お嬢様「わたしは囚われの姫なのだよ」(23)

深い月夜に二つの影

執事「お嬢様、そろそろ出立のお時間です」

お嬢様「うむ」

お嬢様「しかし、よく外出許可が降りたな」

執事「降りてませんよ?無断外出です」きりり

お嬢様「いや…、そんな凛々しく言われも反応に困る…」

執事「もう十年以上屋敷からの外出許可は降りてないのですから今更許可などありえませんよ」

お嬢様「そ、そうか…」

執事「では、敷地の外に馬車を待たせてあります。急ぎましょう」

お嬢様「う、うぁ?な、なんでおんぶなんだ?や、やめろ!」

執事「見つかると厄介なので走ります。お嬢様のそのお召し物では走ることなどできませんので、失礼ですが」

お嬢様「くっ、屈辱だ…、ううぅ…」

お嬢様「なんで君はわたしの使い魔なのに言うことをきかないんだ…」

執事「使い魔にさえ心を宿すことができる…、お嬢様に秘められた魔法の才ですよ」

お嬢様「わたしはそのおかげで一切魔法が使えないわけだがな」

馬車の中

お嬢様「そろそろ説明してもらいたいものだな」

執事「そうですね、まずは今の王国の情勢から」

お嬢様「内政問題か?」

執事「口を挟まないでください、お嬢様は何も知らないでしょう」

お嬢様「すまん…」しゅん

執事「六年前、王国から勇者が魔王討伐に旅立ちました」

お嬢様は十六歳だから屋敷でゴロゴロしてるだけでもまだまだ大丈夫だぜ

執事「しかし勇者は戻りませんでした」

お嬢様「そ、それなら知ってるぞ!勇者は名誉の戦死だと新聞に書いてあった!」

執事「はあ…、これだから箱入り娘は…」

お嬢様「な、なんだ?わたしはおかしなことを言ったか?」

執事「勇者は実は死んでなどいませんよ」

お嬢様「!!」

執事「和平の文書を王国に送ったのですよ。王はこれを無視して、勇者は戦死したと発表したのです」

執事「王は知っていたのですよ、魔王国に戦争の意志などないことを」

お嬢様「私腹を肥やすためだけに戦争したいのか?王は」

執事「まあ簡単に言えばそうですね」

執事「それで伝説にある勇者の子孫を勇者として送り出しているわけです。国民を騙すためのパフォーマンスですよ」

執事「あ、お嬢様も騙されてましたね」

お嬢様「うっ、うるさい」

お嬢様「大体屋敷に籠もりっぱなしのわたしがそんなこと知るわけないのだ」

執事「そうですね、仕方のないことです(笑)」

執事「それで本題なのですが、今年に入って新しく勇者が撰ばれて魔王国に旅立ちました」

執事「今度は4人パーティです。王国の中で若き天才と言われる者たちが撰ばれました、勇者は今までの子孫の中でもトップクラスの才能と噂されてます」

お嬢様「ほう…、わたしのような日陰者とは大違いだな」

執事「お言葉ですがお嬢様、私はお嬢様こそが王国の中で魔法の才だけはトップだと思っていますよ」

お嬢様「使い魔に褒められても嬉しく…、ないな」かああ…

執事「申し訳ありません」

お嬢様「しかし話が見えないな、結局どういうことだ?わたしが屋敷を無断外出しなければならないのはなぜだ」

執事「お嬢様にはこの王国を守ってもらいたいのですよ」

執事「このまま王の好き勝手にやらせていてはこの国は潰れます。今、お父様は大臣としてご活躍なされていますが」

お嬢様「なるほど、私が屋敷でごろごろしていられたのもそういうことだったのか、初めて知った」

お嬢様「父親のことなどどうでもいいが、わたしも生活できなくなると困るな」

執事「そういうことですよ。お嬢様を屋敷に監禁しているようなお父様でも、お嬢様の生活がかかっているのです」

執事「ですからこの国を守るということは、お嬢様の生活を守るということと同義なのですよ」

お嬢様「うむ、それでわたしにどうしろと?」

お嬢様「聞いた限りではわたしができることは何もないような気がするが」

執事「それがあるのですよ、根暗で自堕落でどうしようもないお嬢様にもできることが」

お嬢様「君は使い魔の分際でよくそんなことが言えるな」

執事「素直な性格ですので」

執事「いいですか、お嬢様には王を操ってもらいます」

お嬢様「は?」

執事「バレたら死刑も免れませんが諦めてください

お嬢様「え?」

執事「あ、そうそう、新しく作られた勇者パーティーどうなったと思います?」

執事「魔王国で六年前の勇者に負けたらしいですよ?若き天才の集まりといえど所詮烏合の衆ですね」くっくく

執事「それで和平文書持たされて帰ってきたんですよ?ダサいですよねえ」くっくく

執事「そこで話の核心ですが、お嬢様に王を操ってもらって和平合意、というわけです」

執事「ただしお嬢様が直接魔法を使う訳ではありません、私を通して王を操ってもらいます」

執事「すごいですよ、お嬢様は」

執事「なにしろ服従魔法は難易度トリプルsですからね、伝説の大魔法使いが使えたとかなんとか言われてるくらいの最上位魔法です」

執事「それでお嬢様には屋敷から抜け出してもらいました」

執事「さすがに最上位魔法ですからね、私の近くでお嬢様と息を合わせなければ使えません」

お嬢様「は、はあ」

執事「でも本当にすごいですよ?お嬢様は私という使い魔を通してもなお、難易度トリプルsクラスの魔法を使えるのですから」

お嬢様「そ、そうか…、わたしは天才だったのか…」

お嬢様「今出るのはなぜだ?」

執事「お分かりになりませんか?」

執事「明日こそがまさに勇者パーティが和平文書を王に持ってくる日なのですよ」

お嬢様「!」

お嬢様「しかし…、生きている内にそんな大役が回ってくるとは…」

執事「お嬢様には相応のお仕事です」

お嬢様「私には屋敷で一人本を読んでいるのがお似合いなのに…」

執事「ご謙遜なさらずに」

執事「お嬢様のような方でなければこの計画は成立しません」

執事「お嬢様の魔法の才は誰も知りませんからね、とても好都合なのですよ」

お嬢様「だからわたしは一族の恥として幽閉されてるんだがな、皮肉なものだ」

執事「だからこそ国を救うことができるんです」

執事「たとえ歴史に名を残すことはなけれど、人々の心にその功績は深く刻まれるだろう…」

執事「かっこつけたいお嬢様には打って付けですね」

お嬢様「う、うるさいぞ、ばか使い魔!」

執事「それでは、王都に着くのは朝方ですので、そろそろお嬢様はお休みになってください」

お嬢様「こんなに揺れてる馬車の中でわたしに寝ろと言うのかね、君は」

執事「はい、そうしないと明日が大変ですよ」

お嬢様「む…、仕方ない」

執事「毛布です」

お嬢様「あ、ありがとう…」

お嬢様「なあ、執事」

執事「なんでしょうか」

お嬢様「わたしは上手くやれるだろうか」

執事「おや、いつになく弱気ですねお嬢様」

お嬢様「茶化すな、城に行ったらたくさん人がいるのだろう?わたしなんかが行ったら邪魔になるんじゃないか?」

執事「お嬢様はこの国のために城に行くのに邪魔であるはずが」

お嬢様「それは分かっている…、だがその…、なんというか場違いに…」

執事「私は普段から城に出入りしていますが、あそこにいるのは下衆な貴族ばかりですよ」

執事「自分の利益しか考えないような」

お嬢様「だ、だとしてもだね、君」

お嬢様「わたしは…、その…、妾腹の…」

執事「いいですか、お嬢様は城に着いたら私の従者という設定にしましょう」

執事「フードを被って顔も見えないようにしてください」

お嬢様「う、うむ」

執事「そうすればできるだけ他の人間との接触を避けられるはずですので」

お嬢様「そ、そうだな、それはありがたい」

お嬢様「すー、すー、すー」

執事「やっと御就寝ですか」

執事「まったく手が焼ける方です」

執事(フードで顔を隠すのはお父様に見つからないようにという意図もあるが…)

執事(独占欲が滲み出てるじゃないか…、本当に情けない…)

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