地球の道化師のおはなし(18)


『こんにちは』


公園でこどもが泣いていた


こどもの笑顔が見たかった


わたしは高く高く跳んでみせた


着地に失敗してわたしは転んだ


泥にまみれてからだが汚れた


こどもは笑った


春の陽ざしのなか


わたしも笑顔になった


『今日は暑いね』


鼻先でボールを回した


くるくると、くるくると


こどもは拍手をくれた


燃えるような夏の熱気のなか


わたしも笑顔になった


『風が強いね』


夏が終わり秋が来た


わたしはボールを回した


ひゅるると冷たい風が吹いた


重力に引かれてボールは落ちる


こどもはため息をついた


ボールは地面を転がる


ころころと、ころころと


『とっても寒いね』


そこに冷たい目をした


おとなたちがやってきた


ここを更地にするらしい


薄汚れた革靴で


公園を踏み荒らしていった


わたしはこどもの目を見た


透き通った涙が、じわり


星の重力に引かれて、ぽたり


あたたかい涙がひとしずく


汚れた地面にとけていった


おとなたちは遊具をこわした


金属は貴重なんだと言った


おとなたちは鉄棒をとかした


有効に活用するんだと言った


おとなたちが大嫌いだった


でもそこにはおとなたちしかいなかった


『どうか、どうか、元気でね』


あの子が大好きだった


でもこの星は嫌いだった


もう公園は更地になった


わたしの居場所はどこにもない


ずっとずっと眠っていたかった


おとなたちは宇宙船をつくった


おとなたちは犬をのせると言った


わたしは鎖に繋がれた犬の目を見た


『わたしをのせてください』


その子の鎖をくいちぎって、わんわんとわたしは吠えた


誰もいない宇宙船のなか


わたしはようやくひとりになれた


誰の犬でもないわたし


窓の外は静かな宇宙


ふわふわとからだが浮いた


その窓に鼻先をぺたり


そこに綺麗な地球が見えた


鼻先で地球はまわる


くるくると、くるくると


そのときあの子の笑顔が見えた


わたしの目に、涙がじわり


決してこぼれることのない涙


決して地につかない足


着地の失敗もできなかった


『地球にもどってくれませんか』


いいよ、と宇宙船は答えた


高く高く打ち上げられた宇宙船は


大気圏に再突入した


火の粉にまみれてからだが燃えた


燃え尽きる宇宙船のなか


わたしは笑顔になった


なにもない更地に、こどもがひとり


「もう一度会いたいな」


それは寒い寒い冬のある日


空から降ったあたたかい雪が


更地を白く、きれいに染め上げていた




おわり

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