ジェネクス・コントローラー「最期の同調」 (28)
遊戯王DTの世界観を元にしたSS。
短め。
泣いたから書く。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416151607
世界が、大きく揺れ動いているのも知っていた。
何処からかはわからないがやって来た、謎の侵略者がいたことも知っていた。
それを倒すために自分たちが研究されているのも知っていた。
ーーーーーだけど、だからって。
生きているモノを、生きながらにして殺すなんてことをする連中だとは知らなかった。
自分のスペアと呼ばれたモノが壊れているのを見て、ジェネクス・コントローラーは呆然と立ち尽くした。
ここは、死んだ機械の墓場。スクラップ置き場。
A.O.J.(アーリー・オブ・ジェスティス)。その意味は、忘れてしまったけど、正義に関する言葉だったと思う。
そして、A.O.J.は、侵略者と戦うために生まれてきた。みんなの平和を守るために。
だとしたら、ここに打ち捨てられた巨大兵器はなんだ?
ここに打ち捨てられた、小さな命はなんだ?
スペア・ジェネクス「ギギ………」
彼から、小さな音がした。まだ彼は生きている。それは紛れもない事実だ。
だけど、彼とも心を通わせたからわかる。
彼はもう、助かることはない。
スペア「ゴメ……ンナ………」
どうして彼が謝る?
彼が無理やり捕らえられて、この巨大兵器のコアとなっていたのは明らかだ。
自分には彼の記憶を覗くこともできたのだから。
彼の記憶にはその場面が残っていたのだから。
なのに、
スペア「フィールド……マーシャル………モット、タタカエタ。イキテイラレタ」
なのに、
スペア「コンナニ、コワレテ……コワシテ、………ゴメンナ」
無残にも打ち捨てられた巨大兵器。
A.O.J.フィールド・マーシャル。その戦場に雄々しく立つ姿は、侵略者と戦うあらゆる者に頼もしく映ったらしい。
だけど、激戦区で、最前線で戦い続けて。
多数の敵を道連れに、大破したらしい。
そこに彼の責任はない。責任があるとすれば、激戦区で援護すらできなかった味方だろう。
ジェネクスは、本来声なき機械だ。意思はあっても、それを表現することはできない。
きっと、スペア・ジェネクスはA.O.J.フィールド・マーシャルのコアになったからこそ意思を声に出して発しているのだろう。
A.O.J.とは、意思ある高度な機械なのだから。
だけどそれは、つまり。
侵略者と戦う正義の味方は、意思ある命を捨てたのだ。
修復不可能、それだけの理由で。
修復不可能だったならば、せめて命尽きるまで。
彼らは自分の家族が敵を倒して、道連れにして死にかけていても、じゃあ死にかけだからと言って捨てるのか?
だとしたらとんだ正義の味方だ。そしてそんなことはないのだろう。
きっと亡骸でも持ち帰り、大切に葬儀するはずだ。その後も、忘れないに違いない。
だけど、フィールド・マーシャルは違う。きっと新たな新兵器が代わりに現れ、スクラップは人々の記憶からなくなるのだろう。
きっとフィールド・マーシャルが捨てられたのは、機械だから。
いくらでも替えのきく代用品だと、心の底から思っているから。
正義の味方が。命を踏みにじって。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
こんなにも優しい、自分の友が。心を通わせた友が。
仲間が傷ついた時、誰よりも心配して、仲間のためならば、危険を顧みないで、自分の頭に間抜けに花の芽が芽吹いた時、ただ命の誕生を祝福して。
そんなに優しい、大切な仲間が。
無理やり使われ、使い捨てられ、忘れられるのが。
スペア「ギギ………」
無理して喋るな、と伝える。
自分は喋ることはできないが、心を通わせることはできる。
だからせめて、スペア・ジェネクスの心に寄り添おう。
スペア「ウラ………ムナ…………」
死に体で、それでも、スペア・ジェネクスは喋るのをやめない。
どうして。
スペア「………マケ………ルナ…………」
どうして、どうして、どうして!!
自分に酷いことをした相手にそんな、そんな感情を!!
スペア「ゾウオ二、マケルナ………カナシムナ…」
スペア・ジェネクスは、緩慢な動作で自らの頭に手を添え、頭上に咲いた一輪の花を手に取り、
スペア「オレノ……トモダチ。コントローラー。オマエハ……マダ……イクラデモ………ミラ、イ、ガ」
花を差し出したまま、やがて、動きを止めた。
一人の機械の目から、一粒の涙が、零れ落ちた。
「おい、こんなところにジェネクス・コントローラーがいるぞ!」
「何!? ジェネクス・コントローラーは捕捉が困難だったはずだぞ!」
「理由などどうでもいい。決戦兵器のコアなり得るのはコレしかない!!」
A.O.J.の研究者共の研究所へと向かった。
すぐさま慌ただしくなり、そして自分は捕獲された。
別に自殺願望があったわけじゃない。別に敵討ちがしたかったわけじゃない。
ただ、自分は。
ワーム・ゼロ「 」
A.O.J.ディサイシブ・アームズ「ヨオ、大将サマ」
ワーム・ゼロ「 」
ディサイシブ「デケェナ、トンデモネェデカサダ」
勝てないかもしれない。自分に与えられた力は絶大だが、それを上回り得る力を持っているだろう。
それでも。
ディサイシブ「負ケルキハ、サラサラネェゼ」
亡き友に、勝手に誓った。
自分が戦いの決着をつけると。
自己満足かもしれない。何の意味もないのかもしれない。友はそんなこと望んでないのかもしれないけれど。
最期に託された花は、自分に戦う力を与えてくれる。
きっとアイツが戦う時は、みんなを守って戦ったはずだ。
どんなに友を殺した世界が憎くても、友の想いを繋ぐために。
ワーム・ゼロ「 」
コントローラー「同調(シンクロ)」
きっと、これが、最期の同調。
たぶんどちらかが死に、勝った方もやがて死ぬのだろう。
もうジェネクス・コントローラー自身は動けない。
A.O.J.の決戦兵器、ディサイシブ・アームズの中枢制御コアとなり、その役割は制御だけ。
けれど、ジェネクス・コントローラーは確かに、体にしまった萎れた花を抱きしめた。
コントローラー「 ーーーーー」
戦果報告 霞の谷の戦士
ワーム・ゼロとA.O.J.ディサイシブ・アームズは、Xセイバー基地跡にて激突。
両者の戦いは熾烈を極めたが、結果的にワーム・ゼロは消滅。ワームの殲滅に成功した。
また、A.O.J.ディサイシブ・アームズも大破。修復は不可能と思われる。
ここは、とあるスクラップ置き場。
ここには、かつて世界を滅ぼしかねない悪を打ち破った英雄である機械が沈んでいる。
だけれど、そのことを知る人はーーーーー
影霊衣の大魔導師「ここか……」
影霊衣の舞姫「本当にここなの?随分寂れた場所ね。スクラップ置き場だから当然なのかしら?」
大魔導師「確かに、寂れておる。しかし、ココで朽ちた、世界を救った英雄がいたのは紛れもない事実じゃ」
舞姫「戦力になるの?ぶっ壊れちゃったんでしょ?あのクソ機械どもに対抗できるのかしら」
大魔導師「……確かに、それはわからぬところもあるかもしれぬ。しかし、儂らの時代に生きた英雄じゃ。例え戦う力にならずとも、少しでも姿を拝みたい」
舞姫「……さっきから生きた生きた言ってるけどさ、それって機械だったんでしょ?だったら生きる死ぬとかないんじゃないの」
大魔導師「……儂は、コイツを実際はよく知らぬ。この機械群は、その後のトリシューラの暴走の衝撃で、かなりのデータが吹き飛んでしまったのでな」
舞姫「あ、トリシューラなら知ってるよ。おじーちゃんも、その被害者なわけだし」
大魔導師「だから儂が知っているのは、こいつが戦っている姿のみ。それも、遠くから眺めただけじゃ。ひどく幼い頃にな」
舞姫「だったらなに?」
大魔導師「だけど、舞姫よ。コイツの戦う姿は。コイツの、周りの盾となりながら戦う姿はーーー」
「確かに、誰かの為に、生きておったよ」
それは、多くのものに忘れ去られてしまったかもしれない。
時と共に僅かな覚えていた人々も消えてしまうのかもしれない。
けれど、彼が守ろうとした、友の意志は。最期の同調は。
確かに、誰かの心に刻まれたのだ。
おしまい
投下しながらコッペリアル編もいけるかな、て一瞬考えたり。
この舞姫はエミリアちゃんの孫設定です。
また、あたかもA.O.J.の研究員が悪役みたいに書いてますが、彼らも生き残るために必死だったのです。
公式でも創作でもDTストーリーがもっと詳しく書かれた作品が増えることを祈ります。
htmlはまだ出さないでおいてください。
おまけ、遅れると思うけど書くんで。
申し訳ありませぬ。
前レスと即座に反するんですが、蛇足っぽいのでこれで完結です。
お目汚し失礼しました。
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