正門から歩美が駆け寄ってきた。
これまでと変わらない日常、変わらない風景。……そう、これが当たり前の光景になってしまっていた。
「今日の数学、ミニテストがあるらしいよ?」
「バーロォ。そんくらい知ってるよ。ちゃんと勉強したか?」
「うん!コナンくんは?」
「俺は大丈夫だよ。……二度目の高校だしな」
「え?何か言った?」
「……いや、なんでもねえよ」
……黒の組織はぶっ潰すことが出来た。でも、結局俺の体は戻ることはなかった。そしてそのまま、俺は高校に進学した。
蘭と通った、帝丹高校へ……。
「おはよう!コナンくん!歩美ちゃん!」
「ようコナン!歩美!」
教室に入るなり、元太と光彦が声をかけてきた。
「よう、おはよう。お前ら今日のテスト大丈夫か?」
「うぐ……嫌なこと思い出させんなよ……」
元太は顔を青くする。どうやら、また勉強してなかったようだ。
「もう……元太くんまたぁ?」
「元太くん、本当に勉強しないと留年しちゃいますよ?」
歩美と光彦は、続け様に元太に話しかける。
「わ、分かってるよ!追試で全部パスするから大丈夫だよ!」
(おいおい……追試前提かよ……)
まったくコイツは、小学校からまったく変わってない。いや、それは元太だけじゃない。
歩美も光彦も、まったく変わっていない。背こそ伸びたが、根本的な思考や関係は、あの頃のままだった。
そして……。
「――おはよう、江戸川くん……」
「あ?……おう、灰原か……」
「朝から賑やかね、あなたたち……」
冷めたような笑みを浮かべた灰原は、席へと向かって行った。
(……こいつも、ホント変わらねえな……)
灰原もまた、俺達と一緒に高校生になっていた。元に戻ることなく……。
俺もまた席に戻る。
俺の席は、窓側の最前列の席。灰原の、前の席だった。
「……なあ灰原」
振り返り、教科書を机にしまう彼女に話しかけた。
「なに?」
「なんでまた、お前もこの高校に来たんだよ。お前の成績なら、もっといいところいけただろ」
「あら、それを言うなら工藤くんだってそうでしょ?お互い、二度目の中学生活だったじゃない」
「まあ、そうだけど……この高校には、思い入れがあるんだよ。それに、あいつらもここに通うって言ったしな」
あいつらに視線を送る。あいつらの席は、俺や灰原とは少し離れた位置だった。三人固まり、席を並べていた。
「……ほんと、円谷くん達に甘いのね、工藤くんって」
「そんなことねえよ。……それより、話をはぐらかすなよ」
「はいはい。……私もね、この高校に興味があったのよ」
「お前が、何でまた……」
「あら、分からないの?あなたが通った高校だからよ、工藤くん」
そう話した灰原は、俺に笑みを向けてきた。
「バーロォ。だから話をはぐらかすんじゃねえって」
「そんなつもりじゃないんだけど……まあいいわ。それより、ホームルーム始まるわよ」
そう言って灰原は、教室の入り口を顎で指す。そこには、先生の姿があった。
……結局、いつものとおり、灰原はまともに答えることはなかった。
「――だああ!ダメだったあああ!」
数学のミニテストが終わった瞬間、元太は声を上げた。
……やっぱ、だめだったみたいだ。
「……今日はこれで終りね」
後ろから、灰原の声が聞こえた。
見ればそそくさと、バッグにノートを詰め込んでいた。
「早いな灰原。今日は何かあるのか?」
「ええ、まあね。阿笠博士が、最近体の調子が悪いのよ」
「そっか……」
阿笠博士も、もう歳だしな。それもしょうがないのかもしれない。
俺達の時間が流れたように、周囲の時間も流れている。
……万遍なく、全ての奴の時間が。
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