も下世話な話もいろいろしているうちに…。

気づけば朝になっていた。

どうやら眠っていたらしい。

彼女はというと俺に寄りかかっていた。俺の肩に頭を乗せる形で寝ていた。

そっとしておこう。寄りかかられて不快な気分はしない。

このまま、また寝てしまおうかな。

P「あ、仕事!」

とまあ、そういうわけにもいかず。

女Pさんを起こして自分の部屋に帰す。

急いで支度をして家を出ると、隣のドアも同時に開く。

女P「急ぎましょう!」

とは言っても一緒に行くわけではなく、アパートを出てすぐに別れる。

俺はギリギリで遅刻したけど、向こうは大丈夫だろうか。

その日は、彼女が寄りかかったときの寝顔が頭から離れない一日になった。

おちまい!
Pの引っ越しの話でした!
765プロアイドルの登場が一部少なくなってるので、
みんな登場させたいなーと思って書いてみました。
蛇足かなぁとも思ったんですがいかがだったでしょうか?

書いてて割と楽しかったので後悔はないですが書き溜めが少なくなったので
次回の投稿は間隔が開くと思います。
それではまた!

>12人はやっぱり窮屈だけどな。
全員だとP入れて15人で5人減ったとしても10人じゃね?と思ったがたかひびがいないの思い出した
まあそれでもP入れて13人だけど単純に自分を数に入れてないだけか
たかひび来るかな…961プロにはジュピターがいてそのジュピターに女プロデューサーってことはたかひびはいないだろうし…

>>387
ご指摘助かります!そして疑問にお答えします。
まず、Pはお客さんの人数しか数えてません。
次に響と貴音は出ますので安心してください。

次回はメインのお話、次々回はサブのお話をただいま書き溜めています。
というより、次回分は書き終わったのですが書き溜めがないと不安なので、
次々回分が書き終わり次第投下しようと思います。
この二つが終われば響と貴音が登場、という予定です。
いつになるかわかりませんが、しばらくお待ちください。

次々回分が書き終わってないのですが、
加筆しまくってたら長くなってきたので、
次回分を今日か明日にでも小分けにして投下する予定です。

月日は流れ3月。

今月頭にあるのは女の子のお祭り。そう雛祭りだ。

男である俺には無縁のものかと思えば今年はそうではなかった。

都内にある某公園ではアイドルの雛祭りライブが開催される。

亜美真美、やよいに雪歩と765プロも徐々に目立ってきたおかげで今回オファーがかかった。

今回は千早を選抜した。

選考基準は歌やダンス、つまり純粋なパフォーマンス。

美希とかなり悩んだが、今回は歌がメインなので千早なわけだ。

特に歌に魅力があるのは確かだし、本人は歌の仕事を希望していたからちょうどいい機会だと思い、決断に踏み切った。

千早「プロデューサー、ありがとうございます」

実は歌メインのお仕事はシングル収録を除けば今回が初。

P「いいって。俺としても、こう初めての歌のオファーは千早に振ろうって思ってたから」

千早「プロデューサー、私に歌のお仕事が入ってこないの気にかけてましたよね」

P「え?」

千早「この前、プロデューサーが小鳥さんと話してる時にそう聞こえたので…」

P「ああ、そうだったのか」

千早「私、嬉しかったです」

優しい眼差しで言う千早。

その顔がファンの前でもすんなりできるといいんだけど。

P「なんだ、散々待たせて悪かったな。今日は思う存分お客さんを楽しませてくれ」

千早「はい…」

なんだか調子が悪いのか返事もどこか気の抜けたものだ。

P「さあ、まずは挨拶に回ろうか」

今回のライブは6月、9月、12月に行われるものと合わせて通称4大シーズンアイドルライブと呼ばれるものだ。

新幹少女やサイネリア、頭角を現し始めたジュピター、と出演者にも顔見知りが多い。

さらに人気絶頂の魔王エンジェルも当然参加する。

彩音「あら?765プロのプロデューサーさん?」

P「あ、彩音さん。ご無沙汰しております」

彩音「いえいえ、こちらこそ」

お互いにぺこぺことお辞儀をする。

P「本日はうちの如月千早がお世話になります」

千早「如月千早です。よろしくお願いします」

彩音「千早ちゃんね。サイネリアの鈴木彩音よ。よろしく。…それにしても765プロさんはどんどん新しい子を出していくんですね」

P「ええ、仕事に合ったアイドルを選出してるのが今のうちのスタイルなんです」

彩音「じゃあ今日は歌の方、期待してもいいのかしら?」

P「実力はあるはずです。本番で出し切れるかどうか…」

彩音「なかなか酷なことを仰るのですね。初めてでこの舞台はこたえると思いますけど…」

P「あはは…」

確かに…。そこんとこあんまり考えなしだった。

千早「なんとか乗り切ってみせます!」

彩音「やる気十分ね。でもやる気だけではどうにもならないことだってあるのよ?」

千早「そのために今まで力をつけてきましたから」

彩音さんの挑発に食ってかかる千早。一触即発のように感じられたが…。

彩音「いいじゃない千早!本番楽しみにしてるわ!」

と彩音さん的には好評だったようだ。

雑談もほどほどにその場を後にした俺たちは新幹少女の面々と鉢合わせる。

ひかり「あ、Pさん!」

いち早く気付いたひかりちゃんがすぐに駆け寄ってきた。

ひかり「あの、先日は助けていただいてありがとうございました」

先日とはもちろんバレンタインイベントのことだ。

P「いやいや、もういいって。怪我も無かったんだしさ」

ひかり「はい。Pさんのおかげです」

そうしてひかりちゃんはこっちをちらちらと窺い、そわそわと落ち着かなくなる。

ひかり「それで、これ、お礼にクッキー焼いてきたので、よかったらどうぞ!」

両手でかわいく差し出すひかりちゃん。

これ持ち歩いてたってことは俺のことさがしてたのかも…。

ちょっぴり嬉しくなる。

俺も両手に乗せてもらうようにして受け取る。お礼とあれば無下にはできない。

P「ありがとう。ちょうどお腹空いてたんだ」

ひかり「それなら良かったです…」

そこで、つばめちゃんとのぞみちゃんがやってくる。

つばめ「よかったね、ひかり!早いとこ見つかって…」

のぞみ「Pさんに何かご迷惑おかけしてたらごめんなさい」

P「迷惑だなんてとんでもない。前のお礼ってひかりちゃんにクッキーいただいたんです」

のぞみ「そうだったんですか。だから、ひかり落ち着きなかったのね」

ひかり「二人とも黙っててごめん…」

つばめ「ううん!気にしないでって!」

仲睦まじい3人を見守ってる中、隣から千早が小さな声で話しかけてきた。

千早「プロデューサー」

P「どうした?」

つられて俺も小声になる。

千早「そのクッキー、この場で食べた方がいいと思いますよ」

P「え、どうして?」

千早「それは、なんとなくです」

変なことを言うのだなと思ったけどこういう時の直感って意外と大事なのかも…。

言われたとおりにしてみる。

P「ひかりちゃん」

ひかり「ふぁ…はい!?」

ひかりちゃんは慌てた様子で反応してた。

P「クッキー食べてみてもいい?」

ひかり「どど、どうぞ!」

俺はありがとうと一言。袋を開き、クッキーを一枚取り出す。

P「いただきます」

ひかり「あ…。め、めし、召し上がれ…」

かーっと紅潮するひかりちゃん。

つばめちゃんとのぞみちゃんはその様子を見て、苦笑いや呆れた表情を浮かべている。

そんなひかりちゃんはというと俺を凝視していた。

ハラハラとした気持ちがこっちにまで伝わってきて同じように緊張してきた。

なんだか恥ずかしい…。

クッキーを口に入れ、よく味わって飲み込む。

P「うん。すごく美味しい…」

俺がそう言うとひかりちゃんは緊張の面持ちから一転、ぱぁっとした笑顔を見せた。

ひかり「よかったぁ…」

笑顔のまま、ほっと一息つくひかりちゃん。

俺は千早をチラッと見る。

千早は俺の視線に気づいたようで、得意そうな顔をした。

P「あー、そういえば自己紹介がまだだったんじゃないかな?」

千早「そうですね。…如月千早です。よろしくお願いします」

さばさばとした態度で千早が会釈する。

のぞみ「新幹少女ののぞみ。よろしく」

つばめ「私は同じくつばめ、Pさんには以前イベントでお世話になったわ」

ひかり「同じくひかりよ。…あ、ごめんなさい。私ったらPさんだけでアイドルの方の分を…」

千早「いいえ、お気遣いなく。プロデューサーへのお礼を私も受け取るのは違いますから」

ひかりちゃんはホッとしたようだった。

千早「それでは失礼します」

千早は他の挨拶に向かうつもりだ。

つばめ「また後でね、千早ちゃん」

のぞみ「お互い、いいステージにしましょう!」

千早「はい、ぜひ…」

少し振り返り、優しく微笑む千早。

P「気を悪くしないで…。確かに千早は少し無愛想なところあるけど…」

ひかり「ええ、本当は優しいですよね?」

初対面でちゃんと分かってくれる人もいるんだ。

千早の態度はやっぱりというべきか、なかなか理解されにくいから。

頑固なやつではあるけどね。

つばめ「ほら、ひかり。私たちも行くよ」

ひかり「え、もう?」

つばめ「もう?っていつまでいるつもりなの!?」

のぞみ「業界関係者だからって他の事務所の男性と長い間一緒にいたら怪しまれるわよ?大きな会場ほど、どんな奴がいても不思議じゃないし…」

ひかり「そ、そうよね。…それじゃあ、Pさん、また…」

ひかりちゃんの微笑みはどこか儚げだった。

P「ああ、またね。ひかりちゃん」

そう言うと彼女は少し表情を緩ませた。多少の嬉しさが滲んでいたように見えた。

そして何かを振り切るように足を踏み出す。俺から離れる方向に…。

メンバー二人もひかりをよろしくね、と残して去っていった。

新幹P「よぉ、Pくん」

P「あ、おはようございます」

ちょうど入れ替わりで新幹Pさんがいらっしゃった。

新幹P「若いってのはいいねぇ…。俺の高校時代にそういうのは無かったからな」

P「あはは…」

新幹P「今日もよろしくな」

P「はい。こちらこそよろしくお願いします」

実は新幹Pさんとも交流があり、先日は女Pさんと3人で飲みに行ったりもした。

俺たちの先輩プロデューサーということで、いろんな話を聞かせてもらい、有意義な時間を過ごせたと思う。

その後、酔っ払って大変だったけど…。

新幹P「いやあ、この前は迷惑をかけたね」

P「迷惑だなんてとんでもない!もっと苦労させてください」

と言いつつ、やっぱりこの前は面倒だったなと思い返す。

新幹P「はっはっは…!やっぱり君はいい男だよ。彼女の一人もいないなんて信じられん」

P「恐縮です。でも俺はまだまだですからね…」

新幹P「まぁ彼女もすぐできるさ。もっとも女性がらみで苦労するだろうけどね…」

P「やだなぁ、俺はそんな見境なしじゃありませんって…!」

そうだよね?

新幹P「うちのアイドルはまだ駄目だぞ?」

P「そそ、そんなことしませんよっ!」

新幹Pさんは笑って茶化す。

新幹P「君ならそう言うと思ったけど、俺は彼女たちが望むなら止めないさ」

普段からやる気の無さそうな新幹Pさんは、やっぱり無気力にそう言った。

P「そうですか。でも彼女たちなら俺みたいな出来損ないより、素敵な男性を見つけられると思うんですけど」

新幹P「君のそういう価値観はわからんなぁ…」

やれやれと、考え方の差に呆れてるのだろうか。

新幹P「彼女たちが君を素敵だと言ったら君は素敵な人間なんだ。恋愛ってのは客観的な視点で見ることほど愚かなことはないよ。全部そいつの主観に委ねられるだけだ」

P「そういうものですか…」

新幹P「そういうもんだ。…俺の妻もな、印象にも残らないパッとしないようなやつだったけど、気が付いたら隣にいた」

P「…」

新幹P「かけがえのないものはすぐ近くにあるんだよな。灯台下暗しってやつか…。近過ぎて見えないことも多々あるものだ」

P「なんだか深いですね…」

新幹P「まさか…!これが至極単純だってことがいつかわかると思うぜ?」

新幹Pさんはニッと口の端を上げる。

こういう気取った仕草が妙に似合う。気取ってはいるがキザではない。

新幹P「ははっ…!説教するつもりはないんだが、どうにも説教臭くていけないな」

P「いいえ、視野が広がって俺はためになってますよ?」

新幹P「Pくんは本当に気遣いが上手いな。未だに勘当の話を疑っちまうよ」

ほう、と感心まじりに驚く新幹Pさん。

新幹P「まあ、おっさんが話過ぎてもどうしようもないからな。今日はお互い盛り上げていこうよ」

P「はい。全力を尽くします!」

新幹P「元気があっていいね。それじゃ、また…」

P「はい。…また飲みに行きましょう」

新幹P「おう」

しばらく新幹Pさんの背中を見送る。

無気力そうな背には今まで培ってきたキャリアを感じる。

伊達に新幹少女のプロデューサーをやっていない。

俺はちょっとした憧れを抱き、千早のもとへ急ぐのだった。

いったん終わります。
ご飯食べてちょっと書き溜めたらまた更新します。

お待たせしました。
再開します。

すぐに千早は見つかった。

奥で何やら話してるのは魔王エンジェルの三人だ。

普通に会話している。

千早「あ、プロデューサー」

P「悪い、待たせたな」

千早「いえ、東豪寺さんたちと話していたので時間は気になりませんでしたが…」

東豪寺?…どっかで聞いたことあるな…って当然か。

魔王エンジェルのメンバーなんだから耳にしていて不思議ではない。

俺は他のアイドルのリサーチはあんまりしない。

そういうところは勉強不足だ。

視線を千早から魔王エンジェルに移すとやはりそこには見覚えのある女の子がいた。

だから有名な彼女たちはテレビで目にしていても不思議ではないのだが、そういうのではなくて…。

俺は一人の女の子をまじまじと見る。

その女の子は、どうかしましたか?と可愛らしく首をかしげる。

やっぱ初対面かな?

P「…初めまして、765プロでプロデューサーを務めておりますPと申します」

気を取り直して挨拶をするが返事は意外なものだった。

麗華「初めましてじゃないわ」

P「え?」

驚く俺を見て、やれやれとため息をつく東豪寺さん。

麗華「私のこと忘れたの?伊織のお兄様」

P「どうして伊織のことを?」

ますます驚く俺にすっかり幻滅していた。

麗華「もう!いくら水瀬家の次男だからって、この東豪寺麗華を忘れるなんて許しがたいわ!」

そこまで言われてようやく思い出す。

P「あ…あー!じゃあ東豪寺っていうと、水瀬家と家族ぐるみでお付き合いしてた…」

麗華「そうよ…。…私はあなたに会いたくてしかたなかったのに」

ぼそっと呟く麗華。

独り言だったので聞こえなかったことにした。

P「なんといいますか、申し訳ありません」

麗華「その喋り方やめていただける?」

P「いえ、ですが私はもう水瀬家とは関係ありませんので東豪寺家である麗華さんに対して無礼かと…」

麗華「あなたは最初から失礼だったと思うのだけれど…」

P「もう大人ですからね」

麗華「嫌だ。以前みたいに麗華って呼んでほしい…」

そんな顔しないでくれ。

りん「あのーお二人さん盛り上がってるところですけど私たちのこと忘れてない?」

ともみ「自己紹介、まだ」

千早「そうね。久しぶりの再会で積もる話はあると思いますけど…」

P「ああ、すまない。…お二人のお名前も教えていただけますか?」

ちょっと形式的だが改めて尋ねる。

りん「はいっ!魔王エンジェルの朝比奈りんでーす!本日はよろしくお願いします!」

元気できゃぴきゃぴした女の子、やよいに似た黒髪のツインテールが特徴的で、つくっている甘い声がどうにも男ウケしそうだ。

ともみ「私は三条ともみ、よろしく」

口数が少なく短髪で、クールな雰囲気を纏い、他の子に比べ長身でスタイルもいい女の子。

P「朝比奈さんに三条さん、よろしくお願いします」

名刺を差し出す。

朝比奈さんは受け取った名刺をじっと見ていた。別に何にもおかしなところはないはずだ。

りん「Pさんって言うんですね」

朝比奈さんは邪悪な笑みを浮かべた。

ああ、この子こういう顔するんだ…。

りん「良かったじゃーん麗華!この人に会うためにアイドル始めたんでしょ?」

麗華「はぁ!?な、何言ってるの!?…そんなわけないでしょう」

りん「だってぇ、アイドルになった理由って誰かに見つけてもらうためって…言ってなかった?ね、千早!」

千早「え?ええ、確かにそう聞きましたけど…」

初対面の千早にも話したのか…。仲良いな…。

麗華「だからってこの人とは限らないでしょ!?」

ともみ「りんは悪趣味。けど麗華も往生際が悪い…」

りん「あはは…!確かにからかいすぎたわ。でも麗華ったら可愛いんだから!」

麗華「だから私は…!」

千早「東豪寺さんが目的の人に会えたみたいでよかった」

麗華「千早まで…。そうよ私はこの彼に会いたかったの!」

麗華は開き直ったようだ。でも直球で言われると照れるなぁ。

千早「…プロデューサーってやっぱり顔広いんですね」

P「うーん、そうかもなぁ…。この業界でも水瀬って言ったら畏まられることもあるし…」

麗華「水瀬家の権力は伊達じゃないわ。水瀬の名前はある種の呪文ね」

P「そんな恐いことされるんですか?」

麗華「暴力組合じゃあるまいし、そんなことしてないと思うわ…。ただスポンサーから抜けられると企業側は大ダメージね」

P「へえ、まあ私には関係ないですけど…」

麗華「それより何で急にいなくなっちゃったの?」

ごめんなさい。ちょっとお風呂行ってきます。
すぐ再開します。

P「…それは」

麗華「言いたくないならいいわ」

P「いや、言う…ますよ。麗華…さんとは古い付き合いだし…」

麗華「別に無理して丁寧に話さなくてもいいんじゃないかしら?」

なんだか敬語じゃない方が自然で、それを彼女に見破られたようだ。

確かにいつもの調子で言葉が出てしまう。

P「…追い出されたんだ」

麗華「は?」

麗華だけでなく後ろで聞いてた、朝比奈さんと三条さんまで耳を疑ってるようだ。

千早は知っているのでリアクションがあるわけでもなかった。

P「だから、追い出されたんだ」

麗華「何それ…くっだらない…。どうしてそんなことに?」

P「…態度の悪い振る舞いと、粗暴な口調に、それに成績不良で俺のことは要らないんだとさ」

りん「俺…」

ともみ「俺…」

二人は俺の一人称が気になるようだ。さっきまで外面被ってたから、驚かれるのはしかたないのか?

俺が俺って言っても何も問題ないよな…。

麗華「ふーん。あなたもあなただけど、家族も家族ね…。追い出すなんてやりすぎじゃあ…」

P「まあ名家水瀬だ。汚点は払拭しときたいんだろ」

麗華「私は汚点だなんて思わないわ。伊織もなぜ止めなかったのかしら…」

P「それは無理だ。親父の言うことは絶対。伊織はずっと親父が正しいと思ってたからな」

麗華「今は違うの?」

P「さあ…。でも心境に変化があったのは確かだ」

麗華「どういうこと?」

P「あいつの初めての抵抗が家の力を借りずに一人で働くことだからな」

麗華「へえ、あの伊織がねえ。…というより何であなた知ってるの?」

P「聞いてないのか?伊織も765プロ所属のアイドルだよ」

麗華「え!?聞いてないわ!アイドルってことも聞いてない!この前の会合のとき会ったのに…」

P「あー…。麗華がアイドルで伊織とは天と地ほどの差があるから言いたくなかったんだな…。ほら、プライドはいっちょ前にあるだろ?」

麗華「なんか納得…」

P「伊織には黙っててくれよ?」

麗華「えー?どうしよー?」

おい。なんか弱み握られたんですけど…。

りん「麗華も大概じゃない…」

ともみ「そうは言っても麗華はたいてい裏目に出るから」

りん「あー…なんかわかる」

二人はやれやれと、麗華を見つめていた。

P「まあ言ってもいいけど…」

麗華「あら?本当にいいの?」

P「後が面倒なだけで別に…。伊織のことだからちょっと怒ってから、めいっぱい甘えてきて数十分拘束される破目になりそうだ」

麗華「絶対に言わないから安心して!」

なんだ急に手のひら返しやがって…。それなら面倒は起こらなくて済みそうだけど…。

ともみ「ほら」

りん「本当ね」

二人は可哀想な子を見る目で麗華を見つめていた。

冷や汗をかく麗華はしばらくして落ち着いたが、表情は曇っていた。

麗華「お兄様、私のところに来ればよかったのに…」

P「ああ、思い浮かばないこともなかったが名家にうんざりしてたし、なにより家族に会いたくなかった」

麗華「…そう」

麗華は曇った顔にさらに影を落としたが、水銀灯のようにじんわりと、彼女の表情は光を灯した。

千早をチラッと見ると思いつめたような顔をしている。

りん「麗華よかったじゃない!最愛の人にもう一度会えてさ!」

少しの間千早に気を取られていると朝比奈さんの茶々が入る。

麗華「だから違うって言ってるでしょ!」

ともみ「素直じゃない」

俺からしたら麗華のは敬愛であって最愛というわけではないと思うけど…。

りん「というかPさん、どこかで見たことあるよ」

ともみ「この前のバレンタインの人にそっくり…」

りん「そうだよ!それそれ!765プロからは確か穴掘りアイドルの!」

ともみ「萩原雪歩」

りん「そうそう!」

麗華「?それがどうしたの?」

りん「この人じゃない?そのイベントで新幹少女のひかりを助けた人!」

ともみ「確か765プロ関係者」

りん「ね、そうでしょPさん?」

P「ええ、多分私だと思います」

麗華「何よそれ?」

ともみ「麗華はテレビ見ないから…」

なんだかちょっとしたところでも有名になってしまったようだった。

P「それじゃあ俺たちはそろそろ行くよ。…千早?」

千早「…え?ええ。行きましょうプロデューサー。それではまた後ほど…」

りん「うん!じゃあね千早とPさん!」

ともみ「またね…」

P「朝比奈さんと三条さん、よろしくお願いします」

りん「りんでいいのに!Pさん、いつもの口調の方が私好き!」

麗華「あんた!すすすす好きって何!?」

ともみ「麗華慌てすぎ。別にそういう意味じゃない…」

P「ははは…。じゃあな麗華」

麗華「う、うん!また後で!千早も!」

千早「ええ…」

魔王エンジェルは戻り、俺たちはぽつりと残された。

P「ちょっとステージの周りの様子を確認しに行ってくる」

千早「それなら私も行きます。ちょうど雰囲気を確かめたいと思ってました」

春の始まりが感じられるこの野外コンサートのステージ周辺。

キャパシティは優に一万を超える。

P「いきなりの大舞台だが大丈夫か?」

千早「それは問題ありません…と言えば嘘になります」

サイネリアにも自信のあるような発言をしていたが、彩音さんの言うように大きな舞台の重みはしっかりと千早の上にのしかかっていたのか。

俺は考えもなしにこの仕事を引き受けたのだが、早計だったのかもしれない。

もっと経験を積ませてからでも…。

いや、今さら遅い。

千早「今みたいに気を紛らわせていないと震えが止まりません」

P「そうだったのか…」

それは大きな舞台に立てることへの緊張や不安、昂揚感、歓喜、そういったさまざまな感情が混ざり合っているのだろう。

何にせよ千早の精神が大きく揺さぶられていることに変わりはない。

俺はなんて声をかければいい?

こんなの口で言ったってどうにもならないことはわかる。

ただ俺は黙ることしかできないのが辛い。

だから一言。

彼女が震えることなく舞台に立てる一言を言ってあげたい。

『大丈夫だ!』

そんな無責任なこと言っていいのか?

『頑張れ!』

今さら何だ。彼女は頑張ってきただろうが。

『信じてる』

雪歩のときとは規模が違いすぎる。さらにプレッシャーを与えてどうするんだ?

千早は失敗したくないはず。

いや、してはいけないとさえ考えるに違いない。

バカだよ俺は…。

千早の気持ちも考えずに勝手に彼女を選んで…。

失敗するかもしれないという彼女自身の恐怖や不安に目を向けることをしなかった。

前向きなことばかり考えてマイナスの面は無視していたんだ。

千早「プロデューサー」

苦悩している俺に急に声をかける千早。

P「どうした?」

俺は自分の感情を隠していつもの調子で答える。

本当に苦悩してるのは俺じゃないだろ。…千早だ。

千早「側にいてくれますよね?」

その言葉はどこから出てくる…?

P「もちろん」

俺にはそれしかできないしな…。

そう言うと、千早はにこりと笑った。

千早「安心しますね。プロデューサーの前で失敗なんてできませんから」

いいのか?自分に枷を付けるようなことをしているんじゃないのか?

余計に震えが止まらなくなるんじゃないのか?

千早「プロデューサー?」

俺はその枷を緩めてやりたいと思った。

P「せっかく人前で歌えるんだしさ、楽しめよ!自分が気持ちよく歌えればそれでいいって!」

精一杯、緩めてやろうと思った。

言った瞬間、二人の間の空気が凍った。

刺すような千早の視線。

なんでそんな顔をするのか俺にはわからない。

千早「…何ですか、それ?」

P「何って…」

どういうことかますますわからない、励ましたつもりだけど…。

素直にそう言ってはいけない気がして口を噤んだ。

千早「プロデューサー、あなたが私に言ったこと…憶えてますか?」

P「…いつの話だ?」

千早「…もういいです。がっかりしました」

そう言葉を吐き捨てた千早は、踵を返して去っていく。

待てとも言えない。

俺は今この瞬間、彼女に言葉を投げかける資格も、彼女の手を取り呼び止める資格も失った。

動けと自分に言い聞かせても無駄だった。

ただ俺の額を、頬を、背中を、水滴がしたたり落ちていくだけだ。

千早が遠くへ行ってしまう。

動けずにただ突っ立っているだけの俺だったが、千早がやや混雑した道を人と接触して、しりもちをついたのを見て、ようやく一歩踏み出した。

P「だ、大丈夫か!?千早!」

走って千早の傍まで行き、隣にしゃがみ込む。

千早は頑としてこちらを向こうとしない。

「あの大丈夫ですか?…!?ご、ごめんなさい!」

ぶつかった人は急に慌てて謝る。どうしたんだ?

千早「大丈夫…ですから…」

声を絞り出した千早は逃げ出すように走って戻っていった。

P「お、おい!千早っ!」

「あの…」

その場に取り残されたその人は不安そうに尋ねてくる。

P「すみません。…大丈夫ですので」

俺はそう言って千早が向かった方向とは別の方向に歩き出す。

「いや、本当に大丈夫なの…?彼女さん…泣いてたけど…」

俺の耳にその言葉が届くことはなかった。

ステージとは離れたベンチに俺は腰掛けている。

パッと見、誰もいなかったので今は完全に一人だ。

千早の言っていたことを今一度考える。

俺が以前言ったこととは…そもそもいつのことなんだ?

冷静になるといろいろなことが見えてくるもので…。

まず技術的なことじゃない。

その面でならアドバイスしてやれる。

P「それ以外か…。千早の怒りの発火点は…」

探ってみる。

『楽しめよ!自分が気持ちよく歌えばそれでいいって!』

ここ以外に思いつかない。

そうしてすぐ気付く。

P「あー!もう!何言ってんだよ俺は!!」

そうだ俺は以前、千早に自己満足で歌うことを否定した。

歌を聴く人の気持ちを考えて歌うんだと言った。

矛盾してる。

そのことに怒りを覚えたんだ。

本当に何にも知らないんだな、何にも考えてなかったんだな俺は…。

冬馬「あんた、こんなとこで何叫んでんだ?」

聞き覚えのある声におそるおそる振り向くと、そこには見知った顔。

ペットボトルを四本抱えた冬馬くん。一本はすでに量が減っていた。

P「………見てたの?」

数秒、間が空く。

すると冬馬くんが吹き出し、盛大に笑い出した。

冬馬「はっはっはっ…!!見てたの?ってそりゃ見てなくたってあんな大声出せば嫌でも見るわ!」

俺の物まねをしながら話す冬馬くんはやはり芸人気質だなと思った。

P「なんだよ…」

冬馬「いやー、あんたもそういうところあるんだなって思ってよ。驚いたまったぜ」

P「バカにしないでくれ…。いや、思い切りバカにしてくれ」

冬馬「どっちだよ!…まああんたみてーにしっかりしたプロデューサーでもああやって叫ぶんだな」

P「それこそ笑いものだよ。俺は見ての通りしっかりしてないし、いつも手探りでやっている。仕事をもらえるのも運がいいだけさ」

冬馬くんの笑いはぴたりと止んだ。

さっきまでの楽しそうな表情は失せ、初めて見せる真面目な顔に俺は肺が押しつぶされそうな感覚に陥る。

冬馬「あんた本当にどうしたんだ?」

彼はどうしたものかと頭をかく。言葉に迷っているようだ。

冬馬「何があったのかなんて全く興味ねえし、心底どうでもいいんだけどよ。今抱えてる問題が自分の能力のせいなら、まだ努力が足りねーんじゃねえのか?」

違う。努力だけじゃどうにもならない。

冬馬「どうにかなる」

P「え?」

心を読まれた?冬馬くんってエスパー?

冬馬「いや、あんた…どうにもならないって顔してたからよ」

P「そ、そうか…」

冬馬「でもどうにかなるんだよ」

断言する冬馬くん。

冬馬「いくら失敗しても何度でも立ち向かうのが努力なんじゃねえのか?…俺はそうだった。才能とか関係ねえ。俺にだって才能はねえよ。だが努力はした。そいつは俺を裏切ってない」

P「…なら人とのぶつかり合いもその努力とやらでどうにかなるのか?」

冬馬「なるだろ」

即答だった。

冬馬「喧嘩しても仲直りする努力をする。関係を修復したくないんだったら努力する必要はないけどよ」

P「…」

冬馬「まあ大体、今のあんたの質問で何に悩んでるのか分かっちまった。これからも一緒にやっていくなら仲直りした方がいいぜ」

人生は面白いと思った。俺は彼より長く生きてるのに年下の子から何かを教えられるなんて…。

P「…ああ、ありがとな」

冬馬「いや、あんたがしけた面してたからつい熱くなっただけだ。…あー、あと努力の方向性だけは間違えんなよ」

P「はははっ…!いつになく真面目な顔で驚いたよ」

冬馬「ばーか。俺はいつも真面目だっつの」

そういえばそうだったな。

P「あと君たちのプロデューサーもしっかりした人だと思うけど…」

冬馬「ああ、あいつは別にそんなことねえ。つまんねーミスばっかするし、この前は遅刻してくるし、気持ちの切り替えも下手だし…」

冬馬くんの口からは女Pさんの短所がスラスラと出てくる。遅刻は俺のせいでもあります。ごめんなさい。

冬馬「…けどな、それでも信用できる」

P「…そうか」

冬馬「あんたもここまでやってこれたんだ。ならみんな信用してるだろうよ」

P「自信ないな」

冬馬「だったら自信がつくように…」

言葉の先を俺が引き取った。

P「…努力だろ?」

冬馬「…そうだな」

彼は口の端をフッと上げ、わかってるじゃねーか、と言った。

冬馬「これやるよ。…じゃあな」

冬馬くんは持っていた未開封のペットボトルを一つ投げてよこした。

俺が慌ててキャッチしたそれは炭酸飲料だった。

パシリなのに俺にあげちゃっていいの?

P「いいのか?誰か困るんじゃ…」

冬馬「うちのプロデューサーは自称大人だから我慢してくれると思うぜ…。それでも気にするなら、あんたが後で直接買ってやってくれよ」

P「…じゃあ、遠慮なくいただくよ」

冬馬「ああ、俺はもう行くぜ」

ちょうど何か飲みたかったところだ。目の前に飲み物があることで喉の渇きが一層高まる。

ふたを開けた瞬間、炭酸飲料は勢いよくふたを押し出し砂糖水とともに俺の額をとらえた。

P「ぶはっ!!」

その瞬間、冬馬くんの笑い声が聞こえてきた。

様子を少し見てたのだろう。すでに彼は遠くにいる。

P「…冬馬くん、やっぱり芸人じゃないのか?」

明らかに確信犯だった。

今日はおちまい!
これでこのお話はおそらく半分くらい消化したと思います。

気になることがあれば仰ってください。このSSに関する質問にはなるべく答えます。

感想とかあれば、ぜひ遠慮なく書き込んでください!

乙です
俗用として、そういった意味になりつつあるが、確信犯の誤用が気になってしまう

伊織パパはわざとPを勘当したんじゃないかと思えてきた
Pは視野が狭く自分に自信がないからパパはわざと勘当して息子を外の世界へ出すことで強くなってほしかったとか
あと麗華さん千早より背高いのに胸千早以下でパッド詰めなんだ…
年齢はわからんが千早以下がいるなんて

>>429
ご指摘ありがとうございます。
一応調べたうえでこの表現にしてみました。この部分では俗用としての意味で使っちゃってます。
申し訳ない。

>>430
麗華の年齢は17歳を想定してます。
伊織のお姉さん的なポジションですが、伊織は彼女に負けたくないようですね。

皆さんレスありがとうございます!
それでは残りを投下します。

ステージ裏では千早、他アイドル達が控えていた。

Pはまだ戻っていない。

千早「プロデューサーのばか…」

千早は椅子に座り、一人で落ち込んでいた。

刻一刻と出番が迫る中、Pを突き放すような態度をとったことに後悔してきたのだ。

彼がいなければ本来のように歌える自信がない。

千早「けどプロデューサーは私に言ったことを…」

葛藤は終わらない。

千早「私のばか…」

そんな千早のもとに女性一人と男性二人がやってくる。

女P「初めまして、ご挨拶がまだでした。961プロ所属ジュピターのプロデューサーを務めております女Pと申します。本日はよろしくお願いします」

北斗「初めまして、美しいお嬢さん。俺はジュピターの伊集院北斗。よろしく」

翔太「僕は御手洗翔太!よろしくね!本当はもう一人いるんだけど…時間が時間だからね。ところでお姉さんはなんていう名前なの?」

女P「こら、翔太。もっと丁寧にお聞きしなさい」

どうやら出演者だということを千早は認識し、立ち上がる。

千早「いえ、構いません。…私は765プロダクション所属の如月千早です。よろしくお願いします」

女P「765プロ!?」

翔太「プロデューサー…その名前に反応しすぎ」

北斗「しかたないさ翔太。愛する男性のいる職場なんだからね」

女P「愛っ…!北斗!適当なこと言うな!」

北斗「はいはい」

千早「あなたもプロデューサーを?」

女P「あなたも?」

千早「いえ、実はプロデューサーに思いを寄せる人を今日だけで二人見たので…」

女P「え?二人も?」

翔太「もう自分も好きですって言っちゃってるようなもんだけど…そのリアクション」

北斗「へえ、やっぱりモテるんだPさんは…」

翔太「まあ一人は思いつくけど、もう一人は誰だろうね?」

女P「一人思いつくの!?」

北斗「逆になんでうちのプロデューサーは思いつかないのか不思議ですけどね…」

翔太「新幹少女のお姉さんだよ。ひかりお姉ちゃん…多分ね」

女P「えー!?新幹少女!?」

北斗「落ちたところをPさんに助けられたのが決め手だったと思うんだけど見てなかったんですか?」

女P「あ、そういえば…」

翔太「にっぶいなぁ…」

女P「うるさいわよ…」

北斗「ところでそのPさんはどこにいるんだい?」

千早「プロデューサーは…知りません」

千早は誰がどう見ても言い辛そうに口を噤む。

翔太「あー、何かあったんだ。聞かない方がいいのかな?」

千早「ええ、これは私たちの問題だもの…」

女P「そう…。でもあなたもPさんも早く仲直りすることをお勧めするわ」

千早「それは分かっているのですが、私にはプロデューサーの考えてることも、プロデューサーが何であんなこと言ったのかも分かりません」

千早はそのことが気がかりでプロデューサーに問い詰められない。

もう一度、Pが千早に何て言ったのか聞いて、憶えていないと言われたら千早は彼を許せなくなると思った。

それが何より怖かった。

今こんなに慕っているのに…。

あの言葉だけを糧にアイドルを、歌を頑張ってきたのに…。

そこから今の関係が瓦解してしまいそうでならなかった。

北斗「やっぱ一悶着あったのは確かなのか…」

冬馬「おい。あんたら飲み物買ってきたぞ」

ちょうど冬馬が戻る。

翔太「わーい!ご苦労様、冬馬くん!」

ナチュラルに翔太が上からものを言う。

冬馬は少しむっとしたが大して気にも留めずに流した。

北斗「サンキュー冬馬」

女P「あれ、私のは?」

冬馬「765プロのプロデューサーにあげた」

冬馬は悪びれもせず答える。

女Pは何とも言えなくなった。

冬馬「ん、そっちは?」

北斗「ああ、彼女は765プロの…」

千早は立ったまま一礼する。

千早「初めまして、765プロダクション所属の如月千早です。よろしくお願いします」

テンプレートをすらすらと口に出す。

冬馬「ああ、こっちこそよろしく頼む。俺はジュピターの天ケ瀬冬馬だ」

冬馬は視線をさまよわせながら少し考える様子を見せるが、しばらくして千早に向き直る。

冬馬「そういや、あんたんとこのプロデューサーに会ったぜ」

千早はぴくりと反応する。

冬馬「なんかなぁ、落ち込んでたみたいだけどよ。あいつはあんたのことを第一に思ってるみたいだ」

千早「…それで?」

冬馬「なんだ、冷めてんのな…。まあ、自分を責めてたって話だ。あいつはちょっと考えすぎる部分もあるみたいだし…」

千早「…」

千早は腹立たしかった。

プロデューサーはアイドルが、千早たちが生きがいだと言っていたのに信じ切れなかったことが悔しかった。

千早「愚かなのは私…」

女P「如月さん…あまり自分を責めることは…Pさんにとって一番辛いことだから…」

涙が急に込み上げる。

こういう感情が昂ったとき、千早は決まってロケットを握りしめる。

いつもは家に置いてあり、今日の大きな舞台への不安から持ってきたのだが…。

しかし無い。

首に着けておらず、いつでも取り出せるようにポケットに入れていたはずだ。

961プロの面々は、急に慌ててポケットやカバンの中を探る千早につい疑問符が浮かぶ。

翔太「どうしたの?急に慌てて忘れ物?」

千早「無いの!…私が大切にしているロケットつきのペンダントがないの!!」

周辺のアイドル達も千早の異常な動揺に奇異の視線を向ける。

気になって動いたのは新幹少女のひかり、そして魔王エンジェルの麗華だ。

961プロの四人とひかり、麗華は事情を聞く。

ひかり「どっかで落としたのかしら…」

麗華「それ以外ないでしょう」

冬馬「大事なものなんだろ?探しに行かなきゃダメだろ!」

口々に言うが公園内は人でほとんど埋め尽くされている。

そして無情にも…。

スタッフ「では本番間もなくですので、簡単に打ち合わせを行います!」

ライブ開始まで15分しかなかった。

俺は冬馬くんのせいで、べたべたする顔を洗う。

ハンカチで拭きながらステージの方まで戻る。

時計を見ればそろそろ打ち合わせが始まるところだ。

P「やばいな」

俺は急いで戻ってきた。

「では本番間もなくですので、簡単に打ち合わせを行います!」

危ない。ぎりぎり間に合った。

P「千早はどこだ?」

辺りを見回し、すぐに見つかる。

961プロ、ひかりちゃん、麗華に囲まれてるからわかりやすかった。

P「…なあ千早」

意を決して話しかけた。

千早「プロデューサー!」

今にも泣きそうな顔で駆け寄ってくる千早。

P「うおっ!…どうした?怒ってたんじゃあ」

千早はそれどころでは無いようで、いつまでもうろたえている。

女P「あなたたちは打ち合わせに…私から事情を説明するわ」

女Pさんが一歩前に出てアイドル達をまとめる。

アイドル達は不承不承集まっている方へ向かった。

P「千早も行くんだ」

千早「…でも」

P「俺が必ず何とかする。お前は歌うんだ。…ファンのために歌うんだ」

千早はハッとして、ついに涙を流す。

千早「プロデューサー…憶えて…」

P「さ、早く」

目を腕でごしごしこすって千早も向かった。

P「女Pさん、それで…」

女P「はい。どうやら彼女の大事なロケットがついてるペンダントを落としたみたいなの…」

P「ロケット付のペンダント?…初めて聞きましたよ」

女P「そうなの?」

知ってると思ったのか、少し驚く女Pさんだったが気を取り直す。

女P「それで、彼女、今日の舞台で緊張をほぐすためにそれを持ってきたらしいんですけど…」

そこまで言われて俺は察する。

P「無くしたんですね」

女P「ええ、ポケットに入れてたみたいですけど…」

俺はすぐに思いついた。

ポケットからこぼれるなんてなかなか無いと思うが、もしあるとすれば千早が倒れたあの時だ。

P「俺、探してきますので女Pさんは千早のことよろしくお願いします」

女P「待って!それなら私も…」

P「ダメだ!…これ以上あなたを俺たちの面倒に巻き込むわけにはいかない。それにジュピターはどうするんですか?」

女Pさんは自分の軽率な行動に戸惑い、恨めしそうに俯く。

P「それに千早を任せられるのもあなたしかいない…。申し訳ありませんが任せてもいいでしょうか…?」

俺はお願いする立場にいるんだ。女Pさんに改めて頼む。

女P「…あなたのお役に立てるなら、喜んで引き受けます」

もの悲しそうだが芯の通った声に俺は安心する。

そうして千早がぶつかった場所に走って向かう。

打ち合わせも終わり、もうオンステージ間近だ。

千早はさっきと同じ調子で俯いていて、何度も何度も目をこすっていた。

女P「ダメよ如月さん。そんなにこすっては目が腫れてしまうわ。これを使って軽く拭いて…」

女Pはポケットティッシュを千早に渡した。

千早の鼻をすする音に周りのアイドル達が心配して見守る。

新幹P「どうしたんだ?さっきもなにか騒がしかったようだが…」

女P「新幹Pさん…。実は…」

女Pは新幹Pに事情を話す。

新幹P「ああ、それでPくんはいないわけか…」

新幹Pはしばらく考えると新幹少女を招集した。

つばめ「なぁに?プロデューサー」

新幹P「新幹少女がトップバッターなのはいいよな」

のぞみ「ええ、ここに来る前からそのつもりだけど…」

新幹P「お前らのトーク、長引かせられないか?できればファンが聞き飽きる手前まで…」

ひかり「…なるほど、やってみるわ」

つばめ「私たちのとっておきの話すれば飽きないわよ」

のぞみ「つばめ、それにも限りがあるでしょ…。まあできるところまで引っ張ってみるわ」

新幹P「おう。頼んだ」

「それでは新幹少女の皆さんスタンバイしてくださーい!」

今回参加は16組のアイドル達。

千早の順番は4番目。

『3月頭の大イベント!アイドルによる雛祭りアイドルフェスティバルが今年もやってきました!…』

俺はスピーカーから大音量で流れる司会の開会の言葉を聞きながら目的の現場にたどり着いた。

千早の出番は早めだ。

すぐに探し出さなければ…!

もうすべてを投げ捨て、スーツ姿にもかかわらず四つん這いになってペンダントを探す。

この人ごみだ。邪魔になっているが構いやしない。

周りの人が何か言っているが関係ない。

俺は一心不乱に短い雑草をかき分ける。

辺りも徐々に暗くなっていく。

P「どこだ…ペンダント…」

どの辺にあるのか曖昧ではあったがここら辺だというのは間違いないと思う。

道行く人に蹴られる。

邪魔だと罵られる。

だがやめない。探すことをやめない。

ひかり『みなさんこんばんはー!新幹少女でーす!!』

ライブはさっそく始まったようだ。

女P「大丈夫。Pさんはきっと見つけてくるわ。あなたがやるべきことを考えましょう?」

千早「…ダメ、あのロケットがなきゃ私…。それにプロデューサーも傍にいない…。私はきっと歌えない」

千早はこれまでにないほどの負の感情を吐露する。

女Pには手に余るほどの千早の不安が彼女にも緊張を与える。

そこで見兼ねたのは冬馬だった。

冬馬「うじうじしたってしょうがねーだろ。それより如月、今お前にできることはしっかりとこのライブで成功を収めることだろうが」

北斗「冬馬、その言い方はどうかと思うぞ」

翔太「北斗くんの言う通りだけど、冬馬くんの言うことももっともだよ」

冬馬「その大事なロケットやらもない、プロデューサーもいない、だから私は失敗します…じゃねーんだよ。失敗しないための努力をしろよ」

翔太「出たー。冬馬くんの努力論」

北斗「ま、冬馬らしいな」

冬馬「うっせ。…まだやれることと言ったらライブを無難に終えることくらいしかないぜ」

しかし千早は彼を睨み据える。

千早「あなたに何がわかるの…?」

凍てつくような声音に空気が固まる。

冬馬「何にもわかるわけねーだろ」

だが冬馬はいっさい怯まなかった。

冬馬「あんたのそれは一人よがりだ。あんたのプロデューサーは誰のために歌えって言ったんだ?」

千早は黙った。いや言い返すことができない。

彼女は喉の奥に込み上げる熱いものに気道が塞がれる思いをした。

女P「冬馬、黙りなさい」

そう一言、女Pが言うと冬馬はつまらなそうに離れる。

だが女Pも信じることしかできないのだった。

きっと来ると信じていたが、ついにPはやってこなかった。

千早の顔は絶望に染まる。

「如月千早さん!スタンバイお願いします!」

女P「まだよ。あきらめないで如月さん。トークで場を繋ぐのよ…」

千早は話を聞いてるのか聞いてないのかわからないまま、とぼとぼとステージの方へ向かっていく。

ジュピターの三人も彼女の疲弊した表情を見ていたが、さすがに声をかけられなかった。

『それでは今回初めての出場となる765プロダクションの如月千早さんです!どうぞ!』

前のアイドルが退場して早くも呼ばれる。

ファンの人たちも心配になるような顔で登場する千早。

気力がほとんど抜けている千早は客席を見渡し、絶望の中さらに緊張と不安が一気に襲い掛かるのを感じた。

足の震えが止まらなかった。

千早『…あ、あの、は、はじ、初めまして…。765プロ…ダクション所属の、如月千早…です』

マイクを通した声は震えている。視界は滲んでいる。

上手くいってない自分が恥ずかしい。悔しい。みんなに申し訳ない。

いろんな気持ちがごちゃごちゃになってもう止まらなかった。

涙よりも先に流れてくる鼻水をすする。

黙ってしまって数秒、さらに鼻をすする音も聞こえれば客席もざわめき始める。

千早は嗚咽を漏らして泣きそうになってしまった。

P「頑張れ千早ーーー!!!!」

俺は警備員に関係者であることを示し、すぐに前の席まで走っていく。

真ん中は埋まっているので、脇の方の誰もいないところを走ってきた。

そして、千早が落としたであろうペンダントを振りかざしながら叫んだ。

P「頑張れ千早ーーーー!!!!」

静かになった客席に響き渡る俺の声、自分でも驚くほどの声量なのだが気にする余裕もない。

P「千早の歌を聴かせてくれー!!!」

傍から見ればかなり痛いコアなファン。

現に周りの人は引き気味だ。

そんなことはどうだっていい。

P「落ち着け千早!落ち着いて深呼吸だ!!」

千早はさっきの気力の無い表情から光を取り戻した。

そして俺の言ったとおりに深呼吸する。

よかった。俺の声は届いてるみたいだ。

さっきまでの弱弱しい表情はもうない。

客席で見ているお前ら、よーく見とけ、これが如月千早だとその目に焼き付けておけ!

さあ、仕切り直しだ。

千早『お見苦しいところをお見せしてすいませんでした。改めて、765プロダクション所属の如月千早です』

さっきとはうってかわって、堂々とした態度。

女P「ああ、本当によかった。信じてました…Pさん」

冬馬「これで俺たちも飛ばしていけるってもんだぜ!」

北斗「そうだな冬馬、可愛らしいエンジェルちゃんが苦しんだままじゃ俺も十分に楽しめないからね」

翔太「ふう。お兄さん、冷や冷やさせてくれるね…」

麗華「よかったわね、千早…。お兄様は本当に女の子泣かせね」

千早『実は今日が初めてのステージで、とても緊張してました。さっき声が出なかったのもそのせいですけど…』

千早は俺の方をちらっと見ると、全体に向けてにこりと笑った。

千早『ファンの方が応援してくださったおかげで緊張もほぐれました。今は皆さんに歌で感動を届けたい気持ちでいっぱいです』

最後に、よろしくお願いします、と一言の後、伴奏が流れ始める。

『蒼い鳥』

千早の二つ目の曲。つまり新曲だ。

目立ってはないので知る由もないだろうが、この新曲は今初めて、発表されたことになる。

会場にいる人はサイリウムを振るうのも忘れて、ただ千早の歌に圧倒されていた。

そして曲が終わる。

余韻を十分に味わい、拍手喝采。

『…如月千早さん、ありがとうございました!!初ステージとは思えない圧巻のステージでした!!…今回披露した曲は本人二枚目のシングルに収録されているそうです。一週間後に一部店舗で販売するそうです。ぜひお買い求めを!』

司会の宣伝も入り、千早の初ライブは終了した。

その後、サイネリアやジュピター、取りに魔王エンジェルとこの辺はやはり盛り上がりが違った。

うちとの人気の差を実感させられる。

もっとも、一番盛り上がったのは最後の出演アイドル全員での合唱だった。

こうしておよそ2時間に及ぶ雛祭りアイドルフェスティバルは全行程を終了。

裏ステージで千早を待つ。

ところどころでお疲れ様と労いをかけ合う。

千早「プロデューサー!!」

千早は俺を見るなり胸に飛び込んできた。

千早「本当に…ありがとうございます!!」

泣いている。

P「千早、これ…」

俺はロケット付のペンダントを手渡した。

千早「プロデューサー、こんなに泥だらけで…。…手も」

と千早が俺の手に触れた瞬間、手に激痛を感じる。

P「ぐ…」

苦痛に顔が歪むが必死で隠そうとする。

千早「プロデューサー?」

P「何でもないよ…それよりみんなに挨拶してきたらどうだ?」

千早「はい。行ってきます」

そう言って千早は切り替え、出演したアイドルやスタッフのもとへ向かう。

入れ替わりでやってきたのは女Pさん、ひかりちゃん、麗華の三人だった。

ばったり鉢合わせた三人はお互い顔を見合わせ、会釈している。

陰で、魔王エンジェルと新幹少女それぞれの残りメンバーが見守っていた。

女P「Pさん…信じてました。絶対見つけて帰ってくるって…」

麗華「まったく冷や冷やしたわよ…。そんなボロボロになって…」

ひかり「Pさん、手痛めてますよね…」

ひかりちゃんがそう言うと他の二人は、何だって?と言わんばかりにひかりちゃんを見つめた。

よくわかったな、なんて言いたいはずもなく、俺は強がることにした。

P「そんなことないよ。ちょっと汚れちゃったから怪我してるようにも見えるけど…」

俺は手をぷらぷらと振り、大丈夫なことをアピールした。やっぱ痛い。

ひかり「嘘はいけません。今、痛いって顔しました」

よく表情を見る子だ。素直に感心した。

ひかりちゃんは俺の右手をきゅっと握る。

女P「あ…」

麗華「あ…」

二人とも、何だその反応は…。

P「…つっ!」

ひかり「やっぱり…」

P「おおげさだなぁ!たんなる突き指だよ…多分」

麗華「ちょっと見せて」

麗華が割って入るとひかりちゃんは残念そうに俯いた。

麗華「これはどう?」

そういう麗華は俺の右手を伸ばしたり握ったりしている。

俺はやせ我慢しようと思ったが無理だった。

痛みに表情が歪んでいるのが自分でもよくわかる。

しかし無理にでも笑顔を作って麗華をチラッと見る。

彼女の表情はうっとりしていた。

麗華「ね、どう?」

うわあ、こいつ生粋のドSに違いない。

P「俺が悪かった。痛いからやめてくれ麗華…」

麗華はやめてくれたが、その顔は俺を見てうっとりしたままだった。

女P「…気づかなくてごめんなさい」

P「あー、むしろ気づいてほしくなかったですから…。あはは…」

女P「でもなんでそんな怪我を?」

そのことは全員気になるようで、俺に注目している。

P「実は、ペンダントを拾ったのと同時に通ってた人に踏まれちゃって…。変な踏まれ方したかなとは思ったんですけどね。今になって痛み始めて…」

ペンダントはしっかり守れたんだけど。

麗華「一度見てもらった方がいいわね」

ひかり「私もそう思います」

P「ああ、わかったよ。心配してくれてありがとう」

ひかりちゃんは徐々に顔を赤くして、俯いた。

麗華はまた俺の右手を触って、俺の顔を確認して楽しんでいた。

本当に悪趣味だなこいつ。

女Pさんが止めてくれて助かった。

しばらくすると、何やらちょっとしたオーラを纏わせたおじさんが二人こちらへ向かってくる。

今日はおちまい!
場面の切り替わりがわかりづらくて、混乱された方には申し訳ない。

このお話はもうちょっとだけ続きます。
よろしければ最後までお付き合いください。

気になることがあればどうぞ!
ではまた明日。のし!

高木「やあPくん!調子はどうかな?」

P「高木さん!お久しぶりです!こっちは順調ですけど…社長はどうしてこちらへ?」

高木「それはね、彼が入場券をくれてね…」

高木社長が示した先には…。

黒井「久しぶりだなへっぽこ!」

P「黒井さん!?」

女P「しゃ、社長!?」

女Pさんは頭を下げる。

ひかりちゃんは誰?と首をひねっていたが、麗華は特に驚きも何もしない。

麗華「あら、高木様に黒井様。ご無沙汰しております」

とても丁寧に挨拶している。さすがは東豪寺、顔見知りのようだ。

違うか。二人の人脈がすごいのか。

高木「おぉ!君は確か東豪寺家の麗華ちゃんだね…」

P「社長知ってるんですね」

高木「ああ、人脈は大事にしていてねぇ…」

黒井「ふんっ!その割にお前はコネクションというものを使わないのだからバカなのだっ!」

高木社長は笑って流す。

黒井「それよりへっぽこ、貴様なぜ追い出されたとき私に連絡を入れなんだ。わざわざ貴様の家までスカウト…ではなく、まずい茶を飲みに行ってやったというのに!」

P「すみません。連絡先分からなかったんです。それと、先に高木社長の方に連絡入れようって決めてましたので…」

黒井「はっ!…まあいい。ところで女P」

女P「はい」

黒井「今日のジュピターだが、まだまだ甘い!」

女P「申し訳ありません」

結構厳しいんだな黒井さん。

黒井「だがそこまで見れないものでもなかった。少しだけ評価しよう…」

…と思ったがその様子はずいぶん満足そうだ。

女P「ありがとうございます」

黒井「これから私のディナーに付いてくるだろう?」

女P「はい、是非」

黒井「高木とへっぽこも来るだろう?」

なんだ、奢ってくれるのか黒井さん。というよりへっぽこって俺のことかよ…。

高木「そうだね、うちのアイドルも連れていこうか」

黒井「無論だ」

P「あの、俺、病院に行くので…」

黒井「なにぃ…?」

P「ちょっと、今日はいろいろありまして怪我してしまったんです。それで…」

高木「あー、そういえば君、前で如月くんのこととても応援していたね。素晴らしい応援っぷりだったよ」

ぎゃあ!見られていたのか!!恥ずかしい…。

千早「プロデューサー、挨拶は済みました。…社長?」

ちょうど千早が戻ってくる。

高木「久しぶりだねぇ…。今日は素晴らしいステージだったよ!最初はどうなるかと思ったけどねぇ」

千早「…プロデューサーが助けてくれました。他のみんなも私を助けてくれました」

千早は少し言い辛そうにしていたが言葉に出たのは、助けてくれたということ。

千早「新幹少女のみんなが場を繋いでくれたり、魔王エンジェルのみんなは心配してくれてジュピターのみんなは励ましてくれて…」

今日あった出来事を断片的に彼女の主観で話している。

千早「それでも私は未熟で、結局プロデューサーがいないと何にもできませんでした」

P「俺だって何もできないよ。…千早が頼ってくれなきゃ何にもできないただの木偶だよ」

高木「うむ。君たちはアイドルとプロデューサー。どちらかが欠けていてはダメなんだ。これでお互いの絆が深まったのなら良しとしようじゃないか!」

その通りだ。俺と千早の関係はより強固なものに修復したのだからそれでいい。

高木「では、新幹少女の方々と魔王エンジェルの方々にもお礼を兼ねて食事にお誘いしてはどうかね?」

黒井「私は構わんぞ」

P「というわけなんだけど、どうかなひかりちゃん?」

ひかり「私、みんなに言ってきます!」

そう言ってすぐにメンバーのもとに戻って行った。

P「麗華は?」

麗華「そうね。ならお世話になるわ」

彼女もまた報告に行った。

そんな二人と入れ替わりでジュピターが戻ってくる。

冬馬「はっはっは!今日もいいステージだったな!」

北斗「冬馬が暴走しなきゃな…。アドリブでダンスを変更するのはやめてくれよ」

翔太「だよねー」

冬馬「まあお前らじゃなかったらそんな勝手なことしねーよ…あれ?おっさんじゃねーか」

黒井「冬馬、なんだその口のきき方は…これからディナーに行こうと思ってたんだが冬馬は帰れ」

子供か…。冬馬くんも失礼すぎるよ…。

冬馬「マジで!?…悪かったって社長!俺も連れてってくれ!」

なんだか情けないなぁ。

黒井「ふんっ!冗談だ」

翔太「クロちゃん相変わらずだねー」

北斗「黒井社長、わざわざ見に来てくれたんですね」

黒井「ここの入場券がもったいなかったからな」

高木「ははは…。素直じゃないなあ。大きな舞台で一番張り切っていたのは黒井だろう」

黒井「高木ぃ、余計なことを言うんじゃない!」

高木「あんな大荷物で私の分のサイリウムまで持ってきてくれたものだから助かったよ」

黒井さんは平常運転らしい。

出てくる言葉とは裏腹にアイドルのことを自分の子供のように接している。

女P「あの、高木社長。私のこと憶えてます?」

そんな中、高木社長に話しかける女Pさん。

高木「おや、久しぶりだねぇ。以前会ったのは君がまだ大学生だった頃かな?黒井が言っていた有能社員は君のことだったのか…」

黒井「おい高木、私は決してそのように言った憶えはないが?」

多分言ったんだろうなぁ。

高木「そうだったかな?」

女P「あの時はお世話になりました」

そういえば彼女も高木社長と知り合いだったっけ。

雑談をしていると新幹少女、魔王エンジェルの二組が戻ってきた。

新幹P「おいおい。なんだPくんこの顔触れは…」

P「あ、新幹Pさん。うちの社長と961プロの社長ですよ」

新幹P「そりゃあわかるんだが…いいのか?俺たちもご一緒して」

P「もちろんです!新幹少女が長引かせてくれなかったらもっと大変なことになってたかもしれませんから」

新幹P「そうか、なら遠慮なく甘えることにしようかねぇ…」

そう言って社長たちに挨拶に向かおうとする新幹Pさんだったが、立ち止まり俺に振り返る。

新幹P「あ、そうだPくん。…よくやったな。いいもん見せてもらったよ」

ニッと笑って俺に背中を向ける。

P「はは…。やっぱかっこいいな…」

つばめ「Pさんお疲れ様。…ちょっととっつきにくいところあるけどね」

のぞみ「お疲れ様です。…無気力な感じが無ければいいんですけどね」

酷評をする新幹少女のメンバー。

P「お疲れ様、二人とも…。ありがとね」

つばめ「やだなあPさん。ひかりの恩人なんだから遠慮しないでよ」

のぞみ「そうですよ。カンペに、巻いて、って出たときはちょっと焦りましたけど…」

気楽に答えるつばめちゃんと思い出して困ったように笑うのぞみちゃん。

P「抱きしめたいくらい感謝してるよ」

つばめ「セクハラは禁止です」

のぞみ「そういうのはひかりにやってください」

ひかり「のぞみ!な、何言ってんのよ!」

ちょうど追いついたひかりちゃんは真っ赤な顔で、そう言っていた。

P「やんないって…」

麗華「楽しそうねお兄様」

続いて魔王エンジェルの面々だ。

りん「Pさん、ナイスガッツでした!」

意外と熱いコメントの朝比奈さん。

ともみ「うん、すごかった…」

抽象的な感想の三条さん。なんだか言葉にしにくいのだろう。

P「ああ、君たちも最後のステージの盛り上がりがすごかったな」

りん「当然です!…でも私もPさんみたいな熱い声援欲しかったなぁ」

ともみ「千早がうらやましい…」

麗華「まあ、それには同意するわ…」

P「千早のフォローありがとう…」

麗華「何にもしてないわ…。あなたが来るまで全く何も意味をなさなかったもの」

P「そんなことはないよ」

話もそこそこに黒井さんに呼ばれる。

残った新幹少女と魔王エンジェルは雑談を続けていた。仲良さそうでよかった。

黒井「では貴様を病院に送るぞ。それからディナーだ」

高木「私たちは先に行っておくよ」

黒井「ああ、いつもの場所に連絡を入れておいたからな」

高木「わかった」

そうして、祭りの後の打ち上げにみんなで行くのだった。

俺は黒井さんの運転する車の助手席に座っていた。

黒井「おいへっぽこ」

P「そのへっぽこって何なんですか?」

黒井「へっぽこは、へっぽこだ」

よくわかんない。哲学?

黒井「貴様はまだまだ未熟だということだ」

P「それは承知してますけど…」

しばらくエンジンの駆動音のみが静かに聞こえてくる。

黒井「…貴様がなぜ追い出されたのかは大体わかるが、反省はしたのか?」

P「反省…ですか。どうなんでしょう。追い出されたときは確かに何もかもかなぐり捨てて高木社長のもとを訪ねました。実は、三日間くらい一人でどうしようか歩き回ってたんですけどね」

黒井さんは珍しいことに黙って聞いてくれる。

P「反省はしてます。…でも追い出されたことは後悔してません、むしろ良かったと思います。あそこにいても俺は成長してないと思います」

黒井「そうか…。なら貴様の親父にもたまには顔を見せてやるといい」

P「え?追い出した本人ですよ?」

黒井「息子の成長を喜ばない親などいない」

言い切る黒井さんに対して、親に会おうなんて考えてなかった俺は適当に返事をしてしまう。

P「…もっと立派になったらそうしてみます」

そうして病院に着いたのだが、検査結果はなんと右手の人差し指から小指まで骨折だった。

どんな踏まれ方をしたのだろうか…。

その後みんなと合流。雰囲気のいい小さな店は高木社長と黒井さんのお気に入りで貸し切りだった。

ご飯は見た目もよく美味しい。

俺は利き手がダメになっているので、どうしようかと思っていたら…。

女P「はいPさん。あーん」

隣に座っている女Pさんがわざわざ食べさせてくれている。

P「ごめんなさいわざわざ…」

女P「いえいえ、いいんですよ。このくらい…」

なんというか楽しそうというか…とにかくすごいニコニコ笑顔だった。

千早「すみません私のせいでプロデューサー、こんな酷いことになってるのに…」

女P「いいのいいの!大丈夫だよ如月さん!私、世話焼くの好きだし!」

千早「プロデューサー、事務所では私にお世話させてください…」

本当に申し訳なさそうに言う千早。

そこに新幹少女と魔王エンジェルもやってきて…。

つばめ「Pさーん。ひかりも超世話焼きだからさー。食べさせたいって!」

ひかり「え!?私そんなこと…んむっ…!」

ひかりちゃんの後ろから三条さんが口を押さえる。

ともみ「今がチャンス…」

ぐっとこぶしを握る三条さんを見てひかりちゃんはこくこくと頷いた。

のぞみ「そういえば麗華ちゃんもPさんに食べてほしいものがあるって言ってましたよ?」

りん「なんか美味しいから今日頑張ってたPさんにも食べてほしいんだってぇ」

麗華「…あなたたち」

こっちは三人で親指を立て合う。

P「うん。じゃあもらおうかな」

少しお酒も飲みつつ、みんなから一口いただく。

ひかり「Pさん。あ、あーん…」

恥ずかしそうにこちらを窺いながらお箸を近づけるひかりちゃん。

俺はあむっと一口でいただく。

ひかり「…どうですか?」

上目づかいで見てくる彼女は可愛らしかった。

P「美味しいよ。ありがとう」

ひかりちゃんはさらに顔を紅潮させ、つばめちゃんや三条さんの方へ戻っていった。

ひかり「今日来てよかったー!」

二人はひかりちゃんをよしよしと撫でていた。

麗華「はい私も…」

お次は麗華だ。

P「あーん」

と料理をもらおうとしたのだが、麗華は自分で食べてしまった。

麗華「おいしー!」

P「おい!自分で食べんな!」

麗華「あらぁ?どうして口を開けて待っていたのかしら…?間抜けな人ね」

このドSめ!

P「もういいよ…」

麗華「冗談よ。はい、あーん…」

今度こそ料理をいただく。うん、美味しい。

P「ありがとう」

そう言ってやると満足そうな麗華だった。

のぞみ「なんで自分で食べちゃうかなぁ」

麗華「あのちょっと残念そうな顔がたまらないのよ…」

りん「最低だわ…」

彼女らも戻っていく。

最後に来たのはやはりというか…。

翔太「お兄さん、大変そうだね」

冬馬「俺のもやるよ」

この二人だった。

見るからに熱そうなビーフシチューをスプーンにすくって差し出してくる。

P「おいおい。スプーンだったら自分でいけるんだけど?」

冬馬「遠慮すんなよ」

翔太「そうだよお兄さん。こんなべたべたなネタも悪くないと思うよ」

ネタって言っちゃったよ。やっぱり芸人みたいな冬馬くんだった。

冬馬「ほら、あーん」

女P「こら、冬馬!」

無理やり口にねじ込んでくる冬馬くん。

P「…!!」

あっつ!!熱い!

俺の舌は軽くやけどした。

冬馬くんは笑って戻っていった。

翔太くんはお冷を置いてくれた。

北斗「すいませんあのバカが余計なことを…」

女P「本当にね…」

P「いえ、歳相応で安心しましたよ…」

ちなみに北斗くんは二十歳だから俺たちと一緒にお酒を飲んでいる。

北斗「やっぱモテますよねPさん」

P「こんなん初めてなんだけどな…。それに北斗くんの方がモテるだろ」

北斗「否定はしませんけどね」

そう言って笑う北斗くん。笑い方も嫌味な感じがなく爽やかだ。

新幹P「Pくんは大変になるぞ」

口をはさむのは新幹Pさん。

新幹P「さっきのやり取りなんて砂糖が出てきそうだったよ。女Pちゃんも頑張れよ。若いのよりは有利だと思うぜ」

女P「ななな何を仰ってるんでしょうか!?」

北斗「プロデューサーはバレバレだから開き直れば?」

P「何の話?」

新幹P「君は鋭いのか鈍いのかよく分からんな」

みんなで話しながらお酒を嗜む。

新幹Pさんと高木社長と黒井さんは運転があるのでノンアルコールだった。

高木「いやぁ、それにしても今日は上手くいってよかった」

黒井「あれで上手くいっただと?ははは…!笑わせるな高木!」

P「まあ、確かに100パーセントかと言われれば、そうではないですけどね」

新幹P「ああ、うちの子のトークなんか50点もあげられねーな」

高木「私は楽しめたからいいのだよ。ところでPくんはいい友人たちを持ったものだね」

P「友人…ですか?」

俺は女Pさん、新幹Pさん、北斗くんと目を合わせる。

北斗「もちろんですよ。こうやって飲むほどの仲じゃないですか」

女P「はい!とってもいいお友達です!」

新幹P「そう思ってるのは俺だけか?」

みんな好き好きに言葉を投げかけてくる。

北斗「プロデューサーは友達のままじゃダメでしょう」

女P「今はいいの!」

黒井「貴様らもライバルと呼べる人間や親友と呼べる人間を作っておくのだな」

高木「おや。みんな、黒井からのありがたいお言葉だ」

黒井「高木…いちいちうるさいぞ貴様…」

そうしてお開きとなる。

麗華たちは東豪寺プロのお迎えが来た。

新幹少女は新幹Pさんの車で、961プロは黒井さんの車で、俺たちは高木社長の車で。

それぞれ別れを惜しみつつ、挨拶をして帰っていく。

765プロにたどり着く。

高木「ではここでいいかな?私はやることがあるからねぇ…。まだ残るよ」

P「はい。わざわざ送ってもらってありがとうございます」

千早「ありがとうございます」

俺と千早は頭を下げる。

P「じゃあ家まで送っていくよ」

千早「そんなの悪いです…」

P「いや心配だからね。それに近いんだろ?」

千早「はあ…。じゃあお願いします」

俺たちは歩き出す。

千早「プロデューサー」

P「なんだ?」

呼んできた千早は少しの間をおいて尋ねる。

千早「…ロケットの中身見ました?」

P「見てないよ」

千早はそうですかと言ったばかり、再び沈黙が訪れる。

心もとない街灯が照らす路をひたすら歩いていたのだが、やがて千早は例のペンダントを取り出し、口を開く。

千早「プロデューサーにはお話します…」

P「…」

千早のその雰囲気に俺は黙ったままでいる。

ロケットを開くとそこには幼いころの千早と思われる女の子と仲良く寄り添って笑顔を見せる幼い男の子が写っている。

P「この子は?」

俺は聞かなきゃいけないと思った。

千早「弟です」

そうだろうとは思ったが、同時に悲しいとも思ってしまった。

なぜなら…。

千早「今はもういませんけど…」

千早の表情がどんなものなのか想像してしまい、顔を見れない。

千早「弟は、優は事故で亡くなってしまったんです。…私はその時すぐに動けなかった。今でも後悔してます」

大きくなった今だからこそ、その悔しさは膨れ上がるのだろうか…。

千早「その優が私の歌を好きだと言ってくれたのが嬉しくて、いつも優のために歌を歌ってました」

P「そうか、だから千早は歌にこだわっていたのか…」

千早「ええ、だから私は優が亡くなってからも、私の中で優が消えないように歌い続けようって決めました」

P「…」

千早「でも私は間違ってたみたいです。…優はもっと多くの人に私の歌を聴いてほしいって言ってたのを思い出しました」

俺たちはなおも歩き続ける。

千早「私の中で優が消えることなんてない。私は優の願いのために、私の願いのために、みんなに感動を届けたい。…私の歌で」

気が付けば千早のマンションの前だ。

そこで俺に向き直る千早は涙を流しながら笑顔でこう聞くのだ。

千早「私の願い、一緒に叶えてくれますか?」

P「…ああ、もちろんだ」

帰路についた俺はいつものように空を見上げる。

今日は輝く星が多く見えた。

ずっと見上げてると、星々はじんわりぼやけて、より輝いていた。

この話はこれでおちまいです!
ああ、長かった…。
あれやこれやと書き足してるうちにいつのまにね…。
そしてついに書き溜めが無くなってしまいました。
次のお話にホワイトデーを持って来ようと思ったんですけど、
話がまとまらなくてボツになりました。…インスピレーションが足りない!
キャラもどんどん増えていって空気にならないように動かすのが大変になってきました。
…とまあ以上が反省です。
書き溜め作業に入るのでしばらく更新はお休みです。

気になる点やご感想があれば仰ってください!改善に役立てます!

次のメインの話を書いていたら
急にサブの話の内容がまとまり始めました。

なので今日の夜、サブのお話を更新します。

いおりん影薄くて草

皆さんレスありがとうございます。

>>488
そろそろ言われると思いました
アイドルの中では絡ませてる方だと思うんですが…
まだ影薄くてもいいですか?

雛祭りから数日。

日本ではバレンタインは女性から男性に愛を伝えるためチョコレートを贈る日、とされているのだが、そんなものはもともと伝統には無かった。

売り上げの向上を図るための、とある製菓会社の策略らしい。

何とも姑息なものであるか、と思わなくもないが、俺は素直に上手いことをするもんだと思った。

まあそのおかげでうちのアイドルも日の目を見るきっかけになったりしたので嫌いでもない。

だがバレンタインにあやかってその一か月後にできたホワイトデーとは何事なのか…。

やや腹立たしく思うが、確かにもらってばかりというのも申し訳ない。

というわけで右手を骨折しつつもクッキーを作ってみた。

俺は何でも卒なくこなせる人間ではない。

何度も失敗したし、自分が納得いくまで作り直した。

三日かけてようやくあのサクサク感が出せるようになった。

もちろん仕事もしている。

そういえば、女性アイドルもバレンタインにファンからチョコを受け取るのだろうか…?

先月のイベントではジュピターに贈る女性も多かったような。

逆に男性から女性アイドルに渡したのは見たことないな…。

でもそういうファンもいるんだろうな、と思いながら箱や袋に詰めたクッキーを紙袋に入れて持っていく。

P「おはようございまーす」

小鳥「おはようございます」

高木「おはよう」

律子「おはようございます。…あら?その紙袋は何ですか?」

さっそく俺の持っている紙袋にツッコミが入る。

特に隠すこともないので、俺はその中から一つクッキーの袋を取り出し律子に渡した。

P「はい。今日は何の日?」

律子「…あー、そういうことですね。ありがとうございます」

小鳥さんが無言で私のもありますよね…と言わんばかりの謎の圧力を感じる。

P「小鳥さんにも…どうぞ」

そう言って手渡す。

少しだけお互いの手が触れたのが気になった。

小鳥「ありがとうございます!」

ぽわぽわと嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。

P「…社長もどうぞ」

高木「私に気を遣うことはなかったのに」

P「いえ、いつもお世話になっているので…。ホワイトデーとは関係なく、ということで」

高木「そうか、ではありがたくもらうことにするよ」

社長にも渡す。

高木「おや、私のは包みが違うんだね。…なるほど先月貰った人の分と区別しているわけだね」

P「さすがです。社長の仰る通りです」

高木「いやいや、素晴らしい配慮じゃないか!…律子君も音無君も嬉しいと思うよ」

小鳥「そうですね…。特別な感じがしていいです!」

律子「私と小鳥さんのも違うんですね…」

P「先月もらった人のお返しは全部違う入れ物にしてるんだ」

律子「何かこだわりでも?」

P「別に…。まあ、みんな一緒だとなんか特別な感じしないだろ?」

律子「プロデューサーからいただけるなら一緒でもよかったですけどね」

そうでしたか。男って変なところに気合入れて空回りする生き物なんだなーって思った。

律子「でもこっちの方が嬉しいです」

空回りってことでもないんだな。

午後になってアイドル達も徐々にやってくる。

P「おう春香。これ先月のお返し」

春香「わぁ!ありがとうございます!」

P「そういや、春香のだけチョコじゃなくて普通のカップケーキだったな。気ぃ遣ってくれてありがとな」

春香「えへへ…」

春香はそういうところに意外と気づく。

みんなチョコを持ってくるので俺が飽きてしまわないようにあえてチョコ以外のものをプレゼントしてくれたのだ。

P「ほら千早も」

千早「ありがとうございますプロデューサー」

P「そだ、千早のCDの売り上げも出だし好調で、歌番組のオファーも来たんだけどもちろん引き受けるよな?」

千早「本当ですか!?やります!!」

前のめりに話を聞く千早。興味津々というか、嬉しそうだ。

春香「よかったね千早ちゃん!」

千早「ありがとう春香!」

P「春香、ごめんな。春香もすぐにいろんな番組出してやるから…」

春香「いいえ、いいんです。私今のお仕事だけでも十分楽しいですから!」

そう言ってくれると本当に助かる。

しかし春香のことだからまた気を遣ってるんじゃないかと疑ってしまう。

いや、もちろんテレビにも出たいだろうし雑誌の表紙だって飾りたいはずなのだ。

P「じゃあ春香がもっと楽しめるように頑張るよ」

だったら俺は期待に応えるしかない。

春香「楽しみですっ!」

この子の笑顔は日本中に届けるべきなんだ。

そう思わせるものだった。

しばらくすると真に雪歩、やよいと双海姉妹もやってきた。

みんなで挨拶を揃えて楽しんでいる。

P「おはよう。学校か?」

真「そうですよー」

雪歩「真ちゃんバレンタインがすごかったから大変だったよね」

微笑む雪歩とげんなりした様子の真。

真「なんで僕だけ二回も作っていかなきゃいけないんですかね…」

P「別にホワイトデーは作らなくても良かったんじゃないか?」

真「ボクもそう思ってたんですけど、なんか校内で期待の声がちらほらと…」

やよい「噂になっちゃったんですよね?」

真「そうだよ。そうしたらもうボクも作っていくしかないじゃないですかー!」

P「はははっ!そんなやつらほっとけよ」

真美「兄ちゃん、酷いこと言うね…」

P「そうか?」

亜美「そうだよ。せっかくみんながまこちんからのお返しを期待してるのにほっといたらまこちんがバッシングだよ!」

P「ふーん。女ってわからんな。真が返したい相手にだけ返せばいいじゃん」

雪歩「女の子の世界って複雑なんですよ…」

影を帯びた雪歩がしんみりと言った。

何かわかんないけど、言葉に重みがあるな。

P「まあいいや、俺には縁のなさそうな話だし」

真「酷いなぁ、プロデューサー」

P「そんな君たちに朗報だ。なんと俺もお返しを持ってきたんだ」

やよい「本当ですかー!?」

P「ほい、やよい」

やよい「うっうー!ありがとうございます!」

やよいをはじめ、全員に配る。

真美「みんな違うの?」

亜美「兄ちゃんすごーい!」

P「違うのは見た目だけだ。中身は同じ」

雪歩「どうして包みは変えたんですか?」

P「なんか特別っぽいだろ?」

真「今のでなんだか特別感消えましたけど…」

P「…うるさいな。レッスン終わったら食え」

彼女たちは雪歩が淹れたお茶を飲み終えると、レッスンへ向かった。

俺は仕事を続ける。

そういえば、新幹少女って事務所に行けば会えるのかな…。

バレンタインではひかりちゃんにもチョコをいただいてるし、雛祭りではクッキーも貰ってる。

ファンからは嫉妬間違いなしの超優遇だ。

会うなら新幹Pさんに連絡入れてみようか…。

思い立ったがなんとやら。

早速メールで連絡してみた。

彼は俺よりも当然忙しいので夕方ぐらいに返信が来ればいいかなーっと思っていると、外でやや騒がしい会話が…。

美希「やっぱりデコちゃんはさっさと兄離れすればいいって思うな」

伊織「誰がデコちゃんよ!…あんたこそお兄様の邪魔ばっかして……離れなさいよ!」

美希「いやん!あずさーブラコンのデコちゃんが怖いのー」

あずさ「あらあら~」

伊織「あずさも甘やかしてないで何とか言ってやってよ!」

あずさ「そうねー。美希ちゃん?プロデューサーさんに迷惑かけちゃダメよ?」

美希「はーいなの!」

伊織「何で言うこと聞くのよ!」

美希「あずさはお姉ちゃんみたいだからかも…。お姉ちゃんと違って胸がおっきいけど!」

あずさ「きゃっ!美希ちゃんったら、触っちゃいけません…!」

美希「デコちゃんとは大違いなの…」

伊織「うるっさい!!」

P「うるさいのはお前らだ!!」

そう言うと三人はちょっとしゅんとした。

あずさ「ごめんなさい…。私一番お姉さんなのに…」

美希「ごめんなさいなの…」

うん。わかったうえで次から静かにしてくれればいいんだ。

P「伊織は?」

伊織「……だって美希が」

P「あー。言い訳すんのか?」

伊織「言い訳なんて…」

P「ちょっとおいで伊織」

伊織は少し怯えながらも素直に来た。

P「ご近所の方もいるんだから静かにしなきゃダメだろ?」

伊織「それは、わかってるけど…」

P「わかってないから怒ってるんだけど?」

でもそこまで怒ってるわけじゃない。おこ!…くらいだ。

伊織「…ごめんなさい」

P「そうだよ。苦情が来てなきゃそれでおしまいなんだから、今度からはしっかり頼むよ。これでも信頼してるんだ」

俺は伊織にだけ聞こえるように最後の言葉を言った。

伊織はパッと顔を上げる。

伊織「うん。お兄様が正しいわ。お兄様が私を信頼してくれてるなら私も大人にならなくちゃいけなかったわね…」

P「わかってくれて助かるよ」

そこで紙袋から包みを一個取り出して伊織に渡す。

伊織「これは?」

P「バレンタインのお返しだ。お前、慣れないお菓子作りよく頑張ったな」

そう言って頭を撫でてやる。

伊織は顔を赤くしふいっと向こうを向いてしまったが、鏡にばっちりとその嬉しさを抑えきれない顔がうつりこんでいた。

美希「ねえハニー、何な話してたの?…秘密なんてずるいの!」

P「いや秘密じゃないよ…。美希にもあるからさ。あとあずさも」

あずさ「なんでしょうか?」

P「はいこれ、バレンタインのお返し」

二人にもやっぱり違うデザインの包み渡す。

あずさ「あらあら~。ありがとうございます」

美希「早速食べていい?」

P「待て、帰ってからゆっくり食べなさい」

美希「はーい、わかった」

P「さて、あなたたちもレッスンに行ってきなさい」

そうして三人も事務所を後にした。

業務も終わりただいまは午後の5時。

今日はもう帰れるが、その前にメールをチェック。

新幹Pさんから返信が来ていた。

今日は特に活動は無く、レッスンのみ。

終了時刻が大体7時になるからそれまでに来てくれれば会えるということだった。

俺はさらに業務をこなして、レッスン終了の一時間前くらいに事務所を出る。

P「お疲れ様です。アイドル達によろしく言っといてください」

小鳥「はい。お疲れ様です」

高木「お疲れ。今日もご苦労様」

出て、近くに止めておいた車に乗り込む。

今日はこだまプロへ向かうため、歩きではなく車で来たのだった。

骨は折ってるが握れれば問題ない。いや、確かに危ないは危ないのだが…。

それにしても、新幹少女が収録なしとは…。

本人がいなければ受付にでも渡してしまえばいいと思ってたのだが運がいい。

30分程で目的地に着いた。

新幹Pさんは受付に話を通していたようで、俺はすんなりと通された。

P「えーと、レッスン場は…4階か。それにしてもレッスン場あんのか、このビル…」

感心しつつも階段を上る。

途中で何人かとすれ違い、その度に挨拶する。

しかし、その人たちは当然こだまプロの関係者であり、俺のことも知らないはずなのだが、明らかに俺の方を見てひそひそと話してたりしている。

どういうことなの?と疑問に思っているとレッスン場だ。

ドアの窓から覗いてみると新幹少女の三人がトレーナーの監督のもとダンスをしている。

彼女たちの表情は真剣ながらも楽しさを忘れていない。

しばらく覗いていたが、やっぱり向こうの方でひそひそと噂されてるようだ。

P「なんなんだ?」

と思ってちらりと見てみると、ひそひそ話は止まり、新幹Pさんが奥からやってきた。

新幹P「よぉPくん」

片手を上げて気だるそうにする。

P「こんばんは。わざわざ受付に話を通してもらってありがとうございます」

新幹P「そんなんいいよいいよ」

P「…ところで、なんか俺って変でしょうか?」

新幹P「うん?…確かに君は変だがどうかした?」

P「変ですか…」

なら納得せざるを得ないのだが一応聞いておく。

P「それがなんだか俺のことでひそひそと言われてるような気がしたので…」

自意識過剰だったら恥ずかしいけど…。

新幹P「ああ、そのことなら君が変なのとは関係ないよ」

P「え?じゃあ何が原因で?」

新幹P「あー、そうだな。君はうちではちょっとした有名人なんだ…と言っておこうか」

P「何ですかそれ?冗談はやめてくださいって…」

おかしくって笑ってしまう。

新幹P「まあ君がそれならいいけど…。…それよりどう?見ていく?」

そう言って新幹Pさんはレッスン場を指し示す。

P「いいんですか?」

新幹P「ちょうどいいだろ。最後は本番を想定して、お客さん入りってことで…」

俺は喜んで承諾した。

新幹P「ちょうどキリがいいとこまで終わったみてえだ」

新幹Pさんはノックして入っていく。

中では、おはようございます、と挨拶を交わしているようだ。

新幹P「よし、じゃあキリもいいし次の通しで解散ってことでいいかな?」

つばめ「了解でーす…」

のぞみ「ふぅ…けっこーキツイね…」

ひかり「そうね。でも、今度の収録までに完璧に仕上げたい…」

ラストスパートだと思って、みんなは疲れた体に鞭を打つ。

これが人気アイドルの舞台裏。

仕事で忙しい中、レッスンも欠かさない。

トレーナー「じゃあ最後、頑張っていきましょう」

新幹P「ああ、ちょっと待ってくれ」

トレーナー「どうかしました?」

新幹P「実はお客さんが来てるんだ。本番を想定したつもりで見てもらいながらパフォーマンスしてもらおうと思ってな…」

トレーナー「なるほど…。みんなはいいかしら?」

のぞみ「偉い人なのかなぁ…?」

つばめ「誰であろうと、どーんと来い!…ですよ」

ひかり「うん!完璧なパフォーマンスを披露しよっ!」

新幹P「そうかい。じゃあ呼んでくるから少し待っててくれ」

新幹Pさんが戻ってきてドアを開く。

どうやら話はまとまったようだ。

新幹P「彼女たちやる気たっぷりだ」

P「へえ、それは楽しみですね!」

新幹P「Pくんにも最高のパフォーマンスを用意するよ」

P「期待していいんですか?」

新幹P「当たり前だ。…ちなみにファンには初めて見せる新曲だからね。Pくんは恵まれてるなぁ」

そう言って新幹Pさんは笑った。

新幹P「中へどうぞ」

P「あ、わざわざどうも…」

新幹Pさんにドアを支えてもらって、俺は恐縮しながら入室する。

P「失礼しまーす…」

新幹少女の三人は驚いた表情になり、トレーナーの方も意外な人を見たなぁといった風だった。

ちょっと休憩…

感想などあればお願いします

21:00頃再開で

ひかり「Pさん?……え?…え?え?え?」

つばめ「ひかり落ち着いて!…それにしてもお客さんってPさんのことだったのかぁ…」

P「あはは…ごめんね。偉い人じゃなくて…」

のぞみ「そんな。Pさんに来ていただいてすごく嬉しいですよ!ね、ひかり?」

ひかり「わ、私ぃ!?…何で私に振るかなっ!?」

大慌てのひかりちゃん。いきなり知ってる男の人が来たら嫌なのかも…。

ひかり「嫌だぁ!…すっぴんだし、おしゃれでもない運動着だし、汗かいてるし、恥ずかしいぃ…!」

ひかりちゃんはその場でしゃがみ込んでうずくまってしまった。

トレーナー「あらあら…」

トレーナーの方は呆れながらもその顔はニヤニヤと笑みが浮かんでいた。

P「やっぱ迷惑だったかな?」

正直ちょっと傷ついたので明るく振る舞おうとしても、微妙に陰鬱なトーンが混じる。

ひかりちゃんは顔を上げ、申し訳なさそうにした。

ひかり「…あの全然迷惑ってことはないんですけど…こんな姿Pさんに見られて恥ずかしいと言うか…その、何て言うか…」

ひかりちゃんは自分の今の容姿を気にしている。

女の子のわからない部分の一つだよなぁ…。

ひかりちゃんはすっぴんでも可愛いし、汗をかいて踊ってるのも頑張ってる証拠で清涼感もあるし、恥ずかしいことなんて一つもないと思うけど…。

新幹P「あのなぁ、ひかり…。Pくんは気にしないぞ、そんなこと?」

つばめ「まあ、Pさんもプロデューサーだもんね…。でもそういうものではないんですよ?」

のぞみ「そうですよプロデューサー。乙女心を理解してください」

新幹P「俺は理解してる方だぞ?…ひかりが恥ずかしいのはよぉく分かるが、彼はお前がすっぴんだろうが、汗かいていようが、気にしないどころかむしろ好感を持つと思うけどな」

トレーナー「そうなんですか?」

P「え?…そうですね、いつも着飾っているような人よりはこうやって一生懸命頑張ってる人の方が見てて気持ちいいです」

相槌をうって話を聞くトレーナーさん。

P「それにおしゃれして練習しようもんなら私はまず動きやすい服に着替えさせますし、すっぴんでも可愛い人は可愛いですよね」

トレーナー「じゃあひかりのすっぴんはどうですか?」

P「もちろん可愛いと思います。努力してる姿はかっこいいし、恥じらうのも可愛らしさを感じます。気にしすぎるのはダメですけど…」

つばめ「だってさ、ひかり…。今のひかりが好きだから気にしすぎるなって言ってるよ?」

ひかり「…」

つばめ「顔赤くしすぎ!!」

のぞみ「ナイスですトレーナーさん…」

ひかりちゃんはすっと立ち上がった。

たくさん運動したので当然ながら顔は赤くなっているがやる気は十分みたいだ。

トレーナー「じゃあPさん。こちらに座って見ていてください」

P「はい」

促されるままに座る。

新幹少女は準備完了のようだ。

トレーナー「よし、音楽を流すよ」

しんと静まり返ったこの部屋で新幹少女の新しい曲が流れ始める。

俺は彼女たちの雰囲気に、表情に、踊りに、歌に、魅了されていく。

曲が終わる。ボーカルなしの音源だったが、贅沢なことに生歌で披露してもらった。

惜しみない賞賛の拍手を送る。

新幹P「どうだった?」

P「最高です!なんだか贅沢な気分になりました」

新幹P「ははは…!君は贅沢なんて死ぬほど味わってきたんじゃないのか?」

P「そんなことないですよ。そもそも昔は贅沢なんて言葉も知りませんでしたから。それにこんなに感動したのも初めてかもしれません。この仕事やってて良かったって思いますよ」

新幹P「いやぁ、そう言ってもらえると嬉しいね」

話をしているとトレーナーさんは手を叩いて新幹少女に呼びかける。

トレーナー「はいお疲れ様!今日はしっかり休んで明日に備えてね」

ひかり「私、シャワー浴びてくる!」

つばめ「ひかりってば速い!…私はもう疲れたわぁ…」

のぞみ「私も…。あ、そういえばPさんはどうしてうちまで来たんですか?」

そういえば…。さっきの歌で忘れてた。

P「今日はホワイトデーだからひかりちゃんにお返しに来たんだった。…そうだ、よかったらみなさんもどうですか?」

そう言って大きめの箱を紙袋から取り出す。

新幹P「ひかりのじゃないのか?」

P「ひかりちゃんは別に用意してます」

つばめ「えー…でも私何にもあげてないのに、Pさんにもひかりにも悪いよ」

P「いつもお世話になってるし、俺からの気持ちってことでどうかな?」

のぞみ「うーん…」

渋る二人に新幹Pさんが一声かける。

新幹P「ま、そういうことなら断るのも失礼だな」

そう聞いた二人はやっぱり渋々と、しかしありがとうと言って受け取った。

P「ひかりちゃんは?」

つばめ「ごめんなさい。ひかりってばすぐシャワー行っちゃって…。戻るまで下で待っててもらってもいい?」

P「うん。大丈夫だよ。今日はもう何もないから」

そして下で待つこと約15分。

俺は受付の側にある待合室的な場所の椅子に腰掛けている。

ひかり「お待たせしましたPさん!」

P「お疲れ様。とってもよかったよ」

ひかり「ありがとうございます」

P「いえ、こちらこそ。…それで、これ、先月のお返し」

ひかり「嬉しい…」

P「まあ、座りなよ」

ひかり「はい、失礼します…」

P「ふふっ…。別にそんなに丁寧じゃなくてもいいよ。君の事務所じゃないか」

ひかり「そ、それもそうですね!やだなぁ私ったら…」

P「それ、クッキー作ってみたから、よかったらお家で食べてね」

ひかり「いまいただいてもいいですか?」

P「えっと、今は…」

ひかり「?」

すっと覗き込み疑問に思うような表情をするひかりちゃん。

P「その…メッセージカード入れてるんだ。だから目の前で読まれるのは恥ずかしいかな」

柄にもなくメッセージカードなんて、恥ずかしいものを仕込むんじゃなかった。

ひかりちゃんをチラッと見ると、彼女は気になるものを捉えたというか、目が釘づけになっているというか…。

言葉では表しにくいような顔をしていた。

P「ひかりちゃん?」

ひかり「えっ?あ、あはは…」

笑って誤魔化すひかりちゃんだが、何を誤魔化そうとしたのかはピンとこない。

P「…ところでさっきから気になってたんだけどさ」

ひかり「はい」

P「あの人たちは何なの?」

俺の視線の先には複数の社員と思わしき人々が騒々しくこちらを窺っていた。

ひかり「あれはうちの社員だと思うんですけど…何をやってるのかまでは…」

P「俺ってここじゃ有名人らしいんだけど、どうして?」

ひかり「えっ!?私、Pさんの話は社員から聞いたことないですけど…」

謎は深まるばかりだった。

話をしていたのだが、時間もそこそこ経ってきた。

P「じゃあ帰るよ。今日はいろいろありがとね」

ひかり「いえ、こちらこそ。私も帰りますね」

P「あ、なら送っていこうか?俺、今日車だし、さっき新幹Pさんも帰っちゃったでしょ?」

ひかり「え、プロデューサー帰ったんですか?」

P「うん、さっき出ていくの見えたし、メールも届いてる。嫌じゃなかったらひかりちゃんのこと送ってくれって。………嫌?」

ひかり「ま、まさかそんなことはありえませんっ!!」

P「そ、そうなの?…あ、ありがとね…?」

ひかりちゃんはハッとして心を落ち着かせた。

そうして事務所を出る。

俺は助手席に彼女を案内してドアを閉める。

ひかり「手、怪我してますけど大丈夫ですか?」

P「ああ、大丈夫。任せてくれ」

ここで不安を煽っていはいけない。

特に何事もなく車を出した。

車の中ではアイドルのこと、最近引っ越したことなどいろいろ話してひかりちゃんを家まで送った。

ひかり「今日はありがとうございます。わざわざ来ていただいて…」

P「ううん。俺もいいもの見せてもらったし楽しかったよ」

ひかり「私もです」

P「それじゃあ」

ひかり「お疲れ様です」

P「お疲れ様」

少し窓を閉めるのをためらったが、オートで一気に閉める。

車内から手を振って車を発進させる。

ひかりちゃんも手を振って応えてくれた。

俺が左折する瞬間ミラー越しに彼女を見る。

彼女はまだ手を振ってくれていた。

俺はなんだか嬉しかった。

自宅へ帰ったころにはすでに9時。

P「お腹空いたな…」

夕飯を簡単に作ろうかなと思ったがその前に紙袋に残った最後の一つを持っていくことにした。

一応連絡してからの方がいいかな?

携帯を取り出し、電話をする。

数コールの後に携帯から声が聞こえた。

女P『もしもし…Pさんどうしました?』

P「もしもし…あの、渡したいものがあるんですけど、今からお伺いしてもいいですか?」

女P『い、今から!?ちょ、ちょっと待っててください!』

P「え?」

彼女は早口にそう言うと電話を切ってしまった。

言われたとおりに待つ。

数分してから夕飯でも作ってればよかったかなと後悔する。

料理をしている間は手を離せないから電話に出られないし…。

ちょっと待ってと言われたものだからすぐに折り返しの電話が来るだろうなと思ったのだ。

案の定10分程でコールが鳴った。

P「もしもし」

女P『…あの、どうぞいらっしゃってください』

P「…いいんですか?じゃあすぐに行きますね」

女P『はい、お待ちしてます』

俺は電話を切って、スーツ姿のままお隣さんのインターホンを鳴らす。

しばらくして、パジャマ姿の女Pさんが玄関を開ける。

眼鏡をかけていないのが普段とのギャップもあってドキドキさせられる。

女P「え、スーツ…?」

女Pさんは俺の服装に驚いていた。

P「ごめんなさい。さっき帰ってきたもんですから着替えてなくて…」

女P「あ、あー…。そういうことですね。てっきり正装してきたのかと思いました」

P「あはは…!そういうあなたは可愛らしいパジャマですね。とっても似合ってます」

女P「もうっ!からかわないでくださいっ!」

顔を赤くする女Pさん。

俺は彼女はもう寝たいのだと思い、早めに切り上げようとする。

P「今日はホワイトデーなので、これどうぞ」

箱を差し出す。クッキーが入れてあって、当然みんなにあげたのとは別のデザインだ。

女P「わぁ、ありがとうございます。…かわいい」

彼女は箱を見てそう呟く。

P「じゃあ私はこれで…」

すぐに戻ろうと思ったんだが…。

女P「Pさん、さっき仕事帰りってことはお夕飯まだですか?」

P「そうですね。これから作ります」

女P「だったらうちで食べていきませんか?」

彼女はどうやら先にお風呂を済ませただけらしい。

P「それは悪いですよ」

女P「そんなことありませんって!私もこれからご飯食べますし、一人よりも二人の方が絶対いいです!」

P「うーん、でも…」

女P「お酒も一人より二人の方が美味しく飲めます!」

お酒か…いいなぁ。雛祭り以来飲んでない。

でもこんな時間に女性の部屋に入ってっもいいのだろうか…。

本人はいいって言ってるのだからいいんだろうけど、俺の理性的な意味であんまりよくない…。

と考えてるとお腹が鳴った。

女P「…食べていきましょ?」

P「…はい、ごちそうになります」

折れました。

結局、料理をいただいてお酒も飲みながら楽しく食事をした。

食べ終わった後は二人で食器を洗い、また飲んだ。

以前みたく、隣同士で飲んでいると彼女はぐっと体重をかけてきた。

俺は不意の出来事にどぎまぎしたが、見てみると眠っていた。

散らかった缶を片付け、女Pさんを抱えてベッドに寝かせる。

じっと寝顔を見てると吸い込まれそうな感覚に陥ったが、ダメだダメだと首を振ってなんとか我を保つ。

お酒が回ってるのかな…なんて思いながら電気を消して、いったん家に戻る。

歯を磨いてシャワーを浴びて着替えてから、また彼女の部屋に戻る。

鍵は勝手に持ち出せないから内側から閉めるしかない。

そうして俺もベッドの横に座って寝てしまうのだった。

女P「ふわぁ…。あれ、私いつの間に…昨日は確かPさんと飲んでて…」

女Pが視線を動かすとその先には例の彼がいた。

女P「へ?」

考えること数秒、頭は冴えてきて結論が出る。

Pが家にいるのは、女Pが寝てしまって勝手に鍵を持ち出すわけにもいかないので妥協点を探った結果このような形に…。

ドジは踏むが、女Pは努力タイプの賢い人間だ。

女P「私、なんてことを…。とにかく、歯磨きしなきゃ!」

まず先に歯を磨くあたりはやはり女性だった。

女Pは洗面所でいろいろと準備をして、その後に朝ごはんを用意する。

きっと彼に迷惑をかけただろうからせめてここまでやっておこうと思った。

あらかた準備が整ったのでPを起こす。

女P「Pさーん。起きてください」

Pはベッドの横で膝を曲げて座って寝ていた。

スーツじゃないのが気になった。

ゆさゆさ揺すっていると、Pは寝ぼけたのかその体勢から足を伸ばす。

それがちょうど女Pの足に当たり、体勢を崩して…。

大きな衝撃で俺は目を覚ました。

目の前には女Pさんの顔。

彼女は押さえつけるかのように俺の肩をつかんでいる。

女P「あの、これは違くて…」

P「…えと、何がです?」

女P「この体勢は事故で…。その、す、すみませんすぐどきます!」

慌てて俺から離れようとする女Pさんの腕をつかんだ。

どうしてそんなことしたのか、よくわからない。

支えるものがなくなった彼女は俺の膝に座り、胸に顔を埋める姿勢になった。

そんな彼女の頭を撫でる。

女P「ふあぁ…」

ゆっくり顔を上げる女Pさん。その表情は恍惚としていて、俺も冷静さを失うには十分だった。

徐々に近づくお互いの顔。

朝っぱらから何やってんだと思わなくもないだろうが、関係ない。

お互いの息がかかる。

さらに意識が高まっていく。

頭は考えることをまるで拒んでいるようだ。

唇が重なる。

…までほんのわずかな距離だった。

瞬間、玄関の方で物音がして俺たちは叫びながら咄嗟に離れた。

コメディでよくあるような俊敏さだった。

この音は、郵便物…朝刊だろうか…。

時計を見てみると朝の6時。

ここは朝刊が届くのはあまり早くないらしい。

だが、そんなことはどうでもよかった。

P「…」

女P「…」

気まずい。

彼女の顔は真っ赤っかで、おそらく俺も同じだ。

女P「あ、あのっ!…私、朝ごはん作ったんで!食べてもらえると嬉しいかなって!」

声は上ずり、焦りまくった調子で言う女Pさん。

P「あ、あー!そうなんだ!じゃあ、いただこっかなー!」

俺の声も裏返って、不自然なまでの会話だ。

結局、その後は部屋を出るまでお互い顔も合わせられずに沈黙。

さようならと足早に部屋を出て自分の部屋へ戻った後、俺は頭を抱えた。

出勤してからも何度も何度も思い出し、悶絶しているところをアイドル達に見られ、ドン引きされるのだった。

おちまいでーす!
途中からPが骨折してたの忘れかけてたww

なんか二名ほどヒロインやってるキャラがいますね…
765プロ関係ないし…
他の子にもスポット当てていこうと思います

ご意見(ryあればどうぞ!
このキャラの出番増やしてほしいとかあれば教えてください
次のサブ回の時に検討します


>>14で着地点が見えないとあるけど
最後は父親との和解以外あり得ないと思う

皆さんレスありがとうございます。励みになります!

>>523
色々と模索中です!

余談ですがワードで300ページを超えてしまいました
まだまだ続きそうですがよければ最後までお付き合いください

お久しぶり。今日の夜に投下しようと思います。

響のキャラが原作と大きく異なりますのでご注意ください。

かわいいなら許せる

>>533
そっ閉じ推奨です。

長いので分割して投下します。

765プロ設立から一年が経った今は4月。

千早の歌は先月のライブから話題を呼び、CD売上もなんと上位に…。

さらに歌番組の出演も決定している。

誇らしいことだ。

そして4月と言えば新たな始まりを告げる季節。

765プロとて例外ではない。

高木「やあ、おはよう」

P「おはようございます」

高木社長が出勤。

小鳥さんも律子も続いて挨拶する。

最近はうちのアイドルの仕事も増え、社長があちこちに駆け回る必要も無くなってきたのである。

こうして事務所に来て俺たちの事務も随分と楽になる。

社長曰く、会社のトップが誠意を見せて初めて社員も会社に尽くす、ということらしい。

うーん、確かに…。

上から指示を出すだけの上司には不満も溜まるというものだ。

俺は仕事をさせてもらってる恩があるから別に社長がぐうたらしてても構わないのだが…。

高木「ところでPくん。手の方はもういいのかね?」

P「ええ、もうほとんど治りました。ちょっと折れやすくなってるので、気をつけるくらいですかね」

高木「そうか。大変だったねぇ」

P「まあ、隣人もしょっちゅう来て手伝ってくださいましたし…」

変な気を起こさないよう、家で二人きりの時はお酒は控えてる。

今でも忘れられないが、あの時のことが無かったみたいに普通に接している。

いや、彼女は全然普通じゃなかったけど、俺があんまり普通にしてるもんだから流されたんだと思う。

小鳥「へー、ご近所づきあいもしっかりしてるんですね」

高木「君は本当にいい友人を持つね」

P「はい、とってもいい方です。昨日も仕事終わりに一杯やりました」

小鳥「私も誘ってくださいよぉ」

何事もなくこの話題は終わると思ったが余計なことは言うもんではないなとこのとき思った。

律子「その人って男性ですか?女性ですか?」

律子のその質問で他二人も、そういえば…と気づいたように興味津々になる。

P「………別にどっちでもよくない?」

高木「おや、詮索されては困る仲なのかね?」

小鳥「おやおやぁ?」

絶妙な質問で追い詰めてくる高木社長とモブ並の煽りをしてくる小鳥さん。

P「別に困るわけじゃありませんが、妙な勘違いをされては面倒ですし…ここは黙秘で…」

律子「これは女性ですね…」

あたりなんですけど、黙ってて肯定と捉えられるのも億劫だった。

P「決めつけはよくないな律子。俺が黙ってるのは、相手の人が男性でも余計な詮索をされると思ったからだ」

律子「別に男性ならそんなことしませんよ。ねえ…」

…と小鳥さんに振り向く律子だったが、当の事務員は恍惚の表情を浮かべて完全にトリップしていた。

実はこの人、男性同士もいけるらしい。

社長も慣れているのかドン引きとまではいかないが、やや距離を置いたのが何とも言えなかった。

律子「ああ、この人は別でしたね…」

P「だから黙秘だって言ったんだ」

律子は納得はしたが、未だに俺とお隣さんの仲を訝しんでいた。

高木「君は結婚とかは考えないのかね?」

だから女性とは一言も言ってないのに…。

けど、先ほどの話題とはずれてきたので、普通に答える。

P「結婚は今のところは全く…。そもそもみんなをトップアイドルにするまでは恋愛とか考えていませんよ」

小鳥「じゃあその後でアイドルの子に結婚の申し込みをされたらどうするんですか?」

小鳥さんは復活したようだ。

P「えー?…そうですねぇ…安定し始めるまでは待ちますけどみんな年齢が離れてるし、あずさならまだ年齢は近いですけど…」

律子「あずささんはいいんですか?」

咎めるような律子の声。

P「いいってわけじゃないけどね…。仮に、俺があずさに恋愛感情を抱けば、悩まないで即オーケー…かな?」

高木「そう言うってことは三浦くんにはそういう感情は無いわけだね」

P「まあ、そうですね」

小鳥「でも、どうなるかわかりませんよ?」

高木「それもそうだねぇ…恋とは何があるかわからないものだからね」

P「はあ…そういうものなんですか…」

律子「プロデューサーってそういう経験無いんですか?」

P「うーん。特に親しい女性がいたわけでもないし、誰かに恋したっていう自覚は今までに無いかな…」

律子「へー、意外です…」

P「そういう律子も無さそうだけど」

律子「そうですね…。男子って何かと子供っぽいので…」

高木「律子君は大人びた男性がタイプだったわけだね」

律子「はい。せめて私より頼れるような男性がいいです」

小鳥「じゃあプロデューサーさんとか…?」

律子「なっ、なんでプロデューサーが出てくるんですか!?」

律子は不意の質問に少し慌てる。

律子「まあプロデューサーは尊敬できますけど、そういうのは無いです」

きっぱりと言い切る律子。

P「そもそも俺は大人びてませんからね」

律子がそう言うのもうなずける。

小鳥「ふぅん…。でも恋愛は何がきっかけで発展するかわかりませんからね」

P「そういうあなたはどうなんですか?」

聞かれてギョッとする小鳥さん。

小鳥「私は、その、あの…」

P「なんですか?…煮え切らない返事ですね」

小鳥「私も経験無いと言いますか…えーと、はい…」

P「俺とあんま変わらないじゃないですか…」

ちょっとわかった風な恋愛初心者さんだった。

P「とにかく、恋愛なんてしばらくする気はありませんから安心してください、社長」

高木「そうだね、君がアイドル達のことを第一に考えてくれるならそれに越したことはないけど、自由にしてもらって構わないよ」

P「はい。ありがとうございます」

小鳥「でも私だって結婚したいとか考えてるもん…」

なんだかふて腐れてしまった小鳥さん。

律子「そうですね。頑張りましょう小鳥さん」

そんな彼女を慰める律子。

朝からこんな調子で業務が始まる。

ちらちらと頭の中である女性の顔が浮かんだが、どうして彼女のことを考えてしまうのかよくわからなかった。

高木「うぉっほん…!」

仰々しい社長の咳払いは話の話題を切り替えるとともに重要な話題の提示を示している。…多分。

高木「ところで今日は君たちに大事な話があってね…」

P「大事な話ですか…」

みんな息をのむ。

高木「実はね…本日付で新しいアイドルが来ることになってるのだよ!」

小鳥「なんと…!」

律子「新しいアイドルですか!」

二人とも驚いているがそれ以上に喜ばしいようだ。

新入りは美希以来か…久しぶりだなぁ。

高木「私の知り合いでプロダクションを経営してるところがあったんだがね…」

少し沈痛な面持ちで社長は話す。

高木「経営がこんなにんなって倒産してしまったのだよ」

律子「と、倒産…?」

うちも他人ごとではない状況にあったので律子はちょっと青ざめてた。

高木「そうなんだ。それで解雇になる予定だったアイドルをうちで二人ほど引き取ってね、今日から活動してもらうことになってるのだよ」

P「なるほど…だから今日は全員が事務所に集まるスケジュールになってるわけですね」

小鳥「どんな子たちが来るのでしょうか…?」

高木「複数いた子たちの中でも特にピンときた子を引き取ったよ」

律子「他の子たちは?」

高木「ああ、他の子たちもそれぞれ引き取り手がいるみたいだ」

ホッと安心した律子。

夢が破れてしまうのは悲しいもんな。

高木「だから彼女たちのこと、P君と律子君に任せたよ!」

P「はい。任せてください」

律子「が、頑張ります!」

小鳥「私もしっかりサポートしますね!」

そして昼前にはアイドルの子たちもみんな集まる。

高木「やあ、みんなおはよう。今日は新しい仲間を紹介しよう」

春香「どんな子なんだろう…楽しみだなぁ…」

千早「そうね…仲良くできるかしら?」

あずさ「765プロはみんな仲良しだから、きっと大丈夫よ」

そんなあずさの胸を見て千早は…。

千早「くっ…!」

おい。仲良しという言葉に説得力がないぞ。

だが千早、それは俺にはどうすることもできない。すまない。

今のは心の声のはずだから、千早に睨まれたのはきっと気のせいだ。

高木「じゃあ紹介するから入ってきてくれるかな」

そう言って扉の向こうから出てきたのはやや小麦色の肌をしたポニーテールの小柄な女の子と、銀髪で気品あふれる長身の女の子。

高木社長が自己紹介を促す。

響「じぶ…私、我那覇響って言います。よ、よろしくお願いします…」

恥ずかしいのか、もじもじとしてみんなと視線を合わそうとしない。

しかしみんなは拍手して歓迎する。

それに対して一層恥ずかしそうに俯いてしまった。

続いて銀髪の女の子。

貴音「四条貴音と申します。よろしくお願いします」

こちらは堂々としていて圧倒されてしまいそうなほどだ。

自己紹介を終えると再び拍手。

高木「じゃあP君、今日のことは任せるけど、いいかい?」

P「もちろんです」

高木「頼もしい返事だね。律子君はいつも通りレッスンを見てやってほしいのだが…」

律子「はい。わかりました」

そう言うと律子は手を叩いてみんなをまとめる。

律子「はい!じゃあレッスンに行くわよ!今日は厳しいからねー!」

亜美「えー!りっちゃんより兄ちゃんがいいー!!」

真美「真美もー!りっちゃん厳しいんだもーん!」

春香「そうかなぁ?プロデューサーさんの方がキツイと思うけど…」

律子「亜美と真美は特別練習でもやる?」

亜美真美『うあうあー!ごめんなさーい!!』

真「それにしても今日は一日中レッスンかぁ…」

伊織「最近、レッスンの日って取れないものね」

雪歩「大丈夫かなぁ…?ついていけるかなぁ…?」

やよい「私も心配です…」

伊織「大丈夫よ。それより今日は久しぶりにみんなでレッスンなんだし楽しみましょう」

美希「デコちゃんいいこと言ったの!…でもミキもハニーに見てほしかったけどね」

伊織「デコちゃん言うな…」

ぞろぞろとレッスン場に向かうアイドル達。

残されたのは俺と新入り二人。

P「さて、まずは自己紹介だな。俺はP、アイドルのプロデューサーをやってる。企画はもちろん、レッスンも見るし、君たちのサポートを全力でやらせてもらう。よろしく」

貴音「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

響「…よ、よろしくお願いします」

P「えーと、我那覇?」

響「は、はいっ!」

P「大丈夫、最初は慣れないことも多いけど一緒に頑張ろう!」

響「…うん!」

この子いい笑顔するなぁ。

P「四条も徐々に慣れていけばいいから…」

貴音「お気遣いありがとうございます」

P「そうだ。君たちはどうしてアイドルに?」

貴音「それは…とっぷしーくれっとです」

四条は人差し指を自分の口元に立てて言う。

トップシークレット?秘密ってことか…。

なんだ、とっつきにくいな…。

P「そっか、我那覇は?」

響「えっと、じ…自分は、ターリー…お父さんが死んじゃって…家族のために上京してアイドルを始め…ました」

P「そっか…ごめんな辛いこと聞いちゃって…」

響「ううん、いいんだ…あなたは悪い人じゃなさそうだし…」

悪い人?以前になんかあったのか?

P「それにしても二人は同じ事務所から来たんだろ?」

貴音「いいえ、所属は同じですが私は彼女を見たことはありません。おそらく別の事務所から来たのだと思います」

ややこしい話だが、今回倒産したプロダクションは事務所を二つ構えていて、彼女たちは別々の場所から来たということだ。

P「ふーん。そういうことね」

とはいえ彼女たちにいきなり仕事が入ってくるわけがなく、俺たちも俺たちで別のレッスン場に向かうことになった。

P「いきなりレッスンでも大丈夫?」

貴音「もちろんです」

響「こう見えても、じ…自分、結構ダンス得意なんだ…」

相変わらず堂々と振る舞う四条に対し、少しおどおどしながらもアピールする我那覇。

P「二人とも自信ありそうだな」

お手並み拝見といこうかな…。

そう思っていたが、歌もダンスも言うことはほとんどなかった。

響「ど、どう…ですか?」

P「うーん。特に言うことはないなぁ…。細かいところはいろいろあるけど全体的にまとまってる。うん、率直に言うと上手い」

ただ、なんか物足りないんだよな…。

アイドルとして致命的な何かが欠けてる。

P「…お前ら、楽しい?」

たった一つの、イエスかノーかの二択の質問。

けれど二人ともすぐに答えられなかった。

P「悪いことは言わねえよ。楽しくないんなら辞めた方がいい」

二人が答える前に追い打ちをかける。

響「えっ!?」

貴音「…」

P「うちのアイドルは全員が、少なくとも仕事を楽しんでやっている。全力でアイドルやってる。あんたらは確かに上手いが…それだけだ。そんなんじゃ仕事もやらせられない」

響「そ、そんなっ!楽しいぞ!歌って踊って…自分、楽しい!…です」

そんな無理な笑顔はやめてくれ。

見てるこっちが辛い。

P「四条、お前は何か言いたいことねーのか?」

貴音「はて…楽しいかと聞かれるとよくわかりません…。ですが私も手ぶらでこのまま帰るわけにいかないのです」

事情は分からんが二人とも辞める気はないようだ。

P「まあ、まともに仕事もやったことないようだから楽しいかどうかなんて聞くのも野暮だったな」

それを聞いた二人はばつが悪そうに顔をしかめた。

P「これから優先的にお前たちには仕事を与えるから、楽しいかつまんないかはそれで決めろ。つまんなかったら辞めろ。こちらが迷惑だ」

酷い言葉を投げつける。

これで折れるようなら本当にいらない。

いや、いるいらないなんて俺の本心ではない。どうでもいい。

ただ、醜い大人の波に飲まれる世界だからこそ、この対応が俺にとって最も正しい選択なんだ。そのはずだ。

でもできれば辞めたいなんて言ってほしくない。

案の定というか、二人ともポジティブな反応ではなかった。

我那覇は泣きそうな顔をして俯いている。

涙をこらえるのに必死なのか肩を震わせる。

一方で四条はあまり大きな変化を見せない中で、ただ表情だけが険しいものに変化していた。

しかし四条にとっては、これでも大きな変化に違いなかった。

P「今日はもういい…。あとは気持ちの問題だからな。続ける気があるなら明日も来い。ちょうどいい仕事があるんだ」

響「…仕事、できるんですか?」

P「今までやったことないんだろ?」

響「そうですけど…」

P「何事も経験だ。ああ、辞めるときも一言連絡入れてくれよ?」

二人は黙ったままだ。

俺の予想が正しければ沈黙は問いに対する了承、そして拒否。

二人の目はまっすぐ俺を捉えていたからだ。

P「じゃあ直帰でいいぞ。明日からはレッスン続きになるだろうけど、我那覇は学生生活にも支障が出ないようにな」

響「…はい」

俺はお疲れ様と言ってその場を後にする。

返事も無く、お辞儀だけした彼女たちは相当参ってるようだ。

響「…あの、四条さん」

貴音「どうしました、我那覇響?」

響「どう思う、あの人…?」

貴音「それはあなたが決めることでは?」

響「自分は、厳しいことを言うけど誠実な人だと思った…」

Pの印象を素直に話す響。

貴音「そうですか…。私も同じ意見ですよ」

響「…そっか。それにしても四条さんって歌も踊りも上手いんだね…自分びっくりしたぞ」

響は見た目の印象からは想像できないが、人見知りだ。

実際、人と目を合わせようとしない癖がある。

そんな響が頑張って他人に話しかけたり、話題を振るのは珍しいことであった。

貴音「いえ、我那覇響、あなたこそ見事でした」

響「えへへ…そうかなぁ…」

貴音「我那覇響…いえ、響…私たちはもともと同じプロダクションの仲間、これからもよろしくお願いします」

響「う、うん!…よろしくね!えーと…貴音!」

貴音「ふふっ…。では着替えて帰りましょう」

響「そうだね。今日は緊張したなぁ…」

貴音「ええ、私もです」

響「ホントに…?全然そうは見えなかったんだけど…」

貴音「あまり顔には出さないようにしていますから」

本日、初対面のはずの響と貴音はもとの所属が同じということもあり、お互いすぐに馴染めた。

響「貴音はお家どっち?」

貴音「私はあっちの方です」

指さした方を見て響は嬉しくなった。

響「自分もそっちなんだ!途中まで一緒に帰ろうよ!」

こんな夜道でも、いつもなら秘密だとか言って誤魔化すのだが…。

貴音「…ええ、一緒に参りましょう」

響の笑顔は人を惹きつけるものでもあるのか、あるいは悲しむ顔が見たくなかったからなのか…貴音は承諾した。

そうして着替えた二人。

響はすぐにできた友人との帰りに心躍らせていたが、カバンを整理していて気づいた。

響「…あれ?」

貴音「どうかしました?」

響「あはは…。ちょっと事務所に忘れ物したみたい…」

貴音「そうですか…ならば待ちますよ」

響はわたわたと手を振る。

響「いいって…!そんなの貴音に申し訳ないぞ…」

とは言いつつ内心待ってほしかったりする。

貴音「いいえ、今日は特に急ぐ用事もありませんし、待っていますので事務所まで行きましょう」

響「貴音…。ありがと」

…俺は今日のことを小鳥さんに話していた。

レッスンは割と長くやっていたのですでに時間は7時前後。

さすがに日も落ちている。

小鳥「プロデューサーさんはそういうところ厳しいですねー」

まあその通りだと思う。

優しい言い方ができないのも直したい点ではあるのだが、改善される気配がない。

P「ところで、今日来た我那覇と四条ですけど…」

小鳥「あら、下の名前で呼ばないんですか?」

話の腰を折る小鳥さん。

P「…それは距離感が縮まったらで」

俺は適当に流しつつ、振りたかった話題を振る。

P「…今度、美希と組ませてユニットで売り出そうと思うんですけど、どう思いますか?」

小鳥「うーん。いいと思いますよ?私はプロデューサーさんの意見をサポートするだけです」

P「…でも上手くやれるかなぁ?」

小鳥「いつになく弱気じゃないですか?」

P「あいつら楽しそうにレッスンしてませんでしたから…」

小鳥「そうなんですか…」

少し心配そうになる小鳥さん。

P「仕事したことないみたいなのでその、経験とかも積ませたいんですけど…」

小鳥「経験ゼロで美希ちゃんと組むのはハードル高いですね…」

P「そうなんですよね」

小鳥「しかも美希ちゃん最近は真面目にレッスンもしてるし、ついていけますかね…?」

P「そこは問題ないです。歌もダンスもかなり上手いですよ。それは美希に負けないくらいに…」

小鳥「へえ!すごいですね!…ならなんでそこまで心配を?」

P「美希の奔放な性格についていけるかどうかですかね…」

小鳥「あー、要はコミュニケーションの問題ですか」

P「そうなりますね。四条はともかく我那覇は人見知りみたいなので…」

そうだったのかと小鳥さんは顎に手を当てる。

P「まあ、どちらにせよアイドルとしてやることは、やってもらわないといけませんからね…」

小鳥「お仕事もただで手に入れられるものではありませんからね…」

P「ですねー。時には体を張ることも大事ですよ」

主に俺が…。

小鳥「実際、彼女たちはどうなんでしょうか?」

どうと言うのは仕事に対する熱意だろうか…。

P「明日になればわかりますよ。…いや、おそらく仕事に飢えてます」

明日来るか来ないかだが、彼女たちは来ると思う。

来たからと言って辞表を叩きつけられないとも限らないのだが…。

P「俺は今がチャンスだと思いますね。仕事への渇望と成功した時の達成感を考えれば彼女たちはもっと先を求めてくると思います」

小鳥「成功っていうのもなかなかにハードじゃないですか?」

P「彼女たちならきっと大丈夫です。一度やってしまえばそれが自信にもなるし、何よりファンのためにもっと頑張れるんじゃないですか?」

俺が柄にもなく新人アイドルについて、熱く語っていると、大きな物音が聞こえた。

続いて扉が閉まる音。

どたどたと慌てたように階段を駆け下りていく音も少し聞こえた。

P「ちょっと見てきます」

小鳥さんは完全に青ざめている。

小鳥「気を付けてください…」

俺は警戒しながらドアを開ける。

待ち伏せして襲い掛かってくることもなかった。

一応、階段を下りて建物の外も確かめたが、やはり怪しい人影はなかった。

P「?」

なんだったんだろうか…。

俺は疑問に思いながらも戻る。

高木「どうしたのかね?」

高木社長は異変を聞きつけて社長室から顔を出していた。

P「いや、なんか誰かが出入りしたような物音があったので、確認してきました」

高木「不審者か…怖いねぇ…戸締りを強化するようにしようか」

小鳥「そうですね…」

いったん休憩します。

それにしても皆さん予想をばしばし当ててきますね。

十分可愛いやんけ(可愛いやんけ)
そっ閉じ推奨言われたら逆に気になって見たくなるひねくれた俺
響Pとしてはあまり酷くなきゃ普通に読むかなーってまあ可愛ければそれでOK

さあ、再開していきます

>>556
ありがとうございます
安心しました

数分前…。

響「じゃあ自分すぐ戻るから、そこで待っててね」

貴音「ええ、わかりました」

そうして響は静かに事務所のドアを開けた。

Pと小鳥はなにやら雑談中で響には気づいてないみたいだった。

響(早く取って戻ろう…)

響が忘れたのは財布。

うっかりカバンから出してしまい忘れたのだ。

当然、忘れたまま帰るわけにはいかない。

響(あった!)

彼らから見えない位置に置いてあった響の財布。

響もここで、そんなにこそこそすることは無かったはずだったのだが…先ほどのレッスンで言われたきつい言葉のせいで、なんだか顔を合わせづらかった。

P「まあ、どちらにせよアイドルとしてやることは、やってもらわないといけませんからね…」

小鳥「お仕事もただで手に入れられるものではありませんからね…」

P「ですねー。時には体を張ることも大事ですよ」

小鳥「実際、彼女たちはどうなんでしょうか?」

彼らの会話が聞こえる。

盗み聞きするつもりはなかったが、貴音と響自身の話だとわかって気になってしまう。

P「明日になればわかりますよ。…いや、おそらく仕事に飢えてます」

Pのその表現はほとんど的中していた。

響は確かに仕事がしたい。

そのために上京してきたようなものだし、アイドルの舞台に立ったことすらない。

一年間プロダクションに所属してたうえで…。

そして響は嫌なことを思い出していた。

以前所属していたプロダクションでのことだ。

P「俺は今がチャンスだと思いますね。仕事への渇望と成功した時の達成感を考えれば彼女たちはもっと先を求めてくると思います」

『今がチャンスなんだよ!』

小鳥「成功っていうのもなかなかにハードじゃないですか?」

P「彼女たちならきっと大丈夫です。一度やってしまえばそれが自信にもなるし、何よりファンのためにもっと頑張れるんじゃないですか?」

『仕事を取りたければ体を張ってもらわないとね』

『最初だけだから…。それに一度ヤればもっと欲しくなるよ?』

『仕事、欲しいんでしょ?』

『ファンのためだと思って!』

言動が重なる。

もう疑いが止まらない。

響は嫌な汗を全身に流しながら、足を震わす。

もう嫌だ。

…心機一転とまではいかなかったが、ここに来る直前までは仕事ができるかもしれないと楽しみにしていた。

それに対してこの仕打ち。

響は何を信じばいいのかわからない。

そうして逃げ出した。

血相を変えて逃げ出した響は貴音のもとへ…。

貴音「おや、少し時間がかかったみたいですね」

響「…ごめん」

貴音「顔色が優れないようですが…」

響「…」

言うか言わないか迷う。

けれど貴音も被害者なんだと思うと言わずにはいられなかった。

響「貴音!」

貴音は急に大きな声を出す響に呆気にとられる。

響「実はね…」

と響は話した。自分の過去のトラウマが原因で盛大に勘違いしてしまった内容を…。

翌日。

二人が来ない。

P「おかしい」

俺の予想が外れたことに自分自身、驚きを隠せない。

こういう時は大体、予想を外したためしはない。

俺はちゃんと彼女たちを見たうえで判断をしているからだ。

P「律子は今いる子たちを連れて先に行っててくれ」

律子「わかりました…。二人とも遅刻なんてどうしたんでしょうか?前の事務所はそんな大雑把だったんですかね」

皮肉のつもりなんだろうが、律子の言い分も納得だ。

それなら倒産したのもうなずけてしまう。

律子はアイドル達を連れてレッスン場へと向かう。

それにしたっておかしい。

俺は続けるにしても辞めるにしても来るように言った。

ただ待っていても仕方がない。

電話するかも迷ったが、出てくれるかは不明だし、彼女たちの答えがこれなら残念ながら受け入れるしかなかった。

俺は事務仕事をしながら待ってみることにした。

二時間経っても現れないどころか連絡すら入ってこない。

もうダメだな。…と半ば諦めていたところだった。

貴音「…あの」

四条がようやく来た。

P「お前遅すぎ、何やってたの?…俺、昨日いつも通りに来てって言ったはずなんだけど」

四条は俺の言葉にろくに反応せずに、すっと息を整えた。

貴音「…あなた、何か隠しているのではないですか?」

突然何を言い出すかと思えば…。

不満を露わにする四条を前に俺も怒りを隠さずに告げる。

P「それは何の真似だ?…まあいい、質問には答えてやる」

キッと睨みつけてくる四条。

俺も真正面から怒りを滲ませ眼を付ける。

P「お前らに隠してたことは無い。強いて言うなら、今度お前らをユニットで売り出すことを昨日決めた。それは今日話すつもりだったが、メンバーが揃わなきゃ話にならん。…他に質問は?」

貴音「…仕事を餌にして私たちに何をさせようとしていたのですか?」

P「?…仕事を餌に?…何言ってんだ?…仕事なんて餌にするほど入ってこねーから。バカにしてんの?」

四条は少したじろぐが、まだ堂々と構えている。

そして俺はそろそろこの件に関する事実をつかみ始めていた。

貴音「では、響のとらうまについてご存知ですか?」

P「昨日会ったやつのトラウマなんぞ知るか…。あいつは人見知りっぽかったし、俺に話すわけねーだろ」

響が絡んだということはもう間違いないと思った。

P「…もうわかった。我那覇の誤解を解きに行く。…四条、お前も来い」

貴音「待ってください!…何がわかったと言うのですか!?」

ようやく狼狽える四条。次はこちらが質問する番だ。

P「お前、我那覇に枕営業されそうだとか何とか言われなかったか?」

ストレートに枕営業と言ってしまったが、別にそこまで気にすることは無いだろうと思った。

貴音「どうしてそれを…」

P「そこまでヒントを出されりゃ誰でも気づく。おおかた昨日、事務所に戻ってきたとき俺と小鳥さんの会話を聞いたんだろう」

そして俺は昨日のあの時の会話を憶えている。

確かに仕事のために何でもさせる、と言ってるように聞こえなくもない。

P「まあ俺の言い方も悪かったかもしれないが、はっきり言ってそういう経験がないやつじゃないと、あの会話をそういう意味に捉えることはできない」

つまり…。

P「我那覇のトラウマとやらもわかった。枕をもちかけられたか、枕を強要させられたかのどちらかだろ」

四条は驚きを隠せず、俺を手品師か何かを見るような目で見ていた。

貴音「真、驚きました…。しかし、私はまだあなたのことを信用できません。響がああ言っていたのですから…」

響、ね。一日でそんな仲良くなるとは思ってなかった。

P「信用できないんなら他の子に処女かどうか聞いてみろ」

完璧にセクハラの大問題な発言をした。

P「それでも信用できないんならもう結構だ。お互いの信用が築けないんなら、この仕事はいよいよ終わりだ」

今の四条の言い分でいくと俺たちの無実を証明できる証拠が何一つない。

だから俺はどうしても彼女たちに納得してもらわなきゃいけない。

P「いいか四条?」

貴音「…」

P「我那覇もお前もそれは早とちりってやつだ。そういうのは持ちかけられてから言え」

貴音「それでは遅いのでは?」

P「企業はそう言うのは基本的に強要しない。そうしてしまったら強姦と変わらないからな。証拠を手に、訴訟を起こせば企業は勝てない」

四条はふむ、と考えるような仕草をする。

P「まあこんなしょうもない話はどうでもいい」

貴音「どうでもいいなんてことは…!」

P「うるさいな。それよりも大きな仕事が待ってんだ。やるかやらないかは我那覇と四条次第だ」

四条もようやく、というかほぼ最初から俺の言葉に揺らいでいたのだが、決心したようだ。

貴音「行きます」

P「ああ、友達なんだろ?」

貴音「ええ、間違いを正すのも友の役目です」

事務所で我那覇の履歴書を確認し、俺たちは我那覇の家に向かう。

移籍時に社長に負担してもらって引っ越した、わりと大きめのマンションだ。

ペットもオーケーらしい。

まったく社長の人脈は一体どうなっているのか見当もつかない。

P「俺の言葉には耳も貸さないだろうからな…四条、頼んだ」

貴音「わかりました」

四条はボタンを押す。

軽快なチャイム音が心地いいと思ったのか、四条はもう一度鳴らそうとする。

P「いや、一回でいいから」

止めると、いけずですね、と一言残念そうに四条は言う。

しばらくして我那覇が顔を見せる。

響「…貴音?…!!」

俺を認識した我那覇は急いでドアを閉めようとするが…。

貴音「響、待ちなさい!」

その声で我那覇は止まる。

響「貴音…何で…?」

絶句する我那覇。

裏切られたという感覚に支配されている。

響「酷いっ!信じてたのに!…自分はそんなことしてまでお仕事したくない!」

貴音「落ち着いてください、響。私たちは友達です。響にそんなことはさせません」

思い込みというのは厄介だ。

響「信じられないよっ!…帰って!…自分はもういいっ!仕事なくてもいい!!」

自分の判断が正しいと思い込んでしまえば、なかなかひっくり返すことはできない。

テストとかでもよくある。

これが答えに違いないと思い込んでしまうと、結果、間違いだとしてもそれを認めようとしなかったり…。

だが、四条は引かなかった。

貴音「落ち着きなさい響!」

我那覇の肩をつかんで、より強い口調で呼びかける。

怯んだ我那覇は興奮から一気に冷めて四条を呆然と見つめる。

貴音「私、さきほど話を伺ってまいりました」

一転、穏やかな口調で話し始める。

貴音「あれは響の勘違いです。あなたも言っていたではありませんか、この方は厳しいけど誠実に見えると…」

我那覇は怯えた目で俺を見る。

貴音「そもそも、そんないやらしい仕事を持ちかけてくる人が私たちに厳しく接するでしょうか?辞めろと言うでしょうか?」

響「…」

我那覇は黙る。だいぶ揺らいでいるようだ。

貴音「だから響、私とともに続けましょう」

我那覇の手を取る四条。

P「…そういうことだ我那覇、信じられないんだったら俺の恥ずかしい過去を教えてやる」

そう言うとキョトンとする二人。

俺は構わず話した。

P「俺は実はいいとこの生まれなんだが、見ての通りの口調と態度だ。そんなわけで追い出されちまったんだけどな…」

信じられないといったような二人。

P「ここまではみんな知ってるんだ。今となっては別に恥ずかしくもない。…だがここからは誰にも話したことのない俺の高校時代の話だ」

やがて、いつの間にか興味が沸いてきたのか、二人は聞き入り始めた。

P「俺はいいとこの家だったから高校も当然いいとこだ。ただ…いいとこってのは男子校って相場が決まってるもんだ」

ちなみにそういうとこの親は女子は女子高に入れたがる。

P「俺も当然男子校で友人と普通に過ごしていたわけだが…ある日、先輩に呼び出されてな、これは殴り合いにでもなるんじゃないかと思ったんだが…」

自分も思い出すだけで気分が悪くなってくる。

少しの間、溜めを作る。

我那覇と四条は真剣に聞いている。

P「………愛の告白をされた」

言った瞬間、二人は笑った。

P「あれはマジでゾッとしたんだ。抱き付かれたときは咄嗟に背負い投げをして理事長に呼び出されたもんだ…」

響「あははっ…!何それ!」

P「…これが俺の秘密その一」

響「まだあるの!?」

もういいよーと言って、なお笑う我那覇。

これが彼女の素の姿なのかなぁと思いつつやっと笑ってくれたその姿に安堵する。

P「やっぱ、笑ってた方がいいよ」

響「え?」

四条「そうですね。響は笑顔が素敵です。だから私も響の悲しむ姿は見たくなかったのです。…プロデューサー、貴方に直接話してよかった」

P「お前は、最初から俺に食って掛かってただろ。あの喧嘩腰はもうちょい考えてくれ」

貴音「すみません。私も響のあんな顔を見てしまって頭に血が昇ってしまったのです」

P「そうかい」

俺は我那覇に向き直る。

P「あのさ我那覇…。俺を信じてくれなんて言わないよ。前のプロダクションでも言われたんだろ?」

俺は我那覇に視線を合わせる。

響「…なんで、わかったの?」

P「汚い大人ってそう言うんだ」

響「そうなんだ…」

P「俺はお前たちにそんなことは絶対させないし、取引先がそう言ってきたら必ず断る。俺だって汚え大人が大っ嫌いだ」

響「プロデューサー…」

P「…やっとそう呼んでくれたな」

そう言うと我那覇はそうだっけ?と照れくさそうにしている。

P「じゃあ先に仕事の話をしよう。少し上がっていいか?」

響「いいけど、ちょっと待ってて…」

片付けでもするのだろうかと思ってたが案外早く扉は開いた。

響「うち、動物がいっぱいいるんだけど…あんま怖がらないでね?」

貴音「動物ですか…」

P「動物は好きだからいいよ」

あの無邪気な感じがいい。

そうして家にあげてもらったのだが、俺と四条の予想の斜め上を行っていた。

動物多すぎ…。

ワニまでいるぞ。

俺はともかくとして、四条は完全にビビってた。

貴音「ひ、響…わにとか、蛇とか大丈夫なんでしょうか…?……ひぃっ!!」

近づいてくる蛇に退く四条。

響「多分、大丈夫!」

多分って何だ、多分って…。

案内されて床に敷かれたカーペットの上にそれぞれ自由に座る。

俺の側には大きな犬がやってきた。

スーツに毛が付くからやめてほしかったが、しかたない。

可愛いから許す。

帰ったらクリーニングだな。

P「まあいい。…そんで我那覇の不安を払拭するためにもまずは仕事について話しておこう」

我那覇は動物たちを可愛がりながら、四条は蛇に巻き付かれて青ざめながら話を聞く。

P「…お前たちにはユニットを組んでもらう」

貴音「…ユニットですか?」

響「二人で?」

P「違う。…うちにいる星井美希をリーダーとして、三人でだ」

貴音「星井美希…?」

P「あの金髪な」

響「あの子かぁ…」

人見知りの我那覇はちょっと嫌そうな顔をした。

P「そうだ。だが甘くはない。美希はまだ有名ではないが、うちの中でもセンスはピカイチだからな」

興味深そうに感嘆の声を漏らす二人。

P「そこで昨日のレッスンを見て、ユニットを組むという判断をした。お前たちなら美希の動きにはついていける。千早も上手いがバランスが悪いと思ってたんだ」

貴音「なるほど…ですが…」

言いたいことは分かったので、四条が尋ねる前に言葉を返す。

P「ああ、お前たちには経験が足りない。しかし、経験がないのは誰でも一緒だ。それにゼロからそこそこの舞台に立ってもお前たちなら乗り越えられると思う」

貴音「どうしてでしょうか?」

P「なんだろな。…カンかな?」

響「カンって…」

貴音「面妖な…」

P「それでどうだ。やるのか?やらないのか?俺は強要はしないぞ」

響「やる!」

貴音「響がそう言うのであれば私も…」

P「決まりだな…じゃあ今からでもレッスンに行こう」

そうして立とうと思ったのだが…。

犬が、のしっと寄りかかってきて立てない。

P「なあ、ちょっとどいてくれないか?」

犬はちらりとこちらを見ると気だるそうに立ち上がってくれた。

すげえ。今言うことを聞いたぞ。

内心で俺は子供のようにはしゃいでいた。

響「いぬ美が言うこと聞くなんて…」

我那覇は戦慄していた。

何はともあれ無事にレッスン場へ、律子たちと合流して参加する。

他のアイドルは結構へとへとだった。

今日はここまででおちまい!

自分でもこんな内容でいいのかなぁ…
と思って書いておりましたが、いかがですか?
ここからのレッスン風景はP達がいちゃつくだけの完全なる蛇足ですが、
冗長になるだけだし、いらないよという意見が多ければカットします。
自分自身、以前と比べて微妙な導入になってしまったのは反省です。

ご質問やご意見があればぜひお願いします。

今週中に残りを更新します。

ちなみに次のお話と次の次のお話はすでにスマホで書き溜めていて、
後はPCのワードに、スマホのメモ帳を見ながら打ち込んでいくだけなので割と早めに更新できそうです。

おつー
いちゃいちゃ大好物です(ボソッ

わざわざ打たなくてもメールで送ってコピペすればいいのでは

皆さんレスありがとうございます!
投下します。

>>578
スマホの方のコピペの仕方わかんないんですよ。
…って思っていじってみたらできました。
アドバイスどうもです!おかげで楽です!

律子「あ、プロデューサー」

美希「ハニー!!」

美希の猪突猛進をひらりとかわす。

ぶーっ!と頬を膨らませながら不満たらたらな目を向けていた。

P「おい、ちょっと無理させ過ぎじゃないか?」

律子「え?そんなことは無いと思うんですけど…」

P「まだ昼過ぎだぞ?これからまだまだあるんだから休憩にしよう」

今日は朝から晩までレッスン場を確保している。

まさに合宿並の一日の練習量だ。

真美「やったぁ…!」

亜美「もう死ぬ~!」

P「ほら、飲み物と…ご飯は今の胃に入るのか?」

手に提げてた大きめのビニール袋をみんなに見せる。

真「ボクは大丈夫ですけど…」

美希「おにぎりなの!」

春香「私もちょうどお腹空いてました…」

千早「そうね。休憩にしていいんじゃないかしら」

雪歩「…」

あずさ「…」

雪歩とあずさは喋る余裕もないようだ。

へたり込んだまま俺を見上げるが、実際見えてるのか見えてないのか、いまいちわからなかった。

P「二人とも大丈夫?…じゃないよな」

律子「そんなに!?」

P「疲労って意外と動いた後の休憩時にどっとくるもんだからなぁ」

伊織「な…なによ……二人とも……だらし…ないわね…」

P「伊織も無理すんな…。息絶え絶えじゃないか…」

やよい「伊織…ちゃん……ぷろ…でゅーさーの…言う……通りだよ…」

やよいもかっ!

ダンスでも体力の差って出るもんだな…。

確かにダンスきついけどね。

でも、そんな激しい振りではないと思うんだけどなぁ…。

律子「だから体力はつけておきなさいって言ってるのに」

P「まあしょうがねえだろ。がっつり休ませてやろう。なんならお昼寝タイムにしてもいいけど…」

美希「お昼寝!!ハニーと一緒に寝るの!」

律子「プロデューサー、甘やかし過ぎでは?…というかプロデューサーが寝たいだけなのでは?」

P「否定はしない!」

まったく…と呆れる律子だが、それ以上言ってこないあたり休ませるのには異論はなさそうだ。

P「律子はまだいけるよな?」

律子「はい?」

P「我那覇と四条のレッスンを見てやってくれ」

律子「いいですけど…。あ!自分はまさかお昼寝ですか!?」

P「いいでしょ?お願いっ!」

ぐちぐちと文句を言われたが特に止められることはなかった。

ここでは珍しいことにお布団貸出しというものがある。

クローゼットに布団が積んであり、部屋を八時間以上貸し切ってる団体なら使えるのだ。

疲れを癒すための配慮だとか…。

みんな好き好きに昼ご飯を食べ、休憩をしている。

俺は四条と我那覇をまず呼んでくる。

響「プロデューサーって自由だね…」

やり取りを窺っていたのだろう。

わがままだと言ってもいいんだが。

貴音「はて…?みんなは、ばてているようですが…」

P「朝からさっきまでレッスンしてたんだ。多分律子のことだから休み無しのぶっ続けだろうし」

響「そうなんだ」

P「あんま驚かないのか?」

響「うん。だって自分、仕事なかったから朝からずっとレッスンって日も珍しくなかったんだ」

貴音「おや、奇遇ですね。私も歌や踊りは朝から夜までというのは多々ありました」

P「それならあれだけスキルがあるのも納得かな…?」

とりあえず二人を部屋の中に案内して律子にレッスンを見てもらうことにした。

律子「プロデューサー、曲はどうします?」

P「夏頃の765プロ1stライブに向けて全員用の曲があるだろ?それを今日できる範囲で覚えてもらおう」

律子「了解です。振り付けを見せないといけませんね…」

P「いや、昨日のうちに一通りやってみたから、簡単にレクチャーしてうろ覚えの箇所を潰してくれ」

さすがに一日でほとんど修得というわけにはいかなかったが、結構もの覚えもよく要領がいいのだ。

律子も俺がそう言ってるのを少し疑いながらも、驚きを隠せない様子だったが、すっと切り替える。

プロデューサーになってからおおよそ5ヶ月くらいだろうか…。

律子は切り替えがだいぶ早くなったと思う。

律子「わかりました」

我那覇と四条はよろしくお願いしますと頭を下げて律子の指導の下レッスンを開始させる。

俺は俺でクローゼットから布団を取り出し床に敷いていった。

部屋は結構広く、人数分敷ける。

シューズの軽快な音、律子のリズムをとる声が部屋に響く。

俺は雪歩とあずさのもとに向かい、水を取り出す。

二人はへたり込んで壁に寄りかかっている。

まずは雪歩を抱き起し、ペットボトルの水を飲ませる。

雪歩「……んっ……んく…………」

こくこくと水を飲んで、ふぅっと一息つく。

P「雪歩、無理しちゃだめ。怪我でもしたらどうするの…」

雪歩「…いけると…思って」

ようやく喋れるくらいに回復したようだ。

俺は汗を拭いてあげて膝の裏と肩に手を回し、抱き上げる。

雪歩「ひゃぁっ…!」

P「ちょっと休みなさい」

そう言って俺は敷いた布団に雪歩を寝かせ、毛布をかける。

あずさも寝かせなきゃと思って振り返ると、異様な視線を全身に受けた。

我那覇と四条、律子だけがこちらを見ることもせずレッスンを続けていた。

俺はそんな視線をガン無視して、あずさも同じように抱き起す。

あずさ「ぷろ…でゅー…さー……さぁん…」

なんか色っぽいな…。

P「ほら、あずさも飲みなさい」

あずさ「んっ…んっ…んっ……」

ある程度飲むとあずさは両腕を前に出して、抱っこして、というジェスチャーをする。

意識的な感じはしない。

おそらく疲労感からか無意識でこの姿勢をとっているのだろう。

雪歩と同じように抱え上げる。

あずさは俺の首に腕を回してきて、俺はちょっと可愛いと思ってしまった。

P「しっかり休んで、起きたらストレッチしてもう一回練習しような」

あずさは小さくうなずく。

俺はあずさを布団に下ろして身を引こうとするが、首に回した腕をほどいてくれない。

P「おい、寝ぼけてんのか?」

あずさ「プロデューサーさんも…一緒に…」

P「まだスーツだから寝ないって」

それを聞いて残念そうにしたあずさは腕をほどいてすぐに寝た。

彼女でも甘えたいときってのはあるんだなぁ…。

お姉さん的存在だから、なかなか気付いてやれなかったりする。

俺は一息落ち着いて再び振り返ると…。

春香、伊織、真、美希の四人が目立つところでぶっ倒れていた。

P「は?」

驚きのあまり素っ頓狂な声が出た。

そこで千早がやってきて俺に耳打ちをする。

千早「全員寝たふりです」

P「…何で?」

俺も千早に倣って小さい声で聞き返す。

千早「プロデューサーが動けない萩原さんとあずささんをお姫様抱っこで運んでたから春香たちも運んでもらおうと思ってるんですよ、きっと…」

P「何だそんなに楽をしたいのか?」

千早「いいえ、多分お姫様抱っこされたいんです」

P「なんだそりゃ…。まあ自分から言うのは確かに恥ずかしいな」

言えばやってあげるけど…周りに人がいなければね。

P「しょうがねえな。たまにはわがままに付き合ってあげよう」

四人を順番に運んでいく。

P「よいしょ…。何だ、軽いな…」

春香を持ち上げる。

顔を見るとこれは寝たふりだってわかった。

なんかムカついた。

P「ふーっ…!」

春香「ひゃあぁぁぁっ…!!」

耳に息を吹きかけてみると春香は悲鳴を上げて飛び起きる。

春香「ちょっとプロデューサーさん!セクハラですよ!セクハラ!」

P「セクハラか…ごめんな。じゃあもう二度とやらないから許してくれ。今すぐ下ろすよ」

分かったうえでこの意地悪な質問。

俺はどちらかというとサディズムらしい。

春香「…え?別に…そんなことは言ってませんけど…。ほら!あれです!許してほしかったらお布団まで運んで、これからもお姫様抱っこしてください!」

最後、自分の願望になってるよ…。

とりあえず春香を布団に寝かせる。

続いて真を抱き上げる。

顔を見ると、夢が叶ったみたいにいい笑顔だった。

こいつは起きてるのを隠す気があるんだろうか?

真の顔が本当に嬉しそうなもんだから、まあいいやと思いながら運んでいった。

真「本当にしてくれるとは思いませんでした」

真は寝たふりをやめたようだ。

P「いいのか?寝たふりは…」

真「だって気づいてるみたいだったし、ボクお姫様抱っこって憧れてたんです!」

P「そんな遠回りなことしなくても直接言えばやってやるよ」

真「本当ですか!」

P「他に人がいなければな」

真「へへっ、やっりぃ~!」

とにかく嬉しそうな真だった。

次は伊織。

P「よっと…やっぱ軽いなぁ…」

規則正しく寝息を立て、体にも力を入れず持ち上がる伊織。

こいつは完璧な演技だ。

P「やっぱ伊織は可愛いなぁ…」

伊織だけに聞こえるように小声で言う。

ピクリと反応した。

俺はなんだか楽しくなってきた。

P「こんなに頑張ったんだもんな。伊織は偉いぞ。さすが俺の妹。最高だ。可愛い。天才…」

最後は完全に適当なのだがとにかく褒めちぎってみた。

あ、ダメだこいつ。

さっきとは違って口が、もにょっとにやついてる。

俺は伊織を寝かせ、とりあえず毛布で簀巻きにしといた。

伊織「ちょっとー!!お兄様!これはどういうことよ!?」

ぎゃあぎゃあ喚く伊織はほっとく。

意外と元気じゃないか。

最後に美希だ。

P「よっと…」

持ち上げたのだが、大人しい。

実際、一番暴れるんじゃないかと思ってたのでなんだか拍子抜けだった。

でも大人しくて助かる。触らぬ美希にたたりなしだ。

と思っていた俺が甘かった。

布団まで運び、下ろそうとしたところでガバッと一緒に布団に引きずりこまれた。

P「おい美希!」

美希「ハニー!」

ぎゅうぅっと頭をロックされる。

抵抗して抜け出そうとするも、抜け出せないようにと美希も強く絞めてくる。

攻防が始まった。

P「こら!この!」

美希「あんっ!そこ触るなんてハニーって結構エッチだね!」

P「変な声出すな!」

美希はやっぱり女の子で俺が本気で腕をほどきにいくと、簡単に拘束は解けたのだが、こいつはしつこかった。

美希は足で俺の腰をホールドする。

そっちをほどこうとすると、次はさっきみたいに頭を固定。

立ち上がってもへばりついたままだし、なすすべがなくなってしまった。

P「おーい美希。もういいだろ…」

美希「じゃあこのまま結婚しよ?」

お前まだ15歳だから結婚できねーよ。

伊織「美希っ!!さっさと、離れなさぁい!!」

救世主現る。さすがは俺の妹!

ぐいぐいと美希を引っ張る伊織。

それでも離れないので脇をくすぐって一気にひっぺがす。

美希「デコちゃん酷いのっ!」

伊織「うっさいわねぇ!だぁれがデコちゃんよ!!」

美希「せっかく美希たち結婚できたのに…」

P「だからできねーよ…」

伊織「お兄様も何よ!私のことぐるぐる巻きにして!許さないんだから!」

P「悪かったって、ついな…」

伊織「ついじゃないわよ!」

美希「ハニー!デコちゃん怖ーい」

伊織「あんたは近づくんじゃない!!」

再び俺に抱きつこうとする美希の後ろ襟をつかんで布団の上にぶん投げる伊織。

さすがにやりすぎだろう…。しかもどこからそんな力沸いてくるんだよ…。

美希「きゃっ!」

春香「ぐえっ!」

そして春香の上に放り投げられる美希。

春香がアイドルらしからぬ声を出していたが大丈夫だろうか。

伊織「お兄様もお兄様よ!何なの!?やられたい放題にやられて…殴ってでも止めなさいよ!」

P「殴ったらダメだろうが!」

激昂した伊織との言い合いが続く。

律子「ちょっと静かにしてもらえませんかねぇ!!」

律子の怒鳴り声で問答に終止符が打たれた。

P「あー、何か疲れた…」

亜美「お疲れー、兄ちゃん」

真美「楽しそうだったねー」

皮肉を込めてるのか全然楽しくなさそうに言う真美。

千早「今日は一段と大変でしたね」

P「ああ、まったくだ」

やよい「美希さんすごいです…見てるこっちもドキドキしちゃいました…」

やよい、そのドキドキは不健全だからやめなさい。

P「美希は寝てくれてた方がいいぜ…」

中学生に興味はないけど、あのわがままボディは多少理性を削ってくるものがある。

もう数ヶ月以上も、その、してないわけだし…。

P「あー、着替えてくる」

そう言っていったん部屋を出る。

更衣室はこっちか…。

なんだか眠くなってきたし、ジャージに着替えてとっとと寝ようと思った。

着替えにあまり時間はかからず、すぐに部屋に戻る。

真美「兄ちゃんのジャージ久しぶりに見たかも…」

P「そうか?」

やよい「最近プロデューサーとレッスンした日がないからかも…」

P「そういや久しぶりだな…」

千早「今日はプロデューサーにも歌が聞いてもらえるなんて嬉しいです」

P「相変わらずだな千早は…」

椅子や床にそれぞれ座り、仲良く談笑。

でもやっぱり眠くなってきて…。

P「俺も寝たいんだけどいいか?」

椅子に腰かけていたが後ろから亜美が飛びついてくる。

亜美「じゃあ一緒に寝よーよ!」

P「5人で寝るか」

やよい「いいんですか?」

P「息抜きも大切だしな」

千早「もう、ほどほどにしてくださいよ…」

やよい「千早さんも一緒に寝ましょう!」

千早「高槻さんがそう言うなら…」

真美「じゃあ早くお布団に行こうよー!」

真美は俺の手を引っ張る。

亜美は背中に乗りかかり、空いているもう片方の手でやよいの手を握る。

千早は俺たちに寄り添うように付いてくる。

みんなで布団に入る。

我那覇と四条のレッスンを見つつ、5人で雑魚寝した。

そこそこ経っただろうか…。

俺は目覚めて起き上がろうとするが起き上がらない。

P「重い…」

律子「誰が重いですってぇ…!」

律子が毛布の上からのしかかっていた。

響「自分、重くないぞ!」

貴音「真、失礼ですね」

P「我那覇も四条も何やってんだ…」

律子「プロデューサーが気持ちよさそうに寝てるのを見てたらなんだか腹が立ってきて…」

響「自分たちは頑張ってるのにプロデューサーはセクハラばっかして、本当は変態なんじゃないの?」

貴音「響が疑ってしまったのも納得です」

P「おいおい、それは関係ねえだろ…」

律子「とにかく私たちも寝ますから!」

響「そうだぞ!」

貴音「おやすみなさいプロデューサー…」

P「せめて降りてからにしてくれ」

俺は三人をどかして立ち上がった。

意外にも早起きなのは春香や千早、伊織、美希、それに真だった。

しかもすでに準備は万端、表情は真剣そのもの。一体どんな心境の変化があったというのか…。

P「おはよう。早起きなんだな」

千早「ええ、横になっただけで寝てませんでしたので…」

P「そうか…。ところでどうした?」

真「何がですか?」

P「いつもよりやる気があるじゃないか」

真「まあ、あれを見せられちゃね…」

P「あれ…?」

春香「響ちゃんと貴音さんですよ」

美希「もしかしたら響は真くんよりダンス上手いかもしれないの…」

千早「歌も表現豊かで上手かったです」

それで彼女たちの対抗意欲を燃やしたということか…。

伊織「確かに技術じゃ負けてるって認めるけど、なんだか負けてない気がするのよね」

春香「そうなんだよね…」

P「へえ興味深いな…。どうしてそう思うんだ?」

春香は悩みに悩んで言葉を選ぶ。

春香「うーん。アイドルとして見てってことでしょうか…?ダンスも歌も私の方が下手ですけど、アイドルとしては決して負けてないと思います」

P「ふぅん。俺もそう思う」

春香「え!?…てっきりダメ出しが来ると思いましたけど…」

P「いいや、確かに二人は春香よりも歌もダンスも格段に上手いが、アイドルとしてはキャリアも魅力も今の春香の方が確実に上だ」

春香「ありがとうございます。…だから歌もダンスももっと練習して技術でも負けたくないなって思ったんです」

P「いいことじゃないか。なら、お前らのレッスンまとめて見てやる。もともと律子と代わるつもりだったしな」

伊織「あら、こちらもそのつもりだったけど?」

美希「ハニーに見てもらうの久しぶりなの!」

P「そうかい。ならそれなりの覚悟はあるってことだな?」

真「プロデューサーが本気出したら律子とは比べものにならないほど厳しいからなぁ…。それでもやりますけどね!」

春香「ついていけるように頑張ります!」

そうして始まったレッスンというか特訓。

特訓しているうちに他のアイドル達も起きてきて、律子、響、貴音を除いた残りのメンバーで練習をしていた。

P「筋力をつけるのは基本だ!姿勢も良くないと、いい歌と踊りはできない!」

いきなり筋トレをやらせる。

回数は少なめだが、かなりきつく感じる子もいるようだ。

P「せめて千早くらいできてもらわないと困るなぁ…」

雪歩「無理ですぅ…!」

ダンスも徹底的にダメ出ししていく。

P「春香、そこ違ってる。真もそうじゃない、そこの振り適当にやっちゃダメだ」

お手本を見せながら修正していく。

もちろん全体を通して踊れるのが前提となっていて、細かい間違いはこういう風に後でつぶす。

真美「まこちんがダメ出しされるんじゃ…」

亜美「亜美たちももっと頑張らなきゃね…」

ボイスレッスンも声が枯れるまで、と言っても実際に声を枯らせるわけではなく、正しい歌い方で限界までやらせる。

P「何事も正しくが大事だ。正しい姿勢で正しい発声をする」

俺は基本の重要さを知っているからだ。

一時間もすれば我那覇も四条も起きてきて、全員でレッスンをすることになった。

そうして、日も落ち今日は終了となる。

P「お疲れ様。今日と明日はゆっくり休んでくれ」

律子「プロデューサーってかなり厳しいんですね…」

あずさ「はぁ…はぁ…もうダメです…」

やよい「…うぅ…疲れました…」

雪歩「…」

真「しっかりして雪歩!」

P「しょうがねえな。雪歩は抱えていくか…」

貴音「響、いい笑顔ですね」

響「うん!久しぶりに楽しかったさー!」

春香「響ちゃんすごいね…」

響「え?そ、そうかな……天海…さん」

春香「やだなぁ…!春香でいいよ。同い年なんだし、これからよろしくね!」

響「う、うん!よろしく!」

人見知りだった我那覇も溶け込めたみたいでよかった。

というより、人見知りにしては慣れるの早いんだよな…。

貴音「三浦あずさ…大丈夫ですか?」

あずさ「…ありがとう、貴音ちゃん。私のこともあずさでいいのよ?」

貴音はみんなのフォローに回っていて、なんだか頼れるお姉さんみたいだ。

謎な部分は多いけど…。

千早「高槻さん。ほら、肩を貸すわ…着替えに行きましょう?」

やよい「千早さん…ありがとうございます」

亜美「あー疲れたぁ…」

真美「もー疲れたぁ…」

伊織「だらしないわね…」

真美「とか寝ながら言ってるいおりん」

亜美「あははは…!だっさー!…ださいおりん!」

伊織「なんですってぇ…」

真美「真美たちは自分の足で歩けるから、ださいおりんは、そこではいつくばっているがよーい!」

伊織「あーーーー…なんで動けないのよぉ…」

しかたないやつだな。

P「おい伊織、おぶってやるから乗れ…てか乗れるか?」

伊織「むりぃ…」

P「しかたねーな」

ていうか冷静に考えたらおんぶと抱っこを同時にやるのって俺だけじゃなく、二人にも負担だし無理だな。

肩に担ぐようにして二人を持ち上げた。

P「お前らは車で送ってやるから、着替えは後にして車に乗ってなさい」

そう言って車の後部座席に放り込んだ。

俺もちょっと汗の匂いが気になるが、事務所に戻るまで我慢することにした。

他に乗り込んでくるのは我那覇、四条、それに美希だ。

他のみんなは直帰、日も沈んで危ないからできるだけ複数で帰るようにしてもらう。

P「お疲れ様。気を付けてな」

亜美「ミキミキたちずるーい!」

真美「真美たちも連れてけー!」

P「こいつら送ったら事務所に戻るから、疲れて動きたくない子は事務所で待っててくれ。そうしたら送っていくから」

みんな、どうしようかー?とざわざわし始めたが、比較的体力のある真や千早、春香も先に帰るということになった。

響「自分たち疲れてないから、先に送ってあげて…」

そこで我那覇からの提案。

貴音「そうですね。私たちは事務所で待ってますので…」

美希「えー!?ハニーと一緒がよかったの…まあいいけど…」

P「いいのか?…悪いな」

律子「じゃあ私が彼女たちと一緒に行きますね」

P「おう、任せた律子」

結局、俺は伊織、雪歩、あずさ、やよい、双海姉妹を送っていくことになった。

全員送り届けるのに2時間もかかってしまった。

伊織の家の前ではどうしようかと思ったが、立てるくらいに回復していた伊織は最後は自分の足で帰っていった。

P「ヤバい待たせすぎてる…」

一応連絡はしたのだがすでに午後九時。

小鳥さんも事務所を閉められなくて困ってるに違いない。

ようやく事務所の前。

ドアを開ける。

P「ごめん。お待たせ」

美希「遅いのー!」

さっそくぶーぶー不満を垂れる。

P「ごめんって」

響「早くしないと動物たちのご飯が…」

P「それはまずいな…。じゃあさっそく仕事について説明するからよく聞いてくれ」

『プロジェクト・フェアリー』という俺が立てた企画について…。

今回765プロ初のユニットを結成し、彼女たちを中心にプロダクション名も同時に売り出す。

どちらかというとアイドルの資質うんぬんより、高いパフォーマンスで幅広い年齢層のファンを得るのをコンセプトとする。

もともとは美希、千早、真あたりで組む予定だったが…。

ユニットとして活動するイメージがわかなかったので保留にしていたところだった。

P「…そういうわけでユニットとして活動してもらう。明後日からレッスンは三人で行ってくれ。それと…」

そう言って三枚のCDを取り出し、それぞれに配る。

P「これがデビュー曲だ。カップリング曲も一緒に聞いて歌詞を憶えてくれ。歌詞カードは一緒に入ってる」

貴音「これは、『きす』…と『おーばー…ますたー』ですか?」

四条は英語がダメらしい。

歌になれば問題ないと思うけど…。

P「そう。『kiss』と『over master』な」

どっちもいい曲に仕上がっていると思う。

響「そっか。デビューできるんだ…」

今になって我那覇は実感がわいてきたらしい。

P「さて、遅くなって悪かったな。じゃあ帰ろうか…」

みんなも立ち上がって帰ろうとすると、なにやら寒気が…。

小鳥「プロデューサーさぁん…」

P「うわっ!いたんですか!?」

小鳥「酷いっ!!私だって早く帰りたかったのに!」

P「じゃあ先に帰ればよかったでしょう?」

小鳥「戸締りはどうするんですか!?」

P「俺がやっときますよ…。大体、美希たちが残ってるのに俺が戻らないわけないでしょ?」

小鳥さんは、気づいてなかったのかハッとした表情になる。

小鳥「…でもダメです!」

理不尽に否定する小鳥さん。

小鳥「これから飲みに行きましょう!」

P「ダメダメ、彼女たちを送らないと…」

小鳥「その後でいいですから!」

P「えー?」

まあその後ならいいか…。

P「しょうがないですね…」

そう言うと小鳥さんは、いえーい!…とはしゃぎ始める。

精神年齢が気になった。

とりあえず我那覇を送ることにした。

車の中で相変わらず上機嫌の小鳥さん。

響「プロデューサー、いぬ美たちにご飯あげた後、自分も食事行っていいかな?」

そんな中、我那覇はおずおずと尋ねた。

P「ん?別にいいけど、どうして?」

響「実は今日は料理作るの面倒になってきちゃって…」

P「あー、そういう日あるよなぁ…。酔っ払いが一人出来上がるけど、それでもいいなら行こうか」

響「ありがとうプロデューサー!」

美希「だったらミキも行くのー!」

お前寝てたんじゃねーのか。

P「そうか、親御さんに連絡しとけよ…」

続いてお腹の鳴る音が車内に響く。

貴音「おや、これは失礼しました。食事の話を聞いたらなんだか急に…」

お腹の音は止まない。

P「…四条も一緒に行くか?」

貴音「…ええ、ご一緒しましょう」

結局、この場にいるみんなで居酒屋に行くことになった。

さて、居酒屋に来たわけだが…。

P「今日は俺のおごりだから遠慮しないでいいよ」

小鳥「え?本当ですか?」

真っ先に反応するのが最年長の小鳥さん。

響「え?そんなの悪いぞ、自分はお金出してもらうつもりでついてきたわけじゃないから…」

P「我那覇は遠慮すんな、待たせたお詫びだ。小鳥さんはもっと遠慮しましょうね」

美希「ハニー、ありがとなのー!」

貴音「私も自分で出せますが、いいのでしょうか?」

P「いいって…。これはお詫びだからな」

貴音「それでは早速注文いたします」

P「おう、決めるの早いな。好きなの頼め」

早くも店員さんを呼ぶ四条。

貴音「ではこれと、これと、これと、これと…これと……これと………」

…ってどんだけ頼むんだよ!!

P「おいおい、頼み過ぎじゃないのか?」

貴音「だめでしたか?」

P「いやダメじゃないけどさ…食えるの?」

貴音「全部食するつもりですが…」

ふーんそう言うならいいけど…でも残すだろうから俺は何も頼まなくていいや。

美希「貴音、それはいくらなんでも頼み過ぎじゃないかなぁ…」

響「自分もそう思う…」

この二人が心配するレベルだ。

小鳥「とりなまっ!!」

この人は相変わらずだ。とりあえず生ビールを一杯飲むらしい。

各々注文は済み、やがて大量の料理がテーブルに並べられる。

これは俺、注文無しで正解だったかな。

それにしても四条のやつ容赦ないな…。

美希「貴音、ちょっとずつちょうだい!」

貴音「ええ、構いませんよ。なくなればまた頼めばいいだけのこと…」

P「俺ももらうぞ」

みんなで貴音の注文した料理をつついていく。

あんなに大量に注文したのに気づけばほとんどなくなっていた。

P「あれ?こんなに少ないんだ…」

響「自分ももっと多いと思った…。あんな量あったのにそんなにお腹いっぱいじゃないぞ…」

我那覇も美希も小鳥さんも意外だなぁといった風に驚いていた。

貴音「足りませんね…」

追加の注文。

先ほどの倍くらいの料理がテーブルに並ぶ。

俺たちは食べているとあることに気づいた。

P「四条、お前どれだけ食うの?」

貴音「はひ、なんでひょうか?」

P「口にものを含んで喋るんじゃない…」

明らかに四条の食べるペースがずば抜けていたのだ。

四条は俺たちの頼んだものには全く手を付けないから俺たちはすぐにお腹いっぱいになってしまった。

小鳥さんは相変わらず飲みまくってるが…。

美希「やっぱりあんな量は無茶だったの…」

響「自分たち三人でも貴音の最初の注文分の量はきついってことだったんだな…」

P「四条、俺たちのも食っていいぞ…」

貴音「いいのでしょうか?」

ああ、むしろ食べてほしいくらい。

というかどれだけ胃袋に入るの?

貴音「真、美味です」

そうして四条もようやく食べ終わる。

小鳥「あっはははははは…!!!」

P「結局こうなるんだよなぁ…」

お酒を飲みまくった小鳥さんは俺の肩に寄りかかりながら大笑いしていた。

響「自分、恥ずかしいぞ…」

美希「小鳥は食事になるといっつもこうなの」

他人のフリをしたい我那覇と、呆れた様子の美希。

貴音「今日は満足のいくほどいただきました」

このレシートの長さにはビビった。

しかも居酒屋で四万超えるとは思わなかった…。

もう絶対連れてかないと心に誓う俺だった。

P「とにかく、帰ろうか…」

そうしてみんなを送ってく。

最後は小鳥さんにした。

どうせ帰って酔いつぶれたまんま寝るし、お世話しないといけないからな。

P「小鳥さん、家に着きましたよ」

小鳥「…うぅん…。…きもちわるいよぉ」

P「飲み過ぎです。せめて家のトイレで吐いてください」

俺は車を止め、肩を貸して家まで連れてく。

今日はおちまい!
小鳥さんの扱いが不憫だけど今だけですから…。

ご感想やご意見等、お待ちしてます!

次回の更新でこの話はおしまいです。
この次はサブ回。Pが魔王エンジェルのライブに行くお話です。

今日の夜、投下します。

深く考えてなかったんですけど、四万ってどのくらいなんでしょうかね?
メニュー二週くらい?
貴音がお腹いっぱいになるくらいを想定していますが…。

皆さんくだらん質問に付き合っていただいてありがとうございます。
ということは一人当たり三千円として、
小鳥さんはお酒飲んでたから六千円、
残りは貴音ってことにしましょう。

投下します。

鍵を小鳥さんの鞄から勝手に取り出し家にあがる。

あまり躊躇はない。

電気をつけると意外にも整理された部屋で、女の子らしくはないが俺は好きだと思った。

P「早くお手洗いに…」

小鳥「はいぃ…」

すぐにトイレのドアを開け、小鳥さんの背をさすりながら様子を見る。

そしてここからは彼女の名誉のため割愛。

その後ふらふらの小鳥さんにうがいをさせ、歯も磨いてあげる。

寝てるのかわからないが、質問した時によくわからない返事をしたので多分起きてるんだろう。

P「早く口ゆすいで着替えて寝てください。お風呂は明日の朝でいいでしょう?」

小鳥「ふぁい…」

そして着替え始めたかと思ったら、そのまま背中からベッドに倒れこんだ。

P「もー!世話が焼けるなぁ…!」

ちょっとイラッとしながらも、取り出したパジャマに着替えさせるため、服を脱がす。

夜で眠いのと、少しイライラしてたのとで彼女の下着姿も特に気にならなかった。

P「はい!これでちゃんと寝てください!」

小鳥「ふぁーい…」

また倒れこむように寝たので布団がぐちゃぐちゃになった。

P「はあ…」

深くため息をつき、小鳥さんをちゃんと寝かせる。

寝ながら戻すとかないよな…。

とも思ったが、先ほどのアレを見れば胃の中は空っぽのはずだ。

P「じゃあ俺も帰りますよ…」

小鳥「待ってぇ…」

がっしと俺の腕をつかむ。

小鳥「寂しいから行かないでぇ…」

弱弱しく言う小鳥さんが心配になり、俺は一晩残ってしまった。

夜が明ける。

小鳥「…何でパジャマ?…うっ、頭が痛ーい…」

起きて早々、二日酔いに苦しむ小鳥。

小鳥「…え?何でプロデューサーさん?」

どうやら昨日の記憶は完全に飛んでいるようだった。

小鳥はプチパニックを起こす。

小鳥「もしかして私、プロデューサーさんと一線を…!?」

小鳥は記憶が無いのを悔しく思いながら自分の股間に手を伸ばした。

この女起きて早々淫乱極まりないのだがナニをするわけではなく自分の膜を確認しているだけだ。

小鳥「………ある。なーんだ!やっちゃったかと思ったわ!…へたれプロデューサーさんめ!」

P「誰がへたれですか。この淫乱クソビッチ…朝っぱらから股間に手ぇ突っ込んでんじゃねぇよ…」

小鳥「ぴよぉ…その言いぐさはあんまりだと思います…」

P「反省してください。お酒はしばらく禁止です。俺はすぐ帰りますから…」

小鳥「ちょっと、何があったのか詳しく説明を…!」

ドアを閉める。

俺は急いで帰って支度を済ませ、出勤した。

小鳥さんはやっぱり遅れて来たのだった。

二週間後。

ついにフェアリーの初ステージとなった。

雛祭りに続き、イベントでのライブだ。

彼女たちはわずか二週間で歌とダンスを仕上げてくれた。

見込んだ通りとはいえ、のみこみの速さに驚きを隠せない。

それなりの数のメディアが集まっているところを見ると注目度は高いらしい。

新しいアイドル発掘の場として名高いのも今回のイベントの特徴だったりする。

魔王エンジェルや新幹少女も、この舞台に立ったと聞いている。

P「準備はいいか?」

美希「いつでもオッケーなの!」

P「響と貴音は?」

響「うぅ…緊張してきた」

貴音「大丈夫ですよ響…」

P「まあ、待ってても時間はやってくるから、それまでに心の準備をしておけ…」

しばらくすると出番が回ってくる。

響「ああ…どうしよう…どうしよう!」

P「響、落ち着けって!」

美希「響、大丈夫だよ!ミキに任せればいいって思うな」

P「そうだ、とりあえず行って来い。そうしたら何とかなる」

貴音「響、参りましょう」

「765プロさーん!お願いしまーす!」

響はここにきてイヤイヤと言い始める。

そんな響の背中を押すのが俺の役目だ。

P「大丈夫だよ。もう一人じゃないだろ?」

響「あ…」

周囲を見渡す響。

その表情はみるみる穏やかになっていく。

響「えへへ…そうだった…」

美希「じゃあ行くのー!ハニー!ちゃんと見ててね!」

P「任せとけ」

登場と共に拍手が聞こえる。

中には美希を呼ぶ声も…。

いつぞやのライブでファンになった人たちだろうか…。

美希「あ!ミキのために来てくれてありがとうなの!」

その一団に向かって手を振る美希。

貴音「真、楽しそうですね」

響「美希って結構すごいんだな…」

美希「今日はね、ミキの新しい仲間を紹介するの!」

おい。お前もそんな有名じゃないだろ。

見えるところからジェスチャーで自己紹介をするように促す。

美希「あ、ミキの自己紹介がまだだったの!」

響「ええ!?美希って誰でも知ってるくらい有名だと思ったぞ…」

自己紹介も無しにメンバーの紹介なんてしようとするから、身内まで混乱してる。

美希「ミキの名前は星井美希!今日はね、なんかユニットを組んで初めてのライブなの!」

なんかってなんだ。

美希「それでね、美希と一緒に歌ってくれるメンバーを紹介するの!はい、じゃあ貴音!」

貴音「私からですか…」

貴音は一つ咳払いして自己紹介を始める。

気品漂うその風貌と美しい容姿から客席は静まり返る。

貴音「初めまして、四条貴音と申します」

響「終わり!?」

貴音「ええ」

美希「貴音、もっと他に言いたいこととかないの?」

貴音「ありませんが…」

美希「ふーん。じゃあ次、響」

響「ええっ!?そんなんでいいの…!?」

美希「うん」

響「…えと、は、初めまして…。じ…私、我那覇響って言います…。えと、よろしくお願いします」

美希「響は他に言いたいことある?」

響「私も特にない…です」

美希「つまんないの…」

響「な、何だよそれぇ!!」

美希「何か響ってば緊張しちゃってるみたいなの。事務所にいるときはそんな丁寧に喋ったりしないんだよ?自分のことも自分って呼ぶし…挨拶も『はいさーい!』って言いながらやってくるの!」

響「うわぁ!やめてよ美希!」

会場からくすくすと笑い声が聞こえる。

嘲笑という感じではなく、好意的な笑いだ。

美希「もっと貴音を見習うの!貴音は初めてでもこんなに堂々としてて響とは大違いなの」

響「見習って口数減らしたんじゃないか!」

美希「…だって。貴音からも何か言ってよ」

貴音「私ですか…はて、お腹がすきましたね…」

響「自由っ!いいの貴音!?そんなに自由でいいの!?」

美希「問題ないってミキは思うな。ミキも眠いの…あふぅ」

響「自分こんなユニットでやっていけるのか不安になってきたぞ…」

ていうか何だこいつら、漫才始めやがった。

客席からは普通に笑い声をあげる人もいる。

美希「というより、響も緊張が解けてきたんじゃない?」

響「そう言われるとなんだか緊張してくるぞ…」

美希「とりあえずもう一度自己紹介をするの!」

響「えー!?もういいよ…」

美希は強引にマイクを響に手渡した。

貴音「響、今こそ開放するのです!」

響「何をっ!?貴音までなんなのそのノリ…」

響はうんうんと唸っていたが、再び自己紹介を始めた。

響「はいさーい!自分、我那覇響だぞ!沖縄出身で動物が大好きなんだ!家にもたくさん動物がいて、みんな大事な友達なんだ!」

開き直ったようだった。

響「ど、どう…?」

貴音と美希に振り返る。

貴音「響らしさが出ていいと思いますよ…?」

無難なコメントの貴音。

美希「みんなー!どうだった?」

客席に聞く美希に響は顔を真っ赤にして慌てる。

響の慌てっぷりとは裏腹に、会場からは拍手という形で響は評価された。

まあ、悪くないよってことだ。

響「…え?あ、う…ありがと…ごじゃいましゅ…」

そこかしこでハートを打ち抜く音が聞こえたような気がした。

貴音「響、可愛らしいです…」

美希「よかったね、響!これからは人見知りはやめて、いつもの響でいくの!」

響「人見知りって言うなぁ!」

初ステージ、美希がリーダーの本領を発揮し全体を引っ張っていく。

美希が響をいじることで、響の本来の姿を取り戻していく。

そして貴音にもここぞというときに話を振って響にツッコませることで絶妙に息が合う。

お客さんも笑顔が絶えない。

会話も弾んできたところで、歌の披露となる。

『では二曲連続でどうぞ!』

トークとパフォーマンスとのギャップはお客さんに衝撃を与える。

一曲目『kiss』

愛されなくても愛の形さえあればいいという歪んだ恋愛観を歌った曲で、どことなく切ない曲だ。

二曲目『over master』

普通の男性には興味を持たない、恋愛経験が豊富な女性の危険な恋愛観を歌った曲で、歌詞の内容はまさに女王を彷彿とさせる。

俺はどっちも好きだけど、『kiss』の方がどちらかというと好きかな。

歌に踊りに、かなり仕上がったパフォーマンスだった。

そして曲が終わると今までのアイドルよりも一段と大きな拍手が…。

美希「あ、私たちフェアリーって言うユニットなの!」

響「今さら!?」

貴音「ぜひ憶えてください」

響「憶えてほしいぞ!」

『765プロから、フェアリーのみなさんでしたー!』

舞台裏にて…。

P「お疲れ様…。どうだったよ初めての舞台は…」

響「うん、すっごく楽しかった!」

貴音「ええ、大変に素晴らしいものでした」

P「じゃあこれからもよろしくな」

響「どんどん仕事こなしていくさー!」

貴音「私も早くぐるめのお仕事がしたいです…」

P「貴音は食いたいだけじゃねーか…。まあ、そういうのあったら貴音に担当させてやるけど…」

貴音「こう見えても私、味覚には自信がありますので適任かと…」

はいはいわかった。

響「プロデューサー!自分、アイドルやってて良かった!何度も辞めようって思ったことあるけどやってて良かった!」

ああ、俺はそういう顔が見たかったんだ。

プロデューサーを始めてから、この感動を味わうのがたまらなく好きになってたんだ。

響「これからもよろしくね!」

貴音「これからもお世話になります」

こうして765プロにも新しい仲間が増えました。

ちなみにフェアリーのデビューシングル『kiss』の売り上げも良好で、重版ができるほどだった。

おちまいです。
今日は短いですかね?
まあ、いいでしょう。

ご意見やご感想等あればぜひお願いします!

ピヨちゃんが残念美人すぎるけど面白いからいいや

やっぱり短い気がするので、ちょっと次のお話の冒頭だけ投下します。

ある日765プロに、いや、俺あてに一枚の封筒が届いた。

小鳥「この封筒、プロデューサーさん宛に届いてますけど…」

P「え?アイドルにじゃなくてですか?」

小鳥「はい、ここちゃんとP様って書かれてますよ」

P「本当ですね」

開けてみるのが早いかと思い、はさみを取り出して封筒を開封する。

中から出てきたのは一枚の招待状と一枚のチケット。

P「なんだ?」

先に招待状を読んでみる。

P「拝啓P様。先日はお会いできたことを大変嬉しく思います。よろしければ今度のライブ、特別席で御招待しますのでぜひいらしてください。…東豪寺麗華」

小鳥「ええ!?東豪寺麗華って魔王エンジェルの!?そして特別席って!」

P「そんなに驚いてどうかしました?まあ俺もこんなこと初めてで驚きましたが…」

小鳥「魔王エンジェルのライブってチケットを入手するだけでも困難なのに、特等席ですよ!?S級ですよ!?」

やっぱ小鳥さんってアイドルに詳しいんだな。

P「へえ」

社長が、騒々しいのを気にかけてやって来る。

高木「そんな大きな声を出してどうしたんだい音無君?」

小鳥「それが…」

小鳥さんは事情を話した。

高木「そうか。それは確かにすごいことじゃないか!」

俺は貴重なものをもらったらしい。

高木「よぉし!君はその日は仕事を休んで存分に楽しんできなさい。…ああ、サイリウムを忘れてはいけないよ」

P「はぁ…わかりました。それでは存分に楽しんできます」

そして当日。

P「ここアリーナか。でっけえ…」

首都圏のアリーナ。

このハコで入手困難のチケットとか…。

魔王エンジェルのすごさがよくわかる。

サイリウムもバッチリ用意してきた。

麗華と朝比奈さん、三條さんのイメージカラーを選んで持ってきた。

物販は長蛇の列で、売り切れでーす、とスタッフの声が聞こえてくる。

もう売り切れ出てるのか…。今は朝の十時だぞ。

販売開始は九時からだから、もう目ぼしいグッズは購入できないだろう。

こんな大きなライブは初めて来たからこれが普通なのかいささか疑問に思った。

物販に足を運ぶつもりはなかったので特に悔しい思いもしない。

ところでライブは4時開場の5時開始だ。

俺がこんなに早く来たのはもちろん麗華たちに会うため。

招待状があれば特別に楽屋に入れるらしい。

いつも最初から舞台裏なのでこういうのは新鮮だ。

ちなみに観客席も千早の雛祭りライブをカウントしなければ今回初めて。

P「あー、なんだか緊張するなぁ…」

一人でいると独り言もつい多くなる。

花束を三つ抱えているので周りのファンの方から奇異の視線を向けられる。

しかしそれを軽く流して関係者出入り口の前まで到着する。

警備員に招待状を見せて、関係者専用通路に足を踏み入れた。

祝儀の花がずらりと並んでいる。

あちゃー…花束要らなかったなこれ…。

しかたない。とりあえず、魔王エンジェルはどこかなー。

さすがはアリーナ、舞台裏もやっぱり広い。

しかし見つけるのに時間はかからなかった。

P「けっこう目立つようにしてあるんだな」

ドアをノックする。

P「おはようございます。765プロのPと申します。魔王エンジェルのみなさん、失礼してもよろしいですか?」

ドア越しに挨拶をして相手の返事を待つのは当然だ。

部屋から顔を覗かせたのは魔王エンジェルのメンバーではなく、スタッフと思わしき女性だった。

割りとタイプで、ちょっとスカウトしたいな、と思ったのは内緒だ。

「765プロさんですか?…あの、今衣装合わせをしてるので後ほどまた来ていただけますか?」

P「そうでしたか。これは失礼しました。では東豪寺麗華様にどこで待っていればいいのか伺ってもらってもいいでしょうか」

「…わかりました。お名前は?」

俺は自分の名前を告げる。

「少々お待ちください」

女性スタッフは扉を閉めて部屋に引っ込んだ。

しばらくして同じ人が顔を出す。

「お待たせしました。あのー、麗華ちゃんは12時頃にまたこちらへ来るように…だそうです」

P「そうですか、わざわざありがとうございます」

「いえ。…それとお暇潰しでしたらアリーナ周辺の観光や、通りの食べ歩きとかおすすめですよ」

とても気の利く方だ。

時間が空いてしまうのを考慮して時間の潰し方を提案してくれた。

P「楽しそうですね。行ってみますね」

相手の方の優しさに自然と笑みがこぼれてしまう。

やっぱり人は親切にしたりされたりするべきなんだなと思った。

女性スタッフも頬を赤く染め、にこりと笑いを返してくれた。

あー、すごくタイプ、好きになりそう。

とか思っても、お近づきになるわけにはいかないので、お辞儀をしてさっさとその場を離れた。

じゃあ、今日はこの辺でおちまいってことで…。

次回は早めの投稿を目指します。
大体、三日以内には投稿したいですね。

改めてご意見やご感想等あればぜひ!

>>634
ありがとうございます。励みになります!

やっと追い付いた
気になって見たら凄く面白かったのでこれからも期待

妹ものかと思ったらまさかのハーレムだったww
期待

皆さんレスありがとうございます!
レスを拝見しているとサブキャラの支持率が意外と高い感じですか?

>>645
かなり長くなってきたから新しく読む人はいないかなって思ってました…。
本当、目を通していただきありがとうございます。
ここまでの文の長さはなかなか大変だったと思います。

見てくださってる皆さん、付き合っていただいてご意見やご感想もくださって
ありがとうございます。おかげで頑張れます。

>>646
最初は妹ものになるつもりでした。
他のアイドルにも焦点を当てたいと思って書いてるうちにこんなことに…。
どうしてこうなったと言わざるを得ません。

では投下します。

さて、言われた通り観光や食べ歩きを楽しんだのだが、時間はそんなに無かったので、まだまだ回りたいところはあったがお土産を買ってまた戻る。

それにしても荷物が多すぎる。

お土産、花束、サイリウムや応援グッズの入ったリュック。

特に花束が目立つ。

道行く人の注目を浴びる。

大荷物であることに徐々に恥ずかしさを感じながらも、先程のアリーナ、そして楽屋まで戻ってきた。

ノックしてもう一度挨拶をする。

さっき対応してくれた女性が再びドアを開けた。

「あら、さきほどの765プロのPさんでしたよね?」

P「ええ、そうです。麗華…じゃなくて東豪寺麗華様にお会いしに来ました」

「少々お待ちください」

部屋に戻って数秒。

女性はすぐに顔を出す。

「どうぞお入りください」

案内されて部屋に入る。

ジャージ姿の三人が椅子に座ってこちらを見る。

P「おはようございます。朝からお疲れさまです」

麗華「おはよう。伊織のお兄様」

ともみ「おはよ」

りん「おはよー!Pさんってば堅いんだから…。もっとため口でいいのにさ」

P「いいの?最近はため口の方がなにかと楽だったりするんだ」

ともみ「うん。そっちの方がいい」

P「そう?ありがとね。とりあえずこれをどうぞ」

手に持ってる花束を差し出す。

P「ごめんね。アリーナ内にあんなにあると思わなくて、花束なんか貧相かもしんないけど…」

麗華「いいえ、お兄様からいただければ何でも嬉しいわ。センスもけっこういいじゃない」

ともみ「麗華が赤で、りんが黄色、私は青」

P「うん。俺のイメージだけど、それぞれに合いそうな色の基調で花束つくってもらったんだ」

りん「こうやって直接、花束をくれる人はあんまりいないから嬉しいな」

P「とにかく喜んでもらえて良かったよ」

迷惑なんじゃないかと内心ドキドキしていた。

麗華「…ところでこれから私たちお昼ご飯をいただくのだけれど、あなたも一緒にどうかしら?」

P「え?いいのか?」

ともみ「私たちとPさんの仲…」

それはいったいどんな仲なんだ…。

P「というか、外に食べに行っていいのか?」

麗華「バレなきゃいいのよ、バレなきゃ」

P「えー?かなり無理があると思うんだけど…」

りん「この前そう言って3人でラーメン屋行ったんだよね」

麗華がラーメンか…あんまり想像できないな。

りん「そうしたらお客さんにバレて大騒ぎよ…」

ともみ「あれは最悪だった…」

麗華「悪かったわよ。反省してるわ。今回はそうはいかないから!」

りん「それは反省じゃなくて性懲りもないって言うのよ。アホ麗華」

麗華「アホって何よ!」

ともみ「私もりんに同意かな」

麗華「くぅ…!」

P「ところで麗華もラーメンとか食べるんだな。お嬢様でラーメン食べてる人って、俺は会ったこと無いからさ」

麗華「そうね。名家は普通、ラーメンなんて庶民の食べ物は食べないわ」

りん「何それー。私たちのことバカにしてんの?」

真っ先に反論の朝比奈さん。

麗華「違うわよ。伊織のお兄様も言ってるように見たことがないの」

ともみ「どういうこと?」

疑問に思い首をかしげる三條さん。

麗華「名家のほとんどは箱入りなわけで、ラーメンなんてものに触れる機会がないのよ」

P「そうなんだよなぁ。俺も大学行くまでラーメン知らなかったし…」

りん「嘘でしょ…?」

驚愕のあまりよろける朝比奈さん。

P「でも初めて食べたとき、こんな美味いものがあるんだなって思ったよ」

麗華「そうねぇ。しかもバリエーションも豊富だし、いろんなお店を食べ比べちゃうわよね…」

ともみ「それはわかる」

P「そんで結局、信用できるのは口コミだけになっていったりな」

りん「あははは…!それもわかるー!」

麗華「ああ、なんかラーメン食べたくなってきたじゃない。どうしてくれるの、伊織のお兄様?」

P「いや、知らねーよ。…でも俺もラーメン食べたいかも」

りん「ダメ…ラーメンの口になってきた」

ともみ「私も…」

麗華「リベンジも兼ねて行きましょうよラーメン屋」

俺はそう聞くやすぐにスマートフォンを取り出して検索をかける。

P「近くに三軒あるぞ。どれも口コミの評価が高いけど…」

りん「どれどれ?」

ともみ「…」

ひょいと覗きこむ二人。

麗華「私にも見せてよ」

朝比奈さんとの間に割って入る麗華。

朝比奈さんはすっと麗華に譲る。

P「ここの三軒だけど、看板メニューが違うみたい」

オーソドックスな鶏ガラか、あっさりとした魚介か、こってりな豚骨。

P「ちなみに俺はこってり派だ。まあ三人に合わせるけど、どこがいい?」

りん「こってりはアイドルの敵だからなぁ…」

麗華「私は鶏ガラがいいかしら…」

ともみ「豚骨が好きだけど、重いのは控えた方がいい」

その通りだ。

P「じゃあこのお店にするか」

りん「ええ、賛成」

ともみ「無難」

麗華「じゃあ早速変装して行きましょう!」

やけにノリノリの麗華だった。

麗華「マネージャーも来るわよね?」

「私も一緒に行っていいの?」

マネージャーと呼ばれた女性はさっきの女性だった。

りん「当たり前じゃない」

ともみ「いや?」

マネ「まさか。嫌なわけないじゃない。ただ邪魔じゃないかなと思ってね」

麗華「そんなわけないでしょ?ね、伊織のお兄様」

P「ええ、麗華の言う通りです。むしろ私がご一緒していいのでしょうか?」

マネ「まあ多少リスクはありますが、問題ないと思います」

P「えーと、それはアイドルが男性といるというリスクですか?」

マネ「そうですね。でも私もいればいざというときの言い訳が簡単になりそうですね」

P「ああ、なるほどね」

疑われれば、こっちの人が恋人ですと言ってしまえばいいのだ。

そうすりゃ誰も気に止めない。

何はともあれ、早速ラーメン屋へ向かうのだった。

麗華「どうこの変装?完璧すぎて怖いわ」

麗華はいつもは結わない髪型をツインテールにして、眼鏡も着用する。

三條さんも短い髪を両側で結んで小さなお下げみたいにして、帽子を被る。

朝比奈さんは逆に、いつもは二つ結びの髪をストレートにして眼鏡をかける。

全員服装は地味目だ。

華やかさを少しでも殺して目立たないように努める。

結果、ラーメン屋まで無事にたどり着く。

P「なんとか来れたな」

りん「ほんと、冷や冷やするわ…」

ともみ「何人か気づいてたっぽい」

麗華「うそっ!?」

やはり誤魔化しきるのはなかなか難しい。

それにラーメン屋に五人で来るのも意外に目立つものだ。

とりあえずテーブルに案内してもらって注文を済ませる。

全員、普通のラーメンを頼んだ。

マネ「あまり時間がないよ。一応連絡しておこうか?」

麗華「そうね、お願いしてもいいかしら」

マネージャーさんは遅れる旨を伝えるらしい。

注文して数分で目当ての品がやってくる。

ふわっと香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

割り箸を割って、いただきますとみんなで食べ始める。

りん「おいしー!」

P「うん。美味しいな」

麗華「ラーメンってやっぱこれよねぇ…!」

ともみ「…」

三條さんは一心不乱に食べていた。

みんな、スープも残さず食べきり満足したようすだった。

お代はマネージャーさんが経費で落としてくれた。

ちょっと申し訳ないな。

P「払ってもらっちゃってすみません。俺、部外者なのに」

マネ「いいんですよ。付き合わせてるのはこちらですし、これくらいのことは…」

P「…そういえばこの後はリハーサルか何かするんですよね?」

マネ「そういう予定になってますね」

P「そっか、じゃあ四時までまたぶらぶらしてようかな」

さっき教えてもらった暇潰しのしかたでも三時間くらい潰すとなるとどうしても時間が余ってしまう。

うーんと考え込んでるとマネージャーさんは、あの…と声をかけてきた。

マネ「…私でよかったら付き合いましょうか?」

願ってもないことなのだが、それでは魔王エンジェルの付き添いがいなくなってしまう。

P「いえ、あなたは彼女たちについてあげてください」

マネ「…そうですよね」

ちょっと残念そうに見えたけど気のせいだと思う。

麗華「そうだわ。お兄様もリハーサルを見学してみてはいかが?」

麗華は俺とマネージャーさんの間に割って入る。

これも嬉しい提案だけど。

P「いいのか?」

りん「うーん舞台裏はあまり見られたくないんだけど、Pさん一人ならいいかな?」

ともみ「私もいいよ。同業者だし、Pさんの勉強にもなる」

P「それなら見学するよ。すごく楽しみだな」

ともみ「Pさん子供みたい…」

りん「かっわいいー」

くすくすと笑う二人。

そんなに嬉しそうにしてたのか自分ではわからないが、そんな風に指摘されると恥ずかしい。

マネージャーさんもにこにこと笑顔を向けてくるし、麗華も恍惚とした表情で眺めてくる。

そして会場へと戻る。

時間は多少押しているが、特に問題ないらしい。

リハは開場の一時間前に終了する予定で、その間に演出や音響等の細かい調整をするようだ。

マネ「ステージ裏で待っててください。彼女たちをいったん着替えさせてきます」

他のスタッフたちが忙しなく動く。

俺は邪魔にならないところで、ぽつんと突っ立っていた。

この大きさの会場だとさすがにスタッフも多い。

アルバイトも多く雇っているだろう。

765プロはちゃんとしたライブは美希のライブ一回だけだ。

美希だけでなく雪歩や亜美、真美、やよいに千早、それに先日デビューを果たしたフェアリーの響、貴音と、固定ファンが増えてきたので、そろそろライブをしてもいい頃だと思う。

あれこれ考案を練っていると、魔王エンジェルがジャージ姿でステージ入りする。

曲を流したり、マイクチェックをしたりする。

麗華『あ、あー…。どうかしら?』

客席の後ろの方にいるスタッフがオッケーでーす!と腕でまるをつくる。

他に、ステージでの立ち位置の確認を実際にバックダンサーを含め踊って確かめたり、ステージの仕掛けの確認を行ったり…。

証明の動かし方や、スクリーンに映る映像の変更まで行った。

P「へー、こんなに細かいところもやるんだなぁ…」

ある程度決まっていたこととはいえ、短時間でここまでこなすのには感心した。

俺は目を下に向けるとなんだか、床に伸びてるコードが気になった。

ステージの方まで伸びていて、音響に繋がっている。

出入りするとき危なくないかなぁと思っていると、ちょうど麗華たちが戻ってきて、やっぱり引っ掛かった。

麗華「きゃあっ…!!」

近くにもいたし、何となく予想もついていた俺は麗華が足を捻らないように注意しながら彼女を支える。

りん「おお、Pさんナイスキャッチ!」

ともみ「Pさんファインプレー」

P「あはは…まあね。…麗華、怪我は?痛むところ無い?」

麗華「あ、ありがと…。たた、多分無いわ」

周りのスタッフは何事かとざわついていた。

一部のスタッフはその始終を見ていたようで拍手をくれたり、声をかけてくれたりした。

そして引っかからないように工夫を加え、ステージに立つ人たちへも注意喚起することになった。

麗華「助かったわ」

P「怪我したら大変だからな。想像しただけでゾッとするよ…」

麗華「…そうね。私のために来てくれてるファンもたくさんいるわ」

それは自慢でもなんでもなく、アイドルとして自覚しなければならないことでもあった。

ファンが多いということは期待も多いし、麗華の欠席で悲しむ人もまた多いということだ。

トップの彼女たちはそれをわかっている。

そのうえで慢心はなく、ただファンのためにさらに磨きをかけていく。

うちのアイドルにもこういうところは積極的に見習ってほしい。

P「まあ何事もないのなら良かったよ」

麗華「大ありよ」

P「え?やっぱり痛むところがあるの?」

麗華「痛みなんて無いけど、無いけど…!」

うぅーっと唸りだす麗華。

P「何々!?どうしたんだよ!?」

麗華「心臓がばくばくしてる…」

P「…そっか、怖かったんだな」

そう言って頭を撫でてあげる。

こうしてると昔を思い出す。

麗華もよくこうして可愛がってたっけ…。

麗華「そういうわけじゃないけど…」

小声で聞き取れない。

麗華「もういいわ。人の目があるからここではやめてよね。あなた刺されるわよ?」

P「怖いこと言うなよ…」

ちらりと周囲を見渡すと確かに、あなた何者だよ…。とあまり好意的ではない視線もちらほらある。

女性スタッフはどちらかというと微笑ましく眺めていた。

そうして調整も終わり、開場の四十分前にすべての工程のチェックが終わる。

みんなで円陣を組んで一致団結するのを見て、かっこいいなぁ、なんて思った。

ともみ「Pさん、また後で…」

りん「楽しませるからね!」

麗華「お兄様、今日は来てくれてありがと…。忙しいから来れないと思ったけど…」

P「社長に言ったら予定を空けてくれたんだ。麗華もこんな良い席のチケットくれてありがとう」

麗華「えへへ…。お兄様にも見てほしかったから…」

頬を染めてそう言った麗華は可愛らしかった。

俺は特別に早く会場入りさせてもらい指定席で待っていると、続々とファンが入ってきて、三十分ほどで席はほとんど埋まってしまった。

ここから見ても、客席の様子は圧巻だ。

この風景をうちのアイドル達にもステージの上で見せてやりたい。

しばらくしてライブは始まる。

スクリーンにはスポンサーの企業名が流れる。

それが終わるとアナウンスが流れる。

『皆様、本日はお越しいただき誠にありがとうございます』

それから注意事項を伝え、最後の挨拶へ。

『それでは心行くまでお楽しみください…』

パッと照明が落ち、曲が流れ始める。

歓声が凄まじい。

クラッカーの音と共に魔王エンジェルの三人が派手に登場した。

さらにヒートアップする会場に俺も飲み込まれていく。

全身に鳥肌が立ち、言葉にはできないほどの感情が溢れかえる。

P「すごい…」

正直に言って、これ以上に形容できるような言葉がない。

そして客席もこれ以上にないほど一致団結していた。

アンコールも含め三時間を越えるライブはついに幕を閉じる。

客席でしか感じることのできないライブの雰囲気。

歌で踊りでトークで、彼女たちの魅力を存分に味わえた。

その場の椅子に腰掛け、長い時間余韻に浸っていた。

しばらくして麗華たちのもとへ向かう。

ノックをしてマネージャーさんに入れてもらった。

P「お疲れ様!凄かったよ!」

俺はもう興奮しっぱなしだった。

りん「ありがとうPさん」

ともみ「直接言われるとやっぱり嬉しい…」

麗華「当たり前よ」

三人は衣装のままだ。

汗で髪を濡らしながらも、満足げでやりきった笑顔。

P「うーん、花束はあとで渡した方が良かったかな…?」

麗華「そんなことないわ。ライブの時、邪魔になるでしょ?」

りん「そうそ。応援するときは応援に集中してほしいもん」

ともみ「花束はライブ前にもらっても嬉しい…」

そんな会話から始まり、雑談になったかと思いきや…。

俺は今日の感想を三人の前で高いテンションで話していた。

くすくすと笑う三人。

にこにこと笑顔のマネージャーさん。

P「え?ど、どうしたの?」

りん「やっぱりこういうところ、子供っぽいなぁって思ってね」

ともみ「Pさん可愛い…」

マネ「ふふっ…」

恥ずかしくなってきた俺は慌ててペットボトルの水を手に取ろうとするが落としてしまった。

拾おうと思ってしゃがみこむと、横から押されてバランスを崩す。

そのままストンと尻餅をついてしまう。

横を見ると麗華もしゃがんで目線を合わせている。

そしてパンツが丸見えだった。

P「あっ…」

慌てて目を逸らすが…。

麗華「どこ見てたの?…変態」

P「うっ…!」

そう言われて余計に羞恥を感じる。

麗華の方を見ると彼女の顔はうっとりとしたものに変わっていた。

スイッチ入ってるんですけど…。

麗華「ほら、どこ見てたのよ…。ねぇ…」

周りにいる人は突然の出来事に固まってた。

P「見てない。何も見てないって…」

そう言って立ち上がろうとするが、そんな俺の足を持ち上げて転ばせる。

背中までついて倒れた俺の上に四つん這いで覆い被さる麗華。

麗華「嘘でしょ?知ってるんだから…」

麗華は恍惚な表情に加え、本当に愉しそうに微笑む。

俺は顔を逸らす。

麗華「こっち見てよ」

P「ちょっと…やめ…」

麗華の顔はどんどん近づいて…。

俺の首に歯を立てた。

ぎょっとする間もなく、痛みが駆け抜け、手足がピリッとする。

なんだこいつ、吸血鬼かよ、と意外にも冷静に考えていたが…。

P「い、いたっ!…痛い痛い!!…助けてっ!」

かなり強めに噛んできた。

俺がそう叫ぶと、ようやく周りも硬直がとけて、麗華を引き離す。

りん「こ、こらこら!麗華は何やってんの!?」

マネ「ちょっと麗華ちゃん!ダメだってば!」

離れたときに見た麗華の表情は紛れもないドSのそれだった。

麗華「あーあ、残念…」

ともみ「残念じゃない…恩を仇で返しちゃダメ」

りん「まったくよ!もう、Pさんをなんだと思ってるの!?」

麗華「私のおもちゃ」

ひでえ話だ。

りん「相変わらず最低ね、ドン引きよ」

麗華「冗談だって。でも私がおもちゃって言ったときのお兄様の顔、素敵ね…」

どこでスイッチ入るかわからん…。

この件で俺はポーカーフェイスを極めようと思うのだった。

首が痛いよぉ…。

マネ「本当に申し訳ありません」

P「いや、まあいいですよ。タダでチケットいただいてますし…」

麗華「そうよね。このくらいいくらでもやっていいわよね?」

P「ダメだよ!」

麗華「本当は私に噛まれて気持ち良かったんでしょ?…ねぇ?」

P「そんなわけねぇだろ!いてぇから!ちょっと涙出てきたから!」

もうこいつのキャラがわかんねー…。

麗華「…ごめんなさい。ちょっと痕になってないか確認させて…」

麗華は急にしおらしくなる。

スイッチの入れ替えが早いな。

…とか思ってた俺がバカだった。

首を見せる俺。

躊躇なく噛みつく麗華。

止めるみんな。

麗華「涙流してよぉ…」

怖いっ!!演技してまで噛みに来る麗華が怖いっ!

マネ「もう麗華ちゃんはPさんに近づいちゃダメ!」

ようやく落ち着いた麗華は、止められなかったの…と容疑を認めた。

容疑ではなく明らかに現行犯なのだが…。

りん「本当、ごめんねぇ…Pさん」

ともみ「あなたが絡むとたまにこうなるみたい」

マネ「またやられたら言ってください。厳重に注意しておきますので…」

P「あ、是非お願いします」

りん「あのPさんが謙虚に断らなかった…」

ともみ「麗華は重症…」

麗華「ごめんって…」

最後はバタバタとしたが、トップアイドルのライブは本当に楽しいものだった。

後日。

律子「また東豪寺プロダクションからプロデューサー宛に荷物ですよ」

P「おう、またか」

律子「それにしても羨ましいですよ。魔王エンジェルのライブに、しかも特等席で見に行けるなんて…」

P「ああ、あの感動は忘れられないな」

その後のどたばたが無ければ尚良しだったが…。

律子「ま、その代償が首の痕ですか…」

P「見ないでくれ…」

律子「そんなにまじまじと見ませんよ。それより荷物の中身はなんですか?またチケットですか?」

P「いや、そんな早く次のライブはやらないだろ」

開けてみると手紙とお菓子が入っていて、その手紙によると先日のお詫びの品ということらしい。

律子「へえ、ボンボンですか」

P「これはまた高価なブランドのものだな。律子食ったことある?」

律子「ええ、ありますよ。あんまり良い思い出は無いですけど…」

P「そりゃあ、お菓子だと思って食べてみたらそんな美味しくないし、気持ち悪くなるしで大変だろうよ」

律子「まさにその通りです」

これは小鳥さんとあずさと社長で食べてしまおう。

そうして机の上に置いといた。

P「そういや律子、相談あるって言ってたな。どうした?」

律子「そのことなんですけど、私もユニットの企画をしてみました」

P「へえ、いいじゃないか。それで…?」

律子「伊織をリーダーにして組もうと思ってるんですが…」

伊織をねぇ。

俺も伊織を中心としたユニットを検討していたのだが…。

P「そうか。それで、なんの相談なんだ?」

律子「伊織のお兄さんであるプロデューサーが、プロデュースしたいのかどうか確認しようと思って…」

P「ああ、そんなことか…。確かに俺も伊織のユニットを企画してたが、律子が欲しいって言うんならいいけど…」

律子「本当ですか?」

P「ああ。ていうか伊織をプロデュースするのに俺の許可は取んなくていいぞ?自分の好きなようなやりなよ」

律子「ありがとうございますプロデューサー!」

P「それでどんなユニットなの?」

俺は俺で興味津々だった。

律子「伊織と亜美とあずささんで組みます!」

P「その発想は無かった。ずいぶん思い切ったな…」

俺なら伊織と亜美、真美、やよいの四人ユニットしてるな。

そこを年の離れたあずさか…。

面白い着眼点かも…。

律子「そうですか?…何だかんだでバランスが良いと思うんですよね」

あー、確かにそう思えなくもないな。

P「とにかく良いと思う。伊織のことは任せるぞ?」

律子「はい!」

P「まあ何かあれば俺に言ってくれ。伊織はちょっと難しいところあるしな」

律子「ええ、万が一の時はお願いしますけど、なるべく自分の力でやりたいんです!」

P「俺もそのつもりだ。お互い頑張ろう」

律子「ふふふ…。なんだかようやく、プロデューサーと肩を並べられた気がします」

嬉しそうに言う律子だが、俺もそこまで優しくしない。

P「そんな簡単に肩を並べてもらってたまるかっての。もっと精進しろよ?」

律子「当たり前です!私だってプロデューサーを越えるつもりでやってますから!」

P「ははは…!生意気言ってんじゃねえ。…でも、その意気で頑張れば必ずうちは良い方向に向かってくよ」

律子「そうなると良いですね…」

想像して表情を輝かせる律子。

P「そんなんじゃダメだろ?…俺達でそうさせるんだ。日本で765プロを知らない人がいないくらいに有名にしてやるんだ」

それが俺の今の夢。

律子は俺の言葉に圧倒されていたようだが、やがて力強く頷いた。

そう、俺たちの戦いはこれからだ!

おしまい。

…というのは冗談だ。

P「ところで律子、ユニット名は決まってるのか?」

律子「それはまだ悩んでいます」

P「水瀬伊織と、双海亜美、それに三浦あずさか…」

律子「全員の名前を読むと『み』が目立つんですよね…」

確かに、実際読んでみると『み』の発音が耳に残る。…気がする。

律子「それと全員、水に関係のある名前なんですよね…」

P「へえ、結構考えてるんだな」

律子「そうだ、プロデューサーはフェアリーってどういう意図で名付けたんですか?」

P「あんま深い意味はないなぁ…。ただ、幸せを届ける象徴として思いついたのが妖精だったって話だ」

実は他に女神とか、聖母とかも浮かんだけど英語にすると仰々しいし、親しみづらいと思った。

律子「うーん。フィーリングですか…」

P「大体そうだな」

でも律子みたいな理論的というか、何かに関連した考え方も悪くない。

律子は決まらないようで、ずっと考え込んでいる。

P「なあ律子」

律子「なんですか?」

P「そのユニット名…………」

こうして律子プレゼンツのユニットは発信していくことになった。

おちまいです!

謝罪を一つ…。
次のお話は書けてるのですが、
その次のお話がボツになったせいで
書き溜めたものが書き溜め損となってしまいました。

構想を再び練りつつ、もう一度書き溜めということにするので
次回投稿は一週間以上空きそうです…。

ちなみに、以下ボツになった理由。
Pと伊織がちゅっちゅしてアイドルに見られる展開で話を進めてたところ
その先、アイドル達に白い目で見られるという鬱展開しか書けなくなってしまったため。

以上の理由で書き直すことにしました。

また、マルチエンド形式を考えていますが、全員分はさすがに骨が折れますので
今後のレスを見て、人気のキャラ五名ほど、各エンドを用意しようと思います。
このキャラのルートが見たいと仰ってくれれば、そのキャラに一票として反映します。

その他ご意見やご感想あればぜひお願いします!
長文でごめんなさい。

皆さんレスどうもです。

女P、ひかりちゃん、麗華は決定かな?
魔王エンジェルのマネージャーさんって
さっき出たばかりなのに何故こんな人気なんです?ww
フラグ立てる気もなかったのに…。

原作やコミックとはキャラが大きく異なってるのは、もう皆さん気にしないですよね。
麗華やひかりのキャラが違うとか今さら無しですよ。

メインのアイドル少ないですねww

あと一人5、6人までなら選んでいただいても構いませんので…。

いろんなユニットでてるけど876は無いのな

>>686
876のアイドルは口調がわからないので登場させませんでした。
主役級のキャラの口調が大きく異なるのが自分自身でも嫌だったので…。
876アイドルに期待してたのなら申し訳ない。

女マネージャーにはフラグが言うてますがPの笑顔でキュンとしたり案内しようとしたりフラグ立ってますやん

あれでフラグ立ててるつもりがないとか天然クソジゴロにも程がありませんか

>>690>>691
本当ですね。ごめんなさい。
仰る通り天然クソジゴロでしたこれは…orz

こんばんは。
一週間と書きましたが、ある程度書き溜めましたので
明日、もしくは明後日に続きを更新できると思います。

どのキャラが主役としてエンディングを迎えることができるのか…。

ちなみに、あと三つくらいお話を書いて、各エンディングへと分岐するという方針を予定してます。
なのでマルチエンドまではしばらく時間がかかりそうです。
今月中に終わればいいのですが…。

22:00くらいに投下します。

活動が始まった律子率いる竜宮小町。

しかし、ぽっと出のユニットに仕事も無く、前途多難な毎日を送るメンバーたちであった。

伊織「律子ー…ユニットになったらテレビ出れるんじゃないの?」

律子「そんなこと一言も言ってないわよ」

亜美「亜美も、ユニット組んだらお仕事いっぱいできると思ったなぁ…」

律子「大丈夫。なかなか上手くいかないのは最初だけよ…」

聞いていた俺も、実は悪くないと思っている。

双子アイドルとして売れ始めていた亜美が突然、双子での活動をやめ、ユニットを組むとなったら話題性は多少あると思う。

ここを上手く利用できるかどうかで一気に売れることにもなりそうな気もするが…。

律子「最初さえ乗り越えてしまえば、あなた達なら上手くいく…」

あずさ「ふふっ…律子さんにそう言ってもらえて嬉しいわ…」

伊織「本当に大丈夫かしら…」

律子はデスクワークを続けながら、三人と会話をしていた。

パタパタとキーボードを打っていると時折、苦い顔になったりして上手くいかないようだ。

律子「また先方からお断りのメールが…」

P「まあそう上手くいくもんじゃないさ」

律子「プロデューサーはすぐにお仕事取ってきますよね…」

P「みんなのやりたい仕事となると、いきなりは取ってこれないけどな」

まずは雑誌のモデルとかから入るだろうか…。

昨今はモデルさんも多いので、世間の需要と先方の供給に合ったモデルをこちらでも用意しなければいけなくなるのだが…。

意外と何とかなる。

特に美希なんかはキュートなものからクールなものまで、様々な印象を与えられる。

そんな美希も今度、写真集の発売にまで至る。

フェアリーとしての活動も上々であり、響と貴音、それぞれにも少しづつソロでの仕事が回ってきてる。

俺はこれから春香、真、真美でユニットを組むことを考えていてそれぞれを売りに出すためオーディションに週一程度で参加してるのだが…。

これがなかなか、はまってくれない。

俺もストレスでどうにかなりそうではあった。

しかし、長い目で見ることが大事だ。まだ3回しか挑戦してない。

三人とも慣れてきたし、次は次はと奮闘中である。

律子「外回り行ってきます!」

律子は直接、宣伝しに行くようだ。

伊織「私たちもレッスンに行きましょう?」

あずさ「そうね。律子さんが頑張ってるのに、私たちが何もしないわけにはいかないものね」

亜美「よっしゃー!律っちゃんのためにも一皮脱いじゃおう!」

伊織「一肌ね…。使い方も微妙に違うし…」

亜美「細かいことは気にしなーい!行くよ、いおりん!」

伊織「まったく…。じゃあお兄様、行ってくるわ。あずさも行きましょう?」

あずさ「ええ。それでは行ってきますプロデューサーさん」

P「ああ、行ってらっしゃい」

そうして送り出す。

俺もどうにか手を打たなければ…。

と思っても時間はすぐに過ぎて4回目のオーディションもそれぞれ失敗。

春香「今回もダメでしたけど初めて最終選考に残りました!」

P「いや、俺のせいだ。また辛い思いさせてすまなかった…」

春香「やだなぁ、プロデューサーさん。確かに悔しかったですけど着実に一歩ずつ前に進んでると思います」

次こそはと意気込む春香に救われる。

俺には謝ることしかできない…。

P「本当にすまない。次は絶対に合格させてやる」

春香「…はい」

春香は無理に微笑んだ。

真「春香!プロデューサー!ただいま!」

真美「ただいまー!」

春香「あ、真美、真、お帰り。どうだった?」

真美「ううん。ダメだったよー」

真「でも初めて最後まで残ったからね!次はきっと大丈夫だよ!」

春香「うん!みんなで頑張ろう!」

真美「おー!」

実はこの三人他の子に比べるとお仕事が少ないのだ。

そして、それが今の俺の悩みでもある。

P「今回こそはと思ったんだが…。みんなすまない、俺のリサーチ不足だ…」

真「もう、またですかプロデューサー…。それやめてくださいよ…」

真美「そうだよ兄ちゃん…。オークション落っこっちゃったのは真美たちが悪いんだから…」

春香「真美、オーディションね。…でも真美の言う通りですよ?私たちに何かが足りなかったから審査員に選んでもらえないんですよ…」

P「それは違う。あいつらは見る目がないんだ…」

そう言って少し後悔した。

さっきまで前向きの調子だった三人からすっと表情が消える。

真美「やめて兄ちゃん…。兄ちゃんが悪口言ってるところ聞きたくない…」

真「ボクも…。プロデューサーって怒るときは怒ってくれるし、褒めてくれるときは褒めてくれる。ふざけるときはふざけるけど…。そうやって人を悪く言うのはあんまり聞いたことないし、嫌です」

春香「私も嫌です…。プロデューサーさん、口調が悪いこともあるけど人のこと悪く言うのは私も聞いたことないし聞きたくないです…」

俺はぐっと息を詰まらせた。

喉がきゅっと絞られる思いをする。

明確な軽蔑が俺の羞恥をさらに増長させる。

みんなの顔が見れなかった。

何も言えずに黙っていると、三人は失礼しますと出ていってしまった。

P「くそっ…」

残ったのは自己嫌悪だけだった。

数日後。

P「律子、調子はどう?」

俺はデスクに向かいつつ、同じくデスクに向かう律子に話しかける。

律子「今は予算をいただいて週に三回くらいのペースでミニライブを行ってます…」

かなりハイペースだ。

予算もそれなりにもらってるらしい。

律子「プロデューサー殿は?」

P「俺は春香と真と真美を中心にオーディションを受けさせているがさっぱり当たらん。もうどうすればいいのか分からなくなってきている…」

律子「おや、プロデューサー殿が弱音を吐くなんて珍しいですね」

P「この前、ちょっとあってな…」

律子「そうですか…。私は何にもしませんよ?」

助け船は出さないと牽制をかける律子。

一見すると薄情なやつに見えるかもしれないが、俺のプライドを傷つけないようにという見方もできる。

彼女は不器用な子だが、俺にはどういう意図で律子がそう言ったのか分からなかった。

事務所に一通の電話が入る。

取ったのは小鳥さんだ。

仕事に集中してる時は、かなり早いのだが、いったん手が止まるとそこから長い我が社の事務員である。

俺たちの話に入ってこなかったところを見ると、電話のコールでようやく我に返ったようだ。

小鳥「お電話ありがとうございます。こちら765プロダクションでございます。私、音無が承ります」

きりっと表情を整え、シャキッと背筋を伸ばし、いかにも出来る女という感じだった。

小鳥「はい……はい……ええ、少々お待ちください…」

小鳥さんは受話器を保留にしてから、律子を呼ぶ。

小鳥「律子さんにお電話です」

小鳥さんが言うには某テレビ局の関係者だと言う。

律子「お電話代わりました。…はい、私が竜宮小町のプロデューサーの秋月律子です。…ええ、はい。…はい」

律子は向こうの電話に相槌をうって受け答えしているだけだったが…。

律子「え!?本当ですか!?…ぜひ!こちらこそよろしくお願いします!…今度、打ち合わせに…はい、日時は…」

ウキウキとメモを取る律子。

これは、仕事の依頼に違いない。

その後しばらくして電話での会話は終了した。

小鳥「どうでしたか?」

律子「今度、歌番組に出てくれないかですって!…歌番組って言ってもドキュメンタリーの要素も含んでる番組なんですけど…そこにゲストとして出演してくれって!」

小鳥「あー、あのテレビ局だから…」

とその番組に関して盛り上がり始めた。

結果的には律子の、ミニライブをたくさんやるという作戦は燃費が悪いながらも早いうちに功を奏した。

P「おお、やるじゃん!」

律子「ありがとうございます。早くメンバーに伝えて残りのミニライブも成功させるわ!」

打ち合わせは三日後ということらしい。

かなりの過密スケジュールであるが、そんなことはまったく気にしてない様子だった。

俺は嬉しいはずなのに、律子の顔を見て少しだけ、もやっとした。

そこで一通の電話が入る。

今度は俺が取った。

P「お電話ありがとうございます。こちら765プロダクションでございます。私、Pが承ります」

伊織『お兄様?』

P「なんだ、伊織か…」

伊織『なんだとは、ずいぶんなご挨拶ね?』

P「ああ、悪い悪い。それでどうしたんだ?」

伊織『あずさが行方不明なのよ…』

P「あずさが?…とりあえず律子に代わるぞ」

律子に代わる。

律子「あずささんがどこか行ったって…。どうして?」

伊織『飲み物を買ってくるって出てったきり、帰ってこなくて…さっきからずっと探してるんだけど見つからなくって…』

律子「困ったわね…亜美はいるのよね?」

伊織『ええ、亜美は一緒よ』

律子「近くの飲み物が買える場所はあたってみた?」

伊織『それでも見つからないからこうして電話してるんじゃない…』

律子「…どうしよう」

伊織『あんたプロデューサーでしょ!何とかしてよ!』

律子「伊織、落ち着きなさい!…とにかくレッスン場に戻ってて。もしかしたら帰ってくるかもしれないわ」

伊織『……うん。わかった』

律子「電話はかけられないの?」

伊織『それが、お財布だけ持ってって、他の持ち物は全部こっちにあるのよ…』

律子「そう、わかったわ」

そう言って、伊織と二言三言、言葉を交わした後、律子は電話を切った。

P「なんて言ってた?」

律子「携帯も持ってないし、どこにいるかも全く見当つかないみたい…。いっそ警察に…」

P「30分くらい待って、戻ってこなかったら警察に捜索願を出そう。せっかく仕事が入ってきたのに、万が一があってはダメだからな…」

律子「私も探してきます…」

律子はそう言うとすぐに事務所を出てしまった。

P「おい、待て!…行っちゃったか」

小鳥「どうしましょう…?」

P「まあこれは彼女たちの問題ですからね。私は仕事に戻ります」

小鳥「そんな…」

そんなはずはない。

俺にも大いに関係してる問題だ。

あずさが行方不明なんてどう考えても彼女たちの問題なんてことはない。

P「じゃあ、俺は外回り行ってきますので…」

そんなこと言ってる人間が、名刺や財布等の入ってる鞄から携帯と車のキーだけを取り出して、出かけることはないはずだが、俺はあまり頭が回ってなかったらしい。

小鳥「素直じゃないんだから…」

事務所を出る際に、そんな呟きが聞こえた。

車を出して数分。

行く当ても無くさまよう。

実際、あずさがどこにいるかなんて分かりはしない。

とにかく探す。

しらみつぶしに探す。

さらに数分、彼女は案外いとも簡単に見つかった。

P「何やってんのさ」

あずさ「あ、プロデューサーさん…。どうしてここが?」

レッスン場からだいぶ離れた公園のベンチで座っていた。

まあ見つけられたのは奇跡としか言いようがないのだが…。

P「みんな心配してるぞ。帰ろう」

あずさは俯いて、いかにもしょんぼりしている。

あずさ「私、みんなの中で一番お姉さんなのに心配かけて…ダメダメですね」

えへっ、といったような感じで舌を少し見せて笑うあずさ。

なんというか、その態度に悲壮を感じた。

P「そうだな。これからは携帯くらいは持っていけ」

あずさ「飲み物を買いに行くだけだし、大丈夫かなーって思ったんです…」

P「そうか…」

あずさ「でもいつの間にか知らない場所に来てて、帰ろうと思っても帰れなくて…」

P「ああ、もう帰れる。…怖かったのか?」

あずさ「………ちょっとだけ」

P「道に迷ったらあんまり動かない方がいい。きっと誰かが見つけてくれる」

あずさは俺を見上げる。少し表情が柔らかくなった。

P「今日は偶然見つけられたが、はっきり言って奇跡だ。ここまで来るのに車で10分かかったよ…」

あずさ「それでも見つけてくださってありがとうございます」

けれども、また視線を落とす。顔は伏せてて、表情は窺えない。

P「…そうだ。今日、飲みに行かないか?」

あずさ「…え?」

パッと顔を上げるあずさ。突然の誘いに驚いているようであった。

P「いや、こういう時は飲んで忘れよう。携帯を持っていくのは忘れちゃダメだけど…」

あずさは浮かない顔だ。やはり自分の落ち度を責めているのだろう。

あずさ「でも、私は…」

P「俺と行くのは嫌だったか?」

あずさ「いえ、そんなことは…」

P「じゃあ行こうよ」

俺は、なし崩し的にあずさを飲みにつれていく約束をした。

俺自身、今日は飲みたい気分だった。

先日からのもやもやを吹き飛ばしたい、忘れたい。

あずさ「プロデューサーさん…」

P「何だ?」

あずさ「私、みんなに合わせる顔がありません…」

俺はあずさに視線を合わせて、彼女の肩をつかむ。

P「俺は心配したよ?」

ピンとこないような一言。

P「でも、あずさのこと見つけたら安心した。すごくホッとした」

あずさは黙って聞いているが瞳はうるうると潤沢を帯びている。

P「だからみんなのことも安心させなきゃね。一応電話も入れておくけど、本人の姿を見ないと本当に安心できないから…」

あずさは少しだけ手で目もとを拭って正面から俺を見据える。

あずさ「子供みたいなこと言ってごめんなさい。…帰りましょう」

P「そうしようか」

俺はあずさの手を引いて車まで向かう。

電話を入れてから、事務所に戻った。

律子「あずささん!心配しましたよ!」

あずさ「ごめんなさい律子さん…」

P「とにかく無事でよかったな」

律子「本当ですよ。ありがとうございますプロデューサー殿、助けていただいて…」

P「何言ってんの?助けてもないし、何もしてないけど?…あずさはうちのアイドルだから当然のことだろ」

小鳥「外回り行ってくるとか言ってたくせに…」

P「小鳥さん、うるさいです」

によによと小鳥さんが冷やかしを入れる。

伊織「もう、あずさ!これからは一人で出歩いちゃダメ!」

あずさ「ごめんなさい伊織ちゃん。亜美ちゃんも心配かけてごめんね…」

亜美「本当だよっ!」

あずさに抱き付く亜美。

亜美「本当に心配したんだからねっ!もう迷子にならないように離さないでやる!」

ぎゅーっと、てこでも離れなそうに抱きしめる亜美。

あずさ「あらあら~」

と言って笑うあずさ。

今後の対策として、あずさを一人にはしない、というルールが竜宮小町内で設けられた。

休日とかに一人で出かけた時はどうするんだろうと、野暮なことを考える俺だった。

その後、律子から仕事の話を聞かされる三人。

この二週間でミニライブもあと四つ控えている。

メンバーは意気込み、そのまま解散となった。

あずさ「プロデューサーさん、私そこで待ってますから…」

P「ああ、ごめんな。すぐに終わらせるから…」

俺が20分くらいで業務を終えたとき、あずさはソファーで眠ってしまっていた。

P「あずさ、起きて…風邪ひくよ」

今はもう四月の下旬だが、夜は冷える。

あずさ「うぅん…」

無防備なあずさはなんだか色っぽくて、ちょっぴり罪悪感が芽生えてしまった。

何にも悪いことはしてないんだけどね…。

P「あずさ、終わったよ。疲れてるなら日を改めるけど…」

あずさ「…終わったんですかぁ?…でしたら、行きましょ~?」

眠たそうな眼をこすってあずさは、うんと伸びをする。

P「小鳥さん、律子…。俺はお先に失礼します。お疲れ様です」

あずさ「お疲れ様です~」

律子「はい、お疲れ様です。プロデューサー、変なことはしないでくださいよ?」

律子は俺のことをじとっと睨んで釘を刺す。

P「しないっつーの…」

小鳥「お疲れ様です」

それでは…と、俺はあずさと一緒に事務所から出て、徒歩で駅方面に向かうのだった。

小鳥「はあ、私も飲みに行きたかった…」

律子「小鳥さんはプロデューサーに迷惑かけて謹慎中なんですよね?」

小鳥「そうなんですよね…。とほほ…」

余談だが、小鳥さんが律儀に禁酒してるのを俺は知らなかった。

さて、駅前まで着いたのだが、あずさといえばまだ寝ぼけているのか、あっちへふらふら、こっちへふらふら…。

P「こらこら、どっちに行くんだ?」

あずさ「プロデューサーさん。私、こっちが近道だと思うんです」

P「そんなわけないだろ。この道まっすぐ行けば着くんだから、最短ルートはこっちだ」

あずさ「えー?でも…」

P「でもじゃなくて…。行くよ!」

そっち行ったらどこへ行くのか。

明らかに駅の方とは別方向なのだが…なるほど、彼女がすぐ迷子になるわけだ。

それにその根拠のない自信は一体どこから出てくるのか…。

それでも渋るあずさの手を強引に引いていくと、それっきりおとなしくなる。

あずさ「プロデューサーさん」

P「どうした?」

あずさ「私たち、傍から見たらカップルに見えると思います?」

あずさの方を見る。

言ってみて恥ずかしくなったのか、視線は正面、ちょっと斜め下向きだ。

そんなこと言うのも珍しい、と思っていたが俺もやや緊張してくる。

P「ま、まあ見えないこともないんじゃないか?」

ひねくれ特有の二重否定で肯定してみる。

あずさ「こうすれば、もっとそれっぽく見えるでしょうか?」

そう言って腕に抱き付くあずさ。

ふんわりとしたいい香りに、女性特有の柔らかな体。

それらが、俺にあずさのことを女性として意識させる。

P「ちょっと、近いって…」

あずさ「今日は甘えたい気分になっちゃいました!」

ロングの髪から覗かせる表情は、大人びていながらも、あどけない笑顔。

俺は慌てて正面に視線を戻す。

P「はは…そ、そっか。まあ、そういう時もあるよな!うん、俺もある!…うん」

心拍数が高まる。

律子には変な気は起こさないと言ったが、酒を飲んでしまっては、これはわからん。

律子との約束を破ることに…。

いや、それは無い!あずさはアイドル!俺の部下!

俺のせいでみんなに迷惑かかるから!

こうやって、アイドルを女性として意識し始めたときによく考えるのが、職場での関係性だったり、ビジネスでのデメリットだったりする。

いつも通りの素早い思考で心を落ち着かせる。

P「ほらもう着くよ。あんまりくっつかれると他の男からの視線が痛い…」

あずさ「えへへ、残念です…」

あんまり残念じゃなさそうに離れるあずさ。

ここまで来れば、もう手を離したって、さすがに迷わない。

駅前からは少し離れたBARに入り、テーブルに案内してもらう。

お酒お飲むだけならカウンターの方がいいのだが、食事をしたいときは俺は決まってテーブルを選ぶ。

あずさ「ふわぁ…大人っぽい雰囲気ですね…」

P「こういうとこは初めて?」

ええ、と頷くあずさ。

P「じゃあ、最初は生でいい?」

あずさ「はい。お願いします…」

P「じゃあ生中二つ」

「かしこまりました。お食事はいつものコースでいいですか?」

P「あ、憶えててくれてたんですか?」

「はい。よくご来店されてるお客様ですので…」

P「あはは…。二週に一回くらいなんだけどね。なんだか気恥ずかしいな…」

「オープン当初から来てくださってるお客様ですし、私たちにもよく気を遣っていただいて、恐縮です」

P「やだな…そんな畏まらないでください。ここのお料理、本当に美味しくいただいています」

「ありがとうございます。…えっと、お飲み物は前菜とご一緒ですよね?」

P「そんなことも憶えてくれてるんですか…?」

感心したというか、すごく嬉しい。

常連さんって憧れだったんだよなぁ。

特に家族ぐるみじゃなくて、こうやって一人で来る場所の…。

「まあ、はい。…ところで彼女さんもお飲み物は前菜とご一緒でよろしいですか?」

彼女って…。これにはあずさも、ぽかんとした表情だ。

あずさ「じゃあ、私もそれでお願いします」

否定はせずに、スルーか…。

「彼女さんお綺麗ですね」

P「あはは…。彼女じゃないんですけどね」

あずさ「うふふ…」

俺が言うとあずさは、実はそうなんですよ、といった風に笑った。

「し、失礼しました…。ではお客様は彼女さんとかいらっしゃらないんですか?」

P「そうですね。生まれてこの方、そういうのには疎いもので…」

あずさはさっきとは違うぽかんとした表情になった。

「そうなんですか!」

店員さんはニッコリ笑顔で愛想がいい。

あずさ「あらあら~」

何かに気づいたようなあずさだったが、俺は特に気に留めない。

P「ちなみに彼女は駆け出しのアイドルで、今度テレビに出演するんですよ」

あずさを示すと、店員さんはやっぱり驚いたようだ。

「お名前、伺ってもよろしいですか?」

あずさ「三浦あずさです」

P「竜宮小町っていうグループのメンバーなんですけど、テレビの収録は初めてなんですよ」

店員さんは感心したように話を聞いてくれて、しばらくした後、キッチンに戻った。

あずさ「よくお話しされる方なんですか?」

P「まあここに来るときはいつもお店の方とは会話するけど、憶えてもらえてるとは思わなかったよ」

あずさ「感じのいい人でしたね」

P「そうだな。しかもアイドルに向いてそうな容姿でもあるし…」

そんな店員さんをちらっと目で追う。

すると、向かいのあずさは身を乗り出して両手で俺の顔はさむと、自分の方に向けた。

あずさ「今日は私と来たんですから、他の女性は見ちゃダメです」

P「……ああ、ごめん」

なんだか今日はペースを掴み損ねてる。

というより、完全にあずさのペースにハマったようだ。

しばらくして、前菜とビールが運ばれる。

あずさ「乾杯しましょ~」

グラスを合わせて、たった二人の晩餐会だ。

俺も飲みたい気分なのは確かで、早く嫌なことを忘れたかった。

グラスの酒をぐいっと一気に飲み干す。

あずさ「いきなりそんなに大丈夫ですか?」

P「意外となんとかなりますよ…」

そんな強がりを言ってみる。

別に俺は酒に強いわけではない。

しかし、すぐに追加の注文、食もよく進む。

食事が終わっても追加で頼む。

P「はあ…。なあ、あずさ…」

あずさ「何でしょう?」

ギョッとした様子のあずさ。多分、俺が気持ち悪いとか言い出すと思ってるのだろう。

P「自分の思ったような仕事ができない時ってどう思う?」

あずさ「?…それは、与えられた仕事が上手くこなせないということでしょうか?」

P「うーん、違うな、そうじゃなくて…自分がやりたい仕事とは別の仕事を入れられた時の話…」

あずさ「…そうですね。…一度もないです」

P「は?」

あずさ「この仕事やりたくないって思ったことは一度もないです」

俺はゆらゆらとグラスを揺らしている手を止めた。

あずさ「何か、悩み事でもあるんですか?」

P「まあ…。ていうか気づいてたろ?」

あずさ「ふふっ…。ええ、わかってました。プロデューサーさんが飲みに行こうって言った時は大抵、悩み事を抱えてますから…」

P「よく知ってんな…」

あずさ「だって結局、酔っ払って自分から話し始めるんですもの…」

今日は珍しいですけどね、と付け足し、笑うあずさ。

少し気恥ずかしかったが、そこまでわかっているのなら特に隠して問うこともなかった。

P「そうだな。先日、俺がオーディションの審査員は見る目がないと言ったんだ」

さっきとは一転、優しい眼差しで相槌をうって聞いてくれるあずさ。

ああ、だから俺は彼女をこの場に誘ったんだなと思った。

P「そうしたら、俺が人の悪口を言ったとみんな機嫌を悪くしてしまってな…。俺は励まそうと思ったんだが裏目に出てしまった…」

あずさ「…」

P「俺はこれからどうすればいいかわからない。彼女たちのためにどうやって尽くしていくべきなのか…」

俺はそう区切ってあずさを見る。

何かアドバイスをくれればと思っていたが、あずさは可愛いふくれっ面をしてた。

あずさ「もう!プロデューサーさんはやっぱり他の女の子のことばっかりです!」

ぷんすか!という擬音が似合いそうな態度でそんなことを言った。

P「え?悩みを聞いてくれるんじゃないのかよ…」

あずさ「それとこれとは話が別です…。でも、プロデューサーさんが私を頼ってくれてるのはちょっと嬉しいですから、相談に応えてあげます」

いたずらっぽく笑うあずさはいつもの雰囲気とは違う魅力があった。

あずさ「プロデューサーさんは考えすぎです」

P「考えすぎ?」

あずさ「はい。その子たちはどんな仕事でも楽しんでますし、オーディションに落ちても次こそはと意気込んでいたはずです」

P「うん。その通りだ」

あずさ「そこでプロデューサーさんが審査員さんのせいにしてしまったのがいけなかったんです」

P「…」

あずさ「彼女たちは自分たちの結果に納得してました。だから次に向けてさらに頑張ろうと思ってるんです」

P「確かに、そうなるな…」

あずさ「だから、プロデューサーさんが審査員さんを悪く言うのは、彼女たちが納得したことも否定することになってるんです…」

P「!…ああ、そういうことだったのか」

だからあれ以来めっきり士気が落ちてしまったのか…。

練習に身が入らないのは迷いが生じてしまったからだ。

まだ飛躍できる彼女たちに、俺は限界線を勝手に引いてしまったんだ。

あずさ「あの場にはきっと、もっと魅力のあるアイドルがいたと思います。その子たちから学ぶこともあったから、次はもっと頑張ろうってなれると思います」

P「うん。そうだよな。俺はあの時、彼女たちのことを思うなら次に向けて背中を押すべきだったんだな」

素直に謝ろう。

そう思った。

あずさ「解決しました?」

P「ああ、ありがとう。やっぱりあずさを誘って良かった…」

あずさ「お役に立てたならよかったです」

俺はグラスに入ってる酒を一気に飲み干す。

あずさ「あ、あの…」

P「先に謝っとくわ。ごめん、今から迷惑かける」

あずさ「あ、あらあら~」

あずさは苦笑いだったが、任せてくださいと健気なお姉さんっぷりを見せてくれた。

注文に注文を重ね、すぐに酔っ払ってしまう。

P「うぅぁ…」

あずさ「プロデューサーさん…プロデューサーさん…大丈夫ですか?」

明らかに大丈夫ではないのはP自身わかっていた。

P「無理…」

「あのぉ…お冷、お持ちしました」

先ほどオーダーを取った店員さんはとても気が利く。

あずさ「すみません。わざわざありがとうございます…」

P「うう、店員さぁん…介抱して…」

「わわっ…!」

Pは店員さんにしがみつく。

酔うと人に甘えたがりになってしまう彼の悪癖だ。

父親から見放されたこともあってか、愛情は彼の欲しているところでもあったのだろう。

あずさ「すみません。この人、酔うとこうやってすぐ甘えちゃうんです…」

「そ、そうなんですか…」

耳まで真っ赤に染める店員さんは、どうしていいかわからないので、とりあえずPの頭をよしよししていた。

業務を妨害しながらセクハラまでするという、はた迷惑な客である。

しかしPに対して満更でもない店員さんにセクハラという表現は正しくなさそうだ。

「ここまで酔ってるのは初めてです…信頼されてるんですね」

複雑な表情であずさに話しかける店員さん。

あずさ「そうなんでしょうか…?」

そんなあずさも複雑な表情だった。

そんなこんなであずさはPを店員さんから引っぺがし、水を飲ませるなりして世話を焼く。

付きっきりになってくれた店員さんは世話焼きなのだろう。

しばらくすると俺の酔いも冷め始めた。

P「うげぇ…気持ち悪…」

あずさ「プロデューサーさん、我慢してください…」

P「わかってるよ、はしたないもんな…。うぅ…帰ろっか…」

「まだお休みいただいても構いませんが…」

P「いや、そんなわけにもいきません…」

あずさ「そうですね。私が責任もって送り届けます!」

P「ああ、そういや迷惑かけるっつったけど、あずさに先導されたら間違いなく道に迷うよな…」

あずさ「失礼ですね、そんなこと言ったら送ってあげませんよ?」

P「というか、俺が先にあずさのうちに送った方がいいか?」

あずさ「どうしてそうなるんですか…」

P「道に迷ったら危ないだろ…」

あずさ「さすがに我が家には少ししか迷わずに帰れます!」

少し迷うこともあるのかよ…。

P「とりあえずお会計はこれで…」

クレジットカードを店員さんに渡して会計を済ませてもらう。

「お待たせしました」

P「今日はありがとうね。憶えててくれて嬉しかったよ。それと、迷惑かけて申し訳ありませんでした…」

「そんな、よくあることですのでお気になさらず…。私もお喋りに付き合っていただいてありがとうございます」

P「じゃあ、また。ごちそうさまでした」

「はい、またいらしてください」

あずさ「今日はご迷惑おかけしました…。お料理もお酒も美味しかったです」

店員さんはもう一度お礼を言ってお辞儀した。

「今日はたくさん喋れて良かったな」

「店長…!えっと、その…」

「別にそんなことで怒ったりしないよ。いつも頑張ってるじゃねーか」

「あ、ありがとうございます…」

「それにしても確かに彼はいい男だな。あんなに酔っ払ったのは初めて見たが…」

「はい。意外な一面が見れました…」

「……いつまでもニヤニヤしてないで、仕事を再開してくれよ?」

「なっ…!…ニヤニヤしてませんっ!」

「はっはっはっ…!してたぞアホ面。…ま、若いってのはいいな」

Pたちが店を出た後、こんなやり取りがあったのを彼らは知る由もない。

そんなこんなで、俺の家の前だ。

フラフラする身体を支えてもらいながらやっとここまで着いた。

店からは歩いて20分くらいだ。

P「やっと着いた…」

あずさ「ここまで来ればもう大丈夫ですよね?」

P「うん。…あずさはこれからどうする?」

あずさ「もちろん帰りますけど…」

P「よかったら泊まってけ…さすがに暗くて危ない…」

あずさ「え、え~!?」

P「やめて、頭に響く…。安心しろ、こんな状態じゃ襲おうにも襲えないよ…」

あずさ「そんな問題じゃないと思うんですけど…」

あれこれ問答してると、ドサッと鞄が落ちる音が聞こえた。

俺もあずさも鞄を持ってることを確認して、音のした方に視線を向ける。

少し暗がりで分かりづらかったが、呆然とした表情の女Pさんが立っていた。

P「あ、女Pさん…?」

女P「Pさん、そちらの綺麗な女性は…?」

あずさ「初めまして、私、彼の恋人の三浦あずさと申します」

女P「恋っ…!!そんな、Pさんに彼女さんがいたなんて…………ん?三浦あずさ?」

P「こら、嘘をつくんじゃない…。違いますよ。彼女はうちのアイドルです」

女P「あ、じゃあ、あの三浦あずささんですか!」

あずさ「あの?」

女P「私ファンです!CD持ってます!」

女Pさんは落とした鞄を拾って、俺たちに近づくが、寄ってきたところで少し顔をしかめた。

女P「Pさん、お酒の匂いがすごいです…。こんなに飲んでるの見たの初めてです…」

P「ああ、ごめんなさい。情けない話ですが、ちょっと気持ち悪くて、送ってもらったんです」

あずさ「それで今プロデューサーさんのうちに泊まっていかないかって言われて…」

女P「だ、ダメダメっ!ダメですっ!」

あずさ「え、どうしてですか?」

女P「それは…う~…え~と………そうっ!アイドルが男性宅にお泊りなんて危険です!」

そうっ!とか言っちゃって、今考えたのバレバレなんだけど…。

あずさ「でも、プロデューサーさんが夜遅いし、アイドルを一人で帰らせるわけにもいかないって言うんです」

女P「…確かに。………あっ、なら私のうちに泊まってください!」

P「いいんですか?」

女P「はい、一人ならスペースも余裕ありますし、暗い中こんな美人さんを帰すわけにはいきませんよね?」

P「それなら助かりますけど…あずさは?」

あずさ「それじゃあお言葉に甘えて…」

女P「はい!是非、あがってください」

あずさ「プロデューサーさんは大丈夫ですか?」

P「ああ、俺はもういいよ。また明日な…。女Pさん、うちのアイドルをよろしくお願いします…」

女P「任せてください。そういえばお食事は?」

あずさ「済ませています」

女P「でしたら、お風呂先に沸かしますか」

なんだかすでに楽しそうな雰囲気で、邪魔するのも悪い。

P「それでは、俺はもう戻ります。また明日」

女P「はい。また明日…」

そう言って手を振ってくれる女Pさんに俺も手を振り返して家に帰る。

このあと戻した。

やがて落ち着くと、コース料理がもったいないなぁ、と思いながら、口をゆすいで歯を磨く。

シャワーを浴びて、パジャマに着替えて水を飲む。

照明を落とすと、そのままベッドに倒れ、眠りについた。

…何事も無く朝だ。

俺は普通に朝の支度をしていつも通りスーツを着る。

昨日は適当にしまったもんだから、しわがちょっと気になる。

かなり早めに家を出たのだが、お隣さんの様子を見なければなと思った次第である。

インターホンを鳴らすが反応がない。

ドアを叩くがやはり反応がない。

ドアノブを回すと扉が開いた。

物騒だな、と思いつつ万が一を想定しながら部屋の奥へと歩を進めた。

P「お邪魔しまーす…」

そこにはだらしない格好の女Pさんとあずさが布団もかけずに倒れていた。

傍らにはチューハイの空き缶が転がっていた。

P「また飲んだのか…」

俺はもう当分飲みたくない。

とりあえず、あずさのだらしない格好を整える。

彼女を抱き上げ、ソファーに移動させる。

女Pさんもあずさと同じように、だらしない格好をしている。

俺は目のやり場に困ってしまい、あまり見ないように努めて、服装を整える。

彼女はベッドに寝かせた。

ごみをあらかた片付け、書置きを残して家を出る。

鍵は仕方ないので開けっ放しにして置いた。

P「俺は先に行きますよ…」

ぽつりとそんなことを言って出勤するのだった。

今日の分はおちまい!
やっぱ書き溜めても消費するときは早いですね…。
Pのフラグ乱立ですね!
イチャイチャは書いてて楽しいですwww

ご感想やご質問等あればぜひ。

それと春香、真、真美でユニットを組みたいのですが、
ユニット名を命名していただけると助かります。

今まで書いた分が18万字を超えて自分自身いつ終わるんだという感じです。
次スレ行くことになってもいいでしょうか…?

最終的には何人の女性がPの魔の手に…次スレいってもいいのよ?

春香と真美と真か……
この三人だと春の太陽みたいなイメージなんだよね
SpringSunとか?まんますぎるか

SpringTrueBeauty
春の真実(まこと)の美しさ
それぞれの名前をうまく合わせた感じの名前とかどうかな?

皆さんレスありがとうございます!
完結させようと思えるのは毎度のレスのおかげです…。

>>737
考えてくださってありがとうございます。
参考にします。
ユニット名についてのレスがなかったらナムコエンジェルにしようかと思ってました。

自分で考えたのはシャイニーとかファミリアとか、特に深い意味はないです…。
こちらはダサいのでボツにしようと思います。

太陽イメージからなら「サンサンシャイン」とかどうかな

「三人」と「燦々」と「サンシャイン」で掛けてみた

>>1
いいか良く聞けっ!
貴重な765内成人アイドル枠のあずさとのコミュは
慎重に扱うべきだったぞ!

マンネリ化を避けるのは良いとして
他の女性を枷にしてしまう展開は誰も得をしない!

救済があるのならそこらへんを考慮して
まだ他の女性とはしていない事をさせて、描いてやれ!いいな!!

皆さんレスありがとうございます。
じゃあユニット名>>741でいいですか?

今日あたりに投下できればと思っております。

>>743
つまりあずささんのエンディングも書けということですか?
わかりません。

数日後…。

俺はまだ以前の雰囲気を取り戻せないでいた。

春香と真、真美と会う機会がない。

この日の午前中、俺は外回りに営業へ出かけた。

帰ってくると何やら話し声が聞こえる。

件の彼女たちだ。

ここのところあまり練習にも身が入っていなかったと聞いている。

俺は謝ろうと思って彼女たちのもとへ近づこうと思ったのだが…。

春香「私たち、何のためにオーディション受けてるんだっけ…」

その言葉に足が止まった。

真「そりゃ、テレビに出たりして活動するためでしょ?」

春香「そうしたらどうなるの?」

真「そうしたら…有名になれるかな?」

春香「本当に?」

真美「ちょっと、はるるんどうしちゃったの?」

真「そうだよ春香、大丈夫?」

春香「ごめん…。でも私何のために頑張ってるんだろうって思っちゃって…」

真美「なんか不満なことでもあるの?」

春香「不満ってことはないけど…」

真「春香、聞かせてよ…」

その後しばらく沈黙したが、春香はぽつりぽつりと話し始めた。

春香「…私、アイドルになれたらもっとみんなを笑顔にさせられるものだと思ってた」

声から少し悲痛な響きが伝わる。

春香「でも私、一番身近な人を笑顔にできてない!…プロデューサーさん、私がオーディションに落選した時、いっつも辛そうな顔して、謝るんだよ!」

真美「はるるん…」

春香「私が笑顔で戻っても、ごめん、悪い、すまないって、そればっかり!…なんだか日に日に疲れたような顔になっていって、あれじゃ私、ただ迷惑になってるだけだよ…」

真「春香…ボクも同じだよ…。また次に挑戦しようって気持ちから、次は合格しなくちゃって…プレッシャーの方が強くなっちゃってさ…」

真美「はるるんもまこちんも一緒だったんだ…」

春香「真美も…?」

真美「うん。だってはるるんの言った通りだよ…。兄ちゃん、悲しそうな顔するの見たくないから…真美も次は上手くやらなきゃダメだって…。でもそう思うと余計にできなくて…」

もうわからない…、と真美は最後に呟いた。

再び静まり返る三人。

やがて春香が口を開く。

春香「私、アイドル向いてないのかも…」

俺はそう聞いてぎゅっと胸を締め付けられる。

そうしてようやく動かないといけないんだと思った。

春香「アイドル辞めようかな…」

P「ダメだっ!」

三人は驚いて、一斉に振り向く。

P「あ、いや、ご…」

謝ろうとしたが言葉を飲み込む。

開口一番で、謝ってしまうのはダメなんだと直感的に思った。

P「アイドル辞められると、一番悲しい…」

思ってることを素直に告げた。

P「あと、そのことで謝ろうと思ってた」

春香「これ以上、何に対して謝るんですか…」

P「お前たちの背中を押してやれなかったこと…」

ぐっと息をのむのがわかった。

P「俺は…お前たちが有名になって、たくさん出演のオファーを受けて、そうなったら幸せだと思った」

喉の奥で何かが引っ掛かる。

声を出すのが辛くなってきた。

P「でも、それは俺の勘違いだった。…お前たちが頑張ってるの知ってたのに、頑張りを否定するようなことを言ってすまなかった」

三人は俯きがちだが、話をちゃんと聞いてくれる。

P「あの時ちゃんと背中を押してやることができたら、今みたいに悩む必要なんてなかったんだ。プレッシャーをかけるような真似をしてごめん…」

春香「私もプロデューサーさんは、わざとそんなことをする人じゃないってわかってます…」

けれど、そう感じてしまったんだ。

P「アイドル辞められると、一番悲しい…」

思ってることを素直に告げた。

P「あと、そのことで謝ろうと思ってた」

春香「これ以上、何に対して謝るんですか…」

P「お前たちの背中を押してやれなかったこと…」

ぐっと息をのむのがわかった。

P「俺は…お前たちが有名になって、たくさん出演のオファーを受けて、そうなったら幸せだと思った」

喉の奥で何かが引っ掛かる。

声を出すのが辛くなってきた。

P「でも、それは俺の勘違いだった。…お前たちが頑張ってるの知ってたのに、頑張りを否定するようなことを言ってすまなかった」

三人は俯きがちだが、話をちゃんと聞いてくれる。

P「あの時ちゃんと背中を押してやることができたら、今みたいに悩む必要なんてなかったんだ。プレッシャーをかけるような真似をしてごめん…」

春香「私もプロデューサーさんは、わざとそんなことをする人じゃないってわかってます…」

けれど、そう感じてしまったんだ。

小鳥「ただいま戻りましたー」

昼休憩の合間に外に出ていた小鳥が戻ってくる。

小鳥「春香ちゃん、真美ちゃん、真ちゃん、お菓子買ってきましたよー」

三人が深刻な表情だったので席を外し、お菓子で少しでも嫌なことを忘れないかと考えたのだ。

小鳥「…あ」

小鳥が見たのは件の三人の少女とPが目もとを少し腫らして、ソファーで仲良く寝てる光景だった。

小鳥「ふふふっ…!よかったわね…」

…俺は目を開けたとき、寝てしまったのか…、とすぐわかった。

視線をさまよわせると、春香、真、真美が両脇で寝ている。

目の前のテーブルにはお菓子の袋。

その上に書置きがある。

『為せば成る。ファイト!』

と綺麗な字で書かれていた。

その後の俺は一切弱気にならず、失敗しても笑えるように心がけた。

三人も調子を取り戻すどころか、トークやパフォーマンスもかなり上達していた。

次のオーディションでは、それぞれ別の企画のものを受けたが、全員通過した。

その通知を受けて、四人ではしゃいだものだった。

P「そうだ!お祝いにどっか行こう!」

とテンションの上がった俺が言い出し、現在ショッピングモールに出かけている。

P「何か食べに行こうか」

お祝いといえば、食事以外になかなか思いつかない俺である。

真「そうですね。あと記念なら形に残るものがいいな」

真美「まこちん、それいいね!」

アクセサリーか何かを想像したのか、ノリノリの真美。

アクセサリーか…何がいいかな?と俺も密かに考えていたりする。

とりあえずパンケーキの美味しいお店に入っていった。

春香「私、ここ来てみたかったんですよ!」

P「じゃあ、好きなの選んでいいぞ。お祝いだから値段とかは気にすんなよ?」

真美「えー、いいの!?…じゃあじゃあ、どれにしよっかな!」

それぞれ注文を済ませる。

ちなみに俺はコーヒーだけ。

しばらくしてパンケーキが運ばれると、みんなの目はキラキラ輝く。

女の子は甘いもの好きなんだなぁ…としみじみ思うのだった。

俺はコーヒーを飲みつつ、みんなの幸せそうな顔を眺める。

春香「はい、プロデューサーさん!美味しいんで食べてみてください!」

春香が少し食べた後、俺にも一口大に切って差し出してくる。

P「お、ありがとう……あむっ……うん、美味しいね」

真「ボクもあげますよ。あーんってしてください!」

真美「真美のも!」

真も真美も続けてくれる。

これが幸せか…と適当なことを思うのだったが、周りからの視線が痛い。

ニヤニヤ見ている女性グループもいれば、怪しそうに見てくるカップルの客。

羨ましそうに、もとい嫉妬を露わにして見てくる男性スタッフ。

妙な視線を感じると、急にいろんなことを意識し始めてしまって、俺が口を付けたフォークを彼女たちが使ってるということさえ気になって仕方なくなってしまう。

逃げ出したい気分になったが、彼女たちの幸せそうな顔はそんな煩悩を消してくれるようでもあった。

春香「美味しかったです!ごちそうさまでした」

真「ありがとうございます、奢ってもらっちゃって…」

真美「ごちになりやす!」

真美のそれは何キャラか…。

P「まあ気にすることはないよ。それで形に残るものってどうする?」

真美「ここは定番のプリクラ!」

春香「それいいね!」

P「俺、プリクラとかいうのやったこと無いんだが…」

三人は信じられないものを見るような目で俺を見てきた。

真「本当ですか?」

春香「じゃあ今日が初プリクラってことですね!」

プリクラはどうやら決定らしい。

P「そのプリクラってどこにあるの?」

真美「ゲーセンとかにあるよー」

P「そのゲーセンとかいうのも行ったことない…」

三人は未確認生物を見るかのような目で俺を見てきた。

ちなみに未確認生物を見た人の目を俺は知らない。

春香「とにかく行きましょう!」

そうしてノリノリの三人に案内される

来る途中、ショッピングモール内には様々な服屋、雑貨屋があった。

服なんかどうだろうと提案したが、衣装があるからお揃いを買う必要がないらしい。

あれこれ話をしてるうちに目的のゲーセンとやらに着く。

あれこれと機会が置かれていて、騒音がすごい。

ゲーム機がたくさん置いてあって、ゲームセンターを略したものなのか…。

一つ知識が増えた。

プリクラとかいうのはこの箱型の機械で、写真を撮って、それを加工すると、シールになって出てくるらしい。

女の子はここへ来るなり、そりゃもうテンションは最高潮だ。

数回シャッターを切られる。

裏にある画面で落書きをするらしいのだが、ついていけなくて困った。

春香「プロデューサーさんも書きましょう!」

おいおい、それは無茶ってもんだぜ…。

と思ったが、閃いた。

写真を一枚選んで『目指せトップアイドル!』と書いた。

みんなに見られてる中で書くのは恥ずかしかったが、三人とも優しく笑ってくれたから、まあいいか。

ぽんと写真が出てくる。

P「なにこれ。俺、怖い…」

特に目が加工されていて自分が自分じゃないみたいだ。

呟くと、三人とも笑っていた。

その後、そのままゲームをして遊ぶ。

画面に向かって銃を撃つゲームをしたり、エアホッケーをしたり…。

ダンスのゲームにうちのアイドルの曲が入ってたのを見て嬉しくなった。

多分、社長か小鳥さんが許可を出したのだろう。

P「うーん!久しぶりにこんなに遊んだなぁ!」

真「それにしてもプロデューサーがゲーセン知らなかったのは驚きでした…」

春香「やっぱりいいとこの息子さんって感じですね…」

P「あはは…恥ずかしい話だな」

真美「…これからどこ行くの?」

最年少の真美は遊び足りないのか、元気が有り余ってるようだ。

P「じゃあ、さっき言ってた形に残る記念品でも買いに行こっか」

春香「じゃあそこの雑貨屋さんから見ていきましょう!」

真美だけでなく、春香や真も元気だった。

P「じゃあ、三人でじっくり話し合って決めるんだぞ。なんたって記念だからな」

はーい、と返事をして先に行く三人。

俺は彼女たちを見守るということもせず、先にレジで会計を済ませる。

店を出て待っていると彼女たちもやってくる。

真「お待たせしましたプロデューサー!」

春香「私たちからこれ、プレゼントです!」

小さめの箱、指輪でも入ってそうだったが、違った。

アイドルのA?…それに天使をかたどったような…。

CとGというアルファベットも浮かび上がってくる。

どういう意味があるかはわからないが…。

これはピンバッジか…?

春香「実はこれオーダーメイドなんです!」

真美「どう…?かわいいっしょ!」

P「オーダーメイドって、いつから?」

真美「一週間くらい前から?」

一週間前って、まだオーディション合格してない時だ。

真「まあ、オーディションに合格したのも、お祝いにここに来たのも偶然ですけどね」

P「そうだったのか、不思議な偶然だな」

春香「まるで運命みたいですよね!」

ぱしっと手を合わせて表情を輝かせる春香。

P「それじゃ、俺からもプレゼント」

こちらは細長いケースが三つ、それぞれに渡す。

真美「開けてもいい?」

P「いいよ」

真「…わぁ」

春香「ネックレス…」

春香、真、真美にそれぞれ違う装飾のネックレスを渡した。

違う装飾と言っても、ネックレスの先に付いているマークが違うだけで、あとは同じだ。

ちなみに春香は太陽、真は三日月、真美は星、と俺のイメージで選んでいる。

春香「ありがとうございます!」

三人とも気に入ってくれたみたいで良かった。

早速つけてほしいと頼まれて、またしても周りの視線を受けながら三人にそのネックレスをつけてあげた。

春香「…どうですか?」

P「似合ってるよ…。まあ俺が選んだし当然だ」

真「出た…プロデューサーの自信過剰」

P「過剰じゃねえって…。ちゃんとしたセンスはある方だと自負してる」

真美「ねえねえ、真美は?」

P「うん、よく似合っててちょっと大人っぽく見えるな」

真美「大人っ!えへへ…」

きっとこの日の彼女たちの笑顔は忘れないんだろうな。

日もじきに沈んできた頃、俺の運転する車内では三人の寝息が静かに聞こえていた。

P「遊び疲れたのか…」

彼女たちはぐっすりだ。

フロントミラーを見てみると仲良く寄り添って眠っている。

ここ一ヶ月ほどで、三人はずいぶん絆を深めたみたいだ。

P「ユニットの件も次の日に話してみるか…」

ちょうど楽曲も制作したところだし、新しい衣装も可愛くかつクールなものになっている。

俺はその衣装を身にまとい、ライブをしている姿を想像する。

たまらなくワクワクする。

その瞬間のために俺は今を生きてるに違いないとすら思える。

春香「…楽しそうですね」

P「うわっ…!起きてたのか…」

春香「はい、ついさっき起きました。そうしたらプロデューサーさんが楽しそうだったので…」

P「春香は今日楽しかった?」

春香「もちろんです。一生忘れないと思えるくらいには…」

春香は優しい表情で隣の真美と真を交互に見る。

P「そうか、俺もそう思ってた。だから楽しそうだったんだろうな…」

春香「はい、それはもうニヤニヤと恐ろしいくらいに…」

P「それ、ただの変質者じゃないか?」

春香は、冗談ですよ、と言って控えめに笑った。

P「もう真美の家に着くから起こしてくれないか?」

春香「えー、こんなに気持ちよさそうに寝てるのに可哀想ですよ…」

P「うーん、じゃあ着いたらでいいよ」

そうして5分くらいですぐに着いてしまう。

春香「真美んちって結構大きいんですね…」

親がお医者様だからね。

P「真美、着いたよ」

後部座席に振り返り真美に伝えるが、うぅん、とうめくだけでしっかりと覚醒しない。

P「しょうがない…」

俺はいったん運転席から降りると、双海家の呼び鈴を押す。

送ってきたという旨を伝え、真美を連れに戻る。

P「真美ー…お母様が迎えにいらっしゃってるよ」

真美「うーん、ママが…?」

P「うん。もうお家の前だから起きて…」

真美「うぅん…眠い……」

あらら…。

なかなか動こうとしない。

眠気が勝ってしまっている。

そう思ったが、真美は俺に両手を出してきた。

真美「にぃちゃん…」

どう見ても抱っこしてくれのジェスチャーだ。

いつもは真美から要求しないと思うんだけど、それほど眠いらしい。

P「わかった。…よっ」

ぐいっと力を入れて持ち上げる。

真美の方も自然に抱きついてきて、ちょうど俺の肩の位置に顔を乗せている。

「すみません。わざわざ…」

P「このくらい構いませんよ…。むしろもうちょっと迷惑かけてもらっても構いません」

「うふふ…。頼もしいわ」

亜美「兄ちゃんやっほー!」

P「よお、真美を届けに来た」

亜美「………兄ちゃんちょっと待って」

P「?どうした?」

すぐに亜美はスマホを持ってきて、カシャリと鳴らす。

真美「…うぅん、亜美?………!!」

亜美「いえーい!スキャンダル現場激写!」

いやいや、亜美よ。それはシャレにならんぞ…。

P「亜美ー…それは絶対他の人に見せんなよな…」

真美「兄ちゃん!今すぐ下ろして!」

P「え?どうした?」

急に慌てふためく姉の真美。

身内どうしでもスキャンダルってからかわれるのが嫌なのかな?

俺は真美をすぐに下ろす。

真美「…」

顔は真っ赤で俺の方をチラッと上目づかいで見るが、目を合わせるとすぐに視線を落としてしまった。

ついには振り向き、俺に背を見せる。

真美「今日はありがと…」

小さい声でそう聞こえた。

「まあまあ…」

真美のお母様は口に手をあて上品な笑顔を見せる。

亜美はお宝写真をゲットしたとばかりに喜んでた。

真美「亜美!あとで消してよね!」

亜美「やだよー」

「今日は娘を遊びに連れてってくださってありがとうございました」

P「いえ、私こそ娘さんを連れ出す許可をいただきありがとうございます」

「パパも信頼してるみたいなので任せてもいいかしらって…真美も楽しみにしていたので…」

P「そうでしたか、ご期待に添えるようにこれからも精進します」

「真面目で素敵な方ね…。今後もうちの娘たちをよろしくお願いします」

P「はい!…それでは失礼します」

真美「ばいばい兄ちゃん!」

P「おう、またな…」

運転席に戻る。

P「お待たせ、真はまだぐっすりか…」

春香「そうですね。次は真を送るんですよね?」

P「ああ、そっちの方が近いからな…」

それじゃあ行こうかと一言、車を出す。

走行中はうちのアイドルの曲を流している。

春香「このCDって作ったんですか?」

P「そうだよ。響と貴音の新曲もある」

春香「今度発売のソロのやつですよね!」

P「ああ、お前たちが最初に出したやつ。みんなは重版を出したが、律子のはないんだよね」

律子のCDは今となってはレアである。

高価というわけではないが…。

しばらくして春香の曲だ。

春香「あー、なんか自分で聞くと恥ずかしいですね…」

P「最初は確かにな…。テレビもそうだが、何度も聞いたり見たりしてれば慣れるぞ」

そんなこんなで、真のお家に到着する。

P「真、起きてるか?」

真「うーん………ふあ、おはようございます…プロデューサー…」

P「真んち着いたぞ」

真「送っていただいてありがとうございます…」

P「ちゃんと立てる?」

真「当たり前ですよ」

すくっと起き上がり、車から出る真。

真「じゃあまた明日ですね」

P「おう、そうだな」

お疲れ様ですと言って家に帰る真。

後は春香を送るだけである。

春香「プロデューサーさんは、私たちと遊びに行くの、あまり気が進まないかと思ってました」

P「そうだな。遊びに行くという名目じゃ確かに気は進まない。俺が遊びたくてもね」

春香「…お祝いだからですか?」

P「まあ、そういうことになるな」

春香「私、765プロのメンバーと出かけるの好きなんです」

P「いいことじゃないか…」

春香「その中にはプロデューサーさんも含まれています」

P「へえ、嬉しいね」

春香「だから、あまり気にせず遊びたいです…」

これは春香なりの気遣いなのか、それとも本心なのかわからなかった。

P「春香はアイドルなんだ」

春香「はい」

P「アイドルが特定の男と遊んでいたらファンのみんなは嫌なんだ」

春香「…ファンのみんなも理解してくれると思います」

P「マリア様は分かるか?」

春香「?…キリストの…?」

P「そう。キリストの母マリアは福音書において処女であったとされるんだ」

春香「それがどういう…?」

P「周りに男性の気配が無いってことだ」

春香「…」

P「アイドルってのは偶像って意味だ。聖母マリアのように崇められる存在さ」

春香「つまり、私も聖母マリアのような存在であると…?」

P「そういうことだ。アイドルであり続ける限りな…」

春香「だから、頻繁に遊ぶのはNGで、恋愛ももちろんNGってことですか?」

P「そう」

完全にこじつけだ。

しかし、こう理屈っぽく言っておかなければ、嫌な思いをした時では遅いのだ。

春香「でも私は…」

P「もちろん春香は一人の人間だし、生き方は自由だよ。けれどね、アイドルを続けるってことはそういうことなんだ。世間に顔が知られる上で多少縛られることもあるんだよ」

春香「…生きづらい世の中ですね」

P「ああ、生きづらい世の中だ」

しばらく沈黙するがすぐに春香の家まで着いた。

家の前では春香の母親が出迎えてくれた。

「いつも娘がお世話になってます…」

P「いえ、こちらこそ」

「どうですか、春香は?」

春香「お母さん、恥ずかしいよ!」

P「はい、とても真面目に頑張っていて私まで元気をいただける理想のアイドルの一人です」

春香は俺の方を見ると顔を赤らめ、春香のお母様に強くしがみついた。

「まあ…。それを聞いて安心しました。今後も春香のことをよろしくお願いします」

P「はい、任せてください!」

俺は失礼しますと断り、その場を後にした。

「真面目でかっこいい人ね、春香?」

春香「え?いや、ずっと見てるし、かっこいいかどうかはわかんないよ」

「まあ、ずっと見てるなんて春香メロメロ?」

春香「ち、違う違う!もう一年以上プロデューサーやってるから見慣れてるってだけ!」

「そう。…じゃあ彼のこと好きじゃないの?」

春香「す、すす好きぃ!?…確かに嫌いじゃないけど!嫌いじゃないけど…」

母親に取り乱される春香は、耳まで真っ赤に染まっていた。

春香「………よくわかんない」

「そう。…まあ頑張りなさいな、アイドル」

春香「………うん」

母親というのは何でもかんでも知っているものなのだ。

はい、おちまいです。

最近は納得いくような話が書けてないというか、
まあインスピレーションが足りてないんですが…。
とにかく楽しんで読んで下されば幸いです。

ご感想ご質問等あればどうぞ!

それと皆さんレスありがとうございます!

双海母も天海母もキャラが似てるような…気のせい?>>1に聞きたいけど、このSSでPはいずれ水瀬家に呼ばれて父親や上の兄と対面して伊織含め全員揃い久しぶりの家族揃っての食事会みたいな展開っていずれあったりする?
もしないなら完結後のオマケでいいから書いてほしいなーって

皆さんレスありがとうございます!
嬉しいです!

>>771
一つ目の方、母親は特にキャラ分けはせずといった感じです。
似ていたなら似ていたで私はいいんですけど、許せない方は頑張って別人だと思い込んでください。
二つ目の方はエンディングによって、そういう展開を作ろうかなと思ってます。
そういう要望があるようでしたら、本編に書かなかったとしてもサブで書こうと思います。

他にも完結したらですけど、
本編を補完する形や、エンディング後のアフターなんかも書けたらいいなと思ってます。

>エンディングによって、そういう展開を作ろうかなと思ってます。
ってことは伊織エンド(Pエンド?)になった場合に水瀬家で食事会みたいなことはあるのかな?

ついでにエンディングについてだけど、これは各アイドルエンドがあるの?
それとも女Pさん、麗華様伊織、ひかりの四人のみ存在?

>>773
そうですね。
とにかく、Pと水瀬家の場面は自分自身でもイメージできてるので
伊織エンドを書かなくても、別で書くつもりでいます。
事の発端は家族とのいざこざ(主に父親)なので…。
しばらくお待ちくださいませ。

新たな疑問の方は、特に支持されてる登場人物数名を予定してます。
ですので、皆様はお気軽にご要望を仰ってください。

それと、各エンディングを書き始めたあたりで随時報告します。
報告は、この人のエンディングを書いてます、書き終えました等の内容になると思います。

エンディングの話はまた後日します。
今はまだ分岐前の話がたくさんありますので、そちらを書き終えるのを優先します。
この説明で混乱させてしまったら申し訳ないです。

>>756
アイドルはIなんだよなあ…

ロゴのこと言ってるんだと思うけど
一応念のため言っておくと
羽の部分がMになってて
Advanced Media Creation Girlsの頭文字をとってる

>>777
申し訳ない。ローマ字で考えてしまいました…。
あとその頭文字の話も知りませんでした。
にわか乙ですね。引退します。

報告です。
続きの方全然書けてなくて、
待たせるのも悪いのでいったんこのスレ落としたいです。
それで全部書き溜めたときに
別スレでリテイクとして一気に投下させてください。
勝手で申し訳ない……。

>>785>>1です

何度も確認してるが依頼スレのどこにあるんだ?

>>791
つ Ctrl+F

577 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします saga sage 2015/03/15(日) 00:03:38.79 ID:nXKKAC2D0
男「能力のある世界」
男「能力のある世界」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425934021/)

P「伊織か?」伊織「お兄様!?」
P「伊織か?」伊織「お兄様!?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419535638/)

書き込む予定が無くなったのでお願いします。



見た時点では本人じゃないと思ってたから気にもしてなかったが
>>1の言動見るにつけこの依頼が本人だった可能性も出てきた
スレの流れからなりすましじゃないと判断されたら
リモホで確認とった上で処理される可能性がないわけじゃない

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