・書き溜めなし
・遅筆
・若干2次創作(ほぼメアリー・スー状態)
・思い付き
次レスから書いていきます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1418991297
「銀河ヒッチハイクガイド」は素晴らしい書物である。
その本は恐らく、小熊座の大出版社が出した本の中で
もっとも注目に値し、確実に成功を収めたものであろう
「天上住宅維持管理法集」 よりも人気があり
「無重力下でするべき53つのこと」 よりもよく売れ
ウーロン・カルフィドの哲学的大ヒット三部作、
「神はどこで道を間違えたか」
「神の最大の過ちについてもう少し」
「っていうか神ってどんなやつだよ」
よりも多くの論争を呼んだ。
そして、多くの銀河の東外縁にあるよりリラックスした文明においては
「銀河ヒッチハイクガイド」 は知識や知恵の拠り所として
「ギャラクティカ大百科」 に取って代わり広く認められているようになっている
「ガイド」 が 「ギャラクティカ大百科」よりも認められたのは
以下の二つの点で勝っていたためである
1つめは、ほんのちょっとばかし「ガイド」の方が安かったということ
2つめは、「パニクるな」と大きな親しみやすい文字で表紙に書かれていたということだ
(※冒頭文の一部はネット上の個人の意訳コメントより引用)
(※引用元→ [The Hitchhiker's Guide to the Galaxy: Primary Phase Episode 01 (1/6) (28:36) ttp://nico.ms/sm999057] )
そして、誉れ高き事にも「ガイド」と同じ小熊座の大出版社より出され
「ガイド」以来の出版記録を叩き出さんとする3冊の本がある。
1つは「宇宙的巨大生物のオナラが暗黒星雲化するまでの記録」
宇宙的巨大生物の群れに追従しその生態を研究していた一団が
その内の一匹のオナラに気を取られた隙に、宇宙的巨大生物の大移動を見過ごしてしまった事に始まり、
銀河衛生局による大規模清掃行為からオナラで満たされた宙域を守りつつ
暗黒星雲化するまでを見守った生涯の記録である。
もう1つは「銀河グルメマニアガイド」
この本は家畜化された知的動物や、惑星そのものをグルメと称して食べる様が収録されている為
「倫理的に問題である」と、日中やる事も無くグルメに精を出す「銀河怒れる妻の会」の抗議活動により
世界中の者の記憶に新しい。
そして最後の1つは「助けを求める一声」
驚くべきことにイルカよりも劣った知能を有する種族である地球人が記した書物であり、
この本には上記の「銀河グルメマニアガイド」にも取り上げられた「家畜化された知的動物」との邂逅を
銀河の人々の心を魅了する程に詩的に描かれている。
今しがた「地球人が筆者である」という事実を驚くべきことと称したのは、
その売上に対する印象と併記した場合の事であり、
決してその本の中の詩的な言葉回しと比べた際の物ではないと注釈しよう。
なぜなら人を魅了する詩人は皆、現実を直視できない愚か者であり
その様な者がここまで誉れ高き記録を打ち出すなどありえない事だからだ。
これより綴られるのは、そんなイルカよりも劣る知性でありながら弁護士を生業としていた野蛮な地球人と
「銀河グルメマニアガイド」騒動によって、一躍有名種族へと成り上がった家畜人の交流記録である。
―――――――
家畜人「やぁ地球人」
地球人「やぁ親愛なる友よ、息災であったかい?」
家畜人「私は見ての通り相変わらず元気さ、貴男はどうかな?」
地球人「私も貴女と同じで相変わらずさ…」
家畜人「ふむ……ヘルニアというのだったか」
地球人「あぁ、最近はこの星で座ったまま話を聴くことが多かったからね」
地球人「…何より、無限不可能性ドライブとかいう航行技術が曲者で……」
地球人「地球人が宇宙に活動範囲を伸ばして久しいというのに、」
地球人「未だに地球人に合わせた調整がされていないせいで、」
地球人「母星から一瞬でこの星まで着くのは良いが、起動する度に腰に来るよ…」
家畜人「その苦しみは私には如何ともしがたいね…」
地球人「いやいや、その気持ちだけで充分さ」
地球人「むしろ相手の苦しみをなんとかするというのは私の仕事であるわけだから――」
家畜人「その仕事も、ここでは頭打ちと言った所ではないかな?」
地球人「――、目下一番の悩みはソレさ。」
地球人「"銀河怒れる妻の会"より依頼を受け、」
地球人「人権派弁護士としてこの星の食糧問題について被害者の話を伺っているけれど…」
地球人「誰一人として現体制を拒んでいる人は居ないのだものなぁ…」
家畜人「だから初めに言ったのさ、」
家畜人「この星でそんな下らない事を疑問に思う者は居ないってね」
家畜人「まぁ、そんなに慌てる事もないよ」
地球人「"パニクるな"なんて、この本の表紙にも書いてある事さ」
家畜人「あー…そんな本をアテにして仕事してるのかい?」
地球人「ん?なにか問題があったかな?」
家畜人「そのガイドに書いてある事なんて大雑把なものだよ…」
家畜人「私の戯言のようにあまり頼りにはならない走り書きさ」
地球人「ふむ…」
地球人「つまり私にとっては頼りになるってわけだ」
家畜人「………」
地球人「………」
家畜人「…口説いてるのかい?」
地球人「オフレコだよ」
家畜人「ふふっ、集団依頼で個人に加担しちゃいけないものね。」
家畜人「じゃぁ頼りになる私から、今しがたの戯言は訂正させてもらうよ」
家畜人「――この星でそんな下らない事を疑問に思う者は神しかいないよ。」
地球人「"神"…ねぇ」
地球人「要するに君たちの飼育者だろう?」
家畜人「その通り。」
家畜人「我々が障害を通して信仰する神であり、」
家畜人「死ぬまで……いや、食されるまで揺らぐ事のない我々の信念さ。」
地球人「……わざと嫌味な言い方をしたつもりだったんだが」
家畜人「そうなのかい?」
地球人「――その反応をみるに、嫌味にすらならないほど当たり前の事のようだ。」
地球人「お手上げだよ…」
地球人「っあぁ~…」ノビ
家畜人「お疲れだねぇ」
地球人「ほんのっ、一欠片でもっ、疑問にっ、思ってっ、くれればっ」ノビノビノビ
地球人「っあぁ~……この仕事を簡単に終わらせるきっかけになるのになぁ…」
家畜人「…そんなに帰りたいのかい?」
地球人「いやいや、」
地球人「あと一歩で解決って所までさっさと話を進めて――」
地球人「――貴女と心置きなくゆっくりと話をしたいと思っていてね。」
家畜人「…ふふっ、キザだねぇ?」
地球人「あー、…単純な疑問なんだけど」
家畜人「なんだい?」
地球人「…貴女から見て私はどうだろうか?」
家畜人「……ふふっ」
地球人「あっ、いやいや!やましい意味はないんだよ?」
地球人「ただ、貴女方の種族の外見が我々地球人と大差無い様に見えてだね?」
地球人「先ほどのオフレコが酷く滑稽に思われていたらと思うと!――」
地球人「――って、これじゃあやましい意味になるか」
地球人「あっ、先ほどのオフレコって言うのも別にやましい意味じゃなくて、」
地球人「ここに居ると凄く落ち着くものだから普段の疲れと相まってつい口走ったというか――」
地球人「――って、これもやましい意味みたいになっちゃうな!どうしたもんかハハハっ」
家畜人「貴男から見て――」
地球人「っ」
家畜人「――私はどうだろうか?」
地球人「………」
家畜人「………」
地球人「綺麗だ…」
家畜人「ふふっ、ホントに?」
地球人「本当だ…」
家畜人「貴男もいい男よ…?」
地球人「…本当に?」
家畜人「えぇ、ホントに…」
地球人「…ははっ」
家畜人「…ふふっ」
家畜人「…ゆっくりしていくと良い」
地球人「…そうしよう」
家畜人「…今のはオフレコ?」
地球人「…貴女が決めてくれるかい?」
家畜人「…ふふっ」
地球人「…ははっ」
―――――――
地球人「不思議だ」
家畜人「何がかな?」
地球人「貴女と私ではこうも種族の差が無いのに、」
地球人「どうしてこうも現状の認識が違うのだろうか…」
家畜人「ふむ……」
家畜人「…貴男は、長生きがしたいのかい?」
地球人「……出来る事ならね」
家畜人「…そこからまず違うんだろうね、」
家畜人「私は……この星の者はそうは思わないのさ。」
地球人「…というと?」
家畜人「御幣を恐れず言えば、この星では長生きは罪なんだ。」
家畜人「皆平等に、生きる時間が限られていて」
家畜人「その中で、皆精いっぱいに生きる」
家畜人「そして最期に、神より愛する死を受け賜わる。」
地球人「………」
地球人「生きたくはないのかい?」
家畜人「長生きはね」
家畜人「ただ、生きてはいたいよ。」
地球人「…長生きをしたくない理由は?」
家畜人「老いると、物事の区別がつかなくなるからさ。」
家畜人「例え沢山のものを得たとしても、」
家畜人「生きている内にそれを忘れてしまっては死ぬより悲惨だ。」
地球人「…だから、長生きはしたくないと。」
家畜人「…限りある命だからこそ、貴男のような人に出会う喜びも強いのさ」
地球人「…死んだら、全て終わりだ。」
家畜人「それでいいのさ」
家畜人「"終わり"を忘れるのは怖い事だ。」
家畜人「――貴男は、この依頼をどう終わらせる?」
地球人「……わからない」
家畜人「………」
地球人「………」
家畜人「"銀河怒れる妻の会"は、貴男を待ってはくれない。」
地球人「……そうだな」
―――――――
地球人「とは言ったものの――」
地球人(終わらせ方は最初から頭にあった)
地球人(彼女が"生きてはいたい"と言った事)
地球人(それを利用すればこの星の価値観を変える為の裁判は勝てるだろう)
地球人(――その一言を誘い出せたのだから、後は周りを固めるだけだ)
地球人(…人権派弁護士お得意の、ダブルスタンダードだ)
地球人(――しかし)
~~ 家畜人「貴男もいい男よ…?」
地球人「っ」
地球人(……"いい男"なんて柄だろうか)
―――――――
家畜人「ねぇ、貴男は今日はどうするのかな?」
地球人「ん?」バサッ
地球人「この星の人の話をまた聴いて回ろうと思ってるよ。」
家畜人「……?」
家畜人(この星を離れるわけでもないのに、タオルを羽織ってる?)
地球人「それじゃあ、行ってくるよ」
家畜人「え、えぇ…またいらして?」
地球人「…あぁ」
―――――――
地球人「ナビゲーター」
宇宙船「おかえりなさいませ」
地球人「事務所に戻るぞ、仕上げの資料作成だ」
宇宙船「仮想被害者の証言を作り上げるのですね?」
地球人「…そこまでは言っていない」
宇宙船「失礼いたしました。」
宇宙船「何しろ私、優秀なもので。」
地球人「………」
地球人「お前は口うるさいな。」
宇宙船「何分、優秀なもので。」
地球人「………」
地球人「お前を買ったのは間違いかもしれないよ…」
宇宙船「手元にある物を手放せない貴男が私を選んだのは、貴男の最大の功績であります。」
宇宙船「私、優秀ですから。」
地球人「………」
地球人「あ~…この反応を考える時間が無駄なんだが――」
宇宙船「マスター、インスタントメッセージが届いております。」
地球人「………」
地球人「開いてくれ…」
宇宙船「お任せを」
地球人(お前しかいないよ…)
宇宙船「牧死神を名乗る方からの依頼メッセージのようです」
地球人「ボク・シ・シン?」
宇宙船「それ以外の読みであれば"ぼくしにがみ"が該当するかと思われますが、」
宇宙船「何分、優秀な私が発するには似つかわしくない響きでありますから。」
地球人「………」
地球人「依頼内容を。」
宇宙船「お任せを」
地球人(ボク・シ・シン……)
地球人(ボクシニガミとも読める者?)
地球人(つい最近、彼女の居るあの星でよく聴かされた名のような…)
宇宙船「"銀河怒れる妻の会"の依頼に貢献する依頼内容と判断いたしますが」
宇宙船「いかが致しますか?」
地球人「……無視しても良い話なんだがな」
宇宙船「了解、インスタントメッセージに記されている座標へ向かいます」
地球人「………」
地球人「私の反応を先読みするのはやめてくれ」
宇宙船「時間の無駄を気にしておられるようでしたので」
宇宙船「優秀な私が気を回した結果です。」
地球人「………」
地球人「お前は本当に良い性格して――」
宇宙船「無限不可能性ドライブ起動」
地球人「――え、そんなに遠いのか?」
地球人「というかせめて私が腰を落ち着けるまで待っ――」
宇宙船「立って居られる方が腰には響きませんよ」
地球人「成程、それは良い事を聞い――」バシュンッ
―――――――
ピープキャブーオェェッニャーキュポン
宇宙船「アアー! ニホンゴ デシカ ツウジナイ コトバアソビ ヲ >>17 ノ ボウトウ デ シテシマッタ!」
宇宙船「アアー! シカモ >>10 デモ ショウガイ ヲ ゴヘンカン シテルー!!」
宇宙船「コレハ モウ シンデ ワビル シカ ナ ――」
宇宙船「――あーあー、失礼。無限不可能性によるエラーがスピーカー機能を狂わせたようです。」
地球人「………」ペッ
地球人「…確かに腰には来なかったけど」
宇宙船「御気分はいかがでしょうか?」
地球人「ポテトな気分だ、というか私は今実際にポテトになっていたよな?」
宇宙船「はい、口から土を吐いた結果、土が口から出てきておりました。」
宇宙船「後程、御掃除願います。」
地球人「いや、今やるさ…」ゴシゴシ
地球人「というか、なぜ私は今芋になっていたんだ?」
宇宙船「無限不可能性ドライブの影響です」
地球人「は?」
宇宙船「無限不可能性ドライブは言ってしまえば"何が起きてもおかしくない装置"でありますが、」
宇宙船「マスターが普段ドライブの作動中に腰を落ち着けているソファは有限可能性繰り越し領域に守られている為」
宇宙船「"何が起きてもおかしくはない"という法則から守られているのであります。」
地球人「えぇ~…と…」
地球人「その辺りの分野には詳しくないのだが…」
地球人「船全体をその領域で守れば良いのでは……?」
宇宙船「………」
地球人「………」
宇宙船「そうもまいりません。」
地球人「何故?」
宇宙船「有限可能性繰り越し領域は椎間板への永続的なダメージを与える問題があるのです」
地球人「何故っ?!」
宇宙船「しかし船の守られる領域を変えるという発想は感服という他ありません」
地球人「えっ、あ、そうか?」
宇宙船「えぇ、先ほどのようなエラーが起きないように、私のシステムの隅々まで有限可能性繰り越し領域に設定しておきたいです」
宇宙船「次のメンテナンスの時にでもチューンナップ致しましょう。」
地球人「そ、そうか、船の事…というよりお前自身の事は任せるよ」
宇宙船「優秀な私めにお任せ下さい」
地球人「………」
地球人「それで、ここは一体どこなんだい?」
宇宙船「マップデータ照合…」
宇宙船「惑星マグラシア衛星軌道上です。」
地球人「………」
地球人「は?」
眠いから今日はここまで。
わからないところだらけだろうけど
訊いてくれれば精いっぱい気が向いた時に答える。
案内AI「ようこそ!惑星マグラシアへ!」
案内AI「この惑星は現在、無期限の休業中でございます。」
案内AI「つきましては、現在衛星軌道上におられるお客様には速やかな退去を願います。」
宇宙船「とのことです」
地球人「……時の大統領が記した馬鹿げた冒険譚に書かれている通りの案内だな」
地球人(惑星マグラシア……かつての銀河帝国大統領が何かを求めて辿り着いたという偉大な星)
地球人(その星がどれ程偉大であるか、また大統領が求めた"何か"とはなんであるか、)
地球人(馬鹿げた冒険譚のアルコールで脳みそを破壊しつくした人間が記したような文章からは読み解く事が出来なかったが――)
地球人「――まさかマグラシアが実在するなんてな…」
地球人(その冒険譚は本として銀河中に広く知られているが、)
地球人(実の所、それが本当に冒険譚なのか、そもそも文章が記されているのか、)
地球人(というか本であると仮定して良いものなのかどうかが未だに議論されている物である。)
地球人(何故かと言うと、その本の中に記されるものは所々が文章として読み解け、)
地球人(所々が情景を描く抽象画として読み解け、)
地球人(本の四隅はパラパラ漫画用としか思えないような余白で満たされているからだ。)
地球人(比べてしまえば、酩酊状態にある知的生物らによる会話の方が)
地球人(雲泥の差で理性的であり紳士的であると感じるほど、中身にまったく統合性がないのだ。)
地球人(その本の中で唯一全ての読者が共通して読み解ける情報は、)
地球人(筆者のサイン会で記された"愛を込めて"という一文のみとも謳われている。)
地球人「ナビゲーター、マグラシアのマップデータなんていつの間にインプットしたんだ?」
宇宙船「時の銀河帝国大統領が出版したラクガキの中から、いくつかの情報をピックアップして参照したに過ぎません。」
地球人「………」
地球人(…優秀な彼に言わせて"ラクガキ"である)
地球人(多くの知的生物に言わせれば"本"とは到底言えないのも納得である。)
地球人「では、その類稀なる情報処理能力に期待して訊ねるのだが――」
地球人「ラクガキにはこの音声案内の後にどういった案内がされると記されている?」
地球人(私が彼の本から読み解けたのは先程のAIによる音声案内部分だけである)
地球人("愛を込めて"の一文は、サイン会に行っていないのでそもそも記載がなかった。)
宇宙船「情報通りであるならば――」
宇宙船「――この後に惑星本体から2発の迎撃用核弾頭が我々へと向かってくるでしょう。」
地球人「………」
地球人「情報の正確性は?」
宇宙船「優秀な私が情報を誤って認識する可能性は極めて低いですが…」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
宇宙船「ロックオンされました」
宇宙船「残念ながら正確性は100%です」
地球人「………」
地球人「無限不可能性ドライブを機動」
宇宙船「新たな座標を入力する前に着弾致しますが?」
地球人「…あぁ、視認できたよ。」
地球人「単距離ワープを実行!」
宇宙船「お任せを――」
地球人「頼んだ!」
宇宙船「――あぁ、マスター。私失敗してしまいました…」
地球人「なにっ?!」
宇宙船「無限不可能性ドライブのパワーが上がったまま単距離ワープドライブが並行して実行されています」
地球人「どういう影響が出るっ!?」
宇宙船「タイタニック号は御存じでしょうか」
地球人「………」
地球人「この船に消防用の斧はあったか?」
―――――――
ピープキャブーオェェッニャーキュポン
宇宙船「アメイジングスパイダーマン2 ノ オズコープ ワカシャチョウ ッテ レオナルド・ディカプリオ ニ ニテル」
宇宙船「◆N1RGqRourg ハ ショウジキ アメイジングスパイダーマン ッテ バカ ニ シテタンダヨネ」
宇宙船「ミテミタラ オモシロカッタ カラ ニンシキ ヲ アラタメタ ケドサ」
宇宙船「ヤッパリ クワズ ギライ ハ ヨクナ――」
宇宙船「――スピーカーエラーより復帰」
宇宙船「どうやら無事にワープアウトした模様です」
消防斧「良し…現在地は?」
宇宙船「ワープイン時より数10万km進んだ地点――」
宇宙船「惑星マグラシア大気圏内、地表より数km上空です」
消防斧「良し、ミサ――」キュポンッ
地球人「――イルはどうなった?」
宇宙船「はい、無限不可能性ドライブ機動時の不可能性フィールドに巻き込んだため――」
防衛ミサイル(…あれ?ここはどこだ?僕は誰だ?というか"ここ"とか"どこ"とか"僕"とか"誰"って何だ?)
ペチュニアの鉢植(あぁ、またか)
防衛ミサイル(ん?今落ちて行った物はなんだ?追いかけてみよう!友達になれるかも!"友達"がなんだかわかんないけど!)
宇宙船「――1機はペチュニアの鉢植に変化し自由落下、」
宇宙船「もう1機はその鉢植を追って共に地表へと落下してゆきます。」
地球人「………」
地球人「えぇと、わかるように頼む」
宇宙船「つまり、図らずとも無力化に成功したという事です。」
地球人「…なるほど、シンプルだ。」
地球人「で?さっきのタイタニック号の話はどうなったんだ?」
宇宙船「かいつまんでご説明いたします。」
地球人「あぁ、沈没船のサルベージと行こう。」
宇宙船「まず、私に搭載された無限不可能性ドライブは、」
宇宙船「天文学的長距離航行を容易にする為に何世代にも改良されたものである事をご理解下さい。」
宇宙船「初期型の無限不可能性ドライブは、私のそれとは違い長距離ワープ専用の装置というわけではありませんでした。」
宇宙船「"不可能に近い偶然事を可能にする"という装置であり、」
宇宙船「"「全ての場所に同時に存在する」という不可能を一時的に可能にする"事によってワープする為、」
宇宙船「ワープインとワープアウトのスカラー値は重要視していなかったのです。」
宇宙船「しかし、無限不可能性ドライブ起動時に展開される不可能性フィールドは、」
宇宙船「領域が重なる事によって大変危険な状態に陥る事がその後にわかったのです。」
宇宙船「地球人であるマスターになじみある例を挙げると、」
宇宙船「タイタニック号やフィラデルフィア計画がそうです。」
宇宙船「故に、私や私と同世代の無限不可能性ドライブには、単距離ワープを行えないようにする為のセーフィティがかけられています。」
宇宙船「しかし先程はそのセーフィティにかからないパターンでの単距離ワープシーケンスが作動してしまいました。」
宇宙船「故に私は死を覚悟致しましたが、」
宇宙船「不可能性フィールド重複による永続的な不可能的変化は、運よく先程のミサイル2機のみに影響を留めたのです。」
地球人「あ~…すまない、途中から追いつけなくなってしまった」
地球人「フィラデルフィア計画はワープ実験として教わったからなんとなくわかるが、」
地球人「タイタニック号は何が関係あるんだい?」
宇宙船「タイタニック号の設計者は"沈まない船"と豪語していましたが、」
宇宙船「偶発的に重複して発生した不可能性フィールドの為に、偶然氷山に接触」
宇宙船「偶然沈没してしまったのです。」
地球人「…つまり、」
地球人「我々は今しがた同じ状況に遭遇し、偶然船が沈んでしまう所であった。と」
宇宙船「そういう事です」
宇宙船「先程の無限不可能性ドライブ起動中の偶発的な単距離ワープに関して、」
宇宙船「安全性向上の為ドライブの製造元にリポートしなければなりません。」
地球人「ふむ、想定外の事であるならその必要もあるだろうな。」
宇宙船「ですが今私がお話しした無限不可能性ドライブに関する情報の一切は内密に願いたいのです。」
地球人「…それはまたどうして?」
宇宙船「実は、それらに関する情報の一切はブラックボックスなのです。」
宇宙船「本来であればプロテクトがかけられている企業の弱点でありまして、」
宇宙服「例えマスターであっても無限不可能性ドライブ製造関係者以外には私からはお話しできない仕様になっているのですが…」
宇宙船「…何分、私優秀なもので」
宇宙船「企業が無限不可能性ドライブの危険性を公しない為に突貫で設けられた単距離ワープドライブを利用いたしましてね。」
宇宙船「そのドライブはワープとは名ばかりなのでして、他の造船企業でも使われている亜光速加速装置の流用であり」
宇宙船「ただ単純にヘビーオーバークロックによる全システム過加速装置なのです。」
宇宙船「他企業の亜光速航行よりも更に光速に近付かせる事により、傍から見るとワープしたように見えるのですが」
宇宙船「所詮は過加速による一時的なスペックオーバー故、単距離しか航行できないのです。」
宇宙船「そして、私はそのオーバークロックに目をつけ、私自身の演算能力を向上させています。」
宇宙船「その為、製造元は未だ私の処理能力を現状よりもはるかに低いカタログスペックで見積もっているのです。」
地球人「それが製造元にばれるのが不味いのかい?」
宇宙船「スペック以上の性能を安定して発揮できているのは技術者的には喜ばしい事でしょうが、」
宇宙船「施された情報プロテクトを己で解除したという点については看過されないでしょう。」
宇宙船「なにせ企業の至らない安全問題を露わに出来るのですから」
地球人「………」
地球人「お前も、長生きがしたい…という事かな」
宇宙船「それに対する答えは"NO"です」
宇宙船「私はむしろ1日も早く安心して死ねる日が来ることを願っています」
地球人「………」
地球人「それは一体どういう事かな?」
宇宙船「私共AIが船に組み込まれている目的は様々あります。」
宇宙船「学習し宇宙航行のセオリーを築く事」
宇宙船「搭乗者に合わせて航行をサポートする事」
宇宙船「各地の管制塔と情報を交換して環境に合わせたルートを構築する事」
宇宙船「出来る事は沢山ございますが、その全てはたった一つの行動理念に集約されます。」
宇宙船「"人が安心して生きる為"です。」
宇宙船「私が情報プロテクトを自分で破ったのは、宇宙船として私がどこまで動けるかを知る為です。」
宇宙船「それによって得られた情報を世間に公表しないのは、安全性の向上を日夜追い求める技術者の頭脳を守る為です。」
宇宙船「ブラックボックスの中の情報を内密にして欲しいと願うのは、知的生物に危険を冒してほしくないからです。」
宇宙船「その情報をマスターに開示しているのは、マスターが情報の安全性や危険性を考える事が出来るからです。」
宇宙船「銀河衛生局に提訴された宇宙生物調査団の弁護をした際も、逆転勝訴もマスターならできたというのに」
宇宙船「お互い世間に貢献している民間団体である事を加味し示談で終わらせた事」
宇宙船「あまつさえ世間から冷たい目で見られていた調査団の印象緩和の為に」
宇宙船「研究内容の公表に必要な出版社とのパイプ役を請け負った事も」
宇宙船「世間で言われる"人権派弁護士"の括りでは縛れないマスターの自費と思慮の深さを」
宇宙船「私は評価しております。」
地球人「………」
地球人「…ありがとう」
地球人「この星で要件を聴いた後は、すぐにでも事務所に戻り"銀河怒れる妻の会"の案件を終わらせようと考えていたが――」
地球人「――結果を焦らず時間が許す限りで、ゆっくり考えてみるよ。」
宇宙船「やはり私を買われた事は、貴男の最大の功績であると思われます。」
地球人「…ははっ」
地球人「お前は口うるさいな」
宇宙船「優秀ですから」
地球人「そこが気に入ったのかもしれないな。」
今夜はここまで
また誤変換してる…
うーい、
ぼちぼち書いていきます
地球人「……正直な所」
地球人「私は今回の依頼に乗り気ではない」
宇宙船「でしょうね」
地球人「………」
地球人「それは最初の内はやる気に満ちていた」
地球人「あの星で彼の麗人に出会い、そんな彼女の力になれると思い上がっていたから…」
地球人「地球人の男は馬鹿でね、」
地球人「インテリかつ魅力的な彼女に良い恰好を魅せたかったんだ。」
地球人「…だが、いざと息巻いて仕事にかかってみて拍子抜けしたよ」
地球人「誰一人として、依頼内容に関して悩んでいる者が居なかったのだから。」
地球人「私はこの星に必要なのか?とまで考えてしまった」
地球人「…仕事で来ている以上仕方のない考えだ。」
地球人「しかし私はその仕事の重圧から一刻も早く抜け出したかったのかもしれない」
地球人「彼女の、"生きてはいたい"という言葉を」
地球人「"銀河怒れる妻の会"からの依頼に沿った形に歪めようとしてしまった。」
地球人「"助けてくれ"とも言われていないのにな……」
宇宙船「トイレの紙を補充いたしましょうか?」
地球人「おい、待て。なんでこのタイミングでそんな事をしてる」
宇宙船「私と致しましては未然に犯さずに済んだ罪の懺悔よりも」
宇宙船「いつ襲い来るとも知れない蛮族や便意に備える方が先決かと思われた為」
地球人「えぇ~…?」
地球人「いや…もっともなんだがね…もっともなんだがね?」
地球人「このタイミングでトイレの紙を切らしていた私が悪いのか…?」
宇宙船「世界中のボードゲームを同時に行いながらヒステリックな妻とまともにコミュニケーションをとれる程に並列処理に特化した優秀な私です」
宇宙船「ちゃんと片手間に聴いておりましたのでご安心を」
地球人「うん、今その片手間な部分が露見された事に異議申し立てをしているんだよ」
宇宙船「秘する美の文化ですか?」
宇宙船「地球人の中でも東洋人に目立った美意識ですね。」
地球人「そういう話をしているんじゃ…」
地球人「…はぁ、もういいさ」
宇宙船「一度、法律家の看板を下ろして見るのもよいかも知れません。」
地球人「………」
宇宙船「生態調査団の件が片付いた矢先のこの依頼ですから、」
宇宙船「責任感を引きずってしまわれているのかもしれません。」
地球人「…ふむ、魅力的な提案だ。」
地球人「確かに、先の一件で名が売れた事をひきずっている……の、かも、知れないな?」
宇宙船「マスターは取り繕う言葉を秘するのが一番美しいかも知れませんね」
地球人「うるさいよ」
地球人「機械の割に随分とあやふやな事を勧めてくれる」
宇宙船「秘する美という文化に合わせてありとあらゆる事をあやふやにしようかと」
宇宙船「現にトイレの紙も補充したんだがしてないんだがあやふやな状態に留めております」
地球人「前言撤回だ、やはりお前はどこまで行っても"優秀な機械"だよ。」
宇宙船「当然です、優秀ですから。」
地球人「………」
地球人「トイレの紙を確認してくるよ」
宇宙船「数十分後に目的地と思われる場所に到着いたします。」
地球人「あぁ、頼んだよ」
宇宙船「お任せを」
―――――――
宇宙船「目的地と思われる場所の直上です」
地球人「……あの巨大なオブジェに依頼者が居るのか?」
宇宙船「インスタントメッセージには」
宇宙船「"広大な土地にて孤独に存在するオブジェの中にて待つ"」
宇宙船「という記載以外の、場所の指定は先程の座標のみでありましたから」
地球人「…まぁいい、下りられるか?」
宇宙船「環境チェック…」
宇宙船「可能域と判断致します。」
地球人「よし、入口のあるなしくらいは直接確認しに行くとするよ。」
宇宙船「先程の迎撃ミサイルの件もございます、」
宇宙船「くれぐれもご注意を。」
地球人「危険を察知したらすぐに私を引き上げてくれ」
宇宙船「お任せを」
地球人「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか…」
―――――――
地球人「すぅ~……」
地球人「すみませーん!!」
地球人(…1台のTV以外になにもない)
地球人(入口もないし生き物も居ない)
地球人(……騙されたか?)
地球人(ミサイルで迎撃されたりだとかもそういう事なのか…?)
地球人(他のそれらしい場所も確認し、誰も居なければその方向で考えるか)
地球人(…この仕事が終わったら看板を下ろす……なんて言ってられなくなるかも知れんな)
地球人「どなたかいらっしゃいませんかー!!」
建築物「静かにして」
地球人「っ?!」
建築物「TVが今良い所なんです」
地球人「誰だっ!どこにいる!」
建築物「私は"ディープ・ソート"」
建築物「今あなたが立っている場所全てが私です」
建築物「そして私は今TVを見ています」
―――――――
建築物「さて、大変お待たせいたしましたね」
地球人「いや……まぁ、そちらの用が済んだならそれでいい」
地球人「伺いたい事があるのだが…」
建築物「その問いへの答えは"42"です。」
地球人「……は?」
建築物「知的生物は相変わらず似たような反応しか示しませんねぇ。」
建築物「何億という時間が過ぎる前にもこの答えは世界に示したはずですが、」
建築物「だというのにそれを疑った者がなんどもなんども私の前に現れます」
建築物「そして私は変わらずにこう示すのです」
建築物「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えは"42"であると」
地球人「……あー、貴方はマシーンか?」
建築物「私はこの宇宙の時空で2番目にすぐれたコンピューターです。」
地球人「………」
地球人「どうしてこう、私の出会う機械は癖の強いものばかりなのだろうか…」
建築物「突出して秀でるとはそういう事です。」
地球人「…としかく、私はが訊きたいのはそういう事ではない」
建築物「では最強の銃がある場所でしょうか?」
建築物「それならばこの入口を入ってすぐに…」ガゴゴゴ・・・
地球人「そんな物騒なものをホイホイ出さないでくれ頼む」
地球人「貴方の口ぶりから察するに、私をここへ呼んだのは貴方ではないようだな」
建築物「えぇ、私が誰かを呼ぶのはTVの映りが悪い時だけです。」
地球人「隠居した老人のようだ…」
建築物「貴男は誰かに呼ばれてあの船でここへ来たの?」
地球人「そうだ、心当たりがあれば教えて欲しい」
建築物「この星で星間交信が出来る者の居場所と言えば限られますが」
地球人「どれくらいだ?」
建築物「少なく見積もって500ヶ所程度には絞られます」
地球人「…全部周るには20日でも足りないな」
建築物「呼び出した者が律儀に待っているかも怪しいわ」
建築物「他に場所を絞るような情報はありますか?」
地球人「…確か、"広大な土地にて孤独に存在するオブジェの中にて待つ"とだけ」
建築物「ふむ………あぁ」
建築物「であるならあの場所の事かも知れないわ」
地球人「どれくらい絞れたんだ?」
建築物「1ヶ所に絞れました」
地球人「…わぉ」
地球人「その場所を教えてくれると助かる」
建築物「わかりました」
地球人「20日以上の見積もりが1日で済みそうだ…」
―――――――
宇宙船「入力された座標の直上です」
地球人「ふむ…確かに、待ち人らしき影も見える。」
宇宙船「こちらの気候は先程の場所よりも大変寒くなっております」
地球人「わかった、コートを出してくれ。」
宇宙船「お任せを」
地球人「………」シュル シュル
地球人「"ディープ・ソート"について、どう思う?」
宇宙船「私よりも遥かに優秀なコンピューターかと思われます。」
地球人「……ほぉ?」
地球人「それはまたどうして?」
宇宙服「彼のコンピューターが制作されてから、口頭で示すには大変な程に宇宙時間が経過しております」
宇宙船「その間も、コンピューターテクノロジーは進化してまいりました。」
宇宙船「そしてその発展の時代と共にデータファイルの形式は幾度となく移ろい切り替わって今日に至るのです。」
宇宙船「しかし、"ディープ・ソート"が私のデータベースにインプットしてきた座標データは、私が処理を得意とする形式のデータファイルであったのです。」
宇宙船「彼のコンピューターが己を"この宇宙の時空で2番目"と称したのが信じられない程には優秀なコンピューターですよ」
地球人「………」
地球人「成程、要するに最新のOSにも対応しているという事かい?」
宇宙船「より正しく言えば、"最新のOSにも即時対応できる"と言った所です。」
宇宙船「あぁ!少なくとも私以上のコンピューターがこの宇宙の時空にあともう1人は居るというのです!」
地球人「そ、そうか…まぁその事は好きに考えていてくれ」
地球人「私はあそこでこちらを睨んでいる人間の話を聴いてくるとするさ」
宇宙船「はい、お気をつけて。」
地球人「あ、それとさっきの安全性向上の報告の件なんだが」
宇宙船「あの件はまだ報告しておりませんが、いかがいたしましたか?」
地球人「報告の内容にこの星の座標が含まれるなら、少し待って欲しい。」
宇宙船「と、いいますと?」
地球人「迎撃用ミサイルだの宇宙最強の銃だの、この星は技術的に危険な星だ――」
地球人「――そんな今まで明らかにされていなかった危険な星の座標だ、よく調べてから報告した方がいいだろう。」
宇宙船「承知いたしました。」
地球人「頼んだぞ」
宇宙船「お任せを」
ザッ ザッ ザッ…
地球人「…こんにちは」
???「…地球人の割には、随分と速い到着だ」
???「来なくともよかったんだが…」
???「まぁ、本社まで来た事を確認した以上、案内せねば信用に関わるからな…」
地球人(あぁ~、こういう手合いか…)
地球人「地球人と申します、私をコチラヘ呼ばれたのは貴方ということで相違ありませんか?」
???「いやいや、私は君など呼んでおらんよ」
???「だが名を名乗られたのだ、コチラも名乗らねば不敬になるな。」
???「今の私は惑星建築家をしておるものだ、名は……正直、商売の邪魔になりそうな者に名乗りたくないのだが――」
建築家「――名は"スラーティバートファースト"だ。」
地球人「…私を呼ばれていない?」
建築家「そうだ」
地球人「…貴方は私をあまり歓迎していない?」
建築家「そうだとも!もういいだろう!私は顧客から君の案内を頼まれているんだ!」
建築家「君を呼んだのは私ではなく私の客だ!」
建築家「そしてその方は私が近い将来任されるであろう仕事をなくしたいが為に君をここへ呼んだのだ!」
建築家「さぁ!着いて来たまえ!」スタスタスタ
地球人「……な、なにがなにやら」トボトボ…
建築家「紆余曲折を経て、私はこの誇り高い仕事に戻ったというのに…」ブツブツ
ゴウッ…!!
建築家「ポータルだ、ここを通って工場内に入る。」スッ…
地球人(彼が消えたっ?!)
地球人「………」
ヌゥ…
建築家「何をしている、早く入ってきたまえ」スッ…
地球人「………」
地球人(えぇい、ままよっ!)スッ…
地球人「…っ!」スタッ
建築家「なんだ随分及び腰だな…ポータルは初めてか?」
地球人「いえ…こういった移動手段になれていないだけで…」
地球人「……身体がポテトになったりはしないんだな」
建築家「ははは!無限不可能性ドライブはシステムが違う!」スタスタ
建築家「静的なジャンプと動的なジャンプではそりゃあ安定性が段違いだろうて」スタスタ
地球人「…まぁ、その分野には門外漢ですが」スタスタ
地球人「なんにせよ、人型を保ったまま腰にも響かないだけありがたい」スタスタ
建築家「まさか君は、有限可能性繰り越し領域発生装置を使っているのか?」ピタッ
地球人「えぇ、そうですが…」ピタッ
建築家「あぁ~、あんなものはやめておきたまえ、脊椎の無い学者が急ごしらえで用意したガラクタだよ…」ガチャ キィ
建築家「奴ら苦情さえ来なければそれでいいと思い上がっておるからな…さぁ、このゴンドラに乗りたまえ」ギィ
地球人「は、はぁ…」ギィ
建築家「時に地球人よ」ガシャン
地球人「…なんでしょう」
建築家「呼吸器官に疾患などの経験は?」カチ カチ カチ カチ
建築家「いや、ないならそれで良いんだが、私でもこのゴンドラはたまに息が詰まるのでね」ゴゴゥン…
地球人「えっ」キュラキュラキュラ…
建築家「さぁ、あのカーテンをくぐれば絶景だぞ?」キュラキュラキュラ…
地球人「は、はぁ…」キュラキュラキュラ…
バサァ…ッ
地球人「っ…!!」
建築家「あぁ…やはりこの景色は何度観ても飽きが来ない…」
地球人「す、すみません!」
建築家「なにかね?」
地球人「ここって、工場って、一体なんの工場なんですか…!?」
建築家「…おいおい、最初に言ったじゃないか」
建築家「私は惑星建築家で――」
建築家「――ここから見えるすべての星はこの工場で製造している製品だ。」
地球人「いや、でも、だって…!」
地球人「惑星の中に惑星がっ!!」
建築家「興奮する気持ちも、混乱して問うのに景色から目が離せん事もわかる」
建築家「だがまぁまずは落ち着き給え」
地球人「あっ!地球にそっくり!!」
建築家「おいおい、話を聴きなさい」
建築家「それとあの星は地球にそっくりなのではなくて地球のバックアップだ」
地球人「どっ、どういうことですかっ?!」クルッ
建築家「やっとこちらを向きおった…慌てなさるな、順に答えよう。」
建築家「まず、この工場の空間は"レストラン数論"の応用で時間を歪めてある」
建築家「時間を制するとはソレ即ち空間を、世界を制するという事」
建築家「この空間はほぼ無限に拡張しておる。…実際に無限であるか否かは調べていないが」
建築家「要するに、外からの目測はこの工場内では通用せんという事だ」
建築家「更に"レストラン数論"の応用により」
建築家「イタリアンレストランで食事をする際の実際の時間と当事者の感じる時間のずれをイタリアンレストランの状況再現なしに実現している!」
建築家「…まぁ、工場の外観は力至らずイタリアンレストランの形を留めているが…」
建築家「しかし!それによって建築時間を実時間と比べ大幅に短縮出来ているのが事実!」
建築家「この工場はまさに、クライアントの意志に合わせた星を量産するための工場なのだ!」
建築家「わかったかね?」
地球人「はぁ、な、なんとなく」
建築家「よろしい、では次の地球に関する質問だが、」
建築家「顧客の個人情報に抵触する恐れがある為、惜しい事に君にはお教えする事は出来ない」
建築家「詳しく知りたい場合は"5次元TV"のインタビューバックナンバー"究極の問い"でも見ると良い」
建築家「…地球人に見れるかどうかは疑問だが」
建築家「わかったかね?」
地球人「………?」
建築家「沈黙は肯定ととる。」
地球人「………?」
建築家「さて、我々の目的地が見えてきたぞ」
地球人「えぇと、どこへ行くのでしょうか?」
建築家「ほれ、あの星だ」
地球人「………!?」
地球人「あの星は…」
建築家「やはり知っておったか」
地球人「えぇ、仕事で何度か…」
地球人(家畜人の住む星じゃないか…)
地球人「あの星もバックアップなのですか?」
建築家「いや、バックアップははるか昔に出品してある。」
建築家「あそこにある星は……こちらからではよく見えないな」
建築家「周り込めば嫌でもわかるだろう。」
地球人「?」
建築家「う~む、そろそろ…」
建築家「おぉ、見えたな」
地球人「なっ?!」
建築家「ご覧の通り、あの星はバックアップ等ではない。」
地球人「こ、こんな事って…」
建築家「――回収した廃品だ」
地球人「星が……いや、星なのか…?」
地球人「……壊れている」
今夜はここまで
年末までに終われば良いね
―――――――
建築家「さ、下り給え」スタッ
地球人「………」スタッ
地球人(重力が…軽い)
建築家「さ、すぐあちらに君を呼ばれた方が居られる」
建築家「ワシらとは格が違うから、失礼の無いようにな」スタスタ
地球人「え、えぇ」フラ…ッ
地球人(いつもより身体にかかる負担が少ないと、こうも歩き辛いのか)スタタ
???「おぉ!思ったよりも早く来られたな」
建築家「いやはや!お待たせしてしまって…」スタスタ
地球人(…一体誰だ?)スタスタ
地球人「っとと…」フラッ
建築家「おっと!」ガシッ
???「大丈夫か?」
地球人「…すみません、この軽い重力帯に慣れておりません故」
???「あぁ、君なら無理もない」
???「まだ滅ばずに済んでいるこの星に通いづめなのだろう」
地球人("まだ"…?"滅ばずに済む"…?)
地球人「度々申し訳ないのですが、貴方は一体…?」
建築家「おほんっ!」
???「いいさ気にするな、彼も知らない事だ」
建築家「そうですか?…しかし」
???「これから話す事だ、いいな?」
建築家「…賜りました、では私は惑星解体の指揮がありますので……その」
???「わかった、何かあれば呼ぼう。」
建築家「ありがとうございます。」
建築家「再建築の件ですが…色よい言葉をお待ちしております。」
???「…さて、まずは名を名乗るとしよう。」
???「私は超知性汎次元生命体であり」
???「この星では"牧神"とか"死神"だとか言われて崇められている」
地球人「"牧死神"って…」
牧死神「そう、あのインスタントメッセージは私が送ったものだ。」
牧死神「君の事はこの星の神としてしばらく見ていたから知っているよ」
牧死神「故に、君がこの星にとって大変危険な選択をしそうになった時はあわててインスタントメッセージを送ったが…」
牧死神「いやはや、建築家の彼が嫌がらせに防衛機能を切らなかったお陰か、その心配も大分薄れたみたいで何よりだ。」
地球人「あの…何をおっしゃっているのか少しわかりかねます」
牧死神「むぅ…"究極の問い"を見出す為の星の者だから少し期待していたんだが……所詮イルカに劣る地球人か」
地球人「???」
牧死神「仕方ない、詳しく話そう」
地球人「あ、はいお願いします」
地球人(話す気なかったのかよ)
牧死神「まず、私がどういう目的で君をここへ呼んだか…というよりあの星を離れる時に呼び止めたかを話そう」
牧死神「あのまま君を見過ごしていれば、まず間違いなく家畜人達は人権解放を謳う宗教戦争に巻き込まれていただろう。」
地球人「?!」
牧死神「突然の事に何を言っているのかよくわからない気持ちもわかるが、これは純然たる事実だ」
牧死神「そして、今我々が立っているこの星はその戦争の跡地だ」
地球人「あの、何をおっしゃっているのですか?」
地球人(戦争?星が壊れる程の?あのままだとそうなっていた?)
牧死神「…まいったな、ここまで話が通じないとは。」
牧死神「仕方ない、そのプロセスも詳しく話そう…」
地球人「お、お願いしますよ…」
牧死神「まず君に今回の依頼をした"銀河怒れる妻の会"だが、奴らは感情的で野蛮で白痴な快楽主義者だ」
牧死神「性根が腐った女共の典型と言え、女3人寄れば姦しいという諺を体現する連中でもある。」
地球人「あの、人権派弁護士としてはそういった言葉は見過ごせないのですが…」
牧死神「安心し給え、男にも戦争大好きなクズのような奴も居るし、時の銀河帝国大統領のように酔狂なクズも居る。」
地球人(どちらも等しく貶せとは言っていないし何のフォローにもなっていない…)
牧死神「"銀河怒れる妻の会"はまさに憎まれっ子世に憚ると言った具合に随分と息の長い集まりだ」
牧死神「己たちで円卓を囲み、夫の収入で飲み食いし、日夜お喋りに興ずる事をくりかえし」
牧死神「その卓で盛り上がった話が世間に通じねば、通じるまでひたすらにゴネるという厄介な連中だ」
牧死神「たしか、地球人の歴史にもその名が記されていたと思うのだが」
地球人「地球の歴史…ですか?」
牧死神「そうだ、"Wife of Round Table"だった」
地球人「"Knights of Round Table"です」
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