ゲンドウ「アイドルになれ。でなければ帰れ!」 シンジ「!?」 (77)

シンジ「アイドルって……」

シンジ「僕がライヴに出て、ステージに立って、歌って踊れって言うの……」

ゲンドウ「そうだ」

シンジ「無理だよ、そんなの! 盆踊りすら一回もやった事ないのに、出来っこないよ!」

ゲンドウ「レッスンを受けろ。用意は全て整っている」

シンジ「でも……!」

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リツコ「シンジ君、よく聞いて。時間がないの」

シンジ「リツコさん……」

リツコ「ネルフの看板アイドルのレイがライヴの途中で怪我をしてしまったのよ。だから、その代わりとしてあなたが選ばれたのよ」

シンジ「どうして……僕なんですか」


ゲンドウ「レイとそっくりだからな」

シンジ「僕が……?」

リツコ「ええ、そうよ。あなたをレイの姉という事にして、今夜、電撃デビューさせるわ。歌って踊るだけでいいの、それ以上は望みません」

シンジ「無理ですよ、そんなの……。僕、男ですし……」

リツコ「メイクとカツラも用意させてあるわ。ネルフの化粧技術は一流よ。そこは安心して」

シンジ「だ、だけど……」

ミサト「シンジ君」

シンジ「ミサトさん……」

ミサト「あなたは何のためにここに来たの。お父さんと会うためだけじゃないでしょ」

シンジ「いえ、完全にそのつもりでした……」

ミサト「ダメよ、逃げちゃ。ステージから、何よりライヴに来てくれた人の期待から」

シンジ「人の話、聞いて下さいよ……」

ワーワーワー!!

アンコール、アンコール、アンコール!!


ゲンドウ「やつらめ、遂にしびれを切らしたか」

ゲンドウ「冬月」

『何だ?』

ゲンドウ「レイを呼んでくれ」

『使えるのかね?』

ゲンドウ「死んでいる訳ではあるまい」

『……わかった』



シンジ「…………」

カラカラカラ
『レイがストレッチャーで運ばれてくる』


レイ「」ハァ、ハァ

シンジ(酷い……。こんな怪我をしてるのに……)


ゲンドウ「レイ。予備が使えなくなった、もう一度だ。ステージに立って、アンコールに応えてこい」

レイ「はい……」『体を起こす』

レイ「っ!」

レイ「」ハァ、ハァ


シンジ(無理だよ、こんなの……。もう一度ステージに立って踊るなんて……絶対に……)

レイ「赤木トレーナー……」ハァ、ハァ

リツコ「なに、レイ」『慌てて駆け寄る』

レイ「このギブスを外して……私をステージにまで運んで下さい……」ハァ、ハァ

レイ「そうしたら……私。踊れます……」ハァ、ハァ

レイ「ステージにさえ……立てれば……」ハァ、ハァ


リツコ「すぐに用意を! 急いで!」

黒服「は!」


シンジ「そんなっ!」

ミサト「リツコ! やめなさい、無理よ!」

リツコ「無理?」

ミサト「そうよ! だって、レイはもう一人で立つ事も出来ないじゃない! やっぱりもうライヴを中止するしか……!」

リツコ「ミサト!」パンッ!!

ミサト「っ!! な、何するのよ、いきなり!」

リツコ「レイはプロのアイドルよ! そのレイが出来ると言ったのなら、それを信じて全力で送り出すのが私達の仕事でしょ!」

ミサト「!?」

リツコ「私情を挟むなんて、あなたはプロデューサーの資格がないわ! プロとして失格よ!」

ミサト「で、でも……!」

【舞台裏】


シンジ(結局……僕は何も言えないまま、レイって子がステージに立つ事に……)

シンジ(でも、あんな怪我をしてたら、踊るなんて絶対に……)


レイ「」ハァ、ハァ


リツコ「レイ。それじゃ幕を開けるわよ。用意はいい?」

レイ「はい……。お願いします……」ハァ、ハァ


ミサト「……レイ」『心配そうに見つめる』


冬月「アンコールも最高潮に来てるな。これ以上待たせる訳にはいかんぞ。だが、本当にあの状態で出来るのか、碇?」

ゲンドウ「…………」

そして、幕が開いた!

スポットライトが一斉に照らされ、地割れの様な大歓声がライヴ会場を包み込む!


ワァーーーーー!!

レーイ!! レーイ!! レーイ!! レーイ!!


レイ「みんな……お待たせ」
http://www.imgur.com/UaiSevk.jpg



ワァーーーーー!!

キャー!! レイチャン!! レイチャーン!!

レイ「みんなのアンコールを聞いて」

レイ「これ以上、幸せな瞬間はなかった」


ウォォォォ!!

レーイ!! レーイ!!


レイ「だから、嬉しくて……」

レイ「この幸せを舞台裏で噛み締めてたの。ずっとずっと」


ワァーーーーー!! ワァーーーーー!!

レイ「私がこんな風に大きな会場で歌えるのも」

レイ「全部、これまで応援してくれた人のおかげだから」

レイ「このライヴは……みんなとの絆で出来てるから」


ウォォォォ!!

レーイ!! レーイ!! アイシテル-!!


レイ「本当にありがとう」


ア・ヤ・ナ・ミ!! ア・ヤ・ナ・ミ!!

【舞台裏】


シンジ「すごい……」

シンジ「普通に立ってる……。怪我なんかまるでしてないみたいに……」


リツコ「当然よ。あの子は選ばれた子なのだから」

シンジ「選ばれた子……?」

リツコ「そう。アイドルとしての素質を生まれながら持つ、一人目の適格者。ファーストチルドレン。それがレイよ」

シンジ「一人目の……適格者」

リツコ「それに、あの子の本領発揮はこれからよ。しっかりその目で見ていなさい、シンジ君。レイがただのアイドルなら、ここまで人気が出る事がなかったっていうのがよくわかるから」

シンジ「ここから……?」

レイ「」クルンッ

レイ「それじゃあ、みんな、いっくよー!!」


ヨッシャッ、イクゾー!!


レイ「歌うのはもちろんこの曲だから! みんな、わかってるよねー! 返事はどーしたのー!」


サッセー!!

エンジェル!! レジェンド!! ウイング!!

エヴァー!!


レイ「オッケー♪ それじゃ、一曲ノリノリで歌っちゃうよー!」


「『残酷な天使のテーゼ』!!」



レイ「それぇっ!」ピョーン!! タタタッ!!


ウォォォォ!!

【舞台裏】


シンジ「そんな……! あれだけの怪我してるのに!」

シンジ「ステージだけじゃなく、客席まで走り回って!」

シンジ「しかも、さっきとはまるで別人みたいに!!」


リツコ「そう。それがあの子のアイドルとしての強み。ファンとの近さと、ギャップ萌えよ」

シンジ「!!」

リツコ「レイの本来の性格は、とても大人しくそして無口で儚げ。謎めいた少女」

リツコ「一種の神秘性があるわ。ファンはそこに惹かれるの」

リツコ「だけど、ライヴの時だけ。この時だけは別」

リツコ「歌う曲によって、まるで別人のように明るくなるの。どちらがレイの本当の素顔なのか、もしくは両方ともそうなのか」

リツコ「どちらにしろ、言える事は、両方とも可愛いという事よ」

シンジ「!!」

リツコ「通常、自分の好きなアイドルがネットとかで叩かれていると、ファンはもちろん怒り狂うわ」

リツコ「だけど、レイだけは別」

リツコ「レイも暗いだとか感情がなさそうだとか、そんな風によく叩かれる事があるけど、そういうのを見るとレイファンはむしろほくそ笑むのよ」

リツコ「ああ、こいつはレイの事を何にも知らないんだなって」

シンジ「……!!!」

リツコ「レイの魅力はそこ。全てのファンの心の中に入り込む」

リツコ「そして、一度ステージに立ってしまえば、あの子は怪我も何もかも忘れたかのように、歌って踊るわ」

リツコ「あの子は正に、アイドルになる為に生まれてきたような子なのよ!」ババンッ


シンジ「!!!!」

シンジ(綾波レイ……)

シンジ(アイドルになる為の素質を生まれながら持つ、一人目の適格者……)

シンジ(……あれだけの怪我をしてるのに)

シンジ(……あんなに楽しそうにはしゃぎ回って)


シンジ(なんてすごい子なんだろう……)

気が付けば、シンジはレイの姿をじっと眺めていた

ステージ上で汗だくになりながらも嬉しそうに飛び回っているレイ


目が離せなかった


離した瞬間に、倒れてしまうんじゃないか

そんな不安も当然あったが、それ以外のものに惹かれていたのも事実だった



そして、一曲目が終わった

レイはファン達に惜しみ無い笑顔を振り撒いた後、倒れるように舞台裏に転がり込み、そのまま本当に倒れた

ミサト「レイ! レイ! しっかりして!」

レイ「」ハァハァ、ハァハァ!!


リツコ「エアー急いで! 過呼吸になりかけてる!」

リツコ「化粧の手直しも! 早くっ!!」

ミサト「!!」

ミサト「ちょっとあんた、どういうつもり!?」

ミサト「こんなになってるレイをまだステージに立たせるっていうの!? いい加減にしなさいよ!!」


リツコ「……っ」


ゲンドウ「待て」スッ


ミサト「碇社長……」

レイ「」ハァハァ、ハァハァ

アンコール!! アンコール!! アンコール!!


ゲンドウ「レイ、あの歓声が聞こえるか」

レイ「」ハァハァ、ハァハァ


レイ「……ぃ」コクッ


ゲンドウ「ならもう一度だ。立て」

ミサト「!?」


レイ「ぃ……」ハァハァ、ハァハァ『懸命に立ち上がろうとする』


シンジ(うっ……! ううっ!!)

シンジ(ダメだ、もう見てられないよっ!)

シンジ(逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……!)


シンジ「やりますっ! 僕が代わりにライヴに出ます!!」


ミサト「シンジ君……!」


レイ「」ハァハァ、ハァハァ


リツコ「……それでいい? レイ」

レイ「ぃ……」ハァハァ、ハァハァ


リツコ「そう……。わかったわ」コクッ

リツコ「すぐに、彼に化粧とカツラを! 四十秒で仕度をして!」

黒服「は!」

シンジ「うっぷ……」パフパフ

黒服「じっとしてろ! 動くなっ!」

シンジ「だ、だけ……んぐっ!」ヌリヌリ

黒服「口を開けるな! リップがずれる!!」

シンジ「ーーっ!!」



リツコ「彼の登場までなんとか間を持たせて! 少しでもいい! 時間を稼いで!」

ミサト「わかったわ!」クルッ

ミサト「マヤ! 中継ぎの用意は出来てる!?」

マヤ「い、一応は出来てます……。ですけど……//」

マヤ「私、もうアイドルを引退して、事務員になってるのに、今更過ぎてこの衣装は……///」モジモジ

ミサト「このライブを守る為よ! 恥を捨てなさい! 恥をー!」

マヤ「は、はい……//」

シンジ「ちょ、やめ、やめて下さい!// 服を脱がさないで!!」

黒服「黙れ! ぶち殺すぞ!!」

シンジ「衣装って、それにこんなヒラヒラのミニスカートは!///」

黒服「暴れるな! 犯して輪姦すぞ!!」

シンジ「っ!!!」ビクッ



『み、みなさん、あのー、お、覚えてますか? みんなのアイドル、伊吹マヤです//』

ハァ? ダレ、ソレー?

『レ、レイとは、先輩後輩の関係にあたるんだけど……』

シーン……


日向「熱気、逆流! 空気がどんどんと冷え込んで行きます!」

青葉「ファンとのシンクロ率、低下中! 駄目です、塞き止められませんっ!!」


ミサト「次っ!!」

寝る

リツコ「いい、シンジ君。このリズムよ。ワンツー、ワンツー、はい、ここでターンして足をクロス!」クルンッ、スチャッ

女装したシンジ「い、いきなり無理ですよ! そんな複雑なダンス!」

リツコ「時間がないの。無理でも何でも、サビの振り付けぐらいは覚えてもらうから。ほら、ここで大きく手を広げてー、ワンツー、ワンツー。違う! そうじゃないわよ! こう!」クルッ、ビシッ

女装シンジ「」



『ええと、それじゃあですね。事務所の先輩であるマヤさんに、今日はレイちゃんの知られざるエピソードを語ってもらいましょう』

『え!?』

ザワザワ……


ミサト「……」(カンペを指差す)
『歌はもう歌わなくていいから。アドリブで何とかして』

『……あ、ええと、その』

ザワザワ、ザワザワ


青葉「ファンからの不信感が広がって行きます! もう限界です!」

ミサト「ちっ。ここまでね……」

ミサト「リツコ。引き延ばしはもってあと三分ぐらいよ。それ以上はもう無理だから」

ミサト「シンジ君の出撃準備は出来てる?」


リツコ「まだよ。サビの振り付けだけは教えているけど、それ以外は出来ないわね。歌詞はカンペで出すとしても、他のパートのダンスは完全にカカシ状態よ」

ミサト「それでいいわ。立って歌えるなら、この際、文句は言わないわよ。なりふり構ってられる状況じゃないし」


ミサト「」クルッ

ミサト「シンジ君、頼んだわよ。このライヴが成功するかどうか、それをあなたに全て託すわ」

女装シンジ(無茶苦茶だよ、そんなの……!)

しまった……

ミサトの台詞。ライヴをライブに訂正

ミサト「それじゃあ、碇シンジ君改め、綾波ユンちゃん。それがあなたのアイドルとしての名前よ、いいわね?」

女装シンジ「は、はい……//」

ミサト「もうすぐ、マヤのどうでもいい話が終わるから、それが終わると同時にスタートよ。それがあなたのデビュー戦となるわ」

女装シンジ「デビュー戦って……」


ミサト「まず日向君が、あなたの紹介をするから、名前を呼ばれたら元気よく飛び出して、みんなに挨拶」

女装シンジ「挨拶って……その。どういった風に……」

ミサト「普通でいいわ。例えば――」


ミサト「レイの姉の綾波ユンです。今日からデビューしますのでよろしくお願いします」ペコリ


ミサト「こんな感じでいいわよ。出来るだけ素のままで出て。役作りとかは、今のところ、こちらは考えてないから」

女装シンジ「はい……」

ミサト「で、挨拶が終わったら、適当に何か話して」

女装シンジ「適当って……! 無理ですよ、そんなの! 急に言われても思いつきませんよ!」

ミサト「本当に何でもいいのよ。緊張してますとか、頑張って歌うので聞いて下さいとか、そんな事でいいわ。とにかく、ステージに出て、何も話さないまま歌い出したら、向こうも困惑するでしょ。これはその為よ」

女装シンジ「……わかりました」

ミサト「あと、歌い終わってからだけど、その後は――」



『はい、どうもありがとうございました。レイちゃんの貴重なエピソードも聞けたところで、今日はこれからちょっとしたサプライズが』

エェーーーー!! ナニナニー!!

『実は、レイちゃんのお姉さんが、今日、アイドルデビューをします!』

マジデ!? ウソー!!

ザワザワ、ザワザワ




ミサト「時間がないか……。歌が終わった後の事はカンペで出すわ。歌詞もカンペで出すから、それを見ながら歌って」

女装シンジ「え、え? カンペ??」

女装シンジ「ミサトさん、カンペって一体な」



『それでは登場してもらいましょう! 綾波ユンちゃんです!!』


ミサト「出番よ、ユンちゃん! さあ行って!」

女装シンジ「え、ちょっ、ま、待って下さい!」

ミサト「いいから、早く!急いで!」ドンッ

女装シンジ「うわっ、ちょっ!!」トトトッ

【ステージ】


女装シンジ「あ、とっとっ……!」ヨロッ

???

ザワ……


女装シンジ「あっ……!」(よろけて転ぶ)

コロンダゾ…?

ザワザワ、ザワザワ

【ステージ裏】


ミサト「あのバカっ! よりにもよってこんな大事な場面で転ぶなんて……!」

青葉「どうします、葛城さん! フォローを日向に入れさせますか!?」

ミサト「ええ、そうね! 早速カンペを」

リツコ「いいえ! 待って、ミサト!」

ミサト「待ってって……! 何を待つって言うのよ! 早くしないとステージが台無しに」

リツコ「違うわ! 見なさい、ミサト! アレを!」(ステージを指差す)


ミサト「アレ……? 一体、何を……」クルッ

ミサト「!?」

【ステージ】


女装シンジ(しまった……!)

女装シンジ(やっちゃったよ、僕……!)

女装シンジ(綾波があんなに頑張っていたライヴを一瞬で壊して……!)

女装シンジ(最低だよ、僕……!)


女装シンジ(ごめん……綾波……。ごめん……。僕のせいで……)ウルウル
http://www.imgur.com/yvTIkdA.jpg



キュンッ!! ドキッ!!

【客席】


ファンA「……可愛い//」ボソッ

ファンB「……なんだ、この胸の高鳴りは///」

ファンC「守ってあげたくなるような、そんな想いで胸が苦しいぞ……///」

ファンD「ユンちゃーん! 頑張れー!/// 俺は応援するぞー!!」

ファンE「転んだぐらいでなんだ!/// また立ち上がればいい!」

ファンF「そうだ、そうだ!/// めげずに起き上がろうぜ、ユンちゃーん!」


ファン全員「ユーンちゃん!/// ユーンちゃん!」

ファン全員「ドーンマイ!/// ドーンマイ!」

寝る

【ステージ裏】


青葉「こ、これは……! ファンとのシンクロ率が急上昇していきます! ドンマイコールも鳴り止みません!!」

ミサト「そんなっ!? シンジ君はミスして転んだだけなのよっ!?」


リツコ「そう。転ぶ事によって、ファンの視線を一身に集めたのよ、彼は」

ミサト「え……!?」

リツコ「そしてそこで、あの悩殺ポーズ。加えて、捨てられた子犬のような潤んだ瞳を見せられたらどう? 誰もが一瞬で恋に落ちるわ。少なくとも、好意は寄せるはずよ」

ミサト「そんなっ! じゃあ、シンジ君はそこまで計算して……!」

リツコ「違うわ。シンジ君にはきっとそこまでの考えはないはずよ。恐らく彼は無意識の内にそれをやってのけたのね」

ミサト「無意識に? あれだけの事を……!? 無理よ、そんなの……! 場に慣れたグラビアアイドルでさえ、咄嗟にあれは出来ないわ。まして、シンジ君はこれまで一度も女装すらした事がないのよ! なのに、いきなりそんなっ……!」

リツコ「……ええ、そうね。『普通の男の子』なら絶対に無理ね」

ミサト「普通の……」

リツコ「ミサト……忘れたの? 彼はサードチルドレンなのよ」

ミサト「!?」

リツコ「生まれながらにして、アイドルの素質を持つ第三の適格者。それが彼――碇シンジ君」

リツコ「男でありながら、女よりも可愛らしい少年。男でありながら、誰よりもアイドルの素質を持つ天才!」ババンッ

ミサト「!!」


リツコ「レイが誰よりも深く人の心に入り込むアイドルだとしたら、シンジ君は誰よりも守ってあげたくなるような、誰からも愛される完璧なアイドルよ」

リツコ「そう。それこそ人の領域を越えて、神の領域に達するぐらいのにね」

リツコ「私の目に狂いがなければ、あの子は将来、アイドルの神として頂点に君臨する!」

リツコ「それだけの、恐ろしい才能をきっと秘めている!」ババンッ

ミサト「!!!!」

リツコ「ミサト……。レイをプロデュースしたあなたの目は本物よ。だけど、あなたはまだあの子の本当の怖さを知らない」

ミサト「本当の……怖さ……?」

リツコ「そう。怖さ。よく考えてみてよ、ミサト。シンジ君は出てきただけで、ファンの瞳を釘付けにして、そして有り得ない程の支持を集めたのよ」

ミサト「!?」

リツコ「これを見て、ミサト。今のシンジ君のファンとのシンクロ率よ」

ミサト「……そんな、まさか!? ファンとのシンクロ率がもう70%を越えているなんて!?」

リツコ「レイがこの数値に辿り着くまで六ヶ月もかかったわ。それでも十分早い方なのに、彼は一瞬にしてさらりと鷲掴みにしたのよ」

ミサト「!!!」

リツコ「まだ一曲も歌ってないというのに、これ……。おまけにシンジ君はこれが初女装の上、レッスンと呼べるものを全くと言っていいほど受けていないのに……」

ミサト「!!!?」

リツコ「レッスンを受けたらどこまで伸びるのか……。それは私にも想像がつかないわ……」

リツコ「なんて恐ろしい子なのかしら……」


ミサト「それだけのアイドルの才能をシンジ君が……」

リツコ「ただ……」

ミサト「た、ただ……?」

リツコ「本人のやる気がどうかという事ね。ひょっとしたらこのステージで彼は潰れてしまうかもしれない。ライヴの怖さは、体験した者にしかわからないのだから」

ミサト「…………」

リツコ「どんな大物アイドルでも、ライヴの前は怖くてたまらないと言うわ。失敗をしたらどうしよう。ファンがノッてくれなかったらどうしよう。そういった重圧に彼が耐えれるかどうかよ」

リツコ「シンジ君は、既に転んで失敗している。それは私達から見れば失敗ではなく、大成功よ。でも、本人がそれをどう受けとるかね」

リツコ「失敗に耐えきれずに、それを引きずるようなら……」

ミサト「ようなら……?」

リツコ「彼のアイドル生命はそこで終わりね。もう二度とステージには立ってくれないだろうから」

ミサト「…………」

リツコ「これからシンジ君がどうするか……。それが今後の彼の運命を決めるわ」

ミサト「シンジ君……」(ステージをそっと見つめる)

【ステージ】


ユーン!! ユーン!! ユーン!! ユーン!!

ドンマイ!! ドンマイ!! ドンマイ!! ドンマイ!!


女装シンジ「あ、う……///」カアッ

女装シンジ(恥ずかしい……/// 死にたいよ、なにこれ……///)

女装シンジ(ただでさえ、こんな格好してるのに……///)

女装シンジ(皆が僕の方を見て……///)

女装シンジ(ダメだ……/// 今すぐここから逃げ出したい……///)

【ステージ裏】


青葉「駄目です! 目標、さっきから動く気配がありません!! ずっと沈黙を守ってますっ!!」


リツコ「残念ね……。完璧に裏目に出てしまったみたいよ」

ミサト「…………」


リツコ「ミサト、どうするの? このままだとずっと動きそうにないわよ。いえ、それどころか、ステージを放棄する可能性だってあるわ。最悪の事態だけは何としても避けるべきよ」

ミサト「そうね……。一時、撤退させるわ。一度呼び戻して落ち着きを取り戻させてから再出撃よ」

リツコ「そうね。その方がいいでしょうね」


ミサト「速やかにシンジ君を回収するわよ! 回収ルートは地下の415番を使うわ。準備急いで!」

黒服「は!」

ミサト「それとカンペの用意も! 日向君にアナウンスさせるから! これも大至急よ!!」

黒服「は!!」

【ステージ】


ユーン!! ユーン!! ユーン!! ユーン!!

オキテー!! ガンバッテー!!



女装シンジ(だけど……!)

女装シンジ(ここで逃げたら綾波のライヴが台無しに……!)


―――――――――――――――――――――

アンコール!! アンコール!! アンコール!!

ゲンドウ「レイ、あの歓声が聞こえるか」

レイ「」ハァハァ、ハァハァ

レイ「……ぃ」コクッ

ゲンドウ「ならもう一度だ。立て」

ミサト「!?」

レイ「ぃ……」ハァハァ、ハァハァ『懸命に立ち上がろうとする』

――――――――――――――――――――――


女装シンジ(あんなにまでして、大切に守ろうとしたライヴなのに……!!)

女装シンジ(ダメだ、逃げたらダメだ!!)

女装シンジ(僕が綾波の代わりをしっかりしないと……!!)

【ステージ裏】


ミサト「目標はステージ上の碇シンジの身柄の確保。ステージ下より突撃して、可能な限り迅速に身柄を拘束。しかるのち、撤退。ぬかるんじゃないわよ」

黒服「は!」

ミサト「では……突撃!」

黒服「は!」


ビーッ、ビーッ!!


青葉「!?」

青葉「待って下さい! 目標が動き始めました! 落としたマイクを拾おうとしています!!」

ミサト「まさか!?」

リツコ「なんですって!?」

【ステージ】


女装シンジ「ぅ……///」(マイクを拾って立ち上がる)


ガンバレー!! ガンバレー!!


女装シンジ「……あ、あの///」

キコエナーイ!! モットコエダシテー!!


女装シンジ「あ、あの! 今日からアイドルデビューする……あ、綾波ユンです!///」

女装シンジ「あ、ち、違うマイクのスイッチが入ってないんだ!////」アセアセ

…………。


女装シンジ「え、えと、あの、その! ボ、ボクの声、き、聞こえますかー!?////」

…………。


ワアアアアッ!! カワイー!!!

ボクッコ、キタコレーーーーー!!

サイコー!! キャー、ワー!!


女装シンジ「う、うぅ/////」(顔真っ赤)

【ステージ裏】


青葉「シンクロ率、80%を越えました!! まだ上昇していきそうな気配です!!」


リツコ「ミサト、これなら!」

ミサト「いけるわ!!」


ミサト「」クルッ

ミサト「総員に通達! 碇シンジ回収作戦は現時刻をもって中止! 以降は彼のバックアップに徹します!!」


ミサト「音響班は曲の用意を! 照明班はスポットライト急いでっ!」

黒服「は!」

【ステージ】


女装シンジ「あ、あの!///」

ナニー!!


女装シンジ「これから歌うので、き、聞いて下さい!////」

オオオオオッ!!


女装シンジ「綾……じゃなくて、その……////」

女装シンジ「レ、レイみたいに上手く歌えないけど///」

女装シンジ「でも、一生懸命歌うので、みんな、あの、その……////」

女装シンジ「お、応援して……くれる?////」(上目使い)


ウオオオオオッ!!

カワイイー!! サイコー!!


ヨッシャイクゾー!!!! ガンバレー!!


女装シンジ「う、うん……!///」ニコッ

キュンッ!! ドキッ!!

【ステージ裏】


マヤ「凄い……。こんなに盛り上がるなんて……」

リツコ「正にアイドルになる為に生まれてきたような子ね」


ミサト「よしっ! 掴みはバッチリよ!」

ミサト「シンジ君、あなたならいけるわ!」

ミサト「音楽、スタートさせて! 歌詞のカンペも出すのよ!」

黒服「は!」

【ステージ】


女装シンジ(あ、音楽が……)


エンジェル!! レジェンド!! ウイング!!


女装シンジ(皆で合いの手を始めてるし……!)

女装シンジ(う、歌わないと!!)

女装シンジ(さっきの綾波みたいにすればいいんだよね……!)

女装シンジ(えっと……確か……!!)


女装シンジ「それじゃあ行くよ! みんなノッてきてね!」

サッセー!!!


女装シンジ「ボクが歌うのは、みんなもよく知ってるこの曲だから!」

エヴァー!!


『残酷な天使のテーゼ!!』


http://m.youtube.com/watch?v=G5wpwP09JMA

きりがいいんで、今日はこれで終わる

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