千早「ここがギャラリーフェイク……」 (22)

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千早「アクアリウム?」
千早「アクアリウム?」 - SSまとめ速報
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の後日談的作品ですが、読んでなくても大丈夫です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419497605

~ギャラリーフェイク展示場内~

千早「……」


サラ(ねえ、フジタ、あのお客さん、この数日、ずっとあの絵を見に来てるヨ)ヒソヒソ

藤田(シッ……)ヒソヒソ

サラ(しかも、アレって……)ヒソヒソ

藤田(話しかけてみるか……上客かもしれんしな)ヒソヒソ

藤田「お客様、その絵がずいぶんお気に入りのようですね?」

千早「あっ、すみません……迷惑でしたか?」

藤田「いえいえ」

千早「……」

藤田「どうなされました?」

千早「あの……このギャラリーに展示してある作品は全部フェイク……なんですよね?」

藤田「はい、当ギャラリーでは、フェイクだけを扱っております」

千早「それなら……この絵を売ってくださいませんか?」

藤田「申し訳ありませんが、このムンクの『月光』は非売品でして……」

千早「そうですか……」シュン

藤田「……余程お気に入りのようですね、差し支えなければ、事情をうかがってもよろしい
   ですか?」

千早「は、はい……」

http://i.imgur.com/5wLfC3v.jpg

千早「実は、私、アイドルをやっているんですが……」

サラ「アッ! どこかで見たと思ったら、如月千早ちゃんだヨ! あの歌姫の!」

千早「は、はい……実は最近、表現に行き詰っていて……」

藤田「ほう……貴女は昨年の大晦日以来、順調そのものだと思っていましたが……」

千早「そうなんですが……表現の幅が広がると共に、それまで見えなかった自分の欠点が見
   えるようになって……それで悩んでいた時に、このギャラリーのチケットを貰って、
   それで、この絵を見つけて雷に打たれたような感覚を味わったんです」

藤田「……」

サラ「……」

千早「この絵が側にあれば自分の表現の幅も広がると思ったんですが……」

藤田「あいにく、コレはフェイクの中でも特別な代物ですから……お売りする事は出来ませ
   んが、少々なら解説して差し上げましょうか?」

千早「は、はい、お願いします」

藤田「そもそもムンクは若い時から病弱で、常に死の不安と葛藤していました」

千早「死の……不安……」

藤田「この『月光』の左隅にも、喪服の女性が居るでしょう? これはムンクの死への恐怖
   の現れです」

千早「でも絵全体は青が綺麗で……落ち着いた印象を受けますね」

藤田「その通り、優れた芸術とは、己の葛藤から生まれるものですから」

千早「葛藤……」

藤田「若い表現者がムンクに惹かれるのも納得ですな。
   芸術は、己の葛藤との戦いの繰り返しですよ」

千早「なるほど……分かる気がします」

カランカラン

黒井「藤田玲司はいるか?」

千早「!……黒井社長……」

黒井「おや、誰かと思ったら如月千早か……フン、ここは曲がりなりにも人気のデートスポ
   ットだ、こんなところに居ると芸能記者の誤解を招くぞ?」

千早「……」

黒井「しかも、何を見ているかと思えば、ムンクか……いかにも若い者が好きそうな、青臭
   い絵だ」

千早「……」

藤田「諍いはやめてもらいたいですな、これでもギャラリーですので、他のお客様の迷惑
   になります」

黒井「フン……貴様が藤田か」

藤田「はい、当ギャラリーの館長の藤田玲司です、貴方は?」

黒井「961プロの社長をしている、黒井崇夫だ」

藤田「ほう、業界大手の……して、当ギャラリーに何か御入用で?」

黒井「無論、そこに飾ってあるルノワールの『ピアノに向かう二人の若い娘』に用がある」

藤田「ああ……アレですか……」

黒井「ここがフェイクを扱うギャラリーというのを隠れ蓑にして、裏で盗品や、表に出せな
   い品物を扱っているというのは知っている」

藤田「……」

黒井「あのルノワールは本物と見た……どうだ? 私に売らんか? 金に糸目は付けん」

サラ(ヤナ感じネー……)

藤田「あの絵でしたら……」

藤田「三十万でお売りすることができますが」

黒井「さ、さんじゅうまん~!?」

サラ「!」

千早「?」

黒井「バカな……これがフェイクだというのか……」

藤田「ああ、倉庫にある三億の絵を御所望で?」

黒井「そ、それだ! それを譲ってくれ! 金なら用意できる!」

藤田「では、契約成立ということで」

千早「何だかお邪魔みたいなので、私は帰りますね?」

藤田「ああ、如月さん、気が変わりました……『月光』のフェイク、お売りしましょう」

千早「! ほ、本当ですか? そ、それで、おいくらですか?」

藤田「三百万」

サラ「!!」

千早「三百万……大金ですね……」

藤田「と、言いたいところですが、割引しましょう」

千早「?」

藤田「貴女のクリスマスコンサートのS席二人分のチケット……それと交換でいかがで
   す?」

千早「は、はい! 事務所にお願いして手配してもらいます!」

藤田「その代わり……最高の歌を聞かせてくださいよ、そうじゃなかったら、『月光』、返し
   てもらいますぜ」

千早「!……は、はい! 最高のパフォーマンスをお見せします!」

藤田「では、契約成立、ということで」

~クリスマスコンサート会場、S席~

サラ「フジタ、いい加減、ギャラリーに本物混ぜて展示するの止めた方がいいヨ?」

藤田「フフ……ああして、『本物』を見分ける事が出来る客を見つけるのが俺の楽しみなん
   だ……いいじゃないか」

サラ「趣味悪いネー」

藤田「芸術は真に審美眼を持った者の物だ……『月光』も如月さんに買ってもらって光栄だ
   ろうよ」

サラ「アレ、億は下らないのにネー」

藤田「別の所で回収できたからいいじゃないか」

サラ「ああ、黒井シャチョーに売ったアレネ……アレ、フジタが作ったフェイクじゃん」

藤田「俺は一言もフェイクだとは言っとらん」

サラ「フジタ、いつか地獄に落ちるヨー?」

藤田「地獄ならとうに落ちてるさ……芸術という名の地獄にな」

サラ「キザったらしいネー」

藤田「フフ……お、如月さんが出てきたぞ、いい顔をしている……」

サラ「……そうネー……」

藤田「やはり、若い内は悩んでナンボだ、そこから咲く花は美しい……」

サラ「……フジタ」

藤田「ん?」

サラ「メリークリスマス♪」

                      (完)

というわけで、メリークリスマス

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