医者「では、お名前を教えてもらえますか?」(85)



男「いきなりですね。…男(※名前)です」

医者「可愛らしい名前ですね。男ちゃん、と呼ばせてもらいます」

男「怒りますよ」

医者「ふむ?」

男「ところで、俺は何で病院にいるのですか?」



医者「おや、覚えていないのですか」

男「全然」

医者「あなたは、発狂したのちいきなり倒れてこの病院に運ばれたのですよ」

男「は、発狂?」

医者「ええ、詳しい事はまだ言えません。何があなたの精神を乱す引き金になるか分かりませんからね」

男「…ここは、精神病棟なんですか?」



医者「はい。3日前は普通の病院にいましたが、精神の病と判断され、それを聞いたあなたの親御さんがここにあなたを預けました」

男「先生のしゃべり方ってなんだかナゾナゾみたいですね。とても頭が混乱します」

医者「感想はそれだけですか?」

男「少し気になることが」

医者「何ですか?答えられる範囲なら何でも教えます」

男「俺は倒れてからずっと寝てたんですか?」



医者「いえ。実は何回か目を覚ましたんですよ。その時に何回か会っているのですが…覚えてないですよね」

男「…はい」

医者「あの時のあなたは、まるで廃人でした。何を言っても反応しない。何も喋らない。かと思えば、時々思い出したように叫びます」

医者「そしてまた眠る。もう正気に戻らないと思いましたよ」

男「思ったより俺は重症みたいですね」

医者「はい。だからしばらく入院していただきますよ」

男「はぁ…」


こうしてほとんど何も分からないまま俺の入院生活は始まったのであった。



医者「おはようございまーす。正気ですかー?」

男「あなた本当に医者ですか」

医者「ドクタージョークですよドクタージョーク」

男「ジョークになってない」

医者「堅いですねぇ、男ちゃんは」

男「…その呼び方、やめて下さい」

医者「どうしてですか?親しみやすいじゃないですか、男ちゅわん」

男「馬鹿にしてるんですか。…馴れ馴れしいのは別に構いませんが、せめて《男くん》とかにして下さい。」

男「この女みたいな名前、コンプレックスなんですからね」



医者「ふむ…」

医者「では《男くん》、今日はあなたに質問責めしますので覚悟して下さい」

男「もっと他の言い方があるでしょ。…まあ、どうぞ。何でも聞いて下さい」

医者「少しでも違和感を感じたら言って下さいね」

男「?」

医者「言ったでしょ。何があなたの精神を乱す引き金になるか分からないって」

医者「私の質問があなたをまた発狂ののち廃人にしてしまうかもしれないってことです」



男「…何か怖くなってきた」

医者「それは私もです。私の発言1つで人が廃人になってしまうかもしれないんですからね。言葉1つ1つに気を使って使って…まったく肩がこりますよ、やれやれ」

男「本当ですか?本当に気を使ってますか?」

医者「え?そう見えませんか?」

男「見えません。もっと気を使って下さい、廃人になりたくないので」

医者「はいはい。まあとにかく、そういうわけなので違和感を感じたら直ぐ言って下さいねー」

男「なんか扱いが余計適当になってない?」

医者「では質問に移させてもらいます」

男「スルーされた」



医者「質問1。あなたの一人称は《俺》ですが、それはいつから?」

男「変な質問ですね」

医者「そういう何気ない質問から発狂した原因を探り、何が引き金になるかを見極めます」

医者「最終的な目標はあなたが原因を自ら思い出し、受け入れ、発狂したり廃人になることが二度とないようにすることです。おーけー?」

男「おぉ…初めて医者っぽくなりましたね…!」

医者「いや医者ですからね。で、質問の答えは?」



男「一人称ですか…。うーん…。物心ついた時から《俺》ですね。他に使ってた一人称は…なかったと思います、多分」

医者「本当ですか?子供の時も、ですか?」

男「はい。多分」

医者「ふむ…。なるほど」

医者「では、次の質問に移ります」



医者「質問2。友人はいますか?あ、ついでに恋人はいますか?口説いているわけではないですよ。それとも口説かれたいですか?」

男「質問増えてますよ。男に口説かれても嬉しくないです」

医者「おや、残念」

男「!?」

医者「でー?答えはー?はーやーくぅー」

男「」イラッ

医者「冗談はほどほどにしておきましょう。まずは友人、そう呼べる人はいますか?」



男「友人、ですか。そりゃあ、いる…あ?」

医者「男くん?」

男「いる、いる?え、あ」
医者「…次の質問に移りましょう、ね?」

男「友人、ゆうじん?ともだち…あれ?え?しんゆう、ともだち、あ…?」

医者「…男くん」

男「わからない?なん、え?しんゆうが、」

医者「男くんッ!!」

男「…!」ビクッ

男「せん、せ…」



医者「落ち着いて、ね?大丈夫ですから」

男「お、俺、友達が…しんゆう、いる?い、いない?おれ、わからない、ちがう、せんせ」ガクガク

医者「今は分からなくてもいいんです、大丈夫ですから。大丈夫。私がいますよ、私は医者です。怖がらないで」

男「っ…はぁ、はっ、はぁ、」ガクガク

医者「少し落ち着きましたか?ああ、ゆっくり息を吐いて」

男「ふっ、ぅ、ふー」

医者「そうそう。じゃあゆっくり吸ってー」

男「…スゥー、」



男「…は、ぁ…うぅ。…先生…?」

医者「ふぅ、危ない危ない。大丈夫ですか?」

男「あぁ…は、い」

医者「よかったー!あー、まじビビったわー」

男「気をぬくの、早すぎや、しませんか…?」

医者「まだちょっとしんどそうですね」



男「…友人が…いると、わかるんです。でも、いなくて、それで」

医者「シャァァァラァァップ!!!」

男「!?」

医者「あなたねぇ…今、あんなことが起きたところでしょう?それなのにまだ考えることをやめないんですか?考えることをやめましょう?またさっきみたいになりたいんですか?mなんですか?」

男「す、すみません」

医者「…直ぐに答えを出さなくてもいいんです。ゆっくり、思い出していきましょう?だから、もう今は無理に深く考えないで下さい」

男「はい…」ジーン



医者「まぁ?思い出した結果、ボッチだったら優しい私が友達になってあげますからねwwwよかったですねwww」

男「」イラッ

男「早く次の質問をして下さい優しい優しい、せ、ん、せ、い」

医者「なんか刺々しいですね」

医者「まあ、いいでしょう。あと、今日はもうやめましょう。続きは明日です」

男「そうですか」



医者「では、また明日」

男「あ、はい」









男「ふぅ…」

男「(さっきはムカついたけど…先生は俺が深く考えないよう、わざとあんな腹立つことを言ったのかな…)」

男「(……いや、俺が何をしなくても元からあんな感じだったな)」


医者「男くん!1つ言い忘れてたことが」

男「おぅふ!」



医者「おwwwぅwwwふwwですってよwww」

男「(やっぱり腹立つ…!)」

医者「ふぅ…」

医者「あ、言い忘れてたことなんですがね」

男「…なんですか」

医者「さっきのような事…発作と言いましょうか」

医者「発作の対処法を伝え忘れていました」

男「忘れないでお願い」



医者「私や他の医者がいる時はいいんですけどね。いや、できるだけ発作は起こさない方がいいんですけど。いつ廃人になるか分からないですし」

医者「もし1人の時に発作がおきたら。対処しないとどうなるか、分かりますよね?」

男「行かないで先生」

医者「え、無理。眠いし早く仕事を終わらせて帰りたい」

男「ふざけんなよコラ」



医者「だーかーらー。1人で対処する方法を教えに来たんですよー。まあ、無理そうならナースコール鳴らせばいいですし」

男「はい…」

医者「よく聞いて下さいね?」



医者「とにかく、呼吸を意識して下さい。吸って、吐く、吸って、吐く。それだけを考えるのです。胸に手を当てながらするといいでしょう」

医者「それを落ち着くまで続けて下さい。以上。」

男「そ、それだけですか?」

医者「不安?」

男「そりゃあ…」

医者「しょうがないですねぇ…私が添い寝してあげましょうか?//キャッ」

男「あ、大丈夫なんで帰っていいですよ」



医者「つれないですねぇ。それでは、行きますね」

医者「本当にまた明日」ヒラヒラ


男「(あの人、ホモなのかな…)」




――――
――――――
―――――――


医者「ふむ…(やっぱり、《そう》なんですかね)」

医者「(まだ確信は掴めませんが…)」

医者「(無理に聞き出すこともできませんし…)」

医者「うーん。どうしましょうかねぇ…」

?「あ、あの!」

医者「おや」



医者「一昨日も来ていましたね。男くんに会いに来たんですか?」

?「は、はい。その、男は…」

医者「昨日、正気に戻りましたよ。私に毒づく元気もありました」

?「…!!よ、よかった…ぅぅ…っ」ポロポロ

医者「でも」

?「…?」グスッ

医者「面会はまだ…ちょっと無理そうですね」

?「そう、ですか…」

医者「…よければ、連絡先を交換しませんか?」

?「え?あ、あぁ。いいですよ」

医者「ありがとうございます。私、友達が少ないので嬉しいです」



?「えっと、紙に書いて渡しますね…」カキカキ

?「……書けました!」ピラッ

医者「ありがとうございます」

医者「これで、男くんが面会できる状態になったら一番にあなたに伝えられますね」

?「!」

?「あ、ありがとうございます!先生!」

医者「では、私はこれで」



―――
―――――
――――――

またお昼か夕方に続きを書きます。



…………
………………


男「…ん」パチ

男「…(あぁ、先生が出て行ってからすぐ寝ちゃったんだっけ)」ボー

男「…(いま何時だろう)」ボー

コンコン

男「あ、はい(…ノック?)」

ガラッ

医者「チョリーッス」

男「おはようございます。先生でもノックするんですね」



医者「マナーですからね。マナーは大切ですよ、男くん」

男「挨拶が《チョリーッス》な人にマナーを説かれたくありません」

医者「親しみやすいでしょ?」

男「いっそ馴れ馴れしいです」

医者「厳しいですね。あ、朝御飯もってきました」

男「ありがとうございます」

男「いただきます」

医者「……」

男「…」モグモグ

医者「……」

男「あの」モグモグ

医者「はい?」

男「なぜ居座ってるんですか?」モグモグ



医者「それは遠回しに出て行けと言っているのですか」

男「いや、そういうわけじゃなく。ずっと俺に付いていなくてもいいですよ」モグモグ

医者「いえ、男くんが食べ終わったらまたお話しをしたいので」

男「そうですか」モグモグ

医者「……」ジー

男「……」モグモグ

医者「……」ジー

男「……」モグ、モグ

医者「…美味しそうですね」

男「食べます?クロワッサン」

医者「いただきます!」



医者「あーん…」

コンコン

医者「!」

男「あ、どうぞ」

ガラッ

ナース「失礼します。…先生、その手に持っているものは」

医者「」ギクッ

ナース「また患者さんからご飯を…あなたって人は…!!」

男「あ、あの!俺があげるって言ったんです!」

医者「男きゅん…!」



ナース「はぁ…まあ、いいでしょう。ですが、これからは自分で食べて下さいね」

男「はい」

医者「…クロワッサンうまっ」モグモグ

ナース「先生も、患者さんからご飯をとらないで下さい」

医者「ふぁい」モグモグ

ナース「ああ。それと、もう食器を下げても構いませんか?」

男「はい、ごちそうさまでした」

ナース「それでは」

医者「あ!ちょっと待って下さい!」

医者「男くん、私は少しナースさんとお話が。すぐ戻って来ますので」

男「はい」


ガラッ

バタン。



――
―――


ナース「…で、お話とは?」

医者「男くんの食事のことは、あなたに任せたいのですよ。今日は私が持って行きましたが、ずっとそうするわけにはいかないので」

ナース「なぜ私に?」

医者「あなたは他のナースと違って、社交性がないですから」

ナース「…」ガッ

医者「痛い。脛を蹴らないで下さい」

医者「とにかく。何が男くんを廃人にしてしまうかまだ分からない状態なので、雑談なんてできないあなたに頼みたいのですよ」

ナース「はぁ…もういいです。分かりました」

医者「お願いしますね、ナースさん」


――
―――



ガラッ

医者「お待たせしました」

男「いえ、そんなに待ってはいません」

医者「私がいなくて寂しかったですか?」

男「全然」

医者「照れなくてもいいですよ」

男「で、今日は何を聞くんですか?」

医者「あ、昨日は言い忘れましたが敬語はやめて下さい」

男「え、でも…」

医者「私とキャラがかぶるので」

男「あぁ、そう…」



医者「ところで。あのナースさん、どう思いますか?」

男「は?えっと、美人だと思いま…思う」

医者「…男くんは、ああいう人がタイプですか?」

男「なっ!?」

医者「違いますか」

男「違う!」

医者「じゃあ、私はどう思います?イケメン?かっこいい?抱かれたい?」

男「うざい、うざい、とにかくうざい」

医者「ひどい言い様ですねぇ」

男「だいたい、俺はノンケだ。相手なら他を探してくれ」

医者「ふむ…。」

医者「質問ターイム!!」

男「いきなりだな」



男「マイペースすぎる」

医者「そこに痺れる?憧れる?」

男「はっ」

医者「鼻で笑われた」

男「で、今日は何を聞くんだ?」

医者「そうですねぇ。では、趣味などを聞かせてもらえますか?」

男「趣味…趣味と言えるかは分からないけど、よくジムに通ってたかな」

医者「ほぅ、ジムですか。マッチョになりたかったんですか?」

男「いや、ダイエットに」



医者「ダイエット、ですか?」

男「《太ったよね》って言われて…ほんと失礼な奴だよ。先生もそう思うよな?」

医者「それは…まあ、いいでしょう。あと、私は少しふっくらしている方が好きですよ」

男「よしもっと痩せよう」
医者「それ以上痩せたら骨になりますよ。…次の質問ですが…」

男「?どうした?」

医者「いえ…」

医者「…あなた、恋人はいますか?」

男「あぁ、そういえば昨日は答えられてなかったな。恋人は…」


男「いないよ」

医者「ふむ…。ちなみに私は超可愛い彼女がいます。うらやしいですか?wwwww」

男「帰れ」



医者「そうですね、そろそろ行きます」

男「え、あの…」

医者「ん?ああ、違いますよ。あなたに帰れと言われたくらいで、帰るように見えますか?」

医者「人と会う約束をしているのですよ」

男「そう、か」

医者「おや?寂しいですか?安心して下さい。今日はもう来れないですが、明日また来ますから」

男「分かった」

医者「じゃあ、また」ヒラヒラ



――
――――


医者「……」


『《太ったよね》って言われて…ほんと失礼な奴だよ。先生もそう思うよな?』
『それは…』


医者「…誰に言われたんですかね」

医者「(昨日の質問、《友人と呼べるものはいるか》と聞いたら発作をおこした)」

医者「(結局、答えは聞けませんでしたが…)」

医者「あれだけ混乱するということは、いるんですかね、友人」

医者「(そしてその友人と《何かがあった》と考えられます)」

医者「(そして)」


『恋人はいません』


医者「ふむ…」



?「先生!」

医者「ああ、おはようございます。呼び出してすみません」

?「いえ。ちょうど仕事が休みだったので!」

?「それで、男の様子は…」

医者「残念ながら、まだ面会は…ですが、あなたから話を聞くことでできるようになるかもしれません」

?「ほんとですか!?な、何でも聞いて下さい!」

医者「では、場所を変えましょう」

?「は、はい!」



【ファミレス】


医者「あ、店員さん。この贅沢エビピラフを1つと、シーチキンサラダを1つお願いします」

店員「はい、贅沢エビピラフがお1つとシーチキンサラダがお1つ…以上でよろしいですか?」

医者「あなたは何もいらないんですか?」

?「えっと…じゃあ、ホットコーヒーを…」

店員「かしこまりました~」パタパタ

医者「いやぁ、クロワッサンしか食べてなかったのでもうお腹ペコペコで」

?「あの、僕は何を話せば…」



医者「いきなり本題に入りますか」

?「す、すみません!」

医者「いえいえ、あなたは男くんが大好きですもんね?」

?「…!///」カァッ

医者「ははは、若いっていいですねぇ。私も彼女に会いたくなってきました」

?「は、はやく本題に入りましょう!//」

医者「ですね。…と、その前に」

医者「私達、何回もメールをしているのにあなたの名前を聞いていませんでした」



?「あ、ああ!そうでしたね!すみません!」

童顔「僕、童顔(※名前)っていいます!えっと…あらためて、よろしくお願いします!」

医者「ええ。よろしくお願いします、童顔くん。あ、私は医者(※名前)です。まあ、今まで通り《先生》と呼んで下さい」

童顔「はい!先生!」

医者「で、男くんの事ですが…」



医者「私、あなたにメールで《男くんとはどういう関係ですか?》と聞きましたよね」

童顔「え、あ、はい…」

医者「それであなたはk」

店員「お待たせしました~!ホットコーヒーのお客様~」

童顔「あ!僕です!」

店員「熱いので、お気をつけ下さい~贅沢エビピラフとシーチキンサラダの方は、申し訳ありませんがもう少々お時間いただけますでしょうか?」

医者「はい、大丈夫ですよ」

店員「では失礼します~」パタパタ

医者「…話を続けますね」

医者「私はあなたと男くんの関係を聞きました。そしてあなたは答えた」



医者「《恋人です》と」

そして私は今日も言うんです


僕っ娘しね


>>47
いやいや、僕っ娘は正義だから ※ただし二次元に限る


お風呂入ってきます。



童顔「それが何か…」

医者「本当に恋人ですか?あなたの妄想ではなく?」

童顔「!ぼ、僕は!嘘なんてついてません!!」ガタッ

医者「落ち着いて下さい。言い方が悪くなったのは謝ります。すみません。…恋人同士というのは本当に嘘ではないのですね?」

童顔「……これを」ピラッ

医者「プリクラ、ですか…これは世に言う《チュープリ》というやつですね」

童顔「これ、僕と男です」

医者「ほう」



医者「…幸せそうですね。《結婚間近!!》ですか。本当に恋人同士なんですね」

童顔「信じてもらえましたか…」

医者「ええ、とりあえずは」

童顔「と、とりあえずですか…」

医者「さて。これで私の予想の1つは確信に変わりました。で、どうします?聞きますか?」

童顔「当たり前です!」

医者「ショックを受けないで下さいね。患者が増えるのはお断りです」

童顔「…はい」



医者「…私は今日、男くんにとある質問をしました」
医者「《恋人はいますか?》と」

童顔「男は…」

医者「男くんは」

医者「《いない》と答えました」

童顔「!」

医者「照れて隠したわけでも、思い出す様子もなく、当然のように《いない》と答えました」

童顔「男…」

医者「おそらく、男くんはあなたをさっぱりと忘れています。いえ、あなただけじゃなくきっと他の事も…」



童顔「記憶喪失、ですか…」

医者「ですね。いや、正しくは《記憶を改竄した》と言う方がいい」

童顔「改竄?」

医者「ええ。何らかのショックにより、自分を守るため記憶を改竄したんです。ショックを受けた出来事を忘れようと、ね」

医者「それにより、《あなたと恋人だった記憶》が邪魔にった。だから、最初から会ってないように記憶を改竄した」

医者「記憶喪失ではないとハッキリ言えるのは、《邪魔ではないと判断したのであろう記憶》がちゃんと残っていたからです。名前や趣味などは、ハッキリ答えてくれました」

医者「あくまで改竄」



医者「邪魔になった記憶は男くんにとって都合のいいものに変えられた。もしくは忘れられた。そうして《ショックだった出来事》を記憶から葬った…ように思いますよね?あれ?どうしました?」

童顔「…すみません。頭がついていかなくて…大丈夫です、続けて下さい」

先生「では…と言いたいところですが」

店員「大変長らくお待たせしました~こちらが、贅沢エビピラフ…と、シーチキンサラダです~」

店員「ご注文の品は以上でよろしかったですか~?」

医者「はい」

店員「ではごゆっくり~」パタパタ

医者「話の続きは食べ終わってからでもいいですか?もう空腹で死にそうです」

童顔「はい!…僕も頭の中を整理したいので」

医者「ではでは。いただきまーす」


――
―――


ちょっとコンビニ行って来ます



――
―――

『…!聞い…***が…の!**とも…に**す…!』

『…なん…』

『***?』

『……だ!!…俺じ……だ!!』

『ちょ……』

『……やる…**の***…てや…!!』

『!?やめ……』


――
―――



『 ころ し て やる 』


男「…ぅ、あああ゛あああ゛!!!」

ナース「!?男さん!落ち着いて!!男さん!!」

男「うああ゛!!…あ?」パチ

ナース「男、さん?」オロオロ

男「…ナース、さん?」

ナース「大丈夫ですか?先生呼んで来ましょうか?」オロオロ

男「あ、いや…夢を見てたみたい、です。すみません…」



ナース「…そうですか」ホッ

男「……」ボー

ナース「…どんな夢を見たんですか?」

男「…え?あ、ああ。いや、内容はぜんぜん覚えてないんです」

男「けど」

ナース「?」

男「夢で見たあの温かくて優しい手が…とても怖かったことだけは覚えています」



ナース「優しい手が怖い…?」

男「すみません、意味が分からないですよね。あ、ナースさんはどうしてここに?」

ナース「忘れるところでした。お昼ご飯を持って来たんです」

男「ありがとうございます」

ナース「食べた食器は置いといて下さい。また下げに来ますので。では」

ガラッ

バタン。


男「…いただきます」



―――
――


医者「…ふぅ。ごちそうさまでした。やっぱりここのピラフは美味しいですねぇ」

童顔「……」

医者「いつまで考えこんでいるんですか」

童顔「…僕、やっぱり一刻も早く男に会いたいです」

医者「ですから、それは」

童顔「僕は!!…僕は男に思い出してほしい。足手まといかもしれないけど…僕との記憶が邪魔でも、僕との記憶を思い出して男が苦しんでも…やっぱり男には僕のことを思い出してほしい」

医者「あなたって、けっこう鬼畜ですね」

童顔「いや、もちろん男には幸せになってほしいですよ!?」アセアセ

童顔「でも、やっぱり《僕と一緒に》幸せになってほしい。前みたいに」

また昼か夕方に書きます。



医者「……」

童顔「……」

医者「…エゴイスト」

童顔「…うぅ」

医者「今のあなたはただのエゴイストでしかない。自分が幸せになりたいがために男くんの《望んでいない幸せ》を理由に、男くんを苦しめる。少なくとも、今の男くんからはそう見えるでしょうね」

童顔「…でも」

医者「しかし」

医者「最終的に男くんが幸せになれば、あなたはエゴイストではなくなる。私に、そのお手伝いをさせてもらってもよろしいですか?」

童顔「…!もちろん!いや、よろしくお願いします!!」

医者「はい」ニコッ



医者「さて、話は男くんの記憶のことに戻りますが。なぜあなたは男くんにまだ会えないのだと思いますか?」

童顔「えっと、先生が面会させてくれないから…?」

医者「…はぁ、言い方を変えましょう。なぜ私は面会させないのでしょう?私は《男くんが自分の記憶を良いように改竄し、邪魔な記憶は忘れた》と言いました。なら、忘れたならば、会わせてもいいんじゃないか?忘れたならば、精神は乱れないんじゃないか?そう思いますよね」

童顔「えっと…」アセアセ

医者「うーん…簡単に言うとですねぇ…完璧に忘れたわけではないんですよ」

医者「《とりあえず忘れた》って感じですかね?」

童顔「忘れたけど忘れてない…」

医者「忘れたふりをしている、と言いますかね?」

また書きます



医者「ですから、些細なことで記憶が元に戻る可能性があります」

童顔「それって、いいことなんじゃ」

医者「記憶を受け入れられれば、ね。でも、どうです?受け入れられないから、この状況に陥ってしまったんですよ?あなたも見たでしょう。廃人のようになった男くんを。今の常態で記憶を思い出させ正しても、また発狂して廃人になり、そしまてまた記憶を改竄する。最悪の場合…」

医者「今度は本当に壊れてしまうかもしれない」



医者「今の男くんは危うい。無闇に刺激してしまうと、一気に崩れ落ちます」

童顔「僕がその刺激物になるかもしれないってことですか…だから会わせてもらえない、と」

医者「そういうことです。が、今のままを続けるわけにはいけませんよねぇ…あなたの《男くんとの幸せ計画》に乗るとは言いましたが…ふむ。どうしましょうかね」


ピロリロリン♪

童顔「!す、すいません!僕の携帯です!」

医者「どうぞ出てください」



童顔「失礼します…あ、もしもし?…いや、まだ会えてないよ。…うん、うん。もう直ぐ帰るから、その時にまた説明するね」

童顔「じゃあ、また…お待たせしてすみません」

医者「いえいえ。ご家族からですか?」

童顔「えぇ、弟なんです。そして、男の幼馴染みなんです。男は《親友だ!》って言ってましたっけ」

医者「ほう。親友、ですか…」


『しんゆう、』

『いない』


医者「ふむ…」

医者「…(なぜその《親友》を忘れる必要があったんですかね)」



童顔「あの…?」

医者「ああ、すみません。少し考え事を。そろそろ帰りましょうか。話もこれ以上の進展はなさそうですし」

童顔「そう、ですね。あ、僕はもう少ししてから帰ります!コーヒーもまだ残ってますし」

医者「そうですか。では、また連絡しますので」ヒラヒラ

童顔「はい、今日はありがとうございました!」



………


童顔「あ…(先生、僕の分も払って行ってくれたんだ…)」


―――
―――――

――
―――

医者「さて…これからどうしましょうか…」


『恋人はいないよ』

『お、俺、友達が…しんゆう、いる?い、いない?おれ、わからない、ちがう、』


医者「(あの反応の違いは…)」

医者「(そして…《男くん》の違和感)」



医者「…明日の質問でハッキリさせますか」


―――
――



………
……


男「…スー…スー…」


コン、ガラッ


医者「おっはよーございまーす!!」

男「…フガッ!?」

医者「おや、寝ていたんですか」

男「…う、ん…?」ボー

医者「おーい、まだ寝てるんですかー?」

男「……ね…」

医者「男くん?」

男「…ん…ね」



男「ごめんね…」

医者「!」

男「……」ボー

医者「…男くん」

男「……」チラッ

男「!?せ、先生…?」パチッ

医者「完璧に起きましたね」

男「い、いつから」

医者「さっきからですよ。あなた、盛大に寝ぼけてましたよ?」

男「まじか」

医者「まじです」



男「あー…恥ずかしい所を見られたみたいで…」

医者「何を言ったか覚えていないのですか?」

男「え。俺、何か言ってたの?」

医者「…《先生だぁいしゅき!》って言ってましたよ」ニコッ

男「笑顔で嘘をつく医者はどうかと思うんだ」

医者「バレましたか」

男「で、本当は?」

医者「…《ごめんなさい》と、言っていましたね。何度も」

男「えっ」



医者「寝ぼけて謝るなんて、嫌な夢でも見ていたんですか?」

男「夢は見てたけど…すげぇ幸せな夢だったぞ?」

医者「幸せな夢?…ふむ。ちょっと詳しく教えてもらえますか?」

男「…んー…ダメだ、やっぱりまた忘れてる。でも、幸せな夢だった」

医者「《また忘れてる》、とは?」

男「ああ、この前も夢を見たんだ。で、その時も起きたらどんな夢か忘れてさ」

男「ただ、嫌な夢だったなー…ってのは分かって。そうそう、その時はちょうどナースさんがご飯を持って来ててさ。俺が叫びながら起きるもんだから、ビックリさせちゃったみたいで…先生?」



医者「…男くん」

男「な、なんだ?」

医者「言おうかどうか迷っている事があるんですよ」

男「…俺のことで、だよな?…言えよ」

医者「その前に、ハッキリと聞きたいのです」

医者「男くん。あなたは、今のいつ廃人になるか分からない状態から脱したいですか?」

男「そりゃあ」

医者「死ぬほど苦しい思いをしても?」

男「!」

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