歩美「コナンくん!おはよう!」 コナン「おはよう、歩美」 (8)


正門から歩美が駆け寄ってきた。
これまでと変わらない日常、変わらない風景。……そう、これが当たり前の光景になってしまっていた。

「今日の数学、ミニテストがあるらしいよ?」

「バーロォ。そんくらい知ってるよ。ちゃんと勉強したか?」

「うん!コナンくんは?」

「俺は大丈夫だよ。……二度目の高校だしな」

「え?何か言った?」

「……いや、なんでもねえよ」

……黒の組織はぶっ潰すことが出来た。でも、結局俺の体は戻ることはなかった。そしてそのまま、俺は高校に進学した。
蘭と通った、帝丹高校へ……。


「おはよう!コナンくん!歩美ちゃん!」

「ようコナン!歩美!」

教室に入るなり、元太と光彦が声をかけてきた。

「よう、おはよう。お前ら今日のテスト大丈夫か?」

「うぐ……嫌なこと思い出させんなよ……」

元太は顔を青くする。どうやら、また勉強してなかったようだ。

「もう……元太くんまたぁ?」

「元太くん、本当に勉強しないと留年しちゃいますよ?」

歩美と光彦は、続け様に元太に話しかける。

「わ、分かってるよ!追試で全部パスするから大丈夫だよ!」

(おいおい……追試前提かよ……)

まったくコイツは、小学校からまったく変わってない。いや、それは元太だけじゃない。
歩美も光彦も、まったく変わっていない。背こそ伸びたが、根本的な思考や関係は、あの頃のままだった。
そして……。

「――おはよう、江戸川くん……」

「あ?……おう、灰原か……」

「朝から賑やかね、あなたたち……」

冷めたような笑みを浮かべた灰原は、席へと向かって行った。

(……こいつも、ホント変わらねえな……)

灰原もまた、俺達と一緒に高校生になっていた。元に戻ることなく……。


俺もまた席に戻る。
俺の席は、窓側の最前列の席。灰原の、前の席だった。

「……なあ灰原」

振り返り、教科書を机にしまう彼女に話しかけた。

「なに?」

「なんでまた、お前もこの高校に来たんだよ。お前の成績なら、もっといいところいけただろ」

「あら、それを言うなら工藤くんだってそうでしょ?お互い、二度目の中学生活だったじゃない」

「まあ、そうだけど……この高校には、思い入れがあるんだよ。それに、あいつらもここに通うって言ったしな」

あいつらに視線を送る。あいつらの席は、俺や灰原とは少し離れた位置だった。三人固まり、席を並べていた。

「……ほんと、円谷くん達に甘いのね、工藤くんって」

「そんなことねえよ。……それより、話をはぐらかすなよ」

「はいはい。……私もね、この高校に興味があったのよ」

「お前が、何でまた……」

「あら、分からないの?あなたが通った高校だからよ、工藤くん」

そう話した灰原は、俺に笑みを向けてきた。

「バーロォ。だから話をはぐらかすんじゃねえって」

「そんなつもりじゃないんだけど……まあいいわ。それより、ホームルーム始まるわよ」

そう言って灰原は、教室の入り口を顎で指す。そこには、先生の姿があった。
……結局、いつものとおり、灰原はまともに答えることはなかった。

「――だああ!ダメだったあああ!」

数学のミニテストが終わった瞬間、元太は声を上げた。
……やっぱ、だめだったみたいだ。

「……今日はこれで終りね」

後ろから、灰原の声が聞こえた。
見ればそそくさと、バッグにノートを詰め込んでいた。

「早いな灰原。今日は何かあるのか?」

「ええ、まあね。阿笠博士が、最近体の調子が悪いのよ」

「そっか……」

阿笠博士も、もう歳だしな。それもしょうがないのかもしれない。
俺達の時間が流れたように、周囲の時間も流れている。
……万遍なく、全ての奴の時間が。

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