しまじろう「フェアじゃない……」 (50)



いつもネタssばかりなので、たまにはしんみりとしたのを書こうと思います。



【過去ss】

大河「うちのリビングに陰毛らしきものが落ちてたんだけど」
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千尋「お尻を触られた!」 ハク「ちゃいまんねん! ちゃいまんねん!」
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はだしのラピュタ
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テマリ「最近、我愛羅の部屋が臭い」
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ドッジボールのチーム分けをしている最中に、しまじろうはそう呟いた。


みみりん「どういうこと?」


らむりん「男の子と女の子もちょうど半々になってるし、いいじゃない」


みみりんとらむりんはしまじろうの発言に疑問を抱く。

だいたいいつもこんな感じで分けているのだ。

何を今さら……。


しまじろう「フェアじゃないんだよ……。僕に味方がつくというのは」


どこか寂しそうなしまじろう。

顔に影が入っている。


とりっぴー「じゃ、じゃあ9対1でやるってこと?」


勝負になるわけがないのに……と皆あきれ顔でしまじろうを見る。




しまじろうは何も言わず、コートに入った。



らむりん「じゃあ始めるわよー!」


くうこ先生が笛を口にくわえる。



しまじろう「待った」



突然のタイムに皆の動きが止まる。


とりっぴー「ど、どうしたのさ……」


しまじろうは徐にポケットから目隠しを取り出した。


しまじろう「これがなきゃ、僕は卑怯者だ」


完全に視界を塞ぐしまじろう。

それから腰を落とし、ガッシリと構える。

肩の力は適度に抜かれ、膝のばねもいつでも伸びる……。


しまじろう「さあ……はじめようか」


ただならぬ雰囲気に皆が凍り付いた。


らむりん「え、エイッ!」


しまじろうの凄みに飲まれまいと、一生懸命ボールを放る。

発達が他の子供たちよりも早いらむりんのボールは、みみりんの目にはとても勢いがあるように思えた。



しかし――



パシンッ!


とりっぴー「!」


ぞうた「片手ッ!?」


もんた「それだけじゃないッ! 利き腕は完全にポケットにしまい込んでいるッ!!」






しまじろう「ふぁああ……。欠伸が出るよ」




しまじろうにとっては所詮、幼稚園児のボールだったのだ……。



受け取ったボールを鷲掴みにするしまじろう。

ギュギュギュ……とボールがきしむ音がする。


しまじろう「さあて……」


しまじろうの視線がにゃみえを貫いた。


にゃみえ「ひぃッ……」


ガタガタと震えだす膝。

既に分かっている、いや、もう体が知っているのだ。

これはいつものドッジボールじゃない……ッ!!



大きなステップを踏み出し、しまじろうの姿勢がグッと沈んだ。

左腕が大きく後ろに反り返る。


しまじろう「それッ」


ビュッ!!


ボールがひしゃげるようなサイドスローが弧を描くように放たれる。




にゃんみ「!!」



数ミリ頬をかすめて飛んでいったボールの風。

それを直に感じた少女は、もう立っていることも出来なかった。




しまじろう「あちゃあ……外したか。やっぱりこれはちょうどいい枷だね」



……目隠しをした顔が、照れくさそうに笑う。



にゃんみ「うわあああああああああん!!!」


ビービーと泣きながらにゃんみは走り去ってしまった。

あわてて後を追うくうこ先生。



とりっぴーは飛んでいったボールを見た。


ポテンポテンと転がっている。


その横には、大きくへこんだ金ダライが立てかけてあった……。


しまじろう「審判が行っちゃったね……。どうする? やめようか?」


そう言いながら首をかしげる。


とりっぴー「うん! やめる! とりっぴーはやめるよッ!」


半泣きのとりっぴー。

他の皆も一斉に首を縦にガクガクと振る。



もうやめよう!

痛いのはやだァ!



泣きだす者、命乞いをする者、小便を漏らす者……。

しまじろうに忠誠を誓うものも現れた。



しまじろう「じゃあドッジボールはこれで……」


しまじろうは目隠しに手をかけた。



みみりん「みみりんはやめないッ!!」


一声、大きく叫ぶみみりん。

涙目にはなっているが、キッとしまじろうを見据えている。


しまじろう「!」


とりっぴー「なな、何言ってんのさ! あんなの当たったら痛いじゃすまないよッ!」


取り乱すとりっぴー。

当然だ。

彼らはまだ幼稚園児なのだ。

あのボールを見て立ち向かうなんて、とても正気の沙汰じゃなかった。



みみりん「みみりんはッ! ……みみりんは逃げないッ!」


体が震える。

本当は逃げ出してしまいたい。

しかし負けず嫌いのみみりんにとって、ここで逃げ出すことはできなかった。



とりっぴー「で、でもみみりん一人でどう戦うって言うのさ!」



必死に止めようとするとりっぴー。

ただの遊びにここまで熱くなるのは馬鹿げている。

逃げるのもまた勇気じゃないか……。





らむりん「あら、一人じゃないんじゃない?」


とりっぴー「!?」



さっきまで黙っていたらむりんがみみりんのもとに歩み寄る。


とりっぴー「ら、らむりんまで……」


らむりん「欠伸が出るなんて言われちゃ、悔しいじゃない?」


そう言ってらむりんはしまじろうを睨みつけた。




しまじろう「いいね……。僕そういうの、すごい好きだよ……」


久々に本気が出せそうだ……。

己の中の闘争心が熱くたぎる。



とりっぴー「……もう! 2人とも馬鹿だよ!」


フンッと鼻を鳴らして、とりっぴーも構える。




とりっぴー「とりっぴーもやる!」




それを見て、みみりんの口元が微笑む。


みみりん「馬鹿っていう方が馬鹿なんです~」


とりっぴー「なにをッ!」


らむりん「もう……仲間割れしてる場合じゃないでしょ!」




コートに残った三人の絆が固まる。



***


とりっぴー「足元を狙おう。手で取れないくらい地面スレスレで」


とりっぴーのアドバイスを受けて、みみりんはボールを持つ。

片手でボールをコントロールするには、彼女はまだ幼すぎた。

両手で狙いを定める。



足元に一度当てるだけでこのゲームは勝ち。


自分なら出来ると、みみりんはそう信じ込んだ。


みみりん「エイッ!」


フラフラと飛んでいくボール。

勢いはない。

……が、ドンピシャのコースだった。



とりっぴー(いける……!)


らむりん(当たって……!)




ペチン!





しまじろう「!」


しまじろうの足元にボールが当たった。

目隠しをしたしまじろうにとって、勢いのないボールは気配を感じ取れない、非常に厄介なものだったのだ。



みみりん「あ、当たった!」



ポーンポーン……。


空中に蹴り上げられるドッジボール。



とりっぴー「そ、そんな……!」



しまじろう「ん? どうしたの?」


華麗なリフティングを披露しながらしまじろうが尋ねる。

驚くべきことに、ボールが体毛に触れたことに即座に反応したのだ。


しまじろう「よっと……」


首の後ろにボールを乗せ、腕を伝って手に取る。



しまじろう「じゃあ次は……」


握力でゆがんだボールで、らむりんを指す。


しまじろう「らむりんかな……?」


ゾクッ


らむりんの背筋を冷たいものが走った。






らむりん「ひッ!」


とっさに背を向けて逃走する。

さっきまで強気でいられたのが嘘のようだった。






らむりん「殺されるッ!」





コートのラインまであと2歩。

コートから出れば試合放棄とみなされる……ッ。





しまじろう「それっ」






ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!





スクリューのような回転。


ライフル弾のようなボールがらむりんに迫る。



あと一歩……。



ベチコ―――――ンッ!!!!!!!!



らむりん「いぃッ――――――たぁッああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



らむりんの臀部にボールが直撃した。


衝撃波が近くにいたとりっぴーやみみりんにも伝わってくる。





しまじろう「おっ! 当りィッ!」





らむりん「痛い痛い痛い痛い痛い痛あああああああああああああい!」


お尻を押さえながらゴロゴロと転げ回るらむりん。



駆け付けたくうこ先生が担架でらむりんを運び去った。



とりっぴーはそんな叫びには耳を貸さなかった。

咄嗟にらむりんの臀部に当たって跳ね返ったボールを追っていた。



ポテンポテン……。


コロコロコロコロ……。



このリバウンドだけは絶対に渡すわけにはいかない。



ズサアアアアアアア……。

とびかかるとりっぴー。



しめた! 

ボールは掴んだ!



しまじろう「残念……」


砂煙が晴れる。


とりっぴー「!」


掴んだボールはセンターラインを越えていた。

つまり……考えたくないが、つまり……!




しまじろう「僕のボールだね」


ヒョイッとボールを掴み上げる。



とりっぴー「うわああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


死に物狂いで羽ばたくとりっぴー。

空ならッ!!

上下に動く物体に放物線を描くボールを当てるのは至難の技……ッ!





しまじろう「それっ」







ッパァアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!





とりっぴー「かあああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」


耳をつんざくような断末魔。


ポトリと落ちてきたとりっぴーの臀部は紫色に変色していた。


白目を剥いて泡を吹くとりっぴー。


駆け付けたくうこ先生が担架でとりっぴーを運び去った。


パシッ!!


跳ね返ってきたボールをキャッチしたしまじろうの口元がにっこりと微笑む。


しまじろう「あと一人で僕の勝ちだね」






しまじろう「……?」







みみりんの気配が無かった。




逃げたか?


いや、違う。


みみりんは尻尾を巻いて逃げるような子じゃない……。






確かにみみりんの匂いはする。



しかし位置を特定できない。



しまじろう「……なるほどね」


やっと理解したしまじろう。


しまじろう「撹乱させるためにコート中にマーキングするなんてやるね、みみりん」



そう、尿の匂いで特定できなくなっていたのだ。


ただし、これは意図的なものではなかった。

恐怖が先だって抑えきれなくなっただけだ。





みみりん「……」





みみりんは頭を必死に抱え込みながら、コートにうずくまっていた。

ブルブルと震える。

震えがまったく止まらない。



しまじろう「適当に投げるしかなさそうだね」




ギャルルルルルルルルルルルル



手首のスナップを効かせて回転をかける。

禍々しい音があたりに響く。





しまじろう「それっ」



ギュインッ!!


強烈な下回転。


みみりん(ひぃ!)


みみりんの真横の地面に嫌な音をたてながらぶつかる。



シュルルルルル……

砂を撒き散らしながらボールは勢いよくしまじろうの手元に戻っていく。



しまじろう「……ハズレかぁ」



ギュインッ!!


ギュインッ!!



みみりんにとって拷問のような時間だった。

穴だらけになっていく地面。

弾ける砂利。

担架を持ってスタンバイしている先生。



しまじろうのボールは同じ個所には当たらない。

少しずつ、みみりんの位置を特定しているのだ。



しまじろう「ふう……さすがに疲れてきたよ……」



しまじろうは少し手を休めた。



みみりん(い、今しかないッ!!)


もう逃げないなどと綺麗ごとを言っている場合ではなかった。

しまじろうのボールを間近でみて、初めて悟ったのだ。

……ああ、自分は無力なのだと。



ダッ!!



文字通り脱兎のごとく走り出すみみりん。


かけっこが得意なみみりんにとって、もはや頼れるものは自分の足しかなかった。



ジャリッ!!



砂を蹴る音がしまじろうの耳に届く。







しまじろう「そこかっ!」





ビュインッ!!


レーザー砲のようなボールが真っ直ぐにみみりんを襲う。





ッバチイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!



衝突と同時に巻き起こる砂煙。



誰もがみみりんの臀部に別れを告げようとしていた――。





みみりん「!」






砂煙が晴れる。


傷一つないみみりん。

何が起こったのか分からず、ポカンとしている。






そしてそこにいたのは――




ペイズリー「楽しそうなことしてるじゃん」


ドット「俺たちも混ぜろよ」




しまじろう「あ! ドット!」



余裕の表情で現れたのは、ドットとペイズリー。













そして、しまじろうの砲撃を臀部に喰らい、立ったまま泡を吹いて失神しているカラクサであった。


ペイズリー「う、うわああ! ドット兄ちゃん! カラクサ兄ちゃんが気絶してるよッ!」


2倍に膨らんだカラクサの臀部。

ドットは大変なことに首を突っ込んでしまったと後悔した。


ドット「こ、コイツはヤバいッ!! 来たばっかであれだが、ずらかるぞ!!」


すたこらと逃げ出すドットとペイズリー。

当然しまじろうがそれを許すはずも無かった。




***


病室には6つのベッドが並んでいた。

みみりん、らむりん、とりっぴー。

向かい側にはドット、カラクサ、ペイズリー。


みんなブスッとした顔でうつ伏せに寝ている。

揃いも揃って、腫れ上がって熱をもった臀部に包帯を巻いている光景はどこかしらシュールさを感じさせる。





しまじろう「あの……ごめん……」




らむりん「……」


みみりん「……」


とりっぴー「……」


ドット「……」


カラクサ「……」


ペイズリー「……」



しまじろう「で、でも一応危なくないようにお尻を狙ったわけだし……」



申し訳なさそうな体を装いつつもしっかりと自分を弁護するしまじろう。

肉体は発達していても、こういったところは幼稚園児だった。



らむりん「危なくないですってぇ!?」


みみりん「座ったら激痛で意識が飛ぶのよ!」


ドット「うんこしたら変な虫が出てきたぞッ!」


カラクサ「あんちゃん、それ違う病気……」


よっぽど怖かったのだろう、しまじろうへの不満が滝のように溢れ出す。


らむりん「だいたいちょっとくらい手加減しなさいよ!」


みみりん「そうよ、そうよッ!」


とりっぴー「もうしまじろうとはドッジボールなんかやりたくないよッ!」


しまじろう「そ、そんなぁ……。じゃ、じゃあサッカーは?」


ペイズリー「同じだよッ! 死人が出るだろッ!!」


トッド「そうだ! もうしまじろうとはダウジングもやんないからなッ!」


カラクサ「それやってんの、あんちゃんだけだよ……」



しまじろう「じゃ、じゃあいいよ……。もう僕はこれからは一人で遊ぶよ……」


悲しそうな顔で病室を出ようとするしまじろう。

それをらむりんが引き止める。


らむりん「待って!」


しまじろう「……なあに?」


らむりん「別にしまじろうを仲間はずれにしようってわけじゃないわよ。ドッジボールやサッカーはやりたくないってだけ!」


しまじろう「……!」


みみりん「みみりん、今度はおままごとがしたいッ!」


とりっぴー「とりっぴーはたこ焼き作りがしたい!」


らむりん「私はお絵かき!」


しまじろう「み、みんな……」



あんな目に遭わせてしまったのに、それでも友達でいてくれる――。


しまじろうは種を越えた友情を感じ、目頭が熱くなった。





しまじろう「じゃ、じゃあ僕はバスケがしたい!」



全員「やんねえよッ!!」

おしまい

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