許嫁「愛していると言えますね?」 (113)


    ◇夜 自宅

許嫁「お帰りなさい。今日は部活が終わるの、遅かったんですね」

男「大会の前だからな。悪かったよ」

許嫁「いいんですよ。私、あなたをこうして待っている時間も楽しいんです」

許嫁「どんな顔して帰ってくるのかなって、想像しているとわくわくします。そういうことって、男さんはありませんか?」

男「俺はないなあ。想像力が貧困なのかもな」

許嫁「そんなことはないと思いますけどね」

許嫁「ところで、そろそろ恒例の質問をしますけど、おかえりのキスをしましょうか?」

男「毎度の返事をするけど、しないって。許嫁だからって、その関係に甘えたりはしない」

許嫁「私はいいんですよ? 唇や、心や、体を求められても」

男「……付き合ってるわけじゃないんだ。そういうことをするのはおかしいだろ」

許嫁「一緒に暮らしているのに?」

男「うちの親父や、許嫁の父親が勝手に盛り上がってるだけだよ。状況に流されるつもりはない」

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許嫁「ふふ、男さんって律儀ですよね。そういうとこ、とても好ましいです」

男「……そろそろ着替えてくるよ。夕飯、いつもありがとな」

許嫁「いいんです。花嫁修業と思えば、これくらいへっちゃらですよ」

男「そう、だな。いい奥さんになれると思うよ、許嫁は」

許嫁「男さんの、ってことですよね?」

男「――――まだわからないだろ。未来のことなんてさ」

許嫁「そうですね。未来を確かにしたいなら、努力をしなきゃいけません」

許嫁「着替えたらすぐに来てくださいね。ご飯、用意しておきますから」

男「わかった」

許嫁「…………」

許嫁「男さん。私ね、男さんがどんな顔で帰ってくるのか、いつも楽しみなんですよ」

許嫁「ばれてないと思ってる。その滑稽さが愛らしいです」


    ◆夕方 教室

女「男くん……」チュ、、、

男「ん……」

女「もう、帰らないとだよね……」

男「悪い」ギュッ

女「ううん、いいの。しょうがないんだって、わかってる」

男「親父がなかなか話を聞いてくれないんだ。一緒に暮らすよう仕向けておいて、責任を取れとか言いやがる」

男「そんな無責任なことする子供に育てたのかっていうんだよ」

女「……男くん、よく我慢してるよね。男の子だもん、えっちなことしたくなるでしょ?」

男「惚れた女がいるのに、別の女とそういうことできるかよ。女以外となんて考えられない」

女「うん。……ごめんね。あたし、ひどいこと言ってる」

男「仕方ねえよ。女の立場からすりゃ、俺の発言を信じろって方が無理だ」

男「実際、男友や女友だって、俺と許嫁に体の関係があるって前提のネタを振ってくるしな」

女「男くんも許嫁さんも否定しているのに、みんな聞いてくれないよね」

男「一緒に住んでるんだ、しょうがないだろ。俺も外野だったらはやし立ててる」


 男くんが部活を終えた後、ほんの一〇分くらいの短い逢瀬。

 わたしと男くんは中学の時から両思いで、一年生の頃には内緒で付き合っていた。始めてのデートは映画館で、今でもくすぐったい思い出だ。

 そしてそのままずるずると、こそこそ会う関係に甘んじている。

 いっそみんなに打ち明けていれば。恥ずかしいからと内気になった昔の自分が恨めしい。

 中学二年の時、男くんに許嫁ができた。両親にとても反発したけど、話を押し進められてしまったらしい。

 それからすぐ、許嫁さんが転校してきた。

 びっくりした。こんなに綺麗な人が本当にいるのかと驚いた。

 髪や肌を見れば、どれだけお金と気を使って手入れをしたか一発でわかる。

 立ち居振る舞いからは上品さが漂っていて、庶民のわたしには太刀打ちできないくらいの女らしさがあった。

 そして何より、男くんに注ぐ愛情は本物だった。

 話を聞いてみれば、ぽっと出の女の子というわけじゃないらしい。

 以前から交友があったし、その中で好意を何度もほのめかされていたみたいだ。

 許嫁さんのひたむきさや、両家の会社の思惑があって、今回のことに繋がったというだけで。

 あれから三年。わたしたちは高校二年生になって、もう取り返しがつかないことになっていた。

 わたしと男くんの関係は、きっともう終わっている。

 男くんと許嫁さんはみんなが公認の仲で、わたしは二人の間に入り込んだ泥棒猫だ。

 始まりがどうだったかなんて、とっくに吹き飛ぶくらいの季節が巡っていた。


    ◇自宅

許嫁「今日、父から連絡がありました」

男「なんだって?」

許嫁「高校を出たらどうする、だそうです」

男「どうするって……」

許嫁「もう高校二年の一二月ですからね。進学先も決めて勉強に励んではいますが、父はそれだけじゃ飽き足らないそうです」

男「……いつ結婚するんだ、ってことか」

許嫁「ふふ、おかしいですよね。若い男女を一緒に住まわせて、いつ子供ができてもおかしくない状況を作ってるのに、気にかけるのは結婚の時期みたいです」

男「俺と許嫁は付き合っているわけじゃないって、許嫁からも言ってるんだろ?」

許嫁「もちろんですよ。私は男さんが好きですが、まだ男さんに好かれているわけじゃありません。そうはっきりと言ってあります」

男「それなのに結婚がどうと言われるのか」

許嫁「一緒に暮らしてから二年弱が経ってますからね。情がわいただろうし、口で何と言っても関係があると思われているみたいです」

男「はあ。勘弁してほしいな」

許嫁「――――男さん。私はいつでもいいんですよ。男さんが私を愛してくれるなら」

許嫁「それとも、他に好きな女性がいましたか?」


男「そういう、わけじゃ……」

許嫁(女さんのことを打ち明けられない。それは打算っていうんですよ、男さん)

許嫁(それとも、私を傷つけたくないという優しさでしょうか)

許嫁「とても切れ味のいい優しさですね」

男「切れ味……? 何の話だ?」

許嫁「いいえ、何でもありませんよ。料理のことを思い出しただけです」

男「とにかく、親父に言って許嫁のお父さんにも話を通してもらうよ。結婚とか、そういうのはまだ考えてないって」

男「二人の意志を尊重してくれってな」

許嫁「そうですね。結婚ともなれば、お互いに覚悟を持って望まなきゃいけません」

許嫁「男さんが、ああすればよかったこうすればよかったと後悔することになりますからね」

男「……ごめんな。許嫁は俺を好きだって言ってくれてるけど、でも俺は、その気持ちに応えられない」

許嫁「いいんですよ、無理はしなくて」

許嫁「私はちゃんと、男さんのことがわかっていますから」


    ◆昼休み 教室

男友「羨ましい限りだ、おまえは今日も愛妻弁当かよ」

男「しつこい奴だな、妻じゃねえって言ってるだろ」

女友「一緒に暮らしてるんだからほぼ妻じゃない。ねえ?」

女「はは……うん、そうだね」

ジジジ、、、

許嫁『これよりお昼の放送を始めます。BGMは、一年の後輩さんリクエストの「me me she」です』

許嫁『この曲は、好きな人を忘れられない男性の気持ちを歌ったものです。すこし照れくさい歌詞も多いですが、とてもいい曲ですよ』

許嫁『それでは最初のコーナーから、「知りたい、あの子のプロフィール」です』

男友「始まったな」

女友「許嫁ちゃんが部長になってから始まったお昼の放送、すっごい評判いいわよね。実際、あたしも好きだけどさ」

男友「男からすれば鼻高々だろ」

男「何で許嫁の功績を俺が誇れるんだよ」

♪『この恋に僕らの夢を乗せるのは重荷すぎたかな』


女友「だからって、ちゃんと褒めてあげなさいよ? 女の子って、そういうとこを気にしてるんだから」

男友「がさつな女友でさえそうなら、男はより一層の気を使ってやらなきゃな」

女友「男友、あんた今、何か言った?」

男「……」

女「男くん? どうかした?」

男「いや……」

男「いい曲だな、と思ってさ」

許嫁『次のコーナーは「おれの部活をきいてくれ」です。部活動の紹介もようやく半分、折り返し地点ですね』

女「そう、かな。わたしはこの曲、あんまり好きじゃないな」

男「そうか?」

女「うん……最近ね、失恋の歌を聞くの、辛くて」

女友「ふーん? 何よ女、好きな人でもいるの?」

女「そういうんじゃ……ないけど」

男友「女友さあ、ここにはオレや男もいるのに、話せるわけないだろ。だからがさつだって言うんだよ」

女「もう、男友くんはそうやって女友ちゃんをからかってばかりなんだから」

男「――――」

♪『僕が例えば他の人と結ばれたとして』


 ここ最近のわたしはずっと、他人の不幸を願っている。

 男くんか許嫁さん、どちらかの会社が倒産しないかな、とか。

 許嫁さんに言い寄る人が現れないかな、とか。

 こんなことを考えちゃうわたしだから、きっと男くんには相応しくなくて、だから許嫁さんが現れたんだと思う。

 原因と結果のめちゃくちゃな思考を、筋が通っていると思えてしまう。それくらい、わたしの心は壊れかかっている。

 せめて男くんが、何か言ってくれればいいのに。

 わたしだけいれば、他には何もいらないとか。

 クラスのみんなの前で、許嫁さんに、おまえとは一緒にいられないとか。

 ……ううん、わかってる。そんなこと、男くんに言えるわけない。

 男くんは殊更に許嫁さんを傷つけたくないから、自分のお父さんを通して結婚の約束を破棄させようと頑張っている。

 三年間、ずっと頑張っていて、でも全く成果が挙がらないけれど。

 だからつい疑ってしまうんだ。わたしの心は汚れているから。

 男くんにとって、わたしは遊びなんじゃないかって。

 未だにキスしかしてくれないのは、責任とか重いことを言われるのを嫌っているんだって。

 ……高校を卒業する頃には、しれっと、許嫁さんと結婚するんじゃないかって。

 そう考えて、ああもうダメだと絶望する。わたしの心にはドロがたまっていて、きっと体まで腐ってる。


    ◇夕方 教室

許嫁「女さん、誰かと待ち合わせですか?」

女「っ!? び、びっくりした。許嫁さん、どうしたの?」

許嫁「たまには男さんと一緒に帰りたいなと思ったんです」

許嫁「いつもは夕食の準備があるから早く帰りますけど、今日は両親に呼ばれているので、男さんと四人で外食するんですよ」

女「そう、なんだ。一緒に暮らしてるんだし、やっぱり家族ぐるみの付き合いなんだね」

許嫁「ええ。男さんはあまり乗り気じゃないんですけどね」

女「――――そう、なの?」

許嫁「はい。男さん、私との結婚については、事あるごとに言っているでしょう? 両家の親が盛り上がっているだけ、と」

女「うん、そうだったね」

許嫁「私との結婚を考えてはいないみたいです。まだ、と思いたいですけどね」

女「そう、なんだ……へえ」

許嫁「…………」

許嫁「女さんはまだ教室に残りますか? もしそうなら、お話相手になってくれるとありがたいですが」

女「あ、ううん! わたし、そろそろ帰らなきゃっ」


許嫁「そうですか。残念ですね」

女「ごめんね? 男くんなら、きっともうすぐ来ると思うよ?」

許嫁「――――もうすぐ、ですか?」

女「……っ」ゾク

女「う、うん。下校時刻の一五分前に部活が終わるって、有名だから」

許嫁「へえ? 詳しいんですね?」

女「く、詳しいってほどじゃ、ないよ? わたし、それぐらいしか知らないし」

許嫁「でも良いことを聞きました。ならあと少し待っていれば男さんと会えますね」

女「う、うん。そうだね」

許嫁「ところで、女さん?」

女「な、何かな?」

許嫁「お昼の放送で流した曲、あまり好きじゃなかったそうですね」

女「えっと、うん。あ、選曲が悪いってわけじゃないよ?」

許嫁「失恋の曲が好ましくない、とか。女友さんからうかがいました」

女「はは……女友ちゃん、おしゃべりなんだから」


許嫁「気にしていましたよ。好きな人でもいるのかな、と」

女「そういうんじゃないの。同じことをまた話してたら、女友ちゃんにもそう言ってくれる?」

許嫁「ええ、わかりました」

女「それじゃあ帰るね。その、男くんと仲良くね?」

許嫁「ありがとうございます」

許嫁「……ですが、一つだけ」

女「なに?」

許嫁「友達としての忠告、というよりも要らぬお節介でしょうか」

許嫁「欲しいと口にできない相手なら、きっと手に入ることはありませんよ?」

女「…………」

許嫁「余計なこと、でしたね。それではさようなら、女さん」

女「さ、さよなら」

許嫁「…………」


    ◆夜 料亭

許嫁父「ところで男くん、娘はしっかりやれているかな?」

男「はい。学校と家事の両立は大変だと思いますが、とても良くしてくれています」

許嫁父「ふむ。高校に入ってから一緒に暮らしているのだし、そろそろ家事に手を抜くだろうと思っているんだがな」

許嫁「父さんは私をどんな目で見ているんでしょうね」

許嫁母「そうですよ、お父さんったら。そういうところで手を抜けば女として負けなのだと、厳しく教えたのは私なんですよ?」

許嫁父「いやはや、最近はいっつもこうだ。ちょっと何かを言えば、すぐに娘と妻から袋叩きにされてしまう」

男「女は強し、と言いますからね」

許嫁父「全くだ。男くんも結婚するとなったら、覚悟しておくといい」

男「……はい」

許嫁父「ところで、だ」コトン

男(箸を置いた。団らんが目的じゃなく、本題はここからか)

許嫁父「男くんの父親、堅苦しさを除いて言えば男父のやつが、以前から言ってきていることがある」

許嫁父「男くんがどうも、結婚に乗り気じゃない、とな」

男「…………」


許嫁父「事実かな?」

男「それは、本当です」

許嫁父「娘が気に入らない、というわけではなさそうだが」

男「許嫁さんは素晴らしい女性だと思います。僕にはもったいないくらいに」

許嫁父「その娘から愛されているとしても、結婚には及び腰か」

男「申し訳ありません。ここまで良くしてもらって、身勝手だとは思いますが」

許嫁父「男くんと娘が当事者なんだ、あまりこちらから口を出すべきでないとはわかっている。頭を上げてくれ」

男「はい」

許嫁父「許嫁」

許嫁「なんでしょうか」

許嫁父「男のことが好きか?」

許嫁「愛しています」

許嫁父「男くんが愛していないとしても、か」

許嫁「愛してもらえないから愛さない、そんな幼い感情のつもりはありません」

許嫁父「そうか」


許嫁父「――――ここからは、親の欲目としての話でもある」

許嫁父「もし男くんにその気がないなら、結婚は破談で構わない」

男「本当、ですか?」

許嫁父「ただし、高校を卒業するまでに気持ちが変わらなければ、だ」

許嫁父「それまでは許嫁と一緒に暮らしてほしい。娘の気持ちが本物だから、君の心を動かせるんじゃないかと期待もしてしまうしな」

許嫁父「汚い話をしてしまえば、男父の会社とより親密な取引をしたいということもある」

許嫁母「あなた、そういうことはあまり……」

許嫁父「もう男くんは高校生だ、それくらい察しているだろう。いまさら白々しい会話をするのも不誠実だ」

男「そう、ですね。失礼ながら、僕らのことだけを考えた縁談ではないとわかっています」

許嫁父「だろうな。だが深刻に考えないでくれ。男父の奴とは親友だが、公私混同するつもりはない。ビジネスとプライベートは別だ」

許嫁父「だから男くんが許嫁を選ばなくても、それを責めるということは誰もしない」

許嫁父「不義なことをすれば別だがね」

許嫁父「……許嫁。結婚に関しては、そういう条件に変える。それでいいな?」

許嫁「ええ。周囲がどうあろうと、私の気持ちは変わりません」


 どうしよう、どうしようと頭の中が混乱で一杯になっている。

 布団に入って、頭まで毛布をかぶって、それでもちっとも眠れない。

 許嫁ちゃんはきっと、わたしと男くんの関係に気がついている。

 夕方のあれはきっと、わたしに釘を差しにきたんだ。

「私の男に手を出すな」って。

 いつもどおりの柔和な表情をして、けれど目の笑っていない顔が思い浮かぶ。

 いくら追い払おうとしても、許嫁ちゃんはわたしの前からいなくなってくれない。

 それどころかどんどん近づいてきて、わたしを責め立てるようにカツカツと足音を鳴らしながら、かごめかごめのように周囲を回る。

 わたしは鬼だ。目隠しをされて、善良な人間から石を投げつけられる、悪者の鬼だ。

 やめて。もうやめて。わたしはただ、男くんと一緒にいたいだけなの。

 そんなことも願っちゃいけないくらい、世界って狭量なものだったの?


    ◇昼休み 放送室

許嫁「これよりお昼の放送を始めます。BGMは、三年の先輩さんリクエストの『THE END OF THE WORLD』です」

許嫁「お互いを思い合う男女が行き詰まった恋愛を嘆く歌で、綺麗なメロディーだけが二人を祝福してくれるような、そんな曲ですね」

♪『「行いが悪かったかな」ごめん冗談で言ったつもり』

許嫁「それでは最初のコーナーから、『知りたい、あの子のプロフィール』です」

許嫁「皆さんご存知の通り、このコーナーはあらかじめアンケートを行い、選ばれた方にインタビューをしてから、ちょっとした秘密などをお話しています」

許嫁「ところが今回、インタビューは行っていません」

許嫁「というのも、選ばれてしまったのは私なんですよね」

許嫁「私のことを話してもいいのですが、なんだか自分大好きっ子のようで恥ずかしいですし、私の紹介は行いません」

許嫁「紹介するのは、私の婚約者として有名な男さんのことです」

♪『できそこないの恋は あまりにも見栄えが悪くて』


許嫁「学校での様子を知る方はいるでしょうから、家の中での様子について話させていただきますね」

許嫁「実は男さん、テレビの前でじっとしているのが苦手な人なんです」

許嫁「映画を見ようものなら、開始から三〇分もしない内に席を立って、勉強なり読書なりを初めてしまいます」

許嫁「テレビを見ながら何かをする、そんな器用なことを始めてしまうんです」

許嫁「けれど映画もちゃんと見ているようで、内容について話すこともできるんですよ? 映画が嫌いなわけじゃないようですね」

許嫁「――――こんな男さんと映画館でデートしたら、きっと大変でしょう。何しろ、映画だけに集中することができないんですからね」

許嫁「うーん、でもこんなことを勝手に話したから、教室に戻ったら怒られてしまうかもしれませんね」

許嫁「だから今のうちに言っておきます。私はどんな男さんも好きなんですよ」

許嫁「……この放送を聞いていた皆さん、ご飯をこぼしたりはしませんでしたか? うっかり笑った方がいたらごめんなさい」

許嫁「苦情は全て、放送部の部長、許嫁にお願いします。放送の台本を書いているの、私ですからね」

♪『世界の終わりみたいな顔して』

許嫁「――それでは次のコーナー、『この問題を作ったのは誰だ?』です」


    ◆夕方 教室

女「男くん、映画を見るのが苦手だったんだね……」

男「いや、別にそういうわけじゃ」

女「わたしが見たいってお願いした時に、どうして言ってくれなかったの?」

男「ちょっと待てって、落ち着けよ。映画が嫌いなわけじゃないんだって」

女「じゃあどういうことなの? 許嫁さんが言ってたのは嘘ってこと?」

男「嘘ではないけど」

女「ならやっぱり嫌いなんじゃない!」

男「だから話を聞いてくれって!」

男「……なんというか、話が先に進むのを待っているだけなのが苦手なんだよ。自分のペースで進められないからさ」

女「それで?」

男「女と映画を見ていても、片手間にはなったけどさ。でも、映画に夢中な女を見てたから、退屈だとかは思ってない」

女「本当、に?」

男「こんなことで嘘つくかよ」

女「……ごめんね。わたし、どんどんイヤな子になってく」


男「変なこと言うなよ。それより、もうほとんど時間ないぞ」ギュッ

女「うん……」

男「女」

女「男くん――」

♪『世界の終わりみたいな顔をしてキスをする僕ら』

男女「!?」

許嫁「男さん、そろそろ帰りませんか?」

男「い、許嫁……」

許嫁「今日はご飯の準備が早めに終わったので、一緒に帰ろうと学校に戻ってきたんです。迷惑でしたか?」

男「迷惑、とかじゃ……」

女「…………」

許嫁「どうかしましたか、女さん。顔、青ざめてますよ?」

女「ご、ごめん、なさい……違う、違うの、わたし……わたし、は」

男「許嫁、違うんだ。女は悪くない」

許嫁「そうでしょうね。もっと言えば、私に怒る筋合いはない。ですよね?」

女「……?」


許嫁「まだ女さんに伝えていませんでしたか? 高校を卒業して、それでも気持ちが変わらないなら、婚約は破談になるんだと」

女「!?」

女「ちょっと、待ってよ……どういうこと?」

女「どうして!? わたし、そんな話聞いてないよ!」

男「これから言うつもりだったんだよっ。映画のことで女が怒ってたから、話せなかっただけだって!」

女「だからって、そんな大事な話をどうして後回しにしたの……?」

男「だから! これから話すつもりだったんだって言ってるだろ? 昨日の夜に決まったんだ、話す機会は今しかなかったんだよ」

許嫁「私にばれることを嫌って、男さんは夜に連絡を取り合うことはしてませんでしたからね」

男「……なあ、いつから気が付いていたんだよ」

許嫁「さあ、いつからだと思いますか?」

男「…………それなのに、どうして俺のためにあそこまで尽くせるんだよ」

許嫁「男さんのことを愛しているから、それが理由では不足ですか?」

男「だから、って」


許嫁「そうですね。でしたら今くらい、好きなように言わせてもらいましょう」

許嫁「男さん、あなたはどうして女さんとの関係を私に黙っていたんですか?」

許嫁「女さんと破局しても、あわよくば私がいる、そんな打算があったんでしょうか」

男「ち、違う! そういうわけじゃないっ!」

許嫁「ええ、そうじゃないと私はわかっていますよ」

許嫁「でもね、男さん。世間では、あなたの言い分は通りません」

男「それは……」

許嫁「女さん」

女「な、なに……?」

許嫁「私をあざ笑うのは楽しかったですか?」

女「え? なにを、いって」

許嫁「私が愛情を向けても男さんから袖にされ、自分だけは愛情を交わせる、そんな秘密の関係は楽しかったですか、と質問しているんです」

女「ち、違うよっ。わたし、そんなこと……」

許嫁「そうでしょうか。男さんと違って、私は友人としての女さんしか知りませんから、内心がどうかはわからないんです」

許嫁「私を陰で見下していた、そうだとしても不思議じゃありませんよ」


女「そんなことない! わたしはただ、男くんを好きだっただけなの!」

許嫁「そうですか。なら、証明してみせてください」

女「証明、ってどういうこと……?」

男「待ってくれよ許嫁。悪いのは俺だ。女を責めないでくれ」

許嫁「誰が悪い、という話ではないと思いますよ」

許嫁「私と男さんは親に強いられた婚約で、男さんからの愛情はなかった」

許嫁「男さんと女さんは両思いでしたが、関係を人に教えることができなかった」

許嫁「そして私と女さんは友達で、そこに黒い感情はなかったと女さんは言う」

許嫁「でも私には信じられません」

男「許嫁……」

許嫁「だから教えてほしいんです。私を見下す気持ちはなかったんだって」

許嫁「私の醜い嫉妬ではなく、当たり前の疑問なんだってことを、です」


 許嫁ちゃんの言いたいことは、その時まだ、よくわかっていなかった。

 許嫁ちゃんの一歩後ろをついていく男くんは、帰る時、わたしに気遣わしげな視線を向けて、それからわたしに背中を向ける。

 しょうがないんだろうと思う。男くんは許嫁ちゃんと一緒に暮らしていて、同じ家に帰らないわけにはいかないのだ。

 まさかわたしの家に呼ぶというわけにもいかない。お母さんもお父さんも許してくれないに決まってる。

 どうしてこうなったんだろう。これまでとは違う意味でそんなことを悩みながら、いつの間にか眠り、朝になり、それから学校に行った。

 そこでわたしはようやく、許嫁ちゃんの言っていることがわかった。

 教室にわたしと男くんの居場所はなかった。机が隠されていて、椅子だけがぽつんと残っている。

 どうしようか迷って、とりあえず椅子に鞄を置いてから、ロッカーに向かう。

 ロッカーは壊されていた。中にあった教科書は破かれていて、入れてあった体操着はなくなっている。

 どうしよう、そう困っているわたしの隣に誰かが立ったので、反射的に見上げてしまう。

 隣にいたのは女友ちゃんだった。

 おはよう、そう挨拶する。返事はない。わたしを黙殺した女友ちゃんはロッカーから教科書を取り出すと、素知らぬ顔で教室に戻っていった。

 わたしがいる時に教科書を取りに来たのは、きっとわざとだろう。無視することを見せつけに来たんだ。

 そう理解して、わたしは打ちひしがれる。

 女友ちゃんとは小学校からずっと一緒だった。

 クラスが違ったことは何度もあるけど、それでも友情が途切れることはなかった。

 けれど今日、これまで続いてきた友情はぷつりと切れてしまったみたいだ。


    ◇放課後 教室

女友「許嫁、元気を出しなよ」

許嫁「私は大丈夫ですよ。……でも、ありがとうございます」

女友「ほんと信じられない。女も男も、何を考えているわけ?」

許嫁「そう、ですね。そのことだけは、少し辛いです。まさか二人が、って」

許嫁「でも、皆やりすぎじゃないでしょうか。机を隠したり、教科書を破いたりなんて、それはイジメですよ?」

許嫁「誰が指図しているのかわかりませんが、やめてほしいと思います」

女友「そうね、あたしも教室に来て驚いたもの」

女友「でもそれだけ、男と許嫁のことを羨ましく、妬ましく思ってたんでしょ?」

女友「こっそり女と浮気してたなんてわかれば、そりゃあ袋叩きに会うわよ。自業自得だわ」

許嫁「ですけど……男友くんのことも心配ですし」

女友「あいつ、お茶らけているようで、曲がったことが大嫌いなのよ。男を殴るとは思ってたわ」

女友「……まさか教師の前で殴るとは思わなかったけど」

許嫁「男さん、先生に必死に弁解してましたから、停学や謹慎にならなければいいんですけどね」


女友「ま、大丈夫でしょ。授業そっちのけで職員室に連れてかれたならともかく、放課後の呼び出しだもの」

女友「せいぜい反省文と課題くらいじゃないかしら」

許嫁「それならいいんですけど……あとで男友さんにお礼を言わないといけませんね」

許嫁「私のため、だったんでしょうから」

女友「男のためでもあると思うわよ」

女友「あいつ、なんだかんだで友情にあついから」

女友「……ねえ許嫁、こんなことがあっても男と一緒に暮らしてるのよね?」

許嫁「ええ。男さんを好きなことに変わりはありませんし」

女友「居づらいなら、何日かあたしの家に泊まってもいいわよ?」

許嫁「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」

許嫁「男さんへの気持ちなら、女さんにだって負けませんから」

女友「……たくましいわね、許嫁って」

女友「こんな子を裏切るとか、あたしまで男を殴ってやりたくなるわ」


    ◆夜 自室

男『これ以上ひどくならないためにも、学校で話しかけたりはできないと思う』

女『そうだよね』

女『ねえ、メールだけじゃなくて、電話をしちゃダメ?』

男『許嫁が隣の部屋にいるから』

女『わたしたちのことはバレてるのに、隠す必要があるの?』

男『だとしても時間が時間だろ。明日は、もうちょっと早い時間に電話をかけるから』

女『うん、わかった。我慢する』

コンコン

許嫁「男さん。少し時間をもらえませんか?」

男「……俺が最低なことをしたのはわかってる。もうそれでいいだろ?」

許嫁「それじゃよくないから、こうして何度も話しかけているんです」

許嫁「昨日の夜から私がご飯を作っても食べてくれませんし、男さん、私のことを避けていますよね? それじゃ、話し合うこともできません」

男「いまさら何を話し合えって言うんだよ」

許嫁「これからのことを、男さんは成り行きに任せるつもりですか? それこそ、私たちの両親が許してはおかないですよ?」


男「……わかった、話すよ。先に行っててくれ」

許嫁「わかりました。待っていますね」

男「ああ」

男「……行った、か。はあ、くそっ。こういうことになる想像もしてたけど、予想以上にきついな」

男「どうすりゃ良かったんだよ、俺は」

ガチャ、バタン

……


ブーッ、ブーッ

女『あのね、男くん。わがままでごめん。でもどうしても会いたいの』

女『今から男くんの住むマンションまで行くから。着いたらまた連絡するね』

いったんここまで。
30分から1時間ほどで再開します。

こういう独善的な周囲の反応って大嫌いだわ
取り敢えず学校の友達連中は苦しんで死んで欲しい

>>31
胸糞注意な内容でした、すみません

以降も胸糞が悪くなるかもしれません、ご容赦を


許嫁「男さん、頬は痛みませんか?」

男「かなり全力で殴りやがったからな、男友のやつ。手を痛めてなきゃいいんだけど」

男「……歯が折れたわけでもないし、俺の心配はしなくていい」

許嫁「そんなことは無理ですよ。好きな男を心配するなって、そう言われる方がよっぽど残酷です」

許嫁「――――ごめんなさい。ここまで話が広まるとは、思ってませんでした」

男「どうだか。けど、許嫁が悪いわけじゃないだろ。お前が怒るのは当然だし、俺は男友に殴られるだけのことをした」

男「……女には、あまり辛い思いをして欲しくないけどな」

許嫁「女さん、ですか」

男「女のことも心配だろ?」

許嫁「いいえ」

男「…………」

許嫁「男さんって、人を気遣っているようで、時々とても残酷ですよね」

許嫁「好きな男性が奪われそうなのに、私はその相手まで気遣わなければいけませんか?」

男「……悪い。無神経だった」

許嫁「いいんです。悪意がないことはわかっています」


男「女だって俺と同じだよ。悪気はなかった」

許嫁「だから許せ、男さんはそう言いたいんでしょうか」

男「そういうわけじゃないが……」

許嫁「女さん自身が隠していても、過去は雄弁ですよ」

許嫁「友人として過ごしながら、私の婚約者と隠れて愛をささやきあっていた」

許嫁「隠れていたのは男さんも同じですけどね」

男「…………」

許嫁「でも、こうなるといよいよ父の話が現実的になってきましたね」

男「破談、か」

許嫁「男さんにその気がないなら、そうなるしかありません」

男「…………すまない」

許嫁「いいんです、もう」

許嫁「――私、なんだかお腹が空いてきちゃいました」

男「ご飯を食べなかったのか?」

許嫁「男さんが食べないとわかったら、張り合いがなくなっちゃって」

許嫁「ふふ、母に叱られちゃいますね。手を抜くのは女として敗北だって」

男「こんな時くらい、許してくれるだろ」

男「あー……何か外に食べに行くか?」

許嫁「いいんですか?」

男「俺も腹が減ってきたしな……。空腹の奴は、こんな時でも図太いらしい」

許嫁「なら一緒に行きましょうか。すぐ近くにラーメン屋さんがありましたよね? あまり夜歩きは好まれませんし、そこでいいですか?」

男「ああ、許嫁がそれでいいなら」


許嫁「はぁ……この時期になると冷えますね。手、かじかんじゃいます」

男「手袋はしないのか?」

許嫁「歩いてすぐですし。……なんでしたら、男さんが手を握って温めてくれてもいいんですよ?」

男「それ、要求か?」

許嫁「罪滅ぼし、と思って頂ければ」

許嫁「……私だって年頃の女なんです。ずっと我慢してきたんですよ? これくらい、かわいいお願いだと思います」

男「はあ、わかったよ」

ギュッ

許嫁「ふふ、男さんの手、大きくて固いですね」

許嫁「けれどこんなにあったかくて、自然と顔がにやにやしちゃいます」

男「あまり変な顔するなよ。通行人に変な目で見られる」

許嫁「あ、ひどいですね。こんなに可愛い子をつかまえて」

男「そういうこと、自分で言うなよな」


女「おとこ、くん? ねえ、どういうこと?」


男「女? どうしてここに」

女「メール、送ったよね? 見てないの? だって、そんなに時間空けたわけじゃないのに……」

女「だいたい、どうして、なんで手を繋いでるの? 男くん、言ったよね? 許嫁ちゃんのことは好きじゃないって」

男「ち、違うって! これは」

女「何が違うのか教えてよっ!」

許嫁「――――私が手を繋いでほしいとお願いしました。それだけですよ」

女「ちょっとお願いされたくらいで、男くんは女の子と手を繋ぐっていうの!?」

許嫁「男さんの罪悪感につけ込んだんです。それに、手を繋ぐくらい幼稚園児だってしますよ」

女「大きくなってからは意味が違ってくるよっ」

男「ごめん、女、俺が軽率だっただけだ。怒るなら俺にしてくれ」

女「――――なに、それ」

女「どうして許嫁ちゃんをかばうの?」

女「やっぱりわたしなんかより、許嫁ちゃんの方がいいの?」

女「そうだよね、許嫁ちゃん優しいもんね。教科書のない男に見せてあげたりとか、してたもんね」

女「最初は断ってたけど、だんだん断りきれなくなって、その後はずっと一緒に見てたよね」

女「わたしは破れた教科書で頑張ってたのに、どうしてってずっと思ってた!」


 さんざん怒鳴り散らした後、わたしは錯乱したまま二人から逃げ出して、気がついたら家に帰っていた。

 家に帰ろうとなんて全くしていなかったのに、こうしてちゃんと家に帰れるのだから、人間って凄いなと思う。

 それとも、何かイヤなことがある度にいつも逃げていたから、家だけは安全だと頭に刷り込まれているのかもしれない。

 わたしは小さい頃から弱虫だった。

 公園で男の子にからかわれて布団から出られなくなった。クレヨンを返してくれないことが悲しくて部屋で膝を抱えていた。

 子供の頃からそんな感じで、それは今も変わらない。

 今夜だって、男くんに会おうとする前は、制服から着替えることもできずに頭から毛布をかぶっていた。

 学校で除け者にされるのがイヤでイヤで、もう自分の部屋から出たくなかった。

 けれどわたしは弱虫だから、自分の部屋に閉じこもることさえできない。

 家族に怒られるのもイヤだから、わたしは自分の部屋から学校に逃げ出さなきゃいけないのだ。

 だから、わたしが安心できる居場所なんて、本当はどこにもない。

 夕方の教室で、男くんと一緒にいられるほんの一〇分間が、一番それに近いはずだったけど。

 もうわかってる。そんなものは幻だった。


    ◇朝 自宅

ブーッ、ブーッ

許嫁「メール、ですね。女さんから男さんへ、ですか」

許嫁「便利ですね、自動転送機能って」

女『男くんのことを信用できない』

許嫁「――――馬鹿な人。その程度で消えてしまうような気持ちで、男さんを好きだと言っていたんでしょうか」

許嫁「だからあなたは、こそこそとした恋愛の真似事しかできないんですよ」


    ◆朝 学校

男「女、話がある」

女「…………」

男「ちょっと一緒に来てくれないか」

女「…………」

男(周囲からの視線がきついな……俺は文句を言う筋合いねえけど)

女「……あ、許嫁ちゃん」

許嫁「おはようございます、女さん。何か?」


女「ごめんなさいっ!」


許嫁「それは何に対してでしょう?」

女「男くんとのこと、黙っていてごめんなさい」

女「許してなんて図々しいことは言わない。わたし、男くんとはもう口を利かないから、それだけ覚えていてほしいの」

許嫁「……男さんのこと、好きではなかったんですか?」

女「好きだった」

女「好きだったけど、わたしと男くんは、きっとうまくいかないから」


男「待てよ! どういうことだよそれは!」

女「もうやめようよ。男くん、わたしのことなんてどうでもいいんでしょ?」

男「そんなわけないだろ!? 俺は、女のことが」

女「もう男くんの何を信じていいかわからないよっ!」

男「女……」

男「待ってくれよ。頼む、俺の話を聞いてくれないか?」

女「…………」

許嫁「女さん。あなたの気持ちはわかりました」

男「許、嫁?」

許嫁「それでは友達に戻りましょう、なんて簡単な話ではありませんが」

許嫁「せめて仲の良いクラスメイトになれたら、と思います」

女「うん。ありがとう、許嫁ちゃん」

男「待て、よ。なんだよそれ。俺の気持ちはどうすればいいんだよ」

男友「――――男。お前、そろそろ見苦しいぞ」

男「……男友、頼むよ。俺の話を聞いてくれ」

男友「自分の不始末くらい受け入れろよ。オレはまたお前を殴らなきゃいけないのか?」


男「いや、…………悪い」

男(最悪の気分だった。何もかもがうまくいかないって、こんなことを言うのかもしれない)

男(俺が悪いことなんてわかってる。女にも許嫁にもいい顔しようとしたから、こんな結末になったんだ)

男(……こうまでみじめな俺を、どうして許嫁は好きだなんて言えるんだろう。それだけがわからない)

男子「はは、ダッセ」

男「…………」

男「…………」

男「おい」

男子「あ?」

男「てめえ、今なんつった?」


 意外と短気らしい男くんは、自分を笑ったクラスメイトに大足で近づいていく。

 喧嘩、するつもりだろうか。そんなことしても、自分の立場を悪くするだけなのに。

 そんな風に、わたしは冷ややかに男くんのことを眺めていた。

 最低、だよね? それくらいは自分でもわかってる。わたしは自分のことが可愛くて、自分のことしか考えていない。

「黙ってろ」という男くんの低い声が、静まりかえった教室の中で耳に痛かった。

 相手の男子は、そんな男くんをバカにするように鼻で笑い、それから男くんの方を殴るように押した。

 激昂した男くんは相手の胸ぐらをつかんだ。それに対して、相手はもう殴ろうと腕を振りかぶっている。

 そんな二人に、許嫁ちゃんが音もなく近寄っていく。

 男子が振りかぶった腕をつかみ、さらに背中側へ腕を押す。

 体勢が崩れた男子は、自分の邪魔をする許嫁ちゃんをふりほどこうと、力ずくで手を払った。

 ――――許嫁ちゃんは地面に倒れ、頭を打ち、そのまま動かなくなった。

 ああ、と息が漏れる。

 男くんのため、無謀にも男子を止めようとした許嫁ちゃん。どれだけ男くんを愛しているのか、それだけでよくわかった。

 助けようとしないどころか、喧嘩する男くんをバカにしていたわたしとは、人間として格が違っている。

 これでどうして、男くんが許嫁ちゃんじゃなくわたしを選ぶと思えたのだろう。


    ◇夜 許嫁実家

許嫁(短い時間とはいえ意識を失った振りをしていましたから、念のためにと病院に運ばれ、当然、問題はありませんでした)

許嫁(そしてもちろん、両親にも連絡が行き、私と男さんは実家まで呼び出される)

許嫁(男さんが喧嘩をしたのは予想外でしたけど、それでも悪い流れにはなりませんでしたね)

許嫁(ここまでは、おおよそ計画通り)

許嫁(――――ふふ。男さん、あなたを助けられるのは私だけなんですよ)

許嫁父「娘に大事がなかったことだけが幸いだ」

男「…………」

許嫁父「だが一歩間違えば、娘の人生に大きな傷を残していたかもしれない。そうだね?」

男「はい……」

許嫁父「さきほど、娘にケガをさせた子が親と一緒に謝罪に来た。そこで色々と事情を聞いた。正直、耳を疑ったが」

許嫁父「男くん。君は、うちの娘と女という子を相手に、二股をしていたんだってな」

許嫁母「――――」

許嫁父「これが本当なら、私は君をこのまま帰すわけにはいかない。男父の奴にも連絡し、どうするか話し合うことになるだろう」

許嫁父「男くん。どうなんだ?」


男「僕は、……」

許嫁「そのことは私からお話します」

許嫁父「許嫁。今は黙っていなさい」

許嫁「いいえ。むしろ、当事者の男さんが語るより、全てを知る第三者の私が語る方が正確だと思います」

許嫁「男さん。構いませんね?」

男「――――ああ」

許嫁(……とても素敵な表情。罪を暴かれ、死刑を宣告される人もこんな表情をするんでしょうか)

許嫁(でも安心してくださいね、男さん。私がどんなことからも守ってあげますよ)

許嫁父「なら、お前から話しなさい」

許嫁「はい」

許嫁「――――まずは誤解を訂正させてください。女さんは男さんの浮気相手ではなく、ストーカーでした」


許嫁父「……なんだって?」

男「許嫁?」

許嫁「女さんのことは、私たちもほとほと困り果てていました。ですが、それがようやく解決した矢先に、今回のことが起きたのです」

許嫁父「待て、どういうことだ? だいたい、男性を相手に女性がストーカー行為を働くなど、無理だろう」

許嫁「私たちが手をこまねいていたのもそれが理由です。男性は女性より力が強い。だからそんなはず、という偏見があります」

許嫁「ですが付きまといなどによる迷惑行為に力は必要ありません。単に、万が一の事態に陥りにくいというだけです」

許嫁父「それは、そうだが……」

許嫁「警察に相談することも考えましたが、相手をしてもらえるほどの実害はありませんでした」

許嫁「強いて言うなら、女さんが私たちの暮らすマンションに乗り込んできたことくらいでしょうか」

許嫁父「……いつの話だ?」

許嫁「二日ほど前の夜、だったはずです。確か、管理会社は父さんの息がかかっていましたよね? 確認してはどうでしょうか」

許嫁父「少し待ってくれ。連絡をする」

……


許嫁父「……そうか、わかった。あとで映像をこちらに送って欲しい。ああ、頼む」

許嫁父「そのよう、だな。確かに、許嫁と男くんに食ってかかる女の子の姿があったらしい」


許嫁「でしたら、女さんがストーカーであったということも納得してもらえますね?」

許嫁父「ああ――まだ信じられないが、映像にも残っているんだしな」

許嫁(クラスの方に聞き込みをされたら嘘がばれますけど、それをするのは手間がかかりますからね)

許嫁(監視カメラの映像という、手軽な方法で満足してくれるのはわかっていました)

許嫁父「だが、それがどうして二股という話に繋がるんだ?」

許嫁「私と男さんの関係は周知の事実ですが、女さんはそれに関係なく男さんに近寄りました」

許嫁「放課後、二人でいるところを目撃されたこともあるようですから」

許嫁父「本当に浮気ではないんだな?」

許嫁「男さんは部活が終わるとまっすぐ帰宅していますよ。そちらも監視カメラの映像から時間を調べればわかると思います」

許嫁「……私のいない隙に男さんに近づいていましたから、周囲の人が誤解したのでしょう。ストーカーだというのは突飛な考えでしょうから」

許嫁父「う、む」

許嫁「――――だからこそ、ですよ。男さんが、私との結婚を渋っていたのは」

許嫁父「なに?」

男「……?」


許嫁「女さんのストーカー被害が、今後ひどくなる可能性は高かった。もし結婚しようものなら、私に被害が及んだかもしれません」

許嫁「だから男さんは、私のためを思って、結婚を取りやめることも真剣に考えていました」

許嫁「女さんの問題が解決するまでは、です」

男「……っ!」

許嫁父「娘のために、だったのか……」

許嫁「惚れた女以外であっても、闇雲に傷つけたくないという優しさもあったでしょうけどね」チラッ

男「…………っ」

許嫁「ストーカーを相手に浮気を疑われたのですから、男さんの沽券にも関わります」

許嫁「だからといって喧嘩は望ましくありませんが、若気の至りとも言いますよね」

許嫁母「そう、ね。うちの人だってそういうところがありました」

許嫁父「いらんことを言うな」

許嫁「……喧嘩自体は問題じゃありません。止めようとした私が無謀だったんです。今後は控えます」

許嫁父「そうだな。だいたい、人からコケにされて黙っているような軟弱者でも困る。かといって暴力はいけないが」

許嫁父「――男くん。君も色々と大変だったんだな」

男「いえ、僕は……」

許嫁「ですが、問題は無事解決しました。これでもう私たちに障害はありません」

許嫁「男さんさえよければ、私はこの方の妻になりたく思います」


男「っ!?」

許嫁父「なるほど、それもそうか」

許嫁(ふふ、話の流れとしておかしくはありませんよね)

許嫁(あとは男さん次第)

許嫁(でも逃げられませんよね? 断るなら、真実を話さなければいけなくなる)

許嫁(さ、打算の返事を頂けて?)

男「僕、は……!」

許嫁「男さん」ニジリ


許嫁「愛していると、言えますね?」ボソッ


男「――――っ!」

許嫁(ふふ)

許嫁(ふふふ)

許嫁(これであなたは、私のもの)

許嫁(私は晴れて、男さんのもの)


    ◆深夜 自宅

許嫁「すっかり遅くなってしまいましたね」

男「ああ……」

男(祝いの席だから、と飲まされたお酒がまだ体に残ってる)

男(だけどこれは悪酔いだ。息苦しさしか感じない)

男(俺は、許嫁と……)

許嫁「男さん、大丈夫ですか? 父にだいぶお酒を注がれていましたよね」

男「大丈夫。大丈夫、だ」

男(何が大丈夫なんだ? このままだと俺は、女じゃなく許嫁と……)

許嫁「――――ごめんなさい、男さん」

男「……」

許嫁「あなたの意に添わない結果だとは思います」

許嫁「でも、父の疑いを完全にそらすには、あそこまでしなければ足りませんでした」

男「いや……許嫁はよくやってくれたよ。もともと全部、俺が原因の厄介事なんだ」

男「俺に、何かを言う資格はない」

許嫁「――――男さん」ギュッ


許嫁「私じゃ、いけませんか?」

許嫁「私は、愛するに足る女じゃないでしょうか?」

男「……そんなはず、ない。許嫁ほどのやつはそういないよ。嫁にほしがる奴はいくらでもいる」

許嫁「私は今、男さんがどう思うかを聞きたいんです」

男「……感謝は、している」

男「でも俺は、本当に女が好きだったんだ。ふられたからって、その代わりに許嫁を求めるような真似、できるかよ」

許嫁「――いいんですよ、私はそれでも」

許嫁「たとえ今は代わりでも、私は男さんにとっての唯一になってみせます」

許嫁「愛しているのは私だけ、そう言ってもらえる女になりますよ」

男「……けど」

許嫁「お願いします。もう、私を離さないでください」フルフル

男(俺に抱きついて震える許嫁を、拒むことはできなかった)

男(しばらくすると許嫁は俺を見上げ、それから目をつぶった)

男(俺は求められるまま、色香の漂う唇に顔を寄せていく)


男(許嫁との始めてのキスは、ざらついた砂の味がした)


 男くんと別れたり、許嫁ちゃんが病院に運ばれたりと、めまぐるしいことが多かった日の、翌朝。許嫁ちゃんから自宅に電話がかかってきた。

 まだ許してはもらえないのだろうか。どうしても心が怯えてしまうけど、お母さんにせっつかれながら電話を変わる。

 けれど何かと思って話を聞いてみれば、大したことはなかった。

 男くんを助けるために、わたしのことを自分のお父さんに悪く言ったらしいのだ。そんなどうでもいいことが気がかりだったらしい。

 どんなことを言ったかは知らないけど、わたしと許嫁ちゃんのお父さんが関わることはほぼないだろう。だから、別に大したことじゃない。

 ……だってもう、どうやったって男くんは許嫁ちゃんのものだ。

 わたしはずっと男くんの彼女のつもりでいたけど、そんなのは真っ赤な嘘で、悪趣味な幻だった。

 その先の話の内容はよく覚えていない。社交辞令のように怪我を気遣う言葉をかけて、お礼を言われて。

 それから、男くんと許嫁ちゃんが正式に婚約するのだと聞かされただけ。

 それだけ。

 そんな風に、大した話をしないまま、通話は切れた。

 わたしは受話器をいつまでも持ったまま、どこに逃げ出せばいいのかをずっと考えていた。


    ◇昼休み 教室

女友「あれ、許嫁がいる。お昼の放送はどうすんの?」

許嫁「評判がいいようですし、それならと部活の皆で当番を決めることにしたんです」

許嫁「久々に男さんとお弁当を食べたかったですしね」

男友「あーあー暑い暑い。家でもずっと一緒なのに、学校でも一緒にいたがるのか?」

男「……ダメかよ?」

許嫁「私って実は欲張りなんですよ? 男さんと、もっと一緒にいたいなって思います」

男友「からかいが通じないのってすげえやりづらいな……」

女友「ほんとよね。……あ、女?」

女「っ」ビク

女「えっと、な、何……?」

女友「お昼。一緒に食べる?」

女「ううん……わたしは……」タッタッタ

女友「んー。あたし、ちょっと女とご飯食べるわ。じゃね」

男友「おー。がんばってなー」

女友「あんたこそ、よ。生きてなさいよね、男友」

男友「なんだそれ。オレ、死ぬのか?」


……


男友「あ”あ”あ”……死にそう」


許嫁「男さんって、家ではゆっくり食べるのに、どうして学校だと急いで食べるんですか?」

男「時間に余裕があるわけでもないしな……」

許嫁「もう、消化に悪いですよ?」

男「そういう許嫁は、昼休み全部使って弁当を食べる気か? もう半分終わったぞ?」

許嫁「……男さん、何か食べたいおかずはありますか?」

男「そう、だな。ライスボールくれるか?」

許嫁「いいですよ。はい、あーん」

男「やると思った……」

許嫁「ダメでしたか?」

男「いいよ、許嫁がしたいんだろ? あむっ」


許嫁「ふふ。優しいですよね、男さんって」

許嫁「――――あ、ちょっと動かないでもらえますか? 口の端にご飯粒をつけちゃいました」ヒョイ

許嫁「くすっ」パク

男「……お前さあ。男友がいるのに何するんだよ」

許嫁「ダメ、でしたか?」

男「ダメっつうか、恥ずかしいだろ」

許嫁「これといって、別に。自分が男さんのものなんだって、多くの人に知ってもらいたいですよ?」

男「――――そうか」

許嫁「あ、目を逸らしましたね。照れましたか?」

男「さあな」

許嫁「もう……」

許嫁「言ってくれなきゃ、今夜、寝かせてあげませんよ?」コソッ

男「――――」ゾクッ

許嫁「ふふ、なんちゃって。冗談です」


男友「誰かオレを殺してくれよ……」


    ◆放課後 教室

男「誰もいない、よな」

男(俺の部活が終わるのを、女はいつも待っていてくれた)

男(許嫁に疑われたらまずいからと、ほんの一〇分だけの二人きりを、あいつはとても大切にしてくれた)

男「……何でこうなったんだろうな」

男「俺はただ、女を好きだったんだよ。ガキらしく、理由なんてわからないまま、ただ単純に好きだっただけ、なのにさ」

男「――――はあ、アホらし。帰るか」

女「男、くん?」

男「…………女?」

男「そ、っか。女も俺と同じ気持ちだったんだな」

男「なあ女。俺は、」


女「話しかけないでっ!」


男「な……」

女「わたし、忘れ物を取りに来ただけだから……」

女「男くんに会いに来たわけじゃないよ」ガサゴソ

男「…………」

女「――――さよなら」

ガラガラ、タッタッタ

男「……はは」

男「はは、そりゃそうだよな」

男「ああ――だっせえな、俺」


 まさか本当にいるとは思わなかった。

 わざと忘れ物をして、教室に戻る用事を作って、いつもの時間に教室に行っただけのこと。

 他に理由はないんだよ、そう自分を騙して向かった教室に、男くんは佇んでいた。

 まだ、わたしのことを好きなんだろうか。そう期待しちゃうわたしはとても自分勝手だ。

 そして、そんなことがどうでもよく見えるくらい、私の心は醜かった。

 あんなに男くんのことを愛している許嫁ちゃんより、自分のことしか頭にないわたしの方が好かれている。そう考えたら、とても興奮してしまう。

 ……それに、言うほど許嫁ちゃんは完璧な女の子だってわけでもない。

 お昼、女友ちゃんは男くんのことを腐していた。

 二股をして、許嫁ちゃんから情けをかけられて恋人に甘んじている男くんのことが、どうしても受け入れられないみたいだ。

 そんな男くんへの評価は、女友ちゃんに限ったものじゃない。他の女子も似たようなものらしい。

 許嫁ちゃんは男くんの体面を守れなかったのだ。

 じゃあわたしなら守れたかといえばもちろん無理だけど、でも、許嫁ちゃんに瑕疵が見つかっただけでわたしは嬉しかった。


 ――――でも、もしかしたらってわたしは思うんだ。

 それも計算の内なんじゃないかって。

 わたしみたいに横恋慕する子が現れないよう、わざとその風評を放置している。

 理性に狂ったあの子なら、それくらいするんじゃないかって。

 わたしと男くんが逢い引きするところを見ても、全く表情を変えなかった許嫁ちゃん。

 だからこそ、わたしはふと思いついたこの可能性を否定できない。

 全てが計算ずくではないにしても、自分に都合の良い形に現実を歪めている。

 ……そんな風に考えたとで、だからどうしたのだろうと笑ってしまった。

 もうわたしには関係ないことだ。

 男くんが許嫁ちゃんの理性に振り回され、どんなひどい目にあったって、わたしの方に振り向いてくれるわけじゃないのだ。

 そもそも、許嫁ちゃんの気持ち自体は嘘じゃないはずだし、わたしが何かを言える立場じゃない。

 男くんがかわいそうだなんて、助けたいだなんて、いまさらどの口が言うのだろう。


    ◇朝 自宅

許嫁「男さん、明日はいよいよ大会ですね」

男「そうだな。何とか県大会まで進みたいとこだよ」

許嫁「私、応援に行っても構いませんか?」

男「学校はどうすんだよ。平日だぞ?」

許嫁「お休みしちゃダメでしょうか?」

男「うちの部の連中に見つかった瞬間、色ぼけして学校をサボった女と認定されるけどな」

許嫁「そうですよね……男さんの活躍する姿を見たいところですけど、我慢します」

男「そうしてくれよ。心配で試合に集中できなくなりそうだし」

許嫁「でも心配ですね」

男「怪我とか? 注意するよ」

許嫁「いえ、そうではなくて。男さん、私がいなくても寂しかったりしませんか?」

男「……俺をいくつだと思ってるんだよ。小学生だってそんな風に寂しがらないだろ」

許嫁「そうですか。でも私は寂しいですよ?」

許嫁「一生のお願いを一つ聞いてもらえるなら、男さんと片時も離れたくないとわがままを言いたいくらいです」

男「重いよ、その願い事」

許嫁「ええ。私って重い女なんですよ?」クスッ


    ◆翌日

男(まだ誰も来てない、か。集合場所、間違えてないよな……駅で合ってる、大丈夫か)

男(はあ。こんなに早く家を出てどうするんだよ。何してるんだ、俺は)

キャッキャ

男「ん……?」

彼氏「まだ眠い。心底眠い。つか寝させてくれ」

彼女「もうっ。今日はあたしのワガママを聞いてくれるんでしょ!」

彼氏「だからってこんな朝早くじゃなくていいだろ……映画館、まだどこも開いてないんだし」

彼女「言わなきゃわかんないかなあ。いっぱい一緒にいたいなってことなのに」

彼氏「……バカ。わかってるよ」

彼女「ほんとかなあ」

彼氏「ずっと一緒にいてやるって。で、時々スカートめくったりさせてくれよ」

彼女「セクハラはやめて」

彼氏「コミュニケーションだろ」

キャッキャ


男「バカップルかよ」

男「…………」

男「…………」

男「……はは。俺って本当にバッカだなあ」

男「何が欲しいかなんて最初からわかってたじゃねえか」

男「俺は、ずっと」

男「――――行くか」


 学校に行こうと家を出たら、男くんが立っていた。

 今日は部活の大会だから、制服ではなくジャージを着ている。どうしてここに、と疑問を覚えていると、男くんは頭を大きく下げた。

 そして、「女さん、好きです。俺と付き合ってください」と言った。

 ……どうして? どうして、で頭が一杯になる。

 何も言えないわたしに構わず、男くんは次々と言葉をつなげた。

 これから許嫁ちゃんにも自分の気持ちを話しに行くこと。

 自分の両親と許嫁ちゃんの両親に、殴られることを覚悟で頭を下げにいくこと。

 それはわたしの返事がどうかにかかわらず、行うつもりだということ。

 男くんはそこまで言うと、すっきりした顔でわたしに笑いかけた。

 不覚にも心が跳ねる。

 手を振って走り去る男くんを、わたしはずっと目で追っていた。

 わたしは、

 わたしは。

 居ても立ってもいられなくて、男くんを追いかけた。


    ◇学校

許嫁(やはり学校にはいませんよね)

許嫁(部活の集合場所にはいないと連絡がありましたが、どこにいるのでしょう)

許嫁(……女さんがいないことと、関係があるのでしょうか)

女子「許嫁ちゃん!」

許嫁「どうかしましたか?」

女子「物理の課題やってきた!?」

許嫁「ええ」

女子「お願いっ、教えて!」

許嫁「いいですよ。どこがわかりませんか?」

許嫁(男さん。あなたはまだわからないんでしょうか)

許嫁(私、あなたを逃がすつもりはありませんよ)


    ◆夜 自宅

男「すまない」

許嫁「……本気ですか? 一時の気の迷いではなく?」

男「ああ。俺は女が好きだ。その気持ちに嘘はつけない」

許嫁「男さん、部活の大会には行かなかったようですね。女さんも学校を休んでいました。一緒にいたんですか?」

男「――――そう、だ」

許嫁「これからどうするつもりでしょうか」

男「親父と、それから許嫁の両親に話してくる」

許嫁「大変なことになりますね」

男「絶縁されるかもな」

許嫁「それでも気持ちは変わらないのでしょう?」

男「ああ」

男「――――本当にすまなかった」

許嫁「部屋から出ていって、くれませんか」

男「ああ……」

バタン

許嫁「ぐすっ……」

許嫁「ぅぁ、ぁあ……ああぁぁ」ポロポロ

男「……ごめん」


 許嫁ちゃんがわたしと男くんの間に現れてから、始めて自分を信じることができた。

 男くんはわたしのために、両親や環境と戦う決意を固めている。わたしはそんな男くんを、支えてあげられる存在になりたい。

 ……許嫁ちゃんに悪いなという気持ちはある。

 けど、やっぱり自分の気持ちはごまかせない。

 わたしは男くんのことが好きだった。

 枕を抱きしめて、胸の中の気持ちを静かに感じてみる。温かくて、こそばゆくて、そしてとても優しかった。

 ――――と、そんな時に電話が鳴った。

 誰だろう、男くんかなと思いながら名前を確かめる。

 そこで幸せな気持ちは一気に霧散した。

 電話をかけてきたのは許嫁ちゃんだ。

 ひきつけを起こしたように体が動かせなくなる。携帯が手から滑り落ちて、床に転がっていった。

 過呼吸になりかけている息を落ち着かせながら、わたしは電話に出るため動かない腕を伸ばそうとする。


    ◇翌日 公園

許嫁「来ませんね。電話に出ないだけじゃなく、メールも無視するとは思いませんでした」

許嫁(逃げたって何も変わらないでしょうに。私が危害を加えるとでも思っているのでしょうか)

許嫁「ふふ」

許嫁(だとしたら、その直感は正しいですけど)

許嫁(女さんの小汚い心を、何度も踏みつぶすつもりでしたし)

許嫁「……ブランコ、久しぶりに乗りましたね」ギーコ

許嫁「覚えていますか、男さん? ここ、二人が始めてあった場所なんですよ?」

許嫁「――今度、男さんと一緒に来てみましょうか。思い出話をするのもいいかもしれません」

許嫁「その前に、おもちゃみたいな恋愛は終わらせないとですね」

許嫁「ふふ」

許嫁「ふふふ」


    ◆夕方 自宅

男「週末?」

許嫁「父はそれまで時間を取れないようです。どうせ話すのでしたら、双方の両親に同席してもらったほうがいいですよね?」

男「そりゃあ、まあ……な」

男(親父に連絡するのを止めたと思ったら、とんでもないこと言い出したな)

男(別々に謝るより、話がこじれちゃいそうだけど……許嫁はきっと、それを望んでいるんだろう)

男(ささやかな復讐なら、甘んじて受けるしかない、か)

許嫁「それと、女さんも一緒にお願いしたいのですが」

男「は? いや、女は関係ないだろ」

許嫁「関係、ないでしょうか?」

男「そりゃ関係者ではあるけど、婚約とかの話に直接は関わらないだろ。どうして呼ぶ必要があるんだよ」

許嫁「女さんが私に何も言わないからです」

許嫁「電話やメールをしても無視されてしまいますし、女さんがどう思っているのか、私はまだ聞いていません」

男「だからって……」


許嫁「好きな男性を奪われるんですよ?」

許嫁「謝れとまでは言いませんが、男さんを本当に幸せにするつもりがあるかは聞かせてもらいたいです」

許嫁「じゃなきゃ、諦めたくても諦めきれません……」

男「――――はあ、わかったよ。女も連れてくる」

許嫁「ごめんなさい。ありがとうございます」

男「あいつ、悪気はないと思うんだよ。昔っからプレッシャーとかに弱いだけでさ」

許嫁「ですが、逃げていいことと逃げちゃいけないことがあります。そうですよね?」

男「そりゃそうだけどな……」

許嫁「あまり言いたくはないもしもですが、男さんの両親に挨拶をするとなった時、逃げられたらどうするんです?」

許嫁「婚約解消のことで責められたくない、そんな自分本位な理由で逃げられたら男さんも困るでしょう?」

男「それは、そうだが……」

許嫁「――――男さんにはわからないと思いますが」

許嫁「自分のために逃げ続ける人は、好きな人を裏切ってでも逃げますよ?」

許嫁「彼らが一番好きなのは自分ですからね」


男「女はそんな人間じゃない」

男「勝手な憶測で、俺の……好きな人を、貶さないでくれ」

許嫁「…………」

許嫁「そうでしたね。ごめんなさい」

男「話はもういいか? 腹が減ったし、弁当を買いに行きたい」

許嫁「私が作っても構いませんよ?」

男「俺がイヤなんだよ。自分の都合で傷つけた女に、どうして家事をさせられるんだよ」

許嫁「……男さんがそう言うなら、やめておきます」

許嫁「私としては、叶わない愛だったとしても、好きな人のために料理を作りたかったですけど、ね」

男「悪い」

男「買い物、行ってくる。飯は自分の部屋で食べるから、俺のことは気にしないでくれ」

許嫁「わかりました。いってらっしゃい」

男「…………」

ガチャ、バタン


 週末。

 男くんに腕を引かれて、私は重い足を引きずるように歩いていた。

 この先には、男くんや許嫁ちゃんの両親がいるらしい。

 もちろん、許嫁ちゃんも。

 許嫁ちゃんからの電話やメールに応えず、学校でも避けて過ごしている間に、こんなことになってしまった。

 会って、何を言えというのだろう。

 ごめんなさいと頭を下げれば満足だろうか。

 わたしの頬をぶって、感情のままにいたぶれば溜飲が下がるだろうか。

 自分がどんな目にあうか、考えるだけで憂鬱だった。

 ……男くんは、何も言ってくれない。

 一番大変なのは男くんだろうし、緊張していることくらいわかる。

 それでも、わたしに優しく言葉をかけてほしかった。

 大丈夫だって、守るって、そう言ってくれたらわたしの足から重りは取れるのに。

 ああ。

 今すぐここから逃げ出したい。


    ◇許嫁 実家

ガヤガヤ

許嫁「準備は整いましたね」

許嫁「あとで父にどう言い訳するかは面倒ですけど……まあ、なるようになるでしょう」

許嫁「……男さん、女さん、早く来てください」

許嫁「二人の恋はまがい物で、私の愛こそが本物だって、気づかせてあげますよ」


    ◆許嫁 実家

男「な……?」

男(みっともなくうろたえて、それから言葉が出なくなった)

男(俺の両親と、許嫁の両親がいるのはわかっていた。けど……)

男友「遅かったじゃねえか」

女友「時間ぎりぎりに主役が来るってどうなのよー!」ヒューヒュー

女「おとこ、くん……? なに、これ? どういうこと?」

男「俺にも、わけが……」

男(完全に歓談の雰囲気ができあがっていた。しかめっ面の大人なんてどこにもいない)

男(ここで、何が起きているんだ……?)

ザザッ

許嫁『皆様、長らくお待たせしました』

許嫁『まず最初に、私の婚約者である男さんと、私の友人である女さんから、それぞれお言葉をいただきたいと思います』

許嫁『それでは女さん。こちらにどうぞ』

女「…………」ガクガク


男「おん、な」

女「やだ、やだよ、こんなところで何を言えばいいの……?」

許嫁「思っているとおりのこと、で構いませんよ?」

許嫁「男さんとの結婚は認められない、そう宣言してもいいでしょう」コソッ

男「許嫁……! なんなんだよこれはっ」

許嫁「あまり大きい声を出さないでくださいね。皆さんに不審がられてしまいます」

許嫁「――――わかりやすい話ですよ? 私たちの婚約を知る人全てに、婚約破棄の説明をするのは面倒でしょう」

許嫁「ですから、こうして集まっていただきました」

女「…………」ガクガク

許嫁「さ、女さん。お熱いスピーチをどうぞ?」

男「待てよ。最初に俺が」

許嫁「集まった方々が怒り狂っている中で、女さんを矢面に立たせたいと?」

男「っ……許嫁、お前……!」

許嫁「私は以前から言っていましたね? 女さんのことは疑っていると」

許嫁「男さんへの気持ちが子供っぽい好きではないというなら、証明してもらわなければ困ります」

許嫁「男さんを支える気概さえなく、私から男さんを奪うというなら、私は全てをかけて女さんの人生を台無しにしましょう」

男「だからって、こんなことする奴があるか!」


許嫁「……男さん。あなたは女さんを信じていないんですね」

男「は?」

許嫁「確かにプレッシャーはあるでしょう」

許嫁「ですが、それくらいのことで女さんは男さんへの気持ちをひるがえすんですか?」

許嫁「自分が責められたくないから、なんて勝手な理由で?」

許嫁「そうですね、誰からも祝福されなくてもいいなら話は別ですが」

許嫁「でしたら、どうぞ。このまま逃げて結構です」

許嫁「何もかもを捨てて駆け落ちするというなら、私もさすがに止められません」

許嫁「男さんの両親も説得し、探さないよう、援助しないよう徹底します」

許嫁「ですから、さあどうぞ?」

男「女……どうする?」

女「わた、しは……」ガクガク

許嫁「いきなり人前で話せと言われても、内容は浮かばないでしょう? 台本を二つ、用意しておきました」

許嫁「お好きな方を読むか、男さんの手を引いて逃げ出すか、選んでくださいね?」


 ふらふらと覚束ない足取りで壇上に上る。

 みんなからの視線は期待に満ちていた。その期待は何に向けられているかなんて、想像するまでもない。

 許嫁ちゃんが手渡してきた二つの台本に、戸惑いながら目を落とす。

 逃げる、ことはできなかった。だって逃げた先には、きっと何もない。

 大したお金もなく逃げたってどこにも泊まれないし、これから先の展望なんてちっとも浮かばない。

 だから、ここに立つしかなかった。

 苦しみしかないだろう逃避行から逃げて、壇上に立った。

 まず一つ目の台本に目を通す。なんてことはない、男くんへの愛をうたう内容だった。

 こんなところでこれを読めば、わたしに向けられる視線はすぐさま怒りと憎しみに取って代わるだろう。

 物を投げつける、なんて子供っぽい嫌がらせもありえる。

 それを、この人数から受けるなんてイヤだった。一〇〇人、まではいないだろうか。だとしても大人数だ。

 そして、もう一つの台本は……。


 これもやっぱり、予想していた内容だった。

 どちらかを、読まなきゃいけない。

 自分では何を言えばいいかわからないから、許嫁ちゃんが示した二つの道から、一つを選ばなきゃいけない。

 どっちを、と考えて頭が固まる。

 わたしは男くんを愛している。愛しているから、だから……。

 それに、そう。男くんがわたしを皆の非難から守ってくれるはずだ。

 だから、一つ目の台本を。

 ――――読もうとして、手から滑らせる。床に落ちて、ぱさりと乾いた音がした。

 ……男くんが守ってくれる? ここに来るまで、わたしに言葉をかけてくれなかった男くんが?

 この後きっと、男くんは自分や許嫁ちゃんの両親に詰め寄られる。そしたら、わたしは一人きりになる。

 男友くんや女友ちゃん、それ以外の人から守ってもらえない。

 私はもう、落とした台本を拾うことはできなかった。


 手元に残っているのは、二つ目の台本。

 許嫁ちゃんが読ませたい内容のものだ。

 …………魔が差した、なんていう気はないけれど。

 別にいいよね、と心が逃げることに揺れた。

 だって、ここで愛を表明しなくたって、男くんはわたしを好きでいてくれる。

 許嫁ちゃんがわたしを苦しめるために、狂った理性で用意した展開に、振り回される必要はない。

 全てが終わってから、わたしは男くんに言えばいいのだ。

 本当は男くんのこと、好きだからね、と。

 うん、何もおかしくはない。

 ここで嘘をついたって、何も変わらない。

 体の震えが止まり、わたしはようやく口を開いた。


    ◇

女『二人が正式に婚約したと聞いて、わたしはとても嬉しく思っています』

女『色々と迷惑をかけたこともありましたが、二人の関係を誰よりも祝福して、わたしは――』

許嫁「……だ、そうですよ?」

男「女……、なんで?」

許嫁「だから言ったでしょう。女さんは逃げ出すと」

許嫁(今、何を考えてこんな嘘を言っているか、わたしには手に取るようにわかります)

許嫁(言葉は嘘にできる。やり直しがきく。そう思っているでしょう?)

許嫁(――――そんなわけがありません。あなたの言葉は、確実に男さんを傷つける)

許嫁(ここで本当に男さんへの愛を語れるなら、私の負けでしたけどね)

許嫁(もしそうなったら、男さんの心を私で縛るため、目の前で自殺するくらいしかできませんでしたし)

許嫁(でも、そうはならなかった)

男「違う……状況が悪いんだ。こんな大人数相手じゃ、緊張して言いたいことを言えるわけがない」

男「うちの両親だけとかなら、女だってきっと……」

許嫁「無理でしょうね」


許嫁「男さんが両親の説得を終わらせた後でもなければ、女さんはやはり逃げ出しますよ」

許嫁「試しましょうか? 私がまた状況を作りますよ」

男「…………」

許嫁「男さん。女さんを信じてあげないんですか?」

男「…………」

男「…………」

男「……はは。何を信じろっていうんだよ」

男「付き合い始めた時だってそうだったな。あいつ、俺とのことは皆に話せないんだとよ」

男「何でかって聞いたんだ。どんな理由だったと思う? からかわれたくないから、恥ずかしいから、だってさ」

男「――なんだよそれ。俺の彼女って、恥ずかしいことなのかよ」

許嫁「それをどうして、女さんに言わなかったんです?」

男「言ったよ! けどあいつ、俺がそう言うと泣くんだよ……ごめんって。イヤだって。結局いつも、俺が折れるしかなかった」

男「イヤなことは何でも俺、我慢するのも誘いをかけるのも何もかも! ふざけるなよ、俺は女の何だったんだよ……!」


許嫁「辛かったでしょう」

許嫁「みんなに自慢したくてもできない。自分だけ割を食った関係。……まるで女さんのアクセサリーみたいな、男さん」

許嫁「私は男さんがそんな扱いをされていたというだけで、女さんが許せません」

男「許嫁……」

許嫁「でも男さんは、そんな女さんが好きだったんですよね?」

男「そう、だ」

許嫁「でしたら、この台本を。女さんが好きだから、私との婚約は破棄する。そういう内容でまとめました」

男「許嫁がここまでしたのは、なんでだ?」

男「俺が女に裏切られるのを見て、楽しみたいからか?」

許嫁「男さんを助けるためですよ」

許嫁「私は男さんのためなら、どんな苦労もいといません」

許嫁「ですがそれは、男さんが女さんのためにしてきた我慢とは全く違うものですよ」

許嫁「男さんのためになることでしたら、一緒に苦労をします。男さんのためにならないことなら、例え一人でも立ち向かいます」

許嫁「私は、男さんを愛しているからです」


    ◆

男「許嫁――――」

男(ああ、俺は勝手な人間だ)

男(あんなに許嫁のことを傷つけたのに、苦しめてきたのに)

男(きゃしゃな体を、抱きしめたくてたまらなかった)

男「台本。もう一冊、あるんだろ」

許嫁「ええ」

男「ありがとう」ペラペラ

男「……さすが放送部の部長だよ。いい内容だな」

許嫁「ふふ、ありがとうございます。とても嬉しいです」

男「だが、最後に一言だけ追加させてもらう」

許嫁「最後、ですか?」

女『――――』

男(女……お前は今、何を考えてるんだろうな)

男(その内容がどれだけクズなのか、俺は絶対に知りたくない)

男「リップサービスと思われるかもしれないけどな。最後の言葉を、集まった奴らへの感謝で終わらせたくねえよ」


男「許嫁のことを、愛していると言わせてくれ」

以上で完結になります。
わかりづらいところはないかと思いますが、何かありましたら参考までに書き込みお願いします。

個人的には別に胸糞ではなかったかな
ハラハラして面白かったです

あえて言うならだけど
許嫁が何故男にここまで固執しているのかがよくわからなかった

>>90
許嫁が男に固執している理由に関しては、バッサリカットしました
昼ドラのようにめまぐるしい展開を心がけていたので、過去話は不要かなと
男さんだけが自分のことをわかってくれる、とでも思っていたのでしょう
どちらにせよ、くだらない理由なんでしょうね

登場人物全員屑だな。ただ屑は屑でも屑の方向性が違うのがまた…
感想的には胸糞だが、作者はそういう感じの話を描きたかったみたいだし、そういう意味ではそう思わせた時点で
作者の勝ちなんだろうな…
ただ個人的に言わせてもらうならば、男・女、許嫁の内の誰でもいいから一途な清らかさというか、
読者的視点から見て、「こいつには味方・同情したくなるな」と思わせるものが欲しかった
ボキャブラが少ないからこれで伝わるかどうか分からないけど

>>105
善良な人間を入れれば、上げて落としてでもっと胸糞悪い展開にできたかもしれませんね
SSの趣向的にその人はみんなから攻撃されまくるでしょうが、より大きな不幸を望まれるその姿勢には感服します

うーむ、そういう話にしたかったんだからしょうがないだろうが、胸糞注意と書いてあれば俺は読まずに済んだな

>>108
すみませんでした、次回があれば気を付けます

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年09月16日 (日) 23:38:57   ID: v61HPhw2

女が最後に愛を告げても 嘘だ ということで信じないでいいなづけの勝ちということか。
怨でのつながりで男が女のことを忘れないかもしれんが
底の部分を塗りつぶせるほど許嫁が攻めていくのか。
男もある意味女と根幹は変わらん、逃げに許嫁を選んだようにしか見えん。

2 :  SS好きの774さん   2018年09月16日 (日) 23:45:29   ID: v61HPhw2



よほど狂わないと男を愛せないよなぁ、ウソだ信じられないと女を突っぱねられなかったら、ループだよ。
台本、こんなのもらったんですけどどうしたら良いんですか許嫁さん、という大暴露という展開してたらすごいわ。

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