【艦これ】長月「なあ島風、月が綺麗だな」島風「えっ」 (59)


島風はずっと一人だった。
性能的にも艦隊運動に向いておらず、その上鎮守府の誰とも話そうとはせず、孤立していた。
司令部も彼女を持て余していた。

そこで彼女は厄介払いとして最前線であるショートランド泊地へと配属されることになったのだ。


※グロテスクな表現あり
※某映画の某セリフを言わせたいだけSSーなので結構丸パクリ。すまぬい
※あまり百合ではない

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初霜「へぇ、そうなの。大変ね」

島風「うん」

初霜「あの島がショートランド。水上機基地を改造したものだから、あまり期待はしないほうがいいわ」

島風「いい眺めだよね、南方って」

初霜「眺めだけはね」

島風「案内ありがとう」

初霜「どういたしまして。ああそうだ。本土から手土産は持ってきた?」

島風「うん、でも飴玉ぐらいしか持ってこれなかった」

初霜「大丈夫、気持ちの問題だから。それじゃあね」

初霜の言う通り、ショートランドは水上機基地に司令部機能をつけただけのものであった。
修理も応急手当ぐらいの簡素なものしか施せず、戦力回復もままならない状態であった。


島風「駆逐艦島風です。スピードなら誰にも負けません」

提督「ここの司令官の南高大佐だ。一人か?」

島風「そうですけど……」

提督「十人は寄越してくれと要請してあったんだがな、お前一人か」

島風「はいそうです提督」

提督「そうか。今本土の季節はどんなだ」

島風「もう冬で、雪が降り積もってると思いますけど……」

提督「……それは、何が入ってる?」

島風「え?はい、本土から手土産にと、飴玉です」ゴソゴソ

提督「一粒くれないか」

島風「はい、どうぞ」スッ

パクッ

提督「……甘い。甘味に飢えてるもので悪いな」

島風「おぅ……」

提督「それでは、君には祥鳳の護衛戦隊に入ってもらう。敷波」

敷波「ん?呼んだ?」

提督「寝るところまで案内してやれ」

敷波「わかったよ」



敷波「新しい子は久しぶりだなぁ」

島風「そうなんだ。あ、これ食べて」

敷波「飴玉?もう長く見てなかったなぁ」

島風「そんなに?間宮さんは?」

敷波「もう半年も来てない」

島風「そう、なんだ……」

敷波「……」

島風「食べないの?」


敷波「いや、取っておこうかと思って」

島風「そうなんだ。食糧事情はそんなに厳しいの?」

敷波「まだ大丈夫、量は多くないけど。でもこのままだといずれは……」

島風「……」

敷波「ここに来る時何と言われて来たの?」

島風「鉄底海峡は大勝により、安定しているって」

敷波「ふうん……」

島風「実際のところどうなの?」

敷波「ソロモン海戦で勝った気になったらしくて、戦力を引き抜かれ、
   元々設備も整ってなかったこともあって、厳しい状況だよ」

島風「そうなんだ……」

敷波「もうじきガ島も敵の手に渡る。そうなったらここはいつまで持つか……」

島風「……」


祥鳳「あら、新入りですか?」

島風「あ、駆逐艦島風です!祥鳳さんの下につくように言われました!」バッ

祥鳳「楽にしていいわ。私が祥鳳よ、これでもここの主力空母をやらせてもらってるわ」

島風「よろしくお願いします」

祥鳳「よろしくね」

敷波「それじゃああとよろしくお願いします」

祥鳳「わかったわ」

島風「あ、これどうぞ」スッ

祥鳳「これは?飴?」

島風「はい」

パクッ

祥鳳「……美味しいなぁ甘くて。ありがとうね」

島風「えへへ……」


祥鳳「寝床は向こうのジャングルの中にあるのよ」

島風「ジャングルの?」

祥鳳「ええ、空襲から隠れるためにね」

島風「空襲……」

長月「お、新入りだな」

朧「新しい仲間?」

島風「駆逐艦島風です!」

長月「ほう、最新鋭の奴がなぜこんなところに」

島風「えっと……それは……」

朧「事情があるみたいだね。いいよ、言わなくたって」

長月「どうせすぐくたばっちまうから関係ないな」

島風「むぅ」

祥鳳「長月」


長月「だってそうじゃないか、先週は響がくたばった。その前は叢雲だ、お次は誰が死ぬんだ?」

朧「そういうこと言ってはいけないよ、こんな時こそいがみ合わずに団結しなきゃ」

長月「それは……ふっ、悪かったよ島風。ちょっとからかってみたかっただけだ。私は長月だ、色々教えてやるからよろしく頼むぞ」

朧「アタシは朧」

島風「よろしく。これお土産、みんなの分あるけど足りるかな」

長月「おお、こいつはいいな」

朧「アタシ、配ってくる」


島風は自分の寝床に案内された。
ジャングルの中に建てられた小さな小屋いくつかあり、そこには他の駆逐艦たちが疲労困憊といった様子でうなだれていた。


長月「お前が配属されたのはショートランド第三駆逐隊だ。主に祥鳳の護衛をする」

朧「アタシと長月とで三人でね」

島風「前にも誰かいたんですか?」

長月「電がいたが、吹っ飛んじまった。……爆撃でな、跡形も残らなかった」

島風「ああ……ごめんなさいこんなこと聞いて」

朧「いいんだよ、気にしないで」

長月「第三駆逐隊は精鋭部隊だった、艦型に関係なく、優れた奴を揃えている」

島風「で、でも私は新兵……」

長月「お前なら適任だと司令官が判断したんだろう」

島風「……」

朧「そうだよ、島風ちゃんならって。だからよろしくね」

島風「うん……頑張る」

彼女の任務は主に祥鳳が攻撃中の際の護衛であった。
40ktの高速で重雷装である彼女は祥鳳に迫る敵を次々となぎ倒していった。
また航空攻撃の回避においても彼女の右に出るものはいなかった。
ついには、彼女はショートランドの精鋭として皆に認められる存在となったのだ。


だがそれだけで万事が上手くいくはずもなかった。

敷波「司令官、食糧がもうすぐ……」

提督「そうか……これでも切り詰めているんだがな」

敷波「次の補給はいつになるんだろう」

提督「わからない、一体いつになることやら」

敷波「腹が減っちゃ戦は出来ないよ」

提督「ああ、わかってる」

食糧は日に日に減っていった。
ジャングルには人が食べることができるものはほとんどなく、
開墾して農作物を育てる技術も、艦娘たちは持っていなかった。
潜水艦のウヨウヨいるこの敵地でただでさえ少ない弾薬を消費し漁をするわけにもいかず、
細々と釣りをしてなんとか食いつないでいた。
そんなある日、輸送船が到着した。


「なんだなんだ」

「何持ってきたの?」

龍田「ここがショートランド泊地ですよね?」

提督「ああそうだ、配給に来たのか?」

龍田「クリスマスの飾りですよ」ニコッ

提督「食糧の配給に来たんじゃないのか」

龍田「もうすぐクリスマスですから」

提督「……」

龍田「どうされました?」

提督「……何にもわかっちゃいないんだな」

龍田「え?」

提督「帰ったら上に伝えろ、我々の飯や水は糞みたいな味だと。クリスマスを祝って欲しけりゃ、武器を送れと言え。
   軍服に靴や水、食糧に、薬もだ。それと補充要員を送るのを忘れるな。深海棲艦に勝ちたいなら航空機がいる。
   それができなければ、こんなくだらんご機嫌取りなど諦めるんだな、どうだわかったか!?」

龍田「は……はあ……」

提督「積荷を下ろしたらすぐに出て行け!」

龍田「……」

しかし、それでも艦娘たちは提督に隠れて、こっそりささやかなクリスマスを楽しんだ。
提督はそれに気がついてはいたが、何も言わなかった。



それから数日後、新しい補充要員が入った。

五月雨「五月雨です。よろしくお願いします」

提督「そうか、私は南高大佐だ。お前は……敷波の下に付けよう、哨戒任務だ」

五月雨「提督、一生懸命頑張りますね!」

提督「その意気だ」

五月雨は少々ドジなところもあり、先が案じられていた。
そんな彼女を敷波は大変可愛がった。
しかし、意外にもすぐに戦果を上げる事となる。


ワイワイ

提督「どうした?何があった?」

敷波「あ!司令官、五月雨のヤツが初戦果だよ!潜水艦を沈めたんだ!」

五月雨「えへへ……///」

提督「潜水艦?どこでだ?」

敷波「泊地の正面海域だよ。すぐそこ」

提督「何?そりゃマズイな」

敷波「マズイ?」

提督「コロンバンガラとワジーナに部隊を潜伏させている、しかし泊地の目の前に潜水艦が現れた。何故だと思う」

敷波「それは……あッ!!」

提督「警備を強化しないとマズイ。敷波、長月を連れてこい」

敷波「う、うん!」

提督「それから五月雨」

五月雨「はい」

提督「水を差したようで悪かった。早期に気が付けたのもお前のおかげだ。良くやった。これからも頼むぞ」

五月雨「は、はいっ!」


長月「何だ?司令官」

提督「さっきの騒ぎは聞いたか」

長月「ああ」

提督「お前の駆逐隊で調査に行く、私も同行しよう」

長月「わかった、すぐ準備しよう」

提督「いや、出るのは夜だ」

長月「急いだ方がいいんじゃないのか?」

提督「いやダメだ、情報が途絶えた以上航空攻撃を警戒して夜に行くしかない」

長月「わかった」



長月「島風、朧、夜に調査に向かうことになった。準備を怠るなよ」

朧「わかった。斥候部隊が無事だといいけど……」

島風「うん……」

長月「無事でなきゃ困る。連中は選りすぐりの精鋭だ」



その夜。

提督「出発だ、乗り込め」

提督が戦闘の指揮を執る場合、艦隊は嚮導艦、いわゆる艦娘母艦で目標付近まで移動する。
司令部施設が揃っており、ある程度の輸送能力も兼ねている。また、艦娘たちの燃料の節約にもなる。
基本的に妖精により管理、操縦が行われているが、自ら操舵する提督もいるらしい。

島風「大丈夫かな……」

長月「大丈夫さ、きっとピンピンしてるはずだ」

朧「たまにはこういうこともあるんじゃない」

提督「もしも、を考えるんだ、たまの失敗が全滅に繋がるかもしれない」

朧「は、はい。すみません」

提督「さあ、皆を迎に行こう」



ザァァァァァァ

長月「なあ島風」

島風「何?」

長月「月が綺麗だな」

島風「えっ?いや、私はノーマルだから……」ヒキッ

長月「そういう意味で言ったんじゃない」

島風「じゃあどういう意味?」

長月「……ここは呪われた土地だ。焼け付くような陽の光、どこまでも続く海、鬱蒼と茂る密林で待ち構える毒虫たち」

島風「……」

長月「だが、月は美しい。こんな綺麗な月はどこにもない」

島風「月……」


長月「ここは厳しい自然が私たちを弄ぶ、だから自分を見失いそうになる」

島風「そうなの?私は全然だけど」

長月「ハハハ、お前は見失わないかもしれないな。だがわからないぞ」

島風「ならないよ!」フンス

長月「そうか、だけどな……」

島風「だけど?」

長月「だけどこれだけは断言できる。国へ帰ったら……まあ生きて、帰れたらの話だが。
   この、忌々しい土地が懐かしくなる。潜水艦の海やジメジメしたジャングル、ぬかるみで寝たことも、
   すべてを懐かしく思うはずだ。飢えや乾きで苦しんだことすら……」

その夜は満月であった。
空に浮かぶ真珠が海面で反射し、煌めいている。
海に映り込んだ月は波に合わせて移ろいで、進みゆく船を照らしていた。


コロンバンガラ島には最上と漣の二人が潜伏していた。

提督「おい、誰かいないか」

長月「ぐっ、硝煙の酷い臭いだ」

朧「最上さーん!漣ー!」

島風「おーい!」

グニッ

島風「ヒッ」

長月「どうした?」

島風「何か、踏んだ、柔らかいものを」

提督「照らせ」

朧「う、うん……!!!」


長月「がっ!?」

島風「お、おえぇ……」

提督「漣……最上……」

電灯で二人の死体が照らし出された。
死後どれくらい経ったかはわからないが、蠅が飛び回り、腐敗し始めていた。

島風「うぐぅ……おえ……」

長月「……」

朧「そ、そんな……」

提督「……せめて、二人に墓を作ってやろう」

長月「ああ……」

彼らは二人の亡骸を船に乗せ、ワジーナ島へと向かった。


ワジーナ島にも二人、伊19と磯波が潜んでいた。

提督「奇襲戦術に相当長けている、この分だと、望みは薄いかもしれない」

長月「そういうこと、言うな」

提督「悪い……」

「うぅ……だ……れ……」

朧「い、今声が!」

島風「向こうからだよ!」

「うう……助け……て……」

提督「助けに来たぞ」

長月「イクか!」


伊19「手足が……やられたの……」

島風「今助けるから!」

朧「磯波は!?」

伊19「わから……ない……」

長月「どこだ!?どこ……あ、ああ……」

島風「うッ!?」

提督「これは……磯波、なのか」

もはやそれが磯波かどうかはわからなかった、壁一面が真っ赤に染まり、そこに虫たちが集っていた。

提督「……とにかく、イクだけでも助かってよかった。船に戻ろう」

島風「うん……」


嚮導艦、艦橋

提督「どうも、イクは具合が良くない」

長月「そうだな、手足の傷がかなり腐ってる」

提督「せめて、修復剤か入渠ドックがあればいいのだが……」

朧「修復剤の補給は半年前から途切れてるよ、ドックの修理も工兵一人来やしない」

提督「それなら、切り落とすしかないだろう」

島風「できるの?」

提督「さあな、だがやるしかないだろう。少しだけ心得があってな」

長月「むう……」

通常、艦娘は怪我を入渠や修復剤で癒す。
これらには艦娘の自然回復能力を極限まで高める効果があり、成分や製造方法は妖精のみぞ知るといった状況である。
だが、緊急時には通常の手術や応急手当などが施されることもあり、入渠や修復剤までの繋ぎとして使われるのだ。
応急処置を怠り、入渠、修復剤が間に合わなければ、負傷が原因で死ぬことになる。


医務室

伊19「あ、提督」

提督「どうだ、具合は」

伊19「良いわけないの!」

提督「ほう、元気じゃないか」

伊19「で、どうするの」

提督「どうする、とは」

伊19「手足」

提督「……せめて、麻酔があれば」

伊19「な、無いって知ってるの」

提督「少しの間だけ、我慢してくれ」

長月「……」


朧「空のバケツ……洗って持ってきた」

島風「それから包帯とアルコールも」

提督「すぐ使えるように準備をしておけ」

伊19「て、てて提督、ギュッてして……」ガクガク

提督「ああ」

ギュッ

提督「場所は先程の指示通りだ。頼んだぞ長月。島風は右足を抑えろ。朧は落ちた手足を頼む」

島風「はい」

朧「うん……」

長月「まず足から行くぞ、力を抜け」

ギリ…


伊19「ああああああああああああああ!!!!」ジタバタ

ギリギリ

伊19「あああああああああああああああいやああああああああああああああああ!!!」

提督「大丈夫だ、大丈夫だから……」

伊19「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

長月「すぐ済むからジッとしてろ!」

伊19「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

ブチン

長月「よし切れた!」

朧「う……」

島風「……」グスグス

伊19「ああ……ああ……」

提督「次は左腕だ、もう少しだけ我慢するんだ」

伊19「うんうんうん……」ポロポロ

長月「行くぞ」


伊19「あっ、あっ、あっ、あっ……」

ギリッ

伊19「あぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

ギリギリ

長月「動くな!ジッとしてろ!」

伊19「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

長月「あとちょっとだ!よし!」

ブチン

伊19「ああ……」

提督「よく頑張ったな、偉いぞ……」

長月「終わった」

伊19「イクの指輪!返して!指輪を返して!頼むから指輪を返してよぉぉ!!」

朧「ほら、指輪」

島風「包帯も巻いたよ」

伊19「あ、ありがとうみんな……ほんとにありがとう……」

嚮導艦は月明かりが照らす海を再び走り始めた。その間、誰も何一つ会話を交わさなかった。


翌朝、疲労を癒す間もなく、泊地にて新たな指令が届いた。

提督「ガ島の撤退を援護せよだと?」

敷波「うん、ついに来たってか?」

提督「そうだな……敷波、お前に指揮を任せる。私はまだイクの面倒を見なければならない」

敷波「うん……早く修復剤が届けばいいね……」

提督「指令ばかり飛ばして、報酬も何もくれないというのもおかしな話だ」

敷波「どこかで止まってるとか、報酬が」

提督「まさかだろ。まあいい、五月雨とあと祥鳳たちを連れていけ」

敷波「了解しました」


ガ島沖

祥鳳「偵察機の報告によると、周りに敵艦隊は見えないわ」

長月「今がチャンスだ」

敷波「よし、祥鳳さんと五月雨は嚮導艦に待機、警戒を続けて。残りはあたしと大発を連れて陸軍兵の救助に向かうよ!」

島風「うん!」

朧「行くよ!」

祥鳳「お願いしますよみなさん」

作業は順調に進んだ。
嚮導艦は疲れ果てた兵士たちですぐに満杯になった。


陸軍将校「……」ボー

敷波「あの……ショートランド泊地所属の敷波艦娘中尉ですが……」

将校「ああ……ありがとう、助かったよ……」

敷波「お体の具合が、良くないみたいですね」

将校「地獄だった……補給もロクにないし、連中は不気味だし……」

敷波「それは、気の毒に……」

長月「おい、敷波。そろそろ引き上げないと敵が来る」

島風「潜水艦にやられたらまずいよ!」

祥鳳「戦闘機部隊が交戦中ですが、いつまで持つかはわかりません」

五月雨「それに船も満杯です!」

将校「そんな、まだ大勢いるのに」

敷波「また、明日来なければなりません」

将校「そうか……頼んだよ……」


陸軍将兵たちは完全に気力を失っていた。
軍服はどす黒く汚れていて、腰を下ろした場所から汚水がしみ出ている。
顔は土色で血の気は全く無い。言葉も出ないらしく、話はしない。
一旦腰を下ろしたら動けなくなっていた。

泊地に戻った時、陸軍の輸送艦が停泊していた。

陸軍将軍「本当にありがとう、南高大佐」

提督「いえ、礼は彼女たちに言ってください。私は指示を出しただけです」

将軍「ありがとう……」

敷波「礼を言うのはまだ早いです、まだ島には大勢残っています。明日にも作戦を行うつもりです」

将軍「感謝してもしきれないよ。大佐、礼は弾む、ここに補給物資を送るよう手配しよう。それから工兵も」

提督「ありがとうございます」




翌日の真夜中、祥鳳が航空隊の補充のため泊地に残り、代わりに駆逐隊を増員、再び救助作戦が遂行された。

春雨「さあ!急いで!」

睦月「気を抜かないでね!」

五月雨「国に帰れますよ!」

陸軍兵たちも言葉も表情も冷たいものだったが、必死に生き抜こうとしていた。
嚮導艦に乗り上げた途端に安心して息絶える者もいた。
二日目も、順調に行くかと思われた。しかし……。


島風『敵艦発見、夜戦に備え』

敷波『了解』

島風『駆逐艦一隻を確認』

長月『嚮導艦に近づけさせるな』

敷波『全艦、戦闘態勢』

長月『他にはいないか?』

島風『わからない、でも確実に一隻はいる』

朧『アタシが探照灯を照射する』

敷波『了解、各艦砲撃準備』

無線通信が交差し、嚮導艦にも緊張が走る。
うなだれていた陸軍兵たちも、頭を上げ様子を伺っていた。
敵はまだ撃ってこない、おそらく敵もこちらの数がわかっていないのだ。


敷波『探照灯、照射用意』

朧『了解』

敷波『照射』

パッ

朧の探照灯が映し出したのは重雷装巡洋艦チ級二隻、駆逐艦イ級四隻の水雷戦隊であった!

敷波『撃て!』

ドン!ドン!

まずは先制攻撃。長月の砲撃がイ級に命中した。

長月『敵駆逐艦大破!』

敵は一歩遅れて、砲撃を開始した。もちろん見えているのは朧であり、集中砲火を受けた。

朧「そんな攻撃、当たらない!」

朧は砲撃を軽々と回避し、敵艦隊を照らし続けた。


敷波『島風、接近して魚雷を叩き込んでやれ!』

島風『おぅっ!』

島風はその速度を活かし、敵艦隊に急接近した!

島風「5連装酸素魚雷!いっちゃってー!!」

シュッ!

島風は魚雷を広範囲にばら蒔いた。
朧を集中狙いしている彼らは魚雷に気がつかない。
次の瞬間、チ級の一隻が轟音を立てて爆発炎上した!

チ級「うごごごぎぎぎぎいいい!!」

島風「他のは避けられたみたいだねっ」

燃えるチ級が灯りとなったのか、イ級たちが島風に気がついた。

イ級「ぐおおおお!!」

島風「連装砲ちゃん、一緒に行くよ!」

敷波『よし!長月、島風に続け!あたしは朧の援護に向かう!』

長月『了解!』


朧は敵の砲火の殆どを回避し、一発だけ至近弾をもらっただけであった。
反撃を開始する。

朧「沈みなさい!」

闇夜に走る閃光はまっすぐ未だ健在なチ級を指し、直撃した。
しかし、装甲に阻まれ有効打を与えることは出来なかった。

朧「ちっ!」

チ級「ヴぉおおおお!!」

チ級も朧に対し、砲撃を敢行。撃ち合いとなった。

朧「くっ…しつこい!」

チ級「……ぐっ!」

両者ともに回避を続けていた。しかし!

ドォン

チ級「!?」

チ級に砲弾が命中した!


敷波「あたしを忘れてもらっちゃ困るよ。ふんっ」

まさしく十字砲火であった。

敷波「撃て!」

朧「うん!」

ドン!ドン!

チ級は対処しきれずに、爆炎を上げて、海に沈んでいった。

敷波『敵巡洋艦撃沈!』

朧『二人の援護に向かう!』

敷波『行くよ!』

しかしそれには及ばなかった。
島風と長月はすっかり敵を殲滅してしまっていたからだ。

島風「おっそーい!」

長月「もう終わったぞ」

敷波「あらら、そう」

朧「やるねぇ」

敷波『全艦、戦闘態勢解除。作業を続けて』

次の瞬間、嚮導艦からワッと歓声が上がった。


その後も、第三回、第四回と作戦は順調に進められ、作戦開始から一週間が過ぎようとしていた。
艦娘たちは恐ろしく疲労していた。
入浴する間も無く、気を失いそうなほどの臭いが体中に染み付いていた。
服も陸軍将兵たちの汚物と血に濡れて真っ黒になっていた。
それでも、ガ島で悪戦苦闘した陸軍将兵たちの苦労を思い、誰も文句を口にしなかった。

だが、恐れていた事態が起きた。


敷波「よし、出撃だよ」

島風「おぅっ!」

作業は夜中に行われたが、その日は特別時間が掛かり、朝になろうとしていた。
一応、祥鳳が来ていたため、航空機を発艦させ、周囲の偵察を行った。

祥鳳『!敵の航空隊だわ!』

祥鳳の偵察機が敵を発見した。
深海棲艦の爆撃隊がこちらに向かっているようだ。

敷波「作業やめ!嚮導艦だけでも避難させよう!」

祥鳳「戦闘機隊、発艦してください!」

敷波「五月雨、嚮導艦は頼んだよ、私たちはここで囮になる!」

五月雨「お気をつけて!」


嚮導艦はなんとか海域を離れた。
しばらくすると、戦闘機隊との戦闘により多少数は減っているものの、大規模な爆撃集団が襲ってきた。

敷波『対空戦闘準備!』

長月『来るぞ!』

敵機は急降下を始めた。それと同時に、艦隊から対空砲火が発射された。
さながら空に向かって降る光の雨のようで、朝焼けを煌びやかに飾り付ける。
しかし、艦隊型駆逐艦である彼女たちの対空砲火などたがが知れており、嫌がらせ程度にしか効果はなかった。

朧『いつまで耐えれるか問題だっ』

長月『くそっ!』

祥鳳『航空隊頑張って!』

祥鳳の戦闘機隊も懸命に戦っていた。しかし護衛戦闘機に阻まれ、なかなか撃墜できずにいた。
その時、一機の爆撃機が防衛網を抜け祥鳳へと急降下を始めた!

島風『祥鳳さんっ!危ない!』

祥鳳『えっ!?』


ヒュゥゥゥゥゥ

ドォーーーーン!!

祥鳳「あぁぁっ!」

爆弾は命中した。祥鳳は忽ち炎に包まれた。

敷波『祥鳳さんっ!』

長月『しっかりしろ!』

祥鳳『駄目…かな………皆…ごめんね………』

島風『気を強く持ってください!』

祥鳳『……』

祥鳳はそれ以上何も言わずゆっくりと海中に没した。
それと同時に祥鳳の戦闘機たちもボロボロと崩れ、鉄屑になってしまった。
敵の爆撃機は満足したのか、爆弾が尽きたのか、引き返していった。

敷波「祥鳳さん……」

長月「あっけなさ……過ぎる……」

朧「……」

島風「うぅ……」グスッ

皆の帰る足取りは、重かった。


提督「祥鳳が沈んだのか」

敷波「申し訳、ありません……」

提督「いや、お前の責任ではない。私が何もしなかったせいだ。少しでも休息を与えるべきだった」

敷波「……」

将軍「大変、申し訳ない。我々のために……彼女は……」

提督「いえ、幸い……こういう言い方はどうかとは思いますが幸い嚮導艦は無事に到着しました。死者もいない」

将軍「……」

敷波「……」

提督「彼女は多くの人を守るために、命を……まさしく命を懸けて人を救ったんだ」

敷波「それは……」

提督「残された私たちには、そう思って気を紛らわすしかないんだ……惨めなことに……」


だが嬉しい出来事もあった。伊19が戦線に復帰したのだ。
修復剤がごく少数だが、まるゆ隊によって届けられた。

伊19「もうピンピンなの!指輪だってまたつけられるよ!ほら!」

長月「よかったなぁ。本当に」

伊19「長月のおかげでもあるの」

長月「私が切ったもんな」

伊19「痛かったの!」

長月「しょうがないだろ、麻酔が無いんだから」

ハハハハハ

その後もガ島からの救助作戦は進み、ついに全員の救助が完了した。
この功績を陸軍から高く評価されたが、海軍司令部はそれが面白くなかったようで、
海軍からの補給や戦力補充は相変わらず来なかった。
また、斥候部隊の不在により状況はさらに厳しいものとなった。


ブゥゥゥゥン

「退避ーーー!!」

連日のように空爆が泊地を襲う。
ガ島の撤退により、飛行場を奪われ、前線はショートランドまで押し上げられてしまった。
しかしそれでも、支援艦隊が来るわけでもなく、徐々に虚しく消耗していくだけだった。

提督「泊地を放棄しろだと?」

連絡将校「ええそうです。米海軍も一時的にソロモン諸島から手を引くそうで」

提督「じゃあ我々は一体何のために戦ってきたんだ」

連絡将校「決して無駄ではありませんでした。少なくとも陸軍将兵たちはそう思っているはずです」

提督「ハァ……だがつまりは退却って事だろ。国に帰れるかもしれんな」

連絡将校「ええ、そうです。ゆっくり休んでください」

提督「護衛艦隊は来るのか」

連絡将校「それが……お伝えしにくいのですが……」

提督「そうか……となると燃料も無しか」

連絡将校「私が乗ってきた船の燃料をギリギリまで分けてあげます、それから弾薬も」

提督「心遣いは嬉しいが、お前は部下の安全を第一にしろ」

連絡将校「……すみません」


泊地の燃料弾薬の備蓄は微々たるものである。
倉庫が空襲で破壊され、さらに補給が来ないため出撃しなくても減る一方であった。
提督はついに決断する。

提督「撤収だ。この泊地を放棄する」

敷波「はい?」

提督「聞こえなかったか、この泊地を放棄すると言ったんだ」

敷波「ま、まだ戦える」

提督「そんなわけはない」

敷波「最上さんたちのお墓だってあるんだよ?」

提督「心苦しいが、置いていこう」

敷波「……」

提督「これが最後のチャンスだ。これ以上引き伸ばすと今度は燃料が足りなくなる」

敷波「わかった」


意外にも艦娘たちにはこれは不評だった。
私たちは何のために戦ってきたのかと思ったのだろう。
それにこの慣れ親しんだ第二の故郷を、捨てたくはなかった。

長月「むう……」

島風「でも、国に帰れるんだよ!」

朧「ここももうおさらばってことか。寂しくなるね」

長月「そうだな」

だが艦娘たちは自らの体の限界が近いという事を思い出し、これに従った。
その日の夜、荷物と艦娘たちを満載して嚮導艦が出発した。

それを深海棲艦が黙って見ているはずがないという事を、艦娘たちは失念していた。


船は進み、朝日が昇る。

ザァァァァァ

五月雨「はぁ~、もう朝かぁ。ん?」

ブゥゥゥゥン

五月雨「なっ!?て、敵機襲来!」

「なに!?」

「伏せて!」

「敵が来たー!」

提督「騒ぐな!大丈夫だ!みんな落ち着け!一旦船を離れろ!」

「降りろー!」

パララララ

「きゃあああ!!」

提督「早く逃げろ!ほら急いで降りろ!」

ヒュゥゥゥゥゥゥ

ドォーーーン!

艦娘たちが全員退避した後、嚮導艦に爆弾が命中、まもなく沈没した。
提督、南高大佐は戦死した。
爆撃機はその様子を確認することもなく飛び去っていった。


敷波「司令官……?」

長月「ああ……」

島風「……」

ザワザワ

「司令官が死んだ……」

「嚮導艦も……」

「私たちこれからどうすれば……」

五月雨「敷波さん!指示を!」

敷波「えっ?あ、ああ、とにかく、進んでいた方向へ」

伊19「イクは提督を探すの」

長月「何を!見ただろ!司令官は死んだ!」

伊19「イクは提督を見つけるのぉ」

朧「……」

敷波「う、うん、どうか気をつけて……」

伊19「イク、行くのぉ!」

ザブン


艦隊はそのまま真っ直ぐ進んでいく。
海上に長蛇の列を成し、観艦式を思わせる様であるが、暗い観艦式だった。
そこへ海軍の嚮導艦が通りかかった。

ザザァァァァァ

「あぁー!ねえ!乗せて!」

「止まってくれよぉ!」

長月「止まれー!乗せてくれー!」

「ふざけんな!陸軍の手先なんざ乗せれるか!お前ら全員そこでくたばっちまえー!!」

長月「クソ!舐めやがって!」

彼女らの評価は、海軍的には地に落ちていた。
陸軍と手を組みあまつさえ泊地を放棄して逃げ帰ってきた臆病者。
それがショートランド泊地だった。
気分が落ち込んでも、止まるわけにはいかず、艦隊は進み続けた。
再び嚮導艦が通りかかる。


ザザァァァァァ

「嚮導艦だ!」

「おーい!止まってー!」

「乗せてよー!」

長月「止まれー!おい止まれ!味方だろ!乗せろ!」

「危ない離れて!」

長月「頼むから乗せてくれ!」

「悪いけどもう満杯よ!これ以上はとても乗せられない!」

長月「ふざけんな!まだ余裕があるだろ!」

「この船は満杯よ!悪いけどもう諦めて!」

長月「まだ乗れるはずだ!止まれ!ゴタゴタ言わずに乗せろ!」チャキ

「危ないやめなさい!」

長月「お前同胞を見捨てる気か!同じ日本人のクセにどういうつもりだ!このクソッタレがぁ!同胞なのに!」


亡者たちの行進は続く。
たったの一言も言葉も交わさず、ただ前を虚ろな目で見つめ、艤装を動かす。
そして、どこかもわからない島に辿り着いた。
そこで一夜を明かすことになる。

島風「……私たちは、国に帰れるかな。どう思う」

朧「帰れるさ、きっと帰れる」

パッ

長月「なっ!探照灯!?」

「お前たちー!帝国海軍だな!」

「なんだなんだ!?」

「帝国海軍に次ぐ!海軍司令部はお前たちを見捨てた!これ以上戦う必要はない!艤装を外し全員投降せよ!」

島風「か、隠れよう」

朧「うん」

長月「くそっ、深海棲艦め」


「大人しく我々に従うんだ!無駄な抵抗はやめろ!」

「そうだ、降参しよう……」

「もうやめやめ!」


長月「…完全に士気が崩壊しているな」

朧「うん……」

島風「あ、あれ敷波ちゃん、まさか!」


敷波「……」スチャ

ズドン

バタッ

「発砲した者は誰だ!?」

五月雨「わ、私も」ズドン

バタッ

「やめろ!何も死ぬことはない!」

「そ、そうだ、私たちも自決しよう!」

ドン!ドドドドーン!!

「な……なんということだ……」

深海棲艦の部隊は、肩を落として帰っていった。
三人は自決した艦娘たちの亡骸に埋め尽くされた海岸を、ただ呆然と眺める事しかできなかった。


翌朝、再び宛なき海を彷徨い進み出した。
燃料はとうに尽きていた。艦娘の艤装は燃料が無くても浮くようにはなっている。
そのため、沈むことも出来ず、先の見えない海上を歩き続けた。

島風「……」

長月「……」

朧「……」フラッ

島風「あ、朧ちゃんが」

長月「大丈夫か。しっかりしろ、ほら捕まって」ガシッ

島風「あ!あれは、ドラム缶?」

長月「何か入ってるかもしれない」

チャプン

島風「入ってる……燃料だ!ちょっとだけだけど!」

長月「こっちのは水と食料だ。ほら、朧、飲め」

朧「ん……」

島風「長月ちゃんちょっと手伝って!」


長月「わかった、ほら、入れてやる」

トプトプ

島風「よし、機関始動!」

ゴォォォォ

長月「これなら助かるかも!」

朧「……アタシには無理だ。もう動けない。仲間が見つかったら迎えに来て。ここで待ってるよ」

島風「何言ってるの?早く行くよ!」

長月「さあ朧!」

朧「早く島風に掴まりなよ」

島風「早く掴まって!どうしたの!」

朧「行きなよ二人とも」

島風「朧ちゃん!」


長月「……私も残る。朧を一人置いていくことは出来ん」

島風「そんな、みんなで行かなくちゃ。朧ちゃん!」

長月「二人を曳航するのは無理だろう。残り少ない燃料、燃費が悪くなるのは致命的だ。一人で行け」

島風「無理かどうかはやってみなきゃわからない!」

長月「それに一人の方が動きやすいだろう。敵の攻撃もある」

島風「二人を置いて行くなんて絶対に」

長月「島風!……行くんだ」

島風「……わかった。待っててね、必ず後で迎えに行くから」

長月「ああわかってる」

島風「朧ちゃんそれまで頑張ってて!必ず!必ず迎えに来るから!」

ズザァァァァァ

長月「……さようなら、島風」



島風は近くの泊地に辿りつき、無事救出された。

しかし、彼女たちが再び顔を合わせることは無かった。

いつしか戦いも終わり海はまた元の平穏な様相を見せる。

それでも島風の心に、夕凪が訪れる日は決して来なかった。

以上です。
詰め込みたいものを詰め込みまくったせいで展開が早いと感じたかもしれませんが
最後までお付き合いいただきありがとうございます
依頼はどういうタイミングで出せばいいのかしら、もう出していいの?

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月06日 (火) 02:45:51   ID: Z_F2UrYF

朝から焼き肉を食べたような気分だ

2 :  SS好きの774さん   2015年05月11日 (月) 01:35:33   ID: BBuzwFxJ

リアリティーをよく構築できたssだなぁ。個人的には細かい描写がもっと欲しいな、と思ったよ。

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