綾乃「待ってて、今行くから」 (40)


千歳「──ってことがあってなぁ~」

綾乃「ふふっ、本当にしょうがないわね」

綾乃「あっ、それじゃあ私はこっちだから」

綾乃「またね、千歳」

千歳「うん、また明日~」フリフリ

綾乃「ええ」フリフリ


千歳「! 綾乃ちゃん!!!」

綾乃「へっ──きゃっ!?」バタッ


ブロロロロロロ……


千歳「綾乃ちゃん大丈夫!?」タッタッタッ


綾乃「え、えぇ……なんとか」

千歳「よかったぁ」ホッ

千歳「綾乃ちゃんに怪我でもあったらどうしようかと……」

綾乃「ありがとう千歳、私は大丈夫だから」

綾乃「ダメね、青信号でも道路は気を付けて渡らなくちゃ」

千歳「せやなぁ」

千歳「なにはともあれ、綾乃ちゃんが無事で本当よかったわ~」

綾乃「もう、大袈裟なんだから」

綾乃「それじゃあ、今度こそさよならね」

千歳「うん、帰りは気を付けてなぁ~」

綾乃「千歳もねー」

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────

綾乃「ふー、今日もやっと一日が終わるわ」

綾乃「そういえばトラックに轢かれかけたけど……あれ絶対に向こうが悪いわよね」

綾乃「赤信号なのにそのまま走ってくるなんて」

綾乃「もし千歳が止めてくれなかったら私死んでたかもしれないじゃない!」

綾乃「……まぁ、もう終わったことだし今更気にしても仕方ないわ」

綾乃「寝ましょう」ゴロン

~~~~

『もしもし、もしもし』

綾乃「うぅん……」

『ちょっとお時間よろしいですか?ちょっと』

綾乃「……えっと、あなたは?」

『失礼しました、私死神と申します。この度は私の手違いであなた様に死の恐怖を味あわせてしまったみたいで』

綾乃「……えっ、死神?」

『そうです、死を司る神でお馴染み死神でございます』

綾乃「な、なんで死神が私なんかに……」

『先程あなたは車に轢かれそうになったでしょう?実はあれ私の手違いでして』

『本来あなたは特に死の危険もなく平和に天寿を全うする運命だったのですが、勘違いであのようなことに』

『幸い、コトが起こる前に失敗に気付いたので、あなたが死ぬ前にその死を回避できたのですが』

綾乃「それならそれでいいんじゃ……」

『それでも、元々あなたは死の恐怖なんて一切関係なく比較的幸せに生きられるはずだった』

『それなのに、私のミスで輝かしい人生にこんな汚点を残してしまったのがとても申し訳ないのです』


『ですので、あなたにプレゼントがございます』

綾乃「えぇ……」

『普通にはない不思議な力を与えます、これで運命以上に幸せな人生をお過ごしください』

綾乃「不思議な力って……?」

『簡単に言えば時間を3分間だけ巻き戻せます』

綾乃「時間を巻き戻せる!?」

『はい』

『だだし、一度時間を戻したら3分間は能力が使えないので、3分戻してすぐまた3分戻すといったことはできないようになっています』

『あくまで【3分間】ですので、ご了承ください』

綾乃「は、はぁ」

『それでは私はこれから本来あなたの代わりに死ぬはずだった人間をブッ殺しに行くので』

『さようなら』

綾乃「あっ、ちょ!」


綾乃「えぇぇ……」

~~~~

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ

カチッ

綾乃「……」ガバッ

綾乃「……なんだか変な夢を見たわ……」

綾乃「死神ってなによ、なんで死神が私に超能力なんてくれるのよ」

綾乃「馬鹿らしい」

綾乃「……」

綾乃「今の時間は6時30分……」

綾乃「……時間よ戻れっ」ボソ

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綾乃「…………」

綾乃「なんだ、やっぱりなにも変わらないじゃない」

綾乃「さっさと着替えちゃいましょ」



綾乃「よし、着替え完了──」

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ

綾乃「あら?」

カチッ

綾乃「目覚まし時計……おかしいわね、さっき止めたはずなのに……」

綾乃「ってえっ、6時30分!?」

綾乃「嘘!?」

綾乃「ということは……あの夢は本当だったってこと……?」


綾乃「と、とりあえず学校に行く支度しなきゃ」

────

綾乃「(あの死神は本物だったのね……どうしてこうなった……)」

ガラッ

綾乃「おはよう……」ボー

千歳「あっ、綾乃ちゃんおはよう~」

綾乃「えぇ……」ボー

千歳「? どうしたん?なんか上の空って感じやけど」

綾乃「へっ、そう?」

千歳「うん、心ここにあらずって感じや」

千歳「あっ、もしかして昨日のことまだ気にしとるとか……?」

綾乃「え、あぁ……違うのよ。あれは全然気にしてないわ」

綾乃「(そのすぐ後のことで頭が混乱しちゃってるんだけどね)」

千歳「ならよかったわ」

綾乃「なんていうか、ちょっと変な夢を見ちゃって……多分それのせいでおかしくなってるんだと思うわ」

千歳「変な夢?」

綾乃「えぇ」

綾乃「まぁ、大した内容じゃなかったから気にしないで。私もすぐに忘れるはずだから」

千歳「なるほど、了解や」

ガラッ

京子「おっはー」

結衣「おはよう」

千歳「お二人ともおはようさん」

綾乃「おはよう」

京子「いやぁ~、危なかったぁ。部室で宿題やってたら遅くなっちゃってさぁ」

綾乃「あぁ、だからこんな遅刻ギリギリの時間に」

結衣「そうなんだ、私まで付き合わされて大変だったよ」

京子「へへっ、でもおかげでこうやって宿題が……」ゴソゴソ


京子「あれ?」

千歳「どうしたん?」

京子「無い……」

結衣「えっ……お前まさか」

京子「宿題部室に忘れてきた……」

千歳「あちゃー」

京子「ど、どうしよう……この前忘れたばっかりだから今度こそ怒られちゃう……」

綾乃「今から取りに行っても間に合わないわよね」

結衣「諦めるしかないな」

京子「そんなぁ~」ガクッ

綾乃「(ここから娯楽部の部室までだいたい歩いて3分くらいか……)」

綾乃「なんとかなるかもしれない」

京子「へっ」

綾乃「時間よ戻れ」

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綾乃「──ハッ」

綾乃「ここは教室の前の廊下……」

綾乃「そうか、戻ってきたのね」

綾乃「(時間を戻したら、場所まで3分前にいたところに戻るんだ)」

綾乃「っと、モタモタしてる場合じゃないわ。早く歳納京子のところに行かなくちゃ」タッ

綾乃「(多分茶道部室に行くまでの道で会えるでしょう)」


綾乃「あっ、いた!」

京子「おー、綾乃おはよー」

綾乃「おはようじゃないわよ!!」

京子「えっ」

綾乃「あなたちゃんと宿題は持ってきたの!?」

京子「宿題って……ちゃんとさっき部室でやったよ」

綾乃「見せてみなさい」

京子「なぜ」

結衣「どうしたんだ綾乃、なんか変だぞ」

綾乃「えっと……そう、今朝夢を見たのよ!歳納京子が宿題を部室に忘れてきて先生に怒られる夢を!」

京子「なんだ、それでわざわざ確認しに来たのか」

京子「もー、綾乃は大袈裟だなぁ~。私がそんなミスするわけ……」ゴソゴソ


京子「あれ?」

綾乃「ほらやっぱり!!」

京子「おかしいな……確かに鞄に……」

綾乃「きっと部室に置き忘れてるのよ」

綾乃「時間もないんだから早く取りに行ってきなさい!」

京子「ひぃ~!嘘だろ~!」タッタッタッ

綾乃「ふぅ……なんとか間に合いそうね」

結衣「すごいな、正夢ってやつか」

綾乃「え、ええ、どうやらそうみたいね」

結衣「京子を待ってて遅刻扱いされちゃうのも嫌だし、先に教室行ってようか」

綾乃「そうね、そうしましょう」

ガラッ

結衣綾乃「おはよう」

千歳「あ、二人ともおはようさん~」

千歳「どうしたん?今日は二人揃っていつもより遅くに」

千歳「それに歳納さんは一緒じゃないん?」

綾乃「歳納京子はもう少ししたらくるわよ、今一人で部室に忘れた宿題を取りに行ってるの」

結衣「京子が宿題忘れてるかもしれないって、綾乃に教えてもらってね」

結衣「それで、私と綾乃だけ先に教室に行くことになったんだ」

千歳「へ~、そうやったんか~」

千歳「それにしても、どうして綾乃ちゃんは歳納さんが宿題忘れてるってわかったん?」

綾乃「えぇ、実はちょっと夢を見て……それがやけにリアルだったから、ひょっとしたら正夢なんじゃないかって」

千歳「え、それで歳納さんに教えに?」

結衣「すごいよな、それで本当に夢通りのことが起こったんだから」

綾乃「なんか……本当にすごく現実味のある夢だったから」

千歳「あはは、確かにありそうではあるなぁ」

結衣「実際に現実に起こったしな」

結衣「珍しいこともあるもんだ」

綾乃「本当ね」

ガラッ

京子「よし!ギリギリセーフ!」

結衣「あっ京子」

千歳「危機一髪やな」

京子「綾乃ありがとー!これでなんとか怒られずに済みそうだよ!」

綾乃「い、いえ、大したことじゃないわよ///」

綾乃「(歳納京子を助けられた……)」

綾乃「(最初はどうしようかと思ったけど、この能力結構いいじゃない!)」

────


櫻子「やったー!プリントの整理終わったー!」

千歳「ふふっ、お疲れ様。大室さん頑張っとったもんなぁ」

綾乃「千歳も古谷さんもね」

綾乃「今回は量が多くてたいへんだったけど、みんなよく頑張ったわ」

向日葵「いえ、先輩方と比べたら私の働きなんて」

櫻子「んー!これでやっと一休みできる」

櫻子「お茶飲もー♪」

櫻子「みんなはなに飲みますー?」

千歳「淹れてくれるん?」

櫻子「はい、偶には私もお茶くらい用意しようかなーって」

向日葵「櫻子にしては珍しい」

櫻子「うるさい!飲まないなら飲まないでいいんだからな!」

向日葵「誰も飲まないなんて言ってないでしょうに、私は紅茶をお願いしますわ」

千歳「じゃあうちも紅茶で」

綾乃「私はコーヒーお願い」

櫻子「はーい」トコトコ


千歳「最近大室さん頑張っとるなぁ」

向日葵「まぁ、以前の櫻子よりはマシになりましたわね」

千歳「もう、素直に認めたったらええのに」

千歳「仕事もちゃんとするようになったし、これは古谷さんもうかうかしてられへんかもしれんで?」

向日葵「なっ!?」

向日葵「私が櫻子に遅れを取るなんてあり得ませんわ!」

向日葵「次期生徒会副会長は私が務めます!」

千歳「あはは、その意気や」

綾乃「もう、千歳ったら」


櫻子「みんなお茶がはいりましたよー」

千歳「おっ、ありがとさん」

櫻子「はい、どう──あっ!」コケッ

パシャァ


櫻子「あぁ……プ、プリントが……」

千歳「あらあら~……」

櫻子「す、すいません……せっかく終わったのに……」

向日葵「まったく……」

櫻子「早くお茶が掛かってないところだけでも集めなきゃ……」アタフタ

綾乃「大丈夫よ、気にしなくていいから」

櫻子「へ、で、でも……」

綾乃「私に任せて、すぐ戻してあげるから」

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櫻子「やったー!プリントの整理終わったー!」

千歳「ふふっ、大室さんお疲れ様」

────

あれからというもの、この能力のお陰でたくさんの人を助けられた
一年生が階段から落ちるのを未然に防いだり、母親が料理を焦がしてしまうのを阻止したり
手の届く範囲のことなら全て私がなかったことにした
今までの自分では到底成し得なかったことだ


綾乃「(今日もまた人の為になることができた)」

綾乃「(やっぱりいいことをすると気分がいいわね♪)」

綾乃「~♪」

京子「どったの綾乃?ずいぶん機嫌が良さそうだけど」

綾乃「へっ、そうかしら?」

結衣「言われてみれば確かに」

結衣「なんかすっきりした顔してる」

綾乃「自分ではいつも通りだとと思うんだけど」

千歳「あっ、もしかしてもう少しで中間テストやから気が昂っとるとか?」

綾乃「えっ」

京子「あー、それかー」

結衣「なるほど、だからあんな楽しそうにしてたのか」

京子「私は逃げも隠れもしないからな」

京子「いつでも君の挑戦を待っているぞ!」

綾乃「え、えぇ……望むところよ!」


綾乃「(いけない。最近人を助けることばっかり考えてて、テストのこと半分忘れかけてたわ)」

綾乃「(今日からテスト勉強始めなきゃ……今度こそ歳納京子に勝つのよ!)」


綾乃「(テスト勉強しなきゃ)」

綾乃「(とは思ったけど……)」

綾乃「もう結構時間経っちゃった……」

綾乃「どうしましょう、いつもなら一ヶ月前から対策するのに」

綾乃「テストまであと一週間……まずいわ」

綾乃「学年1位どころか、これじゃあ学年2位の座すら危うい」

綾乃「また歳納京子に……」


綾乃「いいや、諦めちゃダメよ杉浦綾乃!」

綾乃「たとえ時間が少なくても頑張るのよ!!」


綾乃「(そうだ、時間を戻せば……)」

綾乃「……」

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綾乃「やっぱり!!」

綾乃「ノートに書いた文字は消えてるけど記憶は消えてない!」

綾乃「いける、いけるわ!これなら好きなだけ勉強できる!」

綾乃「これで歳納京子に──」


綾乃「これで……」

綾乃「(こんなズルみたいな真似していいのかしら……)」

綾乃「(歳納京子は普段真面目じゃないけど、ズルなんかしない……)」


綾乃「少しだけ……少しだけなら……」カキカキ


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────


先生「えぇー、それじゃあテスト始めー」

バサァッ

カキカキカキカキ

カキカキカキカキ


綾乃「……!」

綾乃「……」カキカキ

綾乃「(すごい!すごいわ!)」

綾乃「(問題を見ただけですぐに答えが思い出せる!)」

綾乃「(まぁそりゃそうよね、あれだけ勉強したんだから)」


綾乃「(これなら……)」


────

京子「うぇー、テスト終わったー」

千歳「んん~、これでやっと肩の荷が下りるわぁ」

京子「私も今日からやっと満足に寝られると思ったら身体が軽いよ」

結衣「普段から真面目に勉強してればそんな無茶する必要もないんだけどな」

綾乃「あぁ、それにしても早くテストの結果発表されないかしら」

綾乃「待ち切れないわっ!」

京子「テスト直後にそんな前向きなことを言うとは」

結衣「そんなにテスト自信あるのか?」

綾乃「ふふっ、どうかしらね」

京子「なんだその余裕の笑みは」

千歳「綾乃ちゃんが自信に満ち溢れとる」

綾乃「そんなことないわよ、私はいつも通りよ」


綾乃「(あぁ、もどかしいわ!戻すだけじゃなくて進められたらいいのに!)」

────

綾乃「おはよう千歳」

千歳「あっ、おはよう綾乃ちゃん」

千歳「下駄箱で会うなんて奇遇やなぁ~」

綾乃「ふふっ、そんな珍しいことでもないでしょうに」

千歳「あっ、テストの結果貼り出されとるで」

綾乃「!」ピタッ

千歳「見てみよか」

綾乃「えぇ!」


千歳「えーっと、学年1位、杉浦綾乃……」

千歳「──綾乃ちゃん!」

綾乃「!!」

綾乃「やった……やったわ!」

綾乃「ついに歳納京子に勝てたのね!!」

千歳「やったな!すごいやん!しかも満点やで!」

千歳「おめでとう!ようやく歳納さんに勝てたんやな!」

綾乃「ありがとう千歳!」ギュッ


キャッキャッ

京子「おっはー、って二人で抱き合ってなにしてんの?」

綾乃「あっ、歳納京子」

綾乃「ふふふ、見てみなさい。テストの結果が発表されたのよ」

京子「おっ、本当だ」

京子「どれどれ……1位杉浦綾乃、2位歳納京子」

京子「あ、負けてる」

綾乃「どうよ!」

京子「くそ~、負けちゃったかぁ~」

綾乃「まぁ、今回は私がいつも以上に頑張ったからかしらね!」

京子「私もそこそこやったんだけどなぁ……」

京子「まぁちょっと悔しいけど、おめでとう綾乃」


綾乃「(やったぁ~♪ついに!ついに歳納京子に勝てた!)」

綾乃「(これも能力のおかげだわ!死神さんありがとう!)」

────

京子「あーやのっ」ダキッ

綾乃「きゃっ///」

綾乃「ちょっと歳納京子、急に抱き付かないでよっ!」

京子「えー、いいじゃん。だって綾乃いい匂いがするんだもんっ」スリスリ

綾乃「も、もう///」


結衣「京子ー、部室行くぞ」

京子「あ、うん。わかった」

京子「じゃあね綾乃、また明日」

綾乃「えぇ、また」


綾乃「ふぅ」

千歳「なんか最近歳納さんといい感じやなぁ~」

綾乃「そ、そうかしら?」

千歳「うん、だいぶ距離が近付いたと思うで」

千歳「最近綾乃ちゃんが歳納さんのミスをよくカバーしとるからかな?」

綾乃「ま、まぁ、歳納京子はいつも失敗しちゃうから仕方なく助けてあげてるだけよ」

千歳「仕方なくとか言う割にはいつも歳納さんのミスに気付くよなぁ」

千歳「やっぱり愛の力やろうか」クスッ

綾乃「もうっ、からかわないで」

綾乃「(そりゃ最近は時間を戻せるおかげで歳納京子のミスを事前に知ることができるんですもの)」

綾乃「(時間を戻せるようになってからというもの、いつも歳納京子を助けてる気がするわ)」


千歳「それで、綾乃ちゃん告白せえへんの?」

綾乃「えっ……こ、告白!?」

千歳「うん」

千歳「最近は誰がどこからどうみても仲良しやし、いっそのこと告白してみたら?」

綾乃「告白なんて……ど、どうしましょう……」

綾乃「(確かに歳納京子は前より私にくっ付いてくることが多くなったし、自分でも前より仲良くなれたとは思う)」

綾乃「(告白したら……)」

綾乃「……成功するかしら」ボソッ

千歳「うちの見立てやと結構いけると思うで」

千歳「思い切って告白するのも手や、今が一番いいタイミングかもしれんし」

千歳「本当に告白するかどうかは綾乃ちゃん次第やけど」

綾乃「……」


綾乃「わかったわ!私歳納京子に告白してみる!」

綾乃「明日の放課後、告白するわ!」

千歳「おぉ!」

綾乃「絶対に成功させてやるんだからっ!」

────

キーンコーンカーンコーン


京子「ふぃ~、今日もやっと授業終わったぁ」

綾乃「と、歳納京子、ちょっといいかしら?」

京子「んー、なに?」

綾乃「今日部活が終わった後、体育館裏に来てもらっていい?」

京子「いいけど、なんで体育館裏なの?」

綾乃「それは……」

綾乃「どうしても二人っきりで話したいから……あなたに言いたいことがあるの」

京子「ふーん、そっか」

京子「わかった、じゃあ部活終わったら行くよ」

綾乃「ありがとう!」

京子「それじゃあまたあとでね」

綾乃「えぇ、また」



千歳「本当に告白するつもりなんやな、綾乃ちゃん」

綾乃「うん……いつまでも先延ばしにしてても始まらないから」

千歳「綾乃ちゃん……」

千歳「生徒会行こ、早く行って歳納さんが来る前に仕事終わらせな」

綾乃「そうね」

綾乃「よーし!頑張るわよー!」

────

綾乃「はい、今日の仕事はこれで終わりよ」

櫻子「よし、今日も仕事終わりっ」

向日葵「今日の晩ご飯はなににしようかしら……」

向日葵「あら、杉浦先輩はまだ帰らないんですか?」

綾乃「えぇ、やらなきゃいけない仕事がもう一つあって」

櫻子「だったら私たちも手伝いますよ」

綾乃「いいのよ、すごく簡単なものだし」

向日葵「しかし、杉浦先輩にだけ負担をかけるというのは」

千歳「まぁまぁ、ここは先輩の顔を立ててあげよ?」

向日葵「……わかりました」

向日葵「それでは私たちはお先に失礼しますわ」

櫻子「お疲れ様でしたー」

千歳「綾乃ちゃん、応援しとるからな」ボソッ

綾乃「うん、ありがとう千歳」ニコッ


バタンッ


綾乃「ふぅー……」

綾乃「(多分そろそろ娯楽部のみんなも帰る頃よね)」

綾乃「よし、行きましょう」


綾乃「(歳納京子はもう来てるかしら)」

綾乃「(体育館は……もう部活動生もほとんどいないみたいね)」

綾乃「(今日は夕焼けが綺麗……これなら顔が赤くなってもバレないかしら)」


綾乃「(あっ、もういる)」

綾乃「……」スー

綾乃「……」ハー


綾乃「歳納京子!」

京子「お、綾乃」

綾乃「ごめんなさい、待たせちゃった?」

京子「ううん、私も今来たところだから」

綾乃「そ、そう……それはよかったわ」

綾乃「……」

京子「それで、私に話したかったことってなんなの?」

綾乃「え、えっと……その……」

綾乃「(勇気を出すのよ杉浦綾乃!千歳にも応援してもらったじゃない!)」

綾乃「(あと少しでしょ!ここまできたんだから言うのよ!)」

綾乃「……」スーッ

綾乃「と、歳納京子」

京子「んー?」

綾乃「わ、私は──」


綾乃「あなたのことが好きなの!!!」


綾乃「いつからかは分からないけど、一年生の頃からずっと!」

綾乃「気が付いたらいつもあなたのことを目で追ってたわ!」

綾乃「あなたのことが世界で一番大好き!」

綾乃「だから、私と付き合ってください!!」


綾乃「(つ、ついに言っちゃったぁ……)」



京子「え、えっと……」


綾乃「っ……」ドキドキドキドキ



京子「……ごめんね」


綾乃「──えっ」


京子「綾乃のことは好きだけど、友達としての好きっていうか……」

京子「そういう目で見られなくて」

京子「付き合うとかはちょっと考えられないかな」

京子「だから、ごめん。これからも友達でいよう?」



綾乃「────」


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綾乃「…………」

----

綾乃「…………」

綾乃「……戻れ」

---------

綾乃「……早く戻れ」

--------------

綾乃「……戻って」

-------------->>>>

綾乃「……もっと昔に戻るのよ」

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綾乃「最初から知らなきゃよかった」

綾乃「……歳納京子と出会う前に戻って」

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<<<<

綾乃「……どうして戻らないの」

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綾乃「どうして3分待たなきゃいけないの」

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綾乃「3分じゃ足りないの、私はもっと昔に戻りたいの」

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綾乃「戻って……!!」


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綾乃「3分戻った……」

綾乃「でもこれじゃダメ、全然足りないわ」

綾乃「もっと戻れ」

----

---------

--------------

────


京子「綾乃ー、昨日はどうしたの?私ずっと待ってたんだけど」

綾乃「ごめんなさい、昨日は急に先生に呼び出されちゃって」

綾乃「終わった頃には外も暗くなってたから、歳納京子はもういないと思って帰っちゃったの」

京子「えー、私暗くなるまで待ってたのにー」

綾乃「本当にごめんなさい」

京子「まぁ、先生から呼び出されたんじゃ仕方ないか」

京子「それじゃあ、今度の日曜日私に付き合ってもらうから、それでおあいこね」

綾乃「日曜日……?」

京子「うん。服買いに行きたかったんだけどさー、結衣が用事があるらしくて一緒に行けないんだって」

京子「だから綾乃にお供してもらおうかと」

綾乃「わかったわ、それで埋め合わせできるなら」

京子「よし、じゃあ決まりね♪」


千歳「……」


千歳「綾乃ちゃん、昨日はどうやったん?」

綾乃「えっなにが」

千歳「なにがって……歳納さんに告白したんやないの?」

千歳「なんか、昨日までとなにも変わっとらんみたいやけど……」

綾乃「あぁ、やっぱりやめることにしたの」

綾乃「『絶対』に失敗すると思ったから」

千歳「そんな、なんで……やってみなくちゃわからん──」


綾乃「わかるのよ!!!」

千歳「っ」ビクッ

綾乃「私にはわかるの!!!」

綾乃「だから……!」


綾乃「っごめんなさい、怒鳴っちゃって」

綾乃「とにかく無理だと思ったからやめただけだから」

綾乃「お願い、このことはもう放っておいて」

千歳「……うん」

────

京子「お待たせ綾乃ー」

京子「ごめんね、時間ギリギリになっちゃって」

綾乃「いいのよ、この前は私のほうが待たせちゃったんだし」

京子「そう言ってもらえると助かるよ」

京子「それじゃ、行こっか」



京子「この服なんかどうかな」

綾乃「いいんじゃないかしら」

京子「やっぱり?へへっ、じゃあこれ買っちゃお」

京子「いやー、綾乃と一緒に来てよかった」

綾乃「そう?」

京子「うん!今日綾乃がいいって言ってくれた服、全部私もいいって思ってたやつだったし」

京子「やっぱり気が合うのかな、私たち」

綾乃「そうかもね……」

綾乃「ねぇ、歳納京子は私のこと好き?」

京子「? うん、好きだよ」

綾乃「それじゃあ、もし私があなたのことを恋愛感情込みで好きだって言ったらどうする?」

京子「えっ……うーん」

京子「綾乃のことは好きだけど、やっぱり友達としての好きだから……」

京子「わかんないや」

綾乃「そう」


綾乃「歳納京子、私はあなたとお付き合いしたいと思ってるわ」

綾乃「私はあなたのことが恋愛的な意味で好きよ」

綾乃「私と付き合ってくれる?」

京子「えっと……本気?」

綾乃「もちろん」

綾乃「私はあなたのことが世界で一番好き、大好き」

綾乃「だから、私とお付き合いしてください」

京子「……ごめんね」

京子「やっぱり綾乃は友達としてしか……」

京子「付き合うとかはちょっと考えられなくて……」


綾乃「ふふっ」

綾乃「わかってたわよ」

-------------->>>>>>>>>>
<<<<<<<<<<--------------


京子「この服なんかどうかな」

綾乃「いいんじゃないかしら」

────

京子「いやー、結構いっぱい買っちゃったなぁ」

綾乃「本当ねぇ」

京子「もう充分買ったし、そろそろ帰ろうか」

綾乃「えぇ」

京子「でも、今日は綾乃も楽しんでくれてたみたいでよかったよ」

京子「なんか最近私たちを避けてるような感じだったからさ」

綾乃「そうだったかしら……?」

京子「うん、私とか結衣とか千歳とかが話しかけると、一言二言ですぐにどっか行っちゃうんだもん」

綾乃「……だったかもね」

京子「千歳にも頼まれちゃってさ、綾乃ちゃんを元気付けられるのは歳納さんだけやって」

綾乃「千歳が……」

京子「理由はわからないけど、なにか辛いこととか困ったことがあったら私たちに相談してくれると嬉しいかな」

京子「きっと力になってみせるから」

綾乃「……そうね」

綾乃「それじゃあ、一つ相談させてもらっていいかしら」

京子「もちろん!」


綾乃「私ね、好きな人がいるの」

綾乃「一年生の頃から、ずっと好きだった人が」

綾乃「その人は自分勝手なところもあるけど、実は気配りができてとっても優しい人なの」

綾乃「最初は授業中にも居眠りするし、ただのふざけた人だと思ってたわ」

綾乃「その癖いつもテストでは私より上にいて、それがすごく嫌いだった」

綾乃「それで負けてられないと思って張り合ってたの」

綾乃「でも、どうしてかしら?そうしてるうちに、いつの間にか好きになってた。新しい一面を見る度に惹かれていった」

綾乃「私はその人と仲良くなろうと必死に努力したわ、少しだけズルもしたりした」

綾乃「そのおかげでその人とずいぶん仲良くなれたとは思うけど、私はそれより先の関係になりたいと思ってる」

綾乃「私はその人とお付き合いしたいと思ってるの、恋人になりたいと思ってる」

綾乃「でも、告白しても絶対に振られるのはわかってる」

綾乃「私はこのまま、ずっと届かない想いを抱えたまま生き続けなきゃいけないのかしら?」

京子「……」

綾乃「歳納京子、あなただったら、どうする?」

京子「私は……まだ人を好きになったこととかないからよくわからないけど」

京子「好きだったらその気持ちは伝えるべきだと思う」

京子「たとえ振られることになっても」

京子「胸にもやもやを抱えて生きるよりも、しっかり吐き出してから前に進んだほうがいいと思う」


綾乃「わかった……」


綾乃「もう逃げるのはやめるわ」

綾乃「あなたに想いを伝えるのはこれで最後」


綾乃「歳納京子、私はあなたのことが好きよ」

綾乃「気付いたかもしれないけど、さっき言った好きな人っていうのはあなたのことなの」

綾乃「それくらいあなたのことが好き」

綾乃「歳納京子、私とお付き合いしてくれますか?」


京子「ごめん……」

京子「やっぱり綾乃は友達としてしか見られないよ」

京子「綾乃の気持ちには応えられない」

京子「ごめんね」


綾乃「……やっぱりね」



綾乃「だったらもう、私に話しかけないで」

京子「えっ……」

綾乃「あなたと話してると辛いの、こうやって顔を合わせてるだけでも」

綾乃「だから、さようなら」

スタスタスタスタ


京子「綾……乃……」



綾乃「(酷いこと言っちゃったな)」

綾乃「(もう歳納京子から嫌われちゃったかしら)」

綾乃「(時間を戻すなら今よ、今ならまだギリギリ間に合うわ)」

綾乃「(まだやり直せるわよ)」


綾乃「(ううん、もういいの)」

綾乃「(私の恋はこれで終わり)」

綾乃「さようなら、歳納京子」


綾乃「……」スタスタ


綾乃「……」スタスタ

~~~~

私は歳納京子
さっきみんなの前で自己紹介したけど、改めてよろしく!


~~~~

綾乃「……」スタスタ


~~~~

えー、別に名前で呼ぶくらいいいじゃん。私のことも名前で呼んでいいからさぁ


~~~~

綾乃「……」スタスタ


~~~~

じゃあ、綾乃は私のライバルだね

いいとも!受けて立つ!

あはは、綾乃ってば変なの

えっ、プリンくれるの?ありがとー!

綾乃が風邪引いたって聞いたから来たんだよ、身体は大丈夫?

いいっていいって、いつも生徒会の仕事大変でしょ?偶には手伝うよ

あっ、その服新しく買ったんだ
うん、すっごく似合ってるよ!


~~~~

綾乃「……」


~~~~

綾乃ー

あーやのっ


綾乃


~~~~


綾乃「…………」


綾乃「なにやってるのかしら」

タッ

綾乃「(やっぱり謝ろう!)」

綾乃「(歳納京子と恋人同士になれなくてもいいじゃない、仲のいい友達ってだけで十分よ)」

綾乃「(歳納京子は私のことを好きだって言ってくれた、そして私も歳納京子が好き)」

綾乃「(それでいいじゃない)」

綾乃「(さっきは酷いこと言ってごめんって謝るの、そしてよかったらこれからもお友達でいてって)」

綾乃「(許してもらえなくても、せめて私もあなたと一緒にいてとっても楽しかったって伝えたい)」


綾乃「待ってて歳納京子、今行くから」

タッタッタッ

ガヤガヤガヤガヤ

「おい、救急車はもう呼んであるのか」

「さっき誰かが電話してたよ」

「やぁねぇ、中学生くらいだったかしら。あんなに若いのに可哀想に」

「車が突っ込んできたんですって」


綾乃「ハァハァ……なんだか周りが騒がしいわね」

綾乃「あそこに人が集まってる……?なにかあったのかしら」



綾乃「────っ!?」

綾乃「歳納京子!!!!?」タッ


京子「…………」ドクドク


綾乃「あぁ……」

綾乃「う、嘘よ……歳納京子、なんで……」


「あの子の友達かしら」ヒソヒソ

「まぁ可哀想に」ヒソヒソ


綾乃「死んじゃいや……お願い、目を開けて……」


綾乃「(そうだ、時間を戻せば……!)」

綾乃「戻って!!!」


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綾乃「早く歳納京子のところに行かなくちゃ!!」

綾乃「(いつ轢かれたかはわからない……でも、急げば事故が起こる前に辿り着けるかもしれない!!)」

綾乃「(今度は歳納京子の居場所もわかる!!)」

綾乃「一秒でも早く……!!」タッタッ



「キャーーー!!!!!」

「なんだ!?車が突っ込んで来た!!?」

「おい!!女の子が巻き込まれたぞ!!」


ダラァ……

ポタ、ポタ、ポタ、ポタ


綾乃「っ!」

綾乃「(間に合わなかった!!)」

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タッタッタッ

綾乃「ハァハァ……」グスッ

綾乃「(悲しんでる暇はないわ……!戻せるのは3分だけなのよ!)」

綾乃「(一秒でも戻すのが遅くなったら更に可能性が低くなっちゃう!)」

綾乃「(さっきは事故が起きた直後には着いた)」

綾乃「もっと急げば……!!」


京子「はぁ……」トボトボ


綾乃「!! いた!」

綾乃「歳納──」


ガシャーン!!


ビチャッ!

綾乃「へっ……」

「キャーーー!!!!!」

「なんだ!?車が突っ込んで来た!!?」

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タッタッタッ

綾乃「(死んだ!!死んだ!!歳納京子が死んだ!!私の目の前で死んだ!!)」

綾乃「(私のせいで死んだ!!私が歳納京子を拒絶したから!!)」

綾乃「(私が殺したんだ!!)」

綾乃「だから……」

綾乃「だから私が助けなくちゃ!!」

綾乃「(待ってて歳納京子、絶対に助けるから!!)」


綾乃「早く……!さっきよりもっと……!!」



京子「はぁ……」トボトボ


綾乃「! 歳納京子ーーー!!!!」

京子「! 綾──」


ガシャーン!!


ビチャッ!

綾乃「────っ」


-------------->>>>>>>>>>
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「キャーーー!!!!!」

「なんだ!?車が突っ込んで来た!!?」

-------------->>>>>>>>>>
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タッタッタッ

綾乃「ハァハァ……」

綾乃「嘘……嘘よね……」

綾乃「(一回目、時間を戻そうとしても戻らなかった……)」

綾乃「(あの感じはこの前味わったことがある……)」

綾乃「(私が本気で走ってギリギリ3分掛からない程度の距離に歳納京子がいる)」

綾乃「(そして私が着く頃には事故が起こる)」

綾乃「それってつまり……」


綾乃「──いや!!そんなわけない!!」

綾乃「歳納京子に声が届いた!!もっと急げば間に合う!!」

綾乃「(歳納京子は私が助ける)」

綾乃「(絶対に、絶対に!!)」

綾乃「だから、お願い、歳納京子、私が助けるから、絶対に死なないで……!」

綾乃「待ってて、今行くから……!!」



こうして少女は


叶わぬ願いを叫びながら


いつまでもいつまでも


永遠に繰り返すのでした



終わり

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