「ココに戻ってくるのも…久しぶりだな。」

柔らかい風がイヤリングを撫でる。
俺は今、ある大切な人の墓に立っていた。

「ずいぶんと長くなっちまったが…お前の仇はとったぜシェリー。」

最愛の妹の名を呟きながら、綺麗なユリの花を置いてやる。
本当にずいぶん長い…旅になっちまった。

『お兄ちゃん！いってきます！』

思えばあの日から全てが変わった。
シェリーは俺のプレゼントの傘を大切に持ちながら笑顔でいつも通り出ていったんだ。

『おう。変な男に絡まれんじゃねぇぞ！』

そうやって言うと負けじと女の子を追い回すなと言い返してきたっけ？
いつも通りだった。
本当にいつも通りの朝だったんだ。

『ふぅ～本屋のバイトってのも疲れるもんだなぁ。』

あの日はいつも通り俺は本屋でバイトをしていた。これもそれもシェリーを学校に行かせてやる為だ。
俺には学校なんて合いやしなかったが、シェリーには学校に行かせてやりたかった。
実は俺には少し不思議な力があるからな。喧嘩になると使っちまったら危険で仕方ねぇ。だから学校なんて合わねぇんだ。
だがシェリーは違う。
あいつは普通の女の子なんだ。
あいつの幸せのためなら…俺はどうだって良い。

外じゃ雨が降り始めた。天気予報通りだ。

『ポルナレフ！ポルナレフはいるか！？』

この時俺はゲッ！？ピンナップ読んでサボってんのが店長にバレたか？ぐらいにしか思っちゃあいなかったんだ。

『どうしたんです店長？そんな血相変えて。急ぐのは死ぬときだけにしときなよ？』

『軽口聞いとる場合じゃあないんだよポルナレフ！よく聞け！落ち着けよ！お前の妹さんが……妹さんが……。』

ふと思った、聞きたくないと。
止めてくれ！と何度も叫ぼうとしたが、まるで声が貼り付けられたかのようにでなかった。

『お前の妹さんが………殺された……。』

いてもたってもいられなかった。
ただ、ただ、ひたすらにがむしゃらに雨の中を走った。

『嘘だ…嘘だ……嘘だ…う……そ……。』

呪文のように現実を否定しようと吐く言葉も虚しく、野次馬の集まる場所についた。

『あれは……傘…。シェリーの…傘じゃあ…ねぇか！』

何度も何度も迷いに迷って買った傘を見間違える訳がなかった。

『どけッ！どきやがれッ！どけよッ！』

野次馬を払いのけその中心へ向かう。そこに倒れてるのがシェリーな訳がねぇ…！そんなわけがねぇんだよ！

『君！ここは事件現場なんだ！無闇に立ち入るのは』

『うるせぇ！のきやがれってんだよポリ公！』

警察の制止を振り切り転がる遺体を見つめる。
レジャーシートが被さって顔は見えなかった。シェリーじゃないことをひたすら祈りながらそのシートをまくった。

『あぁ……嘘だろ…嘘だろシェリー！！！！』

うっすらと残る涙の跡、そしてシェリーの顔に落ちる滴は涙なのか雨なのか。
傘のない俺には判別できやしなかった。

『シェリーィィィィイ！！！！！』

横たわる冷たくなったシェリーの手を握りしめ、降りやまぬ雨の中へ俺は泣き叫んだ。

シェリーの葬儀の前に、シェリーのクラスメイトから会いたいと言うことを伝えられ、行く気は無かったが病室へ向かった。

『ポルナレフ…さん。えぇっと…その…シェリーは…。私のせいで…！』

痛々しい傷を持った彼女は今にも泣き出しそうだった。

『君が気にすることじゃあない。で、俺に言わなきゃならないことってなんだ？』

『はい…実は…シェリーを殺した男の話なんです。』

その言葉を聞いた瞬間、彼女の目に恐れが浮かぶのを見た。
自身に植え付けられた恐怖。昨夜見たホラー映画を思い出して恐怖する子供のような目だった。

『その男は…傘もないのに雨を弾いて立っていたんです。レインコートも何も無しなのに全く濡れる様子もなく素振りもなかった…。』

彼女は訳がわからないと言わんばかりの声でその日の惨状を告げる。
何もないところからいきなり刺されたかのように血飛沫を上げ、訳がわからないまま恐怖で足がすくみ、シェリーも自らも、その男に辱しめられたことを。